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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-02
(45)【発行日】2023-11-13
(54)【発明の名称】切羽崩落監視システム
(51)【国際特許分類】
   G06T 1/00 20060101AFI20231106BHJP
   G06T 7/254 20170101ALI20231106BHJP
   G08B 21/00 20060101ALI20231106BHJP
   G08B 25/00 20060101ALI20231106BHJP
   H04N 7/18 20060101ALI20231106BHJP
   G01B 11/00 20060101ALI20231106BHJP
【FI】
G06T1/00 330B
G06T7/254
G08B21/00 E
G08B25/00 510M
H04N7/18 D
G01B11/00 H
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020049356
(22)【出願日】2020-03-19
(65)【公開番号】P2021149579
(43)【公開日】2021-09-27
【審査請求日】2022-12-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000001317
【氏名又は名称】株式会社熊谷組
(73)【特許権者】
【識別番号】501161343
【氏名又は名称】つくばソフトウェアエンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111202
【弁理士】
【氏名又は名称】北村 周彦
(74)【代理人】
【識別番号】100187562
【弁理士】
【氏名又は名称】沼田 義成
(72)【発明者】
【氏名】手塚 仁
(72)【発明者】
【氏名】尾畑 洋
(72)【発明者】
【氏名】中出 剛
(72)【発明者】
【氏名】西山 哲
(72)【発明者】
【氏名】村上 治
(72)【発明者】
【氏名】久保田 恭行
【審査官】村松 貴士
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-203288(JP,A)
【文献】特開2018-207194(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06T 1/00 - 1/60
G06T 7/254
G08B 21/00 - 21/24
G08B 25/00 - 25/14
H04N 7/18
G01B 11/00 - 11/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
切羽を撮影する撮影部と、
前記撮影部で撮影した切羽画像に基づいて前記切羽を監視する監視装置と、
前記監視装置が前記切羽の落石を検出した場合に警報を出力する警報出力部と、を備え、
前記監視装置は、画像間の差分に基づいて、前記切羽画像において移動体とみなされる連結画素を識別した出力画像を作成する差分画像作成部と、
前記切羽に対して水平方向に延びていて垂直方向に並列した複数のトリガーラインを前記出力画像上に設定し、前記出力画像において前記複数のトリガーラインの少なくとも1つに重なる前記連結画素を落石候補として判定し、前記複数のトリガーラインを基準とした前記落石候補の位置を監視することによって、時系列で前後する第1の前記出力画像および第2の前記出力画像について、第2の前記出力画像の前記落石候補を第1の前記出力画像の前記落石候補よりも下方向に検出した場合、前記落石候補を前記落石として検出する落石検出部と、を備えることを特徴とする切羽崩落監視システム。
【請求項2】
前記差分画像作成部は、前記連結画素として連結される画素数の上限値または下限値を設定可能にすることを特徴とする請求項1に記載の切羽崩落監視システム。
【請求項3】
前記監視装置は、前記複数のトリガーラインの本数、垂直方向の間隔および垂直方向の位置を設定可能な操作部をさらに備えることを特徴とする請求項1または2に記載の切羽崩落監視システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切羽を監視して崩落を事前に検出する切羽崩落監視システムに関する。
【背景技術】
【0002】
山岳トンネルの建設工事では、掘削面である切羽の崩落や肌落ちによる作業員の死傷災害が問題となる。崩落や肌落ちの発生前には切羽から落石が発生する場合があるので、切羽を監視して落石を検出したときに、崩落や肌落ちの予兆を判断して、作業員を速やかに避難させることができる。しかし、複数の重機や作業員が錯綜する中で,切羽全体の極一部で生じる小規模の落石などの微小な変化を確実に目視で確実に捉えることは困難である。そのため、切羽を撮影して落石を検出することにより、崩落や肌落ちを事前に検出し、警報を出力することで災害を防止する切羽崩落監視システムが求められている。
【0003】
例えば、特許文献1に記載の落石検出装置では、落石が写っているか否かの判定を行う落石検出領域を求める落石検出領域算出部と、落石検出領域に写る移動体を落石として検出する落石検出部とを備えている。この落石検出領域算出部は、時系列で連続するフレーム間での差分画像に対して閾値処理を行うことで、過去の数フレームにおける各々の差分画像から移動体エリアを抽出し、各々の移動体エリアの和集合以外の領域を落石検出領域としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-203288号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来、切羽崩落監視システムは、上記した落石検出装置のように、切羽の動画を撮影し、その動画のフレーム画像にフレーム差分法や背景差分法などの差分法を適用することによって差分画像を生成し、この差分画像に閾値処理を行うことで移動体を検出していた。しかし、トンネル坑内では、作業員や重機などが移動したり、粉塵などが飛散したりするので、これらも上記した差分画像から移動体として検出されてしまうことがあった。そのため、落石以外の移動体の誤検出により、不要な警報が出力されてしまい、工事作業が遅延するおそれがあった。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するために、切羽の落石以外の移動体の誤検出を抑制する切羽崩落監視システムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の切羽崩落監視システムは、切羽を撮影する撮影部と、前記撮影部で撮影した切羽画像に基づいて前記切羽を監視する監視装置と、前記監視装置が前記切羽の落石を検出した場合に警報を出力する警報出力部と、を備え、前記監視装置は、画像間の差分に基づいて、前記切羽画像において移動体とみなされる連結画素を識別した出力画像を作成する差分画像作成部と、前記切羽に対して水平方向に延びていて垂直方向に並列した複数のトリガーラインを前記出力画像上に設定し、前記出力画像において前記複数のトリガーラインの少なくとも1つに重なる前記連結画素を落石候補として判定し、前記複数のトリガーラインを基準とした前記落石候補の位置を監視することによって、時系列で前後する第1の前記出力画像および第2の前記出力画像について、第2の前記出力画像の前記落石候補を第1の前記出力画像の前記落石候補よりも下方向に検出した場合、前記落石候補を前記落石として検出する落石検出部と、を備える。
【0008】
この場合、前記差分画像作成部は、前記連結画素として連結される画素数の上限値または下限値を設定可能にしてもよい。
【0009】
この場合、前記監視装置は、前記複数のトリガーラインの本数、垂直方向の間隔および垂直方向の位置を設定可能な操作部をさらに備えてもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、切羽の落石以外の移動体の誤検出を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施形態に係る切羽崩落監視システムを示すブロック図である。
図2】本発明の実施形態に係る切羽崩落監視システムにおいて撮影された切羽画像の例を示す平面図である。
図3A】本発明の実施形態に係る切羽崩落監視システムにおいて作成された出力画像の例を示す拡大平面図である。
図3B】本発明の実施形態に係る切羽崩落監視システムにおいて作成された出力画像の例を示す拡大平面図である。
図4】本発明の実施形態に係る切羽崩落監視システムにおける落石検出動作の例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付の図面を参照しつつ、本発明の実施形態について説明する。なお、本明細書では、方向や位置を示す用語を用いるが、それらの用語は説明の便宜のために用いるものであって、本発明の技術的範囲を限定するものではない。
【0013】
まず、図1を参照して、切羽を監視して崩落を事前に検出する本実施形態の切羽崩落監視システム1について説明する。図1は、切羽崩落監視システム1を示すブロック図である。
【0014】
切羽崩落監視システム1は、切羽を撮影するカメラ2(撮影部)と、カメラ2で撮影した画像に基づいて切羽を監視する監視装置3と、監視装置3が切羽の落石を検出した場合に警報を出力する警光灯4(警報出力部)および警音器5(警報出力部)とを備える。なお、切羽崩落監視システム1は、1つ以上のカメラ2を備えていてよく、1つ以上の警光灯4を備えていてよく、また、1つ以上の警音器5を備えていてよい。切羽崩落監視システム1は、例えば、トンネル坑内で工事作業を行うドリルジャンボ(図示せず)などの作業機械に設置されるとよい。
【0015】
次に、切羽崩落監視システム1の各構成要素について説明する。
【0016】
カメラ2は、所定のフレームレート(例えば、1秒間に30フレーム)でカラー画像の動画を撮影可能な撮影部であり、例えば、CCDやCMOSなどの撮像素子からなるビデオカメラで構成される。カメラ2は、監視装置3と有線または無線で通信可能に接続されていて、切羽を撮影した画像(以下、切羽画像と称する)をリアルタイムで監視装置3へ送信する。図2は、カメラ2が切羽を撮影した切羽画像の例を示す平面図である。なお、図2では、後述する出力画像Uに設定されるトリガーラインを例示しているが、切羽画像にはトリガーラインは設定されない。
【0017】
カメラ2は、切羽から所定の撮影距離を空けて、切羽の全体を撮影可能な撮影位置に配置され、例えば、ドリルジャンボに取り付けて配置されるとよい。また、カメラ2は、撮影した画像の左右方向が切羽の水平方向となり、撮影した画像の上下方向が切羽の垂直方向となるように配置されるとよい。なお、カメラ2は、ドリルジャンボに対して固定されてもよく、または撮影距離を調整できるように、ドリルジャンボに対して取り外し可能でもよく、前後方向に移動可能に取り付けられてもよい。あるいは、カメラ2は、ドリルジャンボに取り付けられずに、切羽から所定の撮影距離を空けて配置されてもよい。
【0018】
監視装置3は、パーソナルコンピュータなどで構成される。監視装置3は、カメラ2と有線または無線で通信可能に接続されていて、カメラ2が撮影した切羽画像をリアルタイムでカメラ2から受信する。また、監視装置3は、警光灯4および警音器5と有線または無線で通信可能に接続されていて、警光灯4および警音器5を制御可能になっている。監視装置3は、ドリルジャンボの操作席付近に配置されるとよく、あるいはドリルジャンボの近傍で切羽から所定の安全距離を空けて配置されてもよい。監視装置3の詳細は後述する。
【0019】
警光灯4は、周囲に警告を報知する回転灯や点滅灯、LED照明などの様々な照明器具で構成される。警光灯4は、監視装置3と有線または無線で通信可能に接続されていて、監視装置3に制御されることで、点灯や点滅、消灯を行う。警音器5は、周囲に警告を報知するサイレンやスピーカ、ブザーなどの様々な音声出力装置で構成される。警音器5は、監視装置3と有線または無線で通信可能に接続されていて、監視装置3に制御されることで、警報音の出力をオンまたはオフにする。
【0020】
警光灯4および警音器5は、例えば、切羽側のドリルジャンボの先端の近傍で、ドリルジャンボに取り付けて配置されるとよい。なお、警光灯4および警音器5は、ドリルジャンボに対して固定されてもよく、またはドリルジャンボに対して取り外し可能でもよい。あるいは、警光灯4および警音器5は、ドリルジャンボに取り付けられずに、切羽の近傍であって作業者の作業領域の近傍に配置されてもよい。
【0021】
次に、監視装置3の詳細について説明する。監視装置3は、CPUなどからなる制御部10と、ROMやRAM、HDDなどからなる記憶部11とを備える。また、監視装置3は、通信部12と、操作部13と、表示部14とを備える。制御部10は、通信部12に接続されていて、通信部12は、カメラ2、警光灯4および警音器5などの外部機器と通信可能に接続される。
【0022】
制御部10は、記憶部11に接続されていて、記憶部11に記憶された制御プログラムや制御用データに基づいて演算処理を実行することにより、制御部10に接続された監視装置3の各構成要素(例えば、通信部12、操作部13および表示部14)や、通信部12を介して接続された外部機器(例えば、カメラ2、警光灯4および警音器5など)を制御する。例えば、制御部10は、記憶部11に記憶される切羽崩落監視プログラムを実行することにより、画像入力部20、差分画像作成部21、落石検出部22および警報指示部23として機能する。画像入力部20、差分画像作成部21、落石検出部22および警報指示部23の詳細については後述する。
【0023】
通信部12は、監視装置3をカメラ2、警光灯4および警音器5などの外部機器に接続するためのインターフェースである。なお、通信部12は、監視装置3をLANやインターネットなどのネットワークに接続するためのインターフェースとしての機能を有してもよい。
【0024】
操作部13は、ユーザーからの入力操作を受け付けるキーボード、マウス、その他のキーなどの入力デバイスである。表示部14は、各種画面を表示するディスプレイであって、液晶や有機EL、LEDなどの何れの表示デバイスで構成されてもよい。なお、操作部13および表示部14は、一体的なタッチパネルで構成されてもよい。
【0025】
操作部13および表示部14は、作業者が切羽崩落監視プログラムを実行する際に利用され、例えば、操作部13は切羽崩落監視プログラムの各種設定を行う際の操作手段として利用され、表示部14は切羽崩落監視プログラムで解析される切羽画像、差分画像、出力画像などをリアルタイムに表示したり、出力画像における落石候補や落石を強調表示したりする表示手段として利用されてよい。
【0026】
次に、画像入力部20、差分画像作成部21、落石検出部22および警報指示部23の詳細については説明する。
【0027】
画像入力部20は、作業者が操作部13を操作することによって切羽崩落監視プログラムを起動させると、カメラ2が撮影した切羽画像を、通信部12を介してリアルタイムに受信して入力する。例えば、画像入力部20は、切羽崩落監視プログラムの起動に応じて、通信部12を介してカメラ2を制御することにより、カメラ2の起動および切羽の撮影開始を指示し、所定のフレームレート(例えば、1秒間に30フレーム)でカラー画像の切羽画像をカメラ2から入力する。即ち、1つの切羽画像は、カメラ2が撮影した切羽の動画の1つのフレームである。
【0028】
差分画像作成部21は、カメラ2が撮影したフレーム毎に、画像入力部20が入力した切羽画像に画像処理を行い、切羽画像において落石などの移動体とみなされる連結画素を識別した差分画像を作成する。具体的には、差分画像作成部21は、まず、カラー画像の切羽画像をグレースケール(白黒)の切羽画像に変換して、切羽画像の各画素を輝度値のデータで示す。以降の処理において、グレースケールの切羽画像を用いることにより、人間の知覚特性を保持すると共に、計算コストを低減する。例えば、28*3=約16万階調のカラー画像を2=256階調のグレースケールに変換する。差分画像作成部21は、グレースケール変換した現在の切羽画像(入力画像I)を記憶部11に蓄積しておく。
【0029】
そして、差分画像作成部21は、蓄積した切羽画像に基づいて背景画像A(nは、n番目のフレームであることを示し、1以上の整数で表される)を作成する。また、差分画像作成部21は、現在の切羽画像(入力画像I)と背景画像Aとの差分を検出して差分画像Dを作成する。
【0030】
このとき、差分画像作成部21は、入力画像Iを重み係数α(例えば、0.01)で重み付けした移動平均として背景画像Aを設定する。例えば、n=1の場合には、式A=Iによって背景画像Aを設定し、また、n≧2の場合には、式A=αIn-1+(1-α)An-1によって背景画像Aを設定する。
【0031】
このように、差分画像作成部21は、現在の切羽画像(入力画像I)が得られる度に背景画像Aを更新して記憶部11に蓄積しておく。なお、重み係数αは、切羽の不動部分が移動体として検出されないように、後述する輝度差閾値以上の輝度差が生じにくい最適値に設定されるとよく、切羽の現場に応じて変更可能であり、また、作業者が操作部13を操作することによって設定可能にしてよい。ところで、切羽の急激な変化が生じると、蓄積された背景画像Aは現在の切羽画像と大きく異なることもあるので、背景画像Aは、操作部13の操作などに応じて、リセット可能にしてもよい。
【0032】
上記のように背景画像Aを更新すると、差分画像作成部21は、現在の切羽画像(入力画像I)と背景画像Aとの各画素の輝度の差分の絶対値を、式D=|I-A|によって計算して差分画像Dを作成する。
【0033】
このように作成した差分画像Dは、入力画像Iと背景画像Aとの各画素の輝度差で構成されていて、各画素の輝度差は、不動部分では0に近い値になり、移動体では不動部分に比べてより大きい値になる。一方、動画の再生時間が経過するにつれて差分画像Dにノイズが生じて、不動部分にも拘わらず、移動体と誤検出されるほど輝度差が大きくなる画素がある。そこで、差分画像作成部21は、所定の輝度差閾値(例えば、10)を設定して、輝度差閾値以下の画素の輝度差を0などの低い値に再設定することによって、差分画像Dに輝度差閾値処理を行う。これにより、輝度差が輝度差閾値以下の画素が移動体として誤検出されることを防ぐ。なお、輝度差閾値は、切羽の現場に応じて変更可能であり、また、作業者が操作部13を操作することによって設定可能にしてよい。
【0034】
さらに、差分画像Dのノイズによっては、不動部分にも拘わらず輝度差が輝度差閾値よりも大きくなる画素がある。そこで、差分画像作成部21は、移動体とみなす画素の連結数に所定の下限値(例えば、20)を設定して、輝度差が輝度差閾値よりも大きい画素であって、連続している1つ以上の画素からなる連結画素を同一の物体とみなし、連結画素の連結数が下限値を超える場合には、その連結画素を落石などの移動体とみなす一方、連結画素の連結数が下限値以下の場合には、その連結画素を構成する画素の輝度差を0などの低い値に再設定することによって、差分画像Dに連結画素識別処理を行う。これにより、落石よりも小さい粉塵などの微小物が、落石などの移動体として誤検出されることを防ぐ。
【0035】
なお、差分画像作成部21は、移動体とみなす画素の連結数に所定の上限値(例えば、500)を設定して、輝度差が輝度差閾値よりも大きい画素であって、連続している1つ以上の画素からなる連結画素を同一の物体とみなし、連結画素の連結数が上限値を下回る場合には、その連結画素を落石などの移動体とみなす一方、連結画素の連結数が上限値以上の場合には、その連結画素を構成する画素の輝度差を0などの低い値に再設定することによって、差分画像Dに連結画素識別処理を行ってもよい。これにより、落石よりも遥かに大きい作業員や作業機械などが、落石などの移動体として誤検出されることを防ぐ。
【0036】
また、差分画像作成部21は、上記のように輝度差閾値処理および連結画素識別処理を行った差分画像Dに対して二値化処理を行うことによって、不動部分を黒(輝度0)で示し、移動体を白(輝度255)で示す出力画像Uを作成する。これにより、上記の輝度差閾値処理および連結画素識別処理によって差分画像Dに残された連結画素のみが、出力画像Uにおいて白画素で示されて落石などの移動体が識別される。このようにして、差分画像作成部21によって、現在の切羽画像に対して現在の出力画像Uが作成される。
【0037】
なお、上記した実施形態では、差分画像作成部21が背景差分法によって現在の切羽画像(入力画像I)から差分画像Dを作成する例を説明したが、本発明はこの例に限定されず、例えば、他の実施形態では、差分画像作成部21は、フレーム間差分法などの他の差分法によって差分画像Dを作成してもよい。
【0038】
落石検出部22は、カメラ2が撮影したフレーム毎に、切羽画像に基づいて差分画像作成部21が作成した出力画像U(即ち、切羽の移動体を識別した二値化画像)に画像処理を行い、出力画像Uに基づいて切羽に発生した落石を検出する。具体的には、落石検出部22は、まず、出力画像Uの画像上の左右方向および上下方向に拘わらず、切羽に対する実際の水平方向および垂直方向を出力画像Uから検出し、水平方向に延びていて垂直方向に並列した複数のトリガーラインを出力画像U上に設定する。図2では、理解の容易のために、切羽画像において複数のトリガーラインを一点鎖線で示しているが、実際には、切羽画像に複数のトリガーラインは設定されず、出力画像Uに対して図2と同様にして複数のトリガーラインが設定される。
【0039】
なお、複数のトリガーラインの本数、垂直方向の間隔および垂直方向の位置(最上位置および最下位置)は、切羽の現場に応じて変更可能であり、また、作業者が操作部13を操作することによって設定可能にしてよい。また、各トリガーラインは、出力画像Uにおいて水平方向の最左位置および最右位置に亘って設定されてよく、あるいは、各トリガーラインの水平方向の長さ(最左位置および最右位置)や垂直方向の幅(太さ)は、切羽の現場に応じて変更可能でよく、また、作業者が操作部13を操作することによって設定可能にしてもよい。
【0040】
さらに、落石検出部22は、出力画像Uに残された連結画素のうち、複数のトリガーラインの少なくとも1つに重なる連結画素を落石候補として判定する。また、落石検出部22は、複数のトリガーラインを基準として落石候補の位置を取得し、具体的には、複数のトリガーラインに対する落石候補の水平方向の座標(x座標)や垂直方向の座標(y座標)を取得する。このとき、落石検出部22は、落石候補の各画素のx座標の平均値を算出して、落石候補のx座標としてよい。
【0041】
また、落石検出部22は、時系列に連続する複数の出力画像Uを監視して、各出力画像Uの落石候補の位置を監視し、時系列で前後する2つ以上の出力画像Uの間で、落石候補の垂直下方向への移動を検出した場合、この落石候補を落石として検出する。図3Aは、差分画像作成部21が作成した前回の出力画像Un-1(第1の出力画像)の例を示す拡大平面図であり、図3Bは、差分画像作成部21が作成した現在の出力画像U(第2の出力画像)の例を示す拡大平面図である。図3Aおよび図3Bでは、理解の容易のために、検出した落石を太線で示しているが、実際の出力画像Un-1および出力画像Uでは、落石は全て白画素で示され、落石以外は全て黒画素で示される。
【0042】
例えば、落石検出部22は、連続する2つの出力画像Uおよび出力画像Un-1から落石を検出する場合、前回の出力画像Un-1(第1の出力画像)の落石候補の位置(前回落石候補位置と称する)を、x座標およびy座標(トリガーラインの位置)などで記憶しておく。そして、落石検出部22は、現在の出力画像U(第2の出力画像)において前回落石候補位置に落石候補が存在するか否かを確認し、未だ落石候補が存在している場合、この落石候補を落石として検出しない。一方、落石検出部22は、現在の出力画像Uの前回落石候補位置に落石候補が存在していない場合、現在の出力画像Uの落石候補の位置(現在落石候補位置と称する)が、前回落石候補位置と水平方向において同等のx座標であって、垂直方向において下方向のy座標であれば、この落石候補を落石として検出する。換言すれば、落石検出部22は、現在の出力画像Uの落石候補が、前回の出力画像Un-1の落石候補よりも垂直方向の下側に検出された場合、この落石候補を落石として検出する。
【0043】
また、落石検出部22は、現在落石候補位置のx座標が前回落石候補位置のx座標±5画素以内であれば、前回落石候補位置と同等のx座標であると判定してよい。即ち、落石は、垂直方向の真下に落下する場合に限らず、斜めに落下することもあるので、落石検出部22は、所定の誤差範囲内であれば、斜めに落下する落石候補も落石として検出する。
【0044】
なお、上記した実施形態では、落石検出部22が、連続する2つの出力画像Uおよび出力画像Un-1から落石候補の垂直下方向への移動を検出した場合に落石を検出する例を説明したが、本発明はこの例に限定されず、例えば、他の実施形態では、落石検出部22は、連続するm以上(mは3以上の整数)の出力画像Uを監視して、2つの出力画像U間の落石候補の垂直下方向への移動をm-1回以上連続して検出した場合に落石を検出してもよい。このような落石を検出する条件としての、落石候補の垂直下方向への移動回数m-1は、切羽の現場に応じて変更可能でよく、また、作業者が操作部13を操作することによって設定可能にしてもよい。
【0045】
警報指示部23は、落石検出部22が落石を検出した場合に、通信部12を介して警光灯4または警音器5を制御して、落石の検出を報知する警報を警光灯4または警音器5に出力させる。
【0046】
次に、本実施形態の切羽崩落監視システム1による落石検出動作について、図4のフローチャートを参照しながら説明する。
【0047】
まず、作業者が監視装置3の操作部13を操作して切羽崩落監視プログラムを起動させると、画像入力部20が通信部12を介してカメラ2を制御する。
【0048】
カメラ2は、画像入力部20に制御されて起動し、切羽を撮影して切羽画像を監視装置3へ送信する。監視装置3では、画像入力部20が通信部12を介してカメラ2から切羽画像を入力する(ステップS1)。
【0049】
次に、監視装置3では、差分画像作成部21が、上記したように、カメラ2が撮影したフレーム毎に、現在の切羽画像(入力画像I)と背景画像Aとの差分を検出して差分画像Dを作成する(ステップS2)。
【0050】
また、差分画像作成部21は、差分画像Dに対して輝度差閾値処理および連結画素識別処理を行うことによって、切羽画像における移動体を不動部分と識別した出力画像Uを作成する(ステップS3)。
【0051】
さらに、監視装置3では、落石検出部22が、上記したように、カメラ2が撮影したフレーム毎に、各出力画像Uに対して複数のトリガーラインを設定する(ステップS4)。また、落石検出部22は、複数のトリガーラインを基準として落石候補の位置を取得する(ステップS5)。
【0052】
落石検出部22は、各出力画像Uの落石候補の位置を監視し、時系列で前後する2つ以上の出力画像Uの間で、落石候補の垂直下方向への移動を検出した場合(ステップS6:YES)、この落石候補を落石として検出する(ステップS7)。
【0053】
本実施形態では、上述のように、切羽崩落監視システム1は、切羽を撮影するカメラ2(撮影部)と、カメラ2で撮影した切羽画像に基づいて切羽を監視する監視装置3と、監視装置3が切羽の落石を検出した場合に警報を出力する警光灯4(警報出力部)および警音器5(警報出力部)とを備える。この監視装置3は、画像間の差分に基づいて切羽画像において移動体とみなされる連結画素を識別した出力画像を作成する差分画像作成部21と、切羽に対して水平方向に延びていて垂直方向に並列した複数のトリガーラインを出力画像上に設定し、出力画像において複数のトリガーラインの少なくとも1つに重なる連結画素を落石候補として判定し、複数のトリガーラインを基準とした落石候補の位置を監視することによって、時系列で前後する第1の出力画像および第2の出力画像について、第2の出力画像の落石候補を第1の出力画像の落石候補よりも下方向に検出した場合、落石候補を落石として検出する落石検出部22とを備える。
【0054】
上記したような構成により、切羽崩落監視システム1は、監視装置3において、画像間の差分によって切羽画像の移動体を判定するだけでなく、差分に基づいて移動体を識別した出力画像を時系列に沿って比較することによって移動体を判定するため、落石と考えられる移動体をより確実に検出することができる。また、このような出力画像に設定した水平方向に平行な複数のトリガーラインを利用することにより、出力画像から検出される落石候補のうち、垂直下方向に移動する落石候補のみを落石として検出するため、落石以外の移動体を落石と誤検出することを抑制することができ、落石と考えられる移動体をさらに確実に検出することができる。
【0055】
また、本実施形態では、監視装置3の差分画像作成部21は、連結画素として連結される画素数の上限値または下限値を設定可能にしてもよい。これにより、下限値以下の画素数の連結画素は、落石候補から外れるので、落石よりも小さい粉塵などの微小物が、落石などの移動体として誤検出されることを防ぐことができる。また、上限値以上の画素数の連結画素は、落石候補から外れるので、落石よりも遥かに大きい作業員や作業機械などが、落石などの移動体として誤検出されることを防ぐことができる。従って、落石の検出処理をより正確に行うことが可能となる。
【0056】
また、本実施形態では、監視装置3は、複数のトリガーラインの本数、垂直方向の間隔および垂直方向の位置を設定可能な操作部13をさらに備えるとよい。これにより、切羽の現場の状況や切羽とカメラ2との位置などに応じて、落石が通過すると考えられる距離に合わせて、複数のトリガーラインを適切に設定することができる。従って、落石の検出処理をさらに正確に行うことが可能となる。
【0057】
なお、上記実施形態の説明は、本発明に係る切羽崩落監視システムにおける一態様を示すものであって、本発明の技術範囲は、上記実施形態に限定されるものではない。本発明は技術的思想の趣旨を逸脱しない範囲において様々に変更、置換、変形されてもよく、特許請求の範囲は技術的思想の範囲内に含まれ得る全ての実施態様を含んでいる。
【符号の説明】
【0058】
1 切羽崩落監視システム
2 カメラ
3 監視装置
4 警光灯
5 警音器
10 制御部
11 記憶部
12 通信部
13 操作部
14 表示部
20 画像入力部
21 差分画像作成部
22 落石検出部
23 警報指示部
図1
図2
図3A
図3B
図4