(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-02
(45)【発行日】2023-11-13
(54)【発明の名称】情報板の異常検出システム
(51)【国際特許分類】
G01M 99/00 20110101AFI20231106BHJP
G01H 17/00 20060101ALI20231106BHJP
【FI】
G01M99/00 Z
G01H17/00 Z
(21)【出願番号】P 2020055750
(22)【出願日】2020-03-26
【審査請求日】2023-02-09
(73)【特許権者】
【識別番号】505398952
【氏名又は名称】中日本高速道路株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000233826
【氏名又は名称】能美防災株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110423
【氏名又は名称】曾我 道治
(74)【代理人】
【識別番号】100111648
【氏名又は名称】梶並 順
(74)【代理人】
【識別番号】100147566
【氏名又は名称】上田 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100161171
【氏名又は名称】吉田 潤一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100188514
【氏名又は名称】松岡 隆裕
(72)【発明者】
【氏名】山本 浩司
(72)【発明者】
【氏名】山岸 貴俊
(72)【発明者】
【氏名】中村 洋幸
【審査官】山口 剛
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-190983(JP,A)
【文献】特開2008-003043(JP,A)
【文献】特開2014-228471(JP,A)
【文献】特開2014-238716(JP,A)
【文献】特開2002-296252(JP,A)
【文献】国際公開第2018/080382(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 99/00
G01H 1/00 - 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
支柱に取り付けられた情報板に設置され、加速度情報を測定する加速度センサと、
前記加速度センサにより測定された前記加速度情報を記録するとともに、前記加速度情報に基づく演算処理が可能な中継処理装置と、
前記中継処理装置とネットワーク経由で接続され、前記中継処理装置の制御および監視を行い、前記中継処理装置から送信される演算処理結果に基づいて、前記情報板の設置状態の異常を診断するデータ処理装置と、
を備えた情報板の異常検出システムであって、
前記中継処理装置は、前記加速度情報から異常診断に有効な特徴量を演算するとともに、あらかじめ決められた設定期間にわたって収集された前記特徴量から、統計的に異常を診断するための統計データを作成し、作成した前記統計データを前記演算処理結果として出力し、
データ処理装置は、前記中継処理装置から前記ネットワーク経由で取得した前記統計データに基づき、前記情報板の設置状態の異常を診断する
情報板の異常検出システム。
【請求項2】
前記中継処理装置は、前記データ処理装置から統計データ要求指令を受信したタイミングで、作成した最新の統計データを前記データ処理装置に返送する
請求項1に記載の情報板の異常検出システム。
【請求項3】
前記データ処理装置は、前記情報板に設置された前記加速度センサにより計測された加速度情報を必要とする場合には、前記中継処理装置に対して生データ要求指令を送信し、
中継処理装置は、前記データ処理装置から前記生データ要求指令を受信した場合には、前記設定期間にわたって前記加速度センサにより計測された加速度情報を、前記ネットワーク経由で前記データ処理装置に返送する
請求項1または2に記載の情報板の異常検出システム。
【請求項4】
前記中継処理装置は、
前記情報板に設置された前記加速度センサにより計測された加速度情報を、あらかじめ設定された微小時間単位で個別のレコードとして順次記憶しておき、
データ処理装置から前記生データ要求指令を受信した場合には、前記設定期間に渡って前記個別のレコードをつなぎ合わせることで生成した加速度情報を、前記ネットワーク経由で前記データ処理装置に返送する
請求項3に記載の情報板の異常検出システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、支柱に設置された情報板の取付状態の異常診断を行う情報板の異常検出システムに関する。
【背景技術】
【0002】
支柱に設置された情報板の取付状態を検査する方法としては、検査員による定期検査により、目視あるいは何らかの計器を用いて行われることが主流であった。また、取付状態の異常診断対象である情報板に経年的に発生する亀裂に関して、定量的な検査を、簡単かつ迅速に行う従来技術が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この特許文献1では、紫外線または青色系可視光などの励起光によって発光する蛍光色素を、異常診断対象である情報板にあらかじめ混入させている。そして、この情報板に紫外線または青色系可視光などを発光する光源を照射し、目視あるいはCCDカメラ等による撮像画像の解析処理により、亀裂の発生を定量的に判断している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来技術には、以下のような課題がある。
特許文献1では、取付状態の定量的な異常診断を可能にしてはいるものの、あくまでも、検査員による定期検査を基本としている。さらに、特許文献1は、異常診断対象の情報板に対して、蛍光色素をあらかじめ混入させておく必要があった。
【0006】
一方、近年では、情報板の取付状態の異常診断を定期検査よりも短い周期で、検査員を介さずに無人で行うことのできる異常診断システムが望まれている。また、支柱に設置された情報板の取付状態の劣化を、定量的に長期間にわたって診断する必要性も高まっている。さらに、新規の情報板だけでなく、既存の情報板に対しても、容易に対応できることが望まれる。
【0007】
また、道路上の情報板などの構造物をモニタリングするシステムを考えると、診断対象である構造物は、道路上に数多く広く点在している。それぞれの構造物で収集されたセンサデータを、ネットワーク経由で上位のデータ処理装置へ集めるためには、膨大なデータ転送が必要であり、有限の通信容量を圧迫してしまう。しかしながら、長期間にわたり、センサを用いて構造物の異常診断を行うためには、膨大なデータ処理が必要である。
【0008】
このように、有限の通信容量を圧迫することを抑制し、かつ、より膨大なデータ処理を行うという、相反する要求を実現することのできる情報板の異常検出システムが強く望まれている。
【0009】
本発明は、前記のような課題を解決するためになされたものであり、有限の通信容量を圧迫することを抑制し、かつ、各センサからのデータ処理を迅速に実行することにより、情報板の取付状態の劣化を定量的に診断することのできる情報板の異常診断システムを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る情報板の異常診断システムは、支柱に取り付けられた情報板に設置され、加速度情報を測定する加速度センサと、加速度センサにより測定された加速度情報を記録するとともに、加速度情報に基づく演算処理が可能な中継処理装置と、中継処理装置とネットワーク経由で接続され、中継処理装置の制御および監視を行い、中継処理装置から送信される演算処理結果に基づいて、情報板の設置状態の異常を診断するデータ処理装置と、を備えた情報板の異常検出システムであって、中継処理装置は、加速度情報から異常診断に有効な特徴量を演算するとともに、あらかじめ決められた設定期間にわたって収集された特徴量から、統計的に異常を診断するための統計データを作成し、作成した統計データを演算処理結果として出力し、データ処理装置は、中継処理装置からネットワーク経由で取得した統計データに基づき、情報板の設置状態の異常を診断するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、各センサとデータ処理装置との間に、膨大なデータ処理を実行して、異常診断に必要なデータをデータ処理装置に送信する中継処理装置を設置した構成を備えている。この結果、有限の通信容量を圧迫することを抑制し、かつ、各センサからのデータ処理を迅速に実行することにより、情報板の取付状態の劣化を定量的に診断することのできる情報板の異常診断システムを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施の形態1において、異常診断対象である構造物を示した説明図である。
【
図2】本発明の実施の形態1に係る情報板の異常検出システムの構成図である。
【
図3】本発明の実施の形態1に係る情報板の異常検出システムにおいて実行される一連の異常検出処理を示したフローチャートである。
【
図4】本発明の実施の形態1における中継処理装置において、データ処理装置へ返送する生データを生成する概念を示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の情報板の異常検出システムの好適な実施の形態につき、図面を用いて説明する。
本発明は、情報板の取付状態の異常診断を行うに当たって、各センサとデータ処理装置との間に、膨大なデータの演算処理機能と大容量の記憶機能とを有する中継処理装置を設け、各センサの検出結果に基づく膨大なデータ処理、およびデータ量が大幅に圧縮された統計データの作成処理までは各現場に設けられた中継処理装置で行い、中継処理装置とデータ処理装置との間の通信によるデータの受け渡しは、統計データで行うことを技術的特徴としている。
【0014】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1において、異常診断対象である構造物を示した説明図であり、(A)が正面図、(B)が上面図、(C)が側面図である。この
図1において、取付状態の診断対象である構造物は、情報板1が支柱2の上方部分に取り付けられることで構成されている。情報板1としては、例えば、道路に設置された道路情報板が挙げられ、歩行者あるいはドライバは、道路情報板を視認することで、必要な情報を取得することができる。
【0015】
支柱2の上部に情報板1が設置された構造物は、上部荷重を持つこととなる。従って、
図1(A)における左右方向の両矢印、
図1(B)における上下方向の両矢印、および
図1(C)における左右方向の両矢印として例示したように、外力による繰り返し応力の加振が情報板に加わる。そして、継続的にこのような加振が情報板1に加わることにより、情報板の疲労が進行し、損傷に至る場合がある。また、継続的にこのような加振が情報板1に加わることにより、支柱2の固定用ボルトの緩みなどによる支持力の低下が発生する。
【0016】
本実施の形態1に係る情報板の異常検出システムは、このような情報板1の損傷、劣化を、情報板1の姿勢を観測することで、長期間に渡って高精度に診断することができる。
【0017】
具体例として、情報板の異常検出システムは、支柱2の頭頂部に設置された加速度センサ20を用いて、情報板1の面内方向の傾きおよび面外方向の傾きを観測することで、情報板1の損傷、劣化を長期間に渡って高精度に検出する。ここで、面内方向とは、情報板1の表示面に沿ってお辞儀する方向のことであり、
図1(A)に示した両矢印の方向に相当する。また、面外方向とは、情報板1が表示面に垂直な向きに旗振りをする方向のことであり、
図1(B)あるいは
図1(C)に示した両矢印の方向に相当する。
【0018】
傾きを観測するために、支柱2の頭頂部には、直流加速度を測定可能な加速度センサ20が設置されている。加速度センサ20は、直流加速度として重力加速度を観測することができる。また、中継処理装置30は、加速度センサ20から得られる加速度情報に基づいて、情報板1の面外方向、および面内方向の2方向の傾き角を算出することができる。
図1においては、中継処理装置30が支柱2に設置されている状態を例示している。
【0019】
次に、本実施の形態1に係る情報板の異常検出システムの構成について、
図2を用いて説明する。
図2は、本発明の実施の形態1に係る情報板の異常検出システムの構成図である。本実施の形態1における情報板の異常検出システムは、1台のデータ処理装置10、N個(Nは、2以上の整数)の加速度センサ20(1)~20(N)、および1台の中継処理装置30を備えて構成されている。
【0020】
なお、
図2では、最小構成として、1台のデータ処理装置10に対して1台の中継処理装置30が接続される場合を示しているが、実際には、支柱2ごとに設置された複数の中継処理装置30のそれぞれが1台のデータ処理装置10に対して接続される構成となることが考えられる。ただし、複数の中継処理装置30の機能は、いずれも同一であり、
図2に示した最小構成を用いて、中継処理装置30の機能とともに、加速度センサ20の機能およびデータ処理装置10の機能を説明する。
【0021】
また、本実施の形態1における情報板の異常検出システムでは、1台の中継処理装置30に対しては、最低限、1個の加速度センサ20を設けておけば、取付状態の異常判定を実施することが可能である。また、複数用いる場合のN個の加速度センサのそれぞれの機能は、全て共通である。そこで、以下の説明では、それぞれのセンサを区別する必要がない場合には、(1)~(N)の添字を用いずに、単に加速度センサ20と記載する。
【0022】
N個の加速度センサ20のそれぞれは、センサ部21と、加速度情報出力部22とを有しており、診断対象物の異なる位置に設置されている。このような
図2の構成を備えた本発明の異常検出システムによって、長期にわたって診断対象物の取付状態の異常判定が行われることとなる。
【0023】
センサ部21は、例えば、薄膜の水晶振動子を用いる3軸加速度センサであり、かつ直流加速度を測定可能な加速度センサである。また、加速度情報出力部22は、センサの設置箇所における情報板の3軸の加速度に関するアナログ信号を、所定のサンプリングレート(例えば、50Hzのサンプリングレート)でデジタル信号に変換し、加速度情報として中継処理装置30へ送信する。
【0024】
中継処理装置30は、
図1に示したように、支柱2に取り付けられている。そして、中継処理装置30は、支柱2に取り付けられたそれぞれのセンサ20内の加速度情報出力部22から受信した加速度情報に基づいて、支柱2の傾きを測定することができる。一例として、中継処理装置30は、この支柱2の傾き角から、情報板1の面外方向、および面内方向の2方向の傾き角を算出し、その2方向の傾き角から、異常診断に有効な特徴量に相当する最大傾き角を求めることができる。
【0025】
そして、中継処理装置30は、最大傾き角を時系列で順次算出し、算出した最大傾き角を傾き情報として、測定した時間情報とともに記憶部31に順次記憶させる。さらに、中継処理装置30は、あらかじめ決められた設定期間にわたって、順次算出された複数の最大傾き角からなる傾き情報について、例えば、最大値、平均値、分散値等を、統計的に異常を診断するための統計データとして作成する。そして、中継処理装置30は、設定期間の間隔で、統計データをデータ処理装置10に送信することができる。
【0026】
さらに、中継処理装置30は、N個の加速度センサ20のそれぞれで計測された、加工前の生データである加速度情報を、測定した時間情報とともに個別のレコードとして記憶部31に順次記憶することができる。
【0027】
なお、中継処理装置30は、傾き情報の算出、記憶、および加工前の生データの記憶を、所定のサンプリングレートの整数倍として規定される微小単位時間ごとに実行することができる。一例として、中継処理装置30は、微小単位時間として1分ごとに、時間情報と関連付けて、および生データのレコードを作成することができる。
【0028】
また、中継処理装置30は、統計データの作成、記憶を、微小単位時間の整数倍として規定される設定期間の間隔で実行することができる。一例として、中継処理装置30は、設定期間として1時間ごとに、時間情報と関連付けて、統計データの生成、記憶を実行することができる。
【0029】
このように、支柱2に設置されている中継処理装置30は、N個の加速度センサ20から順次取得される加速度情報に基づいて、微小単位時間ごと、および設定期間ごとに、膨大な演算を実施し、統計データおよび生データを大容量の記憶部31に記憶させておくことができる。さらに、中継処理装置30は、診断に必要な最小限の統計データのみを、データ処理装置10に送信することで、有限の通信容量が圧迫されることを抑制することができる。
【0030】
なお、中継処理装置30は、統計データを設定期間ごとに定期的にデータ処理装置10に送信するのではなく、データ処理装置10から統計データ要求指令を送信要求として受信するごとに、最新の統計データを返送することも可能である。このように、統計データ要求指令を受信するごとに最新の統計データを返送する構成とすることで、中継処理装置30とデータ処理装置10との間の通信路の通信容量をさらに抑制することができる。
【0031】
また、中継処理装置30は、データ処理装置10から、指定された期間にわたる生データ要求指令を送信要求として受信した場合には、記憶部31に微小単位時間ごとに記憶されている生データのうちの、指定された期間の生データをつなぎ合わせたデータを生成し、データ処理装置10に返送することができる。
【0032】
このようにして生データを取得できる構成を備えることで、データ処理装置10は、ある情報板に過大な外力が印加された場合など、未加工である加速度情報の生データを観測したい状況が生じた際にも、通信路への伝送負荷を小さく抑えた上で、必要な期間の生データを収集することができる。
【0033】
このように、統括コントローラであるデータ処理装置10は、1台以上の中継処理装置30とネットワーク経由で接続され、それぞれの中継処理装置30の制御および監視を行う。そして、データ処理装置10は、それぞれの中継処理装置30から送信される統計データに基づいて、それぞれの支柱2ごとに、情報板1の設置状態の異常を診断することができる。例えば、データ処理装置10は、中継処理装置30による演算処理結果である統計データと、異常の有無を判別するための閾値との比較結果から、情報板1の設置状態の異常を診断することができる。また、データ処理装置10は、必要に応じて、未加工である加速度情報の生データを取得することもできる。
【0034】
このような一連の異常診断手法を、
図3、
図4に基づいて、以下に説明する。
図3は、本発明の実施の形態1に係る情報板の異常検出システムにおいて実行される一連の異常検出処理を示したフローチャートである。また、
図4は、本発明の実施の形態1における中継処理装置30において、データ処理装置10へ返送する生データを生成する概念を示した説明図である。
【0035】
ステップS301において、中継処理装置30は、サンプリング周期ごとに、加速度センサ20から加速度情報を取得する。次に、ステップS302において、中継処理装置30は、微小時間単位で、加速度情報の生データを記憶部31に順次記憶させる。
【0036】
次に、ステップS303において、中継処理装置30は、ステップS301で取得した加速度情報から、異常診断に有効な特徴量を演算する。具体的には、中継処理装置30は、上述したように、微小時間単位ごとに、加速度情報に基づいて、情報板1の面外方向および面内方向の2方向の傾き角を算出し、その2方向の傾き角から、異常診断に有効な特徴量に相当する最大傾き角を求めることができる。
【0037】
次に、ステップS304において、中継処理装置30は、設定期間ごとに、算出された複数の特徴量から、統計的に異常を診断するための統計データを作成し、作成した統計データを記憶部31に順次記憶させる。具体的には、中継処理装置30は、上述したように、あらかじめ決められた設定期間にわたって順次算出された複数の最大傾き角からなる傾き情報について、例えば、最大値、平均値、分散値等を、統計的に異常を診断するための統計データとして作成することができる。一例として、あらかじめ決められた設定期間として1時間が設定されている場合には、中継処理装置30は、1時間ごとに、統計データを作成することができる。
【0038】
次に、ステップS305において、中継処理装置30は、データ処理装置10から統計データ要求指令を受信した場合には、記憶部31に記憶されている最新の統計データをデータ処理装置10に対して返送する。
【0039】
次に、ステップS306において、中継処理装置30は、データ処理装置10から生データ要求指令を受信した場合には、記憶部31に加工前の生データとして記憶されている加速度情報のうち、生データ要求指令によって指定された期間の生データをつなぎ合わせたデータを生成し、データ処理装置10に返送する。
【0040】
具体的には、中継処理装置30は、
図4に示したようにして、生データ要求指令によって指定された期間の生データをつなぎ合わせたデータを生成する。
図4の左側には、記憶部31内に、微小時間単位ごとに記憶された加速度情報が例示されている。そして、データ処理装置10は、一例として、微小単位時間としてM~Nの期間の生データを取得したい場合には、M~Nの期間を指定した情報を含む生データ要求指令を、中継処理装置30に対して送信する。
【0041】
この生データ要求指令を受信した中継処理装置30は、記憶部31の中から、生データ要求指令によって指定された期間の加速度情報として、加速度情報(M)~加速度情報(N)を抽出する。さらに、中継処理装置30は、抽出したデータをつなぎ合わせたデータを、データ処理装置10に返送する。
【0042】
大量の情報板1の管理を、1台のデータ処理装置10で統括処理するためには、ネットワークを経由して、各中継処理装置30からデータ処理装置10に送るデータ量は、少ないほどよい。
【0043】
そこで、本実施の形態1に係る情報板の異常検出システムは、以下の特徴を有している。
・それぞれの支柱2ごとに設置された中継処理装置30が、データ処理装置10に対して生データをそのまま送信することは、基本的には行わない。
・その代わり、中継処理装置30は、各加速度センサ20の計測結果である生データに基づいて膨大なデータ処理を実行し、診断に必要な統計データを作成する。
・さらに、中継処理装置30は、必要なタイミングで定期的に、あるいは、データ処理装置10からの要求指令に応じたタイミングで、統計データをデータ処理装置10に送信する。
・なお、データ処理装置10が各加速度センサ20の計測結果である生データを必要とする場合には、中継処理装置30は、データ処理装置10から要求指令を受信することで、指定された期間の生データを返送する。
【0044】
換言すると、本実施の形態1に係る情報板の異常検出システムは、以下のような技術的特徴を有している。
技術的特徴1:支柱2ごとに設置された中継処理装置30は、N個の加速度センサの計測結果に基づいて特徴量を微小時間単位で生成し、統計データを設定期間ごとに生成するためのデータ処理能力を有している。
技術的特徴2:中継処理装置30は、あらかじめ決められた設定期間ごとに生成した統計データ、および微小時間単位で取得した加速度情報を記録しておくことが可能な大容量の記憶部31を有している。
技術的特徴3:中継処理装置30は、必要に応じて、必要なタイミングで、統計データおよび生データをデータ処理装置10に送信する機構を有している。
【0045】
これらの技術的特徴1~3を備えることで、本実施の形態1に係る情報板の異常検出システムは、中継処理装置30とデータ処理装置10との間の通信路の通信容量を抑制した上で、情報板の取付状態の劣化を、長期間に渡って定量的に高精度に診断することができる。
【0046】
すなわち、本実施の形態1によれば、膨大なデータに対する迅速な演算処理機能と、大容量の記憶機能とを有する中継処理装置を、支柱ごとに設けることで、有限の通信容量を圧迫することを抑制し、かつ、より膨大なデータ処理を行うという、相反する要求を満たすことのできる情報板の異常検出システムを実現できる。
【0047】
なお、上述した実施の形態1では、加速度センサにより測定された加速度情報に基づいて、特徴量として最大傾き角を算出し、最大傾き角の時系列データに対して統計処理を施すことで、統計的に異常を診断するための統計データを作成する場合について説明した。しかしながら、本発明における特徴量および統計データは、これに限定されるものではない。
【0048】
例えば、加速度を2階積分することで得られる変位量を特徴量とし、特徴量に基づく変位軌跡を統計データとして生成し、構造物の取付状態の診断を行うことによっても、同様の効果を実現できる。
【0049】
換言すると、本発明は、特徴量および統計データに何を用いるかがポイントではなく、膨大なデータの演算処理、および大容量データの記憶処理を行い、統計的に異常を診断するための比較的データ量の少ない統計データを生成して上位装置に転送する機能を備えた中継処理装置を有している点がポイントである。
【符号の説明】
【0050】
1 情報板、2 支柱、10 データ処理装置、11 診断部、20 センサ(加速度センサ)、21 センサ部、22 加速度情報出力部、30 中継処理装置、31 記憶部。