(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-02
(45)【発行日】2023-11-13
(54)【発明の名称】レーザ加工装置及びレーザ・アークハイブリッド溶接装置
(51)【国際特許分類】
B23K 26/046 20140101AFI20231106BHJP
B23K 26/00 20140101ALI20231106BHJP
B23K 26/348 20140101ALI20231106BHJP
【FI】
B23K26/046
B23K26/00 M
B23K26/348
(21)【出願番号】P 2020069774
(22)【出願日】2020-04-08
【審査請求日】2022-10-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000000262
【氏名又は名称】株式会社ダイヘン
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】玉城 怜士
【審査官】松田 長親
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-088163(JP,A)
【文献】特開昭63-256289(JP,A)
【文献】特開平04-167990(JP,A)
【文献】特開2012-076136(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/00-26/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加工対象にレーザ光を集光させる集光レンズと、
前記集光レンズを冷媒により冷却する冷却装置と、
前記冷媒の温度を検出する温度検出装置と、
前記温度検出装置により検出される冷媒温度に基づいて、前記集光レンズから前記加工対象へ照射されるレーザ光の焦点位置の補正量を算出する制御装置とを備え
、
前記制御装置は、前記集光レンズを含むレーザヘッドの冷却構造から流出される冷媒の温度と前記冷却構造へ流入する冷媒の温度との温度差、前記冷却構造の熱損失係数、及び前記冷媒の流速と、前記焦点位置の補正量との予め準備された相関関係を用いて、前記熱損失係数、前記冷媒の流速、及び前記温度検出装置を用いて計測される前記温度差に基づいて前記焦点位置の補正量を算出する、レーザ加工装置。
【請求項2】
前記焦点位置の補正量に基づいて、レーザ光の光軸方向に沿って前記集光レンズを移動させる駆動装置をさらに備える、請求項1に記載のレーザ加工装置。
【請求項3】
請求項1
又は請求項2に記載のレーザ加工装置によって構成され、被溶接材の接合部に向けてレーザ光を照射するように構成されたレーザ照射装置と、
前記接合部との間にアークを発生させるように構成されたアーク溶接装置とを備える、レーザ・アークハイブリッド溶接装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、レーザを用いて溶接や切断等を行なうレーザ加工装置、及びそれを用いたレーザ・アークハイブリッド溶接装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特開平3-161186号公報(特許文献1)は、レーザ溶接機のレーザ出力監視方法を開示する。このレーザ出力監視方法では、レーザ光の溶接点間近にある光学要素を冷却する冷媒について、光学要素の入側の温度と出側の温度とが測定され、その温度差とレーザ出力との相関関係に基づいて、レーザ出力の制限又は警報発生の監視制御が行なわれる(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
レーザを用いて溶接や切断等を行なうレーザ加工装置においては、レーザ光を集光して加工対象に照射するための集光レンズが設けられている。このようなレーザ加工装置では、連続してレーザ照射が行なわれると、レーザ光の一部がレンズに吸収されることによってレンズの温度が上昇する。その結果、温度が上昇した部分の密度や屈折率が変化し、レーザ光の焦点位置のズレが発生する(このような現象は「熱レンズ効果」とも称される。)。そして、この熱レンズ効果によって加工の効率や品質が低下するという問題がある。
【0005】
熱レンズ効果に対しては、集光レンズの透過率を高めてレンズによる熱の吸収を低減することにより、レンズの熱膨張(熱レンズ)を抑制することが考えられる。しかしながら、レンズの熱膨張を完全に抑制することは不可能であり、また、できるだけ抑制するにしても高品質(高透過率)のレンズが高コストとなる。
【0006】
特許文献1に記載のレーザ出力監視方法は、光学要素(集光レンズ)を冷媒によって冷却するレーザ溶接装置において、冷媒の光学要素入側温度と出側温度との温度差に基づいてレーザ出力の上限値及び下限値を設定し、この上下限値に基づいてレーザ出力を制御するものであり、熱レンズ効果による問題及びその解決手法について、特許文献1では特に検討されていない。
【0007】
それゆえに、本開示の目的は、熱レンズ効果による加工効率や品質の低下を抑制可能なレーザ加工装置、及びそれを用いたレーザ・アークハイブリッド溶接装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示のレーザ加工装置は、加工対象にレーザ光を集光させる集光レンズと、集光レンズを冷媒により冷却する冷却装置と、冷媒の温度を検出する温度検出装置と、制御装置とを備える。制御装置は、温度検出装置により検出される冷媒温度に基づいて、集光レンズから加工対象へ照射されるレーザ光の焦点位置の補正量を算出する。
【0009】
レーザ光の焦点位置のズレ量は、集光レンズの熱膨張(熱レンズ)の量に依存する。集光レンズの熱膨張量は、集光レンズに吸収された熱量に依存する。そして、集光レンズに吸収された熱量は、冷却装置の冷媒温度に表われる。そこで、本開示のレーザ加工装置では、冷却装置の冷媒温度に基づいて、集光レンズから加工対象へ照射されるレーザ光の焦点位置の補正量が算出される。これにより、熱レンズ効果に伴なうレーザ光の焦点位置のズレ量を適切に推定することができる。したがって、このレーザ加工装置によれば、熱レンズ効果による効率や品質の低下を抑制することが可能となる。また、このレーザ加工装置によれば、従前に比べて高品質(高透過率)のレンズを準備する必要はない。また、焦点位置の補正量の算出に冷却装置の冷媒温度を用いるので、集光レンズの温度を直接検出する温度センサ(熱電対等)を設ける必要はなく、焦点位置の補正量を容易に算出することができる。
【0010】
レーザ加工装置は、焦点位置の補正量に基づいて、レーザ光の光軸方向に沿って集光レンズを移動させる駆動装置をさらに備えてもよい。
【0011】
このような構成により、算出された焦点位置の補正量に基づいて、焦点位置のズレを容易に修正することができる。
【0012】
制御装置は、集光レンズを含むレーザヘッドの冷却構造から流出される冷媒の温度と冷却構造へ流入する冷媒の温度との温度差と、焦点位置の補正量との予め準備された相関関係を用いて、温度検出装置を用いて計測される温度差に基づいて焦点位置の補正量を算出してもよい。
【0013】
このような構成により、温度検出装置を用いて計測される温度差に基づいて、焦点位置の補正量を容易に算出することができる。
【0014】
制御装置は、集光レンズを含むレーザヘッドの冷却構造から流出される冷媒の温度と冷却構造へ流入する冷媒の温度との温度差、冷却構造の熱損失係数、及び冷媒の流速と、焦点位置の補正量との予め準備された相関関係を用いて、熱損失係数、冷媒の流速、及び温度検出装置を用いて計測される温度差に基づいて焦点位置の補正量を算出してもよい。
【0015】
このような構成により、冷却構造の熱損失係数、冷媒の流速、及び温度検出装置を用いて計測される温度差に基づいて、焦点位置の補正量を精度良くかつ容易に算出することができる。
【0016】
また、本開示のレーザ・アークハイブリッド溶接装置は、上記のレーザ加工装置によって構成され、かつ、被溶接材の接合部に向けてレーザ光を照射するように構成されたレーザ照射装置と、接合部との間にアークを発生させるように構成されたアーク溶接装置とを備える。
【0017】
レーザ・アークハイブリッド溶接装置では、アーク溶接の熱によって、レーザ照射装置に設けられる集光レンズの温度が上昇しやすく、熱レンズ効果が助長されやすい。また、レーザ・アークハイブリッド溶接装置では、集光レンズと加工対象(被溶接材)との間に設けられる保護ガラスがアークによるスパッタで汚れやすい。保護ガラスに汚れが付着すると、保護ガラスでのレーザ光の反射が大きくなり、反射光が集光レンズに吸収されることで熱レンズ効果がさらに助長される可能性がある。このように、レーザ・アークハイブリッド溶接では、熱レンズ効果が助長されやすいところ、このレーザ・アークハイブリッド溶接装置によれば、レーザ照射装置が上記のレーザ加工装置によって構成されるので、熱レンズ効果による効率や品質の低下を効果的に抑制することができる。
【発明の効果】
【0018】
本開示のレーザ加工装置によれば、熱レンズ効果による加工効率や品質の低下を抑制することができる。また、本開示のレーザ・アークハイブリッド溶接装置によれば、熱レンズ効果による溶接効率や品質の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】実施の形態1に従うレーザ加工装置が用いられるレーザ・アークハイブリッド溶接装置の全体構成を示す図である。
【
図2】レーザヘッドにおいてレーザ光が集光される様子を示す図である。
【
図4】集光レンズを冷却する冷却システムの構成の一例を示すブロック図である。
【
図5】
図4に示す制御装置により実行される処理の手順の一例を説明するフローチャートである。
【
図6】実施の形態2における制御装置により実行される処理の手順の一例を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本開示の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一又は相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0021】
[実施の形態1]
図1は、本開示の実施の形態1に従うレーザ加工装置が用いられるレーザ・アークハイブリッド溶接装置の全体構成を示す図である。
図1を参照して、このレーザ・アークハイブリッド溶接装置1(以下、単に「ハイブリッド溶接装置1」と称する場合がある。)は、溶接トーチ10と、溶接ワイヤ20と、溶接電源装置30と、レーザヘッド40と、レーザ発振装置60とを備える。
【0022】
このハイブリッド溶接装置1は、各種部材の溶接に用いることができ、異材接合の溶接にも用いることができる。異材接合とは、互いに主成分が異なる異種材料の接合であり、ハイブリッド溶接装置1は、たとえば、GI鋼板やGA鋼板等の溶融亜鉛メッキ鋼板と、アルミニウム合金板との溶接に用いることができる。アルミニウム合金板には、軟質アルミニウムだけでなく、JIS規格の5000番台(たとえば5052)、6000番台(たとえば6063)、7000番台(たとえば7075)等の硬質アルミニウムも適用可能である。ハイブリッド溶接装置1によって、互いに接合される母材70の一方と他方とが、たとえば、重ね隅肉溶接継手やフレア溶接継手等によって接合される。
【0023】
溶接トーチ10、溶接ワイヤ20、及び溶接電源装置30は、母材70の接合部との間にアークを発生させることで溶接を行なうアーク溶接装置を構成する。溶接トーチ10は、母材70の接合部に向けて、溶接ワイヤ20及び図示しないシールドガスを供給する。溶接トーチ10は、溶接電源装置30から溶接電流の供給を受け、溶接ワイヤ20の先端と母材70の接合部との間にアーク25を発生させるとともに、溶接部に向けてシールドガス(アルゴンガスや炭酸ガス等)を供給する。溶接ワイヤ20に代えて、非消耗材の電極(タングステン等)を用いてもよい。すなわち、溶接トーチ10を用いるアーク溶接は、溶極式(マグ溶接やミグ溶接等)であってもよいし、非溶極式(ティグ溶接等)であってもよい。
【0024】
溶接電源装置30は、アーク溶接を行なうための溶接電圧及び溶接電流を生成し、生成された溶接電圧及び溶接電流を溶接トーチ10へ出力する。また、溶接電源装置30は、溶接トーチ10における溶接ワイヤ20の送り速度も制御する。
【0025】
レーザヘッド40及びレーザ発振装置60は、レーザ光50によって加工対象の母材70を加工(溶接)するレーザ加工装置であり、母材70の接合部に向けてレーザ光50を照射することで溶接を行なうレーザ照射装置を構成する。レーザヘッド40は、レーザ発振装置60からレーザ光の供給を受け、母材70の接合部に向けてレーザ光50を照射する。レーザヘッド40からのレーザ光50は、溶接トーチ10から発生するアーク25の近傍に照射され、このハイブリッド溶接装置1では、溶接ワイヤ20の先端から発生するアーク25よりも溶接進行方向の前方にレーザ光50が照射される。
【0026】
図2は、レーザヘッド40においてレーザ光が集光される様子を示す図である。
図2を参照して、レーザヘッド40内には、少なくとも1枚の集光レンズ42と、保護ガラス44とが設けられている。集光レンズ42は、レーザ発振装置60からレーザ光の供給を受け、図示しない母材70の表面にレーザ光50を集光させるように構成されている。なお、この例では、集光レンズ42は、3枚のレンズによって構成されているが、レンズの枚数はこれに限定されるものではない。
【0027】
保護ガラス44は、集光レンズ42の下方(集光レンズ42と図示しない母材70との間)に配設され、溶接時における母材70からのスパッタの飛散等から集光レンズ42を保護する。
【0028】
レーザヘッド40から連続してレーザ光の照射が行なわれると、レーザ光の一部が集光レンズ42に吸収されることによって集光レンズ42の温度が上昇する。その結果、温度が上昇した部分の密度や屈折率が変化し、レーザ光50の焦点位置のズレ(熱レンズ効果)が発生する(実線→点線)。この熱レンズ効果によって溶接の効率や品質が低下する。
【0029】
本実施の形態1では、集光レンズ42の温度上昇を抑制するために、集光レンズ42を冷媒により冷却するための冷却装置が設けられる(
図2では図示せず)。しかしながら、冷却装置によって集光レンズ42を冷却しても、レーザ照射時の集光レンズ42の熱膨張を完全に無くすことはできず、レーザ光50の焦点位置のズレは発生する。
【0030】
このような熱レンズ効果(レーザ光の焦点位置のズレ)に対しては、集光レンズの透過率を高めてレンズによる熱の吸収を低減することによりレンズの熱膨張を抑制するアプローチも考えられる。しかしながら、レンズの熱膨張を完全に抑制することは不可能であり、また、できるだけ抑制するにしても高品質(高透過率)のレンズが高コストとなる。
【0031】
そのため、本実施の形態1のハイブリッド溶接装置1では、熱レンズ効果に伴なう焦点位置のズレを適切に補正するアプローチをとる。レーザ光50の焦点位置のズレ量は、集光レンズ42の熱膨張(熱レンズ)の量に依存する。集光レンズ42の熱膨張量は、集光レンズ42に吸収された熱量に依存する。そして、集光レンズ42に吸収された熱量は、集光レンズ42を冷却する冷却装置の冷媒温度に表われる。
【0032】
そこで、本実施の形態1のハイブリッド溶接装置1では、冷却装置の冷媒温度を検出し、検出された冷媒温度に基づいてレーザ光50の焦点位置の補正量が算出される。これにより、熱レンズ効果に伴なう焦点位置のズレ量を適切に推定することができる。また、このような手法によれば、従前に比べて高品質(高透過率)の集光レンズを準備する必要はない。さらに、焦点位置の補正量の算出に冷却装置の冷媒温度を用いるので、集光レンズ42の温度を検出する温度センサ(熱電対等)を設ける必要はなく、焦点位置の補正量を容易に算出することができる。
【0033】
図3は、レーザヘッド40の構成の一例を示す図である。
図3を参照して、レーザヘッド40は、少なくとも1枚の集光レンズ42及び保護ガラス44のほか、レンズホルダ46と、レンズ駆動装置48とをさらに含む。
【0034】
レンズホルダ46は、集光レンズ42の周縁部(たとえば集光レンズ42の全周囲)において集光レンズ42を保持し、集光レンズ42と一体的にレーザ光50の光軸方向に沿って移動可能に構成される。そして、レンズホルダ46には、集光レンズ42を冷却するための冷媒が流れる冷却構造(冷媒路)が集光レンズ42の全周囲を囲むように設けられている(図示せず)。
【0035】
レンズ駆動装置48は、レーザ光50の光軸方向に沿ってレンズホルダ46(すなわち集光レンズ42)を移動させることができる。レンズ駆動装置48は、たとえば、ボールねじとボールねじを駆動するモータとを含んで構成される。
【0036】
なお、この実施の形態1では、レンズ駆動装置48は、図示しない制御装置からの制御信号に従ってレンズホルダ46(集光レンズ42)を移動させるものとするが、ユーザが手動でレンズホルダ46(集光レンズ42)を移動させるものであってもよい。
【0037】
算出されたレーザ光50の焦点位置の補正量に従ってレンズ駆動装置48によりレンズホルダ46及び集光レンズ42を移動させることによって、熱レンズ効果に伴なう焦点位置のズレを修正することができる。
【0038】
図4は、集光レンズ42を冷却する冷却システムの構成の一例を示すブロック図である。
図4を参照して、冷却システム100は、チラー(CH)80と、冷却構造82と、温度センサ(TM)84と、流速センサ(VM)86と、熱損失係数設定部88と、制御装置90とを含む。
【0039】
チラー80は、レーザヘッド40内に設けられる冷却構造82(冷媒路)との間で冷媒を流速Vwで循環させるとともに、冷却構造82において集光レンズ42(図示せず)から吸熱した冷媒を冷却して所定の設定温度で冷却構造82へ供給する冷媒循環装置である。チラー80は、冷媒を循環させるためのポンプや、冷媒を冷却するための放熱機構等を含んで構成される(いずれも図示せず)。
【0040】
冷却構造82は、レーザヘッド40内に設けられ、集光レンズ42を冷却するための冷媒が流れる冷媒路である。冷却構造82は、たとえば、レンズホルダ46(
図3)において集光レンズ42の全周囲を囲むように設けられている。
【0041】
温度センサ84は、冷却構造82を通過した冷媒の温度を検出し、検出された冷媒温度を示す温度検出信号Tmを制御装置90へ出力する。なお、温度センサ84は、冷却構造82から流出される冷媒の温度と、冷却構造82に流入する冷媒の温度との温度差を検出し、その検出値を制御装置90へ出力してもよい。
【0042】
流速センサ86は、チラー80及び冷却構造82を循環する冷媒の流速Vwを検出し、検出された流速を示す流速検出信号Vmを制御装置90へ出力する。
【0043】
熱損失係数設定部88は、熱損失係数設定信号を出力する。熱損失係数設定信号には、冷媒の密度ρ、冷媒の比熱c、熱損失係数Hf等の情報が含まれる。熱損失係数Hfは、レーザ発振装置(PS)60から出力されるレーザ光がレーザヘッド40を通過してレーザ光50(
図1等)として出力される場合に失われる熱損失の係数を示す。レーザ発振装置60からのレーザ光の出力をLcとし、レーザヘッド40から母材70へ照射されるレーザ光50の出力をLoとすると、たとえば、熱損失係数Hf=(Lc-Lo)/Lcである。
【0044】
なお、この実施の形態1では、流速センサ86及び熱損失係数設定部88は、必須の構成ではなく、後述の実施の形態2において用いられるものである。
【0045】
制御装置90は、CPU(Central Processing Unit)と、メモリ(ROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory))と、各種信号を入出力するための入出力ポートとを含んで構成される(いずれも図示せず)。
【0046】
制御装置90は、温度センサ84から冷媒温度を示す温度検出信号Tmを受け、温度センサ84により検出される冷媒温度とチラー80の設定温度との温度差ΔTwを算出する。なお、温度検出信号Tmは、冷却構造82から流出される冷媒の温度を示し、チラー80の設定温度は、冷却構造82へ流入する冷媒の温度に相当する。すなわち、温度差ΔTwは、冷却構造82による集光レンズ42の冷却前後の冷媒の温度差に相当する。
【0047】
そして、制御装置90は、算出された温度差ΔTw、並びにメモリに記憶されたプログラム及びマップ等に基づいて、母材70へ照射されるレーザ光50の焦点位置の補正量ΔLを算出する。具体的には、制御装置90は、冷却構造82から流出される冷媒の温度と冷却構造82に流入する冷媒の温度との温度差と、レーザ光50の焦点位置の補正量との相関関係を示す予め準備されたマップ(焦点位置補正マップ)を用いて、算出された温度差ΔTwから焦点位置の補正量ΔLを算出する。焦点位置補正マップは、事前の評価実験やシミュレーションにより予め求められてメモリに記憶されている。
【0048】
なお、上記の焦点位置補正マップに代えて、温度差ΔTwと焦点位置の補正量ΔLとの相関関係を示す相関関数f1を用いて、焦点位置の補正量ΔL=f1(ΔTw)により補正量ΔLを算出してもよい。この場合、相関関数f1も、事前の評価実験やシミュレーションにより予め求められてメモリに記憶される。
【0049】
そして、制御装置90は、算出された焦点位置の補正量ΔLに従ってレンズ駆動装置48を制御することにより、レーザヘッド40内の集光レンズ42(
図3)を移動させる。具体的には、制御装置90は、補正量ΔLだけ集光レンズ42を移動させてもよいし、補正量ΔLに調整ゲインを乗算した移動量だけ集光レンズ42を移動させてもよい。
【0050】
なお、制御装置90における上記の各種制御については、ソフトウェアによる処理に限られず、専用のハードウェア(電子回路)で構築して処理することも可能である。
【0051】
図5は、
図4に示した制御装置90により実行される処理の手順の一例を説明するフローチャートである。このフローチャートに示される一連の処理は、所定の周期で繰り返し実行される。
【0052】
図5を参照して、制御装置90は、温度センサ84(
図4)からの温度検出信号Tmに基づいて、冷却構造82通過後の冷媒の温度を取得する(ステップS10)。次いで、制御装置90は、ステップS10において取得された冷媒温度からチラー80の設定温度を差し引くことによって、冷却構造82による集光レンズ42の冷却前後の冷媒の温度差ΔTwを算出する(ステップS20)。
【0053】
続いて、制御装置90は、冷却構造82から流出される冷媒の温度と冷却構造82に流入する冷媒の温度との温度差と、レーザ光50の焦点位置の補正量との相関関係を示す焦点位置補正マップをメモリから読み出し、この焦点位置補正マップを用いて、ステップS20において算出された温度差ΔTwから焦点位置の補正量ΔLを算出する(ステップS30)。
【0054】
そして、制御装置90は、その算出された焦点位置の補正量ΔLに従ってレンズ駆動装置48を制御する(ステップS40)。これにより、補正量ΔLに従ってレーザ光50の光軸方向に沿って集光レンズ42が移動し、熱レンズ効果に伴なうレーザ光50の焦点位置のズレが修正される。
【0055】
以上のように、この実施の形態1においては、レーザヘッド40に設けられる冷却構造82を流れる冷媒の温度に基づいて、集光レンズ42から母材70へ照射されるレーザ光50の焦点位置の補正量ΔLが算出される。これにより、熱レンズ効果に伴なう焦点位置のズレ量を適切に推定することができる。したがって、この実施の形態1によれば、熱レンズ効果による効率や品質の低下を抑制することが可能となる。
【0056】
そして、この実施の形態1によれば、従前に比べて高品質(高透過率)の集光レンズを準備する必要はない。また、焦点位置の補正量ΔLの算出に冷却システム100における冷媒の温度を用いるので、集光レンズ42の温度を直接検出する温度センサ(熱電対等)を設ける必要はなく、焦点位置の補正量ΔLを容易に算出することができる。
【0057】
また、この実施の形態1によれば、算出された焦点位置の補正量ΔLに基づいて、レンズ駆動装置48によりレーザ光50の光軸方向に沿って集光レンズ42を移動させるので、焦点位置の補正量ΔLに基づいて焦点位置のズレを容易に修正することができる。
【0058】
また、レーザ・アークハイブリッド溶接装置1では、アーク溶接からの受熱やスパッタによる保護ガラス44の汚れ等により熱レンズ効果が助長されやすいところ、この実施の形態1に従うレーザ加工装置が用いられるハイブリッド溶接装置1によれば、熱レンズ効果に伴なう効率や品質の低下を効果的に抑制することができる。
【0059】
[実施の形態2]
上記の実施の形態1では、冷却構造82による集光レンズ42の冷却前後の冷媒の温度差ΔTwに基づいて、レーザ光50の焦点位置の補正量ΔLを算出するものとしたが、この実施の形態2では、温度差ΔTwだけでなく、冷却システム100における冷媒の流速、及び冷却構造82での熱損失も考慮して、焦点位置の補正量ΔLが算出される。これにより、たとえば、仕様が異なるレーザヘッド40に対しても、焦点位置の補正量ΔLを適切に算出することができる。
【0060】
実施の形態2におけるハイブリッド溶接装置1の全体構成、及び冷却システム100の構成は、
図1から
図4に示した実施の形態1の構成と同じである。そして、この実施の形態2では、制御装置90においてレーザ光50の焦点位置の補正量ΔLを算出するロジックが実施の形態1と異なる。
【0061】
図6は、実施の形態2における制御装置90により実行される処理の手順の一例を説明するフローチャートである。このフローチャートに示される一連の処理も、所定の周期で繰り返し実行される。
【0062】
図6を参照して、制御装置90は、温度センサ84(
図4)からの温度検出信号Tmに基づいて、冷却構造82通過後の冷媒の温度を取得し、流速センサ86(
図4)からの流速検出信号Vmに基づいて、冷却構造82を流れる冷媒の流速Vwを取得する(ステップS110)。
【0063】
次いで、制御装置90は、ステップS110において取得された冷媒温度からチラー80の設定温度を差し引くことによって、冷却構造82による集光レンズ42の冷却前後の冷媒の温度差ΔTwを算出する(ステップS120)。
【0064】
続いて、制御装置90は、熱損失係数設定部88から熱損失係数設定信号を受け、冷却構造82の熱損失係数Hfを取得する(ステップS130)。なお、熱損失係数設定信号には、熱損失係数Hfのほか、冷媒の密度ρ、冷媒の比熱c等の情報も含まれている。
【0065】
次いで、制御装置90は、冷却構造82から流出される冷媒の温度と冷却構造82に流入する冷媒の温度との温度差、冷媒の流速、及び冷却構造82の熱損失係数と、レーザ光50の焦点位置の補正量との相関関係を示す焦点位置補正マップをメモリから読み出す。そして、制御装置90は、その焦点位置補正マップを用いて、ステップS120において算出された温度差ΔTw、並びにステップS110,S130においてそれぞれ取得された冷媒の流速Vw及び熱損失係数Hfから焦点位置の補正量ΔLを算出する(ステップS140)。
【0066】
なお、上記の焦点位置補正マップに代えて、温度差ΔTw、冷媒の流速Vw、及び熱損失係数Hfと、焦点位置の補正量ΔLとの相関関係を示す相関関数f2を用いて、焦点位置の補正量ΔL=f2(ΔTw,Vw,Hf)により補正量ΔLを算出してもよい。相関関数f2の一例として、f2(ΔTw,Vw,Hf)=Vw×ΔTw×(1/Hf)が挙げられる。これは、冷却構造82における時間当たりの熱損失量に熱損失係数Hfの逆数を掛けることで、焦点位置の補正量ΔLを推定することを示す。また、冷媒の密度ρ及び比熱cを用いて、f2(ΔTw,Vw,Hf)=c×ρ×Vw×ΔTw×(1/Hf)と拡張してもよい。これらの場合、相関関数f2も、事前の評価実験やシミュレーションにより予め求められてメモリに記憶される。
【0067】
そして、制御装置90は、その算出された補正量ΔLに従ってレンズ駆動装置48を制御する(ステップS150)。これにより、補正量ΔLに従って、レーザ光50の光軸方向に沿って集光レンズ42が移動し、焦点位置のズレが修正される。
【0068】
以上のように、この実施の形態2においては、冷却システム100における冷媒の温度だけでなく、冷媒の流速Vw、及び冷却構造82の熱損失係数Hfも考慮して、レーザ光50の焦点位置の補正量ΔLが算出される。これにより、たとえば、仕様が異なるレーザヘッド40に対しても、焦点位置の補正量ΔLを精度良くかつ容易に算出できる。
【0069】
なお、上記の実施の形態1,2では、本開示のレーザ加工装置がレーザ・アークハイブリッド溶接装置1に適用されるものとしたが、本開示のレーザ加工装置は、レーザ・アークハイブリッド溶接に用いられるものに限定されるものではない。レーザ加工装置単体で用いても、実施の形態1,2と同様の効果が得られる。
【0070】
今回開示された実施の形態は、全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施の形態の説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0071】
1 レーザ・アークハイブリッド溶接装置、10 溶接トーチ、20 溶接ワイヤ、25 アーク、30 溶接電源装置、40 レーザヘッド、42 集光レンズ、44 保護ガラス、46 レンズホルダ、48 レンズ駆動装置、50 レーザ光、60 レーザ発振装置、70 母材、80 チラー、82 冷却構造、84 温度センサ、86 流速センサ、88 熱損失係数設定部、90 制御装置、100 冷却システム。