(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-02
(45)【発行日】2023-11-13
(54)【発明の名称】インバータを主電源とする配電系統の保護装置および保護方法
(51)【国際特許分類】
H02H 3/093 20060101AFI20231106BHJP
H02H 7/122 20060101ALI20231106BHJP
H02M 7/48 20070101ALI20231106BHJP
【FI】
H02H3/093
H02H7/122 A
H02M7/48 M
(21)【出願番号】P 2020076466
(22)【出願日】2020-04-23
【審査請求日】2022-12-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000003687
【氏名又は名称】東京電力ホールディングス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000006105
【氏名又は名称】株式会社明電舎
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【氏名又は名称】富岡 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100104938
【氏名又は名称】鵜澤 英久
(74)【代理人】
【識別番号】100210240
【氏名又は名称】太田 友幸
(72)【発明者】
【氏名】森 健二郎
(72)【発明者】
【氏名】菅野 伯浩
(72)【発明者】
【氏名】吉山 和宏
(72)【発明者】
【氏名】植田 喜延
【審査官】対馬 英明
(56)【参考文献】
【文献】特開昭60-084920(JP,A)
【文献】特開2018-183034(JP,A)
【文献】実開平02-030236(JP,U)
【文献】国際公開第2019/097580(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02H 3/08-3/253
H02H 7/00
H02H 7/10-7/20
H02M 7/42-7/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
発電機と、主電源としてのインバータを母線に連系した配電系統の短絡事故を検出して保護を行う保護装置であって、
前記母線の電圧を検出した母線電圧検出信号と、母線に接続される複数の配電線に流れる電流を各々検出した配電線電流検出信号とを入力とし、
前記インバータが過電流停止することなく運転が可能な電流値に整定された第1の過電流継電器の出力と、前記複数の配電線の線間電圧の低下を検出する不足電圧継電器の出力との論理積が成立したときに限時動作する第1の保護要素と、
第2の過電流継電器の瞬時要素を有し、入力電流が、整定された過電流レベルを超えたときに瞬時動作する第2の保護要素と、
第2の過電流継電器の限時要素を有し、入力電流が、整定された過電流レベルを超えたら限時動作する第3の保護要素と、を備え、
前記第1~第3の保護要素の各動作の論理和条件成立時に短絡事故有りと判定することを特徴としたインバータを主電源とする配電系統の保護装置。
【請求項2】
前記第1の保護要素は、
前記配電系統に流れる電流の方向を検出する電流方向検出手段を備え、電流方向検出手段が順方向を検出したことと、前記第1の過電流継電器および不足電圧継電器の出力有りとの論理積条件成立時に限時動作することを特徴とした請求項1に記載のインバータを主電源とする配電系統の保護装置。
【請求項3】
前記第1の保護要素は、
前記配電系統に流れる電流の方向を検出する電流方向検出手段を備え、電流方向検出手段が逆方向を検出していないことと、前記第1の過電流継電器および不足電圧継電器の出力有りとの論理積条件成立時に限時動作することを特徴とした請求項1に記載のインバータを主電源とする配電系統の保護装置。
【請求項4】
前記インバータが過電流抑制制御中であることを示す信号を、前記第1の保護要素における論理積条件に追加したことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のインバータを主電源とする配電系統の保護装置。
【請求項5】
前記インバータが過電流抑制制御を開始してから設定した時間内に、過電流抑制制御における過電流制限値を、過電流停止回避可能レベルから連続運転可能レベルに低減させ、短絡事故除去後は再び元の過電流停止回避可能レベルに戻す機能を設けたことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載のインバータを主電源とする配電系統の保護装置。
【請求項6】
前記配電線に接続される高圧需要家には、インバータが供給できる短絡電流よりも小さい電流においてロック機能を持つ柱上気中開閉器が設けられていることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載のインバータを主電源とする配電系統の保護装置。
【請求項7】
前記第1の保護要素および第3の保護要素に反限時特性を各々持たせたことを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載のインバータを主電源とする配電系統の保護装置。
【請求項8】
発電機と、主電源としてのインバータを母線に連系した配電系統の短絡事故を検出して保護を行う保護方法であって、
前記母線の電圧を検出した母線電圧検出信号と、母線に接続される複数の配電線に流れる電流を各々検出した配電線電流検出信号とを入力するステップと、
前記インバータが過電流停止することなく運転が可能な電流値に整定された第1の過電流継電器の出力と、前記複数の配電線の線間電圧の低下を検出する不足電圧継電器の出力との論理積をとる論理積処理ステップと、
前記論理積処理ステップの論理積が成立したときに限時動作する第1の保護要素と、第2の過電流継電器の瞬時要素を有し、入力電流が、整定された過電流レベルを超えたときに瞬時動作する第2の保護要素と、第2の過電流継電器の限時要素を有し、入力電流が、整定された過電流レベルを超えたら限時動作する第3の保護要素と、の論理和をとる論理和処理ステップと、を備え、
前記論理和処理ステップの論理和条件成立時に短絡事故有りと判定することを特徴としたインバータを主電源とする配電系統の保護方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配電系統の保護方式に係り、特にインバータ電源を主電源としたオフグリッドの配電系統の保護方式に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、高圧配電線の短絡事故に対しては、過電流リレーによって保護が行われてきた。これは、主電源としての例えば同期発電機が、15%程度の初期過渡リアクタンスであり、定格電流の約6倍の短絡電流を供給することが可能であるため、系統正常時に流れる電流と事故時の電流の大きさが異なることを利用したものである。
【0003】
尚、従来、交流電力を送電線に供給するインバータ回路を備えたパワーコンディショナにおいて、送電線の事故発生を検出することは例えば特許文献1に記載されている。
【0004】
また、分散型電源の直流電力を交流電力に変換して電力系統と連系するインバータの制御装置は、例えば特許文献2に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】WO2019/097580
【文献】特開2016-10203号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一方で、最近では燃料費や燃料運搬費のコスト削減や地球温暖化対策の観点から、オフグリッドの配電系統に太陽光発電等の再生可能エネルギー電源を導入する動きが進められている。
【0007】
再生可能エネルギー電源の多くはインバータ電源であるが、インバータは一般的に過負荷耐量が定格の百数十%と小さいため、事故時に過電流リレーの動作レベルまで電流を供給することができないという課題がある。
【0008】
本発明は、上記課題を解決するものであり、その目的は、インバータを主電源とする配電系統において、インバータが過電流停止しないレベルの電流値においても、短絡事故を検出することができるインバータを主電源とする配電系統の保護装置および保護方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための請求項1に記載のインバータを主電源とする配電系統の保護装置は、
発電機と、主電源としてのインバータを母線に連系した配電系統の短絡事故を検出して保護を行う保護装置であって、
前記母線の電圧を検出した母線電圧検出信号と、母線に接続される複数の配電線に流れる電流を各々検出した配電線電流検出信号とを入力とし、
前記インバータが過電流停止することなく運転が可能な電流値に整定された第1の過電流継電器の出力と、前記複数の配電線の線間電圧の低下を検出する不足電圧継電器の出力との論理積が成立したときに限時動作する第1の保護要素と、
第2の過電流継電器の瞬時要素を有し、入力電流が、整定された過電流レベルを超えたときに瞬時動作する第2の保護要素と、
第2の過電流継電器の限時要素を有し、入力電流が、整定された過電流レベルを超えたら限時動作する第3の保護要素と、を備え、
前記第1~第3の保護要素の各動作の論理和条件成立時に短絡事故有りと判定することを特徴としている。
【0010】
請求項2に記載のインバータを主電源とする配電系統の保護装置は、請求項1において、
前記第1の保護要素は、
前記配電系統に流れる電流の方向を検出する電流方向検出手段を備え、電流方向検出手段が順方向を検出したことと、前記第1の過電流継電器および不足電圧継電器の出力有りとの論理積条件成立時に限時動作することを特徴としている。
【0011】
請求項3に記載のインバータを主電源とする配電系統の保護装置は、請求項1において、
前記第1の保護要素は、
前記配電系統に流れる電流の方向を検出する電流方向検出手段を備え、電流方向検出手段が逆方向を検出していないことと、前記第1の過電流継電器および不足電圧継電器の出力有りとの論理積条件成立時に限時動作することを特徴としている。
【0012】
請求項4に記載のインバータを主電源とする配電系統の保護装置は、請求項1から3のいずれか1項において、
前記インバータが過電流抑制制御中であることを示す信号を、前記第1の保護要素における論理積条件に追加したことを特徴とする。
【0013】
請求項5に記載のインバータを主電源とする配電系統の保護装置は、請求項1から4のいずれか1項において、
前記インバータが過電流抑制制御を開始してから設定した時間内に、過電流抑制制御における過電流制限値を、過電流停止回避可能レベルから連続運転可能レベルに低減させ、短絡事故除去後は再び元の過電流停止回避可能レベルに戻す機能を設けたことを特徴とする。
【0014】
請求項6に記載のインバータを主電源とする配電系統の保護装置は、請求項1から5のいずれか1項において、
前記配電線に接続される高圧需要家には、インバータが供給できる短絡電流よりも小さい電流においてロック機能を持つ柱上気中開閉器が設けられていることを特徴とする。
【0015】
請求項7に記載のインバータを主電源とする配電系統の保護装置は、請求項1から6のいずれか1項において、
前記第1の保護要素および第3の保護要素に反限時特性を各々持たせたことを特徴とする。
【0016】
請求項8に記載のインバータを主電源とする配電系統の保護方法は、
発電機と、主電源としてのインバータを母線に連系した配電系統の短絡事故を検出して保護を行う保護方法であって、
前記母線の電圧を検出した母線電圧検出信号と、母線に接続される複数の配電線に流れる電流を各々検出した配電線電流検出信号とを入力するステップと、
前記インバータが過電流停止することなく運転が可能な電流値に整定された第1の過電流継電器の出力と、前記複数の配電線の線間電圧の低下を検出する不足電圧継電器の出力との論理積をとる論理積処理ステップと、
前記論理積処理ステップの論理積が成立したときに限時動作する第1の保護要素と、第2の過電流継電器の瞬時要素を有し、入力電流が、整定された過電流レベルを超えたときに瞬時動作する第2の保護要素と、第2の過電流継電器の限時要素を有し、入力電流が、整定された過電流レベルを超えたら限時動作する第3の保護要素と、の論理和をとる論理和処理ステップと、を備え、
前記論理和処理ステップの論理和条件成立時に短絡事故有りと判定することを特徴としている。
【発明の効果】
【0017】
(1)請求項1~8に記載の発明によれば、従来の過電流継電器では検出できなかった、インバータが過電流停止しないレベルの事故電流においても、インバータの過電流抑制制御にともなう電圧低下を検出しているので、短絡事故を確実に検出することができる。これによって、短絡事故発生の配電線を切り離すなどの保護動作を行うことができる。
(2)請求項2に記載の発明によれば、順潮流による過電流のみを検出することにより、健全な配電線の不要トリップを防止することができる。
(3)請求項3に記載の発明によれば、潮流方向を判定することができない程度まで電圧が低下した場合の短絡事故において、検出漏れを防止することができる。
(4)請求項4に記載の発明によれば、インバータの過電流抑制制御中の信号を直接取り込んでいるので、不要動作を一層防止することができる。
(5)請求項5に記載の発明によれば、インバータの電流抑制動作を長時間継続させることができ、配電線に接続された高圧需要家設備内の事故との保護協調を図ることができる。
(6)請求項6に記載の発明によれば、配電線に接続された高圧需要家の設備内における事故継続を回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図8】本発明の実施例2における電流方向検出手段の例を示し、(a)は一例の構成図、(b)は(a)の動作を説明するための電圧、電流ベクトル図、(c)は他の例の構成図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を説明するが、本発明は下記の実施形態例に限定されるものではない。
【0020】
まず、本発明が適用される配電系統の構成例を
図7に示す。
図7はオフグリッドにて電力供給を行う配電系統を示し、主電源としてのインバータ電源(INV)101と、発電機(G)102は母線103に連系(接続)されている。
【0021】
インバータ電源101は、再生可能エネルギー電源としての例えば太陽光発電(PV)装置、風力発電(WT)装置、蓄電システム(BESS)のいずれか(図示省略)と、その電源の直流電力を交流電力に変換するインバータ(図示省略)とを備えている。
【0022】
母線103には、遮断器104-1~104-Nを介して配電線110-1~110-Nが接続されている。
【0023】
配電線110-1~110-Nには、複数の太陽光発電装置(PV)121…および複数の負荷122…が各々接続されている。
【0024】
130-1~130-Nは、母線103の電圧を計器用変圧器131により検出した母線電圧検出信号と、配電線110-1~110-Nの電流を変流器132-1~132-Nにより各々検出した配電線電流検出信号とを取り込んで、配電系統の短絡事故を検出して保護動作を行う保護リレー(本発明の保護装置)である。
【0025】
保護リレー130-1~130-Nの詳細は、以下の実施例1~6のように構成されている。
【実施例1】
【0026】
図1は、実施例1における保護リレー130-1~130-Nのうちの1つの保護リレーの構成を表し、短絡保護に関するリレーシーケンスを示している。
【0027】
図1において51INVは、
図7のインバータ電源101内のインバータが過電流停止することなく運転が可能な電流値に整定され、整定値を超えたときに動作出力を発する第1の過電流継電器である。
【0028】
27(線間)は、
図7の配電線110-1~110-Nの線間電圧の低下を検出し、検出時に動作出力を発する不足電圧継電器であり、例えばインバータ電源101内のインバータの過電流抑制制御にともなう電圧低下を検出する。
【0029】
210は、第1の過電流継電器51INVの動作出力と不足電圧継電器27の動作出力との論理積(AND)をとるアンド回路である。
【0030】
221は、アンド回路210の出力に反限時特性(入力が大のときは短時間で動作し、入力が小のときは長時間経過後に動作する特性)をもたせる反限時特性部である。
【0031】
これら第1の過電流継電器51INV、不足電圧継電器27、アンド回路210、反限時特性部221によって、本発明の第1の保護要素を構成している。
【0032】
51Hは、入力電流(
図7の変流器132-1~132-Nで検出された各配電線の電流)が、整定された過電流レベルを超えたときに瞬時に動作出力を発する第2の過電流継電器瞬時要素である。この第2の過電流継電器瞬時要素51Hは本発明の第2の保護要素を構成している。
【0033】
51Lは、入力電流(
図7の変流器132-1~132-Nで検出された各配電線の電流)が、整定された過電流レベルを超えたら限時動作する第2の過電流継電器限時要素である。
【0034】
222は、第2の過電流継電器限時要素51Lの出力に反限時特性(入力が大のときは短時間で動作し、入力が小のときは長時間経過後に動作する特性)をもたせる反限時特性部である。
【0035】
これら第2の過電流継電器限時要素51Lおよび反限時特性部222によって本発明の第3の保護要素を構成している。
【0036】
尚、前記過電流継電器瞬時要素51H、過電流継電器限時要素51Lは、従来の短絡事故の保護方式で用いられていた要素であり、例えばこれら要素51H、51Lの動作出力の論理和条件成立により短絡事故を検出するものであった。
【0037】
230は、前記第1~第3の保護要素の各出力(反限時特性部221の出力、第2の過電流継電器瞬時要素51Hの出力、反限時特性部222の出力)の論理和(OR)をとるオア回路である。
【0038】
前記論理和条件が成立したときは、オア回路230から短絡事故有りを示す信号が出力され、この信号に基いて短絡事故発生の配電線を切り離すなどの保護動作が行われる。
【0039】
上記のように構成された装置において、変流器132-1~132-Nにより検出された電流が、第2の過電流継電器瞬時要素51H、限時要素51Lで整定された過電流レベルを超えた場合は、該要素51H、51Lの動作により短絡事故が検出される。
【0040】
また、前記要素51H、51Lで整定された過電流レベルに達せず、インバータが過電流停止しないレベルの電流であっても、第1の過電流継電器51INVに整定されている、インバータが過電流停止することなく運転が可能な電流値を超え、且つ不足電圧継電器27が、インバータの過電流抑制制御にともなう電圧低下を検出することにより、アンド回路210から動作出力が発せられ、短絡事故が検出される。
【実施例2】
【0041】
本実施例2では、本発明の第1の保護要素におけるアンド条件として、配電系統に流れる電流の方向が順方向(順潮流)であることを条件に追加した。
【0042】
図2は、実施例2における保護リレー130-1~130-Nのうちの1つの保護リレーの構成を表し、
図1と同一部分は同一符号をもって示している。
【0043】
図2において
図1と異なる点は、
図7の配電線110-1~110-Nに流れる電流の方向を検出し、順方向(順潮流)のときに動作出力を発する電流方向検出手段、例えば交流電力方向継電器67Sを設け、アンド回路210は、第1の過電流継電器51INV、不足電圧継電器27、交流電力方向継電器67Sの各動作出力の論理積をとることにあり、その他の部分は
図1と同一に構成されている。
【0044】
上記構成によれば、配電系統に流れる電流の方向が順方向(順潮流)であることをアンド回路210における論理積条件に加えているので、順潮流による過電流のみを検出することができ、健全な配電線の不要トリップを防止することができる。
【0045】
交流電力方向継電器67Sの構成例を
図8に示す。
図8において、入力される交流電圧信号は、
図7の母線103に設けられた計器用変圧器131からの検出電圧信号であり、入力される交流電流信号は、
図7の配電線110-1~110-Nに設けられた変流器132-1~132-Nからの検出電流信号である。
【0046】
図8(a),(b)において、入力された交流電圧信号と交流電流信号は、ベクトル化部261V,261Iで各々ベクトル化された後、位相比較部262で位相比較される。
【0047】
例えば
図8(b)において、電圧ベクトルVに対する電流ベクトルIが順方向領域にあるか、逆方向領域にあるかによって位相比較部262から方向判定結果が出力される。
【0048】
また、他の例を示す
図8(c)においては、有効電力演算部263で有効電力Pが演算され、そのPの極性によって方向判定結果(P<0ならば逆方向)が出力される。
【実施例3】
【0049】
本実施例3では、本発明の第1の保護要素におけるアンド条件として、配電系統に流れる電流の方向が逆方向ではないことを条件に追加した。
【0050】
図3は、実施例3における保護リレー130-1~130-Nのうちの1つの保護リレーの構成を表し、
図2と同一部分は同一符号をもって示している。
【0051】
図3において
図2と異なる点は、交流電力方向継電器67Sに代えて交流逆電力方向継電器67Rを設け、その反転動作出力をアンド回路210に取り込むように構成し、アンド回路210は、第1の過電流継電器51INVの動作出力と、不足電圧継電器27の動作出力と、交流逆電力方向継電器67Rの反転動作出力との論理積をとることにあり、その他の部分は
図2と同一に構成されている。
【0052】
交流逆電力方向継電器67Rの構成は、
図8において、逆方向領域となっているときにオンとなる、交流電力方向継電器67Sと逆論理の継電器である。
【0053】
上記構成によれば、配電系統に流れる電流の方向が逆方向(逆潮流)でないことをアンド回路210における論理積条件に加えているので、順潮流および潮流方向が判定できないレベルまで電圧が低下した場合の過電流のみを検出することができ、健全な配電線の不要トリップを防止することができる。
【実施例4】
【0054】
本実施例4では、本発明の第1の保護要素におけるアンド条件として、インバータが過電流抑制制御中であることを条件に追加した。
【0055】
図4は、実施例4における保護リレー130-1~130-Nのうちの1つの保護リレーの構成を表し、
図3と同一部分は同一符号をもって示している。
【0056】
図4において
図3と異なる点は、アンド回路210には
図7のインバータ電源101内のインバータから出力される過電流抑制制御中であることを示す信号がさらに取り込まれ、アンド回路210は、第1の過電流継電器51INVの動作出力、不足電圧継電器27の動作出力、交流逆電力方向継電器67Rの反転動作出力と、インバータから出力される過電流抑制制御中であることを示す信号との論理積をとることにあり、その他の部分は
図3と同一に構成されている。
【0057】
上記構成によれば、インバータの過電流抑制制御中の信号を直接取り込んでいるので、不要動作を一層防止することができる。
【0058】
尚、本実施例4を実施例1に適用する場合は、
図1におけるアンド回路210の論理積条件に、インバータの過電流抑制中の信号を追加するものである。
【実施例5】
【0059】
また前記実施例4は、交流電力方向継電器67Sを用いた実施例2に適用することも可能であり、交流電力方向継電器67Sの動作出力又は交流逆電力方向継電器67Rの反転動作出力のいずれかを用いる実施例5の構成を
図5に示す。
【0060】
図5において、アンド回路210には第1の過電流継電器51INVの動作出力、不足電圧継電器27の動作出力、交流電力方向継電器67Sの動作出力又は交流逆電力方向継電器67Rの反転動作出力と、インバータから出力される過電流抑制制御中であることを示す信号とが入力され、アンド回路210はそれらの論理積をとるものであり、その他の部分は
図4と同一に構成されている。
【0061】
実施例5によれば、実施例1~4で述べた各効果が期待できる。
【実施例6】
【0062】
実施例6では、実施例1~5のいずれかにより短絡事故が検出された場合に、インバータが過電流抑制制御を開始してから設定した時間内に、過電流抑制制御における過電流制限値を、過電流停止回避可能レベルから連続運転可能レベルに低減させ、短絡事故除去後は再び元の過電流停止回避可能レベルに戻す機能を、インバータの制御装置に設けた。
【0063】
図6は実施例6の構成を表し、
図7、
図4、
図5と同一部分は同一符号をもって示している。
図6の破線で囲む部分は、
図7の構成を、2本の配電線1、2に簡略して図示したものであり、123は、インバータが供給できる短絡電流よりも小さい電流においてロック機能を持つ柱上気中開閉器PAS(Pole Air Switch)および引込線を介して配電線2に接続された高圧需要家である。
【0064】
図6の保護リレー1、保護リレー2は実施例1~5が適用される保護リレーであり、破線矢印はインバータから出力される過電流抑制制御中であることを表す信号を示している。このため
図6の破線で囲む部分は実施例4、5の構成を代表して図示しているが、これに限らず実施例1~3の構成であってもよい。
【0065】
図6において、配電線2から柱上気中開閉器PASを介して分岐した高圧需要家123の設備内で発生した事故に対しても、インバータ電源(101)の場合、供給可能な事故電流は制限される。そのため、高圧需要家123の設備内での事故検出・除去に要する時間が従来よりも長くなる場合がある。
【0066】
そこで
図6のように、インバータが過電流抑制制御を開始してから設定した時間内に、過電流抑制制御における過電流制限値を、過電流停止回避可能レベル(図示過電流停止レベル)から連続運転可能レベルに低減させ、短絡事故除去後は再び元の過電流停止回避可能レベル(図示過電流停止レベル)に戻す。
【0067】
これによって、インバータが過負荷停止することなく連続運転することにより(インバータの電流抑制動作の長時間継続が可能となり)、確実に高圧需要家123の設備内での事故除去が行われ、配電線との保護協調が確保される。
【0068】
また、高圧需要家123の設備内で事故が発生した場合においても、柱上気中開閉器PASがロックすることにより、復電後の事故継続を回避することができる。
【符号の説明】
【0069】
27…不足電圧継電器
51INV…第1の過電流継電器
51H…第2の過電流継電器瞬時要素
51L…第2の過電流継電器限時要素
67S…交流電力方向継電器
67R…交流逆電力方向継電器
101…インバータ電源
102…発電機
103…母線
104-1~104-N…遮断器
110-1~110-N…配電線
121…太陽光発電装置(PV)
122…負荷
123…高圧需要家
130-1~130-N…保護リレー
131…計器用変圧器
132-1~132-N…変流器
210…アンド回路
221,222…反限時特性部
230…オア回路
261V,261I…ベクトル化部
262…位相比較部
263…有効電力演算部
PAS…柱上気中開閉器