(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-02
(45)【発行日】2023-11-13
(54)【発明の名称】ピストンロッドアセンブリ、緩衝器およびピストンロッドアセンブリの製造方法
(51)【国際特許分類】
F16F 9/32 20060101AFI20231106BHJP
F16F 9/54 20060101ALI20231106BHJP
F16B 39/02 20060101ALI20231106BHJP
【FI】
F16F9/32 N
F16F9/54
F16B39/02 P
(21)【出願番号】P 2020077102
(22)【出願日】2020-04-24
【審査請求日】2022-12-14
(73)【特許権者】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡崎 健伍
(72)【発明者】
【氏名】山田 和誠
【審査官】児玉 由紀
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-344017(JP,A)
【文献】特開平07-063212(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第110307205(CN,A)
【文献】特開2020-037977(JP,A)
【文献】実開平03-075308(JP,U)
【文献】実開平03-038292(JP,U)
【文献】実開昭57-105452(JP,U)
【文献】実開昭62-097339(JP,U)
【文献】米国特許第04232978(US,A)
【文献】特開平07-233839(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16B 23/00-43/02
F16F 9/00- 9/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
緩衝器に使用される、ピストンロッドアセンブリであって、
貫通穴と該貫通穴に交差するネジ穴部とが形成されたブラケットと、
一端に前記ネジ穴部に螺合されるオネジ部が形成されたピストンロッドと、
前記ネジ穴部および前記オネジ部の締結範囲において、前記ブラケットから前記ピストンロッドまで形成された挿入穴部と、
該挿入穴部に挿入される挿入部材と、
該挿入部材の抜けを規制する抜け規制手段と、
を有
し、
前記挿入穴部は、
前記貫通穴の内周面と前記ブラケットの前記貫通穴の開口側の端面とにまたがって形成され、
前記抜け規制手段は、
前記貫通穴に挿入されて前記挿入部材の抜けを規制すると共に、緩衝相手部品の取り付けが可能なブシュである、
ピストンロッドアセンブリ。
【請求項2】
緩衝器に使用される、ピストンロッドアセンブリであって、
貫通穴と該貫通穴に交差するネジ穴部とが形成されたブラケットと、
一端に前記ネジ穴部に螺合されるオネジ部が形成されたピストンロッドと、
前記ネジ穴部および前記オネジ部の締結範囲において、前記ブラケットから前記ピストンロッドまで形成された挿入穴部と、
該挿入穴部に挿入される挿入部材と、
該挿入部材の抜けを規制する抜け規制手段と、
を有
し、
前記抜け規制手段は、
前記挿入穴部と前記貫通穴とを連通する連通穴部と、
前記連通穴部に挿入されて前記挿入部材の抜けを規制する抜け規制部材と、
前記貫通穴に挿入されて前記抜け規制部材の抜けを規制すると共に、緩衝相手部品の取り付けが可能なブシュと、
を有する、ピストンロッドアセンブリ。
【請求項3】
請求項1
または2に記載のピストンロッドアセンブリであって、
前記挿入穴部は一端が前記ブラケットの前記貫通穴の開口側の端面に開口し、他端が前記ピストンロッドのオネジ部まで延びる、ピストンロッドアセンブリ。
【請求項4】
緩衝器に使用される、ピストンロッドアセンブリであって、
貫通穴と該貫通穴に交差するネジ穴部とが形成されたブラケットと、
一端に前記ネジ穴部に螺合されるオネジ部が形成されたピストンロッドと、
前記ネジ穴部および前記オネジ部の締結範囲において、前記ブラケットから前記ピストンロッドまで形成された挿入穴部と、
該挿入穴部に挿入される挿入部材と、
該挿入部材の抜けを規制する抜け規制手段と、
を有する、ピストンロッドアセンブリの製造方法であり、
前記ネジ穴部と前記オネジ部とを螺合させた後、前記ネジ穴部および前記オネジ部の締結範囲において、前記ブラケットから前記ピストンロッドまで延びる前記挿入穴部を加工する加工工程と、
前記挿入穴部に前記挿入部材を挿入する挿入工程と、
前記挿入部材を挿入した後、前記抜け規制手段として、前記挿入穴部の開口の周囲より該挿入穴部を塞ぐように張り出して前記挿入部材の抜けを規制する張出部を形成する張出部形成工程と、
を含むピストンロッドアセンブリの製造方法。
【請求項5】
請求項
4に記載のピストンロッドアセンブリの製造方法であって、
前記張出部形成工程では、前記貫通穴にブシュを挿入すると共に前記張出部を形成する、
ピストンロッドアセンブリの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピストンロッドアセンブリ、緩衝器およびピストンロッドアセンブリの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
緩衝器には、取付アイと呼ばれるブラケットをピストンロッドの端部に設けた構造のものがある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、ピストンロッドへのブラケットの取り付け品質を安定させる要望がある。
【0005】
したがって、本発明は、ピストンロッドへのブラケットの取り付け品質を安定させることが可能となるピストンロッドアセンブリ、緩衝器およびピストンロッドアセンブリの製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明に係るピストンロッドアセンブリは、貫通穴と該貫通穴に交差するネジ穴部とが形成されたブラケットと、一端に前記ネジ穴部に螺合されるオネジ部が形成されたピストンロッドと、前記ネジ穴部および前記オネジ部の締結範囲において、前記ブラケットから前記ピストンロッドまで形成された挿入穴部と、該挿入穴部に挿入される挿入部材と、該挿入部材の抜けを規制する抜け規制手段と、を有する、構成とした。
【0007】
また、本発明に係る緩衝器は、そのピストンロッドアセンブリが、貫通穴と該貫通穴に交差するネジ穴部とが形成されたブラケットと、一端に前記ネジ穴部に螺合されるオネジ部が形成されたピストンロッドと、前記ネジ穴部および前記オネジ部の締結範囲において、前記ブラケットから前記ピストンロッドまで形成された挿入穴部と、該挿入穴部に挿入される挿入部材と、該挿入部材の抜けを規制する抜け規制手段と、を有する、構成とした。
【0008】
また、本発明に係るピストンロッドアセンブリの製造方法は、貫通穴と該貫通穴に交差するネジ穴部とが形成されたブラケットと、一端に前記ネジ穴部に螺合されるオネジ部が形成されたピストンロッドと、前記ネジ穴部および前記オネジ部の締結範囲において、前記ブラケットから前記ピストンロッドまで形成された挿入穴部と、該挿入穴部に挿入される挿入部材と、該挿入部材の抜けを規制する抜け規制手段と、を有する、ピストンロッドアセンブリの製造方法であり、前記ネジ穴部と前記オネジ部とを螺合させた後、前記ネジ穴部および前記オネジ部の締結範囲において、前記ブラケットから前記ピストンロッドまで延びる前記挿入穴部を加工する加工工程と、前記挿入穴部に前記挿入部材を挿入する挿入工程と、前記挿入部材を挿入した後、前記抜け規制手段として、前記挿入穴部の開口の周囲より該挿入穴部を塞ぐように張り出して前記挿入部材の抜けを規制する張出部を形成する張出部形成工程と、を含む、構成とした。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ピストンロッドへのブラケットの取り付け品質を安定させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明に係る第1実施形態の緩衝器を示す断面図である。
【
図2】本発明に係る第1実施形態の緩衝器におけるピストンロッド、ブラケットおよび挿入部材を示す要部の分解斜視図である。
【
図3】本発明に係る第1実施形態の緩衝器におけるピストンロッド、ブラケットおよび挿入部材を示す要部の断面図である。
【
図4】本発明に係る第1実施形態の緩衝器におけるピストンロッドアセンブリを示す要部の斜視図である。
【
図5】本発明に係る第2実施形態の緩衝器におけるピストンロッド、ブラケット、挿入部材および抜け規制部材を示す要部の断面図である。
【
図6】本発明に係る第2実施形態の緩衝器におけるピストンロッド、ブラケット、挿入部材および抜け規制部材を示す要部の分解斜視図である。
【
図7】本発明に係る第2実施形態の緩衝器におけるピストンロッドアセンブリを示す要部の斜視図である。
【
図8】本発明に係る第3実施形態の緩衝器におけるピストンロッド、ブラケットおよび挿入部材を示す要部の分解斜視図である。
【
図9】本発明に係る第3実施形態の緩衝器におけるピストンロッド、ブラケットおよび挿入部材を示す抜け規制前の要部の断面図である。
【
図10】本発明に係る第3実施形態の緩衝器におけるピストンロッド、ブラケットおよび挿入部材を示す抜け規制後の要部の断面図である。
【
図11】本発明に係る第4実施形態の緩衝器におけるピストンロッド、ブラケットおよび挿入部材を示す要部の分解斜視図である。
【
図12】本発明に係る第4実施形態の緩衝器におけるピストンロッド、ブラケットおよび挿入部材を示す要部の断面図である。
【
図13】第1参考技術の緩衝器におけるピストンロッドおよびブラケットを示す要部の斜視図である。
【
図14】第2参考技術の緩衝器におけるピストンロッドおよびブラケットを示す要部の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[第1実施形態]
本発明に係る第1実施形態を
図1~
図4を参照して以下に説明する。
【0012】
第1実施形態の緩衝器10は、鉄道車両や自動車のサスペンション装置に用いられる緩衝器である。
図1に示すように、緩衝器10は、作動流体が封入されるシリンダ11を有している。シリンダ11は、円筒状の内筒12と、内筒12よりも大径で内筒12の外側に設けられる有底円筒状の外筒13とで構成されている。内筒12および外筒13の間はリザーバ室14となっている。外筒13は、軸方向一側に底部15を有し軸方向他側が開口部16とされており、開口部16はシリンダ11の開口部となっている。
【0013】
シリンダ11の内筒12内には、ピストン17が摺動可能に挿入されている。このピストン17は、シリンダ11の内筒12内を一側室18と他側室19とに区画している。シリンダ11内には、一側室18および他側室19内に作動流体としての作動液が封入され、リザーバ室14内に作動流体としての作動液およびガスが封入されている。
【0014】
ピストン17にはピストンロッドアセンブリ20が連結されている。ピストンロッドアセンブリ20は、軸方向一側の基端部21がシリンダ11内に挿入されており、軸方向他側の先端部22がシリンダ11の軸方向の一端つまり内筒12および外筒13の軸方向の一端よりも外部に延びている。ピストン17は、ピストンロッドアセンブリ20の基端部21にナット23によって固定されており、ピストンロッドアセンブリ20と一体的に移動する。ピストンロッドアセンブリ20は、このように緩衝器10に使用される部品である。
【0015】
シリンダ11の内側には、ピストンロッドアセンブリ20が突出する側である外筒13の開口部16側に、環状のロッドガイド25と、環状のシール部材26とが配置されている。また、シリンダ11の内側には、外筒13の底部15側にベースバルブ28が設けられている。内筒12内は、ピストン17とロッドガイド25との間が一側室18となっており、ピストン17とベースバルブ28との間が他側室19となっている。
【0016】
ロッドガイド25は、シリンダ11の底部15とは反対側に設けられている。ロッドガイド25は、外筒13に対して内筒12の軸方向の開口部16側の端部を位置決めすると共に、ピストンロッドアセンブリ20を、その径方向の移動を規制しつつ軸方向の移動を案内する。シール部材26は、シリンダ11の一端の開口部16側を閉塞して、内筒12内の作動液およびリザーバ室14内のガスおよび作動液が外部に漏出するのを規制する。
【0017】
ベースバルブ28は、他側室19とリザーバ室14とを仕切ると共に外筒13に対して内筒12の軸方向の底部15側の端部を位置決めするベースボディ31を有している。ベースボディ31には、他側室19とリザーバ室14とを連通可能な液通路32および液通路33が形成されている。ベースボディ31には、径方向内側の液通路32を開閉可能なディスクバルブ35と、径方向外側の液通路33を開閉可能なディスクバルブ36とが、リベット37で取り付けられている。
【0018】
ディスクバルブ35は、液通路32を介する作動液のリザーバ室14から他側室19への流れを規制しつつ他側室19からリザーバ室14への流れを許容する。ディスクバルブ35は、ピストンロッドアセンブリ20がシリンダ11からの延出量を減らす縮み側に移動したときに、他側室19からリザーバ室14へ作動液を流し、その際に減衰力を発生させる減衰弁である。
【0019】
ディスクバルブ36は、液通路33を介する作動液の他側室19からリザーバ室14への流れを規制しつつリザーバ室14から他側室19への流れを許容する。ディスクバルブ36は、ピストンロッドアセンブリ20がシリンダ11からの延出量を増やす伸び側に移動したときに、リザーバ室14から他側室19へ作動液を実質的に減衰力を発生させずに流すサクションバルブである。
【0020】
ピストンロッドアセンブリ20には、内筒12内に挿入される側の基端部21に、上記したピストン17と、その両側のディスクバルブ41,42(減衰弁)とが、ナット23で取り付けられている。ピストン17には、他側室19と一側室18とを連通可能な流路43および流路44が形成されている。ディスクバルブ41は、流路43に設けられて流路43を開閉可能であり、ディスクバルブ42は、流路44に設けられて流路44を開閉可能である。
【0021】
ディスクバルブ41は、流路43を介する作動液の一側室18から他側室19への流れを規制しつつ他側室19から一側室18への流れを許容する。ディスクバルブ41は、ピストンロッドアセンブリ20が縮み側に移動したときに、他側室19から一側室18へ作動液を流し、その際に作動液の流れを制御して減衰力を発生させる減衰弁である。よって、流路43には、ピストンロッドアセンブリ20の縮み側への移動によって作動液の流れが生じる。
【0022】
ディスクバルブ42は、流路44を介する作動液の他側室19から一側室18への流れを規制しつつ一側室18から他側室19への流れを許容する。ディスクバルブ42は、ピストンロッドアセンブリ20が伸び側に移動したときに、一側室18から他側室19へ作動液を流し、その際に作動液の流れを制御して減衰力を発生させる減衰弁である。よって、流路44には、ピストンロッドアセンブリ20の伸び側への移動によって作動液の流れが生じる。
【0023】
緩衝器10は、ピストンロッドアセンブリ20が伸び側に移動することで、これと一体にピストン17が一側室18の容積を減らし他側室19の容積を増やす方向に移動すると、ピストン17に設けられたディスクバルブ42が、流路44を介して一側室18から他側室19へ作動液を流し、その際に減衰力を発生させることになる。このとき、ベースバルブ28のディスクバルブ36が、リザーバ室14から他側室19へ作動液を実質的に減衰力を発生させずに流して、ピストンロッドアセンブリ20がシリンダ11から突出した体積分の作動液を他側室19へ補う。
【0024】
緩衝器10は、ピストンロッドアセンブリ20が縮み側に移動することで、これと一体にピストン17が他側室19の容積を減らし一側室18の容積を増やす方向に移動すると、ピストン17に設けられたディスクバルブ41が、流路43を介して他側室19から一側室18へ作動液を流し、その際に減衰力を発生させることになる。また、このとき、ベースバルブ28のディスクバルブ35が、他側室19からリザーバ室14へ作動液を流し、その際に減衰力を発生させることになる。
【0025】
ピストンロッドアセンブリ20は、軸方向一側がシリンダ11内に挿入され、軸方向他側がシリンダ11の外部に延びる金属製のピストンロッド51を有している。ピストンロッド51のシリンダ11内に配置される側の端部がピストンロッドアセンブリ20の基端部21となっている。ピストンロッド51は、ロッドガイド25およびシール部材26の内側に摺動可能に嵌挿されている。ピストンロッド51には、軸方向の一方の端部にナット23に螺合されるオネジ部52が形成されており、軸方向の他方の端部にもオネジ部53が形成されている。ピストンロッド51に、ピストン17およびディスクバルブ41,42がナット23によって取り付けられている。
【0026】
ピストンロッドアセンブリ20は、ピストンロッド51の一端のオネジ部53に螺合される金属製のブラケット61と、ブラケット61のピストンロッド51に対する回り止めを行う金属製の挿入部材62と、ブラケット61に取り付けられるブシュ63(抜け規制手段)とを有している。これらブラケット61、挿入部材62およびブシュ63が、シリンダ11の外部にあってピストンロッドアセンブリ20の先端部22を構成している。
【0027】
ブラケット61は、一体成形品であり、
図2に示すように、円板状のベース部71と、ベース部71の径方向の中央部から軸方向一側に突出する首部72と、首部72のベース部71とは反対側に設けられた円筒状の筒状部73とを有している。ベース部71と筒状部73とは中心軸線を直交させている。ブラケット61は、いわゆる取付アイである。なお、図示は略すが、ベース部71には、
図1に示すシリンダ11の開口部16側を覆う筒状のカバーが取り付けられる。
【0028】
図3に示すように、ベース部71には、その軸方向における筒状部73とは反対側の径方向の中央部分に筒状部73側に凹む凹部76が形成されている。凹部76の底面77は、ベース部71の中心軸線に垂直に広がる平面となっている。
【0029】
筒状部73には、軸方向に貫通する貫通穴81が径方向の内側に形成されている。貫通穴81の中心軸線は、ベース部71の中心軸線に対し、交差しており、具体的には直交している。筒状部73は、軸方向一側の端面82が平面状であり、内周端面83が円筒面状である。端面82は、内周端面83の中心軸線に対し直交して広がっている。端面82と内周端面83との間には、これらに対して傾斜するテーパ面84が形成されている。内周端面83のテーパ面84とは反対側にもテーパ面85が形成されている。テーパ面84,85は、いずれも内周端面83から軸方向に離れるほど大径となっている。内周端面83とテーパ面84,85とが、筒状部73の内周面86、言い換えれば貫通穴81の内周面86を構成している。
【0030】
ブラケット61には、ベース部71の凹部76の底面77から筒状部73の内周端面83まで延びるネジ穴部91が形成されている。ネジ穴部91は、その中心軸線がベース部71の中心軸線と一致する。よって、ネジ穴部91は、その中心軸線が、筒状部73内の貫通穴81の中心軸線に対し、交差しており、具体的には直交している。ネジ穴部91は、貫通穴81内に開口している。ブラケット61には、そのネジ穴部91にピストンロッド51の一端のオネジ部53が螺合される。その際に、ベース部71の凹部76の底面77が、ピストンロッド51のオネジ部53の首元となる首元面95に当接して、ピストンロッド51にブラケット61が締結される。
【0031】
ブラケット61には、筒状部73のテーパ面84からネジ穴部91の内周面まで延びる第1穴部101が形成されている。第1穴部101は、テーパ面84の第1穴部101が形成される部分に対し垂直に形成されている。第1穴部101は、ネジ穴部91の中心軸線に交差するように形成されている。言い換えれば、第1穴部101は、筒状部73における貫通穴81の開口側の角部から貫通穴81に対し傾斜して交差するように形成されている。
【0032】
第1穴部101は、一端の開口部が、筒状部73の内周端面83からテーパ面84を横断して端面82まで広がっている。言い換えれば、第1穴部101は、貫通穴81の内周面86とブラケット61の貫通穴81の開口側の端面82とにまたがって形成されている。第1穴部101は他端の開口部がネジ穴部91内に開口している。第1穴部101は、ネジ穴部91の中心軸線に対して45度をなすように傾斜しており、貫通穴81の中心軸線に対しても45度をなすように傾斜している。
【0033】
ピストンロッド51には、これに螺合し締結された状態のブラケット61の第1穴部101の延長上に第2穴部102が形成されている。第2穴部102は、ピストンロッド51のオネジ部53の外周面からピストンロッド51内の途中位置まで形成されている。第2穴部102は、オネジ部53の中心軸線に対して傾斜している。第1穴部101と第2穴部102とは、同軸同径であって軸方向に直線状に連続しており、一つの挿入穴部103を構成している。
【0034】
挿入穴部103は、ネジ穴部91とオネジ部53との締結範囲において、ブラケット61からピストンロッド51まで延びて形成されている。挿入穴部103は、ピストンロッド51とブラケット61とを締結した状態で、一本のドリルで一度に穿設されることになり、その結果、第1穴部101と第2穴部102とが同軸同径に形成される。挿入穴部103は、一端がブラケット61の貫通穴81の端面82側に開口し、他端がピストンロッド51のオネジ部53まで延びている。挿入穴部103は、貫通穴81の軸方向において貫通穴81と同じ向きで設けられている。
【0035】
挿入部材62は、金属製の円柱状のピンであり、軸方向の一端部に、中心軸線に直交して広がる平面状の先端面111が形成され、この先端面111の周囲にはテーパ面112が形成されている。テーパ面112は先端面111から軸方向に離れるほど大径となる。挿入部材62は、軸方向の先端面111およびテーパ面112とは反対側の他端部を先頭にして挿入穴部103に圧入により挿入されることになる。
【0036】
挿入部材62は、挿入穴部103に最も挿入された状態で、第1穴部101および第2穴部102の両方に同時に挿入される。これにより、ブラケット61がピストンロッド51に対して回り止めされる。挿入部材62は、挿入穴部103に最も挿入された状態で、その先端面111が、筒状部73のテーパ面84の挿入穴部103が形成された部分と挿入穴部103の軸方向における位置を合わせる。また、挿入部材62は、挿入穴部103に最も挿入された状態で、そのテーパ面112が、貫通穴81の内周端面83の挿入穴部103が形成された部分と貫通穴81の径方向における位置を合わせる。また、挿入部材62は、挿入穴部103に最も挿入された状態で、テーパ面112が、筒状部73の内周端面83からテーパ面84を横断して端面82まで広がっている。言い換えれば、挿入部材62は、貫通穴81の内周面86とブラケット61の貫通穴81の開口側の端面82とにまたがって配置されている。
【0037】
図4に示すように、ブシュ63は、金属製の円筒状の外周部材121と、外周部材121の内周面に固着されたゴム製の筒状の弾性部材122と、弾性部材122の内周面に固着された金属製の軸状の取付部材123とからなっている。外周部材121は軸方向の長さが、ブラケット61の筒状部73の
図3に示す内周端面83の軸方向の長さと同等になっている。
【0038】
ブシュ63は、
図4に示すように、外周部材121がブラケット61の筒状部73の貫通穴81に圧入されて固定されることになる。このとき、ブシュ63は、外周部材121がブラケット61の筒状部73の
図3に示す内周端面83と軸方向の位置を合わせるように圧入される。すなわち、圧入後の外周部材121は、軸方向の一端部が内周端面83の軸方向の一端部と軸方向の位置が合うことになり、軸方向の他端部が内周端面83の軸方向の他端部と軸方向の位置が合うことになる。その結果、外周部材121は、挿入穴部103の内周端面83に開口する部分を挿入穴部103の軸方向における外側で覆う。よって、ブシュ63は、貫通穴81に挿入されると、挿入穴部103からの挿入部材62の抜けを挿入部材62に当接することで規制する。なお、ブシュ63には、取付部材123の弾性部材122から突出する部分に、緩衝を行う対象となる図示略の緩衝相手部品が取り付けられる。すなわち、ブシュ63は、緩衝相手部品の取り付けが可能な部品である。
【0039】
ピストンロッドアセンブリ20は、ブラケット61のネジ穴部91とピストンロッド51のオネジ部53とを螺合させた後、ネジ穴部91およびオネジ部53の締結範囲において、ブラケット61からピストンロッド51まで延びる挿入穴部103を加工する加工工程と、挿入穴部103に挿入部材62を圧入により挿入する挿入工程と、挿入穴部103に挿入部材62を挿入した後、ブシュ63を貫通穴81に圧入して、挿入穴部103を部分的に外周部材121で覆うことにより、挿入穴部103からの挿入部材62の抜けを規制するブシュ圧入工程と、を経て、製造される。
【0040】
上記した特許文献1には、取付アイと呼ばれるブラケットをピストンロッドの端部に設けた構造の緩衝器が開示されている。この種の緩衝器では、ブラケットがピストンロッドとは別体で製造され、ブラケットをピストンロッドに螺合させた後、溶接して回り止めするようになっている。しかしながら、このような構造であると、溶接の熱によりネジの軸力が解放されてしまい、溶接のみで固定している状態になってしまう可能性がある。このような状態を生じることがないように、ピストンロッドへのブラケットの取り付け品質を安定させる要望がある。
【0041】
これに対し、第1実施形態の緩衝器10は、そのピストンロッドアセンブリ20が、貫通穴81とこの貫通穴81に交差するネジ穴部91とが形成されたブラケット61と、一端にネジ穴部91に螺合されるオネジ部53が形成されたピストンロッド51と、ネジ穴部91およびオネジ部53の締結範囲において、ブラケット61からピストンロッド51まで延びて形成された挿入穴部103と、挿入穴部103に挿入される挿入部材62と、挿入部材62の抜けを規制するブシュ63と、を有する。これにより、溶接する必要がなくなるため、ピストンロッド51へのブラケット61の取り付け品質を安定させることができる。また、製造プロセスを安定させることができ、製造コストを低減することができる。
【0042】
また、挿入穴部103が、貫通穴81の内周面86とブラケット61の貫通穴81の開口側の端面82とにまたがって形成されており、貫通穴81に挿入されて緩衝相手部品の取り付けが可能なブシュ63で挿入部材62の抜けを規制するため、挿入部材62の抜けを規制するためだけの部品が不要となる。よって、部品点数の増加を抑制することができる。
【0043】
また、挿入穴部103が、貫通穴81の内周面86とブラケット61の貫通穴81の開口側の端面82とにまたがって形成されているため、ブシュ63を貫通穴81に嵌合させた後でも、挿入穴部103内の挿入部材62の有無を端面82側の部分において外から目視で容易に確認することができる。
【0044】
また、挿入穴部103は、一端がブラケット61の貫通穴81の端面82側に開口し、他端がピストンロッド51のオネジ部53まで延びており、貫通穴81と貫通穴81の軸方向において同じ向きで設けられている。このため、貫通穴81および挿入穴部103の加工が容易となる。
【0045】
[第2実施形態]
次に、本発明に係る第2実施形態を主に
図5~
図7に基づいて第1実施形態との相違部分を中心に説明する。なお、第1実施形態と共通する部位については、同一称呼、同一の符号で表す。
【0046】
第2実施形態では、
図5に示すように、ピストンロッドアセンブリ20Aが、ピストンロッドアセンブリ20とは一部異なっている。ピストンロッドアセンブリ20Aは、ピストンロッド51とは一部異なるピストンロッド51Aと、ブラケット61とは一部異なるブラケット61Aとを有している。
【0047】
ブラケット61Aには、第1穴部101にかえて第1穴部101Aが形成されている。第1穴部101Aは、首部72の外周面から、ベース部71の径方向に沿ってネジ穴部91の内周面まで延びている。第1穴部101Aは、貫通穴81と平行となっている。ブラケット61Aには、貫通穴81の内周端面83から第1穴部101Aまで延びる連通穴部151A(抜け規制手段)が形成されている。連通穴部151Aは、第1穴部101Aと貫通穴81とを連通する。連通穴部151Aは、一端の開口部が、筒状部73の内周端面83の範囲内に開口している。連通穴部151Aは他端の開口部が第1穴部101A内に開口している。連通穴部151Aは、ネジ穴部91と平行であり、第1穴部101Aに直交している。
【0048】
ピストンロッド51Aには、これに螺合し締結された状態のブラケット61Aの第1穴部101Aの延長上に、第2穴部102にかえて第2穴部102Aが形成されている。第2穴部102Aは、オネジ部53の外周面からピストンロッド51A内の途中位置まで形成されている。第2穴部102Aは、オネジ部53の中心軸線に対して垂直をなす。第2穴部102Aは、ネジ穴である。
【0049】
第1穴部101Aと第2穴部102Aとは、同軸であって軸方向に連続しており、一つの挿入穴部103Aを構成している。挿入穴部103Aは、ネジ穴部91およびオネジ部53の締結範囲において、ブラケット61Aからピストンロッド51Aまで延びて形成されている。第1穴部101Aと第2穴部102Aの下穴とが、ピストンロッド51Aとブラケット61Aとを締結した状態で、一本の段付きドリルで一度に穿設されることになり、その後、第2穴部102Aのみにネジ加工がされる。その結果、第1穴部101Aと第2穴部102Aとが同軸に形成される。
【0050】
挿入穴部103Aは、一端がブラケット61Aの貫通穴81の開口側の端面82側に開口し、他端がピストンロッド51Aのオネジ部53まで延びている。挿入穴部103Aは、貫通穴81と貫通穴81の軸方向において同じ向きで設けられている。挿入穴部103Aは、貫通穴81と平行に設けられている。連通穴部151Aは、挿入穴部103Aと貫通穴81とを、これらに直交して連通する。
【0051】
図6に示すように、ピストンロッドアセンブリ20Aは、挿入部材62にかえて円柱状の金属製の挿入部材62Aを有している。挿入部材62Aは、軸方向一端側の外周部にオネジ161Aが形成されており、軸方向の他端側に六角レンチを係合させる係合穴162Aが形成されている。
【0052】
挿入部材62Aは、軸方向のオネジ161A側を先頭にして挿入穴部103Aに挿入されることになり、
図5に示すようにオネジ161Aにおいて第2穴部102Aに螺合される。挿入部材62Aは、第2穴部102Aに最も螺合された状態で、第1穴部101Aおよび第2穴部102Aの両方に同時に挿入される。これにより、ブラケット61Aがピストンロッド51Aに対して回り止めされる。挿入部材62Aは、第2穴部102Aに最も螺合された状態で、その全体が、挿入穴部103Aの連通穴部151Aが開口する位置よりも奥側に配置される。
【0053】
図6に示すように、ピストンロッドアセンブリ20Aは、連通穴部151Aに挿入されて挿入部材62Aの抜けを規制する抜け規制部材166A(抜け規制手段)を有している。抜け規制部材166Aは、金属製のピンであり、
図5に示すように軸方向の一端部が先細のテーパ部167Aとなっている。抜け規制部材166Aは、テーパ部167Aを先頭にして、連通穴部151Aに貫通穴81側から圧入により挿入される。その時に、抜け規制部材166Aは、内周端面83よりも貫通穴81側に突出することがない所定位置まで圧入される。
【0054】
このように連通穴部151Aに圧入された抜け規制部材166Aは、連通穴部151の軸方向の途中位置に停止し、そのテーパ部167A側の一部が、第2穴部102Aに最も螺合された状態の挿入部材62Aに、抜け規制部材166Aの軸方向において位置が重なり合う。これにより、抜け規制部材166Aが挿入部材62Aの抜けを規制する。なお、その時に、抜け規制部材166Aは、第1穴部101Aの径方向において第1穴部101A内に入り込むものの、第1穴部101Aの径方向において第1穴部101Aを横断する状態にはならない。よって、挿入穴部103Aを介して外部から挿入部材62Aおよび抜け規制部材166Aの両方が目視可能となる。
【0055】
その後、
図7に示すように、ブシュ63が、外周部材121においてブラケット61の筒状部73の貫通穴81に圧入されて、第1実施形態と同様に固定されることになる。このとき、ブシュ63の外周部材121が、
図4に示す連通穴部151Aを連通穴部151Aの軸方向における外側で全面的に覆う。よって、ブシュ63が、貫通穴81に挿入されて、連通穴部151Aからの抜け規制部材166Aの抜けを規制する。なお、抜け規制部材166Aは、ブシュ63の外周部材121に軸方向の一端部が当接しても、軸方向の他端部が挿入部材62Aの挿入穴部103Aからの抜けを規制する。また、抜け規制部材166Aは、ブシュ63の外周部材121に軸方向の一端部が当接しても、外部から挿入穴部103Aを介して目視可能となっている。
【0056】
ピストンロッドアセンブリ20Aは、ブラケット61Aのネジ穴部91とピストンロッド51Aのオネジ部53とを螺合させた後、ネジ穴部91およびオネジ部53の締結範囲において、ブラケット61Aからピストンロッド51Aまで延びる挿入穴部103Aを加工する第1加工工程と、ブラケット61Aに貫通穴81と挿入穴部103Aとを連通する連通穴部151Aを形成する第2加工工程と、第1,第2加工工程の後、挿入穴部103Aに挿入部材62Aを挿入する第1挿入工程と、挿入穴部103Aに挿入部材62Aを挿入した後、連通穴部151Aに抜け規制部材166Aを挿入する第2挿入工程と、挿入穴部103Aに挿入部材62Aを挿入し、連通穴部151Aに抜け規制部材166Aを挿入した後、ブシュ63を貫通穴81に圧入して、連通穴部151Aを外周部材121で覆うことにより、連通穴部151Aからの抜け規制部材166Aの抜けを規制し、挿入穴部103Aからの挿入部材62Aの抜けを規制するブシュ圧入工程と、を経て、製造される。第1加工工程と第2加工工程とはいずれを先に行っても良い。
【0057】
以上に述べた第2実施形態によれば、そのピストンロッドアセンブリ20Aが、ネジ穴部91およびオネジ部53の締結範囲においてブラケット61Aからピストンロッド51Aまで延びて形成された挿入穴部103Aと、挿入穴部103Aに挿入される挿入部材62Aと、挿入部材62Aの抜けを規制する、連通穴部151A、抜け規制部材166Aおよびブシュ63と、を有する。これにより、溶接する必要がなくなるため、ピストンロッド51Aへのブラケット61Aの取り付け品質を安定させることができる。また、製造プロセスを安定させることができ、製造コストを低減することができる。
【0058】
また、ピストンロッドアセンブリ20Aは、挿入穴部103Aと貫通穴81とを連通する連通穴部151Aと、連通穴部151Aに挿入されて挿入部材62Aの抜けを規制する抜け規制部材166Aと、貫通穴81に挿入されて抜け規制部材166Aの抜けを規制するブシュ63とによって、挿入部材62Aの抜けを規制する。このため、挿入穴部103Aを首部72の外周面から形成することができることになり、挿入穴部103Aの加工が容易となる。
【0059】
また、挿入穴部103Aは、一端がブラケット61Aの貫通穴81の開口側の端面82側に開口し、他端がピストンロッド51Aのオネジ部53まで延びており、貫通穴81と貫通穴81の軸方向において同じ向きで設けられている。しかも、挿入穴部103Aは、貫通穴81と平行に設けられている。このため、貫通穴81および挿入穴部103Aの加工がさらに容易となる。
【0060】
なお、抜け規制部材166Aおよび挿入部材62Aが適正に配置されていれば、これらの両方が、外部から挿入穴部103Aを介して目視可能である。よって、ブシュ63で連通穴部151Aを覆った後でも、抜け規制部材166Aおよび挿入部材62Aの挿入の有無を挿入穴部103Aを介して目視で容易に確認することができる。
【0061】
[第3実施形態]
次に、本発明に係る第3施形態を主に
図8~
図10に基づいて第1実施形態との相違部分を中心に説明する。なお、第1実施形態と共通する部位については、同一称呼、同一の符号で表す。
【0062】
第3実施形態では、
図8に示すように、ピストンロッドアセンブリ20Bが、ピストンロッドアセンブリ20とは一部異なっている。ピストンロッドアセンブリ20Bは、ピストンロッド51とは一部異なるピストンロッド51Bと、ブラケット61とは一部異なるブラケット61Bとを有している。
【0063】
ピストンロッド51Bに固定される前の状態で、ブラケット61Bには、
図8,
図9に示すように、首部72の外周面からベース部71の径方向における外方に突出する突起部181Bが形成されている。突起部181Bも、ベース部71、首部72および筒状部73と一体に成形されている。
【0064】
図9に示すように、ピストンロッド51Bに固定される前のブラケット61Bには、第1穴部101にかえて第1穴部101Bが形成されている。第1穴部101Bは、ベース部71の径方向に沿って、突起部181Bの先端からネジ穴部91の内周面まで延びている。第1穴部101Bは、貫通穴81と平行をなしている。
【0065】
ピストンロッド51Bには、これに螺合し締結された状態のブラケット61Bの第1穴部101Bの延長上に、第2穴部102にかえて第2穴部102Bが形成されている。第2穴部102Bは、オネジ部53の外周面からピストンロッド51B内の途中位置まで形成されている。第2穴部102Bは、オネジ部53の中心軸線に対して垂直をなす。
【0066】
第1穴部101Bと第2穴部102Bとは、同軸同径であって軸方向に連続しており、一つの挿入穴部103Bを構成している。挿入穴部103Bは、ネジ穴部91およびオネジ部53の締結範囲において、ブラケット61Bからピストンロッド51Bまで延びて形成されている。挿入穴部103Bは、ピストンロッド51Bとブラケット61Bとを締結した状態で、一本のドリルで一度に穿設されることになり、その結果、第1穴部101Bと第2穴部102Bとが同軸同径に形成される。
【0067】
挿入穴部103Bは、一端がブラケット61Bの貫通穴81の開口側の端面82側に開口し、他端がピストンロッド51Bのオネジ部53まで延びており、貫通穴81と貫通穴81の軸方向において同じ向きで設けられている。挿入穴部103Bは、貫通穴81と平行に設けられている。
【0068】
図8に示すように、ピストンロッドアセンブリ20Bは、挿入部材62にかえて円柱状の金属製のピンである挿入部材62Bを有している。挿入部材62Bは、挿入穴部103Bに挿入されることになり、挿入穴部103Bに最も挿入された状態で、
図9に示すように第1穴部101Bおよび第2穴部102Bの両方に同時に挿入される。これにより、ブラケット61Bがピストンロッド51Bに対して回り止めされる。挿入部材62Bは、挿入穴部103Bに最も挿入された状態で、挿入穴部103B内の突起部181Bよりも奥側に全体が位置する。
【0069】
ピストンロッドアセンブリ20Bは、ブラケット61Bのネジ穴部91とピストンロッド51Bのオネジ部53とを螺合させた後、ネジ穴部91およびオネジ部53の締結範囲において、ブラケット61Bからピストンロッド51Bまで延びる挿入穴部103Bを加工する加工工程と、挿入穴部103Bに挿入部材62Bを挿入する挿入工程と、挿入穴部103Bに挿入部材62Bを挿入した後、挿入穴部103Bの開口の周囲の突起部181Bをベース部71の径方向の内方に加締めて、
図10に示すように、挿入穴部103Bを塞ぐように張り出して挿入部材62Bの抜けを規制する張出部181BB(抜け規制手段)を塑性変形により形成する張出部形成工程と、を経て、製造される。
【0070】
なお、挿入穴部103Bと貫通穴81とは平行であるため、ここでは、張出部形成工程において、ブシュ63を貫通穴81に圧入する圧入治具で、ブシュ63の貫通穴81への挿入と同時に突起部181Bを潰して張出部181BBを形成する。すなわち、圧入治具のワンストロークでブシュ63の貫通穴81への圧入と張出部181BBの形成とを行う。
【0071】
このように、ピストンロッドアセンブリ20Bは、挿入穴部103Bの開口の周囲よりこの挿入穴部103Bを塞ぐように張り出して挿入部材62Bの抜けを規制する張出部181BBを有する。
【0072】
以上に述べた第3実施形態によれば、そのピストンロッドアセンブリ20Bが、ネジ穴部91およびオネジ部53の締結範囲において、ブラケット61Bからピストンロッド51Bまで延びて形成された挿入穴部103Bと、挿入穴部103Bに挿入される挿入部材62Bと、加締めにより形成されて挿入部材62Bの抜けを規制する張出部181BBと、を有する。これにより、溶接する必要がなくなるため、ピストンロッド51Bへのブラケット61Bの取り付け品質を安定させることができる。また、製造プロセスを安定させることができ、製造コストを低減することができる。
【0073】
また、ピストンロッドアセンブリ20Bは、挿入穴部103Bの開口の周囲より挿入穴部103Bを塞ぐように張り出して挿入部材62Bの抜けを規制する張出部181BBを加締めにより形成するため、部品点数の増加を抑制することができる。
【0074】
また、ネジ穴部91とオネジ部53とを螺合させた後、ネジ穴部91およびオネジ部53の締結範囲において、ブラケット61Bからピストンロッド51Bまで延びる挿入穴部103Bを加工する加工工程と、挿入穴部103Bに挿入部材62Bを挿入する挿入工程と、挿入部材62Bを挿入した後、挿入穴部103Bの開口の周囲より挿入穴部103Bを塞ぐように張り出して挿入部材62Bの抜けを規制する張出部181BBを塑性変形により形成する張出部形成工程と、を含む。このため、容易に張出部181BBを形成して挿入部材62Bの抜けを規制することができる。
【0075】
また、張出部形成工程において、ブシュ63を貫通穴81に挿入すると共に張出部181BBを形成するため、さらに容易に張出部181BBを形成して挿入部材62Bの抜けを規制することができる。
【0076】
なお、張出部181BBが挿入穴部103Bを完全に塞がない大きさとなるように突起部181Bの大きさおよび突起部181Bの加締めのストロークが設定されている。これにより、張出部181BBを形成した後でも、挿入部材62Bの挿入の有無を外部から挿入穴部103Bを介して目視で容易に確認することができる。
【0077】
[第4実施形態]
次に、本発明に係る第4施形態を主に
図11および
図12に基づいて第1実施形態との相違部分を中心に説明する。なお、第1実施形態と共通する部位については、同一称呼、同一の符号で表す。
【0078】
図11に示すように、第4実施形態では、ピストンロッドアセンブリ20Cが、ピストンロッドアセンブリ20とは一部異なっている。ピストンロッドアセンブリ20Cは、ピストンロッド51とは一部異なるピストンロッド51Cと、ブラケット61とは一部異なるブラケット61Cとを有している。
【0079】
ブラケット61Cには、第1穴部101にかえて、ネジ穴部91の軸方向に延びる第1キー溝101Cがネジ穴部91に形成されている。第1キー溝101Cは半円筒面状をなしてネジ穴部91の内周面からネジ穴部91の径方向外方に凹んでいる。第1キー溝101Cは貫通穴81の中心軸線に対し垂直に延びている。
図12に示すように、ブラケット61Cには、ベース部71の径方向に沿って、首部72の外周面から第1キー溝101Cまで延びる検査穴191Cが形成されている。検査穴191Cは、貫通穴81と平行をなしており、第1キー溝101Cと直交している。
【0080】
図11に示すように、ピストンロッド51Cには、第2穴部102にかえて、オネジ部53の軸方向に延びる第2キー溝102Cがオネジ部53に形成されている。第2キー溝102Cは半円筒面状をなしてオネジ部53の外周面からオネジ部53の径方向内方に凹んでいる。
【0081】
図12に示すように、第1キー溝101Cと第2キー溝102Cとは、ピストンロッド51Cとブラケット61Cとが螺合し締結された状態で、ネジ穴部91およびオネジ部53の周方向の位置を合わせており、この状態で、一つの挿入穴部103Cを構成している。挿入穴部103Cは、ネジ穴部91およびオネジ部53の締結範囲において、ブラケット61Cからピストンロッド51Cまで形成されている。検査穴191Cは、軸方向の一端が外部に開口し軸方向の他端が挿入穴部103Cの軸方向の奥側に開口している。
【0082】
挿入穴部103Cは、ピストンロッド51Cとブラケット61Cとを締結した状態で、一本のドリルで一度に穿設されることになり、その結果、第1キー溝101Cと第2キー溝102Cとが同時に形成される。挿入穴部103Cは、一端がブラケット61Cの貫通穴81の内周端面83の範囲内に開口しており、貫通穴81の中心軸線に対し垂直に設けられている。
【0083】
図11に示すように、ピストンロッドアセンブリ20Cは、挿入部材62にかえて円柱状の金属製のキーである挿入部材62Cを有している。
図12に示すように、挿入部材62Cは、挿入穴部103Cに貫通穴81側から圧入により挿入されることになり、挿入穴部103Cに挿入された状態で、第1キー溝101Cと第2キー溝102Cとの両方に同時に入り込む。これにより、ブラケット61Cがピストンロッド51Cに対して回り止めされる。挿入部材62Cは、挿入穴部103Cに最も挿入された状態で、貫通穴81の内周端面83よりも径方向内方に突出しないように挿入穴部103C内に配置される。
【0084】
ピストンロッドアセンブリ20Cは、ブラケット61Cのネジ穴部91とピストンロッド51Cのオネジ部53とを螺合させた後、ネジ穴部91およびオネジ部53の締結範囲において、ブラケット61Cからピストンロッド51Cまでの挿入穴部103Cを加工する加工工程と、挿入穴部103Cに挿入部材62Cを挿入する挿入工程と、挿入穴部103Cに挿入部材62Cを挿入した後、ブシュ63を貫通穴81に圧入して、挿入穴部103Cを外周部材121で覆うことにより、挿入穴部103Cからの挿入部材62Cの抜けを規制するブシュ圧入工程と、を経て、製造される。
【0085】
以上に述べた第4実施形態によれば、ピストンロッドアセンブリ20Cは、ブラケット61Cのネジ穴部91とピストンロッド51Cのオネジ部53との締結範囲において、ブラケット61Cからピストンロッド51Cまで形成された挿入穴部103Cと、挿入穴部103Cに挿入される挿入部材62Cと、挿入部材62Cの抜けを規制するブシュ63と、を有する。これにより、溶接する必要がなくなるため、ピストンロッド51Cへのブラケット61Cの取り付け品質を安定させることができる。また、製造プロセスを安定させることができ、製造コストを低減することができる。
【0086】
ピストンロッドアセンブリ20Cは、軸方向の一端が外部に開口し軸方向の他端が挿入穴部103C内に開口する検査穴191Cを有しているため、ブシュ63で挿入穴部103Cを覆った後でも、挿入部材62Cの挿入穴部103Cへの挿入の有無を検査穴191Cを介して目視で容易に確認することができる。
【0087】
[第1参考技術]
なお、参考技術ではあるが、第1参考技術として、
図13に示すように、第1穴部101のないブラケット61Dと、第2穴部102のないピストンロッド51Dとを、ネジ穴部91およびオネジ部53を螺合させて締結し、この状態で、ネジ穴部91およびオネジ部53の貫通穴81側の適宜の加締め位置201を貫通穴81側から加締めて塑性変形させることにより、ブラケット61Dのピストンロッド51Dに対する回り止めを行うことも可能である。この場合、オネジ部53およびネジ穴部91の周方向に等間隔で複数の加締め位置201を加締めて塑性変形させることが可能である。なお、加締め部分が内周端面83よりも径方向内方に突出しないようにする。例えば、2箇所を加締める場合、2箇所を結んだ線がピストンロッド51Dの中心軸線と同一平面に配置されるようにし、この平面が貫通穴81の中心軸線に対して直交するようにする。
【0088】
[第2参考技術]
また、第2参考技術として、
図14に示すように、第1穴部101のないブラケット61Eと、第2穴部102がなく軸方向のオネジ部53側の端部に軸方向に凹む穴211を有するピストンロッド51Eとを、オネジ部53およびネジ穴部91を螺合させて締結し、この状態で、ピストンロッド51Eの穴211にボールあるいは丸棒等の部材を貫通穴81側から挿入しつつ圧力を加えて穴211の周囲を径方向外方に塑性変形させるフレア加工を行う。これによってオネジ部53を塑性変形させて、ブラケット61Eのピストンロッド51Eに対する回り止めを行うことも可能である。この場合も、塑性変形部分が内周端面83よりも径方向内方に突出しないようにする。
【0089】
以上に述べた実施形態の第1の態様のピストンロッドアセンブリは、緩衝器に使用される、ピストンロッドアセンブリであって、貫通穴と該貫通穴に交差するネジ穴部とが形成されたブラケットと、一端に前記ネジ穴部に螺合されるオネジ部が形成されたピストンロッドと、前記ネジ穴部および前記オネジ部の締結範囲において、前記ブラケットから前記ピストンロッドまで形成された挿入穴部と、該挿入穴部に挿入される挿入部材と、該挿入部材の抜けを規制する抜け規制手段と、を有する。これにより、ピストンロッドへのブラケットの取り付け品質を安定させることが可能となる。
【0090】
第2の態様のピストンロッドアセンブリは、第1の態様において、前記挿入穴部は、前記貫通穴の内周面と前記ブラケットの前記貫通穴の開口側の端面とにまたがって形成され、前記抜け規制手段は、前記貫通穴に挿入されて前記挿入部材の抜けを規制すると共に、緩衝相手部品の取り付けが可能なブシュである。
【0091】
第3の態様のピストンロッドアセンブリは、第1の態様において、前記抜け規制手段は、前記挿入穴部と前記貫通穴とを連通する連通穴部と、前記連通穴部に挿入されて前記挿入部材の抜けを規制する抜け規制部材と、前記貫通穴に挿入されて前記抜け規制部材の抜けを規制すると共に、緩衝相手部品の取り付けが可能なブシュと、を有する。
【0092】
第4の態様のピストンロッドアセンブリは、第1の態様において、前記抜け規制手段は、前記挿入穴部の開口の周囲より該挿入穴部を塞ぐように張り出して前記挿入部材の抜けを規制する張出部を有する。
【0093】
第5の態様のピストンロッドアセンブリは、第1乃至第4のいずれか一態様において、前記挿入穴部は一端が前記ブラケットの前記貫通穴の開口側の端面に開口し、他端が前記ピストンロッドのオネジ部まで延びる。
【0094】
第6の態様の緩衝器は、作動流体が封入されるシリンダと、前記シリンダ内に挿入されて前記シリンダ内を一側室と他側室とに区画するピストンと、前記ピストンに連結されて前記シリンダの外部へ延びるピストンロッドアセンブリと、前記ピストンロッドアセンブリの移動によって前記作動流体の流れが生じる流路と、前記流路に設けられ、前記作動流体の流れを制御し、減衰力を発生させる減衰弁と、を有し、前記ピストンロッドアセンブリは、貫通穴と該貫通穴に交差するネジ穴部とが形成されたブラケットと、一端に前記ネジ穴部に螺合されるオネジ部が形成されたピストンロッドと、前記ネジ穴部および前記オネジ部の締結範囲において、前記ブラケットから前記ピストンロッドまで形成された挿入穴部と、該挿入穴部に挿入される挿入部材と、該挿入部材の抜けを規制する抜け規制手段と、を有する。これにより、ピストンロッドへのブラケットの取り付け品質を安定させることが可能となる。
【0095】
第7の態様のピストンロッドアセンブリの製造方法は、緩衝器に使用される、ピストンロッドアセンブリであって、貫通穴と該貫通穴に交差するネジ穴部とが形成されたブラケットと、一端に前記ネジ穴部に螺合されるオネジ部が形成されたピストンロッドと、前記ネジ穴部および前記オネジ部の締結範囲において、前記ブラケットから前記ピストンロッドまで形成された挿入穴部と、該挿入穴部に挿入される挿入部材と、該挿入部材の抜けを規制する抜け規制手段と、を有する、ピストンロッドアセンブリの製造方法であり、前記ネジ穴部と前記オネジ部とを螺合させた後、前記ネジ穴部および前記オネジ部の締結範囲において、前記ブラケットから前記ピストンロッドまで延びる前記挿入穴部を加工する加工工程と、前記挿入穴部に前記挿入部材を挿入する挿入工程と、前記挿入部材を挿入した後、前記抜け規制手段として、前記挿入穴部の開口の周囲より該挿入穴部を塞ぐように張り出して前記挿入部材の抜けを規制する張出部を(塑性変形により)形成する張出部形成工程と、を含む。これにより、ピストンロッドへのブラケットの取り付け品質を安定させることが可能となる。
【0096】
第8の態様のピストンロッドアセンブリの製造方法は、第7の態様において、前記張出部形成工程では、前記貫通穴にブシュを挿入すると共に前記張出部を形成する。
【符号の説明】
【0097】
10 緩衝器
11 シリンダ
17 ピストン
18 一側室
19 他側室
20,20A~20C ピストンロッドアセンブリ
41,42 ディスクバルブ(減衰弁)
43,44 流路
51,51A~51C ピストンロッド
53 オネジ部
61,61A~61C ブラケット
62,62A~62C 挿入部材
63 ブシュ(抜け規制手段)
81 貫通穴
91 ネジ穴部
103,103A~103C 挿入穴部
151A 連通穴部(抜け規制手段)
166A 抜け規制部材(抜け規制手段)
181BB 張出部(抜け規制手段)