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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-02
(45)【発行日】2023-11-13
(54)【発明の名称】構造物管理方法及び構造物管理装置
(51)【国際特許分類】
   E02D 23/14 20060101AFI20231106BHJP
【FI】
E02D23/14
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020131041
(22)【出願日】2020-07-31
(65)【公開番号】P2022027194
(43)【公開日】2022-02-10
【審査請求日】2022-12-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100122781
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 寛
(74)【代理人】
【識別番号】100182006
【弁理士】
【氏名又は名称】湯本 譲司
(72)【発明者】
【氏名】今井 道男
(72)【発明者】
【氏名】新井 崇裕
(72)【発明者】
【氏名】杜若 善彦
(72)【発明者】
【氏名】平 陽兵
(72)【発明者】
【氏名】泉 宙希
(72)【発明者】
【氏名】山元 太
(72)【発明者】
【氏名】森 悠晋
【審査官】柿原 巧弥
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-141229(JP,A)
【文献】特開2009-063357(JP,A)
【文献】特開2009-020016(JP,A)
【文献】特開2008-025225(JP,A)
【文献】特開昭58-106021(JP,A)
【文献】特開2017-210754(JP,A)
【文献】米国特許第07921573(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 23/14
E02D 23/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブロックを段階的に構築することによって複数の前記ブロックを含む構造物を構築するときに用いられる構造物管理方法であって、
歪みを検出する光ファイバを用意する工程と、
前記ブロックを構築する工程と、
構築された前記ブロックに、余長を残しつつ前記光ファイバを設置する工程と、
構築された前記ブロックの歪みを前記光ファイバによって検出する工程と、
を備え、
前記ブロックを構築する工程、余長を残しつつ前記光ファイバを設置する工程、及び前記ブロックの歪みを前記光ファイバによって検出する工程、を繰り返しながら前記構造物を構築し、
前記ブロックは鉄筋コンクリートブロックであり、構造物は鉄筋コンクリート構造物であり、
前記構造物は、前記鉄筋コンクリートブロックを含むケーソンである、
構造物管理方法。
【請求項2】
前記ブロックの歪みを前記光ファイバによって検出する工程では、レイリー計測によって前記ブロックの歪みを検出する、
請求項1に記載の構造物管理方法。
【請求項3】
検出された前記歪みから前記ケーソンの外周面における摩擦力が生じている箇所を特定する工程と、
前記摩擦力が生じている箇所に滑材を注入する工程と、
を備える請求項1または請求項2に記載の構造物管理方法。
【請求項4】
ブロックを段階的に構築することによって複数の前記ブロックを含む構造物を構築するときに用いられる構造物管理装置であって、
歪みを検出する光ファイバを備え、
前記光ファイバは、前記ブロックが構築されるごとに構築された前記ブロックに余長を残しつつ設置され、
複数の前記ブロックのそれぞれに設置された前記光ファイバが歪みの検出を行い、
前記ブロックは鉄筋コンクリートブロックであり、構造物は鉄筋コンクリート構造物であり、
前記構造物は、前記鉄筋コンクリートブロックを含むケーソンである、
構造物管理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ブロック施工によって施工される構造物の構造物管理方法及び構造物管理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から施工途中の構造物を管理する構造物管理方法及び構造物管理装置としては種々のものが知られている。特開2017-210754号公報には、ケーソン躯体の沈設装置及び沈設方法が記載されている。ケーソン躯体の沈設方法では、ケーソン躯体の周面摩擦を制御して、ケーソン躯体の傾き調整及び沈設を行う。
【0003】
ケーソン躯体の沈設装置は、ケーソン躯体の周方向及び鉛直方向に沿って並ぶように配置される複数の噴射ノズルと、複数の噴射ノズルのいずれかの近傍に配置された複数の周面摩擦計と、ケーソン躯体の周面に形成された緩み領域を計測する緩み領域計測手段とを備える。
【0004】
各周面摩擦計は、ケーソン躯体の外周面における摩擦力を計測する。そして、高い摩擦力を計測した周面摩擦計の近傍の吐出口から液体を注入することにより、ケーソン躯体の沈設を促進すると共に当該ケーソン躯体の傾斜を修正する。ケーソン躯体の周方向及び鉛直方向に沿って複数の緩み領域計測手段が並ぶように配置されている。ケーソン躯体は、鉛直方向に沿って並ぶ複数のブロックを有し、複数のブロックのそれぞれに吐出口、周面摩擦計、又は緩み領域計測手段が配置されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-210754号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述した沈設装置及び沈設方法では、ケーソン躯体の複数のブロックのそれぞれに複数の噴射ノズル、周面摩擦計、又は緩み領域計測手段が配置されるので、大量の設備が必要であり、装置構成が複雑であるという問題がある。また、周面摩擦計等の計測器は、当該計測器が配置された箇所の計測しかできないため、複数のブロックの広い箇所(例えば全体等)の挙動を把握するためには、多くの計測器を配置しなければならない。従って、複数のブロックの広い範囲を計測するためには、多くの計測器を多くの箇所に配置しなければならず、設置作業が煩雑であるという問題もある。
【0007】
本開示は、複数のブロックの広い箇所の挙動を把握できると共に、設置作業を容易に行うことができる構造物管理方法及び構造物管理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示に係る構造物管理方法は、ブロックを段階的に構築することによって複数のブロックを含む構造物を構築するときに用いられる構造物管理方法であって、歪みを検出する光ファイバを用意する工程と、ブロックを構築する工程と、構築されたブロックに、余長を残しつつ光ファイバを設置する工程と、構築されたブロックの歪みを光ファイバによって検出する工程と、を備え、ブロックを構築する工程、余長を残しつつ光ファイバを設置する工程、及びブロックの歪みを光ファイバによって検出する工程、を繰り返しながら構造物を構築し、ブロックは鉄筋コンクリートブロックであり、構造物は鉄筋コンクリート構造物であり、構造物は、鉄筋コンクリートブロックを含むケーソンである
【0009】
この構造物管理方法では、光ファイバを複数のブロックのそれぞれに設置し、設置した光ファイバによって複数のブロックの歪みを検出する。よって、線状の光ファイバを複数のブロックにわたって設置することにより、少ない本数の光ファイバでより広い箇所の歪みを検出することができる。従って、複数のブロックのそれぞれの構築を行いながら複数のブロックのそれぞれに光ファイバを設置して歪みの計測を行うことができるので、複数のブロックの広い箇所の挙動を少ない本数の光ファイバによって把握することができる。また、この構造物管理方法では、構築されたブロックに余長を残しつつ光ファイバを設置し、ブロックの構築、ブロックへの光ファイバの設置、及び光ファイバによるブロックの歪みの検出を繰り返しながら構造物を構築する。よって、ブロックの構築ごとに余長を残しつつ当該ブロックに対して光ファイバの設置を行い、ブロックの構築と光ファイバの設置とを繰り返しながら構造物の構築を行うことが可能となる。光ファイバの設置は、ブロックに1本の光ファイバを余長を残しつつ固定すればよいので、光ファイバの接続の必要がなく容易に行うことができる。従って、少ない本数の光ファイバをブロックの構築と共に行うことができるので、設置作業を容易に行うことができると共に広い範囲の歪みを効率よく検出できる。
【0010】
ブロックの歪みを光ファイバによって検出する工程では、レイリー計測によってブロックの歪みを検出してもよい。レイリー計測では、光ファイバを伝搬する光におけるレイリー後方散乱光を検出することによってブロックの歪みを計測する。レイリー後方散乱光の光強度は、入力した計測光の光強度よりも弱くなる。従って、この光強度の変化を検出することにより、光ファイバに生じた歪みの大きさを得ることができる。よって、レイリー後方散乱光を用いたレイリー計測は、精度がよく、光のロスに強いという利点がある。
【0011】
ロックごとに徐々に構築される鉄筋コンクリート構造物に対し、広範囲の箇所を容易に歪み計測できる。
【0012】
えばニューマチックケーソン工法によってブロックごとに徐々に構築されていくケーソンに対し、構築されたブロックごとに1本の光ファイバを設置することが可能となる。従って、ケーソンの複数のブロックのそれぞれに生じる歪みを1本の光ファイバによって計測することが可能となる。よって、ケーソンの広範囲の箇所を少ない本数の光ファイバによって容易に歪み計測することができる。
【0013】
前述した構造物管理方法は、検出された歪みからケーソンの外周面における摩擦力が生じている箇所を特定する工程と、摩擦力が生じている箇所に滑材を注入する工程と、を備えてもよい。この場合、歪みからケーソンの外周面における摩擦力を計測して摩擦力が生じている箇所を特定することが可能となる。摩擦力の集中箇所の特定を行うことにより、ケーソンの品質が劣化する前に必要な対応をとることができる。すなわち、摩擦力が生じている箇所に滑材が注入されるので、必要な箇所に必要なだけの滑材を注入することができる。従って、滑材を効率よくピンポイントで且つ速やかに注入することができるので、高品質のケーソンを効率よく構築することができる。また、急激な沈設による周辺への影響を低減させることができる。
【0014】
本開示に係る構造物管理装置は、ブロックを段階的に構築することによって複数のブロックを含む構造物を構築するときに用いられる構造物管理装置であって、歪みを検出する光ファイバを備え、光ファイバは、ブロックが構築されるごとに構築されたブロックに余長を残しつつ設置され、複数のブロックのそれぞれに設置された光ファイバが歪みの検出を行い、ブロックは鉄筋コンクリートブロックであり、構造物は鉄筋コンクリート構造物であり、構造物は、鉄筋コンクリートブロックを含むケーソンである
【0015】
この構造物管理装置では、光ファイバが複数のブロックのそれぞれに設置され、光ファイバによって複数のブロックの歪みが検出される。線状の光ファイバを余長を残しつつ複数のブロックにわたって設置することにより、少ない本数の光ファイバでより広範囲の箇所の歪みを検出することができる。よって、複数のブロックのそれぞれの構築を行いながら各ブロックに光ファイバを設置して歪み計測を行うことができるので、複数のブロックの広い箇所の挙動を少ない本数の光ファイバによって把握することが可能となる。この構造物管理装置では、光ファイバは、余長が残されながら複数のブロックのそれぞれに設置されていき、且つ歪みの計測を行う。従って、前述した構造物管理方法と同様、ブロックの構築、ブロックへの光ファイバの設置、及び光ファイバによるブロックの歪みの検出を繰り返しながら構造物の構築を行うことが可能となるので、ブロックの構築を行いながら光ファイバの設置を容易に行うことができる。すなわち、光ファイバの設置は、1本の光ファイバを余長を残しつつブロックに固定すればよいので、容易に行うことができる。よって、少ない本数の光ファイバをブロックの構築と共に行うことができるので、設置作業を容易に行うことができると共に広範囲における歪みを効率よく検出することができる。更に、検出した歪みを評価することにより、滑材の効率的な注入、躯体の品質確保、及び、急激な沈設による周辺影響の低減、を実現させることができる。
【発明の効果】
【0016】
本開示によれば、複数のブロックの広い箇所の挙動を把握できると共に、設置作業を容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】一実施形態に係る構造物を示す例示的なケーソンを示す縦断面図である。
図2】(a)は、正常なケーソンの状態を模式的に示す縦断面図である。(b)は、ケーソンの外周面に高い摩擦力が作用している状態を模式的に示す縦断面図である。(c)は、ケーソンの外周面に高い摩擦力が作用した結果ケーソンにひびが入った状態を模式的に示す縦断面図である。
図3図1のケーソン及び構造物管理装置の構成を模式的に示す平面図である。
図4図3のケーソン、及び構造物管理装置の光ファイバの配置を模式的に示す斜視図である。
図5】(a)は、例示的な光ファイバの断面図である。(b)は、光ファイバの表面を模式的に示す図である。(c)は、変形例に係る光ファイバの断面図である。
図6】温度補正用の光ファイバの態様を模式的に示す斜視図である。
図7図3の構造物管理装置のシミュレーション結果の例を示すグラフである。
図8図3の構造物管理装置のシミュレーション結果の例を示すグラフである。
図9図3の構造物管理装置のシミュレーション結果の例を示すグラフである。
図10図3の構造物管理装置のシミュレーション結果の例を示すグラフである。
図11】(a)、(b)及び(c)は、一実施形態に係る構造物管理方法の各手順を模式的に示す縦断面図である。
図12】一実施形態に係る構造物管理方法の工程の例を示すフロー図である。
図13】(a)、(b)及び(c)は、別の形態に係る構造物管理方法の各手順を模式的に示す縦断面図である。
図14】別の形態に係る構造物管理方法の工程の例を示すフロー図である。
図15】(a)及び(b)のそれぞれは、別の形態に係る光ファイバの設置例を示す平面図及び縦断面図である。
図16】(a)及び(b)のそれぞれは、更に別の形態に係る光ファイバの設置例を示す平面図及び縦断面図である。
図17】(a)、(b)、(c)及び(d)は、別の形態に係る構造物を構築するときにおける構造物管理方法の手順を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下では、図面を参照しながら本開示に係る構造物管理装置及び構造物管理方法の実施形態について説明する。図面の説明において同一又は相当する要素には同一の符号を付し,重複する説明を適宜省略する。また、図面は、理解の容易のため、一部を簡略化又は誇張して描いている場合があり、寸法比率等は図面に記載のものに限定されない。
【0019】
図1は、構造物の一例であるケーソン1及び構造物管理装置10を模式的に示す縦断面図である。ケーソン1は、ニューマチックケーソンであり、ケーソン躯体2を備える。ケーソン躯体2は、下端に刃口3bを有する側壁3を有する。ケーソン1は、ニューマチックケーソン工法によって構築される。構造物管理装置10は、例えば、側壁3の内周面3d(表面)に設置される複数の光ファイバ11と、側壁3の外周面3cに滑材を注入する滑材注入装置15とを備える。
【0020】
ニューマチックケーソン工法では、地表Gで鉄筋コンクリート製の躯体であるブロック5を構築し、例えば、最下部のブロック5の下部に作業室4を設ける。作業室4に地下水圧に相当する圧縮空気を送り込むことによって作業室4への地下水の浸入を防いでいる。作業室4の内部で掘削及び排土を行ってケーソン躯体2を沈下させ、ケーソン躯体2を、橋梁等の建築物の基礎、下水ポンプ場、地下調整池、シールドトンネルの立杭、又は、道路のトンネルT等の構造物として用いる。
【0021】
例えば、ケーソン1の構築は、7ロットに分割して行われる。具体的には、1ロット目でケーソン躯体2の底壁6を含むブロック5が構築され、2ロット目で底壁6の上のブロック5が構築される。ロットごとのブロック5の高さは、一例として、4m以上且つ5m以下であるが、適宜変更可能である。そして、3ロット目以降では、ブロック5の上に順次ブロック5がロット毎に構築され、7ロット目で最上部のブロック5が構築される。しかしながら、ロットの数は、7に限られず、6以下又は8以上であってもよく適宜変更可能である。
【0022】
図2(a)、図2(b)及び図2(c)は、ケーソン躯体2の側壁3とケーソン躯体2の周辺の地盤Bとを模式的に示す縦断面図である。図2(a)に示されるように、側壁3の外周面3cと地盤Bとの間に働く摩擦力(周面摩擦力)が小さい場合には、ケーソン躯体2の刃口3bが地盤Bに沈み込む。このとき、作業室4の内部の土砂(地盤B)を掘削することによって沈下力でケーソン躯体2が地盤Bに沈み込み、ケーソン躯体2には全体に圧縮力が作用する状態となる。
【0023】
一方、側壁3の外周面3cと地盤Bとの間に働く摩擦力が高くなると、図2(b)に示されるように、ケーソン躯体2の刃口3bが地盤Bに十分に沈み込まなくなる。外周面3cに摩擦力が働くと当該摩擦力が上向きの抵抗力となるため、ケーソン躯体2が傾こうとしたり、沈まなくなったりする場合がある。
【0024】
このとき、摩擦力の作用位置と大きさに応じてケーソン躯体2に引張力が作用することがある。また、ケーソン躯体2の外周面3cに作用する摩擦力により、ケーソン躯体2が傾こうとしたり、地盤Bに沈まなくなることがあるため、ケーソン躯体2の沈設作業時にはケーソン躯体2の姿勢を把握しながら沈設の精度を確保する必要がある。
【0025】
また、側壁3の外周面3cと地盤Bとの間に局所的に大きな摩擦力が発生すると、図2(c)に示されるように、ケーソン躯体2の刃口3bが地盤Bから浮いた状態となり、刃口3bへの地盤Bの反力が小さくなる(無くなる)と共に、ケーソン躯体2が摩擦力発生位置から吊り下がる現象が生じる。その結果、ケーソン躯体2に引張力が作用し、ケーソン躯体2への引張力が大きくなるとケーソン躯体2のひび割れXが入る等の問題が生じて品質が劣化する懸念がある。
【0026】
また、ケーソン躯体2の刃口3bへの地盤Bからの反力が無くなるくらいまで外周面3cに摩擦力が作用すると、外周面3cに滑材を注入する。しかしながら、滑材を注入して外周面3cの摩擦力を低減させたときに、ケーソン躯体2が落下することがある。ケーソン躯体2が落下すると、その落下の衝撃が周囲に伝わり、揺れが生じる等の影響を与える可能性がある。
【0027】
従来、滑材注入装置15を用いたケーソン躯体2の外周面3cへの滑材の注入は、作業者の感覚によって行われることがあり、滑材の注入の精度は作業者の熟練度に依存しているという現状があった。しかしながら、熟練した作業者であっても、ケーソン躯体2のどの位置に大きな摩擦力が作用しているかを判断できないことがあるため、滑材の注入を適切な位置に行えず、滑材を無駄に注入することがあり不経済となることがあった。
【0028】
これに対し、本実施形態に係る構造物管理装置10では、滑材注入装置15によって滑材を適切な位置にピンポイントで注入することができ、滑材の効率的な注入を可能としている。図3は、ケーソン1及び構造物管理装置10を模式的に示す平面図である。図4は、構造物管理装置10の光ファイバ11の配置を模式的に示す斜視図である。
【0029】
図3に示されるように、平面視においてケーソン1の外側には鋼矢板7が設けられており、更に、ケーソン1の周辺には構造物管理装置10が設けられる。構造物管理装置10は、ケーソン1の歪みを検出する光ファイバ11と、温度補正用光ファイバ12と、光ファイバ11及び温度補正用光ファイバ12のそれぞれが接続された制御装置13とを備える。制御装置13は、例えば、地表Gに設けられており、光ファイバ11及び温度補正用光ファイバ12のそれぞれに計測光を出力する。
【0030】
光ファイバ11は、例えば、分布型光ファイバセンサであり、ケーソン1の歪みを検出する。分布型の光ファイバセンサを用いることにより、歪みの詳細な分布を把握できると共に、歪みの大きさに特異点がある場合にはケーソン躯体2全体の中から変状の発生位置又は変状の程度を詳細に把握することが可能となる。
【0031】
図3及び図4に示されるように、構造物管理装置10は、複数の光ファイバ11を光ファイバケーブルとして備え、各光ファイバ11はケーソン1の内周面3dに固定されている。平面視において、複数の光ファイバ11はケーソン1の周方向Dに沿って並ぶように配置されている。
【0032】
一例として、4本の光ファイバ11が周方向Dに沿って等間隔に並ぶように配置されている。光ファイバ11の端部は制御装置13に接続されており、光ファイバ11は、制御装置13から延び出してケーソン1の周方向Dの一方側の部位から鉛直下方に延び、ケーソン1の底壁6(底壁6の近傍)で周方向Dに沿うように曲げられている。
【0033】
例えば、光ファイバ11は、ケーソン1の上端から下端まで延びるように設置される。これにより、鉛直方向におけるケーソン1の全ての箇所において歪み検出を行うことが可能となる。また、鉛直方向に沿って延びるように光ファイバ11を貼り付けることにより、鉛直方向におけるケーソン1の歪みの分布を検出することができる。
【0034】
底壁6において周方向Dに沿って曲げられた光ファイバ11は、周方向Dの他方側において鉛直上方に曲げられケーソン1から延び出して制御装置13に接続される。一例として、制御装置13には、ケーソン1の北側から鉛直下方に延びると共にケーソン1の北西側から延び出す光ファイバ11の一端及び他端、ケーソン1の西側から鉛直下方に延びると共にケーソン1の南西側から延び出す光ファイバ11の一端及び他端、ケーソン1の南側から鉛直下方に延びると共にケーソン1の南東側から延び出す光ファイバ11の一端及び他端、並びに、ケーソン1の東側から鉛直下方に延びると共にケーソン1の北東側から延び出す光ファイバ11の一端及び他端、が接続されている。なお、光ファイバ11の本数、及び光ファイバ11の配置態様については、図3及び図4の例に限られず適宜変更可能である。
【0035】
構造物管理装置10は、例えば、光ファイバ11を用いてレイリー計測によってケーソン1の歪みを検出する。例えば、制御装置13が光ファイバ11に計測光を入力すると、光ファイバ11においてレイリー後方散乱光が生じる。レイリー後方散乱光のスペクトル(周波数ごとの強度)は、歪み、圧力又は温度に応じて変化する。
【0036】
また、レイリー後方散乱光の強度は計測光の強度よりも小さい。レイリー計測では、後方散乱光のスペクトルの変化を計測することによって、光ファイバ11に生じた歪みを検出する。レイリー後方散乱光を用いたレイリー計測は、精度がよく、光のロスに強いという利点がある。
【0037】
光ファイバ11では、例えば、1μの精度でコンクリートの歪み検出が可能である。従って、ケーソン1等のコンクリート構造物で発生しうるひび割れ発生歪み(約100μ)を未然に検出することができ、ケーソン躯体2の品質を低下させるひび割れの発生を防止することが可能となる。
【0038】
図5(a)は、光ファイバケーブルである光ファイバ11の断面図の例を示しており、図5(b)は、光ファイバ11の表面の例を示す図である。図5(a)及び図5(b)に示されるように、例示的な光ファイバ11は、光ファイバ芯線11bと、テンションメンバ11cと、光ファイバ芯線11b及びテンションメンバ11cを覆うシース11dとを備える。一例として、シース11dは絶縁体によって構成されている。
【0039】
例えば、光ファイバ11は平板状且つ長尺状とされており、光ファイバ11の断面は扁平状(一例として角丸長方形状)とされている。これにより、側壁3の内周面3d等の設置対象箇所に対する光ファイバ11の接触面積を大きくして光ファイバ11の設置を容易に行うことができると共に、光ファイバ11によって高精度に歪み検出を行うことが可能となる。
【0040】
光ファイバ11は、例えば、その断面の長手方向(図5(a)では左右方向)に沿って並ぶ一対のテンションメンバ11cを有し、一対のテンションメンバ11cの間に一対の光ファイバ芯線11bが設けられる。テンションメンバ11cによって光ファイバ11に付与される張力から光ファイバ芯線11bを保護することが可能となる。光ファイバ11(シース11d)の表面には、例えば、エンボス加工が施されている。光ファイバ11の表面には凹凸が形成されており、例えば、光ファイバ11の表面に形成された凹凸は格子状に配列されている。
【0041】
上記では、光ファイバ11の形状等の例について説明した。しかしながら、光ファイバ11の形状及び構造は、上記の例に限定されず適宜変更可能である。図5(c)に示されるように、断面円形状の芯線11fを備えた光ファイバ11Aを光ファイバ11に代えて用いることも可能である。具体例として、コンクリート表面(内周面3d)に固定する場合には、図5(c)の光ファイバ11Aを用いてもよい。
【0042】
構造物管理装置10は、例えば、1本の温度補正用光ファイバ12を含む。図3及び図6に示されるように、温度補正用光ファイバ12のの端部は制御装置13に接続されており、例えば、温度補正用光ファイバ12は光ファイバ芯線12bと光ファイバ芯線12bを囲む管状部材12cとを備える、管状部材12cは、例えば、鋼管である。一例として、管状部材12cの材料は硬質材料(一例としてSUS:Steel Use Stainless)である。
【0043】
温度補正用光ファイバ12の光ファイバ芯線12bは、管状部材12cに囲まれていることにより、ケーソン1の歪みによる影響を受けず温度変化による影響のみを受ける。すなわち、温度補正用光ファイバ12の外部でケーソン1の歪み及び温度変化が生じた場合、光ファイバ芯線12bは当該温度変化による影響のみを受ける。
【0044】
一方、光ファイバ11の外部でケーソン1の歪み及び温度変化が生じた場合、光ファイバ芯線11bは、当該歪みの影響と当該温度変化の影響との双方の影響を受ける。従って、制御装置13が、光ファイバ11におけるケーソン1の歪みと温度変化による光強度の変化を、温度補正用光ファイバ12におけるケーソン1の温度変化による光強度の変化と相殺することにより、ケーソン1の歪みを高精度に検出することが可能である。
【0045】
制御装置13は、光ファイバ11を伝搬する光を用いて光ファイバ11が設置された箇所におけるケーソン1の歪み値を算出する。例えば、制御装置13は、レイリー後方散乱光の強度ピークの変化量(差分)からケーソン1の歪み量を算出してもよい。この場合、制御装置13は、n回目(nは2以上の自然数)の計測において、n-1回目の計測で得た光情報とn回目の計測で得た光情報とにおける当該強度ピークの変化量を算出してケーソン1の歪み量を算出する。
【0046】
次に、構造物管理装置10の光ファイバ11によって検出される歪みの態様の例について図7図10を参照しながら説明する。まず、図7に示されるように、定常状態(正常状態)である場合には、鉛直下方に働くケーソン1の荷重F1に対し、ケーソン1の外周面3cに鉛直上向きの摩擦力F2が働くと共に、地盤Bから刃口3bに作用する反力F3が働いて、荷重F1が摩擦力F2及び反力F3と釣り合った状態となる。なお、ここでいう反力F3は、圧気室の圧気による力も含んでいる。
【0047】
そして、ケーソン1の外周面3cには、鉛直方向に沿って均一な摩擦力F2が働くと共に、例えば、ケーソン1に対する引張力及び圧縮力が0に近い状態であることが光ファイバ11によって検出される。図7、並びに、後述する図8図9及び図10の右側のグラフについて、縦軸は深さ(底壁6からの高さ)を示しており、横軸はケーソン1に作用する引張力及び圧縮力を示している。
【0048】
図8に示されるように、ケーソン1の外周面3cに働く摩擦力F2が鉛直方向に沿って均一で且つ定常状態よりも大きい場合、反力F3が小さくなると共に、光ファイバ11によってケーソン1に対する引張力が検出される。このとき、光ファイバ11によって、ケーソン1が深くなるに従ってケーソン1に対する引張力が大きくなっていることが検出される。
【0049】
図9に示されるように、ケーソン1の地表Gから離れた位置(底壁6付近)に大きい摩擦力F2が作用する場合、反力F3の大きさは定常状態のときの反力F3の大きさと同程度である。この場合、光ファイバ11によってケーソン1に対する圧縮力及び引張力が検出される。具体的には、光ファイバ11によって、地表Gから深くなるに従ってケーソン1に対する圧縮力が大きくなり、大きな摩擦力F2の集中箇所においてケーソン1に対する引張力が大きくなっているピークPが検出される。
【0050】
図10に示されるように、ケーソン1の地表G付近に大きい摩擦力F2が作用する場合、反力F3が小さくなると共に、光ファイバ11によってケーソン1に対する圧縮力及び引張力が検出される。この場合、光ファイバ11によって、地表G付近において大きなピークPとなる引張力が検出され、且つ、深くなるに従ってピークPから小さくなる引張力が検出される。
【0051】
以上の図9及び図10に示されるように、構造物管理装置10(制御装置13)は、ケーソン1の内周面3dに設置した光ファイバ11によってケーソン1に対する引張力及び圧縮力を検出する。そして、構造物管理装置10が引張力のピークPを検出することによって、外周面3cにおける摩擦力F2の集中箇所を特定することが可能となる。すなわち、構造物管理装置10がピークPを特定することによって、大きな摩擦力F2の集中箇所を特定できるので、前述した滑材の注入を摩擦力F2の集中箇所に対してピンポイントに行うことが可能となる。
【0052】
次に、本実施形態に係る構造物管理方法の工程の例について説明する。図11(a)、図11(b)及び図11(c)は、当該工程を模式的に示すケーソン1及び光ファイバ11の縦断面図である。図12は、当該工程の例を示すフロー図である。まず、光ファイバ11を用意する(光ファイバを用意する工程、ステップS1)。
【0053】
ステップS1では、例えば、ケーソン1の鉛直方向の最大高さの2倍以上の長さを有する4本の光ファイバ11及び温度補正用光ファイバ12を用意し、光ファイバ11及び温度補正用光ファイバ12のそれぞれの端部を制御装置13に接続する。そして、ケーソン1の1ロット目を構築する(ブロックを構築する工程、ステップS2、ステップS3)。
【0054】
具体的には、底壁6を含むブロック5を1ロット目のブロックとして構築し、例えば、型枠の設置、鉄筋の配置、及びコンクリートの打設を行う。そして、1ロット目のブロック5を構築した後には、型枠を外し(ステップS4)、1ロット目のブロック5に光ファイバ11を設置(敷設)する(光ファイバを設置する工程、ステップS5)。
【0055】
ステップS5では、図11(a)に示されるように、余長11gを残しつつ、ブロック5の内周面3dに光ファイバ11を固定する。内周面3dへの光ファイバ11の固定は、例えば、接着剤によって行う。一例として、図5(a)に示されるような扁平状の光ファイバ11を接着剤によって内周面3dに貼り付ける。そして、温度補正用光ファイバ12も、光ファイバ11と同様、余長12gを残しつつ内周面3dに貼り付ける。
【0056】
光ファイバ11及び温度補正用光ファイバ12をブロック5の内周面3dに設置した後には、光ファイバ11及び温度補正用光ファイバ12の初期値の設定を行う(ステップS6)。そして、図11(b)に示されるように、地盤Bへのブロック5の沈設、及び光ファイバ11によるブロック5の歪みの計測を開始する(ブロックの歪みを光ファイバによって検出する工程、ステップS7)。
【0057】
ブロック5の歪みの計測では、例えば、制御装置13のディスプレイに図7図10の右側に示されるグラフが表示され、これにより、摩擦力F2の集中箇所の有無を特定することが可能となる(摩擦力が生じている箇所を特定する工程)。例えば、ピークPとして摩擦力F2の集中箇所が特定された場合には、当該集中箇所に滑材注入装置15から滑材を注入する(滑材を注入する工程)。これにより、摩擦力F2の集中箇所におけるピークPが大きくなる前に当該集中箇所の摩擦力F2をピンポイントで低減させることができる。
【0058】
以上のように計測を行って、Nロット目(Nは2以上の自然数、図1の例ではN=7)のブロック5の構築が終了したか否かの判定を行う(ステップS8、ステップS9)。そして、Nロット目の構築が終了している場合には、一連の工程が完了する。一方、Nロット目の構築が終了していない場合には、ステップS3を再度実行し、例えば2ロット目のブロック5の構築を開始する(ブロックを構築する工程)。
【0059】
具体的には、1ロット目のブロック5の上方に位置するブロック5を2ロット目のブロックとして構築し、前述と同様、型枠の設置、鉄筋の配置、及びコンクリートの打設を行う。そして、2ロット目のブロック5を構築した後には脱型を行い(ステップS4)、2ロット目のブロック5に光ファイバ11を設置する(光ファイバを設置する工程、ステップS5)。
【0060】
そして、図11(c)に示されるように、余長11gを残しつつ、前述と同様にブロック5の内周面3dに光ファイバ11を固定する。そして、温度補正用光ファイバ12も光ファイバ11と同様、余長12gを残しつつ内周面3dに貼り付ける。その後、光ファイバ11及び温度補正用光ファイバ12の初期値の設定を行う(ステップS6)。
【0061】
上記のように、光ファイバ11及び温度補正用光ファイバ12の初期値の設定はロット(ブロック5の構築)ごとに行う。例えば、mロット目(mは自然数)のブロック5とm+1ロット目のブロック5とは材齢が異なっており、新たなブロック5が構築されるとケーソン躯体2の構築が進行する。よって、複数のブロック5を跨がる1本の光ファイバ11を用いてブロック5の歪み分布を計測するためには、ブロック5の構築の進捗に応じた初期値の設定が必要となる。具体的には、1つのブロック5の構築ごとに光ファイバ11及び温度補正用光ファイバ12の初期値を設定することが必要となりうる。
【0062】
その後は前述と同様、地盤Bへの2ロット目のブロック5の沈設、及び光ファイバ11によるブロック5の歪みの計測を開始し(ブロックの歪みを光ファイバによって検出する工程、ステップS7)、Nロット目のブロック5の構築が完了したか否かの判定を行う(ステップS8、ステップS9)。そして、Nロット目のブロック5の構築が完了していない場合には、再度ステップS3に移行して、例えば3ロット目以降のブロック5の構築等を繰り返し、Nロット目のブロック5の構築が終了している場合には、一連の工程を完了する。
【0063】
次に、本実施形態に係る構造物管理装置10及び構造物管理方法から得られる作用効果について詳細に説明する。本実施形態に係る構造物管理装置10及び構造物管理方法では、光ファイバ11を複数のブロック5のそれぞれに設置し、設置した光ファイバ11によって複数のブロック5の歪みを検出する。
【0064】
よって、線状の光ファイバ11を複数のブロック5にわたって設置することにより、少ない本数の光ファイバ11でより広い箇所の歪みを検出することができる。従って、複数のブロック5のそれぞれの構築を行いながら複数のブロック5のそれぞれに光ファイバ11を設置して歪みの計測を行うことができるので、複数のブロック5の広い箇所の挙動を少ない本数の光ファイバ11によって把握することができる。
【0065】
また、本実施形態に係る構造物管理装置10及び構造物管理方法では、構築されたブロック5に余長11gを残しつつ光ファイバ11を設置し、ブロック5の構築、ブロック5への光ファイバ11の設置、及び光ファイバ11によるブロック5の歪みの検出を繰り返しながら構造物を構築する。
【0066】
よって、ブロック5の構築ごとに余長11gを残しつつ当該ブロック5に対して光ファイバ11の設置を行い、ブロック5の構築と光ファイバ11の設置とを繰り返しながら構造物の構築を行うことが可能となる。光ファイバ11の設置は、ブロック5に1本の光ファイバ11を余長11gを残しつつ固定すればよいので、容易に行うことができる。従って、少ない本数の光ファイバ11をブロック5の構築と共に行うことができるので、設置作業を容易に行うことができると共に広い範囲の歪みを効率よく検出できる。
【0067】
ブロック5の歪みを光ファイバ11によって検出する工程では、レイリー計測によってブロック5の歪みを検出してもよい。レイリー計測では、光ファイバ11を伝搬する光におけるレイリー後方散乱光を検出することによってブロック5の歪みを計測する。レイリー後方散乱光の光強度は、入力した計測光の光強度よりも弱くなる。従って、この光強度の変化を検出することにより、光ファイバ11に生じた歪みの大きさを得ることができる。よって、レイリー後方散乱光を用いたレイリー計測は、精度がよく、光のロスに強いという利点がある。
【0068】
ブロック5は鉄筋コンクリートブロックであってもよく、構造物は鉄筋コンクリート構造物であってもよい。この場合、ブロック5ごとに徐々に構築される鉄筋コンクリート構造物に対し、広範囲の箇所を容易に歪み計測できる。
【0069】
構造物は、鉄筋コンクリートブロックを含むケーソン1であってもよい。この場合、例えばニューマチックケーソン工法によってブロック5ごとに徐々に構築されていくブロック5に対し、構築されたブロック5ごとに光ファイバ11を設置することが可能となる。従って、ケーソン1の複数のブロック5のそれぞれに生じる歪みを光ファイバ11によって計測することが可能となる。よって、ケーソン1の広範囲の箇所を少ない本数の光ファイバ11によって容易に歪み計測することができる。
【0070】
本実施形態に係る構造物管理方法は、図10に例示されるように、検出された歪みからケーソン1の外周面3cにおける摩擦力F2が生じている箇所を特定する工程と、摩擦力F2が生じている箇所に滑材を注入する工程と、を備えてもよい。この場合、歪みからケーソン1の内周面3dにおける摩擦力F2を計測して摩擦力F2が生じている箇所を(例えばピークPとして)特定することが可能となる。
【0071】
摩擦力F2の集中箇所の特定を行うことにより、ケーソン1の品質が劣化する前に必要な対応をとることができる。すなわち、摩擦力F2が生じている箇所に滑材が注入されるので、必要な箇所に必要なだけの滑材を注入することができる。これにより、ケーソン躯体2が摩擦力発生位置から吊り下がる現象を未然に防止することができる。従って、滑材を効率よくピンポイントで且つ速やかに注入して問題となる現象の発生を未然に防止することができるので、高品質のケーソン1を効率よく構築することができる。
【0072】
次に、図13及び図14を参照しながら変形例に係る構造物管理方法の工程について説明する。変形例では、光ファイバを躯体内部に配置する場合について説明する。なお、変形例に係る構造物管理方法及び構造物管理装置の一部は、前述した構造物管理方法及び構造物管理装置の一部と重複するため、重複する部分の説明を適宜省略する。
【0073】
まず、光ファイバ11を用意する(光ファイバを用意する工程、ステップS11)。そして、図13(a)に示されるように、ケーソン1の1ロット目を構築すると共に、1ロット目のブロック5に対して光ファイバ11の敷設を行う。具体的には、例えば、型枠の設置、及び鉄筋の配置を行うと共に、当該鉄筋に沿うように光ファイバ11及び温度補正用光ファイバ12を配置する。すなわち、光ファイバ11及び温度補正用光ファイバ12の配置は、鉄筋の組立と同時、又は鉄筋の組立後からコンクリートの打設までの間に行われる。そして、コンクリートの打設を行ってブロック5の内部に光ファイバ11及び温度補正用光ファイバ12を埋設する(ブロックを構築する工程、光ファイバを設置する工程、ステップS12、ステップS13)。
【0074】
その後、型枠を外し(ステップS14)、光ファイバ11及び温度補正用光ファイバ12の初期値の設定を行う(ステップS15)。そして、図13(b)に示されるように、地盤Bへのブロック5の沈設、及び光ファイバ11によるブロック5の歪みの計測を開始する(ブロックの歪みを光ファイバによって検出する工程、ステップS16)。
【0075】
ブロック5の計測を開始して、Nロット目のブロック5の構築が終了したか否かの判定を行う(ステップS17、ステップS18)。そして、Nロット目の構築が終了していない場合には、ステップS13に移行し、図13(c)に示されるように2ロット目以降のブロック5の構築等を行って前述と同様の工程を繰り返す。一方、Nロット目の構築が終了している場合には、一連の工程が完了する。
【0076】
以上、変形例に係る構造物管理方法では、光ファイバ11を複数のブロック5のそれぞれに設置し、設置した光ファイバ11によって複数のブロック5の歪みを検出する。よって、線状の光ファイバ11を複数のブロック5にわたって設置することにより、少ない本数の光ファイバ11でより広い箇所の歪みを検出することができる。従って、前述した構造物管理方法及び構造物管理装置10と同様の効果が得られる。
【0077】
また、変形例に係る構造物管理方法では、光ファイバ11がブロック5に埋め込まれるので、ブロック5を構成するコンクリートが硬化する前から歪みの測定を開始することができ、より早期からのデータ取得が可能となる。更に、ケーソン1の表面に光ファイバ11が見えないようにすることができ、ケーソン1から光ファイバ11が外れる可能性を無くすことができる。
【0078】
以上、本開示に係る構造物管理装置及び構造物管理方法の実施形態について説明した。しかしながら、本発明は、前述した実施形態又は変形例に限定されない。すなわち、本発明が特許請求の範囲に記載された要旨を変更しない範囲において種々の変形及び変更が可能であることは、当業者によって容易に認識される。例えば、構造物管理装置の各部の構成、形状、大きさ、数、材料及び配置態様、並びに、構造物管理方法の工程の内容及び順序は、前述した内容に限られず適宜変更可能である。
【0079】
例えば、前述した実施形態では、光ファイバ11を用いてレイリー計測によってケーソン1の歪みを検出する例について説明した。しかしながら、歪みの検出は、例えば、ブリルアン計測等、レイリー計測以外の方法で行われてもよい。
【0080】
また、前述の実施形態では、ケーソン1の内周面3dに光ファイバ11が設置される例について説明した。しかしながら、光ファイバ11の設置位置は、ケーソン1の内周面3dに限られず適宜変更可能である。例えば、図15(a)及び図15(b)に示されるように、ケーソン1の外周面3cに光ファイバ11が設置されてもよい。
【0081】
図15(a)及び図15(b)は、4本の光ファイバ11がブロック5の周方向に沿って並ぶように配置された例を示している。このように、光ファイバ11をケーソン躯体2の外周面3cに設置する場合、ケーソン躯体2全体の軸方向の変形を推定することが可能であり、ケーソン1に過大な変形が生じないようにモニタリングしながらブロック5の沈設を行うことができる。
【0082】
また、図16(a)及び図16(b)に示されるように、ケーソン1の周方向Dに沿うように平面視で環状となるように光ファイバ11を設置してもよい。図16(a)及び図16(b)は、ケーソン1の内周面3dに周方向Dに沿うように光ファイバ11を設置する例を示している。
【0083】
図16(a)及び図16(b)に示されるように、光ファイバ11を周方向Dに沿って延びるように配置することにより、ケーソン1を構成する壁の面外変形を推定することができる。そして、ケーソン1に過大な変形が生じないようにモニタリングしながらブロック5の沈設を行うことができる。
【0084】
また、前述の実施形態及び変形例では、構造物がケーソンである例について説明した。しかしながら、構造物は、ケーソン以外の鉄筋コンクリートブロックであってもよいし、鉄筋コンクリートブロック以外のブロックであってもよい。例えば、構造物は、鋼構造物であってもよい。この場合も、前述した実施形態及び変形例と同様の作用効果(ひび割れ回避の効果、及び/又は衝撃回避の効果)が得られる。
【0085】
すなわち、図17に模式的に示されるように、ブロック55を段階的に構築する現場であれば本発明を適用することが可能である。この場合、図17(a)及び図17(b)に示されるように、歪みを検出する光ファイバ51を用意すると共にブロック55を構築する。そして、構築されたブロック55に、余長52を残しつつ光ファイバ51を設置して、ブロック55の歪みを光ファイバ51によって検出する。
【0086】
図17(c)及び図17(d)に示されるように、ブロック55の構築、余長52を残しながらの光ファイバ51の設置、及び光ファイバ51によるブロック55の歪みの検出、を繰り返しながら構造物を構築する。構造物としては、例えば、ボックスカルバート若しくはアーチカルバートを含む道路、鉄道、堤防若しくはトンネルであってもよいし、橋梁であってもよい。例えば、橋梁の場合、橋梁を構成するブロック55の上下のそれぞれに光ファイバ51を順次設置していくことによって施工途中におけるブロック55のクリープ歪みを検出できる。このように、本発明が対象とする構造物は特に限定されない。
【符号の説明】
【0087】
1…ケーソン(構造物)、2…ケーソン躯体、3…側壁、3b…刃口、3c…外周面、3d…内周面、4…作業室、5,55…ブロック、6…底壁、7…鋼矢板、10…構造物管理装置、11,11A,51…光ファイバ、11b…光ファイバ芯線、11c…テンションメンバ、11d…シース、11f…芯線、11g,52…余長、12…温度補正用光ファイバ、12b…光ファイバ芯線、12c…管状部材、12g…余長、13…制御装置、15…滑材注入装置、B…地盤、D…周方向、F1…荷重、F2…摩擦力、F3…反力、G…地表、P…ピーク、T…トンネル、X…ひび割れ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
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図17