(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-02
(45)【発行日】2023-11-13
(54)【発明の名称】故障診断装置および故障診断方法
(51)【国際特許分類】
G05B 23/02 20060101AFI20231106BHJP
G06N 20/00 20190101ALI20231106BHJP
【FI】
G05B23/02 T
G06N20/00 130
G06N20/00
(21)【出願番号】P 2020138159
(22)【出願日】2020-08-18
【審査請求日】2022-12-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】松下 太郎
(72)【発明者】
【氏名】松本 裕作
【審査官】藤崎 詔夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-063956(JP,A)
【文献】特開2018-163622(JP,A)
【文献】国際公開第2013/145203(WO,A1)
【文献】特開2019-095836(JP,A)
【文献】特許第6717555(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 23/02
G06N 20/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象装置を構成する部品、前記部品の接続関係、および前記部品間の連関関係が記述されることにより前記対象装置を構成する複数の
前記部品の相互関係を示すオントロジーモデルと、前記対象装置に生じた故障についての故障情報である、故障要因、故障部位、および故障事象が含まれる故障報告文章を複数有する故障メカニズムデータベースとを入力データとして機械学習させることにより、故障診断を行うための学習済みモデルを生成する学習装置と、
前記故障情報のうちの少なくとも1つを含む故障報告を前記学習済みモデルに入力して、前記故障診断として前記故障報告との一致度が所定の程度以上高い前記故障報告文章を前記故障メカニズムデータベースから抽出する故障診断部と、
前記故障診断部が抽出した前記故障報告文章を表示する表示部とを備える故障診断装置。
【請求項2】
前記故障報告文章は前記故障情報として、前記故障事象の原因となる故障モードをさらに含む請求項1に記載の故障診断装置。
【請求項3】
前記故障報告文章は、故障に対する対策方針をさらに含む請求項1または2に記載の故障診断装置。
【請求項4】
前記故障報告は、前記故障情報のそれぞれに対応付けられた単語である請求項1から3のいずれか一項に記載の故障診断装置。
【請求項5】
前記故障報告の前記故障情報を個別に入力させる故障報告入力画面を前記表示部に表示させる故障報告入力部をさらに備える請求項1から4のいずれか一項に記載の故障診断装置。
【請求項6】
前記故障診断部は、前記故障報告との一致度が高い順に複数の前記故障報告文章を抽出し、
前記表示部は、抽出された前記故障報告文章を前記故障報告との一致度が高い順に表示する請求項1から5のいずれか一項に記載の故障診断装置。
【請求項7】
前記故障診断部は、前記故障報告と前記故障報告文章との一致確率を算出し、
前記表示部は、抽出された前記故障報告文章および前記一致確率を表示する請求項6に記載の故障診断装置。
【請求項8】
前記学習装置は、前記対象装置に生じた故障に関する任意の単語を入力データとし、その故障に対応する故障報告文章を教師データとする機械学習をさらに行って前記学習済みモデルを生成する請求項1から7のいずれか一項に記載の故障診断装置。
【請求項9】
前記学習装置は、前記故障診断のための機械学習の他に、自然言語処理のための機械学習を行い、
前記学習済みモデルは、前記自然言語処理に係る情報を有する請求項1から8のいずれか一項に記載の故障診断装置。
【請求項10】
前記故障報告を前記学習済みモデルに入力して、故障報告文章を新たに生成する故障報告文章生成部をさらに備える請求項1から9のいずれか一項に記載の故障診断装置。
【請求項11】
前記故障診断部が抽出した前記故障報告文章から適切な前記故障報告文章を判定するための故障診断判定画面を前記表示部に表示させる故障診断判定部をさらに備える請求項1から10のいずれか一項に記載の故障診断装置。
【請求項12】
前記対象装置は作業地において所定の作業を行う作業車であり、
前記故障要因として、作業内容、作業地環境、および前記作業車の使用態様のうちの少なくとも1つを含む請求項1から11のいずれか一項に記載の故障診断装置。
【請求項13】
対象装置を構成する部品、前記部品の接続関係、および前記部品間の連関関係が記述されることにより前記対象装置を構成する複数の
前記部品の相互関係を示すオントロジーモデルと、前記対象装置に生じた故障についての故障情報である、故障要因、故障部位、および故障事象が含まれる故障報告文章を複数有する故障メカニズムデータベースとを入力データとして機械学習させることにより、故障診断を行うための学習済みモデルを生成する工程と、
前記故障情報のうちの少なくとも1つを含む故障報告を前記学習済みモデルに入力して、前記故障診断として前記故障報告との一致度が所定の程度以上高い前記故障報告文章を前記故障メカニズムデータベースから抽出する工程と、
抽出された前記故障報告文章を表示する工程とを備える故障診断方法。
【請求項14】
前記故障報告文章は前記故障情報として、前記故障事象の原因となる故障モードをさらに含む請求項13に記載の故障診断方法。
【請求項15】
前記故障報告文章は、故障に対する対策方針をさらに含む請求項13または14に記載の故障診断方法。
【請求項16】
前記故障報告は、前記故障情報のそれぞれに対応付けられた単語である請求項13から15のいずれか一項に記載の故障診断方法。
【請求項17】
前記故障診断において、前記故障報告との一致度が高い順に複数の前記故障報告文章が抽出され、
抽出された前記故障報告文章が前記故障報告との一致度が高い順に表示される請求項13から16のいずれか一項に記載の故障診断方法。
【請求項18】
前記故障診断において、前記故障報告と前記故障報告文章との一致確率が算出され、
抽出された前記故障報告文章および前記一致確率が表示される請求項17に記載の故障診断方法。
【請求項19】
前記対象装置に生じた故障に関する任意の単語を入力データとし、その故障に対応する故障報告文章を教師データとする機械学習をさらに行って前記学習済みモデルが生成される請求項13から18のいずれか一項に記載の故障診断方法。
【請求項20】
前記故障診断のための機械学習の他に、自然言語処理のための機械学習が行われ、
前記学習済みモデルは、前記自然言語処理に係る情報を有する請求項13から19のいずれか一項に記載の故障診断方法。
【請求項21】
前記故障報告を前記学習済みモデルに入力して、故障報告文章を新たに生成する工程をさらに備える請求項13から20のいずれか一項に記載の故障診断方法。
【請求項22】
前記対象装置は作業地において所定の作業を行う作業車であり、
前記故障要因として、作業内容、作業地環境、および前記作業車の使用態様のうちの少なくとも1つを含む請求項13から21のいずれか一項に記載の故障診断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種の装置の故障診断を行う故障診断装置、故障診断方法、および故障診断に用いる学習済みモデルに関する。
【背景技術】
【0002】
作業車等の装置は故障が発生することもあり、故障が生じた場合には、迅速に故障の正確な症状を確認し、故障の原因を究明して、その故障に対処する必要がある。例えば、故障の報告(ワランティ申請やクレーム等)を受け取った作業者は、作業車の構造を考慮しながら、報告内容から予測される影響範囲と現象を想像し、故障個所や故障の要因を推測して故障診断を行う。また、このような故障診断を行う際には、様々な補助ツールが用いられる場合がある。
【0003】
例えば、コンバイン等の作業機械は各種のアクチュエータやセンサが搭載され、センサの検出信号が入力されると共にアクチュエータの動作を制御するコントローラが搭載される。特許文献1に示されるチェッカ装置は、コントローラと接続して、アクチュエータを動作させると共に、センサの検出信号を確認することにより、故障個所を特定する故障診断を行う。
【0004】
また、特許文献2に示されるように、車両から制御データを取得し、機械的もしくは制御的な異常(故障)の発生に伴うデータ変動を顕在化する演算を行い、演算結果から異常の診断を行う場合もある。
【0005】
また、特許文献3に示されるように、種々の要素を備える複数の事象情報がサーバに蓄積され、故障に関する要素を入力し、入力された要素と一致する要素を所定数以上備える事象情報を基に解析情報を作成し、解析情報から故障原因を予測する場合もある。
【0006】
また、特許文献4に示されるように、取得された鉄道車両の現在運行データおよび履歴運行データに基づいて故障情報を得て、故障情報に対応するメンテナンスソリューションを取得し、メンテナンスソリューションに基づいて鉄道車両のメンテナンスを行う場合もある。
【0007】
また、特許文献5に示されるように、MFM情報とMFM付随情報と影響波及ルールとから、故障の因果関係が考慮されながら一般の作業者が理解しやすい、故障の事象がツリー状に整理された情報であるFTA情報およびFMEA情報を生成し、FTA情報とFMEA情報とを用いて故障診断を行う場合もある。
【0008】
また、特許文献6に示されるように、対象オントロジーを選択し、対象オントロジーデータおよび対象オントロジーが相互に関連付けられる診断オントロジーデータを抽出して、適切な診断範囲と診断内容とを持つFTA事例を作成して表示し、故障診断を行う場合もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2004-199500号公報
【文献】特開2012-198144号公報
【文献】特開2017-117193号公報
【文献】特表2019-531523号公報
【文献】特許第3808893号公報
【文献】特開2000-322125号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、作業車等の装置の構造を理解し、これを考慮して故障診断を行うには、装置の構造についての相当程度以上の理解が必要となる。また、作業車等の装置は機能の向上が進み、構造は益々複雑になり、上記の特許文献1から4に示される補助ツールを用いても、作業車の構造をある程度理解していないと容易に故障診断ができない状況になっている。また、上記の特許文献5,6に示される補助ツールでは、作業車等の装置の構造を考慮して整理されたツリー構造の情報が提供され、それに基づいて故障診断が行われるが、構造が複雑になると、例え整理された情報が提供されても、それを確認しながら故障診断することは容易でない場合が多い。そのため、故障診断の際に試行錯誤を要さず、故障診断のための知識がなくとも容易に行うことのできる故障診断が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一実施に係る故障診断装置は、対象装置を構成する部品、前記部品の接続関係、および前記部品間の連関関係が記述されることにより前記対象装置を構成する複数の前記部品の相互関係を示すオントロジーモデルと、前記対象装置に生じた故障についての故障情報である、故障要因、故障部位、および故障事象が含まれる故障報告文章を複数有する故障メカニズムデータベースとを入力データとして機械学習させることにより、故障診断を行うための学習済みモデルを生成する学習装置と、前記故障情報のうちの少なくとも1つを含む故障報告を前記学習済みモデルに入力して、前記故障診断として前記故障報告との一致度が所定の程度以上高い前記故障報告文章を前記故障メカニズムデータベースから抽出する故障診断部と、前記故障診断部が抽出した前記故障報告文章を表示する表示部とを備える。
【0012】
また、本発明の一実施に係る故障診断方法は、対象装置を構成する部品、前記部品の接続関係、および前記部品間の連関関係が記述されることにより前記対象装置を構成する複数の前記部品の相互関係を示すオントロジーモデルと、前記対象装置に生じた故障についての故障情報である、故障要因、故障部位、および故障事象が含まれる故障報告文章を複数有する故障メカニズムデータベースとを入力データとして機械学習させることにより、故障診断を行うための学習済みモデルを生成する工程と、前記故障情報のうちの少なくとも1つを含む故障報告を前記学習済みモデルに入力して、前記故障診断として前記故障報告との一致度が所定の程度以上高い前記故障報告文章を前記故障メカニズムデータベースから抽出する工程と、抽出された前記故障報告文章を表示する工程とを備える。
【0013】
さらに、本発明の一実施に係る学習済みモデルは、対象装置を構成する複数の部品の相互関係を示すオントロジーモデルと、前記対象装置に生じた故障についての故障情報である、故障要因、故障部位、および故障事象が含まれる故障報告文章を複数有する故障メカニズムデータベースとを入力データとして機械学習させることにより生成され、前記故障情報のうちの少なくとも1つを含む故障報告が入力されて、故障診断として前記故障報告との一致度が所定の程度以上高い前記故障報告文章を前記故障メカニズムデータベースから抽出するようにコンピュータに機能させる。
【0014】
以上のように、対象装置のオントロジーモデルと対象装置に生じた過去の故障に関する故障報告文章とを入力データとして学習済みモデルが生成される。
【0015】
そのため、この学習済みモデルを用いた故障診断は、対象装置を構成する複数の部品の相互関係を考慮した故障診断となる。その結果、作業者は、故障診断に際して試行錯誤することを必要とせず、さらに、対象装置の構成に精通していなくても、対象装置の構成を考慮した故障診断結果を直接的に得ることができる。
【0016】
また、故障診断結果を、故障要因、故障部位、故障事象等を含む故障情報からなる故障報告文章として出力することができる。そのため、故障診断結果は、故障に対応する適切な情報の候補として故障報告文章の形で出力され、作業者は、故障診断のための知識がなくとも故障診断結果を容易に理解することができ、故障報告文章が故障に対する文章として適切であるか否かを判断するだけで、精度良く故障診断を行うことができる。
【0017】
また、前記故障報告文章は前記故障情報として、前記故障事象の原因となる故障モードをさらに含んでも良い。
【0018】
このような構成により、故障メカニズムデータベースに登録される故障報告文章には、故障部位に生じた故障事象の原因となる故障モードが記録される。そのため、学習済みモデルは故障モードを考慮して生成され、故障診断によって出力される故障報告文章には故障モードが記述される。その結果、故障モードが考慮された故障診断が行われると共に、より詳細な故障報告文章が出力され、作業者は、故障診断結果をより容易に理解することができ、精度良く故障診断を行うことができる。
【0019】
また、記故障報告文章は、故障に対する対策方針をさらに含んでも良い。
【0020】
このような構成により、故障診断によって出力される故障報告文章には故障に対する対策方針が記述され、作業者は、修理や設計変更といった故障に対する対応を容易に行うことが可能となる。
【0021】
また、前記故障報告は、前記故障情報のそれぞれに対応付けられた単語であっても良い。
【0022】
故障診断の際に入力される故障報告は故障に関する単語であり、対象装置の構造を深く理解することを要さず、故障診断を容易に行うことができる。また、入力される単語は、故障情報と対応付けられるため、実際に生じている故障との関連性が明確となり、精度の良い故障診断が期待できる。以上のことから、容易に、精度良く故障診断を行うことができる。
【0023】
また、前記故障報告の前記故障情報を個別に入力させる故障報告入力画面を前記表示部に表示させる故障報告入力部をさらに備えても良い。
【0024】
故障報告を故障報告入力画面により入力することにより、容易に故障報告を入力することができる。
【0025】
また、前記故障診断において、前記故障報告との一致度が高い順に複数の前記故障報告文章が抽出され、抽出された前記故障報告文章が前記故障報告との一致度が高い順に表示されても良い。
【0026】
このような構成により、故障診断の結果、実際に生じている故障に対応する可能性の高い複数の故障報告文章が、故障と一致する可能性の高い順に表示されるため、作業者は、複数の故障報告文章を比較して診断結果を判断でき、最も適切と判断する故障報告文章を選択するだけで、より容易かつ精度良く故障診断を行うことができる。
【0027】
また、前記故障診断において、前記故障報告と前記故障報告文章との一致確率が算出され、抽出された前記故障報告文章および前記一致確率が表示されても良い。
【0028】
このような構成により、表示された複数の故障報告文章は、それぞれの一致確率と共に表示されるため、作業者は、一致確率を参照しながら診断結果を判断することができ、より容易かつ精度良く故障診断を行うことができる。
【0029】
また、前記対象装置に生じた故障に関する任意の単語を入力データとし、その故障に対応する故障報告文章を教師データとする機械学習をさらに行って前記学習済みモデルが生成されても良い。
【0030】
故障診断の際に入力される故障報告は、作業者によって使用する用語や表現がばらつく場合があり、同じ意味を持つ単語でも、故障報告文章に記述される単語と異なる単語を用いた故障報告を入力すると、故障報告と故障報告文章との一致度を正確に判断できない場合がある。
【0031】
上記のような構成により、学習済みモデルは、機械学習を行う作業者によって幅広い単語が使用されて機械学習が行われ、1つの単語の類語を判断することが可能となる。そのため、機械学習も、故障報告と故障報告文章とで使用される単語の類比を判断しながら、故障報告と故障報告文章との一致度を判定ことが可能となる。その結果、故障報告に幅広い単語が使用されたとしても、故障報告と一致度の高い故障報告文章を抽出することができ、より容易かつ精度良く故障診断を行うことができる。
【0032】
また、前記故障診断のための機械学習の他に、自然言語処理のための機械学習が行われ、前記学習済みモデルは、前記自然言語処理に係る情報を有しても良い。
【0033】
上記のような構成により、学習済みモデルは自然言語処理に対応しているため、故障報告に幅広い単語が使用されたとしても、故障診断は単語の類語を含めた比較検討を行うことができ、故障報告と一致度の高い故障報告文章を抽出することができ、より容易かつ精度良く故障診断を行うことができる。
【0034】
また、前記故障報告を前記学習済みモデルに入力して、故障報告文章を新たに生成する工程をさらに備えても良い。
【0035】
以上のような学習済みモデルを用いると、故障診断により故障報告と故障報告文章との一致性を判断するだけではなく、故障報告の内容を考慮して、故障メカニズムデータベースに登録される故障報告文章の構成に則った文章を新たな故障報告文章として生成することができる。そのため、上記のような学習済みモデルを用いることにより、精度良く故障診断を行うだけでなく、新たな故障に関する故障報告文章の作成を行うことができる。
【0036】
また、前記故障診断部が抽出した前記故障報告文章から適切な前記故障報告文章を判定するための故障診断判定画面を前記表示部に表示させる故障診断判定部をさらに備えても良い。
【0037】
これにより、複数の故障報告文章から適切な故障報告文章を容易に判定することができる。
【0038】
また、前記対象装置は作業地において所定の作業を行う作業車であり、前記故障要因として、作業内容、作業地環境、および前記作業車の使用態様のうちの少なくとも1つを含んでも良い。
【0039】
このような構成により、作業車についても、容易に精度良く故障診断を行うことができる。さらに、作業地において作業を行う作業車に特有の、行われる作業の内容、作業が行われる作業地の環境、作業車の使用態様といった情報を故障要因として入力することができる。そのため、作業車に特有の情報を含む故障メカニズムデータベースを入力データとして学習済みモデルを生成すると共に、作業車に特有の情報を含む故障報告を入力して故障診断を行うことができる。その結果、作業車においては、特に精度良く故障診断を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【
図4】学習済みモデルのモデル構成例を示す図である。
【
図5】故障診断装置の構成を例示するブロック図である。
【
図7】故障診断方法の処理フローを例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
農作業機や建築機械等の作業車の他、種々の装置は、機械部品や電子部品等から構成される。これらの装置は、耐久性や信頼性を十分に確保して製造されるとしても、どうしても故障が生じる場合がある。故障が生じた場合は、故障個所を特定し、故障メカニズムを解析する故障診断を行った後、故障個所の修理や、今後の故障の発生を抑制する設計変更の検討等が行われる。
【0042】
以下、このような作業車等の装置(以下、「対象装置」と称す)に生じた故障を診断する故障診断装置について、図面を参照しながら説明する。
【0043】
〔故障診断の概要〕
まず、
図1を用いて故障診断装置が故障診断を行う概略構成を説明する。
【0044】
図1に示すように、故障診断装置1は、学習装置2において機械学習を行って学習済みモデル3を生成し、故障診断部4において学習済みモデル3を用いて故障診断を行う構成である。
【0045】
学習装置2は、AI(人工知能:Artificial intelligence)5を搭載する。機械学習は、学習装置2のAI5に、対象装置のオントロジーモデル6と故障メカニズムデータベース7とを入力データとして入力することにより行われ、学習済みモデル3が生成される。
【0046】
オントロジーモデル6は、対象装置を構成する複数の部品の相互関係を示す情報である。対象装置は、機械部品や電子部品等から構成され、これらが有機的に連関して構成される。オントロジーモデル6は、対象装置が備える部品、これらの接続関係、接続態様、ある部品が動作した際の他の部品の変化の態様、それぞれの部品や動作の影響範囲等を示す情報である。
【0047】
故障メカニズムデータベース7は、複数の故障報告文章8が格納されたデータベースである。故障メカニズムデータベース7は、対象装置において過去に生じた故障の解析結果である故障状況を故障情報および故障情報を含む故障報告文章8としてまとめられたデータベースである。さらに、故障報告文章8は、対象装置のみならず、対象装置に類似する装置、あるいは対象装置と共通の構成を有する装置についての故障情報が適宜含まれても良い。故障報告文章8については、後に詳述する。
【0048】
対象装置に故障が発生すると、故障の状況を示す故障報告9が故障診断部4に入力される。故障報告9は、画面入力等により、故障報告9に係る種々の情報を1つずつ故障診断部4に入力しても良いが、1つのデータとして作成された故障報告9を故障診断部4に直接入力しても良い。1つのデータとして作成された故障報告9は、対象装置に故障が生じた場合、故障の症状等を示す故障情報であり、対象装置の使用者等が故障の状況を確認して製作する情報である。例えば、1つのデータとして作成された故障報告9は、対象装置に故障が生じた際に、製造メーカーや販売店に保証を請求するためのワランティ申請書や、クレーム報告書等とすることができる。具体的には、故障報告9に含まれる情報は、
図2に示すように、故障要因13、故障部位14、故障事象15等であり、これらの少なくとも一つを含む。故障要因13、故障部位14、故障事象15等は、故障報告文章8に記述される故障情報であり、詳細は後に詳述する。故障報告9および故障報告文章8は、さらに故障モード18を含むこともできる。故障診断部4は、生成された学習済みモデル3に故障報告9を入力することにより故障診断を行う。
【0049】
〔故障報告文章〕
故障報告文章8は、故障の原因や症状、故障箇所等を含む故障が生じるに至ったメカニズムに関する故障情報を示す。故障は、故障の原因が存在し、この原因により、ある部品に影響が及び、その部品に不具合が生じることである。
【0050】
図2,
図3に示すように、故障報告文章8は、故障要因13、故障部位14および故障事象15である故障情報が含まれ、さらに故障概要16が含まれる。故障報告文章8は、さらに、機能ブロック17、故障モード18、対策方針19等が含まれても良い。故障報告文章8において、故障の原因は故障要因13に対応し、故障が生じる部品は故障部位14に対応する。その部品に生じた現象は故障事象15に対応し、その部品に及んだ影響は故障モード18に対応する。
【0051】
上述のように、故障要因13は、故障の原因であり、内的要因と外的要因に分けることができる。内的要因は、対象製品の構造に起因する、ある特定の条件で発生または増加するストレスである。例えば、内的要因は、エンジンの振動等である。外的要因は、対象製品の使用方法や使用環境、製造/輸送等に起因する、ある特定の条件で発生または増加するストレスである。例えば、外的要因は、高負荷運転時の車両の揺動等である。内的要因および外的要因において、このストレスが増加・発生することにより、故障が生じる。
【0052】
故障部位14は、故障要因13により故障が生じた部品等の部位である。例えば、故障部位14は、「燃料フィルタブラケットの溶接部」、「燃料フィルタ」、「燃料ホース」等である。
【0053】
故障事象15は、故障によって、故障部位14がどのようになったかを示す情報である。例えば、故障事象15は、「破損」、「脱落」、「燃料漏れ」等の情報が記述される。ここれらの情報は、燃料フィルタブラケットの溶接部が破損して燃料フィルタが脱落した場合や、燃料ホースから燃料漏れが発生した場合等に対応する。さらに、故障事象15は、これらの事象に伴った結果に生じる事象を含めることもできる。例えば、燃料ホースとラジエータファンが接触・干渉してエンジンルームに異音が発生した場合、「ラジエータファン」、「エンジンルーム」、「異音発生」等の記述も可能である。
【0054】
機能ブロック17は、故障部位14が含まれる機能ブロックであり、関連する部品の関係等も含まれる。例えば、上記例示した故障部位14に関連する機能ブロック17は、エンジン補器(燃料系)であり、燃料フィルタやブラケットが含まれることが示される。
【0055】
故障モード18は、故障部位14等がどのように壊れたかを示す情報である。故障モード18は故障要因13との間で因果関係を有し、故障要因13に伴って生じる。つまり、故障要因13によって生じる故障モード18に起因して故障部位14に不具合事象である故障事象15が生じる。ここで、故障モード18は、修理・交換を要する部品の故障であり、部品の破壊/部品間のインターフェースの破壊/不可逆な物性の変化と定義される。例えば、故障モード18は、「疲労破壊」、「接触・干渉」、「切断」と記述される。
【0056】
故障概要16は、故障要因13、故障部位14、故障事象15等の故障情報に対応して、故障の状況を文章とした情報である。故障診断の結果出力される故障報告文章8として、この故障概要16のみが出力されても良い。故障情報が上記に例示された故障要因13、故障部位14、故障事象15である場合、故障概要16は、例えば、「エンジン振動 および 高負荷運転時の車体の揺動 が原因で、燃料フィルタブラケットの溶接部 が 疲労破壊 して 破損し、燃料フィルタ が 脱落 した。燃料ホース が ラジエータファン と 接触・干渉 して エンジンルーム にて 異音発生 した。燃料ホース が 切断 して 燃料漏れ した。」となる。
【0057】
対策方針19は、故障が生じた場合に故障に対して行った対処、故障を修理した内容や、故障に対応して設計変更した事項が記述される。例えば、対策方針19は、「燃料フィルタブラケットの共振点をエンジン回転域からずらす、もしくは共振時の振幅レベルを下げるなどの対応で応力が基準値を下回る設計をすること。」等である。また、対策方針19は、製品開発の際に行うべき事項である設計ToDoや、実験ToDo等を含めることができる。さらに、対策方針19は、設計ToDoや実験ToDo等の進捗状況、成果物等が含められても良い。
【0058】
〔学習済みモデル〕
上述のように、オントロジーモデル6は、対象装置を構成する部品、部品の接続関係、部品間の動作の伝播に介在する構成物等の部品間の連関関係が記述され、部品を中心とする対象装置の構成が記述される。また、故障報告文章8は、故障状況が、故障情報および故障情報を含む文章として記述される。
【0059】
そのため、複数の故障報告文章8を備える故障メカニズムデータベース7とオントロジーモデル6とを入力データとして機械学習された学習済みモデル3は、故障報告文章8から取得される故障の状況に加えて、オントロジーモデル6から取得される故障に関係する部品の連関関係がモデル化される。そのため、学習済みモデル3は、過去に生じた故障を元に、対象装置の機能ブロックに含まれるすべての部品に紐づく過去の故障状況がモデル化される。
【0060】
このような学習済みモデル3のモデルの例について、
図2を参照しながら
図4を用いて説明する。ここでは、
図3に例示した燃料系の故障に係る部分がモデル化されたモデルを例に説明する。
【0061】
図4に示すように、学習済みモデル3は、故障状況が、生じた事象や関係する部品、事象の伝搬に係る構成等について、故障情報等に対応する単語、および故障情報を含む文章でモデル化されている。このうち、部品の接続関係や事象の伝搬に係る構成等はオントロジーモデル6から抽出され、生じた事象や関係する部品、故障の内容等は故障メカニズムデータベース7から抽出される。
【0062】
具体的には、故障要因13がエンジンの振動と高負荷運転時の車両の揺動であり、故障が生じた機能ブロック17がエンジン補機のうちの燃料系であるので、学習済みモデル3は、エンジンの振動と高負荷運転時の車両の揺動とが、燃料系において及ぼす影響がモデル化される。
【0063】
学習済みモデル3は、燃料系の1つの故障として
図3に示す故障状況に係る故障報告文章8が含まれる。この場合の故障報告文章8の文章は、「エンジンの振動と高負荷運転時の車両の揺動とにより燃料フィルタブラケットの溶接部が疲労破壊し、燃料フィルタが脱落して燃料ホースとラジエータファンが接触・干渉し、燃料ホースが切断して燃料漏れが生じる」という構成である。
【0064】
学習済みモデル3は、さらに、燃料系の部品の相互関係がオントロジーモデル6からモデル化される。オントロジーモデル6からモデル化される燃料系の構造は、
図4に示すように、「燃料フィルタブラケットに燃料フィルタが保持され、燃料フィルタから燃料ホースを介して燃料が供給される」構成である。
【0065】
このようなオントロジーモデル6が取り入れられることにより、
図4の矢印で示すように、故障報告文章8のうち、「疲労破壊」および「破損」が燃料フィルタブラケットの溶接部と紐づけられ、「脱落」が燃料フィルタと紐づけられ、「接触・干渉」が燃料ホースと紐づけられ、「切断」が燃料ホースと紐づけられる。さらに、「接触・干渉」が「ラジエータファン」および「異音発生」と紐づけられ、「異音発生」と「エンジンルーム」とが紐づけられる。そのため、燃料系の故障状況を示す故障報告文章8に、燃料系の装置構成が加味された学習済みモデル3が生成される。
【0066】
その結果、
図3に示す燃料系の故障の1つに係る学習済みモデル3は、燃料系の故障状況に加え、燃料系の構造が含まれるようになる。さらに、学習済みモデル3は、その他の燃料系の故障状況が故障メカニズムデータベース7が入力されることにより機械学習される。また、学習済みモデル3は、他の機能ブロックのオントロジーモデル6や、故障状況に係る故障メカニズムデータベース7が入力されることにより機械学習される。その結果、学習済みモデル3は、対象装置の種々の故障状況と、装置構成とがモデル化され、幅広い故障に対応できるモデルとなる。
【0067】
〔故障診断装置〕
次に、
図1,
図2を参照しながら
図5,
図6を用いて、故障診断装置1の構成例について説明する。
【0068】
故障診断装置1は、制御部20と、学習装置2と、故障診断部4と、入力部22と、記憶部23と、表示部24とを備える。
【0069】
制御部20は、故障診断装置1の動作を制御する。入力部22は、機械学習の入力データとなるオントロジーモデル6および故障メカニズムデータベース7が入力される。入力された、オントロジーモデル6と故障メカニズムデータベース7とは、制御部20の制御により記憶部23に格納される。
【0070】
学習装置2はAI5を搭載し、制御部20の制御に応じて、記憶部23に格納されるオントロジーモデル6および故障メカニズムデータベース7を入力データとしてAI5に入力して機械学習させることにより、学習済みモデル3を生成する。生成された学習済みモデル3は記憶部23に格納される。
【0071】
なお、故障メカニズムデータベース7には多数の故障報告文章8が含まれる。これらの故障報告文章8に用いられる単語が統一されていないと、生成される学習済みモデル3を用いた故障診断の際に、入力される故障報告9との比較を適切に行うことができない。そのため、機械学習の入力データとなる故障メカニズムデータベース7に含まれる故障報告文章8は、あらかじめ、使用する単語や表現・構文を標準化して作成される。また、標準化された単語や表現・構文を使用して故障報告文章8を作成したとしても、多少のばらつきが存在する場合もあり得る。このような場合でも、多数の故障報告文章8について機械学習することにより、学習済みモデル3は、使用される単語や表現・構文についてある程度の類似性を判断できるモデルとなることも期待できる。
【0072】
故障診断を行う際に、故障診断装置1は、表示部24に故障報告入力画面30を表示させる故障報告入力部27を備えても良い。故障報告9は、故障報告入力画面30に表示された項目を選択する態様で故障診断装置1に入力される。表示部24は、例えば、タッチパネルであり、表示された故障報告入力画面30から情報を入力することができる構成である。
【0073】
故障報告入力画面30は、故障報告9として、故障報告9に含まれる故障要因13、故障部位14、故障事象15等を個別に入力することができ、故障モード18を入力することもできる。
【0074】
故障報告入力画面30は、故障要因13のうちの内的要因および外的要因、故障部位14、故障事象15、故障モード18を入力する項目として選択的に入力できる項目スイッチ31を表示する。入力する項目に対応する項目スイッチ31が画面タッチ等により選択されると、その項目に対応するプルダウンメニュー32が表示される。プルダウンメニュー32には、その項目に入力される候補が列挙され、表示された候補の1つまたは複数を選択することにより、その項目の情報が入力される。
図6では、内的要因に対応する項目スイッチ31が選択され、プルダウンメニュー32に表示された候補のうちの「エンジンの振動」が選択されている。そして、内的要因および外的要因、故障部位14、故障事象15、故障モード18のそれぞれに対応する項目スイッチ31を順に選択することにより、故障報告9に係る全ての情報を入力することができる。なお、その項目に対して入力する情報がない場合は、プルダウンメニュー32の候補のうちの「なし」を選択し、候補の中に対応する情報がない場合は「その他」を選択し、任意の情報を入力することができる。「その他」が選択されて任意の情報が入力される際には、表示部24にキーボードを表示し、キーボードから任意の情報が入力されても良く、別途故障診断装置1に設けられるキーボード等の入力手段から任意の情報が入力されても良い。
【0075】
このようにして入力された情報は、対応する項目と紐づけられて、故障報告9として記憶部23に格納される。
【0076】
そして、制御部20の制御に応じて、記憶部23に格納される学習済みモデル3に、記憶部23に格納される故障報告9を入力して故障診断が行われる。故障診断部4は、故障診断として、学習済みモデル3にモデル化された故障報告文章8と故障報告9とを比較し、1または複数の一致度の高い故障報告文章8を出力する。具体的には、故障報告9と所定の程度以上の一致度を有する故障報告文章8が選択される。例えば、故障診断部4は、故障報告9に含まれる単語またはその単語に類似する単語を、所定数以上、または所定の割合以上含む故障報告文章8が抽出して出力する。故障報告文章8と故障報告9とを比較する際には、故障報告9の記述を自然言語処理により単語・文脈を把握して、同義語・類似表現を考慮して故障報告文章8と対比する処理を行っても良い。また、学習済みモデル3はオントロジーモデル6がモデル化されているので、故障診断部4は、故障報告9に含まれる単語に相当する部品と連関する部品を考慮した故障診断を行うことができる場合もある。
【0077】
表示部24は、制御部20の制御に応じて、故障診断部4で出力された故障報告文章8を表示する。表示部24は、故障報告文章8のうちの故障概要16に対応する部分のみを表示しても良い。故障報告文章8が複数出力された場合は、表示部24は、複数の故障報告文章8を一致度の高い順に表示する。
【0078】
なお、故障診断部4は、故障報告文章8と故障報告9との一致確率を算出しても良い。この場合、表示部24は、故障報告文章8と共に、故障報告文章8に対応付けて一致確率を表示する。
【0079】
以上のように、故障報告文章8からなる故障メカニズムデータベース7を入力データとして機械学習を行うため、故障診断結果を故障の状況を示す文章である故障概要16が少なくとも含まれる故障報告文章8として直接的に出力することができる。そのため、作業者が作業車等の対象装置の構造に精通していなくとも、故障診断の際に試行錯誤する必要がないため、故障診断を容易に行うことができる。
【0080】
特に、出力される故障報告文章8は、故障診断の際に入力する故障報告9に含まれる単語からなる文章の形で出力される。そのため、作業者は、対象装置の構造に精通していなくとも、また、故障診断の知識が十分になくとも、故障診断結果を容易に理解することができ、最も適切と判断する故障報告文章を選択するだけで、精度良く故障診断を行うことができる。
【0081】
また、上述のように、故障報告文章8は、対策方針を含めることができる。この場合、故障診断結果として出力される故障報告文章8には、故障状況と共に、その故障に対する対応策が記述される。そのため、作業者は、故障診断結果を確認するだけで、故障に対処する方法、故障個所を修理する方法、あるいは故障に対応して設計変更を検討すべき事項等を確認することができ、迅速な故障に対する対応を行うことができる。さらに、新製品開発時に故障報告文章8を参照して現状の対象装置の課題を検出し、新製品の開発に参照することもできる。
【0082】
〔故障診断方法〕
次に、
図1,
図2を参照しながら、
図7を用いて故障診断方法について説明する。なお、以下の説明では、上記故障診断装置1にて故障診断を行う方法であっても良いが、故障診断方法は、故障診断装置1を用いて実施される場合に限らず、他の装置構成、あるいはソフトウェア、またはこれらを混在させて実施されても良い。
【0083】
まず、作業車等の対象装置の構造を示すオントロジーモデル6が生成されると共に、対象装置に対して過去に生じた故障状況を示す故障報告文章8を集めた故障メカニズムデータベース7が生成される。
【0084】
次に、生成された、オントロジーモデル6および故障メカニズムデータベース7を入力データとしてAI5に機械学習させて学習済みモデル3が生成される(ステップ#1)。
【0085】
対象装置に故障が生じると(ステップ#2 Yes)、作業者は、故障要因13、故障部位14、故障事象15等の故障情報について、確認できる範囲の情報を用いて、故障報告9を作成する(ステップ#3)。故障報告9は、故障要因13、故障部位14、故障事象15等を含む文章でも良いが、故障要因13、故障部位14、故障事象15等と対応付けられた単語であっても良い。
【0086】
次に、作成された故障報告9が学習済みモデル3に入力されることにより故障診断が行われる(ステップ#4)。故障診断の結果、故障メカニズムデータベース7に格納された故障報告文章8のうち、故障報告9と一致度の高い1または複数の故障報告文章8が出力される。
【0087】
次に、出力された故障報告文章8が表示される(ステップ#5)。表示される故障報告文章8は、少なくとも故障概要16が含まれる。複数の故障報告文章8が出力された場合、一致度が高い順に故障報告文章8が表示される。また、それぞれの故障報告文章8の故障報告9との一致確率が対応付けて表示されても良い。
【0088】
次に、作業者は、表示された故障報告文章8を確認し、表示された故障報告文章8の内容が、実際に生じている故障に一致しているか、あるいはどの故障報告文章8が最も一致しているかを検討することにより、実際に生じている故障に対応すると判断される故障報告文章8を選択する(ステップ#6)。
【0089】
そして、作業者は、選択された故障報告文章8から故障の詳しい状況を確認し、故障に対する対応を検討する。あるいは、故障報告文章8に対策方針19が示されている場合、対策方針19に沿った対応を行う(ステップ#7)。
【0090】
以上のような故障診断方法であっても、故障診断装置1と同様に、作業者が作業車等の対象装置の構造や故障診断に精通していなくとも、診断結果を少なくとも故障概要16が含まれる故障報告文章8として直接的に確認することができ、故障診断の際に試行錯誤する必要がないため、故障診断を容易に行うことができる。
【0091】
〔故障診断の判定〕
上記故障診断装置1および故障診断方法において行われる故障診断の結果、1または複数の故障報告文章8が表示部24に表示される。表示された故障報告文章8から、故障診断の作業者が、いずれの故障報告文章8が適切であるか判断しても良いが、故障診断装置1において、その判断を補助する故障診断判定部28が設けられても良い。以下、適切な故障報告文章8を判定する具体的な構成例について、
図2,
図4,
図8を用いて説明する。
【0092】
故障診断装置1は、故障診断判定部28の制御により故障診断判定画面35を表示部24に表示する。故障診断判定画面35は、不具合事象候補38と部品の接続関係36とを表示する。不具合事象候補38には、オントロジーモデル6における特定の部品に関連した不具合事象である故障の単位39が、故障診断により候補に挙げられた故障報告文章8から抽出されて列挙される。この際、対応する故障報告文章8の一致度を参照して、故障の単位39が一致度の高い順に並べられても良く、一致確率と共に表示しされても良い。部品の接続関係36には、故障報告文章8の候補に対応する複数の部品が、この特定の部品に対する部品候補37として列挙される。また、部品の接続関係36には、この部品候補37のうちから選択された1つの特定の部品について、オントロジーモデル6において上流側に接続される部品が、部品候補37として別途表示される。この時表示される部品候補37は、1つ上流側の部品のみならず、複数個上流側の部品についても、順に表示されても良い。
【0093】
故障診断により複数の故障報告文章8が候補として挙げられると、まず、故障診断によって候補に挙げられた複数の故障報告文章8における、オントロジーモデル6の最下流の部品が部品候補37として、故障診断判定画面35の部品の接続関係36に列挙して表示される。これと同時に、最下流の部品候補37に対応するする故障の単位39が不具合事象候補38として、故障診断判定画面35に表示される。
【0094】
次に、作業者は、不具合事象候補38に表示された故障の単位39のうち、対象装置に生じている実際の故障状況に合致する故障の単位39を選択する。このような選択は、該当する故障の単位39を画面タッチすること等により行われる。1つの故障の単位39が選択されると、部品の接続関係36における最下流に対応する部品候補37のうちの、選択された故障の単位39に対応する部品が、文字色の変化や点滅等により強調さる。そして、オントロジーモデル6の上流側に対応する部品候補37には、この部品と接続される部品が列挙して表示される。この段階で、選択された故障の単位を含む故障報告文章8に絞り込まれる。
【0095】
最下流の部品に対応する故障の単位39が選択されると、オントロジーモデル6において、絞り込まれた故障報告文章8に含まれ、かつ、選択された故障の単位39に対応する部品の上流側の部品に関する故障の単位39が不具合事象候補38に列挙して表示される。作業者は、表示された故障の単位39のうち、対象装置に生じている実際の故障状況に合致する故障の単位39を選択する。
【0096】
このような処理を、オントロジーモデル6の最上流の部品に至るまで繰り返して、故障報告文章8が絞り込まれる。オントロジーモデル6の最上流の部品に至るまでに、故障報告文章8が1つに絞り込まれた場合は、その故障報告文章8が実際に生じている故障に対応する故障報告文章8であると判定することができる。オントロジーモデル6の最上流の部品に至っても、複数の故障報告文章8が残っている場合は、作業者は、これらの故障報告文章8を考慮してさらに調査を進める等して、適切な故障報告文章8を判定する。
【0097】
例えば、
図4に例示された故障報告文章8が適切な場合、最初に表示される故障の単位は、オントロジーモデル6の最下流の部品に対する故障の状況に対応する故障の単位Aであり、「燃料ホースが切断して燃料漏れした」という故障の単位39を含んで表示される。「燃料ホースが切断して燃料漏れした」が選択され、次の故障の単位39が表示されると、故障の単位Bに対応する「エンジンルームにて異音発生した」が選択される。最終的に、故障の単位Cに対応する「燃料フィルタが脱落した」を含む故障報告文章8が残り、これにより、適切な故障報告文章8が抽出される。
【0098】
適切な故障報告文章8を判定することにより、複数の故障報告文章8が候補として表示されても、故障診断を容易に行うことができる。
【0099】
〔別実施形態〕
(1)上記故障診断装置1において、故障報告文章生成部26がさらに設けられても良い。故障報告文章生成部26は、学習済みモデル3に故障報告9を入力することにより、故障報告9に対応する故障報告文章8を新たに生成する。
【0100】
学習済みモデル3は、故障報告文章8(故障メカニズムデータベース7)およびオントロジーモデル6を入力データとして生成される。そのため、学習済みモデル3は、故障報告文章8に加えて対象装置の構造がモデル化される。このような学習済みモデル3に故障報告9を入力することにより、過去の故障報告文章8を参考にしながら、対象装置の構造を考慮して故障報告9を解析することができる。その結果、過去の故障報告文章8の記述内容や文書構成を参考に、入力された故障報告9に対応する新たな故障報告文章8を生成することができる。
【0101】
なお、故障報告文章8の生成は、故障診断装置1のみならず、上記実施形態で説明した故障診断方法に、学習済みモデル3に故障報告9を入力して故障報告文章8を生成する工程が加えられても良い。
【0102】
故障報告文章8は、故障が生じた場合に故障診断を行い、診断結果に基づいて作業者等によって作成される。この際、作業者によって用いる単語や表現が異なり、また、作業者によって対象装置の構造に対する知見や故障診断に関する知見も異なるため、作成された故障報告文章8の完成度や表現が一定にならないことがあった。上述のように、学習済みモデル3に故障報告9を入力して新たな故障報告文章8を生成することができる。そのため、既に存在する故障報告文章8で使用される単語や表現との整合性が図られ、故障報告文章8の完成度も一定となりやすい。その結果、対象装置の構造に対する知見や故障診断に関する知見が高くない作業者であっても、容易に他の故障報告文章8と同等の水準の故障報告文章8を生成することができる。
【0103】
さらに、学習済みモデル3に故障報告9を入力して生成された故障報告文章8を含む故障メカニズムデータベース7を入力して、再度機械学習し、学習済みモデル3を更新しても良い。学習済みモデル3に故障報告9を入力して生成された故障報告文章8は、既に機械学習された故障報告文章8と同様の基準で、使用する単語や表現・構文が標準化されている。そのため、更新された学習済みモデル3は、使用する単語や表現・構文の標準化が向上され、故障診断の精度をさらに向上させることができる。
【0104】
(2)上記各実施形態において、故障メカニズムデータベース7およびオントロジーモデル6を入力データとして機械学習が行われるだけでなく、任意の故障に関する故障情報に対応する単語を入力データとし、その故障に対応する故障報告文章8を教師データとする機械学習がさらに行われても良い。
【0105】
故障メカニズムデータベース7に格納される既存の故障報告文章8は、あらかじめ整理されており、使用される単語や表現・構文が標準化されている。別途用意された任意の故障に関する故障情報は、既存の故障報告文章8に用いられた単語や表現と意味が同じでも異なる単語や表現が行われることがある。上記のような機械学習を加えることにより、学習済みモデル3は、単語や表現・構文について汎用性が広がり、故障診断の際に異なる単語や表現・構文が用いられても、適切に故障報告9と故障報告文章8との一致度を比較・検証することが可能となる。その結果、より容易かつ精度良く故障診断を行うことができる。
【0106】
(3)上記各実施形態において、機械学習として、さらに自然言語処理に係る機械学習が加えられても良い。これにより、学習済みモデル3は、単語や表現等についての類語を判断できるようにモデル化される。その結果、適切に故障報告9と故障報告文章8との一致度を比較・検証することが可能となり、より容易かつ精度良く故障診断を行うことができるようになる。
【0107】
(4)故障報告入力画面30を介して故障報告9を入力する構成に限らず、データ化された故障報告9を入力部22から入力し、記憶部23に格納しても良い。故障診断の際には、記憶部23に格納された故障報告9を読み出し、故障診断部4は故障診断を行う。なお、故障報告9は、故障要因13、故障部位14、故障事象15のうちの少なくとも1つに対応する単語を含む文章であっても良い。また、故障報告9は、文章化されず、故障情報である故障要因13、故障部位14、故障事象15のうちの少なくとも1つに対応する単語であっても良い。さらに、故障報告9は、故障情報として、さらに故障モード18を含んでも良い。なお、入力される故障報告9は、必ずしもデータ化されている必要はなく、故障報告9に対応する単語を1つずつ入力していっても良い。このような場合であっても、故障診断に際し、入力される故障報告9に含まれる単語に類似する単語が考慮される。そのため、故障報告9で使用する単語を厳密に制限しなくとも故障診断を行うことができ、このことからも故障診断を容易に行うことができる。
【0108】
(5)上記各実施形態において、故障診断装置1は、AI5の他にCPU等のプロセッサを備える。故障診断装置1は、ハードウェアで構成されても良いが、少なくとも一部の機能がソフトウェアで構成されても良い。この場合、ソフトウェアは記憶部23に記憶され、プロセッサによって動作する。また、故障診断装置1における機能ブロックの構成も上記構成に限らず、それぞれの機能ブロックが適宜集約され、あるいは細分化された構成であっても良い。
【0109】
また、AI5は故障診断装置1に設けられる場合に限らず、故障診断装置1がネットワーク等を介して通信可能な状態で設けられても良い。この場合、機械学習の入力データや故障診断の故障報告9はネットワークを介してAI5に送信され、故障診断結果である故障報告文章8はAI5からネットワークを介して故障診断装置1に送信される。
【産業上の利用可能性】
【0110】
本発明は、農作業車や建築作業車をはじめとする各種の作業車等の対象装置に生じた故障に対する故障診断に適用することができる。
【符号の説明】
【0111】
1 故障診断装置
2 学習装置
3 学習済みモデル
4 故障診断部
6 オントロジーモデル
7 故障メカニズムデータベース
8 故障報告文章
9 故障報告
13 故障要因
14 故障部位
15 故障事象
18 故障モード
19 対策方針
24 表示部
26 故障報告文章生成部