(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-02
(45)【発行日】2023-11-13
(54)【発明の名称】リポソームの中にカプセル化されたトリテルペノイド抗真菌薬の注射可能な組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 31/4439 20060101AFI20231106BHJP
A61K 9/127 20060101ALI20231106BHJP
A61K 47/24 20060101ALI20231106BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20231106BHJP
A61K 47/28 20060101ALI20231106BHJP
A61P 31/10 20060101ALI20231106BHJP
【FI】
A61K31/4439
A61K9/127
A61K47/24
A61K47/26
A61K47/28
A61P31/10
(21)【出願番号】P 2020536766
(86)(22)【出願日】2018-12-21
(86)【国際出願番号】 US2018067216
(87)【国際公開番号】W WO2019135954
(87)【国際公開日】2019-07-11
【審査請求日】2021-12-20
(32)【優先日】2018-01-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】519363018
【氏名又は名称】サイネクシス,インコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119253
【氏名又は名称】金山 賢教
(74)【代理人】
【識別番号】100124855
【氏名又は名称】坪倉 道明
(74)【代理人】
【識別番号】100129713
【氏名又は名称】重森 一輝
(74)【代理人】
【識別番号】100137213
【氏名又は名称】安藤 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100143823
【氏名又は名称】市川 英彦
(74)【代理人】
【識別番号】100183519
【氏名又は名称】櫻田 芳恵
(74)【代理人】
【識別番号】100196483
【氏名又は名称】川嵜 洋祐
(74)【代理人】
【識別番号】100203035
【氏名又は名称】五味渕 琢也
(74)【代理人】
【識別番号】100160749
【氏名又は名称】飯野 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100160255
【氏名又は名称】市川 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100202267
【氏名又は名称】森山 正浩
(74)【代理人】
【識別番号】100182132
【氏名又は名称】河野 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100146318
【氏名又は名称】岩瀬 吉和
(74)【代理人】
【識別番号】100127812
【氏名又は名称】城山 康文
(72)【発明者】
【氏名】モッテラム,ラジェシュワ
【審査官】金子 亜希
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-530593(JP,A)
【文献】特表2007-517909(JP,A)
【文献】特開2014-237729(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/4439
A61K 9/127
A61K 47/24
A61K 47/26
A61K 47/28
A61P 31/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
注射可能な組成物であって、
水相;及び、
1以上の単層小胞[ここで、該単層小胞は、それぞれが、リン脂質及びコレステロールを含んでおり、並びに、それぞれが、式(II)
【化2】
で表される化合物(これは、(1S,4aR,6aS,7R,8R,10aR,10bR,12aR,14R,15R)-15-[[2-アミノ-2,3,3-トリメチルブチル]オキシ]-8-[(1R)-1,2-ジメチルプロピル]-14-[5-(4-ピリジニル)-1H-1,2,4-トリアゾール-1-イル]-1,6,6a,7,8,9,10,10a,10b,11,12,12a-ドデカヒドロ-1,6a,8,10a-テトラメチル-4H-1,4a-プロパノ-2H-フェナントロ[1,2-c]ピラン-7-カルボン酸である)又はその薬学的に許容される塩若しくは水和物をカプセル化している];
を含んでおり;
ここで、前記注射可能な組成物の中の前記カプセル化された式(II)で表される化合物又はその薬学的に許容される塩若しくは水和物の濃度が、約0.01~約50mg/mLであり;
ここで、前記リン脂質が、ホスファチジルグリセロール及びホスファチジルコリンを含んでおり;
ここで、式(II)で表される化合物又はその薬学的に許容される塩若しくは水和物と前記ホスファチジルグリセロールと前記ホスファチジルコリンと前記コレステロールのモル比が、1:2:5:2.5であり;
ここで、前記水相が、糖を含んでいて、約5.0~約7.0のpHを有し;及び、
ここで、前記1以上の単層小胞が、前記水相の中で水和している;
前記注射可能な組成物。
【請求項2】
前記1以上の単層小胞が、式(II)で表される化合物のクエン酸塩をカプセル化している、請求項1に記載の注射可能な組成物。
【請求項3】
注射可能な組成物を静脈内投与することにより治療を必要とする患者における真菌感染症を治療するための、請求項1に記載の注射可能な組成物。
【請求項4】
前記患者がヒトである、請求項3に記載の注射可能な組成物。
【請求項5】
前記真菌感染症がカンジダ属種(Candida spp.)によって引き起こされる、請求項3に記載の注射可能な組成物。
【請求項6】
前記真菌感染症がアスペルギルス属種(Aspergillus spp.)によって引き起こされる、請求項3に記載の注射可能な組成物。
【請求項7】
前記糖が、単糖類、二糖類及びそれらの組み合わせから選択される、請求項1に記載の注射可能な組成物。
【請求項8】
前記糖が、スクロース、トレハロース、ラクトース、グルコース、フルクトース及びガラクトース並びにそれらの組み合わせから選択される、請求項7に記載の注射可能な組成物。
【請求項9】
前記ホスファチジルコリンが、ジパルミトイルホスファチジルコリン、ジステアロイルホスファチジルコリン、卵ホスファチジルコリン、ダイズホスファチジルコリン、ジラウロイルホスファチジルコリン及びジミリストイルホスファチジルコリンから選択される、請求項1に記載の注射可能な組成物。
【請求項10】
前記ホスファチジルグリセロールが、ジパルミトイルホスファチジルグリセロール、ジステアロイルホスファチジルグリセロール、ジラウロイルホスファチジルグリセロール及びジミリストイルホスファチジルグリセロールから選択される、請求項1に記載の注射可能な組成物。
【請求項11】
前記1以上の単層小胞の平均粒子サイズが約150nm未満である、請求項1に記載の注射可能な組成物。
【請求項12】
前記1以上の単層小胞の平均粒子サイズが約100nm未満である、請求項11に記載の注射可能な組成物。
【請求項13】
前記1以上の単層小胞の平均粒子サイズが約70~約80nmである、請求項12に記載の注射可能な組成物。
【請求項14】
1以上の単層小胞[ここで、該単層小胞は、それぞれが、
式(IIa)
【化3】
で表される化合物(これは、(1S,4aR,6aS,7R,8R,10aR,10bR,12aR,14R,15R)-15-[[(2R)-2-アミノ-2,3,3-トリメチルブチル]オキシ]-8-[(1R)-1,2-ジメチルプロピル]-14-[5-(4-ピリジニル)-1H-1,2,4-トリアゾール-1-イル]-1,6,6a,7,8,9,10,10a,10b,11,12,12a-ドデカヒドロ-1,6a,8,10a-テトラメチル-4H-1,4a-プロパノ-2H-フェナントロ[1,2-c]ピラン-7-カルボン酸である)又はその薬学的に許容される塩若しくは水和物をカプセル化している]
を含んでいる注射可能な組成物を製造する方法であって、
(a) リン脂質及びコレステロールを1~5個の炭素原子を有する脂肪族アルコールに溶解させて、第1の溶液を形成させること;
(b)
式(IIa)で表される化合物又はその薬学的に許容される塩若しくは水和物を前記第1の溶液に溶解させて、第2の溶液を形成させること;
(c) 前記第二の溶液を混合させること;
(d) 前記第2の溶液から前記溶媒を蒸発させて、
式(IIa)で表される化合物又はその薬学的に許容される塩若しくは水和物を含んでいるリン脂質-コレステロール分散液を生成させること;
(e)
式(IIa)で表される化合物又はその薬学的に許容される塩若しくは水和物を含んでいる前記リン脂質-コレステロール分散液を糖溶液で水和して、水和懸濁液を生成させること;及び、
(f) 前記水和懸濁液から、1以上の単層小胞[ここで、該単層小胞は、それぞれが、リン脂質及びコレステロールを含んでおり、並びに、
式(IIa)で表される化合物又はその薬学的に許容される塩若しくは水和物をカプセル化している]を形成させること;
を含んでいる、前記方法。
【請求項15】
前記脂肪族アルコールが、メタノール又はエタノールから選択される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記糖溶液が、単糖類、二糖類及びそれらの組み合わせから選択される糖を含んでいる、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
前記糖が、スクロース、トレハロース、ラクトース、グルコース、フルクトース及びガラクトース並びにそれらの組み合わせから選択される、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
段階(b)の間に存在している
式(IIa)で表される化合物又はその薬学的に許容される塩若しくは水和物の量の約90%以上が、段階(f)の間に前記1以上の単層小胞の中でカプセル化される、請求項14に記載の方法。
【請求項19】
段階(b)の間に存在している
式(IIa)で表される化合物又はその薬学的に許容される塩若しくは水和物の量の約95%以上が、段階(f)の間に前記1以上の単層小胞の中でカプセル化される、請求項14に記載の方法。
【請求項20】
式(IIa)で表される化合物又はその薬学的に許容される塩若しくは水和物が、前記小胞の中に、約5~約12モルパーセントの量で存在している、請求項14に記載の方法。
【請求項21】
前記リン脂質がホスファチジルグリセロール及びホスファチジルコリンを含んでおり、
並びに、
式(IIa)で表される化合物又はその薬学的に許容される塩若しくは水和物と前記ホスファチジルグリセロールと前記ホスファチジルコリンと前記コレステロールのモル比が、1:2:5:2.5である、請求項14に記載の方法。
【請求項22】
段階(f)の間に、前記1以上の単層小胞を形成させるために、超音波処理、マイクロ流体混合、均質化又はそれらの組み合わせを使用する、請求項14に記載の方法。
【請求項23】
段階(f)で生成された前記1以上の単層小胞を滅菌することをさらに含む、請求項14に記載の方法。
【請求項24】
段階(f)で生成された前記1以上の単層小胞を凍結乾燥させることをさらに含む、請求項14に記載の方法。
【請求項25】
前記1以上の単層小胞の平均粒子サイズが約150nm未満である、請求項14に記載の方法。
【請求項26】
前記1以上の単層小胞の平均粒子サイズが約100nm未満である、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記1以上の単層小胞の平均粒子サイズが約70~約80nmである、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
注射可能な組成物であって、
水相;及び、
1以上の単層小胞[ここで、該単層小胞は、それぞれが、リン脂質及びコレステロールを含んでおり、並びに、それぞれが、式(IIa)
【化4】
で表される化合物(これは、(1S,4aR,6aS,7R,8R,10aR,10bR,12aR,14R,15R)-15-[[(2R)-2-アミノ-2,3,3-トリメチルブチル]オキシ]-8-[(1R)-1,2-ジメチルプロピル]-14-[5-(4-ピリジニル)-1H-1,2,4-トリアゾール-1-イル]-1,6,6a,7,8,9,10,10a,10b,11,12,12a-ドデカヒドロ-1,6a,8,10a-テトラメチル-4H-1,4a-プロパノ-2H-フェナントロ[1,2-c]ピラン-7-カルボン酸である)又はその薬学的に許容される塩若しくは水和物をカプセル化している]
を含んでおり;
ここで、前記注射可能な組成物の中の前記カプセル化された式(IIa)で表される化合物又はその薬学的に許容される塩若しくは水和物の濃度が、約0.01~約50mg/mLであり;
ここで、前記リン脂質が、ホスファチジルグリセロール及びホスファチジルコリンを含んでおり;
ここで、式(IIa)で表される化合物又はその薬学的に許容される塩若しくは水和物と前記ホスファチジルグリセロールと前記ホスファチジルコリンと前記コレステロールのモル比が、1:2:5:2.5であり;
ここで、前記水相が、糖を含んでいて、約5.0~約7.0のpHを有し;及び、ここで、前記1以上の単層小胞は、前記水相の中で水和している;
前記注射可能な組成物。
【請求項29】
1以上の単層小胞が、式(IIa)で表される化合物をカプセル化している、請求項28に記載の注射可能な組成物。
【請求項30】
1以上の単層小胞が、式(IIa)で表される化合物の薬学的に許容される塩をカプセル化している、請求項28に記載の注射可能な組成物。
【請求項31】
1以上の単層小胞が、式(IIa)で表される化合物のクエン酸塩をカプセル化している、請求項28に記載の注射可能な組成物。
【請求項32】
前記糖が、単糖類、二糖類及びそれらの組み合わせから選択される、請求項28に記載の注射可能な組成物。
【請求項33】
前記糖が、スクロース、トレハロース、ラクトース、グルコース、フルクトース及びガラクトース並びにそれらの組み合わせから選択される、請求項32に記載の注射可能な組成物。
【請求項34】
前記ホスファチジルコリンが、ジパルミトイルホスファチジルコリン、ジステアロイルホスファチジルコリン、卵ホスファチジルコリン、ダイズホスファチジルコリン、ジラウロイルホスファチジルコリン及びジミリストイルホスファチジルコリンから選択される、請求項28に記載の注射可能な組成物。
【請求項35】
前記ホスファチジルグリセロールが、ジパルミトイルホスファチジルグリセロール、ジステアロイルホスファチジルグリセロール、ジラウロイルホスファチジルグリセロール及びジミリストイルホスファチジルグリセロールから選択される、請求項28に記載の注射可能な組成物。
【請求項36】
前記1以上の単層小胞の平均粒子サイズが約150nm未満である、請求項28に記載の注射可能な組成物。
【請求項37】
前記1以上の単層小胞の平均粒子サイズが約100nm未満である、請求項36に記載の注射可能な組成物。
【請求項38】
前記1以上の単層小胞の平均粒子サイズが約70~約80nmである、請求項37に記載の注射可能な組成物。
【請求項39】
注射可能な組成物を静脈内投与することにより治療を必要とする患者における真菌感染症を治療するための、請求項28に記載の注射可能な組成物。
【請求項40】
前記真菌感染症がカンジダ属種(Candida spp.)によって引き起こされる、請求項39に記載の注射可能な組成物。
【請求項41】
前記真菌感染症がカンジダ血症である、請求項39に記載の注射可能な組成物。
【請求項42】
前記真菌感染症がアスペルギルス属種(Aspergillus spp.)によって引き起こされる、請求項39に記載の注射可能な組成物。
【請求項43】
前記真菌感染症が侵襲性アスペルギルス症である、請求項39に記載の注射可能な組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンフマフンギンに由来するトリテルペノイド抗真菌薬化合物をカプセル化しているリポソーム小胞を含んでいる組成物に関する。より詳細には、本発明は、(1,3)-β-D-グルカン合成の阻害薬であるエンフマフンギン由来トリテルペノイド(又は、その薬学的に許容される塩若しくは水和物)をカプセル化しているリン脂質二分子膜小胞を含んでいる組成物に関し、それは、全身性真菌感染症を治療及び/又は予防するために使用することができる。本発明の組成物は、良好な局所忍容性特性を有しており、注射による投与によく適している。
【背景技術】
【0002】
真菌感染症は、主要な医療問題であり、そして、最も一般的には、侵襲性真菌症(例えば、カンジダ血症、侵襲性アスペルギルス症)、限局性真菌感染症(例えば、腹部、脳、肺などに限局する胸膜膿胸及び膿瘍)及び粘膜皮膚感染症(例えば、口腔、食道及び外陰膣のカンジダ症)として現れる。感染の種類及び範囲は、真菌病原体の病原性因子、宿主の防御及び関与する解剖学的領域に依存する。
【0003】
重度の全身性真菌感染症は、免疫力が低下している患者において、例えば、悪性腫瘍を治療するために化学療法を受けている患者、又は、慢性炎症状態を治療するために免疫調節剤を投与されている患者、又は、後天的若しくは遺伝的障害による免疫不全を患っている患者などにおいて、より一般的である。現在利用可能な抗真菌療法にもかかわらず、全身性真菌感染症は、その病原体及びその患者の基礎症状に応じて、死亡率は最大で50%である。
【0004】
エンフマフンギンは、セイヨウネズ(Juniperus communis)の生きている葉に付いているホルモネア属種(Hormonema spp.)の発酵において生成されるヘミアセタールトリテルペン配糖体である(米国特許第5,756,472号; Pelaez et al., Systematic and Applied Microbiology, 23:333-343, 2000; Schwartz et al., JACS, 122:4882-4886, 2000; Schwartz, R.E., Expert Opinion on Therapeutic Patents, 11(11):1761-1772, 2001)。エンフマフンギンは、インビトロの抗真菌活性を有する何種類かのトリテルペン配糖体のうち1つである。エンフマフンギン及び別の抗真菌トリテルペノイド配糖体の抗真菌作用機序は、(1,3)-β-D-グルカン合成酵素に対するその特異作的用による、真菌細胞壁グルカン合成の阻害であると確認された(Onishi et al., Antimicrobial Agents and Chemotherapy, 44:368-377, 2000; Pelaez et al., Systematic and Applied Microbiology, 23:333-343, 2000)。1,3-β-D-グルカン合成酵素は、多くの種類の病原性真菌の中に存在し、従って、広範な抗真菌スペクトルをもたらすので、抗真菌作用にとって依然として魅力的な標的である。加えて、哺乳類には1,3-β-D-グルカン合成酵素に相当するものが存在しないので、その機序に基づく毒性は殆どないか又は全く無い。
【0005】
さまざまなエンフマフンギン誘導体が開示されており、例えば、国際特許公開第2007/126900号及び国際特許公開第2007/127012号に開示されている。
【0006】
SCY-078は、本明細書中に記載されているエンフマフンギン誘導体の代表的な化合物であり、薬物耐性株を包含する多くのカンジダ属各種(Candida species)及びアスペルギルス属各種(Aspergillus species)に対して活性を有する。SCY-078は、下記式:
【化1】
【0007】
で表される、カルボン酸とアルキルアミノエーテルで置換されたトリテルペノイド誘導体である。
【0008】
理論に拘束されることは意図しないが: アミノ官能基及びカルボン酸官能基によって、SCY-078は両親媒性分子であり、ミセル形成、表面及び血漿タンパク質への結合などの界面活性剤のような挙動を示す。
【0009】
SCY-078の静脈内投与は、疼痛、刺激、炎症及び静脈炎などの局所注射部位反応(以下、「ISR」と称する)を伴っており、これらが、末梢静脈を介したその投与を妨げてきた。観察されたISRの根本的な機序は明確には理解されていないが、また、理論拘束されることは意図しないが: 観察されたISRは、SCY-078が経静脈的に血流に導入されたときのSCY-078と注射部位の血管内皮との局所的な直接的相互作用に起因する可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】米国特許第5,756,472号
【文献】国際特許公開第2007/126900号
【文献】国際特許公開第2007/127012号
【非特許文献】
【0011】
【文献】Pelaez et al., Systematic and Applied Microbiology, 23:333-343, 2000
【文献】Schwartz et al., JACS, 122:4882-4886, 2000
【文献】Schwartz, R.E., Expert Opinion on Therapeutic Patents, 11(11):1761-1772, 2001
【文献】Onishi et al., Antimicrobial Agents and Chemotherapy, 44:368-377, 2000
【文献】Pelaez et al., Systematic and Applied Microbiology, 23:333-343, 2000
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
当技術分野においては、SCY-078及び別のエンフマフンギン誘導体抗真菌薬を、より回数が少ない及び/又はより程度が軽いISRで末梢静脈を介して静脈内投与することが可能であること、並びに、介護者及び患者の適応性及び利便性を高めることが、求められている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、末梢静脈を介した静脈内投与に適した、エンフマフンギンに由来するトリテルペノイド化合物をカプセル化し、水相中に水和させたた単一二分子膜小胞又はリポソームの注射可能な組成物を提供する。該小胞は、リン脂質及びコレステロールでできていてもよい。水相のpHは、好ましくは、約5.0~約7.0である。単糖溶液及び二糖溶液は、該水相の例である。
【0014】
該注射可能な組成物は、好ましくは、エンフマフンギン誘導体としてSCY-078又はその塩を含んでいる。
【0015】
該注射可能な組成物は、全身性真菌感染症(これは、カンジダ属各種(Candida species)又はアスペルギルス属各種(Aspergillus species)によって引き起こされる全身性真菌感染症を包含する)などの真菌感染症を治療及び/又は予防するために静脈内投与することができる。本発明の注射可能な組成物を用いることで、静脈内投与後の局所注射部位反応(例えば、疼痛、刺激、炎症及び静脈炎)は、同じ活性成分を含んでいる非リポソーム組成物を静脈内投与した後のそのような反応と比較して、回数及び/又は程度が低減され得る。
【0016】
本発明は、さらに、患者における真菌感染症を治療又は予防する方法も提供し、ここで、該方法は、エンフマフンギンに由来するトリテルペノイド化合物をカプセル化している単一二分子膜小胞を含んでいる注射可能な組成物を静脈内投与することによる。
【0017】
本発明は、さらに、注射及び静脈内投与に適した、エンフマフンギンに由来するトリテルペノイド化合物をカプセル化している単一二分子膜リポソームを含んでいる組成物を製造する方法も提供する。
【発明を実施するための形態】
【0018】
リン脂質は、親水性イオン化ヘッド又は「極性ヘッド」及び長鎖脂肪酸を含んでいる疎水性テールを有する両親媒性分子である。水和すると、複数のリン脂質分子(場合により、コレステロールなどの別の分子と一緒に)は、水又は別の水性媒体を閉じ込める閉じた二分子層同心小胞であるリポソームを形成することができる。該リン脂質分子の脂肪酸テールは、そのリポソームの二分子膜の内部の一部を形成する。該膜の一方の表面上の極性ヘッドは、そのリポソームの水性内部に向いており、そして、膜のもう一方の表面の極性ヘッドは、水性外部環境に向いている。
【0019】
薬物は、それらの物理化学的特性に応じて、リポソームの中の水性内部又は脂質二分子層のいずれかに組み込むことができ、ここで、疎水性分子は主に脂質二分子層と会合し、及び/又は、親水性分子はリポソームの内部の水性媒体の中に(例えば、溶解又は分散して)組み込まれる。
【0020】
リポソームは、単層(即ち、水性中心を取り囲むリン脂質の1つの二分子層を有する)であることができるか、又は、多重膜(即ち、多数の同心の水性充填二分子層小胞を含んでいる)であることができる。多重膜小胞(「MLV」)は、広範な不均一のサイズ分布を有する可能性があり、一般に、再現可能な製造プロセスは容易ではない。MLVは粒子サイズが大きいため、静脈内投与には望ましない。さらに、MLVは濾過によって滅菌することが困難である。静脈内投与される注射可能な組成物には、比較的小さい単層リポソームが望ましい。
【0021】
リポソームは、薬物を標的組織に送達し、全身毒性を低減させるために使用されてきたが、注射又は注入の部位において局所的に生じるISRの低減におけるそれらの有用性は、明確には理解されていなかった。さらに、本発明以前には、エンフマフンギンに由来するトリテルペノイドをリポソームの中に組み込むことが実現可能であるかどうかは知られていなかった。さらに、特に、SCY-078に関して; この薬物、は高度のタンパク質結合を示し、そして、カプセル化された薬物の放出又は漏出が血流へのSCY-078の静脈内投与時に起こるかどうかは知られていなかった; 効果的なリポソーム組成物は、注入部位におけるカプセル化された薬物の放出又は漏出を最小限に抑えるのに充分な時間、血流中で無傷のままであるリポソームを有することが必要であろう。本発明を用いて、エンフマフンギンに由来するトリテルペノイド系抗真菌薬(例えば、SCY-078又はその薬学的に許容される塩)をカプセル化するリン脂質-コレステロール小胞の組成物を静脈内投与することが可能であり、そして、その小胞は、細網内皮系の臓器(例えば、肝臓、脾臓など)の中でマクロファージに取り込まれるまで血流中にそのまま残ることができる。さらに、ISRの徴候は極めて低濃度の遊離(カプセル化されていない)SCY-078で生じ得るが、本発明を用いて、注射部位において遊離薬物のアベイラビリティを局所的に最小化することによって、SCY-078の静脈内投与時におけるISRの重症度及び頻度を軽減させることができる。本発明は、抗真菌薬の有益性を提供しながら静脈内投与に起因するISRを低減させるアプローチとして、SCY-078(又は、その薬学的に許容される塩)又は別のエンフマフンギン由来トリテルペノイド抗真菌薬のリポソームなどのリン脂質(「PL」)に基づく系におけるカプセル化を提供する。本発明を用いて、遊離(カプセル化されていない)薬物を最小限にし、リポソーム組成物を商業的製造に適したものにするために、SCY-078を高効率でリポソームの中にカプセル化することが可能である。さらに、本明細書中に記載されているリポソームの物理化学的特性は安定しており、これは当該組成物の貯蔵に貢献する。
【0022】
本発明は、
水相;及び、
1以上の単層小胞[ここで、該単層小胞は、それぞれが、リン脂質及びコレステロールを含んでおり、並びに、それぞれが、式(I)
【化2】
【0023】
〔式中、
Xは、O又はH、Hであり;
Reは、C(O)NRfRg、又は、1個若しくは2個の窒素原子を含んでいる6員環ヘテロアリール基(ここで、該ヘテロアリール基は、環炭素において、フルオロ若しくはクロロで1置換されていてもよいか、又は、環窒素において、酸素で1置換されていてもよい)であり;
Rf、Rg、R6及びR7は、それぞれ独立して、水素又はC1-C3アルキルであり;
R8は、C1-C4アルキル、C3-C4シクロアルキル又はC4-C5シクロアルキル-アルキルであり;
R9は、メチル又はエチルであり;及び、
R8とR9は、一緒に、1個の酸素原子を含んでいる6員飽和環を形成してもよい〕
で表される化合物又はその薬学的に許容される塩若しくは水和物をカプセル化している];
を含んでいる(ここで、該1以上の単層小胞は、該水相の中で水和している)注射可能な組成物を提供する。
【0024】
該水相のpHは、好ましくは、約5.0~約7.0である。単糖溶液及び二糖溶液は、該水相の例である。該注射可能な組成物は、全身性真菌感染症(これは、カンジダ属各種(Candida species)又はアスペルギルス属各種(Aspergillus species)によって引き起こされる全身性真菌感染症を包含する)などの真菌感染症を治療及び/又は予防するために静脈内投与することができる。
【0025】
本発明は、さらに、真菌感染症を治療及び/又は予防する方法も提供し、ここで、該方法は、1以上の単層小胞(ここで、該単層小胞は、それぞれが、リン脂質及びコレステロールを含んでおり、並びに、それぞれが、式(I)で表される化合物又はその薬学的に許容される塩若しくは水和物をカプセル化している)を含んでいる該注射可能な組成物を静脈内投与することによる。さらに、本発明は、真菌感染症を治療又は予防するための注射可能な薬剤の調製における、式(I)で表される化合物又はその薬学的に許容される塩若しくは水和物をカプセル化している該小胞の使用も提供する。
【0026】
本発明は、さらに、
水相;及び、
1以上の単層小胞[ここで、該単層小胞は、それぞれが、リン脂質及びコレステロールを含んでおり、並びに、それぞれが、式(Ia)
【化3】
【0027】
〔式中、置換基は、式(I)において与えられているとおりである〕
で表される化合物又はその薬学的に許容される塩若しくは水和物をカプセル化している];
を含んでいる(ここで、該1以上の単層小胞は、該水相の中で水和している)注射可能な組成物も提供する。
【0028】
該水相のpHは、好ましくは、約5.0~約7.0である。単糖溶液及び二糖溶液は、該水相の例である。該注射可能な組成物は、全身性真菌感染症(これは、カンジダ属各種(Candida species)又はアスペルギルス属各種(Aspergillus species)によって引き起こされる全身性真菌感染症を包含する)などの真菌感染症を治療及び/又は予防するために静脈内投与することができる。
【0029】
本発明は、さらに、真菌感染症を治療及び/又は予防する方法も提供し、ここで、該方法は、1以上の単層小胞(ここで、該単層小胞は、それぞれが、リン脂質及びコレステロールを含んでおり、並びに、それぞれが、式(Ia)で表される化合物又はその薬学的に許容される塩若しくは水和物をカプセル化している)を含んでいる該注射可能な組成物を静脈内投与することによる。さらに、本発明は、真菌感染症を治療又は予防するための注射可能な薬剤の調製における、式(Ia)で表される化合物又はその薬学的に許容される塩若しくは水和物をカプセル化している該小胞の使用も提供する。
【0030】
実施形態1では: Xは、H、Hであり、及び、その他の置換基は式(I)において与えられているとおりである。
【0031】
実施形態2では: Reは、ピリジル又はピリミジニル(ここで、該ピリジル又はピリミジニルは、環炭素において、フルオロ若しくはクロロで1置換されていてもよいか、又は、環窒素において、酸素で1置換されていてもよい)であり、及び、その他の置換基は実施形態1又は式(I)において与えられているとおりである。
【0032】
実施形態3では: Reは、4-ピリジルであり、及び、その他の置換基は実施形態1又は式(I)において与えられているとおりである。
【0033】
実施形態4では: Reは、C(O)NH2又はC(O)NH(C1-C3アルキル)であり、及び、その他の置換基は実施形態1又は式(I)において与えられているとおりである。
【0034】
実施形態5では: R8は、C1-C4アルキルであり、及び、R9は、メチルであり;及び、その他の置換基は実施形態1、実施形態2、実施形態3若しくは実施形態4又は式(I)において与えられているとおりである。
【0035】
実施形態6では: R8は、t-ブチルであり、R9は、メチルであり;及び、その他の置換基は実施形態1、実施形態2、実施形態3若しくは実施形態4又は式(I)において与えられているとおりである。
【0036】
実施形態7では: R6及びR7は、それぞれ独立して、水素又はメチルであり、及び、その他の置換基は実施形態1、実施形態2、実施形態3、実施形態4、実施形態5若しくは実施形態6又は式(I)において与えられているとおりである。
【0037】
実施形態1’では: Xは、H、Hであり、及び、その他の置換基は式(Ia)において与えられているとおりである。
【0038】
実施形態2’では: Reは、ピリジル又はピリミジニル(ここで、該ピリジル又はピリミジニルは、環炭素において、フルオロ若しくはクロロで1置換されていてもよいか、又は、環窒素において、酸素で1置換されていてもよい)であり、及び、その他の置換基は実施形態1’又は式(Ia)において与えられているとおりである。
【0039】
実施形態3’では: Reは、4-ピリジルであり、及び、その他の置換基は実施形態1’又は式(Ia)において与えられているとおりである。
【0040】
実施形態4’では: Reは、C(O)NH2又はC(O)NH(C1-C3アルキル)であり、及び、その他の置換基は実施形態1’又は式(Ia)において与えられているとおりである。
【0041】
実施形態5’では: R8は、C1-C4アルキルであり、及び、R9は、メチルであり;及び、その他の置換基は実施形態1’、実施形態2’、実施形態3’若しくは実施形態4’又は式(Ia)において与えられているとおりである。
【0042】
実施形態6’では: R8は、t-ブチルであり、R9は、メチルであり;及び、その他の置換基は実施形態1’、実施形態2’、実施形態3’若しくは実施形態4’又は式(Ia)において与えられているとおりである。
【0043】
実施形態7’では: R6及びR7は、それぞれ独立して、水素又はメチルであり、及び、その他の置換基は実施形態1’、実施形態2’、実施形態3’、実施形態4’、実施形態5’若しくは実施形態6’又は式(Ia)において与えられているとおりである。
【0044】
好ましい実施形態では、本発明は、
水相;及び、
1以上の単層小胞[ここで、該単層小胞は、それぞれが、リン脂質及びコレステロールを含んでおり、並びに、それぞれが、式(II)
【化4】
【0045】
で表される化合物(これは、(1S,4aR,6aS,7R,8R,10aR,10bR,12aR,14R,15R)-15-[[2-アミノ-2,3,3-トリメチルブチル]オキシ]-8-[(1R)-1,2-ジメチルプロピル]-14-[5-(4-ピリジニル)-1H-1,2,4-トリアゾール-1-イル]-1,6,6a,7,8,9,10,10a,10b,11,12,12a-ドデカヒドロ-1,6a,8,10a-テトラメチル-4H-1,4a-プロパノ-2H-フェナントロ[1,2-c]ピラン-7-カルボン酸である)〔本明細書中では、SCY-078と称する〕又はその薬学的に許容される塩若しくは水和物をカプセル化している];
を含んでいる(ここで、該1以上の単層小胞は、該水相の中で水和している)注射可能な組成物を提供する。
【0046】
該水相のpHは、好ましくは、約5.0~約7.0である。単糖溶液及び二糖溶液は、該水相の例である。該注射可能な組成物は、全身性真菌感染症(これは、カンジダ属各種(Candida species)又はアスペルギルス属各種(Aspergillus species)によって引き起こされる全身性真菌感染症を包含する)などの真菌感染症を治療及び/又は予防するために静脈内投与することができる。
【0047】
本発明は、さらに、真菌感染症を治療及び/又は予防する方法も提供し、ここで、該方法は、1以上の単層小胞(ここで、該単層小胞は、それぞれが、リン脂質及びコレステロールを含んでおり、並びに、それぞれが、式(II)で表される化合物又はその薬学的に許容される塩若しくは水和物をカプセル化している)を含んでいる該注射可能な組成物を静脈内投与することによる。さらに、本発明は、真菌感染症を治療又は予防するための注射可能な薬剤の調製における、式(II)で表される化合物又はその薬学的に許容される塩若しくは水和物をカプセル化している該小胞の使用も提供する。
【0048】
別の好ましい実施形態では、本発明は、
水相;及び、
1以上の単層小胞[ここで、該単層小胞は、それぞれが、リン脂質及びコレステロールを含んでおり、並びに、それぞれが、式(IIa)
【化5】
【0049】
で表される化合物(これは、(1S,4aR,6aS,7R,8R,10aR,10bR,12aR,14R,15R)-15-[[(2R)-2-アミノ-2,3,3-トリメチルブチル]オキシ]-8-[(1R)-1,2-ジメチルプロピル]-14-[5-(4-ピリジニル)-1H-1,2,4-トリアゾール-1-イル]-1,6,6a,7,8,9,10,10a,10b,11,12,12a-ドデカヒドロ-1,6a,8,10a-テトラメチル-4H-1,4a-プロパノ-2H-フェナントロ[1,2-c]ピラン-7-カルボン酸である)又はその薬学的に許容される塩若しくは水和物をカプセル化している];
を含んでいる(ここで、該1以上の単層小胞は、該水相の中で水和している)注射可能な組成物を提供する。
【0050】
該水相のpHは、好ましくは、約5.0~約7.0である。単糖溶液及び二糖溶液は、該水相の例である。該注射可能な組成物は、全身性真菌感染症(これは、カンジダ属各種(Candida species)又はアスペルギルス属各種(Aspergillus species)によって引き起こされる全身性真菌感染症を包含する)などの真菌感染症を治療及び/又は予防するために静脈内投与することができる。
【0051】
本発明は、さらに、真菌感染症を治療及び/又は予防する方法も提供し、ここで、該方法は、1以上の単層小胞(ここで、該単層小胞は、それぞれが、リン脂質及びコレステロールを含んでおり、並びに、それぞれが、式(IIa)で表される化合物又はその薬学的に許容される塩若しくは水和物をカプセル化している)を含んでいる該注射可能な組成物を静脈内投与することによる。さらに、本発明は、真菌感染症を治療又は予防するための注射可能な薬剤の調製における、式(IIa)で表される化合物又はその薬学的に許容される塩若しくは水和物をカプセル化している該小胞の使用も提供する。
【0052】
好ましい実施形態では、式(I)、式(Ia)、式(II)又は式(IIa)で表される化合物のリン酸塩を、本明細書中に記載されているように使用又は投与する。
【0053】
好ましい実施形態では、式(I)、式(Ia)、式(II)又は式(IIa)で表される化合物のクエン酸塩を、本明細書中に記載されているように使用又は投与する。
【0054】
本発明は、さらに、患者(subject)において、真菌感染症を治療又は予防するための、
1以上の単層小胞(ここで、該単層小胞は、式(I)、式(Ia)、式(II)又は式(IIa)で表される化合物又はその薬学的に許容される塩若しくは水和物をカプセル化している);及び、
薬学的に許容される担体、アジュバント又はビヒクル;
を含んでいる注射可能な組成物の使用を提供する。
【0055】
上記で記載した実施形態における化合物の説明において、示されている置換は、その置換基が当該定義と調和する安定な化合物をもたらす範囲内においてのみ包含される。
【0056】
式(I)、式(Ia)、式(II)及び式(IIa)で表される化合物並びにそれらの薬学的に許容される塩及び/又は水和物形態は、以下の1種以上を包含する酵母菌及び別の真菌に対して抗菌(例えば、抗真菌)活性を示す:アクレモニウム属(Acremonium)、アブシジア属(Absidia)(例えば、アブシジア・コリムビフェラ(Absidia corymbifera))、アルテルナリア属(Alternaria)、アスペルギルス属(Aspergillus)(例えば、アスペルギルス・クラバツス(Aspergillus clavatus)、アスペルギルス・フラブス(Aspergillus flavus)、アスペルギルス・フミガツス(Aspergillus fumigatus)、アスペルギルス・ニズランス(Aspergillus nidulans)、アスペルギルス・ニゲル(Aspergillus niger)、アスペルギルス・テレウス(Aspergillus terreus)、及び、アスペルギルス・ベルシコロル(Aspergillus versicolor))、ビポラリス属(Bipolaris)、ブラストミセス属(Blastomyces)(例えば、ブラストミセス・デルマチチジス(Blastomyces dermatitidis))、ブラストシゾミセス属(Blastoschizomyces)(例えば、ブラストシゾミセス・カピタツス(Blastoschizomyces capitatus))、カンジダ属(Candida)(例えば、カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)、カンジダ・グラブラタ(Candida glabrata)、カンジダ・グイリエルモンジイ(Candida guilliermondii)、カンジダ・ケフィル(Candida kefyr)、カンジダ・クルセイ(Candida krusei)、カンジダ・ルシタニアエ(Candida lusitaniae)、カンジダ・パラプシロシス(Candida parapsilosis)、カンジダ・シュードトロピカリス(Candida pseudotropicalis)、カンジダ・ステラトイデア(Candida stellatoidea)、カンジダ・トロピカリス(Candida tropicalis)、カンジダ・ウチリス(Candida utilis)、カンジダ・リポリチカ(Candida lipolytica)、カンジダ・ファマタ(Candida famata)、及び、カンジダ・ルゴサ(Candida rugosa))、クラドスポリウム属(Cladosporium)(例えば、クラドスポリウム・カリオニイ(Cladosporium carrionii)、及び、クラドスポリウム・トリクロイデス(Cladosporium trichloides))、コクシジオイデス属(Coccidioides)(例えば、コクシジオイデス・イミチス(Coccidioides immitis))、クリプトコッカス属(Cryptococcus)(例えば、クリプトコッカス・ネオフォルマンス(Cryptococcus neoformans))、クルブラリア属(Curvularia)、クニングハメラ属(Cunninghamella)(例えば、クニングハメラ・エレガンス(Cunninghamella elegans))、皮膚糸状菌(Dermatophyte)、エキソフィアラ属(Exophiala)(例えば、エキソフィアラ・デルマチチジス(Exophiala dermatitidis)、及び、エキソフィアラ・スピニフェラ(Exophiala spinifera))、エピデルモフィトン属(Epidermophyton)(例えば、エピデルモフィトン・フロコスム(Epidermophyton floccosum))、フォンセカエア(Fonsecaea)(例えば、フォンセカエア・ペドロソイ(Fonsecaea pedrosoi))、フザリウム属(Fusarium)(例えば、フザリウム・ソラニ(Fusarium solani))、ゲオトリクム属(Geotrichum)(例えば、ゲオトリクム・カンジズム(Geotrichum candidum)、及び、ゲオトリクム・クラバツム(Geotrichum clavatum))、ヒストプラズマ属(Histoplasma)(例えば、ヒストプラズマ・カプスラツム・var.・カプスラツム(Histoplasma capsulatum var. capsulatum))、マラセジア属(Malassezia)(例えば、マラセジア・フルフル(Malassezia furfur))、ミクロスポルム属(Microsporum)(例えば、ミクロスポルム・カニス(Microsporum canis)、及び、ミクロスポルム・ギプセウム(Microsporum gypseum))、ムコル属(Mucor)、パラコクシジオイデス属(Paracoccidioides)(例えば、パラコクシジオイデス・ブラシリエンシス(Paracoccidioides brasiliensis))、ペニシリウム属(Penicillium)(例えば、ペニシリウム・マルネフェイ(Penicillium marneffei))、フィアロフォラ属(Phialophora)、ピチロスポルム・オバレ(Pityrosporum ovale)、ニューモシスチス属(Pneumocystis)(例えば、ニューモシスチス・カリニイ(Pneumocystis carinii))、シュードアレスケリア属(Pseudallescheria)(例えば、シュードアレスケリア・ボイジイ(Pseudallescheria boydii))、リゾプス属(Rhizopus)(例えば、リゾプス・ミクロスポルス・var.・リゾポジホルミス(Rhizopus microsporus var. rhizopodiformis)、及び、リゾプス・オリザエ(Rhizopus oryzae))、サッカロミセス属(Saccharomyces)(例えば、サッカロミセス・セレビシアエ(Saccharomyces cerevisiae))、セドスポリウム属(Scedosporium)(例えば、セドスポリウム・アピオスペルム(Scedosporium apiosperum))、スコプラリオプシス属(Scopulariopsis)、スポロトリキス属(Sporothrix)(例えば、スポロトリキス・シェンキイ(Sporothrix schenckii))、トリコデルマ属(Trichoderma)、トリコフィトン属(Trichophyton)(例えば、トリコフィトン・メンタグロフィテス(Trichophyton mentagrophytes)、及び、トリコフィトン・ルブルム(Trichophyton rubrum))、及び、トリコスポロン属(Trichosporon)(例えば、トリコスポロン・アサヒイ(Trichosporon asahii)、トリコスポロン・ベイゲリイ(Trichosporon beigelii)、及び、トリコスポロン・クタネウム(Trichosporon cutaneum))。該化合物は、全身性のヒト病原性真菌感染症を引き起こす生物に対してのみ有用なだけではなく、トリコデルマ属種(Trichoderma spp.)及び別のカンジダ属種(Candida spp.)などの表在性真菌感染症を引き起こす生物に対しても有用である。該化合物は、カンジダ属各種(Candida species)及びアスペルギルス属各種(Aspergillus species)に対して特に有効である。
【0057】
式(I)、式(Ia)、式(II)及び式(IIa)で表される化合物並びにそれらの薬学的に許容される塩及び/又は水和物形態は、それらの抗真菌活性に鑑みて、外陰部、膣、皮膚、眼、毛、爪、口腔粘膜、胃腸管、気管支、肺、胸膜、腹膜、心内膜、脳、髄膜、泌尿器、膣部、口腔、腎臓、心臓、外耳道、骨、鼻腔、副鼻腔、脾臓、肝臓、皮下組織、リンパ管、関節、筋肉、腱、肺の中の間質形質細胞及び血液などにおける、さまざまな表在性、皮膚性、粘膜皮膚性、皮下性及び全身性の真菌感染症のうちの1種類以上を治療及び/又は予防するのに有用である。
【0058】
式(I)、式(Ia)、式(II)及び式(IIa)で表される化合物並びにそれらの薬学的に許容される塩及び/又は水和物形態は、陰門膣カンジダ症(VVC)、皮膚糸状菌症(例えば、白癬症(trichophytosis)、白癬(ringworm)感染症又は白癬(tinea)感染症)、爪周囲炎、癜風、紅色陰癬、間擦疹、真菌性おむつかぶれ、カンジダ外陰炎、カンジダ亀頭炎、外耳炎、カンジダ症(皮膚及び粘膜皮膚)、慢性粘膜カンジダ症(例えば、鵞口瘡及び膣カンジダ症)、クリプトコッカス症、ゲオトリクム症、トリコスポロン症、アスペルギルス症、ペニシリウム症、フザリウム症、接合菌症、スポロトリクム症、クロモミセス症、コクシジオイデス症、ヒストプラズマ症、ブラストミセス症、パラコクシジオイデス症、シュードアレシェリア症、菌腫、糸状菌性角膜炎、耳真菌症、ニューモシスチス症、真菌性膿瘍、真菌性膿胸及び真菌血症などのさまざまな感染症のうちの1種類以上を予防及び治療するのに有用である。式(I)、式(Ia)、式(II)及び式(IIa)で表される化合物並びにそれらの薬学的に許容される塩及び/又は水和物形態は、さらに、全身性及び局所性の真菌感染症を予防するための予防薬として使用することもできる。予防薬としての使用は、例えば、免疫力が低下している患者(例えば、AIDS患者、癌治療を受けている患者、又は、移植患者)の感染症の予防における選択的消化管除洗投薬計画の一部として適切であり得る。抗生物質による治療中に、真菌の過剰増殖を予防することも、一部の疾患症候群又は医原性状態においては望ましいことがあり得る。
【0059】
式(I)、式(Ia)、式(II)及び式(IIa)で表される化合物並びにそれらの薬学的に許容される塩及び/又は水和物形態は、米国特許第8,188,085号(この特許の内容は、参照によりその全体を本明細書に組み入れる)に開示されている合成方法に従って製造することができる。
【0060】
本明細書中で使用されている場合、用語「アルキル」は、指定されている範囲内の数の炭素原子を有する任意の直鎖又は分枝鎖のアルキル基を示している。従って、例えば、「C1-6アルキル」(又は、「C1-C6アルキル」)は、ヘキシルアルキル及びペンチルアルキルの全ての異性体、並びに、n-、イソ-、sec-及びt-ブチル、n-及びイソプロピル、エチル及びメチルを表す。別の例として、「C1-4アルキル」は、n-、イソ-、sec-及びt-ブチル、n-及びイソプロピル、エチル及びメチルを表す。
【0061】
用語「シクロアルキル」は、指定されている範囲内の数の炭素原子を有するアルカンの任意の環式環を示している。従って、例えば、「C3-4シクロアルキル」(又は、「C3-C4シクロアルキル」)は、シクロプロピル及びシクロブチルを表す。
【0062】
用語「シクロアルキル-アルキル」(又は、同義的に、「アルキル-シクロアルキル」)は、本明細書中で使用されている場合、上記で記載したアルキル部分を含んでおり且つ上記で記載したシクロアルキル部分も含んでいる系を示している。「シクロアルキル-アルキル」(又は、「アルキル-シクロアルキル」)への結合は、シクロアルキル部分又はアルキル部分のいずれかを介することができる。「シクロアルキル-アルキル」系において指定されている炭素原子の数は、アルキル部分及びシクロアルキル部分の両方における炭素原子の総数を示している。C4-C5シクロアルキル-アルキルの例としては、限定するものではないが、メチルシクロプロピル、ジメチルシクロプロピル、メチルシクロブチル、エチルシクロプロピル、シクロプロピルメチル、シクロプロピルエチル及びシクロブチルメチルなどがある。
【0063】
用語「ハロゲン」(又は、「ハロ」)は、フッ素、塩素、臭素及びヨウ素を表す(代替え的に、フルオロ、クロロ、ブロモ及びヨードとも称される)。
【0064】
本明細書中で使用されている場合、用語「又は」は、適切な場合には組合せてもよい、代替えを意味する。
【0065】
別途明示されていない限り、本明細書中に記載されている全ての範囲は包括的である。例えば、「1~4個のヘテロ原子」を含有すると記載されたヘテロ環式環は、該環が、1個、2個、3個又は4個のヘテロ原子を含有し得ることを意味する。本明細書中に記載されている任意の範囲が、その範囲内に、その範囲内の全ての下位範囲を包含することも理解されるべきである。従って、例えば、「1~4個のヘテロ原子」を含有すると記載されているヘテロ環式環は、その態様として、2~4個のヘテロ原子、3個又は4個のヘテロ原子、1~3個のヘテロ原子、2個又は3個のヘテロ原子、1個又は2個のヘテロ原子、1個のヘテロ原子、2個のヘテロ原子などを含有するヘテロ環式環を包含することが意図されている。
【0066】
本明細書中において定義されているさまざまなシクロアルキル並びにヘテロ環式環/ヘテロアリール環及びヘテロ環式環系/ヘテロアリール環系は、いずれも、結果として安定な化合物が得られるという条件の下で、当該化合物の残部に任意の環原子(即ち、任意の炭素原子又は任意のヘテロ原子)で結合することができる。適切な5員又は6員のヘテロ芳香族環としては、限定するものではないが、ピリジル、ピラジニル、ピリミジニル、ピリダジニル及びトリアゾリルなどがある。
【0067】
「安定な」化合物は、調製及び単離することが可能で、且つ、その構造及び特性が本明細書中に記載されている目的(例えば、患者(subject)への治療的又は予防的な投与)のために該化合物を使用するのに充分な時間にわたり本質的に変化しないままでいるか又は変化しないままでいるようにさせることが可能な化合物である。ある化合物について言及されている場合、その言及は、その化合物の安定な錯体(例えば、安定な水和物)も包含する。
【0068】
置換基及び置換パターンの選択の結果として、式(I)、式(Ia)、式(II)及び式(IIa)で表される化合物の特定のものは、不斉中心を有することができ、そして、立体異性体の混合物として、又は、個々のジアステレオマー若しくはエナンチオマーとして、存在することができる。別途示されていない限り、これらの化合物の全ての異性体形態(並びに、それらの薬学的に許容される塩及び/又は水和物形態)は、単離されたものか又は混合物の状態であるかにかかわらず、本発明の範囲内にある。また、示されている該化合物の互変異性体形態(並びに、それらの薬学的に許容される塩及び/又は水和物形態)も、本発明の範囲内に包含される。
【0069】
任意の構成要素の中に、又は、式(I)、式(Ia)、式(II)若しくは式(IIa)の中に、任意の可変部分が2回以上出現する場合、各出現におけるその定義は、他の全ての出現におけるその定義から独立している。また、置換基及び/又は可変部分の組合せは、そのような組合せが結果として安定な化合物を生じる場合にのみ許容される。
【0070】
用語「置換されている」は、そのような一置換及び多置換(同一部位における複数の置換を包含する)が化学的に可能である範囲内において、指定された置換基による一置換及び多置換を包含する。別途明示されていない限り、指定された置換基による置換は、環(例えば、アリール、シクロアルキル、ヘテロアリール又はヘテロシクリル)の中の任意の原子上で可能であるが、但し、そのような環置換が化学的に可能であり且つ結果として安定な化合物を生じることを条件とする。
【0071】
波線で終わっている結合は、本明細書中では、置換基又は部分構造の結合点を示すために使用されている。この使用法は、以下の例によって例示される:
【化6】
【0072】
式(I)、式(Ia)、式(II)及び式(IIa)で表される化合物並びにそれらの薬学的に許容される塩及び/又は水和物は、さらに、抗真菌薬化合物用のスクリーニングアッセイの調製及び実施においても有用である。例えば、該化合物は、さらなる抗真菌薬化合物を確認するための優れたスクリーニング手段である突然変異体を単離するのに有用である。
【0073】
式(I)、式(Ia)、式(II)及び式(IIa)で表される化合物は、適切な場合には、「薬学的に許容される塩」又は水和物の形態で投与することができる。しかしながら、別の塩は、該化合物又はそれらの薬学的に許容される塩の調製において有用であり得る。例えば、該化合物が塩基性アミン基を含んでいる場合、それらは、好都合には、トリフルオロ酢酸塩として単離することができる(例えば、HPLC精製により)。そのトリフルオロ酢酸塩を別の塩(これは、薬学的に許容される塩を包含する)に変換することは、当技術分野において既知の多くの標準的な方法で達成することができる。例えば、適切なイオン交換樹脂を使用して、所望の塩を生成させることができる。あるいは、トリフルオロ酢酸塩を親化合物遊離アミンに変換することは、当技術分野において既知の標準的な法(例えば、NaHCO3などの適切な無機塩基で中和すること)によって達成することができる。次いで、その遊離塩基を適切な有機酸又は無機酸と反応させることにより、別の所望のアミン塩を慣習的な方法で調製することができる。代表的な薬学的に許容される第四級アンモニウム塩は、以下のものを挙げることができる:塩酸塩、硫酸塩、リン酸塩、炭酸塩、酢酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩、リンゴ酸塩、コハク酸塩、乳酸塩、ステアリン酸塩、フマル酸塩、ヒプル酸塩、マレイン酸塩、グルコン酸塩、アスコルビン酸塩、アジピン酸塩、グルセプト酸塩、グルタミン酸塩、グルクロン酸塩(glucoronate)、プロピオン酸塩、安息香酸塩、メシル酸塩、トシル酸塩、オレイン酸塩、ラクトビオ酸塩、ラウリル硫酸塩、ベシル酸塩、カプリル酸塩、イセチオン酸塩、ゲンチジン酸塩、マロン酸塩、ナプシル酸塩、エジシル酸塩、パモ酸塩、キシナホ酸塩、ナパジシル酸塩、臭化水素酸塩、硝酸塩、シュウ酸塩、ケイ皮酸塩、マンデル酸塩、ウンデシレン酸塩、及び、カンシル酸塩。式(I)、式(Ia)、式(II)及び式(IIa)で表される化合物の多くは、酸性のカルボン酸部分を有しており、この場合、その適切な薬学的に許容される塩は、アルカリ金属塩(例えば、ナトリウム塩又はカリウム塩);アルカリ土類金属塩(例えば、カルシウム塩又はマグネシウム塩);及び、適切な有機配位子を用いて形成された塩(例えば、第四級アンモニウム塩)を包含し得る。
【0074】
本発明は、その範囲内に、式(I)、式(Ia)、式(II)及び式(IIa)で表されるプロドラッグの使用を包含する。一般に、そのようなプロドラッグは、該化合物の機能的誘導体であり、それは、必要とされる化合物にインビボで容易に変換される。従って、本発明の治療方法において、用語「投与すること」は、記載されているさまざまな状態を、特定的に開示されている化合物で治療すること、又は、患者への投与後に特定されている化合物にインビボで変換する化合物で治療することを、包含する。適切なプロドラッグ誘導体の選択及び調製に関する慣習的な方法は、例えば、「“Design of Prodrugs,” ed. H. Bundgaard, Elsevier, 1985」(これは、参照によりその全体を本明細書中に組み入れる)に記載されている。式(I)、式(Ia)、式(II)及び式(IIa)で表される化合物の代謝産物は、該化合物を生物学的環境中に導入したときに産生される活性化学種を包含する。
【0075】
用語「投与」及びその変形(例えば、化合物を「投与すること」)は、治療を必要とする患者(subject)に特定の化合物又はその化合物の特定のプロドラッグを提供することを意味する。式(I)、式(Ia)、式(II)及び式(IIa)で表される化合物又はその薬学的に許容される塩又はその水和物若しくはプロドラッグを第2の活性薬(例えば、真菌/細菌感染症を治療するのに有用な別の抗真菌/抗細菌薬)と組合されて供与する場合、「投与」及びその変形は、それぞれ、該化合物(又は、その塩、水和物若しくはプロドラッグ)と該別の活性薬を同時供与すること及び順次に供与することを包含するものと理解される。
【0076】
本明細書中で使用されている場合、用語「組成物」は、特定された成分を含んでいる生成物、及び、特定された成分を合わせることで直接的又は間接的に生じる任意の生成物を包含することが意図されている。
【0077】
「薬学的に許容される」は、医薬組成物の成分が、互いに適合性を示さなければならないこと及びそのレシピエントに対して有害であってはならないことを意味する。
【0078】
用語「患者(subject)」(代替え的に、本明細書中では、「患者(patient)」とも称される)は、本明細書中で使用されている場合、治療、観察又は実験の対象となった、動物(好ましくは、哺乳動物、最も好ましくは、ヒト)を表す。
【0079】
用語「有効量」は、本明細書中で使用されている場合、研究者、獣医師、医師又は別の臨床家によって求められている組織、系、動物又はヒトにおける生物学的又は医学的な応答を誘発する活性成分又は医薬の量を意味する。一実施形態では、「有効量」は、治療対象の疾患又は状態の症状を緩和する「治療上有効な量」であり得る。別の実施形態では、「有効量」は、予防対象の疾患若しくは状態の症状を予防するため又は発症の可能性を低減させるための「予防上有効な量」であり得る。この用語は、さらにまた、(1,3)-β-D-グルカン合成酵素を阻害し、それによって、求められている応答を誘発するのに充分な該エンフマフンギン誘導体の阻害有効量も意味し得る。
【0080】
「治療する」、「治療すること」、「治療」及びそれらの変形への言及は、一般に、投与された後で真菌感染症に関連する1以上の徴候若しくは症状の解消若しくは改善をもたらす治療、又は、感染症の原因となる真菌の根絶をもたらす治療、又は、これらの結果の任意の組み合わせをもたらす治療を意味する。
【0081】
真菌感染症を予防又は治療する目的で、式(I)、式(Ia)、式(II)又は式(IIa)で表される化合物(場合により、塩又は水和物の形態にある)は、医薬品と組み合わせて使用するのに利用可能な慣習的な方法で投与することができる。
【0082】
酸性pHを有する状態又は解剖学的領域で生じる真菌感染症を予防又は治療する目的で、式(I)、式(Ia)、式(II)又は式(IIa)で表される化合物(場合により、塩又は水和物の形態にある)は、個々の治療薬として単独で投与することができるか、又は、治療剤の組み合わせとして1種類以上の別の抗真菌薬と一緒に(逐次的に又は同時に)投与することができる。
【0083】
真菌感染症を予防又は治療する目的で、式(I)、式(Ia)、式(II)又は式(IIa)で表される化合物(場合により、塩又は水和物の形態にある)は、選択された投与経路及び標準的な薬務に基づいて選択された医薬担体と一緒に投与することができる。
【0084】
例えば、式(I)、式(Ia)、式(II)及び式(IIa)で表される化合物並びにそれらの薬学的に許容される塩及び/又は水和物形態は、以下の経路のうちの1つ以上で投与することができる: 有効量の該化合物並びに慣習的な無毒性の薬学的に許容される担体、アジュバント及びビヒクル含んでいる医薬組成物の単位投与量の形態で、経口的に、非経口的に(これは、皮下注射、静脈内、筋肉内、病変内注射又は注入技術を包含する)、吸入により(例えば、鼻又は口腔内の吸入スプレー、定量吸入器からのエアロゾル及び乾燥粉末吸入器)、噴霧器により、経眼的に、局所的に、経皮的に、又は、経直腸的に。経口投与に適した液体調製物(例えば、懸濁液剤、シロップ剤及びエリキシル剤など)は、当技術分野で既知の技術に従って調製することが可能であり、そして、水、グリコール類、油類及びアルコール類などの通常の媒体を使用することができる。経口投与に適した固形調製物(例えば、散剤、丸剤、カプセル剤及び錠剤)は、当技術分野で既知の技術に従って調製することが可能であり、そして、デンプン類、糖類、カオリン、滑沢剤、結合剤及び崩壊剤などの固形賦形剤を使用することができる。非経口組成物は、当技術分野で既知の技術に従って調製することが可能であり、そして、典型的には、担体として滅菌水を使用し、及び、場合により、溶解性補助剤のような別の成分を使用する。注射可能な溶液は、当技術分野で既知の方法に従って調製することが可能であり、その際、当該担体は、生理食塩水、グルコース溶液又は生理食塩水とグルコースの混合物を含有する溶液を含んでいる。
【0085】
医薬組成物の調製において使用するのに適した方法及びそのような組成物で使用するのに適した成分についてのさらなる説明は、「Remington’s Pharmaceutical Sciences, 20th edition, edited by A. R. Gennaro, Mack Publishing Co., 2000」の中に記載されている。
【0086】
式(I)、式(Ia)、式(II)及び式(IIa)で表される化合物並びにそれらの薬学的に許容される塩及び/又は水和物形態は、例えば、経口的に又は静脈内に、例えば、1日当たり、哺乳動物(例えば、ヒト)の体重1kg当たり、0.001~1000mgの投与量範囲内で、単一用量又は分割用量で、投与することができる。投与量範囲の一例は、単一用量又は分割用量で、経口的に又は静脈内に、1日当たり、体重1kg当たり、0.01~500mgである。投与量範囲の別の例は、単一用量又は分割用量で、経口的に又は静脈内に、1日当たり、体重1kg当たり0.1~50mgである。経口投与に関しては、該組成物は、治療対象の患者に対して投与量を対症的に調節するために、例えば、1.0~1000ミリグラムの活性成分、特に、1、5、10、15、20、25、50、75、100、150、200、250、300、400、500、600、750及び1000ミリグラムの活性成分を含有する錠剤又はカプセル剤の形態で提供することができる。任意の特定の患者に対する特定の用量レベル及び投与頻度は変えることができ、そして、それらは、使用する特定の化合物の活性、その化合物の代謝安定性及び作用の長さ、年齢、体重、一般的な健康状態、性別、食事、投与方法及び投与時間、排出速度、薬物の組合せ、特定の状態の重症度並びに治療を受けているホストなどを包含する種々の要因に依存するであろう。
【0087】
化合物の抗真菌活性は、当技術分野で既知のさまざまなアッセイによって、例えば、酵母菌に対するそれらの最小阻害濃度(MIC)及びブロス微量希釈アッセイにおける糸状カビ及び皮膚糸状菌に対する最小有効濃度(MEC)によって、又は、マウスモデル若しくはウサギモデルにおける抗カンジダ活性及び抗アスペルギルス活性のインビボでの評価によって、実証することができる。米国特許第8,188,085号の実施例に記載されている式(I)で表される化合物は、概して、<0.03-32μg/mLの範囲でカンジダ属種(Candida spp.)の増殖を阻害すること、又は、<0.03-32μg/mLの範囲のアスペルギルス・フミガツス(Aspergillus fumigatus)に対するMECをもたらすことが見いだされた。
【0088】
本発明によるエンフマフンギンに由来するトリテルペノイド抗真菌薬化合物をカプセル化する単一二分子膜小胞又はリポソームは、好ましくは、約150nm以下、さらに好ましくは、約100nm以下、又は、約70~約80nmの平均粒子サイズ(小胞直径)を有する。該小胞は、単糖又は二糖を含んでいる水のような適切な水相で水和させる。イオン強度が低い任意の水相は、該小胞を水和させるのに適している。該水相は、好ましくは、等張性である。該水相のpHは、約4.0~約8.0、好ましくは約5.0~約7.0であるべきである。
【0089】
単一二分子膜小胞又はリポソームを生成させる方法には、単層小胞を形成するのに充分なエネルギー及び剪断力(例えば、超音波処理、高圧均質化、マイクロ流体混合など)を提供する方法が含まれる。本明細書中に記載されている単一二分子膜小胞は、エンフマフンギンに由来する抗真菌薬(例えば、式(I)、式(Ia)、式(II)又は式(IIa)で表される化合物又はその薬学的に許容される塩若しくは水和物)、リン脂質及びコレステロールを含んでいる水和懸濁液を超音波処理、マイクロ流体混合及び/又は均質化に付すことによって得ることができる。好ましい実施形態では、SCY-078(又は、その薬学的に許容される塩若しくは水和物)、リン脂質(「PL」)及びコレステロール(「CHOL」)を、pHが約5.0~約7.0の水相中に、1:7:2.5のSCY-078:PL:CHOLのモル濃度で懸濁させ、そして、超音波処理、マイクロ流体混合、均質化、及び/又は、リン脂質とコレステロールを含有する単一二分子膜小胞の形成をもたらす別のプロセスに付し、それによって、該小胞の内部にSCY-078(又は、その塩若しくは水和物)をカプセル化する。SCY-078のクエン酸塩は、本明細書に記載されている単一二分子膜小胞の中にカプセル化させるのに好ましい薬物である。
【0090】
単一の種類のリン脂質を使用して本明細書中に記載されている単一二分子膜小胞を形成させることができるか、又は、2以上の異なる種類のリン脂質を組み合わせて使用して単一二分子膜小胞を形成させることができる。本明細書中に記載されている単一二分子膜小胞の形成において使用するのに適したリン脂質としては、限定するものではないが、合成由来の又は天然に存在する、ホスファチジルコリン(「PC」)、ホスファチジン酸(「PA」)、ホスファチジルセリン(「PS」)、ホスファチジルエタノールアミン(「PE」)及びホスファチジルグリセロール(「PG」)などがある。
【0091】
本明細書中に記載されている単一二分子膜小胞の形成において使用するリン脂質は、好ましくは、組み合わせて使用されるPC及びPGである。
【0092】
適切なPCとしては、限定するものではないが、合成由来のジパルミトイルホスファチジルコリン(「DPPC」)、ジステアロイルホスファチジルコリン(「DSPC」)、ジラウロイルホスファチジルコリン(「DLPC」)及びジミリストイルホスファチジルコリン(「DMPC」)、並びに、卵PC及びダイズPCなどの自然源由来のPCなどがある。
【0093】
適切なPGとしては、限定するものではないが、合成由来のジパルミトイルホスファチジルグリセロール(「DPPG」)、ジステアロイルホスファチジルグリセロール(「DSPG」)、ジラウロイルホスファチジルグリセロール(「DLPG」)及びジミリストイルホスファチジルグリセロール(「DMPG」)、並びに、卵PGなどの自然源由来のPGなどがある。
【0094】
好ましくは、本発明によるエンフマフンギン誘導体をカプセル化する小胞のリン脂質含有率は、50~80モルパーセントである。
【0095】
コレステロールは、脂質二分子膜を安定化し、カプセル化された薬物の漏出を防ぐことができるが、過剰量のコレステロールは、カプセル化効率に悪影響を与える可能性がある。好ましくは、本発明によるエンフマフンギン誘導体をカプセル化する小胞のコレステロール含有率は、10~30モルパーセントである。
【0096】
好ましくは、本発明によるエンフマフンギン誘導体をカプセル化する小胞の薬物含有率は、5~12モルパーセントである。
【0097】
エンフマフンギンに由来するトリテルペノイド抗真菌薬化合物をカプセル化する単一二分子膜小胞は、水相中で水和させる。好ましくは、該水相は、1種類以上の単糖類(例えば、グルコース、フルクトース及びガラクトース)及び/又は1種類以上の二糖類(例えば、スクロース、トレハロース及びラクトース)を含んでおり、これらは、該注射可能な組成物(薬物をカプセル化する単一二分子膜小胞、水相中で水和されている)を等張性とし、そして、二分子膜の安定性を向上させ得る。該水相中で単糖が使用される場合、それらは、好ましくは、該注射可能な組成物(薬物をカプセル化する小胞、水相中で水和されている)に対して約4~6%(w/v)の量で存在している。該水相中で二糖が使用される場合、それらは、好ましくは、該注射可能な組成物(薬物をカプセル化する小胞、水相中で水和されている)に対して約8~10%(w/v)の量で存在している。
【0098】
好ましくは、該注射可能な組成物(薬物をカプセル化する単一二分子膜小胞、水相中で水和されている)のmg/mLとして表されるカプセル化された薬物の濃度は、0.01~50mg/mLであり、さらに好ましくは、0.1~5mg/mLである。
【0099】
エンフマフンギンに由来する抗真菌薬を含有する脂質分散液を調製するために、リン脂質及びコレステロールをC1-C5アルコール(好ましくは、メタノール又はエタノール)などの有機溶媒に溶解させ、そして、前記溶液をエンフマフンギンに由来する抗真菌薬をエタノールなどの有機溶媒に溶解させた溶液に添加する。あるいは、該抗真菌薬をリン脂質とコレステロールの溶液に直接添加することができる。丸底フラスコなどの適切な反応容器内で、該溶媒を蒸発させて(場合により、減圧下で)、該抗真菌薬を含んでいる脂質分散液が得られる。該溶媒は、別の方法で、例えば、噴霧乾燥機を使用して、除去することができる。有利には、該エンフマフンギンに由来する抗真菌薬を含んでいる該脂質分散液は、安定であり、そして、貯蔵が可能であり、及び、該脂質分散液を任意の所望の時点で水和して別の処理を実施してリポソームを形成させることができるという点で、利便性を可能にしている。
【0100】
該抗真菌薬を含んでいる前記脂質分散液は、好ましくは、単糖又は二糖を含有する水溶液の中で水和させて、水和懸濁液を生成させる。該水和された懸濁液を、高剪断ミキサー(例えば、約10000rpmで)を使用して混合させ、得られた多層小胞を、高圧均質化(例えば、約10000~約30000psiで、及び、例えば、約25℃?約70℃の範囲の処理温度で)に付して、単一二分子膜(単層)小胞を形成させる。該単一二分子膜小胞は、例えば、それらを0.45μm及び0.22μmのフィルターを通過させることによって、及び/又は、湿熱滅菌によって、滅菌することができる。濾過された単一二分子膜小胞の懸濁液は、長期貯蔵のために高真空下で凍結及び脱水(凍結乾燥)することができる。即時使用可能な(ready-to-use)注射可能な組成物は、該凍結乾燥粉末に滅菌水を加え、混合させることによって得られる。
【0101】
本明細書中に記載されている方法に従って調製された小胞の中のカプセル化された抗真菌薬の量は、例えば、高圧液体クロマトグラフィー(HPLC)アッセイを使用して、確認することができる。該小胞のサイズは、例えば、動的光散乱(DLS)などの光散乱方法を使用して、確認することができる。
【0102】
エンフマフンギンに由来する抗真菌薬をカプセル化する単一二分子膜小胞は、ラット及びウサギなどの動物モデルに投与して、静脈内投与時の局所忍容性(ISR)を評価した。局所的な忍容性を評価するために、注入部位組織の臨床的評価及び組織病理学的評価を実施した。本明細書中に記載されている注射可能な組成物の有用性を実証するために、小胞の血流中への注入をシミュレートする条件下で、該小胞の安定性も確認した。
【実施例】
【0103】
以下の実施例は、本発明及びその実施について説明するためにのみ役立つ。該実施例は、本発明の範囲又は精神に対する限定として解釈されるべきではない。
【0104】
SCY-078をカプセル化するリポソームの調製
実施例A~実施例I
実施例A~実施例Iに関し、表1に示されているさまざまなモル比にある、DSPCとDSPGを含んでいるリン脂質混合物、コレステロール及びがエンフマフンギン誘導体SCY-078を、溶媒(70℃のエタノール)に溶解させ、溶媒:水の体積比1:3の水を用いて、65℃、流量10mL/分で、マイクロ流体混合(NanoAssemblrTM)に付して、SCY-078がロードされた(カプセル化された)単一二分子膜小胞又はリポソームを形成させた。そのリポソーム懸濁液中の溶媒及び遊離(カプセル化されていない)薬物は、接線流濾過(「TFF」)によって除去した。
【0105】
実施例J~実施例P
実施例J及び実施例Kは、薄膜水和法によって調製した。表2に示されている特定量の、DSPCとDSPGを含んでいるリン脂質混合物、コレステロール及びSCY-078を、70℃でエタノールに溶解させた。適切な反応容器としての丸底フラスコの中で、減圧下で蒸発させることにより溶媒を除去して、該抗真菌薬を含んでいる脂質分散フィルムが得られた。
【0106】
実施例L~実施例Pでは、溶媒は噴霧乾燥で除去した。表2に示されている特定量の、DSPCとDSPGを含んでいるリン脂質混合物、コレステロール及びSCY-078を、70℃でエタノールに溶解させ、混合して、均一なコロイド分散液を形成させた。その分散液を、噴霧圧約70psiで0.7mmのノズルを通して、20mL/分の微細なミストとして噴霧し、約50℃で乾燥させた。その噴霧乾燥粉末を集め、減圧下で一定の重量になるまで乾燥させた。
【0107】
実施例J~実施例Pでは、薄膜蒸発又は噴霧乾燥のいずれかによって得られた抗真菌薬含有脂質分散液を、7.5%(w/v)のスクロースを含んでいる水溶液の中で水和させた。その水和した懸濁液を、高剪断ミキサーを使用して10000rpmで約5分間混合させ、得られた多層小胞を、約25℃~約70℃の範囲内の処理温度を使用して、約10000~約30000psiの範囲内の圧力で高圧均質化(MicrofluidicsTM)に付して、単一二分子膜小胞を形成させた。
【0108】
実施例M、実施例O及び実施例Pで調製されたリポソームは、0.45μm及び0.22μmのフィルターを通す濾過による滅菌に付した。実施例Mのリポソームは、凍結乾燥させた。実施例Nのリポソームは、121℃で12分間の湿熱によって滅菌した。
【0109】
SCY-078をカプセル化しているリポソームの特徴付け
表1及び表2に示されているさまざまなDSPC:コレステロール:DSPG:SCY-078のモル比を有する製剤を、単一二分子膜小胞の形成、粒子サイズ分布、表面電荷及びカプセル化されたSCY-078の量に関して評価した。
【0110】
小胞又はリポソームの形成後、遊離(カプセル化されていない)SCY-078は、TFFによって除去した(実施例A~実施例I)。製造プロセスにおいてTFFを使用しなかった場合、カプセル化されていないSCY-078は、20000ダルトン分子量カットオフ(MWCO)セルロースエステル膜を使用する透析によって、カプセル化されたSCY-078から分離させた。
【0111】
リポソームの中にカプセル化されたSCY-078は、Sephadex(登録商標)G-25カラムを使用するサイズ排除クロマトグラフィーによって、カプセル化されていないSCY-078から分離させた。リポソームの中にカプセル化されたSCY-078の量は、HPLCアッセイを使用して確認した。SCY-078は、C18カラムで分離させ、210nmでの紫外(UV)分光法で検出した。小胞の粒子サイズは、DLS(Zetasizer Nano, Malvern Instruments)によって確認した。表面電荷(ゼータ電位)は、使い捨ての電気泳動セルでレーザードップラーマイクロ電気泳動によって測定した。
【0112】
表1及び表2に示されているように、特定のモル比のDSPC:コレステロール:DSPG:SCY-078を有するいくつかの製剤は、95%を超える捕捉効率で単一二分子膜リポソーム小胞又はリポソームを形成することが見出された。驚くべきことに、カプセル化されていない薬物の除去プロセスが製造プロセスの一部ではなかったとしても、遊離(カプセル化されていない)薬物は、本質的に検出できなかったことが分かった(実施例J~実施例O)。当該小胞が湿熱滅菌後も安定したままであって、小胞サイズに変化がなく、小胞内に95%を超えるSCY-078が保持されていたことも驚くべきことであった(実施例N)。
【表1】
【表2】
【0113】
SCY-078を含んでいる噴霧乾燥された脂質分散液の物理化学的安定性の評価
噴霧乾燥された中間体(SCY-078を含有する脂質分散液)の安定性は、周囲環境(25℃/60%RH)貯蔵条件下、及び、加速(40℃/75%RH)貯蔵条件下で、評価した。表3に示されているように、噴霧乾燥された中間体は、SCY-078のアッセイ及び分解生成物の形成に関して安定しており、周囲環境(25℃/60%RH)貯蔵条件下及び加速(40℃/75%RH)貯蔵条件下で貯蔵した場合、最大で3ヶ月間、有意な変化又は傾向は観察されなかった。これらの結果は、噴霧乾燥された中間体が、商業的に望ましい属性である水和及びリポソームを形成させるための別の処理の前に、例えば、周囲環境条件下で、都合よく貯蔵できることを示している。
【表3】
【0114】
SCY-078をカプセル化しているリポソームの物理化学的安定性の評価
SCY-078をカプセル化しているリポソームの直ぐに希釈できる懸濁液の冷蔵条件下(2℃~8℃)での安定性について評価した。表4に示されているように、SCY-078アッセイ及び平均粒子サイズに変化はなかった。さらに、カプセル化された薬物の貯蔵時における漏出はなく、このことは、SCY-078とリポソームの脂質二分子膜の強い結合を実証している。これらの結果は、本明細書中に記載されているリポソーム組成物に関するさまざまな商業的用途に適した安定性及び長期安定性の可能性を示している。
【表4】
【0115】
SCY-078をカプセル化しているリポソームの生理学的安定性の評価
SCY-078をカプセル化している小胞又はリポソームの安定性は、該リポソームを新鮮な50%ウシ血清の中で37℃で24時間にわたってインキュベートすることによって評価した。Sephadex(登録商標)G-25カラムを使用するサイズ排除クロマトグラフィーによって、リポソーム画分を血清成分から分離させた。収集したリポソーム及び血清画分を、HPLCによって、SCY-078含有量について分析した。表5に示されている結果は、SCY-078が血清タンパク質画分では検出されなかったが、SCY-078の名目上の含有量の本質的に全てがリポソーム画分から回収されたことを示している。SCY-078による高度なタンパク質結合を考慮すると、これらの結果は、驚くべきことに、血流中への静脈内投与をシミュレートする条件下で、SCY-078が無傷のリポソームの中でカプセル化されたままであることを示した。
【0116】
SCY-078をカプセル化しているリポソームの動物における局所忍容性の評価
スプラーグ・ドーリーラットにおける静脈内注入局所耐性試験
ラットにおける14日間の静脈内注入試験において、動物に、リポソームの中にカプセル化されたSCY-078(10又は40mg/kg/日)又は溶液状態にあるSCY-078(10又は40mg/kg/日)又は生理食塩水対照を注入した。該動物には、大静脈内に外科的に埋め込まれた留置カテーテルを介して注入した。このようにして、注入部位の反応の評価は、血管炎症の組織学的観察を強調した。全体として、血管炎症の発生率と重症度は、生理食塩水で処理された動物における血管炎症と比較して、溶液として投与されたSCY-078に関して増大した; しかしながら、リポソームの中にカプセル化されたSCY-078を投与された動物では、血管炎症は観察されなかった(表6)。
【0117】
ニュージーランド白ウサギにおける局所静脈内刺激試験
この試験は、生理食塩水対照、溶液状態にある40mg/kg/用量のSCY-078及びリポソームの中にカプセル化されたSCY-078(10又は40mg/kg)の局所刺激を、1日2回の投与(6時間±15分隔てた)で評価した。用量は、ニュージーランド白トウサギに、連続する5日間、留置カテーテルを介した20mL/時間の速度での1時間の静脈内注入によって投与した。
【0118】
溶液製剤として40mg/kg/用量で1時間にわたって投与されたSCY-078の1日2回の静脈内注入は、注入部位及び周囲領域で有害な局所反応をもたらし、非常に僅かな/僅かから重度の紅斑及び浮腫として現れた。これによって、わずか1日の投与の後で、このグループの全ての動物を予定外の安楽死とした。対照的に、リポソームの中にカプセル化されたSCY-078の10及び40mg/kgでの1日2回の静脈内注入を受けた動物は、計画された5日間の投与を完了することができ、そして、当該製剤は充分に忍溶された。
【0119】
動物における局所忍容性試験の結果は、リポソームの中にカプセル化されたSCY-078は、注入部位における血管炎症及びISRに関して、溶液状態にあるSCY-078よりも忍容性が高く、末梢静脈を介した静脈内投与に適し得ることを示した。
【表5】
【表6】