(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-02
(45)【発行日】2023-11-13
(54)【発明の名称】皮膚および粘膜感染症の局所治療用エマルション
(51)【国際特許分類】
A61K 9/107 20060101AFI20231106BHJP
A61K 9/06 20060101ALI20231106BHJP
A61K 45/06 20060101ALI20231106BHJP
A61K 31/196 20060101ALI20231106BHJP
A61K 31/4174 20060101ALI20231106BHJP
A61K 31/665 20060101ALI20231106BHJP
A61K 31/675 20060101ALI20231106BHJP
A61K 31/4709 20060101ALI20231106BHJP
A61K 31/085 20060101ALI20231106BHJP
A61P 31/00 20060101ALI20231106BHJP
A61P 13/00 20060101ALI20231106BHJP
A61P 15/00 20060101ALI20231106BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20231106BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20231106BHJP
A61P 31/10 20060101ALI20231106BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20231106BHJP
【FI】
A61K9/107
A61K9/06
A61K45/06
A61K31/196
A61K31/4174
A61K31/665
A61K31/675
A61K31/4709
A61K31/085
A61P31/00
A61P13/00
A61P15/00
A61P29/00
A61P31/04
A61P31/10
A61P43/00 121
(21)【出願番号】P 2020544155
(86)(22)【出願日】2018-11-14
(86)【国際出願番号】 EP2018081264
(87)【国際公開番号】W WO2019096863
(87)【国際公開日】2019-05-23
【審査請求日】2021-11-10
(32)【優先日】2017-11-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(32)【優先日】2017-11-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】520165375
【氏名又は名称】プロフェム・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】ProFem GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100150500
【氏名又は名称】森本 靖
(74)【代理人】
【識別番号】100176474
【氏名又は名称】秋山 信彦
(72)【発明者】
【氏名】マリオン・ノエ
(72)【発明者】
【氏名】クリスティアン・ノエ
【審査官】辰己 雅夫
(56)【参考文献】
【文献】特表2007-503428(JP,A)
【文献】特表2009-536926(JP,A)
【文献】特表2013-510861(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K9/00-9/72
A61K47/00-47/69
A61K31/00-33/40
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
微生物泌尿生殖器感染症を経膣投与により治療
するためのエマルションであって、抗生物質および防腐剤から選択される抗微生物活性物質、およびNSAIDが、組み合わせて用いられ、(a)NSAIDが、0.1~0.5重量%の濃度のジクロフェナク、0.1~0.4重量%の濃度のインドメタシン、1~5重量%の濃度のナプロキセン、0.5~2.5重量%の濃度のイブプロフェン、0.25~1.25重量%の濃度のデキシブプロフェン、0.25~1.25重量%の濃度のケトプロフェン、0.5~4重量%の濃度のメフェナム酸、または、0.02~0.04重量%の濃度のロルノキシカムであって、NSAIDが塩の形態で存在し、(b)該エマルションにおける、油相に対する水相の重量比が、2.0~2.7であり、および、(c)エマルションのpH値が、6.5~8.5の範囲であることを特徴とする、エマルション。
【請求項2】
抗真菌活性物質をさらに含む、請求項1に記載のエマルション。
【請求項3】
抗真菌活性物質が、ナイスタチン、シクロピロクスまたはシクロピロクスオラミン、クロトリマゾール、フルコナゾール、ミコナゾール、イトラコナゾール、チオコナゾール、ボリコナゾール、ビホナゾール、エコナゾール、イソコナゾール、フェンチコナゾール、セルタコナゾール、ケトコナゾール、ポサコナゾール、キルセコナゾール(quilseconazole)、オテセコナゾール(VT-1161)、またはアイブレキサフンジェルプ(SCY-078)であることを特徴とする、請求項2に記載のエマルション。
【請求項4】
軟膏、クリーム、シャンプー、溶液またはスティックの形態である、皮膚感染症の局所治療のための、請求項1~3のいずれか1項に記載のエマルション。
【請求項5】
抗微生物活性物質が、抗生物質であることを特徴とする、請求項1~4のいずれか1項に記載のエマルション。
【請求項6】
抗生物質が、ホスホマイシン、クリンダマイシン、メトロニダゾール、ニトロフラントイン、ニトロフラゾン、ニトロフラントイン、ニフラテル、ニフロキサシン(nifuroxacin)、ニトロキソリン、トリメトプリム、スルファジアジン、またはコトリモキサゾールであることを特徴とする、請求項5に記載のエマルション。
【請求項7】
抗微生物活性物質が、防腐剤であることを特徴とする、請求項1~6のいずれか1項に記載のエマルション。
【請求項8】
防腐剤が、塩化ベンザルコニウム、デカリニウム塩化物およびフェノキシエタノールからなる群から選択されることを特徴とする、請求項7に記載のエマルション。
【請求項9】
NSAIDがジクロフェナクであり、エマルションに0.2~0.4重量%の濃度範囲で含まれることを特徴とする、請求項1~8のいずれか1項に記載のエマルション。
【請求項10】
テルペンをさらに含むことを特徴とする、請求項1~9のいずれか1項に記載のエマルション。
【請求項11】
該エマルションにおける、油相に対する水相の重量比が、2.1~2.6である、請求項1~10のいずれか1項に記載のエマルション。
【請求項12】
微生物泌尿生殖器感染症が、細菌性泌尿生殖器感染症であることを特徴とする、請求項
1~11のいずれか1項に記載のエマルション。
【請求項13】
微生物泌尿生殖器感染症が、カンジダ・アルビカンス、および他の細菌による、混合膣感染症であることを特徴とする、請求項
1~12のいずれか1項に記載のエマルション。
【請求項14】
他の細菌が、エンテロバクター、大腸菌、肺炎桿菌、ガードネレラ・バギナリス、またはプレボテラ属菌から選ばれるものである、請求項
13に記載のエマルション。
【請求項15】
微生物泌尿生殖器感染症が、無症候性または症候性の細菌性膣炎
であることを特徴とする、請求項
1~14のいずれか1項に記載のエマルション。
【請求項16】
微生物泌尿生殖器感染症が、慢性感染症であることを特徴とする、請求項
1~15のいずれか1項に記載のエマルション。
【請求項17】
エマルションを製造するときに、NSAIDを、水相を介して導入することを特徴とする、請求項1~
16のいずれか1項に記載のエマルションの製造方法。
【請求項18】
NSAIDを、抗真菌剤を含有するエマルションに、微結晶または微粒塩として導入することを特徴とする、請求項1~
16のいずれか1項に記載のエマルションの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚および粘膜の感染症、特に泌尿生殖器感染症の局所治療のためのエマルションに関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトは、共生生物として腸と皮膚表面に主にコロニーを形成する、莫大な数の微生物と共生している。これらの微生物の全体は、ヒトマイクロバイオームと称されている。乳酸菌が優勢な女性の膣のマイクロバイオームは、非常に特別な構成を有している。正常な生理学的状態下では、これらの細菌は、膣内において、細菌感染に対して保護効果がある弱酸性の環境を作り出す。それにもかかわらず、膣感染症は、一方では、共生菌から病原体に容易に変化する、ほぼ至る所に存在するカンジダ種の真菌によって引き起こされ、また他方では、ガードネレラ・バギナリス、モビルンカスまたはプレボテラ属などの細菌によって、および、連鎖球菌またはブドウ球菌によって、または、例えば、エンテロバクター、大腸菌、および/または、例えば、肺炎桿菌などの典型的な腸内細菌(これらは、体の開口部が近接していることによる塗抹の結果として感染によって容易に膣に入り得る)によって、引き起こされ、さまざまな理由で頻繁に発生する。まず、無症状のミスコロニーが生じる。外来細菌が特定の閾値を超え、感染を助長する要因が付加されると、最終的に、悪性の感染が発生する。もし、これが時間内に処置されない場合、感染は慢性になり、通常、バイオフィルムが形成される。無症状のミスコロニーは、不妊症、流産および早産だけでなく、膀胱炎や特定の形態の失禁の危険因子として、ますます認識されるようになっている。
【0003】
US2007/292355A1は、抗感染剤および角質溶解剤を含む抗感染発泡性組成物に関する。組成物は、真菌、細菌またはウイルスの感染症の治療に使用される。
【0004】
AT11910U1は、クロルヘキシジン、ビスホスホネート、非ステロイド系抗炎症剤(NSAID)および免疫調節剤(テトラサイクリン)を含む、とりわけ、口腔、粘膜または皮膚の感染性または炎症の治療または予防のための、組成物に関する。
【0005】
DE102008034944A1は、他の活性物質と共にNSAIDを含む、とりわけ、皮膚への局所投与により、あるいは、経口、経鼻または経皮により、体内に導入することができる、蜂蜜ベースのマイクロエマルションに関する。
【0006】
WO2011/060083A1は、抗生物質、抗真菌剤、抗寄生虫剤、抗ウイルス活性物質、NSAID、鎮痛剤、麻酔剤、および/またはステロイドを含む組成物による、外耳炎の予防または治療方法に関する。
【0007】
WO02/078648A2は、抗真菌剤、例えば、テルビナフィン、およびさらなる薬剤、例えば、ジクロフェナクまたはインドメタシン、を含有する、局所医薬組成物に関する。
【発明の概要】
【0008】
本発明は、真菌および他の微生物による混合感染症などの、細菌叢異常および顕性感染症の局所治療のための医薬に関する。したがって、本発明は、皮膚感染症および粘膜感染症、特に泌尿生殖器感染症の局所治療のための、特に細菌性泌尿生殖器感染症の局所治療用のエマルションであって、抗微生物活性物質、および付着防止活性物質、好ましくはNSAIDが、組み合わせて用いられることを特徴とする、エマルションに関する。
【発明を実施するための形態】
【0009】
膣の細菌によるミスコロニー、さらには症候性の膣感染症は、頻繁に生じる。まだ炎症性のミスコロニーでない無症候性から症候性の疾患への移行は、より正確には、膣症および膣炎という用語で定義される。好気性菌性膣症/膣炎、および嫌気性菌性膣症/膣炎(同義語:細菌性膣症)という用語は、原因となる病原体のより正確な定義を表す。病原体に関係なく、すべての膣感染症に共通する問題は、バイオフィルムとして知られているものの形成である。影響を受ける器官(膣、尿道、膀胱、陰茎)の粘膜表面は、これらのバイオフィルムで覆われる。これらのバイオフィルムにおいては、微生物が粘液物質の層に囲まれている。バイオフィルムの個々の微生物の構成成分は、細胞系のさまざまなタスクを引き継ぎ、耐性のメカニズムも交換する。細菌異常性膣炎で最も頻繁に見られる細菌は、平均を超えるバイオフィルムを形成する。これにより、顕性感染症の場合の治療手段が非常に困難になり、感染症の経過において、慢性化または頻繁な再発を招く。最近の研究では、再感染はしばしば、パートナーによって引き起こされることが確認されている。したがって、パートナーの治療がいつも示される。男性においては、細菌の保留は、ほとんどが包皮のひだ、および/または尿道の最初の3分の1において見られる。
【0010】
細菌叢異常および感染症は、抗微生物剤と付着防止活性物質からなる薬剤の組み合わせによって効率的に治療できる。付着を抑制することにより、バイオフィルムは破壊され、宿主の上皮から脱離する。これにより、その中に含まれるすべての細菌が同時に放出され、直接の抗微生物処置を再び利用できるようになる。特に有用な付着防止活性物質のクラスは、非ステロイド系抗炎症剤(NSAID)で構成される。これらは、付着防止作用に加えて、抗炎症作用と即効性の鎮痛作用があり、そのため、しばしば痛みを伴う膣感染症の観点から、さらに特に有利である。慢性感染症はまた、慢性炎症を伴うため、特に慢性感染症の場合、抗炎症作用もまた特に重要である。記載の組成および記載の割合のエマルションに、記載の濃度および条件でNSAIDが存在することが、バイオフィルムの破壊のために決定的である。本発明の趣旨において、特に適したNSAIDは、ジクロフェナク、ブフェキサマク、イブプロフェン、デキシブプロフェン、フルルビプロフェン、ケトプロフェン、ピロキシカム、メロキシカム、ロルノキシカム、フルフェナム酸、メフェナム酸、インドメタシン、またはナプロキセンである。
【0011】
ジクロフェナクが局所的に皮膚に投与される際の標準濃度は、1~2%(10mg/または20mg/g)の範囲である。本発明の趣旨において、ジクロフェナクは、0.1%~0.5%(クリーム1gあたり1~5mg)、好ましくは0.2%~0.4%の量で、用いることが好ましい。イブプロフェンが局所的に使用される際の通常の濃度は、5%(50mg/gクリーム/ゲル)である。本発明の趣旨において、イブプロフェンは、好ましくは0.5~2.5%(クリーム1gあたり5~25mg)の量、好ましくは1~2%で、用いられる。好ましいNSAIDおよびそれらの好ましい量(「本発明による濃度」)のさらなる例は、表Aを参照することができる。
【0012】
表:A-本発明による標準および好ましい濃度の例
【表1】
【0013】
以下のNSAIDは、本発明の範囲において特に好ましい:
【表2】
【0014】
この表による濃度限定は、開放創(皮膚真菌感染症の場合に起こり得る)および粘膜への塗布に適用される。炎症がほとんどない皮膚に塗布する場合、NSAIDの最大濃度は、局所の標準量まで可能である。
【0015】
好ましい実施形態では、エマルションは、軟膏またはクリームの形態で利用可能である。好ましくは、抗微生物活性物質およびNSAIDを含み、水相および油相を有するエマルションであって、(a)水相中のNSAIDが、承認された皮膚用製剤においてこれらの活性物質に使用される標準濃度の半分から10分の1に相当する濃度範囲にあり、(b)該エマルションにおける、油相に対する水相の重量比が、2.0~2.7であり、および、(c)エマルションのpH値が、6.5~8.5、好ましくは7.0~8.0の範囲であることを特徴とする、好ましくは、泌尿生殖器感染症の治療のための、特に膣感染症および女性の膀胱炎の局所治療用の、およびパートナーの局所治療(陰茎亀頭、尿道の最初の3分の1)のための、エマルション、である。
【0016】
特に、本発明による製剤は、感染部位で直接攻撃することによって最適な薬物動態を示すだけでなく、最適な薬力学も示す。これにより、抗微生物活性物質の特に優れた効能が発揮するだけでなく、生じ得る副作用(刺激、ほてりなど)を招く必要なく、低濃度のNSAIDによって十分な効能を確保することにより、NSAIDとの相互作用が著しく向上する。実際、これにより、副作用に関するこれらの理由のために以前は使用できなかった抗微生物剤とNSAIDの組み合わせを、本発明の教示により患者が利用できるようになり、これらの患者は現在、治療の成功を享受している、という事実がもたらされている。しかしながら、本発明によれば、水相中のNSAIDの濃度は、最適な薬力学的効能にとって極めて重要であることが示されている。導入されたNSAIDの利用可能性は、NSAIDが塩の形態で主に存在することを確実にする、製造方法、水/油の比率、およびpH値の相互作用によって実現される。
【0017】
半固形のエマルション(水中油型または油中水型)は、好ましくはクリームの形態であって、活性物質を、効率的かつ濃縮された形でバイオフィルムの表面にもたらすのに特に適している。エマルションの粘度は、水と油の比率によっておもに決まる。驚くべきことに、水と油の比率は、エマルションの製剤において特に重要であることがわかった。脂肪成分の割合が高くなると、効果の発現が妨げられる。対照的に、脂肪の比率が低くなると、刺激作用が強くなる。
【0018】
膣での局所投与のための剤形を見つけることは、薬剤が投与中に容易に漏れる可能性があるという事実から難しく、このため、信頼性ある投与が難しいことが知られている。比較的狭い治療域の観点から、本発明による薬剤は、所望の治療効果を得るために、活性物質、とりわけNSAID成分が、作用部位に安全に留まることを前提とする。このため、薬剤における、NSAIDを含む水相に対する抗真菌剤を含む油相の比率は、比較的狭い範囲内である。したがって、水相の比率を増加させることによって粘度がさらに大幅に低下すると、膣からの漏出による制御不能な喪失が予想される。高含水量または低粘度の液体エマルションまたはゲルは、本発明による膣投与のための剤形として、除外されるべきである。
【0019】
膣の慢性感染症は、同時に膣上皮の慢性炎症と関連しているため、そのような場合、NSAIDが膣内に留まることが確実な場合にのみ、治癒を達成することができる。
【0020】
最適な治療効果を得るために、水と油の比率(水/油)は、2.7の値を超えないようにすべきである。このレベルを超えると、活性物質が膣分泌物によりきわめて速やかに洗い流され、これは、病原体が付着する膣上皮の外層に対して付着抑制効果を発揮するのに十分な時間がないことを意味する。水と油の比率が高すぎる場合にきわめて速やかに洗い流される活性物質は、かえって副作用として刺激作用を引き起こすこともあり得る。
【0021】
エマルション中の水分が多すぎると否定的な作用をもたらすのと同じように、脂肪が多すぎることも避けるべきである。NSAIDを低濃度で使用する観点から、治療効果を得るために、活性物質が、作用部位において長引かず速やかに放出されることが特に重要である。油相などからの放出がゆっくりであると、求められる治療濃度を作用部位で到達させることが保証できない。このため、エマルションの水と油の重量比(水/油)は、2.0未満となるべきでない。その結果、本発明によるエマルションの水と油の重量比(水/油)の値は、2.0~2.7、好ましくは2.1~2.6、さらに好ましくは2.2~2.55の範囲である。
【0022】
本発明において、配合中および使用中の両方において、NSAIDは、塩の形態(すなわちイオンの形態)であることが不可欠である。したがって、それらの製剤への組み込みが重要である。NSAIDが、その遊離形態で組み込まれる場合、またはそれが塩として油相に組み込まれる場合、治療効果は大幅に損なわれる。抗真菌剤は、好ましくは油相に組み込まれ、そこに存在するが、本発明による方法は、一般的に、エマルションを製造する前に、NSAIDを水相に導入することを含む。あるいは、NSAIDの固体塩を、微結晶または微粒形態で、またはヒドロゲルとして、(大部分)完成したエマルションに組み込むことができる。
【0023】
活性物質がエマルションの水相に存在する場合、NSAIDが塩として存在することを前提として、迅速な放出が確実になる。ほとんどのNSAIDは、pKa値が4~5の弱酸である(ジクロフェナク4.15、イブプロフェン4.91、メフェナム酸4.2、インドメタシン4.5、ナプロキセン4.2)。したがって、それらは、弱酸性環境において一部遊離した形態ですでに存在し、そのため、油相に抽出され、効果の低下または効果の喪失をもたらす可能性がある。pH値の低下により、遊離酸として存在するNSAIDの活性物質の割合が油相内で増加することから、本発明による活性物質濃度で薬剤に治療効果をもたらすためには、pH=6以上のpH値が適切である。しかしながら、NSAIDの場合、アルカリ環境において化学的安定性が低下する可能性がある(ジクロフェナクの場合はpH8.00~8.5)。エマルションのpH値は、基本的な生理学的適合性に影響を与えることにも注意すべきである。このため、製剤のpH値に関して、比較的狭い限定も設定される。本発明によれば、(エマルションの水相は)pH値が、6.5~8.5、好ましくは7~8の範囲である。
【0024】
本発明の範囲において、抗生物質または防腐剤は、好ましくは、抗微生物剤として用いられる。
【0025】
膣のバイオフィルムに見られる細菌微生物の中で、エンテロバクター、大腸菌、肺炎桿菌、および腸球菌などの典型的な腸内細菌だけでなく、ウレアプラズマおよびマイコプラズマ、ならびに、ガードネレラ・バギナリス、プレボテラ属およびモビルンカスは、特定の役割を果たす。これらの細菌の処置にも特に適している本発明の範囲内の好ましい抗生物質は、ホスホマイシン、クリンダマイシン、メトロニダゾール、ニトロフラントイン、ニトロフラゾン、ニトロフラントイン、ニフラテル、ニフロキサシン(nifuroxacin)、ニトロキソリン、トリメトプリム、スルファジアジン、およびコトリモキサゾールである。
【0026】
防腐剤は、トリコモナスなどの非細菌性微生物と細菌の両方に作用することができる。防腐剤は、濃度がより高くなると、抗菌作用を発揮し、単独でまたは抗生物質とともに、本発明の付着防止活性物質と組み合わせるのに適している。防腐剤の抗微生物作用は、主に形質膜の安定性を乱すことに基づいている。内皮細胞の膜の基本的な同一構造により、これらの活性物質は、炎症を誘発する内在的な可能性を有している。この可能性はNSAIDによって抑制されるため、本発明による防腐剤の組み合わせ製剤は、非常に特別な治療上の利点を与える。
【0027】
好ましい防腐剤は、塩化ベンザルコニウムおよびデカリニウム塩化物などの第四級アンモニウム塩、ならびに、フェノキシエタノールである。好ましい濃度は、塩化ベンザルコニウムでは0.2重量%以上であり、デカリニウム塩化物では0.2重量%以上であり、フェノキシエタノールでは2重量%以上である。本発明の趣旨において、「抗微生物活性物質」、「抗菌活性物質」、「抗生物質」、「防腐剤」などの用語は、通常の医薬用途においてそのような活性物質とみなされる物質を意味するものと理解されるべきである。このような活性物質とみなされる物質は、例えば、Rote Liste ("Red Data Book") (Rote Liste Service GmbH (editor and publisher), Rote Liste 2014 - Arzneimittelverzeichnis fuer Deutschland ("Red Data Book 2014 - Drug Compendium for Germany") (including EU authorisations and certain medical devices), 2047 pages, ISBN 978-3-939192-80-0)、を引用することができ、その内容は本願明細書に含まれる。本発明の意味の範囲内で抗菌活性物質でないものは、ベンジルアルコール、エタノール、またはプロパノールである。
【0028】
記載された組み合わせにおいて、本発明による薬剤の組み合わせ組成物は、複雑な慢性膣炎であっても治療に特に適している。
【0029】
特定の用途では、匂い物質をエマルションに加えることが推奨される。エマルションへのテルペン、好ましくはファルネソール、の添加は、さらにバイオフィルムの阻害効果があり、したがって、本発明の好ましい主題となる。
【0030】
本発明によるエマルションは、粘膜、特に泌尿生殖器感染症への適用に適している。膣への適用に適していないのは、例えば、エタノールまたはイソプロパノールなどの粘膜損傷性物質の含有量が高い組成物である。したがって、本発明のエマルションは、エタノールの含有量が10%以下であることが好ましい。また、本発明のエマルションは、イソプロパノールの含有量が、20%以下であることが好ましい。角質化した層は、粘膜、例えば泌尿生殖器の部位では発生しないので、角質溶解作用は望ましくない。このため、強酸性の角質溶解性のサリチル酸は、本発明によるNSAIDではない。
【0031】
本発明によるエマルションは、陰茎亀頭および尿道における男性の泌尿生殖器粘膜疾患の治療にも適している。
【0032】
膀胱炎は蔓延している。通常は細菌感染により引き起こされる。膀胱は、局所治療を利用するのが難しい。しかしながら、女性の尿道は膣の正面入口にあるため、感染の最も一般的な経路は、膣から尿道への経路である。さらに、泌尿器科および婦人科の診療では、尿道の単独の炎症に起因する可能性のある症状がよく見られる。したがって、膣は、尿道炎と膀胱炎の主要な細菌の保留部となる。急性膀胱炎の抗生物質治療が、膀胱壁に付着する付着防止性の植物抽出物の経口投与によってサポートされ得るとしても、感染によっても通常影響を受ける膣細菌叢の回復は、依然として、継続的な治療のために、基本的な前提条件となる。これは、本発明の医薬を用いて達成することができる。このため、本発明によれば、医薬は、膀胱炎に対して、単独で、または膀胱のみに作用する医薬と組み合わせにおいて、有効な治療剤である。
【0033】
単純な細菌感染症とは別に、真菌(主にカンジダ属の酵母菌)での混合感染症も一般的である。WO2007/131253A2では、真菌感染症の局所治療のための薬剤の組み合わせが特許請求されており、その特別な効果は、抗真菌活性物質に加えて、真菌の上皮への付着を防止するさらなる活性物質が添加されるという事実に基づいている。述べられた混合感染症のいくつかは、WO2007/131253A2で特許請求されている組み合わせによって治療することができる。しかしながら、混合感染症が重症の場合、真菌感染症の治療に対してそのものに限定するのではなく、抗菌活性物質を薬剤に補充して3つの組み合わせにすることが推奨され、または必要となる。
【0034】
抗真菌活性物質は、好ましくは、ナイスタチン、シクロピロクスまたはシクロピロクスオラミンの群から選ばれる薬剤、または、アゾール(イミダゾール、トリアゾール、テトラアゾール)の群、例えば、クロトリマゾール、フルコナゾール、ミコナゾール、イトラコナゾール、チオコナゾール、ボリコナゾール、ビホナゾール、エコナゾール、イソコナゾール、フェンチコナゾール、セルタコナゾール、ケトコナゾール、ポサコナゾール、キルセコナゾール(quilseconazole)、オテセコナゾール(VT-1161)、アイブレキサフンジェルプ(SCY-078)から選ばれるもの、である。
【0035】
本発明による薬剤は、おもに膣炎および膀胱炎の治療のために開発されている。したがって、本発明は、感染症の局所治療における、特に泌尿生殖器感染症の局所治療用の、本発明によるエマルションの使用、に関する。好ましくは、感染症は、微生物(特に細菌)泌尿生殖器感染症、特に女性の微生物(特に細菌)泌尿生殖器感染症である。特に好ましい実施形態では、感染症は、カンジダ・アルビカンス、および、エンテロバクター、大腸菌、肺炎桿菌、ガードネレラ・バギナリス、またはプレボテラ属などの細菌、によって引き起こされる混合膣感染症である。別の好ましい実施形態では、感染症は、無症候性または症候性の細菌性膣炎、または、無症候性または症候性の、陰茎亀頭および/または男性の尿道の細菌叢異常である。
【0036】
ニキビと遺伝的脱毛はどちらも、男性ホルモンのテストステロンと関連している。実際、このホルモンの発病過程への寄与は、主に皮膚と毛包の皮脂腺の活性化にある。蓄積された皮脂は、その後、特にプロピオニバクテリウム、またはカンジダ真菌およびマラセチア真菌による、細菌感染の理想的な基質となる。マラセチアは、主に癜風と関連するが、プロピオニバクテリウム・アクネスは、ニキビの主な原因である。両方、脱毛と関連する。毛包に蓄積する大量の皮脂は、バイオフィルムの形成に理想的な基質である。原則として、膣で形成されるバイオフィルムと同じ評価基準が、このバイオフィルムに適用される。この場合も、抗感染剤が続いてその効果を発揮できるように、バイオフィルムをまず破壊し、上皮への接着を解かなければならない。したがって、本発明によれば、エマルションは、皮膚疾患、特に癜風、ニキビ、および脱毛の治療にも非常に適している。皮膚塗布は、膣感染症よりもかなり大きく、より定まらない範囲に影響を与える可能性があるため、これらの場合、特別なエマルションが好ましくなり得る。特に、シャンプーは脱毛の治療に適しており、ニキビ用クリーム、ニキビ用スティック、またはニキビ用溶液はニキビの治療に適している。
【実施例】
【0037】
以下、本発明を実施例によってより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0038】
実施例:
基本製剤Aの製造、一般的な製造仕様1:
構成成分である、ソルビタンモノステアレート、ポリソルベート60、セチルパルミテート、2-オクチルドデカノール、およびセトステアリルアルコールを、70~75℃の温度で溶融させる。60℃~70℃の温度で撹拌しながら、クリンダマイシン(場合によりクロトリマゾール)、次いでフェノキシエタノールを、透明な溶融物に加える。同時に、ジクロフェナクナトリウムを精製水に加熱しながら溶解させる。撹拌しながら水溶液を油相に加え、均一化させる。形成されたw/oエマルションをさらに均一化させながらゆっくり冷却すると、転相が起こり、親水性の均一なクリームが得られる。
【0039】
【0040】
抗菌剤としてフェノキシエタノールを含むエマルション
表:F1-抗菌剤としてフェノキシエタノール
【表4】
【0041】
症例研究:24歳の女性患者(EH)、3年間真菌感染症によりほぼ継続的に症状があり、性交渉は数年間ほぼ不可能。1週間、激しい症状。入り口において、灼熱感とかゆみ。
婦人科検診(Gyn.E.):外陰部と膣の粘膜が真っ赤で、固体クリーム状の緑色がかった膣の内容物、分泌物塗抹標本:上皮細胞と多量の菌糸体に付着した多量の白血球、混合フローラ、乳酸菌はほとんどない、バックグラウンドは汚れいている-溶解した細胞、中間のフローラ。
治療:2週間以上、F1を(0-0-1Hb)、膣に投与、その後、必要に応じてF1。
3年後の検診:最後の治療以降、症状はなし;
婦人科検診:粘膜無症状、正常な膣内フローラ、乳酸菌フローラ。
【0042】
実施例:デカリニウム塩化物を含むエマルション
表:F2-抗菌剤としてデカリニウム塩化物
【表5】
【0043】
症例研究:40歳の女性患者(AKS)、数年の間、それぞれ約1週間から10日間、真菌感染症によりほぼ毎月症状があり、性交渉は数年間ほぼ不可能。さらに1週間、薄くて悪臭のある膣分泌物。入り口において、灼熱感とかゆみ。
婦人科検診:粘膜は真っ赤で、分泌物は薄く、わずかに緑がかっている。分泌物塗抹標本:厚い菌糸体上に多量のバイオフィルムのプラーク、白血球+++、乳酸菌はほとんどない、中間のフローラ。
治療:1週間以上、F2を(0-0-1Hb)、膣に投与。
2年後の検診:2年間症状がなく、まれにわずかな真菌感染症、残ったF2で治療;
婦人科検診:粘膜無症状、乳酸菌フローラ
【0044】
表:F3-抗菌剤としてデカリニウム塩化物
【表6】
【0045】
症例研究:31歳の女性患者(FJ)、約3年間、それぞれ1週間から10日間、真菌感染症の再発により、ほぼ毎月の月経前症候群。さらに1週間、薄くて悪臭のある膣分泌物。入り口において、灼熱感とかゆみ。
婦人科検診:粘膜はわずかに赤くなり、分泌物が薄く、臭いがある。分泌物塗抹標本:細菌性膣炎(RG III)、さらに菌糸体、多量の白血球。
治療:1週間以上、F3を(0-0-1Hb)、膣に投与。
4か月後の検診:主観的に、治療後、症状はなし。婦人科検診:粘膜無症状、分泌物塗抹標本:正常な膣内フローラ(RG I)
【0046】
実施例:クリンダマイシンを含むエマルション
表:F4
【表7】
【0047】
症例研究:31歳の女性患者(EK)、数か月間、治療に耐性のある細菌性膣炎、特に月経後に悪臭の分泌物。微生物塗抹標本では、多量のガードネレラとプレボテラがある。
婦人科検診:粘膜は真っ赤になり、膣分泌物は薄く、悪臭がある。分泌物塗抹標本:多量の糸玉状細胞、白血球+++、細菌性膣炎(RG III)。
治療:1週間以上、F4を(0-0-1)、膣に投与、その後、Hylaktiv Vagilact。
2年後の検診:上記の治療により無症状、わずかに真菌感染症。婦人科検診:粘膜無症状、正常な乳酸菌フローラ(RG I)
【0048】
実施例:ホスホマイシン・トロメタモールを含むエマルション
表:F5
【表8】
【0049】
症例研究:69歳の女性患者(ET)、約2年間、再発性尿路感染症、シプロキシン(Ciproxin)で繰り返し治療。2週間、排尿衝動の増加と入り口に灼熱感。
婦人科検診:膀胱の圧痛;粘膜萎縮、接触時の出血、子宮頸部萎縮、くっつき、子宮頸部用ブラシで開く、分泌物:萎縮、好気性混合フローラ(RGIII)、多量の白血球。
治療:1週間以上、F5を(0-0-1Hb)、膣に投与、さらにオベスチン。
2週間後の対照検診:主観的に、治療後、症状はなし。
婦人科検診:粘膜無症状、膀胱および尿道に圧痛はなし;分泌物塗抹標本:正常な膣内フローラ(RG I)の開始、白血球なし。
【0050】
【0051】
症例研究:36歳の女性患者(CS)、2年前にタイでの休暇後に最初のUTI、血尿および長期にわたる灼熱感、2か月間再び下腹部に痛み、およびUTI(タイでの休暇後再び)、特に排尿後に何度も灼熱感、2週間再び排尿衝動の増加、AB治療後(1週間)に膀胱の問題は改善されず、さらに、現在、入り口においてかゆみと灼熱感。
婦人科検診:膀胱の圧痛;膣粘膜はあまり目立たず、明らかに子宮頸部周囲に約1cmの血性びらんがある子宮頸管炎、分泌物/生体の調製:細菌性膣炎、多量の白血球、これらは細菌で覆われる、分離された乳酸菌、菌糸++。微生物塗抹標本-分泌物培養:多量の大腸菌。
治療:10日以上、F6を(0-0-1)、膣に投与、さらに3日ごとの間隔をあけて2ボトル(Btl)のモヌリル(Monuril)。
4週間後の検診:主観的に、治療後、症状はなし。
婦人科検診:粘膜無症状、膀胱および尿道に圧痛はなし;
分泌物塗抹標本:正常な膣内フローラ(RG I)、白血球なし。
【0052】
【0053】
実施例:NSAIDの臨床効果に対する水相/油の重量比の影響
驚くべきことに、粘度の変化は、小さな範囲の変化であっても、臨床効果に明らかな影響を示す。記載の実施例は、一般的な製造仕様1に従って、脂肪成分の量と水の量とを変えることにより製造した。
【0054】
水の量の増加とそれによる粘度の低下は、放出の増加と粘膜の湿潤性の増加とによって、局所的な刺激と臨床効果の低下をもたらす。
【0055】
表:臨床効果に対する水相/油の重量比の影響
【表11】
【0056】
油相に対する水相の重量比を計算するために、表に示すように、水相と油相の個々の割合を合計する。乳化剤、例えば、ソルビタンモノステアレートおよびポリソルベート60は、2つの相の間の界面にあるため、水相と油相のどちらにも該当しない。
【0057】
WO02/0768648A2の実施例2における濃縮したエマルション(すなわち、成分A、B、J、C、E、G、H、およびKの半分の、中間体生成物)の、油相に対する水相の比を計算すると、3.1の比率が得られる(油相:テルビナフィン、ブチルヒドロキシトルエン、ベンジルアルコール、ミリスチン酸イソプロピル、合計11.52g/100g;水相:ジクロフェナクナトリウムおよび水、合計35.94g/100g;比率3.1)。したがって、そのようなエマルションは、水/油の比が本発明の範囲外であり、そのため、本発明の趣旨において適切ではない。
【0058】
あるいは、油相に対する水相の重量比は、相に溶解した物質(クロトリマゾール、ジクロフェナクNa、ベンジルアルコール、セチルステアリルアルコール)を含めずに計算できる。この計算方法では、水とプロピレングリコールのみが、表3の水相に帰属し、セチルパルミテート、2-オクチルドデカノール、およびセチルステアリルアルコールが、油相に帰属する。表3に示した水/油の比率、2.7、3.1、2.4、2.4、2.0、1.7は、この計算方法によれば、2.9、3.4、2.6、2.6、2.1、1.8の値に対応する。本発明による2.0~2.7という範囲は、この計算方法によれば、2.1~2.9の範囲に対応する。
【0059】
しかしながら、本発明の趣旨において、油相に対する水相の油相の重量比の計算は、表3に示すように、すなわち、相に溶解した物質を含めて、行われるものである。
【0060】
臨床効果に対する水相/油の重量比の影響のさらなる実施例:
【表12】
【0061】
実施例:NSAIDの臨床効果に対するpH値の影響
クロトリマゾールとNSAIDを含むエマルションを用いて、NSAIDの臨床効果に対するpH値の影響を調べた。異なる濃度のジクロフェナクNaを含むエマルションを製造し、その臨床効果を試験した。
【0062】
表:NSAIDの濃度に対する臨床効果の依存性
【表13】
【0063】
クロトリマゾールとNSAIDの併用は、エマルション系のpHのシフトにより、対応するクロトリマゾール製剤と比較すると、微生物学的および化学的な安定性(薬局方)がどちらも変化する。
【0064】
【0065】
実施例:真菌性脱毛の治療用シャンプー:
表:F8
【表15】
【0066】
アイブレキサフンジェルプ(SCY-078)の構造式。
【化1】
【0067】
オテセコナゾール(VT-1161)の構造式。
【化2】
【0068】
以上より、本発明は、以下の好ましい実施形態に関する。
1. 皮膚感染症および粘膜感染症、特に泌尿生殖器感染症の局所治療のためのエマルションであって、抗微生物活性物質、および付着防止活性物質、好ましくはNSAIDが、組み合わせて用いられることを特徴とする、エマルション。
2. 抗真菌活性物質をさらに含む、実施形態1に記載のエマルション。
3. 抗微生物活性物質およびNSAIDを含み、水相および油相を有する、好ましくは軟膏またはクリームの形態である、エマルションであって、(a)水相中のNSAIDが、承認された皮膚用製剤においてこれらの活性物質に使用される標準濃度の半分から10分の1に相当する濃度範囲にあり、(b)該エマルションにおける、油相に対する水相の重量比が、2.0~2.7であり、および、(c)エマルションのpH値が、6.5~8.5、好ましくは7.0~8の範囲であることを特徴とする、好ましくは、泌尿生殖器感染症の治療のための、特に膣感染症および女性の膀胱炎の局所治療用の、およびパートナーの局所治療(陰茎亀頭、尿道の最初の3分の1)のための、実施形態1または2に記載のエマルション。
4. 抗微生物活性物質およびNSAIDを含み、水相および油相を有する、好ましくは、軟膏、クリーム、シャンプー、溶液またはスティックの形態である、エマルションであって、(a)水相中のNSAIDが、皮膚投与の場合、最大でこれらの活性物質の標準濃度に相当する濃度範囲にあり、粘膜投与の場合、同標準濃度の半分から10分の1に相当する濃度範囲にあり、および、(b)エマルションのpH値が、5.5~8.5であることを特徴とする、好ましくは、皮膚感染症の局所治療のための、特にニキビ、脱毛、癜風、およびアトピー性皮膚炎の局所治療用の、実施形態1または2に記載のエマルション。
5. NSAIDが、ジクロフェナク、ブフェキサマク、イブプロフェン、デキシブプロフェン、フルルビプロフェン、ケトプロフェン、ピロキシカム、メロキシカム、ロルノキシカム、フルフェナム酸、メフェナム酸、インドメタシン、またはナプロキセンであることを特徴とする、実施形態1~4のいずれか1つに記載のエマルション。
6. 抗微生物活性物質が、抗生物質であることを特徴とする、実施形態1~5のいずれか1つに記載のエマルション。
7. 抗生物質が、ホスホマイシン、クリンダマイシン、メトロニダゾール、ニトロフラントイン、ニトロフラゾン、ニトロフラントイン、ニフラテル、ニフロキサシン(nifuroxacin)、ニトロキソリン、トリメトプリム、スルファジアジン、またはコトリモキサゾールであることを特徴とする、実施形態6に記載のエマルション。
8. 抗微生物活性物質が、防腐剤であることを特徴とする、実施形態1~7のいずれか1つに記載のエマルション。
9. 防腐剤が、好ましくは0.2重量%以上の濃度の、塩化ベンザルコニウム;好ましくは0.2重量%以上の濃度の、デカリニウム塩化物;および、好ましくは2重量%以上の濃度の、フェノキシエタノール、からなる群から選択されることを特徴とする、実施形態8に記載のエマルション。
10. 抗真菌活性物質が、ナイスタチン、シクロピロクスまたはシクロピロクスオラミン、または、アゾールの群、好ましくはクロトリマゾール、フルコナゾール、ミコナゾール、イトラコナゾール、チオコナゾール、ボリコナゾール、ビホナゾール、エコナゾール、イソコナゾール、フェンチコナゾール、セルタコナゾール、ケトコナゾール、ポサコナゾール、キルセコナゾール(quilseconazole)、オテセコナゾール(VT-1161)またはアイブレキサフンジェルプ(SCY-078)から選ばれる抗真菌剤、であることを特徴とする、実施形態2~9のいずれか1つに記載のエマルション。
11. NSAIDがジクロフェナクであり、エマルションに0.2~0.4重量%の濃度範囲で含まれることを特徴とする、実施形態1~10のいずれか1つに記載のエマルション。
12. 匂い物質、好ましくはテルペン、特にファルネソール、をさらに含むことを特徴とする、実施形態1~11のいずれか1つに記載のエマルション。
13. 感染症の局所治療用の、特に皮膚および泌尿生殖器の感染症の局所治療用の、実施形態1~12のいずれか1つに記載のエマルション。
14. 感染症が、粘膜感染症、特に泌尿生殖器感染症であることを特徴とする、実施形態13に記載のエマルション。
15. 感染症が、微生物泌尿生殖器感染症、特に女性の微生物泌尿生殖器感染症であることを特徴とする、実施形態13または14に記載のエマルション。
16. 微生物泌尿生殖器感染症が、細菌性泌尿生殖器感染症であることを特徴とする、実施形態15に記載のエマルション。
17. 感染症が、カンジダ・アルビカンス、および、エンテロバクター、大腸菌、肺炎桿菌、ガードネレラ・バギナリス、またはプレボテラ属などの細菌による、混合膣感染症であることを特徴とする、実施形態13~16のいずれか1つに記載のエマルション。
18. 感染症が、無症候性または症候性の細菌性膣炎、または、無症候性または症候性の、陰茎亀頭および/または男性の尿道の細菌叢異常であることを特徴とする、実施形態13~17のいずれか1つに記載のエマルション。
19. 感染症が、慢性感染症であることを特徴とする、実施形態13~18のいずれか1つに記載のエマルション。
20. ニキビの治療用の、実施形態1~12のいずれか1つに記載のエマルション。
21. エマルションが、ニキビ用スティック、または、ニキビ用溶液に製剤化されていることを特徴とする、実施形態20に記載のエマルション。
22. 皮膚真菌感染症、好ましくはカンジダ真菌症およびマラセチア真菌症の治療用の、実施形態1~12のいずれか1つに記載のエマルション。
23. 脱毛の治療用の、好ましくはシャンプーである、実施形態1~12のいずれか1つに記載のエマルション。
24. エマルションを製造するときに、NSAIDを、水相を介して導入することを特徴とする、実施形態1~12のいずれか1つに記載のエマルションの製造方法。
25. NSAIDを、抗真菌剤を含有するエマルションに、微結晶または微粒塩として導入することを特徴とする、実施形態1~12のいずれか1つに記載のエマルションの製造方法。