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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-02
(45)【発行日】2023-11-13
(54)【発明の名称】分離マトリクス及び分離方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 15/34 20060101AFI20231106BHJP
   B01J 20/24 20060101ALI20231106BHJP
   B01J 20/30 20060101ALI20231106BHJP
   C08B 37/12 20060101ALI20231106BHJP
【FI】
B01D15/34
B01J20/24 C
B01J20/30
C08B37/12
C08B37/12 A
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020559430
(86)(22)【出願日】2019-04-24
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-08-30
(86)【国際出願番号】 EP2019060428
(87)【国際公開番号】W WO2019206938
(87)【国際公開日】2019-10-31
【審査請求日】2022-03-24
(31)【優先権主張番号】1806758.7
(32)【優先日】2018-04-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】516105833
【氏名又は名称】サイティバ・バイオプロセス・アールアンドディ・アクチボラグ
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100154922
【弁理士】
【氏名又は名称】崔 允辰
(74)【代理人】
【識別番号】100207158
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 研二
(72)【発明者】
【氏名】ヨーナス・ベントソン
(72)【発明者】
【氏名】リン・カールソン
(72)【発明者】
【氏名】アンドレアス・アクセーン
(72)【発明者】
【氏名】ロニー・パルムグレーン
【審査官】阿久津 江梨子
(56)【参考文献】
【文献】特表2003-523169(JP,A)
【文献】米国特許第5855790(US,A)
【文献】中国特許出願公開第103769057(CN,A)
【文献】CARBOHYDRATE POLYMERS,2015年,Vol. 116,pp. 117-123
【文献】BIOMACROMOLECULES,米国,2012年,Vol. 13, No. 3,pp. 850-856
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 15/34
B01J 20/24
B01J 20/30
C08B 37/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アガロース又は寒天のゲルビーズを備える分離マトリクスであって、前記アガロース又は寒天のゲルビーズが埋め込み繊維を備え、前記埋め込み繊維が、マイクロフィブリル化セルロースを備える、分離マトリクス。
【請求項2】
前記埋め込み繊維が、前記アガロース又は寒天のゲルビーズ内に分散している、及び/又は、前記アガロース又は寒天に化学的に架橋している、請求項1に記載の分離マトリクス。
【請求項3】
前記埋め込み繊維が分岐している、請求項1又は2に記載の分離マトリクス。
【請求項4】
分離マトリクスを調製する方法であって、
アガロース又は寒天の水溶液を繊維と混合するステップaと、
前記水溶液からゲルビーズを形成するステップbと、を備え、
前記繊維が、マイクロフィブリル化セルロースを備える、方法。
【請求項5】
前記ステップbの後に、前記ゲルビーズのアガロース又は寒天を架橋させ、任意で前記繊維と架橋させるステップcを更に備える請求項に記載の方法。
【請求項6】
前記ゲルビーズの反応性ヒドロキシル基にクロマトグラフィ配位子を取り付けるステップを更に備える請求項又はに記載の方法。
【請求項7】
前記繊維を有する前記アガロース又は寒天の水溶液が油相で乳化され、ゲル化を誘発するように温度を下げることによって前記ゲルビーズが形成される、請求項からのいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
任意でクロマトグラフィカラムに充填されて、目標化合物を精製、分離、又は除去するための請求項1からのいずれか一項に記載の分離マトリクスの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分離マトリクス粒子に係り、特に、タンパク質、核酸、ウイルス等の生物学的分離用の埋め込み繊維を備える多糖類クロマトグラフィマトリクスに関する。
【背景技術】
【0002】
ワクチン、抗体、組み換えタンパク質、遺伝子治療ベクター等の生物薬剤の製造では、製品から多様な汚染物や不純物を除去するために通常は複数のクロマトグラフィ分離ステップが必要である。こうした分離ステップはかなりのコストと工程時間を追加するので、例えば結合性能及び/又は流量を増大させることによって、分離を向上させることに大きな関心が持たれている。そこで、高流量に適応するのに十分な剛性を有する分離マトリクスが必要とされている。
【0003】
一般的には、クロマトグラフィ分離は、ゲルビーズ状の分離マトリクスを充填したカラムで行われる。一例として、サイズ排除クロマトグラフィ(SEC,size‐exclusion chromatography)が挙げられる。例えば、巨大タンパク質やウイルス等の大きな生物学的存在の分離は、孔の大きなビーズを要する。しかしながら、大きな孔は剛性の低下に繋り得るので、高流量において分離マトリクスが崩壊し得る。従って、ポリマーを架橋させてより安定にして剛性を増大させているのが実状である。このような架橋は、多糖類のヒドロキシル基と架橋剤の官能基との間で行われる。特許文献1には、マスキングされた官能基を備える単官能架橋剤を用いてゲルビーズの剛性を改善する方法が記載されている。他の例として、特許文献2に記載の大きな孔と高い剛性を得るために多糖類ゲルを架橋させる方法は、ゲル形成の前に多糖類溶液に架橋剤を導入するステップを備える。これらの方法では、架橋が、多糖類鎖同士の間の架橋をもたらす。架橋アガロースを用いた市販品の一例はSuperose(GEヘルスケアの登録商標)である。Superoseの剛性が、8M尿素等の粘性溶離液を実用的な流量で流すことを可能にする。従って、架橋剤(エピクロルヒドリン、ビスエポキシド、アリルグリシジルエーテル、臭化アリル、ジビニルスルホン等)を用いた多糖類ゲルビーズの化学的架橋が、クロマトグラフィ分離用に剛性が改善された分離マトリクスを作製するための確立された方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】欧州特許出願公開203049号明細書
【文献】国際公開第97/38018号
【文献】米国特許第4374702号明細書
【文献】米国特許第8647468号明細書
【文献】米国特許第6214163号明細書
【文献】米国特許出願公開第2017/0121908号明細書
【文献】国際公開第2015/180844号
【非特許文献】
【0005】
【文献】Gel Filtration Principles and Methods, Pharmacia LKB Biotechnology 1991, pp 6-13
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、タンパク質、核酸、ウイルス等の生物学的分離を改善するために高い多孔性及び/又は高い剛性を示す分離マトリクスを提供することである。これは、多糖類ゲルビーズを備える分離マトリクスにおいて、多糖類ゲルビーズが埋め込み繊維を備えることで達成される。
【0007】
本発明の第二態様は、少なくとも一種のゲル化可能多糖類の水溶液を繊維と混合することと、水溶液からゲルビーズを形成することによって分離マトリクスを製造する方法を提供することである。
【0008】
本発明の第三態様は、目標化合物の精製、分離又は除去のための分離マトリクスの使用を提供することである。
【0009】
本発明の適切な更なる実施形態は従属請求項に記載されている。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】埋め込みセルロース繊維を備えるアガロースゲルビーズの顕微鏡像である。繊維は、乾燥アガロース重量の6%の濃度で埋め込まれ、アガロース濃度は、(水重量の)2%であった。マイクロフィブリル化セルロースがゲルビーズ内に分散している。白色のスケールバーは200μmを示す。
図2】セルロースの追加が、分離マトリクスの耐圧縮性を変化させる様子を示す。低い濃度が、高いゲルビーズ剛性を示す。最終的なアガロース濃度は、(水重量の)4%であった。
図3】四つの検体に対するK値と、ピーク分子量(Mp)の対数とを示す。高いK値は、検体について利用可能な細孔体積が大きいことを表す。大きなlog(Mp)は大きな検体を示す。「CLアガロース」は、架橋アリル化アガロースの省略形である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
定義
本願において、「備える」、「含有する」、「有する」等の用語は米国特許法による意味を有するものであって、「含む」等を意味し得る。「から実質的に成る」等の用語は米国特許法による意味を有するものであり、この用語はオープンエンド型のものであり、記載されている基本的特性や新規特性が変更されない限りにおいて記載以外のものの存在を許容するものであるが、従来技術の実施形態は除外される。
【0012】
本願において、「繊維」との用語は、一本の繊維の意味を有し得るし、フィブリルの凝集体を備える繊維も意味し得る。
【0013】
一態様では、本発明は、多糖類ゲルビーズ(その多糖類ゲルビーズは埋め込み繊維を備える)を備える分離マトリクスを開示する。ゲルビーズの多糖類は、あらゆる多糖類であり得て、例えば、寒天、アガロース、アガロース誘導体、澱粉誘導体、デキストラン、デキストラン誘導体、アルギン酸塩が挙げられる。特に適切なのは、高い剛性で孔の大きなゲルを生成する熱ゲル化多糖類、例えば、寒天、アガロース、アガロース誘導体(例えば、アリルアガロース、ヒドロキシエチルアガロース)等である。
【0014】
一部実施形態では、埋め込み繊維は、ゲルビーズ内に埋め込み可能なあらゆる繊維であり得て、例えば、有機繊維、カーボンナノファイバ、鉱物繊維、プラスチック繊維等の合成繊維、金属コアを有する繊維が挙げられる。特定の実施形態では、こうした繊維の寸法は、ゲルビーズ内への埋め込みを可能にするものとされるので、埋め込み繊維の平均長さや最大長さや両端距離は、ゲルビーズ直径よりも典型的には小さく、例えば1~500マイクロメートルの範囲内である。
【0015】
特定の実施形態では、繊維は、凝集フィブリルを備える、分岐を示す、及び/又は、「ブラシ状」構造を有するものであり、このような繊維の一例はマイクロフィブリル化セルロース(MFC,microfibrillated cellulose)である。典型的には、繊維は分岐しており、つまり、繊維骨格から鋭角に一つ以上の分岐を示す。より一般的な用語として、繊維が分岐しているとも記載され得る。こうした繊維は、アガロース溶液と良好に混ざる溶液中に容易に分散する。このようなマイクロフィブリル化セルロースの一例は、Exilva Forte(登録商標)(ノルウェーのBorregaard社)セルロース懸濁液である。他の例は、特許文献3、特許文献4、特許文献5、特許文献6に記載されており、これらの全体は参照として本願に組み込まれる。一部実施形態では、セルロース繊維がアガロースゲルビーズ中に分散する。
【0016】
一部実施形態では、繊維がゲルビーズ内に完全に埋め込まれて、0.95よりも大きな平均球形度を有するゲルビーズが得られる。本願において、球形度は、一般的な様に、所定の粒子と同じ体積を有する真球の表面積・対・粒子の実際の表面積の比として定義される。これは、顕微鏡写真の画像分析によって適切に決定可能である。ゲルビーズは平滑な表面を有するものが適している。このような球形ゲルビーズは、保管、取り扱い、分離カラムへの充填が簡単である。更に、高い球形度と平滑な表面が非特異的相互作用を防止する。何故ならば、最密充填を妨げ、空隙体積を増加させ、凝集や他の充填に対する悪影響を生じさせる突出した繊維が存在しないからである。特定の実施形態では、10%未満のゲルビーズ、例えば5%未満や2%未満のゲルビーズのみが、顕微鏡で確認可能な一本又はそれ以上の突出した繊維を有する。
【0017】
本発明の一態様は、埋め込み繊維を備える分離マトリクスの製造方法である。一実施形態では、分離マトリクスを調製する方法は、少なくとも一種のゲル化可能多糖類の水溶液を繊維と混合するステップと、次いで、その水溶液からゲルビーズを形成するステップとを備える。ゲルビーズを形成する前に多糖類水溶液中に繊維を含ませることで、ゲルビーズ内部に繊維を埋め込むことが可能となる。
【0018】
一部実施形態では、製造方法は、多糖類(例えば、アガロース)を含有する水溶液と繊維(例えば、セルロース)を油相(トルエンやヘプタン等)で乳化させることによるゲルビーズ形成ステップを備える。こうした実施形態では、乳液の温度を下げてゲル化を誘発することによって、ゲルビーズが形成される。
【0019】
一部実施形態では、分離ゲルビーズマトリクスの多糖類はアガロースであり、繊維はセルロースであり、アガロースの含有量と、繊維対アガロース比は、生物学的分離用の所望の多孔性と選択性を達成するように変更され得る。一部実施形態では、分離マトリクスは、アガロース重量(つまり、繊維無しのマトリクスの乾燥重量)の最大80%の埋め込みセルロース繊維を備え、アガロース濃度は、総重量の最大20%となり得る。埋め込みセルロース繊維の量は、アガロース重量の最大20%、例えば、アガロース重量の最大10%、0.1~10%、0.1~7%等となり得る。溶液中のアガロース濃度は、最大10重量%、例えば、最大6重量%、1~6重量%等となり得る。
【0020】
一部実施形態では、ゲル化の前に、一種以上の成分がアガロース溶液に更に追加される。こうした成分は、分離マトリクスに追加的な機能要素、例えば、磁気粒子(磁鉄鉱粒子)や、低密度粒子や高密度粒子(例えば、マイクロバルーン、金属粒子、炭化タングステン粒子)や、後続の生物学的分離用の分子結合成分を追加する。
【0021】
一部実施形態では、製造方法は、ゲルビーズにクロマトグラフィ配位子を取り付ける追加ステップ(例えば、ゲルビーズの反応性ヒドロキシル基を用いる)を備える。これは、配位子に結合する特定の分子や特定の生物学的存在(ウイルス等)の精製に分離マトリクスを使用することを可能にする。
【0022】
一部実施形態では、架橋によって、製造されるビーズの機械的安定性が増大し、分離マトリクスとしての使用時に高いカラム圧力に良好に耐える。従って、一実施形態では、アガロースは、ゲル化中に自発的に生じる物理的架橋に加えて、化学的にも架橋される。従来から用いられている周知の架橋剤が多数利用可能であるので、当業者は、使用されるアガロースや、最終製品の用途等に応じて、適切な架橋剤を簡単に選択することができる。また、架橋剤は、多糖類の架橋工程において後で活性される一つ以上の不活性サイトも含有し得る。例示的な例として、エピクロルヒドリン、ビスエポキシド、アリルグリシジルエーテル、臭化アリル、ジビニルスルホン等が使用可能である。架橋は、少なくとも一回行われるが、同じ架橋剤や他の架橋剤分子や架橋剤混合物を用いて、繰り返され得る。
【0023】
一部実施形態では、埋め込み繊維は、分離マトリクスのゲルビーズの多糖類と化学的に架橋して、繊維がゲルの多糖分子と共有結合するようになる。例えば、セルロース繊維とアガロースゲルビーズの場合、これは、架橋に利用可能なヒドロキシル基を用いた標準的な架橋方法によって達成可能である。ゲルビーズ内部での繊維と多糖類の化学的架橋が、構造的支持と剛性の改善とを可能にする。繊維と分離マトリクスの短距離共有結合が、繊維を多糖類分離マトリクス中に組み込んで固定する。こうした特に有利な実施形態では、架橋が、結果物の分離マトリクスを機械的及び化学的の両面においてより安定にする。例示的な例として、エピクロルヒドリン、ビスエポキシド、アリルグリシジルエーテル、臭化アリル、ジビニルスルホン等が使用可能である。架橋は少なくとも一回行われるが、一部実施形態では同じ架橋剤や他の架橋剤分子や架橋剤混合物を用いて、繰り返され得る。架橋剤化合物は一つ以上の不活性サイトも含有し得て、その不活性サイトは、分離マトリクスの調製方法において後で活性化される。
【0024】
一部実施形態では、架橋は、繊維対アガロース比や架橋度を変更することによって、ゲルビーズの物理的特性を調整することも可能にする。異なる比と架橋条件は、分離マトリクスの異なる多孔性と選択性をもたらす。有利な一実施形態では、繊維は、適切な濃度、例えば、アガロース重量の0.1~10%で埋め込まれ、ゲルビーズの剛性が改善されるようにしてビーズの多糖類の架橋が行われ、分離マトリクスの多孔性が、繊維無しでの分離と比較して大きな分子の分離の改善を可能にする。
【0025】
一部実施形態では、乳液の冷却後に、例えばエタノール若しくは水を用いて、又はエタノール及び水の両方を用いて、ゲルビーズが洗浄されて、有機溶媒と、埋め込まれていない残留繊維や化学物質を分離マトリクスから除去する。この実施形態が特に有利であるのは、分離マトリクスの分離特性に影響し得る埋め込まれていない残留繊維無しで、ビーズを保管用緩衝液中に再懸濁させるのが容易だからである。
【0026】
一部実施形態では、埋め込み繊維を有する分離マトリクスは、目標化合物を分離、孤立化、又は除去する方法において使用され、その方法は目標分子を備える液体と分離マトリクスを接触させるステップを備える。このような方法と使用が、例えば、クロマトグラフィカラムに充填された分離マトリクスを用いて行われ得る。このような方法は、埋め込み繊維を有する分離マトリクスの新規分離特性の恩恵を受ける。一例として、剛性と選択性の改善が、大型の分子と生物学的存在、例えば、ウイルスの短時間での分離を可能にする。
【0027】

特許文献2(その全体が参照として本願に組み込まれる)に主なステップが記載されている油中水(w/o,water in oil)乳液方法によって、埋め込みセルロースを有する多孔質アガロースビーズを調製した。分離マトリクスとして使用されるゲルビーズの既知の調製方法との主な相違点は、以下のステップで概説されるようにゲル化の前にアガロース溶液にセルロース繊維を追加することである。
【0028】
セルロース
マイクロフィブリル化セルロースは、ホモジナイザーを通すことによってフィブリルとマイクロフィブリルを形成するように繊維が解かれている天然セルロースである。ホモジナイザーが、平均繊維長をマイクロメートルスケールに減少させ、平均繊維直径をサブマイクロメートルスケールに減少させる。このようなセルロースフィブリルは、特許文献7(その全体が参照として本願に組み込まれる)に記載のように、分岐と「ブラシ状」構造を示す。マイクロフィブリル化セルロースは、市販品として入手可能であり、例えば、Borregaard社製のExilva Forteセルロース懸濁液(乾燥含有量1.7%)が挙げられ、これを本願の実施例では用いた。
【0029】
アガロースとセルロースの溶液の調製
アガロースを水中に分散させた。アガロース分散水をその融点(略85℃)以上に加熱し、加熱された懸濁水としてセルロースを加えて、電動式プロペラブレード攪拌機を用いてアガロース中に分散させた。表2に示されるように、アガロースとセルロースを色々な比と色々な総濃度で加えて混合した。一部の実験では、アリル化アガロースを用いた(下記参照)。
【0030】
油相
次いで、アガロース及びセルロースを含有する溶液を加える前に、トルエン及び溶解した乳化剤(Ashland社製のAqualon(登録商標)エチルセルロース、N50)を60℃に加熱した。
【0031】
乳化反応器へのアガロース溶液の移送
水小滴を形成し、タービン攪拌機によって油相内に分散させ、乳液中のその粒子サイズを攪拌速度によって制御し、高速において小さな粒子を形成した。
【0032】
冷却工程
粒子が所望のサイズ、例えば直径100μmに達すると、乳液を室温に冷却した。
【0033】
ゲルの洗浄及び篩分け
ゲル粒子をまずエタノールで洗浄し、次いで水で洗浄した。粒子のサイズ分布を狭めるため、50~166μmの間で湿式篩分けした。
【0034】
架橋
特許文献2に記載の方法に従って、アリル化サンプルと非アリル化サンプルの両方を調製した。概説すると、アリルグリシジルエーテルと水酸化ナトリウムをアリル化ステップに用い、中性pHにするために酢酸を用いて反応を止めた。エピクロルヒドリンを用いて非アリル化サンプルを50℃で架橋し、アリル化サンプルについては、臭素を用いて二回目の架橋ステップを行った。
【0035】
ゲルの圧縮測定
テクスチャーアナライザー(Brookfield社のCT3)を用いて、ゲルの圧縮抵抗を測定した。空隙体積の水を除去した後に、ガラスフィルタの底を有し直径12.9mmで長さ28.5mmのシリンダ状キャビティ内に3.7mLのゲルシリンダを調製した。直径12mmのシリンダ状ピストンをゲル表面に対して低くして、0.1mm/sの速度でキャビティ内に入れて、3000g~4000gの負荷に到達するまで分析を行った。圧入中にゲルからピストンに採用する力として、ゲル内へのピストンの侵入深さを同時に測定した。
【0036】
光学顕微鏡法
Eclipse E600(ニコン社製)顕微鏡を用いて、ゲルビーズの透過光像を撮った。
【0037】
多孔性(K)分析
サイズ排除クロマトグラフィを用いて、色々なビーズの多孔性とサイズ排除選択性を測定した。多孔性は、KAV値とK値(所与の分子種の拡散に利用可能な固定相の割合)として表され得て、例えば、非特許文献1に記載の方法に従い逆サイズ排除クロマトグラフィによって測定される。KAVは、(V-V)/(V-V)比として決定され、ここで、Vはプローブの溶出体積であり、Vはカラムの空隙体積(例えば、天然デキストラン等の高Mw空隙マーカーの溶出体積)であり、Vはカラムの総体積である。Kは(V-V)/Vとして決定可能であり、ここで、Vは、マトリクス体積(マトリクスポリマー分子が占める体積)を除く全ての体積にアクセス可能である塩(例えば、NaCl)の溶出体積である。KとKAVの値はどちらも常に0~1の範囲内にある。異なる分離マトリクスは、所与の検体分子に対して異なるKとKAVの値を示す。AKTA(登録商標)Explorer FPLC(高速タンパク質液体クロマトグラフィ,Fast Protein Liquid Chromatography)機器(GEヘルスケアバイオサイエンシズ社)をK測定に用いた。オートサンプラと内径1cmのカラム(GEヘルスケアバイオサイエンシズ社製のHR1030)を用いた。UNICORN(登録商標)5.31(GEヘルスケアバイオサイエンシズ社)ソフトウェアを用いて、クロマトグラムを評価した。実験用の検体は、空隙体積マーカー(細孔から出て行くのみ)としての天然デキストラン、V(総液体体積)マーカーとしての塩化ナトリウムであった。また、表1に示されるように、四種の異なる分子量のデキストランを用いた。
【0038】
【表1】
【0039】
表1は、異なるゲルビーズサンプルの多孔性測定に用いた対応のMp値(ピーク分子量)を有する検体を示す。
【0040】
【表2】
【0041】
表2は、図1から図3の異なるサンプルの例を示す。
【0042】
本願記載の例によると、埋め込み繊維を有するゲルビーズを備える分離マトリクスは、新規で高度に有用な分離特性を示している。例えば、高い剛性と大きな孔を有するゲルビーズは、記載のとおりに調製及び使用可能である。例えば、図3は、埋め込み繊維を有するビーズの使用が、実用的な流量において大型の分子と生物学的存在の分離を可能にすることを示している。従って、埋め込み繊維を有するゲルビーズは、繊維を有さないゲルビーズと比較して向上した多孔性及び/又は剛性等の新規分離特性を有する分離マトリクスの調製と使用を可能にする。
【0043】
本願記載の説明は、最良の形態を含む本発明の開示の例として用いられ、また、当業者が本発明を実施すること(デバイスやシステムの作製と使用や方法の実行を含む)を可能にするために用いられているものである。本発明の特許可能な範囲は特許請求の範囲によって定められるものであり、当業者に想起される他の例を含み得るものである。このような他の例は、特許請求の範囲の文言と相違しない構造的要素を有している場合や、特許請求の範囲の文言から僅かに相違する等価な構造的要素を含む場合にも、特許請求の範囲内にあるものである。本願に記載の特許文献は、それらが個々に組み込まれているのと同様にその全体が参照として本願に組み込まれるものである。
図1
図2
図3