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特許7378429音速マッピングを備えた合成送信フォーカシング超音波システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-02
(45)【発行日】2023-11-13
(54)【発明の名称】音速マッピングを備えた合成送信フォーカシング超音波システム
(51)【国際特許分類】
   A61B 8/14 20060101AFI20231106BHJP
【FI】
A61B8/14
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020564161
(86)(22)【出願日】2019-05-09
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-09-09
(86)【国際出願番号】 EP2019061883
(87)【国際公開番号】W WO2019219485
(87)【国際公開日】2019-11-21
【審査請求日】2022-05-02
(31)【優先権主張番号】62/671,488
(32)【優先日】2018-05-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/838,365
(32)【優先日】2019-04-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】590000248
【氏名又は名称】コーニンクレッカ フィリップス エヌ ヴェ
【氏名又は名称原語表記】Koninklijke Philips N.V.
【住所又は居所原語表記】High Tech Campus 52, 5656 AG Eindhoven,Netherlands
(74)【代理人】
【識別番号】110001690
【氏名又は名称】弁理士法人M&Sパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】ロベルト ジャン‐ルック フランソワ‐マリエ
(72)【発明者】
【氏名】ヒュアン シェン‐ウェン
(72)【発明者】
【氏名】ヴィニョン フランソワ ガイ ジェラルド マリエ
(72)【発明者】
【氏名】シン ジュン ソブ
(72)【発明者】
【氏名】キム スンス
(72)【発明者】
【氏名】シエ フア
(72)【発明者】
【氏名】グエン マン-
(72)【発明者】
【氏名】メラル ファイク カン
(72)【発明者】
【氏名】シ ウィリアム タオ
(72)【発明者】
【氏名】アマドール カラスカル カロリナ
【審査官】冨永 昌彦
(56)【参考文献】
【文献】特表2009-536854(JP,A)
【文献】特開2003-070786(JP,A)
【文献】特表2017-509416(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0125451(US,A1)
【文献】特表2015-512301(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 8/00 - 8/15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
画像フィールド内の音速変動をマッピングする超音波撮像システムであって、
トランスデューサアレイプローブと、
前記トランスデューサアレイプローブに結合され、複数の隣接する受信ライン位置を包含する超音波ビームを送信する送信ビームフォーマと、
前記トランスデューサアレイプローブに結合され、送信ビームに応答して、複数の隣接するマルチラインを生成するマルチラインビームフォーマと、
前記マルチラインビームフォーマに結合され、送信フォーカス効果を有する画像信号を生成する合成送信フォーカシング回路と、
前記マルチラインビームフォーマによって生成された前記マルチラインを受信するように結合され、画像フィールド内の点における位相変動を推定し、前記位相変動は、前記画像フィールド内の異なる点に対する周波数領域での角スペクトルの位相の変動に対応し、前記位相変動のマップを生成する位相収差推定器と、
前記位相収差推定器に結合され、前記位相変動の前記マップを表示するディスプレイと、
を含む、超音波撮像システム。
【請求項2】
前記位相収差推定器はさらに、前記画像フィールド内の前記異なる点に対する前記周波数領域での角スペクトルを導出するために、前記マルチラインのデータセットの2次元フーリエ変換を行う、請求項1に記載の超音波撮像システム。
【請求項3】
前記位相収差推定器はさらに、導出された前記角スペクトルの位相を推定する、請求項2に記載の超音波撮像システム。
【請求項4】
前記位相収差推定器はさらに、異なる空間周波数間の前記角スペクトルの相互相関関数を計算する、請求項3に記載の超音波撮像システム。
【請求項5】
前記位相収差推定器はさらに、平均化によって画像スペックルを平滑化する、請求項4に記載の超音波撮像システム。
【請求項6】
前記位相収差推定器はさらに、隣接する空間周波数間の前記角スペクトルの相互相関関数の差分位相値を積分して、空間周波数の範囲にわたる絶対位相を生成する、請求項4に記載の超音波撮像システム。
【請求項7】
前記位相収差推定器はさらに、前記絶対位相を時間周波数に沿って平均化する、請求項6に記載の超音波撮像システム。
【請求項8】
前記位相収差推定器はさらに、前記絶対位相を使用して、前記角スペクトルの位相を除去する、請求項7に記載の超音波撮像システム。
【請求項9】
前記位相収差推定器はさらに、前記画像フィールド内の異なる深度における点間の前記位相変動により生じる差分位相を計算する、請求項5に記載の超音波撮像システム。
【請求項10】
前記位相収差推定器はさらに、前記画像フィールド内の同じ横方向位置であるが、異なる深度にある点間の前記差分位相を計算する、請求項9に記載の超音波撮像システム。
【請求項11】
前記位相収差推定器はさらに、最小二乗平均推定器を使用して前記差分位相をフィッティングして、前記位相の局所曲率を見つける、請求項9に記載の超音波撮像システム。
【請求項12】
前記位相収差推定器はさらに、ルックアップテーブルを用いて、前記差分位相をカラー値に変換する、請求項11に記載の超音波撮像システム。
【請求項13】
前記位相収差推定器はさらに、ディスプレイ用の前記カラー値のカラーマップを形成する、請求項12に記載の超音波撮像システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、2018年5月15日に提出された米国仮特許出願第62/671,488号及び2019年4月25日に提出された米国仮特許出願第62/838,365号の優先権及び利益を主張し、これらは参照によりその全体が組み込まれる。
【0002】
本発明は、超音波撮像システムに関し、特に、合成的に送信がフォーカスされた超音波画像内に音速変動のマップを生成する超音波撮像システムに関する。
【背景技術】
【0003】
従来の超音波システムは、増加する視野深度からエコーが受信されるにつれて、開口部にわたる異なるトランスデューサ要素からのエコーを結合するのに使用される遅延を継続的に調整することによって、エコー信号受信中に動的にフォーカスされている。したがって、受信信号は、あらゆる視野深度において適切にフォーカスされている。しかし、送信では、送信ビームは、単一のフォーカス深度でしかフォーカスされず、送信ビームは体内に入ると、さらには変更することができない。その結果、送信ビームは、あらゆる深度でフォーカスされる受信ビームと比べると、単一の視野深度でしかフルフォーカスされない。フルフォーカル特性は、送信フォーカスと受信フォーカスとの両方の積であるため、結果として得られる画像は、送信フォーカス深度でのみ最も鮮明にフォーカスされる。
【0004】
米国特許第8,137,272号(Cooleyら)には、複数の受信ビームを処理して、あらゆる深度において送信フォーカスされている特性を有するエコー信号を合成するための技法が説明されている。この特許に説明されているように、マルチラインビームフォーマは、各送信ビームに応答して、複数の隣接する受信ラインを生成する。開口部に沿った異なる点からの連続する送信からの受信ラインは、空間的に整列しており、その結果、複数のラインが、各ライン位置において異なる送信イベントから受信される。共通の空間位置からのラインは、重み付けされ、遅延され、次いで、異なる位置にある送信ビームからのエコーの異なるラウンドトリップ時間を考慮するために、位相調整と組み合わせられる。結合されたマルチラインは、そうすると、送信中に連続的にフォーカスされたスキャンラインの特性を有し、全視野深度にわたってより鮮明な画像を生成する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、各ライン位置における受信マルチラインを正確にビーム形成し、次いで結合するために使用される重み及び遅延は、媒質内のエコーの仮定された一定の移動速度(一般に、組織内の平均音速、例えば、1450m/秒であると仮定される)を前提としている。しかし、異なるタイプの組織及び組織密度によって、進行する超音波が仮定された速度とは異なる速度を示す可能性があるので、この仮定は常に正確であるとは限らない。したがって、必要に応じてマルチラインを形成し、結合する際に不正確さが存在する可能性がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、このような音速の収差を検出し、それを撮像領域にわたる音速変動の2次元又は3次元マップによってなど、ユーザに表示することを伴う。
【0007】
本発明の原理に従って、合成的にフォーカスされた超音波スキャンラインを形成するために使用されるマルチライン信号が、音速変動について分析され、この変動のマップが生成されて、ユーザに提示される。好ましい実装形態では、媒質中の音速変動によって引き起こされる、受信されたマルチラインの位相の不一致が、受信角スペクトルの角スペクトル領域において推定される。画像内のすべての位置について位相が推定されると、同じ横方向位置であるが異なる深度の2点間の差分位相が計算される。この差分位相は、2点間の局所的な音速に比例する。これらの音速推定値から、画像領域のカラーコード化された2次元又は3次元マップが生成されて、ユーザに提示される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1a図1aは、収差がある場合の信号位相を示す。
図1b図1bは、収差がない場合の信号位相を示す。
図2図2は、本発明に従って構成された超音波システムをブロック図形式で示す。
図2a図2aは、図2の信号プロセッサに含まれる合成送信フォーカシング回路を示す。
図3図3は、本発明の構成された実装形態によって検出された球面収差位相効果のプロットである。
図4図4は、頚動脈の超音波画像を示す。
図5図5は、図4の超音波画像の領域についての音速マップを示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
まず図1aを参照すると、図の左側は、静的にフォーカスされた超音波ビームのビームプロファイル30を示している。このビームプロファイルが示すように、ビームは、プロファイルが最も狭くなっている1つの深度においてのみ最大限にフォーカスされている。図の右側は、ビームの角スペクトルの位相、ビームプロファイルにわたるフーリエ変換を示している。ビームフォーカスにわたる位相変動は、線34によって表され、フォーカスにおいて平坦であることが見て取れる。フォーカルポイントの上方及び下方、浅い深度及び深い深度において、位相変動は、曲線32及び34によって表されるように、球形であることが見て取れる。
【0010】
図1bは、あらゆる深度において動的にフォーカスされた超音波ビーム30’の角スペクトルの位相を示す。この場合、角スペクトルの位相変動は、線32’、34’、及び36’によって示されるように、あらゆる深度において平坦である。媒質中に音速変動がない場合、動的送信フォーカシングに使用される事前に計算された係数は、この位相特性を有するビームを生成する。しかし、媒質中の音速変動があると、あらゆる深度において、鮮明なフォーカシングではなく、デフォーカシングを引き起こす。本発明は、動的にフォーカスされた超音波ビームの角スペクトルの所望の平坦な位相特性を損なう位相収差を検出し、相殺することを目的とする。
【0011】
図2では、本発明の原理に従って構成される超音波撮像システムが、ブロック図形式で示される。超音波を送信し、エコー信号を受信するために、超音波プローブ10内にトランスデューサアレイ12が設けられる。トランスデューサアレイ12は、例えば、仰角(3D)及び方位角の両方において2次元又は3次元でスキャン可能であるトランスデューサ要素の1次元又は2次元アレイである。送信ビームフォーマ16が、アレイの要素に結合されて、アクティブ送信開口部の要素を適当な時間に励起して、所望の形状及び方向のビームを送信する。マルチライン受信の場合、送信ビームは、画像フィールド内の複数の受信ビーム位置を照射(insonify)するように広く成形される。送信ビームフォーマによって制御される送信特性の中には、送信波形の数、方向、間隔、振幅、位相、周波数、極性、及びダイバーシティがある。パルス送信方向に形成されたビームは、トランスデューサアレイから真っ直ぐ前方か、又はより広いセクタ視野のためにステアリングされていないビームの両側で異なる角度でステアリングされてもよい。いくつかの用途では、フォーカスされていない平面波が送信に使用されてもよい。
【0012】
プローブ10は、受信ビームフォーマを高電圧送信信号から保護する送信/受信スイッチ14によって、受信ビームフォーマに結合される。マルチライン受信では、アレイ12の要素によって受信されたエコー信号は、それらを適切に遅延させてから、それらをマルチラインサブビームフォーマBF、BF、…、BFにおいて結合することによって、並列にビーム形成される。マルチラインサブビームフォーマは、全体でマルチラインビームフォーマを形成する。各サブビームフォーマは、異なるようにプログラムされた遅延τ、…、τと、それに続く加算器Σとを有し、加算器Σは、画像フィールドの異なる位置において、ステアリングされ、フォーカスされた受信ビームを生成する。したがって、マルチラインビームフォーマは、単一の送信イベントで受信されたエコーに応答して、N個の受信ビームを並列に形成することができ、この能力を使用して、1つの送信ビームに応答して、N個の隣接する受信ラインを形成する。合成送信フォーカシングでは、送信ビームは、プローブ開口部にわたって徐々にシフトされるが、受信ラインの各セットは、他の送信イベントの受信ラインの位置と整列される。この結果、複数の空間的にオフセットされた複数の送信ビームから、各受信ライン位置で複数の受信ラインが生成される。次に、各受信ライン位置の受信ラインは、以下に説明するように一緒に処理されて、合成的に送信フォーカスされた、撮像のための単一の受信ラインを形成する。
【0013】
マルチラインビームフォーマの出力は、信号プロセッサ22に結合され、そこで、コヒーレントなエコー信号は、空間合成又は周波数合成によるノイズフィルタリング又はノイズ低減などの信号処理を受ける。処理された信号は、Bモード検出及びスキャン変換などの処理のために画像プロセッサ122に結合され、結果として得られる画像はディスプレイ124に表示される。
【0014】
合成送信フォーカシングでは、信号プロセッサ22はまた、図2aに示されるような回路を含む。マルチラインビームフォーマによって生成された受信マルチラインは、異なる時間に同じライン位置で受信された受信ラインが並列に処理されるように、ラインストア112にバッファリングされる。表示データの特定のラインを形成するために使用されるマルチラインのグループは、乗算器116a~116nのそれぞれに適用されて、対応するライン位置の表示データを生成する。各ラインからのエコーデータは、必要に応じて、アポダイゼーション重み114a~114nによって重み付けされてもよい。一般に、これらの重みは、各マルチラインをそのラウンドトリップインパルス応答の関数として重み付けする。適当な重み付けアルゴリズムは、amplitude(x,y)項を、送信波面による画像フィールドの位置(x,y)の点、すなわち、送信ビームの中心軸に対応する方位位置x=0の超音波照射(insonification)振幅とすることにより導出することができる。Xを、送信ビーム軸に対する受信マルチラインの方位角とする。深度Zにおける画像の点を形成するために、この受信されたマルチラインに適用される重みは、次のとおりである。
Weight(X,Z)=amplitude(X,Z)
適切な遅延特性の決定では、propagation_time(x,z)を、位置(x,z)における点に到達するために送信波面が必要とする伝播時間とし、ここでも、方位位置x=0は、送信ビームの中心軸に対応する。Xを、送信ビーム軸に対する受信ラインの方位角とする。深度Zにおける画像の点を形成するために、この受信されたマルチラインに適用される遅延は、次のとおりである。
Delay(X,Z)=propagation_time(X,Z)-propagation_time(0,Z)
ここで、propagation_time(0,Z)は、同じ深度であるが軸上である点に到達する時間である。
【0015】
関数amplitude(X,Z)及びpropagation_time(X,Z)は、例えば、送信フィールドのシミュレーションから得られる。伝搬時間を計算する適切なやり方は、いくつかの周波数での単色シミュレーションからのフィールドの位相遅延を使用することである。振幅は、いくつかの周波数におけるフィールドの振幅を平均化することによって計算される。さらに、深度依存の正規化が重みに適用される。これは、所与の深度におけるすべての重みに共通の係数を乗算する。例えば、正規化は、スペックル領域が深度と共に均一な明度を有するように選択される。深度の関数として重みを変化させることによって、開口部のサイズ及び形状(アポディゼーション)を深度と共に動的に変化させることが可能である。
【0016】
振幅及び伝搬時間を、システムで使用される正確な送信特性のシミュレーションから導出する必要はない。設計者は、例えば、異なる開口部サイズ又は異なるアポダイゼーションを使用することを選択してもよい。
【0017】
各ラインからのエコーは、乗算器116a~116nによって重み付けされ、遅延ライン118a~118nによって遅延される。一般に、これらの遅延は、受信ライン位置に対する送信ビーム中心の位置に関連する。遅延は、異なる送信-受信ビーム位置の組み合わせを有するマルチラインのライン毎に存在する位相シフト分散を等化するために使用され、これにより、結合された信号の位相差による信号相殺が引き起こされない。遅延された信号は、加算器120によって結合され、得られた信号は画像プロセッサ122に結合される。
【0018】
図2aのシステムでは、遅延ライン118及び加算器120は、所与の方向に共に整列されたいくつかの受信マルチラインから受信された信号のリフォーカシングを行う。リフォーカシングは、各マルチラインに対して異なる送信ビーム位置を使用することから生じる位相差を調整し、結合された信号における不所望の位相相殺を防止する。重み114は、送信ビームのマルチライン位置への近接性に関連してマルチラインの寄与に重み付けし、信号対雑音比の高い受信ビームにより高い重みが与えられる。これは、各受信ラインに沿って視野深度を拡大し、各受信ライン方向における複数のサンプリングの組み合わせによって浸透を高める(信号対雑音比を改善する)。
【0019】
本発明の原理によれば、図2の超音波システムは、位相収差推定器20をさらに含む。本発明者らは、ビームのデフォーカシングが、角スペクトルの位相項の収差によって生じることを見い出した。したがって、位相収差推定器は、この位相項を推定し、次いでそれを補正する。好ましくは、これは、受信されたマルチラインデータの適切なデータセットを使用して、送信及び受信の両方に対して行われる。
【0020】
また、位相収差推定器20によって行われる処理は、以下のように進む。まず、送信における角スペクトルを計算する。これは、各ライン位置のマルチラインデータセットの2次元フーリエ変換を行うことによって行われ、マルチラインは同じライン位置に対応する。位相収差推定器は、図に示すように、サブビームフォーマBF、…、BFの出力に接続することによって、このデータを取得する。このデータセットは、深度及び送信の次元を有する。これは、共通位置における各マルチラインが、異なる送信イベントの間に取得されたからである。構築した実装形態では、各マルチラインは、連続する5mmの深度ゾーンに分割され、各ゾーンに対して角スペクトルが計算された。データは、フーリエ変換によって、周波数領域に変換されているので、角スペクトルの位相は、kx帯域における各kx空間周波数において推定される。空間周波数kx(n)と空間周波数kx(n+1)との間の角スペクトルの相互相関関数は、次式で計算される。
【数1】
ここで、Sは、深度(z)及び送信(x)の次元におけるマルチラインデータの角スペクトルであり、n及び(n+1)は、周波数領域における隣接する画素である。
【0021】
超音波信号は、コヒーレントであるので、超音波画像は、スペックルとして知られるアーチファクト現象によって汚染されている。これは、撮像媒質中の音響信号のランダムな相殺及び強化から生じる。スペックルアーチファクトの収差推定への影響を最小限に抑えるために、スペックルは、平均化により平滑化される。スペックル平滑化のための適切な方程式は、次のとおりである。
【数2】
これは、N個のマルチライン上の相関係数に対するスペックル効果を平均化する。ここで、Nは、平均化する受信されたマルチラインの数で、
【数3】
は、空間周波数kx(n)と空間周波数kx(n+1)との間の角スペクトルの相互相関関数である。空間周波数kx(n)と空間周波数kx(n+1)との間の隣接周波数の平均化された相関関数の差分位相は、次のように計算される。
【数4】
次いで、差分位相値を積分して、kx空間周波数の全範囲にわたる絶対位相が生成される。
【数5】
位相項は、収差補正プロセスの影響を受けるべきではないビームステアリングの効果を含む。これを防止するために、位相項の線形トレンドは、トレンド除去プロセスによって除去される。既知のトレンド除去手法をこのプロセスに使用することもできる。次いで、位相項は、位相は周波数kの関数として線形に変化するという仮定を用いて、時間周波数に沿って平均化される。これは、位相をその(kz,kx)座標から(k,teta)座標にスキャン変換することによって行われ、ここで、k=kx+kzは、時間周波数であり、tetaは、平面波角度を表す。あるいは、これは、kzに沿って平均化することによって達成されてもよい。次に、結果として得られた推定位相項を使用して、角スペクトルの位相が除去される。これは、位相推定値を、平均化後のそのベクトル形式φ(kx)からその行列形式φ(kx,kz)に変換し、角スペクトルに、
【数6】
を乗算することによって行われ、φ(kx,kz)は、推定位相である。次に、逆2次元フーリエ変換を適用して、データを空間座標に戻す。あるいは、整合フィルタ24をビームフォーマの出力に使用して、マルチライン信号からの収差位相項を相殺してもよい。
【0022】
同じプロセスが、受信における収差位相推定及び補正に使用されるが、異なるデータセットを使用する。受信データセットは、単一の送信イベントに応答して受信されたマルチラインのセットである。この目的のために、使用されるマルチラインは、図2aの回路による合成送信フォーカス処理を受けたものであってもよい。したがって、このデータを提供するために、信号プロセッサ22と位相収差推定器20との間の接続が示されている。次に、第1の処理ステップの2次元フーリエ変換が、深度及び受信の次元で行われる。次に、送信の場合について上述したように、受信収差の位相項が計算され、データを補正するために使用される。
【0023】
受信位相補正は、図2aの回路によって既に動的フォーカシングをすでに受けているマルチラインデータに作用するので、音速収差の速度がない場合には、その期待される位相項は、図1bの32’、34’、及び36’によって示されるように、あらゆる深度で平坦であるべきである。サブビームフォーマの出力で生成されたマルチラインに作用することが見られた送信位相補正は異なる。その期待される位相項は、図1aの32、34、及び36によって示されるように、フォーカス深度において平坦であり、他の深度において球形である。図3は、本発明の構築された実装形態によってトレンド除去及び平均化を行った後の送信位相推定曲線40を示しており、送信ビームのフォーカス深度よりも浅い深度に対して期待される球形を示すことが見て取れる。
【0024】
本発明の実装形態では、収差位相の推定及びその補償は、以下のように、完全に空間領域で実行される。送信位相推定及び補正では、相互相関は、共通の受信ライン位置の隣接する送信ビームb(n)及びb(n+1)のマルチラインデータ間で推定される。
【数7】
ここで、マルチラインデータは、深度及び送信の次元にある。スペックル雑音を平滑化するために、相関関数は、複数の受信ラインだけでなく複数の深度サンプルで平均化される。
【数8】
ここで、Nは、受信ライン及び深度サンプルの総数であり、
【数9】
は、送信ビームb(n)と送信ビームb(n+1)との間のi番目の相互相関関数である。隣接する送信ライン間の遅延差は、次式によって計算される。
【数10】
ここで、Δlは、サブピクセル推定(補間)によって得られる微細遅延であり、1は、関数最大値に対応する指数である。異なる送信のラインからの遅延差は積分されて、次の絶対遅延値が生成される。
【数11】
上述したように、トレンド除去手法を適用して、遅延の一次項を除去し、意図されたビームステアリングに影響を及ぼさないようにする。次に、補償された遅延は、遅延ライン118a、…、118nによって使用されて、合成送信フォーカシングプロセス中に位相収差が除去される。
【0025】
同じプロセスが、上述の受信データセットを使用する受信遅延補正に使用される。
【0026】
収差が音速誤差である限り、角スペクトルの位相しか影響を受けない。他の収差では、振幅も影響を受ける。単に位相を補正するだけでも、フォーカシングを改善することができるが、逆フィルタリングなどで振幅も補償すれば、より良い補正を得ることができる。ウェイナ(Weiner)フィルタは、この目的の役に立つ。2次元逆フーリエ変換の前に角スペクトルに適用された利得に対するウェイナフィルタは、次式で与えられる。
【数12】
ここで、Aは、角スペクトルの推定振幅であり、Sは、信号レベルであり、Nは、雑音レベルであり、φは、(絶対)位相補正である。信号対雑音比が無限の場合、フィルタは逆フィルタとして動作する。雑音がある場合、ウェイナフィルタは、小さな雑音係数の増幅を防止する。
【0027】
画像内の点における音速を推定するための前述の技法は、全画像フィールドにわたる音速変動のマップを生成するために適用される。音速の局所測定は、組織タイプに関する情報を提供する。例えば、この情報は、健康な肝組織と脂肪肝組織とを区別するのに役立つ。これは、例えば、非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)及び非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)のスクリーニングのための重要な情報を提供する。音速マップの生成は、前述したように、角スペクトル領域における位相を推定することから始まる。好ましくは、位相推定は、上述した受信データを使用して行われる。これは、このデータは、図2aの回路を使用して合成送信フォーカス処理されているからである。音速変動がない場合、図1bに示されるように、位相は平坦であるべきである。必要に応じて、送信音速補正を上述したように実行して、これは、受信においてより良い位相推定をもたらす。したがって、受信点広がり関数が完全にフォーカスされている場合、受信の角スペクトルの位相は、完全に平坦であるべきである。音速変動は、図1aに示されるように、局所的なデフォーカシング及び球面位相特性をもたらす。
【0028】
teta=arctan(kx/kz)を通じて空間周波数に関連する平面波角度θに対応する角周波数の位相誤差は、
【数13】
であり、ここで、λは、超音波送信周波数の波長であり、zは、深度であり、cは、変動がない場合の公称音速であり、cは、問題の位置における実際の音速である。送信ビームの周波数範囲にわたって平均化し、cos(θ)角度の範囲にわたって最小二乗平均法によってフィッティングした後、位相曲率の推定値が、次のように計算される。
【数14】
【数15】
である場合、これは
【数16】
となり、方程式の両辺を(c・c)で乗算すると、次のように、音速の2階方程式になる。
【数17】
αに関する一次解は、
【数18】
であり、完全解は、
【数19】
である。
【0029】
スペックルにおける正確な位相推定を得るためには、ある領域上で平均化する必要がある。適切な領域は、深度1mmのスライスであり、横方向に32本の送信ラインである。上述の受信データの位相は、方程式[1]~[4]を用いて画像領域にわたって推定される。画像内のすべての点において位相が推定されると、同じ横方向位置であるが異なる深度の点間の差分位相が計算される。この差分位相は、2点間の局所的な音速に比例する。次いで、最小二乗平均推定器を使用して差分位相がフィッティングされて、位相の局所曲率が見つけられる。速度マップの値は、次式で与えられる。
【数20】
ここで、
【数21】
である。
【0030】
位相曲率は、媒質の実際の音速に関連し、音速差がある場合には、図1aに示されているように湾曲しているか、音速変動がない場合には、図1bに示されているように平坦である。差分位相値は、ルックアップテーブルによって色値に変換され、画像フィールドにおける音速変動を示すカラーマップとして表示される。
【0031】
図4は、頸動脈の生体内超音波画像50を示す。図5は、この画像領域について計算された音速マップ60を示す。マップの右側のカラーバー62は、マップの色を、図4の解剖学的構造における実際の音速に関連付ける。
【0032】
本発明の実装形態での使用に適した超音波システム、特に、図2及び図2aの超音波システムの構成要素構造は、ハードウェア、ソフトウェア、又はこれらの組合せで実施し得ることに留意されたい。超音波システムの様々な実施形態及び/若しくは構成要素、又はその中の構成要素及びコントローラは、1つ又は複数のコンピュータ又はマイクロプロセッサの一部として実装されてもよい。コンピュータ又はプロセッサは、コンピューティングデバイス、入力デバイス、表示ユニット、及び例えばインターネットにアクセスするためのインターフェースを含んでもよい。コンピュータ又はプロセッサは、マイクロプロセッサを含んでもよい。マイクロプロセッサは、例えば、トレーニング画像をインポートするために、PACSシステムやデータネットワークにアクセスするために通信バスに接続されていてもよい。コンピュータ又はプロセッサはまた、メモリを含んでもよい。ラインストア112に使用されるようなメモリデバイスは、ランダムアクセスメモリ(RAM)及び読み出し専用メモリ(ROM)を含んでもよい。コンピュータ又はプロセッサは、ストレージデバイスをさらに含んでもよく、これは、ハードディスクドライブや、フロッピーディスクドライブ、光ディスクドライブ、ソリッドステートサムドライブなどのリムーバブルストレージドライブであってもよい。ストレージデバイスはまた、コンピュータプログラム又は他の命令をコンピュータ又はプロセッサにロードするための他の同様の手段であってもよい。
【0033】
本明細書において使用される場合、「コンピュータ」、「モジュール」、「プロセッサ」又は「ワークステーション」という用語は、マイクロコントローラを使用するシステム、縮小命令セットコンピュータ(RISC)、ASIC、論理回路、及び本明細書に説明される機能及び方程式を実行可能な任意の他の回路又はプロセッサを含む、任意のプロセッサベース又はマイクロプロセッサベースのシステムを含んでもよい。上記の例は、例示にすぎず、したがって、これらの用語の定義及び/又は意味をいかようにも限定することを意図するものではない。
【0034】
コンピュータ又はプロセッサは、入力データを処理するために、1つ又は複数の記憶要素に記憶されている命令のセットを実行する。記憶要素はまた、所望又は必要に応じて、データ又は他の情報を記憶してもよい。記憶要素は、処理マシン内の情報源又は物理的メモリ要素の形態であってもよい。
【0035】
上述のように超音波画像の取得、処理、及び表示、特に、位相収差推定器の機能及び音速マッピングを制御する命令を含む超音波システムの命令のセットは、本発明の様々な実施形態の方法及びプロセスなどの特定の動作を実行するように、処理マシンとしてのコンピュータ又はプロセッサに命令する様々なコマンドを含む。命令のセットは、ソフトウェアプログラムの形態であってもよい。ソフトウェアは、システムソフトウェア又はアプリケーションソフトウェアなどの様々な形態であってもよく、また、有形及び非一時的なコンピュータ可読媒体として具体化されてもよい。さらに、ソフトウェアは、送信制御モジュール、収差補正モジュール、より大きなプログラム内のプログラムモジュール、又はプログラムモジュールの一部など、別個のプログラム又はモジュールの集合の形態であってもよい。ソフトウェアはまた、オブジェクト指向プログラミングの形態のモジュール式プログラミングを含んでもよい。処理マシンによる入力データの処理は、オペレータコマンドに応答したものでも、前の処理の結果に応答したものでも、又は別の処理マシンによる要求に応答したものでもよい。
【0036】
さらに、以下の請求項の限定は、ミーンズプラスファンクション形式で書かれておらず、当該請求項の限定が更なる構造のない機能の記述が続く「means for」との語句を明示的に使用していない限り、米国特許法第112条第6段落に基づいて解釈されることを意図していない。
図1a
図1b
図2
図2a
図3
図4
図5