(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-02
(45)【発行日】2023-11-13
(54)【発明の名称】最適化されたクラウン及びトレッドパターン構造を備えた空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
B60C 9/18 20060101AFI20231106BHJP
B60C 11/00 20060101ALI20231106BHJP
B60C 11/03 20060101ALI20231106BHJP
B60C 11/24 20060101ALI20231106BHJP
【FI】
B60C9/18 M
B60C9/18 N
B60C9/18 F
B60C11/00 D
B60C11/00 F
B60C11/03 100A
B60C11/24 Z
(21)【出願番号】P 2020571813
(86)(22)【出願日】2019-05-22
(86)【国際出願番号】 FR2019051166
(87)【国際公開番号】W WO2020002786
(87)【国際公開日】2020-01-02
【審査請求日】2022-05-20
(32)【優先日】2018-06-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】514326694
【氏名又は名称】コンパニー ゼネラール デ エタブリッスマン ミシュラン
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【氏名又は名称】松下 満
(74)【代理人】
【識別番号】100098475
【氏名又は名称】倉澤 伊知郎
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【氏名又は名称】山本 泰史
(72)【発明者】
【氏名】ブリュノー フランソワ-グザヴィエ
(72)【発明者】
【氏名】アルブイ マチュー
(72)【発明者】
【氏名】フェイビング ダニエル
(72)【発明者】
【氏名】フレッセ パトリス
(72)【発明者】
【氏名】トゥルヌー ヴァンサン
【審査官】増田 亮子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/073546(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/073548(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/096404(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 9/18
B60C 11/00
B60C 11/03
B60C 11/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗用車用のタイヤ(1)であって、
溝(24)を備えたトレッド面(21)を介して路面と接触することを意図したトレッド(2)であって、前記溝(24)が、前記トレッド面(21)に開口し、底面(243)で連結された2つの主側面(241,242)で境界が定められる空間を形成し、前記2つの側面(241,242)間の平均距離で定められる幅Wと、前記トレッド面(21)と前記底面(243)との間の最大半径方向距離で定められる深さDとを有する、トレッド(2)と、
少なくとも1mmに等しい幅Wと少なくとも4mmに等しい深さDとを有する、周方向ファロウと呼ばれ、実質的に周方向である、主溝である少なくとも1つの溝(24)と、
少なくとも2つのリブ(26)と、
を備え、
前記タイヤ(1)はまた、クラウン層で表される、少なくとも1層の補強要素(41,42,5)を備えたクラウン補強体(3)を前記トレッド(2)の半径方向内側に備え、
前記少なくとも1層の補強要素(41,42,5)が、半径方向内面(RIS)から半径方向外面(ROS)まで半径方向に延在する、
タイヤ(1)において、
前記半径方向最外クラウン層(5)が、リブ(26)の鉛直下方に少なくとも1つの起伏(512)を備えており、
前記半径方向最外クラウン層(5)における前記少なくとも1つの起伏(512)は、前記起伏(512)の前記半径方向最外クラウン層部分(5)が、前記起伏(512)に最も近い前記周方向ファロウ(24)の前記底面(243)中心の鉛直下方にある前記半径方向最外クラウン層の点の半径方向外側に位置するようになっており、
前記半径方向最外クラウン層(5)における前記少なくとも1つの起伏(512)は、前記クラウン層(5)の前記半径方向外面(ROS)の少なくとも10%にわたって、前記半径方向最外クラウン層(5)の前記半径方向外面(ROS)と前記トレッド面(21)との間の半径方向距離(du)が、前記起伏(512)に最も近い前記周方向ファロウ(24)の前記底面(243)中心の鉛直下方の距離である、前記半径方向最外クラウン層(5)の前記半径方向外面(ROS)と前記トレッド面(21)との間の半径方向距離(dc)よりも、少なくとも1.5mm小さいようになっており、
前記クラウン補強体(3)の前記半径方向最外クラウン層(5)の前記半径方向外面(ROS)と前記トレッド面(21)との間の前記最小半径方向距離(du)が、最大で前記最も近い周方向ファロウ(24)の深さD+2mmに等しく、最小で前記最も近い周方向ファロウ(24)の深さD-2mmに等しく、
前記半径方向最外クラウン層における少なくとも1つの起伏の鉛直上方にある前記トレッドの部分が、少なくとも30%のゴムコンパウンドMを備え、その動的剪断弾性率G
*は、40°Cにおいて10Hzの10%のピーク間歪みで測定された場合に、最大で3.25MPaに等しい、
ことを特徴とするタイヤ。
【請求項2】
前記ゴムコンパウンドMは、40°Cにおいて10Hzの10%ピーク間歪みで測定された場合に、最大で3MPaに等しい動的剪断弾性率G
*を有する、
請求項1に記載のタイヤ。
【請求項3】
前記ゴムコンパウンドMは、90°C、10Hz、及び0.7MPaの応力下で測定された場合に、最大で1MPaに等しい動的剪断弾性率G
*を有する、
請求項1又は2に記載のタイヤ。
【請求項4】
前記ゴムコンパウンドMは、少なくとも0.5に等しいtanδ0値を有し、tanδは、温度0°C、10Hz、及び0.7MPaの応力下で測定されたtanδ値である、
請求項1~3のいずれか1項に記載のタイヤ。
【請求項5】
前記半径方向最外クラウン層(5)の前記半径方向外面(ROS)の少なくとも10%、好ましくは少なくとも20%、最大で85%にわたって、前記半径方向最外クラウン層(5)の前記半径方向外面(ROS)と前記トレッド面(21)との間の前記半径方向距離(du)が、前記最も近い周方向ファロウ(24)の前記底面(243)中心の鉛直下方の距離である、前記半径方向最外クラウン層(5)の前記半径方向外面(ROS)と前記トレッド面(21)との間の前記半径方向距離(dc)よりも、少なくとも1.5mm小さい、
請求項1~4のいずれか1項に記載のタイヤ。
【請求項6】
前記半径方向最外クラウン層(5)の前記半径方向外面(ROS)の少なくとも10%、好ましくは少なくとも20%、最大で85%にわたって、前記半径方向最外クラウン層(5)の前記半径方向外面(ROS)と前記トレッド面(21)との間の前記半径方向距離(du)が、前記最も近い周方向ファロウ(24)の前記底面(243)中心の鉛直下方の距離である、前記半径方向最外クラウン層(5)の前記半径方向外面(ROS)と前記トレッド面(21)との間の前記半径方向距離(dc)よりも、最大で5mm小さい、
請求項1~5のいずれか1項に記載のタイヤ。
【請求項7】
前記半径方向最外クラウン層(5)の前記半径方向外面(ROS)と前記周方向ファロウ(24)の前記底面(243)との間の前記半径方向距離(d1)は、少なくとも1mmに等しく最大で5mmに等しい、
請求項1~6のいずれか1項に記載のタイヤ。
【請求項8】
前記トレッド(2)の少なくとも1つの主溝(24)は、少なくとも1つの摩耗インジケータ(7)を備え、前記クラウン補強体(3)の前記半径方向最外クラウン層(5)の前記半径方向外面(ROS)と前記トレッド面821)との間の前記最小半径方向距離(du)は、前記トレッド面(21)と前記摩耗インジケータ(7)の半径方向最外点(71)との間の前記半径方向距離(df)に少なくとも等しい、
請求項1~7のいずれか1項に記載のタイヤ。
【請求項9】
前記主溝(24)の前記深さDが、最大で10mmに等しい、
請求項1~8のいずれか1項に記載のタイヤ。
【請求項10】
少なくとも0.3mmに等しい半径方向厚さを有する少なくとも1つの埋込用ゴムコンパウンド(6)が、前記半径方向最外クラウン層(5)における前記起伏(512)の鉛直下方に位置決めされる、
請求項1~9のいずれか1項に記載のタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗用車への装着を意図したタイヤに関し、より詳細には、このようなタイヤのクラウンに関する。
【背景技術】
【0002】
タイヤは、回転軸の周りに回転対称を示す幾何学的形状を有するので、タイヤの幾何学的形状は一般に、タイヤの回転軸を含む子午面で記述される。所与の子午面について、半径方向、軸方向及び周方向はそれぞれ、タイヤの回転軸と垂直な方向、タイヤの回転軸と平行な方向、及び子午面と垂直な方向を表す。赤道面と呼ばれる正中周面は、タイヤを実質的に対称な2つの半円環体形状に分割し、タイヤは、製造精度又は寸法決定に関係したトレッド又は構造の非対称性を示す可能性がある。
【0003】
以下の本文において、「~の半径方向内側に」及び「~の半径方向外側に」という表現は、それぞれ、「~よりも、半径方向においてタイヤの回転軸に近い」及び「~よりも、半径方向においてタイヤの回転軸から離れている」を意味する。「~の軸方向内側に」及び「~の軸方向外側に」という表現は、それぞれ、「~よりも、軸方向において赤道面に近い」及び「~よりも、軸方向において赤道面から離れている」を意味する。「半径方向距離」とは、タイヤの回転軸に対する距離であり、「軸方向距離」とは、タイヤの赤道面に対する距離である。「半径方向の厚さ」は半径方向で測定され、「軸方向の幅」は軸方向で測定される。
【0004】
タイヤは、トレッド面を介して路面と接触することを意図したトレッドを備えるクラウンと、リムと接触することを意図した2つのビードと、クラウンをビードに連結する2つのサイドウォールとを備える。更にタイヤは、クラウンの半径方向内側に配置され、2つのビードを連結する少なくとも1つのカーカス層を備えた、カーカス補強体を備える。
【0005】
タイヤのトレッドは、半径方向に2つの周面で境界が定められ、その内の半径方向最外面がトレッド面であり、半径方向最内面がトレッドパターン底面と呼ばれる。トレッドパターン底面、又は底面は、トレッドパターンの深さに等しい半径方向距離だけ内側に向かって半径方向に平行移動させたトレッド面の表面であると定義される。この深さは、トレッドのショルダと呼ばれる軸方向最外周部にわたって徐々に減少するのが普通である。
【0006】
加えて、タイヤのトレッドは、軸方向に2つの側面で境界が定められる。トレッドはまた、1又は2以上のゴムコンパウンドで構成される。「ゴムコンパウンド」という表現は、少なくともエラストマ及び充填材を備えたゴム組成物を意味する。
【0007】
クラウンは、トレッドの半径方向内側に少なくとも1つのクラウン補強体を備える。クラウン補強体は、周方向と15°~50°の角度を成す互いに平行な補強要素から構成された少なくとも1つのワーキング層を備えた、少なくとも1つのワーキング補強体を備える。クラウン補強体はまた、周方向と0°~10°の角度を成す補強要素から構成された少なくとも1つのフーピング層からなるフープ補強体を備えることができ、必ずしもそうとは限らないが、フープ補強体は通常、ワーキング層の半径方向外側に存在する。
【0008】
クラウン補強体、ワーキング補強体又は他の補強体に関する補強要素の何れの層についても、その層の半径方向外面(ROS)と呼ばれる連続した表面が、各子午線に関して各補強要素の半径方向最外点を通過する。クラウン補強体、ワーキング補強体又は他の補強体に関する補強要素の何れの層についても、その層の半径方向内面(RIS)と呼ばれる連続した表面が、各子午線に関して各補強要素の半径方向最内点を通過する。補強要素の層とあらゆる他の点との間の半径方向距離は、これら表面のどちらか一方から、その層の半径方向厚さを取り込まないように測定される。他方の測定点が補強要素層の半径方向外側にある場合には、半径方向外面ROSからこの点までの、他方の測定点が補強要素層の半径方向内側にある場合には、半径方向内面RISからこの測定点までの半径方向距離が、それぞれに測定される。これにより、層から成る補強要素の断面形状と関係した、起こり得る局所変動を考慮する必要がなく、子午線ごとに首尾一貫した半径方向距離を考察することが可能となる。
【0009】
ウェット路面で良好なグリップ力を得るために、トレッドには切込みが入れられる。切込みとは、ウェル、又は溝、又はサイプ、又は周方向のファロウの何れかを意味し、トレッド面に空間的な開口部を形成する。
【0010】
サイプ又は溝は、トレッド面上に2つの特徴的な主寸法、幅Wと長さL0とを有し、長さL0が幅Wの2倍に少なくとも等しいようになっている。従って、サイプ又は溝は、その長さLoを決定し、底面によって連結される少なくとも2つの主側面によって境界が定められ、その2つの主側面は、サイプ又は溝の幅Wと呼ばれるゼロでない距離だけ互いに離間している。
【0011】
切込みの深さは、トレッド面と切込みの底面との間の最大半径方向距離である。切込み深さの最大値は、トレッドパターンの深さDと呼ばれる。
【0012】
ファロウは実質的に周方向の溝であって、その側面は、向きが周方向に対して約±45°で局所的に変化し得るが、ファロウに属するパターンの全てをトレッド全面に見出せるという意味で、実質的に周方向であり、実質的に連続的な組、すなわちパターンの長さと比べ、長さで10%未満を示す不連続性を呈するものを形成する。
【0013】
周方向のファロウは、リブの境界を定める。リブは、タイヤの軸方縁部と、隣接する軸方向最外側の周方向ファロウとの間に含まれた、すなわち、隣接する2つの周方向ファロウ間に含まれたトレッドパターン要素から構成される。
【0014】
以下の本文で、「~の鉛直方向下方に」という表現は、「各子午線について、~によって境界が定められた軸座標の境界内で半径方向内側にある」ことを意味する。従って、「ファロウの鉛直方向下方にあるワーキング層の点」とは、各子午線について、ファロウによって境界が定められた軸座標の境界内で溝の半径方向内側にあるワーキング層の点の集合を表す。
【0015】
以下の本文で、「~の鉛直上方に」という表現は、「各子午線について、~によって境界が定められた軸座標の境界内で半径方向外側にある」ことを意味する。従って、「起伏の鉛直上方にあるトレッドの部分」とは、各子午線について、起伏によって境界が定められた軸座標の境界内で起伏の半径方向外側にあるトレッドの点の集合を表す。
【0016】
タイヤは、摩耗、様々な種類の路面でのグリップ力、転がり抵抗、及び動的挙動などの現象に関連して、数多くの性能基準を満たす必要がある。これらの性能基準は,時に他の基準を損なう解決策をもたらすことがある。従って、乾いた路面で良好なグリップ性能を得るためには、トレッドのゴムコンパウンドは、散逸性で柔らかい必要がある。対照的に、挙動に関して、特に、車両の横荷重、ひいてはタイヤの回転軸に沿う荷重に対する動的応答に関して良好に機能するタイヤを得るためには、タイヤは、特に横荷重下で、十分に高レベルの剛性を有する必要がある。所与のサイズについて、タイヤの剛性は、トレッド、クラウン補強体、サイドウォール、及びビードという、タイヤの様々な要素の剛性に依存する。トレッドは従来、乾いた路面でのグリップ力の損失をもたらしながらも、ゴムコンパウンドを堅くする、或いはウェット路面でのグリップ力の損失をもたらしながらも、トレッドパターンの深さを減少させる、又はトレッドパターンの溝対ゴム比を減少させる、の何れかによって、剛性が高められる。
【0017】
この問題を軽減するために、タイヤ製造業者は、例えば、文献仏国特許第3014442号及び仏国特許第2984230号に記載されるように、特に繊維を用いてゴムコンパウンドを堅くすることによってゴムコンパウンドを変更してきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【文献】仏国特許第3014442号明細書
【文献】仏国特許第2984230号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
これらの解決策は、必ずしも満足できるものではない。トレッドパターンの深さを減らすことにより、摩耗の点でもウェットグリップの点でも性能が制限される。ゴムコンパウンドを堅くすることにより、ウェットグリップ及びドライグリップの能力が制限され、走行中のタイヤ騒音も増加する。トレッドパターンの空隙容積を減らすことにより、ウェット路面で、特に溜まり水が深い場合にグリップ能力が低下する。また、タイヤの耐久性を確保するためには、切込み、溝又はファロウの底面と半径方向最外クラウン層の補強要素との間で、ゴムコンパウンドの特定厚さを維持することが重要である。
【0020】
このように、トレッドの全部又は一部を作製するために、非常に柔らかくて高レベルのグリップ力を示す特定のゴムコンパウンドを使用することは、他の性能側面を損なうことなしには実行することができない。
【課題を解決するための手段】
【0021】
従って、本発明の主目的は、「柔らかい」又は低レベルの剛性を示すトレッドゴムコンパウンドを用いて性能を向上させ、その関係する特性を利用できるようにすることである。これらのゴムコンパウンドは、例えば、ドライグリップ性能を高めるために極めてヒステリシスがあるか、又は対照的に、転がり抵抗を更に改善するために平坦化を容易にする非常に小さいヒステリシスを有することができる。摩耗又は挙動などの他の性能側面に悪影響を及ぼさないようにするため、これらの低剛性ゴムコンパウンドは、トレッド全体にわたって又はその限定された部分にわたって配置することができる。この目的は、転がり抵抗に関する国家規格に準拠しつつ、摩耗及びクラウン耐久性の点でその性能を変えることなく達成された。
【0022】
この目的は、
・ 溝を備えたトレッド面を介して路面と接触することを意図したトレッドであって、その溝が、トレッド面に開口し、底面で連結された2つの主側面で境界が定められる空間を形成して、2つの側面間の平均距離で定められる幅Wと、トレッド面と底面の間の最大半径方向距離で定められる深さDとを有するトレッドと、
・ 主溝であり、少なくとも1mmに等しい幅Wと少なくとも4mmに等しい深さDとを有する少なくとも1つの溝と、
・ 少なくとも1つの主溝が周方向ファロウと呼ぶ、実質的に周方向であることと、
・ 少なくとも2つのリブと、
を備える乗用車タイヤであって、
・ タイヤはまた、クラウン層で表される、少なくとも1層の補強要素を備えたクラウン補強体をトレッドの半径方向内側に備え、
・ 少なくとも1層の補強要素は、半径方向内面(RIS)から半径方向外面(ROS)まで半径方向に延在し、
・ 半径方向最外クラウン層は、リブの鉛直方向下方に少なくとも1つの起伏を備え、
・ 半径方向最外クラウン層における少なくとも1つの起伏は、起伏の半径方向最外クラウン層部分が、起伏に最も近い周方向ファロウの底面中心の鉛直方向下方にある半径方向最外クラウン層の点の半径方向外側に位置するようになっており、
・ 半径方向最外クラウン層における少なくとも1つの起伏は、クラウン層の半径方向外面(ROS)の少なくとも10%にわたって、半径方向最外クラウン層の半径方向外面(ROS)とトレッド面との間の半径方向距離(du)が、起伏に最も近い周方向ファロウの底面中心の鉛直方向下方の距離である、半径方向最外クラウン層の半径方向外面(ROS)とトレッド面との間の半径方向距離(dc)よりも、少なくとも1.5mm小さいようになっており、
・ クラウン補強体の半径方向最外クラウン層の半径方向外面(ROS)とトレッド面との間の最小半径方向距離(du)が、最大で、最も近い周方向ファロウの深さD+2mmに等しく、最小で、最も近い周方向ファロウの深さD-2mmに等しく、
・ 半径方向最外クラウン層における少なくとも1つの起伏の鉛直上方にあるトレッドの部分が、少なくとも30%のゴムコンパウンドMを備え、その動的剪断弾性率G*は、40°Cにおいて10Hzの10%のピーク間歪みで測定された場合に、最大で3.25MPaに等しい、乗用車タイヤによって達成された。
【0023】
補強要素の層上の点は、当該点と、最も近い主溝の底面の半径方向最内点の鉛直方向下方にある同じクラウン層上の点との間の半径方向距離が1mmを超える場合に、そのクラウン層における起伏に属する。最も近い主溝が2つ以上ある場合には、起伏に属するかどうかの検査は、当該の半径方向距離を最大にする主溝を考慮して行われることになる。半径方向距離を計算するために、同種の補強要素の点:すなわち、中立軸上の2点、補強要素の半径方向最外点2点、補強要素の半径方向最内点2点を考慮することになる。
【0024】
ゴムコンパウンドの特性は、ASTM規格D 5992-96に準拠して粘度分析器(Metravib VA40000)で測定される。0.7MPaの固定応力下で、0°C~100°Cの温度掃引中に、周波数10Hzで単純交番正弦波の剪断応力を受ける加硫組成物の試料、好ましくは厚さ4mmで断面積400mm2の円柱形試験片の応答が記録される。動的剪断弾性率G*は、同様にASTM規格D 5992-96に準拠して、所与の温度40°C、10Hzの10%ピーク間歪みで測定される。同じ手順を用いて、90°C、10Hz、及び0.7MPaの応力下における剪断弾性率G*が測定される。
【0025】
特定の性能態様、例えばドライグリップを改善するために、モータレース競技などの特定用途に対して当業者に公知のゴムコンパウンドを使用できるが、これらのゴムコンパウンドは、乗用車、スポーツカーにさえも全く適していない。なぜなら、乗用車は、環境基準で定められた最大転がり抵抗値、最小の摩耗、耐久性、グリップ力、並びに挙動性能態様など、特定の性能態様に従う必要があるからである。具体的には、これらの車両は、公道を、非常に短時間用、最終的には限られた走行距離用の閉じた競技用周回路とは異なるウェット路面及びウェットグリップでの走行条件下で、走行できる必要がある。これらの車両の所有者は、雨が降った場合に、並びにタイヤが摩耗した状態で1時間走行した後にタイヤを交換するチームを持たないので、これらのタイヤが摩耗した場合の1時間の運転後には、トレッド内の溝又は周方向ファロウの存在、タイヤで何千キロもの距離を走破する能力、ひいては十分なトレッドパターン深さなど、本発明によるタイヤ用の設計パラメータが存在する。好ましくは、タイヤ内の溝及び周方向ファロウは、少なくとも10%に等しい、新品状態のトレッドにおける空隙比を構成する。空隙比は、空隙が含まれるトレッドパターン底面の半径方向外側のトレッド体積に対する、トレッド内の全ての切込みによって形成される空隙の容積の比として測定される。
【0026】
当該ゴムコンパウンドは、トレッドパターンの高さが低いことによって又はゴムコンパウンドの低剛性を補償しない通常のトレッドパターン高さによって摩耗性能が損なわれるか、或いは通常のトレッドパターン高さとゴムコンパウンドの低剛性との組み合わせのために挙動に関する性能が過度に損なわれるかを問わず、従来技術による乗用車タイヤには使用できない温度範囲にわたって低剛性を示す。この低剛性が大きなヒステリシスを伴う場合には、転がり抵抗に関する性能も損なわれることになる。従って、これらのゴムコンパウンドを使用すること自体が問題となる。
【0027】
40°Cにおいて10Hzの10%ピーク間歪みで測定され、最大で3.25MPaに等しい、好ましくは最大で3MPaに等しい、好ましくは最大で2.5MPaに等しい、40°Cでの動的剪断弾性率G*を有するゴムコンパウンドは、例えば、乗用車のために存在するようなトレッドパターン高さに伴う挙動に関して大きく悪影響を受ける。
【0028】
90°C、10Hz、0.7MPaの応力下で測定され、最大で1MPaに等しい、好ましくは最大で0.75MPaに等しい、好ましくは最大で0.5MPaに等しい、90°Cでの動的剪断弾性率G*を有するゴムコンパウンドは、摩耗に関して大きく悪影響を受ける。
【0029】
本発明、つまり、半径方向最外クラウン層における起伏を、起伏の鉛直上方の低剛性ゴムコンパウンドと組み合わせることにより、目的とする関連特性に関わらず、低剛性のゴムコンパウンドを使用することが可能となる。トレッドのこのゴムコンパウンドが、その低剛性と相まって、摩耗に関して優れた性能を有するけれども転がり抵抗が高い場合には、このゴムコンパウンドの体積と、トレッド内でのこのゴムコンパウンドの剪断高さとを減少させることによって、使用できるようになる。また、本発明によれば、許容可能な転がり抵抗値を見出すことが可能となる。同様に、このゴムコンパウンドの低剛性と組み合わせて高いドライグリップを得るために、挙動又は摩耗に関する性能低下を本発明によって解決することができる。
【0030】
グリップ力を特徴付ける特性の1つは、温度0°C、10Hz、及び0.7MPaの応力下で測定されたtanδ値を表す、tanδ0ヒステリシス値である。従って、本発明の好ましい実施形態は、ゴムコンパウンドMは、少なくとも0.5に等しい、好ましくは少なくとも0.6に等しいtanδ0値を有するものである。
【0031】
起伏は、必然的にクラウンの補強要素の半径方向最外層に影響を与えるはずである。 本発明は、起伏の鉛直上方のトレッド内のゴムコンパウンドの体積を減少させることにより、挙動、摩耗及び転がり抵抗に影響を及ぼす。他のクラウン層及びカーカス補強体は、起伏してもしなくてもよい。感知可能であるためには、起伏は、半径方向最外クラウン層の表面の少なくとも10%に影響を与える必要があり、ゴムコンパウンドの厚さを減少させられる起伏の振幅は、少なくとも1.5mmに等しくなければならない。このためには、トレッドの単一リブの鉛直方向下方に起伏があれば十分である。起伏は、例えば、正中周面に対して中心的で対称的であるとすることができる。
【0032】
この解決策は、偏摩耗に関して、又は車両のキャンバ角に依る軸推力の方向に依存した軸推力値に関して利点を有することができる。それでもなお、この単一起伏は、何れかのリブの下に、特に半径方向最外リブの内の1つの下に均等に位置させることができる。このような選択は、タイヤの方向又は軸対称の側面と、タイヤの使用対象である車両のキャンバ角とを考慮することによって行うことができる。
【0033】
同様に、最適な機能を得るためには、起伏は、トレッドパターン深さDに対して適切に位置決めする必要がある。クラウン補強体(3)の半径方向最外クラウン層の半径方向外面(ROS)とトレッド面との間の最小半径方向距離(du)は、最大で、最も近い周方向溝(24)の深さD+2mmに等しく、最小で、最も近い周方向溝(24)の深さD-2mmに等しい。半径方向に内側へ向かって遠すぎる位置の場合、起伏は問題を解決することができず、それは、起伏の鉛直上方にあるゴムコンパウンドの高さを十分に減少させることができないからである。起伏が半径方向に外側へ向けてあまりに遠く位置決めされた場合には、摩耗によりクラウン層が露出して耐久性の問題を引き起こす、或いは、転がり抵抗を改善するためにトレッドのより大部分を薄くすることができるが、この解決策は最適でない。
【0034】
更に、乗用車タイヤは、好ましくはトレッドパターンの深さが少なくとも6mm、最大で10mmに等しい。この深さは、トレッドにおける溝及び周方向ファロウの最大深さである。この深さは、一般的にタイヤの赤道面の近くで測定される。これらの値は、性能側面の中でも特に摩耗、転がり抵抗及び挙動の側面を含めた現在の妥協点である。
【0035】
本解決策は、クラウン層が実質的に円筒形型枠上に敷かれて子午面内に屈曲点のない規則正しい曲率を有し、結果として、挙動に関係する問題を解決するためにこれまで維持されてきたタイヤ製造方法に反するものである。それ自体が円環体形状であるリブの下に実質的に円環体形状の起伏を作り出すことは、製造の容易さと生産性の観点から有利である。具体的には、硬化の前にタイヤを製造するための工具は、通常、タイヤの軸対称性を利用しており、同じ軸対称性を有する起伏を作り出すことで、標準的なタイヤ製造手段を利用することが可能となる。
【0036】
圧縮荷重を受ける補強要素の起伏層は、構造体の座屈を防ぐための推奨事項に反する。具体的には、曲率半径に不連続性を作り出すことで、付加的な応力を生成することとなり、座屈が生じる場合がある。しかしながら、タイヤでは荷重が非常に局所的であり、これは、起伏の尺度よりも遥かに小さな尺度で、クラウンの一部分が圧縮状態の時にクラウンの別部分が引張り状態であることを意味する。従って、本発明の範囲内で作製される起伏は、タイヤの耐久性を損なうことはない。
【0037】
これらの起伏により、もはや転がり抵抗及び挙動の改善を目的としてではなく、挙動及び許容可能な転がり抵抗を改善してドライグリップを向上させるために、低剛性を有する、つまり、40°C、10Hzの10%ピーク間歪みにおける動的剪断弾性率G*が最大で3.25MPaに等しい、最大で3MPaに等しい、好ましくは最大で2.5MPaに等しいトレッドのゴムコンパウンドを、少なくとも起伏の鉛直上方に使用することが可能となる。
【0038】
所望の性能側面及びその経時変化に応じて、半径方向最外クラウン層における起伏の鉛直上方にあるゴムコンパウンドは、全体的又は部分的に、低剛性で良好なドライグリップを備えたゴムコンパウンドMであるとすることができる。好ましくは、トレッド表面は、新品状態でこのゴムコンパウンドを有する。
【0039】
距離(du)は、半径方向最外クラウン層に少なくとも1つの起伏を作り出すことによって減少し、この起伏又はクラウン層の起伏した部分が、起伏に最も近い周方向ファロウの鉛直下方にあるクラウン層の起伏部分の半径方向外側に位置するようになっている。起伏していないが、所与の区域でトレッドパターン深さを減少させることによって距離duを低減する基準を満たすクラウン層を、起伏していると見なすことは問題ではない。この特徴は更に、特に乗用車用タイヤで知られており、その場合、トレッドパターンの深さが、ショルダとして公知のタイヤの軸方向外縁部において、最も近い周方向ファロウよりも小さい。従来技術によるタイヤでは、半径方向距離(du)が減少するショルダの部分において、半径方向最外クラウン層は、同じ半径にあるか、又は最も近い周方向ファロウの鉛直下方にある同じクラウン層の部分の半径方向内側にある。
【0040】
本発明はまた、1又は2以上の起伏がタイヤの1又は2以上のショルダの1又は2以上の部分に位置決めされる場合にも機能する。
【0041】
空隙下方距離(d1)は、好ましくは主溝と周方向ファロウにおいて維持される。小溝又はサイプは、障害物によるパンク及び衝撃に対してそれほど敏感でない。それらは、深さの浅い又は幅の狭い溝というその技術的特徴を付与するゴムコンパウンドによって保護される。
【0042】
半径方向最外クラウン層における起伏の鉛直下方では、他のクラウン層の全部又は一部を起伏させることができ、クラウンに望まれる構造的剛性に応じてカーカス層を起伏させることもできる。半径方向最外クラウン層は起伏している必要があり、半径方向最外クラウン層と、半径方向に隣接するクラウン層、一般的にはワーキング層との間に配置された適切な厚さの埋込用ゴムコンパウンドを用いることによって、唯一の起伏層とすることができる。しかしながら、クラウン層の内の2つ、3つ又は全てをこのように起伏させることもできる。保護層又はフーピング層は、タイヤにおいて任意であり、解決策の利点を左右するものではない。
【0043】
ゴムコンパウンドをドライグリップの点で改善したトレッド表面の10%で、性能の改善が測定可能となると考えられるので、半径方向最外クラウン層の半径方向外面の10%が、起伏を備えた部分において、最も近い主溝の鉛直下方にあるクラウン層の半径方向最内点から少なくとも1.5mmに等しい半径方向距離にあれば十分である。
【0044】
この起伏の振幅は、タイヤの尺度で有意な効果を及ぼすには、少なくとも1.5mmに等しい必要がある。従って、1又は2以上の起伏を有するクラウン層の半径方向外面(ROS)の少なくとも10%にわたって、半径方向最外クラウン層の半径方向外面(ROS)とトレッド面との間の半径方向距離(du)が、起伏に最も近い主溝の底面中心の鉛直下方の距離である、半径方向最外クラウン層の半径方向外面(ROS)とトレッド面との間の半径方向距離(dc)よりも、少なくとも1.5mm小さい。
【0045】
クラウンの剛性を高め、起伏と起伏(複数可)の鉛直下方に位置するゴムコンパウンドMとの間の結合を増大させるために、好ましい解決策は、複数のクラウン層、半径方向最外クラウン層及びそれに対して半径方向に隣接するクラウン層、或いはクラウン層の全てが起伏している、言い換えれば、それらが互いに、軸方向端部の最後の3センチメートルを除いて、クラウンの全幅にわたって実質的に一定の距離にあるというものである。これは、これらの軸方向端部が場合により、ゴムコンパウンドの脱結合処理を受けるからである。
【0046】
最適解は、タイヤの特性とおそらくは車両の特性とを考慮に入れる。最適化は、タイヤの方向性、タイヤの非対称性、車両のキャンバ角に応じて行うことができる。
【0047】
好ましくは、半径方向最外クラウン層の半径方向外面(ROS)の少なくとも10%、好ましくは少なくとも20%、最大で85%にわたって、半径方向最外クラウン層の半径方向外面(ROS)とトレッド面との間の半径方向距離(du)が、起伏に最も近い主溝の底面中心の鉛直下方の距離である、半径方向最外クラウン層の半径方向外面(ROS)とトレッド面との間の半径方向距離(dc)よりも、少なくとも1.5mm、好ましくは2mmだけ小さい。グリップ力、摩耗、転がり抵抗及び挙動の性能側面の調整を可能にする設計パラメータは、以下のとおり:
・ 低剛性で高グリップ性のゴムコンパウンドMによって形成される接触面の範囲、並びに半径方向最外クラウン層における起伏の範囲(10%又は15%を下回ることがほとんどないトレッドパターンの空隙比が、それを最大で85%(100%-15%)に制限するという知識の下で)。起伏(複数可)の範囲が広いほど、又は鉛直下方に起伏のあるリブが多いほど、グリップ力に関してゴムコンパウンドを使用する利点が大きくなり、転がり抵抗に関してその悪影響が小さくなる。従って、ドライグリップ、転がり抵抗及び動的挙動に関する所望の性能に応じて、起伏の数と低剛性で高グリップ性のゴムコンパウンドMの割合とを調整することが可能である。
・ 少なくとも1.5mmに等しいが、堅くてそれゆえ可変形性の低い金属ワーキング層に課される曲率半径のせいで5mmに制限される起伏の振幅(これにより、転がり抵抗及び動的挙動と関係するトレッドのゴムコンパウンドの剪断力を調整することが可能となる。)。
【0048】
単一のリブは、半径方向最外ワーキング層の軸方向幅の15%に相当することができる。3つ、4つ又は5つのリブを有し、ファロウがこの幅の約20%に相当することが一般的である。
【0049】
従って、好ましい解決策は、半径方向最外クラウン層の半径方向外面(ROS)の少なくとも10%、好ましくは少なくとも20%、最大で85%にわたって、半径方向最外クラウン層の半径方向外面(ROS)とトレッド面との間の半径方向距離(du)が、起伏に最も近い周方向ファロウの底面中心の鉛直下方の距離である、半径方向最外クラウン層の半径方向外面(ROS)とトレッド面との間の半径方向距離(dc)よりも、最大で5mm、好ましくは最大で3mmだけ小さい。
【0050】
転がり抵抗を不利にすることなく、クラウンのパンク及び衝撃に関して最適な性能を得るためには、半径方向最外クラウン層の半径方向外面(ROS)と周方向ファロウ(複数可)の底面との間の半径方向距離(d1)は、少なくとも1mmに等しくて最大で5mmに等しい、好ましくは少なくとも2mmに等しくて最大で4mmに等しい。下限未満では、タイヤは衝撃に敏感すぎると判明する場合がある。上限を超えると、タイヤの転がり抵抗が不利となる。
【0051】
トレッド、例えばトレッドの主溝は、少なくとも1つの摩耗インジケータを備えることが有利であり、クラウン補強体の半径方向最外層の半径方向外面(ROS)とトレッド面との間の最小半径方向距離(du)は、トレッド面と摩耗インジケータの半径方向最外点との間の半径方向距離(df)に少なくとも等しいことが有利である。具体的には、使用者は、摩耗インジケータを用いて、タイヤの摩耗を確認することができ、クラウン補強体の半径方向最外層の補強要素がトレッド面に現れ始める前にそうすることができるということが重要である。
【0052】
有利には、トレッドの全部分、並びに半径方向最外クラウン層(5)における起伏の鉛直上方にあるトレッド面の全部分は、ゴムコンパウンドMの特性を最大限に活かすために、少なくとも50%、好ましくは75%、より好ましくは100%のゴムコンパウンドMを備える。
【0053】
本発明の好ましい実施形態では、摩耗インジケータの半径方向外側にあるトレッドの部分は、タイヤが摩耗のために除去されるまでゴムコンパウンドMの特性を活かすために、ゴムコンパウンドMで100%構成される。
【0054】
解決策の利点を最大限まで広げるために、半径方向最外ワーキング層の起伏は、トレッド面の全リブの鉛直下方に存在することが有利である。
【0055】
好ましい解決策の1つは、半径方向最外ワーキング層を起伏させるステップが意味する製造諸経費の増加に対して過不足のない性能上の利点を得るために、半径方向最外ワーキング層の起伏が、正中周面に対して、この面の何れかの側で軸方向に最も近いトレッド面のリブの鉛直下方にだけ存在することである。
【0056】
好ましくは、主溝の深さDは、少なくとも6mmに等しく、最大で10mmに等しい。6~10mmのトレッドパターン深さにより、多くの乗用車タイヤにおいて摩耗と転がり抵抗の性能側面間での良好な妥協案が可能となる。
【0057】
クラウン補強体の補強要素の半径方向最外層がフーピング層である場合には、クラウン補強体の補強要素の半径方向最外層は、織物、好ましくは脂肪族ポリアミド又は芳香族ポリアミドのタイプ、脂肪族ポリアミドと芳香族ポリアミドの組み合わせを含むタイプ、ポリエチレンテレフタレートのタイプ又はレーヨンのタイプで作られた補強要素を備えることが有利であり、これらの補強要素は、互いに平行であり、タイヤの周方向(XX')と絶対値で最大10°に等しい角度Bを成す。
【0058】
好ましい解決策の1つは、少なくとも0.3mmに等しい半径方向厚さを有する少なくとも1つの埋込用ゴムコンパウンドが、半径方向最外クラウン層における何れかの起伏の鉛直下方に位置決めされることである。この目的は、製造時及び硬化時にクラウン層が起伏できるようにすることである。これらの埋込用ゴムコンパウンドは、必要に応じて、タイヤの全周に存在する、又はタイヤの特定部分に配置されるとすることができる。タイヤの仕様書に応じて異なる特性を有する異なる半径値を備えた1又は2以上の起伏の鉛直下方に、複数の埋込用ゴムコンパウンドを敷くことが可能である。単一の埋込用ゴムコンパウンドを敷く場合、その最大厚さは、所与の起伏について、起伏における半径方向最外クラウン層の半径方向外面の半径方向最外点と、起伏に最も近い周方向ファロウの底面中心の鉛直下方にある半径方向最外クラウン層の半径方向外面との間の半径方向距離にほぼ等しい。
【0059】
トレッドが1又は2以上のゴムコンパウンドから形成される場合、埋込用ゴムコンパウンドは、温度23°C、10Hzで測定される最大動的損失tanδ1が、主溝又は周方向ファロウの底面の半径方向外側にあるトレッドの最もヒステリシスの小さいゴムコンパウンドの、温度23°C、10Hzでの0.7MPaの応力下で測定される最大動的損失tanδ2に最大で等しく、好ましくはそれより30%小さいことが有利である。同じヒステリシスを備えた埋込用ゴムコンパウンドについては、このゴムコンパウンドが受ける剪断応力荷重を減少させるだけで、転がり抵抗の改善が達成される。埋込用ゴムコンパウンドはトレッドを作製するゴムコンパウンドと同じ応力を受けないので、その特性を変更して転がり抵抗を更に改善することができる。ヒステリシスの30%低下が、本発明では大幅な改善に繋がる。トレッドの最もヒステリシスの小さいゴムコンパウンドは、トレッドパターン底面の半径方向外側の一部を構成するゴムコンパウンドであり、温度23°C、10Hzでの応力0.7MPa下で測定されるそのtanδ1の最大値は、トレッドパターン底面の半径方向外側の一部を作製するゴムコンパウンド全ての中で最も小さい。
【0060】
ASTM規格D 5992-96に準拠して周波数10Hz、23°Cで単純な交番正弦波の剪断応力を受ける架橋組成物の試料(好ましくは厚さ4mmで断面積400mm2の円柱形試験片)の応答が記録される。ピーク間歪み振幅掃引が、0.1%から100%まで(往路サイクル)、次いで100%から0.1%まで(復路サイクル)行われる。利用されるこの結果が損失因子(tan(δ))である。復路サイクルに対して、tan(δ)の観察される最大値(23°Cでのtan(δ)max)が示される。
【0061】
クラウン補強体は、多数の現行のクラウン構造のように、フーピング層と、反対の角度を有する2つのワーキング層を備えたワーキング補強体とから構成されることが好ましい。
【0062】
本発明の特徴及び他の利点は、
図1~4の助けを借りてより良く理解されることになるが、図は一定の縮尺ではなく、本発明の理解をより容易にするために簡略化して描かれている。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【
図1】タイヤ、特に溝と周方向ファロウとを備えた構造及びトレッドの部分図である。
【
図2】本発明によるタイヤのクラウンを貫く子午断面図を示し、異なる半径方向距離du、d1、D、df、dcと、半径方向最外クラウン層、ワーキング層又はフーピング層に起伏を作り出すのに適した埋込用ゴムコンパウンド(6)を説明し、この起伏がその鉛直上方に低剛性ゴムコンパウンドMを備えている。
【
図3】本発明によるタイヤのクラウンを貫く子午断面図を示し、異なる半径方向距離du、d1、D、df、dcと、半径方向最外クラウン補強体、ワーキング層及びフーピング層に起伏を作り出すのに適した埋込用ゴムコンパウンド(6)を説明し、この起伏が、その鉛直上方に、且つ摩耗インジケータの半径方向外側のトレッドの一部に100%で、低剛性ゴムコンパウンドMを備えている。
【
図4】本発明によるタイヤのクラウンを貫く子午断面図を示し、異なる半径方向距離du、d1、D、df、dcと、半径方向最外クラウン補強体、ワーキング層又はフーピング層における起伏と、を説明し、この起伏が、その鉛直上方に、且つ摩耗インジケータの半径方向外側のトレッドの一部に100%で、低剛性ゴムコンパウンドMを含んで備えている。これらの起伏は、硬化前にカーカス補強要素及びクラウン補強要素という異なる層を積層する間に、又はこの種の起伏を作り出すのに適したトレッドの体積でタイヤを硬化させる間に、起伏を形成するように設計された製造工具を用いて、埋込用ゴムを使用せずに形成される。
【発明を実施するための形態】
【0064】
図1は、タイヤのクラウンの一部の透視図である。デカルト基準系(XX',YY',ZZ')が各子午面に関係付けられる。タイヤは、トレッド面21を介して路面と接触することを意図したトレッド2を有する。トレッドに配置されるのは、溝ごとに異なる場合のある幅Wを備えた溝24と、リブ26の境界を定める周方向ファロウ25である。タイヤはまた、ワーキング補強体4と、この事例では、例えばフープ補強体5とを備えたクラウン補強体3を備える。ワーキング補強体は、少なくとも1つのワーキング層を備え、この事例では、例えば2つのワーキング層41及び42を備え、各々が互いに平行な補強要素(クラウン層41については411)を備えている。半径方向最外ワーキング層(41)の半径方向外面(ROS)も示されている。
【0065】
図2は、本発明によるタイヤのクラウンを貫く子午断面を模式的に示す。これは特に、カーカス層1と、半径方向最外クラウン層(5)の起伏(512)と、リブ26の全幅にわたって起伏の鉛直方向下方に位置決めされた埋込用ゴムコンパウンド(6)とを図示する。
図2はまた、以下の半径方向距離を示す:
・ D:溝の深さ、これはトレッド面(21)と溝の底面(243)との間の最大半径方向距離である。
・ dc:半径方向最外クラウン層(5)の半径方向外面(ROS)とトレッド面(21)との間の半径方向距離、これは、起伏(512)に最も近い主溝(24)の底面(243)の半径方向最内点から鉛直方向下方に測定される。
・ du:クラウン補強体の半径方向最外クラウン層(5)の半径方向外面(ROS)とトレッド面(21)との間の最小半径方向距離。
・ df:トレッド面(21)と摩耗インジケータ(7)の半径方向最外点との間の半径方向距離。
・ d1:半径方向最外クラウン層(5)の半径方向外面(ROS)と周方向ファロウ(25)の底面(243)との間の最小距離。
【0066】
図3は、本発明によるタイヤのクラウンを貫く子午断面を模式的に示す。これは特に、2つのワーキング層(41及び42)と、この事例では、半径方向最外クラウン層であるフーピング層(5)とから構成されたクラウン補強体における起伏と、トレッドの各リブの鉛直方向下方にある起伏の鉛直方向下方にある半径方向最外ワーキング層(42)の下に配置された埋込用ゴムコンパウンド(6)とを図示している。
【0067】
図4は、本発明によるタイヤのクラウンを貫く子午断面を模式的に示す。これは、埋込用ゴムコンパウンド(6)を用いずに、カーカス補強体における起伏、2つのワーキング層(41及び42)から構成されたクラウン補強体における起伏、並びに、この事例では半径方向最外クラウン層であるフーピング層(5)における起伏を、特に図示している。
【0068】
タイヤを貫く子午断面は、タイヤを2つの子午面で切断することによって得られる。この断面は、様々な半径方向距離、溝の底面の中心、及び周方向ファロウの中心を決定するために使用される。
【0069】
乗用車への装着を意図したサイズ305/30ZR20のタイヤAに対して、本発明を実装した。トレッドパターンの溝の深さDは、ショルダ部の5mmと赤道部の7mmとの間であり、幅Wは4~15mmの間で変化し、トレッド部は4本の周方向ファロウを含んでいる。クラウン補強体は、補強要素が周方向と±38°の角度を成す2つのワーキング層と、補強要素が周方向と±3°の角度を成す織物フーピング層とから構成される。半径方向最も外側のクラウン層であるフーピング層5は、トレッドの5つのリブの下で、その表面積の50%以上を占めて起伏している。この起伏は、半径方向最内ワーキング層の半径方向内側に配置された埋込用ゴムコンパウンドを用いて作製され、埋込用ゴムコンパウンドは、より詳細にはカーカス層と半径方向最内クラウン層との間に位置している。起伏は2mmの振幅を有し、つまり、起伏(512)における半径方向最外クラウン層(5)の半径方向外面(ROS)とトレッド面との間の半径方向距離(du)が、半径方向最外クラウン層(5)の半径方向外面(ROS)とトレッド面(21)との間の半径方向距離(dc)よりも2mm小さく、これらは、起伏(512)に最も近い周方向ファロウ(24)の底面の半径方向最内点から鉛直方向下方の距離である。半径方向最外クラウン層(5)の半径方向外面(ROS)と周方向ファロウ(25)の底面(243)との間の半径方向距離は、1.5mmに等しい。トレッドは、以下の特徴を有する単一のゴムコンパウンドCC1から構成される:
・ G*は、40°Cにおいて10Hzの10%ピーク間歪みで測定され、2.3MPaに等しい。
・ 動的剪断弾性率G*は、90°C、10Hz、及び0.7MPaの応力下で測定され、0.45MPaに等しい。
・ tanδは、温度0°C、10Hz、及び0.7MPaの応力下で測定され、0.58に等しい。
【0070】
タイヤAを、以下を除いて同じ特性を有する同じサイズのタイヤB及びCと比較した:
・ タイヤBは、そのクラウン層が起伏しておらず、トレッドが単一のゴムコンパウンドCC2で構成されるようになっている。
・ タイヤCは、そのクラウン層が起伏しておらず、トレッドがタイヤAと同様の単一ゴムコンパウンドCC1で構成されるようになっている。
【0071】
ゴムコンパウンドCC2は本発明には該当しないが、トレッドに使用するのに適したゴムコンパウンドであり、以下の特性を有する。
・ G*は、40°Cにおいて10Hzの10%ピーク間歪みで測定され、3.3MPaに等しい。
・ 動的剪断弾性率G*は、90°C、10Hz、及び0.7MPaの応力下で測定され、1.05MPaに等しい。
・ tanδは、温度0°C、10Hz、及び0.7MPaの応力下で測定され、0.48に等しい。
【0072】
タイヤAの起伏を作り出すために使用される埋込用ゴムコンパウンドは、温度23°C、10Hz、及び応力0.7MPaの応力下で測定される動的損失tanδ1を有し、これは、タイヤAのトレッドが作製されるゴムコンパウンドCC1の動的損失よりも60%小さい。
【0073】
本発明によるタイヤの性能側面は、基準値を100として以下の表で見ることができる。100を超える評価は、本発明のタイヤの性能が対照の性能よりも優れていることを意味する。転がり抵抗の点でより優れた性能、従って100を超える評価は、本発明のタイヤの転がり抵抗が対照のそれよりも小さいことを意味する。100を超えるドライグリップは、テスト周回路の1周に掛かる時間が対照のタイヤよりも短いことを意味する。
【0074】
【0075】
本発明の目的は、トレッド内に「柔らかい」又は低剛性のゴムコンパウンドを使用できるようにすることである。従来技術のタイヤBは、トレッド内に起伏のあるクラウン層又は低剛性のゴムコンパウンドを持たない対照として機能する。
【0076】
タイヤCにおいて明らかであるが、起伏のない構造に基づくトレッドに、規定された低剛性ゴムコンパウンドを使用することにより、対照のタイヤBと比べ、転がり抵抗、摩耗及び挙動の性能側面全てにおいて許容できない低下が生じ、ドライグリップだけが改善される。スポーツ用途のサイズとその高い転がり抵抗値を考えると、転がり抵抗の悪化は、環境基準に関してタイヤCがもはや許容できないものである。
【0077】
本発明は、タイヤAに明らかであるが、低剛性ゴムコンパウンドCC1の使用に起因する全ての劣化を改善できるようにするだけでなく、驚くべきことに、構造と低剛性ゴムコンパウンドの結合を通して、ゴムコンパウンドCC1によって先験的にもたらされるドライグリップを更に25%改善することを可能にする。
【0078】
転がり抵抗に関する本発明の改善は、ISO2850:2009に準拠して標準化された測定用の標準機上で評価した。
【0079】
挙動は、当業者に周知のPacejkaタイヤ挙動モデルの特性Dzの測定によって、圧力3バール、高温で評価された。
【0080】
また、タイヤはスポーツタイプの車両に装着され、かなりの横荷重を発生させることのできる曲がりくねった周回路上で試験された。タイヤを評価する訓練を受けたプロドライバが、試験するタイヤの特性を知ることなく、同じ温度条件及び路面走行条件の下で、厳密な試験プロセスに従って本発明によるタイヤAを従来技術によるタイヤB及びタイヤCと比較し、測定を繰り返した。ドライバは、タイヤに点数を割り当てた。実施した試験全てにおいて、本発明によるタイヤAは、車両挙動、ロードホールディングの点、乾いた路面で、及びグリップ力の点でタイヤB及びCに勝った。
【0081】
摩耗は、顧客の用途を代表する所与の周回路上を同じタイプの車両が互いに追従する試験において評価された。車両は、タイヤを評価する訓練を受けたプロドライバによって同じタイプの運転スタイルで、試験するタイヤの特性を知ることなく、同じ温度条件及び路面走行条件の下で、厳密な試験プロセスに従って運転され、測定を繰り返した。各試験日の後、残っているトレッドパターン高さを測定した。ここで示された摩耗は、タイヤ寿命の30%に相当する転がり後摩耗の改善に対応する。