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特許7378463麦汁フレーバーが低減された低アルコールビール
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  • 特許-麦汁フレーバーが低減された低アルコールビール 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-02
(45)【発行日】2023-11-13
(54)【発明の名称】麦汁フレーバーが低減された低アルコールビール
(51)【国際特許分類】
   C12C 5/02 20060101AFI20231106BHJP
   A23L 2/00 20060101ALI20231106BHJP
   A23L 2/52 20060101ALI20231106BHJP
   C12C 12/04 20060101ALI20231106BHJP
【FI】
C12C5/02
A23L2/00 B
A23L2/52
C12C12/04
【請求項の数】 31
(21)【出願番号】P 2021512438
(86)(22)【出願日】2018-09-10
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-13
(86)【国際出願番号】 NL2018050587
(87)【国際公開番号】W WO2020055234
(87)【国際公開日】2020-03-19
【審査請求日】2021-09-09
(73)【特許権者】
【識別番号】591211799
【氏名又は名称】ハイネケン サプライ チェーン ベー.フェー.
【氏名又は名称原語表記】Heineken Supply Chain B.V.
【住所又は居所原語表記】Tweede Weteringplantsoen21 1017 ZD Amsterdam The Netherlands
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ブラウウェル, エリク リハルト
(72)【発明者】
【氏名】スミット, ヒルダ エルス
(72)【発明者】
【氏名】ドデレル, アルベルト
(72)【発明者】
【氏名】ベッケルス, アウフスティヌス コルネリウス アルデホンデ ペトルス アルベルト
【審査官】手島 理
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-517559(JP,A)
【文献】国際公開第2014/141544(WO,A1)
【文献】国際公開第2010/079643(WO,A1)
【文献】特開2016-131560(JP,A)
【文献】特開2016-127812(JP,A)
【文献】特開2015-112088(JP,A)
【文献】特開2003-250503(JP,A)
【文献】特表2017-535293(JP,A)
【文献】特表2016-524471(JP,A)
【文献】特表2016-515812(JP,A)
【文献】特表2014-525257(JP,A)
【文献】特表2013-524857(JP,A)
【文献】Identification Based on Quantitative Measurements and Aroma Recombination of the Character Impact Odorants in a Bavarian Pilsner-type Beer,J. Agric. Food Chem,2005年,Vol.53, No.19,pp.7544-7551,DOI:10.1016/jf051167k
【文献】Solid phase extraction, multidimensional gas chromatography mass spectrometry determination of four novel aroma powerful ethyl esters: Assessment of their occurrence and importance in wine and other alcoholic beverages,Journal of Chromatography A,2007年,Vol.1140, Nos.1-2,pp.180-188,DOI:10.1016/j.chroma.2006.11.036
【文献】鰐川 彰,ビールのオフフレーバー制御,日本醸造協会誌,2012年,Vol.107, No.8,pp.559-570,DOI:10.6013/jbrewsocjapan.107.559
【文献】KAIPAINEN A.,A study of the aroma profiles of non-alcohol beer by thermal desorption and GC-MS,Journal of High Resolution Chromatography,1992年,Vol.15, No.11,pp.751-755,DOI:10.1002/jhrc.1240151110
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12C
C12G
A23L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エタノール含有量が0~1.0体積%のビールであって、
10~1000μg/lの2-メチルペンタン酸エチル(EMP)を含む、ビール。
【請求項2】
請求項1に記載のビールにおいて、
EMPの量が、10~800μg/lである、ビール。
【請求項3】
請求項1に記載のビールにおいて、
EMPの量が、10~600μg/lである、ビール。
【請求項4】
請求項1に記載のビールにおいて、
EMPの量が、10~500μg/lである、ビール。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載のビールにおいて、
2-メチルプロパナール、2-メチルブタナール、3-メチルブタナール、3-メチルチオプロピオンアルデヒド、フェニルアセトアルデヒド、ヘキサナール、trans-2-ノネナール、ベンズアルデヒドおよびフルフラールの合計と定義されるアルデヒドの合計が、600μg/l未満である、ビール。
【請求項6】
請求項5に記載のビールにおいて、
アルデヒドの合計が、400μg/l未満である、ビール。
【請求項7】
請求項5に記載のビールにおいて、
アルデヒドの合計が、200μg/l未満である、ビール。
【請求項8】
請求項5に記載のビールにおいて、
アルデヒドの合計が、80μg/l未満である、ビール。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか一項に記載のビールにおいて、
2-メチルプロパナール、2-メチルブタナール、3-メチルブタナール、3-メチルチオプロピオンアルデヒド、およびフェニルアセトアルデヒドの合計と定義されるストレッカーアルデヒドの合計が、200μg/l未満である、ビール。
【請求項10】
請求項9に記載のビールにおいて、
ストレッカーアルデヒドの合計が、150μg/l未満である、ビール。
【請求項11】
請求項9に記載のビールにおいて、
ストレッカーアルデヒドの合計が、100μg/l未満である、ビール。
【請求項12】
請求項9に記載のビールにおいて、
ストレッカーアルデヒドの合計が、50μg/l未満である、ビール。
【請求項13】
請求項1から12のいずれか一項に記載のビールにおいて、
グルコース、フルクトース、スクロース、マルトース、およびマルトトリオースの合計と定義される全糖含有量が、少なくとも0.2g/100mlである、ビール。
【請求項14】
請求項13に記載のビールにおいて、
全糖含有量が、0.5~2.0g/100mlである、ビール。
【請求項15】
請求項1から14のいずれか一項に記載のビールにおいて、
糖含有量が、少なくとも50重量%のマルトースを含む、ビール。
【請求項16】
請求項1から15のいずれか一項に記載のビールにおいて、
1~20μg/lのプロパン酸エチル、および/または0.05~30mg/lの酢酸エチルをさらに含む、ビール。
【請求項17】
請求項16に記載のビールにおいて、
1.5~5μg/lのプロパン酸エチルを含む、ビール。
【請求項18】
請求項16または17に記載のビールにおいて、
0.1~15mg/lの酢酸エチルを含む、ビール。
【請求項19】
アルコール含有量が0~1.0体積%のビールを調製する方法であって、
ゼロまたは低アルコールビールを、10~1000μg/lの2-メチルペンタン酸エチルと組み合わせるステップを含む、方法。
【請求項20】
請求項19に記載の方法において、
2-メチルペンタン酸エチルと組み合わせるステップが、2-メチルペンタン酸エチルを含むフレーバリング剤と組み合わせることによって実現される、方法。
【請求項21】
請求項20に記載の方法において、
前記フレーバリング剤が、2-メチルペンタン酸エチルを含むフレーバーミックスである、方法。
【請求項22】
請求項20に記載の方法において、
前記フレーバリング剤が、レギュラービールである、方法。
【請求項23】
請求項22に記載の方法において、
前記フレーバリング剤が、レギュラーラガービールである、方法。
【請求項24】
請求項22または23に記載の方法において、
制限発酵ビールをレギュラービールと混合するステップを含む、方法。
【請求項25】
請求項24に記載の方法において、
制限発酵ビールが、低温接触発酵ビールである、方法。
【請求項26】
請求項24または25に記載の方法において、
レギュラービールが、ラガービールである、方法。
【請求項27】
請求項24から26のいずれか一項に記載の方法において、
前記制限発酵ビールおよび前記レギュラービールが、1:99~99:1の体積比で混合される、方法。
【請求項28】
請求項27に記載の方法において、
前記制限発酵ビールおよび前記レギュラービールが、5:95~50:50の体積比で混合される、方法。
【請求項29】
請求項24から28のいずれか一項に記載の方法において、
前記混合するステップの後に、真空蒸留、および場合によって2-メチルペンタン酸エチルのさらなる添加を行う、方法。
【請求項30】
麦汁フレーバーをマスキングするため、および/または爽快なフレーバーを付与するための、2-メチルペンタン酸エチルの使用であって、2-メチルペンタン酸エチルが、ビール中で10~1000μg/lの濃度で用いられる、使用
【請求項31】
2-メチルペンタン酸エチルを含む、麦汁フレーバーをマスキングするための、および/または爽快なフレーバーを付与するための剤であって、2-メチルペンタン酸エチルが、ビール中で10~1000μg/lの濃度で用いられる、剤
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、麦汁の味をマスキングする特に良好な特性をもつエステルに関するものであり、これはビールの味に寄与する重要なものであることが見出された。
【背景技術】
【0002】
ビールは、世界中で最も人気のあるアルコール飲料の1つである。ビールは、糖をエタノール(「アルコール」)に変換する酵母を使用して、穀類に由来する糖含有水性マトリックスの発酵によって調製される。ビールの生成プロセスは一般的に知られている。ビールは、通常は大麦などの穀物から作製されるが、小麦またはモロコシなどの他の穀物のタイプも使用することができる。ビールは、通常は次の基本的ステップを含むプロセスによって生成される:穀類と水の混合物をマッシングして、マッシュを生成するステップ;マッシュを麦汁とビール粕に分離するステップ;麦汁を煮沸して、煮沸した麦汁を生成するステップ;煮沸した麦汁を生酵母(Saccharomyces pastorianusまたはSaccharomyces cerevisiaeなど)で発酵させて、発酵した麦汁を生成するステップ;発酵した麦汁を1つまたは複数の別のプロセスステップ(例えば、成熟および濾過)にかけて、ビールを生成するステップ;およびビールを密封容器、例えば瓶、缶または樽にパッケージングするステップ。
【0003】
大麦モルトビールを生成する例示的なプロセスにおいて、大麦を製麦する。それは、大麦を発芽させ、続いて乾燥(「焙燥」)して、モルトを生成することを意味する。このプロセスは、味および色化合物の形成、ならびに別のフレーバー発生およびデンプン分解にとって重要である酵素の形成にとって重要である。続いて、モルトを製粉し、水に懸濁する(「マッシング」)。マッシュを加熱して、デンプン分解を促進する。続いて、濾過により、麦汁が得られ、発酵性糖のほぼ清澄な水性溶液であり、様々なフレーバーおよびアロマならびに他の多くの化合物も含有する。麦汁中に、望ましい味およびアロマ化合物と望ましくない味およびアロマ化合物が両方存在する。過度な「麦汁」フレーバーは、過剰なアルデヒドの存在に由来するものであるが、一般に望ましくないとみなされる。
【0004】
麦汁を煮沸して、滅菌し、タンパク質を沈殿させ、濃縮する。場合によって、ホップを添加し、苦味およびフレーバーを加える。この混合物を、沈殿物の除去後に発酵にかける。発酵によって、発酵性糖をエタノールおよび二酸化炭素に変換し、様々な新規フレーバー化合物の形成も起こる。それらのフレーバー化合物のうちには、エステルがある。同時に、ビールの発酵により、大部分のアルデヒドを除去し、それにより、得られたビールの麦汁フレーバーを防止する。外観および味を最適化するために、発酵後にビールを濾過および/または貯蔵することができる。
【0005】
ビールのアルコール含有量に関連した健康についての懸念および交通安全に対する認識の深まりは、アルコール含有量が低いまたはさらにはゼロのビールに対する関心を急上昇させた。現時点では、アルコール含有量が低いまたはゼロのビールの調製には、主に2つの技法がある:レギュラー(アルコール含有)ビールの脱アルコール、および適合発酵によってアルコール形成を制限するプロセスによるビールの調製(「制限アルコール発酵」)。
【0006】
ビールの脱アルコールは、通常の醸造ビールに対して行われ、エタノールを除去するが他のフレーバー成分をできる限り除去しないように設計されている。脱アルコールは、例えばレギュラービールの精留、逆浸透または分離(dialysis)によって行うことができる。しかし、ビールの脱アルコール時におけるフレーバーの喪失を防止することは困難である。その結果、脱アルコールビールの欠点は単調なフレーバーであるが、これはフレーバー(味および香り)化合物の添加により是正して許容できるビールを得ることができる。しかし、フレーバーは、多くの種類の化合物が一緒にフレーバーを付与する役割を果たしているために複雑であるので、脱アルコール、続いてフレーバー付与を行ったビールは、一般的に味がレギュラービールの味より好ましくないと考えられる。
【0007】
低またはゼロアルコールビールは、制限アルコール発酵により調製することもできる。制限アルコール発酵は、エタノール形成がほとんどまたは全くない(または少なくとも、完全発酵プロセスによって、正味のアルコール形成がほとんどまたは全く行われない)条件下で、麦汁を発酵させるプロセスである。
【0008】
重要な1つのプロセスは、低温接触発酵である。麦汁を低温で発酵させると、酵母はわずかなアルコールを産生するだけである。この場合、エステルなどいくつかのフレーバー成分は産生されるが、各エステルの量は通例の発酵から得られる量と異なることがあるに。したがって、フレーバーおよびアロマの添加によるフレーバー調整は、一般に制限発酵ビールにとっても必要である。そのようなビールは、一般に味もレギュラービールより好ましくないとみなされる。
【0009】
したがって、既存の低またはゼロアルコールビールは、一般に飲用としての適性の欠如という難点がある。大半の人は、通常のアルコール含有ビールの飲用とは対照的に、わずかグラス1または2杯を飲用した後に味に対して飽和状態となる。味に対する飽和状態およびその結果として生じる飲用としての適性の欠如は、一般に、アルデヒドレベルが高いために過度に強烈な麦汁フレーバーによって引き起こされる強すぎるフレーバー、および高すぎる甘味によって引き起こされる。本発明は、これらの欠点を克服するビールを提供する。
【発明の概要】
【0010】
本発明は、エタノール含有量が0~1.0体積%のビールであって、少なくとも0.001μg/lの2-メチルペンタン酸エチル(EMP)を含む、ビールを開示する。EMPは、ビールフレーバーに寄与する重要なものであることが見出された。EMPは、麦汁フレーバーをマスキングする際に効果的であり、それによって麦汁フレーバーを抑制する。これは、特にゼロまたは低アルコールビールにおいて重要である。その理由は、そのようなビールは、一般に、通常の醸造ビールに比べてアルデヒドの存在が増加していることによる麦汁フレーバーという難点があるからである。さらに、ビールは、一般に濃厚感が少なく、より爽快であるとみなされる。このような理由で、本ビールは、既存の市販のゼロアルコールビールより飲用に適したものとみなされる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】フレーバー属性についての認知強度の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本文脈において、ビールは、広義の意味で理解されるものとし、すなわち、ビールは、いかなるタイプのビールも指してよく、エール、ポーター、スタウト、ラガーおよびボックビールが挙げられるが、これらに限定されない。ビールは、好ましくはモルトベースのビールであり、すなわち、(とりわけ)モルトから調製された麦汁の発酵により調製されるビールである。好ましくは、ビールはラガービールであり、下面発酵酵母を使用して7~15℃で発酵させ、その後低温で貯蔵による熟成を行うことによって得られるビールである。ラガービールとしては、例えばピルスナーが挙げられる。最も好ましくは、本明細書に記載されるビールはピルスナーである。ピルスナーは、ペールラガービールである。本発明の目的は、レギュラービールの味および飲用としての適性を有するゼロまたは低アルコールビールを提供することである。
【0013】
本文において、「ゼロまたは低アルコールビール」は、エタノール含有量が1.0体積%(「ABV」)以下、好ましくは0.5体積%以下、より好ましくは0.2体積%以下であるビールである。そのようなビールは、NAビールとも呼ばれる。したがって、NAビールは、エタノール含有量が0~1.0体積%、例えば好ましくは0~0.5体積%であるビールである。
【0014】
本発明は、エタノール含有量が0~1.0体積%、好ましくは0~0.5体積%のNAビールであって、少なくとも0.001μg/lの2-メチルペンタン酸エチル(EMP)を含む、NAビールを開示する。NAビールは、一般に知られている方法によって得ることができる。
【0015】
本明細書に定義されるNAビールを得る一つの方法は、通常の醸造ビールを例えば精留ステップ、逆浸透ステップ、分離(dialysis)ステップまたは凍結濃縮ステップなどの脱アルコールステップにかけて、エタノールを発酵ビールから除去することである。これらの技法は、例えばBranyikら、J. Food. Eng. 108 (2012) 493-506、またはMangindaanら、Trends in Food Science&Technology 71 (2018) 36-45に記載されている。
【0016】
レギュラービールの脱アルコールにより、本明細書で定義するNAビールの1つのタイプである脱アルコールビールが得られる。本文脈においてレギュラービールは、エタノール含有量が1~15体積%、好ましくは3~9体積%である通常の醸造ビールである。好ましくは、レギュラービールはレギュラーラガービールである。当業者は、レギュラービールを例えばThe Brewers Handbook (第2版) of Ted Goldammer(2008、Apex publishers社)に記載されている方法によって得ることができ、そのレギュラービールのうちには、レギュラーラガービールがある。あるいは、レギュラービールを商業的に得ることができる。今回、レギュラービールは本来EMPを含むことがわかったが、これは通常の(非制限)条件下で発酵時に形成するものである。
【0017】
レギュラービールの脱アルコールによって、低量のエタノールを有するビールが得られるが、ビールのフレーバーを担う多くのエステルおよび他の化合物も除去される。そのようなビールは、フレーバーを脱アルコールビールに付与するために、消費する前にフレーバリング剤でフレーバーを付与することができる。そのようなフレーバリング剤は、EMPのビールフレーバリング剤中の成分としての重要性はこれまで認識されていないので、EMPを含まなかった。
【0018】
本文脈において、脱アルコールビールは、NAビールの好ましいタイプである。さらに好ましくは、本文脈において、NAビールは、精留により得られる脱アルコールビールである。
【0019】
NAビールを得る別の方法は、ビールを制限発酵プロセスによって作製し、制限発酵ビールを得ることである。制限発酵ビールは、本明細書に定義されるNAビールの別のタイプである。
【0020】
制限発酵ビールは、麦汁の制限エタノール発酵によって得られた発酵ビールと定義される。麦汁の制限エタノール発酵は、著しい正味のエタノール形成をもたらさない発酵であり、すなわち、本明細書に定義される制限発酵は、1体積%以下、好ましくは0.5体積%以下、より好ましくは0.2体積%以下のエタノールを生じる。したがって、制限発酵ビールは、エタノール含有量が1.0体積%以下、好ましくは0.5体積%以下、より好ましくは0.2体積%以下である。
【0021】
麦汁の制限発酵は、発酵から直接に得られた産物のエタノール含有量が1.0体積%以下、好ましくは0.5体積%以下、より好ましくは0.2体積%以下であるプロセスである。当業者は、著しい正味のエタノール形成をもたらさない様々な制限発酵技法を認識している。例としては、下記を特徴とする麦汁の制限エタノール発酵である。
・7℃未満、好ましくは-1~4℃、例えば-0.5~2.5℃の温度で、好ましくは8~72時間、より好ましくは12~48時間(「低温接触発酵ビール」);および/または
・短い(例えば、2時間未満)発酵時間、その発酵が温度不活性化、例えば-0.5~1℃への急速冷却、場合によってその後引き続いて殺菌によって急速に止まる(「停止発酵ビール」);および/または
・適用された発酵条件下で比較的低量のエタノールを産生する酵母株、例えば麦汁において発酵性糖1グラム当たりエタノール0.2g未満、好ましくは発酵性糖1グラム当たりエタノール0.1g未満を産生する酵母株、による発酵。好適な株(例えば、クラブトリー陰性株)は、当技術分野において既知であり、変動する発酵条件下で産生されるエタノールの量は、ルーチンの実験により決定することができる(「酵母制限ビール」);および/または
・第1のエタノール産生酵母株を使用し、Saccharomyces rouxiiなどエタノールを消費する第2の酵母株が、第1の酵母株によって産生されるエタノールの実質的にすべてを消費するのに十分な量で存在する下での発酵;および/または
・発酵性糖の含有量がその発酵完了後に最大1.0体積%のアルコールを産生するような麦汁。この場合、麦汁は、一般に発酵性糖の含有量が17.5g/l未満、好ましくは12g/l未満、より好ましくは8g/l未満である(「糖不足麦汁ビール」)。
【0022】
制限発酵ビールは、1.0体積%以下、好ましくは0.5体積%以下、より好ましくは0.2体積%以下の前記エタノール含有量を達成する脱アルコールステップにはかけられていない。当業者は、発酵ビールの脱アルコールに適した様々な技法を知っているが、これらの技法はいずれも前記エタノール含有量を達成するために適用されてはいない。しかし、本文脈において制限発酵ビールを任意で脱アルコールステップにかけて、発酵から得られるエタノール含有量を前記1.0体積%以下、好ましくは0.5体積%、より好ましくは0.2体積%以下からさらに低減されたエタノール含有量に低減することができる。しかし、好ましくは本明細書に定義される制限発酵ビールは脱アルコールステップに全くかけられていない。
【0023】
制限発酵ビールのエタノール含有量を以上に定義した1.0体積%以下からさらに低量のエタノールへとさらに低減する脱アルコールステップは、当技術分野において周知である。これは、例としてMangindaanらおよびBranyikらを参照して以上に記載している。
【0024】
本文脈において制限発酵ビールは、好ましくは糖不足麦汁ビール、酵母制限ビール、停止発酵ビール、または低温接触発酵ビールである。一実施形態において、制限発酵ビールは、糖不足麦汁ビールである。別の実施形態において、制限発酵ビールは、酵母制限ビールである。さらに別の実施形態において、制限発酵ビールは、停止発酵ビールである。さらに別の実施形態において、制限発酵ビールは、低温接触発酵ビールである。好ましい実施形態において、制限発酵ビールは、低温接触発酵ビールである。これは、低温接触発酵ビールが制限発酵ビールの他のタイプより比較的高量の麦汁フレーバーを含むからである(以上に引用したBranyikらを参照のこと)。
【0025】
低温接触発酵は、当技術分野において周知であり、当業者は、当技術分野において既知であるまたは本明細書に開示されているいかなる手段によっても低温接触発酵ビールを得ることができる。低温接触発酵ビールを得るための例示的な方法は、例えば以上に引用したBranyikらに記載されている。あるいは、低温接触発酵ビールを商品として得ることができる。
【0026】
制限発酵によって、いくつかのエステル化合物を形成することができるが、エステルの量およびタイプは、通常の醸造ビール中に見られるエステルミックスと異なる。このような理由で、味は好ましくなく、この味は、所望のフレーバーを付与するのに好適なフレーバリング剤を補給することによって調整される。今回、制限発酵はEMPの著しい形成をもたらさないことが見出された。
【0027】
EMPは、ビールフレーバーを付与するのに重要である、通常の醸造ビール中の成分であることが見出された。この成分は、制限発酵プロセス(そのうちには、低温接触プロセスがある)における形成が低いため、および/または脱アルコール後に存在する量が低減するため、既知のゼロまたは低アルコールビール中に存在する量は著しく低い。
【0028】
EMPの重要な機能は、麦汁フレーバーのマスキングである。EMPは、フルーティなリンゴ様フレーバーをさらに付与し、レギュラービールに伴う爽快さをもたらす。このような理由で、NAビール中のEMPの量を例えば少なくとも0.001μg/l(「ppb」)に高めるのが有益であることが見出された。その結果、本発明は、麦汁フレーバーをマスキングするため、および/または爽快なフレーバーを付与するための、2-メチルペンタン酸エチルの使用をさらに開示する。
【0029】
NAビール中のEMP量は、好ましくは少なくとも0.004μg/l、より好ましくは少なくとも0.01μg/l、さらにより好ましくは少なくとも0.1μg/lである。EMPの好ましい量としては、0.1~1000μg/l、好ましくは1~800μg/l、より好ましくは10~500μg/lが挙げられる。好ましい実施形態において、EMPの量は50~600μg/lである。
【0030】
EMPの重要な効果は、NAビール、特に低温接触発酵ビール中に通常存在する麦汁フレーバーをマスキングすることである。それでもなお、ビールが比較的低いアルデヒド量を含むことが好ましい。好ましい実施形態において、2-メチルプロパナール、2-メチルブタナール、3-メチルブタナール、3-メチルチオプロピオンアルデヒド、フェニルアセトアルデヒド、ヘキサナール、trans-2-ノネナール、ベンズアルデヒドおよびフルフラールの合計と定義される、ビール中のアルデヒドの合計は、600μg/l未満、好ましくは400μg/l未満、より好ましくは200μg/l未満、最も好ましくは80μg/l未満である。さらに好ましい実施形態において、(2-メチルプロパナール、2-メチルブタナール、3-メチルブタナール、3-メチルチオプロピオンアルデヒド、およびフェニルアセトアルデヒドの合計と定義される)ストレッカーアルデヒドの合計は、200μg/l未満、好ましくは150μg/l未満、より好ましくは100μg/l未満、最も好ましくは50μg/l未満である。これらのアルデヒド量を含むNAビール中のEMP量は、少なくとも0.001μg/l、好ましくは少なくとも0.004μg/l、より好ましくは少なくとも0.01μg/l、さらにより好ましくは少なくとも0.1μg/lであり、例えば0.1~1000μg/l、好ましくは1~800μg/l、より好ましくは10~500μg/lなどである。好ましい実施形態において、EMPの量は50~600μg/lである。より高量のアルデヒドが存在すると、EMP量もより高いことが好ましい。
【0031】
ゼロまたは低アルコールビールがあまり甘くない場合、これによって飲用としての適性が改善されるので好ましい。グルコース、フルクトース、スクロース、マルトース、およびマルトトリオースの合計と定義される、得られたNAビールの全糖含有量は、好ましくは少なくとも0.2g/100mlである。全糖含有量が、多くとも3g/100ml、好ましくは多くとも2g/100mlなど比較的低いことが好ましい。好ましい実施形態において、全糖含有量は、0.5~2.0g/100ml、好ましくは1.2~2.0g/100mlである。
【0032】
得られたビールは、好ましくは少なくとも0.2g/100mlのマルトトリオースを含む。ビールは、さらに好ましくは少なくとも0.05g/100mlのグルコースおよび/または少なくとも0.05g/100mlのフルクトースを含む。得られたビールの全糖含有量が、50~100重量%、好ましくは50~80重量%、より好ましくは50~65重量%のマルトースを含む場合さらに好ましい。最終ビールのマルトース含有量は、好ましくは少なくとも0.5g/100mlである。
【0033】
本方法で得られる好ましいビールは、20~250mg/l、好ましくは50~200mg/l、より好ましくは75~150mg/lの遊離アミノ窒素(FAN)をさらに含む。本明細書で用いられる遊離アミノ窒素は、NOPA法により検出される、遊離アミノ化合物の全量を指す。この方法によって、遊離アミノ酸、小ペプチドおよびアンモニアなどの第一級アミノ化合物の定量が行われる。記載されたFAN量は、最終ビールの味および色の重要な側面である。
【0034】
本方法で得られる好ましいビールは、5mg/l未満、好ましくは3mg/l未満のアセトアルデヒドをさらに含む。これは、得られたビールのフレーバープロファイルにとって重要である。
【0035】
好ましくは、本発明のビールは、1~20μg/l、好ましくは1.5~5μg/lの、味を付与するのに重要であるプロパン酸エチルも含む。さらに好ましくは、本発明のビールは、0.05~30mg/lの酢酸エチル、好ましくは0.1~15mg/lの酢酸エチルを含む。これも、味を付与する上で重要である。さらに好ましくは、蒸留により得られたビールは、酢酸イソアミルを0.05~7.5mg/l、好ましくは0.08~4.5mg/l、より好ましくは0.1~1mg/lの量で含む。
【0036】
本ビールの利点としては、フレーバー特性の改善が挙げられ、それらのうちには、甘味の低減および麦汁フレーバーの低減がある。これによって、とりわけフレーバーが強すぎない。本ビールは、甘味が低く、アルデヒドレベルはこの低下した甘さに対しても好ましい。この結果、甘味および味の強度が低く、ビールは麦汁感が認められず、消費者は、わずか数杯のビールを飲用した後に味に対する飽和状態にならない。さらに、ビールは、一般に濃厚感が少なく、より爽快であるとみなされる。したがって、本発明のビールは、既存のゼロアルコールビールより飲用に適している。
【0037】
本発明は、アルコール含有量が0~1.0体積%、好ましくは0~0.5体積%のビールを調製する方法であって、以上に定義したゼロまたは低アルコールビールを2-メチルペンタン酸エチルと組み合わせるステップを含む、方法をさらに開示する。一実施形態において、EMPをフレーバリング剤として添加することによってNAビールと組み合わせることができる。そのような実施形態において、EMPは、商品として得ることができ、および/または通常の醸造ビールからの単離など天然源からの単離によって得ることができる。したがって、好ましい実施形態において、2-メチルペンタン酸エチルと組み合わせるステップは、2-メチルペンタン酸エチルを含むフレーバリング剤と組み合わせることによって実現される。
【0038】
一実施形態において、フレーバリング剤は、2-メチルペンタン酸エチルを含むフレーバリング剤である。この実施形態において、フレーバリング剤は、最終ビール中において特定の量のエステルを達成するように設計されたフレーバーミックスを含むことができる。フレーバリング剤は、(有機)酸、ジアルデヒド、高級アルコール、塩など他のフレーバー化合物およびアロマも含むことができる。
【0039】
他の実施形態において、フレーバリング剤は、レギュラービール、好ましくはレギュラーラガービール、最も好ましくはピルスナーとすることができる。レギュラービールをフレーバリング剤として使用する利点は、レギュラービールが、ビール消費者によって自然と認知されるフレーバーおよびアロマのミックスを含み、レギュラービール様フレーバーおよびアロマプロファイルを有するNAビールをもたらすことである。
【0040】
一部の実施形態において、レギュラービールフレーバリング剤は、濃縮によってレギュラービールから抽出されるフレーバリング剤とすることができ、例えば、アルコールおよび/または水を部分的または完全除去し、固体または液体の形をとり得るレギュラービール濃縮物を得る。そのようなビール濃縮物を得るのに適した技法については、当業者は、当業者の共通一般知識を使用して好適なビール濃縮物を得るための無数の方式を考え得るが、例えば凍結乾燥および凍結濃縮である。
【0041】
一実施形態において、フレーバリング剤は、レギュラービール、好ましくはレギュラーラガービールである。好ましくは、この実施形態において、本方法は、制限発酵ビール、好ましくは低温接触発酵ビールをレギュラービール、好ましくはレギュラーラガービールと混合するステップを含む。制限発酵ビールおよびレギュラービールは、1:99~99:1、好ましくは5:95~50:50の体積比で混合されることが好ましい。
【0042】
一部の実施形態において、混合ステップの次に、制限発酵ビールに由来する過剰なアルデヒドを除去するなどのために真空蒸留を行う。そのような実施形態において、所望のフレーバープロファイルを達成するために前記蒸留ステップ後に、さらなるフレーバリング剤、例えば以上に定義したフレーバーミックスを含むフレーバリング剤を添加することは利点でありうる。
【0043】
明確性および簡潔な説明のために、本明細書においては同じまたは別個の実施形態の一部として構成を記載しているが、本発明の範囲は、記載されている構成のすべてまたは一部の組合せを有する実施形態を含むことができると認識されている。
【0044】
次に、本発明を以下に示す非限定的な実施例によってさらに説明する。
【0045】
方法
オンファイバー誘導体化固相ミクロ抽出およびガスクロマトグラフィー-質量分析を使用したビール中のアルデヒドの決定
試料調製
CO雰囲気下で、30.0gのビール試料を40mlのバイアルに秤量した。50μlの気密注射器を用いて、30μlの内部標準溶液を各試料に添加した。次に、やはりCO条件下で、10mlのヘッドスペースバイアル2本に4.0gの試料を充填した。こうして、ビール試料を2回繰り返して分析する。
【0046】
誘導体化手順
約200mg/lの脱イオン水中O-(2,3,4,5,6-ペンタフルオロベンジル)-ヒドロキシルアミン(PFBHA)保存液を調製した。20mlの標準透明ガラスクリンプキャップ付きヘッドスペースバイアルに14gのPFBHA溶液を充填した。次に、SPMEファイバー(Supelco社)を、30℃で誘導体化バイアルのヘッドスペースに10分間入れて、SPMEファイバーのPDMS/DVB相に誘導体化試剤を充満させた。次いで、PFBHAを充満させたSPMEファイバーをビール試料のヘッドスペースに入れ(10mlのバイアル中4.0g、CO雰囲気下で充填)、目的のアルデヒドのPFBHA-誘導体を得た。抽出条件は30℃で30分を選択した。
【0047】
GC条件
この方法には、スプリット/スプリットレス注入口を装備したAgilent 7890Aガスクロマトグラフを使用した。30m×0.25mm×0.25μmのVF17MSカラム(Agilent社)を用いて、PFBHA/アルデヒド化合物の最適な分離を達成した。共溶離する化合物もあるが、これらの場合、MSの選択によって、クロマトグラフ分離の必要性を回避することができた。例えば、trans-2-ノネナール、フェニル-アセトアルデヒドおよびデカナールはすべて共溶離するが、質量分析計は、各化合物の選択的イオンを標的とする。
【0048】
1ml/分のヘリウムをキャリヤーガスとして使用する。スプリット比5を使用して、ピーク幅および感度を最適化する。オーブンは、50℃(2分間)、10℃/分で230℃に昇温、次に30℃/分で290℃に昇温(2分間保持)としてプログラムを組んだ。
【0049】
MS条件
Agilent 5975C MSDを負化学イオン化(NCI)用に設定した。
【0050】
この方法で標的とされるすべてのアルデヒドについて、適したイオンフラグメントを選択した。多くの場合、最も大量に存在するフラグメントよりも化合物特異的フラグメントを選択した。これによって、目的の標的化合物が選択的に決定される。多くの場合、分子イオンMw-m/z 20(H-Fの消失)が最も適している。
【0051】
大部分のPFBHA-アルデヒド化合物は2本のピーク(syn-およびanti-)を持つので、ピーク面積を合計する。Heinekenビールへの標準添加に基づいて適切な較正曲線を準備することによって、すべてのアルデヒド化合物の定量が可能であった。
【0052】
スターバー抽出およびガスクロマトグラフィー-質量分析を使用する、ビール中のエステルおよびアルコール化合物の決定
分析物の濃度範囲が広いために、試料を異なるGC-MS法、すなわち高濃度化合物を決定するためのGC-MS法および低濃度化合物を決定するためのGC-MS法で2回分析しなければならない。2つの方法の違いは、質量選択検出器の操作モードである。高濃度方法を使用して、酢酸イソアミルを決定し、低濃度方法を使用して、酢酸エチルを決定した。
【0053】
試料調製
30.0gのビール試料を40mlのバイアルに秤量することを2回繰り返した。50μlの気密注射器を用いて、30μlの内部標準溶液を各試料に添加した。次に、異物が混じっていない予め状態調節したツイスターを各試料に添加した。60ポジションのスタープレートを使用して、試料を抽出した。抽出時間は1時間である。光誘導化合物の形成を防止するために、試料を光から保護する。
【0054】
計器条件
Agilent 7890BガスクロマトグラフをAgilent 5977A MSDに接続する。試料導入は、TDU-2熱的脱離ユニットおよびCIS-4制御温度注入口(両方ともGerstel社製)と組み合わせたGerstel MPS2-XTロボットによって行われる。主キャピラリーカラムは、50m×0.25mm×0.25μmのDB-5MS UIである。1.5ml/分のヘリウムをキャリヤーガスに使用する。ツイスターの熱的脱離は、溶媒ベントモードで行い、-20℃で溶離液をテナックス充填ライナー上に捕捉した。加熱ステップ時に、インジェクタを、高濃度方法ではスプリット比100:1に、低濃度方法ではスプリット比6:1に切り換えた。オーブンは、40℃(2分間)、10℃/分で280℃に昇温(1分間保持)としてプログラムを組んだ。MSDを、高濃度方法において走査モード(33~300m/z)に設定し、低濃度方法にはシングルイオンモードで設定する。
【0055】
較正曲線(好適なマトリックスビールへの標準添加)を用意することによって、すべての化合物の定量が可能になった。較正はすべて、アルコール含有飲料と0.0%アルコール含有飲料で行う。
【0056】
麦汁、ビール、シードル中の糖含有量の決定
糖含有量を超高性能液体クロマトグラフィー(UPLC)で測定した。UPLCを、好適には65℃の温度で実施することができる。溶離液の好適な選択は、アセトニトリル/水の例えば体積比75/25の混合物である。使用した検出器は、典型的には屈折率(RI)検出器である。試料の糖含有量は、試料のUPLC曲線を糖濃度が既知である標準試料の較正曲線と比較することによって決定した。
【0057】
UPLC用の試料を以下の通り調製した。ビールまたは麦汁の試料を、アセトニトリル/水の混合物(50/50-等体積部)の添加により5倍に希釈した。COが存在する場合、希釈より前に(例えば、試料を振盪または撹拌することによって)除去した。希釈した後、試料を濾過して、清澄な溶液を得た。上述の溶離液を使用して、濾過した試料を65℃でUPLCに注入した。
【0058】
遊離アミノ窒素(FAN)の決定
遊離アミノ窒素の量を、O-フタルジアルデヒドアッセイによる窒素(NOPA)法に従って測定した。測光分析計(例えば、Gallery(商標) Plus Photometric Analyzer)を使用して、NOPA法を実施した。NOPA法に従って、試験試料をオルト-フタルジアルデヒド(OPA)およびN-アセチルシステイン(NAC)による処理にかける。この処理によって、イソインドールの形成下で試験試料中に存在する第一級アミノ基の誘導体化が行われる。イソインドールの含有量は、続いて測光分析計を使用して340nmの波長で決定される。次いで、遊離アミノ窒素(mg FAN/lで表す)をイソインドール含有量の測定値に基づいて算出することができる。必要であれば、ビールまたは麦汁試料を、分析前にまず遠心にかけて、試料を清澄化し、かつ/または(例えば、試料を撹拌または振盪することによる)CO除去ステップにかける。
【0059】
ビール中のエタノールの決定
測光分析計(例えば、Gallery(商標) Plus Photometric Analyzer)を使用して、エタノール含有量を測定した。試験試料を酵素法にかけ、試料中に存在するエタノールを、アルコールデヒドロゲナーゼ(ADH)でアセトアルデヒドに変換する。アセトアルデヒド含有量は、続いて測光分析計を使用して340nmの波長で決定される。エタノール含有量は、アセトアルデヒド含有量に基づいて算出することができる。必要であれば、ビールまたは麦汁試料を、分析前にまず遠心にかけて、試料を清澄化し、かつ/または(例えば、撹拌または振盪による)CO除去ステップにかける。
【実施例1】
【0060】
麦汁フレーバーマスキング剤として、また爽快なフルーティビールフレーバーを付与するものとしての2-メチルペンタン酸エチルの効果
ゼロアルコールビールを精留により調製した。得られたブランクビールは、エステルなどのフレーバーが比較的低かった。ブランクビールに、2-メチルペンタン酸エチル(EMP)をフレーバリング剤として50ppbで添加した。ブランクビールと強化ビールの間にさらなる違いはなかった。ブランクビールとEMP強化ビールの間の官能的な違いが、17名の訓練済み官能パネルによって示された。官能パネルは、2種のビール間に異なるフレーバー属性を示した。フレーバー属性のより高い存在感を指摘したパネリストの数を表1に示す。
【0061】
結果から、EMPは特に強力な麦汁フレーバーマスキング効果を示すことがわかる。(アルデヒドに由来する)麦汁フレーバーは、17名のパネリストのうちの16名によってブランクビールにより大量にあるとみなされた。50μg/lのEMPで強化されたブランクビールでは、麦汁フレーバーが抑制された。したがって、50μg/lのEMPは、麦汁フレーバーを強力に抑制する。
【0062】
さらに、EMPの存在により、酸のようなフルーティおよびシトラスフレーバーが付与される。したがって、強化ビールはより爽快であるとみなされる。
【0063】
【表1】

【実施例2】
【0064】
麦汁フレーバーマスキング剤として、またフルフレーバービールにおける爽快なフルーティビールフレーバーを付与するものとしての2-メチルペンタン酸エチルの効果
レギュラービールおよび低温接触発酵ビールの混合物の真空蒸留によって得られ、EMPを含んでいないフレーバーミックスを使用してビールの味を付与するようにフルフレーバー付与されたゼロアルコールビールを、EMPを増加させて強化した(1、50、250、500および1000ppbのEMP)。17名の訓練済み味の専門家からなる味パネルは、麦汁、フルーティさおよびリンゴフレーバーという3種のフレーバー属性について認知強度を点数化した。結果を図1に示す。
【0065】
結果から、ゼロまたは低アルコールビール中のEMP量を増加させると、ますます麦汁フレーバーノートがマスキングされ、フルーティフレーバーが増加することが示される。フレーバーミックスの内容において、EMPは、リンゴ様フレーバーを付与し、強力な爽快効果を付与する。
【実施例3】
【0066】
得られたビールと市販のゼロまたは低アルコールビールタイプとの比較
本方法を使用して得られたビールを、17名の訓練済みパネリストからなる味パネルにより、既存のゼロアルコールビールと比較した。ビールを、甘味、麦汁フレーバーおよび全フレーバー強度、ならびに他のフレーバーノートを含めて、特異的なフレーバー属性について評価した。各属性について、認知された強度をラインスケールで示した。パネリストは全員、すべてのビールをすべての属性について評価し、その結果を平均した。結果を表2に示す。
【0067】
本方法で得られるビールは、市販のゼロアルコールビールより、麦汁フレーバーが低く、甘味が低い。したがって、味が強すぎないので、ほんの数杯のビールで、消費者が味に対して飽和状態になる可能性は低下する。さらに、ビールは、一般に濃厚感が少なく、より爽快であるとみなされる。このような理由で、本ビールは、既存の市販のゼロアルコールビールより飲用に適したものとみなされる。
【0068】
【表2】


図1