(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-02
(45)【発行日】2023-11-13
(54)【発明の名称】負極材料、電気化学装置及び電子装置
(51)【国際特許分類】
H01M 4/38 20060101AFI20231106BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20231106BHJP
H01M 4/48 20100101ALI20231106BHJP
H01M 4/587 20100101ALI20231106BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20231106BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20231106BHJP
H01M 10/0569 20100101ALI20231106BHJP
H01M 10/0567 20100101ALI20231106BHJP
【FI】
H01M4/38 Z
H01M4/36 C
H01M4/36 A
H01M4/48
H01M4/587
H01M4/62 Z
H01M10/052
H01M10/0569
H01M10/0567
(21)【出願番号】P 2021539132
(86)(22)【出願日】2020-12-28
(86)【国際出願番号】 CN2020140341
(87)【国際公開番号】W WO2022140963
(87)【国際公開日】2022-07-07
【審査請求日】2021-07-05
(73)【特許権者】
【識別番号】513054978
【氏名又は名称】寧徳新能源科技有限公司
【氏名又は名称原語表記】Ningde Amperex Technology Limited
【住所又は居所原語表記】No.1 Xingang Road, Zhangwan Town, Jiaocheng District, Ningde City, Fujian Province, 352100, People’s Republic of China
(74)【代理人】
【識別番号】100166338
【氏名又は名称】関口 正夫
(72)【発明者】
【氏名】易 ▲ティン▼
【審査官】梅野 太朗
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/002356(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第111029543(CN,A)
【文献】特開2007-294432(JP,A)
【文献】国際公開第2018/155609(WO,A1)
【文献】特開2015-164139(JP,A)
【文献】特開2015-167145(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M4/00-4/62
H01M10/052、10/0566
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケイ素系材料、又はケイ素系材料及び黒鉛を含む負極材料であって、
前記ケイ素系材料はケイ素酸素材料と前記ケイ素酸素材料の表面に位置するカーボン層とを含み、
前記ケイ素系材料の粒子の粒子径分布は1≦(Dn99-Dn10)/Dn50≦4、且つ、Dn10≧1μm、Dn50≧3μmを満たし、Dn10、Dn50及びDn99は、それぞれ、前記ケイ素系材料の粒子の個数基準の粒子径分布図において、粒子の粒子径の小さいほうから大きい方への順で計算した積算粒子数が全粒子数の10%、50%及び99%となる粒子径であ
り、
前記カーボン層は、長さが20nm~50nmである絨毛状構造であることを特徴とする、負極材料。
【請求項2】
前記ケイ素系材料と前記黒鉛の全質量に占める前記ケイ素系材料の質量の比は、5%~100%であることを特徴とする、請求項1に記載の負極材料。
【請求項3】
前記黒鉛は、天然黒鉛、人造黒鉛、及びメソカーボンマイクロビーズから選ばれる少なくとも一種を含むことを特徴とする、請求項1に記載の負極材料。
【請求項4】
前記ケイ素酸素材料はSiOxを含み、xは0.5<x<1.6を満たし、
SiOxは結晶質SiOxとアモルファスSiOxの少なくとも一種を含むことを特徴とする、請求項1に記載の負極材料。
【請求項5】
前記カーボン層のラマンスペクトルにおいて、1350cm
-1におけるピーク強度I
1350と1580cm
-1におけるピーク強度I
1580との比は、1.0<I
1350/I
1580<2.5を満たすことを特徴とする、請求項1に記載の負極材料。
【請求項6】
正極片、負極片、及び前記正極片と前記負極片との間に設けられるセパレーターを含む電気化学装置であって、
前記負極片は負極集電体及び前記負極集電体に設けられる負極活物質層を含み、前記負極活物質層は請求項1~
5のいずれか1項に記載の負極材料を含むことを特徴とする、電気化学装置。
【請求項7】
前記負極活物質層は、バインダーを含み、
前記バインダーは、ポリアクリレート、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリフッ化ビニリデン、スチレンブタジエンゴム、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルアルコール、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアクリロニトリル、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースカリウム、ヒドロキシメチルセルロースナトリウム及びヒドロキシメチルセルロースカリウムから選ばれる少なくとも一種を含むことを特徴とする、請求項
6に記載の電気化学装置。
【請求項8】
有機溶媒とリチウム塩とを含む電解液をさらに含み、
前記有機溶媒は、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジメチルカーボネート(DMC)、プロピレンカーボネート及びエチルプロピオネートから選ばれる少なくとも一種を含
むことを特徴とする、請求項
6に記載の電気化学装置。
【請求項9】
前記有機溶媒は、前記電解液に対する質量比が3%~25%であるフルオロエチレンカーボネート(FEC)を含むことを特徴とする、請求項8に記載の電気化学装置。
【請求項10】
請求項
6~9のいずれか1項に記載の電気化学装置を含むことを特徴とする、電子装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学技術の分野に関し、特に、負極材料、電気化学装置及び電子装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電気化学装置(例えば、リチウムイオン電池)の発展と進歩に伴い、そのサイクル特性に対する要求はますます高くなる。従来の電気化学装置の改良技術は、電気化学装置のサイクル特性をある程度で高めることができるが、その効果が十分ではなく、さらなる改良が所望されている。
【発明の概要】
【0003】
本発明の実施例は、ケイ素系材料、又はケイ素系材料及び黒鉛を含む負極材料であって、ケイ素系材料はケイ素酸素材料とケイ素酸素材料の表面に位置するカーボン層とを含み、ケイ素系材料粒子の粒子径分布は1≦(Dn99-Dn10)/Dn50≦4、且つ、Dn10≧1μm、Dn50≧3μmを満たし、ここで、Dn10、Dn50及びDn99は、それぞれ、ケイ素系材料粒子の個数基準の粒子径分布図において、粒子の粒子径の小さいほうから大きい方への順で計算した積算粒子数が全粒子数の10%、50%及び99%となる粒子径である、負極材料を提供する。
【0004】
いくつかの実施例において、ケイ素系材料と黒鉛の全質量に占めるケイ素系材料の質量の比は、5%~100%である。
【0005】
いくつかの実施例において、黒鉛は、天然黒鉛、人造黒鉛、及びメソカーボンマイクロビーズから選ばれる少なくとも一種を含む。
【0006】
いくつかの実施例において、ケイ素酸素材料はSiOxを含み、ここで、xは0.5<x<1.6を満たし、SiOxは結晶質SiOxとアモルファスSiOxの少なくとも一種を含む。
【0007】
いくつかの実施例において、カーボン層のラマンスペクトルにおいて、1350cm-1におけるピーク強度I1350と1580cm-1におけるピーク強度I1580との比は、1.0<I1350/I1580<2.5を満たす。いくつかの実施例において、カーボン層は、長さが20nm~50nmである絨毛状構造である。
【0008】
本発明の他の実施例は、正極片、負極片、及び正極片と負極片との間に設けられるセパレーターを含む電気化学装置であって、
負極片は、負極集電体及び負極集電体に設けられる負極活物質層を含み、負極活物質層は前記のいずれか1項に記載の負極材料を含む、電気化学装置を提供する。
【0009】
いくつかの実施例において、負極活物質層は、バインダーを含む。バインダーは、ポリアクリレート、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリフッ化ビニリデン、スチレンブタジエンゴム、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルアルコール、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアクリロニトリル、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースカリウム、ヒドロキシメチルセルロースナトリウム及びヒドロキシメチルセルロースカリウムから選ばれる少なくとも一種を含む。
【0010】
いくつかの実施例において、電気化学装置は、また、有機溶媒とリチウム塩とを含む電解液を含有する。有機溶媒は、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジメチルカーボネート(DMC)、プロピレンカーボネート及びエチルプロピオネートから選ばれる少なくとも一種を含み、選択的に、有機溶媒は、電解液に占める質量割合が3%~25%であるFECを含む。
【0011】
本発明の実施例は、さらに、前記のいずれか1項に記載の電気化学装置を含む電子装置を提供する。
【0012】
本発明の実施例に係る負極材料は、ケイ素系材料、或いは、ケイ素系材料及び黒鉛を含み、ケイ素系材料はケイ素酸素材料とケイ素酸素材料の表面に位置するカーボン層とを含み、ケイ素系材料粒子の粒子径分布は1≦(Dn99-Dn10)/Dn50≦4、且つ、Dn10≧1μm、Dn50≧3μmであることを満たす。本発明の実施例に係る負極材料は、ケイ素系材料の個数粒子径分布を制御することで、大きな粒子と小さな粒子がよりよく整合し、それによって電気化学装置のサイクル特性を向上させる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図面を組合わせて以下の発明を実施するための形態を参照すると、本発明の各実施例の前記特徴及び他の特徴、利点、及び態様がより明らかになる。すべての図面において、同一又は類似の符号は、同一又は類似の要素を示す。図面は概略的なものであり、要素及び元素は必ずしも一定の縮尺で描かれていないことを理解すべきである。
【
図1】
図1は、本発明の実施例に係る電気化学装置の一例の概略図である。
【
図2】
図2は、本発明の実施例2のケイ素系材料粒子の粒子径の個数基準の分布図である。
【
図3】
図3は、本発明の実施例8のケイ素系材料粒子の粒子径の個数基準の分布図である。
【
図4】
図4は、本発明の実施例5と実施例8のリチウムイオン電池のサイクル容量維持図である。
【
図5】
図5は、本発明の実施例5のカーボン層のTEM図である。
【
図6】
図6は、本発明の実施例12のカーボン層のTEM図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下では、図面を参照して、本発明の実施例をより詳しく説明する。本発明のいくつかの実施例が図面に示されているが、本発明は様々な形態で実施することができ、本明細書に記載の実施例に限定されると説明されるべきではなく、逆に、これらの実施例を提供するのは、本発明をより明確で完全に理解するためである。本発明の図面及び実施例は、ただ例示的なものであり、本発明の請求の範囲を制限するために用いられないと理解すべきである。
【0015】
ケイ素系材料の比容量は、炭素材料の比容量より遥かに大きいため、ますます多くの電気化学装置にはケイ素系材料を負極材料として添加する。しかしながら、負極材料としてのケイ素系材料もいくつかの問題がある。サイクル中、ケイ素系材料の体積変化が大きく、ケイ素系材料が粉末化して負極集電体から脱離することによって、電気化学装置のサイクル特性が低下する。
【0016】
本発明の実施例において、ケイ素系材料、又はケイ素系材料及び黒鉛を含む負極材料である負極材料を提供する。負極材料はケイ素系材料を含むため、負極材料の比容量の向上に有利である。ケイ素系材料はケイ素酸素材料とケイ素酸素材料の表面に位置するカーボン層とを含む。ケイ素酸素材料の表面の少なくとも一部に位置するカーボン層により、ケイ素系材料の導電性を向上でき、サイクル中のケイ素系材料の膨張を軽減することができる。
【0017】
ケイ素系材料粒子の粒子径分布は、1≦(Dn99-Dn10)/Dn50≦4、且つ、Dn10≧1μm、Dn50≧3μmを満たす。Dn10、Dn50及びDn99は、それぞれ、ケイ素系材料粒子の個数基準の粒子径分布図において、粒子の粒子径の小さいほうから大きい方への順で計算した積算粒子数が全粒子数の10%、50%及び99%となる。いくつかの実施例において、ケイ素系材料粒子の個数基準の粒子径分布図に対して、小粒子径から大粒子径までの方向に沿って、積分して積分面積を算出し、積分面積比が10%、50%及び99%の場合、対応する粒子径は、それぞれ、Dn10、Dn50及びDn99である。
【0018】
いくつかの実施例において、ケイ素系材料の粒子の、Dn10<1μm又はDn50<3μmの場合、ケイ素系材料粒子の粒子径が小さすぎて比表面積が大きすぎ、多量の電解液が消耗されてSEI(solid electrolyte interphase、固体電解質界面)膜を形成し、副反応が増えて、比較的に多くの副生成物が生成されたため、電気化学装置のサイクル中のガス発生が増え、SEI膜が持続的に増加することで、電気化学装置のサイクル特性が低下する可能性がある。いくつかの実施例において、(Dn99-Dn10)/Dn50<1の場合、ケイ素系材料粒子の粒子径分布範囲が狭く、ケイ素系材料隙間の充填に不利であるため、圧縮密度が不十分となる可能性がある。(Dn99-Dn10)/Dn50>4の場合、電気化学装置のサイクル中のガス発生が増えることになる。本発明の実施例において、ケイ素系材料の粒子径を、ケイ素系材料粒子の個数基準の粒子径分布が1≦(Dn99-Dn10)/Dn50≦4、且つDn10≧1μm、Dn50≧3μmを満たすように制御することにより、負極の圧縮密度を向上でき、電気化学装置のサイクル中の副反応を低減し、エネルギー密度を向上する同時に、電気化学装置のサイクル特性を改善し、サイクル中のガス発生を低減ことができる。
【0019】
いくつかの実施例において、ケイ素系材料と黒鉛の全質量に占めるケイ素系材料の質量の比は、5%~100%である。ケイ素系材料と黒鉛の全質量に対するケイ素系材料の割合が5%未満であると、ケイ素系材料の含有量が少なすぎてエネルギー密度の向上効果が著しくないとなる可能性がある。いくつかの実施例において、黒鉛は、天然黒鉛、人造黒鉛、及びメソカーボンマイクロビーズから選ばれる少なくとも一種を含む。
【0020】
いくつかの実施例において、ケイ素酸素材料はSiOxを含み、ここで、xは0.5<x<1.6を満たし、SiOxは結晶質SiOxとアモルファスSiOxの少なくとも一種を含む。いくつかの実施例において、xが大きすぎると、SiOxのサイクル中に生成される不可逆相であるLi2O及びLi4SiO4が増加し、比エネルギー及び初回クーロン効率を低下させる。xが小さすぎると、SiOxのサイクル特性が劣る可能性がある。
【0021】
いくつかの実施例において、カーボン層のラマンスペクトルにおいて、1350cm-1におけるピーク強度I1350と1580cm-1におけるピーク強度I1580との比は、1.0<I1350/I1580<2.5を満たす。いくつかの実施例において、カーボン層のI1350/I1580はカーボン層における欠陥密度を反映し、欠陥密度は、I1350/I1580に比例する。I1350/I1580が小さすぎると、電子の伝導に不利で、電気化学装置の直流抵抗が増加する可能性がある。I1350/I1580が大きすぎると、カーボン層によるケイ素酸素材料の膨張抑制効果が小さくなり、欠陥の増加により電解液との副反応が増加する可能性がある。
【0022】
いくつかの実施例において、カーボン層は、長さが20nm~50nmである絨毛状構造である。いくつかの実施例において、カーボン層に対して透過型電子顕微鏡像を撮影し、その透過型電子顕微鏡像から絨毛状構造の長さを算出することができる。絨毛状構造を持つカーボン層は、長距離の電気伝導の機能を有し、サイクル中の電気的接触に有利であるため、サイクル容量維持率の向上に有利である。
【0023】
本発明の実施例は、電気化学装置であって、
図1に示すように、正極片10、負極片12、及び正極片10と負極片12との間に設けられるセパレーター11を含み、負極片12は負極集電体と負極集電体に設けられる負極活物質層を含み、負極活物質層は前記のいずれか1項に記載の負極材料を含む、電気化学装置を更に提供する。
【0024】
いくつかの実施例において、負極活物質層は、バインダーを含む。バインダーは、ポリアクリレート、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリフッ化ビニリデン、スチレンブタジエンゴム、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルアルコール、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアクリロニトリル、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースカリウム、ヒドロキシメチルセルロースナトリウム及びヒドロキシメチルセルロースカリウムから選ばれる少なくとも一種を含む。
【0025】
本発明のいくつかの実施例において、電気化学装置は、さらに、有機溶媒とリチウム塩とを含む電解液を含有する。有機溶媒は、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジメチルカーボネート(DMC)、プロピレンカーボネート及びエチルプロピオネートから選ばれる少なくとも一種を含む。
【0026】
本発明のいくつかの実施例において、有機溶媒は、電解液に対する質量割合が3%~25%であるFECを含む。いくつかの実施例において、FECはSEI膜の機械的性質を増加させ、電気化学装置のサイクル膨張率を低減し、サイクル容量維持率を改善することができる。FECの量が少なすぎると、改善効果が著しくない可能性がある。FECの量が多すぎると、SEI膜が持続的に生成され、電気化学装置の抵抗が増加し、サイクル容量維持率が低下する。いくつかの実施例において、質量割合が3%~25%になるようにFECを添加することにより、ケイ素系材料を用いる電気化学装置のサイクル容量維持率を顕著に改善でき、サイクル膨張率を低下することができる。
【0027】
本発明のいくつかの実施例において、リチウム塩は、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6)、テトラフルオロホウ酸リチウム(LiBF4)、ジフルオロリン酸リチウム(LiPO2F2)、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドLiN(CF3SO2)2(LiTFSI)、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミドLi(N(SO2F)2)(LiFSI)、リチウムビス(オキサラート)ホウ酸LiB(C2O4)2(LiBOB)及びジフルオロ(オキサラト)ホウ酸リチウムLiBF2(C2O4)(LiDFOB)から選ばれる少なくとも一種を含む。
【0028】
いくつかの実施例において、負極活物質層には、更に導電剤を含んでも良い。負極活物質層における導電剤は、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、片状黒鉛、グラフェン、カーボンナノチューブ、カーボンファイバー及びカーボンナノワイヤーから選ばれる少なくとも一種を含んでも良い。上記の開示された材料は単なる例示的なものであり、負極活物質層には他の任意の適切な材料を採用しうることを理解すべきである。いくつかの実施例において、負極活物質層における、負極材料と、導電剤と、バインダーとの質量比は、80~99:0.5~10:0.5~10であってもよく、これは単なる例示的であり、本発明を制限するものではないことを理解すべきである。
【0029】
いくつかの実施例において、正極片10は正極集電体と正極集電体に設けられる正極活物質層を含む。正極活物質層は正極集電体の片面又は両面に位置することができる。いくつかの実施例において、正極集電体は、アルミニウム箔を使用してもよく、勿論、本分野で慣用される他の正極集電体を使用しても良い。いくつかの実施例において、正極集電体の厚さは、1μm~200μmであっても良い。いくつかの実施例において、正極活物質層は、正極集電体の一部の領域のみに塗布されていても良い。いくつかの実施例において、正極活物質層の厚さは、10μm~500μmであっても良い。これは単なる例示的であり、他の適切な厚さを採用しても良いことを理解すべきである。
【0030】
いくつかの実施例において、正極活物質層は、正極材料を含む。いくつかの実施例において、正極材料は、コバルト酸リチウム、マンガン酸リチウム、リン酸鉄リチウム、リン酸マンガン鉄リチウム、ニッケルコバルトマンガン酸リチウム、ニッケルコバルトアルミン酸リチウム及びニッケルマンガン酸リチウムから選ばれる少なくとも一種を含んでも良く、上記の正極材料は、ドーピング及び/又は被覆処理を行っても良い。いくつかの実施例において、正極活物質層は、バインダー及び導電剤をさらに含む。いくつかの実施例において、正極活物質層におけるバインダーは、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、スチレン-アクリレート共重合体、スチレン-ブタジエン共重合体、ポリアミド、ポリアクリロニトリル、ポリアクリル酸エステル、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸塩、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルピロリドン、ポリビニルエーテル、ポリメチルメタクリレート、ポリテトラフルオロエチレン及びポリヘキサフルオロプロピレンから選ばれる少なくとも一種を含んでも良い。いくつかの実施例において、正極活物質層における導電剤は、導電性カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、片状黒鉛、グラフェン、カーボンナノチューブ、及びカーボンファイバーから選ばれる少なくとも一種を含んでも良い。いくつかの実施例において、正極活物質層における、正極材料と、導電剤と、バインダーとの質量比は、70~98:1~15:1~15であっても良い。以上に記載の内容は単なる例示的であり、正極活物質層には任意の他の適切な材料、厚さ及び質量比を採用しうることを理解すべきである。
【0031】
いくつかの実施例において、セパレーター11は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレングリコールテレフタレート、ポリイミド及びアラミドから選ばれる少なくとも一種を含む。例えば、ポリエチレンは、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン及び超高分子量ポリエチレンから選ばれる少なくとも一種を含む。中では、ポリエチレン及びポリプロピレンは、短絡防止効果が高く、シャットダウン効果により電池の安定性を改善することができる。いくつかの実施例において、セパレーターの厚さは、約3μm~500μmの範囲内にある。
【0032】
いくつかの実施例において、セパレーターの表面には、さらにセパレーターの少なくとも片面に設けられる多孔層を含み、多孔層は、無機粒子及びバインダーから選ばれる少なくとも一種を含み、無機粒子は、酸化アルミニウム(Al2O3)、酸化ケイ素(SiO2)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化チタン(TiO2)、二酸化ハフニウム(HfO2)、酸化スズ(SnO2)、酸化セリウム(CeO2)、酸化ニッケル(NiO)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化カルシウム(CaO)、酸化ジルコニウム(ZrO2)、酸化イットリウム(Y2O3)、炭化ケイ素(SiC)、ベーマイト、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム及び硫酸バリウムから選ばれる少なくとも一種を含む。いくつかの実施例において、セパレーターの孔の直径は、約0.01μm~1μmの範囲内にある。多孔層のバインダーは、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリアミド、ポリアクリロニトリル、ポリアクリル酸エステル、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸塩、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリビニルピロリドン、ポリビニルエーテル、ポリメチルメタクリレート、ポリテトラフルオロエチレン及びポリヘキサフルオロプロピレンから選ばれる少なくとも一種である。セパレーターの表面の多孔層は、セパレーターの耐熱性、耐酸化性、電解質浸透性を向上させ、セパレーターと極片の間の接着性を増加できる。
【0033】
本発明のいくつかの実施例において、電気化学装置の電極素子は、捲回型電極素子又は積層型電極素子である。いくつかの実施例において、電気化学装置はリチウムイオン電池であるが、本発明はこれに限定されない。
【0034】
本発明のいくつかの実施例において、リチウムイオン電池を例にとって、正極片、セパレーター、負極片を順に巻回又は積層して電極素子とした後、例えばアルミニウムプラスチックフィルムケースに置きてパッケージして、電解液を注入、化成、パッケージして、リチウムイオン電池を作成する。そして、調製したリチウムイオン電池に対して特性試験を行う。
【0035】
当業者は、以上説明した電気化学装置(例えば、リチウムイオン電池)の調製方法は、実施例のみであることを理解すべく。本発明に開示された内容から逸脱しない範囲に、本分野で慣用される他の方法を使用することができる。
【0036】
本発明の実施例は、さらに、前記の電気化学装置を含む電子装置を提供する。本発明の実施例の電子装置は、特に制限はなく、先行技術で使用された公知の任意の電子装置でありうる。いくつかの実施例においては、電子装置は、ノートコンピューター、ペン入力型コンピューター、モバイルコンピューター、電子ブックプレーヤー、携帯電話、携帯型ファクシミリ、携帯型コピー機、携帯型プリンター、ステレオヘッドセット、ビデオレコーダー、液晶テレビ、ポータブルクリーナー、携帯型CDプレーヤー、ミニCD、トランシーバー、電子ノートブック、計算機、メモリーカード、ポータブルテープレコーダー、ラジオ、バックアップ電源、モーター、自動車、オートバイ、補助自転車、自転車、照明器具、おもちゃ、ゲーム機、時計、電動工具、閃光灯、カメラ、大型家庭用ストレージバッテリー、及びリチウムイオンコンデンサーなどを含むが、これらに限定されない。
【0037】
本発明のいくつかの実施例において、以下のステップを含む、電気化学装置の調製方法を提供する。
【0038】
負極材料の調製
ステップ1:粒子径1mm~100mm、化学式SiOx(0.5≦x≦1.6)の無定形一酸化ケイ素粉末500gに対して機械破砕処理を行った後、ジェットミルで空気破砕し、そして、分級して、粒度範囲が0.2μm~30μmである一酸化ケイ素粉末が得られる。
【0039】
ステップ2:ステップ1で得られた一酸化ケイ素粉末をCVD(化学気相成長、Chemical Vapor Deposition)炉に入れ、900℃~1000℃までに加温して、炭素ソースガスを300mL/minのガス流量で注入し、60分間保持した後、炭素ソースガスをすぐに遮断する。不活性雰囲気下で室温まで降温し、冷却した後、粉末サンプルを取り出す。不活性雰囲気は、Ar、N2、Heから選ばれる一種又は多種の混合気体である。炭素ソースガスは、CH4、C2H4、C7H8、C2H2、C2H2から選ばれる一種又は多種の混合気体である。
【0040】
ステップ3:ステップ2で得られた生成物に対して減磁処理、粉末分級処理を行い、1≦(Dn99-Dn10)/Dn50≦4、且つDn10≧1μm、Dn50≧3μmを満たす負極材料である炭素被覆一酸化ケイ素が得られる。
【0041】
負極片の調製
調製された負極材料粉末、黒鉛、導電剤及びバインダーを取り、リチウムイオン電池用負極片を制作する。導電剤は、導電性カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、導電性黒鉛、グラフェン等から選ばれる一種以上を含む。黒鉛は、天然黒鉛、人造黒鉛、及びメソカーボンマイクロビーズから選ばれる少なくとも一種を含む。具体的なステップは以下の通りである。
【0042】
真空攪拌機MSK-SFM-10において、負極材料の粉末400g、黒鉛2400g及び導電剤35gを攪拌機に加え、公転速度10r/min~30r/minで40分間攪拌する。
【0043】
バインダー95gを攪拌された混合物に加え、60分間攪拌して均一に分散させた後、脱イオン水120gを加え、攪拌して均一に分散させ、混合スラリーが得られた。公転速度は10r/min~30r/minであり、自転速度は1000r/min~1500r/minである。スラリーの粘度は1500mPa・s~4000mPa・sの間に制御され、固形分の含有量は35%~50%に制御される。
【0044】
スラリーを170メッシュの二層スクリーンでろ過し、負極スラリーが得られ、塗布の厚さが50μm~200μmになるように負極スラリーを銅箔に塗布する。極片を乾燥した後、コールドプレスして、負極片が得られ、この負極片の両面圧縮密度は1.5g/cm3~2.0g/cm3である。
【0045】
正極片の調製
正極材料であるLiCoO2、導電性カーボンブラック、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)を、96.7:1.7:1.6の重量比でN-メチルピロリドン溶媒系に十分に撹拌し、均一に混合し、アルミニウム箔に塗布し、乾燥し、コールドプレスして、正極片が得られた。
【0046】
リチウムイオン電池の調製
ポリエチレン多孔質重合フィルムをセパレーターとして使用し、セパレータが正極片と負極片との間に介在して隔離の役割を果たすように、正極片、セパレーター、負極片を順に積層し、巻いて、ベアセルが得られる。ベアセルを外装に入れ、電解液(電解液におけるエチレンカーボネートEC、ジメチルカーボネートDMC、及びジエチルカーボネートDECの体積比は1:1:1であり、FECの質量含有量は10%であり、LiPF6の濃度は1mol/Lである)を注入し、封止した。化成、脱気、トリミングのプロセスを経て、電気化学装置が得られる。
【0047】
本発明の技術案をより良く説明するために、以下に、本発明をより良く説明するためのいくつかの具体的な実施例が挙げられ、ここで、リチウムイオン電池を例として採用する。
実施例1
【0048】
負極材料の調製
ステップ(1):粒子径1mm~100mm、化学式SiOx(0.5≦x≦1.6)の無定形一酸化ケイ素粉末500gに対して機械破砕処理を行った後、ジェットミルで空気破砕し、粒度範囲が0.2μm~30μmである一酸化ケイ素粉末が得られ、分級して、Dn10≧1μmを満たすSiOxが得られた。
【0049】
ステップ(2):ステップ(1)で得られたSiOxをCVD炉に入れ、960℃までに加温して、メタンを300mL/minのガス流量で注入し、120分間保持した後、メタンガスをすぐに遮断する。不活性雰囲気であるAr雰囲気下で室温まで降温し、冷却した後、炭素被覆ケイ素酸素材料を取り出した。
【0050】
ステップ(3):ステップ(2)で得られた炭素被覆ケイ素酸素材料を減磁処理、分級処理を行い、1300メッシュでふるい分け、負極材料である炭素被覆一酸化ケイ素が得られた。
【0051】
負極片の調製
真空攪拌機MSK-SFM-10において、負極材料400g、黒鉛2400g及び導電剤(導電性カーボンブラック)35gを攪拌機に加え、公転速度10r/min~30r/minで120分間攪拌した。
【0052】
バインダー112gを攪拌された混合物に加え、60分間攪拌して均一に分散させた後、脱イオン水120gを加え、攪拌して均一に分散させ、混合スラリーが得られた。攪拌時の公転速度は10r/min~30r/minであり、自転速度は1000r/min~1500r/minである。攪拌した後のスラリーの粘度は2500mPa・s~4000mPa・sの間に制御され、混合スラリーの固形分の含有量は35%~50%に制御された。
【0053】
混合スラリーを170メッシュの二層スクリーンでろ過し、負極スラリーが得られ、塗布の厚さが80μmになるように負極スラリーを銅箔に塗布した。極片を乾燥した後、コールドプレスして、負極片が得られ、この負極片の両面圧縮密度は1.76g/cm3である。
【0054】
正極片の調製
正極材料であるLiCoO2、導電性カーボンブラック、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)を、96.7:1.7:1.6の重量比でN-メチルピロリドン溶媒に十分に撹拌し、均一に混合し、アルミニウム箔に塗布し、乾燥し、コールドプレスして、正極片が得られた。
【0055】
リチウムイオン電池の調製
セパレーターとしては、ポリエチレン多孔質重合フィルムが使用された。セパレータが正極片と負極片との間に介在して隔離の役割を果たすように、正極片、セパレーター、負極片を順に積層し、巻いて、ベアセルが得られた。ベアセルを外装に入れ、電解液(電解液におけるエチレンカーボネートEC、ジメチルカーボネートDMC、及びジエチルカーボネートDECの体積比は1:1:1であり、FECの質量含有量は10%であり、LiPF6の濃度は1mol/Lである)を注入し、封止した。化成、脱気、トリミングのプロセスを経て、リチウムイオン電池が得られた。
実施例2
【0056】
実施例2と実施例1との違いは、負極材料の調製のステップ(3)において、1200メッシュでふるい分けを行う点のみであり、それ以外は実施例1と同じである。
実施例3
【0057】
実施例3と実施例1との違いは、負極材料の調製のステップ(3)において、1000メッシュでふるい分けを行う点のみであり、それ以外は実施例1と同じである。
実施例4
【0058】
実施例4と実施例1との違いは、負極材料の調製のステップ(3)において、800メッシュでふるい分けを行う点のみであり、それ以外は実施例1と同じである。
実施例5
【0059】
実施例5と実施例1との違いは、負極材料の調製のステップ(3)において、650メッシュでふるい分けを行う点のみであり、それ以外は実施例1と同じである。
実施例6
【0060】
実施例6と実施例5との違いは、負極材料の調製のステップ(2)において、ステップ(1)で得られたSiOxをCVD炉に入れ、1000℃までに加温する点のみであり、それ以外は実施例5と同じである。
実施例7
【0061】
実施例7と実施例5との違いは、負極材料の調製のステップ(2)において、ステップ(1)で得られたSiOxをCVD炉に入れ、900℃までに加温する点のみであり、それ以外は実施例5と同じである。
実施例8
【0062】
実施例8と実施例1との違いは、負極材料の調製が異なる点であり、それ以外は同じである。
【0063】
実施例8における負極材料の調製
ステップ(1):粒子径1mm~100mm、化学式SiOx(0.5≦x≦1.6)の無定形一酸化ケイ素粉末500gに対して機械破砕処理を行った後、ジェットミルで空気破砕し、粒度範囲が0.2μm~30μmである一酸化ケイ素粉末が得られ、分級して、Dn10≧1μmを満たすケイ素酸素粒子SiOxが得られた。
【0064】
ステップ(2):ステップ(1)の分級工程で除去されたケイ素酸素粒子を13000メッシュのスクリーンでふるい分け、粒径≦1μmのケイ素酸素粒子が得られた。
【0065】
ステップ(3):ステップ(1)とステップ(2)で得られたケイ素酸素粒子を1:1の質量比で混合し、混合した粒子をCVD炉に入れ、960℃までに加温し、メタンを300mL/minのガス流量で注入し、120分間保持した後、メタンガスをすぐに遮断した。不活性雰囲気であるAr雰囲気下で室温まで降温し、冷却した後、粉末サンプルを取り出した。
【0066】
ステップ(4):ステップ(3)で得られた炭素被覆ケイ素酸素材料を減磁処理、分級処理を行い、650メッシュでふるい分け、負極材料である炭素被覆一酸化ケイ素が得られた。
実施例9
【0067】
実施例9と実施例5との違いは、負極材料の調製のステップ(2)において、ステップ(1)で得られたSiOxをCVD炉に入れ、800℃までに加温する点のみであり、それ以外は実施例5と同じである。
実施例10
【0068】
実施例10と実施例5との違いは、負極材料の調製のステップ(2)において、ステップ(1)で得られたSiOxをCVD炉に入れ、1100℃までに加温する点のみであり、それ以外は実施例5と同じである。
実施例11
【0069】
実施例11と実施例5との違いは、負極材料の調製のステップ(3)において、400メッシュでふるい分けを行う点のみであり、それ以外は実施例5と同じである。
実施例12
【0070】
実施例12と実施例5との違いは、負極材料の調製のステップ(2)において、メタンの代わりにアセチレンを注入する点のみであり、それ以外は実施例5と同じである。
実施例13
【0071】
実施例13と実施例5との違いは、実施例13で使用された電解液にはFECがない点のみであり、それ以外は実施例5と同じである。
実施例14
【0072】
実施例14と実施例5との違いは、実施例14で使用された電解液にはFECの質量含有量が30%である点のみであり、それ以外は実施例5と同じである。
【0073】
以下、本発明の各パラメータの測定方法について説明する。
【0074】
SEM(走査型電子顕微鏡)測定:走査型電子顕微鏡の特性評価がPhilipsXL-30電界放出走査形電子顕微鏡で記録され、10kV、10mAの条件で検査する。
【0075】
TEM(透過型電子顕微鏡)測定:透過型電子顕微鏡の特性評価は、日本電子JEOL JEM-2010透過型電子顕微鏡で行われ、動作電圧は200kVである。
【0076】
粉末の圧縮密度測定:SUNS UTM7305を使用して、13mmの型に粉末1gを入れ、10mm/minの速度で圧力を上げ、圧力が5トンに達した後、30mm/minの速度で圧力を解放し、解放圧力が3トンに達する時、10秒間保持し、粉末の体積を測定し、質量と体積の比から粉末の圧縮密度PDを求め、単位はg/cm3である。
【0077】
粒度測定:粉末サンプル約0.02gを50mlのきれいなビーカーに入れ、脱イオン水約20mlを加え、1%界面活性剤を数滴加えて粉末を完全に水に分散させ、120Wの超音波洗浄機で5分間超音波処理し、MasterSizer2000を使用して、粒度分布を測定する。
【0078】
極片におけるケイ素系材料の粒子径の測定方法:DMC(ジメチルカーボネート)で極片を浸漬して洗浄し、真空オーブンで40℃で12時間乾燥させ、サンプルを採取し、SEM試験を行い、200μm×200μmの範囲で測定された5箇所の写真を選択して、ケイ素系材料の粒子径を統計する。
粒子の直径R=(最長径R1+最短径R2)/2。
【0079】
リチウムイオン電池のサイクル測定:測定温度は45℃であり、定電流で0.7Cにて4.45Vまで充電し、定電圧で0.025Cまで充電し、5分間静置した後、0.5Cにて3.0Vまで放電する。このサイクルで得られた容量を初期容量C0とし、0.7C充電/0.5C放電で、サイクル測定を行う。各サイクルの容量と初期容量との比により、容量の減衰曲線を作成し、400サイクル後の容量C1を記録する。
45℃で400サイクル後の容量維持率=C1/C0×100%。
【0080】
リチウムイオン電池のサイクル膨張率の測定:スパイラルマイクロメーターを使用して、初期の50%SOCでのリチウムイオン電池の厚さd0を測定する。400サイクルまでサイクルする場合、リチウムイオン電池は100%SOC状態となり、リチウムイオン電池の厚さd1をスパイラルマイクロメーターで測定する。
45℃で400サイクル後の膨張率=(d1-d0)/d0×100%。
【0081】
各実施例におけるパラメータ及び特性試験結果を表1に示す。
【表1】
【0082】
各実施例の特性測定データを表1に示す。
図2及び
図3は、それぞれ、実施例2と実施例8の負極材料粒子の粒子径の個数基準の分布図を示す。実施例1~実施例8の測定データを比較すると、実施例8は、実施例1~7よりも45℃で400サイクル後の膨張率が高く、実施例1~7よりも圧縮密度が低いことがわかる。これは、実施例8のDn10及びDn50がいずれも1μm未満と比較的に小さく、且つ、(Dn99-Dn10)/Dn50が7.11と比較的に大きいので、負極材料において、粒子径が比較的に小さい粒子の占める割合が多く、粒子径が比較的に大きい粒子の割合が少ないため、負極材料のかさ密度が低下し、圧縮密度が低下するからである。また、粒子径が比較的に小さい粒子の存在によって、電気化学反応で電解液との反応がより激しくなり、より多くの副生成物が生成され、サイクル中のガス発生が増加し、リチウム源の損失をもたらし、SEI膜は持続的に増加し、サイクル特性を低下させる。
【0083】
図4は、実施例5及び実施例8のサイクル数によるサイクル容量維持率の変化を示す。実施例1~実施例5を比較すると、Dn10>1μm、1<(Dn99-Dn10)/Dn50<4、Dn50>3μmの場合、(Dn99-Dn10)/Dn50の増加に伴い、圧縮密度は徐々に増加し、45℃で400サイクル後の容量維持率は徐々に増加し、且つ45℃で400サイクル後の膨張率が徐々に低下することが分かる。これは、上記の規定の粒子径範囲内で、負極材料粒子の粒子径分布が均一であり、空隙の充填と粒子の堆積に有利であるため、圧縮密度を向上し、サイクル特性を改善し、サイクル中のガス発生を低減するからである。
【0084】
実施例5、実施例6、実施例7、実施例9及び実施例10を比較すると、CVD炉の温度上昇に伴い、45℃で400サイクル後の容量維持率は最初に増加し、そして減少し、45℃で400サイクル後の膨潤率は最初に減少し、そして増加し、実施例5の45℃で400サイクル後の容量維持率が最も高く、45℃で400サイクル後の膨潤率が最も低いことが分かる。これは、CVD温度が900℃未満の場合、ガスの炭化が不完全で、カーボン層が十分に形成されず、ケイ素酸素化合物粒子の表面欠陥が比較的に多くて、副生成物が増加し、サイクル容量維持率が低下するからである。CVD炉の温度上昇に伴い、負極材料粒子の粒子径が徐々に大きくなり、欠陥が減少し、ケイ素酸素化合物の表面にカーボン層が形成し始まる。カーボン層の存在は、サイクル中のケイ素酸素化合物の膨張の抑制及び導電性の増加に有利である。CVD炉の温度が高すぎると、ケイ素酸素化合物の結晶化が顕著になり、カーボン層はケイ素酸素化合物に対する抑制能力が弱くなるので、サイクル中のケイ素酸素化合物の膨張は急激に増加する。
【0085】
実施例5と実施例11を比較すると、負極材料において、粒子径が比較的に大きい粒子の占める割合が比較的に多い場合、負極材料粒子の充填整合性が比較的に悪く、粉末圧縮密度が比較的に低い、同時に、大きな粒子の存在により局所の膨張が増大して、最終的には負極片中の活物質間の電気的接触が失われ、サイクル容量維持率の低下とサイクル膨張率の増加を引き起こすことが分かる。
【0086】
図5は、実施例5の負極材料のカーボン層のTEM図を示し、
図6は、実施例12の負極材料のカーボン層のTEM図を示す。
図5及び
図6から、実施例5のカーボン層は絨毛状構造であるが、実施例12のカーボン層は非絨毛状の密接構造であることが分かる。実施例5と実施例12のデータを比較すると、カーボン層が絨毛状構造である実施例5は、カーボン層が非絨毛状構造である実施例12よりも、45℃で400サイクル後の容量維持率が高いことが分かる。これは、絨毛状構造のカーボン層は、長距離の電気伝導の機能を持ち、サイクル中の電気的接触により有利であり、容量の維持により有利であるからである。
【0087】
実施例5、実施例13及び実施例14を比較すると、電解液におけるFEC含有量の増加に伴い、リチウムイオン電池の45℃で400サイクル後の容量維持率は最初に増加し、そして減少し、45℃で400サイクル後の膨張率は最初に減少し、そして増加し、リチウムイオン電池用電解液におけるFECの質量比が3%~25%である場合、サイクル中の体積膨張を明らかに低減でき、サイクル容量維持率を向上できることが分かる。これは、FECがSEI膜の機械的性質を高めることができるため、サイクル中の体積膨張を効果的に低減することができるが、FECが多すぎると、SEI膜が持続的に形成され、界面の電荷交流抵抗を増加させ、リチウムイオン電池の抵抗が過剰に増加し、サイクル後期容量の減衰が増加するからである。
【0088】
従って、ケイ素系材料を含有する負極材料の個数基準の粒子径分布を、粒子径分布がDn10>1μm、1<(Dn99-Dn10)/Dn50<4、Dn50>3μmを満たすように制御することにより、負極材料の粉末圧縮密度を高め、サイクル特性を改善し、サイクル中の体積膨張を低減することができる。
【0089】
本発明の主題は、既に構造的特徴及び/又は方法的論理動作に特定された言語で説明されているが、添付の請求の範囲に限定される主題は、上記に記載された特定の特徴又は動作に限定されないことを理解すべきである。逆に、上記の特定の特徴及び動作は、請求の範囲を実現するための例示的な形態にすぎない。