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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-02
(45)【発行日】2023-11-13
(54)【発明の名称】緩衝器
(51)【国際特許分類】
   F16F 9/48 20060101AFI20231106BHJP
   F16F 9/32 20060101ALI20231106BHJP
   F16F 9/348 20060101ALI20231106BHJP
   F16F 9/508 20060101ALI20231106BHJP
   B60G 13/08 20060101ALI20231106BHJP
【FI】
F16F9/48
F16F9/32 L
F16F9/348
F16F9/508
B60G13/08
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2022555346
(86)(22)【出願日】2021-09-21
(86)【国際出願番号】 JP2021034562
(87)【国際公開番号】W WO2022075056
(87)【国際公開日】2022-04-14
【審査請求日】2023-03-03
(31)【優先権主張番号】P 2020171044
(32)【優先日】2020-10-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山下 幹郎
【審査官】杉山 豊博
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-043220(JP,A)
【文献】国際公開第2018/062150(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/045965(WO,A1)
【文献】特開2015-068439(JP,A)
【文献】国際公開第2017/047661(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 9/48
F16F 9/32
F16F 9/348
F16F 9/508
B60G 13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
作動流体が封入されるシリンダと、
前記シリンダ内に摺動可能に設けられ、該シリンダ内をロッド側室とボトム側室とに区画するピストンと、
一端側が前記ピストンに連結されると共に他端側が前記シリンダの外部に延出されるピストンロッドと、
前記ピストンの移動により前記シリンダ内の一方の室から作動流体が流れ出す第1通路と、
前記第1通路と並列に設けられる第2通路と、
前記第1通路に設けられて減衰力を発生させる減衰力発生機構と、を有し、
前記第2通路には、
前記シリンダに対する前記ピストンの相対位置によりオリフィス面積が変更可能な可変オリフィス機構と、
ピストン速度によらず、低周波時の減衰力が高周波時の減衰力よりも高くなる周波数感応機構と、
が設けられており、
低周波時に、前記シリンダに対する前記ピストンの相対位置が第1範囲にある間は、ピストン速度が低速域から高速域まで、第1減衰力特性を示し、
低周波時に、前記シリンダに対する前記ピストンの相対位置が前記第1範囲とは異なる第2範囲にある間は、ピストン速度が低速域から高速域まで、前記第1減衰力特性よりも大きい第2減衰力特性を示し、
高周波時には、前記第1範囲のときと前記第2範囲のときとの減衰力特性の差が、前記第1減衰力特性と前記第2減衰力特性との差よりも小さくなるよう構成されている
緩衝器。
【請求項2】
前記第1範囲は、前記第2範囲よりも、前記ピストンの前記シリンダに対する相対位置が、前記ロッド側室の側にある請求項1に記載の緩衝器。
【請求項3】
前記第1範囲は、前記第2範囲よりも、前記ピストンの前記シリンダに対する相対位置が、前記ボトム側室の側にある請求項1に記載の緩衝器。
【請求項4】
作動流体が封入されるシリンダと、
前記シリンダ内に摺動可能に設けられ、該シリンダ内をロッド側室とボトム側室とに区画するピストンと、
一端側が前記ピストンに連結されると共に他端側が前記シリンダの外部に延出されるピストンロッドと、
前記ピストンの移動により前記シリンダ内の一方の室から作動流体が流れ出す、該ピストンに形成される第1通路と、
前記第1通路と並列に設けられる第2通路と、
前記第1通路に設けられて減衰力を発生させる第1バルブと、該第1バルブに背圧を付与する背圧室とを有する減衰力発生機構と、
内部に前記第2通路の少なくとも一部が形成される絞り部材と、
ケース部材内に配置され、該ケース部材内で撓み可能な可撓部材と、
前記可撓部材により画成されて設けられた前記ケース部材内の室と、
前記ピストンロッドの内周側に形成される孔と、
前記孔に挿入され、軸方向の位置により前記孔との間の隙間を異ならせるピン部材と、
前記孔と前記ピン部材とにより形成される中空室と、
を有し、
前記中空室には、
前記ロッド側室の作動流体を前記シリンダと前記ピストンとの相対位置により変化しない状態で供給する第3通路と、
前記背圧室に作動流体を供給する第4通路と、
前記ケース部材に作動流体を供給する第5通路と、
前記絞り部材を介して前記ボトム側室に作動流体を供給する第6通路と、
が連通される緩衝器。
【請求項5】
前記ピストンに形成される前記第1通路を介して前記ロッド側室の作動流体を前記第2通路に供給する請求項4に記載の緩衝器。
【請求項6】
前記第2通路は、前記ピストンに当接するディスクにより形成されるオリフィスを介して前記第1通路から分岐している請求項5に記載の緩衝器。
【請求項7】
前記ピストンが前記ボトム側室の側への移動量が大きくなったときに前記隙間が小となるように、ピン部材の径が調整されている請求項4から6のいずれか一項に記載の緩衝器。
【請求項8】
面取りにより前記ピン部材の径が調整されている請求項7に記載の緩衝器。
【請求項9】
前記シリンダと前記ピストンとの相対位置が同じとき、伸び行程の減衰力特性と縮み行程の減衰力特性とは非反転である請求項4から8のいずれか一項に記載の緩衝器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、緩衝器に関する。本願は、2020年10月9日に、日本に出願された特願2020-171044号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
緩衝器には、ストローク位置により減衰力を変化させる位置感応の減衰力可変式の緩衝器がある(例えば、特許文献1参照)。また、緩衝器には、振動状態に応じて減衰力が可変となる緩衝器がある(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】日本国特開2015-68439号公報
【文献】国際公開第2017/047661号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
位置感応の減衰力可変式の緩衝器において、周波数に応じて減衰力を良好に制御することが要望されている。
【0005】
本発明は、位置感応の減衰力可変式の緩衝器において、周波数に応じて減衰力を良好に制御することが可能な緩衝器を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第一の態様によれば、緩衝器は、作動流体が封入されるシリンダと、前記シリンダ内に摺動可能に設けられ、該シリンダ内をロッド側室とボトム側室とに区画するピストンと、一端側が前記ピストンに連結されると共に他端側が前記シリンダの外部に延出されるピストンロッドと、前記ピストンの移動により前記シリンダ内の一方の室から作動流体が流れ出す第1通路と、前記第1通路と並列に設けられる第2通路と、前記第1通路に設けられて減衰力を発生させる減衰力発生機構と、を有する。前記第2通路には、前記シリンダに対する前記ピストンの相対位置によりオリフィス面積が変更可能な可変オリフィス機構と、ピストン速度によらず、低周波時の減衰力が高周波時の減衰力よりも高くなる周波数感応機構と、が設けられている。低周波時に、前記シリンダに対する前記ピストンの相対位置が第1範囲にある間は、ピストン速度が低速域から高速域まで、第1減衰力特性を示す。低周波時に、前記シリンダに対する前記ピストンの相対位置が前記第1範囲とは異なる第2範囲にある間は、ピストン速度が低速域から高速域まで、前記第1減衰力特性よりも大きい第2減衰力特性を示す。高周波時には、前記第1範囲のときと前記第2範囲のときとの減衰力特性の差が、前記第1減衰力特性と前記第2減衰力特性との差よりも小さくなるよう構成されている。
【0007】
本発明の別の態様によれば、緩衝器は、作動流体が封入されるシリンダと、前記シリンダ内に摺動可能に設けられ、該シリンダ内をロッド側室とボトム側室とに区画するピストンと、一端側が前記ピストンに連結されると共に他端側が前記シリンダの外部に延出されるピストンロッドと、前記ピストンの移動により前記シリンダ内の一方の室から作動流体が流れ出す、該ピストンに形成される第1通路と、前記第1通路と並列に設けられる第2通路と、前記第1通路に設けられて減衰力を発生させる第1バルブと、該第1バルブに背圧を付与する背圧室とを有する減衰力発生機構と、内部に前記第2通路の少なくとも一部が形成される絞り部材と、ケース部材内に配置され、該ケース部材内で撓み可能な可撓部材と、前記可撓部材により画成されて設けられた前記ケース部材内の室と、前記ピストンロッドの内周側に形成される孔と、前記孔に挿入され、軸方向の位置により前記孔との間の隙間を異ならせるピン部材と、前記孔と前記ピン部材とにより形成される中空室と、を有する。前記中空室には、前記ロッド側室の作動流体を前記シリンダと前記ピストンとの相対位置により変化しない状態で供給する第3通路と、前記背圧室に作動流体を供給する第4通路と、前記ケース部材に作動流体を供給する第5通路と、前記絞り部材を介して前記ボトム側室に作動流体を供給する第6通路と、が連通される。
【発明の効果】
【0008】
上記の緩衝器によれば、位置感応の減衰力可変式の緩衝器において、周波数に応じて減衰力を良好に制御することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明に係る実施形態の緩衝器を示す断面図である。
図2】本発明に係る実施形態の緩衝器を示すピストン周辺の部分断面図である。
図3】本発明に係る実施形態の緩衝器を示す伸び側の減衰力発生機構および周波数感応機構周辺の部分断面図である。
図4】本発明に係る実施形態の緩衝器のピストン周辺の油圧回路図である。
図5】本発明に係る実施形態の緩衝器のピストン速度に対する減衰力の関係を概念的に示す特性線図である。
図6】本発明に係る実施形態の緩衝器のピストン周波数に対する減衰力の関係を概念的に示す特性線図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明に係る実施形態を図面に基づいて説明する。なお、以下においては、説明の便宜上、図1図4における上側を「上」とし、図1図4における下側を「下」として説明する。
【0011】
図1に示すように、本実施形態の緩衝器1は、複筒型の油圧緩衝器であり、作動流体が封入されるシリンダ2を有している。シリンダ2は、円筒状の内筒3と、この内筒3よりも大径で内筒3を覆うように同心状に設けられる略有底円筒状の外筒4と、外筒4の上部開口側を覆うカバー5とを有している。シリンダ2は、内筒3と外筒4との間がリザーバ室6となっている。
【0012】
外筒4は、略円筒状の胴部材11と、胴部材11の下部側に嵌合固定されて胴部材11の下部を閉塞する底部材12とからなっている。底部材12には、軸方向の胴部材11とは反対の外側に取付アイ13が固定されている。
【0013】
カバー5は、筒状部15と筒状部15の上端側から径方向内方に延出する内フランジ部16とを有している。カバー5は、胴部材11の上端開口部を内フランジ部16で覆い胴部材11の外周面を筒状部15で覆うように胴部材11に被せられており、この状態で、筒状部15の一部が径方向内方に加締められて胴部材11に固定されている。
【0014】
シリンダ2の内筒3内には、ピストン18が摺動可能に嵌装されている。内筒3内に設けられたピストン18は、内筒3内を上室19(ロッド側室)と下室20(ボトム側室)との2つの室に区画している。シリンダ2内には、内筒3内の上室19および下室20内に作動流体としての油液が封入され、内筒3と外筒4との間のリザーバ室6内に作動流体としての油液とガスとが封入される。
【0015】
シリンダ2には、ピストンロッド21の一端側が挿入されている。ピストンロッド21の他端側はシリンダ2の外部へ延出されている。ピストン18は、このピストンロッド21のシリンダ2内に配置される一端側に連結されている。ピストン18およびピストンロッド21は一体に移動する。ピストンロッド21がシリンダ2からの突出量を増やす伸び行程において、ピストン18は上室19側へ移動することになり、ピストンロッド21がシリンダ2からの突出量を減らす縮み行程において、ピストン18は下室20側へ移動する。ピストンロッド21は、上室19内を貫通しており、下室20は貫通していない。よって、上室19は、ピストンロッド21が貫通するロッド側室であり、下室20は外筒4の底部材12側のボトム側室である。
【0016】
内筒3および外筒4の上端開口側には、ロッドガイド22が嵌合されている。外筒4にはロッドガイド22よりもシリンダ2の外部側である上側にシール部材23が嵌合されている。ロッドガイド22およびシール部材23は、いずれも環状をなしている。ピストンロッド21は、これらロッドガイド22およびシール部材23のそれぞれの内側に摺動可能に挿通されてシリンダ2の外部に延出されている。
【0017】
ここで、ロッドガイド22は、ピストンロッド21を、そのシリンダ径方向移動を規制しつつ軸方向移動可能に支持して、このピストンロッド21の移動を案内する。シール部材23は、その外周部で外筒4に密着する。シール部材23の内周部は、軸方向に移動するピストンロッド21の外周部に摺接している。これにより、内筒3内の油液と、外筒4内のリザーバ室6の高圧ガスおよび油液とが外部に漏洩するのを防止する。
【0018】
ロッドガイド22は、その外周部が、下部よりも上部が大径となる段差状をなしている。ロッドガイド22は、小径の下部において内筒3の上端の内周部に嵌合する。ロッドガイド22は、大径の上部において外筒4の上部の内周部に嵌合する。外筒4の底部材12上には、下室20とリザーバ室6とを画成するベースバルブ25が設置されている。このベースバルブ25に内筒3の下端の内周部が嵌合されている。外筒4の上端部は、径方向内方に加締められている。この加締め部分とロッドガイド22とがシール部材23を挟持している。
【0019】
ピストンロッド21は、主軸部27と、これより小径の取付軸部28とを有している。
取付軸部28はシリンダ2内に配置されてピストン18等が取り付けられている。主軸部27の取付軸部28側の端部は、軸直交方向に広がる軸段部29となっている。取付軸部28の外周部には、軸方向の主軸部27とは反対側の先端位置にオネジ31が形成されている。
【0020】
ピストンロッド21の径方向の中央には、軸方向に沿う孔261が、取付軸部28の主軸部27とは反対側の先端面から、主軸部27の所定の途中位置まで形成されている。言い換えれば、孔261はピストンロッド21の内周側に形成されている。この孔261内に、ベースバルブ25側に支持されたピン部材262が挿入されている。孔261とピン部材262との間は、ピストンロッド21内で油液が流動可能な中空室263となっている。言い換えれば、中空室263は、ピストンロッド21の孔261とピン部材262とにより形成されている。
【0021】
ピストンロッド21の取付軸部28には、軸方向の主軸部27側から順に、径方向穴271、径方向穴272および径方向穴273が形成されている。これら径方向穴271~273は、いずれも孔261に直交して取付軸部28を径方向に貫通している。よって、径方向穴271~273は、いずれも中空室263に連通している。
【0022】
ピストンロッド21には、主軸部27のピストン18とロッドガイド22との間の部分に、いずれも円環状のストッパ部材281および一対のバネ受282,283と、コイルバネからなるリバウンドスプリング284とが設けられている。ストッパ部材281は、内周側にピストンロッド21が挿通され、主軸部27の外周面から径方向内方に凹む固定溝285に加締められて固定されている。バネ受282はストッパ部材281に当接すると共にリバウンドスプリング284の一端に嵌合されている。バネ受283はリバウンドスプリング284の他端に嵌合されてロッドガイド22に対向している。
【0023】
緩衝器1は、例えばピストンロッド21のシリンダ2からの突出部分が上部に配置されて車体により支持され、シリンダ2側の取付アイ13が下部に配置されて車輪側に連結される。これとは逆に、シリンダ2側が車体により支持され、ピストンロッド21が車輪側に連結されるようにしても良い。車輪が走行に伴って振動すると該振動に伴ってシリンダ2とピストンロッド21との位置が相対的に変化するが、上記変化はピストン18およびピストンロッド21の少なくともいずれか一方に形成された流路の流体抵抗により抑制される。以下で詳述するごとくピストン18およびピストンロッド21の少なくともいずれか一方に形成された流路の流体抵抗は振動の速度や振幅により異なるように作られており、振動を抑制することにより、乗り心地が改善される。上記シリンダ2とピストンロッド21との間には、車輪が発生する振動の他に、車両の走行に伴って車体に発生する慣性力や遠心力も作用する。例えばハンドル操作により走行方向が変化することにより車体に遠心力が発生する。この遠心力に基づく力が上記シリンダ2とピストンロッド21との間に作用する。以下で説明するとおり、緩衝器1は車両の走行に伴って車体に発生する力に基づく振動に対して良好な特性を有しており、車両走行における高い安定性が得られる。
【0024】
図2に示すように、ピストン18は、ピストンロッド21に支持される金属製のピストン本体35と、ピストン本体35の外周面に一体に装着されて内筒3内を摺動する円環状の合成樹脂製の摺動部材36とによって構成されている。
【0025】
ピストン本体35には、上室19と下室20とを連通させ、ピストン18の上室19側への移動、つまり伸び行程において上室19から下室20に向けて油液が流れ出す通路を内側に形成する複数(図2では断面とした関係上一カ所のみ図示)の通路穴38と、ピストン18の下室20側への移動、つまり縮み行程において下室20から上室19に向けて油液が流れ出す通路を内側に形成する複数(図2では断面とした関係上一カ所のみ図示)の通路穴39とが設けられている。つまり、複数の通路穴38内の通路と複数の通路穴39内の通路とが、ピストン18の移動により上室19と下室20との間を作動流体である油液が流れるように連通する。通路穴38は、円周方向において、それぞれ間に一カ所の通路穴39を挟んで等ピッチで形成されており、ピストン18の軸方向一側(図2の上側)が径方向外側に軸方向他側(図2の下側)が径方向内側に開口している。
【0026】
図3に示すように、これら半数の通路穴38に対して、減衰力を発生する減衰力発生機構41が設けられている。減衰力発生機構41は、ピストン18の軸方向の一端側である下室20側に配置されて、ピストンロッド21に取り付けられている。通路穴38は、ピストンロッド21およびピストン18が伸び側(図3の上側)に移動するときに油液が通過する伸び側の通路を内側に形成している。これらに対して設けられた減衰力発生機構41は、伸び側の通路穴38内の通路の油液の流動を抑制して減衰力を発生させる伸び側の減衰力発生機構となっている。ピストンロッド21の取付軸部28には、減衰力発生機構41のピストン18とは反対側に隣接して、伸び行程でピストン18の往復動の周波数(以下、ピストン周波数と称す)に感応して減衰力を可変とする周波数感応機構43が取り付けられている。
【0027】
図2に示すように、残りの半数を構成する通路穴39は、円周方向において、それぞれ間に一カ所の通路穴38を挟んで等ピッチで形成されている。残りの半数を構成する通路穴39は、ピストン18の軸線方向他側(図2の下側)が径方向外側に軸線方向一側(図2の上側)が径方向内側に開口している。
【0028】
そして、これら残り半数の通路穴39に、減衰力を発生する減衰力発生機構42が設けられている。減衰力発生機構42は、ピストン18の軸方向の他端側である軸線方向の上室19側に配置されて、ピストンロッド21に取り付けられている。通路穴39は、ピストンロッド21およびピストン18が縮み側(図2の下側)に移動するときに油液が通過する縮み側の通路を内側に形成している。これらに対して設けられた減衰力発生機構42は、縮み側の通路穴39内の通路の油液の流動を抑制して減衰力を発生させる縮み側の減衰力発生機構となっている。
【0029】
ピストン本体35は、略円板形状をなしている。ピストン本体35の径方向の中央には、軸方向に貫通して、ピストンロッド21の取付軸部28を嵌合させるための嵌合穴45が形成されている。ピストン本体35の軸方向の下室20側の端部は、その嵌合穴45と通路穴38との間の部分が減衰力発生機構41の内周側を支持している。ピストン本体35の軸方向の上室19側の端部は、その嵌合穴45と通路穴39との間の部分が減衰力発生機構42の内周側を支持している。
【0030】
ピストン本体35の軸方向の下室20側の端部には、通路穴38の下室20側の開口よりも径方向外側に、減衰力発生機構41の一部である環状のバルブシート部47が形成されている。バルブシート部47には径方向に貫通する切欠93が形成されている。また、ピストン本体35の軸方向の上室19側の端部には、通路穴39の上室19側の開口よりも径方向外側に、減衰力発生機構42の一部である環状のバルブシート部49が形成されている。
【0031】
ここで、ピストン本体35は、軸方向の上室19側の構成体291と軸方向の下室20側の構成体292とが組み合わせられて構成されている。構成体291,292は径方向および周方向に位置決めされた状態とされ、この状態でこれらに摺動部材36が巻かれている。この状態で、構成体291,292は、一体化されている。バルブシート部49は、構成体291に形成されており、バルブシート部47は、構成体292に形成されている。
【0032】
ピストン本体35の嵌合穴45は、構成体291に形成されてピストンロッド21の取付軸部28を嵌合させる小径穴部301と、構成体292に形成され、小径穴部301よりも大径で取付軸部28との間に径方向の隙間を形成する大径穴部302とを有している。ピストンロッド21の径方向穴271は、ピストンロッド21の軸方向における位置をピストン18の大径穴部302と合わせている。ピストンロッド21の径方向穴271は、ピストンロッド21の径方向において大径穴部302と対向している。
【0033】
ピストン本体35において、バルブシート部47の嵌合穴45とは反対側は、バルブシート部47よりも軸線方向高さが低い段差状をなしている。この段差状の部分に縮み側の通路穴39の下室20側の開口が配置されている。同様に、ピストン本体35において、バルブシート部49の嵌合穴45とは反対側は、バルブシート部49よりも軸線方向高さが低い段差状をなしている。この段差状の部分に伸び側の通路穴38の上室19側の開口が配置されている。
【0034】
図3に示すように、伸び側の減衰力発生機構41は、圧力制御型のバルブ機構である。伸び側の減衰力発生機構41は、軸方向のピストン18側から順に、一枚のディスク51と、一枚のメインバルブ52(第1バルブ)と、一枚のディスク311と、一枚のディスク312と、一枚のディスク313と、一枚のディスク53と、一枚のディスク54と、一つのシート部材55と、一枚のディスク56と、複数枚のディスク60と、一枚のディスク61と、一枚のディスク62とを有している。ディスク51,53,54,56,60~62,311~313およびシート部材55は、金属製である。ディスク51,53,54,56,60~62,311~313は、いずれも内側にピストンロッド21の取付軸部28を嵌合可能な一定厚さの有孔円形平板状をなしている。メインバルブ52およびシート部材55は、いずれも内側にピストンロッド21の取付軸部28を嵌合可能な円環状をなしている。
【0035】
シート部材55は、軸直交方向に沿って広がる有孔円板状の底部71と、底部71の内周側に形成された軸方向に沿う円筒状の内側円筒状部72と、底部71の外周側に形成された軸方向に沿う円筒状の外側円筒状部73とを有している。底部71は、内側円筒状部72および外側円筒状部73に対し軸方向の一側にずれている。底部71には、軸方向に貫通する貫通穴74が形成されている。内側円筒状部72の内側には、軸方向の底部71側にピストンロッド21の取付軸部28を嵌合させる小径穴部75が形成されている。内側円筒状部72の内側には、軸方向の底部71とは反対側に小径穴部75より大径の大径穴部76が形成されている。ピストンロッド21の径方向穴272は、ピストンロッド21の軸方向における位置をシート部材55の大径穴部76と合わせている。ピストンロッド21の径方向穴272は、ピストンロッド21の径方向において大径穴部76と対向している。
【0036】
シート部材55の内側円筒状部72の軸方向の底部71側の端部は、ディスク56の内周側を支持している。シート部材55の内側円筒状部72の軸方向の底部71側の端部は、内側円筒状部72の軸方向の底部71とは反対側の端部は、ディスク54の内周側を支持している。シート部材55の外側円筒状部73の軸方向の底部71側の端部は、環状のバルブシート部79である。シート部材55の内側は、貫通穴74を含んで、メインバルブ52にピストン18の方向に圧力を加える背圧室80である。
【0037】
ディスク51は、バルブシート部47の内径よりも小径の外径となっている。ディスク51には、内周側に径方向に延びる切欠87が形成されている。切欠87内はオリフィス95を構成する。
【0038】
メインバルブ52は、金属製のディスク85と、ディスク85に固着されるゴム製のシール部材86とからなっている。ディスク85は、内側にピストンロッド21の取付軸部28を嵌合可能な一定厚さの有孔円形平板状をなしており、バルブシート部47の外径よりも若干大径の外径となっている。シール部材86は、ディスク85の軸方向におけるピストン18とは反対の外周側に固着されており、円環状をなしている。
【0039】
ディスク85は、ピストン18のバルブシート部47に着座可能である。メインバルブ52は、ピストン18に設けられた通路穴38内の通路とシート部材55に設けられた背圧室80との間に設けられている。これにより、ピストン18の伸び側への摺動によって生じる油液の流れを抑制して減衰力を発生させる。このメインバルブ52はディスクバルブとなっている。
【0040】
シール部材86は、シート部材55の外側円筒状部73の内周面に全周にわたり接触して、メインバルブ52と外側円筒状部73との隙間をシールする。よって、メインバルブ52とシート部材55との間の上記した背圧室80は、メインバルブ52に、ピストン18の方向、つまりバルブシート部47にディスク85を着座させる閉弁方向に内圧を作用させる。
【0041】
ディスク311は、シール部材86の内径よりも小径である。ディスク312は、ディスク311の外径よりも小径の外径となっている。ディスク313は、ディスク312の外径よりも小径の外径となっている。ディスク53は、ディスク313の外径と同等の外径であり、外周側に切欠90が形成されている。ディスク54は、ディスク53の外径と同等の外径である。ディスク54には、内周側に切欠91が形成されている。切欠91は、ディスク53の切欠90に常時連通している。切欠91内の通路および切欠90内の通路を介してシート部材55の大径穴部76内の通路と背圧室80とが常時連通している。切欠91内の通路および切欠90内の通路は、オリフィス96を構成している。
【0042】
ディスク51の切欠87内のオリフィス95、ピストン18の大径穴部302内の通路、ピストンロッド21の径方向穴271内の通路、中空室263、ピストンロッド21の径方向穴272内の通路、シート部材55の大径穴部76内の通路およびディスク54,53の切欠91,90内のオリフィス96が、背圧室80にシリンダ2内の上室19から通路穴38内の通路を介して油液を導入する通路となっている。
【0043】
メインバルブ52は、背圧室80を有するパイロットタイプの減衰バルブである。ディスク85がピストン18のバルブシート部47から離座して開くと、通路穴38内の通路からの油液をピストン18とシート部材55の外側円筒状部73との間で径方向に広がる通路88を介して下室20に流す。つまり、伸び側の減衰力発生機構41は、ディスク51の切欠87内のオリフィス95、ピストン18の大径穴部302内の通路、ピストンロッド21の径方向穴271内の通路、中空室263、ピストンロッド21の径方向穴272内の通路、ディスク54,53の切欠91,90内のオリフィス96を介して油液の流れの一部を背圧室80に導入して背圧室80の圧力によってメインバルブ52の開弁を制御する。バルブシート部47の切欠93は、メインバルブ52がバルブシート部79に当接状態にあっても背圧室80を下室20に連通させる固定オリフィス100を構成している。
【0044】
ディスク56は、シート部材55のバルブシート部79の内径よりも小径の外径となっている。複数枚のディスク60は、バルブシート部79の外径よりも若干大径の外径となっており、バルブシート部79に着座可能となっている。ディスク61は、ディスク60の外径よりも小径の外径となっている。ディスク62は、ディスク60の外径と同等の外径となっている。
【0045】
複数枚のディスク60が、バルブシート部79に離着座可能である。複数枚のディスク60が、バルブシート部79から離座することで、背圧室80と下室20とを連通させるとともにこれらの間の油液の流れを抑制するハードバルブ99を構成している。背圧室80は、メインバルブ52とディスク311~313,53,54とシート部材55とディスク56とハードバルブ99とで囲まれて形成されている。
【0046】
ピストン18に設けられた伸び側の通路穴38内の通路と、開時のメインバルブ52とバルブシート部47との隙間と、ピストン18と外側円筒状部73との間で径方向に広がる通路88とが、伸び行程でのピストン18の移動により上室19から下室20に向けて油液が流れ出す伸び側の第1通路101を構成している。第1通路101は、ピストン18に形成されている。伸び側の減衰力発生機構41は、この伸び側の第1通路101に設けられて減衰力を発生させる。伸び側の減衰力発生機構41は、この伸び側の第1通路101に設けられて減衰力を発生させるメインバルブ52と、メインバルブ52に背圧を付与する背圧室80とを有している。
【0047】
図2に示すように、縮み側の減衰力発生機構42は、軸方向のピストン18側から順に、一枚のディスク111と、一枚のディスク112と、一枚のディスク113と、一枚のディスク114と、一枚のディスク115と、一枚のディスク116と、一枚のディスク117と、一枚の環状部材118とを有している。ディスク111~117および環状部材118は、金属製であり、いずれも内側にピストンロッド21の取付軸部28を嵌合可能な一定厚さの有孔円形平板状をなしている。
【0048】
ディスク111は、ピストン18のバルブシート部49の内径よりも小径の外径となっている。ディスク112は、ピストン18のバルブシート部49の外径よりも若干大径の外径となっている。ディスク112は、バルブシート部49に着座可能となっている。ディスク112には、外周側に切欠121が形成されている。切欠121はバルブシート部49を径方向に横断している。
【0049】
ディスク113は、ディスク112の外径と同径の外径となっている。ディスク114は、ディスク113の外径よりも小径の外径となっている。ディスク115は、ディスク114の外径よりも小径の外径となっている。ディスク116は、ディスク115の外径よりも小径の外径となっている。ディスク117は、ディスク113の外径と同等の外径となっている。環状部材118は、ディスク117の外径よりも小径の外径となっており、ディスク111~117よりも厚く高剛性となっている。この環状部材118は、ピストンロッド21の軸段部29に当接している。
【0050】
ディスク112~115は、バルブシート部49に離着座可能である。ディスク112~115がバルブシート部49から離座することで通路穴39内の通路を上室19に開放可能であって、下室20と上室19との間の油液の流れを抑制するディスクバルブ122を構成している。ディスク112の切欠121は、ディスク112がバルブシート部49に当接状態にあっても上室19と下室20とを連通させる固定オリフィス123を構成している。ディスク117および環状部材118はディスクバルブ122の開方向への規定以上の変形を規制する。
【0051】
ピストン18に設けられた縮み側の通路穴39内の通路と、固定オリフィス123と、開時のディスクバルブ122とバルブシート部49との隙間とが、縮み行程でのピストン18の移動により下室20から上室19に向けて油液が流れ出す縮み側の第1通路102を構成している。第1通路102は、ピストン18に形成されている。縮み側の減衰力発生機構42は、この縮み側の第1通路102に設けられて減衰力を発生させる。
【0052】
本実施形態では、図3に示す伸び側のハードバルブ99、図2に示す縮み側のディスクバルブ122をいずれも内周クランプのディスクバルブの例を示したが、これに限らない。減衰力を発生する機構であればよく、例えば、ディスクバルブをコイルバネで付勢するリフトタイプのバルブとしてもよく、また、ポペット弁であってもよい。
【0053】
図3に示すように、周波数感応機構43は、軸方向の減衰力発生機構41側から順に、一つのケース部材本体131と、一枚のディスク132と、一枚のディスク133および一枚の区画ディスク134(可撓部材)と、複数枚のディスク135と、一枚の蓋部材139とを有している。ケース部材本体131、ディスク132,133,135および蓋部材139は、金属製である。ディスク132,133,135および蓋部材139は、いずれも内側にピストンロッド21の取付軸部28を嵌合可能な一定厚さの有孔円形平板状をなしている。ケース部材本体131は、内側にピストンロッド21の取付軸部28を嵌合可能な円環状をなしている。ケース部材本体131は、ディスク62とで、ハードバルブ99の開方向への変形時にハードバルブ99の変形を抑制する。
【0054】
蓋部材139は、ケース部材本体131に嵌合されて筒状のケース部材140をケース部材本体131とで構成するものである。ケース部材本体131は、軸直交方向に沿う有孔円板状の基部141と、基部141の内周側に形成された軸方向に沿う筒状の内側円筒状部142と、基部141の内側円筒状部142よりも外周側に形成された軸方向に沿う筒状のシート部143とを有している。ケース部材本体131は、基部141のシート部143よりも外周側に、円筒状の筒状部166を有している。
【0055】
内側円筒状部142は、基部141から軸方向両側に突出しており、シート部143は、基部141から軸方向片側のみに突出している。筒状部166は、基部141から軸方向においてシート部143と同側に突出している。筒状部166は、基部141からの軸方向の高さがシート部143よりも大きくなっている。内側円筒状部142の内側には、軸方向におけるシート部143の突出方向とは反対側にピストンロッド21の取付軸部28を嵌合させる小径穴部145が形成されている。内側円筒状部142の内側には、軸方向のシート部143側に小径穴部145より大径の大径穴部146が形成されている。径方向穴273は、ピストンロッド21の軸方向における位置を大径穴部146と合わせている。径方向穴273は、大径穴部146と径方向に対向する。
【0056】
ケース部材本体131の内側円筒状部142は、その軸方向の小径穴部145側の一端部でディスク62の内周側を支持している。ケース部材本体131の内側円筒状部142は、その軸方向の大径穴部146側の他端部でディスク132の内周側を支持している。ケース部材本体131のシート部143は、その突出先端側の端部で、区画ディスク134の外周側を支持している。シート部143には、周方向に部分的に切欠き303が形成されている。よって、ケース部材本体131におけるシート部143の径方向内側と径方向外側とが常時連通している。
【0057】
ディスク132は、内側円筒状部142のこれに接触する部分よりも大径且つシート部143の内径よりも小径の外径となっている。ディスク132には、内周側に切欠151が形成されている。切欠151は、内側円筒状部142のディスク132への接触部分を径方向に横断している。切欠151内は、オリフィス152を構成している。ディスク133は、ディスク132の外径よりも小径の外径となっている。
【0058】
区画ディスク134は、金属製のディスク155と、ディスク155の外周側に固着されるゴム製のシール部材156とからなっている。区画ディスク134は、弾性変形可能となっている。区画ディスク134は、ケース部材140内に配置され、ケース部材140内で撓み可能となっている。ディスク155は、内側にディスク133を径方向に隙間をもって配置可能な一定厚さの有孔円形平板状をなしており、ディスク133よりも厚さが薄くなっている。ディスク155は、ケース部材本体131のシート部143の外径よりも大径の外径となっている。
【0059】
シール部材156は、ディスク155の外周側に円環状をなして固着されている。シール部材156は、ディスク155から軸方向の蓋部材139とは反対側に突出する円環状のシール本体部158と、ディスク155から軸方向の蓋部材139側に突出する突出部159とを有している。ディスク155とケース部材本体131の筒状部166との径方向の間には、環状の隙間が設けられている。シール部材156は、その隙間を介してディスク155の両面にシール本体部158と突出部159とを固着している。このような構成としたことにより、ディスク155へのシール部材156の固着を容易にしている。シール本体部158は、全周にわたって筒状部166に接触している。シール本体部158は、最小内径となるディスク155側の端部の内径がシート部143の外径よりも若干大径となっている。これにより、区画ディスク134は、そのディスク155がケース部材本体131のシート部143に当接して着座する。突出部159には径方向に貫通する径方向溝161が形成されている。なお、シート部143に切欠303が設けられているため、ディスク155のシール本体部158が設けられる側の受圧面積と、突出部159が設けられる側の受圧面積とは同じ程度となる。
【0060】
ディスク135は、区画ディスク134のディスク155の内径よりも大径の外径となっている。これにより、区画ディスク134は、内周側が、ディスク135に軸方向に支持される。区画ディスク134は、非支持側である外周側にケース部材140との間をシールする環状のシール部材156が設けられている。区画ディスク134は、シール部材156のシール本体部158がケース部材140の筒状部166に接触してケース部材140に対し芯出しされる。言い換えれば、区画ディスク134の内周側は、両面側からクランプされずに片面側のみディスク135に支持される単純支持構造となっている。区画ディスク134は、ディスク155の外周側の軸方向におけるディスク135とは反対側がシート部143に支持される。区画ディスク134の内周側は、ディスク132とディスク135との間の範囲で軸方向に移動可能である。
【0061】
蓋部材139は、内側にピストンロッド21の取付軸部28を嵌合可能な有孔円板状である。蓋部材139は、ケース部材本体131の筒状部166内に嵌合される。蓋部材139には、径方向の中間部に軸方向に貫通する貫通穴167が形成されている。貫通穴167は、蓋部材139におけるディスク135よりも径方向外側の位置に形成されている。貫通穴167は、ディスク155が撓むことで蓋部材139に接触するシール部材156の突出部159よりも径方向内側に形成されている。
【0062】
区画ディスク134のシール本体部158は、ケース部材本体131の筒状部166の内周面に全周にわたり接触して、区画ディスク134と筒状部166との隙間をシールする。つまり、区画ディスク134はパッキンバルブである。シール本体部158は、区画ディスク134がケース部材140内で許容される範囲で変形しても、区画ディスク134と筒状部166との隙間を全周にわたって常時シールする。区画ディスク134は、そのシール本体部158が筒状部166に全周にわたり接触することで上記のようにケース部材140に対し芯出しされる。
【0063】
区画ディスク134は、ケース部材140内を、ケース部材本体131の基部141側の容量可変な可変室171と、蓋部材139側の容量可変な可変室172とに区画する。言い換えれば、可変室171,172は、可撓部材である区画ディスク134により画成されてケース部材140内に設けられている。可変室171はディスク132の切欠151内のオリフィス152を介してケース部材本体131の大径穴部146内の通路に連通する。可変室172は蓋部材139の貫通穴167内の通路を介して下室20に連通する。
区画ディスク134とディスク135とは、可変室171から可変室172への油液の流れを互いに当接することで規制する一方、可変室172から可変室171への油液の流れを互いに離間することで許容するチェック弁173を構成している。
【0064】
上記構成の周波数感応機構43は、ピストン18の移動速度(以下、ピストン速度と称す)によらず、ピストン周波数が低周波時の減衰力が、高周波時の減衰力よりも高くなるように減衰力を可変とする。
【0065】
ピストンロッド21には、取付軸部28をそれぞれの内側に挿通させた状態で、図2に示すように、環状部材118、ディスク117、ディスク116、ディスク115、ディスク114、ディスク113、ディスク112、ディスク111、ピストン18、ディスク51、メインバルブ52、ディスク311、ディスク312、ディスク313、ディスク53、ディスク54が、この順に、軸段部29に重ねられている。さらに、図3に示すように、取付軸部28をそれぞれの内側に挿通させた状態で、ディスク54に、シート部材55、ディスク56、複数枚のディスク60、ディスク61、ディスク62、ケース部材本体131、ディスク132、ディスク133が、この順に、重ねられている。その際に、シート部材55は、メインバルブ52のシール部材86を外側円筒状部73に嵌合させている。
【0066】
また、ディスク133を内側に挿通させた状態で、区画ディスク134がケース部材本体131のシート部143に重ねられている。その際に、区画ディスク134は、ケース部材本体131の筒状部166に嵌合されている。さらに、取付軸部28をそれぞれの内側に挿通させた状態で、複数枚のディスク135、蓋部材139が、この順に、ディスク133および区画ディスク134に重ねられている。その際に、蓋部材139は、ケース部材本体131の筒状部166に嵌合されている。加えて、蓋部材139の貫通穴167を塞がない外径の複数枚のディスク174と、環状部材118と共通部品である環状部材175とが、取付軸部28を内側に挿通させて蓋部材139に重ねられている。
【0067】
このように部品が配置された状態で、環状部材175よりも突出する取付軸部28のオネジ31にナット176(絞り部材)が螺合されている。この状態で、図2に示す環状部材118、ディスク117,116,115,114,113,112,111、ピストン18、ディスク51、メインバルブ52、ディスク311,312,313,53,54、シート部材55、図3に示すディスク56、複数枚のディスク60、ディスク61,62、ケース部材本体131、ディスク132,133、複数枚のディスク135、蓋部材139、複数枚のディスク174および環状部材175は、それぞれ内周側または全部がピストンロッド21の軸段部29とナット176とに挟持されて軸方向にクランプされている。その際に、区画ディスク134は、内周側が軸方向にクランプされることはない。
【0068】
つまり、図2に示す縮み側の減衰力発生機構42と、ピストン18と、図3に示す伸び側の減衰力発生機構41と、伸び側の周波数感応機構43とが、それぞれの内周側にピストンロッド21が挿通された状態で、ピストンロッド21にナット176により締結されている。言い換えれば、ピストン18と、周波数感応機構43を構成するケース部材本体131、ディスク132,133、複数枚のディスク135および蓋部材139とが、内周側にピストンロッド21が挿通された状態で、ピストンロッド21にナット176により締結される。なお、周波数感応機構43を予め組み立てた状態で、ピストンロッド21に組み付けることも可能である。その場合、ピストンロッド21のかわりにダミーのロッドを挿通させておき、このロッドを抜きつつピストンロッド21の取付軸部28を周波数感応機構43の内周側に挿通させる。周波数感応機構43を予め組み立てた状態とする場合、ケース部材本体131の筒状部166に蓋部材139を圧入して固定することが可能になる。
【0069】
ナット176は、ピストンロッド21のオネジ31に螺合するメネジ321を有する六角形状のナット本体部322と、ナット本体部322から軸方向に突出する円環状の突出部323と、突出部323の軸方向のナット本体部322とは反対側の端部の全周から径方向内方に突出する円環状の内フランジ部324とを有している。内フランジ部324の内側にピン部材262が挿通される。内フランジ部324の内径は孔261の内径よりも小径となっている。内フランジ部324とピン部材262との隙間は円環状となっている。この隙間がオリフィス326(第6通路)となっている。オリフィス326は中空室263と下室20とを連通させる。ここで、ピン部材262は、軸方向位置によって外径が異なる部分を有している。よって、オリフィス326は、シリンダ2に対するナット176すなわちピストン18の相対位置によりオリフィス面積が変更可能である。
内フランジ部324とピン部材262とが、シリンダ2に対するピストン18の相対位置によりオリフィス面積が変更可能な可変オリフィス機構325となっている。なお、ナット176に内フランジ部324を形成するのではなく、ピストンロッド21の孔261の下端部にブッシュを圧入して可変オリフィス機構を形成しても良い。
【0070】
上記のようにピストンロッド21に取り付けられた状態で、ディスク51の切欠87内のオリフィス95と、ピストン18の大径穴部302内の通路と、ピストンロッド21の径方向穴271内の通路と、中空室263と、ピストンロッド21の径方向穴272内の通路と、減衰力発生機構41のシート部材55の大径穴部76内の通路と、ピストンロッド21の径方向穴273内の通路と、周波数感応機構43のケース部材本体131の大径穴部146内の通路とが連通する。これにより、背圧室80が、ディスク53,54の切欠90,91内のオリフィス96と、シート部材55の大径穴部76内の通路と、ピストンロッド21の径方向穴272内の通路と、中空室263と、ピストンロッド21の径方向穴273内の通路と、ケース部材本体131の大径穴部146内の通路と、ディスク132の切欠151内のオリフィス152とを介して周波数感応機構43の可変室171に常時連通する。周波数感応機構43の可変室172は、蓋部材139の貫通穴167を介して下室20に常時連通する。中空室263は、可変オリフィス機構325のオリフィス326を介して下室20に常時連通する。
【0071】
ディスク51に設けられた切欠87内のオリフィス95と、ピストン18の大径穴部302内の通路と、ピストンロッド21の径方向穴271内の通路と、中空室263と、ピストンロッド21の径方向穴272内の通路と、シート部材55の大径穴部76内の通路と、ディスク54,53の切欠91,90内のオリフィス96と、背圧室80と、開時のハードバルブ99とバルブシート部79との隙間と、可変オリフィス機構325内のオリフィス326と、ピストンロッド21の径方向穴273内の通路と、ケース部材本体131の大径穴部146内の通路と、ディスク132の切欠151内のオリフィス152と、可変室171,172と、蓋部材139の貫通穴167内の通路とが、上記した伸び側の第1通路101から分岐し分岐後に第1通路101と並列に設けられる伸び側の第2通路181を構成している。第2通路181への油液の導入部のオリフィス95が、可変オリフィス機構325と周波数感応機構43と減衰力発生機構41の背圧室80とに共通の導入オリフィスとなっている。
【0072】
緩衝器1は、ピストン18に形成された第1通路101を介して上室19の油液を第2通路181に供給する。第2通路181は、ピストン18に当接するディスク51により形成される切欠87内のオリフィス95を介して第1通路101から分岐している。言い換えれば、第2通路181は、ピストン18に当接するディスク51により形成されるオリフィス95を介して第1通路101から分岐している。ケース部材140には、その内部に、第2通路181の少なくとも一部である2つの可変室171,172が区画ディスク134により画成されて設けられている。この第2通路181に、周波数感応機構43と可変オリフィス機構325とが設けられている。
【0073】
ピストンロッド21の径方向穴271内は、上室19の油液をシリンダ2とピストン18との相対位置により変化しない状態で中空室263に供給する第3通路331となっている。ピストンロッド21の径方向穴272内は、中空室263から背圧室80に油液を供給する第4通路332となっている。ピストンロッド21の径方向穴273内は、中空室263からケース部材140の可変室171に油液を供給する第5通路333となっている。可変オリフィス機構325内のオリフィス326は、中空室263からナット176を介して下室20に油液を供給する。中空室263には、第3通路331、第4通路332、第5通路333およびオリフィス326が連通している。第3通路331、第4通路332、第5通路333およびオリフィス326は第2通路181を構成している。ナット176は、内部に第2通路181の少なくとも一部であるオリフィス326が形成されている。
【0074】
区画ディスク134は、内周側がディスク132とディスク135との間で移動し外周側がシート部143と蓋部材139との間で移動する範囲で変形可能となっている。ここで、区画ディスク134のディスク155の外周側を軸方向一側から支持するシート部143とディスク155の内周側を軸方向他側から支持するディスク135との間の軸方向の最短距離は、ディスク155の軸方向の厚さよりも小さくなっている。よって、可変室171,172が同圧のとき、ディスク155は、若干変形した状態でシート部143とディスク135とに自身の弾性力で全周にわたって圧接している。区画ディスク134は、その内周側が全周にわたってディスク135に接触する状態では、第2通路181の可変室171,172間の油液の流通を遮断する。区画ディスク134は、その内周側がディスク135から離間する状態では、第2通路181の可変室171,172間の油液の流通を許容する。区画ディスク134は、伸び行程では可変室171,172間の油液の流通を遮断し、縮み行程では可変室172,171間の油液の流通を許容する。
【0075】
ピン部材262は、図1に示すように、ベースバルブ25に支持される支持フランジ部350と、支持フランジ部350よりも小径で支持フランジ部350から軸方向に延出するピン軸部351とを有している。ピン軸部351は、支持フランジ部350から軸方向に延出する大径軸部352と、大径軸部352の支持フランジ部350とは反対側から軸方向に延出する第1テーパ軸部353と、第1テーパ軸部353の大径軸部352とは反対側から軸方向に延出する中径軸部354と、中径軸部354の第1テーパ軸部353とは反対側から軸方向に延出する第2テーパ軸部355と、第2テーパ軸部355の中径軸部354とは反対側から軸方向に延出する小径軸部356とを有している。
【0076】
大径軸部352は一定外径のストレートな円柱状であり、中径軸部354は大径軸部352よりも小径の一定外径のストレートな円柱状である。小径軸部356は中径軸部354よりも小径の一定外径のストレートな円柱状である。第1テーパ軸部353は大径軸部352と中径軸部354とを繋いでおり、大径軸部352側よりも中径軸部354側の方が外径が小径となるテーパ状である。第2テーパ軸部355は中径軸部354と小径軸部356とを繋いでおり、中径軸部354側よりも小径軸部356側の方が外径が小径となるテーパ状である。第1テーパ軸部353および第2テーパ軸部355は、ピン部材262が面取りされて形成されている。言い換えれば、面取りによりピン部材262の径が調整されている。ピン軸部351は、全体として、支持フランジ部350とは反対側が支持フランジ部350側よりも小径となる先細形状である。
【0077】
図3に示すように、ピン部材262は、ナット176の内フランジ部324の内側と、ピストンロッド21の孔261とに挿入されている。ピン部材262は、ピストンロッド21との間に中空室263を形成している。ナット176の内フランジ部324とピン部材262との隙間は、中空室263と下室20とを連通させるオリフィス326となっている。このオリフィス326は、大径軸部352が内フランジ部324と軸方向位置を合わせると通路面積が最も狭くなる。オリフィス326は、小径軸部356が内フランジ部324と軸方向位置を合わせると通路面積が最も広くなる。また、オリフィス326は、中径軸部354が内フランジ部324と軸方向位置を合わせると通路面積が、これらの中間となる。さらに、オリフィス326は、第1テーパ軸部353が内フランジ部324と軸方向位置を合わせると、第1テーパ軸部353の中径軸部354側に内フランジ部324が向かうほど通路面積が徐々に広くなるように構成されている。加えて、オリフィス326は、第2テーパ軸部355が内フランジ部324と軸方向位置を合わせると、第2テーパ軸部355の小径軸部356側に内フランジ部324が向かうほど通路面積が徐々に広くなるように構成されている。
【0078】
ナット176はピストンロッド21およびピストン18と一体に移動することから、ナット176の内フランジ部324とピン部材262とが、ピストンロッド21およびピストン18のシリンダ2に対する相対位置によりオリフィス326の通路面積を調整する可変オリフィス機構325を構成している。オリフィス326は、ピストンロッド21およびピストン18のシリンダ2に対する相対位置に応じて通路面積が変化する可変オリフィスになっている。可変オリフィス機構325は、言い換えれば、オリフィス326の通路面積をピン部材262により調整する。ピン部材262は、孔261に挿入され、車両の車高によって変わる孔261に対する軸方向の位置により孔261との間の隙間であるオリフィス326の流路面積を異ならせる。ナット176、ピストンロッド21およびピストン18が下室20の側への移動量が大きくなったときにオリフィス326の流路面積が小となるように、ピン部材262の径が調整されている。
【0079】
図1に示すように、外筒4の底部材12と内筒3との間には、上記したベースバルブ25が設けられている。このベースバルブ25は、下室20とリザーバ室6とを仕切る略円板状のベースバルブ部材371と、このベースバルブ部材371の下側つまりリザーバ室6側に設けられるディスクバルブ372と、ベースバルブ部材371の上側つまり下室20側に設けられるディスクバルブ373と、ベースバルブ部材371にディスクバルブ372およびディスクバルブ373を取り付ける取付ピン374と、ベースバルブ部材371の外周側に装着される係止部材375と、ピン部材262の支持フランジ部350を支持する支持板376とを有している。取付ピン374は、ディスクバルブ372およびディスクバルブ373の径方向中央側をベースバルブ部材371との間で挟持する。
【0080】
ベースバルブ部材371には、径方向の中央に取付ピン374が挿通される。この取付ピン374の径方向外側に、下室20とリザーバ室6との間で油液を流通させる複数の通路穴379が形成されており、これら通路穴379の取付ピン374とは反対側に、下室20とリザーバ室6との間で油液を流通させる複数の通路穴380が形成されている。リザーバ室6側のディスクバルブ372は、下室20から通路穴379を介するリザーバ室6への油液の流れを許容する一方でリザーバ室6から下室20への内側の通路穴379を介する油液の流れを規制する。ディスクバルブ373は、リザーバ室6から通路穴380を介する下室20への油液の流れを許容する一方で下室20からリザーバ室6への通路穴380を介する油液の流れを規制する。
【0081】
ディスクバルブ372は、縮み行程において開弁して下室20からリザーバ室6に通路穴379を介して油液を流す。ディスクバルブ372は、その際に減衰力を発生させる縮み側の減衰バルブである。ディスクバルブ373は、伸び行程において開弁してリザーバ室6から下室20内に通路穴380を介して油液を流す。その際に、ディスクバルブ373は、主としてピストンロッド21のシリンダ2からの伸び出しにより生じる液の不足分を補うようにリザーバ室6から下室20に実質的に減衰力を発生させることなく液を流すサクションバルブである。
【0082】
係止部材375は、筒状をなしており、その内側にベースバルブ部材371を嵌合させる。ベースバルブ部材371は、この係止部材375を介して内筒3の下端の内周部に嵌合されている。係止部材375の軸方向のピストン18側の端部には径方向内側に延出する係止フランジ部395が形成されている。支持板376は、外周部が係止フランジ部395のピストン18とは反対側に係止され、内周部がピン部材262の支持フランジ部350のピストン18側に係止されている。これにより、係止部材375および支持板376がピン部材262の支持フランジ部350を取付ピン374に当接する状態に保持する。支持板37には軸方向に貫通する図示略の貫通穴が支持フランジ部350と係止フランジ部395との間の範囲に形成されている。
【0083】
以上の構成の緩衝器1のピストン18の周辺の構成の油圧回路図は、図4に示すようになる。すなわち、上室19と下室20とを結ぶ第1通路101にメインバルブ52および固定オリフィス100が設けられている。第1通路101と並列の第2通路181は、オリフィス95を介して中空室263が連通し、中空室263がオリフィス96を介して背圧室80に接続されている。第2通路181は、中空室263がオリフィス152を介して周波数感応機構43の可変室171に接続される。周波数感応機構43の可変室172は下室20に連通している。背圧室80の圧力がメインバルブ52に閉方向に付与される。背圧室80は、ハードバルブ99を介して下室20に接続されている。可変室171と下室20との間にはチェック弁173が設けられている。そして、第2通路181では、中空室263と下室20との間に可変オリフィス機構325のオリフィス326が設けられている。加えて、下室20と上室19とを結ぶ第1通路102に、ディスクバルブ122と固定オリフィス123とが並列に設けられている。
【0084】
次に、緩衝器1の作動について説明する。
【0085】
[高車高時(ストローク伸び位置)]
少人数での乗車時等、車両の積載重量が所定値より小さいときには車高が所定値よりも高い高車高の状態となる。
【0086】
このような高車高時には、ピストンロッド21の軸方向において、例えば、内フランジ部324が中径軸部354と位置を合わせている。
【0087】
{ピストン周波数が低い場合}
(伸び行程)
このような高車高時に、低いピストン周波数でピストンロッド21が伸び側に移動する伸び行程では、ピストン速度が遅い時、上室19からの油液は、図3に示す第1通路101を構成する通路穴38内の通路から、バルブシート部47の固定オリフィス100を介して下室20に流れる。加えて、第2通路181を構成するディスク51の切欠87内のオリフィス95と、ピストン18の大径穴部302内の通路と、ピストンロッド21の径方向穴271内の第3通路331と、中空室263と、可変オリフィス機構325のオリフィス326とを介しても下室20に流れる。これにより、オリフィス特性(減衰力がピストン速度の2乗にほぼ比例する)の減衰力が発生する。このため、ピストン速度に対する減衰力の特性は、図5の細実線X1の左側の低速域での線部X1aに示すように、ピストン速度の上昇に対して比較的減衰力の上昇率が高くなる。
【0088】
ピストン速度が速くなると、上室19の油液は、第1通路101を構成する通路穴38内の通路から、第2通路181を構成するディスク51の切欠87内のオリフィス95と、ピストン18の大径穴部302内の通路と、ピストンロッド21の径方向穴271内の第3通路331と、中空室263と、ピストンロッド21の径方向穴272内の第4通路332と、シート部材55の大径穴部76内の通路と、ディスク54,53内のオリフィス96と、背圧室80とを介して、ハードバルブ99を開きながら、ハードバルブ99とバルブシート部79との間を通って、下室20に流れる。このときのピストン速度に対する減衰力の特性は、バルブ特性(減衰力がピストン速度にほぼ比例する)となる。
このため、ピストン速度に対する減衰力の特性は、図5の細実線X1の右側の中高速域での線部X1bに示すようにピストン速度の上昇に対して減衰力の上昇率は、低速域での線部X1aよりもやや下がる。このとき、中空室263から可変オリフィス機構325のオリフィス326を介しても下室20に流れる。
【0089】
ピストン速度がさらに高速の領域になると、上室19からの油液によるメインバルブ52に作用する力(油圧)の関係は、通路穴38内の通路から加わる開方向の力が背圧室80から加わる閉方向の力よりも大きくなる。よって、この領域では、ピストン速度の増加に伴いメインバルブ52がピストン18のバルブシート部47から離れて開くことになり、上記流れに加えて、第1通路101を構成する通路穴38内の通路と、ピストン18とシート部材55の外側円筒状部73との間の通路88とを介して下室20に油液が流れる。これにより、バルブ特性(減衰力がピストン速度にほぼ比例する)の減衰力が発生する。このため、ピストン速度に対する減衰力の特性は、図5の細実線X1の右側の中高速域での線部X1bに示すように、ピストン速度の上昇に対して減衰力の上昇率は、低速域での線部X1aよりもやや下がった状態が維持される。このときも、油液は、中空室263から可変オリフィス機構325のオリフィス326を介しても下室20に流れる。
【0090】
ここで、ピストン周波数が低い場合の伸び行程では、上室19からの油液は、中空室263と、ピストンロッド21の第5通路333と、ケース部材本体131の大径穴部146内の通路と、ディスク132のオリフィス152とを介して、周波数感応機構43の可変室171にも導入される。これに応じて、周波数感応機構43の可変室172から、蓋部材139の貫通穴167内の通路を介して下室20に油液が排出される。その結果、それまでシート部143とディスク135とに当接していた区画ディスク134が、突出部159を蓋部材139に近づけるように変形する。ここで、区画ディスク134の内周側は、ディスク132から離間してディスク135に片面側からのみ支持されているため、内周側がディスク132に近づくように変形し易く、よって、外周側の突出部159が蓋部材139に近づくように容易に変形する。
【0091】
このように区画ディスク134が変形するものの、区画ディスク134は、変形の周波数がピストン周波数に追従して低く、ストロークも大きいため、伸び行程の初期に、上室19から可変室171に油液が流れるものの、その後は区画ディスク134が蓋部材139に当接して停止し、上室19から可変室171に油液が流れなくなる。これにより、上記したように上室19から通路穴38内の通路を含む第1通路101に導入され減衰力発生機構41および可変オリフィス機構325のオリフィス326を通過して下室20に流れる油液の流量が減らない状態となる。このため、減衰力は高い状態に維持される。
【0092】
{ピストン周波数が高い場合}
高車高時に、高いピストン周波数でピストンロッド21が伸び側に移動すると、ピストン周波数が低い場合と同様のルートで上室19の油液を下室20に流す。その際に、上室19の油液の一部が、図3に示す第1通路101を構成する通路穴38内の通路と、第2通路181を構成するディスク51のオリフィス95、ピストン18の大径穴部302内の通路、ピストンロッド21の第3通路331、中空室263、ピストンロッド21の第5通路333、ケース部材本体131の大径穴部146内の通路およびディスク132のオリフィス152を介して、周波数感応機構43の可変室171に導入される。これに応じて、第2通路181の下室20側の部分である周波数感応機構43の可変室172から、蓋部材139の貫通穴167内の通路を介して下室20に油液を排出させる。その結果、それまでシート部143とディスク135とに当接していた区画ディスク134が、突出部159を蓋部材139に近づけるように変形する。
【0093】
このとき、区画ディスク134は、変形の周波数がピストン周波数に追従して高く、ストロークも小さいため、可変室171に上室19から油液を導入することによって、上室19から通路穴38内の通路を含む第1通路101に導入され減衰力発生機構41および可変オリフィス機構325のオリフィス326を通過して下室20に流れる油液の流量を減らす。これにより、図5に細破線X2で示すように伸び側の減衰力が、図5に細実線X1で示すピストン周波数が低い場合と比べて低くなりソフトになる。ここで、区画ディスク134の内周側は、ディスク132から離間してディスク135に片面側からのみ支持されているため、内周側がディスク132に近づくように変形し易く、よって、外周側の突出部159が蓋部材139に近づくように容易に変形する。
【0094】
(縮み行程)
高車高時にピストンロッド21が縮み側に移動する縮み行程では、ピストン速度が遅い時、下室20からの油液は、図2に示す縮み側の第1通路102を構成する通路穴39内の通路とディスクバルブ122の固定オリフィス123とを介して上室19に流れオリフィス特性(減衰力がピストン速度の2乗にほぼ比例する)の減衰力が発生する。このため、ピストン速度に対する減衰力の特性は、図5の細実線X3の左側の低速域での線部X3aに示すようにピストン速度の上昇に対して比較的減衰力の上昇率が高くなる。
【0095】
ピストン速度が速くなると、下室20から縮み側の第1通路102を構成する通路穴39内の通路に導入された油液が、基本的にディスクバルブ122を開きながらディスクバルブ122とバルブシート部49との間を通って上室19に流れることになり、バルブ特性(減衰力がピストン速度にほぼ比例する)の減衰力が発生する。このため、ピストン速度に対する減衰力の特性は、図5の細実線X3の左右方向中間から右側の中高速域での線部X3bに示すようにピストン速度の上昇に対して減衰力の上昇率は低速域での線部X3aよりもやや下がる。
【0096】
ここで、縮み行程では、下室20からの油液は可変オリフィス機構325のオリフィス326から中空室263と、ピストンロッド21の第3通路331と、ピストン18の大径穴部302内の通路と、ディスク51の切欠87内のオリフィス95と、ピストン18の第1通路101とを介しても上室19に流れる。
【0097】
下室20の圧力が高くなると、下室20から貫通穴167内の通路を介して周波数感応機構43の可変室172に導入された油液が、チェック弁173を構成する区画ディスク134の内周側を変形させてディスク135から離し、区画ディスク134とディスク135との間の通路と、可変室171と、ディスク132の切欠151内のオリフィス152と、ケース部材本体131の大径穴部146内の通路と、ピストンロッド21の第5通路333と、中空室263と、ピストンロッド21の第3通路331と、ピストン18の大径穴部302内の通路と、ディスク51の切欠87内のオリフィス95と、第1通路101とを介しても上室19に流れる。このときのピストン速度に対する減衰力の特性は、図5の細実線X3の右側の中高速域での線部X3bに示すように引き続きピストン速度の上昇に対して減衰力の上昇率は低速域での線部X3aよりもやや下がった状態が維持される。縮み行程においては、図5の細実線X3に示すように、図5の細実線X1に示す伸び行程に比して全体的に減衰力がソフトになる。
【0098】
[低車高時(ストローク縮み位置)]
多人数での乗車時や重量物を積載した場合等、車両の積載重量が所定値より大きいときには、車高が所定値よりも低く上記高車高の状態よりも低い低車高の状態となる。
【0099】
このような低車高時に、ピストンロッド21、ピストンおよびナット176は、シリンダ2およびピン部材262に対する相対位置が、上記した高車高時と比べて底部材12側に位置する。そして、ピストンロッド21の軸方向において、例えば、内フランジ部324が大径軸部352と位置を合わせている。よって、ピストンロッド21の可変オリフィス機構325のオリフィス326の流路断面積が高車高時よりも狭くなる。
【0100】
{ピストン周波数が低い場合}
(伸び行程)
このような低車高時に、低いピストン周波数でピストンロッド21が伸び側に移動する伸び行程で、ピストン速度が遅い時、上室19からの油液は、高車高時と同様のルートで流れる。その際に、可変オリフィス機構325のオリフィス326が高車高時よりも絞られているため、固定オリフィス100およびオリフィス326を介して下室20に流れる油液が高車高時よりも絞られる。このため、オリフィス特性の減衰力が発生する、図5の太実線X4の左側の低速域での線部X4aにおいて、ピストン速度の上昇に対する減衰力の上昇率が細実線X1の線部X1aで示す高車高時よりも高くなる。
【0101】
可変オリフィス機構325のオリフィス326が高車高時よりも絞られているため、高車高時よりも低いピストン速度で、通路穴38内の通路からメインバルブ52に加わる開方向の力が背圧室80から加わる閉方向の力よりも大きくなって、メインバルブ52を開く。よって、第1通路101を構成する通路穴38内の通路と、ピストン18とシート部材55の外側円筒状部73との間の通路88とを介して下室20に油液が流れる。これにより、バルブ特性の減衰力が発生する。このため、ピストン速度に対する減衰力の特性は、図5の太実線X4の右側の中高速域での線部X4bに示すようにピストン速度の上昇に対して減衰力の上昇率は低速域X4aよりもやや下がる。ここで、低車高時の可変オリフィス機構325のオリフィス326は高車高時よりも絞られていることから、メインバルブ52の背圧室80のパイロット圧は、ピストン18のストローク位置によって、高車高時には低く、低車高時には高車高時よりも高くなるように変化する。よって、図5の太実線X4で示すように、中高速域X4bにおいては、図5の細実線X1で示す高車高時よりも減衰力が高くハードな特性となる。
【0102】
ここで、ピストン周波数が低い場合の伸び行程では、高車高時と同様、上室19からの油液は、中空室263から、ピストンロッド21の第5通路333と、ケース部材本体131の大径穴部146内の通路と、ディスク132のオリフィス152とを介して、周波数感応機構43の可変室171にも導入されて区画ディスク134を蓋部材139に近づけるように変形させる。
【0103】
このように区画ディスク134が変形するものの、区画ディスク134は、変形の周波数がピストン周波数に追従して低く、ストロークも大きいため、伸び行程の初期に、上室19から可変室171に油液が流れるものの、その後は区画ディスク134が蓋部材139に当接して停止し、上室19から可変室171に油液が流れなくなる。これにより、上室19から通路穴38内の通路を含む第1通路101に導入され減衰力発生機構41および可変オリフィス機構325のオリフィス326を通過して下室20に流れる油液の流量が減らない状態となる。このため、減衰力は高い状態に維持される。
【0104】
{ピストン周波数が高い場合}
低車高時に、高いピストン周波数でピストンロッド21が伸び側に移動すると、ピストン周波数が低い場合と同様のルートで上室19の油液を下室20に流すが、その際に、上室19の油液の一部が、図3に示す第1通路101を構成する通路穴38内の通路と、第2通路181を構成するディスク51のオリフィス95、ピストン18の大径穴部302内の通路、ピストンロッド21の第3通路331、中空室263、ピストンロッド21の第5通路333、ケース部材本体131の大径穴部146内の通路およびディスク132のオリフィス152を介して、周波数感応機構43の可変室171に導入されて、区画ディスク134を蓋部材139に近づけるように変形させる。
【0105】
このとき、区画ディスク134は、変形の周波数がピストン周波数に追従して高く、ストロークも小さいため、可変室171に上室19から油液を導入することによって、上室19から通路穴38内の通路を含む第1通路101に導入され減衰力発生機構41および可変オリフィス機構325のオリフィス326を通過して下室20に流れる油液の流量を減らす。これにより、図5に太破線X5で示すように伸び側の減衰力特性が、図5に太実線X4で示すピストン周波数が低い場合の減衰力特性と比べて低くなりソフトになる。ここで、低車高時は、可変オリフィス機構325のオリフィス326を介して下室20に流れる油液の量が、高車高時よりも少なくなるため、図5に太破線X5で示すように伸び側の減衰力特性が、図5に細実線X2で示す高車高時の減衰力特性と比べて若干高くなり若干ハードになる。
【0106】
ピストン周波数が高い高周波時における、低車高時の図5に太破線X5に示す減衰力特性と高車高時の図5に細破線X2に示す減衰力特性との差は、ピストン周波数が低い低周波時における、低車高時の図5に太実線X4に示す減衰力特性と高車高時の図5に細実線X1に示す減衰力特性との差よりも小さい。
【0107】
低車高時における、低周波時の図5に太実線X4に示す減衰力特性に対する高周波時の図5に太破線X5に示す減衰力特性の減少率は、高車高時における、低周波時の図5に細実線X1に示す減衰力特性に対する高周波時の図5に細破線X2に示す減衰力特性の減少率よりも大きい。
【0108】
(縮み行程)
低車高時にピストンロッド21が縮み側に移動する縮み行程では、高車高時と同様のルートで下室20の油液を上室19に流すが、高車高時と比べて可変オリフィス機構325のオリフィス326が絞られていることから、図5の太実線X6で示すように、図5の細実線X3で示す高車高時よりも減衰力がピストン速度全域で若干ハードな特性となる。
【0109】
ここで、伸び側の減衰力発生機構41と縮み側の減衰力発生機構42との構成が異なることから、シリンダ2とピストン18との相対位置が同じとき、伸び行程の減衰力特性と縮み行程の減衰力特性とは非反転となる。
【0110】
緩衝器1は、伸び行程において、高車高時(ストローク伸び位置)のときは、背圧室80の下流側に位置するオリフィス326の流路断面積が低車高時よりも大きいため、低車高時よりも背圧室80のパイロット圧は低く、メインバルブ52の開弁圧が低い。周波数感応機構43は、背圧室80のパイロット圧に周波数依存の減衰力可変幅を持たせている。このため、高車高時は、その周波数感応機構43による周波数依存による減衰力可変幅が小さい。一方、低車高時は、オリフィス326の流路断面積が高車高時よりも小さいため、背圧室80のパイロット圧が高くなり、メインバルブ52の開弁圧が高い特性となる。また、周波数感応機構43の機能により、ピストン周波数が高周波のときは背圧室80のパイロット圧が下がり、周波数感応機構43による周波数依存の可変幅も大きくとることができる。
【0111】
緩衝器1は、伸び行程において、ピストン周波数が低い低周波時に、上記した高車高時すなわちシリンダ2に対するピストン18の相対位置が第1範囲にある間のピストン速度が低速域から高速域までの減衰力特性を図5に細実線X1で示す第1減衰力特性とする。
伸び行程において、同じく低周波時に、上記した低車高時すなわちシリンダ2に対するピストン18の相対位置が前記第1範囲とは異なる第2範囲にある間のピストン速度が低速域から高速域までの減衰力特性を図5に太実線X4で示す第2減衰力特性とする。すると、第2減衰力特性の減衰力は、ピストン速度の全範囲において、同じピストン速度での減衰力が第1減衰力特性よりも大きくハードとなる。
【0112】
伸び行程において、ピストン周波数が上記低周波時よりも高い高周波時に、上記した高車高時すなわちシリンダ2に対するピストン18の相対位置が上記第1範囲にあるときのピストン速度が低速域から高速域までの減衰力特性を図5に細破線X2で示す第3減衰力特性とする。伸び行程において、同じく高周波時に、上記した低車高時すなわちシリンダ2に対するピストン18の相対位置が上記第2範囲にある間のピストン速度が低速域から高速域までの減衰力特性を図5に太破線X5で示す第4減衰力特性とする。すると、これら第3減衰力特性と第4減衰力特性との差が、第1減衰力特性と第2減衰力特性との差よりも小さくなる。
【0113】
緩衝器1のピストン周波数に対する減衰力の関係は、図6に示すようになる。すなわち、伸び行程においては、ピストン周波数の全領域において、図6に太実線Y1で示す低車高時の方が、図6に細実線Y2で示す高車高時よりも減衰力が高くハードになる。伸び行程においては、図6に太実線Y1で示す低車高時と、図6に細実線Y2で示す高車高時との減衰力の差が、ピストン周波数の低周波領域よりも高周波領域の方が小さくなる。他方、縮み行程においては、ピストン周波数の全領域において、図6に太実線Y3で示す低車高時の方が、図6に細実線Y4で示す高車高時よりも減衰力がハードになる。縮み行程においては、図6に太実線Y3で示す低車高時と、図6に細実線Y4で示す高車高時との減衰力の差が、ピストン周波数にかかわらず一定となる。
【0114】
以上において、高車高時の上記第1範囲は、低車高時の上記第2範囲よりも、ピストン18のシリンダ2に対する相対位置が、シリンダ2の軸方向においてロッド側室である上室19の側にある。
【0115】
緩衝器1は、シンプルな構造で、車高違いでのピストン速度の低速から高速域まで広い範囲で大きな減衰力の切替が可能となる。緩衝器1は、車重が重くばね上制振力が必要で、高減衰設定となり乗り心地が悪い低車高時は、周波数感応機構43の機能が強く働き、周波数依存の可変幅が広くなって、車両の乗り心地を良好にする効果がある。すなわち、特許文献1の緩衝器は、車両の積載量が大きい低車高時のときは、車重が重くばね上制振力が必要で、高減衰設定となるが、3Hz以上の乗り心地が悪くなってしまう。これに対し、緩衝器1は、周波数感応機構43の機能を十分な可変幅を持って(周波数依存の可変幅を広く)機能させることで、低車高時のばね上制振と乗り心地とを両立させる効果がある。
【0116】
なお、ピン部材262のピン軸部351を上記に対して軸方向に反転させた形状としても良い。すなわち、ピン軸部351が全体として底部材12側ほど小径となる形状とする。すると、低車高時が上記第1範囲となり、高車高時が上記第2範囲となって、第1範囲でのピストン18のシリンダ2に対する相対位置が、第2範囲よりも、シリンダ2の軸方向においてボトム側室である下室20の側になる。
【0117】
上記した特許文献1には、ストローク位置により減衰力を変化させる位置感応の減衰力可変式の緩衝器が記載されている。この緩衝器は、流量可変タイプの位置感応のため車高違いでピストン速度の低速域しか減衰力を切り替えできない。特許文献2には、振動状態に応じて減衰力が可変となる緩衝器が記載されている。この緩衝器は、圧力制御の減衰力発生機構と流量可変式の周波数感応機構とを有している。この緩衝器は、ピストン速度が中速域以上は周波数依存の機能がない。荒れた路面など高いピストン速度の入力に対して周波数感応機構の効果が小さい。また、圧力制御の減衰力発生機構は構造が複雑である。ところで、特許文献1に記載されたような位置感応の減衰力可変式の緩衝器において、周波数に応じて減衰力を良好に制御することが要望されている。
【0118】
本実施形態の緩衝器1は、ピストン18の移動によりシリンダ2内の一方の上室19から油液が流れ出す第1通路101と、第1通路101と並列に設けられる第2通路181と、第1通路101に設けられて減衰力を発生させる減衰力発生機構41と、を有している。緩衝器1は、低周波時に、シリンダ2に対するピストン18の相対位置が第1範囲にある間は、ピストン速度が低速域から高速域まで、第1減衰力特性とし、低周波時にシリンダ2に対するピストン18の相対位置が前記第1範囲とは異なる第2範囲にある間は、ピストン速度が低速域から高速域まで、第1減衰力特性よりも大きい第2減衰力特性とする。緩衝器1は、高周波時には、前記第1範囲のときと前記第2範囲のときとの減衰力特性の差が、前記第1減衰力特性と前記第2減衰力特性との差よりも小さくなる。緩衝器1は、このような特性になるように、第2通路181に、シリンダ2に対するピストン18の相対位置によりオリフィス面積が変更可能な可変オリフィス機構325と、ピストン速度によらず、低周波時の減衰力が高周波時の減衰力よりも高くなる周波数感応機構43と、を設けている。このような構成の緩衝器1によれば、位置感応で減衰力を可変とすることができ、その上で、周波数に応じて減衰力を良好に制御することが可能となる。
【0119】
緩衝器1は、前記第1範囲が、前記第2範囲よりも、ピストン18のシリンダ2に対する相対位置が、ロッド側室である上室19の側にある。すなわち、前記第1範囲よりも、前記第2範囲が低車高である。このため、車両の積載量が重いときには減衰力を高くすることができる一方、路面から車輪への突き上げに対してはソフトな減衰力となる。
【0120】
ここで、前記第1範囲が、前記第2範囲よりも、ピストン18のシリンダ2に対する相対位置が、ボトム側室である下室20の側にあるようにしても良い。すなわち、前記第1範囲よりも、前記第2範囲が高車高であるようにしても良い。このように構成すれば、ピストンロッド21の伸び切り時の減衰力を高くでき、油圧ストッパとなる。
【0121】
緩衝器1は、ピストン18の移動によりシリンダ2内の一方の上室19から油液が流れ出す、ピストン18に形成される第1通路101と、第1通路101と並列に設けられる第2通路181と、第1通路101に設けられて減衰力を発生させるメインバルブ52と、メインバルブ52に背圧を付与する背圧室80とを有する減衰力発生機構41と、内部に第2通路181の少なくとも一部が形成されるナット176と、ケース部材140内に配置され、ケース部材140内で撓み可能な区画ディスク134と、区画ディスク134により画成されて設けられたケース部材140内の可変室171,172と、ピストンロッド21の内周側に形成される孔261と、孔261に挿入され、シリンダ2の軸方向の位置により孔261との間の隙間を異ならせるピン部材262と、孔261とピン部材262とにより形成される中空室263と、を有する。そして、中空室263には、上室19の油液をシリンダ2とピストン18との相対位置により変化しない状態で供給する第3通路331と、背圧室80に油液を供給する第4通路332と、ケース部材140に油液を供給する第5通路333と、ナット176を介して下室20に油液を供給するオリフィス326と、が連通されている。このような構成の緩衝器1によれば、位置感応で減衰力を可変とすることができ、その上で、周波数に応じて減衰力を良好に制御することが可能となる。また、シンプルな構造で、車高違いでの低速から高速域まで広い範囲で大きな減衰力の切り替えが可能となる。
【0122】
緩衝器1は、ピストン18に形成される第1通路101を介して上室19の油液を第2通路181に供給するため、構造を簡素化することができる。
【0123】
緩衝器1は、ピストン18が下室20の側への移動量が大きくなったときにオリフィス326が小となるように、ピン部材262の径が調整されている。このため、車両の積載量が重いときには減衰力を高くすることができる一方、路面から車輪への突き上げに対してはソフトな減衰力となる。
【0124】
緩衝器1は、面取りによりピン部材262の径が調整されている。このため、ピストン18のピン部材262に対する軸方向の位置が変化したときの、減衰力の変化を円滑にすることができる。
【0125】
緩衝器1は、シリンダ2とピストン18との相対位置が同じとき、伸び行程の減衰力特性と縮み行程の減衰力特性とは非反転である。このため、伸び行程の減衰力特性と縮み行程の減衰力特性とを異ならせることができる。
【0126】
緩衝器1は、第2通路181が、ピストン18に当接するディスク51により形成されるオリフィス95を介して第1通路101から分岐している。このため、ディスク51により形成されるオリフィス95を変更することで、減衰力特性を容易に変更することができ、チューニングの自由度が高い。ここで、オリフィス95の流路断面積を大きくすることで、減衰力発生機構41および周波数感応機構43の可変幅をともに拡大することができる。他方、オリフィス95の流路断面積を小さくすることで、減衰力発生機構41および周波数感応機構43の可変幅をともに縮小することができ、減衰力をソフトな特性にすることができる。
【0127】
なお、緩衝器1において、周波数感応機構は、上記した周波数感応機構43に限らず、圧力可変する周波数感応機構であれば他の周波数感応機構を適用しても良い。また、周波数感応機構43にチェック弁173はなくても良い。さらに、周波数感応機構43において可変室171,172を仕切る部材は区画ディスク134でなくも良い。また、周波数感応機構43において可変室171,172を外周側にシール部材がないディスクで仕切ってもよい。
【0128】
以上に述べた実施形態の第1の態様によれば、緩衝器は、作動流体が封入されるシリンダと、前記シリンダ内に摺動可能に設けられ、該シリンダ内をロッド側室とボトム側室とに区画するピストンと、一端側が前記ピストンに連結されると共に他端側が前記シリンダの外部に延出されるピストンロッドと、前記ピストンの移動により前記シリンダ内の一方の室から作動流体が流れ出す第1通路と、前記第1通路と並列に設けられる第2通路と、前記第1通路に設けられて減衰力を発生させる減衰力発生機構と、を有し、低周波時に、前記シリンダに対する前記ピストンの相対位置が第1範囲にある間は、ピストン速度が低速域から高速域まで、第1減衰力特性とし、低周波時に、前記シリンダに対する前記ピストンの相対位置が前記第1範囲とは異なる第2範囲にある間は、ピストン速度が低速域から高速域まで、前記第1減衰力特性よりも大きい第2減衰力特性とし、高周波時には、前記第1範囲のときと前記第2範囲のときとの減衰力特性の差が、前記第1減衰力特性と前記第2減衰力特性との差よりも小さくなるよう、前記第2通路には、前記シリンダに対する前記ピストンの相対位置によりオリフィス面積が変更可能な可変オリフィス機構と、ピストン速度によらず、低周波時の減衰力が高周波時の減衰力よりも高くなる周波数感応機構と、が設けられている。これにより、位置感応の減衰力可変式の緩衝器において、周波数に応じて減衰力を良好に制御することが可能となる。
【0129】
第2の態様は、第1の態様において、前記第1範囲は、前記第2範囲よりも、前記ピストンの前記シリンダに対する相対位置が、前記ロッド側室の側にある。
【0130】
第3の態様は、第1の態様において、前記第1範囲は、前記第2範囲よりも、前記ピストンの前記シリンダに対する相対位置が、前記ボトム側室の側にある。
【0131】
第4の態様によれば、緩衝器は、作動流体が封入されるシリンダと、前記シリンダ内に摺動可能に設けられ、該シリンダ内をロッド側室とボトム側室とに区画するピストンと、一端側が前記ピストンに連結されると共に他端側が前記シリンダの外部に延出されるピストンロッドと、前記ピストンの移動により前記シリンダ内の一方の室から作動流体が流れ出す、該ピストンに形成される第1通路と、前記第1通路と並列に設けられる第2通路と、前記第1通路に設けられて減衰力を発生させる第1バルブと、該第1バルブに背圧を付与する背圧室とを有する減衰力発生機構と、内部に前記第2通路の少なくとも一部が形成される絞り部材と、ケース部材内に配置され、該ケース部材内で撓み可能な可撓部材と、前記可撓部材により画成されて設けられた前記ケース部材内の室と、前記ピストンロッドの内周側に形成される孔と、前記孔に挿入され、軸方向の位置により前記孔との間の隙間を異ならせるピン部材と、前記孔と前記ピン部材とにより形成される中空室と、を有し、前記中空室には、前記ロッド側室の作動流体を前記シリンダと前記ピストンとの相対位置により変化しない状態で供給する第3通路と、前記背圧室に作動流体を供給する第4通路と、前記ケース部材に作動流体を供給する第5通路と、前記絞り部材を介して前記ボトム側室に作動流体を供給する第6通路と、が連通される。これにより、位置感応の減衰力可変式の緩衝器において、周波数に応じて減衰力を良好に制御することが可能となる。
【0132】
第5の態様は、第4の態様において、前記ピストンに形成される前記第1通路を介して前記ロッド側室の作動流体を前記第2通路に供給する。
【0133】
第6の態様は、第5の態様において、前記第2通路は、前記ピストンに当接するディスクにより形成されるオリフィスを介して前記第1通路から分岐している。
【0134】
第7の態様は、第4から第6のいずれか一態様において、前記ピストンが前記ボトム側室の側への移動量が大きくなったときに前記隙間が小となるように、ピン部材の径が調整されている。
【0135】
第8の態様は、第7の態様において、面取りにより前記ピン部材の径が調整されている。
【0136】
第9の態様は、第4から第8のいずれか一態様において、前記シリンダと前記ピストンとの相対位置が同じとき、伸び行程の減衰力特性と縮み行程の減衰力特性とは非反転である。
【産業上の利用可能性】
【0137】
上記の緩衝器によれば、位置感応の減衰力可変式の緩衝器において、周波数に応じて減衰力を良好に制御することが可能となる。
【符号の説明】
【0138】
1 緩衝器
2 シリンダ
18 ピストン
19 上室(ロッド側室)
20 下室(ボトム側室)
21 ピストンロッド
41 減衰力発生機構
43 周波数感応機構
51 ディスク
52 メインバルブ(第1バルブ)
80 背圧室
95 オリフィス
101 第1通路
134 区画ディスク(可撓部材)
140 ケース部材
171,172 可変室(室)
176 ナット(絞り部材)
181 第2通路
261 孔
262 ピン部材
263 中空室
325 可変オリフィス機構
326 オリフィス(第6通路)
331 第3通路
332 第4通路
333 第5通路
図1
図2
図3
図4
図5
図6