(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-02
(45)【発行日】2023-11-13
(54)【発明の名称】切りくず除去装置及び除去方法
(51)【国際特許分類】
B23B 47/34 20060101AFI20231106BHJP
B23B 41/00 20060101ALN20231106BHJP
【FI】
B23B47/34 A
B23B41/00 F
(21)【出願番号】P 2023093851
(22)【出願日】2023-06-07
【審査請求日】2023-06-07
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000207285
【氏名又は名称】大東精機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100093997
【氏名又は名称】田中 秀佳
(72)【発明者】
【氏名】川道 勇二
【審査官】小川 真
(56)【参考文献】
【文献】実開平4-76308(JP,U)
【文献】特開2003-258437(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 47/34
B23B 41/00
B23B 35/00
B23Q 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークにドリル孔を加工する際に当該ドリル孔の出口側に発生する円盤状の切りくずを
除去する切りくず除去装置であって、前記ドリル孔の出口側において
前記円盤状の切りくずが鋭角に開いた状態で当該切りくずに当接する当て部材を有することを特徴とする切りくず除去装置。
【請求項2】
前記ドリル孔の出口側と前記当て部材との間の隙間が前記円盤状の切りくずの開き角度が90度未満に抑制される距離であることを特徴とする請求項
1の切りくず除去装置。
【請求項3】
前記当て部材が、前記円盤状の切りくずが当接する当て部と、前記ドリル孔の出口側の周囲に当接する支持突部を有することを特徴とする請求項1の切りくず除去装置。
【請求項4】
ワークにドリル孔を加工する際に当該ドリル孔の出口側に発生する円盤状の切りくずを除去する切りくず除去方法であって、前記ドリル孔の出口側において
前記円盤状の切りくずが鋭角に開いた状態で当該切りくずに当て部材を当接させることを特徴とする切りくず除去方法。
【請求項5】
前記ドリル孔の出口側と前記当て部材との間の隙間を前記円盤状の切りくずの開き角度が90度未満に抑制される距離にしたことを特徴とする請求項
4の切りくず除去方法。
【請求項6】
前記当て部材が、前記円盤状の切りくずが当接する当て部と、前記ドリル孔の出口側の周囲に当接する支持突部を有することを特徴とする請求項
4の切りくず除去方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドリル孔の出口側に発生する円盤状の切りくずを除去する切りくず除去装置及び除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
H形鋼を使用した建築構造体では高力ボルト摩擦接合による梁の接合等、ボルト接合が多用される。
図8(a)(b)(c)は高力ボルト摩擦接合による梁の接合状態を示すもので、H形鋼の柱1と梁2の仕口において梁2の端部に別の梁3を複数のボルト4と添え板5を使用してボルト接合する状態を示す。
【0003】
このようなボルト接合では、H形鋼のフランジやウェブなどに複数のドリル孔を加工する必要がある。
図9はH形鋼Wに対する従来のドリル孔Hの加工方法を示すものである。
【0004】
H形鋼Wのフランジやウェブなどにドリル孔Hを加工すると、当該ドリル孔Hの出口側に円盤状(瘡蓋状)の切りくずBRが発生する。このような切りくずBRはドリル孔Hの出口側に付着したまま残留することが多い。
【0005】
H形鋼Wをショットブラストなどで後処理すると殆どの切りくずBRは脱落する。しかし、脱落した切りくずBRがショット玉に混入してショット玉のフィルタ(セパレータ又はスクリーン)が目詰まりを起こす等、次工程の装置に対して悪影響を及ぼすことがある。なお、関連する先行技術文献を特許情報プラットホーム(J-PlatPat)で検索したが見当たらなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
なし
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、ドリル孔の加工完了と同時に、ドリル孔の出口側に発生した円盤状の切りくずを除去することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するため、本発明の切りくず除去装置は、ワークにドリル孔を加工する際に当該ドリル孔の出口側に発生する円盤状の切りくずを除去する切りくず除去装置であって、前記ドリル孔の出口側において前記円盤状の切りくずに当接する当て部材を有することを特徴とする。
【0009】
また、本発明の切りくずの除去方法は、ワークにドリル孔を加工する際に当該ドリル孔の出口側に発生する円盤状の切りくずを除去する切りくず除去方法であって、前記ドリル孔の出口側において前記円盤状の切りくずに当て部材を当接させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ドリル孔の加工完了と同時に、ドリル孔の出口側に発生する円盤状の切りくずを除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態に係る切りくず除去装置を使用してH形鋼をドリル加工する状態を示す図である。
【
図3】ドリル孔の出口側で円盤状の切りくずが発生する過程を示す図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係る切りくず除去装置の原理を示す図である。
【
図5】本発明の他の実施形態に係る切りくず除去装置を示す図である。
【
図6】切りくず除去装置をドリルヘッドに支持する例を説明する図である。
【
図7】切りくず除去装置を使用してH形鋼のフランジをドリル加工する状態を示す図である。
【
図8】柱・梁の仕口において梁のボルト接合状態を示す(a)斜視図、(b)側面図及び(c)平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1は、本発明の一実施形態に係る切りくず除去装置を使用してH形鋼をドリル加工する図である。
図1(a)(b)が左右のフランジをドリル加工する図であり、
図1(c)が左右フランジ間のウェブをドリル加工する図である。
【0013】
図示するように、ドリル孔Hの出口側に切りくず除去装置としての当て部材Bを移動可能に配置している。この当て部材Bは、ドリル加工の完了時において、ドリルDの先端部との間に所定の隙間を保持するように移動可能に配置されている。
【0014】
所定の隙間CLは、円盤状の切りくずBRが所定の角度θに開いた時に切りくずBRの端部が当て部材Bに当接する隙間である。ここで所定の角度θは90°未満(θ<90°)の角度である。
【0015】
図2はドリル加工に使用されるドリルの種類を示している。
図2(a)のドリルDは刃先角θが118°の汎用ドリルである。
図2(b)のドリルDは刃先角θが160°の薄板加工用ドリルである。
【0016】
ドリル孔Hの加工精度・寸法精度を高めるためには、
図2(b)のように、ドリルDの先端部がドリル孔の出口面に到達する前にドリルDの外周部がドリル孔Hの入り口面を切削し始めるように刃先角θを大きくしたドリルが望ましい。しかし、このように刃先角θを大きくすると、円盤状切りくずがより発生しやすくなる。
【0017】
ドリルDの刃先角θが大きいドリルの場合、ドリルDの先端部の軸方向位置とドリルDの外周部の軸方向位置が接近する。このため、ドリルDの先端部がドリル孔Hの出口面に到達する直前にはドリルDが削り進む残りの材料厚みは薄くなり、当該材料厚みの強度が低下し塑性変形しやすくなる。
【0018】
ドリルDがさらに切り進もうとすると、強度が低下した残りの材料厚みがドリルDの推力に押されて塑性変形を起こし、ドリル孔Hの出口方向へ押し出されながら削られる。このため、ドリルDの外周部がドリル孔Hの出口面に到達しても、残りの材料は完全には削られずに薄く残り、円盤状の切りくずBRとして残る。
【0019】
図3は切りくずBRが発生する過程を順番に示している。切りくずBRは酸化皮膜Waの有無に関わらず発生するが、ここでは参加被膜Waがある状態を例に示す。
【0020】
図3(a)はドリル孔Hの出口側でドリルDの先端部に押されて酸化皮膜Waが塑性変形する状態を示している。この時、ドリルDの外周部によって酸化皮膜Waが円形に切削される。しかしながら、酸化皮膜Waは周囲が円形に完全には切削されないで、
図3(b)(c)のように弾性変形・塑性変形することにより円盤状の切りくずBRが発生する。
【0021】
この切りくずBRは、周縁部の一部がドリル孔Hの出口側面と繋がったまま残留することが多い。そして、
図3(c)のようにドリル孔Hが貫通してドリル先端が出口側に突出しても、切りくずBRが90°以上に開いた状態のまま残留することになる。
【0022】
そこで、本実施形態の切りくず除去装置は、
図4(a)(b)のようにドリル孔Hの出口側に当て部材Bを配置することにした。ドリル孔Hの出口側と当て部材Bとの間の隙間CLは、切りくずBRが開く角度をθとすると、角度θ<90の範囲にとどまる距離とする。したがって、切りくずBRの直径をDMとすると隙間CLは直径DMよりも小さい。
【0023】
これにより、切りくずBRが鋭角に開いた状態で切りくずBRの先端部が当て部材Bに当接する。すなわち、切りくずBRが開く角度が90度未満の状態で切りくずBRの先端部が当て部材Bに当接する。
【0024】
当て部材Bをこのように配置することで、切りくずBRの先端部が90°未満で開いた状態で切りくずBRの先端部を当て部材Bに当てて固定することができる。したがって、ドリルDの外周部が円盤状の切りくずBRの基端部(回転支点)を強制的に切除することができる。
【0025】
切りくずBRが開いた角度θが90°以上の状態であると、切りくずBRの先端部を当て部材Bに当てて固定することができない。したがって、切りくずBRの基端部(回転支点)を強制的に切除することができない。
【0026】
基端部(回転支点)を切除された切りくずBRは、ドリルDの回転力で周囲に飛ばされる。このようにしてドリル孔Hの出口側に発生した切りくずBRを確実に除去することができる。
【0027】
図5~
図7に切りくず除去装置としての当て部材Bの具体例を示す。
図5に示す当て部材Bは上部に支持突部B
1と当て部B
2を有する。また当て部材Bの側面に別の当て部B
3を有する。
【0028】
H形鋼Wのウェブは水平スパンが長いうえに下支えがない。このため、ウェブにドリル孔Hを加工する際にウェブが下側に撓みやすい。ウェブが下側に撓むとドリル孔Hの加工精度が低下したりドリルDが欠損したりする可能性がある。
【0029】
そこで、当て部材Bに支持突部B1を形成した。この支持突部B1によって、ドリル孔Hの出口側周縁部を押圧してH形鋼Wのウェブが下側に撓むのを防止することができる。
【0030】
これによりドリル孔Hの加工精度を向上し、ドリルDの欠損を防止することができる。支持突部B1の高さは、前述した隙間CLと同じにすることは言うまでもない。
【0031】
支持突部B1の周囲には当て部B2が形成されている。この当て部B2に切りくずBRの先端部を当接させることで切りくずBRを除去する。
【0032】
図6は、切りくず除去装置としての当て部材BをドリルヘッドHdに支持する例である。ドリルDや当て部材Bは、本装置の自動工具交換装置ATCに交換可能に保持することができる。
【0033】
ドリルヘッドHdのチャックCに支持されたドリルDを当て部材Bに交換することで、
図7(a)(b)のようにH形鋼Wのフランジのドリル加工で発生する切りくずBRを当て部材Bの当て部B
3に当接させて除去することができる。
【0034】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は前記実施形態に限定されることなく種々の変形が可能である。例えば、前記当て部材BはドリルヘッドHdに保持する他、専用の板状治具としてドリル孔の出口側に配設することも可能である。また当て部材Bの切りくずBRの先端が当接する部分は平面に限らず、円盤状の切りくずBRの角度θが90度未満にとどまる条件を満たせば、斜面や曲面などいかなる形状でも良い。
【符号の説明】
【0035】
B:当て部材(切りくず除去装置) B1:支持突部
B2:当て部 B3:当て部
C:チャック CL:隙間
D:ドリル DM:直径
H:ドリル孔 Hd:ドリルヘッド
W:H形鋼(ワーク) Wa:酸化皮膜
【要約】
【課題】ドリル孔の加工完了と同時にドリル孔の出口側に発生する円盤状の切りくずを除去する。
【解決手段】本発明の切りくず除去取り装置は、ワーク(H形鋼W)にドリル孔Hを加工する際にドリル孔Hの出口側に発生する円盤状の切りくずBRを除去する切りくず除去装置であって、ドリル孔Hの出口側において円盤状の切りくずBRに当接する当て部材Bを有することを特徴とする。
【選択図】
図1