(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-02
(45)【発行日】2023-11-13
(54)【発明の名称】流体動圧軸受、スピンドルモータ及びディスク駆動装置
(51)【国際特許分類】
F16C 33/10 20060101AFI20231106BHJP
C10M 169/04 20060101ALI20231106BHJP
H02K 7/08 20060101ALI20231106BHJP
G11B 19/20 20060101ALI20231106BHJP
G11B 21/02 20060101ALI20231106BHJP
G11B 33/12 20060101ALI20231106BHJP
C10M 105/32 20060101ALN20231106BHJP
C10M 105/34 20060101ALN20231106BHJP
C10M 105/36 20060101ALN20231106BHJP
C10M 105/38 20060101ALN20231106BHJP
C10M 137/12 20060101ALN20231106BHJP
C10M 133/06 20060101ALN20231106BHJP
C10M 139/00 20060101ALN20231106BHJP
C10N 30/00 20060101ALN20231106BHJP
C10N 40/02 20060101ALN20231106BHJP
【FI】
F16C33/10 Z
C10M169/04
H02K7/08 A
G11B19/20 E
G11B21/02 630A
G11B33/12 313C
C10M105/32
C10M105/34
C10M105/36
C10M105/38
C10M137/12
C10M133/06
C10M139/00 A
C10N30:00 Z
C10N40:02
(21)【出願番号】P 2023543241
(86)(22)【出願日】2022-11-18
(86)【国際出願番号】 JP2022042914
(87)【国際公開番号】W WO2023090432
(87)【国際公開日】2023-05-25
【審査請求日】2023-07-18
(31)【優先権主張番号】P 2021188948
(32)【優先日】2021-11-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000114215
【氏名又は名称】ミネベアミツミ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001999
【氏名又は名称】弁理士法人はなぶさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】北島 啄也
(72)【発明者】
【氏名】八町 順
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 悠斗
【審査官】林 建二
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-145400(JP,A)
【文献】特開2019-065256(JP,A)
【文献】特表2014-508847(JP,A)
【文献】特開2018-177903(JP,A)
【文献】特開2008-133339(JP,A)
【文献】特開2004-183868(JP,A)
【文献】特開2014-209030(JP,A)
【文献】特表2010-530447(JP,A)
【文献】特開2007-046030(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M 101/00-177/00
C10N
F16C 17/00-17/26
F16C 33/00-33/28
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基油とイオン液体とを含む潤滑油組成物を封入した流体動圧軸受であって、
前記基油が、エステル油であり、
前記イオン液体が、
下記式(A)で表されるテトラアルキルホスホニウムカチオン及び下記式(B)で表されるテトラアルキルアンモニウムカチオンからなる群から選択される少なくとも一種のカチオンと、
下記式(C-1)で表されるボレートアニオン
とを有する、イオン液体である、
流体動圧軸受。
【化1】
(式(A)中、R
1、R
2、R
3及びR
4は、それぞれ独立して、直鎖又は分岐鎖の炭素原子数1乃至18のアルキル基を表し、
式(B)中、R
5、R
6、R
7及びR
8は、それぞれ独立して、直鎖又は分岐鎖の炭素原子数1乃至18のアルキル基を表す)。
【化2】
(式(C-1)中、
R
9
、R
10
、R
11
及びR
12
は、それぞれ独立して、直鎖の炭素原子数1乃至2のアルキル基を表す。)
【請求項2】
前記イオン液体が、
前記式(B)で表されるテトラアルキルアンモニウムカチオンを有するイオン液体であって、式(B)中、R
5、R
6、R
7及びR
8は、それぞれ独立して、直鎖又は分岐鎖の炭素原子数5乃至18のアルキル基を表す、イオン液体である、
請求項
1に記載の流体動圧軸受。
【請求項3】
前記基油が、モノエステル油である、
請求項
1に記載の流体動圧軸受。
【請求項4】
前記基油が、ジエステル油である、
請求項
1に記載の流体動圧軸受。
【請求項5】
前記基油が、ジオールエステル油である、
請求項
4に記載の流体動圧軸受。
【請求項6】
請求項1乃至請求項
5のうちいずれか一項に記載の流体動圧軸受を備えたスピンドルモータ。
【請求項7】
請求項
6に記載のスピンドルモータを搭載したディスク駆動装置。
【請求項8】
3.5インチ径のディスクを9枚以上備えた、請求項
7に記載のディスク駆動装置。
【請求項9】
空気よりも密度の小さい気体により内部空間が満たされている、請求項
7に記載のディスク駆動装置。
【請求項10】
熱アシスト磁気記録方式が採用された、請求項
7に記載のディスク駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基油とイオン液体とを含む潤滑油組成物を封入した流体動圧軸受、及び該流体動圧軸受を備えたスピンドルモータに関する。さらに本発明は該スピンドルモータを備えたディスク駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
HDD(ハードディスクドライブ)のアクチュエータの支点部分に使用されるピボットアセンブリや、スピンドルモータに内蔵される軸受には、これら部品の動作や装置の駆動を円滑にするために、グリースやオイルなどの種々の潤滑剤が用いられている。
【0003】
イオン液体はイオンのみ(アニオン、カチオン)から構成される液体状態にある塩である。イオン液体は、低蒸気圧(不揮発性)、高い熱安定性、難燃性、低粘度、高いイオン導電性などの特徴を有し、またカチオンとアニオンの組み合わせにより種々の物性をデザイン可能であることから、電解液や溶媒をはじめ様々な技術分野への適用が期待されている。
前述の低蒸気圧や高い熱安定性、低粘度といった特徴から、上述の潤滑剤への適用も検討されており、例えば高荷重条件下で低摩擦性を長く維持することを目的にイオン液体を添加した潤滑剤組成物の提案がある(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
HDDの読み書きエラーの発生原因の一つとして、上記アクチュエータやスピンドルモータに内蔵される軸受に封入された潤滑剤成分の揮発や蒸発が挙げられる。揮発や蒸発した潤滑剤の成分が冷却されて磁気ディスク表面や磁気ヘッド上で凝結し、液体又は固体としてこれらに付着した場合、磁気ディスクと磁気ヘッドが吸着を起こすなどして正常な読み書きができなくなり、これが読み書きエラーの一原因になると考えられている。
これまで、特許文献1に記載の潤滑剤組成物を含め、イオン液体を添加した従来の潤滑剤において、潤滑剤、特に潤滑剤に含まれる基油の蒸発を考慮した提案はなされていない。
【0006】
本発明は、基油とイオン液体とを含む潤滑油組成物を封入した流体動圧軸受を提供すること、並びに該流体動圧軸受をスピンドルモータに組み込むことにより、該流体動圧軸受に備えられた潤滑油組成物において蒸発が抑制され、ひいてはHDDの読み書きエラー発生を抑制できる、スピンドルモータ及びそれを備えたディスク駆動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は基油とイオン液体とを含む潤滑油組成物を封入した流体動圧軸受であって、前記イオン液体が、
下記式(A)で表されるテトラアルキルホスホニウムカチオン及び下記式(B)で表されるテトラアルキルアンモニウムカチオンからなる群から選択される少なくとも一種のカチオンと、
ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミドアニオン、トリス(トリフルオロメチルスルホニル)メチドアニオン、下記式(C-1)で表されるボレートアニオン、下記式(C-2)で表されるボレートアニオン及び下記式(C-3)で表されるボレートアニオンからなる群から選択される少なくとも一種のアニオンとを有する、イオン液体である、
流体動圧軸受に関する。
【化1】
(式(A)中、R
1、R
2、R
3、及びR
4は、それぞれ独立して、直鎖又は分岐鎖の炭素原子数1乃至18のアルキル基を表し、
式(B)中、R
5、R
6、R
7、及びR
8は、それぞれ独立して、直鎖又は分岐鎖の炭素原子数1乃至18のアルキル基を表す)。
【化2】
(式(C-1)中、R
9及びR
11は、それぞれ独立して、直鎖又は分岐鎖の炭素原子数1乃至22のアルキル基を表し、R
10及びR
12は、それぞれ独立して、水素原子又は、直鎖もしくは分岐鎖の炭素原子数1乃至22のアルキル基を表す。)
本発明はまた、流体動圧軸受を備えたスピンドルモータに関する。
そして本発明は、スピンドルモータを搭載したディスク駆動装置に関する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、本発明のスピンドルモータの要部構造の一例を説明する概念図である。
【
図2】本発明の駆動装置(ディスク駆動装置)の構造の一例を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
上述したように、潤滑剤組成物の蒸発成分中に含まれる成分が記録ディスク等に付着した場合、読み書きエラーにつながり得るため、潤滑剤成分の蒸発はできるだけ抑制することが望まれる。
特に近年のHDDの記録情報の大容量化と高密度化、及び処理速度の高速化に伴い、ディスク駆動装置のフライハイト(磁気ヘッドと磁気ディスク間の距離)は数nm程度にまで狭まっており、潤滑剤成分の蒸発やそれに伴う付着がもたらし得る不具合への懸念が高まっている。フライハイトが小さくなったことで磁気ヘッドとディスクとの間が負圧状態となり得、この場合、周囲の気体が磁気ヘッドとディスクとの間に向かい圧縮・凝縮されることで、微量な蒸発・揮発成分であっても液化しディスク等への付着につながる可能性がある。また近年HDD1台当たりの記録容量の増大に伴い、装置内のディスク枚数が増え、3.5インチ径のディスクを9枚以上備えたディスク駆動装置も発売されるようになっている。このような装置では、装置内の空間容積がさらに小さくなっている。このように空間容積が小さく、さらにはフライハイトが数nmオーダーの環境下では、微量のコンタミネーションでさえ読み書きエラーにつながる可能性がある。
また、空気よりも密度の小さい気体(例えばヘリウム等)で内部空間が満たされているディスク駆動装置も普及し始めている。このようなディスク駆動装置では、装置内部の気圧が1気圧よりも小さいことがある。その場合、潤滑剤成分の蒸発・揮発の抑制がより難しくなる。さらに、次世代記録技術である熱アシスト磁気記録(HAMR)方式が採用されたHDDの場合、アクチュエータのヘッド部の温度が局所的に400℃もの高温となり得る。これにより、HDD内部温度が上昇するため、潤滑剤成分の蒸発や揮発はこれまで以上に起こり易くなっており、ディスク読み書きに係る不具合を引き起こす可能性が高まっている。
【0010】
本発明に係る流体動圧軸受に適用された潤滑油組成物は、後述するように特定のイオン液体を配合してなることを特徴とする。この潤滑油組成物の配合は、熱アシスト磁気記録方式が採用されたディスク駆動装置への適用においても該組成物の蒸発量の抑制が期待でき、蒸発成分によるHDDの読み書きエラー発生の抑制に寄与することができる。
以下具体的に説明する。
【0011】
[流体動圧軸受]
まず以下に添付図面を参照して、本発明に係る流体動圧軸受の好ましい実施形態について詳細に説明する。
図1は本発明の一実施形態である流体動圧軸受および該流体動圧軸受を備えたスピンドルモータを説明するための模式図である。なお下記に示す実施形態は本発明の例示的な実施形態であって、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0012】
図1に示すように、スピンドルモータ1は、コンピュータに使用される磁気ディスクや光ディスク等を備えたデータ記憶装置を駆動するためのモータとして使用される。全体的には、ステータアッシー2とロータアッシー3とから構成されている。なお、
図1のスピンドルモータ1は軸回転型のモータであるが、本発明は軸固定型のモータにも適用可能である。
【0013】
ステータアッシー2は、データ記憶装置の筐体を構成するハウジング4(べースプレート)に上方に向けて突出するように設けられた円筒部5に固定されている。円筒部5の外周部には、ステータコイル9が捲回されたステータコア8が嵌着されて取り付けられている。
【0014】
ロータアッシー3は、ロータハブ10を有し、このロータハブ10は、軸部11の上端部に固定されており、軸部11と共に回転する。軸部11は、軸受部材であるスリーブ7内に挿入され、このスリーブ7により回転可能に支承されている。スリーブ7は、円筒部5の内部に嵌入されて固定されている。ロータハブ10の下方円筒部10aは、ハウジング4の内側で回転するが、この下方円筒部10aの内周面には、バックヨーク13が装着されており、さらにこのバックヨーク13の内側にはロータマグネット14が嵌入固定されていて、N極及びS極の複数極に着磁されている。
【0015】
ステータコイル9に通電すると、ステータコア8により磁場が形成され、この磁場が、該磁場内に配置されたロータマグネット14に作用して、ロータアッシー3が回転することとなる。ロータアッシー3のロータハブ10の中間円筒部15の外周面には、データ記憶装置の記憶部をなす記録ディスク、例えば磁気ディスク(図示されず)が装着され、スピンドルモータ1の作動により回転、あるいは停止して、(図示されない)記録用ヘッドにより情報の書き込み・データ処理が行われる。
【0016】
このような実施態様のスピンドルモータ1において、スリーブ7が軸部11を回転可能に支承する部分には、流体動圧軸受6が提供されている。
スリーブ7の下端部には、下方に向けて開口する大径の第1の凹部16が形成されており、さらにこの第1の凹部16の頂面には、小径の第2の凹部17が形成されている。大径の第1の凹部16には、カウンタープレート(スラスト受板)18が嵌合され、溶着・接着等の手段によりそこに固着されており、スリーブ7内が気密状態となるようにされている。
【0017】
軸部11の下端部には、スラストワッシャ19が嵌合、圧入されて固定されており、このスラストワッシャ19は、スリーブ7の第2の凹部17内で、カウンタープレート18及び第2の凹部17の頂面と対向して、軸部11とともに回転するように配置されている。
【0018】
スリーブ7と軸部11との間の隙間、スラストワッシャ19と第2の凹部17との間の隙間、スラストワッシャ19及び軸部11とカウンタープレート18との隙間は互いに連通しており、この連通隙間には、後述する潤滑油組成物12が封入されている。潤滑油組成物12はスリーブ7と軸部11との間から注入される。
【0019】
軸部11に対向するスリーブ7の内周面には、動圧を発生させる第1のラジアル動圧溝20および第2のラジアル動圧溝21が軸方向に離間して形成されている。このラジアル動圧溝20および21は、軸部11の回転により、軸部11とスリーブ7がラジアル方向に非接触状態となる動圧を発生させる。また、スラストワッシャ19の上端面と対向する第2の凹部17の頂面およびスラストワッシャ19の下端面と対向するカウンタープレート18の上端面にはそれぞれ第1のスラスト動圧溝22および第2のスラスト動圧溝23が形成されている。このスラスト動圧溝22および23は、軸部11の回転により、スラスト方向に軸部11を安定的に浮上させるための動圧を発生させる。これら動圧溝の作用により、軸部11はスリーブ7に対して非接触状態で安定的に高速回転することができる。動圧溝としてはヘリングボーン溝、スパイラル溝などの公知のパターンを用いることができる。
【0020】
[ディスク駆動装置]
図2は、本実施形態に係るスピンドルモータを用いたディスク駆動装置30の全体構成を示す斜視図である。
図2に示すように、本実施形態であるディスク駆動装置30は、略矩形箱状の基台(ベースプレート)31と、この基台31に載置されたスピンドルモータ1と、このスピンドルモータ1により回転する磁気ディスク32と、磁気ディスク32の所定の位置に情報を書き込むと共に、任意の位置から情報を読み出す磁気ヘッド34を有するスイングアーム33と、スイングアーム33を揺動可能に支持するピボットアッシー軸受装置35と、スイングアーム33を駆動するアクチュエータ36と、これらの機器を制御する制御部37とを備えている。
【0021】
本発明のディスク駆動装置は、例えば、3.5インチ径の磁気ディスクを9枚以上備えたディスク駆動装置とすることができる。このようなディスク枚数の大きい装置では、装置内の空間容積がさらに小さくなっている。前記ディスク駆動装置は、その内部空間が空気よりも密度の小さい気体により満たされているものとすることができる。このような低密度気体で内部空間が満たされたディスク駆動装置では、装置内部の気圧が1気圧よりも小さいことがある。また前記ディスク装置は、記録方式として、熱アシスト磁気記録(HAMR)方式を採用したものとすることができる。熱アシスト磁気記録(HAMR)方式が採用されたディスク駆動装置では、アクチュエータのヘッド部の温度が局所的に400℃もの高温となり得る。
後述する本実施形態で用いる潤滑油組成物は、低蒸発性を示す。そのため、これを使用した流体動圧軸受及びスピンドルモータにおいて、高温下の駆動においても該潤滑油組成物の成分の蒸発が抑制され、蒸発成分の磁気ディスク等への付着によるディスク駆動装置のディスク読み書きエラーの抑制を可能とすることができる。
【0022】
[潤滑油組成物]
本発明者らは、流体動圧軸受に適用される潤滑油組成物において、イオン液体の添加に着目した。そして、特定のカチオンとアニオンから構成されるイオン液体が、潤滑油組成物の蒸発量を抑制すること、また基油としてエステル油を用いた場合には、エステル油の加水分解を抑制することを見出した。
以下、本発明の流体動圧軸受に封入される潤滑油組成物について説明する。
【0023】
<基油>
本実施形態に係る流体動圧軸受に適用される潤滑油組成物において、基油としては特に制限はなく、一般に潤滑油における基油として使用される鉱物油、炭化水素系合成油、エステル系合成油、エーテル系合成油等の合成油を単独または混合して使用することができる。
これらの中でもエステル系合成油は、後述するイオン液体を溶解しやすい観点から好ましく用いることができる。
【0024】
前記エステル系合成油(単にエステル油とも称する)としては、例えばジエステル油、モノエステル油、ポリオールエステル油、芳香族エステル油等が挙げられる。
【0025】
〈ジエステル油〉
前記ジエステル油は、例えば、ジオールと一塩基酸又は酸混合物とから製造されるジオールエステル油、又は、二塩基酸とアルコールとから製造される二塩基酸ジエステル油を挙げることができる。
【0026】
《ジオールエステル油》
ジオールエステル油の具体例として、例えば下記式(1)で表されるジエステルを挙げることができる。
【化3】
[式中、R
13、R
14は、同一又は異なって、炭素原子数3~17の直鎖状アルキル基を表し、Aは炭素原子数2~10の直鎖状又は分岐状の脂肪族二価アルコールの残基を表す。]
上記式(1)で表されるジエステルは、アルコール成分として炭素原子数2~10の直鎖状又は分岐状の脂肪族二価アルコールと、酸成分として炭素原子数4~18の脂肪族直鎖状飽和モノカルボン酸とを、常法に従って、好ましくは窒素等の不活性ガス雰囲気下、エステル化触媒の存在下又は無触媒下で加熱撹拌しながらフルエステル化することにより調製されるエステル化合物である。
【0027】
上記アルコール成分として、炭素原子数2~10の直鎖状又は分岐状の脂肪族二価アルコールの具体例としては、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2-メチル-1,4-ブタンジオール、1,4-ペンタンジオール、1,5-ペンタンジオール、2-メチル-1,5-ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,5-ヘキサンジオール、1,6-ヘキサンジオール、2-メチル-1,6-ヘキサンジオール、3-メチル-1,6-ヘキサンジオール、1,6-ヘプタンジオール、1,7-ヘプタンジオール、2-メチル-1,7-ヘプタンジオール、3-メチル-1,7-ヘプタンジオール、4-メチル-1,7-ヘプタンジオール、1,7-オクタンジオール、1,8-オクタンジオール、2-メチル-1,8-オクタンジオール、3-メチル-1,8-オクタンジオール、4-メチル-1,8-オクタンジオール、1,8-ノナンジオール、1,9-ノナンジオール、2-メチル-1,9-ノナンジオール、3-メチル-1,9-ノナンジオール、4-メチル-1,9-ノナンジオール、5-メチル-1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、2,4-ジエチル-1,5-ペンタンジオールなどが例示される。これらの中でも、耐熱性及び低温流動性に優れる点から、分岐鎖を1~2個有する炭素原子数4~6の脂肪族二価アルコールを挙げることができ、具体的には、2-メチル-1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、2-メチル-1,4-ブタンジオール、1,4-ペンタンジオール、2-メチル-1,5-ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,5-ヘキサンジオール、特に、3-メチル-1,5-ペンタンジオールを挙げることができる。
【0028】
また上記酸成分として、炭素原子数4~18の脂肪族直鎖状飽和モノカルボン酸の具体例としては、n-ブタン酸、n-ペンタン酸、n-ヘキサン酸、n-ヘプタン酸、n-オクタン酸、n-ノナン酸、n-デカン酸、n-ウンデカン酸、n-ドデカン酸、n-トリデカン酸、n-テトラデカン酸、n-ペンタデカン酸、n-ヘキサデカン酸、n-ヘプタデカン酸、n-オクタデカン酸が例示される。これらの中でも、耐熱性及び低温下の粘度が低い点から、炭素原子数4~12の脂肪族直鎖状飽和モノカルボン酸を挙げることができる。具体的には、n-ブタン酸、n-ペンタン酸、n-ヘキサン酸、n-ヘプタン酸、n-オクタン酸、n-ノナン酸、n-デカン酸、n-ウンデカン酸、n-ドデカン酸が例示され、特に、n-ヘプタン酸、n-オクタン酸、n-ノナン酸、n-デカン酸を挙げることができる。
上記酸成分は、単独でエステル化に供することが可能であり、又、2種以上の酸を混合して用いることも可能である。2種以上の酸を混合してエステル化に用いた場合、得られるエステルには、1分子中に2種以上の酸に由来する基を含む混基エステルが含まれる。
【0029】
ジオールエステル油の好ましい例として、3-メチル-1,5-ペンタンジオールと、炭素原子数7~11の脂肪族飽和直鎖状モノカルボン酸とのジエステルが挙げられ、具体的には、3-メチル-1,5-ペンタンジオールジ(n-ヘプタノエート)、3-メチル-1,5-ペンタンジオールジ(n-オクタノエート)、3-メチル-1,5-ペンタンジオールジ(n-ノナノエート)、3-メチル-1,5-ペンタンジオールジ(n-デカノエート)、3-メチル-1,5-ペンタンジオールジ(n-ウンデカノエート)が例示される。
また、ジオールエステル油の好ましい例として、3-メチル-1,5-ペンタンジオールと、2種の炭素原子数7~11の脂肪族飽和直鎖状モノカルボン酸を用いたジエステルも挙げることができる。具体的には、3-メチル-1,5-ペンタンジオールとn-ヘプタン酸及びn-オクタン酸とのジエステル、3-メチル-1,5-ペンタンジオールとn-ヘプタン酸及びn-ノナン酸とのジエステル、3-メチル-1,5-ペンタンジオールとn-ヘプタン酸及びn-デカン酸とのジエステル、3-メチル-1,5-ペンタンジオールとn-オクタン酸及びn-ノナン酸とのジエステル、3-メチル-1,5-ペンタンジオールとn-オクタン酸及びn-デカン酸とのジエステル、3-メチル-1,5-ペンタンジオールとn-ノナン酸及びn-デカン酸とのジエステル、3-メチル-1,5-ペンタンジオールとn-デカン酸及びn-ウンデカン酸とのジエステル等が例示される。
【0030】
《二塩基酸ジエステル油》
二塩基酸ジエステル油としては、例えばアジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸等の脂肪族二塩基酸と、炭素原子数4~16の脂肪族飽和直鎖状一価アルコール又は炭素原子数4~16の脂肪族飽和分岐鎖状一価アルコールとのフルエステルが例示される。
具体的には、アジピン酸ジ(n-ブチル)、アジピン酸ジ(n-オクチル)、アジピン酸ジ(n-ノニル)、アジピン酸ジ(n-デシル)、アジピン酸ジ(n-トリデシル)、アジピン酸ジ(2-エチルヘキシル)、アジピン酸ジイソオクチル、アジピン酸ジイソノニル、アジピン酸ジ(3,5,5-トリメチルヘキシル)、アジピン酸ジイソデシル、アジピン酸ジイソウンデシル、アジピン酸ジイソドデシル、アジピン酸ジイソトリデシル、アゼライン酸ジ(n-ブチル)アゼライン酸ジ(n-オクチル)、アゼライン酸ジ(n-ノニル)、アゼライン酸ジ(n-デシル)、アゼライン酸ジ(n-トリデシル)、アゼライン酸ジ(2-エチルヘキシル)、アゼライン酸ジイソオクチル、アゼライン酸ジイソノニル、アゼライン酸ジ(3,5,5-トリメチルヘキシル)、アゼライン酸ジイソデシル、アゼライン酸ジイソウンデシル、アゼライン酸ジイソドデシル、アゼライン酸ジイソトリデシル、セバシン酸ジ(n-ブチル)、セバシン酸ジ(n-オクチル)、セバシン酸ジ(n-ノニル)、セバシン酸ジ(n-デシル)、セバシン酸ジ(n-トリデシル)、セバシン酸ジ(2-エチルヘキシル)、セバシン酸ジイソオクチル、セバシン酸ジイソノニル、セバシン酸ジ(3,5,5-トリメチルヘキシル)、セバシン酸ジイソデシル、セバシン酸ジイソウンデシル、セバシン酸ジイソドデシル、セバシン酸ジイソトリデシルなどを挙げることができる。
【0031】
〈モノエステル油〉
モノエステル油としては、炭素原子数6~18の脂肪族直鎖状モノカルボン酸と炭素原子数8~24の脂肪族飽和直鎖状一価アルコール又は炭素原子数8~24の脂肪族飽和分岐鎖状一価アルコールとのフルエステルが例示される。
具体的には、n-ドデカン酸n-オクチル、n-ドデカン酸n-ノニル、n-ドデカン酸n-デシル、n-ドデカン酸2-エチルヘキシル、n-ドデカン酸イソオクチル、n-ドデカン酸イソノニル、n-ドデカン酸3,5,5-トリメチルヘキシル、n-ドデカン酸イソデシル、n-ドデカン酸イソウンデシル、n-ドデカン酸イソドデシル、n-ドデカン酸イソトリデシル、n-テトラデカン酸n-ノニル、n-テトラデカン酸n-デシル、n-テトラデカン酸2-エチルヘキシル、n-テトラデカン酸イソオクチル、n-テトラデカン酸イソノニル、n-テトラデカン酸3,5,5-トリメチルヘキシル、n-テトラデカン酸イソデシル、n-テトラデカン酸イソウンデシル、n-テトラデカン酸イソドデシル、n-テトラデカン酸イソトリデシル、n-ヘキサデカン酸n-ノニル、n-ヘキサデカン酸n-デシル、n-ヘキサデカン酸2-エチルヘキシル、n-ヘキサデカン酸イソオクチル、n-ヘキサデカン酸イソノニル、n-ヘキサデカン酸3,5,5-トリメチルヘキシル、n-ヘキサデカン酸イソデシル、n-ヘキサデカン酸イソウンデシル、n-ヘキサデカン酸イソドデシル、n-ヘキサデカン酸イソトリデシル、n-オクタデカン酸n-ノニル、n-オクタデカン酸n-デシル、n-オクタデカン酸2-エチルヘキシル、n-オクタデカン酸イソオクチル、n-オクタデカン酸イソノニル、n-オクタデカン酸3,5,5-トリメチルヘキシル、n-オクタデカン酸イソデシル、n-オクタデカン酸イソウンデシル、n-オクタデカン酸イソドデシル、n-オクタデカン酸イソトリデシル、2-メチルペンタン酸2-デシルテトラデシルなどが挙げられる。
【0032】
〈ポリオールエステル油〉
ポリオールエステル油としては、例えば多価アルコール[上述のアルコール成分の具体例として挙げた化合物以外のジオール(例えば、ネオペンチルグリコール)、トリオール(例えば、トリメチロールプロパン)、テトラオール(例えば、ペンタエリスリトール)、ヘキサオール(例えば、ジペンタエリスリトール)など〕と炭素原子数4~22の直鎖状及び/又は分岐鎖状の脂肪酸とのフルエステルが例示される。
具体的には、トリメチロールプロパントリヘプタノエート、トリメチロールプロパントリカプリレート、トリメチロールプロパントリペラルゴナート、ペンタエリスリトールテトラヘプタノエート、ペンタエリスリトールトリ(2-エチルヘキサノエート)、ペンタエリスリトールテトラオレエート、ネオペンチルポリオールなどが挙げられる。
【0033】
〈芳香族エステル油〉
芳香族エステル油としては、フタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸等の芳香族多価カルボン酸と、炭素原子数4乃至16の脂肪族モノアルコールとのエステルが例示される。
具体的には、ジトリデシルフタレート、トリオクチルトリメリテート、トリ-2-エチルヘキシルトリメリテート、トリデシルトリメリテート、テトラオクチルピロメリテート、テトラ-2-エチルヘキシルピロメリテートなどが挙げられる。
【0034】
本発明の流体動圧軸受に適用される潤滑油組成物の全量に対する基油の割合は、後述するイオン液体の配合量と、必要に応じて配合し得るその他添加剤の配合量を除いた残部とすることができる。
【0035】
<イオン液体>
本実施形態に係る流体動圧軸受に適用される潤滑油組成物は、特定のイオン液体を必須として含む。
従来より潤滑剤には、回転摩擦により部品間で発生する静電気を逃すべく、必要に応じて導電性の付与がなされるが、その一つの方法としてイオン液体の添加が検討される。
本発明で使用するイオン液体にあっては、導電性の付与に加えて、潤滑油組成物の蒸発量を抑制し、また基油として使用するエステル油の加水分解を抑制する役割を担うものである。
【0036】
上記イオン液体は、下記式(A)で表されるテトラアルキルホスホニウムカチオン及び下記式(B)で表されるテトラアルキルアンモニウムカチオンからなる群から選択される少なくとも一種のカチオンと、ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミドアニオン、トリス(トリフルオロメチルスルホニル)メチドアニオン、下記式(C-1)で表されるボレートアニオン、下記式(C-2)で表されるボレートアニオン及び下記式(C-3)で表されるボレートアニオンからなる群から選択される少なくとも一種のアニオンとを有する。
【0037】
〈カチオン〉
本発明に係るイオン液体に使用されるテトラアルキルホスホニウムカチオンは式(A)で表される。
【化4】
上記式(A)中、R
1、R
2、R
3、及びR
4は、それぞれ独立して、直鎖又は分岐鎖の炭素原子数1乃至18のアルキル基を表す。
好ましくは、R
1、R
2、R
3、及びR
4は、それぞれ独立して、直鎖又は分岐鎖の炭素原子数4乃至18のアルキル基を表す。
【0038】
上記式(A)における炭素原子数1乃至18のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基などが挙げられる。
【0039】
上記式(A)におけるR1、R2、R3、及びR4の組み合わせとしては、例えば、R1が直鎖又は分岐構造である炭素原子数11~18のアルキル基であり、R2~R4がそれぞれ独立して、直鎖又は分岐構造である炭素原子数4~10のアルキル基である組み合わせ、またR1が直鎖又は分岐構造である炭素原子数12~16のアルキル基であり、R2~R4がそれぞれ独立して、直鎖又は分岐構造である炭素原子数4~8のアルキル基である組み合わせ、あるいは、R1~R4がそれぞれ独立して、直鎖又は分岐構造である炭素原子数6~12のアルキル基である組み合わせなどが挙げられる。
また上記式(A)における式中のR1、R2、R3、及びR4の合計炭素原子数は、例えば32とすることができる。
式(A)で表されるテトラアルキルホスホニウムカチオンとしては、例えば、R1がテトラデシル基でありR2~R4がヘキシル基である(テトラデシル)トリ(ヘキシル)ホスホニウムカチオン、R1~R4がオクチル基であるテトラオクチルホスホニウムカチオンなどを挙げることができる。
【0040】
またテトラアルキルアンモニウムカチオンは式(B)で表される。
【化5】
上記式(B)中、R
5、R
6、R
7、及びR
8は、それぞれ独立して、直鎖又は分岐鎖の炭素原子数1乃至18のアルキル基を表す。
好ましくは、R
5、R
6、R
7、及びR
8は、それぞれ独立して、直鎖又は分岐鎖の炭素原子数5乃至18のアルキル基を表す。
【0041】
上記式(B)における炭素原子数1乃至18のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基などが挙げられる。
【0042】
上記式(B)におけるR5、R6、R7、及びR8の組み合わせとしては、例えば、R5が直鎖又は分岐鎖の炭素原子数1乃至4のアルキル基であり、R6~R8がそれぞれ独立して、直鎖又は分岐鎖の炭素原子数6乃至14のアルキル基である組み合わせ;またR5が直鎖又は分岐鎖の炭素原子数11乃至16のアルキル基であり、R6~R8がそれぞれ独立して、直鎖又は分岐鎖の炭素原子数6乃至10のアルキル基である組み合わせ;あるいは、R5~R8がそれぞれ独立して、直鎖又は分岐構造である炭素原子数6乃至12のアルキル基である組み合わせなどが挙げられる。
上記式(B)における式中のR5、R6、R7、及びR8の合計炭素原子数は、例えば24乃至40とすることができる。
式(B)で表されるテトラアルキルアンモニウムカチオンとしては、例えばR5~R8がヘキシル基であるテトラヘキシルアンモニウムカチオン、R5がメチル基でありR6~R8がオクチル基であるメチルトリ(オクチル)アンモニウムカチオン、R5がテトラデシル基でありR6~R8がヘキシル基である(テトラデシル)トリ(ヘキシル)アンモニウムカチオン、R5~R8がオクチル基であるテトラオクチルアンモニウムカチオン、R5~R8がデシル基であるテトラデシルアンモニウムカチオンなどを挙げることができる。
【0043】
〈アニオン〉
本発明に係るイオン液体に使用されるアニオンは、ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミドアニオン、トリス(トリフルオロメチルスルホニル)メチドアニオン、式(C-1)で表されるボレートアニオン、式(C-2)で表されるボレートアニオン及び式(C-3)で表されるボレートアニオンからなる群から選択される。
なお、昨今、フッ素系化合物の使用の禁止や使用制限等の規制が進められている観点からは、アニオンとして式(C-1)で表されるボレートアニオン、式(C-2)で表されるボレートアニオン及び式(C-3)で表されるボレートアニオンを使用することが望まれる。
【化6】
上記式(C-1)中、R
9及びR
11は、それぞれ独立して、直鎖又は分岐鎖の炭素原子数1乃至22のアルキル基を表し、R
10及びR
12は、それぞれ独立して、水素原子又は、直鎖もしくは分岐鎖の炭素原子数1乃至22のアルキル基を表す。
一態様において、上記(C-1)におけるR
9、R
10、R
11及びR
12は、それぞれ独立して、直鎖又は分岐鎖の炭素原子数1乃至22のアルキル基を表し、または、それぞれ独立して、直鎖又は分岐鎖の炭素原子数1乃至6のアルキル基を表し、或いは、それぞれ独立して、直鎖又は分岐鎖の炭素原子数1乃至2のアルキル基を表す。
【0044】
上記R9、R10、R11及びR12における上記炭素原子数1乃至22のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、エイコシル基、ヘンエイコシル基、ドコシル基などが挙げられる。
上記式(C-1)におけるR9、R10、R11及びR12の組み合わせとしては、例えば、R9~R12がそれぞれ独立して、直鎖又は分岐構造である炭素原子数1乃至6のアルキル基である組み合わせ、あるいは、R9~R12が全てメチル基である組み合わせ、或いは、R9及びR11がそれぞれ独立して、直鎖又は分岐構造である炭素原子数1乃至6のアルキル基であり、R10及びR12が水素原子である組み合わせなどが挙げられる。
【0045】
本発明で使用するイオン液体は、例えば以下の(a)~(j)に示すカチオンとアニオンの組み合わせを用いることができる。
(a)
上記式(B)で表され、式中のR5、R6、R7及びR8がそれぞれ独立して直鎖又は分岐鎖の炭素原子数5乃至18のアルキル基を表す、テトラアルキルアンモニウムカチオンからなる群から選択される少なくとも一種のカチオンと、
上記式(C-1)で表されるボレートアニオン、上記式(C-2)で表されるボレートアニオン及び上記式(C-3)で表されるボレートアニオンからなる群から選択される少なくとも一種のアニオンとの組み合わせ。
(b)
上記式(B)で表され、式中のR5、R6、R7、及びR8がそれぞれ独立して直鎖又は分岐鎖の炭素原子数5乃至18のアルキル基を表す、テトラアルキルアンモニウムカチオンからなる群から選択される少なくとも一種のカチオンと、
上記式(C-1)で表されるボレートアニオン及び上記式(C-3)で表されるボレートアニオンからなる群から選択される少なくとも一種のアニオンとの組み合わせ。
(c)
上記式(B)で表され、式中のR5、R6、R7、及びR8の合計炭素原子数が24乃至40である、テトラアルキルアンモニウムカチオンからなる群から選択される少なくとも一種のカチオンと、
上記式(C-1)で表され、式中のR9、R10、R11及びR12がメチル基であるボレートアニオン及び前記式(C-3)で表されるボレートアニオンからなる群から選択される少なくとも一種のアニオンとの組み合わせ。
(d)
テトラオクチルアンモニウムカチオンと、上記(C-1)で表され、式中のR9、R10、R11及びR12がメチル基であるボレートアニオンとの組み合わせ。
(e)
(テトラデシル)トリ(ヘキシル)アンモニウムカチオンと、上記(C-1)で表され、式中のR9、R10、R11及びR12がメチル基であるボレートアニオンとの組み合わせ。
(f)
テトラヘキシルアンモニウムカチオンと、上記式(C-1)で表され、式中のR9、R10、R11及びR12がメチル基であるボレートアニオンとの組み合わせ。
(g)
テトラデシルアンモニウムカチオンと、上記式(C-1)で表され、式中のR9、R10、R11及びR12がメチル基であるボレートアニオンとの組み合わせ。
(h)
テトラデシルアンモニウムカチオンと、上記式(C-3)で表されるボレートアニオンとの組み合わせ。
(i)
テトラヘキシルアンモニウムカチオンと、上記式(C-1)で表され、式中のR9及びR11がメチル基であり、R10及びR12がエチル基であるボレートアニオンとの組み合わせ。
(j)
テトラヘキシルアンモニウムカチオンと、上記式(C-1)で表され、式中のR9、R10、R11及びR12がエチル基であるボレートアニオンとの組み合わせ。
これらの中でも、(d)~(j)に示すカチオンとアニオンの組み合わせからなるイオン液体は、これを配合した潤滑油組成物において、蒸発量の抑制、基油の加水分解の抑制、導電性の改善効果を得られることが期待できる。
【0046】
潤滑油組成物における上記イオン液体の配合量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
例えば上記基油に対して、0.01質量%以上10質量%以下、あるいは0.03質量%以上1質量%以下、また0.03質量%以上0.5質量%以下などとすることができる
【0047】
<添加剤>
また潤滑油組成物には、上記必須成分に加えて、必要に応じて潤滑油組成物に通常使用される添加剤を、本発明の効果を損なわない範囲において含むことができる。
上記添加剤としては、例えば、極圧添加剤、酸化防止剤、金属清浄剤、油性剤、摩耗防止剤、金属不活性剤、腐食防止剤、防錆剤、粘度指数向上剤、流動点降下剤、導電性付与剤、分散剤、消泡剤、加水分解抑制剤等を挙げることができる。
これら添加剤を配合する場合、その配合量は添加剤総量として、潤滑油組成物に対して例えば0.5質量%~5質量%、あるいは1質量%~3質量%とすることができる。
【0048】
上記添加剤の具体例としては以下を挙げることができるが、ただしこれら例示に限定されない。
極圧添加剤としては、硫黄、塩素、リンなどを含む従来公知の添加剤を使用でき、例えばリン酸エステル、亜リン酸エステル、リン酸エステルアミン塩等のリン系化合物、スルフィド類、ジスルフィド類等の硫黄系化合物、塩素化パラフィン、塩素化ジフェニル等の塩素系化合物、ジアルキルジチオリン酸亜鉛、ジアルキルジチオカルバミン酸モリブデン等の硫黄系化合物の金属塩等が挙げられる。
酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、ジフェニルアミン類、リン系酸化防止剤、フェノチアジン等の硫黄系化合物等が挙げられる。これらの酸化防止剤は、単独又は複数組み合わせて用いてもよい。
摩耗防止剤としては、ホスフェート、ホスファイト、アシッドホスフェート等が挙げられる。
防錆剤としては、ドデセニルコハク酸ハーフエステル等が例示される。
金属不活性剤としては、ベンゾトリアゾール系化合物、チアジアゾール系化合物等が例示される。
粘度指数向上剤としては、ポリアルキルメタクリレート、ポリアルキルスチレン、ポリブテン等が例示される。
流動点降下剤として、既述の粘度指数向上剤であるポリアルキルメタクリレート、ポリアルキルスチレン、ポリブテン等が例示される。
導電性付与剤として、非イオン性界面活性剤、イオン性液体、フェニルスルホン酸等が例示される。
分散剤としては、ポリアルケニルコハク酸イミド、ポリアルケニルコハク酸アミド、ポリアルケニルベンジルアミン、ポリアルケニルコハク酸エステル等が例示される。
加水分解抑制剤としては、アルキルグリシジルエーテル型エポキシ化合物、グリシジルエステル型エポキシ化合物、脂環式エポキシ化合物又はカルボジイミド等が例示される。
【0049】
本発明は、本明細書に記載された実施形態や具体的な実施例に限定されることなく、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範囲内で種々の変更、変形が可能である。
【実施例】
【0050】
以下、本発明を実施例により、さらに詳しく説明する。ただし、本発明はこれに限定されるものではない。
【0051】
表1に示すカチオンとアニオンを有する実施例1~13のイオン液体を用い、後述する手順にて蒸発量試験、加水分解試験及び導電性試験を実施した。なお比較例として、イオン液体を使用せずに基油のみにて上記試験を実施した。以降の説明において、イオン液体の例番号を、各試験の評価の例番号としても扱うものとする。
【0052】
【0053】
(1)蒸発量試験
基油(ジエステル(DE):3-メチル-1,5-ペンタンジオールジ(n-ウンデカノエート)、CAS No.1265799-70-9)に、各実施例のイオン液体をその濃度が500ppmになるように添加して、潤滑油組成物(蒸発量試験サンプル)を調製した。該試験サンプルを、湿度約40~60%RH、大気圧下のもと、140℃に保持したオーブン内に2000時間放置した。試験(放置)前後のサンプル質量を測定し、放置後の質量減少量を算出した。
比較例1(イオン液体含有せず)で測定された質量減少量を100としたとき、各試験サンプルの質量減少量の相対値を算出した。得られた結果を表2に示す。
【0054】
(2)加水分解試験
エステル油が加水分解する量は、常温常湿環境下では微量であるため、JIS C60068-2-66、「環境試験方法(電気・電子、高温高湿、定常(不飽和加圧水蒸気)」に則り、高加速寿命試験(HAST試験:Highly Accelerated Stress Test)を行った。
基油(ジエステル(DE):3-メチル-1,5-ペンタンジオールジ(n-ウンデカノエート)、CAS No.1265799-70-9)に、各実施例のイオン液体をその濃度が500ppmになるように添加して、潤滑油組成物(加水分解試験サンプル)を調製した。該試験サンプルを、湿度約90%RH、2気圧のもと、120℃に保持したオーブン内に250時間放置することにより、加速寿命試験を実施した。試験(放置)前後のサンプル質量を測定し、放置後の質量減少量を算出した。
基油であるエステルは熱及び水分(湿度)により酸とアルコールに加水分解される。加水分解によって生じる酸及びアルコールは、加水分解元であるエステルより蒸発しやすいため、酸及びアルコールのいずれか一方、又は双方が、エステルよりも優先的に蒸発する。
本加速寿命試験において、加水分解が生じたサンプルは、加水分解が生じていないサンプルよりも質量の減少が顕著となり、質量減少量が多いほど、加水分解が進行していることを示す。尚、本加速試験は、サンプルの質量減少は、その殆どが加水分解に起因するものであるという前提にて実施した。
(1)蒸発量試験と同様に、比較例1(イオン液体含有せず)で測定された重量減少量を100としたとき、各試験サンプルの重量減少量の相対値を算出した。得られた結果に基づき、以下の判定基準にて評価した。得られた結果を重量減少量の相対値とともに表2に示す。
<判定基準>
E(Excellent) :重量減少量の相対値が95未満
A(Acceptable):重量減少量の相対値が95以上
なお、上記A(Acceptable)と評価できる相対値の上限値は概して110程度である。
【0055】
(3)導電性試験
潤滑油組成物(導電性試験サンプル1)として、モノエステル(ME)の基油(下記式で表される2-メチルペンタン酸2-デシルテトラデシルエステル:Pentanoic acid, 2-methyl-, 2-decyltetradecyl ester)に、各実施例のイオン液体をその濃度が1000ppmになるように添加し、サンプルを調製した。
【化8】
また潤滑油組成物(導電性試験サンプル2)として、ジエステル(DE)の基油(3-メチル-1,5-ペンタンジオールジ(n-ウンデカノエート)、CAS No.1265799-70-9)に、各実施例のイオン液体をその濃度が500ppmになるように添加し、サンプルを調製した。
調製した導電性試験サンプル1及び導電性試験サンプル2の導電率[pS/cm]を、20~30℃、湿度40~60%RH、大気圧下のもと、HEWLETT PACKARD製 HIGH RESISTANCE METER(4339A)により測定した。得られた結果に基づき、以下の判定基準にて評価した。得られた結果を導電率の測定結果とともに表2に示す。
<判定基準>
[基油としてモノエステル(ME)を使用した場合]
E(Excellent):90pS/cm以上
G(Good) :70pS/cm以上90pS/cm未満
P(Poor) :70pS/cm未満
[基油としてジエステル(DE)を使用した場合]
E(Excellent):500pS/cm以上
G(Good) :200pS/cm以上500pS/cm未満
P(Poor) :200pS/cm未満
【0056】
【0057】
表2に示すように、実施例1~13のイオン液体を使用した潤滑油組成物は蒸発量特性に優れた結果となった。また実施例4~9、11~13にあっては加水分解特性がE評価となった。また、導電性については実施例1~13の何れも概ね良好であり、特に実施例1~7、9~12は導電性に優れる結果となった。これら実施例の中でも、実施例4~79、11及び12は、使用制限等の懸念が少ないアニオンを用い、且つ、蒸発量特性、加水分解特性及び導電性の何れにも優れる結果となった。
【0058】
以上、最良の実施形態について詳細に説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
【符号の説明】
【0059】
1…スピンドルモータ、2…ステータアッシー、3…ロータアッシー、4…ハウジング、5…円筒部、6…流体動圧軸受、7…スリーブ、8…ステータコア、9…ステータコイル、10…ロータハブ、10a…下方円筒部、11…軸部、12…潤滑油組成物、13…バックヨーク、14…ロータマグネット、15…中間円筒部、16…第1の凹部、17…第2の凹部、18…カウンタープレート、19…スラストワッシャ、20…第1のラジアル動圧溝、21…第2のラジアル動圧溝、22…第1のスラスト動圧溝、23…第2のスラスト動圧溝、
30…ディスク駆動装置、31…基台(ベースプレート)、32…磁気ディスク、33…スイングアーム、34…磁気ヘッド、35…ピボットアッシー軸受装置、36…アクチュエータ、37…制御部