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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-02
(45)【発行日】2023-11-13
(54)【発明の名称】LED発光装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 33/60 20100101AFI20231106BHJP
   H01L 33/46 20100101ALI20231106BHJP
   H01L 33/50 20100101ALI20231106BHJP
【FI】
H01L33/60
H01L33/46
H01L33/50
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2023545619
(86)(22)【出願日】2022-08-30
(86)【国際出願番号】 JP2022032677
(87)【国際公開番号】W WO2023033006
(87)【国際公開日】2023-03-09
【審査請求日】2023-09-06
(31)【優先権主張番号】P 2021141638
(32)【優先日】2021-08-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000131430
【氏名又は名称】シチズン電子株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000001960
【氏名又は名称】シチズン時計株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100114018
【弁理士】
【氏名又は名称】南山 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100180806
【弁理士】
【氏名又は名称】三浦 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100160716
【弁理士】
【氏名又は名称】遠藤 力
(72)【発明者】
【氏名】大滝 陽
(72)【発明者】
【氏名】飯野 高史
(72)【発明者】
【氏名】今井 貞人
(72)【発明者】
【氏名】松村 一輝
【審査官】右田 昌士
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-019023(JP,A)
【文献】国際公開第2021/060531(WO,A1)
【文献】特開2007-287733(JP,A)
【文献】特開2012-216753(JP,A)
【文献】特開2020-113753(JP,A)
【文献】特開2018-113411(JP,A)
【文献】特開2014-067894(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0349221(US,A1)
【文献】特開2007-294895(JP,A)
【文献】特開2015-023229(JP,A)
【文献】特表2016-526785(JP,A)
【文献】特開平10-261821(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0182056(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 33/00 - 33/64
H01S 5/00 - 5/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基台と、銀を含有し前記基台上に積層された反射層、及び、前記反射層上に積層された多層反射膜とを有する実装基板と、
青色光を出射し、前記実装基板上の発光領域に実装されるLEDダイと、
蛍光体粒子を含み、前記LEDダイ及び前記発光領域内の前記実装基板の表面を封止する封止樹脂と、
前記LEDダイの下面に配置され、前記LEDダイから出射される青色光の少なくとも一部を遮断するDBR層と、
前記実装基板の表面並びに前記LEDダイの表面及び側面の少なくとも一部を覆うように、前記多層反射膜と前記封止樹脂との間に配置された透明材と、を有し、
前記DBR層は、高屈折率層及び低屈折率層から構成される誘電体が複数組積層された層であり、
前記蛍光体粒子は、前記封止樹脂内で沈降して、前記LEDダイの側面の一部及び前記発光領域内で前記多層反射膜の表面の一部を覆う蛍光体層を形成する、
ことを特徴とするLED発光装置。
【請求項2】
前記蛍光体層は、蛍光体粒子が凝集した凝集層を含む、請求項1に記載のLED発光装置。
【請求項3】
前記蛍光体層は、蛍光体粒子が凝集した凝集層、及び、蛍光体粒子が浮遊した浮遊層を含む、請求項1に記載のLED発光装置。
【請求項4】
前記実装基板の上に固定された回路基板と、
前記回路基板の上に配置された配線パターンと、を更に有し、
前記LEDダイは、透明基板、前記透明基板に積層された発光層を有する半導体積層体、及び、前記半導体積層体に接続された一対の電極を有し、前記一対の電極の間に前記配線パターンを介して所定の電圧が印加されることに応じて前記発光層から青色光を出射し、
前記蛍光体層の少なくとも一部は、前記発光層と前記多層反射膜との間に形成されている、請求項1~3の何れか一項に記載のLED発光装置。
【請求項5】
前記蛍光体粒子は、第1蛍光体粒子と、前記第1蛍光体粒子より平均粒径の小さい第2蛍光体粒子を含み、前記第2蛍光体粒子の一部は、前記第1蛍光体粒子の間に配置される請求項4に記載のLED発光装置。
【請求項6】
前記高屈折率層は、TiO、ZrO、ZnSe、Si、Nb、TaO、HfOからなる群より選択され、前記低屈折率層は、SiO、MgF、Al、CaFからなる群より選択される、請求項1~の何れか一項に記載のLED発光装置。
【請求項7】
前記LEDダイの下面と前記多層反射膜との間に配置された金属膜を更に有する、請求項1~の何れか一項に記載のLED発光装置。
【請求項8】
前記LEDダイを前記実装基板に実装するためのダイボンド材を更に有し、
前記ダイボンド材は、反射材粒子を含有する、請求項1~の何れか一項に記載のLED発光装置。
【請求項9】
前記封止樹脂は、前記封止樹脂に対して5~10wt%のフィラーを含有する、請求項1~の何れか一項に記載のLED発光装置。
【請求項10】
前記多層反射膜は、1層のTiO層及び1層のSiO層を含む、請求項1~の何れか一項に記載のLED発光装置。
【請求項11】
前記多層反射膜を構成するTiO層及びSiO層の膜厚は、それぞれ30~100nmである、請求項10に記載のLED発光装置。
【請求項12】
前記LEDダイは複数であり、前記蛍光体層の少なくとも一部は、複数の前記LEDダイの間に形成されている請求項4に記載のLED発光装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、LED発光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
発光ダイオード(Light Emitting Diode、LED)ダイを発光素子として使用するLED発光装置において、信頼性を向上させる種々の技術が知られている。
【0003】
国際公開第2021/060531号に記載されるLED発光装置は、アルミニウム実装基板の表面に配置される増反射膜の表面を平坦化することにより、増反射膜におけるピンホールを低減することで、所望の反射率を維持すると共に、信頼性を向上させることができる。
【0004】
米国特許第9,865,783号には、底面に1層の低屈折率層を有するLED素子を、800nm厚の1層の低屈折率層に400nm厚の1層の高屈折率層を積層した基板上に配置した発光装置が記載されている。
【発明の概要】
【0005】
しかしながら、LEDダイを発光素子として使用するLED発光装置の用途が拡大するに従って、LED発光装置の信頼性を更に向上させることが望まれている。
【0006】
本開示は、信頼性を向上させることが可能なLED発光装置を提供することを目的とする。
【0007】
本開示に係るLED発光装置は、基台と、銀を含有し基台上に積層された反射層、及び、反射層上に積層された多層反射膜とを有する実装基板と、青色光を出射し実装基板上の発光領域に実装されるLEDダイと、蛍光体粒子を含みLEDダイ及び発光領域内の実装基板の表面を封止する封止樹脂と、LEDダイの下面に配置されLEDダイから出射される青色光の少なくとも一部を遮断するDBR層とを有し、
多層反射膜は1層のTiO2層及び1層のSiO2層を含み、DBR層は高屈折率層及び低屈折率層から構成される誘電体が複数組積層された層であり、蛍光体粒子は封止樹脂内で沈降して、LEDダイの側面の一部及び発光領域内で多層反射膜の表面の一部を覆う蛍光体層を形成する。
【0008】
さらに、本開示に係るLED発光装置では、蛍光体層は、蛍光体粒子が凝集した凝集層を含む、ことが好ましい。
【0009】
さらに、本開示に係るLED発光装置では、蛍光体層は、蛍光体粒子が凝集した凝集層、及び、蛍光体粒子が浮遊した浮遊層を含む、ことが好ましい。
【0010】
さらに、本開示に係るLED発光装置では、実装基板の上に固定された回路基板と、回路基板の上に配置された配線パターンと、を更に有し、LEDダイは、透明基板、前記透明基板に積層された発光層を有する半導体積層体、及び、半導体積層体に接続された一対の電極を有し、一対の電極の間に配線パターンを介して所定の電圧が印加されることに応じて発光層から青色光を出射し、蛍光体層の少なくとも一部は、発光層と多層反射膜との間に形成されている、ことが好ましい。
【0011】
さらに、本開示に係るLED発光装置では、蛍光体粒子は、第1蛍光体粒子と、第1蛍光体粒子より平均粒径の小さい第2蛍光体粒子を含み、第2蛍光体粒子の一部は、第1蛍光体粒子の間に配置される、ことが好ましい。
【0012】
さらに、本開示に係るLED発光装置では、高屈折率層は、TiO2、ZrO2、ZnSe、Si34、Nb25、TaO5、HfO2からなる群より選択され、低屈折率層は、SiO2、MgF2、Al23、CaFからなる群より選択される、ことが好ましい。
【0013】
さらに、本開示に係るLED発光装置では、LEDダイの下面と多層反射膜との間に配置された金属膜を更に有する、ことが好ましい。
【0014】
さらに、本開示に係るLED発光装置では、多層反射膜と封止樹脂との間に配置された透明材を更に有する、ことが好ましい。
【0015】
さらに、本開示に係るLED発光装置では、LEDダイを実装基板に実装するためのダイボンド材を更に有し、ダイボンド材は、反射材粒子を含有する、ことが好ましい。
【0016】
さらに、本開示に係るLED発光装置では、封止樹脂は、封止樹脂に対して0~10wt%のフィラーを含有する、ことが好ましい。
【0017】
さらに、本開示に係るLED発光装置では、多層反射膜は、1層のTiO2層及び1層のSiO2層を含む、ことが好ましい。
【0018】
さらに、本開示に係るLED発光装置では、多層反射膜を構成するTiO2層及びSiO2層の膜厚は、それぞれ30~100nmである、ことが好ましい。
【0019】
また、本開示に係るLED発光装置は、実装基板、銀を含有し且つ実装基板上に積層された反射層、及び屈折率の異なる複数の酸化膜により形成され且つ反射層上に積層された増反射膜を有する実装基板と、実装基板の上に固定された回路基板と、回路基板の上に配置された配線パターンと、透明基板、透明基板に積層されたn型半導体層及びp型半導体層を有する半導体積層体、並びに配線パターン及び半導体積層体に接続された一対の電極を有し、一対の電極の間に所定の電圧が印加されることに応じて、青色光を出射するLEDダイと、蛍光体を含み、LEDダイを封止する封止樹脂と、増反射膜と半導体積層体との間に配置され、青色光の少なくとも一部を遮断する遮光層とを有する。
【0020】
また、本開示に係るLED発光装置は、遮光層は、透明基板の半導体積層体が積層された面と反対の面に積層された反射膜又は金属反射膜、若しくは反射膜及び金属反射膜の双方であることが好ましい。
【0021】
また、本開示に係るLED発光装置は、LEDダイは、合成樹脂を含む接着部材で実装基板に接着され、増反射膜は、反射層の上方に積層されたSiO2層を有することが好ましい。
【0022】
また、本開示に係るLED発光装置は、蛍光体は、実装基板の表面、並びにLEDダイの表面及び側面の少なくとも一部を覆うように沈降して配置されることが好ましい。
【0023】
本開示に係るLED発光装置は、信頼性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】(a)は銀の移動を説明するための第1の状態を示す概念図であり、(b)は第2の状態を示す概念図であり、(c)は第3の状態を示す概念図である。
図2】(a)は反射率が比較的高いときの多層反射膜の断面像を示し、(b)は反射率が低下したときの多層反射膜の断面像を示し、(c)は反射率が更に低下したときの多層反射膜の断面像を示し、(d)は(a)に示す多層反射膜の上面像を示し、(e)は(c)に示す多層反射膜の上面像を示す。
図3】多層反射膜の上面像を示す。
図4】(a)は実施形態に係るLED発光装置の平面図であり、(b)は(a)に示すA-A線に沿う断面図である。
図5図4(a)に示すLEDダイの断面図である。
図6図4(b)において矢印Bで示される部分の拡大図である。
図7】(a)はLED発光装置1における蛍光体層の状態を示し、(b)はLED発光装置101における蛍光体層の状態を示す。
図8】(a)はLED発光装置1の断面像を示し、(b)はLED発光装置1の変形例であるLED発光装置102の断面像を示す。
図9】(a)はLED発光装置1で使用される実装基板及びLEDダイを示す模式図であり、(b)は第3比較例に係るLED発光装置105で使用される実装基板及びLEDダイを示す模式図であり、(c)は第2比較例に係るLED発光装置104で使用される実装基板及びLEDダイを示す模式図であり、(d)は第1比較例に係るLED発光装置103で使用される実装基板及びLEDダイを示す模式図である。
図10】比較例に係るLED発光装置103及び104が有する実装基板110を示す図である。
図11】実施形態に係るLED発光装置、第1比較例に係るLED発光装置、第2比較例に係るLED発光装置及び第3比較例に係るLED発光装置の光束残存率を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明によるLED発光装置の実施の形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。但し、本発明の技術的範囲はそれらの実施の形態に限定されず、特許請求の範囲に記載された発明とその均等物に及ぶ点に留意されたい。
【0026】
図1は本発明の発明者らが見出した銀の移動を説明する概念図であり、図1(a)は第1の状態を示し、図1(b)は第2の状態を示し、図1(c)は第3の状態を示す。いずれの状態も、LED発光装置において、LEDダイは、多層反射膜の上面に配置されている。多層反射膜は、バッファ層、バッファ層に積層された銀を含有した反射層、反射層上に積層されたシリカ(SiO2)層、及び、シリカ層上に積層されたチタニア(TiO2)層から構成される。
【0027】
第1の状態では、LEDダイからチタニア層及びシリカ層を介して青色光が反射層に照射してはいるが、まだ反射層に含有される銀は移動していない。第1の状態から時間が経過すると、銀がチタニア層に移動を開始する(第2の状態参照)。第2の状態からさらに時間が経過すると、銀の移動が継続して、反射層の一部において銀が消失した空隙が形成され、反射層の下層のバッファ層が露出する(第3の状態参照)。
【0028】
第3の状態に示す様に、反射層に空隙が形成されバッファ層が露出すると、反射層の反射率が低下して、LED発光装置から出射される光の光量が減少する。また、銀がチタニア層に移動することで、シリカ層とチタニア層とにより形成される増反射膜が有する増反射機能が低下して、LED発光装置から出射される光の光量が更に減少する。
【0029】
図2は銀の移動状態を示す図であり、図2(a)は反射率が比較的高いときの多層反射膜の断面像であり、図2(b)は反射率が低下したときの多層反射膜の断面像であり、図2(c)は反射率が更に低下したときの多層反射膜の断面像である。図2(d)は図2(a)に示す多層反射膜の上面像であり、図2(e)は図2(c)に示す多層反射膜の上面像である。
【0030】
図2(a)~図2(c)では、図1に示すようなLED発光装置を複数作成し、LEDダイを点灯させながら、時間の経過と共に、多層反射膜の一部を切断して断面を撮影した。図2(d)及び図2(e)では、図2(a)及び図2(c)の断面を撮影する前に、LEDダイを取り除いた多層反射膜の上面を撮影したものである。なお、実際のLED発光装置では蛍光体粒子を含む封止樹脂を備えているが、図2(a)~(e)の撮影のためのLED発光装置は封止樹脂を備えていない。
【0031】
図2(a)及び2(d)は初期の光束を100%としたときの光束の変化を示す指標である光束残存率が96.4%である状態を示し、図2(b)は光束残存率が93.0%である状態を示し、図2(c)及び2(e)は、光束残存率が89.3%である状態を示す。また、図2(d)及び2(e)において、破線は、LEDダイが実装されたLED実装領域を示す。
【0032】
図2(a)及び2(d)(光束残存率が比較的高い状態)では、チタニア層の銀の濃度を測定した結果は1.0at%であり、反射層からチタニア層への銀の移動はほとんど生じていないと考えられる。図2(d)における黒点は、銀が移動したことによる反射層の空隙を示しており、破線で示すLED実装領域の面積に対して3.2%の領域で発生している。
【0033】
図2(b)(光束残存率が低下した状態)では、チタニア層の銀の濃度を測定した結果は2.9at%であり、反射層からチタニア層への銀の移動を確認することがでる。銀の移動により反射層の機能が低下した事によって、光束残存率が低下したと考えられる。
【0034】
図2(c)及び2(e)(光束残存率が更に低下した状態)では、チタニア層の銀の濃度を測定した結果は3.8at%であり、反射層からチタニア層への銀の移動量が増加したことを確認することができる。銀の移動により反射層の機能が大きく低下した事によって、光束残存率が更に低下したと考えられる。図2(e)における黒点(反射層の空隙)は、破線で示すLED実装領域の面積に対して11.3%の領域で発生している。
【0035】
図3は、多層反射膜の上面像である。図3は、図2(a)~(e)の撮影のために作成したLED発光装置の内の1つを利用し、光束残存率が図2(c)と同程度に低下した状態で、多層反射膜からLEDダイを取り除き、LEDダイ実装領域を含む広範囲で多層反射膜の上面を撮影した。図3において、破線は、LEDダイが実装されたLED実装領域を示す。
【0036】
図3における黒点(反射層の空隙)は、例えば点α1の様に破線の内側であるLED実装領域に多く発生しているが、例えば点α2の様にLED実装領域の外側にもある程度は発生している。LEDダイから出射される青色光に最も照射される領域がLED実装領域であることから、LED実装領域において黒点(反射層の空隙)が多く発生するものと考えられる。一方、LEDダイから出射した青色光は、LED実装領域の外側も照射することから、LED実装領域の外側においても黒点(反射層の空隙)が発生するものと考えられる。
【0037】
上述したように、多層反射膜に含まれる反射層に含有される銀は、LEDダイから出射される青色光に照射されることに応じて、反射層の積層された増反射膜に含まれるチタニア層に移動する。したがって、銀を含有する反射層とLEDダイの半導体積層体との間に青色光の少なくとも一部を遮断する遮光層を配置すれば、LED実装領域における青色光の照射に応じた銀の移動を抑制することが可能となる。
【0038】
LED発光装置から出射される光の一部は、LEDダイの発光層から出射され、発光領域内の基板表面に反射された後に、LED発光装置の外部へ出射する。したがって、LED発光装置の信頼性を向上させるためには、LED実装領域における多層反射膜の保護も重要であるが、発光領域におけるLED実装領域外における多層反射膜の保護も重要である。
【0039】
米国特許第9,865,783号の図4には、下面に1層の低屈折率層を有するLED素子を、800nm厚の1層の低屈折率層に400nmの1層の高屈折率層を積層した基板上に配置した例が記載されている。しかしながら、このような厚い層を基板全体に均一に配置することは、製造上非常に困難且つ高コストとなってしまう。また、米国特許第9,865,783号の図5には、20~200nmの高屈折率層と20~200nmの低屈折率層の組を表面全体に複数組積層した基板が記載されている。しかしながら、このような複数組の高屈折率層及び低屈折率層を基板全体に均一に配置することは、製造上非常に困難且つ高コストとなってしまう。
【0040】
そこで、本開示に係るLED発光装置では、多層反射膜での光の反射を増強しつつ、簡単且つ低コストで製造可能な様に、基板の表面全体には、比較的薄い(各層の厚さが30~100nm)1層のTiO2層及び1層のSiO2層から構成される多層反射膜を形成し、LEDダイの底面には高屈折率層及び低屈折率層から構成される誘電体が複数組積層されたDBR層を配置している。これによって、本開示に係るLED発光装置では、DBR層によってLED実装領域における多層反射膜を保護すると共に、発光領域におけるLED実装領域外における多層反射膜の表面は蛍光体層によって保護するようにしている。このため、本開示に係るLED発光装置では、多層反射膜での光の反射を増強しつつ、長期間に渡って光束残存率を高く維持することが可能となる(図11参照)。
【0041】
なお、本開示に係るLED発光装置では、蛍光体粒子は、封止樹脂に含有されて反射枠の内部に配置され、その後所定の時間静置されることによって多層反射膜の表面に沈降して、蛍光体層を形成する。蛍光体層が形成されると、LEDダイの発光層から出射された青色光の一部は蛍光体層で他の色光に変換されるので、多層反射膜を照射する青色光は減少する。したがって、青色光が直接多層反射膜の表面を照射する場合と比較して、多層反射膜の表面に蛍光体層が形成されていると、多層反射膜における黒点(反射層の空隙)の発生を抑制することが可能となる。なお、一般にDBR層は入射角度に対する指向性が強い。言い換えると、LEDダイの発光層からLED実装領域外へ向けて出射さえる青色光の入射角度は大きいため、LED実装領域外にDBR層を配置しても、効率よく青色光が反射されず、LED実装領域外における多層反射膜における黒点(反射層の空隙)の発生をそれほど抑制することはできない。
【0042】
図4(a)は実施形態に係るLED発光装置1の平面図であり、図4(b)は図4(a)に示すA-A線に沿う断面図である。
【0043】
LED発光装置1は、実装基板10と、回路基板11と、一対の配線パターン12及び13と、一対の電極14及び15と、複数のLEDダイ16と、ボンディングワイヤ17と、ソルダーレジスト18と、反射枠19と、封止樹脂20等を有する。LED発光装置1は、チップオンボード(Chip on Board、COB)型のLED発光装置である。
【0044】
実装基板10は、矩形の平面形状を有し、表面にLEDダイ16が実装される平面領域を有する基板である。
【0045】
回路基板11は、実装基板10と同一の平面形状を有し、実装基板10の表面に接着され、中心部には円形の開口部11aが形成される。回路基板11の上面には、開口部11aを取り囲むように一対の配線パターン12及び13が形成され、対角線上で向かい合う二つの角の近傍に一対の電極14及び15がそれぞれ形成される。
【0046】
電極14はアノード電極であり、電極15はカソード電極である。一対の電極14及び15は、不図示の外部電源に接続され、一対の電極14及び15の間に所定の電圧が印加されることに応じて、LED発光装置1は光を出射する。
【0047】
LEDダイ16は、絶縁性の接着剤等を介して、開口部11aから露出している実装基板10の上に実装される。図4において、LED発光装置1が40個のLEDダイ16を有する場合の例を示す。
【0048】
ボンディングワイヤ17は、金等の導電性部材で形成され、隣接するLEDダイ16のカソード32とアノード33との間を接続する。また、ボンディングワイヤ17は、開口部11aの外縁に隣接するLEDダイ16と配線パターン12及び13との間を接続する。LED発光装置1では、8個のLEDダイ16がボンディングワイヤ17を介して直列接続された列が、5列に亘って配線パターン12及び13に並列接続される。しかしながら、実施形態に係るLEDダイでは、直列接続されるLEDダイ16の数及び、並列接続される列の数は適宜決定されてもよい。
【0049】
ソルダーレジスト18は、エポキシ樹脂等の耐熱性絶縁樹脂であり、開口部11aの外側を、一対の電極14及び15を除く一対の配線パターン12及び13の表面を全体に亘って覆うように、回路基板11上に配置される。
【0050】
反射枠19は、シリコーン樹脂等の合成樹脂にシリカ等のフィラーが含有された樹脂であり、開口部11aの外縁に沿って、配線パターン12及び13を覆うように配置される。反射枠19は、LEDダイ16から出射された青色光を反射して、LED発光装置1の上方、すなわちLEDダイ16の実装基板10の反対の方向に向けて出射する。反射枠19の内側の領域を発光領域19aとする。
【0051】
封止樹脂20は、エポキシ樹脂及びシリコーン樹脂等の無色且つ透明な合成樹脂であり、反射枠19の内側に配置され、LEDダイ16及びボンディングワイヤ17を一体的に被覆する。封止樹脂20には、Y3Al5O12:Ce(Yttrium Aluminum Garnet、YAG)等の第1蛍光体とも称される緑色蛍光体粒子及びCaAlSiN3:Eu(CASN)等の第2蛍光体とも称される赤色蛍光体粒子が混合される。緑色蛍光体粒子及び赤色蛍光体粒子は、実装基板10の表面及びLEDダイ16の表面及び側面の少なくとも一部を覆うように沈降して配置される。LED発光装置1は、LEDダイからの青色光と、一部の青色光によって緑色蛍光体及び赤色蛍光体を励起させて得られる緑色光及び赤色光とを混合させることで白色光を出射する。なお、封止樹脂20に混合される蛍光体は、上記の2種類の蛍光体に限定されず、組成及び粒径の少なくとも一方が異なる蛍光体を任意に組み合わせて選択することが可能である。
【0052】
図5は、LEDダイ16の断面図である。
【0053】
LEDダイ16は、透明基板30と、半導体積層体31と、カソード32と、アノード33を有し、下面にDBR層(ブラッグ反射鏡:Distributed Bragg Reflector)34が配置されている。透明基板30は、サファイヤ及びスピネル等の光を透過する透明な材料で形成され、半導体積層体31が積層された第1面30aと、DBR層34が積層された第2面30bとを有する。透明基板30の基板厚は、例えば200μmであるが、100μm以上であることが好ましい。透明基板30の膜厚を厚くすることで、封止樹脂20に含有される蛍光体に入射する青色光の光量が増加し、実装基板10に入射する青色光の光量が減少する。
【0054】
半導体積層体31は、n型半導体層35と、発光層36と、p型半導体層37とを有する。n型半導体層35は、例えばシリコン(Si)がドープされた窒化ガリウム(GaN)を有する。また、発光層36は、窒化ガリウムにアルミニウム(Al)及びインジウム(In)がドープされた井戸層及び障壁層を有する。また、p型半導体層37は、マグネシウム(Mg)がドープされた窒化ガリウムを有する。
【0055】
カソード32及びアノード33は、例えばAl、Cu、Au、Pt、Pd、Rh、Ni、W、Mo、Cr及びTiの何れかの金属又はこれらの合金並びにこれらの金属及び合金の組み合わせから成る金属電極層である。カソード32はn型半導体層35上に積層され、アノード33はp型半導体層37上に積層される。発光層36は、カソード32とアノード33との間に所定の順方向電圧が印加されることにより、青色光を出射する。LEDダイ16が出射する青色光のピーク波長は、430nm~470nmである。
【0056】
DBR層34は、高屈折率層及び低屈折率層からなる1組の誘電体が複数組積層された多層構造を有し、発光層36から出射される青色光を高効率に反射する。高屈折率層は、TiO2、ZrO2、ZnSe、Si34、Nb25、TaO5、HfO2からなる群より選択され、低屈折率層は、SiO2、MgF2、Al23、CaFからなる群より選択される。DBR層34を構成する各層の膜厚は、20~150nmであることが好ましい。なお、DBR層34では、高屈折率層及び低屈折率層からなる1組の誘電体が5~30組程度積層されることが好ましい。また、LEDダイ16は、DBR層34と共に、Al、Ag,Pt,Pdからなる群より選択される金属膜を有していても良い。
【0057】
LEDダイ16が、実装基板10に実装されてボンディングワイヤ17により接続される場合、カソード32及びアノード33はLEDダイ16の最上部に位置し、発光層36もほぼLEDダイ16の最上部に位置することとなる。具体的には、p型半導体層37、発光層36、及び、n型半導体層35は非常に薄いので、発光層36の高さは、ほぼ透明基板30の基板厚と同じと考えて良い。
【0058】
図6は、図4(b)のB部の拡大図である。
【0059】
図6において、実装基板10及び回路基板11の一部、並びに実装基板10の上に実装される40個のLEDダイ16の1つを示す。図6において、各構成要素の位置関係は、模式的に示され、各構成要素の大きさの関係は必ずしも正確ではない。また、図6において、反射枠19及び封止樹脂20の記載は省略している。
【0060】
LED発光装置1は、回路基板11を実装基板10に接着する接着材21と、LEDダイ16を実装基板10に実装するダイボンド材22と、実装基板10の表面及びLEDダイの表面及び側面の少なくとも一部を覆うように配置される透明材23とを有する。接着材21は、例えばシリコーン樹脂系又はエポキシ樹脂系の接着部材である。また、ダイボンド材22は、例えばシリコーン樹脂系又はポリイミドシリコーン樹脂系等の合成樹脂を含む接着部材である。透明材23は、アクリル成分、フッ素成分、シリコーン成分、金属酸化物等で形成された光透過部材であり、透明材23の剛性は封止樹脂20よりも高くてもよい。また、透明材23は封止樹脂20と同じ合成樹脂材であってもよい。
【0061】
図6に示すように、実装基板10は、基台41と、基台41の一方の面に形成される多層反射膜42とを有する。基台41は、アルミニウム、銅などを含む金属でもよいし、アルミナ、窒化アルミニウムなどを含むセラミックスでもよい。
【0062】
多層反射膜42は、基台41側から少なくともバッファ層42a、Ag層42bを含む反射層、接着層42c、SiO2層42d、及び、TiO2層42eを有する。SiO2層42d及びTiO2層42を増反射膜と称する場合がある。なお、接着層42cは、Ag層42bとSiO2層42dとの接着性を高めるために配置されている。
【0063】
バッファ層42aは、基台41とAg層42bの間で、絶縁、銀の拡散防止および接着等の機能を有し、少なくともアルマイト層を含む多層膜である。
【0064】
接着層42cは、Ag層42bとSiO2層42dとを接着させるための接着層として機能する。接着層42cの層厚は、例えば5nmであり、0.5nm以上であり且つ10nm以下であることが好ましい。
【0065】
SiO2層42d及びTiO2層42eは、Ag層42bの上方に積層され、Ag層42bに含まれる銀の硫化を防止するための保護層としても機能する。また、SiO2層42dの屈折率はTiO2層42eより低く、低屈折率層であるSiO2層42dと高屈折率層であるTiO2層42eと間の屈折率差により、LEDダイ16から実装基板10の側に出射される光のLED発光装置1の上方に向けた反射を増強する。したがって、SiO2層42d及びTiO2層42eは、LEDダイ16から実装基板10の側に出射される光のLED発光装置1の上方に向けた反射を増強させるための増反射膜として機能する。SiO2層42dの層厚は、例えば65nmであり、30nm以上であり且つ100nm以下である。TiO2層42eの層厚は、例えば50nmであり、30nm以上であり且つ100nm以下である。多層反射膜42では、一対のSiO2層42d及びTiO2層42eを有する。
【0066】
図7は、LEDダイと蛍光体層との関係を説明するための模式図である。図7(a)はLED発光装置1における蛍光体層の状態を示し、図7(b)はLED発光装置1の変形例であるLED発光装置101における蛍光体層の状態を示す。図7(a)及び(b)において、図5に示すLEDダイ16のカソード32及びアノード33、図6に示すダイボンド材22及び透明材23の記載は省略している。LED発光装置101は、蛍光体粒子の沈降状態以外はLED発光装置1と同一である。
【0067】
LED発光装置1では、前述したように、緑色蛍光体粒子と赤色蛍光体粒子が封止樹脂20に混合されている。また、封止樹脂20には、フィラーが封止樹脂20に対して5wt%混合されている。このため、平均粒径が大きい緑色蛍光体粒子は下方へほぼ沈降するが、平均粒径が緑色蛍光体粒子と比べて小さい赤色蛍光体粒子の一部は、完全には沈降せず、若干浮遊した状態となっている。なお、赤色蛍光体粒子の一部は、緑色蛍光体粒子の間に配置される。赤色蛍光体粒子の一部が緑色蛍光体粒子の間に配置されることで、平均粒径が大きい緑色蛍光体粒子の隙間を赤色蛍光体粒子が塞ぎ、LEDダイ16から出射された青色光が多層反射膜42に到達する確率を低減することができる。
【0068】
したがって、LED発光装置1では、図7(a)に示す様に、封止樹脂20内で蛍光体粒子が沈降し蛍光体層50が形成されている。詳細には、蛍光体層50の下部には、ほとんどの緑色蛍光体粒子及び一部の赤色蛍光体粒子が凝集した凝集層51が形成され、LEDダイ16の表面と、LEDダイ16の側面の一部を含んで実装基板10の多層反射膜42の表面を覆っている。さらに、凝集層51の上部には、一部の緑色蛍光体粒子と多くの赤色蛍光体粒子が若干浮遊しながら存在する浮遊層52が形成されている。
【0069】
図7(b)に示す変形例のLED発光装置101では、封止樹脂20には、フィラーがほとんど混合されていない。そのため、ほとんどの緑色蛍光体粒子及び赤色蛍光体粒子が完全に沈降し、且つ、それらの粒子が凝集された蛍光体層50が、LEDダイ16の表面と、LEDダイ16の側面の一部を覆うように実装基板10の表面に形成されている。すなわち、蛍光体層50が凝集層として形成されており、浮遊層52はほとんど存在しない。LED発光装置101における蛍光体層50の凝集度は、LED発光装置1の凝集層51における蛍光体粒子の凝集度より更に高い。
【0070】
なお、図7(b)において、蛍光体層50の凝集度合いを示すために、大径の蛍光体粒子(緑色蛍光体粒子)、小径の蛍光体粒子(赤色蛍光体粒子)、及び、矩形のフィラーを記載した。なお、実際のLED発光装置1及び101では、蛍光体層50として示していない封止樹脂20の部分にも多少は沈降しきれない蛍光体粒子が浮遊する場合もある。
【0071】
図7(a)に示す様に、発光層36から真下に出射された青色光は、DBR層34により効率的に反射されて、多層反射膜42を照射する光量が低減されるので、図1に示す様にAg層42bの銀が移動してバッファ層42aが露出することを抑制している。一方、発光層36からLEDダイ16の周囲に出射された青色光の一部は、蛍光体粒子が凝集して形成された蛍光体層50の特に凝集層51を構成する蛍光体粒子(b1)で吸収され、波長変換されて青色以外の色光となって蛍光体粒子(b1)から出射される。したがって、最終的に多層反射膜42を照射する青色光の光量が低減するので、図1に示す様にAg層42bの銀が移動してバッファ層42aが露出することを抑制できる。
【0072】
このように、LED発光装置1では、LEDダイ16の下面に配置されたDBR層34と、LEDダイ16の周囲で多層反射膜42の表面に配置された蛍光体層50により、発光領域19a全体において、図1に示す様にAg層42bの銀が移動してバッファ層42aが露出することを抑制している。
【0073】
一方、図7(b)に示す変形例のLED発光装置101では、LED発光装置1における凝集層51よりも更に凝集度が高い蛍光体層50が形成されている。したがって、LED発光装置1と同様に、発光領域19a全体において、図1に示す様にAg層42bの銀が移動してバッファ層42aが露出することを抑制できる。
【0074】
図8(a)はLED発光装置1の断面像を示し、図8(b)はLED発光装置1の変形例であるLED発光装置102の断面像を示している。
【0075】
図8(a)に示す様に、LED発光装置1では、LEDダイ16が近接して配置されていることから、蛍光体層50は、複数のLEDダイ16間と、各LEDダイ16の表面に形成されている。蛍光体層50の下部の凝集層51は、実装基板10の表面側に形成され、浮遊層52は、凝集層51の上方に形成されている。
【0076】
図8(b)は、LED発光装置1の変形例であるLED発光装置102の断面画像である。LED発光装置102は、封止樹脂20へのフィラーの混合比以外合は、LED発光装置1と同一である。LED発光装置1では、前述した様に、封止樹脂20に対して5wt%のフィラーを混合しているが、図8(b)に示すLED発光装置102では、10wt%のフィラーを混合している。
【0077】
LED発光装置102では、フィラーの混合比が異なることから、一部の緑色蛍光体粒子と多くの赤色蛍光体粒子が浮遊するように含まれる浮遊層52の幅が広がっているように観察できる。しかしながら、ほとんどの緑色蛍光体粒子及び一部の赤色蛍光体粒子が沈降し、且つ、それらの蛍光体粒子が凝集された凝集層51が、実装基板10の表面側にしっかり形成されているように観察できる。
【0078】
未硬化の封止樹脂20が反射枠19内に配置された後、そのまま所定時間静置されると、封止樹脂20のバインダーである透明な合成樹脂より比重の重い蛍光体粒子が下方に沈降する。したがって、所定時間の静置後に、封止樹脂20を硬化させると、図8(a)及び(b)の蛍光体層50の状態が維持される。なお、封止樹脂20内に混合されるフィラーの含有wt%と蛍光体層50の形成には相関がある。所望の蛍光体層50を形成するためには、封止樹脂20に対して、0~10wt%のフィラーを混合することが好ましい。
【0079】
封止樹脂20が含有するフィラーは、平均粒径(凝集していない状態における個々の1次粒子の粒径)が1μm~25μm程度が好ましく、更には5μm~10μm程度が好ましい。フィラーの形状は、破砕形状、又は、球状であり、二酸化ケイ素(シリカ)、アルミナ、チタニア、ジルコニアまたはマグネシア等により構成されている。また、フィラーには、ミクロンオーダーのフィラーの他に、封止樹脂20の粘度調整、蛍光体粒子の沈降状態調整等の為に、ナノサイズの粒子径のフィラーを含んでいても良い。なお、フィラーは、耐熱性を有し、蛍光体粒子に吸着し易いものであることが好ましい。
【0080】
図9(a)はLED発光装置1、(b)は第3比較例に係るLED発光装置105、(c)は第2比較例に係るLED発光装置104、及び、(d)は第1比較例に係るLED発光装置103のそれぞれで使用される実装基板及びLEDダイを示す模式図である。
【0081】
図9(a)~図9(d)では、封止樹脂20及び蛍光体層50等は省略されているが、各LED発光装置では、図7(a)に示すような蛍光体層50が形成されているものとする。
【0082】
図9(d)に示す第1比較例に係るLED発光装置103と図9(a)に示すLED発光装置1とは、使用される実装基板及びLEDダイのみが相違する。LED発光装置103が有するLEDダイ112は、LEDダイ16からDBR層34を取り除いたものであり、LED発光装置103が有する実装基板は、図10に示す実装基板110である。
【0083】
図9(c)に示す第2比較例に係るLED発光装置104と図9(a)に示すLED発光装置1とは、使用される実装基板のみが相違する。LED発光装置104が有する実装基板は、図10に示す実装基板110である。
【0084】
図9(b)に示す第3比較例に係るLED発光装置105と図9(a)に示すLED発光装置1とは、使用されるLEDダイのみが相違する。LED発光装置105が有するLEDダイ112は、LEDダイ16からDBR層34を取り除いたものである。
【0085】
図10は、比較例に係るLED発光装置103及び104が有する実装基板110を示す図である。図10に示す様に、実装基板110は、基台41の一方の面に形成され、光反射システムとして機能する多層反射膜111を有する。基台41はLED発光装置1と同様であり、多層反射膜111は、基台41側から少なくともバッファ層111a、Ag層111b、Al23層111c、及び、TiO2層111dを有する。
【0086】
多層反射膜111では、LED発光装置1における多層反射膜42のSiO2層42dの代わりに、Ag層との間の密着性が高いが、銀の侵入性がある程度高いAl23層111cを利用している。そのため、多層反射膜111では、LED発光装置1における多層反射膜42の接着層42cに相当する層を有していない。しかしながら、多層反射膜111では、多層反射膜42と比較して、青色光の照射によって、Ag層111bからAl23層111cへの銀の移動が発生し易く、バッファ層111aの露出が起こりやすい。
【0087】
図11は、LED発光装置1、第1比較例に係るLED発光装置103、第2比較例に係るLED発光装置104、及び、第3比較例に係るLED発光装置105の光束残存率を示す図である。図11に示す光束残存率は、カソード電極である電極15の温度が105℃であり且つ投入電力が170Wである条件下で試験された結果である。
【0088】
実施形態に係るLED発光装置1では、6000時間経過後の光束残存率は、99.5%である。一方、第1比較例に係るLED発光装置103では、6000時間経過後の光束残存率は78.9%であり、第2比較例に係るLED発光装置104では、6000時間経過後の光束残存率は80.1%である。また、第3比較例に係るLED発光装置105では、6000時間経過後の光束残存率は、95.7%である。
【0089】
使用する実装基板が相違するLED発光装置1とLED発光装置104との間の6000時間経過後の光束残存率の差は、19.4%であった。
【0090】
使用する実装基板が相違するLED発光装置1とLED発光装置105との間の6000時間経過後の光束残存率の差は、3.8%であった。LED発光装置1とLED発光装置105との間の6000時間経過後の光束残存率の差は、LED発光装置1とLED発光装置104との間の6000時間経過後の光束残存率の差である19.4%よりも低い。しかしながら、LED発光装置1とLED発光装置105との間の6000時間経過後の光束残存率の差は、同様に使用する実装基板が相違するLED発光装置103とLED発光装置104との間の光束残存率の差である1.2%の3倍以上である。
【0091】
なお、図7で示したLED発光装置101及び図8で示したLED発光装置102についての光束残存率を測定した結果も、図11に示すLED発光装置1と同様であった。図示はしていないが、LED発光装置1で図7(a)に示すような蛍光体層50を形成しない比較例に係るLED発光装置の6000時間経過後の光束残存率は、第3比較例に係るLED発光装置105における6000時間経過後の光束残存率よりも低かった。
【0092】
図11等から理解できるように、LEDダイ16の下面に配置されたDBR層34、及び、LEDダイ16の周囲で多層反射膜42の表面に配置された蛍光体層50を有するLED装置1、101、及び、102のみが、信頼性要求項目の1つである光束残存率の特性を向上させることができた。これは、LED発光装置1、101、及び、102では、DBR層34、及び、蛍光体層50が、発光領域19a全体において、図1に示す様にAg層42bの銀が移動してバッファ層42aが露出することを抑制しているからである。
【0093】
(他の変形例)
図6に示した様に、LED発光装置1では、実装基板10の表面及びLEDダイ16の表面及び側面の少なくとも一部を覆うように、透明材23が配置されている。透明材23に青色光が照射されると、多層反射膜42と接している透明材23が収縮することにより多層反射膜42に応力が発生し、Ag層42bとSiO2層42dとの間が剥離するおそれがある。しかしながら、LED発光装置1では、蛍光体層50によって、透明材23に照射される青色光の光量が低減されるので、Ag層42bからTiO2層42eへの銀の侵入が抑制されている。一方、透明材23が存在すると封止樹脂20の実装基板10の表面への付着性が高くなる。実装基板10の表面への封止樹脂20の付着性が高まれば、蛍光体層50の実装基板10の表面への付着性も高まるので、バッファ層42aの露出を抑制する上で好ましい。
【0094】
図6に示した様に、LED発光装置1では、ダイボンド材22でLEDダイ16を実装基板10に実装している。ここで、ダイボンド材22に、チタニア、アルミナ、シリカ等の酸化物を反射材の粒子として含有させても良い。この場合、DBR層34とダイボンド材22の両方で、更に青色光を反射させることが可能となる。また、ダイボンド材22に、蛍光体粒子を含有させても良い。ダイボンド材22に、蛍光体粒子を含有させることで、ダイボンド材22は蛍光体層として形成され、DBR層34ダイボンド材22の両方で、多層反射膜42に照射される青色光の光量を更に低減することが可能となる。
【0095】
図7(a)に示した様に、LEDダイ16の発光層36から青色光が出射される。そのために、多層反射膜42の表面を効率よく保護するためには、LEDダイ16の発光層36よりも下方に蛍光体層50の少なくとも一部、特に凝集層51が形成されている事が、バッファ層42aの露出を抑制する上で好ましい。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11