IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本エア・リキード株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-空気分離システム 図1
  • 特許-空気分離システム 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-06
(45)【発行日】2023-11-14
(54)【発明の名称】空気分離システム
(51)【国際特許分類】
   F25J 3/04 20060101AFI20231107BHJP
【FI】
F25J3/04 104
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020000482
(22)【出願日】2020-01-06
(65)【公開番号】P2021110466
(43)【公開日】2021-08-02
【審査請求日】2022-08-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000109428
【氏名又は名称】日本エア・リキード合同会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】金田 拓也
(72)【発明者】
【氏名】森 大
【審査官】瀧 恭子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2013/0053998(US,A1)
【文献】特開平03-244990(JP,A)
【文献】特開平07-332845(JP,A)
【文献】特開平06-241653(JP,A)
【文献】米国特許第02934908(US,A)
【文献】特開平07-012456(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F25J 1/00-5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主熱交換器(1)と、
前記主熱交換器(1)を通過した原料空気が導入される高圧塔(2)と、
前記高圧塔(2)の塔頂部(23)から導入されるガスを凝縮する第一凝縮部(3)と、
前記高圧塔(2)の塔底部(21)から導出される酸素富化液が導入される低圧塔(4)と、
前記低圧塔(4)の精留部の中間段であるアルゴン抽出部から導出されるアルゴン含有酸素富化気液物が導入される、粗アルゴン塔(5)と、を備える、空気分離システムであって、
前記空気分離システムを構成する構成要素を制御するプロセス制御部(201)と、
前記高圧塔(2)の塔底部(21)に溜まる酸素富化液の酸素濃度(EC_O2)を演算で推定する酸素濃度推定部(202)と、
前記高圧塔(2)の塔底部(21)から導出され前記低圧塔()の精留部へ導入される酸素富化液の流量(EF_O2)を演算で推定する流量推定部(203)と、
前記主熱交換器(1)の少なくとも一部を通過して膨張タービン(10)へ送られ、該膨張タービン(10)から排出されて、前記低圧塔(4)の精留部へ送られる原料空気の流量(F_FA)と、前記酸素富化液の酸素濃度(EC_O2)と、前記酸素富化液の流量(EF_O2)とに基づいて、アルゴン抽出部の目標温度(Tt)を演算する目標温度演算部(204)と、
を備える、空気分離システム。
【請求項2】
前記プロセス制御部は、アルゴン抽出部の測定温度が目標温度(Tt)になるように、前記低圧塔(4)の塔頂部へ送られる液体窒素の補充量の流量と、および/または、前記高圧塔(2)の塔頂部から前記低圧塔(4)の塔頂部へ送られる還流液の流量とを制御する、請求項1に記載の空気分離システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気分離システムであって、製品アルゴンの抽出率の改善に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、空気分離装置から抽出されたアルゴンを含む酸素富化気液物を、アルゴン精留塔へ送り、高純度の製品アルゴンを取り出すことが行われている。
例えば、特許文献1は、酸素、窒素およびアルゴンなどの製品を製造する空気分離装置を開示する。空気分離装置は、これらの製品を効率的に製造するために、高圧精留塔、低圧精留塔、粗アルゴン精留塔など複数の精留塔から構成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】仏国特許第2964451号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来は、空気分離装置の低圧塔の中間段部に溜まる酸素富化液中の酸素濃度を予め設定された濃度に制御することで、製品アルゴンの抽出率を制御することが行われている。
しかし、空気分離装置の製品酸素取出量や製品窒素取出量などの製造量の変更に伴い、空気分離装置の低圧塔の状態が変化することで、最終段のアルゴン精留塔から取り出せる高純度の製品アルゴンの抽出率が大きく変動していた。
【0005】
上記実情に鑑みて、本発明は、製品酸素取出量や製品窒素取出量などの製造量を変更しても、アルゴン精留塔から取り出せる高純度の製品アルゴンの抽出率を向上させることができる、空気分離システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、空気分離装置の製品酸素取出量や製品窒素取出量などの製造量の変更に伴い、空気分離装置の低圧塔の状態が変化することで、アルゴン含有の酸素富化気液混合物を抽出するためのアルゴン抽出部(空気分離装置の低圧塔の精留部の中間段)に、窒素(ガス状、液状、それら混合物)が混入していることを見出した。窒素混入により、最終段のアルゴン精留塔から取り出せる高純度の製品アルゴンの抽出率が大きく変動し、低下する原因となっていた。そこで、本発明者は上記課題を解決すべく新規な構成を創作した。
【0007】
本発明の空気分離システムは、
主熱交換器(1)と、
主熱交換器(1)を通過した原料空気が導入される高圧塔(2)と、
高圧塔(2)の塔頂部(23)から導出されるガスを凝縮する第一凝縮部(3)と、
高圧塔(2)の塔底部(21)から導出される酸素富化液が導入される低圧塔(4)と、
低圧塔(4)の精留部の中間段であるアルゴン抽出部から導出されるアルゴン含有酸素富化気液物が導入される、粗アルゴン塔(5、6)と、
粗アルゴン塔(5、6)の精留部(中間段または上部)または塔頂部から導出されるアルゴン富化気液物が導入される純アルゴン精留塔(8)と、
を備える。
粗アルゴン塔は、分離されていてもよく、単一の塔で構成されていてもよい。
【0008】
前記空気分離システムは、
空気分離システムを構成する構成要素(例えば、熱交換器の温度、弁の開閉、流量調整弁、圧力調整弁、圧縮機、膨張タービンなど)を制御するプロセス制御部(201)と、
高圧塔(2)の塔底部(21)に溜まる酸素富化液の酸素濃度(EC_O)を演算で推定する酸素濃度推定部(202)と、
高圧塔(2)の塔底部(21)から導出され低圧塔(3)の精留部へ導入される酸素富化液の流量(EF_O)を演算で推定する流量推定部(203)と、
主熱交換器(1)の少なくとも一部を通過して膨張タービン(10)へ送られる原料空気の流量(F_FA)と、酸素富化液の酸素濃度(EC_O)と、酸素富化液の流量(EF_O)とに基づいて、アルゴン抽出部の目標温度(T)を演算する目標温度演算部(204)と、
各種データを記憶するメモリ(208)と、
を備える。
目標温度演算部(204)は、多変数解析、回帰分析などの統計的手法を用いて、目標温度(T)を演算してもよい。
前記プロセス制御部は、アルゴン抽出部の測定温度(T_Ar)が目標温度(Tt)になるように、液体窒素の補充量の流量(流量計F101と弁V13)と、および/または、高圧塔(2)の塔頂部(23)から導出される還流液の流量(流量計F102と弁V12)とを制御してもよい。
酸素濃度推定部(202)は、高圧塔(2)の物質収支を演算することで、酸素富化液の酸素濃度(EC_O)を推定できる。
流量推定部(203)は、酸素富化液を低圧塔(3)へ供給するバルブの開度及びそのバルブの前後差圧の演算により、酸素富化液の流量(EF_O)を推定できる。
【0009】
(発明の効果)
低圧塔における運転圧力の変動によるアルゴン抽出部の温度低下、また、その他原因によるアルゴン抽出部の温度低下を検知して、アルゴン抽出部に窒素混入を防ぎ、アルゴン抽出率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施形態1の空気分離システムを示す図である。
図2】実施形態1の空気分離システムの制御要素の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に本発明のいくつかの実施形態について説明する。以下に説明する実施形態は、本発明の一例を説明するものである。本発明は以下の実施形態になんら限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において実施される各種の変形形態も含む。なお、以下で説明される構成の全てが本発明の必須の構成であるとは限らない。
【0012】
(実施形態1)
実施形態1の空気分離システムについて図1を用いて説明する。
空気分離システムは、主熱交換器1と、主熱交換器1を通過した原料空気が配管L1を介して導入される高圧塔2と、高圧塔2の塔頂部23から配管L231で導出される高圧塔精留物を凝縮する第一凝縮部(窒素凝縮器)3と、高圧塔2の塔底部21から導出される酸素富化液が導入される低圧塔4とを備える。
【0013】
主熱交換器1に導入される原料空気(Feed Air)は、主熱交換器1の中間で分岐し、分岐した配管L11を介して膨張タービン10に送られ、膨張タービン10から排出されて、低圧塔4の精留部42の中間段423へ送られる。
膨張タービン10へ送られる原料空気の流量(F_FA)は、流量計(F103)で測定される。測定データは制御装置200へ送られ、メモリ208に時系列データとして保存される。
【0014】
高圧塔2の塔底部21に、酸素富化液の液面高さを測定する液面レベル計(L101)が設けられている。測定データは制御装置200へ送られ、メモリ208に時系列データとして保存される。
塔底部21から導出される酸素富化液は、熱交換器E5で熱交換された後で、膨張タービン10から排出された原料空気が導入される低圧塔4の精留部42の中間段423と同じまたは上下方向で近辺の精留段へ、配管L2を介して導入される。配管L2には制御弁V11が設けられており、液面レベル計(L101)の測定データに応じて、制御弁V11が制御装置200で制御され、酸素富化液の導入量が調整される。
高圧塔2の塔底部21から導出され低圧塔4の精留部42へ導入される酸素富化液の流量(F_O)を測定する流量計(F104)が配管L2に設けられる。測定データは制御装置200へ送られ、メモリ208に時系列データとして保存される。
高圧塔2の塔頂部23には、圧力計(P101)が設けられ、塔頂部23の圧力が測定される。側定データは制御装置200へ送られ、メモリ208に時系列データとして保存される。
高圧塔2の塔頂部23から配管L25で導出される高圧塔精留物(還流液)は、主熱交換器1に送られる。
【0015】
低圧塔4の精留部42の中間段422(中間段423よりも下方であってアルゴン抽出部421よりも上方)の位置に、蒸留雰囲気温度を測定する温度計(T101)が設けられる。この中間段422よりも下方の精留段であるアルゴン抽出部421から、配管L42を介して、アルゴン含有酸素富化気液物が、第一粗アルゴン塔5の塔底部51または精留部52の中間段より下方へ導入される。
低圧塔4の精留部42の上部または塔頂部44から配管L3で導出される低圧塔精留気液物は、熱交換器E5で熱交換された後で、主熱交換器1へ送られる。配管L3には、圧力計(P102)が設けられ、低圧塔精留気液物の圧力を測定する。測定データは制御装置200へ送られ、メモリ208に時系列データとして保存される。
配管L3は、熱交換器E5の手前で配管L33と合流し、第一凝縮器3の上部から導出される蒸発気液物が合流し、一緒に熱交換器E5へ送られる。
低圧塔4の塔頂部44から配管L5で導出される低圧塔頂部精留物は、熱交換器E5で熱交換された後で、主熱交換器1へ送られる。
高圧塔2の塔頂部23から配管L23で導出される高圧塔精留物(還流液)が、熱交換器E5で熱交換された後で、低圧塔4の塔頂部44へ送られる。配管L23には、高圧塔精留物の流量を測定する流量計(F102)と、制御弁V12が設けられる。測定データは制御装置200へ送られ、メモリ208に時系列データとして保存される。流量計(F102)の測定データに応じて、制御弁V12が制御装置200で制御され、高圧塔精留物(還流液)の導入量が調整される。
補助用の液体窒素(LIN)が配管L43を介して低圧塔4の塔頂部44へ送られる。配管L43には、液体窒素の流量を測定する流量計(F101)と、制御弁V13が設けられる。測定データは制御装置200へ送られ、メモリ208に時系列データとして保存される。流量計(F103)の測定データに応じて、制御弁V13が制御装置200で制御され、液体窒素の導入量が調整される。
低圧塔4の塔底部41から配管L4で導出される気液物と、第一凝縮器3の頂部から配管L31で導出される気液物とは、合流し、主熱交換器1へ送られる。
【0016】
また、空気分離システムは、低圧塔4のアルゴン抽出部421から導出されるアルゴン含有酸素富化気液物が配管L42を介して塔底部51または精留部52の中間段より下方へ導入される第一粗アルゴン塔5と、第一粗アルゴン塔5の塔頂部53から配管L53を介して導出されるアルゴン富化気液物が、塔底部61または精留部62の中間段より下方へ導入される第二粗アルゴン塔6とを備える。
また、第二粗アルゴン塔6の塔頂部63から導出される第二粗アルゴン精留物を凝縮する第三凝縮器7と、第二粗アルゴン塔6の塔頂部63から配管L63で導出される高アルゴン富化気液物を、精留部82の中間段へ導入される純アルゴン精留塔8とを備える。
アルゴンの含有濃度は以下の関係である。
アルゴン含有酸素富化気液物<アルゴン富化気液物<第二粗アルゴン精留物<高アルゴン富化気液物
【0017】
純アルゴン塔8の精留部82の上方に、第四凝縮器83が設けられており、塔底部81から導出された高純度アルゴン液を凝縮する。純アルゴン塔8の塔底部81から導出された高純度アルゴン液を熱交換機E6(またはリボイラー)で熱交換して塔底部81へ戻す。純アルゴン塔8の塔底部81から導出された高純度アルゴン液は、製品アルゴンとして取り出し、製品タンクへ送られる。
【0018】
上記配管、図1のラインには、弁(仕切弁、流量調整弁、圧力調整弁など)が設けられてもよい。
また、各配管に、必要に応じて、圧縮機、圧力調整装置、流量制御装置などが設置され、圧力調整または流量調整が行われていてもよい。
【0019】
次に図2の制御装置200について説明する。
制御装置200は、プロセス制御部201と、酸素濃度推定部202と、流量推定部203と、目標温度演算部204と、各種データ(設定データ、プロセスデータ、上述の測定データなど)を記憶するメモリ208とを有する。
プロセス制御部201は、空気分離システムを構成する構成要素(例えば、熱交換器の温度、弁の開閉、流量調整弁、圧力調整弁、圧縮機、膨張タービンなど)を制御する。
酸素濃度推定部202は、高圧塔2の塔底部21に溜まる酸素富化液の酸素濃度(EC_O)を演算で推定する。
流量推定部203は、高圧塔2の塔底部21から導出され低圧塔4の精留部42へ導入される酸素富化液の流量(EF_O)を演算で推定する。
目標温度演算部204は、主熱交換器1の少なくとも一部を通過して膨張タービン10へ送られる原料空気の流量(F_FA)と、酸素富化液の酸素濃度(EC_O)と、酸素富化液の流量(EF_O)とに基づいて、アルゴン抽出部421の目標温度(Tt)を演算する。目標温度演算部204は、多変数解析、回帰分析などの統計的手法などを用いて、目標温度(Tt)を演算する。
プロセス制御部201は、アルゴン抽出部421の測定温度(T101)が目標温度(Tt)になるように、液体窒素の補充量の流量(流量計F101と弁V13)と、および/または、高圧塔2の塔頂部23から導出される高圧塔精留物(還流液)の流量(流量計F102と弁V12)とを制御する。
【0020】
(実施例)
図1の構成において、アルゴンの抽出率の効果を検証した。
比較例:従来のように、酸素富化液の濃度を一定にするプロセス制御をおこなった。
実施例:アルゴン抽出部の温度を目標温度になるように制御をおこなった。
実施例は、比較例よりも平均9%のアルゴン抽出率の改善が見られた。
【符号の説明】
【0021】
1 主熱交換器
2 高圧塔
21 塔底部
22 精留部
23 塔頂部
3 第一凝縮器
4 低圧塔
41 塔底部
42 精留部
44 塔頂部
5 第一粗アルゴン塔
6 第二粗アルゴン塔
7 第三凝縮器
8 純アルゴン塔
83 第四凝縮器
10 膨張タービン
E5 熱交換器
E6 熱交換器
図1
図2