(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-06
(45)【発行日】2023-11-14
(54)【発明の名称】重合体、導電性ペースト組成物、セラミックス用バインダー樹脂、セラミックススラリー組成物および導電ペースト用バインダー樹脂
(51)【国際特許分類】
C04B 35/634 20060101AFI20231107BHJP
C08F 220/36 20060101ALI20231107BHJP
C08L 33/14 20060101ALI20231107BHJP
C08K 3/22 20060101ALI20231107BHJP
C08K 3/28 20060101ALI20231107BHJP
【FI】
C04B35/634 240
C08F220/36
C08L33/14
C08K3/22
C08K3/28
(21)【出願番号】P 2020567373
(86)(22)【出願日】2019-11-06
(86)【国際出願番号】 JP2019043445
(87)【国際公開番号】W WO2020152939
(87)【国際公開日】2020-07-30
【審査請求日】2022-04-25
(31)【優先権主張番号】P 2019010847
(32)【優先日】2019-01-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019012685
(32)【優先日】2019-01-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004341
【氏名又は名称】日油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097490
【氏名又は名称】細田 益稔
(74)【代理人】
【識別番号】100097504
【氏名又は名称】青木 純雄
(72)【発明者】
【氏名】山田 明宏
(72)【発明者】
【氏名】長澤 敦
(72)【発明者】
【氏名】加治 彩花
(72)【発明者】
【氏名】小田 和裕
(72)【発明者】
【氏名】田中 将啓
【審査官】今井 督
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/008580(WO,A1)
【文献】欧州特許出願公開第00495269(EP,A1)
【文献】特開2018-080319(JP,A)
【文献】特開2018-197321(JP,A)
【文献】特開2018-197323(JP,A)
【文献】特開2019-196446(JP,A)
【文献】落合 文吾, 幡野 祐悟, 遠藤 剛,ヒドロキシウレタン構造を持つメタクリラートの重合および 得られるポリマーの官能基変換とネットワーク化,ネットワークポリマー,日本,合成樹脂工業協会,2009年,Vol. 30, No. 2,pages 58-68,https://www.jstage.jst.go.jp/article/networkpolymer/30/2/30_58/_pdf/-char/ja
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 220/00-220/70
C08L 33/00- 33/26
C08K 3/00- 13/08
C04B 35/00- 35/84
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックススラリー組成物からなるセラミックスグリーンシートであって、
前記セラミックススラリー組成物が、下記式(1)で示されるモノマー(A)のモル比が
15モル%~
50モル%であり、前記モノマー(A)と共重合可能な(メタ)アクリル酸アルキルエステル化合物(B)のモル比が
85~
50モル%であり、重量平均分子量が10,000~1,000,000である重合体、有機溶媒およびセラミックス粒子を含有することを特徴とする、セラミックスグリーンシート。
【化1】
(式(1)中、
R
1は、水素原子またはメチル基を示し、
R
2は、炭素数1~18のアルキル基または炭素数1~18のヒドロキシアルキル基を示し、
Aは、炭素数1~10のアルキレン基を示し、
Xは0または1を示し、
Y
1は、下記式(2)および下記式(3)のヒドロキシウレタン構造からなる群より選ばれた一種以上の構造である。)
【化2】
【化3】
【請求項2】
前記セラミックス粒子100重量部に対して、前記重合体を0.5~30重量部および前記有機溶媒を10~200重量部含有することを特徴とする、請求項1記載のセラミックスグリーンシート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チキソトロピー性および熱分解性に優れた、ペースト用バインダー樹脂として特に好適な重合体に関するものである。
また、本発明は、シート強度および熱分解性に優れた、セラミックス用バインダー樹脂として特に好適な重合体に関するものである。
また、本発明は、低極性溶剤への溶解性に優れ、さらにチキソトロピー性および熱分解性に優れ、またさらにシートへの接着性にも優れた、導電ペースト用のバインダー樹脂に関するものである。
【背景技術】
【0002】
積層セラミックコンデンサなどの積層型電子部品の内部電極層の形成や太陽電池の導電層の形成などに用いる金属ペーストは、主に、ニッケルや銅などの金属粉体と溶媒、バインダー樹脂からなり、スクリーン印刷などの方法により、シート上に印刷される。
【0003】
特許文献1に示されるように、バインダー樹脂としては、チキソトロピー性が高く、印刷時に糸引きやにじみがなく、印刷に適したエチルセルロース樹脂が使用されていた。しかしながら、エチルセルロースは熱分解性が低く、焼成時にカーボン分が残存するため、加熱残分が多く、電極の欠陥につながるといった問題があった。
【0004】
一方、アクリル樹脂は、熱分解性に優れた性能を有するものの、チキソトロピー性が低く、高粘度化すると糸引きが強くなり、糸引きを低下させるために低粘度化すると、印刷時ににじみが生じるなど印刷に適さないという課題があった。ここで、金属ペーストのチキソトロピー性とは、せん断速度が速い状態においては見かけ粘度が低くなり、かつ、せん断速度が遅い状態およびせん断されていない状態においては、見かけ粘度が高くなる性質を意味する。
【0005】
積層セラミックコンデンサなどの積層型電子部品の誘電層の形成などのシート形成などに用いるセラミックススラリーは、主に、チタン酸バリウムやアルミナなどの金属酸化物や窒化ケイ素などの窒化物といったセラミックス粉体と溶媒、バインダー樹脂からなり、ドクターブレード法などの方法により、シート成型される。シート成型されたグリーンシートには、シートのハンドリング時の寸法変化や破損がないよう強度や柔軟性が求められる。そのため、特許文献2に示されるように、バインダー樹脂としては、強度に優れたポリビニルブチラール樹脂が使用されていた。
【0006】
積層セラミックコンデンサなどの積層型電子部品の内部電極層の形成や太陽電池の導電層の形成などに用いる導電ペーストは、主に、ニッケルや銅などの金属粒子と溶媒、バインダー樹脂からなり、スクリーン印刷などの方法により、シート上に印刷される。特許文献1に示されるように、バインダー樹脂としては、チキソトロピー性が高く、印刷に適したエチルセルロース樹脂が使用されていた。ここで、チキソトロピー性とは、せん断速度が速い状態においては見かけ粘度が低くなり、かつ、せん断速度が遅い状態およびせん断されていない状態においては、見かけ粘度が高くなる性質を意味する。
【0007】
しかしながら、エチルセルロースは熱分解性が低く、焼成時に加熱残分が多く、電極の欠陥につながるといった問題があった。さらにエチルセルロースを使用した導電ペーストは、シートへの接着性が低く、電極のはがれにより積層時に不具合が起きるという問題もあった。
【0008】
そこで、特許文献3に示されるように、エチルセルロースへポリビニルブチラールを添加することで、シート密着性の向上が検討されているが、熱分解性の低下や十分な接着性が得られないといった課題があった。
【0009】
また、導電ペースト中の有機溶剤によるグリーンシートの膨潤や溶解といったシートアタックと呼ばれる課題もあり、その解決に向け導電ペーストではジヒドロターピネオールアセテートやジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテートなどの低極性の有機溶剤の使用が検討されている。しかしながら、低極性溶剤ではバインダー樹脂の溶解性が乏しく印刷性に劣るという課題もあった(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2012-181988号公報
【文献】特開2006-89354号公報
【文献】特開2016-033998号公報
【文献】特開2005-243561号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
近年、積層セラミックコンデンサなどの積層デバイスは、小型化する目的で、グリーンシートの薄層化や多層化が進められている。しかしながら、薄層化が進むと、焼成時に電極層中の残存カーボン分を原因とする欠陥の影響が大きくなるという問題が顕在化し、チキソトロピー性に優れ、印刷時の糸引きやにじみがない、印刷に適した性質も持ちながらも、より熱分解性に優れ、残存カーボン分の少ない特性を有するバインダー樹脂として好適な重合体が求められる。
【0012】
このような問題を解決するべく、チキソトロピー性に優れ、印刷時の糸引きやにじみがない高い印刷適性を有しながらも、熱分解性に優れ、加熱残分が少ない重合体が求められる。
【0013】
近年、積層セラミックコンデンサなどの積層デバイスは、小型化する目的で、グリーンシートの薄層化や多層化が進められている。薄層化が進むと、焼成時に電極層中の残存カーボン分を原因とする欠陥の影響が大きくなり、絶縁破壊が起きるなどの問題が顕在化する。ポリビニルブチラール樹脂は熱分解性が低く、焼成時にカーボン分が残存するため、加熱残分が多く、シート内の欠陥につながるといった問題があった。一方で、アクリル樹脂は、熱分解性に優れた性能を有するものの、シート強度や柔軟性が低く、特に薄層化時には、グリーンシートのハンドリング時にクラックが生じやすくなるという課題があった。これらのことから、薄層化時にも十分なシート強度及び柔軟性がありながら、より熱分解性に優れ、残存カーボン分の少ない特性を有するバインダー樹脂が求められる。
【0014】
このような問題を解決するべく、シート強度及び柔軟性が高く、熱分解性に優れ、加熱残分が少ないバインダー樹脂が求められていた。
【0015】
近年では、積層セラミックコンデンサは小型・大容量化されており、多層化と薄層化が進んでいる。しかしながら、薄層化が進むと、わずかな加熱残分による欠陥が絶縁性の低下を引き起こすといった問題や、多層になることで接着性の低さによる積層ずれや層間のはがれといった問題、導電ペースト溶剤によるシートアタックによる欠陥の生成といった問題が顕在化しており、低極性溶剤へ溶解可能で、より熱分解性と接着性に優れたバインダー樹脂が求められていた。
【0016】
本発明の課題は、チキソトロピー性に優れ、熱分解性にも優れたペーストを提供可能な新規重合体を提供することである。
【0017】
また、本発明の課題は、シート強度及び柔軟性が高く、熱分解性にも優れたセラミックス用バインダー樹脂を提供することである。
【0018】
本発明の課題は、低極性溶剤への溶解性に優れ、さらにチキソトロピー性および熱分解性、接着性に優れた導電ペースト用バインダー樹脂を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明者は、前記課題を解決すべく検討した結果、ヒドロキシウレタン構造を有する特定構造の重合体により上記課題を解決できることを見出した。
【0020】
すなわち、本発明は、以下のものである。
[1] 下記式(1)で示されるモノマー(A)のモル比が10モル%~100モル%であり、前記モノマー(A)と共重合可能な他のモノマー(B)のモル比が0~90モル%であり、重量平均分子量が10,000~1,000,000であることを特徴とする、重合体。
【化1】
(式(1)中、
R
1は、水素原子またはメチル基を示し、
R
2は、炭素数1~18のアルキル基または炭素数1~18のヒドロキシアルキル基を示し、
Aは、炭素数1以上、10以下のアルキレン基を示し、
Xは0または1を示し、
Y
1は、下記式(2)および下記式(3)のヒドロキシウレタン構造からなる群より選ばれた一種以上の構造である。)
【化2】
【化3】
【0021】
[2] [1]の重合体、有機溶媒および金属粒子を含有することを特徴とする、導電性ペースト組成物。
【0022】
[3] 前記金属粒子の比率を100重量部としたとき、前記重合体の比率が0.5~30重量部であり、前記有機溶媒の比率が10~200重量部であることを特徴とする、[2]の導電性ペースト組成物。
【0023】
また、本発明者は、前記課題を解決すべく検討した結果、ヒドロキシウレタン構造を有する特定構造の重合体からなるセラミックバインダー樹脂が上記課題を解決できることを見出した。
【0024】
すなわち、本発明のセラミックバインダー樹脂は以下のものである。
[4] [1]の記載の重合体からなることを特徴とする、セラミックス用バインダー樹脂。
【0025】
[5] [4]のバインダー樹脂、有機溶媒およびセラミックス粒子を含有することを特徴とする、セラミックススラリー組成物。
【0026】
[6] 前記セラミックス粒子100重量部に対して、前記バインダー樹脂を0.5~30重量部および前記有機溶媒を10~200重量部含有することを特徴とする、[5]のセラミックススラリー組成物。
【0027】
また、本発明者は、前記課題を解決すべく検討した結果、ヒドロキシウレタン構造を有する特定構造の重合体により上記課題を解決できることを見出した。
【0028】
すなわち、本発明の導電ペースト用バインダー樹脂は以下のものである。
[7] [1]の重合体からなる導電ペースト用バインダー樹脂であって、
前記式(1)で示されるモノマー(A)のモル比が10モル%~90モル%であり、前記他のモノマー(B)が、下記一般式(Z)で示される(メタ)アクリル酸アルキルエステル(C)および前記モノマー(A)および前記(メタ)アクリル酸アルキルエステル(C)と共重合可能な他のモノマー(D)であり、前記(メタ)アクリル酸アルキルエステル(C)のモル比が10~90モル%であり、前記他のモノマー(D)のモル比が0~30モル%であることを特徴とする、導電ペースト用バインダー樹脂。
【化9】
(式(Z)中、
R
3は水素原子またはメチル基を示し、
R
4は炭素数1~18のアルキル基を示す。)
【0029】
[8] 前記他のモノマー(D)が、アクリロニトリルおよびアルキルアクリルアミドからなる群より選ばれた一種以上のモノマーであることを特徴とする、[7]の導電ペースト用バインダー樹脂。
【0030】
[9] [7]または[8]の導電ペースト用バインダー樹脂、有機溶媒および金属粒子を含有することを特徴とする、導電ペースト組成物。
【0031】
[10] 前記金属粒子100質量部に対し、前記導電ペースト用バインダー樹脂の質量比が0.5~30質量部であり、前記有機溶媒の質量比が10~200質量部であることを特徴とする、[9]の導電ペースト組成物。
【発明の効果】
【0032】
本発明の重合体は、ペースト溶媒への溶解性に優れ、チキソトロピー性に優れ、印刷時の糸引きやにじみがなく、熱分解性にも優れる。この結果として、本発明の重合体をバインダー樹脂として用いたペースト、特に金属ペーストは、印刷適性が高く、さらに焼成時に残存カーボン分を少なくすることができる。
【0033】
本発明のセラミックス用バインダー樹脂組成物は、シート強度と柔軟性に優れ、ペースト溶媒への溶解性に優れ、熱分解性にも優れる。この結果として、本発明のセラミックス用バインダー樹脂を用いたセラミックスグリーンシートは、シート強度と柔軟性に優れ、さらに焼成時に残存カーボン分を少なくすることができる。
【0034】
本発明の重合体は、ペースト溶媒への溶解性に優れ、チキソトロピー性および熱分解性、接着性に優れる。この結果として、本発明の重合体をバインダー樹脂として用いた導電ペーストは、印刷適性および接着性が高く、更に焼成時に残存カーボン量が少ない。
【0035】
さらに低極性溶剤を用いて導電ペーストを調製することができ、シートアタックを抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本発明の実施形態を説明する。
〔モノマー(A)〕
本発明で用いるモノマー(A)は、下記一般式(1)で示される。
【化1】
【0037】
式(1)中、R1は、水素原子またはメチル基であり、重合のしやすさの観点からメチル基が特に好ましい。
【0038】
R2は、炭素数1~18のアルキル基または炭素数1~18のヒドロキシアルキル基である。炭素数1~18のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、iso-ブチル基、tert-ブチル基、n-ヘキシル基、n-オクチル基、2-エチルヘキシル基、デシル基、ドデシル基、ステアリル基などが挙げられる。合成のしやすさとチクソトロピー性の観点から、R2を構成するアルキル基の炭素数は2~12が好ましく、3~6がより好ましい。
セラミックス用バインダー樹脂の場合には、合成のしやすさとシート強度の観点から、R2のアルキル基の炭素数は2~12が好ましく、3~6がより好ましい。またR2のアルキル基の炭素数を3~6とすることで柔軟性とシート強度を両立することができる。
【0039】
炭素数1~18のヒドロキシアルキル基としては、例えば、ヒドロキシメチル基、2-ヒドロキシエチル基、3-ヒドロキシプロピル基、2-ヒドロキシプロプル基、4-ヒドロキシブチル基、5-ヒドロキシブチル基、8-ヒドロキシオクチル基、12-ヒドロキシドデシル基などが挙げられ、合成のしやすさとチクソトロピー性の観点から、R2を構成するヒドロキシアルキル基の炭素数は2~12が好ましく、2~6がより好ましい。
セラミックス用バインダー樹脂の場合には、合成のしやすさとシート強度の観点から、R2のヒドロキシアルキル基炭素数は2~12が好ましく、3~6がより好ましい。またR2のヒドロキシアルキル基の炭素数を3~6とすることで柔軟性とシート強度を両立することができる。
【0040】
ペースト溶媒への溶解性の観点から、R2がアルキル基であることがより好ましい。
【0041】
Aは炭素数1~10のアルキレン基であり、チクソトロピー性の観点から炭素数6以下が好ましく、炭素数4以下がより好ましい。
また、Aは、シート強度の観点からは炭素数6以下が好ましく、炭素数4以下がより好ましい。
【0042】
Xは0または1であり、チクソトロピー性の観点またはシート強度の観点から0が好ましい。
【0043】
Y1は、式(2)および式(3)のヒドロキシウレタン構造からなる群より選ばれた一種以上のヒドロキシウレタン構造である。チクソトロピー性の観点から、またシート強度および熱分解性の式(2)の構造が特に好ましい。
モノマー(A)は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0044】
重合体を構成するモノマーのうち、モノマー(A)のモル比は、10モル%以上とする。モノマー(A)のモル比が低すぎると、チキソトロピー性、シート強度が低下するおそれがあるので、10モル%以上とするが、15モル%以上が好ましく、20モル%以上が更に好ましい。
【0045】
また、重合体を構成するモノマーのうち、モノマー(A)のモル比は、100モル%以下とする。モノマー(A)のモル比が100モル%である場合には、本発明の重合体はホモポリマーとなり、モノマー(A)のモル比が100モル%未満である場合には、本発明の重合体は共重合体となる。モノマー(A)のモル比を50モル%以下とすることにより、重合体の熱分解性が更に向上するが、この観点からは、40モル%以下とすることが更に好ましい。
【0046】
導電性バインダー樹脂の場合には、重合体を構成するモノマーのうち、モノマー(A)のモル比は、10モル%以上とする。モノマー(A)のモル比が低すぎると、チキソトロピー性が低下するおそれがあるので、10モル%以上とするが、15モル%以上が好ましく、20モル%以上が更に好ましい。
また、導電性バインダー樹脂の場合には、重合体を構成するモノマーのうち、モノマー(A)のモル比は、90モル%以下とする。モノマー(A)のモル比を50モル%以下とすることにより、重合体の熱分解性が更に向上するが、この観点からは、40モル%以下とすることが更に好ましい。
【0047】
なお、モノマー(A)としては、式(1)のY1のヒドロキシウレタン構造に式(4)、式(5)で表されるモノマー(A)の異性体が混ざったものを用いてもよい。
【0048】
【0049】
【0050】
〔モノマー(B)〕
モノマー(B)は、モノマー(A)と共重合可能なビニル系モノマーであり、例えば、(メタ)アクリル酸エステル化合物や芳香族アルケニル化合物、シアン化ビニル化合物、アクリルアミド化合物などを挙げることができる。
【0051】
(メタ)アクリル酸エステル化合物としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、iso-ブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、n-ヘキシル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレートなどを挙げることができる。
【0052】
芳香族アルケニル化合物としては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、p-メトキシスチレンなどを挙げることができる。
【0053】
シアン化ビニル化合物としては、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどを挙げることができる。
【0054】
アクリルアミド化合物としては、例えば、アクリルアミド、メタクリルアミドなどを挙げることができる。
【0055】
モノマー(B)は、一種類を単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。その中でも、溶媒溶解性と熱分解性またはシート強度の観点から(メタ)アクリル酸エステル化合物が好ましく、特に(メタ)アクリル酸アルキルエステル化合物が好ましい。アルキル基としては炭素数1~24のものが好ましく、炭素数1~12のものがより好ましく、炭素数1~8のものがさらに好ましく、炭素数1~4のものが特に好ましい。メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、iso-ブチル(メタ)アクリレートが好ましく、メチルメタクリレート、iso-ブチルメタクリレートが特に好ましい。これら2種を併用する場合、モル比で1/1~1/20が好ましく、1/2~1/10がさらに好ましい。
【0056】
本発明の重合体を構成するモノマー混合物においては、モノマー(A)とモノマー(B)の合計量を100モル%とする。ゆえに、モノマー(B)のモル比は0~90モル%となるが、熱分解性の観点から40~90モル%が好ましく、50~90モル%がさらに好ましい。
【0057】
〔重合体〕
本発明の重合体の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いてポリスチレン換算で求めることができ、10,000~1,000,000であり、好ましくは10,000~800,000、より好ましくは30,000~300,000である。重合体の重量平均分子量が低すぎると、ポリマーの強度や粘度が不足し、重量平均分子量が高すぎると、溶媒溶解性や印刷適性の低下が生じるおそれがある。
【0058】
更に本発明のセラミック用バインダー樹脂を構成する重合体の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いてポリスチレン換算で求めることができ、10,000~1,000,000であり、好ましくは30,000~800,000、より好ましくは50,000~500,000である。重合体の重量平均分子量が低すぎると、シート強度が不足し、重量平均分子量が高すぎると、スラリーが増粘し、塗布性の低下が生じるおそれがある。
【0059】
〔モノマー(A)の製造方法〕
本発明のモノマー(A)は、ヒドロキシウレタン結合を有するモノマーである。
上記モノマー(A)は例えば、(メタ)アクリロイル基と5員環カーボネート基の両方を有する化合物とアミン化合物との付加反応により得ることができる。
【0060】
本発明で用いられる(メタ)アクリロイル基と5員環カーボネート基の両方を有する化合物としては、一般式(6)および(7)で示される。
【0061】
【0062】
ただし、一般式(6)および(7)中、R1は水素原子またはメチル基を示し、R2は炭素数1~18のアルキル基または炭素数1~19のヒドロキシアルキル基を示し、Aは炭素数1以上、10以下のアルキレン基を示し、Xは0または1を示す。)
【0063】
一般式(6)および(7)で示される具体的な化合物としては、例えば、以下の化合物(6-1)~(6-3)、(7-1)が挙げられる。
【0064】
【0065】
前記アミン化合物は、1級アミン化合物又は2級アミン化合物であることが好ましく、1級アミン化合物であることがさらに好ましい。
【0066】
前記5員環カーボネート化合物とアミン化合物との反応は、両者を混合し、所望により温度を上げ、公知の方法で実施することができる。また必要に応じて、公知の重合禁止剤を添加してもよい。この反応は0~100℃、好ましくは5~50℃の温度で行うことが望ましい。また、上記反応は溶剤を使用してもよく、例えば、アセトン、メチルイソブチルケトン、酢酸エチル、酢酸ブチル、トルエン、キシレン、テトラヒドロフラン等の存在下で行うことができる。
【0067】
〔重合体の製造方法〕
次に、本発明の重合体を製造する方法について説明する。
本発明における重合体は、モノマー(A)を少なくとも含有するモノマー混合物をラジカル重合させることにより得ることができる。重合は公知の方法で行うことができる。例えば、溶液重合、懸濁重合、乳化重合などが挙げられるが、共重合体の重量平均分子量を上記範囲内に調整しやすいという面で、溶液重合や懸濁重合が好ましい。
【0068】
重合開始剤は、公知のものを使用することができる。例えば、ジ(4-t-ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエートなどの有機過酸化物、2,2’-アゾビスイソブチロニトリルなどのアゾ系重合開始剤などを挙げることができる。これらの重合開始剤は1種類のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
重合開始剤の使用量は、用いるモノマーの組み合わせや、反応条件などに応じて適宜設定することができる。
【0069】
なお、重合開始剤を投入するに際しては、例えば、全量を一括仕込みしてもよいし、一部を一括仕込みして残りを滴下してもよく、あるいは全量を滴下してもよい。また、前記モノマーとともに重合開始剤を滴下すると、反応の制御が容易となるので好ましく、さらにモノマー滴下後も重合開始剤を添加すると、残存モノマーを低減できるので好ましい。
【0070】
溶液重合の際に使用する重合溶媒としては、モノマーと重合開始剤が溶解するものを使用することができ、具体的には、メタノール、エタノール、1-プロパノール、アセトン、メチルエチルケトン、プロピレングリコールモノメチルエーテルなどを挙げることができる。
【0071】
重合溶媒に対するモノマー(合計量)の濃度は、10~60質量%が好ましく、特に好ましくは20~50質量%である。モノマー混合物の濃度が低すぎると、モノマーが残存しやすく、得られる共重合体の分子量が低下するおそれがあり、モノマーの濃度が高すぎると、発熱を制御し難くなるおそれがある。
【0072】
モノマーを投入するに際しては、例えば、全量を一括仕込みしても良いし、一部を一括仕込みして残りを滴下しても良いし、あるいは全量を滴下しても良い。発熱の制御しやすさから、一部を一括仕込みして残りを滴下するか、または全量を滴下するのが好ましい。
【0073】
重合温度は、重合溶媒の種類などに依存し、例えば、50℃~110℃である。重合時間は、重合開始剤の種類と重合温度に依存し、例えば、重合開始剤としてジ(4-t-ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネートを使用した場合、重合温度を70℃として重合すると、重合時間は6時間程度が適している。
【0074】
以上の重合反応を行なうことにより、本発明の樹脂組成物に係る共重合体が得られる。得られた共重合体は、そのまま用いてもよいし、重合反応後の反応液に、ろ取や精製を施して単離してもよい。
【0075】
〔金属ペースト〕
本発明の重合体は、金属ペーストのバインダー樹脂として特に好適である。金属ペーストは、本発明の重合体の他、金属粉体および溶媒を含有する。
【0076】
こうした金属粉末としては、白金、金、銀、銅、ニッケル、錫、パラジウム、アルミニウム及びこれらの金属の合金を例示できる。これらの中で銀、銅、ニッケル、アルミニウムが好ましく、ニッケルがより好ましい。金属粉末の中心粒径(D50)、すなわちレーザー回折散乱式粒度分布測定装置によって測定される体積累積粒径D50は、0.05μm~50.0μmであるのが好ましい。この中でも0.06μm~10.0μmであるのがより好ましく、0.07μm~1.00μmであるのが更に好ましく、0.10μm~0.30μmであるのが特に好ましい。粒径は、動的光散乱法やレーザ回折式粒度分布測定装置で求めることができる。
【0077】
また、溶媒としては、トルエン、キシレンなどの炭化水素系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル系溶媒、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、イソブチルアルコール、1-ブタノール、ジアセトンアルコールなどのアルコール系溶媒、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテルなどのグリコールエーテル系溶媒、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートなどのグリコールエーテルアセテート系溶媒、ターピネオール、ジヒドロターピネオール、ジヒドロターピネオールアセテートなどのターピネオール系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン系溶媒などを挙げることができる。これらの中では、グリコールエーテルアセテート系溶媒、ターピネオール系溶媒が好ましく、ターピネオール系溶媒がより好ましく、ターピネオールまたはジヒドロターピネオールがさらに好ましく、ジヒドロターピネオールが特に好ましい。これらを単体で、又は2種以上混合して用いることができる。
【0078】
金属ペースト中でのバインダー樹脂の含有量は、金属粉末の重量を100重量部としたとき、0.5~30重量部が好ましく、1~15重量部がより好ましく、1~10重量部がさらに好ましく、1~5重量部が特に好ましい。また、金属ペースト中での溶媒の含有量は、金属粉末の重量を100重量部としたとき、10~200重量部が好ましく、50~150重量部がより好ましく、75~125重量部がさらに好ましい。また、この他に必要に応じて界面活性剤や酸化防止剤等の他の成分を配合することができる。
【0079】
これらの混合物を、撹拌、分散して、金属ペーストを得る。撹拌は、特に制限無く公知の手段を使用することができ、好ましくは例えばPDミキサー、あるいは遊星式混練機を使用することができ、特に好ましくは遊星式混練機が使用される。分散は、特に制限無く公知の手段を使用することができ、好ましくは例えばニーダー、ビーズミル、あるいは3本ロールを使用することができ、特に好ましくは3本ロールが使用される。
【0080】
金属ペーストは、スクリーン印刷などの方法により、シート上に印刷される
【0081】
〔セラミックススラリーおよびグリーンシート〕
本発明の重合体は、セラミックススラリーのバインダー樹脂として特に好適である。セラミックススラリーは、本発明の重合体の他、セラミックス粉体および溶媒を含有する。
【0082】
こうしたセラミックス粉末としては、アルミナやチタン酸バリウムなどの金属酸化物や窒化ケイ素や窒化アルミニウムなどの窒化物を例示できる。セラミックス粉末の中心粒径(D50)、すなわちレーザー回折散乱式粒度分布測定装置によって測定される体積累積粒径D50は、0.05μm~50.0μmであるのが好ましい。溶媒としては、トルエン、キシレンなどの炭化水素系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル系溶媒、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、イソブチルアルコール、1-ブタノール、ジアセトンアルコールなどのアルコール系溶媒、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテルなどのグリコールエーテル系溶媒、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートなどのグリコールエーテルアセテート系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン系溶媒などを挙げることができ、これらを単体で、又は2種以上混合して用いることができる。
【0083】
セラミックススラリー中でのバインダー樹脂の含有量は、セラミックス粉末の重量を100重量部としたとき、0.5~30重量部が好ましい。また、セラミックススラリー中での溶媒の含有量は、セラミックス粉末の重量を100重量部としたとき、10~200重量部が好ましい。また、この他に必要に応じて界面活性剤や酸化防止剤等の他の成分を配合することができる。
【0084】
これらの混合物を、撹拌、分散して、セラミックススラリーを得る。撹拌は、特に制限無く公知の手段を使用することができ、好ましくは例えばボールミルやビーズミル、あるいは遊星式混練機などを使用することができ、特に好ましくはボールミルが使用される。
【0085】
セラミックススラリーは、ドクターブレード法などの方法により、キャリアフィルム上に成型される
【0086】
本発明の樹脂は、本発明の重合体において、式(1)で示されるモノマー(A)のモル比が10モル%~90モル%であり、他のモノマー(B)が、下記一般式(Z)で示される(メタ)アクリル酸アルキルエステル(C)および前記モノマー(A)および前記(メタ)アクリル酸アルキルエステル(C)と共重合可能な他のモノマー(D)であり、前記(メタ)アクリル酸アルキルエステル(C)のモル比が10~90モル%であり、前記他のモノマー(D)のモル比が0~30モル%である。
【0087】
〔(メタ)アクリル酸アルキルエステル(C)〕
本発明の(メタ)アクリル酸アルキルエステル(C)は下記一般式(Z)で示される。
【0088】
【0089】
式(Z)中、R3は、水素原子またはメチル基である。
R4は、炭素数1~18のアルキル基である。炭素数1~18のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、iso-ブチル基、tert-ブチル基、n-ヘキシル基、n-オクチル基、2-エチルヘキシル基、デシル基、ドデシル基、ステアリル基などが挙げられ、重合性とポリマーのガラス転移点の観点から、R4の炭素数は1~12が好ましく、1~8がより好ましい。
【0090】
(メタ)アクリル酸アルキルエステル(C)は一種類を単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。熱分解性の観点から、R4が分岐アルキル基の(メタ)アクリル酸アルキルエステルと、R4が直鎖アルキル基の(メタ)アクリル酸アルキルエステルとを併用することが好ましい。R4を構成する分岐アルキル基としては、イソプロピル基、iso-ブチル基、tert-ブチル基、2-エチルヘキシル基などが挙げられ、R4が直鎖のアルキル基のとしては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ヘキシル基、n-オクチル基、n-デシル基、n-ドデシル基、n-ステアリル基などが挙げられる。
(メタ)アクリル酸アルキルエステル(C)におけるR4が分岐アルキル基の(メタ)アクリル酸アルキルエステルの比としては、40~95モル%であることが好ましく、50~90モル%がより好ましい。
【0091】
強度と接着性の観点からは、R3が水素原子のモノマー(b1)とR3がメチル基のモノマー(b2)とを併用することが好ましい。(b1)と(b2)の合計量に対する(b1)の比[(b1)/{(b1)+(b2)}は、1~50モル%であることが好ましく、5~30モル%がより好ましい。
【0092】
重合体を構成するモノマー全体を100モル%としたとき、(メタ)アクリル酸アルキルエステル(C)のモル比は10モル%以上とする。(メタ)アクリル酸アルキルエステル(C)のモル比が低すぎると、バインダー樹脂としての強度や熱分解性が低下するおそれがあるので、10モル%以上とするが、30モル%以上が好ましく、50モル%以上が特に好ましい。
【0093】
また、重合体を構成するモノマー全体を100モル%としたとき、(メタ)アクリル酸アルキルエステル(C)のモル比は90モル%以下とする。(メタ)アクリル酸アルキルエステル(C)のモル比が高すぎるとチキソトロピー性が低下するおそれがあるので、90モル%以下とするが、85モル%が好ましく、80モル%以下が特に好ましい。
【0094】
(メタ)アクリル酸エステル化合物(C)としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、iso-ブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、n-ヘキシル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレートなどを挙げることができる。
【0095】
本発明の重合体は、モノマー(A)および(メタ)アクリル酸アルキルエステル(C)からなっていてよく、あるいはこれらと重合可能な他のモノマー(D)を更に30モル%以下含有していてもよい。他のモノマーの比率は、30モル%以下とするが、15モル%以下が更に好ましく、0モル%であってもよい。
【0096】
こうした他のモノマーとしては、アクリルアミド、ジメチルアクリルアミド、ジエチルアクリルアミド、アクリロニトリルなどを挙げることができる。
【0097】
本発明の導電ペースト用バインダー樹脂の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いてポリスチレン換算で求めることができ、10,000~1,000,000であり、好ましくは10,000~800,000、より好ましくは30,000~300,000である。重合体の重量平均分子量が低すぎると、ポリマーの強度や粘度が不足し、重量平均分子量が高すぎると、溶媒溶解性や印刷適性の低下が生じるおそれがある。
【0098】
〔重合体の製造方法〕
次に、本発明の導電ペースト用バインダー樹脂を構成する重合体を製造する方法について説明する。
本発明における重合体は、モノマー(A)およびモノマー(C)を少なくとも含有するモノマー混合物をラジカル重合させることにより得ることができる。重合は公知の方法で行うことができる。例えば、溶液重合、懸濁重合、乳化重合などが挙げられるが、共重合体の重量平均分子量を上記範囲内に調整しやすいという面で、溶液重合や懸濁重合が好ましい。
【0099】
重合開始剤は、公知のものを使用することができる。例えば、ジ(4-t-ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエートなどの有機過酸化物、2,2’-アゾビスイソブチロニトリルなどのアゾ系重合開始剤などを挙げることができる。これらの重合開始剤は1種類のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0100】
重合開始剤の使用量は、用いるモノマーの組み合わせや、反応条件などに応じて適宜設定することができる。
なお、重合開始剤を投入するに際しては、例えば、全量を一括仕込みしてもよいし、一部を一括仕込みして残りを滴下してもよく、あるいは全量を滴下してもよい。また、前記モノマーとともに重合開始剤を滴下すると、反応の制御が容易となるので好ましく、さらにモノマー滴下後も重合開始剤を添加すると、残存モノマーを低減できるので好ましい。
【0101】
溶液重合の際に使用する重合溶媒としては、モノマーと重合開始剤が溶解するものを使用することができ、具体的には、メタノール、エタノール、1-プロパノール、アセトン、メチルエチルケトン、プロピレングリコールモノメチルエーテルなどを挙げることができる。
重合溶媒に対するモノマー(合計量)の濃度は、10~60質量%が好ましく、特に好ましくは20~50質量%である。モノマー混合物の濃度が低すぎると、モノマーが残存しやすく、得られる共重合体の分子量が低下するおそれがあり、モノマーの濃度が高すぎると、発熱を制御し難くなるおそれがある。
【0102】
モノマーを投入するに際しては、例えば、全量を一括仕込みしても良いし、一部を一括仕込みして残りを滴下しても良いし、あるいは全量を滴下しても良い。発熱の制御しやすさから、一部を一括仕込みして残りを滴下するか、または全量を滴下するのが好ましい。
【0103】
重合温度は、重合溶媒の種類などに依存し、例えば、50℃~110℃である。重合時間は、重合開始剤の種類と重合温度に依存し、例えば、重合開始剤としてジ(4-t-ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネートを使用した場合、重合温度を70℃として重合すると、重合時間は6時間程度が適している。
【0104】
以上の重合反応を行なうことにより、本発明の樹脂組成物に係る共重合体が得られる。得られた共重合体は、そのまま用いてもよいし、重合反応後の反応液に、ろ取や精製を施して単離してもよい。
【0105】
〔導電ペースト〕
本発明の重合体は、導電ペーストのバインダー樹脂として特に好適である。導電ペーストは、本発明の重合体の他、金属粉体および溶媒を含有する。
【0106】
こうした金属粉末としては、白金、金、銀、銅、ニッケル、錫、パラジウム、アルミニウム及びこれらの金属の合金を例示できる。これらの中で銀、銅、ニッケル、アルミニウムが好ましく、ニッケルがより好ましい。金属粉末の中心粒径(D50)、すなわちレーザー回折散乱式粒度分布測定装置によって測定される体積累積粒径D50は、0.05μm~50.0μmであるのが好ましい。この中でも0.06μm~10.0μmであるのがより好ましく、0.07μm~1.00μmであるのが更に好ましく、0.10μm~0.30μmであるのが特に好ましい。粒径は、動的光散乱法やレーザ回折式粒度分布測定装置で求めることができる。
【0107】
また、溶媒としては、トルエン、キシレンなどの炭化水素系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル系溶媒、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、イソブチルアルコール、1-ブタノール、ジアセトンアルコールなどのアルコール系溶媒、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテルなどのグリコールエーテル系溶媒、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートなどのグリコールエーテルアセテート系溶媒、ターピネオール、ジヒドロターピネオール、ジヒドロターピネオールアセテートなどのターピネオール系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン系溶媒などを挙げることができる。これらの中では、グリコールエーテルアセテート系溶媒、ターピネオール系溶媒が好ましく、ターピネオール系溶媒がより好ましく、ターピネオールまたはジヒドロターピネオールがさらに好ましく、ジヒドロターピネオールが特に好ましい。これらを単体で、又は2種以上混合して用いることができる。
【0108】
溶媒は低極性溶媒であることが好ましい。ただし、本発明における低極性溶媒とは、25℃におけるSP値[(cal/cm3)0.5]が9.0以下のものを示す。シートアタック抑制および溶解性の観点から、25℃におけるSP値[(cal/cm3)0.5]が7.5~9.0の範囲にあることが好ましい。SP値はFedorの推算法(SP値基礎・応用と計算方法 株式会社情報機構 2005年発行)から求めることができる。具体的にはジヒドロターピネオール、ジヒドロターピネオールアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテートが好ましく、ジヒドロターピネオールアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテートが特に好ましい。
【0109】
導電ペースト中でのバインダー樹脂の含有量は、金属粉末の重量を100重量部としたとき、0.5~30重量部が好ましく、1~15重量部がより好ましく、1~10重量部がさらに好ましく、1~5重量部が特に好ましい。また、導電ペースト中での溶媒の含有量は、金属粉末の重量を100重量部としたとき、10~200重量部が好ましく、50~150重量部がより好ましく、75~125重量部がさらに好ましい。また、この他に必要に応じて界面活性剤や酸化防止剤等の他の成分を配合することができる。
【0110】
これらの混合物を、撹拌、分散して、導電ペーストを得る。撹拌は、特に制限無く公知の手段を使用することができ、好ましくは例えばPDミキサー、あるいは遊星式混練機を使用することができ、特に好ましくは遊星式混練機が使用される。分散は、特に制限無く公知の手段を使用することができ、好ましくは例えばニーダー、ビーズミル、あるいは3本ロールを使用することができ、特に好ましくは3本ロールが使用される。
【0111】
導電ペーストは、スクリーン印刷などの方法により、シート上に印刷される。
【実施例】
【0112】
(実験A:導電性ペースト組成物)
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。
下記の表1に、モノマー(A)の構造と略号を示す。
【0113】
【0114】
(合成例1:モノマーA1)
撹拌機、温度計、冷却器、滴下ロート及び気体導入管を取り付けた反応装置にグリシジルメタクリレート(日油株式会社製、商品名:ブレンマーG)100部と、触媒として臭化リチウム(和光純薬製)5部と、N-メチル-2-ピロリドン100部とを入れ、撹拌しながら二酸化炭素を連続して吹き込み、100℃にて12時間反応した。ガスクロマトグラフィー(島津製作所製、商品名:GC-2014、カラム DB-1)により、原料であるグリシジルメタクリレートのピークの消失にて反応の進行を確認した。反応終了後、トルエン200部と水200部を入れ、混合した後、静置することで水層を分離した。水層を除去した後、水100部にて3回洗浄した。洗浄した有機層を減圧濃縮することで、5員環カーボネート化合物を合成した。
【0115】
この5員環カーボネート化合物100部に、ジヒドロターピネオール100部を加えた後、冷却し、撹拌しながら5員環カーボネート化合物と当モル量のブチルアミンを内温を10℃以下に制御しながら滴下し、その後2時間撹拌した。ガスクロマトグラフィー(島津製作所製、商品名:GC-2014、カラム DB-1)により、5員環カーボネート化合物のピークの消失にて、反応の進行を確認した。
【0116】
モノマーA1は、式(1)のY1が式(2)および式(3)構造である異性体混合物として得られ、モノマー濃度を50wt%に調整した後、モノマー溶液としてそのまま重合に用いた。
【0117】
(合成例2:モノマーA2)
アミン化合物をブチルアミンから3-アミノー1-プロパノールへ変更した以外は、合成例1と同様の手法で、モノマーA2(異性体混合)の50wt%溶液を得た。
【0118】
(合成例3:モノマーA3)
アミン化合物をブチルアミンからノニルアミンへ変更した以外は、合成例1と同様の手法で、モノマーA3(異性体混合)の50wt%溶液を得た。
【0119】
(合成例4:モノマーA4)
グリシジルメタクリレートを4-ヒドロキシブチルアクリレートグリシジルエーテル(日本化成株式会社製、商品名:4HBAGE)へ変更した以外は、合成例1と同様の手法で、モノマーA4(異性体混合)の50wt%溶液を得た。
【0120】
(合成例5:モノマーA5)
グリシジルメタクリレートを3,4-エポキシシクロヘキシルメチルメタアクリレート(株式会社ダイセル製、商品名:サイクロマーM-100)へ変更した以外は、合成例1と同様の手法で、モノマーA5(異性体混合)の50wt%溶液を得た。
【0121】
(重合例1:共重合体A)
撹拌機、温度計、冷却器、滴下ロート及び窒素導入管を取り付けた1Lセパラブルフラスコに、ジヒドロターピネオール350gを仕込み、フラスコ内を窒素置換して、窒素雰囲気下にした。イソブチルメタクリレート(製品名:アクリエステルIB(三菱レイヨン(株)製))151.3gとモノマーA1の50%溶液 97.4gを混合したモノマー溶液、及びジヒドロターピネオール50gと2,2‘-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)(製品名:V-65(和光純薬工業(株)製))0.4gを混合した重合開始剤溶液をそれぞれ調製した。
【0122】
反応容器内を75℃まで昇温し、モノマー溶液及び重合開始剤溶液を同時にそれぞれ3時間かけて滴下した。その後、75℃で3時間反応させ共重合体Aのジヒドロターピネオール溶液を得た。
【0123】
(重合例2:共重合体B)
イソブチルメタクリレートの使用量を112.3g、モノマーA1の50%溶液の使用量を175.5gに変更したこと以外は重合例1と同様の手法で共重合体Bを得た。
【0124】
(重合例3:共重合体C)
イソブチルメタクリレートの使用量を70.8g、モノマーA1の50%溶液の使用量を258.3gに、2,2‘-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)の使用量を0.9gに変更したこと以外は、重合例1と同様の手法で共重合体Cを得た。
【0125】
(重合例4:共重合体D)
イソブチルメタクリレートの使用量を111.9g、モノマーA1の溶液をモノマーA2の溶液に変え、176.2g使用し、2,2‘-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)の使用量を0.2gに変更したこと以外は、重合例1と同様の手法で共重合体Dを得た。
【0126】
(重合例5:共重合体E)
イソブチルメタクリレートの使用量を100.4g、モノマーA1の溶液をモノマーA3の溶液に変え、199.3g使用したこと以外は、重合例1と同様の手法で共重合体Eを得た。
【0127】
(重合例6:共重合体F)
イソブチルメタクリレートの使用量を102.2g、モノマーA1の溶液をモノマーA4の溶液に変え、195.6g使用したこと以外は、重合例1と同様の手法で共重合体Fを得た。
【0128】
(重合例7:共重合体G)
イソブチルメタクリレートの使用量を102.9g、モノマーA1の溶液をモノマーA5の溶液に変え、194.3g使用したこと以外は、重合例1と同様の手法で共重合体Gを得た。
【0129】
(重合例8:共重合体H)
イソブチルメタクリレートの使用量を84.2g、モノマーA1の溶液の使用量を184.2gに変更し、メチルメタクリレートを23.7g使用したこと以外は、重合例1と同様の手法で共重合体Hを得た。
【0130】
(重合例9:共重合体I)
イソブチルメタクリレートの使用量を83.8g、モノマーA1の溶液の使用量を183.3gに変更し、スチレンを24.5g使用したこと以外は、重合例1と同様の手法で共重合体Iを得た。
【0131】
(重合例10:共重合体J)
イソブチルメタクリレートの使用量を101.3g、モノマーA1の溶液の使用量を184.8gに変更し、アクリロニトリルを6.3g使用したこと以外は、重合例1と同様の手法で共重合体Jを得た。
【0132】
(重合例11:共重合体K)
イソブチルメタクリレートの使用量を100.2g、モノマーA1の溶液の使用量を182.8gに変更し、アクリルアミドを8.4g使用したこと以外は、重合例1と同様の手法で共重合体Kを得た。
【0133】
(重合例12:共重合体L)
イソブチルメタクリレートの使用量を182.5g、モノマーA1の溶液の使用量を35.0gに変更したこと以外は、重合例1と同様の手法で共重合体Lを得た。
【0134】
(重合例13:共重合体M)
イソブチルメタクリレートの使用量を143.7g、モノマーA1の代わりに2-ヒドロキシエチルメタクリレートを56.3g使用したこと以外は、重合例1と同様の手法で共重合体Mを得た。
【0135】
〔重量平均分子量の測定〕
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて以下の条件により、共重合体A~Mの重量平均分子量を求めた。
装置:東ソー(株)社製、HLC-8220
カラム:shodex社製、LF-804
標準物質:ポリスチレン
溶離液:THF(テトラヒドロフラン)
流量:1.0ml/min
カラム温度:40℃
検出器:RI(示差屈折率検出器)
【0136】
〔チキソトロピー性の評価〕
20wt%の共重合体溶液(溶媒 ジヒドロターピネオール)を調製し、レオメーターにて1s-1から1,000s-1の範囲で粘度のせん断速度依存性を測定した。1s-1と1,000s-1のときの粘度の比を、TI値として算出した。
【0137】
〔熱分解性の評価〕
共重合体5mgをアルミパンにいれ、TG/DTAにて、空気雰囲気下、昇温速度10℃/分で500℃まで昇温し、サンプルの残存量を測定した。
【0138】
〔印刷適性の評価〕
Ni粉(JFEミネラル製:NFP201S)100重量部に対して、オレオイルザルコシン(日油製:エスリーム221P)を1重量部、バインダー樹脂を3重量部、ジヒドロターピネオールを90重量部加える。これらの混合物を遊星式混練機を使用し攪拌後、3本ロールにて混練しNiペーストを得た。
【0139】
得られたNiペーストをスクリーン印刷し、得られた印刷体を光学顕微鏡で確認し、ににじみや糸曳きの跡が見られないか目視で確認した。にじみや糸曳きが見られなければ「○」(良好)、にじみや糸曳きが見られた場合は「×」(不良)とした。
【0140】
【0141】
【0142】
【0143】
実施例1~11では、チキソトロピー値が高くなり、また、加熱残分が少なく、かつ印刷適性が高くなった。
【0144】
比較例1では、モノマーA1の比率が10モル%未満であるが、加熱残分は少なくなったが、チキソトロピー値が低く、印刷適性も低くなった。
【0145】
比較例2では、本発明のモノマーを含有しない共重合体を用いたが、加熱残分は少なくなったが、チキソトロピー値が低く、印刷適性も低くなった。
【0146】
比較例3では、エチルセルロースを用いたが、チキソトロピー値は大きくかつ印刷適性が高いが、加熱残分が多くなった。
【0147】
(実験B:セラミックススラリー組成物)
下記の表5に、モノマー(A)の構造と略号を示す。
【表5】
【0148】
(合成例1:モノマーA1)
撹拌機、温度計、冷却器、滴下ロート及び気体導入管を取り付けた反応装置にグリシジルメタクリレート(日油株式会社製、商品名:ブレンマーG)100部と、触媒として臭化リチウム(和光純薬製)5部と、N-メチル-2-ピロリドン100部とを入れ、撹拌しながら二酸化炭素を連続して吹き込み、100℃にて12時間反応した。ガスクロマトグラフィー(島津製作所製、商品名:GC-2014、カラム DB-1)により原料であるグリシジルメタクリレートのピークの消失にて反応の進行を確認した。反応終了後、トルエン200部と水200部を入れ、混合した後、静置することで水層を分離した。水層を除去した後、水100部にて3回洗浄した。洗浄した有機層を減圧濃縮することで、5員環カーボネート化合物を合成した。
【0149】
この5員環カーボネート化合物100部に、トルエン100部を加えた後、冷却し、撹拌しながら5員環カーボネート化合物と当モル量のブチルアミンを内温を10℃以下に制御しながら滴下し、その後2時間撹拌した。ガスクロマトグラフィー(島津製作所製、商品名:GC-2014、カラム DB-1)により5員環カーボネート化合物のピークの消失にて反応の進行を確認した。
【0150】
モノマーA1は式(1)のY1が式(2)および式(3)構造である異性体混合物として得られ、モノマー濃度を50wt%に調整した後、モノマー溶液としてそのまま重合に用いた。
【0151】
(合成例2:モノマーA2)
アミン化合物をブチルアミンから3-アミノ-1-プロパノールへ変更した以外は合成例1と同様の手法でモノマーA2(異性体混合)の50wt%溶液を得た。
【0152】
(合成例3:モノマーA3)
アミン化合物をブチルアミンからノニルアミンへ変更した以外は合成例1と同様の手法でモノマーA3(異性体混合)の50wt%溶液を得た。
【0153】
(合成例4:モノマーA4)
グリシジルメタクリレートを4-ヒドロキシブチルアクリレートグリシジルエーテル(日本化成株式会社製、商品名:4HBAGE)へ変更した以外は合成例1と同様の手法でモノマーA4(異性体混合)の50wt%溶液を得た。
【0154】
(合成例5:モノマーA5)
グリシジルメタクリレートを3,4-エポキシシクロヘキシルメチルメタアクリレート(株式会社ダイセル製、商品名:サイクロマーM-100)へ変更した以外は合成例1と同様の手法でモノマーA5(異性体混合)の50wt%溶液を得た。
【0155】
(重合例1:共重合体A)
撹拌機、温度計、冷却器、滴下ロート及び窒素導入管を取り付けた1Lセパラブルフラスコに、トルエン350gを仕込み、フラスコ内を窒素置換して、窒素雰囲気下にした。イソブチルメタクリレート(製品名:アクリエステルIB(三菱ケミカル(株)製))137.1g、メチルメタクリレート(製品名:アクリルエステルM(三菱ガス化学(株)製))12.9g、モノマーA1の50%溶液 100.0gを混合したモノマー溶液、及びトルエン50gと2,2‘-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)(製品名:V-65(和光純薬工業(株)製))0.3gを混合した重合開始剤溶液をそれぞれ調製した。
【0156】
反応容器内を75℃まで昇温し、モノマー溶液及び重合開始剤溶液を同時にそれぞれ3時間かけて滴下した。その後、75℃で3時間反応させ共重合体Aのトルエン溶液を得た。
【0157】
(重合例2:共重合体B)
イソブチルメタクリレートの使用量を98.6g、メチルメタクリレートの使用量を11.6g、モノマーA1の50%溶液の使用量を179.7gに変更したこと以外は重合例1と同様の手法で共重合体Bを得た。
【0158】
(重合例3:共重合体C)
イソブチルメタクリレートの使用量を57.9g、メチルメタクリレートの使用量を10.2g、モノマーA1の50%溶液の使用量を263.9gに、2,2‘-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)の使用量を0.7gに変更したこと以外は重合例1と同様の手法で共重合体Cを得た。
【0159】
(重合例4:共重合体D)
イソブチルメタクリレートの使用量を98.2g、メチルメタクリレートの使用量を11.5g、モノマーA1の溶液をモノマーA2の溶液に変え、180.5g使用し、2,2‘-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)の使用量を0.1gに変更したこと以外は重合例1と同様の手法で共重合体Dを得た。
【0160】
(重合例5:共重合体E)
イソブチルメタクリレートの使用量を87.9g、メチルメタクリレートの使用量を10.2g、モノマーA1の溶液をモノマーA3の溶液に変え、203.6g使用したこと以外は重合例1と同様の手法で共重合体Eを得た。
【0161】
(重合例6:共重合体F)
イソブチルメタクリレートの使用量を89.6g、メチルメタクリレートの使用量を10.5g、モノマーA1の溶液をモノマーA4の溶液に変え、199.9g使用したこと以外は重合例1と同様の手法で共重合体Fを得た。
【0162】
(重合例7:共重合体G)
イソブチルメタクリレートの使用量を90.1g、メチルメタクリレートの使用量を10.6g、モノマーA1の溶液をモノマーA5の溶液に変え、198.6g使用したこと以外は重合例1と同様の手法で共重合体Gを得た。
【0163】
(重合例8:共重合体H)
イソブチルメタクリレートの使用量を68.7g、メチルメタクリレートの使用量を12.1g、モノマーA1の溶液の使用量を188.0gに変更し、スチレンを25.2g使用したこと以外は重合例1と同様の手法で共重合体Iを得た。
【0164】
(重合例9:共重合体I)
イソブチルメタクリレートの使用量を86.6g、メチルメタクリレートの使用量を12.2g、モノマーA1の溶液の使用量を189.5gに変更し、アクリロニトリルを6.5g使用したこと以外は重合例1と同様の手法で共重合体Jを得た。
【0165】
(重合例10:共重合体J)
イソブチルメタクリレートの使用量を85.7g、メチルメタクリレートの使用量を12.1g、モノマーA1の溶液の使用量を187.4gに変更し、アクリルアミドを8.6g使用したこと以外は重合例1と同様の手法で共重合体Kを得た。
【0166】
(重合例11:共重合体K)
イソブチルメタクリレートの使用量を182.5g、モノマーA1の溶液の使用量を35.0gに変更したこと以外は重合例1と同様の手法で共重合体Kを得た。
【0167】
(重合例12:共重合体L)
イソブチルメタクリレートの使用量を143.7g、モノマーA1の代わりに2-ヒドロキシエチルメタクリレートを56.3g使用したこと以外は重合例1と同様の手法で共重合体Lを得た。
【0168】
〔重量平均分子量の測定〕
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて以下の条件により、共重合体A~Lの重量平均分子量を求めた。
装置:東ソー(株)社製、HLC-8220
カラム:shodex社製、LF-804
標準物質:ポリスチレン
溶離液:THF(テトラヒドロフラン)
流量:1.0mL/min
カラム温度:40℃
検出器:RI(示差屈折率検出器)
【0169】
〔シート強度の評価〕
チタン酸バリウム粉末(堺化学製:BT-03)100重量部に対し、高分子ポリカルボン酸系分散剤(日油製:マリアリムAKM-0531)を0.8重量部、トルエン18重量部、エタノール18重量部、粒径1mmのジルコニアボール100重量部をボールミルに入れ、8時間混合後、バインダー樹脂を8重量部、トルエン10重量部、エタノール10重量部を加えさらに12時間混合したのち、ジルコニアボールをろ別し、セラミックスラリーを調製した。そして、セラミックスラリーをドクターブレード法によってキャリアシートであるPETフィルム上に厚さ20μmのシート状に塗布後、90℃、10分間乾燥させ、グリーンシートを作製した。作製したグリーンシートを引張試験機にて、引張り速度10mm/minで強度を測定し、5回測定した平均値を使用した。
【0170】
〔柔軟性の評価〕
膜厚10μmの樹脂シートを作成し、直径2mmの棒を軸に180°折り曲げ、元に戻す操作を20回繰り返し、シートの表面状態を目視で確認した。3回行った平均で評価した。
◎: 20回後もクラックは確認できなかった。
○: 10回後はクラックが確認できなかったが、20回後にはクラックが確認された。
×: 1回でクラックが確認された。
【0171】
〔熱分解性の評価〕
共重合体5mgをアルミパンにいれ、TG/DTAにて、空気雰囲気下、昇温速度10℃/分で500℃まで昇温し、サンプルの残存量を測定した。
【0172】
【0173】
【0174】
【0175】
実施例1~10では、シート強度、柔軟性が高くなり、また、加熱残分が少なくなった。
【0176】
比較例1では、モノマー1の比率が10モル%未満であり、加熱残分は少なくなったが、シート強度、柔軟性が低くなった。
比較例2では、本発明のモノマーを含有しない共重合体を用いたが、加熱残分は少なくなったが、シート強度、柔軟性が低くなった。
【0177】
(実験C:導電ペースト用バインダー樹脂)
下記の表9に、モノマー(A)の構造と略号を示す。
【表9】
【0178】
(合成例1:モノマーA1)
撹拌機、温度計、冷却器、滴下ロート及び気体導入管を取り付けた反応装置にグリシジルメタクリレート(日油株式会社製、商品名:ブレンマーG)100部と、触媒として臭化リチウム(和光純薬製)5部と、N-メチル-2-ピロリドン100部とを入れ、撹拌しながら二酸化炭素を連続して吹き込み、100℃にて12時間反応した。ガスクロマトグラフィー(島津製作所製、商品名:GC-2014、カラム DB-1)により、原料であるグリシジルメタクリレートのピークの消失にて反応の進行を確認した。反応終了後、トルエン200部と水200部を入れ、混合した後、静置することで水層を分離した。水層を除去した後、水100部にて3回洗浄した。洗浄した有機層を減圧濃縮することで、5員環カーボネート化合物を合成した。
【0179】
この5員環カーボネート化合物100部に、ジヒドロターピネオール100部を加えた後、冷却し、撹拌しながら5員環カーボネート化合物と当モル量のブチルアミンを内温を10℃以下に制御しながら滴下し、その後2時間撹拌した。ガスクロマトグラフィー(島津製作所製、商品名:商品名:GC-2014、カラム DB-1)により、5員環カーボネート化合物のピークの消失にて、反応の進行を確認した。
【0180】
モノマーA1は、式(1)のY1が式(2)および式(3)構造である異性体混合物として得られ、モノマー濃度を50wt%に調整した後、モノマー溶液としてそのまま重合に用いた。
【0181】
(合成例2:モノマーA2)
アミン化合物をブチルアミンから3-アミノー1-プロパノールへ変更した以外は、合成例1と同様の手法で、モノマーA2(異性体混合)の50wt%溶液を得た。
【0182】
(合成例3:モノマーA3)
アミン化合物をブチルアミンからノニルアミンへ変更した以外は、合成例1と同様の手法で、モノマーA3(異性体混合)の50wt%溶液を得た。
【0183】
(合成例4:モノマーA4)
グリシジルメタクリレートを4-ヒドロキシブチルアクリレートグリシジルエーテル(日本化成株式会社製、商品名:4HBAGE)へ変更した以外は、合成例1と同様の手法で、モノマーA4(異性体混合)の50wt%溶液を得た。
【0184】
(合成例5:モノマーA5)
グリシジルメタクリレートを3,4-エポキシシクロヘキシルメチルメタアクリレート(株式会社ダイセル製、商品名:サイクロマーM-100)へ変更した以外は、合成例1と同様の手法で、モノマーA5(異性体混合)の50wt%溶液を得た。
【0185】
(重合例1:共重合体1)
撹拌機、温度計、冷却器、滴下ロート及び窒素導入管を取り付けた2Lセパラブルフラスコに、ジヒドロターピネオール350gを仕込み、フラスコ内を窒素置換して、窒素雰囲気下にした。イソブチルメタクリレート(製品名:アクリエステルIB 三菱ケミカル(株)製)121.3gと、ブチルアクリレート(日本触媒(株)製)18.3g、モノマーA1の50%溶液 221.0gを混合したモノマー溶液、及びジヒドロターピネオール50gと2,2‘-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)(製品名:V-65 和光純薬工業(株)製)0.5gを混合した重合開始剤溶液をそれぞれ調製した。
【0186】
反応容器内を75℃まで昇温し、モノマー溶液及び重合開始剤溶液を同時にそれぞれ3時間かけて滴下した。その後、75℃で3時間反応させた後、固形分を25%に調整することで共重合体1のジヒドロターピネオール溶液を得た。
【0187】
(重合例2:共重合体2)
モノマー溶液をイソブチルメタクリレート186.5g、ブチルアクリレート21.0g、モノマーA1の50%溶液85.0gに変更したこと以外は重合例1と同様の手法で共重合体2を得た。
【0188】
(重合例3:共重合体3)
モノマー溶液をイソブチルメタクリレート120.8g、ブチルアクリレート18.3g、モノマーA2の50%溶液222.2gに、2,2‘-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)の使用量を1.0gに変更したこと以外は、重合例1と同様の手法で共重合体3を得た。
【0189】
(重合例4:共重合体4)
モノマー溶液をイソブチルメタクリレート108.3g、ブチルアクリレート16.3g、モノマーA3の50%溶液251.0gに、2,2‘-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)の使用量を0.2gに変更したこと以外は、重合例1と同様の手法で共重合体4を得た。
【0190】
(重合例5:共重合体5)
モノマー溶液をイソブチルメタクリレート110.3g、ブチルアクリレート16.5g、モノマーA4の50%溶液246.0gに変更したこと以外は、重合例1と同様の手法で共重合体5を得た。
【0191】
(重合例6:共重合体6)
モノマー溶液をイソブチルメタクリレート111.0g、ブチルアクリレート16.8g、モノマーA5の50%溶液244.5gに変更したこと以外は、重合例1と同様の手法で共重合体6を得た。
【0192】
(重合例7:共重合体7)
モノマー溶液をイソブチルメタクリレート85.0g、メチルメタクリレート((株)クラレ製)30.0g、ブチルアクリレート19.3g、モノマーA1の50%溶液232.0gに変更したこと以外は、重合例1と同様の手法で共重合体7を得た。
【0193】
(重合例8:共重合体8)
モノマー溶液をイソブチルメタクリレート76.0g、2-エチルヘキシルメタクリレート(ライトエステルEH 共栄社化学(株)製)53.0g、ブチルアクリレート17.0g、モノマーA1の50%溶液208.0gに変更したこと以外は、重合例1と同様の手法で共重合体8を得た。
【0194】
(重合例9:共重合体9)
モノマー溶液をイソブチルメタクリレート105.3g、エチルアクリレート(日本触媒(株)製)29.8g、モノマーA1の50%溶液232.0gに変更したこと以外は、重合例1と同様の手法で共重合体9を得た。
【0195】
(重合例10:共重合体10)
モノマー溶液をイソブチルメタクリレート105.3g、ブチルアクリレート14.8g、ジメチルアクリルアミド14.8g、モノマーA1の50%溶液230.5gに変更したこと以外は、重合例1と同様の手法で共重合体10を得た。
【0196】
(重合例11:共重合体11)
モノマー溶液をイソブチルメタクリレート71.3g、ブチルアクリレート16.0g、モノマーA1の50%溶液325.0gに変更したこと以外は、重合例1と同様の手法で共重合体11を得た。
【0197】
(重合例12:共重合体12)
モノマー溶液をイソブチルメタクリレート32.0g、ブチルアクリレート14.5g、モノマーA1の50%溶液407.5gに変更したこと以外は、重合例1と同様の手法で共重合体11を得た。
【0198】
(重合例13:共重合体13)
モノマー溶液をモノマーA1の50%溶液500.0gに変更したこと以外は、重合例1と同様の手法で共重合体13を得た。
【0199】
(重合例14:共重合体14)
モノマー溶液をイソブチルメタクリレートの使用量を241.0g、モノマーA1の50%溶液の使用量を18.0gに変更したこと以外は、重合例1と同様の手法で共重合体11を得た。
【0200】
(重合例15:共重合体15)
イソブチルメタクリレートの使用量を179.5g、2-ヒドロキシエチルメタクリレート70.5gに変更したこと以外は、重合例1と同様の手法で共重合体12を得た。
【0201】
〔重量平均分子量の測定〕
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて以下の条件により、共重合体1~12の重量平均分子量を求めた。
装置:東ソー(株)社製、HLC-8220
カラム:shodex社製、LF-804
標準物質:ポリスチレン
溶離液:THF(テトラヒドロフラン)
流量:1.0ml/min
カラム温度:40℃
検出器:RI(示差屈折率検出器)
【0202】
〔溶解性の評価〕
共重合体溶液をアセトンで希釈し、共重合体濃度20%の希釈溶液を調製した。この希釈溶液を20倍量のヘキサンへ滴下する再沈殿操作をした。上澄みを除去し、沈殿物を80℃で真空乾燥し、共重合体を得た。得られた共重合体1gを19gのジヒドロターピネオールアセテート加え、室温下で1時間撹拌した。撹拌後の外観を目視で評価した。不溶物がみられないものを「○」(良好)、不溶物がみられたものを「×」(不良)とした。
【0203】
〔チキソトロピー性の評価〕
20wt%の共重合体溶液(溶媒 ジヒドロターピネオール)を調製し、レオメーターにて1s-1から1,000s-1の範囲で粘度のせん断速度依存性を測定した。1s-1と1,000s-1のときの粘度の比を、TI値として算出した。
【0204】
〔熱分解性の評価〕
共重合体5mgをアルミパンにいれ、TG/DTAにて、空気雰囲気下、昇温速度10℃/分で500℃まで昇温し、サンプルの残存量を測定した。
【0205】
〔接着性の評価〕
チタン酸バリウム粉末(堺化学製:BT-03)100重量部に対し、高分子ポリカルボン酸系分散剤(日油製:マリアリムAKM-0531)を0.8重量部、トルエン18重量部、エタノール18重量部、粒径1mmのジルコニアボール100重量部をボールミルに入れ、8時間混合後、ポリビニルブチラール(積水化学工業製:エスレックBM-2)8重量部、トルエン10重量部、エタノール重量部を加えさらに12時間混合したのち、ジルコニアボールをろ別し、セラミックスラリーを調製した。そして、セラミックスラリーをドクターブレード法によってキャリアシートであるPETフィルム上に厚さ5μmのシート状に塗布後、90℃、10分間乾燥させ、グリーンシートを作製した。
【0206】
Ni粉(JFEミネラル製:NFP201S)100重量部に対して、オレオイルザルコシン(日油製:エスリーム221P)を1重量部、25%共重合体溶液12重量部、ジヒドロターピネオールを81重量部加える。これらの混合物を遊星式混練機にて攪拌後、3本ロールにて混練しNiペーストを得た。得られたNiペーストをスクリーン印刷にて作製したグリーンシート上に印刷し90℃、10分間乾燥後、その上にさらにグリーンシートを重ね、50℃、100kg/cm2、5秒の条件にて圧着させた。圧着したシートを引張り試験機にて薄離させ、剥離に要した力を測定した。
【0207】
【0208】
【0209】
【0210】
表10、11に示すように、本発明によって、低極性溶剤への溶解性に優れ、さらにチキソトロピー性および熱分解性、接着性に優れた導電ペースト用バインダー樹脂を提供することができた。
【0211】
表12に示すように、比較例1では、モノマーAの量が90モル%を超えているが、溶解性が低い。
比較例2では、モノマーAの量が10モル%未満であり、モノマーBの量が90mol%を超えているが、チキソトロピー性および接着性が低い。
比較例3では、モノマーAが含有されていないが、溶解性、チキソトロピー性、接着性が低かった。
比較例4では、エチルセルロースを用いているが、加熱残分が多く、接着性が低かった。