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特許7378712異種移植用材料の病原体感染を検査する方法、検査キット及び病原体感染が評価された異種移植用材料製品の作成方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-06
(45)【発行日】2023-11-14
(54)【発明の名称】異種移植用材料の病原体感染を検査する方法、検査キット及び病原体感染が評価された異種移植用材料製品の作成方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/686 20180101AFI20231107BHJP
   C12Q 1/6893 20180101ALI20231107BHJP
   C12Q 1/689 20180101ALI20231107BHJP
   C12Q 1/70 20060101ALI20231107BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20231107BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20231107BHJP
【FI】
C12Q1/686 Z ZNA
C12Q1/6893 Z
C12Q1/689 Z
C12Q1/70
C12M1/00 A
C12N15/09 Z
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2019145840
(22)【出願日】2019-08-07
(65)【公開番号】P2021023243
(43)【公開日】2021-02-22
【審査請求日】2022-06-10
(73)【特許権者】
【識別番号】503420833
【氏名又は名称】学校法人常翔学園
(73)【特許権者】
【識別番号】518232087
【氏名又は名称】株式会社ポル・メド・テック
(74)【代理人】
【識別番号】100131705
【弁理士】
【氏名又は名称】新山 雄一
(74)【代理人】
【識別番号】100114292
【弁理士】
【氏名又は名称】来間 清志
(72)【発明者】
【氏名】井上 亮
(72)【発明者】
【氏名】諸岡 晃
【審査官】山本 晋也
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2011/0076673(US,A1)
【文献】特開2019-058168(JP,A)
【文献】特開2010-057495(JP,A)
【文献】Satoko NAKANO et al.,“Establishment of Multiplex Solid-Phase Strip PCR Test for Detectionof 24 Ocular Infectious Disease Pathogens”,InvestigativeOpthalmology &amp; Visual Science,2017年03月10日,Vol. 58, No. 3,p.1553,DOI:10.1167/iovs.16-20556
【文献】Shaun WYNYARD et al.,“Microbiological safety of the first clinical pig isletxenotransplantation trial in New Zealand”,Xenotransplantation,2014年05月07日,Vol. 21, No. 4,p.309-323,DOI: 10.1111/xen.12102
【文献】John RACHLIN et al.,“Computational tradeoffs in multiplex PCR assay design for SNPgenotyping”,BMC Genomics,Vol. 6,No. 1,p. 1-11,DOI: 10.1186/1471-2164-6-102
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q
C12N
C12M
G01N
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/BIOSIS/EMBASE(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2種類以上の細菌と、ウイルス又は原虫とを含む病原体の感染を遺伝子検査する工程を含み、前記2種類以上の細菌の遺伝子検査において、少なくとも2種類の細菌間の共通塩基配列に対するプライマーを用いて細菌の種の特定は行わずに細菌の存否の検出を行う、異種移植用材料の病原体感染を検査する方法。
【請求項2】
前記共通塩基配列は、細菌16S rRNAの保存領域に含まれる配列である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記保存領域が、レプトスピラ属菌、マイコプラズマ属菌、カンピロバクター属菌、エルシニア属菌、大腸菌属菌及びサルモネラ属菌の各々の16S rRNAに少なくとも共通する保存領域である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記保存領域が、可変領域としてV3及びV4可変領域のみを含む領域、又は、可変領域としてV3及びV4可変領域のみを挟み込む複数の保存領域である、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記ウイルス又は原虫による感染の遺伝子検査が、前記ウイルス又は原虫の核酸に選択的に結合するプライマーを用いて、前記感染に係る前記ウイルス又は原虫の種の特定を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記保存領域がV3及びV4領域を含む領域である、請求項2に記載の方法。
【請求項7】
前記2種類以上の細菌の遺伝子検査で用いるプライマー対は1対である、請求項1~のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記2種類以上の細菌の感染の遺伝子検査と、前記ウイルス又は原虫の感染の遺伝子検査とを、同一のサーマルサイクル条件のPCR法により行い、かつ使用する全プライマーの融解温度差が15℃以下である、請求項1~のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記病原体感染が、人獣共通感染症の原因となる感染である、請求項1~のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
ウイルスによる感染を遺伝子検査する前記工程が、5種類以上のウイルスによる感染を、各々のウイルスの核酸に選択的に結合するプライマー対を用いてPCR法により検査する工程であり、又は
原虫による感染を遺伝子検査する前記工程が、2種類以上の原虫による感染を、各々の原虫の核酸に選択的に結合するプライマー対を用いてPCR法により検査する工程である、請求項1~のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記異種移植用材料が、ブタ由来の異種移植用材料である、請求項1~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記ウイルスが、ブタ繁殖・呼吸障害症候群ウイルス、ブタサーコウイルス2型、ブタインフルエンザウイルスH1N1型、ブタリンパ球向性ヘルペスウイルス、ブタサイトメガロウイルス及びE型肝炎ウイルスを含み、又は前記原虫がトキソプラズマを含む、請求項1~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
少なくとも2種類の細菌間の共通塩基配列に対するプライマーと、少なくとも1種類のウイルス又は原虫の核酸に選択的に結合するプライマーとを含む、異種移植用材料の病原体感染を検査するためのキットであって、前記少なくとも2種類の細菌の遺伝子検査については細菌の種の特定は行わずに細菌の存否の検出を行うための、前記キット
【請求項14】
少なくとも2種類の細菌間の共通塩基配列に対するプライマーと、少なくとも1種類のウイルス又は原虫の核酸に選択的に結合するプライマーとを含む検査キットであって、
前記共通塩基配列は、細菌16S rRNAの保存領域に含まれる配列であり、
前記保存領域が、レプトスピラ属菌、マイコプラズマ属菌、カンピロバクター属菌、エルシニア属菌、大腸菌属菌及びサルモネラ属菌の各々の16S rRNAに少なくとも共通する保存領域であり、前記少なくとも2種類の細菌の遺伝子検査については細菌の種の特定は行わずに細菌の存否の検出を行うための、前記検査キット
【請求項15】
少なくとも2種類の細菌間の共通塩基配列に対するプライマーと、少なくとも1種類のウイルス又は原虫の核酸に選択的に結合するプライマーとを含む検査キットであって、
前記共通塩基配列は、細菌16S rRNAの保存領域に含まれる配列であり、
前記保存領域が、可変領域としてV3及びV4可変領域のみを含む領域、又は、可変領域としてV3及びV4可変領域のみを挟み込む複数の保存領域であり、前記少なくとも2種類の細菌の遺伝子検査については細菌の種の特定は行わずに細菌の存否の検出を行うための、前記検査キット
【請求項16】
請求項1~12のいずれか1項に記載の方法を実施する工程を含む、病原体感染が評価された異種移植用材料製品の作成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数種の病原体検査を簡便に行うことができる異種移植用材料の病原体感染を検査する方法、検査キット及び病原体感染が評価された異種移植用材料製品の作成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
異種移植の動物種としては、ヒト以外の哺乳類(例えば、ブタ、ウシ、霊長類等)が挙げられるが感染症リスクが伴う。異種移植ドナーとして最も研究が進んでいる動物種はブタであるが、ブタは感染症に罹患しやすい。例えば、ブタサーコウイルス関連疾患(PCVAD)、ブタ生殖器・呼吸器症候群(PRRS)、ブタ流行性下痢(PED)、ブタコレラなどの感染症は世界中のブタの個体数に深刻な影響を及ぼすほどである。
【0003】
異種移植ドナーとして最も研究が進んでいるブタに関し、異種移植のドナーとなるのはDPF(Designated Pathogen Free)ブタと呼ばれる、閉鎖系のよく管理された環境において、医療用として飼育された感染症、特に人獣共通感染症のリスクを排除したブタが多い。
ニュージーランド、アメリカ等では既にDPFブタが確立され、企業ベースで運用されている(例えば、非特許文献1及び2)。
例えば、ニュージーランドでのDPFブタの検査対象病原体数は27種類であり、10種の病原菌、15種のウイルス、1種の原虫の病原体検査が定期的(対象病原体により1年に1回又は4回)に行われており、同国において、上記病原体検出方法はELISA、PCR(ポリメラーゼ連鎖反応;real-time PCRを含む)が中心である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Wynyard S,Nathu D,Garkavenko O, et al.Microbiological safety of the first clinical pig islet xenotransplantation trial in New Zealand. Xenotransplantation 2014;21:309‐323.
【文献】Fishman JA. Infectious disease risks in xenotransplantation.Am J Transplant.2018;18:1857-1864.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のような異種移植用動物(例えば、ブタ、ウシ、霊長類等)に関する複数種類の病原体(例えば、複数種類の細菌、ウイルス、原虫)感染を検査するに際し、個々の病原体毎にPCR等により検査するのでは、手間、時間及び費用を要し検査の実用性としては現実的ではなく、複数種類の病原体感染を、できるだけ少ない回数で検査し得る手法が求められる。
【0006】
例えば、PCR法により複数種類の病原体感染を、できるだけ少ない回数で検査する場合、同一のPCR反応に使う各プライマーの融解温度(Tm値)が、PCRにおけるアニーリング工程との相関性の観点から所定の差に収まるように設計すること等が要求される。
しかし、上述のように、検査対象の病原体の種類が増えるほど、同一のPCR反応に使う各プライマーの融解温度(Tm値)が所定の差に収まるように設計することは困難になってくる。
【0007】
本発明は、このような従来技術の実情に鑑みてなされたものであり、複数種類の病原体検査を簡便に行うことができる異種移植用材料の病原体感染を検査する方法、検査キット及び病原体感染が評価された異種移植用材料製品の作成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
異種移植用材料の病原体感染検査において、ウイルスや原虫は検出される種が重要なのに対し、細菌は種類いかんを問わず感染した時点で、その異種移植用材料は移植材料としては忌避すべきことに、本発明者らは着目した。
そこで、本発明者らは、少なくとも2種類の細菌間の共通塩基配列に対するプライマーを用い、細菌の種の特定ではなく存否の検出にフォーカスすることにより、検査を簡便化し得ることを見出した。本発明は、上記知見に基づき完成されるに至ったものである。
すなわち本発明は以下の通りである。
【0009】
<1>2種類以上の細菌と、ウイルス又は原虫とを含む病原体の感染を遺伝子検査する工程を含み、前記2種類以上の細菌の遺伝子検査において、少なくとも2種類の細菌間の共通塩基配列に対するプライマーを用いる、異種移植用材料の病原体感染を検査する方法。
<2>前記共通塩基配列は、細菌16S rRNAの保存領域に含まれる配列である、<1>に記載の方法。
<3>前記保存領域が、レプトスピラ属菌、マイコプラズマ属菌、カンピロバクター属菌、エルシニア属菌、大腸菌属菌及びサルモネラ属菌の各々の16S rRNAに少なくとも共通する保存領域である、<2>に記載の方法。
<4>前記保存領域がV3及びV4領域を含む領域である、<2>に記載の方法。
<5>前記2種類以上の細菌の遺伝子検査で用いるプライマー対は1対である、<1>~<4>のいずれか1項に記載の方法。
<6>前記2種類以上の細菌の感染の遺伝子検査と、前記ウイルス又は原虫の感染の遺伝子検査とを、同一のサーマルサイクル条件のPCR法により行い、かつ使用する全プライマーの融解温度差が15℃以下である、<1>~<5>のいずれか1項に記載の方法。
<7>前記病原体感染が、人獣共通感染症の原因となる感染である、<1>~<6>のいずれか1項に記載の方法。
<8>ウイルスによる感染を遺伝子検査する前記工程が、5種類以上のウイルスによる感染を、各々のウイルスの核酸に選択的に結合するプライマー対を用いてPCR法により検査する工程であり、又は
原虫による感染を遺伝子検査する前記工程が、2種類以上の原虫による感染を、各々の原虫の核酸に選択的に結合するプライマー対を用いてPCR法により検査する工程である、<1>~<7>のいずれか1項に記載の方法。
<9>
前記異種移植用材料が、ブタ由来の異種移植用材料である、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
<10>前記ウイルスが、ブタ繁殖・呼吸障害症候群ウイルス、ブタサーコウイルス2型、ブタインフルエンザウイルスH1N1型、ブタリンパ球向性ヘルペスウイルス、ブタサイトメガロウイルス及びE型肝炎ウイルスを含み、又は前記原虫がトキソプラズマを含む、<1>~<9>のいずれか1項に記載の方法。
<11>少なくとも2種類の細菌間の共通塩基配列に対するプライマーと、少なくとも1種類のウイルス又は原虫の核酸に選択的に結合するプライマーとを含む検査キット。
<12>上記<1>~<10>のいずれか1項に記載の方法を実施する工程を含む、病原体感染が評価された異種移植用材料製品の作成方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、複数種の病原体検査を簡便に行うことができる異種移植用材料の病原体感染を検査する方法、検査キット及び病原体感染が評価された異種移植用材料製品の作成方法を提供し得る。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】Standard PCR(図1(A))、Nested PCR(図1(B))による検出対象の15種のウイルスのPCR産物電気泳動結果を示す図である。
図2】臨床検体を使ったPCR検査系の評価による病原体検出結果を示す図である。
図3】特定のプライマーを用いたサイトメガロウイルスのPCR産物電気泳動結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施態様について詳細に説明するが、本発明は、以下の実施態様に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0013】
≪異種移植用材料の病原体感染を検査する方法≫
本発明の第1の態様は、2種類以上の細菌と、ウイルス又は原虫とを含む病原体の感染を遺伝子検査する工程を含み、上記2種類以上の細菌の遺伝子検査において、少なくとも2種類の細菌間の共通塩基配列に対するプライマーを用いる、異種移植用材料の病原体感染を検査する方法である。
第1の態様は、個々の病原体毎に異なるプライマーセット(以下、「プライマー対」ともいう。;Forwardプライマー(Fプライマー)及びReverseプライマー(Rプライマー)の対)を用いて同様の検査作業を行う重複的な作業を、少なくとも2種類の細菌間の共通塩基配列に対するプライマーを用いることにより少なくとも低減し得る。
上記2種類以上の細菌の遺伝子検査する工程、及び上記ウイルス又は原虫の遺伝子検査する工程はいずれもPCR法により検査する工程であることが好ましい。
【0014】
本発明において、PCR法は、標準的なPCR法(standardPCR)であってもなくてもよく、RNAウイルス(インフルエンザウイルス等)を検出する観点から、RNAを鋳型とし、逆転写酵素によって、一旦、相補的なcDNA合成してからPCRを行う、いわゆるRT-PCR法であってもなくてもよい。
また、PCR法は、定量性を高める観点から、リアルタイムPCR法(real-time PCR)であってもなくてもよい。
更に、PCR法は、特異性及び収率を向上させる等の観点からネステッドPCR法(nested PCR)等の変法であってもなくてもよい。
【0015】
検査対象である異種移植用材料としては、任意の異種移植用動物由来の材料が挙げられ、異種移植用動物としては、ブタ、ウシ、ヒツジ、霊長類(例えば、チンパンジー、サル)等が挙げられ、ブタが好ましい。
上記異種移植用材料としては、例えば、臓器(肝臓、腎臓、膵臓、心臓等)、血液、尿、汗等が挙げられ、臓器又は血液が好ましい。
上記異種移植用動物としては特に制限はなく、野生型であっても、閉鎖系のよく管理された環境において、医療用として飼育された感染症、特に人獣共通感染症のリスクを排除した動物(例えば、ブタの場合DPFブタ)であってもよい。上記DPFブタとしては、UiR法にて飼育されたブタが挙げられる。
【0016】
第1の態様において、遺伝子検査される細菌の種類としては、2種類以上である限り特に制限はなく、5種類以上が好ましく、10種類以上がより好ましく、15種類以上が更に好ましい。
遺伝子検査される細菌の種類の上限値としては特に制限はないが、例えば、細菌100種類以下、細菌80種類以下である。
上記遺伝子検査される細菌全種類のうち、上記少なくとも2種類の細菌間の共通塩基配列に対するプライマーを用いて遺伝子検査される細菌の種類が50%以上を占めることが好ましく、70%以上を占めることがより好ましく、90%以上を占めることが更に好ましい。
上記2種類以上の細菌の遺伝子検査で用いるプライマーは少なくとも2種類の細菌間の共通塩基配列に対する配列を含む限り特に制限されず、例えば、上記配列に加えて任意の他の配列を含むものであり得る。上記プライマーの塩基長としても、少なくとも2種類の細菌間の共通塩基配列と選択的に結合し得るというプライマーとしての機能を発揮する程度の長さであれば特に制限されず、例えば、10~50塩基の長さが挙げられ、12~40塩基の長さが好ましく、15~30塩基の長さがより好ましい。
上記2種類以上の細菌の遺伝子検査で用いるプライマーは、2対以上(例えば、2対、3対、4対、・・・・・10対)のプライマー対であってもよいが、検査の煩雑性を回避する観点から、1対のプライマー対であることが好ましい。
上記2種類以上の細菌の遺伝子検査で用いるプライマーとしては、少なくとも2種類の細菌間の共通塩基配列に対するプライマーの他に、他の細菌(例えば、上記共通塩基配列を有さない細菌)を検出するために、上記他の細菌の核酸に選択的に結合するプライマーを併用してもしなくてもよい。
【0017】
上記2種類以上の細菌の遺伝子検査で用いるプライマーのTm値としては、ゲノム遺伝子(例えば、ブタゲノム遺伝子)等との非特異的アニーリングを回避する観点から、50℃以上であることが好ましく、55℃以上であることがより好ましい。
また、プライマーのTm値の上限値としては特に制限はないが、例えば、80℃以下であり、好ましくは75℃以下である。
上記少なくとも2種類の細菌間の共通塩基配列に対するプライマーは、3種類以上の細菌間の共通塩基配列に対するプライマーが好ましく、5種類以上の細菌間の共通塩基配列に対するプライマーがより好ましく、10種類以上の細菌間の共通塩基配列に対するプライマーが更に好ましく、15種類以上の細菌間の共通塩基配列に対するプライマーが特に好ましく、20種類以上の細菌間の共通塩基配列に対するプライマーが最も好ましい。
上限値としては特に制限はないが、例えば、細菌100種類以下、細菌80種類以下である。
【0018】
16SリボソームRNA(rRNA)は全ての細菌が共有し得る。16SrRNAは細菌種を超えて保存性が高い領域(例えば、保存領域C1~C9)を有する。
上記共通塩基配列は、本発明の効果をより確実に達成する観点から細菌16S rRNAの保存領域に含まれる配列が好ましい。
複数の細菌間で保存性が高い観点から、上記保存領域がV3及びV4可変領域を含む領域(又は挟み込む複数の領域)であることが好ましい。
V3及びV4可変領域を含む領域に対するプライマー対として下記を例示するが本発明におけるプライマー対としてはこれらに限定されない。
341F:5’-CCTACGGGNGGCWGCAG-3’(配列番号1)
805R:5’-GACTACHVGGGTATCTAATCC-3’(配列番号2)
【0019】
2種類以上の細菌と、ウイルス又は原虫とを含む病原体である検査対象は、2種類以上の細菌と、ウイルス及び原虫の両方とを含む病原体が好ましい。
また、検査対象として、トリコフィトン属他皮膚糸状菌等の真菌類も含んでいてもいなくてもよい。
検査対象となる細菌、ウイルス、及び原虫としては、人獣共通感染症、動物感染症(例えば、ブタ感染症)又はヒト感染症の原因となる細菌、ウイルス、及び原虫が挙げられ、人獣共通感染症の原因となる細菌、ウイルス、及び原虫が好ましい。
検査対象となる上記少なくとも2種類の細菌の例としては、下記具体例から選択される少なくとも2種類の細菌が挙げられる。
具体例:エルシニア菌、気管支敗血症菌、クロストリジウム、結核(ヒト型、ウシ型、鳥型)、サルモネラ、大腸菌、炭疽菌、ブタ丹毒菌、パスツレラ菌、ブタ赤痢菌、ヘモフィルス菌、ブドウ球菌、ブルセラ菌、ヘモパルトネラ、マイコプラズマ、リステリア菌、アクチノバチルス菌、連鎖球菌、緑膿菌、ブタアクチノミセス、キャンピロバクター属、アクチノバチルス属、クラミジア、コクシエラ、ローソニア、レプトスピラ(レプトピラ)、ブタペロスロゾーン。
【0020】
上記少なくとも2種類の細菌としては、レプトスピラ属菌、マイコプラズマ属菌、カンピロバクター属菌、エルシニア属菌、大腸菌属菌及びサルモネラ属菌よりなる群から選択される少なくとも2種類が好ましく、上記保存領域が、レプトスピラ属菌、マイコプラズマ属菌、カンピロバクター属菌、エルシニア属菌、大腸菌属菌及びサルモネラ属菌の各々の16SrRNAに少なくとも共通する保存領域が好ましい。
【0021】
検査対象となるウイルスとして、具体的には、ブタサーコウイルス1型、ブタサーコウイルス2型、ブタリンパ球向性ヘルペスウイルス1型、ブタリンパ球向性ヘルペスウイルス2型、ブタサイトメガロウイルス、脳心筋炎ウイルス、ブタパルボウイルス、ブタロタウイルスA、ブタロタウイルスBアメリカ型、ブタロタウイルスBベトナム型、ブタロタウイルスC、哺乳類レオウイルス、ブタエンテロウイルス、ブタ赤血球凝集性脳脊髄炎ウイルス、ブタ繁殖・呼吸障害症候群ウイルス、E型肝炎ウイルス、ブタ伝染性胃腸炎ウイルス、ブタインフルエンザウイルスH1N1型、ブタインフルエンザウイルスH3N2型、ブタ呼吸器コロナウイルス、ブタコレラウイルス、ブタポックスウイルス、アフリカトンコレラウイルス、オーエスキー病ウイルス、ゲタウイルス、日本脳炎ウイルス、ブタ流行性下痢ウイルス、ブタ水疱病ウイルス、ブタ水疱疹ウイルス、水疱性口炎ウイルスnew jersey、水疱性口炎ウイルスindiana、口蹄疫ウイルス、狂犬病ウイルス1、狂犬病ウイルス2、狂犬病ウイルス3、狂犬病ウイルス4、狂犬病ウイルス5、狂犬病ウイルス6、狂犬病ウイルス7、ブタアデノウイルス、ブタアストロウイルス1、ブタアストロウイルス2、ブタアストロウイルス3、ブタアストロウイルス4、ブタアストロウイルス5、メナングルウイルス、ニパウイルス、ハンタウイルス、東部ウマ脳炎ウイルス1、東部ウマ脳炎ウイルス2、東部ウマ脳炎ウイルス3、東部ウマ脳炎ウイルス4、西部ウマ脳炎ウイルス、ベネズエラウマ脳炎ウイルス、ボルナウイルス、アポイウイルス、ポリオーマウイルス、ウシウイルス性下痢ウイルス1型、ウシウイルス性下痢ウイルス2型、ウシウイルス性下痢ウイルス3型、ウシ伝染性鼻気管支炎ウイルス、ブタトルクテノウイルス1型、ブタトルクテノウイルス2型、サポウイルス3型、サポウイルス6型、サポウイルス7a型、サポウイルス7b型、サポウイルス7c型、サポウイルス8型、サポウイルス9型、サポウイルス10型、ノロウイルスA型、ノロウイルスB型、ブタルブラウイルス、カリシウイルス、スピューマウイルス、ブタγヘルペスウイルス、ブタ内在性レトロウルスが挙げられるが、病原性が低い観点から、ブタ内在性レトロウルスは検査対象に含んでいなくてもよい。
検査対象となるウイルスとして、ブタ繁殖・呼吸障害症候群ウイルス、ブタサーコウイルス2型、ブタインフルエンザウイルスH1N1型、ブタリンパ球向性ヘルペスウイルス、ブタサイトメガロウイルス及びE型肝炎ウイルスを少なくとも含むことが好ましい。
【0022】
検査対象となる原虫として、具体的には、トキソプラズマ、コクシジウム、パランチジウム、クリプトスポリジウム、サルコシスティス、バベシア、トリパノソーマ属、ブタ回虫、トキソカラ、エキノコッカス、紅色毛様線虫、蛭状鉤頭虫、肺虫、糞線虫、有鉤条虫、繊毛虫、毛様線虫、ブタ鞭虫、その他外部寄生虫が挙げられ、検査対象となる原虫としてトキソプラズマを少なくとも含むことが好ましい。
【0023】
上記ウイルス又は原虫の遺伝子検査する工程は、少なくとも1種類のウイルス又は原虫各々の核酸(DNA、RNA等)に選択的に(好ましくは特異的に)結合するプライマー対を用いてPCR法により検査する工程であることが好ましい。
上記少なくとも1種類のウイルス又は原虫各々の核酸に選択的に結合するプライマーは特に制限されず、例えば、上記選択的に結合する配列に加えて任意の他の配列を含むものであり得る。上記プライマーの塩基長としても、上記少なくとも1種類のウイルス又は原虫各々の核酸に選択的に結合し得るというプライマーとしての機能を発揮する程度の長さであれば特に制限されず、例えば、10~50塩基の長さが挙げられ、12~40塩基の長さが好ましく、15~30塩基の長さがより好ましい。
上記プライマーのTm値としては、ゲノム遺伝子(例えば、ブタゲノム遺伝子)等との非特異的アニーリングを回避する観点から、50℃以上であることが好ましく、55℃以上であることがより好ましい。
また、プライマーのTm値の上限値としては特に制限はないが、例えば、80℃以下であり、好ましくは75℃以下である。
また、上記細菌の感染の検査及び上記ウイルス又は原虫の感染の検査に使用する使用する全プライマーの融解温度差が25℃以下(より好ましくは20℃以下、更に好ましくは15℃以下、特に好ましくは12℃以下)であることが好ましい。
全プライマーの融解温度差は小さければ小さいほど好ましく、融解温度差の下限値としては特に制限はないが、例えば、10℃以上、8℃以上、6℃以上、5℃以上、3℃以上、1℃以上等が挙げられ、理想的には0℃である。
【0024】
少なくとも1種類以上のウイルスによる感染を遺伝子検査する前記工程が、5種類以上(好ましくは10種類以上、より好ましくは20種類以上、更に好ましくは25種類以上)のウイルスによる感染を、各々のウイルスの核酸に選択的に結合するプライマー対を用いてPCR法により検査する工程であることが好ましい。
ウイルスの種類の上限値としては特に制限はないが、例えば、100種類以下、50種類以下である。
また、少なくとも1種類以上の原虫による感染を遺伝子検査する前記工程が、2種類以上(好ましくは3種類以上)の原虫による感染を、各々の原虫の核酸に選択的に結合するプライマー対を用いてPCR法により検査する工程であることが好ましい。
原虫の種類の上限値としては特に制限はないが、例えば、10種類以下、5種類以下である。
【0025】
ウイルスの核酸に選択的に結合するプライマー対として下記を例示するが本発明におけるプライマー対としてはこれらに限定されない。
(ブタ繁殖・呼吸障害症候群ウイルスに対するプライマー対)
F:5’-CACTGTGGAGTTTAGTTTGC-3’(配列番号3)
R:5’-CACACGGTCGCCCTAATTGAATA-3’(配列番号4)
(ブタサーコウイルス(2型)に対するプライマー対)
F:5’-CCAGGAGGGCGTTGTGACT-3’(配列番号5)
R:5’-CGCTACCGTTGGAGAAGGAA-3’(配列番号6)
(ブタインフルエンザウイルス(H1N1型)に対するプライマー対)
F:5’-AGGATTTGTGTTCACGCTCA-3’(配列番号7)
R:5’-GCATTTTGGACAAAGCGTCT-3’(配列番号8)
(ブタリンパ球向性ヘルペスウイルス(1,2型)に対するプライマー対)
F:5’-AGGACCTGCATAAGTATCCTCAA-3’(配列番号9)
R:5’-CAGGGCCAGAACTAATCAAAA-3’(配列番号10)
(ブタサイトメガロウイルスに対するプライマー対)
F:5’-AATGCGTTTTACGGCTTCAC-3’(配列番号11)
R:5’-ACGCCGCTAGAGGGAGAC-3’(配列番号12)
(E型肝炎ウイルス(ORF1)に対するプライマー対(非特許文献1参照))
F:5’-CTGGCATYACTACTGCYATTGAGC-3’(配列番号13)
R:5’-CCATCRARRCAGTAAGTGCGGTC-3’(配列番号14)
【0026】
原虫の核酸に選択的に結合するプライマー対として下記を例示するが本発明におけるプライマー対としてはこれらに限定されない。
(トキソプラズマ ゴンデイに対するプライマー対)
F:5’-CTAGGGCACCCTTACTGCAA-3’(配列番号15)
R:5’-CTGCTGGATCTCTTCCCTTG-3’(配列番号16)
【0027】
上記2種類以上の細菌の遺伝子検査する工程、及び上記ウイルス又は原虫の遺伝子検査する工程において、上記2種類以上の細菌による感染の検出、ウイルス又は原虫による感染の検出としては上記2種類以上の細菌の核酸、ウイルス又は原虫の核酸が統計的に有意に検出されれば特に制限はない。例えば、対照と対比して、上記核酸が1.1倍以上検出されることが挙げられ、1.2倍以上検出されることが好ましく、1.5倍以上検出されることがより好ましい。
上記核酸の検出の上限値としては特に制限はないが、例えば、10倍以下が挙げられる。
上記対照としては、ウイルス感染前の動物(例えば、ブタ)から得られた測定値であっても、予め健常動物(例えば、健常ブタ)の検体群から収集して得られた統計的な値ないし範囲であってもよい。
【0028】
上記感染の検出は、標識物質(例えば、標識抗体)における測定される標識の強度(例えば、吸光度、酵素標識強度、蛍光強度、紫外線強度、放射線強度等)に基づいていてもいなくてもよい。
【0029】
上記2種類以上の細菌の遺伝子検査する工程、及び上記ウイルス又は原虫の遺伝子検査する工程において、PCRのサーマルサイクル条件(例えば、温度、時間、サイクル数等)としては特に制限されず、当業界における技術常識を勘案して、二本鎖核酸を一本鎖化する変性反応、アニーリング反応及びDNAポリメラーゼなどの核酸合成酵素による核酸伸長反応が生じる温度及び時間を適宜設定し、これらの反応を数十サイクル繰り返すことにより実施することができる。
変性反応条件としては特に制限されず、例えば、標的核酸を90℃~100℃で数十秒~数分間に加熱する反応が挙げられる。
プライマーと標的核酸とがハイブリダイズするような条件下でプライマー及び標的核酸をおく反応であるアニーリング反応としても特に制限されないが、例えば、変性反応の後、例えば、急速に冷却して50℃~70℃(好ましくは、52℃~65℃)に数十秒間~数分間おく反応であることができる。
【0030】
核酸伸長反応としても特に制限されず、例えば、DNAポリメラーゼなどの核酸合成酵素を用い、該核酸合成酵素の酵素活性に適した温度で実施する反応をいうことができる。
【0031】
上記2種類以上の細菌の遺伝子検査する工程、及び上記ウイルス又は原虫の遺伝子検査する工程はできるだけ少ない回数で検査を行う観点から同時に行うことが好ましい。
できるだけ少ない回数で検査を行う観点から、上記2種類以上の細菌の感染の遺伝子検査と、上記ウイルス又は原虫の感染の遺伝子検査とを、同一のサーマルサイクル条件のPCR法により行うことが好ましい。また、上記細菌の感染の検査及び上記ウイルス又は原虫の感染の検査に使用する使用する全プライマーの融解温度差が25℃以下(より好ましくは20℃以下、更に好ましくは15℃以下、特に好ましくは12℃以下)であることが好ましい。
全プライマーの融解温度差は小さければ小さいほど好ましく、融解温度差の下限値としては特に制限はないが、例えば、10℃以上、8℃以上、6℃以上、5℃以上、3℃以上、1℃以上等が挙げられ、理想的には0℃である。
第1の態様に係る検査方法を実施する時期、及び頻度等としては特に制限はない。
【0032】
≪検査キット≫
本発明の第2の態様は、少なくとも2種類の細菌間の共通塩基配列に対するプライマーと、少なくとも1種類のウイルス又は原虫の核酸に選択的に結合するプライマーとを含む検査キットである。
上記少なくとも2種類の細菌間の共通塩基配列に対するプライマーの具体例、及び好ましい例としては、第1の態様において前述したプライマーと同様のものが挙げられる。
少なくとも1種類のウイルス又は原虫の核酸に選択的に結合するプライマーの具体例、及び好ましい例としては、第1の態様において前述したプライマーと同様のものが挙げられる。
第2の態様に係る検査キットは、DNAポリメラーゼ、dNTP、PCR反応用緩衝液等のPCRを行うための任意の成分を含んでいてもいなくてもよい。
また、第2の態様に係る検査キットは、上記各成分を含み得るような容器も含み得る。
第2の態様に係る検査キットにおいて、上記少なくとも2種類の細菌間の共通塩基配列に対するプライマーと、上記少なくとも1種類のウイルス又は原虫の核酸に選択的に結合するプライマーとが任意の基板(例えば、プラスチック基板)上に(好ましくはアレイ状に)固定されたキットであってもなくてもよい。
【0033】
≪病原体感染が評価された異種移植用材料製品の作成方法≫
本発明の第3の態様は、第1の態様に係る検査方法を実施する工程を含む、病原体感染が評価された異種移植用材料製品の作成方法である。
上記工程により、細菌、ウイルス又は原虫を含む病原体の感染が検出された材料は、異種移植用材料製品として使用できないと評価し、上記工程により、細菌、ウイルス又は原虫を含む病原体の感染が検出されなかった材料を、異種移植用材料製品として使用し得ると評価し得る。
異種移植用材料製品としては、臓器(肝臓、腎臓、膵臓、心臓等)製品、血液製品、尿製品、汗製品等が挙げられ、臓器製品又は血液製品が好ましい。
第2の態様により得られた異種移植用材料製品は、病原体感染のリスクが低減されており、異種移植に好適に使用し得る。
【実施例
【0034】
以下に本発明の実施例を示し、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲内で種々の応用が可能である。
【0035】
<1.PCRによる病原体の検出系の確立>
(1.1.プライマー)
【表1-1】
【表1-2】
【0036】
ウイルス及び原虫については上記表1に示す各病原体に特異的なプライマーを使用した。上記各プライマーのTm値は60~75℃の範囲に含まれる。
上記表中、「使用するPCRの反応組成及び条件」は、後記の表2及び3に対応する。
上記表中、特異性及び収率を向上させるためのネステッドPCRにおける2ndPCRに使用したF及びRプライマーは、それぞれ、nested F及びRとして表記した。
上記表中の「陽性対照」については以下の通りである。
A:標的とする病原体から抽出した核酸
B:日生研PED生ワクチン(日生研株式会社製)から抽出した核酸
C:豚死産3種混合生ワクチン(株式会社微生物科学研究所製)から抽出した核酸
D:人工合成DNA
【0037】
細菌については16SrRNA遺伝子の保存領域を対象としたユニバーサルプライマー(配列番号1及び2)を使用することで全ての細菌を対象とした。

本実施例で使用する上記特異的プライマーは、以下の2つを満たすことを採用の条件とした。
条件1:目的の病原体の単独株ではなく、複数の株を広くカバーすること
Genbankから標的病原体の全ゲノム及びプライマーの標的となる遺伝子を50配列前後取得し、アライメントをCLC Main Workbench(QIAGEN社製)を用いて行った後、プライマーが全ての配列に対して最大でも3塩基以内のミスマッチに収まることを確認した。
なお、Genbankへの登録数が50以下の病原体に関しては全ての登録データを取得した。
条件2:目的の病原体に対する特異性が高いこと
Basic Local Alignment Search Tool(BLAST(登録商標))(National Institutes of Health製)を用い、プライマーが目的の病原体以外の遺伝子及びブタの遺伝子には相同性を示さないことを確認した。
特異的プライマーは、原則として既報のものを優先して採用し、上記の2つの条件を満たさない場合には、上記のアラインメントの中で株間の保存性が高い領域のコンセンサス配列を選抜し、ウェブベースのプライマー作成ソフトであるUniversal Probe Library Assay Design Center(Roche社製)に導入して設計した。
【0038】
(1.2.PCRの陽性対照)
上記表1に示す陽性対照としては、下記優先度にていずれかを使用した。
(1)標的とする病原体から抽出した核酸
(2)標的とする病原体に対する市販生ワクチンから抽出した核酸
(3)人工合成DNA
【0039】
標的とする病原体の核酸を陽性対照として用いたウイルスは、ブタ繁殖・呼吸障害症候群ウイルス、ブタサーコウイルス(2型)、ブタインフルエンザウイルス(H1N1型)であり、いずれもRNAウイルスである。
陽性対照として使用するため、一般農場にて獣医師が当該病原体陽性感染の可能性ありと判断したブタの血漿からQIAamp Viral RNA kit(QIAGEN社製)を用い、キット付属のプロトコルに準拠してRNAを抽出した。ただし、RNA抽出時にキャリアRNAは使用しなかった。
【0040】
cDNAはSuperScript(登録商標)II Reverse Transcriptase(Thermo Fisher Scientific社製)を用いて合成した。Random Primers(Thermo Fisher Scientific社製)1.5μl、2.5mM dNTP Mix4μl、RNA(250ng/μl)1μl、Nuclease Free Water(NFW)5.5μlを添加した12μlの反応液を作製した。65℃で5分間静置し、すぐ氷上に移動させた。その後の操作は、キット付属のプロトコルに準拠して行った。このcDNAを用いて、既報に示す方法でPCR増幅を行い(Inoue R,Tsukahara T,Sunaba C,et al.:2007,Simple and rapid detection of the porcine reproductive and respiratory syndrome virus from pig whole blood using filter paper.J Virol Methods 141:102‐106.、Olvera A,Sibila M,Calsamiglia M,et al.:2004,Comparison of porcine circovirus type 2 load in serum quantified by a real time PCR in postweaning multisystemic wasting syndrome and porcine dermatitis and nephropathy syndrome naturally affected pigs.J Virol Methods 117:75‐80.)、シーケンス解析で塩基配列を確認後、このcDNAを陽性対照として使用した。
なお、ブタインフルエンザウイルス(H1N1型)では、LightCycler(登録商標)480 Probes Master5μl、プローブ#104(Roche社製)0.1μl、10μMの上記表1に示す特異的プライマーセット各0.4μl、NFW3.1μl、鋳型核酸1μlの計10μlの反応液を混合し、その他は上記に示した他の病原体と同様に行った。
【0041】
細菌については、Competent Quick DH5α(Green Cap)(TOYOBO社製)から、Quick Gene DNA tissue kit S (KURABO社製)を用いて抽出したDNAを用いた。
市販生ワクチンからのRNA抽出及びcDNA作製は、上記と同様の方法で行った。
【0042】
人工合成DNA作製は、上記(1.1.プライマー)項で述べたコンセンサス配列のプライマーの対象領域に上下約30bpを加えた配列を、gBlocks(登録商標)Gene Fragments(INTEGRATED DNA TECHNOLOGIES社製)として合成した。各病原体(アポイウイルス、E型肝炎ウイルス(ORF1)、E型肝炎ウイルス(ORF2)、ウシウイルス性下痢ウイルス(1型)、ウシウイルス性下痢ウイルス(2型)、ウシウイルス性下痢ウイルス(3型)、狂犬病ウイルス(4型)、狂犬病ウイルス(5型)、狂犬病ウイルス(6型)、狂犬病ウイルス(7型)、口蹄疫ウイルス、呼吸器コロナウイルス、サポウイルス(3型)、サポウイルス(6型)、サポウイルス(7A型)、サポウイルス(7B型)、サポウイルス(7C型)、サポウイルス(8型)、サポウイルス(9型)、サポウイルス(10型)、水疱性口炎ウイルス(ニュージャージー型)、西部ウマ脳炎ウイルス、赤血球凝集性脳脊髄炎ウイルス、トンコレラウイルス、ニパウイルス、脳心筋炎ウイルス、ノロウイルス(A型)、ノロウイルス(B型)、ブタアストロウイルス(1型)、ブタアストロウイルス(3型)、ブタアストロウイルス(5型)、ブタインフルエンザウイルス(H1N1型)、ブタインフルエンザウイルス(H3N2型)、ブタエンテロウイルス(B型)、ブタ水疱疹ウイルス、ブタ水疱病ウイルス、ブタ伝染性胃腸炎ウイルス、ブタトルクテノウイルス(1型)、ブタトルクテノウイルス(2型)、ルブラウイルス、ブタロタウイルス(A型)、ブタロタウイルス(Bアメリカ型)、ブタロタウイルス(Bベトナム型)、ブタロタウイルス(C型)、哺乳類レオウイルス、ボルナウイルス、メナングルウイルス、アフリカトンコレラウイルス、ウシ伝染性鼻気管炎ウイルス、オーエスキー病ウイルス、ブタアデノウイルス、ブタサイトメガロウイルス、ブタサーコウイルス(1型)、ブタパルボウイルス、ブタポックスウイルス、ブタリンパ球向性ヘルペスウイルス(1,2型)、トキソプラズマ ゴンデイ)に対応する人工合成DNAがコードするタンパク質領域は、各病原体の遺伝子中の特定の領域とした。
【0043】
(1.3.検出系の確立の流れ)
検出系の評価として、下記条件1~3を満たすことを確認した。
条件1:NFWに懸濁した陽性対照遺伝子を陽性対照、NFWを陰性対照としてPCRを行い、陽性対照のみで目的産物が増幅されること、陰性対照で非特異産物が増幅されないこと。
条件2:10種類前後の病原体の陽性対照遺伝子を等量ずつ混合した陽性対照混合液(in NFW)でも、目的の遺伝子のみを増幅すること。
条件3:事前に目的遺伝子が増幅されないことを確認したブタ膵臓由来cDNAに陽性対照遺伝子を混合し、ブタ由来の核酸によりPCRが阻害されないこと。
【0044】
(1.4.Standard PCRによるウイルスの検出)
LifeECO(日本ジェネティクス社製)を用いて、standard PCRによる病原体の検出を行った。本研究で使用した2種類のPCR反応組成を下記表2に、6種類の反応条件を下記表3に記載した。増幅後は、トリス-ホウ酸-EDTA緩衝原液(ナカライテスク社製)を用い、1.5%アガロースゲルで電気泳動を行い、目的サイズと一致することを確認した。
【0045】
【表2】

【表3】
【0046】
(1.5.Nested PCRによるウイルスの検出)
上記(1.4.Standard PCRによるウイルスの検出)項と同様にLifeECOを用いた。反応組成は1stPCR、2ndPCRとも同じ上記表2に示す組成で行った。2ndPCRの鋳型核酸としては、1stPCR産物を希釈及び精製等を行わずにそのまま使用した。反応条件は1stPCR、2ndPCRともに同じであり、上記表3に示す条件で行った。
増幅産物の電気泳動による確認は、上記(1.4.Standard PCRによるウイルスの検出)項と同様に実施した。
【0047】
(1.6.real-timePCRによるウイルス及び原虫の検出)
Light Cycler(登録商標)480(Roche社製)を用いた。SYBR(登録商標)Premix Ex TaqII(Tli RNase Plus)(TAKARA社製)5μl、10μMプライマーセット各0.2μl、NFW3.6μl、鋳型核酸1μlの計10μlの反応液を混合した。反応は2連で行った。病原体毎の反応条件を上記表3に示す。
融解曲線分析を行った後、PCR産物を2%アガロースゲル(トリス-ホウ酸-EDTA)を用いて電気泳動し、目的サイズと一致することを確認した。
【0048】
(1.7.細菌検出)
細菌の検出では、16s rRNA遺伝子(v3-v4領域)の保存性の高い領域を対象としたプライマーとして341F:5’-CCTACGGGNGGCWGCAG-3’(Tm値68℃;配列番号1)、805R:5’-GACTACHVGGGTATCTAATCC-3’(Tm値56.5℃;配列番号2)を用いた(Klindworth A et al.,2013)。
KAPA HiFi Hot Start Ready Mix(日本ジェネティクス社製)12.5μl、0.2μMプライマーセット各5μl、DNA2.5μlの計25μlの反応液でPCRを行った。95℃で3分間の初期変性後、95℃で30秒間の熱変性、55℃で30秒間のアニーリング、72℃で30秒間の伸長反応を35サイクル行った。その後、72℃で5分間の最後の伸長反応を行った。
電気泳動による増幅産物の確認は上記(1.4.Standard PCRによるウイルスの検出)項と同様の方法で行った。
【0049】
(1.8.検出限界コピー数の測定)
((陽性対照用のプラスミドの作製))
陽性対照として、標的とする病原体、もしくは標的とする病原体に対する市販生ワクチンから抽出した核酸を使用している検出系に関しては、陽性対照となるDNAの正確なコピー数を把握するために、これを含むプラスミドを以下の方法で取得した。
上述の方法で得たPCR産物をWizard(登録商標)SV Gel and PCR Clean-Up System(Promega社製)を用いて精製した。
PCR産物に等量のMembrane Binding Solutionを混合し、Econo Spin(登録商標) for DNA(Epoch Biolabs社製)に全量添加した。室温で1分間静置した後、室温、16,000×gで1分間遠心分離した。ろ液を除去し、Membrane Wash Solution400μlを添加して、前回と同様の条件で遠心分離した。再度、ろ液を除去し、Membrane Wash Solution400μlを添加し、室温、16,000×gで5分間遠心分離した。カラムに別のチューブをセットし、NFW30μlを添加して、室温で1分間静置した。室温、16,000×gで1分間遠心分離した。
その後、TOPO TA(登録商標)Cloning(登録商標)kit(Thermo Fisher Scientific社製)を用いてキット付属のクローニングベクターに組み込んだ。ベクター2μlを、熱ショック法でCompetent Quick DH5α(Green Cap)(TOYOBO社製)に形質転換し、LB培地に播種した。
生育したコロニーのコロニーPCRを行い、インサートが挿入されたベクターを選抜した。コロニーPCRにはGoTaq(登録商標)Green Master Mix(Promega社製)を用い、Master Mix12.5μl、TOPO TA(登録商標)Cloning(登録商標)kit(Thermo Fisher Scientific社製)付属のM13 Forward Primer及びM13 Reverse Primer(10μM)各0.5μl、NFW11.5μlの計25μlの反応液を作製した。10μl用ピペットチップでコロニーに軽く触れ、その先を反応液に添加した。94℃で2分間の初期変性後、98℃で10秒間の熱変性、55℃で30秒間のアニーリング、72℃で30秒間の伸長反応を30サイクル行った。上記(1.4.Standard PCRによるウイルスの検出)項と同様の方法で電気泳動を行った。
目的サイズのバンドが確認できたコロニーを50μg/mlアンピシリンを含有するLB液体培地6mlに播種し、37℃で1晩培養した。
Mini Plus(登録商標)Plasmid DNA Extraction System(VIOGENE社製)を用いて、キット付属のプロトコルに準拠してプラスミド抽出を行った。プラスミドの濃度をNanoDrop(登録商標)1000Spectrophotometer(Thermo Fisher Scientific社製)で濃度測定を行い、コピー数を算出した。
【0050】
((検出限界コピー数の測定))
国内に存在するもしくは存在する可能性がある選抜したウイルスについてのみ検出限界コピー数を測定した。
最大濃度を1~9×10copies/μl、最少濃度を1~9copies/μl程度となるよう10倍希釈系列で6段階の検体を作製し、これを上記(1.4.Standard PCRによるウイルスの検出)項~上記(1.6.real-timePCRによるウイルス及び原虫の検出)項に示すそれぞれの病原体の条件でPCRした。
リアルタイムPCRのみ2連で反応を行ったが、検出限界の判断では限界となる希釈段階において、2連の内1つで目的産物の増幅が確認できた場合は陽性と判断した。
real-time PCRについては以下の式を用いてPCR効率を算出した。なお、以下の式に含まれるslopeとは、縦軸をサイクル数、横軸をLog copy numberとしたグラフの傾きを指す。
【数1】
【0051】
<2.臨床検体を使ったPCR検査系の評価>
(2.1.臨床検体)
臨床検体として、清浄度が高いと考えられる検体(Cleanサンプル)と、清浄度が低い、すなわち病原体に感染している可能性が高い検体(Infectedサンプル)を用意した。Cleanサンプルとして、DPF候補ブタとしてU-iR法で飼育された21日齢仔豚の肝臓、腎臓、膵臓及び血液を2頭分(Cleanサンプル1、2)使用した。Infectedサンプルとしては、一般農場で感染症の疑いで獣医師が検査解剖したブタの肝臓、腎臓、肺、リンパ節を用いた。
【0052】
(2.2.臓器からのRNA抽出)
臓器50mgを眼科用はさみで細断し、TRIzol(登録商標)LS Reagent(life technologies社製)を1ml添加した後、Tissue Ruptor II(QIAGEN社製)を用いホモジナイズした。クロロホルム(Wako社製)200μlを添加し、15秒間ボルテックスした後、室温で2分インキュベートした。室温、12,000×gで15分間遠心分離し、遠心後の透明な上層(水層)350μlを別のチューブに回収した。RNeasy(登録商標)Mini kit(QIAGEN社製)を用いて、回収した上層からRNAを精製した。
【0053】
回収した上層と等量の70%(v/v)エタノールを添加して転倒混和した後、キット付属のカラムに混合液の全量をアプライした。室温、8,000×gで15秒間遠心分離し、ろ液を廃棄した。カラムに350μlのBuffer RW1を添加し、前回と同様の条件で遠心分離を行い、ろ液を廃棄した。DNase処理にはRNase-Free DNase Set(QIAGEN社製)を用いた。キット付属のDNaseI及びBuffer RDDを1:7になるよう懸濁した溶液を75μl添加し、室温で8分静置した。
350μlのRW1を添加し、前回と同様の条件で遠心分離し、ろ液を廃棄した。500μlのBuffer RPEを添加し、前回と同様の条件で遠心分離し、ろ液を廃棄した。500μlのBuffer RPEを再度添加し、室温、8,000×gで2分間遠心分離し、ろ液を廃棄した。カラムに何も添加せず室温、20,000×gで1分間遠心分離した。カラムに別のチューブをセットし、RNase Free Water50μlを添加し、1分間静置した後、室温、20,000×gで1分間遠心分離した。
【0054】
(2.3.血液からのRNA抽出)
ヘパリン血250μlにTRIzol(登録商標)LS Reagent(life technologies社製)750μlを添加後ボルテッスし、室温で5分間静置した。以降の操作は、次の部分を除き上記(2.2.臓器からのRNA抽出)項と同様に行った。
血液からのRNA抽出では、クロロホルムを添加し、遠心分離した後の上層(水層)は560μlを回収し、DNase処理は行わず、Buffer RPEの2回目の洗浄の変わりに、80%(v/v)エタノール500μlによる洗浄を行った。また、溶出の前のカラムに何も添加せず遠心分離する際の条件は、室温、20,000×gで5分間とし、溶出はRNase Free Water30μlで行った。
【0055】
(2.4.臓器及び血液からのDNA抽出)
臓器からのDNA抽出は上記(1.2.PCRの陽性対照)項と同様にQuick Gene DNA tissue kit S (KURABO社製)を用いて行った。
ヘパリン血からのDNA抽出には、QIAamp(登録商標)DNA Blood Mini Kit(QIAGEN社製)を用い、キット付属のプロトコルに準拠して行った。
【0056】
(2.5.PCR)
RNAウイルスの検出に際し、上記(1.2.PCRの陽性対照)項と同様の方法でcDNAを作製した。また、逆転写の際のプライマーとしてOligo dT20(Thermo Fisher Scientific社製)を使用したcDNAも併せて作製した。
RNAウイルスの検出にはこれら2種類のプライマーで逆転写したcDNAを、DNAウイルスの検出にはDNAを用い、上記(1.4.Standard PCRによるウイルスの検出)項~上記(1.7.細菌検出)項と同様の方法で行った。
なお、Infectedサンプルについては、各臓器のcDNA又はDNAを同量ずつ混合したものを鋳型とした。
【0057】
<3.結果>
(3.1.PCRによる病原体の検出)
表1-1及び1-2に示すウイルス63種及び原虫1種に対して、上記(1.3.検出系の確立の流れ)に示した条件1~3を満たすことを確認した。standard PCR、nested PCRによる検出対象の15種のウイルスのPCR産物電気泳動結果を図1に示す。
【0058】
図1(A)は、standard PCRによる検出結果としてPCR産物の電気泳動結果を示す図である。図中のPは陽性対照を示し、事前に目的遺伝子が増幅されないことを確認したブタ膵臓由来cDNAに陽性対照遺伝子を混合したものを用いた。Nは陰性対照を示し、上記と同様のcDNAを用いた。左端から100bpラダーマーカー(M)、以降は2ウェルずつゲタウイルス、サポウイルス(3型)、(7A型)、(7B型)、(7C型)、ブタ水疱疹ウイルス、ブタ内在性レトロウイルス(PERV)(gag)、(pol)、(envA)、(envB)、(envC)、ブタ流行性下痢ウイルスである。それぞれの目的サイズは、380bp、330bp、330bp、330bp、330bp、350bp、337bp、810bp、359bp、263bp、281bp、377bpである。
図1(B)は、nested PCRによる検出結果として2ndPCR産物の電気泳動結果を示す図である。図中のP及びNは図1(A)と同様のものを用いた。左端から100bpラダーマーカー(M)、以降は2ウェルずつE型肝炎ウイルス(ORF1)、E型肝炎ウイルス(ORF2)、狂犬病ウイルス(7型)、赤血球凝集性脳脊髄炎ウイルス、ブタエンテロウイルス、ブタロタウイルス(A型)、哺乳類レオウイルスの結果である。それぞれの目的サイズは、287bp、145bp、259bp、472bp、306bp、121bp、344bpである。
【0059】
また、real-time PCRによる検出対象の48種のウイルス(アフリカトンコレラウイルス、アポイウイルス、ウシウイルス性下痢ウイルス1型、ウシウイルス性下痢ウイルス2型、ウシウイルス性下痢ウイルス3型、ウシ伝染性鼻気管支炎ウイルス、オーエスキー病ウイルス、狂犬病ウイルス4、狂犬病ウイルス5、狂犬病ウイルス6、口蹄疫ウイルス、ブタ呼吸器コロナウイルス、サポウイルス6型、サポウイルス8型、サポウイルス9型、サポウイルス10型、水疱性口炎ウイルス(new jersey型)、西部ウマ脳炎ウイルス、トンコレラウイルス、ニパウイルス、脳心筋炎ウイルス、ノロウイルスA型、ノロウイルスB型、ブタアストロウイルス1型、ブタアストロウイルス3型、ブタアストロウイルス5型、ブタアデノウイルス、ブタインフルエンザウイルスH1N1型、ブタインフルエンザウイルスH3N2型、ブタサイトメガロウイルス、ブタサーコウイルス1型、ブタサーコウイルス2型、ブタ水疱病ウイルス、ブタ伝染性胃腸炎ウイルス、ブタトルクテノウイルス1型、ブタトルクテノウイルス2型、ブタ内在性レトロウルス(pol遺伝子)、ブタパルボウイルス、ブタ繁殖・呼吸障害症候群ウイルス、ブタポックスウイルス、ブタリンパ球向性ヘルペスウイルス1型、ブタリンパ球向性ヘルペスウイルス2型、ブタルブラウイルス、ブタロタウイルスBアメリカ型、ブタロタウイルスBベトナム型、ブタロタウイルスC、ボルナウイルス、トキソプラズマ ゴンデイ、メナングルウイルス等)の融解曲線を得た。図示は省略する。
陰性対照には事前に目的遺伝子が増幅されないことを確認したブタ膵臓由来cDNAを、陽性対照にはそのcDNAに陽性対照遺伝子を混合したものを用いた。なお、ブタ内在性レトロウイルス(pol遺伝子)に関しては陰性対照としてNFWを用いた。
【0060】
(3.2.検出限界コピー数)
PCRの検出限界コピー数を有効数字1桁で下記表4に示す。standard PCRによる検出限界の測定は7種のウイルスで行い、ブタ流行性下痢ウイルスが200copies/μl、ブタロタウイルス(A型)が300copies/μl、ゲタウイルス、サポウイルス(7A型,7B型)、日本脳炎ウイルスが2,000copies/μl、サポウイルス(3型,7C型)が20,000copies/μlであった。nested PCRでは6種のウイルスに対して測定を行い、そのうちE型肝炎ウイルス(ORF1)、哺乳類レオウイルスの2種で50copies/μl以下、残り3種の検出限界は1,000~2,000copies/μlであった。一方、real-time PCRでは、ウシ伝染性鼻気管支炎ウイルスが4,000copies/μlと他の病原体と比較して1桁検出限界が高く、その他の病原体の検出限界は20~700copies/μlであった。
PCR効率はトルクテノウイルス(1型)が58%、トンコレラウイルスが55%、ノロウイルス(A型)が54%、B型が56%とその他の病原体と比較しPCR効率が低く、その他の病原体では63~87%となった。
【表4】


*:real-time PCRは2連で反応を行ったが、限界となる希釈段階において2連の内1つのみで目的産物の増幅が確認できた。
【0061】
病原体の検出感度については、PCRサイクル数がstandard PCRより25程度多いnested PCRでは検出感度がより高かった。一方、real-time PCRでは、ほとんどの病原体において上述した2つのPCR法と比較して検出感度が1桁程度高いことが確認できた。その為、全ての検出方法をreal-time PCRに統一することが好ましいといえる。
【0062】
(3.3.臨床検体を用いたPCRの評価)
図2は、臨床検体を使ったPCR検査系の評価による病原体検出結果を示す図であり、(A)は、ブタリンパ球向性ヘルペスウイルスの検出結果として融解曲線を示し、2連で行ったInfectedサンプル(Inf.)及び陰性対照(N)を示す。
(B)は、細菌の検出結果としてPCR産物の電気泳動写真を示し左から100bpラダーマーカー(M)、陽性対照遺伝子(P)、NFWを用いた陰性対照(N)、Infectedサンプル(Inf.)。目的サイズは464bpである。
(C)は、ブタサイトメガロウイルスの検出結果として融解曲線を示し、2連で行ったInfectedサンプル(Inf.)及び陰性対照(N)を示す。
(D)は、ゲタウイルスの検出結果としてPCR産物の電気泳動写真を示し、左から100bpラダーマーカー(M)、陽性対照遺伝子(P)、NFWを用いた陰性対照(N)、Cleanサンプル1の肝臓(Liv.)、腎臓(Kid.)。目的サイズは330bpである。表4で示した35サイクルではバンドが確認しづらかった為、ここで示した結果はサイクル数を40に増加した結果である。
【0063】
Infectedサンプル及び2頭のCleanサンプルの全ての臓器からブタ内在性レトロウイルスが検出された。
また、図2に示したように、Infectedサンプルでは、他にブタリンパ球向性ヘルペスウイルス及び細菌、ブタサイトメガロウイルスも検出された。
Cleanサンプル1の肝臓、腎臓からは逆転写酵素としてOligo dT20プライマーを用いた場合にのみゲタウイルスが検出され(図2)、PCR産物をダイレクトシーケンスで確認したところ、ゲタウイルスと相同性を示した。
また、E型肝炎ウイルス(ORF2)及び狂犬病ウイルス(7型)、ブタ水疱疹ウイルスの検出で、非特異的なバンドがみられた為、PCR産物をダイレクトシーケンスで確認したところPCRアーティファクトであり、当該病原体ではないことを確認した。
【0064】
ブタサイトメガロウイルスについては確認の為、Hamel, A. L., L. Lin, C. Sachvie, E. Grudeski, and G. P. Nayer. 1999. PCR assay for detecting porcine cytomegalovirus. J. Clin. Microbiol. 37:3767‐3768.で報告されているプライマーでも検出を行った。
図3は、上記報告されているプライマーを用いたサイトメガロウイルスのPCR産物電気泳動結果を示す図であり、左から100bpラダーマーカー(M)、陽性対照遺伝子(P)、NFWを用いた陰性対照(N)、Infectedサンプル(Inf.)。目的サイズは413bpであり、目的サイズのバンドが確認された。
【0065】
(3.4.考察)
臨床検体を用いた検体では、本発明の検査方法により、ブタ内在性レトロウイルスの他に、Infectedサンプルではブタリンパ球向性ヘルペスウイルス及び細菌、ブタサイトメガロウイルスが検出された。
ブタリンパ球向性ヘルペスウイルス及びブタサイトメガロウイルスは健康なブタの群れで広く流行しており、通常では症状は現れないことから、本試験でInfectedサンプルとして用いたブタに下痢や腹部膨張といった臨床症状をもたらした病原体は上記ウイルスによるものではなく、本発明により検出された細菌によるものと特定し得る。
両ウイルスともに不顕性感染ウイルスである為、通常の養豚業では特に問題視されていないが、ブタリンパ球向性ヘルペスウイルスはブタでの同種移植後のリンパ球増殖性の疾病に関わることが示唆されている。また、ブタサイトメガロウイルスは本ウイルスに対する免疫を保有しない場合には繁殖障害がみられる。ブタリンパ球向性ヘルペスウイルスでは可能性は低いが母子感染のリスクが示唆されており、ブタサイトメガロウイルスでは母子感染がしばしば生じ、妊娠期に実験感染させた母ブタから生まれた仔ブタの65%から本ウイルスが単離されたという報告もある。以上のように、本発明の検査方法によれば、細菌感染の検出とともに、臨床検体から複数種のウイルス感染を検出することができる。
【0066】
上記<1.PCRによる病原体の検出系の確立>にて確立したPCRによる検出系により、Infectedサンプルでは各種病原体感染が検出されるのに対し、上記Cleanサンプルでは、病原体感染が有意に少ないことを検査することができ、病原体感染が少ない異種移植用材料を提供することができる。
特に、本発明の検査方法によれば、細菌については、共通プライマーを用いることにより、厚生労働省の指針に含まれる25種の原則全ての病原体をカバーした。
図1
図2
図3
【配列表】
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