(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-06
(45)【発行日】2023-11-14
(54)【発明の名称】エンドミルの製造方法
(51)【国際特許分類】
B23P 15/34 20060101AFI20231107BHJP
【FI】
B23P15/34
(21)【出願番号】P 2018199730
(22)【出願日】2018-10-24
【審査請求日】2021-10-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】518130200
【氏名又は名称】神谷機工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100122471
【氏名又は名称】籾井 孝文
(72)【発明者】
【氏名】中市 誠
(72)【発明者】
【氏名】仲井 宏太
(72)【発明者】
【氏名】藤井 誠
【審査官】小川 真
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-500389(JP,A)
【文献】特開2001-030107(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0001381(US,A1)
【文献】特開平09-314406(JP,A)
【文献】特開平06-023615(JP,A)
【文献】特開2004-026514(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23C 5/10、 5/16
B23B 27/10、27/20
B23P 15/34
C22C 26/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
超硬材料で構成された基部と該基部の一方の面に設けられた焼結ダイヤモンド層とを有する母材から、放電加工またはレーザー加工により所定形状の切削刃形成片を切り出すこと;
該切削刃形成片の基部を切削して該基部の厚みを小さくし、切削刃を得ること;および、
該切削刃を本体に取り付けること;
を含み、
該切削刃形成片の厚みが1.6mm~3.2mmであり、
該切削刃形成片の基部を切削して、厚みが0.7mm~
1.2mmである
切削刃を得る、エンドミルの製造方法。
【請求項2】
前記切削刃を貼り付けにより前記本体に取り付ける、請求項
1に記載のエンドミルの製造方法。
【請求項3】
前記切削刃を、前記本体に設けられた埋め込み部に埋め込むことにより該本体に取り付ける、請求項
1に記載のエンドミルの製造方法。
【請求項4】
前記切削刃を前記埋め込み部に埋め込んだ状態で、真空ろう付けにより該切削刃を該埋め込み部に固着する、請求項
3に記載のエンドミルの製造方法。
【請求項5】
前記切削刃形成片の基部の切削が研磨を含む、請求項1から
4のいずれかに記載のエンドミルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンドミルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
切削工具の1つとしてエンドミルが広く知られている。エンドミルは、代表的には、回転軸を中心として回転する本体と当該本体表面に取り付けられた切削刃とを有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
エンドミルの切削刃として、超硬材料で構成された基部と当該基部の一方の面に設けられた焼結ダイヤモンド層とを有する切削刃を用いることを検討した。このような切削刃は、母材から切り出されてエンドミル本体に取り付けられるところ、切り出しの際に切削刃に反りが発生し、当該反りに起因して切削刃の本体への取り付けが困難となる場合がある。
【0005】
本発明は上記従来の課題を解決するためになされたものであり、その主たる目的は、切削刃の反りを抑制し、当該切削刃を本体に良好に取り付けることができるエンドミルの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、積層構造に起因して熱収縮性が超硬材料で構成された基部側と焼結ダイヤモンド層側とで異なることにより、母材を切り出す際に生じる熱により反りが生じることを知得した。そして、超硬材料で構成された基部を通常よりも厚くした母材を切り出し、その後に基部を切削することにより、切り出しの際に生じる反りを抑制した切削刃を作製できることを見いだし、本発明を完成させた。
本発明のエンドミルの製造方法は、超硬材料で構成された基部と該基部の一方の面に設けられた焼結ダイヤモンド層とを有する母材から、放電加工またはレーザー加工により所定形状の切削刃形成片を切り出すこと;該切削刃形成片の基部を切削して該基部の厚みを小さくし、切削刃を得ること;および、該切削刃を本体に取り付けること;を含む。
1つの実施形態においては、上記切削刃形成片の厚みは1.6mm~3.2mmであり、上記切削刃の厚みは0.7mm~1.6mmである。
1つの実施形態においては、上記切削刃形成片の基部の厚みは1.1mm~2.8mmであり、上記切削刃の基部の厚みは0.2mm~1.3mmである。
1つの実施形態においては、上記製造方法は、上記切削刃を貼り付けにより上記本体に取り付ける。
別の実施形態においては、上記製造方法は、上記切削刃を、上記本体に設けられた埋め込み部に埋め込むことにより該本体に取り付ける。さらに、このような製造方法は、上記切削刃を上記埋め込み部に埋め込んだ状態で、真空ろう付けにより該切削刃を該埋め込み部に固着する。
1つの実施形態においては、上記切削刃形成片の基部の切削は研磨を含む。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、基部と焼結ダイヤモンド層とを有する切削刃を本体に取り付けるエンドミルの製造方法において、分厚い基部を有する母材から切削刃形成片を切り出し、当該切削刃形成片の基部を切削して当該基部の厚みを小さくして切削刃を得ることにより、切削刃の反りを抑制し、当該切削刃を本体に良好に取り付けることができるエンドミルの製造方法を実現することができる。結果として、切削能力、強度および耐久性に優れたエンドミルを製造することができる。本発明によれば、分厚い基部を切削して薄くするので材料コストが増大するが、切削刃の本体への取り付け性および結果としての強度および耐久性等を考慮すると、全体としての製造効率は優れたものとなる。すなわち、本発明は、業界の技術常識では決して採用されない手段により課題を解決するものである。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1(a)は、本発明の実施形態による製造方法に用いられる切削刃の母材の一例を説明する概略断面図であり、
図1(b)は
図1(a)の母材の概略斜視図である。
【
図2】
図2(a)は、本発明の実施形態による製造方法における母材からの
切削刃形成片の切り出しを説明する概略平面図であり、
図2(b)は
図1(a)の切り出された
切削刃形成片の概略斜視図である。
【
図3】本発明の実施形態による製造方法における
切削刃の作製を説明する概略断面図である。
【
図4】
図4(a)は、本発明の実施形態による製造方法における切削刃の本体への取り付けの一例を説明する概略平面図であり、
図4(b)は別の一例を説明する概略平面図である。
【
図5】
図5(a)は、
図4(b)の実施形態により得られるエンドミルの一例を説明する概略平面図であり、
図5(b)は
図5(a)のエンドミルの概略斜視図である。
【
図6】本発明の製造方法により得られるエンドミルを用いた光学フィルムの製造方法により得られ得る非直線加工された光学フィルムの形状の一例を示す概略平面図である。
【
図7】本発明の製造方法により得られるエンドミルを用いた光学フィルムの切削加工を説明するための概略斜視図である。
【
図8】
図8(a)~
図8(e)は、本発明の製造方法により得られるエンドミルを用いた光学フィルムの切削加工の一例である非直線的な切削加工の一連の手順を説明する概略平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して本発明の具体的な実施形態について説明するが、本発明はこれらの実施形態には限定されない。なお、見やすくするために図面は模式的に表されており、さらに、図面における長さ、幅、厚み等の比率、ならびに角度等は、実際とは異なっている。
【0010】
A.エンドミルの製造方法の全体
本発明のエンドミルの製造方法は、超硬材料で構成された基部と該基部の一方の面に設けられた焼結ダイヤモンド層とを有する母材から、放電加工またはレーザー加工により所定形状の切削刃形成片を切り出すこと;該切削刃形成片の基部を切削して該基部の厚みを小さくし、切削刃を得ること;および、該切削刃を本体に取り付けること;を含む。以下、各工程を順に説明する。
【0011】
B.母材
最初に、母材を準備する。
図1(a)は、本発明の実施形態による製造方法に用いられる切削刃の母材の一例を説明する概略断面図であり、
図1(b)は
図1(a)の母材の概略斜視図である。母材10は、上記のとおり、超硬材料で構成された基部12と基部12の一方の面に設けられた焼結ダイヤモンド層14とを有する。母材10は、任意の適切な形状を有し得る。例えば、母材10は、図示例のように円盤状(平面視円形)であり得る。
【0012】
基部12を構成する超硬材料としては、代表的には、超硬合金が挙げられる。超硬合金は、代表的には、周期律表IVa、Va、VIa族金属の炭化物をFe、Co、Niなどの鉄系金属で焼結した複合材料をいう。超硬合金の具体例としては、WC-Co系合金、WC-TiC-Co系合金、 WC-TaC-Co系合金、 WC-TiC-TaC-Co系合金、WC-Ni系合金、WC-Ni-Cr系合金が挙げられる。焼結ダイヤモンド層14を構成する焼結ダイヤモンドは、代表的には、ダイヤモンドの小さな粒をバインダー(例えば、金属粉、セラミックス粉)と共に高温・高圧で焼き固めた多結晶ダイヤモンドである。バインダーの種類および配合比率等を変化させることにより、焼結ダイヤモンドの特性を調整することができる。
【0013】
母材10の厚みは、例えば1.6mm~3.2mmであり、好ましくは1.6mm~2.4mmである。母材の厚みがこのような範囲であれば、母材から切削刃形成片を切り出した際に当該切削刃形成片の反りを抑制することができ、このことにより、得られる切削刃の反りを抑制することができる。結果として、切削刃をエンドミル本体に良好に取り付けることができる。
【0014】
基部12の厚みは、例えば1.1mm~2.8mmである。基部の厚みがこのような範囲であれば、上記と同様に、母材から切削刃形成片を切り出した際に当該切削刃形成片の反りを抑制することができ、このことにより、得られる切削刃の反りを抑制することができる。結果として、切削刃をエンドミル本体に良好に取り付けることができる。焼結ダイヤモンド層14の厚みは、例えば0.2mm~2.8mmであり、好ましくは0.2mm~1.0mmであり、より好ましくは0.3mm~0.8mmである。
【0015】
母材10は、業界における周知慣用な方法により作製され得る。
【0016】
C.
切削刃形成片の切り出し
次に、
図2(a)に示すように、母材10から
切削刃形成片20を切り出す。
切削刃形成片の切り出しは、放電加工またはレーザー加工により行われる。放電加工としては、特に限定されず、例えばワイヤーカット放電加工や形彫放電加工を用いることができる。ワイヤーカット放電加工は、例えば金属のワイヤを電極とし、母材を加工液中に浸漬して母材と電極間に放電現象を発生させることにより、母材を溶融除去することにより行われる。形彫放電加工は、例えば母材に形成したい形状に対応する形に作られた黒鉛(グラファイト)電極または銅電極等を母材に近付けるようにして行われる。レーザー加工は、レーザー光により母材を切り抜くことにより行われる。切り出された
切削刃形成片20は、
図2(b)に示すように、母材と同様の基部12と焼結ダイヤモンド層14とを有する。
切削刃形成片の厚み、基部の厚みおよび焼結ダイヤモンド層の厚みは、母材に関して上記
B項で説明したとおりである。
【0017】
切削刃形成片20は、代表的には
図2(b)に示すように、矩形の平面視形状を有する。このような形状を有することにより、後述するように基部を切削することにより所望の形状の切削刃を作製することができる。
切削刃形成片20の長さLが、得られる
切削刃の長さに対応し得る。上記のようにして母材から
切削刃形成片を切り出すことにより、
切削刃形成片(最終的に、
切削刃)を長さ方向に沿って継ぎ目のない一体物とすることができる。その結果、切削能力、強度および耐久性のいずれにも非常に優れた切削刃(最終的に、エンドミル)を作製することができる。
切削刃形成片20の長さLは、好ましくは15mm以上であり、より好ましくは20mm~50mmである。このような長さであれば、得られたエンドミルを用いて光学フィルムを切削加工する場合に、光学フィルムを所望の枚数積層したワークを切削加工することができるので、切削加工の効率を向上させることができる。
【0018】
D.
切削刃の作製(基部の切削)
次に、
図3に示すように、
切削刃形成片20の基部12を切削してその厚みを小さくすることにより
切削刃30が得られる。つまり、
切削刃30の厚みは、母材10の厚み(
切削刃形成片20の厚み)より小さい。切削は、代表的には研磨により行われ得る。研磨は、基部12表面を平面研磨機で研磨することにより行われる。ただし、切削は、研磨に限られず、他の方法であってもよい。例えばフライス加工であってもよく、旋盤加工であってもよく、ワイヤーカットであってもよい。
【0019】
得られた切削刃30は、切削された基部16(以下、単に基部16または切削刃の基部16と称する)と焼結ダイヤモンド層14とを有する。切削刃30の厚みは、例えば0.7mm~1.6mmであり、好ましくは0.75mm~1.2mmである。切削刃30の基部16の厚みは、例えば0.2mm~1.3mmであり、好ましくは0.4mm~0.9mmである。切削刃30の基部16の厚みは、母材10の基部12の厚み(切削刃形成片20の基部12の厚み)より小さい。切削刃30の焼結ダイヤモンド層14と基部16の厚みの比d14/d16は、好ましくは70%~400%であり、より好ましくは100%~300%である。比d14/d16がこのような範囲であれば、ろう付け時の反りを抑制しつつ刃物としての強度を確保できるという利点が得られ得る。
【0020】
E.
切削刃の本体への取り付け(エンドミルの作製)
次に、
図4(a)または
図4(b)に示すように、得られた
切削刃30をエンドミル本体40に取り付ける。本体40は、例えば、当業界で周知の粉末冶金法で得られた焼結体を業界で周知の方法で所定形状(例えば、円柱形状)に加工することにより作製され得る。
【0021】
1つの実施形態においては
図4(a)に示すように、
切削刃30は、貼り付けにより本体40に取り付けられる。本発明においては切削刃の反りが抑制されているので、このような貼り付けが可能となる。本実施形態においては、本体40には取り付け面42が形成されている。取り付け面42は、任意の適切な方法(例えば、切削)により本体40に形成され得る。貼り付けは、代表的にはろう付け(例えば、真空ろう付けまたは高周波ろう付け)により行われる。
【0022】
別の実施形態においては
図4(b)に示すように、
切削刃30は、本体40に設けられた埋め込み部44に埋め込む(代表的には、切削刃30を埋め込み部44に挿入する)ことにより本体40に取り付けられる。本発明においては切削刃の反りが抑制されているので、このような埋め込みが可能となる。さらに、
図4(b)のような構成であれば、切削能力、強度および耐久性が向上し得る。埋め込み部44は、任意の適切な方法で形成され得る。形成方法の具体例としては、レーザー加工、切削加工が挙げられる。埋め込み部44の深さは、好ましくは0.30mm~1.50mmであり、より好ましくは0.30mm~1.00mmであり、さらに好ましくは0.30mm~0.70mmである。埋め込み部の深さがこのような範囲であれば、切削刃の本体への固着強度および本体自体の強度の両方を確保することができる。好ましくは、切削刃30は、埋め込み部44に埋め込まれた状態で、真空ろう付けにより埋め込み部44に固着される。このような構成であれば、切削能力、強度および耐久性がさらに向上し得る。真空ろう付けは、焼結ダイヤモンド層を含む切削刃であっても本体(埋め込み部)に良好に固着することができる。ろう付け時の残留酸素および水分を除去することができ、したがって本体表面の酸化被膜を破壊しかつ酸化被膜の再生を防止できるので、本体表面の濡れ性を増大させることができるからである。
【0023】
図示例では切削刃の数が2枚である実施形態を説明したが、切削刃の数は1枚であってもよく、3枚以上(例えば、3枚、4枚)であってもよい。切削刃の数は、好ましくは2枚~3枚である。このような構成であれば、切削刃同士の間隔が適切に確保されるので、切削クズを良好に排出することができる。より好ましくは、切削刃の数は2枚である。このような構成であれば、切削刃の剛性が確保され、かつ、ポケットが確保されて切削クズを良好に排出することができる。
【0024】
また、図示例では切削刃の刃先が平坦である実施形態を説明したが、刃先は鋭利であってもよい(例えば、
図4(a)および
図4(b)において平面視で鋭角の頂点を有していてもよい)。任意の適切な切削加工により、刃先を鋭利にすることができる。
【0025】
以上のようにして、エンドミルが作製され得る。
【0026】
F.エンドミル
図5(a)は、
図4(b)の実施形態により得られるエンドミルの一例を説明する概略平面図であり、
図5(b)は
図5(a)のエンドミルの概略斜視図である。図示例のエンドミル100は、鉛直方向(ワークの積層方向、ワークは光学フィルムを積層した切削対象物であり、詳細については後述する)に延びる回転軸46を中心として回転する本体40と、本体40から突出し最外径として構成される切削刃30と、を有する。エンドミルは、代表的にはストレートエンドミルである。図示例においては、本体40には埋め込み部44が設けられ、切削刃30は埋め込み部44に埋め込まれて本体40に固着されている。このような構成であれば、エンドミルが小径であり本体表面に切削刃の取り付け面を十分に確保することが困難であっても、本体に切削刃を良好に取り付けることができる。したがって、実用上許容可能な切削能力を有する小径のエンドミルを実際に作製することができる。さらに、強度および耐久性に優れたエンドミルを実現することができる。埋め込み部を複数設ける場合には、埋め込み部は、好ましくは回転軸46に対して対称な位置に設けられる。このような構成であれば、良好な切削が実現されるとともに、エンドミルの強度および耐久性がさらに向上し得る。
【0027】
図示例のエンドミルは、切削刃30のねじれ角は代表的には0°である。このような構成であれば、後述する光学フィルムの切削を良好に行うことができる。より詳細には、ねじれ角を有する切削刃を用いて切削(例えば、異形加工または非直線加工)する場合、切削面が横方向からみてテーパー状となる場合があるところ、ねじれ角が0°の切削刃を用いることにより、切削面がテーパー状となることを抑制することができる。ここで、異形加工とは、例えば光学フィルムを矩形以外の形状に加工することを言う。特に、小径のエンドミルを用いて光学フィルムに微細な非直線加工(異形加工)を行う場合に顕著な効果が得られ得る。なお、本明細書において「ねじれ角が0°」とは、切削刃30が回転軸46と実質的に平行な方向に延びていること、言い換えれば、刃が回転軸に対してねじれていないことをいう。なお、「0°」は実質的に0°であるという意味であり、加工誤差等によりわずかな角度ねじれている場合も包含する。
【0028】
図示例のエンドミルの外径は、代表的には10mm未満であり、好ましくは3mm~9mmであり、より好ましくは4mm~7mmである。本発明の実施形態によれば、このような小さな外径を有し、かつ、実用上許容可能な切削能力を有するエンドミルを実際に作製することができる。その結果、例えばこのような小径のエンドミルを用いた光学フィルムの微細な非直線加工(異形加工)において、光学フィルムのクラックおよびイエローバンドを良好に抑制することができ、さらに、光学フィルムが接着層を有する場合には糊欠けを良好に抑制することができる。なお、本明細書において「エンドミルの外径」とは、回転軸46から刃先30aまでの距離を2倍したものをいう。
【0029】
切削刃30は、代表的には、刃先30aとすくい面30bと逃がし面30cとを含む。すくい面30bは回転方向Rの下流側に位置し、すくい面30bと本体40とによりポケット50が規定され得る。焼結ダイヤモンド層14の表面がすくい面30bに対応し、基部16の表面が逃がし面30cに対応する、逃がし面30c(基部16)は、好ましくは、粗面化処理されている。粗面化処理としては、任意の適切な処理が採用され得る。代表例としては、ブラスト処理が挙げられる。逃がし面に粗面化処理を施すことにより、光学フィルムを切削加工する場合であって当該光学フィルムが接着層(例えば、接着剤層、粘着剤層)を含む場合に切削刃への接着剤または粘着剤の付着が抑制され、結果として、ブロッキングが抑制され得る。本明細書において「ブロッキング」とは、光学フィルムが接着層を含む場合にワークにおける光学フィルム同士が端面の接着剤または粘着剤で接着する現象をいい、端面に付着する接着剤または粘着剤の削りカスが光学フィルム同士の接着に寄与することとなる。
【0030】
G.エンドミルの使用方法
本発明の製造方法により得られるエンドミルは、代表的には、光学フィルムの製造方法に好適に用いられ得る。当該製造方法は、好ましくは、光学フィルムの端面を切削加工することを含む。
【0031】
光学フィルムの具体例としては、偏光子、位相差フィルム、偏光板(代表的には、偏光子と保護フィルムとの積層体)、タッチパネル用導電性フィルム、表面処理フィルム、ならびに、これらを目的に応じて適切に積層した積層体(例えば、反射防止用円偏光板、タッチパネル用導電層付偏光板)が挙げられる。1つの実施形態においては、光学フィルムは、接着層(例えば、接着剤層、粘着剤層)を含む。本発明の実施形態によるエンドミルを用いることにより、接着層を含む光学フィルムであっても、切削加工における糊欠けを抑制することができる。
【0032】
以下、光学フィルムの一例として粘着剤層付偏光板を採用した場合の製造方法について説明する。具体的には、
図6に示すような平面形状の粘着剤層付偏光板の製造方法における各工程を説明する。なお、光学フィルムが粘着剤層付偏光板に限定されないこと、および、粘着剤層付偏光板の平面形状が
図6の平面形状に限定されないことは当業者に自明である。すなわち、本発明の製造方法により得られるエンドミルは、任意の形状の任意の光学フィルムの製造方法に適用され得る。
【0033】
G-1.ワークの形成
図7は、光学フィルムの切削加工を説明するための概略斜視図であり、本図にワーク200が示されている。
図7に示すように、光学フィルム(粘着剤層付偏光板)を複数枚重ねたワーク200が形成される。粘着剤層付偏光板は、業界で周知慣用の方法により製造され得るので、当該製造方法の詳細な説明は省略する。粘着剤層付偏光板は、ワーク形成に際し、代表的には任意の適切な形状に切断されている。具体的には、粘着剤層付偏光板は矩形形状に切断されていてもよく、矩形形状に類似する形状に切断されていてもよく、目的に応じた適切な形状(例えば、円形)に切断されていてもよい。図示例では、粘着剤層付偏光板は矩形形状に切断されており、ワーク200は、互いに対向する外周面(切削面)200a、200bおよびそれらと直交する外周面(切削面)200c、200dを有している。ワーク200は、好ましくは、クランプ手段(図示せず)により上下からクランプされている。ワークの総厚みは、好ましくは10mm~50mmであり、より好ましくは15mm~25mmであり、さらに好ましくは約20mmである。このような厚みであれば、クランプ手段による押圧または切削加工時の衝撃による損傷を防止し得る。粘着剤層付偏光板は、ワークがこのような総厚みとなるように重ねられる。ワークを構成する粘着剤層付偏光板の枚数は、例えば20枚~100枚であり得る。クランプ手段(例えば、治具)は、軟質材料で構成されてもよく硬質材料で構成されてもよい。軟質材料で構成される場合、その硬度(JIS A)は、好ましくは60°~80°である。硬度が高すぎると、クランプ手段による押し跡が残る場合がある。硬度が低すぎると、治具の変形により位置ずれが生じ、切削精度が不十分となる場合がある。
【0034】
G-2.エンドミル加工
次に、ワーク200の外周面の所定の位置を、エンドミル100により切削する。エンドミル100は、代表的には、工作機械(図示せず)に保持され、エンドミルの回転軸まわりに高速回転されて、回転軸に交差する方向に送り出されながら切削刃をワーク200の外周面に当接させ切り込ませて用いられる。すなわち、切削は、代表的には、エンドミルの切削刃をワーク200の外周面に当接させ切り込ませることにより行われる。
図6に示すような平面視形状の粘着剤層付偏光板を作製する場合には、ワーク200の外周の4つの隅部に面取り部200E、200F、200G、200Hを形成し、面取り部200Eと200Hとを結ぶ外周面の中央部に凹部200Iを形成する。
【0035】
ワーク200の切削加工について詳細に説明する。まず、
図8(a)に示すように、
図6の面取り部200Eが形成される部分が面取り加工され、次いで、
図8(b)~
図8(d)に示すように、面取り部200F、200Gおよび200Hが形成される部分が順次面取り加工される。最後に、
図8(e)に示すように、凹部200Iが切削形成される。なお、図示例では面取り部200E、200F、200Gおよび200H、ならびに凹部200Iをこの順に形成しているが、これらは任意の適切な順序で形成されればよい。
【0036】
切削加工の条件は、粘着剤層付偏光板の構成、所望の形状等に応じて適切に設定され得る。例えば、エンドミルの回転速度(回転数)は、好ましくは25000rpm未満であり、より好ましくは22000rpm以下であり、さらに好ましくは20000rpm以下である。エンドミルの回転速度の下限は、例えば10000rpmであり得る。また例えば、エンドミルの送り速度は、好ましくは500mm/分~10000mm/分であり、より好ましくは500mm/分~2500mm/分であり、さらに好ましくは800mm/分~1500mm/分である。また例えば、エンドミルの切り込み量は、好ましくは0.8mm以下であり、より好ましくは0.3mm以下である。エンドミルによる切削箇所の切削回数は、1回削り、2回削り、3回削りまたはそれ以上であり得る。
【0037】
以上のようにして、本発明の製造方法により得られるエンドミルを用いて、切削加工された粘着剤層付偏光板が得られ得る。図示例においては、非直線加工された部分を含む粘着剤層付偏光板が得られ得る。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明の製造方法により得られるエンドミルは、光学フィルムの切削加工に好適に用いられ得る。本発明のエンドミルにより切削加工された光学フィルムは、例えば、自動車のインストゥルメントパネルやスマートウォッチに代表される異形の画像表示部に用いられ得る。
【符号の説明】
【0039】
10 母材
12 切削刃形成片の基部
14 焼結ダイヤモンド層
16 切削刃の基部
20 切削刃形成片
30 切削刃
30a 刃先
30b すくい面
30c 逃がし面
40 本体
42 取り付け面
44 埋め込み部
46 回転軸
50 ポケット
100 エンドミル
200 ワーク