(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-06
(45)【発行日】2023-11-14
(54)【発明の名称】シート
(51)【国際特許分類】
B68G 7/052 20060101AFI20231107BHJP
A47C 31/02 20060101ALI20231107BHJP
【FI】
B68G7/052 A
A47C31/02 B
(21)【出願番号】P 2018214527
(22)【出願日】2018-11-15
【審査請求日】2021-10-08
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000109738
【氏名又は名称】デルタ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100176304
【氏名又は名称】福成 勉
(72)【発明者】
【氏名】遠地 淳司
(72)【発明者】
【氏名】有田 有紀
(72)【発明者】
【氏名】平野 真弘
【審査官】瀧本 絢奈
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-217867(JP,A)
【文献】実開昭62-126198(JP,U)
【文献】実開平01-124200(JP,U)
【文献】特開2012-250662(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B68G 7/052
A47C 31/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溝が形成された少なくとも1つのシートパッドと、前記シートパッドを覆うシートトリムとを備えたシートであって、
前記シートトリムは、前記溝の内部に吊り込まれた吊込み部を有し、
前記溝の側壁には、当該溝を狭くする方向に膨らむ膨出部が形成され、
前記膨出部の先端は、前記吊込み部よりも前記溝の底壁側に配置され、
前記膨出部は、滑らかな円弧状の外形断面を有し、
前記膨出部
に対向する前記溝の側壁の上端には、前記膨出部の先端よりも上方に突出する突部が形成され、当該突部により、前記溝の両側において、前記パッドの稜線をなめらかにつなぐ
シート。
【請求項2】
前記溝は、前記シートパッドにおけるシートの幅方向を法線方向とする面の面内方向である第1方向に延びる第1方向溝を含み、
前記膨出部は、前記第1方向溝の前記側壁に形成されている、
請求項1に記載のシート。
【請求項3】
前記シートが当該シートの前後方向に沿うように配置されたシートクッションを備えた構成において、
前記シートパッドは、前記シートクッションに含まれ、かつ、前記シートの前後方向に延びるように配置され、
前記第1方向溝は、前記第1方向である前記シートの前後方向に延びる前後方向溝を含み、
前記膨出部は、前記前後方向溝の前記側壁に形成されている、
請求項2に記載のシート。
【請求項4】
前記シートが当該シートの上下方向に沿うように配置されたシートバックを備えた構成において、
前記シートパッドは、前記シートバックに含まれ、かつ、前記シートの上下方向に延びるように配置され、
前記第1方向溝は、前記第1方向である前記シートの上下方向に延びる上下方向溝を含み、
前記膨出部は、前記上下方向溝の前記側壁に形成されている、
請求項2または3に記載のシート。
【請求項5】
前記溝は、前記第1方向溝と、前記第1方向と異なる方向である第2方向に延びる第2方向溝とを含み、
前記シートパッドには、前記第1方向溝と前記第2方向溝とが交差する交差部分が形成され、
前記吊込み部は、前記交差部分の内部に保持され、
前記第2方向溝の深さは、前記交差部分の近傍において部分的に当該近傍以外の部分よりも浅くなるように設定されている、
請求項2~4のいずれか1項に記載のシート。
【請求項6】
前記吊込み部は、前記交差部分の奥端に向かって張力をかけられた状態で保持される、
請求項5に記載のシート。
【請求項7】
前記第2方向溝は、前記第2方向である前記シートの幅方向に延びる幅方向溝を含む、
請求項5または6に記載のシート。
【請求項8】
前記吊込み部を前記溝の内部に吊り込まれた状態で固定する固定部をさらに備え、
前記固定部は、ホグリング、面ファスナ、およびクリップからなる群から選ばれた少なくとも1つを含む
請求項1~7のいずれか1項に記載のシート。
【請求項9】
前記膨出部の先端は、前記吊込み部と当該先端との距離が前記吊込み部と当該膨出部に対向する前記溝の前記側壁との距離よりも小さくなるように、配置されている、
請求項1~8のいずれか1項に記載のシート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シートパッドおよびシートトリムを備えたシートに関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な自動車用シートなどのシートでは、シートクッションやシートバックにおいて、発泡樹脂などからなるシートパッドの外面を皮革やビニールシートなどからなるシートトリムによって覆うシート構造が採用されている。
【0003】
例えば、特許文献1に示される自動車用のシート構造は、
図18に示されるように、シートクッションの構成として、シートパッド部101と、当該シートパッド部101の外面を覆うシートトリム102とを備える。
【0004】
シートパッド部101は、座面パッド部110と、土手パッド部111とを有し、ウレタンなどの発泡樹脂により一体形成により製造される。座面パッド部110と土手パッド部111との間には溝部115が形成されている。また、溝部115の開口部位には、シートトリム102の形状確保のために、溝部115の溝幅を狭くする膨出パッド部116が形成されている。
【0005】
シートトリム102は、座面パッド部110の外面を覆う座面表皮部112と、土手パッド部111の外面を覆う土手表皮部113と、座面表皮部112と土手表皮部113とを接合する継ぎ端末部114とを有する。継ぎ端末部114は、溝部115の内部に挿入されている。継ぎ端末部114は、吊込み布117およびC字リング118を介して、溝部115の底壁に固定されたリスティングワイヤ119に係止されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1のシート構造では、溝部115の開口部位に形成された膨出パッド部116の先端116aは、シートトリム102における座面表皮部112と土手表皮部113とを接合する継ぎ端末部114の下端よりも高い位置に配置されている。そのため、膨出パッド部116の溝部115の内方への盛り上がりによって、シートトリム102の出っ張りが目立ってしまい、シートの外観が良くないという問題がある。
【0008】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであって、膨出部によるシートトリムの出っ張りを抑え、シートの外観が向上することが可能なシートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明のシートは、溝が形成された少なくとも1つのシートパッドと、前記シートパッドを覆うシートトリムとを備えたシートであって、前記シートトリムは、前記溝の内部に吊り込まれた吊込み部を有し、前記溝の側壁には、当該溝を狭くする方向に膨らむ膨出部が形成され、前記膨出部の先端は、前記吊込み部よりも前記溝の底壁側に配置され、前記膨出部は、滑らかな円弧状の外形断面を有し、前記膨出部に対向する前記溝の側壁の上端には、前記膨出部の先端よりも上方に突出する突部が形成され、当該突部により、前記溝の両側において、前記パッドの稜線をなめらかにつなぐことを特徴とする。
【0010】
かかる構成により、シートパッドに溝が形成され、溝の側壁には、当該溝を狭くする方向に膨らむ膨出部が形成され、膨出部の先端は、シートトリムの吊込み部よりも溝の底壁側に配置されている。そして、膨出部は、滑らかな円弧状の外形断面を有している。そのため、膨出部からシートトリムにおける吊込み部よりも上方の部分への圧力が緩和され、膨出部によるシートトリムの出っ張りを抑えることが可能である。その結果、膨出部によるシートトリムの形状確保を保ちながらシートの外観を向上することが可能になる。
また、上記の構成では、膨出部に対向する溝の側壁上端には、膨出部の先端よりも上方に突出する突部が形成され、当該突部により、溝の両側の2つのパッド部の稜線をなめらかにつないでいる。そのため、自動車走行中のロール時に着座者に一方のパッド部に向かう荷重が作用したときなどにおいて、着座者の臀部が通常の乗車状態から溝の周辺部に押し付けられた状態へシフトしたときに着座者の臀部が膨出部および突部の両方に同時に接触することが可能になる。その結果、膨出部の接触による不快感を緩和することが可能になる。
【0011】
上記のシートにおいて、前記溝は、前記シートパッドにおけるシートの幅方向を法線方向とする面の面内方向である第1方向に延びる第1方向溝を含み、前記膨出部は、前記第1方向溝の前記側壁に形成されていてもよい。
【0012】
上記のように、シートパッドに形成された溝のうち、シートパッドにおけるシートの幅方向を法線方向とする面の面内方向である第1方向に延びる第1方向溝によって形成されるシートトリムの凹凸部分が着座者から見えやすく、シートの外観にとくに影響を与えることを鑑みて、第1方向溝に上記の膨出部を形成することにより、第1方向溝における膨出部によるシートトリムの出っ張りが目立たなくなり、シートの外観が向上する。
【0013】
上記のシートにおいて、前記シートが当該シートの前後方向に沿うように配置されたシートクッションを備えた構成において、前記シートパッドは、前記シートクッションに含まれ、かつ、前記シートの前後方向に延びるように配置され、前記第1方向溝は、前記第1方向である前記シートの前後方向に延びる前後方向溝を含み、前記膨出部は、前記前後方向溝の前記側壁に形成されていてもよい。
【0014】
上記のようにシートがシートクッションを含む構成では、第1方向溝としてシートクッションの前後方向に延びる前後方向溝によって形成されるシートトリムの凹凸部分が着座者から見えやすく、シートの外観にとくに影響を与えることを鑑みて、シートクッションの前後方向溝に上記の膨出部を形成することにより、前後方向溝における膨出部によるシートトリムの出っ張りが目立たなくなり、シートの外観が向上する。
【0015】
上記のシートにおいて、前記シートが当該シートの上下方向に沿うように配置されたシートバックを備えた構成において、前記シートパッドは、前記シートバックに含まれ、かつ、前記シートの上下方向に延びるように配置され、前記第1方向溝は、前記第1方向である前記シートの上下方向に延びる上下方向溝を含み、前記膨出部は、前記上下方向溝の前記側壁に形成されていてもよい。
【0016】
上記のようにシートがシートバックを含む構成では、第1方向溝としてシートバックの上下方向に延びる上下方向溝によって形成されるシートトリムの凹凸部分が着座者から見えやすく、シートの外観にとくに影響を与えることを鑑みて、シートバックの上下方向溝に上記の膨出部を形成することにより、上下方向溝における膨出部によるシートトリムの出っ張りが目立たなくなり、シートの外観が向上する。
【0017】
上記のシートにおいて、前記溝は、前記第1方向溝と、前記第1方向と異なる方向である第2方向に延びる第2方向溝とを含み、前記シートパッドには、前記第1方向溝と前記第2方向溝とが交差する交差部分が形成され、前記吊込み部は、前記交差部分の内部に保持され、前記第2方向溝の深さは、前記交差部分の近傍において部分的に当該近傍以外の部分よりも浅くなるように設定されているのが好ましい。
【0018】
かかる構成により、シートパッドにおける第1方向溝と第2方向溝との交差部分近傍における第2方向溝を部分的に当該近傍以外の部分よりも浅くすることにより、シートトリムの吊込み部が交差部分の内部に保持される状態において交差部分の近傍における第2方向溝の開口縁における突部(土手)の沈み込み量が低減される。その結果、突部の沈み込みに起因するシートトリムの皺の発生を抑制することが可能である。
【0019】
上記のシートにおいて、前記吊込み部は、前記交差部分の奥端に向かって張力をかけられた状態で保持されるのが好ましい。
【0020】
かかる構成では、溝の交差部分の内部において、シートトリムの吊込み部は、交差部分の奥端に向かって張力をかけられた状態で保持される。本構成では、交差部分近傍における第2方向溝が浅くなることにより、シートトリムの皺の発生が抑制されているので、シートトリムの吊込み部を交差部分の奥端に向かって張力をかけられた状態で保持されても、シートトリムの皺の発生を確実に抑制することが可能である。
【0021】
上記のシートにおいて、前記第2方向溝は、前記第2方向である前記シートの幅方向に延びる幅方向溝を含むのが好ましい。
【0022】
上記のシートにおいて、前記吊込み部を前記溝の内部に吊り込まれた状態で固定する固定部をさらに備え、前記固定部は、ホグリング、面ファスナ、およびクリップからなる群から選ばれた少なくとも1つを含むのがよい。
【0023】
かかる構成では、ホグリング等を含む固定部を用いることにより、吊込み部または溝の内部に設置されたワイヤやリングなどの相手部材に容易に連結可能であり、吊込み部の固定作業が容易になる。
【0024】
上記のシートにおいて、前記膨出部の先端は、前記吊込み部と当該先端との距離が前記吊込み部と当該膨出部に対向する前記溝の前記側壁との距離よりも小さくなるように、配置されているのが好ましい。
【0025】
かかる構成により、シートトリムを膨出部の外面により近づけたカーブで張ることが可能になり、シートトリムの吊り皺や浮きの発生をより抑えることが可能である。
【発明の効果】
【0026】
本発明のシートによれば、膨出部によるシートトリムの出っ張りを抑え、シートの外観が向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明のシートの実施形態に係る自動車用シートの全体を概略的に示す斜視図である。
【
図12】シートクッションにおける荷重分布を示す図であって、(a)は比較例として膨出部なしの構造における荷重分布を示す図、(b)は膨出部を有する本実施形態の構造における荷重分布を示す図である。
【
図13】
図3のシートバックにおける上下方向溝と幅方向溝の交差部分付近の拡大図である。
【
図16】本発明のシートの変形例であるクリップを含む固定部の一例を説明する説明図であって、(a)~(c)は吊込み部側のワイヤが溝側のクリップに係合する過程を示す図である。
【
図17】本発明のシートの他の変形例であるクリップを含む固定部の一例を説明する説明図であって、一対の係止突起を有するフックがクリップに係合する直前の状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、添付図面を参照しながら本発明の好ましい実施の一形態について詳述する。
【0029】
本発明のシートの一実施形態である自動車用シート1は、
図1に示されるように、着座者の臀部を支持するシートクッション2と、シートクッション2の後方側において起立した状態で設けられ、着座者の背中を支持するシートバック3と、シートバック3の上部に設けられ、着座者の頭部を支持するヘッドレスト4とを備えている。
【0030】
シートクッション2は、後述のように、
図2および
図4に示されるように、複数のパッド部6、7を有するシートパッド5と、これらのパッド部を含むシートパッド5の表面を覆うシートトリム8とを備えている。また、シートバック3も、後述のように、
図3および
図8に示されるように、複数のパッド部15、16を有するシートパッド14と、これらのパッド部15、16を含むシートパッド14の表面を覆うシートトリム17とを備えている。
【0031】
以下、シートクッション2およびシートバック3の構成についてそれぞれ具体的に説明する。
【0032】
(シートクッション2の説明)
シートクッション2は、
図2および
図4~7に示されるように、シートパッド5と、シートトリム8とを備えている。
【0033】
シートパッド5は、複数のパッド部として、複数の座面パッド部6および複数のサイドパッド部7を有し、これらパッド部6、7がウレタンなどの発泡樹脂により一体形成により製造される。
【0034】
サイドパッド部7は、座面パッド部6におけるシートクッション2の幅方向Yの両側に配置されている。隣接する座面パッド部6およびサイドパッド部7の間には、溝11の一種として、シートパッド5における自動車用シート1の幅方向Yを法線方向とする面Q(
図1参照)の面内方向である第1方向(
図2ではシートクッション2の前後方向X(具体的にはその内部のシートパッド5の前後方向))に延びる第1方向溝として、シートクッション2の前後方向Xに延びる前後方向溝11Aが形成されている。
【0035】
また、
図2に示されるように、シートクッション2の前後方向Xに隣接する2つの座面パッド部6の間には、溝11の一種として、第1方向(前後方向X)と異なる方向に延びる第2方向(
図2ではシートクッション2の幅方向Y(具体的にはその内部のシートパッド5の幅方向))に延びる第2方向溝として、幅方向溝11Bが形成されている。幅方向溝11Bの両端には、前後方向溝11AとT字状に交差する(合流する)交差部分28が形成されている。なお、交差部分28は十字状に交差したものでもよい。
【0036】
シートトリム8は、皮革やビニールシートなどからなるシート状の部材であり、シートパッド5の座面パッド部6およびサイドパッド部7を覆う。すなわち、シートトリム8は、座面パッド部6の上面を覆う座面シート部分9と、サイドパッド部7の上面を覆うサイドシート部分10と有する。
【0037】
隣接する座面シート部分9およびサイドシート部分10における互いに対向する端部同士が接合されることにより、吊込み部13が形成されている。接合の方法としては、接着、溶着、縫着、クランプなど種々の方法が採用される。吊込み部13は、前後方向溝11Aの内部に吊り込まれている。
【0038】
前後方向溝11Aの側壁(サイドパッド部7側の側壁)には、当該溝11Aを狭くする方向に膨らむ膨出部12が形成されている。
図4に示されるように膨出部12の高さHは、例えば、前後方向溝11Aの幅Wが9mm程度の場合、2~3mm程度に設定される。したがって、膨出部12の先端12aの部位では、前後方向溝11Aの幅が6~7mm程度まで狭くなっている。膨出部12によって前後方向溝11Aの幅を部分的に狭くすることにより、該前後方向溝11Aの上を覆うシートトリム8における皺や浮きの発生を防止することが可能である。
【0039】
膨出部12は、前後方向溝11Aの内部において当該前後方向溝11Aの延びる方向(シートクッション2の前後方向X)に沿って連続的に延びる突条であり、滑らかな円弧状(R形状)の外形の断面を有する。例えば、膨出部12は、高さHが2~3mm程度の場合には曲率半径が12~15mm程度の単一な円弧または複数の円弧を組み合わせた連続的な曲線状の外形の断面になるように形成される。
【0040】
このように、シートクッション2の座面パッド部6の両側のサイドパッド部7との間の前後方向溝11Aの内部に膨出部12を設けることにより、着座者はこれらパッド部6、7との接触面積が広くなることによって前後方向溝11Aとの接触を感じにくくなる。
【0041】
例えば、
図12に示される荷重分布図では、膨出部が無い比較例の構造の場合には
図12(a)に示されるように、(I)通常の着座状態および(II)ロール荷重想定(アウター側傾き)状態のいずれの場合も、シートクッション2における前後方向溝11Aに対応する部分P1において荷重分布につながりがない部分(すなわち部分的に暗い線状の部分)が生じている。この
図12(a)の荷重分布図から、前後方向溝11Aの角部(縁部分)においてシートクッション2にかかる圧力の圧力差が局所的に大きい部分が生じていることが分かる。したがって、
図12(a)の荷重分布図によって、膨出部が無い場合には、着座者が前後方向溝11Aの角部との接触を感じて不快感が生じる度合いが大きくなることが実証されている。
【0042】
それに対し、本実施形態のように膨出部12を有する構造(
図2および
図4~7に示される構造)の場合には
図12(b)に示されるように、(I)通常の着座状態および(II)ロール荷重想定(アウター側傾き)状態のいずれの場合も、前後方向溝11Aに対応する部分P2において荷重分布につながりがあり圧力がほぼ一様な部分(すなわち、連続的につながった明るい部分)が生じている。この
図12(b)の荷重分布図から、前後方向溝11Aの内部に膨出部12が形成されていることにより、着座者との接触面積が広くなってシートクッション2にかかる圧力が分散していることが分かる。したがって、
図12(b)の荷重分布図によって、膨出部12が有る本実施形態の構造では、着座者が前後方向溝11Aの角部分との接触を感じず不快感が生じる度合いが小さくなることが実証さていれる。
【0043】
本実施形態では、
図4に示されるように、膨出部12の先端12aは、吊込み部13よりも前後方向溝11Aの底壁30の側(
図4における下方であり、底壁30に近い側)に配置されている。そのため、膨出部12からシートトリム8への圧力が緩和され、膨出部12によるシートトリム8の出っ張りが抑えられる。
【0044】
図4~7に示されるように、膨出部12に対向する前後方向溝11Aの側壁の上端には、膨出部12の先端12aよりも上方に突出する突部29が形成されている。
当該突部29により、前後方向溝11Aの両側において、座面パッド部6とサイドパッド部7の稜線をなめらかにつな
いでいる。そのため、自動車走行中のロール時に着座者にアウター側(サイドパッド部7側)に向かう荷重が作用したときなどにおいて、着座者の臀部が通常の乗車状態Mから前後方向溝11Aの周辺部に押し付けられた状態MFへシフトしたときに着座者の臀部が膨出部12および突部29の両方に同時に接触することが可能になる。その結果、膨出部12の接触による不快感を緩和することが可能になる。
【0045】
図4~7に示されるように、サイドパッド部7の上面および突部29の形状は、シートクッション2の前後方向Xの位置によって異なっているが、
図4~7のいずれにおいても座面パッド部6とサイドパッド部7の稜線をなめらかにつなぐような形状になっている。
【0046】
膨出部12の先端12aは、
図4に示されるように、吊込み部13と当該先端12aとの距離D1が吊込み部13と当該膨出部12に対向する溝の側壁32との距離D2よりも小さくなるように、配置されている。
【0047】
(シートバック3の説明)
シートバック3は、
図3および
図8~11に示されるように、複数のパッド部として複数の背面パッド部15および複数のサイドパッド部16を有するシートパッド14と、これらのパッド部15、16を覆うシートトリム17とを備えている。シートバック3のシートパッド14およびシートトリム17の材質は、シートクッション2のシートパッド5およびシートトリム8の材質と同じでもよいし、異なる材質であってもよい。
【0048】
サイドパッド部16は、背面パッド部15におけるシートバック3の幅方向Yの両側に配置されている。なお、本明細書では、シートバック3の幅方向は、シートクッション2の幅方向Yと同じ方向であるので「幅方向Y」と呼ぶ。隣接する背面パッド部15およびサイドパッド部16の間には、溝11の一種として、シートパッド14の自動車用シート1の幅方向Yを法線方向とする面Q(
図1参照)の面内方向である第1方向に延びる第1方向溝として、シートバック3の上下方向Zに延びる上下方向溝11Cが形成されている。
【0049】
また、
図3に示されるように、隣接する2つの背面パッド部15の間には、第1方向(上下方向Z)と異なる方向に延びる第2方向(
図3ではシートバック3の幅方向Y(具体的にはその内部のシートパッド14の幅方向))に延びる幅方向溝11Dが形成されている。
【0050】
シートトリム17は、背面パッド部15の上面を覆う背面シート部分18と、サイドパッド部16の上面を覆うサイドシート部分19と有する。
【0051】
隣接する背面シート部分18およびサイドシート部分19における互いに対向する端部同士が接合されることにより、吊込み部20が形成されている。吊込み部20は、上下方向溝11Cの内部に吊り込まれている。
【0052】
上下方向溝11Cの側壁(サイドパッド部16側の側壁)には、当該溝11Cを狭くする方向に膨らむ膨出部21が形成されている。膨出部21の高さも、例えば、
図4に示されるように膨出部12の高さと同程度に設定されればよく、具体的には上下方向溝11Cの幅が9mm程度の場合には膨出部21の高さを2~3mm程度に設定すればよい。この場合も、膨出部21の先端21aの部位では、上下方向溝11Cの幅が6~7mm程度まで狭くなる。膨出部21によって上下方向溝11Cの幅を部分的に狭くすることにより、該上下方向溝11Cの上を覆うシートトリム17における皺や浮きの発生を防止することが可能である。
【0053】
膨出部21は、上下方向溝11Cの内部において当該上下方向溝11Cの延びる方向(シートバック3の上下方向Z)に沿って連続的に延びる突条であり、滑らかな円弧状(R形状)の外形の断面を有する。例えば、膨出部21についても、上記の膨出部12と同様に、高さ2~3mm程度の場合には曲率半径が12~15mm程度の単一な円弧または複数の円弧を組み合わせた連続的な曲線状の外形の断面になるように形成される。
【0054】
また、本実施形態では、シートクッション2と同様に、シートバック3においても、膨出部21の先端21aは、吊込み部20よりも上下方向溝11Cの底壁31の側(
図8における下方であり、底壁31に近い側)に配置されている。そのため、膨出部21からシートトリム17への圧力が緩和され、膨出部21によるシートトリム17の出っ張りが抑えられる。
【0055】
図8~11に示されるように、膨出部21に対向する背面パッド部15の上下方向溝11C付近の部分の形状は、上下方向溝11Cの両側において、背面パッド部15とサイドパッド部16の稜線をなめらかにつなぐような形状になっている。そのため、自動車の走行中にロール時に着座者にアウター側(サイドパッド部16側)に向かう荷重が作用したときなどにおいて、着座者の背中が通常の乗車状態Mから上下方向溝11Cの周辺部に押し付けられた状態MFへシフトしたときに着座者の背中が膨出部21および背面パッド部15の両方に同時に接触することが可能になる。その結果、膨出部21の接触による不快感を緩和することが可能になる。
【0056】
図8~11に示されるように、上下方向溝11C両側の膨出部21および背面パッド部15の溝11C付近の部分の形状は、シートバック3の上下方向Zの位置によって異なっているが、
図8~11のいずれにおいても背面パッド部15とサイドパッド部16の稜線をなめらかにつなぐような形状になっている。
【0057】
膨出部21の先端21aは、
図8に示されるように、吊込み部20と当該先端21aとの距離D3が吊込み部20と当該膨出部21に対向する溝の側壁33との距離D4よりも小さくなるように、配置されている。
【0058】
また、
図3および
図13に示されるように、幅方向溝11Dの両端には、上下方向溝11CとT字状または十字状に交差する(合流する)交差部分25が形成されている。
【0059】
図15に示される幅方向溝11Dの深さは、交差部分25の近傍において他の部分の幅方向溝11D´と比較して、部分的に当該近傍以外の部分よりも浅くなるように設定されている。なお、
図2に示されるシートクッション2の幅方向溝11Bの深さも、交差部分28の近傍において部分的に当該近傍以外の部分よりも浅くなるように設定されている。
【0060】
また、
図14に示されるように、本実施形態では、交差部分25の内部に固定された吊込み部20が固定される固定対象として、リスティングワイヤ22が設けられている。リスティングワイヤ22は、上下方向溝11Cに沿って延びるように配置され、上下方向溝11Cの底壁に埋め込まれている。なお、吊込み部20が固定される固定対象としては、リスティングワイヤ22以外にも、交差部分25の内部に固定可能な部材であればよい。
【0061】
シートトリム17における背面シート部分18およびサイドシート部分19との吊込み部20は、交差部分25の内部において、吊込み部20を溝11C、11Dの交差部分25の内部に吊り込まれた状態で固定する固定部であるホグリング23および吊込み体24によって、交差部分25の奥端に向かう張力をかけた状態でリスティングワイヤ22に固定されている。これにより、吊込み部20は、交差部分25の奥端に向かって張力をかけられた状態で交差部分25の内部に保持される。
【0062】
吊込み体24は、薄いシート状の部材であり、吊込み部20にあらかじめ接続されている。この吊込み体24は、上下方向溝11Cの内部に引っ張られた状態でリスティングワイヤ22にホグリング23を用いて連結される。ホグリング23は、C字状の金属製リングであり、ホグリンガと呼ばれる取付工具を用いてリング状に閉じられることにより、吊込み体24とリスティングワイヤ22とを連結することが可能である。
【0063】
なお、
図2に示されるシートクッション2における前後方向溝11Aと幅方向溝11Bの交差部分28の内部においても、
図4に示される吊込み部13が、上記の吊込み部20と同様に、ホグリング23および吊込み体24によって、交差部分28の奥端に向かう張力をかけた状態でリスティングワイヤ22に固定されている。
【0064】
また、
図2~3の溝の交差部分25、28以外の位置においても、シートトリムの吊込み部13、20は上記のホグリング23および吊込み体24を用いてリスティングワイヤ22に固定される。例えば、
図4に示されるシートクッション2における前後方向溝11A内部において当該前後方向溝11Aの延びる方向に延びる吊込み部13、
図8に示されるシートバック3における上下方向溝11C内部において当該上下方向溝11Cの延びる方向に延びる吊込み部20、ならび、
図15に示されるシートバック3の幅方向溝11D(および
図2に示されるシートクッション2の幅方向溝11B)の内部において当該幅方向溝11D(および11B)の延びる方向に延びる吊込み部26などが、それぞれの溝11A~11Dの長手方向に離間した複数の箇所でホグリング23等を用いて溝11A~11Dの奥端に向かう張力をかけられた状態でリスティングワイヤ22に固定される。以上のようにして、上記の吊込み部13、20、26は、固定部であるホグリング23および吊込み体24によって、溝11A~11Dの内部に吊り込まれた状態で固定対象であるリスティングワイヤ22に固定されることが可能であるが、本発明の後述の変形例(B)~(D)のように他の部材を含む固定部を用いて、上記の吊込み部13、20、26を溝11A~11Dの内部に吊り込まれた状態で固定されてもよい。
【0065】
(本実施形態の特徴)
(1)
本実施形態の自動車用シート1は、溝11(溝11A~11D)が形成された少なくとも1つの(本実施形態では2つの)シートパッド5、14と、前記シートパッドを覆うシートトリム8、17とを備えたシートであって、前記シートトリム8、17は、前記溝11の内部に吊り込まれた吊込み部13、20を有し、前記溝11の側壁には、当該溝11を狭くする方向に膨らむ膨出部12、21が形成され、前記膨出部12、21の先端12a、21aは、前記吊込み部13、20よりも前記溝11の底壁側に配置されている。
【0066】
具体的には、本実施形態の自動車用シート1は、
図2および
図4~7に示されるシートクッション2と、
図3および
図8~11に示されるシートバック3とを備えている。
【0067】
シートクッション2およびシートバック3は、それぞれ、複数のパッド部6、7、15、16を有するシートパッド5、14と、複数のパッド部6、7、15、16を覆うシートトリム8、17とを備えている。隣接するパッド部6、7、15、16の間には、溝11(溝11A~11D)が形成されている。シートトリム8、17は、複数のパッド部6、7、15、16を個々に覆う複数のシート部分9、10、18、19を有する。隣接する2つのシート部分9、10、18、19における互いに対向する端部同士が接合されることにより、吊込み部13、20が形成されている。吊込み部13、20は、溝11A~11Dの内部に吊り込まれている。
【0068】
溝11A、11Cの側壁には、当該溝11A、11Cを狭くする方向に膨らむ膨出部12、21が形成されている。
【0069】
膨出部12、21の先端12a、21aは、吊込み部13、20よりも溝11A、11Cの底壁30、31の側(すなわち、溝11A、11Cの底壁30、31に近い側)に配置されている。
【0070】
かかる構成により、膨出部12、21の先端12a、21aは、吊込み部13、20よりも溝11A、11Cの底壁30、31の側に配置されているので、膨出部12、21からシートトリム8、17における吊込み部13、20よりも上方の部分であるシート部分9、10、18、19への圧力が緩和され、膨出部12、21によるシートトリム8、17の出っ張りを抑えることが可能である。その結果、膨出部12、21によるシートトリム8、17の形状確保を保ちながらシートの外観を向上することが可能になる。
【0071】
とくに車内の照明でシートトリム8、17の表面が照らされた場合においては、従来のシート構造(
図18の構造)ではシートトリムの出っ張りが光ってより浮き上がって目立つようになっていたが、それと比較して本実施形態ではシートトリム8、17の出っ張りが浮き上がって見えなくなり、照明の下では出っ張りがより目立ちにくくなるという利点がある。
【0072】
また、本実施形態では、シートクッション2の前後方向溝11Aの側壁から膨出部12を張り出すことにより、前後方向溝11A付近におけるシートクッション2と着座者との接触面積が広くなり、接触時の圧力が分散されるので、着座者が前後方向溝11Aの角部分に接触して不快になることがなくなる。
【0073】
さらに、膨出部12、21によって、シートパッド5、14のパッド部6、7、15、16間の溝11を狭くすることにより、従来のシート構造(
図18の構造)と同様に、シートクッション2およびシートバック3におけるシートトリム8、17の吊り皺や浮きの発生を抑えることも可能である。
【0074】
なお、上記実施形態では、膨出部12、21は、シートクッション2およびシートバック3のいずれの場合も、サイドパッド部7、16に形成されているが、本発明はこれに限定されるものではなく、座面パッド部6および背面パッド部15に形成されてもよい。
【0075】
(2)
本実施形態の自動車用シート1では、前記溝11は、前記シートパッド5、14における自動車用シート1の幅方向Yを法線方向とする面Q(
図1参照)の面内方向である第1方向に延びる第1方向溝(前後方向溝11A、上下方向溝11C)を含み、前記膨出部12、21は、前記第1方向溝の前記側壁に形成されていてもよい。
【0076】
上記のように、シートパッド5、14に形成された溝のうち、シートパッド5、14における自動車用シート1の幅方向Yを法線方向とする面Q(
図1参照)の面内方向である第1方向(前後方向X、上下方向Z)に延びる第1方向溝(前後方向溝11A、上下方向溝11C)によって形成されるシートトリム8、17の凹凸部分が自動車用シート1の前方を向いて着座した着座者から見えやすく、シートの外観にとくに影響を与えることを鑑みて、第1方向溝(前後方向溝11A、上下方向溝11C)に上記の膨出部12、21を形成することにより、第1方向溝11A,11Cにおける膨出部12、21によるシートトリム8、17の出っ張りが目立たなくなり、シートの外観が向上する。
【0077】
上記の自動車用シート1において、自動車用シート1が当該シートの前後方向Aに沿うように配置されたシートクッション2を備えた構成において、シートパッド5は、シートクッション2に含まれ、かつ、自動車用シート1の前後方向Xに延びるように配置され、前記第1方向溝は、前記第1方向である前記自動車用シート1の前後方向Xに延びる前後方向溝11Aを含み、前記膨出部12は、前記前後方向溝Xの前記側壁に形成されていてもよい。
【0078】
上記の自動車用シート1において、自動車用シート1が当該シート1の上下方向Zに沿うように配置されたシートバック3を備えた構成において、シートパッド14は、シートバック3に含まれ、かつ、自動車用シート1の上下方向Zに延びるように配置され、前記第1方向溝は、前記第1方向である前記自動車用シート1の上下方向Zに延びる上下方向溝11Cを含み、前記膨出部21は、前記上下方向溝11Cの前記側壁に形成されていてもよい。
【0079】
すなわち、本実施形態のように、自動車用シート1がシートクッション2およびシートバック3を含む構成では、第1方向溝としてシートクッション2の前後方向Xに延びる前後方向溝11Aおよびシートバック3の上下方向Zに延びる上下方向溝11Cによって形成されるシートトリム8、17の凹凸部分が着座者から見えやすく、自動車用シート1の外観にとくに影響を与えることを鑑みて、シートクッション2の前後方向Xに延びる前後方向溝11Aおよびシートバック3の上下方向Zに延びる上下方向溝11Cに上記の膨出部12、21を形成することにより、前後方向溝11Aおよび上下方向溝11Cにおける膨出部12、21によるシートトリム8、17の出っ張りが目立たなくなり、シートの外観が向上する。
【0080】
なお、膨出部12、21は、前後方向溝11Aまたは上下方向溝11Cのいずれか一方に形成されてもよい。
【0081】
さらに、本発明の変形例として、シートクッション2および/またはシートバック3の幅方向Yに延びる幅方向溝11B、11Dに膨出部を設けてシートの外観を向上する必要がある場合には、幅方向溝11B、11Dにも膨出部を設けてもよい。
【0082】
(3)
本実施形態の自動車用シート1では、溝11は、シートパッド5、14における自動車用シート1の幅方向Yを法線方向とする面Q(
図1参照)の面内方向である第1方向に延びる第1方向溝として、シートクッション2の前後方向Xに延びる前後方向溝11Aおよびシートバック3の上下方向Zに延びる上下方向溝11Cと、前記第1方向と異なる方向である第2方向に延びる第2方向溝として、シートクッション2およびシートバック3の幅方向Yに延びる幅方向溝11B、11Dとを有している。幅方向溝11B、11Dの両端には、各シートパッド5、14には、前後方向溝11Aおよび上下方向溝11Cと幅方向溝11B、11Dとが交差する交差部分25、28が形成されている。交差部分25、28の内部には、シートトリム8、17の吊込み部13、20が保持される。第2方向溝である幅方向溝11B、11Dの深さは、交差部分25、28の近傍において部分的に当該近傍以外の部分よりも浅くなるように設定されている。
【0083】
かかる構成により、シートクッション2およびシートバック3のシートパッド5、14における前後方向溝11Aおよび上下方向溝11Cと幅方向溝11B、11Dとの交差部分25、28近傍における幅方向溝11B、11Dを部分的に浅くすることにより、シートトリム8、17の吊込み部13、20が交差部分25、28の内部に保持される状態において交差部分25、28の近傍における第2方向溝である幅方向溝11B、11Dの開口縁における突部(土手)の沈み込み量が低減される。その結果、突部の沈み込みに起因するシートトリム8、17の皺の発生を抑制することが可能である。
【0084】
上記の自動車用シート1において、前記第2方向溝は、前記自動車用シート1の幅方向Yに延びる幅方向溝11B、11Dを含むのが好ましいが、本発明における第2方向溝は、第1方向溝と異なる方向であればよい。
【0085】
(4)
本実施形態の自動車用シート1では、前記吊込み部13、20は、前記交差部分25、28の奥端に向かって張力をかけられた状態で保持されている。
【0086】
かかる構成では、溝の交差部分25、28の内部において、シートトリム8、17の吊込み部13、20は、固定部であるホグリング23および吊込み体24によって、交差部分25、28の奥端に向かう張力をかけられた状態でリスティングワイヤ22に保持される。本構成では、交差部分25、28近傍における幅方向溝11B、11Dが浅くなることにより、シートトリム8、17の皺の発生が抑制されているので、シートトリム8、17の吊込み部13、20を交差部分25、28の奥端に向かって張力をかけられた状態で保持されても(具体的には、ホグリング23および吊込み体24によって溝の交差部分25、28の内部において、交差部分25、28の奥端に向かう張力をかけた状態でリスティングワイヤ22に連結しても)、シートトリム8、17の皺の発生を確実に抑制することが可能である。
【0087】
(5)
本実施形態の自動車用シート1では、吊込み部13、20に膨出部12、21の先端12a、21aは、吊込み部13、20と先端12a、21aとの距離D1、D3が吊込み部13、20と当該膨出部12、21に対向する溝11A、11Cの側壁32、33との距離D2、D4よりも小さくなるように、配置されている。
【0088】
かかる構成により、シートトリム8、17を膨出部12、21により近づけたカーブで張ることが可能になり、シートトリム8、17の吊り皺や浮きの発生をより抑えることが可能である。
【0089】
(変形例)
(A)
上記の実施形態では、本発明のシートの一例として、自動車用シートを例に挙げて説明しているが、本発明はこれに限定されるものではなく、シートパッドおよびシートトリムを有するシートであれば本発明のシートを広く適用することが可能である。本発明の変形例として、飛行機や鉄道などの乗り物に設置されるシート、または建物や家屋内に設置されるソファや革張りのチェアなども本発明におけるシートに含まれる。
【0090】
(B)
上記の実施形態では、シートトリムの吊込み部を溝の内部に吊り込まれた状態で固定する固定部の一例として
図14に示されるホグリング23を用いた例が開示されているが、本発明はこれに限定されるものではなく、固定部は、ホグリング、面ファスナ、およびクリップを含む群から選ばれた少なくとも1つを含むのが好ましい。これらホグリング等を含む固定部を用いれば、吊込み部または溝の内部に設置されたワイヤやリングなどの相手部材に容易に連結可能であり、吊込み部の固定作業が容易になる。とくに、面ファスナ(例えば、マジックテープやベルクロ(いずれも登録商標)など)の場合には、作業者は治具を用いずに自らの手で面ファスナをワイヤやリングなどの相手部材に容易に連結することが可能であり、吊込み部の固定作業が容易である。
【0091】
また、固定部として接着剤を用いてもよく、この場合も吊込み部を溝の内部に設置されたワイヤやリングなどの相手部材に容易に連結することが可能であり、吊込み部の固定作業が容易である。
【0092】
(C)
本発明の変形例として、固定部がクリップを含む場合としては、例えば、
図16(a)に示されるワイヤ27を上記の吊込み部13、20、26に直接連結または吊込み体24などを介して間接的に連結しておき、クリップ32を溝11A~11Dの底壁に設置すればよい。
【0093】
クリップ32は、先端部がU字状に曲がったフック部32aと、可撓性を有する抜け止め用のリップ部32bとを有する。
図16(a)~(c)に示されるように、吊込み部13、20、26に連結されたワイヤ27をクリップ32のフック部32aとリップ部32bの間に押し込むことにより、リップ部32bがフック部32aから離れる方向に弾性変形しながらワイヤ27が進行し、ワイヤ27をフック部32aに係合することが可能である。
図16(c)に示されるようにワイヤ27がフック部32aに係合した状態では、リップ部32bが初期位置まで復元してフック部32aに近接または当接するので、ワイヤ27がフック部32aから脱落しない。このように上記のクリップ32を用いれば、吊込み部を溝11A~11Dの内部に吊り込んだ状態で容易に固定することが可能である。また、ワイヤ27をクリップ32に押し込んで係合させるだけで吊込み部の固定が可能であるので、ロボットなどを用いた自動組立ても可能になる。
【0094】
なお、上記の
図16のワイヤ27およびクリップ32は逆の配置、すなわち、ワイヤ27を溝11A~11Dの底壁に設置し、クリップ32を吊込み部13、20、26に直接連結または吊込み体24などを介して間接的に連結してもよい。
【0095】
(D)
また、本発明の他の変形例である固定部がクリップを含む他の例として、
図17に示されるように、先端部35aに一対の係合突起35cを有するフック35の後端部35bを上記の吊込み部13、20、26に直接連結または吊込み体24などを介して間接的に連結しておき、クリップ34を溝11A~11Dの底壁に設置してもよい。クリップ34は、可撓性を有する一対の腕部34aと、それぞれの腕部34aの先端に設けられ、一対の腕部34aが向かい合う方向に突出する一対の係止部34bとを有する。吊込み部13、20、26に連結されたフック35をクリップ34の一対の係止部34bの間に押し込むことにより、一対の腕部34aが互いに離れる方向に弾性変形しながらフック35が進行し、フック35の一対の係止突起35cを一対の係止部34bに係合することが可能である。フック35の一対の係止突起35cが一対の係止部34bに係合した状態では、一対の腕部34aが初期位置に復元して一対の係止部34bの間隔が一対の係止突起35cの先端間の距離よりも小さくなるので、一対の係止突起35cが一対の係止部34bから脱落しない。このように上記のクリップ34を用いれば、吊込み部を溝11A~11Dの内部に吊り込んだ状態で容易に固定することが可能である。また、フック35をクリップ34に押し込んで係合させるだけで吊込み部の固定が可能であるので、ロボットなどを用いた自動組立ても可能になる。
【0096】
この場合も上記変形例(C)と同様に、
図17のフック35およびクリップ34についても逆の配置、すなわち、フック35を溝11A~11Dの底壁に設置し、クリップ34を吊込み部13、20、26に直接連結または吊込み体24などを介して間接的に連結してもよい。
【符号の説明】
【0097】
1 自動車用シート
2 シートクッション
3 シートバック
5、14 シートパッド
6 座面パッド部
7、16 サイドパッド部
8、17 シートトリム
9 座面シート部分
10 サイドシート部分
11 溝
11A 前後方向溝
11B、11D 幅方向溝
11C 上下方向溝
12、21 膨出部
12a、21a 先端
13、20、26 吊込み部
15 背面パッド部
18 背面シート部分
19 サイドシート部分
22 リスティングワイヤ
23 ホグリング(固定部)
24 吊込み体(固定部)
25、28 交差部分
27 ワイヤ
32、34 クリップ(固定部)
35 フック