IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人 鹿児島大学の特許一覧

<>
  • 特許-抗B型肝炎ウイルス剤 図1
  • 特許-抗B型肝炎ウイルス剤 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-06
(45)【発行日】2023-11-14
(54)【発明の名称】抗B型肝炎ウイルス剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/7076 20060101AFI20231107BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20231107BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20231107BHJP
   A61P 31/20 20060101ALI20231107BHJP
【FI】
A61K31/7076
A61P1/16
A61P35/00
A61P31/20
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019078616
(22)【出願日】2019-04-17
(65)【公開番号】P2020059692
(43)【公開日】2020-04-16
【審査請求日】2022-03-24
(31)【優先権主張番号】P 2018189216
(32)【優先日】2018-10-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504258527
【氏名又は名称】国立大学法人 鹿児島大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】稲生 佳菜子
(72)【発明者】
【氏名】濱田 智仁
(72)【発明者】
【氏名】岸川 洋介
(72)【発明者】
【氏名】池田 正徳
(72)【発明者】
【氏名】武田 緑
【審査官】辰己 雅夫
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/155082(WO,A1)
【文献】KIRBY Karen A. et al.,Effects of Substitutions at the 4' and 2 Positions on the Bioactivity of 4'-Ethynyl-2-Fluoro-2'-Deox,Antimicrobial Agents and Chemotherapy,2013年12月,Vol.57,P.6254-6264,特にAbstract, Fig.1, Fig.5, Disccusion
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K31/00-33/40
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2´-デオキシ-2´-フルオロ-β-2-フルオロ-D-アデノシン、又はその薬学的に許容される塩、或いはそれらの溶媒和物を有効成分として含有する、抗B型肝炎ウイルス剤。
【請求項2】
2´-デオキシ-2´-フルオロ-β-2-フルオロ-D-アデノシン、又はその薬学的に許容される塩、或いはそれらの溶媒和物を有効成分として含有する、B型肝炎ウイルス関連疾患の予防又は治療剤。
【請求項3】
前記B型肝炎ウイルス関連疾患が、B型肝炎、B型肝硬変、及びB型肝癌からなる群より選択される1種以上である、請求項2に記載の予防又は治療剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、核酸アナログを有効成分として含有する、抗B型肝炎ウイルス剤及びB型肝炎ウイルス関連疾患の予防又は治療剤に関する。
【背景技術】
【0002】
抗肝腫瘍ウイルス剤及び肝腫瘍ウイルス関連疾患の予防又は治療剤の有効成分として、例えば次式:
【化1】
(当該式中、Rは、フッ素又は水素である。)
で表される核酸アナログが知られている(特許文献1)。
肝炎ウイルスとして、B型肝炎ウイルス(HBV)、C型肝炎ウイルス(HCV)などが知られている。これらのうち、HBVについて、その生活環を図1に示す。HBVはヘパドナウイルス科オルソヘパドナウイルス属に属する不完全2本鎖のDNAウイルスである。HBVは細胞内に侵入すると核で完全2本鎖DNAを形成し、cccDNAとなる。DNAを鋳型として3.5、2.4、2.1、0.7kbのmRNAが転写されて、polymerase、HBcAg(Core)、HBsAg、Xタンパク質に翻訳される。3.5kbのpregenomic RNA(pgRNA)はCore、polymeraseと共にパッケージングされる。pgRNAがDNAに逆転写された後、ウイルス粒子は細胞外に放出される。HBVはレトロウイルスではないがpolymeraseに逆転写活性があるために、その治療にはHIV-1に対する逆転写酵素阻害剤が使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2017/155082号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示は、核酸アナログを有効成分として含有する、抗B型肝炎ウイルス剤及びB型肝炎ウイルス関連疾患の予防又は治療剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、次の態様を含む。
項1.
2´-デオキシ-2´-フルオロ-β-2-フルオロ-D-アデノシン若しくはそのプロドラッグ、又はそれらの薬学的に許容される塩、或いはそれらの溶媒和物を有効成分として含有する、抗B型肝炎ウイルス剤。
項2.
2´-デオキシ-2´-フルオロ-β-2-フルオロ-D-アデノシン若しくはそのプロドラッグ、又はそれらの薬学的に許容される塩、或いはそれらの溶媒和物を有効成分として含有する、B型肝炎ウイルス関連疾患の予防又は治療剤。
項3.
前記B型肝炎ウイルス関連疾患が、B型肝炎、B型肝硬変、及びB型肝癌からなる群より選択される1種以上である、項2に記載の予防又は治療剤。
【0006】
本開示は、さらに次の態様を含む。
・B型肝炎ウイルス関連疾患の予防又は治療用の医薬としての使用のための2´-デオキシ-2´-フルオロ-β-2-フルオロ-D-アデノシン若しくはそのプロドラッグ、又はそれらの薬学的に許容される塩、或いはそれらの溶媒和物。
・B型肝炎ウイルス関連疾患の予防又は治療用の医薬の製造のための2´-デオキシ-2´-フルオロ-β-2-フルオロ-D-アデノシン若しくはそのプロドラッグ、又はそれらの薬学的に許容される塩、或いはそれらの溶媒和物の使用。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、核酸アナログを有効成分として含有する、抗B型肝炎ウイルス剤及びB型肝炎ウイルス関連疾患の予防又は治療剤が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、HBVの生活環を示す図である。
図2図2は、実施例1の化合物と既存の抗B型肝炎ウイルス剤で細胞外HBs抗原の相対量を比較したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本開示の前記概要は、本開示の各々の開示された実施形態または全ての実装を記述することを意図するものではない。
本開示の後記説明は、実例の実施形態をより具体的に例示する。
本開示のいくつかの箇所では、例示を通してガイダンスが提供され、及びこの例示は、様々な組み合わせにおいて使用できる。
それぞれの場合において、例示の群は、非排他的な、及び代表的な群として機能できる。
本明細書で引用した全ての刊行物、特許及び特許出願はそのまま引用により本明細書に組み入れられる。
【0010】
用語
本明細書中の記号及び略号は、特に限定のない限り、本明細書の文脈に沿い、本発明が属する技術分野において通常用いられる意味に理解できる。
本明細書中、語句「含有する」は、語句「から本質的になる」、及び語句「からなる」を包含することを意図して用いられる。
特に限定されない限り、本明細書中に記載されている工程、処理、又は操作は、室温で実施され得る。
本明細書中、室温は、10~40℃の範囲内の温度を意味することができる。
本明細書中、表記「Cn-m」(ここで、n、及びmは、それぞれ、数である。)は、当業者が通常理解する通り、炭素数がn以上、且つm以下であることを表す。
本明細書中、ハロゲン原子の例は、フッ素、塩素、臭素、及びヨウ素を包含する。
本明細書中、アルキル基の例は、直鎖状又は分岐鎖状C1-20アルキル[例:メチル、エチル、プロピル(n-プロピル、i-プロピル)、ブチル(n-ブチル、s-ブチル、i-ブチル、t-ブチル)、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、2-エチルヘキシル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、トリデシル、テトラデシル、ペンタデシル、ヘキサデシル、ヘプタデシル、及びオクタデシル]を包含する。
本明細書中、シクロアルキル基の例は、C3-10シクロアルキル[例:シクロペンチル、及びシクロヘキシル]を包含する。
本明細書中、アリール基の例は、C6-10アリール[例:フェニル、及びナフチル]を包含する。
本明細書中、アラルキル基の例は、C6-10アリール-直鎖状又は分岐鎖状C1-10アルキル[例:ベンジル、及びフェネチル]を包含する。
本明細書中、アルコキシ基の例は、直鎖状又は分岐鎖状C1-10アルキルオキシ[例:メトキシ、エトキシ、及びプロポキシ]を包含する。
本明細書中、アルコキシアルコキシ基の例は、直鎖状又は分岐鎖状C1-20アルキルオキシ-直鎖状又は分岐鎖状C1-4アルキルオキシ[例:メトキシメトキシ、メトキシエトキシ、エトキシエトキシ、ヘキサデシルオキシプロポキシ、及びオクタデシルオキシエトキシ]を包含する。
本明細書中、アシルオキシ基の例は、直鎖状又は分岐鎖状C1-10アルキルカルボニルオキシ[例:メチルカルボニルオキシ、エチルカルボニルオキシ、及びプロピルカルボニルオキシ]を包含する。
前記アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルコキシ基、アルコキシアルコキシ基、アシルオキシ基、及びステロイド基がそれぞれ有していてもよい置換基の例は、
ハロゲン、及び有機基を包含し、及び
その好適な例は、
フッ素、塩素、臭素、アルコキシ、アルキルカルボニルオキシ、アルキルカルボニルチオ、アルキルオキシカルボニル、及びアルキルジチオ
を包含し、及び
その更に好適な例は、
ハロゲン、直鎖状又は分岐鎖状C1-20アルキルオキシ、直鎖状又は分岐鎖状C1-10アルキルカルボニルオキシ、直鎖状又は分岐鎖状C1-10アルキルカルボニルチオ、直鎖状又は分岐鎖状C1-10アルキルオキシカルボニル、及び直鎖状又は分岐鎖状C1-10アルキルジチオを包含する。
【0011】
抗B型肝炎ウイルス剤
本開示において「抗B型肝炎ウイルス剤」とは、B型肝炎ウイルスの増殖を遅延させる、又は抑制する剤を意味する。
前記B型肝炎ウイルスは、既存の抗B型肝炎ウイルス剤(例:エンテカビル、テノホビル、アデホビルピボキシル)に対して、耐性を有する株であってもよい。
抗B型肝炎ウイルスに対する「耐性を有する株」とは、その抗B型肝炎ウイルス剤によって通常の株について発現する増殖遅延又は増殖抑制の効果が、発現しない株、又はその効果発現の程度が通常の株に比べて低い株を意味する。
本開示の一実施態様の抗B型肝炎ウイルス剤は、2´-デオキシ-2´-フルオロ-β-2-フルオロ-D-アデノシン[別名:(2R,3R,4S,5R)-5-(6-アミノ-2-フルオロ-9H-プリン-9-イル)-4-フルオロ-2-(ヒドロキシメチル)テトラヒドロフラン-3-オール]若しくはそのプロドラッグ、又はそれらの薬学的に許容される塩、或いはそれらの溶媒和物を有効成分として含有する抗B型肝炎ウイルス剤である。
【0012】
<2´-デオキシ-2´-フルオロ-β-2-フルオロ-D-アデノシン>
2´-デオキシ-2´-フルオロ-β-2-フルオロ-D-アデノシンの製造方法は、特に限定されるものではないが、例えば、
次式(I):
【化2】
(式中、Q及びQは、同一又は異なって、ヒドロキシル基の保護基であり、Xは、臭素又はヨウ素である。)
で表される化合物を2-フルオロアデニンと反応させる工程A、及び
前記反応により得られた生成物のヒドロキシル基の保護基を脱保護する工程B
を含む方法であることができる。
【0013】
[工程A]
式(I)において、Q及びQは、それぞれ、ヒドロキシル基を保護することが可能な官能基であれば特に制限されず、及びその例は、エーテル型保護基(例:t-ブチル、ベンジル、トリチル)、アセタール型保護基(例:テトラヒドロピラニル)、アシル型保護基(例:アセチル、ベンゾイル)、及びシリルエーテル型保護基(例:t-ブチルジメチルシリル等)を包含する。
式(I)で表される化合物、及び2-フルオロアデニンの各使用量は、反応が進行する限り、特に限定はないが、式(I)で表される化合物、及び2-フルオロアデニンのモル比は、例えば1:1~1:5の範囲内であることができる。
工程Aの反応は、通常、塩基の存在下で行われる。当該塩基は、好ましくは非求核塩基であり、その例は、金属アルコキシド(例:t-ブトキシナトリウム、及びt-ブトキシカリウム)を包含する。
工程Aの反応は、通常、溶媒中で行われる。
当該溶媒の例は、
ハロゲン系溶媒(例:ジクロロメタン、クロロホルム、ジクロロエタン)、
アルコール系溶媒(例:エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール)、
ニトリル系溶媒(例:アセトニトリル)、及び
これらの混合溶媒
を包含する。
工程Aの反応温度は、反応が進行する限り、特に限定されるものではないが、例えば15~80℃の範囲内の温度であることができる。
工程Aの反応時間としては、目的物が十分に得られる時間を採用でき、及び反応が終了するまで実施できる。
【0014】
[工程B]
工程Aの反応により得られた生成物のヒドロキシ基の保護基を脱保護する方法及び条件は、保護基の種類に応じて適宜選択することができ、例えばベンゾイル基であれば、金属アルコキシド(ナトリウムメトキシド等)との反応等により脱保護することができる。
工程Bの反応温度は、反応が進行する限り、特に限定されるものではないが、例えば15~80℃の範囲内の温度であることができる。
工程Bの反応時間としては、目的物が十分に得られる時間を採用でき、及び反応が終了するまで実施できる。
【0015】
工程A及びBの反応により得られた生成物は、所望により、ろ過、カラムクロマトグラフィー等の手法により精製してもよい。
【0016】
式(I)で表される化合物の製造方法は、特に限定されるものではないが、例えば、次式(II):
【化3】
(式中、Q及びQは、それぞれ、前記と同意義であり、及びQは、ヒドロキシル基の保護基である。)
で表される化合物を、臭化水素又はヨウ化水素と反応させる工程を含む方法であることができる。
式(II)で表される化合物、及び臭化水素又はヨウ化水素の各使用量は、反応が進行する限り特に限定されないが、式(II)で表される化合物、及び臭化水素又はヨウ化水素のモル比は、例えば1:1~1:5の範囲内である。
式(II)で表される化合物、及び臭化水素又はヨウ化水素の反応は、通常、溶媒中で行われる。
当該溶媒の例は、ハロゲン系溶媒(例:ジクロロメタン、クロロホルム、ジクロロエタン)、カルボン酸系溶媒(例:酢酸)、及びこれらの混合溶媒を包含する。
反応温度は、反応が進行する限り、特に限定されるものではないが、例えば15~30℃の範囲内の温度であることができる。
【0017】
<プロドラッグ>
2´-デオキシ-2´-フルオロ-β-2-フルオロ-D-アデノシンのプロドラッグは、生体内で、その活性代謝物又は2´-デオキシ-2´-フルオロ-β-2-フルオロ-D-アデノシンに変換され得るものであれば特に制限されず、核酸アナログのプロドラッグとして利用されているものを任意に使用できる。
当該プロドラッグの代表的な例は、エステル、及びエステルアミドを包含する。
前記エステルの例は、リン酸エステルを包含する。その好適な例は、次式:
【化4】
(式中、R及びRは、同一又は異なって、水素原子、1個以上の置換基を有していてもよいアルキル基、1個以上の置換基を有していてもよいシクロアルキル基、1個以上の置換基を有していてもよいアリール基、又は1個以上の置換基を有していてもよいアラルキル基であるか;或いは、互いに結合して、当該構造式中のリン酸エステル部を構成するリン原子及び酸素原子と共に、環を形成する。)
で表されるリン酸モノエステル、及び次式:
【化5】
(式中、
、及び各出現におけるRは、同一又は異なって、水素原子、1個以上の置換基を有していてもよいアルキル基、1個以上の置換基を有していてもよいシクロアルキル基、1個以上の置換基を有していてもよいアリール基、又は1個以上の置換基を有していてもよいアラルキル基であり、
は、1個以上の置換基を有していてもよいアルキル基、1個以上の置換基を有していてもよいアルコキシ基、1個以上の置換基を有していてもよいアルコキシアルコキシ基、1個以上の置換基を有していてもよいアシルオキシ基、又は1個以上の置換基を有していてもよいステロイド基(シクロペンタフェナントレイン又は水素化シクロペンタフェナントレインを含有する基)であり、及び
nは、1、又は2である。)
で表されるリン酸ジ-又はトリ-エステルを包含する。
は、好ましくは、1個以上の置換基を有していてもよいアルキル基であり、さらに好ましくは、アルコキシ、アルキルカルボニルオキシ、アルキルカルボニルチオ、及びアルキルジチオからなる群より選択される置換基を有していてもよいアルキル基である。
は、好ましくは、水素原子、1個以上の置換基を有していてもよいアルキル基、1個以上の置換基を有していてもよいアリール基、又は1個以上の置換基を有していてもよいアラルキル基であり、さらに好ましくは、水素原子、アルキル基、アリール基、又はアラルキル基である。
及びRが、互いに結合して、リン酸エステル部を構成するリン原子及び酸素原子と共に形成する前記環は、単環又は縮合環であることができる。
前記環の構成原子数は、例えば6~10の範囲内の整数である。
前記環の具体例は、次式:
【化6】
で表される環を包含する。
前記環は、1個以上の置換基を有していてもよい。当該置換基の例は、ハロゲン、アルキル、シクロアルキル、アリール、及びアラルキルを包含する。
及びRは、好ましくは、水素原子、1個以上の置換基を有していてもよいアルキル基、1個以上の置換基を有していてもよいアリール基、又は1個以上の置換基を有していてもよいアラルキル基であり、さらに好ましくは、水素原子、アルキル基、アリール基、又はアラルキル基である。
は、好ましくは、アルキル基、アルコキシ基、アルコキシアルコキシ基、アシルオキシ基、又はステロイド基である。
前記エステルアミドの具体例は、例えばリン酸エステルアミドを包含する。その好適な例は、次式:
【化7】
(式中、
は、-NR8a8b、又は-OR8cであり、及び
、R、R8a、R8b、及びR8cは、同一又は異なって、水素原子、1個以上の置換基を有していてもよいアルキル基、1個以上の置換基を有していてもよいシクロアルキル基、1個以上の置換基を有していてもよいアリール基、又は1個以上の置換基を有していてもよいアラルキル基である。)
で表される化合物を包含する。
及びR8aは、好ましくは、1個以上の置換基を有していてもよいアルキル基であり、さらに好ましくは、ハロゲン及びアルキルオキシカルボニルからなる群より選択される置換基を有していてもよいアルキル基である。
及びR8bは、好ましくは、水素原子、又は1個以上の置換基を有していてもよいアルキル基であり、さらに好ましくは、水素原子、又はアルキル基である。
8cは、好ましくは、水素原子、1個以上の置換基を有していてもよいアルキル基、1個以上の置換基を有していてもよいアリール基、1個以上の置換基を有していてもよいアリール基、1個以上の置換基を有していてもよいアラルキル基であり、さらに好ましくは、水素原子、アルキル基、アリール基、又はアラルキル基である。
【0018】
前記プロドラッグの更に好適な例は、次式で表される化合物を包含する。
【化8】
(式中、
1a、R6a、及びR8dは、それぞれ、アルキル基であり、
1bは、ハロゲン、又はアルキル基であり、
、及びRは、前記と同意義であり、
Arは、アリール基であり、
Nuは、次式:
【化9】
で表される基であり、
m1は、1~18の範囲内の整数であり、及び
m2は、1~10の範囲内の整数である。)
前記プロドラッグの製造は、その化学構造に応じて、公知の方法(例えばChemical Reviews 2014, 114, 9154-9218に記載の方法)を参照して、技術常識に基づき、実施可能である。
【0019】
<塩>
2´-デオキシ-2´-フルオロ-β-2-フルオロ-D-アデノシン若しくはそのプロドラッグの薬学的に許容される塩の例は、
(1)無機酸[例:塩酸、硫酸、リン酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硝酸、ピロ硫酸、及びメタリン酸等]との塩;及び
(2)有機酸[例:クエン酸、安息香酸、酢酸、プロピオン酸、フマル酸、マレイン酸、及びスルホン酸(例:メタンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、及びナフタレンスルホン酸)]との塩;並びに
(3)アルカリ金属塩[例:ナトリウム塩、及びカリウム塩]
を包含する。
【0020】
<溶媒和物>
2´-デオキシ-2´-フルオロ-β-2-フルオロ-D-アデノシン若しくはそのプロドラッグ、又はそれらの薬学的に許容される塩の溶媒和物の例は、水和物、及び有機溶媒和物(例:メタノール和物、エタノール和物、ジメチルスルホキシド和物等)を包含する。
【0021】
<他の活性成分>
抗B型肝炎ウイルス剤は、更に他の活性成分を含有し得る。
当該「他の活性成分」の例は、他の核酸アナログ(2´-デオキシ-2´-フルオロ-ヌクレオシド等)、及び他の抗B型肝炎ウイルス剤を包含する。
抗B型肝炎ウイルス剤は、2種以上の製剤を含有してもよい。
2´-デオキシ-2´-フルオロ-β-2-フルオロ-D-アデノシン若しくはそのプロドラッグ、又はそれらの薬学的に許容される塩、或いはそれらの溶媒和物は、当該「他の活性成分」とは、それぞれ、別々の製剤へ製剤化されてもよい。
2´-デオキシ-2´-フルオロ-β-2-フルオロ-D-アデノシン若しくはそのプロドラッグ、又はそれらの薬学的に許容される塩、或いはそれらの溶媒和物は、当該「他の活性成分」と同時に、逐次的に、又は交互に対象に投与してもよい。
【0022】
<有効成分の含有量>
有効成分の含有量の下限値は、活性の点から、抗B型肝炎ウイルス剤の全質量に対して、例えば0.001質量%、好ましくは0.01質量%、より好ましくは0.05質量%に設定することができる。有効成分の含有量の上限値は、特に限定されないが、抗B型肝炎ウイルス剤の全質量に対して、例えば99.99質量%、好ましくは90質量%、より好ましくは80質量%に設定することができる。有効成分の含有量は、前記下限値及び上限値を任意に選択した範囲内、例えば0.001~99.99質量%、好ましくは0.01~90質量%、より好ましくは0.05~80質量%の範囲内であることができる。
【0023】
<添加剤>
抗B型肝炎ウイルス剤は、薬学的に許容される添加剤を含有し得る。
抗B型肝炎ウイルス剤の形態の例は、固形製剤(例:顆粒剤、散剤、錠剤、カプセル剤、ドライシロップ剤)、半固形製剤(例:クリーム剤、軟膏剤、ゲル剤)、及び液体製剤(例:溶液剤、懸濁剤)を包含する。
前記固形製剤は、例えば、有効成分及び添加剤(例:賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着色剤)を混合し、及び所望により、造粒、整粒、圧縮、及び/又はコーティングすることにより製造することができる。
前記賦形剤の例は、乳糖、乳糖水和物、ショ糖、マンニトール、ソルビトール、結晶セルロース、デンプン(例:コーンスターチ)、含水二酸化ケイ素、並びにこれらの組み合わせを包含する。
前記結合剤の例は、寒天、アラビアゴム、ヒアルロン酸、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、並びにこれらの組み合わせを包含する。
前記崩壊剤の例は、アルギン酸、カルボキシメチルセルロース(カルメロース)、クロスカルメロースナトリウム、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドン(ポビドン)、クロスポビドン、並びにこれらの組み合わせを包含する。
前記滑沢剤の例は、ステアリン酸、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、タルク、並びにこれらの組み合わせを包含する。
前記着色剤の例は、三二酸化鉄、酸化チタン、並びにこれらの組み合わせを包含する。 前記半固形製剤は、例えば、有効成分、半固形担体、及び所望による他の添加剤を混合することにより製造することができる。
前記液体製剤は、例えば、有効成分、液状担体[例:水性担体(例:精製水)、油性担体]、及び所望による他の添加剤(例:乳化剤、分散剤、懸濁剤、緩衝剤、抗酸化剤、界面活性剤、浸透圧調節剤、キレート剤、抗菌剤)を混合し、及び必要により滅菌することにより、製造できる。
【0024】
<投与の形態>
抗B型肝炎ウイルス剤の投与方法は、経口投与又は非経口投与(例:静脈投与、筋肉投与、皮下投与)であることができる。
抗B型肝炎ウイルス剤の投与方法は、局所投与であってもよい。
抗B型肝炎ウイルス剤の投与対象は、ヒト、非ヒト哺乳動物(例:サル、ヒツジ、イヌ、マウス、ラット)、及び非哺乳動物のいずれであってもよい。
抗B型肝炎ウイルス剤の投与回数は、投与対象の年齢、体重、病状等に応じて適宜選択することができ、例えば1日に1回、2回、若しくは3回、2日に1回、3日に1回、4日に1回、5日に1回、6日に1回、又は1週間に1回であることができる。
抗B型肝炎ウイルス剤の1回の投与量は、投与対象及び投与回数等に応じて、0.1mg~1000mgの範囲内であることができる。
抗B型肝炎ウイルス剤の好適な例は、経口投与製剤であり、その具体例は、
有効成分、結晶セルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポビドン、ステアリン酸マグネシウム、及び酸化チタンを含む錠剤;及び
硬ゼラチンカプセルに、有効成分、ポビドン、及びステアリン酸マグネシウムが含まれるカプセル剤
を包含する。
【0025】
B型肝炎ウイルス関連疾患の予防又は治療剤
「B型肝炎ウイルス関連疾患」とは、B型肝炎ウイルスの感染に起因して発症する疾患を意味する。B型肝炎ウイルス関連疾患は、例えば、B型肝炎(例:B型急性肝炎、B型慢性肝炎)、B型肝硬変、及びB型肝癌からなる群より選択される1種以上であることができる。
本開示の一実施態様のB型肝炎ウイルス関連疾患の予防又は治療剤は、2´-デオキシ-2´-フルオロ-β-2-フルオロ-D-アデノシン若しくはそのプロドラッグ、又はそれらの薬学的に許容される塩、或いはそれらの溶媒和物を有効成分として含有する。
前記予防又は治療剤に含まれ得る他の活性成分及び添加剤、並びに、前記予防又は治療剤の剤形、投与の形態(例:投与経路、投与対象、投与回数、及び投与量)は、例えば前記抗B型肝炎ウイルス剤について述べたものから選択することができる。
【0026】
B型肝炎ウイルスの増殖を遅延又は抑制する方法、或いは、B型肝炎ウイルス関連疾患を予防又は治療する方法
本開示の一実施態様のB型肝炎ウイルスの増殖を遅延又は抑制する方法、或いは、B型肝炎ウイルス関連疾患を予防又は治療する方法は、2´-デオキシ-2´-フルオロ-β-2-フルオロ-D-アデノシン若しくはそのプロドラッグ、又はそれらの薬学的に許容される塩、或いはそれらの溶媒和物を、その必要において対象に投与する工程を含む。
その投与の形態(例:投与経路、投与対象、投与回数、及び投与量)は、例えば前記抗B型肝炎ウイルス剤について述べたものから選択することができる。
【実施例
【0027】
以下、実施例によって本開示の一実施態様を更に詳細に説明するが、本開示はこれに限定されるものではない。
【0028】
実施例1(合成例)
(1)
2-Deoxy-2-fluoro-1,3,5-tri-O-benzoyl-α-D-arabinofuranose 2gをジクロロメタン20mLに溶解させ、臭化水素酢酸溶液(5.1mol/L)を4mL加え、攪拌した。反応終了後、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を加えて未反応のHBrを中和した。
その後、分液し、ジクロロメタンで抽出した溶液を濃縮し、1.7gの1-Bromo-2-deoxy-2-fluoro-3,5-di-O-benzoyl-α-D-arabinofuranoseの粗体を得た。
これを次工程に用いた。
(2)2-フルオロアデニンとの反応
2-フルオロアデニン1gをt-アミルアルコール:アセトニトリルの共溶媒に分散させた。
これへ、t-ブトキシカリウムを加え、50℃に加温して、しばらく撹拌して溶解させた。
これへ、アセトニトリルに溶解させた1-Bromo-2-deoxy-2-fluoro-3,5-di-O-benzoyl-α-D-arabinofuranose 粗体1.7gを滴下して、反応させた。
反応終了後、ジクロロエタンで希釈して固体成分を濾過した後に、濾液を濃縮し、及びカラムクロマトグラフィーにて精製した。
反応成績体(2'-deoxy-2'-fluoro-3',5'-di-O-benzoyl-β-2-fluoro-D-adenosine)を200mg得た。
(3)脱保護
2'-deoxy-2'-fluoro-3',5'-di-O-benzoyl-β-2-fluoro-D-adenosine 100mgをメタノールに溶解させ、ナトリウムメトキシドを10mg加えて撹拌した。
反応終了後、反応生成物をプレパラティブTLCにて精製し、60mgの2'-deoxy-2'-fluoro-β-2-fluoro-D-adenosine(次式)を得た。
【化10】
1H NMR (400 MHz, ACETONE-D6) δ 8.14-8.19 (m, 1H), 7.08 (br, 2H), 6.36 (dd, J = 15.3, 4.3 Hz, 1H), 5.14-5.29 (m, 2H), 4.61-4.68 (m, 1H), 4.29(br, 1H)3.71-3.99 (m, 3H)
【0029】
比較例1(合成例)
実施例1の工程(2)において、2-フルオロアデニンの代わりに2,6-ジクロロプリンを用いる点を除き、実施例1と同様に操作し、2,6-dichloro-9-((2R,3S,4R,5R)-3-fluoro-4-hydroxy-5-(hydroxymethyl)tetrahydrofuran-2-yl)-9H-purine(次式)を得た。
【化11】
1H NMR (400 MHz, DMSO-D6) δ 8.53 (s, 1H), 6.41 (dd, J = 12.3, 4.6 Hz, 1H), 5.97 (s, 1H), 5.25 (dt, J =52.8, 4.6 Hz, 1H), 5.09 (t, J = 5.5 Hz, 1H), 4.38-4.43 (m, 1H), 3.81-3.91 (m, 1H), 3.58-3.68 (m, 2H)
【0030】
試験例1(抗HBV活性)
抗HBV活性の評価は、ヒト肝癌細胞株HepG2にHBVゲノムの2倍長の遺伝子を導入したHBV産生細胞であるHepG2.2.15細胞株を用いて、薬剤添加後7日目の細胞内HBV DNA量を定量的PCR法にて評価した。HBV DNAのPCRではForward primer(HBV-S190F; 5'-GCT CGT GTT ACA GGC GGG-3’:配列番号1)とReverse primer(HBV-S703R; 5'-GAA CCA CTG AAC AAA TGG CAC TAG TA-3':配列番号2)を用いた。PCRは95℃10sec to 62℃ 10sec to 72℃30secを1反応として35 Cycle実施した。
具体的には、HepG2.2.15細胞を1×105 cell/wellになるように播種した。24時間後に、実施例1及び比較例1の化合物を0、0.49、0.97、1.95、3.90、7.81、15.6、31.3、62.5、125、250、500、1000nMになるように希釈して前記細胞に添加した。前記細胞を7日間培養した後、細胞質画分を回収し、フェノール・クロロホルム抽出にてDNAを精製した。精製されたDNA 20ngを使用して細胞内HBV DNA量を定量的PCR法にて測定した。
【0031】
試験例2(HBs抗原量)
HBs抗原量は、ヒト肝癌細胞株HepG2にHBVゲノム長の2倍長の遺伝子を導入したHBV産生細胞であるHepG2.2.15を用いて、薬剤添加後4日目の培養上清をCLIA法(chemiluminescent immunoassay:化学発光免疫測定法)によって測定した。
【0032】
試験例3(細胞毒性試験)
HepG2 NTCP-myc細胞は2x104 cell/wellになるように播種した。24時間後に、薬剤を0、0.49、0.97、1.95、3.90、7.81、15.6、31.3、62.5、125、250、500、1000nMになるように希釈して前記細胞に添加した。HepG2 NTCP-myc細胞は7日間培養した。培養後、Premix WST-1 Cell Proliferation Assay System (TaKaRa)を10μl添加して37℃で2時間培養後、450nmでマイクロプレートリーダーを用いて吸光度を測定した。
【0033】
試験例1~3の結果
1.抗HBV活性
EC50(50%有効濃度)は、化合物の濃度及び抗HBV活性の関係を示すグラフから算出した。
【表1】
表1から、実施例1の化合物は、比較例1の化合物に比べて著しく高い抗HBV活性を有することが分かる。
【0034】
2.HBs抗原量
HBs抗原量の測定結果を図2に示す。図2から、実施例1の化合物は、既存の抗B型肝炎ウイルス剤(エンテカビルおよびテノホビルジソプロキシルフマル酸塩)に比べて、HBs抗原量が顕著に低減していることが分かる。
【0035】
3.細胞毒性
CC50(50%細胞毒性濃度)は、化合物の濃度及び細胞毒性の関係を示すグラフから算出した。
【表2】
表2から、実施例1の化合物の細胞毒性は低いことが分かる。
【0036】
4.SI値(Selectivity Index)
医薬品としての利用可能性の指標となるSI値は、細胞毒性濃度(CC50)を有効濃度(EC50)で除することにより算出した。つまり、SI=CC50/EC50である。
【表3】
表3から、実施例1の化合物は、SI値が大きい(医薬品としての利用可能性が高い)ことが分かる。
図1
図2
【配列表】
0007378764000001.app