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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-06
(45)【発行日】2023-11-14
(54)【発明の名称】トコフェロール類含有乳化組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 9/107 20060101AFI20231107BHJP
   A61P 3/02 20060101ALI20231107BHJP
   A61K 47/34 20170101ALI20231107BHJP
   A61K 47/14 20170101ALI20231107BHJP
   A61K 47/10 20170101ALI20231107BHJP
   A61K 31/355 20060101ALI20231107BHJP
   A23L 33/15 20160101ALI20231107BHJP
【FI】
A61K9/107
A61P3/02 109
A61K47/34
A61K47/14
A61K47/10
A61K31/355
A23L33/15
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019180123
(22)【出願日】2019-09-30
(65)【公開番号】P2021054755
(43)【公開日】2021-04-08
【審査請求日】2022-06-22
(73)【特許権者】
【識別番号】592007612
【氏名又は名称】横浜油脂工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000774
【氏名又は名称】弁理士法人 もえぎ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】柴田 光香
【審査官】吉森 晃
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-056816(JP,A)
【文献】特開2006-129841(JP,A)
【文献】国際公開第2019/172454(WO,A1)
【文献】化粧品成分オンライン、化粧品配合成分「オレイン酸ポリグリセリル-10」の総合レポート,2023年02月20日,[検索日2023年5月9日],URL:https://cosmetic-ingredients.org/surfactants-emulsifying-agents/4139/
【文献】化粧品成分オンライン、化粧品配合成分「オレイン酸ポリグリセリル-5」の総合レポート,2022年12月17日,[検索日2023年5月9日],URL:https://cosmetic-ingredients.org/surfactants-emulsifying-agents/6509/
【文献】化粧品成分オンライン、化粧品配合成分「ラウリン酸ポリグリセリル-10」の総合レポート,2023年02月20日,[検索日2023年5月9日],URL:https://cosmetic-ingredients.org/surfactants-emulsifying-agents/4137/
【文献】化粧品成分オンライン、化粧品配合成分「ミリスチン酸ポリグリセリル-6」の総合レポート,2022年12月20日,[検索日2023年5月9日],URL:https://cosmetic-ingredients.org/surfactants-emulsifying-agents/12563/
【文献】化粧品成分オンライン、化粧品配合成分「ミリスチン酸ポリグリセリル-10」の総合レポート,2023年02月20日,[検索日2023年5月9日],URL:https://cosmetic-ingredients.org/surfactants-emulsifying-agents/4138/
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 9/107
A61P 3/02
A61K 47/34
A61K 47/14
A61K 47/10
A61K 31/355
A23L 33/15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
A:油溶性成分としてトコフェロール類及び中鎖脂肪酸トリグリセリド、B:2種以上のポリグリセリン脂肪酸エステル、C:水相成分、を含有し
前記Aのトコフェロール類の含有量が、組成物全体に対して20~30質量%であり、
前記Bのポリグリセリン脂肪酸エステルの平均重合度が、5以上であるトコフェロール類含有乳化組成物。
【請求項2】
Bのポリグリセリン脂肪酸エステルのHLBが11以上16以下である請求項1に記載のトコフェロール類含有乳化組成物。
【請求項3】
Cの水相成分に、環状構造を取らない直鎖型多価アルコールを含む請求項1または2に記載のトコフェロール類含有乳化組成物。
【請求項4】
乳化粒子径が200nm未満である請求項1~のいずれか1項に記載のトコフェロール類含有乳化組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難水溶性のトコフェロール類を容易に且つ経済的に水溶化しうるトコフェロール類含有乳化組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
トコフェロール類は栄養の補給や酸化防止剤として広く利用されているが、水溶性が低く、飲料等にそのまま添加することは困難である。
【0003】
この問題を解決する方法として、特許文献1並びに特許文献2では、トコフェロール類を油分として用い、ポリグリセリン脂肪酸エステル等の乳化剤を用いて高濃度のトコフェロール類製剤を調製する方法が開示されているが、いずれの技術も油分バランスが限定されているため、製剤の乳化安定性が不十分である。
【0004】
特許文献3では、多価アルコールとして、D-ソルビトールやデンプン分解物等の糖類を使用する方法が開示されているが、乳化安定性の面でいずれも不十分であるとともに糖類使用のため、飲食物への応用範囲が限定されてしまう。
【0005】
さらに、特許文献4では、乳化剤を用いてトコフェロールを水溶化した製剤が開示されているが、これは煮干しの酸化防止に用いるものであり、飲食物へ直接添加した際の溶解性や安定性等が考慮されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2015-119647号公報
【文献】特開2013-055891号公報
【文献】特開平02-163197号公報
【文献】特開平04-112740号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、難水溶性のトコフェロール類を容易に且つ経済的に水溶化しうる、安定性の高いトコフェロール類含有乳化組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討を行った結果、トコフェロール類含有乳化組成物において、中鎖脂肪酸トリグリセリド、2種以上のポリグリセリン脂肪酸エステル(好ましくはHLBが11以上16以下の2種以上のポリグリセリン脂肪酸エステル)と水相成分(好ましくは環状構造を取らない直鎖状多価アルコールを含むもの)を組み合わせることで、使用性や経済性、乳化安定性に優れたトコフェロール類含有乳化組成物が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明のトコフェロール類含有乳化組成物は、A:油溶性成分としてトコフェロール類及び中鎖脂肪酸トリグリセリド、B:2種以上のポリグリセリン脂肪酸エステル、C:水相成分、を含有してなるトコフェロール類含有乳化組成物にかかわるものであり、従来のトコフェロール類を水溶化する技術と比較して、経済性や乳化安定性という面で優れており、製造時の省力化や製品の品質向上に効果があることを特徴とする新規技術である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、難水溶性のトコフェロール類を容易に且つ経済的に水溶化しうる、安定性の高いトコフェロール類含有乳化組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明に用いられるAのトコフェロール類は、その種類に特に限定はないが、天然濃縮トコフェロールおよびこれを油脂で希釈したもの、dl-α-トコフェロールに代表される合成トコフェロール及びそれらの脂肪酸エステル等が挙げられ、これらの市販品を1種または2種以上用いることができる。
【0012】
本発明に用いられる上記トコフェロール類の含有量は、本発明の組成物全体に対して好ましくは20~30重量%、より好ましくは25~30重量%である。配合量が20重量%未満であると飲食品等への添加量が増えることになるため経済性が十分ではなく、また30重量%を超える場合は使用性や乳化安定性が悪くなり好ましくない。
【0013】
なお、本発明のトコフェロール類含有製剤中の難水溶性物質はトコフェロール類に限らず、他の種類の難水溶性物質と組み合わせることも可能である。例えば、クルクミノイド、カロテノイド、イソプレノイドキノン類などと組み合わせることも可能である。
【0014】
本発明に用いられるAの中鎖脂肪酸トリグリセリドは、MCT(Medium Chain Triglycerides)と一般に呼ばれるものであり、炭素数8~10の飽和脂肪酸から構成されるトリグリセリドであり、無色で低粘度の液状油である。炭素数8~10の飽和脂肪酸としては、n-オクタン酸、n-ノナン酸、n-デカン酸などが挙げられる。その配合量は特に制限されるものではないが、トコフェロール類に対して好ましくは1重量%以上10重量%未満であり、より好ましくは4重量%以上8重量%未満である。1重量%未満であれば製剤の安定性が悪くなり、10重量%以上だと油相の含有量が多くなり乳化が困難になり好ましくない。
【0015】
本発明に用いられるポリグリセリン脂肪酸エステルは、平均重合度5以上のポリグリセリンと炭素原子数8~22の脂肪酸とのエステルである。平均重合度5以上のポリグリセリンとは、例えば、ヘキサグリセリン、オクタグリセリン、デカグリセリンなどが挙げられる。これらを1種または2種以上組み合わせて用いることができる。
【0016】
炭素原子数8~22の脂肪酸とは、例えば、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、エルカ酸などが挙げられる。これらを1種または2種以上組み合わせて用いることができる。
【0017】
本発明に用いられるポリグリセリン脂肪酸エステルの好ましい例としては、デカグリセリンモノラウリン酸エステル、デカグリセリンモノミリスチン酸エステル、デカグリセリンモノパルミチン酸エステル、デカグリセリンモノステアリン酸エステル、デカグリセリンモノオレイン酸エステルなどが挙げられる。乳化安定性の観点から、これらを1種類、より好ましくは2種類以上組み合わせて用いることができる。特にデカグリセリンモノステアリン酸エステルとデカグリセリンモノパルミチン酸エステルの組み合わせが好ましい。
【0018】
本発明に用いられるBの2種以上のポリグリセリン脂肪酸エステルは食品用として使用されるものであればいかようなものでも使用できるが、HLBが11以上16以下のものが好ましく、12以上15以下のものがさらに好ましい。
ここで、HLBは、界面活性剤の分野において使用される親水性―疎水性バランスを示すものであり、例えば下記の計算式(川上式)が使用できる。
HLB=7+11.7log(M/M
ここで、Mは親水基の分子量、Mは疎水基の分子量である。また、カタログ等に記載されているHLBの数値を使用してもよい。
【0019】
本発明に用いられる上記ポリグリセリン脂肪酸エステルの含有量は、製剤の性状に影響がない限りは特に限定されるものではないが、好ましくは10重量%以上20重量%以下である。10重量%未満であれば希釈液の耐酸性が悪くなり、20重量%を超えると粘度が高くなり製造上に支障が生じる。
【0020】
本発明に用いられるCの水相成分として好ましいのは水である。水としては飲用可能なものであればよく、その配合量としては好ましくは40重量%以下、より好ましくは30重量%以下である。40重量%を超えるとトコフェロール類の配合量が制限されるため、経済的に不利である。
【0021】
本発明に用いられるCの水相成分には、環状構造を取らない直鎖型多価アルコールを含めることが好ましい。該直鎖状多価アルコールは食品に使用可能なものであれば特に制限はないが、グリセリンを使用することが好ましい。また、その配合量は好ましくは油相と同量以上であり、より好ましくは1.3倍以上2.5倍以下である。油相と同量未満であれば製造時の粘度が上昇するため好ましくない。
【0022】
本発明のトコフェロール類乳化組成物には、製剤の性状に影響がない限り、食品用に用いられるものであれば他の添加剤等を配合することが可能である。例えば、酸化防止剤、pH調整剤、粘度調整剤等が挙げられる。
【実施例
【0023】
次に実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0024】
[実施例1~3、比較例1~4]
実施例1~3、比較例1~4のトコフェロール類含有乳化組成物を以下の方法にしたがって製造した。すなわち、表1に示す配合割合(数値の単位は質量%)の乳化剤、多価アルコールを加熱溶解し(水相)、ホモミキサー等の乳化機で混合しながら、トコフェロール類、中鎖脂肪酸トリグリセリド(構成脂肪酸が炭素数8及び10の脂肪酸からなるもの)を混合したもの(油相)を添加した。更に水を添加し、均質化処理を行うことで、トコフェロール類含有乳化組成物を得た(実施例1~3、比較例1~4)。これらの乳化組成物に対して以下に述べる評価を行った。
【0025】
[乳化粒子径]
実施例1~3、比較例1~4で得られた前記乳化組成物をそれぞれ水に1%希釈し、その際の乳化粒子径(nm)をレーザー式光散乱法により測定した。
【0026】
[乳化安定性]
実施例1~3、比較例1~4で得られた前記乳化組成物の前記水希釈液を25℃に設定した恒温槽に保管し、1ヶ月後に当該乳化組成物の水希釈液の乳化粒子径の変化を測定し、以下の基準に基づいて乳化安定性を評価した。
◎:乳化粒子径の変化が20nm以下である。
○:乳化粒子径の変化が50nm以下である。
△:乳化粒子径の変化が50nm以上であるが、外観に沈殿や分離などの変化が認められない。
×:外観に沈殿や分離などの変化が認められる。
【0027】
[水分散性]
実施例1~3、比較例1~4で得られた前記乳化組成物をそれぞれ水に1%希釈し、スターラーで撹拌し、分散状態を目視で確認し、以下の基準に基づいて水分散性を評価した。
◎:撹拌20秒以内に均一に分散する。
○:撹拌30秒以内に均一に分散する。
△:撹拌60秒以内に均一に分散する。
×:撹拌60秒後に、溶け残りが目視で確認される。
【0028】
[分散液耐熱性、分散液耐酸性]
分散液の耐熱性、耐酸性の評価として、トコフェロール含有量が10mg/100mLになるように、実施例1~3、比較例1~4で得られた乳化組成物をイオン交換水(耐熱性評価用)、pH3の酸性水(耐酸性評価用)でそれぞれ希釈し、85℃で30分間加熱し、加熱前後の乳化粒子径の変化を確認し、以下の基準に基づいて分散液の耐熱性、耐酸性をそれぞれ評価した。
◎:加熱前後で乳化粒子径の変化が20nm以下である。
○:加熱前後で乳化粒子径の変化が50nm以下である。
△:加熱前後で乳化粒子の変化が50nm以上であるが、外観に油浮きや沈殿が生じていない。
×:加熱前後の外観に、油浮きや沈殿が生じている。

◎:イオン交換水希釈液と酸性希釈液で乳化粒子径の差が20nm以下である。
○:イオン交換水希釈液と酸性希釈液で乳化粒子径の差が50nm以下である。
△:イオン交換水希釈液と酸性希釈液で乳化粒子径の差が50nm以上であるが、外観に油浮きや沈殿が生じていない。
×:酸性希釈液の外観に、油浮きや沈殿が生じている。
【0029】
[経済性]
実施例1~3、比較例1~4で得られた乳化組成物におけるトコフェロール含有量により以下の基準に基づいて経済性を判断した。
◎:トコフェロール含有量が21重量%以上である。
○:トコフェロール含有量が16重量%以上21重量%未満である。
△:トコフェロール含有量が11重量%以上16重量%未満である。
×:トコフェロール含有量が11重量%未満である。
【0030】
[総合評価]
前述した乳化安定性、水分散性、分散液耐熱性、分散液耐酸性、経済性の評価結果を勘案することにより、総合的な評価を以下の基準で行った。
◎:非常に良い
○:かなり良い
△:やや良い
×:悪い
【0031】
【表1】
【0032】
表1から明らかなように、中鎖脂肪酸トリグリセリド、HLBが12以上15以下の2種以上のポリグリセリン脂肪酸エステル、環状構造を取らない直鎖状多価アルコールを組み合わせた実施例1~3は経済性に優れ、且つ乳化安定性や水分散性も良い評価が得られた。