(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-06
(45)【発行日】2023-11-14
(54)【発明の名称】in-situで重合したハイブリッド固体イオン導電性組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 101/12 20060101AFI20231107BHJP
C08K 3/00 20180101ALI20231107BHJP
H01B 1/06 20060101ALI20231107BHJP
H01B 13/00 20060101ALI20231107BHJP
H01M 10/056 20100101ALI20231107BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20231107BHJP
H01M 10/054 20100101ALI20231107BHJP
【FI】
C08L101/12
C08K3/00
H01B1/06 A
H01B13/00 Z
H01M10/056
H01M10/052
H01M10/054
(21)【出願番号】P 2019547367
(86)(22)【出願日】2018-03-02
(86)【国際出願番号】 US2018020780
(87)【国際公開番号】W WO2018161047
(87)【国際公開日】2018-09-07
【審査請求日】2021-03-02
(32)【優先日】2017-03-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2017-07-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2017-07-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2017-07-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2017-07-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】519030084
【氏名又は名称】ブルー カレント、インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】弁理士法人RYUKA国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ブルディンスカ、ジョアンナ
(72)【発明者】
【氏名】テラン、アレクサンダー
(72)【発明者】
【氏名】ルーペルト、ベンジャミン
(72)【発明者】
【氏名】ナシブリン、エデュアルド
【審査官】岡部 佐知子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2016/0049690(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2006/0228608(US,A1)
【文献】特表2018-521173(JP,A)
【文献】特開2016-033918(JP,A)
【文献】米国特許第05631103(US,A)
【文献】特表2003-508886(JP,A)
【文献】特開2015-191866(JP,A)
【文献】国際公開第2016/129427(WO,A1)
【文献】Naresh et al,Solid-state poly(ethylene glycol)-polyurethane/polymrthylmethacrylate/rutile TiO2 nanofiber composite electrolyte-correlation between morphology and conducting properties,Electrochemical Acta,62,2012年,362-371
【文献】Selim et al,Polymer nanocioposites as solid Electrolytes:Evaluating ion-polymer and polymer-nanoparticle interaction in PEG-PU/Semi-IPNs and Titania system,J. Phys. Chem. C,114,2010年,14281-14289
【文献】Nairn et al,Polymer-ceramic ion-conducting composites,Solid state Iponics,86-88,1996年,589-593
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K 3/00-13/08
C08L 1/00-101/16
H01B 1/06
H01B 13/00
H01M 10/056
H01M 10/052
H01M 10/054
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体状電解質組成物であって、
非イオン導電性ポリマーマトリックス中にイオン導電性無機粒子を含み、前記非イオン導電性ポリマーマトリックスは、架橋ポリマーネットワークを含み、
前記固体状電解質組成物は実質的に添加された溶解した塩を含まず、
かつ、前記固体状電解質組成物の室温でのイオン導電性は、少なくとも1×10
-4Scm
-1であり、
実質的に添加された溶解した塩を含まないとは、添加された溶解した塩がイオン導電性に対して0.1mS/cmを超えて寄与しないことを意味し、
前記固体状電解質組成物は、0.1MPaおよび95MPaの加圧下で同じイオン導電性を示し、
前記非イオン導電性ポリマーマトリックスは、in-situで完全にまたは部分的に重合されており、
前記架橋ポリマーネットワークは、ポリ(ウレタン)、ポリ(ウレアウレタン)、ポリ(チオウレタン)、ポリ(アクリレート)、ポリ(メタクリレート)、ポリ(マレイミド)、ポリ(アクリルアミド)、ポリ(メタクリルアミド)、ポリオレフィン、ポリスチレン、またはポリシロキサン骨格を含む、
固体状電解質組成物。
【請求項2】
前記イオン導電性無機粒子は、前記固体状電解質組成物の少なくとも50重量%である、
請求項1に記載の固体状電解質組成物。
【請求項3】
前記非イオン導電性ポリマーマトリックスは、前記固体状電解質組成物の2.5~60重量%である、
請求項1に記載の固体状電解質組成物。
【請求項4】
前記非イオン導電性ポリマーマトリックスは、前記固体状電解質組成物の少なくとも20重量%である、
請求項1に記載の固体状電解質組成物。
【請求項5】
前記非イオン導電性ポリマーマトリックスは、in-situ重合反応を特定する化学的痕跡を含み、
前記化学的痕跡は、未反応の反応物または副生成物を含む、
請求項4に記載の固体状電解質組成物。
【請求項6】
前記固体状電解質組成物は、重合反応における未反応の反応物または副生成物を1または複数含む、
請求項1から5のいずれか一項に記載の固体状電解質組成物。
【請求項7】
前記未反応の反応物は、イソシアネート官能基を含む、
請求項6に記載の固体状電解質組成物。
【請求項8】
前記イソシアネート官能基はブロックされている、
請求項7に記載の固体状電解質組成物。
【請求項9】
前記未反応の反応物は、アミン官能基、アルコール官能基、チオール官能基、およびブロックイソシアネートから選択される官能基を含む、
請求項6に記載の固体状電解質組成物。
【請求項10】
前記未反応の反応物は、1または複数の機能性架橋剤を含む、
請求項6から9のいずれか一項に記載の固体状電解質組成物。
【請求項11】
前記未反応の反応物は、ラジカル開始剤を含む、
請求項6から10のいずれか一項に記載の固体状電解質組成物。
【請求項12】
前記未反応の反応物は、アクリル官能基、メタクリル官能基、アクリルアミド官能基、メタクリルアミド官能基、スチレン系官能基、アルケニル官能基、アルキニル官能基、ビニル官能基、アリル官能基、およびマレイミド官能基の1または複数から選択される官能基を含む、
請求項6から11のいずれか一項に記載の固体状電解質組成物。
【請求項13】
前記未反応の反応物は、エポキシ樹脂、オキシラン類、グリシジル基、およびアルケン酸化物の1または複数から選択される官能基を含む、
請求項6から11のいずれか一項に記載の固体状電解質組成物。
【請求項14】
前記架橋ポリマーネットワークは、
1)--CH
2CH(H/CH
3)(R)、式中、R=-C(O)-O-、-C(O)-NR
'-、-C
6H
4-、または、
【化16】
であり、式中、R'はH、アルキルまたはアリール;
2)-NH-C(O)-NR-、式中、Rは、H、アルキルまたはアリール;
3)-NH-C(O)-O-;および
4)-NH-C(O)-S-
から選択される1または複数を含む、
請求項1から13のいずれか一項に記載の固体状電解質組成物。
【請求項15】
電池であって、
アノードと、
カソードと、
請求項1から14のいずれか一項に記載の固体状電解質組成物を含む固体状電解質とを備える、
電池。
【請求項16】
方法であって、
ポリマーマトリックス前駆体とイオン導電性無機粒子との混合物を提供する段階であって、前記イオン導電性無機粒子は等方性の導電経路を含む段階と、
前記混合物に対して少なくとも10MPaの圧力を加えながらポリマーマトリックス前駆体を重合して、非イオン導電性でありかつ実質的に添加された溶解した塩を含まないポリマーマトリックスを形成する段階と、
前記ポリマーマトリックス前駆体の重合後に、加えられた圧力を開放する段階とを備え、
実質的に添加された溶解した塩を含まないとは、添加された溶解した塩がイオン導電性に対して0.1mS/cmを超えて寄与しないことを意味し、
前記ポリマーマトリックスは、0.1MPaおよび95MPaの加圧下で同じイオン導電性を示し、
前記ポリマーマトリックスは、ポリ(ウレタン)、ポリ(ウレアウレタン)、ポリ(チオウレタン)、ポリ(アクリレート)、ポリ(メタクリレート)、ポリ(マレイミド)、ポリ(アクリルアミド)、ポリ(メタクリルアミド)、ポリオレフィン、ポリスチレン、またはポリシロキサン骨格を含む、
方法。
【請求項17】
前記重合は、前記混合物中の前記イオン導電性無機粒子の結晶化温度よりも低い温度で行われる、
請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記イオン導電性無機粒子は、ガラスセラミック粒子を含む、
請求項16または17に記載の方法。
【請求項19】
前記イオン導電性無機粒子は、非晶質ガラス粒子を含む、
請求項16または17に記載の方法。
【請求項20】
前記ポリマーマトリックス前駆体は、オリゴマーであり、かつ、前記方法は、さらに、前記混合物を提供する前に前記オリゴマーを形成する段階を含む、
請求項16から19のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本願は、2017年7月27日にそれぞれ出願された米国特許出願第15/662,048号、米国特許出願第15/662、102号および米国特許出願第15/662,116号に基づく優先権を主張し、かつ、そのそれぞれが、2017年3月3日に出願された米国仮特許出願第62/467、022号および2017年7月18日に出願された米国仮特許出願第62/534、135号に基づく優先権の利益を主張する。これらの出願は、すべての目的で、その全体が参照により組み込まれる。
【0002】
本発明は概して、固体状アルカリイオンおよびアルカリ金属電池の分野に関する。より具体的には、イオン導電性複合材料、ならびに、イオン導電性複合材料を組み込む、電解質および電極などの電池コンポーネントに関する。
【背景技術】
【0003】
固体状電解質は、一次および二次電池について、液体電解質に対する様々な優位性を提供する。例えば、リチウムイオン二次電池において、無機固体状電解質は、従来の液体有機電解質より燃焼性が低いことがあり得る。また、固体状電解質は、デンドライト形成への耐性があることにより、リチウム金属電極の使用を容易にできる。また、固体状電解質は、幅広い範囲の条件において、高いエネルギー密度、良好なサイクル安定性、および、電気化学的安定性の優位性を提供し得る。しかしながら、固体状電解質の大規模な商業化には、様々な課題がある。1つの課題は、電解質と電極との間の接触を維持することである。例えば、硫化物ガラスおよびセラミックスなどの無機材料は高いイオン導電性(10-4S/cmより高い)を有する一方、電池サイクル中における電極への接着性が低いことに起因して、効果的な電解質として機能しない。別の課題は、ガラスおよびセラミック固体状導電体は、もろ過ぎて高密度薄膜に加工できないということである。この結果、膜が厚すぎることに起因する高いバルク電解質抵抗、および、デンドライトの侵入を可能にする空隙の存在に起因するデンドライト形成が生じ得る。比較的延性の高い硫化物ガラスの機械的性質でさえ、ガラスを高密度薄膜に加工することに適していない。固体ポリマーバインダーの添加などの、接着性を改善する技法は、イオン導電性を低減させる傾向があるので、イオン導電性を犠牲にすることなく、これらの機械的性質を改善することが特に課題である。わずか1重量%のバインダーを導入することに伴い、導電性に1桁以上の低減が見られることは、珍しいことではない。固体状ポリマー電解質システムは、接着および薄膜形成を容易にする機械的性質を改善し得るが、室温では低いイオン導電性を有し得る。
【0004】
固体状電池の大規模な製造、および、商業化のためには、イオン導電性を犠牲にすることなく、室温で高いイオン導電性を有し、薄い高密度の膜に加工できるほど十分に柔軟な材料が必要である。
【発明の概要】
【0005】
本発明の組成物、方法およびデバイスは各々、発明の態様を有する。発明の一態様は固体状電解質組成物に関する。固体状電解質は、非イオン導電性ポリマーマトリックスにイオン導電性無機粒子を含み、非イオン導電性ポリマーマトリックスは、架橋ポリマーネットワークを含んでおり、組成物は、少なくとも1×10-4S・cm-1のイオン導電性を有する。いくつかの実施形態において、イオン導電性無機粒子は、組成物の少なくとも50重量%であり得る。いくつかの実施形態において、非イオン導電性有機マトリックスはポリマーバインダーを含む。いくつかの実施形態において、ポリマーバインダーは、組成物の1~50重量%であり得る。いくつかの実施形態において、ポリマーバインダーは、組成物の1~5重量%であり得る。いくつかの実施形態において、ポリマーマトリックスはポリマーバインダーを含まない。
【0006】
いくつかの実施形態において、非イオン導電性ポリマーマトリックスは、組成物の2.5~60重量%である。いくつかの実施形態において、非イオン導電性ポリマーマトリックスは、組成物の少なくとも10重量%である。いくつかの実施形態において、非イオン導電性ポリマーマトリックスは、組成物の少なくとも20重量%である。いくつかの実施形態において、イオン導電性無機粒子は、硫化物ガラス粒子である。いくつかの実施形態において、非イオン導電性ポリマーマトリックスは、in-situで重合されている。いくつかの実施形態において、架橋ポリマーネットワークは、ポリオレフィン、ポリシロキサン、パーフルオロポリエーテル、ポリスチレン、ポリエステル、ポリエーテルおよび環状オレフィンポリマーから選択される骨格を含む。いくつかの実施形態において、架橋ポリマーネットワークは、ポリジメチルシロキサン(PDMS)骨格を含む。いくつかの実施形態において、架橋ポリマーネットワークは、ポリブタジエン(PBD)骨格を含む。いくつかの実施形態において、架橋ポリマーネットワークは、エポキシ樹脂硬化物を含む。いくつかの実施形態において、架橋ポリマーネットワークは、ウレア-ウレタン基、ウレタン基、または、チオウレタン基を含む。いくつかの実施形態において、架橋ポリマーネットワークは、ポリ(ウレタン)、ポリ(ウレアウレタン)、ポリ(チオウレタン)、ポリ(アクリレート)、ポリ(メタクリレート)、ポリ(マレイミド)、ポリ(アクリルアミド)、ポリ(メタクリルアミド)、ポリオレフィン、または、ポリスチレンを含む。
【0007】
いくつかの実施形態において、組成物は、重合反応における1または複数の未反応の反応物または副生成物を含む。いくつかの実施形態において、未反応の反応物は、イソシアネート官能基を含む。イソシアネート官能基は、ブロックされていてもよい。いくつかの実施形態において、未反応の反応物は、1または複数のアミン官能基、アルコール官能基、チオール官能基、および、ブロックイソシアネートを含む。いくつかの実施形態において、未反応の反応物は、1または複数の機能性架橋剤を含む。いくつかの実施形態において、未反応の反応物は、ラジカル開始剤を含む。いくつかの実施形態において、未反応の反応物は、アクリル官能基、メタクリル官能基、アクリルアミド官能基、メチルアクリルアミド官能基、スチレン系官能基、アルケニル官能基、アルキニル官能基、ビニル官能基、アリル官能基、および、マレイミド官能基から選択される1または複数の官能基を含む。いくつかの実施形態において、未反応の反応物は、エポキシ樹脂、オキシラン類、グリシジル基、および、アルケン酸化物から選択される1または複数の官能基を含む。
【0008】
いくつかの実施形態において、架橋ポリマーネットワークは、
1)--CH
2CH(H/CH
3)(R)、式中、R=-C(O)-O-、-C(O)-NR-、-C
6H
4-、または、
【化1】
2)-NH-C(O)-NR-、式中、Rは、H、アルキルまたはアリール;
3)-NH-C(O)-O-;および
4)-NH-C(O)-S-
から選択される1または複数の連結基を含む。
【0009】
発明の別の態様は、アノード、カソード、および、非イオン導電性ポリマーマトリックスにおけるイオン導電性無機粒子を含む固体状電解質を備える電池に関する。非イオン導電性ポリマーマトリックスは、架橋ポリマーネットワークを含み、組成物は、少なくとも1×10-4S・cm-1のイオン導電性を有する。
【0010】
発明の別の態様は、固体状イオン導電性組成物を形成する方法に関する。その方法は、ポリマーマトリックス前駆体とイオン導電性無機粒子との混合物を準備することと、混合物に対して少なくとも10MPaの圧力を加えながらポリマーマトリックス前駆体の重合を開始してポリマーマトリックスを形成することと、ポリマーマトリックス前駆体を重合した後に加えられた圧力を開放することとを含む。
【0011】
いくつかの実施形態において、ポリマーマトリックス前駆体とイオン導電性無機粒子とを溶液中で混合する。いくつかの実施形態において、ポリマーマトリックス前駆体の重合を開始する前に、溶液を基板上に流延し、膜を形成する。いくつかの実施形態において、ポリマーマトリックス前駆体の重合を開始する前に、膜を乾燥させる。いくつかの実施形態において、ポリマーマトリックス前駆体の重合開始は、ポリマーマトリックス前駆体を加熱することを含む。いくつかの実施形態において、その方法はさらに、熱ラジカル開始剤をポリマーマトリックス前駆体およびイオン導電性無機粒子と混合することを含む。いくつかの実施形態において、ポリマーマトリックス前駆体は、第1の種類の官能基により官能化されたポリマーマトリックス前駆体と第2の種類の官能基により官能化されたポリマーマトリックス前駆体とを含み、第1の種類の官能基が第2の種類の官能基と反応性を示す。いくつかの実施形態において、第1および第2の種類の官能基の1つまたは両方がブロックされている。いくつかの実施形態において、重合は、縮重合である。いくつかの実施形態において、重合は、開環重合である。いくつかの実施形態において、ポリマーマトリックス前駆体の重合は架橋を含む。いくつかの実施形態において、ポリマーマトリックス前駆体の重合開始は、ポリマーマトリックス前駆体を紫外線放射に曝すことを含む。いくつかの実施形態において、ポリマーマトリックス前駆体の重合開始は、ポリマーマトリックス前駆体を熱エネルギーに曝すことを含む。いくつかの実施形態において、重合はラジカル重合である。
【0012】
いくつかの実施形態において、ポリマーマトリックス前駆体とイオン導電性無機粒子との混合物は乾燥した混合物である。いくつかの実施形態において、その方法はさらに、ポリマーマトリックス前駆体とイオン導電性無機粒子との混合物を押し出すこととを含む。
【0013】
いくつかの実施形態において、圧力を加えることにより、複合体のイオン導電性は少なくとも2倍増加する。増加したイオン導電性は、加えられた圧力を開放した後も維持され得る。
【0014】
いくつかの実施形態において、ポリマーマトリックス前駆体とイオン導電性無機粒子との混合物の準備は、線状ポリマーを形成するための第1のin-situ重合を含む。いくつかのそのような実施形態において、ポリマーマトリックス前駆体の重合は、線状ポリマーを架橋することを含む。第1のin-situ重合は、架橋温度より低い第1の温度で実行されてよい。様々な実施形態によると、第1のin-situ重合は、混合物に圧力を加える前に、または、混合物に圧力を加えている間に実行してよい。
【0015】
発明の別の態様は、ポリマーマトリックス前駆体とイオン導電性無機粒子とを混合することと、任意選択でポリマーマトリックス前駆体を重合して、重合した線状ポリマーを形成することと、混合物に対して少なくとも10MPaの圧力を加える間にポリマーマトリックス前駆体および重合した線状ポリマーの1つまたは両方の架橋を開始してポリマーマトリックスを形成することと、架橋後に加えられた圧力を開放することとを含む方法に関する。
【0016】
いくつかの実施形態において、その方法は、圧力を加える前にポリマーマトリックス前駆体を重合し、線状ポリマーを形成することを含む。いくつかのそのような実施形態において、架橋は、線状ポリマーを架橋することを含む。
【0017】
いくつかの実施形態において、ポリマーマトリックス前駆体は、2官能性ポリマーマトリックス前駆体と3官能性架橋剤とを含む。3官能性架橋剤は、ブロックイソシアネート基を含んでよい。いくつかの実施形態において、架橋する前に、2官能性ポリマーマトリックス前駆体を重合し、線状ポリマーを形成する。
【0018】
いくつかの実施形態において、圧力を加えることにより、複合体のイオン導電性は少なくとも2倍増加する。増加したイオン導電性は、加えられた圧力を開放した後も維持され得る。
【0019】
発明の別の態様は、非イオン導電性ポリマーマトリックスにおけるイオン導電性無機粒子を含むイオン導電性複合材料に関し、その組成物は、少なくとも1×10-4S・cm-1のイオン導電性を有する。いくつかの実施形態において、イオン導電性無機粒子は、組成物の少なくとも50重量%である。いくつかの実施形態において、非イオン導電性有機マトリックスは、ポリマーバインダーを含む。いくつかの実施形態において、ポリマーバインダーは、組成物の1~5重量%の間であり得る。いくつかの実施形態において、ポリマーマトリックスは、ポリマーバインダーを含まない。
【0020】
いくつかの実施形態において、非イオン導電性ポリマーマトリックスは、組成物の2.5重量%~60重量%である。いくつかの実施形態において、非イオン導電性ポリマーマトリックスは、組成物の少なくとも10重量%である。いくつかの実施形態において、非イオン導電性ポリマーマトリックスは、組成物の少なくとも20重量%である。いくつかの実施形態において、イオン導電性無機粒子は、導電性硫化物粒子(例えば、硫化物ガラス、または、ガラスセラミック粒子)である。いくつかの実施形態において、非イオン導電性ポリマーマトリックスは、in-situで重合されている。いくつかの実施形態において、ポリマーネットワークは、ポリオレフィン、ポリシロキサン、パーフルオロポリエーテル、ポリスチレン、ポリエステル、ポリエーテルおよび環状オレフィンポリマーから選択される骨格を含む。さらなる例は、ポリ(テトラヒドロフラン)(PTHF)などのポリエーテル、脂肪酸ダイマーのエステルおよびポリカプロラクトンを含むポリエステル、ポリカプロラクタムなどのポリアミドを含む。いくつかの実施形態において、ポリマーネットワークは、ポリジメチルシロキサン(PDMS)骨格を含む。いくつかの実施形態において、ポリマーネットワークは、ポリブタジエン(PBD)骨格を含む。いくつかの実施形態において、ポリマーネットワークは、エポキシ樹脂硬化物を含む。いくつかの実施形態において、ポリマーネットワークは、ウレア-ウレタン基、ウレタン基、または、チオウレタン基を含む。いくつかの実施形態において、ポリマーネットワークは、ポリ(ウレタン)、ポリ(ウレアウレタン)、ポリ(チオウレタン)、ポリ(アクリレート)、ポリ(メタクリレート)、ポリ(マレイミド)、ポリ(アクリルアミド)、ポリ(メタクリルアミド)、ポリオレフィン、または、ポリスチレンを含む。
【0021】
いくつかの実施形態において、組成物は、重合反応における1または複数の未反応の反応物または副生成物を含む。いくつかの実施形態において、未反応の反応物は、イソシアネート官能基を含む。イソシアネート官能基は、ブロックされていてもよい。いくつかの実施形態において、未反応の反応物は、1または複数のアミン官能基、アルコール官能基、チオール官能基、および、ブロックイソシアネートを含む。いくつかの実施形態において、未反応の反応物は、1または複数の機能性架橋剤を含む。いくつかの実施形態において、未反応の反応物は、ラジカル開始剤を含む。いくつかの実施形態において、未反応の反応物は、アクリル官能基、メタクリル官能基、アクリルアミド官能基、メチルアクリルアミド官能基、スチレン系官能基、アルケニル官能基、アルキニル官能基、ビニル官能基、アリル官能基、および、マレイミド官能基から選択される1または複数の官能基を含む。いくつかの実施形態において、未反応の反応物は、エポキシ樹脂、オキシラン類、グリシジル基、および、アルケン酸化物から選択される1または複数の官能基を含む。
【0022】
いくつかの実施形態において、ポリマーネットワークは、
1)--CH
2CH(H/CH
3)(R)、式中、R=-C(O)-O-、-C(O)-NR-、-C
6H
4-、または、
【化2】
2)-NH-C(O)-NR-、式中、Rは、H、アルキルまたはアリール;
3)-NH-C(O)-O-;および
4)-NH-C(O)-S-
から選択される1または複数の連結基を含む。
【0023】
発明の別の態様は、アノード、カソード、および、非イオン導電性ポリマーマトリックスにおけるイオン導電性無機粒子を含む固体状電解質を備える電池に関する。非イオン導電性ポリマーマトリックスは、ポリマーネットワークを含み、組成物は、少なくとも1×10-4S・cm-1のイオン導電性を有する。
【0024】
発明の別の態様は、固体状イオン導電性組成物を形成する方法に関する。その方法は、ポリマーマトリックス前駆体とイオン導電性無機粒子との混合物を準備することと、混合物に対して少なくとも10MPaの圧力を加えながらポリマーマトリックス前駆体の重合を開始してポリマーマトリックスを形成することと、ポリマーマトリックス前駆体を重合した後に加えられた圧力を開放することとを含む。
【0025】
いくつかの実施形態において、マトリックスは実質的に添加塩を含まない。いくつかの実施形態において、イオン導電性無機粒子は、等方性の導電経路を有する。重合は、混合物中のイオン導電性無機粒子の結晶化温度より低い温度で行う。このようにして、粒子はその非晶質の特徴を保持し得る。
【0026】
いくつかの実施形態において、ポリマーマトリックス前駆体とイオン導電性無機粒子とを溶液中で混合する。いくつかの実施形態において、ポリマーマトリックス前駆体の重合を開始する前に、溶液を基板上に流延し、膜を形成する。いくつかの実施形態において、ポリマーマトリックス前駆体の重合を開始する前に、膜を乾燥させる。いくつかの実施形態において、ポリマーマトリックス前駆体の重合開始は、ポリマーマトリックス前駆体を加熱することを含む。いくつかの実施形態において、その方法はさらに、熱ラジカル開始剤をポリマーマトリックス前駆体およびイオン導電性無機粒子と混合することを含む。いくつかの実施形態において、ポリマーマトリックス前駆体は、第1の種類の官能基により官能化されたポリマーマトリックス前駆体と第2の種類の官能基により官能化されたポリマーマトリックス前駆体とを含み、第1の種類の官能基が第2の種類の官能基と反応性を示す。いくつかの実施形態において、第1および第2の種類の官能基の1つまたは両方がブロックされている。いくつかの実施形態において、重合は、縮重合である。いくつかの実施形態において、重合は、開環重合である。いくつかの実施形態において、ポリマーマトリックス前駆体の重合は架橋を含む。いくつかの実施形態において、ポリマーマトリックス前駆体の重合開始は、ポリマーマトリックス前駆体を紫外線放射に曝すことを含む。いくつかの実施形態において、重合は、ラジカル重合である。
【0027】
発明の別の態様は、アルカリイオンまたはアルカリ金属電池で使用するための、イオン導電性の非晶質無機材料と、電気化学的活性材料と、電子的導電性添加剤とを含む無機相、および、非イオン導電性ポリマーマトリックスを含む有機相を備える固体状電極に関する。いくつかの実施形態において、非イオン導電性ポリマーマトリックスは、架橋している。いくつかの実施形態において、電気化学的活性材料は、リチウムコバルト酸化物(LCO)、リチウムマンガン酸化物(LMO)、リチウムニッケルコバルトアルミニウム酸化物(NCA)、リン酸リチウム鉄(LFP)、および、リチウムニッケルコバルトマンガン酸化物(NCM)から選択される。いくつかの実施形態において、電気化学的活性材料は、炭素含有材料、シリコン含有材料、スズ含有材料、リチウム、または、リチウム合金化金属から選択される。固体状電極は、様々な実施形態によるカソードまたはアノードであってよい。いくつかの実施形態において、上述のように、電極は、電解質-電極二重層を形成するように固体状電解質と接触していてよい。
【0028】
発明の別の態様は、ポリマーマトリックス前駆体と、イオン導電性無機粒子とを混合することと、混合物中で架橋を開始しポリマーマトリックスを形成することとを含む、イオン導電性複合体を形成する方法に関し、架橋により、イオン導電性は、少なくとも2倍増加する。いくつかの実施形態において、架橋は、少なくとも10MPaの外圧を加えた状態で行う。架橋は、大気圧の下で行ってもよい。
【0029】
いくつかの実施形態において、マトリックスは実質的に添加塩を含まない。いくつかの実施形態において、イオン導電性無機粒子は、等方性の導電経路を有する。重合は、混合物中のイオン導電性無機粒子の結晶化温度より低い温度で行う。このようにして、粒子はその非晶質な特徴を保持し得る。
【0030】
これらの態様および他の態様は、図を参照して以下でさらに記載される。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】本発明の特定の実施形態によるラジカル重合によって形成される、架橋ネットワークの形成の概略的な例を提供する。
【0032】
【
図2】本発明の特定の実施形態による縮重合による、線状ポリマーおよび架橋ポリマーネットワークの形成の概略的な例を提供する。
【0033】
【
図3】本発明の特定の実施形態による開環重合による、線状ポリマーおよび架橋ポリマーネットワークの形成の概略的な例を提供する。
【0034】
【
図4a】本発明の特定の実施形態による、加圧下でポリマー鎖を架橋するように、in-situ重合を受けるポリマーマトリックス内のイオン導電性無機粒子を含むキャスト膜の概略図の例を提供する。
【0035】
【
図4b】本発明の特定の実施形態による、加圧せずにポリマー鎖を架橋するように、in-situ重合を受けるポリマーマトリックス内のイオン導電性無機粒子を含むキャスト膜の概略図の例を提供する。
【0036】
【
図5】本発明の特定の実施形態による、in-situでのポリウレタンの形成により複合材料を合成する方法における、ジイソプロピルアミンによりブロックされた4,4-ジイソシアナトジフェニルメタン(MDI-DIPA)の示差走査熱量測定(DSC)サーモグラムである。
【0037】
【
図6】本発明の特定の実施形態による、in-situでのポリウレタンの形成により複合材料を合成する方法における、熱重量分析(TGA)から取得したMDI-DIPAの熱重量曲線である。
【0038】
【
図7】本発明の特定の実施形態による、in-situ形成により複合材料を合成する方法で取得した、MDI-DIPAとHLBH2000との重合性成分の混合物のDSCサーモグラムである。
【0039】
【
図8】純粋なLi
2S:P
2S
5=75:25ガラス(高い方の記録)、および、本発明の特定の実施形態による、同一の硫化物ガラス、HLBH2000、およびMDI-DIPAの複合体(低い方の記録)の熱処理前のDSC記録を示す。
【0040】
【
図9】本発明の特定の実施形態による、100℃および140℃で処理した複合体膜のDSC記録を示す。
【0041】
【
図10】純粋な硫化物ガラス、非処理の複合体薄膜、100℃で加熱した特定の実施形態による複合体膜、および、140℃で処理した特定の実施形態による複合体膜の、4つのサンプルの熱重量曲線である。
【0042】
【
図11】a)特定の実施形態による、複合体を加圧下で架橋する前後の膜密度、および、b)特定の実施形態による、0.1MPaおよび50MPaで測定した押圧した複合体の導電性のプロットを示す。
【0043】
【
図12】純粋なLi
2S:P
2S
5=75:25硫化物ガラス、および、複合体のポリウレタンマトリックスをin-situ重合する前後での硫化物ガラス、イソホロンジイソシアネート-ジイソプロピルアミン(IPDI-DIPA)およびポリ[(フェニルイソシアネート)-co-ホルムアルデヒド](PPFI-DIPA)から形成される複合体のDSC記録を示す。
【0044】
【
図13】
図12の複合体を140℃で熱架橋する前後の拡大したDSC記録を示す。
【0045】
【
図14】特定の実施形態による複合材料の有機マトリックス内にあり得るポリマーの例を示す。
【0046】
【
図15】本発明の特定の実施形態によるセルの概略図の例を示す。
【
図16】本発明の特定の実施形態によるセルの概略図の例を示す。
【
図17】本発明の特定の実施形態によるセルの概略図の例を示す。
【0047】
【
図18】代表的な、本来の硫化物導電体のXRDパターンの例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0048】
本発明の一態様は、有機材料のマトリックスにおけるイオン導電性無機粒子を含むイオン導電性固体状組成物に関する。結果として得られた複合材料は、高いイオン導電性と、加工を容易にする機械的性質とを有する。特定の実施形態においては、イオン導電性固体状組成物は、膜として流延してもよく、乾燥させて加工するときに柔軟である。
【0049】
本発明の別の態様は、本明細書に記載のイオン導電性固体状組成物を含む電池に関する。本発明のいくつかの実施形態において、イオン導電性固体状組成物を含む固体状電解質が提供される。本発明のいくつかの実施形態において、イオン導電性固体状組成物を含む電極が提供される。
【0050】
本明細書に記載される主題の特定の実施形態には以下の利点があり得る。いくつかの実施形態において、イオン導電性固体状組成物は、容易に拡大できる製造技法を用いて、様々な形状に加工され得る。製造された複合体は柔軟なので、電池の他のコンポーネントまたは他のデバイスに対し良好な接着が可能となる。固体状組成物は高いイオン導電性を有するので、組成物を電解質または電極材料として使用することが可能である。いくつかの実施形態において、イオン導電性固体状組成物は、デンドライトに耐えることにより、リチウム金属アノードの使用を可能にする。いくつかの実施形態において、イオン導電性固体状組成物は、ポリスルフィドを溶解せず、硫黄カソードの使用を可能にする。
【0051】
本発明の実施形態に係るイオン導電性固体状組成物、固体状電解質、電極および電池のさらなる詳細は、以下に記載される。
【0052】
イオン導電性固体状組成物は、本明細書において、ハイブリッド組成物と呼ばれ得る。「ハイブリッド」という用語は、本明細書において、無機相および有機相を含む複合材料を記述するために使用される。「複合体」という用語は、本明細書にいて、無機材料および有機材料の複合体を記述するために使用される。
【0053】
いくつかの実施形態において、複合材料は、前駆体から形成され、前駆体は無機粒子と混合した後に、in-situで完全または部分的に重合して形成される。重合は、粒子間接触が容易になる加圧下で行われ得る。ひとたび重合したら、粒子がポリマーマトリックスにより固定された状態で、加えた圧力が開放され得る。いくつかの実装においては、有機材料は、架橋ポリマーネットワークを含む。このネットワークは、無機粒子を拘束でき、複合体を組み込む電池や他のデバイスの動作中にそれらがずれるのを防止する。
【0054】
結果として得られた複合体は、本来の固体状イオン導電性粒子の導電性に近い高導電性値を有する。その結果、容易に所望の形状に加工できる、高導電性で、高密度で、柔軟な材料が生じる。「本来の」とは、複合体に組み込まれる前の粒子を指す。様々な実施形態によれば、材料は、粒子の少なくとも半分、少なくとも80%、または、少なくとも90%のイオン導電性を有する。いくつかの実施形態においては、材料は、粒子の少なくとも10%のイオン導電性を有する。いくつかの実施形態においては、材料は、粒子の少なくとも20%のイオン導電性を有する。
【0055】
いくつかの実施形態において、外圧を加えなくても重合により粒子間接触が容易になり得る。例えば、架橋を含む特定の重合反応は、十分な収縮をもたらす可能性があり、重合中に加圧せずとも粒子間接触および高導電性を実現し得る。
【0056】
ポリマー前駆体およびポリマーマトリックスは、固体状イオン導電性粒子と適合可能で、不揮発性であり、電極などの電池コンポーネントに無反応である。ポリマー前駆体およびポリマーマトリックスは、非極性または低極性を有することをさらに特徴とし得る。ポリマー前駆体およびポリマーマトリックスは、少なくとも無機相のバルクの組成物に影響を与えることなく、成分が良好に均一かつ微視的に混合するように無機相と相互作用し得る。相互作用は、物理的相互作用または化学的相互作用のうち1つまたは両方を含み得る。物理的相互作用の例には、水素結合、ファンデルワールス結合、静電的相互作用およびイオン性結合が含まれる。化学的相互作用は、共有結合を指す。概して無機相には無反応であるポリマーマトリックスは、それでも粒子表面との結合を形成し得るが、無機相のバルク組成物を分解したり、変化させたりはしない。いくつかの実施形態において、ポリマーマトリックスは、無機相と機械的に相互作用し得る。
【0057】
固体状組成物の特定の成分(例えば、高分子量ポリマーバインダー)を指す「数平均分子量」または「M
n」という用語は、g/molの単位で表される、成分のすべての分子の統計平均分子量を指す。数平均分子量は、例えば、ゲル浸透クロマトグラフィー(M
nは、屈折率、紫外線、または、他の検出器などのオンライン検出システムに基づく既知の基準に基づいて算出できる)、粘度測定、質量分析、または、束一的性質を用いた方法(例えば、蒸気圧浸透圧法、末端基の決定、またはプロトンNMR)などの、当該分野において既知の技法によって決定され得る。数平均分子量は、以下の式によって定義される。
【化3】
M
iは分子の分子量であり、N
iはその分子量の分子の数である。
【0058】
固体状組成物の特定の成分(例えば、高分子量ポリマーバインダー)に関連する「重量平均分子量」または「M
w」という用語は、平均分子量に対する寄与を決定するのに各々の分子の重量を考慮に入れる、g/molの単位で表される、成分のすべての分子の統計平均分子量を指す。所与の分子の分子量がより大きいほど、M
wの値に対する分子の寄与がより大きくなるであろう。重量平均分子量は、当該分野において既知である、例えば、静的光散乱法、小角中性子散乱法、X線散乱法、および、沈降速度法などの、分子の大きさに敏感な技法によって算出され得る。重量平均分子量は、以下の式によって定義される。
【化4】
「M
i」は分子の分子量であり、「N
i」はその分子量の分子の数である。以下の説明において、特定のポリマーの分子量に関しては、数平均分子量を指す。
【0059】
本明細書で単独または他の基の一部として使用する、「アルキル」という用語は、任意の数の炭素原子を含み、主鎖に二重結合または三重結合を含まない直鎖または分岐鎖炭化水素を指す。本明細書で使用する「低級アルキル」は、アルキルのサブセットで、炭素原子を1から4含む直鎖または分岐鎖炭化水素基を指す。「アルキル」および「低級アルキル」という用語は、別段の指示がない限り、両方とも置換されている、および、置換されていないアルキルまたは低級アルキルを含む。低級アルキルの例には、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、tert-ブチル等が含まれる。
【0060】
本明細書で使用する「アリール」という用語は、単環式および二環式芳香族基を含む基を指す。例には、フェニル基が含まれる。
【0061】
[無機相]
本明細書に記載されている複合材料の無機相は、アルカリイオンを伝導する。いくつかの実施形態において、無機相は、複合材料のイオン導電性のすべてに寄与し、複合材料を通るイオン導電性経路を提供する。
【0062】
いくつかの実施形態において、無機相は、アルカリイオンを伝導する微粒子状の固体状材料である。ナトリウムイオン導電性材料、または、他のアルカリイオン導電性材料が用いられ得るが、以下に示される例においては、リチウムイオン導電性材料が主に記載される。様々な実施形態によれば、材料は、ガラス粒子、セラミック粒子またはガラスセラミック粒子であり得る。本明細書に記載される固体状組成物は、特定の種類の化合物に限定されるものではなく、任意の固体状無機イオン導電性微粒子材料が用いられ得て、その例を以下に示す。
【0063】
いくつかの実施形態において、無機材料は、1に近い輸率を有する単一イオン導電体である。電解質におけるイオンの輸率とは、電解質を流れる全電流のうち、そのイオンの割合である。単一イオン導電体は、1に近い輸率を有する。様々な実施形態によれば、固体電解質の無機相の輸率は、少なくとも0.9(例えば、0.99)である。
【0064】
無機相は、酸化物ベースの組成物、硫化物ベースの組成物、または、リン酸塩ベースの組成物であり得て、結晶質、部分的結晶質、または、非晶質であり得る。特定の実施形態において、無機相は導電性を増加させるためにドープされ得る。固体リチウムイオン導電材料の例には、ペロブスカイト(例えば、Li3xLa(2/3)-xTiO3、0≦x≦0.67)、リチウム超イオン導電体(リシコン(登録商標))化合物(例えば、Li2+2xZn1-xGeO4、0≦x≦1;Li14ZnGe4O16)、チオリシコン(登録商標)化合物(例えば、Li4-xA1-yByS4、AはSi、GeまたはSn、BはP、Al、Zn、Ga;Li10SnP2S12)、ガーネット(例えば、Li7La3Zr2O12、Li5La3M2O12、MはTaまたはNb)、ナシコン型Liイオン導電体(例えば、Li1.3Al0.3Ti1.7(PO4)3)、酸化ガラスまたはガラスセラミックス(例えば、Li3BO3Li2SO4、Li2O-P2O5、Li2O-SiO2)、アルジロダイト(例えば、Li6PS5X、式中、X=Cl、Br、I)、硫化物ガラスまたはガラスセラミックス(例えば、75Li2S-25P2S5、Li2S-SiS2、LiI-Li2S-B2S3)およびリン酸塩(例えば、Li1-xAlxGe2-x(PO4)3(LAGP)、Li1+xTi2-xAlx(PO4))が含まれる。さらなる例には、リチウムリッチアンチペロブスカイト(LiRAP)粒子が含まれる。参照により本明細書に組み込まれるZhao and Daement,Jour J.Am.Chem.Soc.,2012,134(36),pp15042~15047に記載されるように、これらのLiRAP粒子は、室温で10-3S/cmより高いイオン導電性を有する。
【0065】
固体リチウムイオン導電材料の例には、ナトリウム超イオン導電体(ナシコン)化合物(例えば、Na1+xZr2SixP3-xO12、0<x<3)が含まれる。固体リチウムイオン導電材料についてのさらなる例は、両方とも参照により本明細書に組み込まれる、Cao他、Front.Energy Res.(2014)2:25およびKnauth、Solid State Ionics 180(2009)911~916で確認できる。
【0066】
イオン導電性ガラスについてのさらなる例は、参照により本明細書に組み込まれるRibes他、J.Non-Cryst.Solids,Vol.38~39(1980)271~276およびMinami、J.Non-Cryst.Solids,Vol.95~96(1987)107~118に開示されている。
【0067】
様々な実施形態によれば、無機相は、1または複数の種類のイオン導電性無機粒子を含み得る。無機相の粒子の大きさは、特定の適用にしたがって変動し得て、組成物の粒子の平均直径は、大部分の用途において、0.1μmから500μmの間である。いくつかの実施形態において、平均直径は、0.1μmから100μmの間である。いくつかの実施形態において、粒子充填を最適化するために、多峰性の粒度分布が使用され得る。例えば、二峰性分布が使用され得る。いくつかの実施形態において、複合体における最も近い粒子間の平均距離が1μmを超えないように、1μm以下の大きさを有する粒子が使用され得る。これは、デンドライトの成長を防止するのに役立ち得る。
【0068】
無機相は任意の適切な方法により製造され得る。例えば、結晶質材料は、溶液法、ゾルゲル法および固相反応法などの様々な合成方法を使用して取得され得る。ガラス電解質は、参照により本明細書に組み込まれるTatsumisago、M.;Takano、R.;Tadanaga K.;Hayashi、A.J.Power Sources 2014,270、603~607に記載されるように、機械的粉砕によって取得され得る。
【0069】
特定の実施形態において、無機相は、結晶質ガラス-セラミック材料ではなく、非晶質ガラス材料である。特定の固体状組成物の組成では、非晶質ガラス材料の使用によって導電性が著しく改善される。これは、結晶性および半結晶性イオン導電性粒子が異方性の導電経路を有し、一方、非晶質材料が等方性の導電経路を有するからである。結晶性および半結晶性イオン導電性粒子が使用されるいくつかの実施形態において、イオン導電性を増加させるために焼結が使用され得る。
【0070】
本明細書で使用する非晶質ガラス材料という用語は、結晶性の狭い領域を有し得るが、ほとんどが非晶質である材料を指す。例えば、非晶質ガラス粒子は、完全に非晶質(100%非晶質)、少なくとも95%(体積)非晶質、少なくとも80%(体積)非晶質、または、少なくとも75%(体積)非晶質であり得る。これらの非晶質粒子は、1または複数の結晶性の狭い領域を有し得る一方、粒子を通してのイオン導電は、ほとんどまたは完全に等方性の導電経路を通る。
【0071】
イオン導電性ガラスセラミック粒子は、非晶質領域を有するが、少なくとも半分は結晶質で、例えば、少なくとも75%(体積)の結晶化度を有する。ガラスセラミック粒子は、本明細書に記載されている複合体に使用され得る。比較的高い量の非晶質特徴(例えば、少なくとも40(体積)%が非晶質)を有するガラスセラミック粒子は、それらの等方性の導電経路により特定の実施形態で役立つ。
【0072】
[有機相]
有機マトリックスは、1または複数の種類のポリマーを含み、また、ポリマーマトリックスとも呼ばれ得る。いくつかの実施形態においては、有機マトリックスは、ポリマー鎖間で著しいまたは任意の架橋を有さない個々のポリマー鎖を含み得る。いくつかの実施形態において、有機マトリックスは、ポリマー鎖を連結するノードを特徴とするポリマーネットワークであるか、またはそれを含み得る。これらのノードは、重合中の架橋によって形成され得る。架橋ネットワークにおいて、ノードの少なくともいくつかは、少なくとも3つの鎖を連結する。有機マトリックスは、イオン導電性無機粒子との混合物中での前駆体のin-situ重合により、完全にまたは部分的に形成される。有機マトリックスのポリマーは、骨格および1または複数の官能基によって特徴づけられ得る。
【0073】
有機マトリックスポリマーは、不揮発性のポリマー骨格を有する。ポリマー骨格は、無機相と強く相互作用し過ぎず、非極性または低極性と特徴づけられ得る。いくつかの実施形態において、非極性成分は、すべての周波数において、3より低い誘電率を有することを特徴とし、低極性成分は、低周波数(60Hz)および室温で3~5の誘電率を有することを特徴とする。本明細書の記載において、官能化ポリマー成分の極性は、その骨格によって決定される。例えば、非極性ポリマーは、極性末端基で官能化された非極性線状ポリジメチルシロキサン(PDMS)骨格を有し得る。非極性骨格の例は、ポリシロキサン、ポリオレフィン、ポリスチレンおよび環状オレフィンポリマー(COP)、ポリ(テトラヒドロフラン)(PTHF)などのポリエーテル、脂肪酸ダイマーのエステルおよびポリカプロラクトンを含むポリエステル、ポリカプロラクタムなどのポリアミドを含む。
【0074】
COPは、複数の環状オレフィンモノマー(例えば、ノルボルネン)を含むポリマー分子または鎖である。COPは、環状オレフィンモノマーとエチレンなどのモノマーとの共重合によって製造される環状オレフィンコポリマー(COC)を含んでいてもよい。ポリオレフィンは、1、2、またはそれ以上の異なるオレフィン(CnH2n)モノマーならびに炭素および水素のみと、その完全または部分的飽和誘導体とを含む。
【0075】
ポリビニルアセテートおよびポリエチレンオキシド(PEO)などの高極性ポリマーは、無機相の極性表面と強く相互作用し過ぎる可能性があるので、ポリマー骨格として有効ではない。高極性溶媒は、硫化物導電体などの一部の無機粒子と相溶性がないため、高極性溶媒を必要とするポリマー(例えば、ポリビニリデンフルオライド(PVDF))は、適切でないかもしれない。
【0076】
ポリビニル、ポリアクリルアミド、ポリアクリル、およびポリマレイミドのポリマーなどの特定の種類のポリマーについては、極性は、それらの構成モノマーの固有性に高く依存する。一方、このようなポリマーの一部(例えば、ポリビニルアセテート)は、極性が高すぎる可能性があり、これらの種類の中で極性がより低いポリマー(例えば、ポリ(ドデシル-n-ビニルエーテル))を骨格として、使用することが可能である。さらに、いくつかの実施形態において、これらの種類のポリマーは、非極性ポリマー(例えば、ポリオレフィン)と共にコポリマーの骨格に含まれていてもよい。
【0077】
いくつかの実施形態において、ポリマー骨格のガラス転移温度は、比較的低く、例えば、約-50℃より低い、約-70℃より低い、約-90℃より低いか、またはもっと低い。いくつかの実施形態において、ポリマーはエラストマーである。
【0078】
ポリマー骨格の具体例には、PDMS(Tgが-125℃)およびポリブタジエン(PBD)(Tgが-90℃~-111℃)が含まれる。さらなる例には、スチレンブタジエンゴム(SBR)(Tgが-55℃)、エチレンプロピレンゴム(EPR)(Tgが-60℃)およびイソブチレン-イソプレンゴム(IIR)(Tgが-69℃)が含まれる。本明細書に提供されるガラス転移温度は例であり、ポリマーの特定の組成物および/または異性体に応じて変動し得る。例えば、PBDのガラス転移温度は、シス、トランスまたはビニル重合の程度に依存し得る。
【0079】
いくつかの実施形態において、有機相は、実質的に非イオン導電性であり、非イオン導電性ポリマーの例は、PDMS、PBDおよび上述の他のポリマーが含まれる。LiIなどの塩を溶解または解離するのでイオン導電性であるPEO、ポリプロピレンオキシド(PPO)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリ(メチルメタクリレート)(PMMA)などのイオン導電性ポリマーと異なり、非イオン導電性ポリマーは、塩の存在下でさえもイオン導電性ではない。これは、塩を溶解しなければ、有機相で導電する移動性イオンが無いためである。
【0080】
有機マトリックスポリマーの骨格として使用し得る他のポリマーの種類は、パーフルオロポリエーテル(PFPE)である。PFPEは、2またはそれ以上のエーテル基を含むパーフルオロ化ポリマー分子または鎖である。例には、ジフルオロメチレンオキシド、テトラフルオロエチレンオキシド、ヘキサフルオロプロピレンオキシド、テトラフルオロエチレンオキシド-co-ジフルオロメチレンオキシド、ヘキサフルオロプロピレンオキシド-co-ジフルオロメチレンオキシド、テトラフルオロエチレンオキシド-co-ヘキサフルオロプロピレンオキシド-co-ジフルオロメチレンオキシドおよびその組み合わせなどの骨格が含まれるが、これに限定されるものではない。例えば、その教示により、参照により本明細書に組み込まれている米国特許第8,337,986号を参照する。参照により本明細書に組み込まれる、PNAS、第113巻、第1号、52~57(2016)、の「リチウムイオン電池のための柔軟なガラス-ポリマーハイブリッド単一イオン導電性電解質」に記載されるように、PFPEは塩の存在下で、リチウムに対する単一イオン導電体である。
【0081】
結晶質ポリマー骨格はまた、融解温度Tmに関して特徴づけられ得る。結晶質骨格は、いくつかの実施形態において、およそ室温より低い融解温度を有し得る。いくつかの実施形態において、複合体が熱処理される場合(以下に記載)、融解温度はより高いことがあり得て、例えば、150℃より低い、100℃より低い、または、50℃より低い。例えば、PDMSは、より低い温度で液体であるため、いくつかの実施形態において、ポリエチレン(PE、Tmは120℃~180℃)より、PDMS(Tmは-40℃)の方が好ましいことがあり得る。本明細書に提供される融解温度は例であり、ポリマーの大きさ、特定の組成物、および/または、異性体に応じて変動し得る。PBDの融解温度は、例えば、シス、トランス、または、ビニル重合の程度に応じて著しく変動する。
【0082】
ポリマーマトリックスのポリマーは、ホモポリマーまたはコポリマーであり得る。コポリマーを使用する場合は、コポリマーの両方またはすべての構成ポリマーは、上述の特性(不揮発性、非極性または低極性、など)を有する。コポリマーは、ブロックコポリマー、ランダムコポリマーまたはグラフトコポリマーであり得る。
【0083】
比較的多い量(例えば、固体複合体の2.5~60重量%)の有機マトリックスが存在することにより、所望の機械的性質を有する複合材料を提供できる。様々な実施形態によれば、複合体は軟らかく、様々な形状に加工できる。さらに、有機マトリックスがまた、複合体の空隙を充填し得ることで、結果として高密度な材料となる。
【0084】
有機マトリックスは、また、以下に記載するin-situ重合反応において、重合の形成を可能とする官能基を含んでもよい。末端基の例には、シアノ、チオール、アミド、アミノ、スルホン酸、エポキシ、カルボキシル、またはヒドロキシル基が含まれる。末端基はまた、無機相の粒子との表面相互作用を有してもよい。
【0085】
[ポリマー前駆体およびin-situ重合]
様々な実施形態によると、in-situ重合は、イオン導電性粒子と、ポリマー前駆体と、存在する場合は、任意のバインダー、開始剤、触媒、架橋剤および他の添加剤を混合し、次に重合を開始することにより行われる。これは、後述するように溶液中または乾燥押圧でよい。密接な粒子間接触を確立するために加圧下で、重合を開始または実行してよい。
【0086】
ポリマー前駆体は、低分子のモノマー、オリゴマーまたはポリマーであり得る。ポリマーネットワークを形成するために、重合反応は、前駆体から個々のポリマー鎖(または、ポリマー前駆体からより長いポリマー鎖を形成する)を形成、および/または、ポリマー鎖の間に架橋を導入し得る。ポリマー前駆体は、採用される重合法にその性質が依存する官能基を含んでいてよい。
【0087】
ポリマー前駆体は、上述のポリマー骨格(例えば、ポリシロキサン、ポリビニル、ポリオレフィン、PFPE、COP、ポリエーテル、ポリエステル、または、Tgおよび/またはTmが比較的低い他の非極性または低極性ポリマー)もしくはその構成モノマーまたはオリゴマーのいずれかでよい。重合法に応じて、ポリマー前駆体は、末端および/または骨格が官能化されたポリマーで有り得て、1または複数の種類の官能基を有し得る。
【0088】
イオン導電性無機粒子(および、とりわけ硫化物ガラス)の反応性は、in-situ重合の課題を示す。重合反応は、硫化物ガラスまたは他の種類の粒子を分解せず、かつ、有機成分が制御されない、または、時期尚早な重合につながるものであってはならない。とりわけ、ガラス硫化物は、極性溶媒および有機分子の影響を受けやすく、劣化および結晶化を引き起こす可能性があり、それによりイオン導電性の著しい低下または界面抵抗の上昇をもたらし得る。金属触媒を用いる方法は、また、硫化物を主とするイオン導電体に適合しない。硫黄の高い含有量により、触媒が被毒する結果となり重合が妨害され得る。このように、シリコーンゴムの形成に使用される白金媒介ヒドロシリル化などの方法が使用されないことがある。
【0089】
反応化学の適切な選択により用いられ得る3つの方法は、ラジカル重合、縮重合および開環重合である。これらを以下に記載する。
【0090】
[遊離ラジカル重合]
遊離ラジカル重合は、(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、アルケン、アルキン、ビニル基、およびアリル基を含む様々な不飽和結合の存在下で進行するため、広範な範囲の官能性ポリマーおよび低分子を使用して用いることができる。遊離ラジカル重合は、外的な刺激を使用して開始剤からラジカルを発生させ、要求に応じて引き起こされ得る。例えば、イオン導電性無機粒子を所定の場所で固定させるために、加圧下で、温度により開始されるラジカル重合を適用してよい。ラジカル重合方法は、重合性成分(ポリマー前駆体とも呼ばれる)とラジカル開始剤との混合物を伴う。遊離ラジカル重合は、鎖成長重合とも呼ばれることがある。
【0091】
ラジカル開始剤は、熱活性化開始剤(熱開始剤と呼ぶ)または光活性化開始剤(光開始剤と呼ぶ)で有り得る。いくつかの実施形態においては、ラジカル開始剤は、有機アゾ開始剤または過酸化物である。
【0092】
有機アゾ開始剤には、これに限定されるものではないが、2,2'-アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2'-アゾビス(2,4-ジメチルペンタンニトリル)、2,2'-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2'-アゾビス(2-メチルプロパンニトリル)、2,2'-アゾビスメチルブチロニトリル、1,1'-アゾビスシクロヘキサンカルボニトリル、1,1'-アゾビスシアノシクロヘキサンが含まれる。過酸化物は、これに限定されるものではないが、過酸化ベンゾイル、過酸化デカノイル、過酸化ラウロイル、ジ(n-プロピル)ペルオキシジカーボネート、ジ(sec-ブチル)ペルオキシジカーボネート、ジ(2-エチルヘキシル)ペルオキシジカーボネート、ジ(n-プロピル)ペルオキシジカーボネート、1,1-ジメチル-3-ヒドロキシブチルペルオキシドカノエート、クミルペルオキシネオヘプタノエート、t-アミルペルオキシデカノエート、t-ブチルペルオキシデカノエート、t-アミルペルオキシピバレート、t-ブチルペルオキシピバレート、2,5-ジメチル-2,5-ジ(2-エチルヘキサノイルペルオキシ)ヘキサン、t-アミルペルオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ブチルペルオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ブチルペルオキシアセテート、ジ-t-アミルペルオキシアセテート、過酸化t-ブチル、過酸化ジ-t-アミル、過安息香酸t-アミル、および過安息香酸t-ブチルが含まれる。
【0093】
いくつかの実施形態において、ポリマー前駆体は、上述の骨格を有する官能化ポリマー(例えば、ポリシロキサン、ポリオレフィン、PFPE、COP、骨格または他の適切な非極性または低極性ポリマー)、または、構成モノマーまたはオリゴマーである。任意の不飽和炭素-炭素結合も、高分子量線状ポリマーまたは架橋ネットワークを形成するように反応し得る。後者は、2以上の官能基が反応するとき形成される。ポリマー前駆体の官能基の例には、これに限定されるものではないが、マレイン酸無水物、メタクリル類を含むアクリル類、メタクリルアミドを含むアクリルアミド、スチレン類、オレフィン、環状アルケンを含むアルケン、アルキン、ビニル、アリルおよびマレイミドが含まれる。
【0094】
図1に、ラジカル重合によって形成される、架橋ネットワークの形成の概略的な例を提供する。
図1では、ラジカル開始剤1(塗りつぶした丸)と、官能化ポリマー2(ポリマーマトリックス前駆体とも呼ばれる)とが反応し架橋ネットワークを形成する。官能化ポリマーは、終端に官能基(中空円)を備えている。有機マトリックスは、in-situラジカル重合によって形成されたことを示す様々な痕跡を備え得る。これらには、上述のような反応または未反応の官能基、および、上述のようなラジカル開始剤が含まれる。
【0095】
固体複合材料を形成するin-situラジカル重合の例を以下(実施例1参照)に提供する。
【0096】
[段階成長/縮重合]
いくつかの実施形態において、段階成長重合を使用してin-situ重合を行う。いくつかの実施形態において、段階成長重合は、縮合により生じ、縮重合とも呼ばれることがある。
【0097】
図2は、縮重合による線状ポリマーおよび架橋ポリマーネットワークの形成の概略的な例を提供する。2つの種類の官能基を「A」および「B」と表示してある。官能基Aの例には、イソシアネートおよびブロックイソシアネートが含まれる。ブロック化剤の例には、フェノール、オキシムおよび第2級アミンが含まれる。官能基Bの例には、(ポリ(ウレア-ウレタン)を形成する)アミン、(ポリウレタンを形成する)アルコールおよび(ポリチオウレタンを形成する)チオールが含まれる。このように、形成される基は、ウレア-ウレタン、ウレタンまたはチオウレタンであり得る。
【0098】
種類Aおよび種類Bの官能化ポリマーを反応させたときに高分子量線状ポリマーが形成される。また、
図2にも示すように、多機能性架橋剤を使用して架橋ポリマーネットワークを形成し得る。
【0099】
有機マトリックスは、in-situ縮重合によって形成されたことを示す様々な痕跡を備え得る。これらは、上述のように未反応の官能基および上述のように形成されたウレア-ウレタン、ウレタンおよびチオウレタン基を含む。
【0100】
本明細書に記載された複合材料を縮重合を使用して製造するにはいくつかの課題がある。第1に、いずれの副生成物も複合体の無機相とは反応すべきでない。例えば、酸または酸ハロゲンとアルコール、アミンまたはチオールとの間の縮重合により、硫化物導電体と反応し得る酸副生成物と水とが形成される。重合が、副生成物無しに進行する、または、無反応性副生成物のみを形成する場合に、縮重合が行われてよい。
【0101】
縮重合の他の課題は、ラジカル重合とは異なり自発的であることである。縮重合反応は、互いに反応する2つの異なる種類の官能基により官能化されたポリマー前駆体(即ち、モノマー、オリゴマーまたはポリマー)と共に進行する。このように、in-situ重合では、1つまたは両方の官能基がブロックされているべきである。次に、反応は、熱反応性成分をブロック解除することで開始され得る。
【0102】
イソシアネートまたはブロックイソシアネートとアルコール、アミンまたはチオールとのポリウレタン重合反応は、硫化物導電体または他の粒子に悪影響を及ぼさずに生じる。様々な実施形態によると、ポリウレタン、ポリ(ウレタン-ウレア)およびポリチオウレタンポリマーは、重合可能なモノマー、官能性ポリマーおよび/またはオリゴマーのうちの1または複数であり得る成分間での重縮合反応を経て、鎖延長剤と架橋剤とで形成される。典型的には、反応はイソシアネートまたはブロックイソシアネートとアルコール、アミンまたはチオールなどの1または複数の第2反応性成分との間で生じる。
【0103】
イソシアネートの例には、芳香族イソシアネート(例えば、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、p-フェニレンジイソシアネート(PPDI)、トルエンジイソシアネート(TDI))、脂肪族イソシアネート(例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI))およびポリ(ヘキサメチレンジイソシアネート)(PHMI)およびポリ(フェニルイソシアネート)-co-ホルムアルデヒド(PPFI)を含む他のイソシアネート官能化ポリマー、オリゴマーおよびプレポリマーが含まれる。
【0104】
典型的には、ブロックイソシアネートは、イソシアネートと、限定されるものではないが、アルコール、フェノール類、ラクタム(例えば、ε-カプロラクタム)、オキシム(例えば、ケトオキシム)、ヒドロキシルアミン、ピラゾール、ヒドロキシピリジン、トリアゾール、イミダゾリン、ギ酸、ジアセトン、第2級アミン(例えば、ジイソプロピルアミンおよびt-ブチルベンジルアミン)、カーボネート(例えば、1,2-グリセロールカーボネート)およびマロン酸エステルなどのメチレン化合物を含む活性水素を含む化合物との反応で形成される。大半のブロック化剤は、重合中に副生成物として放出される。しかしながら、一部のブロック化剤は、ポリマーネットワーク自体へと組み込まれ得る。例えば、1,2-炭酸エステルは、開環重合によってポリマーネットワークに組み込まれ得る。上に列挙した非炭酸エステルブロック化剤は、典型的には、ポリマーネットワークには組み込まれない。
【0105】
鎖延長剤の例には、グリコール、ジオールおよびヒドロキシアミンが含まれる。具体例には、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6-ヘキサンジオール、1,12-ドデカンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール(EHD)、1,4-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、メチルジエタノールアミン、1,12-ジアミノドデカン、フェニルジエタノールアミン、4,4'-エチレンジアニリン、ジメチルチオトルエンジアミン、ジエチルトルエンジアミン、4,4'-メチレン-ビス-2,6-ジエチルアニリン、および、m-キシレンジアミンが含まれる。
【0106】
架橋剤の例には、イソシアネート架橋剤、多官能のアルコール、アミンおよびヒドロキシアミンが含まれる。具体例には、グリセロール、トリメチロールプロパン、1,2,6-ヘキサントリオール、ジエチレントリアミン、トリエタノールアミン、テトラエリスリトール、ペンタエリスリトール、N,N-ビス(2-ヒドロキシプロピル)アニリン、トリイソプロパノールアミン(TIPA)、およびN,N,N',N"-テトラキス(2-ヒドロキシプロピル)エチレンジアミンが含まれる。
【0107】
いくつかの実施形態においては、ブロックイソシアネートを含む成分の混合物は、高温でのみ熱解離として重合を受けるので、ブロック化剤および反応性イソシアネート基の放出が生じる。
【0108】
固体複合材料を形成する縮重合の例を以下(実施例2参照)に提供する。
【0109】
[開環重合]
開環重合プロセスは、アミン、アルコールおよびチオールなどの求核剤の使用に基づき、エポキシで終端されているポリマーまたは低分子を開環し、化学結合および/または架橋を形成する。本明細書に記載する複合材料については、エポキシで終端されている分子の開環に対する硫化物ガラスまたは他のイオン導電体粒子の触媒効果によりプロセスが限定され得る。触媒作用は、自発的かつ早期の重合を誘起し得る。重合を制御するには、ブロック化した官能基または比較的低い反応性を有する官能基を採用すればよい。例えば、エポキシシクロヘキサンまたは、よりかさ高く、より反応性の低い求核剤などの立体障害エポキシド、または、かさ高い置換基を有する第2級または第3級アルコールまたは第2級アミンを使用できる。
【0110】
開環重合反応は、互いに反応する2つの異なる種類の官能基により官能化されたポリマー前駆体(即ち、モノマー、オリゴマーまたはポリマー)と共に進行する。
図3に開環重合により線状ポリマーおよび架橋ポリマーネットワークを形成する概略的な例を提供する。2つの種類の官能基を「A」および「B」と表示する。例として、アルコール、第2級アミンおよびチオールを含む単一プロトン官能基Aを使用して線状ポリマーを形成してもよい。例として第1級アミンを含む2プロトン官能基Aを使用して架橋ネットワークを形成してもよい。官能基Bの例には、エポキシ樹脂、オキシラン類、グリシジル基およびアルケン酸化物が含まれる。示すように、機能性架橋剤を用いて架橋ポリマーネットワークもまた形成し得る。機能性架橋剤の例には、(3以上)多官能低分子、アミン、アルコール、チオールおよびオキシラン類が含まれる。形成された基はエポキシ樹脂硬化物である。
【0111】
いくつかの実施形態においては、in-situ重合はエポキシド重合である。エポキシ樹脂は、エポキシド官能化ポリマー、オリゴマー、およびプレポリマー、またはその混合物を含む。エポキシ官能性には、グリシジル、環状アルケン(例えば、エポキシシクロヘキシル)の酸化物およびオキシラン類が含まれる。エポキシプレポリマーの例としては、ビスフェノールA、ビスフェノールFおよびノボラックならびにブタンジオールジグリシジルエーテル、ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、トリメチルプロパントリグリシジルエーテルおよび3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレートなどの線状および環状脂肪族エポキシ樹脂が含まれる。
【0112】
触媒単独重合または硬化剤との反応のいずれかを経て、機能性エポキシ樹脂は、硬化(架橋)する。硬化剤には、多機能の脂肪族、脂環式、および芳香族アミン(例えば、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ジプロプレンジアミン、ジエチルアミノプロピルアミン、ヘキサメチレンジアミン、N-アミノエチルピペラジン、メンタンジアミン、イソホロンジアミン、m-キシレンジアミン、メタフェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン)、ポリアミド樹脂、アルコール、チオール、ポリチオール、ポリスルフィド樹脂、フェノール類、酸類、酸無水物(例えば、フタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、マレイン酸、テトラヒドロフタル酸、メチルテトラヒドロフタル酸、ドデセニルコハク酸、ヘキサヒドロフタル酸、およびコハク酸無水物)が含まれる。エポキシ樹脂の触媒単独重合は、第3級および第2級アミン(例えば、ピペリジン、N,N-ジメチルピペリジン、ベンジルジメチルアミン)およびイミダゾール(例えば、2-メチルイミダゾールおよび2-エチル-4-メチルイミダゾール)などのアニオン性触媒の存在で、または、三フッ化ホウ素のようなカチオン性触媒の存在で起き得る。いくつかの実施形態においては、反応をリチウム硫化物導電体で触媒化する。エポキシ樹脂は、硬化プロセス中に収縮し、典型的には約3~10%収縮する。収縮は、ゲル点で生じ、樹脂のゲル化が増大するのに伴い増加する。
【0113】
有機マトリックスは、in-situ開環重合によって形成されたことを示す様々な痕跡を備え得る。これらは、上述のように未反応の官能基およびエポキシ樹脂を含む。
【0114】
固体複合材料を形成するin-situ開環重合の例を以下(実施例4参照)に提供する。
【0115】
[ポリマーバインダー]
いくつかの実施形態において、固体複合材料は、上述のポリマーマトリックスの一部として高分子量ポリマーバインダーを含んでいる。少量のポリマーバインダーが存在することにより、例えば、粉末状の混合物をキャスタブル薄膜に変えるなど、加工性を改善できる。いくつかの実施形態においては、膜の流延、押し出しまたは積層などの加工ステップの前にバインダーを添加してもよく、膜が熱活性化または紫外線活性化in-situ重合を受ける前に材料に機械的強度を提供する。
【0116】
ポリマーバインダーは、高分子量ポリマー(少なくとも100kg/mol)である。いくつかの実施形態において、ポリマーバインダーは、非極性の骨格を有する。非極性ポリマーバインダーの例には、スチレン、ブタジエン、イソプレン、エチレンおよびブチレンを含む、ポリマーまたはコポリマーが含まれる。ポリスチレンブロックおよびゴムブロックを含むスチレン系ブロックコポリマーが使用され得、ゴムブロックの例は、PBDおよびポリイソプレンを含む。ゴムブロックは、水素化されても、されなくてもよい。ポリマーバインダーの具体例は、スチレンエチレンブチレンスチレン(SEBS)、スチレン-ブタジエン-スチレン(SBS)、スチレン-イソプレン-スチレン(SIS)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、PSt、PBD、ポリエチレン(PE)、ポリイソプレン(PI)およびニトリル-ブタジエンゴム(NBR)である。
【0117】
骨格は、上述の官能化ポリマーによって形成された骨格と同一または異なっていてよい。高分子量ポリマーは官能化されない。末端基を有する場合は、メチル基などの、無機相と相互作用をしない基である。
【0118】
存在する場合、固体複合材料中のポリマーバインダーの量は、導電性を維持するように限定され得る。様々な実施形態によれば、ポリマーバインダーは、複合体の0.5~5重量%である。いくつかの実施形態において、ポリマーバインダーは、複合体の0.5~4重量%、複合体の0.5~3重量%、複合体の0.5~2.5重量%、複合体の0.5~2重量%、または、複合体の0.5~1.5重量%である。
【0119】
ポリマーバインダーは、存在する場合、概してin-situ重合した線状ポリマーまたは架橋ポリマーネットワークと共有結合していない。
【0120】
[複合材料]
本明細書に記載される固体状組成物は概して、上述のように、無機固体相および有機ポリマーマトリックスを含む。組成物は、部分的には用途に依存し得て、用途の例には、固体状電解質および固体状電極が含まれる。
【0121】
ローディングとは、成分が組成物またはその一部において占める重量%または体積%を指す。本明細書の説明において、ローディングは重量%として提供される。in-situ重合した前駆体と(存在する場合は)ポリマーバインダーとを含む有機マトリックスは、組成物中に空隙の空間がない、または、最小であるように無機粒子の間の空間を充填し得、かつ、所望の機械的性質を有する。しかしながら、ローディングが高すぎる場合、導電性が低減し得る。固体状複合体におけるポリマー総ローディングは、2.5~60重量%であり得る。
【0122】
様々な実施形態によれば、複合体におけるポリマーマトリックスのローディングは、比較的高く、少なくとも2.5%、少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも11%、少なくとも12%、少なくとも13%、少なくとも14%、少なくとも15%、少なくとも16%、少なくとも17%、少なくとも18%、少なくとも19%、少なくとも20%、少なくとも22%、少なくとも24%、少なくとも26%、少なくとも28%、少なくとも30%、少なくとも32%、少なくとも40%、少なくとも45%、または少なくとも50%(いずれの場合も重量%)である。複合材料におけるポリマー総ローディングは60重量%を超えない。
【0123】
様々な実施形態によると、複合材料は、in-situ重合反応の未反応の反応物および副生成物を含んでいてもよい。これらは、採用される反応物および重合反応の種類に依存し、複合体がin-situ重合反応によって形成されたかどうかを確認する痕跡として使用され得るであろう。
【0124】
いくつかの実施形態においては、固体状組成物は、in-situ重合の反応物の任意の未反応の反応物および副生成物と共に、本質的にイオン導電性無機粒子およびポリマーマトリックスとからなる。いくつかの実施形態においては、ポリマーマトリックスは、本質的にin-situ重合反応で重合した生成物から成る。いくつかの実施形態においては、ポリマーマトリックスは、本質的にin-situ重合反応で重合した生成物と高分子量ポリマーバインダーとからなる。
【0125】
代替物な実施形態において、イオン導電性無機粒子、1または複数の第1成分、および、1または複数のポリマーバインダー以外の1または複数の成分が、固体状組成物に追加され得る。様々な実施形態によれば、固体状組成物は、添加塩を含んでも、含まなくてもよい。導電性を改善するべく、リチウム塩(例えば、LiPF6、LiTFSI)、カリウム塩、および、ナトリウム塩などの塩が追加され得る。しかしながら、いくつかの実施形態において、それらの塩は、イオン導電のすべてに寄与する接触するイオン導電性粒子と共に使用しない。いくつかの実施形態において、固体状組成物は、実質的に添加塩を含まない。「実質的に添加塩を含まない」とは、微量の塩しか含まないことを意味する。いくつかの実施形態において、塩が存在する場合、イオン導電性に対して、0.05mS/cmまたは0.1mS/cmを超えて寄与しない。いくつかの実施形態において、固体状組成物は、1または複数の導電性エンハンサーを含み得る。いくつかの実施形態において、電解質は、Al2O3などのセラミック充填材を含む1または複数の充填材材料を含み得る。使用される場合、充填材は、特定の実施形態に応じて、イオン導電体であっても、そうでなくてもよい。いくつかの実施形態において、複合体は1または複数の分散剤を含み得る。さらに、いくつかの実施形態において、固体状組成物の有機相は、特定の適用に望ましい機械的性質を有する電解質の製造を容易にするように、1または複数の追加の有機成分を含み得る。いくつかの実施形態において、以下でさらに説明されるように、固体状組成物は、電気化学的活性材料を含む。
【0126】
いくつかの実施形態において、固体状複合体は、固体電解質として使用するときに、リチウムのデンドライトの成長を防止するべく、少なくとも約9GPa(リチウム金属の弾性率の約2.5倍)の弾性率を有する。複合体は、微視的に高密度かつ柔軟であり得て、様々な形状(例えばペレット)に加工できる。
【0127】
固体状複合体は、高いイオン導電性の特徴を有してよい。いくつかの実施形態において、導電性は、例えば、本来のイオン導電体粒子の導電性と近く、本来の粒子の導電性の割合、例えば、本来のイオン導電体粒子の少なくとも10%、50%または70%として特徴づけ得る。固体状複合体はまた、少なくとも1.0×10-4S/cmのイオン導電性を有することを特徴とし得る。
【0128】
有機マトリックスのポリマーは、上述の骨格を特徴とし得る。いくつかの実施形態において、ポリマーは、(例えば、無機相との重合または相互作用のために)ポリマーマトリックス前駆体の終端に取り付けられ得る、かつ/または、(例えば、架橋のために)ポリマーマトリックス前駆体の骨格の様々なポイントに沿って取り付けられ得る1または複数の異なる種類の官能基を含み得る。さらに、場合によっては、官能化ポリマーの一部または、機能性架橋剤または鎖延長剤の一部として官能基を備える未反応の反応物が有機相に存在してもよい。
【0129】
官能基の例には、第1級アミン官能基(--NH2)、第2級アミン官能基(--NRH、式中、Rは、アルキルまたはアリール)、アルコール官能基(--OH)、チオール官能基(--SH)、イソシアネート官能基(--N=C=O)、アルケニル官能基(--RC=CR2、式中、各Rは、個々にH、アルキル、またはアリール)、アルキニル官能基(--C≡CR、式中、Rは、H、アルキル、またはアリール)、ビニル官能基(--CH=CH2)およびアリル官能基(--CH2-CH=CH2)が含まれる。骨格への取り付け点は、「--」で示す。
【0130】
さらなる例には、下に示すように、(メタ)アクリレート官能基、(メタ)アクリルアミド官能基、スチレン系官能基およびマレイミド官能基を含み、式中、Rは、H、アルキルまたはアリールで、
【化5】
は、骨格の取り付け点を示す。
【化6】
【0131】
ひとたび反応すると、上の官能基は、in-situ重合マトリックス中に、(リンカとも呼ばれる)連結基を形成し得る。このように、in-situ重合マトリックスは以下の1または複数の存在を特徴とし得る。
1)--CH
2CH(H/CH
3)(R)、式中、R=-C(O)-O-、-C(O)-NR-、-C
6H
4-、または、
【化7】
2)-NH-C(O)-NR-、式中、RはH、アルキルまたはアリール;
3)-NH-C(O)-O-;および
4)-NH-C(O)-S-。 これらの連結基は、骨格または、延伸する鎖もしくは、架橋基のすべてまたは一部に取り付けられ得る。
【0132】
ポリマーマトリックスは、in-situ重合反応または上述のようにポリマーマトリックスを形成するのに使用する反応の生成物を特徴とし得る。例えば、イソシアネートとアルコールとの反応でポリ(ウレタン)を形成し得る。いくつかの実施形態において、ポリマーマトリックスは、ポリ(ウレタン)、ポリ(ウレアウレタン)、ポリ(チオウレタン)、ポリ(アクリレート)、ポリ(メタクリレート)、ポリ(マレイミド)、ポリ(アクリルアミド)、ポリ(メタクリルアミド)、ポリオレフィン、または、ポリスチレンを含む。
図14は、in-situ重合したポリマーマトリックス中のこれらポリマーの例を提供する。
【0133】
[加工]
固体状組成物は、任意の適切な方法で調製し得、下に実験結果を参照して例示的処置を説明する。また、溶液処理法によって、均一な膜を調製できる。ある例示的方法では、超音波破砕機、ホモジナイザ、高速ミキサ、ロータリーミル、バーチカルミルおよび遊星ボールミルなどの様々な実験室および工業的機器を使用してすべての成分を共に混合する。混合を改善し、凝集体および集合体を砕くことにより均質化を補助するように、混合メディアを追加してもよく、それによりピンホールおよび高表面粗度などの膜の欠陥を除去する。結果として得られた混合物は、ハイブリッド組成物および溶媒含有量に基づいて粘度が変化する均一に混合されたスラリー状である。流延するための基板は、異なる厚さおよび組成を有する可能性が有る。例には、アルミニウム、銅、テフロン(登録商標)およびマイラー(登録商標)が含まれる。異なる工業的方法により、選択された基板上へのスラリーの流延を実現できる。いくつかの実施形態において、ローラー間でのカレンダ処理、垂直平坦プレスまたは等方性プレスなどの方法によって、機械的に膜を高密度化することで多孔度を低減(結果として、例えば、厚さが約50%まで変化)できる。高密度化プロセスに関わる圧力により、粒子は近接した粒子間接触を維持するように強いられる。例えば、1MPa~300MPa、または、1MPa~100MPaのオーダの外圧が加えられる。いくつかの実施形態においては、カレンダロールにより印加される圧力が使用される。粒子間接触を実現するには十分であるが、複合体膜から未硬化ポリマーが追い出されるのを防げるほどの低い圧力を保持する。マトリックスを形成するように、架橋を含み得る重合が加圧下で生じ得る。いくつかの実装においては、熱エネルギーまたは紫外線の適用を使用して重合を開始する熱開始または光開始重合技法を使用する。イオン導電性無機粒子は、マトリックスに捕捉され、外圧が開放されても密着したままである。上述のいずれかの方法で(ペレットまたは薄膜として)調製された複合体は、十分に確立されている方法によって、実際の固体状リチウム電池に組み込まれる。
【0134】
いくつかの実施形態において、膜は、溶液処理ではなく、乾燥処理される。例えば、膜を押し出してもよい。押し出しまたは他の乾燥プロセスは、特に、有機相のローディングがより高いときに(例えば、有機相が少なくとも30重量%の実施形態において)溶液プロセスの代替となり得る。
【0135】
図4aは、加圧下でポリマー鎖を架橋するように、in-situ重合を受けるポリマーマトリックス内のイオン導電性無機粒子を含むキャスト膜の概略図の例を提供する。
図4の例において、キャスト膜は、膜が高密度化し、イオン導電性粒子が密着するように強いる加圧を受ける。重合を開始するように外的刺激が加えられ、
図4の例では、ポリマーマトリックスのポリマー鎖を架橋しポリマーネットワークを形成する。圧力を開放しても、架橋膜は高密度を維持し、イオン導電性粒子は密着している。代替の実施形態において、有機マトリックスは一切架橋していないポリマーを含む。さらに、上に示されるように、いくつかの実施形態においては、膜は流延されない。
【0136】
図4bは、本発明の特定の実施形態による、加圧せずにポリマー鎖を架橋するように、in-situ重合を受けるポリマーマトリックス内のイオン導電性無機粒子を含むキャスト膜の概略図の例を提供する。これらの実施形態では、膜は、粒子間接触およびイオン導電性の増加が生じるin-situ重合自体に起因する十分な収縮を受ける。粒子重合による収縮のレベルは、重合の種類、複合体中の有機マトリックスの体積および前重合化複合体中の重合可能基の種類および数を含むいくつかの要因に依存する。重合の種類については、段階成長重合は、開環重合より体積変化を受ける鎖成長重合よりも、より体積の変化を受ける。上述の架橋システムにおいては、最大の収縮は、ブロックイソシアネートとのポリウレタン重合などの段階成長重合に起因し、次いで、ラジカル重合(例えば、PBDの架橋、PFPEまたはPDMSのジアクリレート架橋)などの鎖成長重合、次いで、エポキシ硬化マトリックスなどの開環重合であろう。有機マトリックスの体積百分率がより高かったり、無機粒子の体積百分率がより低かったりすることによってもまた、より収縮がもたらされる。最後に、重合中により多くの官能基が変換されると、膜の収縮もより大きくなるであろう。
【0137】
いくつかの実施形態において、二重硬化方法が提供されている。このような方法では、異なる温度で重合する2つの反応物が提供される。例えば、段階成長重合では、高分子量線状ポリマー(即ち、2官能性またはN=2モノマー)のみを形成するモノマーは、100℃で重合し得、3つの官能基(N=3)を有する機能性架橋剤は、180℃で重合し得る。N=2モノマーで形成されたポリマーは、可塑性になり得、温度および圧力下で再成形できる一方、N=3機能性架橋剤は、熱硬化性になり得、再成形はできない。そのため、100℃での第1のin-situでの加工操作は、複合体を保持するように行ってもよく、引き続き一緒に、180℃でin-situでの加工操作を行い、複合体をその最終形状で架橋する。いくつかの実施形態においては、膜が熱活性化または紫外線活性化in-situ重合を受ける前に、第1の硬化が材料に機械的強度を提供し得る。in-situでのポリウレタン形成のための、2官能性モノマー(イソホロンジイソシアネート-ジイソプロピルアミン(IPDI-DIPA))と3官能基ブロックイソシアネート(ポリ[(フェニルイソシアネート)-co-ホルムアルデヒド]PPFI-DIPA)を含む二重硬化システムの例の説明を、下の実施例9で提供する。
【0138】
いくつかの実施形態において、高分子量熱可塑性ポリマーは、ex-situで前重合し、次にイオン導電性粒子を混合してよい。例えば、これは、N=2モノマーをin-situで重合する代わりに行ってもよい。高分子量熱可塑性は、上述のように、骨格ポリマーをイソシアネートと反応させて調製してもよい。
【0139】
[電解質]
発明の一態様において、固体状複合体電解質が提供される。固体状複合体電解質は、上述の任意の固体状複合材料であり得る。電解質は、電極などの機能性基板上で直接形成されてもよく、または、固体状電解質を電池の他のコンポーネントに組み立てる前に取り外される、取り外し可能な基板上で形成されてもよい。
【0140】
いくつかの実施形態においては、上述のように、本質的にポリマーマトリックスとイオン導電性無機粒子とから成る固体状複合体電解質が、なんらかの未反応の反応物または副生成物と共に提供される。しかしながら、上述のように、それらは電解質の他の成分であり得る。いくつかのそのような実施形態において、重合した前駆体、高分子量ポリマーバインダー(存在する場合)、イオン導電性無機粒子、および、なんらかの未反応の反応物または副生成物(存在する場合)は、固体状複合体電解質の少なくとも90重量%を構成し、いくつかの実施形態において、固体状複合体電解質の少なくとも95重量%を構成する。
【0141】
いくつかの実施形態において、イオン導電性非晶質無機粒子は、固体状電解質の少なくとも60重量%を構成する。いくつかのそのような実施形態において、固体状電解質の残部は、ポリマーマトリックスおよびなんらかの未反応の反応物および副生成物である。いくつかの実施形態において、イオン導電性非晶質無機粒子は、固体状電解質の少なくとも80重量%を構成する。いくつかのそのような実施形態において、固体状電解質の残部は、ポリマーマトリックスおよびなんらかの未反応の反応物および副生成物である。いくつかの実施形態において、イオン導電性非晶質無機粒子は、固体状電解質の少なくとも85重量%を構成する。いくつかのそのような実施形態において、固体状電解質の残部は、ポリマーマトリックスおよびなんらかの未反応の反応物および副生成物である。
【0142】
他の成分は、リチウムイオン塩、ナトリウムイオン塩、および、カリウムイオン塩を含むアルカリ金属イオン塩を含み得る。例には、LiPF6、LiTFSI、LiBETIなどが含まれる。しかしながら、いくつかの実施形態において、固体状電解質は実質的にアルカリ金属イオン塩を含まない。
【0143】
いくつかの実施形態において、電解質は、電極の表面に不動態化層を形成するために使用できる電極安定剤を含み得る。電極安定剤の例は、米国特許9,093,722号に記載される。いくつかの実施形態において、電解質は、上述のように、導電性エンハンサー、充填材、または、有機成分を含み得る。
【0144】
複合体固体状電解質は、リチウムイオン電池、ナトリウムイオン電池、リチウム金属電池、ナトリウム金属電池などを含む、任意の固体状アルカリイオンまたはアルカリ金属電池において使用され得る。複合体固体状電解質は、デンドライトの成長が懸念される電池に適している。例えば、いくつかの実施形態において、リチウム金属電池のための電解質が提供される。複合体固体状電解質は、デンドライトに耐えることによって、リチウム金属アノードの使用を可能にする。複合体固体状電解質は、硫黄カソードを含む任意のカソード材料と共に使用され得る。上述の有機相成分は、ポリスルフィドを溶解せず、リチウム-硫黄電池との使用に適している。
【0145】
本発明の固体膜電解質組成物は、特定の電池設計に応じて、任意の好適な厚さであり得る。多くの用途において、厚さは、10μm~250μmであり得て、例えば、100μmである。いくつかの実施形態において、電解質は、例えば、ミリメートルのオーダで、著しく厚いことがあり得る。
【0146】
本発明の実施形態に係る固体状複合体電極の例示的なローディングを以下の表1に示す。
表1:固体状複合体電解質の例示的なローディング
【表1】
【0147】
表1は、有機マトリックスが高分子量ポリマーバインダーを含む組成物のローディングを提供する。ローディングには、未反応の反応物または副生成物は考慮されない。すなわち、微量またはより多い量が存在し得る未反応の反応物または副生成物は、ローディングには含まれない。高分子量ポリマーバインダーを含有しない組成物については、重合した前駆体についての例示的な範囲の各々の上限(99%)は100%で置き換えられ、バインダーの例示的な範囲の各々の下限(1%)は0で置き換えられる。
【0148】
[電極]
発明の一態様において、固体状複合体を含む電極が提供される。固体状複合体はさらに、電極活性材料を含み、任意選択で、導電性添加剤を含む。高分子量バインダーが存在する実施形態においては、高分子量ポリマーバインダーは、有機相の1~50重量%を構成し得るとともに、重合した前駆体は、有機相の少なくとも50重量%を構成する。有機相は、本質的にin-situ重合した前駆体、任意選択の高分子量ポリマーバインダー、および、いくつかの実施形態によると、存在し得るなんらかの未反応の反応物および副生成物から成る。他の実施形態において、有機相は、上述のような、1または複数の追加的な成分を含み得る。本発明の実施形態の例示的なローディングを、以下の表2に示す。
表2:固体状複合体電極の例示的なローディング
【表2】
【0149】
表2は、有機マトリックスが高分子量ポリマーバインダーを含む組成物のローディングを示す。微量またはより多い量が存在し得る未反応の反応物または副生成物は、ローディングには含まれない。高分子量ポリマーバインダーを含有しない組成物については、重合した前駆体についての例示的な範囲の各々の上限(99%)は100%で置き換えられ、バインダーの例示的な範囲の各々の下限(1%)は0で置き換えられる。
【0150】
いくつかの実施形態において、固体状電極は、in-situ重合したポリマーマトリックス、イオン導電性無機粒子、および、活性材料を含むカソードである。いくつかの実施形態において、固体状電極は、in-situ重合したポリマーマトリックス、イオン導電性無機粒子、および、活性材料を含むアノードである。
【0151】
例示的なカソード活性材料は、リチウムコバルト酸化物(LCO)、リチウムマンガン酸化物(LMO)、リチウムニッケルコバルトアルミニウム酸化物(NCA)、リン酸リチウム鉄(LFP)、および、リチウムニッケルコバルトマンガン酸化物(NCM)を含む。例示的なアノード活性材料には、グラファイトおよび他の炭素含有材料、シリコンおよびシリコン含有材料、スズおよびスズ含有材料、リチウムおよびリチウム合金化金属が含まれる。
【0152】
いくつかの実施形態において、固体状電極は、in-situで重合したポリマーマトリックス、イオン導電性無機粒子、および、硫黄含有活性材料を含む硫黄カソードである。いくつかの実施形態において、複合体固体状カソードは、リチウム-硫黄電池に組み込まれ、複合体固体状カソードは、in-situ重合したポリマーマトリックス、任意選択の高分子量ポリマーバインダー、イオン導電性無機粒子、硫化リチウム(Li2S)粒子、および、炭素導電性材料を含む。
【0153】
様々な実施形態によれば、固体状電極は、200μmより薄く、いくつかの実施形態において、100μmより薄い厚さを有する薄膜である。面積容量は、いくつかの実施形態において、1mAh/cm2と10mAh/cm2との間であり得る。
【0154】
発明の一態様において、固体状複合体組成物を含む電極/電解質二重層が提供される。二重層は、上述のような固体状複合体電極および固体状複合体電解質を含む。イオン導電性無機粒子、in-situ重合したポリマーマトリックス、高分子量ポリマーバインダー(存在する場合)の各々は、電極および電解質のために別個に選択され得て、電極の各成分は、電解質と同一でも、または、異なっていてもよい。固体状電極は、約200μmより薄く、いくつかの実施形態において、約100μmより薄い厚さを有する薄膜である。固体状電極と接触する固体状電解質の厚さは、約200μmより小さくてよい。いくつかの実施形態において、固体状電解質は、5μm~50μmの厚さであり、例えば、25μm~50μmの厚さである。
【0155】
[電池]
本明細書では、アノードと、カソードと、アノードおよびカソードに動作可能に結合する上述のような柔軟な固体電解質組成物とを含むアルカリ金属電池およびアルカリ金属イオン電池が提供される。電池は、アノードおよびカソードを物理的に隔離するためのセパレータを含み得る。
【0156】
好適なアノードの例には、リチウム金属、リチウム合金、ナトリウム金属、ナトリウム合金、グラファイトなどの炭素質材料、および、それらの組み合わせから形成されたアノードが含まれるが、これに限定されるものではない。好適なカソードの例には、遷移金属酸化物、ドープされた遷移金属酸化物、金属リン酸塩、金属硫化物、リン酸リチウム鉄、硫黄、および、それらの組み合わせから形成されたカソードが含まれるが、これに限定されるものではない。いくつかの実施形態において、カソードは、硫黄カソードであり得る。追加的なカソードの例には、参照により本明細書に組み込まれる米国特許出願公開第2012/0082903号、Zhang他、段落178に記載されているものが含まれるがこれに限定されるものではない。いくつかの実施形態において、カソードなどの電極は、参照により本明細書に組み込まれるJ.Am.Chem.Soc.133,5756~5759(2011)、Y.Lu他などに記載される液体を含んでいてもよい。
【0157】
リチウム-空気電池、ナトリウム-空気電池、または、カリウム-空気電池などのアルカリ金属-空気電池において、カソードは、酸素透過性(例えば、メソポーラスカーボン、多孔質アルミニウムなど)であり得て、任意選択でカソードは、カソードにおいて、リチウムイオンと酸素とで生じる還元反応を促進すべく、その中に組み込まれた金属触媒(例えば、マンガン、コバルト、ルテニウム、白金もしくは銀の触媒、または、それらの組み合わせ)を含み得る。
【0158】
いくつかの実施形態において、リチウム金属アノードおよび硫黄含有カソードを含むリチウム-硫黄セルが提供される。上に示したように、本明細書に記載される固体状複合体電解質は、デンドライト形成を防止することによりリチウム金属アノードを、および、放電中にカソードで形成されるポリスルフィド中間体Li2Snを溶解させないことにより硫黄カソードの両方を使用可能にするという点が特有である。
【0159】
また、アノードおよびカソードが互いに直接電気的に接触することを防止すべく、イオン流透過性の任意の好適な材料から形成されたセパレータを含むことができる。しかしながら、本明細書に記載される電解質組成物は固体組成物なので、特に膜の形状であるとき、セパレータとして機能できる。
【0160】
上述のように、いくつかの実施形態において、固体複合体組成物は、電池の電極内に組み込まれ得る。電解質は、上述のような柔軟な固体電解質、または、液体電解質を含む任意の他の適切な電解質であり得る。
【0161】
いくつかの実施形態において、電池は、電極/電解質二重層を含み、各層は、本明細書に記載のイオン導電性固体状複合材料を組み込む。
【0162】
図15は、本発明の特定の実施形態によるセル100の概略図の例を示す。セル100は、負電流コレクタ102、アノード104、電解質106、カソード108および正電流コレクタ110を含む。負電流コレクタ102および正電流コレクタ110は、銅、鋼、金、白金、アルミニウム、ニッケルなどの、任意の適切な電子的導電性材料であり得る。いくつかの実施形態において、負電流コレクタ102は銅であり、正電流コレクタ110はアルミニウムである。電流コレクタは、シート、箔、メッシュ、または、発泡体などの、任意の適切な形状であり得る。様々な実施形態によれば、アノード104、カソード108、電解質106のうち1または複数は、上述のような第1成分を含む固体状複合体である。いくつかの実施形態において、アノード104、カソード108、電解質106の各々は、上述のように2または3成分固体状複合体である。
図16は、本発明の特定の実施形態による、組み立てた状態のリチウム金属セル200の概略図の例を示す。組み立てた状態のセル200は、負電流コレクタ102、電解質106、カソード108および正電流コレクタ110を含む。リチウム金属は、最初の充電で生成し、負電流コレクタ102上にめっきされ、アノードを形成する。電解質106およびカソード108の1つまたは両方は、上述のように、複合材料であり得る。いくつかの実施形態において、カソード108および電解質106は共に、上述のような電極/電解質二重層を形成する。
図17は、本発明の特定の実施形態によるにセル100の概略図の例を示す。セル100は、負電流コレクタ102、アノード104、カソード/電解質二重層112および正電流コレクタ110を含む。
【0163】
電池の成分はすべて、既知の技法にしたがってアノードおよびカソードとの電気的接続を確立するために、外部のリード線または接点を有する好適な剛性または可撓性の容器に含まれ得るか、または、包装され得る。
【0164】
[例示的実施形態]
実施例1:ラジカル重合-PFPEと熱開始剤
アルゴン雰囲気下で動作するグローブボックス内で、硫化リチウムガラス(Li2S:P2S5=75:25)2.4gをカップに配置した。1.04gのPFPEジメタクリレート(Fluorolink MD 700、Solvay)を添加し、次いで0.051gの過酸化ベンゾイルと7.3gの乾燥Fluorinert 70を添加した。カップをシンキー(登録商標)のミキサー(シンキー ARV-50LED)に配置し、1500rpmで40分間混合した。ドクターブレードを使用して、スラリーをアルミニウム箔に流延した。真空を維持したまま、塗工機上で膜を乾燥させ、次に、アンテチャンバに移し、真空下60℃で乾燥させた。乾燥膜を削り取り、液圧プレスを使用して材料を120MPa下で押圧してペレットにし、その後125℃で2時間加熱した。その後、加熱をやめ、ペレットを室温まで冷却し、そこで初めて圧力を開放した。
【0165】
実施例2:第1部:ジイソプロピルアミンでブロックした4,4-ジイソシアナトジフェニルメタン(MDI-DIPA)の合成
グローブボックス内で、4,4-ジイソシアナトジフェニルメタン(MDI)を10.0g量り分け、撹拌子を備えた乾燥した250mLのシュレンクフラスコに配置し、次いで、180mLの無水トルエンを添加した。フラスコをゴムセプタムで閉じ、窒素流下の撹拌プレート上に配置した。次に、混合物に、11.2mLの乾燥ジイソプロピルアミン(DIPA)を5分かけて徐々に添加した。混合物の経過にしたがって、溶液から生成物が相分離されるのが観察された。室温で混合物を3時間撹拌し、その後、混合物の下相が分離し、真空下で溶媒を除去した結果、白色固体が残った。生成物を、60℃の真空下でさらに24時間乾燥させた。
【化8】
スキーム1:MDI-DIPAの合成
実施例2:第2部:ブロックジイソシアネートを有する水素化ポリブタジエンジオールの段階成長/縮重合
【化9】
スキーム1:ブロックジイソシアネートを有する水素化PBDジオールの合成
【0166】
アルゴン雰囲気下で動作するグローブボックス内で、硫化リチウムガラス(Li2S:P2S5=75:25)2.55gをカップに配置し、次に、水素化ポリブタジエンジオール(Krasol HLBH-P 2000,クレイバレー(登録商標))0.37gと、MDI-DIPA0.080gの1,2,4-トリメチルベンゼン25重量%溶液と、追加で1,2,4-トリメチルベンゼン0.3gをカップに配置した。カップをシンキー(登録商標)のミキサー(シンキーARV-50LED)に入れ、1500rpmで混合した。ドクターブレードを使用して、スラリーをアルミニウム箔に流延した。真空を維持したまま、塗工機上で膜を乾燥させ、次に、アンテチャンバに移し、加熱せずに真空下で16時間乾燥させた。
【0167】
乾燥膜を、3つの50×70mmの矩形に切断し、各々異なる方法で後処理した。膜片はすべて、垂直積層プレスを使用して15MPaで2時間加圧した。但し、加圧する間、各々を、異なる温度に曝した。Al|Al対称セルの密閉パウチとして膜の導電性を測定した。各サンプルについて、3つの異なる圧力を加えて室温で測定した。下の表3に、結果を示す。
表3:異なる温度で処理した複合体膜の導電性
【表3】
*高密度化に起因する厚さ調整後の値
【0168】
反応が起きる温度を示差走査熱量測定(DSC)で決定した。流延した乾燥サンプルのDSC分析(反応での放熱)。架橋は、それぞれ、重合反応の発熱信号の消失およびサンプルの重量減少の低下によって、DSCおよび熱重量分析(TGA)で確認された。
【0169】
上の表を参照すると、加えた圧力の増加に伴い、サンプル1~4は導電性の向上を示す一方、サンプル5および6は、大気圧(0.1MPa)でさえも導電性を維持した。140℃において、in-situ重合を開始する外部エネルギーは十分に加えられていること、および、in-situ重合により、圧力が開放された後でさえもサンプルは導電性の維持が可能となることを示している。
【0170】
実施例3:in-situでのポリウレタンの形成によるハイブリッド合成の分析
硫化リチウムガラスとポリウレタンポリマーマトリックスのハイブリッドは、実施例2に説明したように合成した。ポリウレタンの形成は、高温において、ジオール(ポリマーまたは低分子)とin-situで生成したイソシアネートとの間で生じる。イソシアネートは、保護イソシアネートからブロック化剤が解離する結果製造されるので、反応温度は、ブロック化剤の解離温度より低くないようでなければならない(Treaction≧Tdissociation)。
【0171】
ブロックイソシアネートの分解プロセスの評価のために、2つの主要な分析技法であるDSCおよびTGAが採用される。
図5は、それぞれT
1diss=143℃とT
2diss=184℃との発現温度を有する2つの吸熱を示すジイソプロピルアミンでブロックされている4,4-ジイソシアナトジフェニルメタン(MDI-DIPA)のDSCサーモグラムを示している。
【0172】
DSCサーモグラムに2つの吸熱が存在することにより、ジイソプロピルアミンの解離は二段階プロセスであることが示される(スキーム1)。T
diss1まで加熱すると、イソシアネート基のうちの一方のみがブロック解除され(ステップI、スキーム1)、他の1つを解離させるには、システムはより高温(≧T
diss2)が必要となる。(ステップII、スキーム1)
【化10】
スキーム3:MDI-DIPAからのジイソプロピルアミンの解離メカニズム
【0173】
段階的な解離メカニズムを、140℃の等温条件下で行ったMDI-DIPAのTGA分析により、さらに確認した(
図6)。予期されるように、分析では、DIPA1分子の損失に対応し、かつ、約23重量%という理論値に良好に相関する25重量%の低下が示された。
【0174】
次に、重合性成分であるMDI-DIPAおよびHLBH2000の混合物の分析にDSCを使用した。データは、ジオール(HLBH2000)の存在により発現温度がT
diss1~140℃(
図7の実線)の吸熱が消失し、T
end1~136℃(
図7の破線)の吸熱ピークに置き換わることを示す。放熱の出現は、(ブロック)イソシアネートおよびジオール間での重合(ポリウレタンの形成)を示している。しかしながら、吸熱の消失は、プロセスが、二段階の解離-縮合反応ではなく、一段階のエステル交換によって生じることを示唆する。
【0175】
最後に、薄膜流延法により調製された、硫化リチウムガラスとプレマトリックス成分、具体的には、HLBH2000とMDI-DIPAとの完全ハイブリッド組成のDSCおよびTGA分析を行った。分析により、a)ポリウレタンハイブリッドのin-situ重合を開始するのに必要な温度(DSC)、b)前および後重合ハイブリッド中の硫化物ガラスの熱安定性、および、c)有機マトリックス中での重合の発生および経過の、いくつかの異なる情報が提供された。
図8は、純粋なLi
2S:P
2S
5=75:25ガラス(高い方の記録)と、熱処理前の同一の硫化物ガラスと、HLBH2000と、MDI-DIPAとのハイブリッド混合物(低い方の記録)のDSCの記録を示す。純粋なガラスの分析で示されるのは、ガラス結晶化に関連するT
1cryst=230℃での吸熱(
図4の実線)が1つのみである。同一のガラスをマトリックス成分HLBH2000およびMDI-DIPAと組み合わせた場合、代わりに2つの吸熱ピークが観察される。T
end2~96℃のより小さい第1の信号は、重合反応に帰し、これに対して、T
cryst2~162℃のより高い強度のピークはガラス結晶化に対応する。マトリックス成分の存在により硫化物ガラスの熱安定性が、著しく低下することは明白である。この根拠は、前重合化ハイブリッド中のガラスは、純粋なガラスと比較して結晶化温度が67℃低下すること、従って熱安定性が低下することによって裏付けられる。他方、硫化物ガラスの存在によりポリウレタンの形成反応が触媒化される。これは、重合吸熱がT
end1~136℃(
図7の破線)からT
end2~96℃(
図8の低い方の記録)へとずれることにより示される。
【0176】
前重合化ハイブリッド内でのガラスの熱安定性と重合温度を決定した後に、薄膜は熱的後加工を受ける。薄膜を、横方向積層プレスで15MPaで押圧し、次に、圧力を加えたまま、100℃または140℃で2時間加熱し、室温まで冷却する。
図9は、100℃および140℃で処理したガラスハイブリッド膜のDSCの記録を示す。予期されるように、膜が100℃(「A」と表示したダッシュ-点の記録)または140℃)(「C」と表示した長いダッシュの記録)のいずれかに曝されると、前重合化ハイブリッドに存在する重合放熱(「B」と表示した短いダッシュ)は消失し、ハイブリッド内での重合反応が実現されることが確認される。さらに、観察される結晶化温度の違いに基づいて、ガラス安定性の著しい変化が認められる。ガラス安定性は、前重合化マトリックスを導入すると67℃低下するものの、熱処理(重合)ハイブリッド内では、上昇する。ハイブリッドを100℃で押圧したときに、ガラスの熱安定性はわずかに40℃低くなり(「A」と表示したダッシュ‐点の記録)、140℃で処理すると完全に元通りになる(「C」と表示した長いダッシュの記録)。従って、ハイブリッド内でのin-situでのポリウレタンの形成によりガラス安定化の根拠が提供される。
【0177】
TGAを使用して、重合反応の発生の追加的な指標を提供する。
図10を参照されたし。等温TGAにより、純粋な硫化物ガラス(「D」と表示)、非処理薄膜(「B」と表示)、100℃で加熱した膜(「A」と表示)と140℃で加熱した膜(「C」と表示)との4つのサンプルを、100℃で100分間解析した。純粋なガラス(D)は、100℃での重量減少を示さず安定である。非処理ハイブリッドは、理論値である1.25重量%と密接に相関する~1.34重量%減少する。この数は、MDI-DIPAからジイソプロピルアミン分子がすべて完全に解離したと想定される。100℃および140℃で処理すると、重量減少は、それぞれ0.31%と0.24%へと変化し、重合反応およびシステムからのDIPAの蒸発を示す。しかしながら、重量減少の値は、MDI-DIPAのブロック解除効率が限定的であること(75%および82%)、遊離ジイソプロピルアミンの蒸発が不十分であること、または、前重合化マトリックス中のアルコール基の割合が不十分であることを示唆し得る。
【0178】
実施例4:PDMSポリマーとエポキシおよびアミノ官能基の開環重合
アルゴン雰囲気下で動作するグローブボックス内で、硫化リチウムガラス(Li2S:P2S5=75:25)1.7gをカップに配置し、次に、乾燥アミノプロピル終端化ポリジメチルシロキサン(DMS-A11、ゲレスト(登録商標))0.104gと、次いで、乾燥1,2,4-トリメチルベンゼン1.0gとを添加した。カップをシンキー(登録商標)のミキサー(シンキーARV-50LED)に入れ、1500rpmで30分間混合した。その後、カップを開き、乾燥エポキシプロピル終端化ポリジメチルシロキサン(シグマアルドリッチ)0.196gを添加し、引き続き1500rpmで2分間混合した。ドクターブレードを使用して、スラリーをアルミニウム箔に流延した。真空を維持したまま、塗工機上で膜を乾燥させ、次に、アンテチャンバに移し、真空下、室温で乾燥させた。膜を16時間乾燥させ、その後、垂直ローリングプレスを使用してカレンダ処理した。膜の厚さは97μmから67μmに変化した。2枚の金属プレート間で24kPSI(165MPa)でプレスした膜の導電性は2×10-5S/cmであった。
【0179】
実施例5:ガラス含有量に応じたブタジエンゴムの架橋
架橋ポリブタジエン硫化物ガラス複合材料の合成の例を下に示す(スキーム4)。
【化11】
スキーム4:架橋硫化物ガラス複合体の合成
【0180】
ラジカル架橋により、ガラス(Li2S:P2S5)=75:25、PBD(LBH-P3000)、および、過酸化ベンゾイル(BPO)の重量を変化させた複合体膜を形成するのに上の合成を使用した。合成の詳細および1つのサンプル(PDB5)の特徴を実施例6に示す。
【0181】
下の表4に、PBD-5および同様に形成した様々な重量による含有量のLi
2S:P
2S
5=75:25ガラス、LBH-P3000、および、BPOの複合体の(架橋前後の)膜密度および(外圧が無いものと外圧が有るものの)導電性を提供する。「-」は、導電性の測定ができなかったことを示す。
表4:架橋前後での複合体膜の密度および導電性
【表4】
【0182】
理論密度は、既知の密度と、各成分の重量%とから決定する。PBD-1からPBD-4のサンプルは、流延の際に完全に高密度化したため架橋しなかった。
【0183】
図11は、膜密度および導電性対ガラス体積百分率のプロットを示す。すべてのサンプルの理論密度、グリーン密度、および、プレス密度が示されている。外から加えた圧力が、0インチ-ポンド(0Nm)および50MPaでの導電性を示す。複合体は、外圧を加えても、加えなくても、同様に導電性を示し、架橋ネットワークにより無機相の粒子が所定の場所に保持されていることが示唆される。プレス後は、密度が向上し、ローディングによっては、理論密度より高いものも含まれる。
【0184】
実施例6:PBD複合体サンプルのラジカル架橋
以下のように、ラジカル架橋によりサンプルPBD-5を形成し、特徴づけた。アルゴン雰囲気下で動作するグローブボックス内で、15mLのポリプロピレンカップを、<25μmにふるい分けした硫化リチウムガラス(Li2S:P2S5=75:25)2.145g、LBH-P3000(LBH-P3000 Krasol、クレイバレー(登録商標))0.810g、過酸化ベンゾイル0.045g、および、乾燥1,2,4-トリメチルベンゼン2.0gで充満させた。次に、φ=10mmのジルコニアボール25gを混合助材として混合物に添加し、カップの上に蓋をきつく固定し、電気絶縁用テープを巻き付けた。カップを、80rpmのチューブローラー上に配置し、スラリーを48時間混合した。次に、6milの間隙サイズの正方形のアプリケータを使用して、混合物をアルミニウム箔にコーティングし、溶媒を周囲状況下で蒸発させ、次に、さらに膜をアンテチャンバ内で室温、真空下で16時間乾燥させた。その後、膜を50mm×70mmの片に切り、2枚のアルミニウム箔のシートの間に配置し、液圧プレスを使用して16.8MPa下で、100℃で3時間プレスした。架橋した膜を室温まで冷却し、そこで初めて圧力を開放した。架橋の前後の膜密度を測定した。0.1MPaおよび15MPaの外圧を加えて膜導電性を測定した。
【0185】
実施例7:in-situポリウレタン合成
実施形態にしたがって、線状ポリウレタン硫化物ガラス複合体を合成する例を下のスキーム5Aに示す。
【化12】
スキーム5A:線状ポリウレタン硫化物ガラス複合体の合成
【化13】
スキーム5B:架橋ポリウレタン硫化物ガラス複合体の合成
【0186】
アルゴン雰囲気下で動作するグローブボックス内で、<25μmにふるい分けした硫化リチウムガラス(Li2S:P2S5=75:25)2.550gを30mLのシンキーカップに充填した。PPFI-DIPAとIPDI-DIPA(1:9=n:n、NCO)と1:1のモル比で混合したHLBH2000の25重量%溶液を1,2,4-トリメチルベンゼン中で調製し、使用する前にモレキュラーシーブを通して乾燥させた。次に、ガラスに乾燥ストック溶液1.80gを添加し、次いで、φ=5mmのジルコニアボール6個および1,2,4-トリメチルベンゼン0.25gを添加した。カップをシンキー(登録商標)のミキサー(シンキーARV-50LED)に入れ、1500rpmで40分間混合した。次に、8milの間隙サイズの正方形のアプリケータを使用して、混合物をアルミニウム箔にコーティングし、溶媒を周囲状況下で蒸発させ、次に、膜をアンテチャンバ内で室温で、真空下で16時間さらに乾燥させた。その後、膜を50mm×70mmの片に切り、2枚のアルミニウム箔のシートの間に配置し、液圧プレスを使用して16.8MPa下で、140℃で2時間プレスした。架橋膜を室温まで冷却し、そこで初めて圧力を開放した。
【0187】
実施例8:ガラス含有量に応じたポリウレタンの架橋
実施例7に説明するように、ポリマー組成物の異なるポリウレタン複合体膜を調製し、特徴づけた。結果を下の表5に示す。
表5:ポリウレタンマトリックス組成物の重合
【表5】
【0188】
実施例9:二重硬化重合
イソホロンジイソシアネート-ジイソプロピルアミン(IPDI-DIPA)は、ブロックジイソシアネートで、ポリウレタンの形成では、2官能性モノマーとして作用し、高分子量線状ポリマーの形成のみに関与し得る。IPDI-DIPA(図示せず)のDSC記録は、約75℃と100℃に2つの吸熱の存在が示されており、IPDI-DIPA1分子あたりジイソプロピルアミン2分子が放出されるブロックジイソシアネートの段階的分解が確認される(スキーム6A)。
【化14】
スキーム6A:IPDI-DIPAの段階的熱分解メカニズム
【0189】
ポリ[(フェニルイソシアネート)-co-ホルムアルデヒド](PPFI-DIPA)は、3官能基ブロックイソシアネートで、in-situでのポリウレタンの形成中は架橋剤として作用し、ポリマーネットワークの形成に寄与する。PPFI-DIPAのDSC記録(図示せず)は、約140℃、165℃、および、190℃に3つの吸熱の存在を示している。ピークは、PPFI-DIPA1分子に対してジイソプロピルアミン3分子が連続的に失われるのと一致し、ブロック架橋剤の段階的分解が確認される。(スキーム6B)
【化15】
スキーム6B:PPFI-DIPAの段階的熱分解メカニズム
【0190】
図12は、純粋なLi
2S:P
2S
5=75:25硫化物ガラス(ダッシュと点)および複合体のポリウレタンマトリックスのin-situ重合の前(実線)および後の、硫化物ガラス、IPDI-DIPA、PPFI-DIPAから形成される複合体のDSC記録を示している。すべての場合で、約245~250℃でガラスの結晶化に関連した発熱ピークが見られ、重合前および重合した有機マトリックスの両方においてガラスの結晶化に対する非常に良好な耐性を示す。
【0191】
図13は、複合体を140℃で熱架橋する前(実線)と後(短いダッシュ)の拡大したDSC記録を示している。前重合化マトリックスハイブリッドでは、ポリウレタンネットワークの二段階硬化に関連する可能性のある約120℃と約190℃とに2つの幅広の放熱がみられる。より低温度の放熱(75℃~150℃の範囲)は、主に2官能性イソシアネート(IPDI-DIPA)との硬化を伴う可能性があるので、高分子量線状ポリウレタンが形成され、これに対して、第2の放熱(175℃~210℃)は、架橋剤との反応およびポリウレタンネットワークの形成の結果である。これは、140℃で硬化した後の複合体のDSC記録(短いダッシュ)により裏付けられる。記録は、約175℃まで吸熱ピークを示さず、硬化の第1ステップ(高分子量ポリウレタン鎖の形成)が140℃での硬化中に完了したことの証明を提供する。175℃~200℃の吸熱信号は、反応性成分がすべて反応したわけではないことを示している。そのため、140℃で硬化後のDSCは、複合体を175℃以上で加熱すれば完全架橋ポリウレタンマトリックスを調製できるという強い裏付けを提供する。なぜなら、175℃より低い温度では、すべてのブロックイソシアネート基が脱保護を受けるわけではないことを示しているからである。
【0192】
さらに、純粋なブロックイソシアネート、IPDI-DIPA、および、PPFI-DIPAのDSC記録から取得した分解温度(図示せず)は、前重合化複合体に認められる反応による吸熱と一致する。純粋なPPFI-DIPAのDSCは、約175℃まで、最後(3つ目)のイソシアネート基の放出(これによりPPFI-DIPAは架橋剤として作用可能になる)は開始されず、最小の放出は約190℃(短いダッシュ)であることを示している。両方の温度は、それぞれ、
図12および
図13の前および後重合した複合体(実線および短いダッシュ)で認められる第2反応による吸熱の発現温度と最高温度と重なる。
【0193】
実施例9:代表的な本来の硫化物導電体のX線回折(XRD)分析
【0194】
サンプルをガラス毛細管に配置し、次にワックスで密閉して、アルゴンを充填したグローブボックス内で硫化物導電体(上の実施例で使用したLi
2S:P
2S
5=75:25)のXRDサンプルを調製した。その後、密閉した毛細管をグローブボックスから取り出し、XRD分析に出した。
図18は、代表的な本来の硫化物導電体のXRDパターンの例を示している。XRDパターンには、サンプルが、非晶質および結晶質の両方のドメインを有することが示されている。
【0195】
実施例10:加工による複合体の導電性への影響
【0196】
ポリウレタン複合体膜を様々な基板上に様々な加工技法で流延した。各サンプル膜の導電性を加圧下で測定した。加工技法は、以下の通り:
(A)加圧せずに加熱
(B)加圧下で加熱
(C)コールドプレス後、加圧せずに加熱
下の表6がその結果である。
【表6】
アルミニウム(Al)箔、テフロン(登録商標)、および、ポリエチレンテレフタレート(PET)の3種類の流延基板についてテストした。6.4(テフロン(登録商標))および6.5(PET)のサンプルと6.2(Al)のサンプルを比較することで見られるように、非導電性基板(テフロン(登録商標)およびPET)からは、同様の導電性のハイブリッド自立膜が製造され、その導電性は、アルミニウム基板上の片面にコーティングした膜より低かった。導電性の違いは、流延基板が異なる結果としての複合体のモホロジーの変化ではなく、導電性を測定する間の電解質膜と電極との間の界面接触の違いに起因する。
【0197】
表6の結果はまた、結果として得た膜の導電性特性への、加工順序の影響と圧力および温度との影響を示している。結果より、とりわけ、サンプルに圧力を加えると、膜が良好に高密度化され多孔度を低下でき、粒子間接触および導電性が改善されることが示される。これは、任意の後プロセスステップ中も外圧を受けずに硬化したグリーン複合体膜(サンプル6.1)と比較して、硬化前に押圧されたサンプル(サンプル6.3)の導電性がより高いことからも確認できる。
【0198】
温度および圧力を1つのプロセスステップに組み合わせた場合、より予期されない影響が認められる。温度により、ポリマーマトリックスが硬化するのみならず、有機マトリックス成分の粘度の低下を可能にし、粒子の流れを大幅に改善することで、より良く高密度化を可能にし、ガラス粒子間の接触が改善される。その結果、外圧を加えて高温で硬化させた複合体の場合、最も高い導電性が認められる(サンプル6.2)。
【0199】
参照している導電性は、すべて室温(約25℃)での値である。導電性は温度に強く依存し、より高温では、より高い導電性となることは留意すべきである。
【0200】
上の説明、および、特許請求の範囲において、数字範囲は、範囲の終点を含む。例えば、「0.1μmと500μmとの間の平均直径」は、0.1μmおよび500μmを含む。同様に、~で表される範囲(例えば、50%~99%)は、範囲の終点を含む。
【0201】
上記では、本発明およびその特定の実施形態を記載した。当業者であれば、本発明の実践における多数の修正および変更が発生することを予想するであろう。例えば、上の明細書では、アルカリイオンまたはアルカリ金属電池のための電解質およびカソードを説明しているが、記載される組成物は、他の文脈で使用され得る。さらに、本明細書において記載される電池および電池コンポーネントは、特定のセル設計に限定を課すものではない。そのような修正および変更は、以下の特許請求の範囲内に含まれる。