(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-06
(45)【発行日】2023-11-14
(54)【発明の名称】センシング装置、センシング方法、及び、センシングプログラム
(51)【国際特許分類】
C12M 1/34 20060101AFI20231107BHJP
C12Q 1/02 20060101ALI20231107BHJP
【FI】
C12M1/34 D
C12Q1/02
(21)【出願番号】P 2020029085
(22)【出願日】2020-02-25
(62)【分割の表示】P 2015096825の分割
【原出願日】2015-05-11
【審査請求日】2020-03-11
【審判番号】
【審判請求日】2022-05-02
(73)【特許権者】
【識別番号】301022471
【氏名又は名称】国立研究開発法人情報通信研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【氏名又は名称】西村 竜平
(72)【発明者】
【氏名】田中 裕人
(72)【発明者】
【氏名】小嶋 寛明
(72)【発明者】
【氏名】成瀬 康
(72)【発明者】
【氏名】岡田 真人
【合議体】
【審判長】福井 悟
【審判官】牧野 晃久
【審判官】天野 貴子
(56)【参考文献】
【文献】Lab Chip,2013年,13(20),pp.4033-4039
【文献】石川辰夫 ほか,図解微生物学ハンドブック,丸善株式会社,1990年,pp.100-101
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00- 3/10
C12Q 1/00- 3/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
既知の化学物質がある濃度で存在する環境下で、時間とともに変化する複数の微生物の挙動を予め統計した標本データを複数記録した記録部と、
所定の化学物質が存在する環境下で、時間とともに変化する前記複数の微生物の挙動を統計した統計データを生成する統計部と、
前記統計データと前記標本データとを用いて、前記所定の化学物質を推定する判断部とを備え、
前記判断部が、
1つの前記標本データからm(mは2以上の整数)個のパラメータを抽出し、
複数の前記標本データから得られた前記m個のパラメータを基に、各前記パラメータの値と前記既知の化学物質の濃度との関係を表すm個のモデルを作成し、
1つの前記統計データから抽出したm個のパラメータを前記m個のモデルに当てはめて、前記所定の化学物質の確率、
および前記所定の化学物質の濃度の確率を計算することで推定する
ものであり、
前記m個のパラメータは、下記(1)~(11)のうちいずれかであることを特徴とするセンシング装置。
(1)前記微生物のうち前記挙動を示すものの割合が0%の場合の時間間隔。
(2)前記微生物のうち前記挙動を示すものの割合が0%から正の傾きで上昇し始める上昇位置から、正の傾きで上昇した頂点までの振幅。
(3)前記正の傾き。
(4)前記上昇位置から前記頂点の半分までにかかる時間間隔。
(5)前記頂点から負の傾きで下降した下降位置までの振幅。
(6)前記負の傾き。
(7)前記正の傾きの中心から前記負の傾きの中心までの時間間隔。
(8)前記頂点から前記負の傾きの中心までの時間間隔。
(9)前記上昇位置から前記頂点までの時間間隔。
(10)前記上昇位置から前記負の傾きの中心までの時間間隔。
(11)前記上昇位置から前記下降位置までの振幅。
【請求項2】
前記微生物が、細菌であり、
前記細菌の挙動が、走化性応答であること
を特徴とする請求項1に記載のセンシング装置。
【請求項3】
前記細菌が、大腸菌であり、
前記走化性応答が、回転運動であること
を特徴とする請求項2に記載のセンシング装置。
【請求項4】
既知の化学物質がある濃度で存在する環境下で、時間とともに変化する複数の微生物の挙動を予め統計した標本データと、所定の化学物質が存在する環境下で、時間とともに変化する前記複数の微生物の挙動を統計した統計データとを用いて、前記所定の化学物質を推定することを特徴とするセンシング方法であって、
1つの前記標本データからm(mは2以上の整数)個のパラメータを抽出し、
複数の前記標本データから得られた前記m個のパラメータを基に、各前記パラメータの値と前記既知の化学物質の濃度との関係を表すm個のモデルを作成し、
1つの前記統計データから抽出したm個のパラメータを前記m個のモデルに当てはめて、前記所定の化学物質の確率、
および前記所定の化学物質の濃度の確率を計算することで推定する
ものであり、
前記m個のパラメータは、下記(1)~(11)のうちいずれかであることを特徴とするセンシング装置。
(1)前記微生物のうち前記挙動を示すものの割合が0%の場合の時間間隔。
(2)前記微生物のうち前記挙動を示すものの割合が0%から正の傾きで上昇し始める上昇位置から、正の傾きで上昇した頂点までの振幅。
(3)前記正の傾き。
(4)前記上昇位置から前記頂点の半分までにかかる時間間隔。
(5)前記頂点から負の傾きで下降した下降位置までの振幅。
(6)前記負の傾き。
(7)前記正の傾きの中心から前記負の傾きの中心までの時間間隔。
(8)前記頂点から前記負の傾きの中心までの時間間隔。
(9)前記上昇位置から前記頂点までの時間間隔。
(10)前記上昇位置から前記負の傾きの中心までの時間間隔。
(11)前記上昇位置から前記下降位置までの振幅。
【請求項5】
既知の化学物質がある濃度で存在する環境下で、時間とともに変化する複数の微生物の挙動を予め統計した標本データと、所定の化学物質が存在する環境下で、時間とともに変化する前記複数の微生物の挙動を統計した統計データとを用いて、前記所定の化学物質を推定することを特徴とするセンシングプログラムであって、
1つの前記標本データからm(mは2以上の整数)個のパラメータを抽出し、
複数の前記標本データから得られた前記m個のパラメータを基に、各前記パラメータの値と前記既知の化学物質の濃度との関係を表すm個のモデルを作成し、
1つの前記統計データから抽出したm個のパラメータを前記m個のモデルに当てはめて、前記所定の化学物質の確率、
および前記所定の化学物質の濃度の確率を計算することで推定する
ものであり、
前記m個のパラメータは、下記(1)~(11)のうちいずれかであることを特徴とするセンシング装置。
(1)前記微生物のうち前記挙動を示すものの割合が0%の場合の時間間隔。
(2)前記微生物のうち前記挙動を示すものの割合が0%から正の傾きで上昇し始める上昇位置から、正の傾きで上昇した頂点までの振幅。
(3)前記正の傾き。
(4)前記上昇位置から前記頂点の半分までにかかる時間間隔。
(5)前記頂点から負の傾きで下降した下降位置までの振幅。
(6)前記負の傾き。
(7)前記正の傾きの中心から前記負の傾きの中心までの時間間隔。
(8)前記頂点から前記負の傾きの中心までの時間間隔。
(9)前記上昇位置から前記頂点までの時間間隔。
(10)前記上昇位置から前記負の傾きの中心までの時間間隔。
(11)前記上昇位置から前記下降位置までの振幅。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の微生物の挙動をセンサとして用いるセンシング装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
生物は、例えば犬であれば嗅覚、蝙蝠であれば聴覚、線虫であれば味覚のように、各々五感のうち特化した感覚を利用して環境を認識している。そして、この生物が持つ優れた感覚を利用したバイオセンサが、近年、医療、科学、産業の分野で注目を集めている。このバイオセンサとして、例えば、特許文献1等を挙げることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述したバイオセンサは、生物の特化した感覚を何らかの物理量に変換するものであるので、化学物質を同定したり、定量したりすることができないという問題がある。また、生物の特化した感覚が、物理量に変換できないものは、バイオセンサとして使用することが難しいという問題もある。
【0005】
そこで、本願発明者らが鋭意検討を重ねた結果、所定の化学物質が存在する環境下におかれた微生物の挙動をセンサとして用いて、この挙動を統計したデータを用いれば、前記所定の化学物質の同定や定量ができることを見出した。
【0006】
本願発明は上述の知見を得て初めて成されたものであって、時間とともに変化する複数の微生物の挙動をセンサとして用いることで、化学物質の同定や定量を行うことができるセンシング装置等を提供することをその主たる課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のセンシング装置は、既知の化学物質が存在する環境下で、時間とともに変化する複数の微生物の挙動を予め統計した標本データを複数記録した記録部と、所定の化学物質が存在する環境下で、時間とともに変化する前記複数の微生物の挙動を統計した統計データを生成する統計部と、前記統計データと前記標本データとを用いて、前記所定の化学物質を推定する判断部とを備えることを特徴とする。
【0008】
このようなものであれば、既知の化学物質が存在する環境下で複数の微生物の挙動を予め統計した標本データを化学物質や化学物質の濃度毎に複数取得しておき、この標本データと、未知の化学物質が存在する環境下においた複数の微生物の挙動を統計した統計データとを用いることによって、未知の化学物質を推定したり、化学物質の濃度を推定したりすることができる。また、生物の特化した感覚が物理量に変換することができないものであっても、時間とともに変換する生物の挙動を統計することによって該生物をバイオセンサとして使用することが可能となる。
【0009】
上述のセンシング装置の具体的な一形態としては、前記判断部が、前記標本データを基にモデルを作成し、前記統計データを前記モデルに当てはめて前記所定の化学物質を推定するベイズ推定を用いるものを挙げることができる。
【0010】
このようなものであれば、判断部がベイズ推定を用いて所定の化学物質を推定するので、標本データを基に生成されたモデルが複雑な場合であっても、最尤法を用いる場合に比べてモデルの扱いを容易にすることができる。
【0011】
上述のセンシング装置の具体的な一形態としては、前記統計部が、集合平均を用いて前記統計データを生成するものを挙げることができる。
【0012】
このようなものであれば、統計部が集合平均を用いることにより、微生物の個体差によるばらつき等を考慮して、微生物の挙動を統計することができるので、統計データをさらに精度のよいものとすることができる。
【0013】
上述のセンシング装置の具体的な一形態としては、前記微生物が、細菌であり、
前記細菌の挙動が、回転挙動であるものを挙げることができる。
【0014】
このようなものであれば、微生物が細菌であるので、取り扱いが容易であり、また、細菌として例えば大腸菌を用いれば、容易に増殖させることができるので、統計データを容易に取得することができる。また、大腸菌の遺伝子を組み変えて特定の化学物質を好む味覚をもつ細菌を生成すれば、測定できる化学物質の種類を増加させることもできる。
【0015】
また、既知の化学物質が存在する環境下で、時間とともに変化する複数の微生物の挙動を予め統計した標本データと、所定の化学物質が存在する環境下で、時間とともに変化する前記複数の微生物の挙動を統計した統計データとを用いて、前記所定の化学物質を推定することを特徴とするセンシング方法、及び、センシングプログラムも本発明の1つである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、時間とともに変化する複数の微生物の挙動をセンサとして用いることで、化学物質の推定を行うことができるセンシング装置等を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図3】(a)(b)(c)(d)本実施形態の標本データを示すグラフ。
【
図4】(a)(b)(c)(d)本実施形態の標本データを示すグラフ。
【
図5】(a)(b)(c)(d)本実施形態の標本データを示すグラフ。
【
図6】本実施形態の標本データの1つに11のパラメータを表したグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明のセンシング装置の一実施形態について、以下図面を参照しながら説明する。
【0019】
本発明のセンシング装置1は、化学物質を分析するセンシング装置1であって、
図2に示すように、所定の化学物質が存在する環境下で、時間とともに変化する複数の微生物の挙動を統計した統計データを生成する統計部2と、既知の化学物質が存在する環境下で、時間とともに変化する複数の微生物の挙動を予め統計した標本データを複数記録した記録部3と、統計データと、標本データとを用いて、所定の化学物質を決定する判断部4とを備える。なお、化学物質を推定するとは、化学物質を推定すること又は化学物質の濃度を推定することをいう。
【0020】
統計部2は、所定の化学物質が存在する環境下で、時間とともに変化する複数の微生物の挙動を統計した統計データを生成するものである。本実施形態では、微生物を付着させた流路101にサンプルを流している状態を撮像した動画データを受け付けて、該動画データから統計データを生成するものである。この動画を撮像する撮像装置100としては、
図1に示すように、例えば倒立顕微鏡に取り付けられたCCDカメラやCMOSカメラを用いることができる。なお、撮像装置100は上述したものに限られず、例えば顕微鏡の接眼レンズに取り付けられたCCDカメラやCMOSカメラであっても構わない。
【0021】
ここで、微生物を付着させた流路101にサンプルを流している状態とは、流路101にサンプルを導入した時点又は流路101にサンプル導入し終えた直後のことをいい、撮像装置100が撮像を行う期間としては、例えば、流路101に流した直後のサンプルの流速が徐々に低下し、ある一定の流速となるまでの期間を挙げることができるが、この撮像期間は、微生物に合わせて適宜変更することができる。
【0022】
統計部2は、微生物の挙動を数パターンに分けて、動画データに含まれる複数の微生物のうち、所定の単位領域に撮像された複数の微生物の挙動が、特定の時間において、どのパターンに当てはまるかを統計するものであり、具体的には、集合平均を用いて、上述の統計を行うものである。
【0023】
本実施形態では、微生物に大腸菌を用いており、大腸菌は、特定の化学物質の濃度勾配に対して方向性を持った行動を起こす走化性を有し、好ましい物質(誘引物質)であれば反時計回りに回転し、好ましくない物質(忌避物質)であれば時計回りに回転する性質を有する。そこで、統計部2では、この大腸菌の挙動を時計回り状態、反時計回り状態、停止状態の3パターンに分けて、特定の時点において、所定の単位領域に含まれる全大腸菌のうち、時計回りの大腸菌の割合、反時計回りの大腸菌の割合、停止状態の大腸菌の割合を、それぞれ集合平均を用いて算出し、これを所定時間間隔において統計した統計データを生成して、判断部4へと送信する。
【0024】
記録部3は、既知の化学物質が存在する環境下で、時間とともに変化する複数の微生物の挙動を予め統計した標本データを記録したものであって、化学物質の種類や化学物質の濃度毎に生成された標本データを複数記録したものである。
【0025】
この標本データは、統計部2で生成された統計データと同様に、微生物の挙動を数パターンに分けて、動画データに含まれる複数の微生物のうち、所定の単位領域に撮像された複数の微生物の挙動が、どのパターンに当てはまるかを予め統計したものである。なお、本実施形態において、標本データは、統計データと同様に大腸菌を用いており、その挙動を時計回り状態、反時計回り状態、停止状態の3パターンに分けて、特定の時点において、所定の単位領域に含まれる全大腸菌のうち、時計回りの大腸菌の割合、反時計回りの大腸菌の割合、停止状態の大腸菌の割合を、それぞれ集合平均を用いて算出し、これを所定時間間隔において予め統計したものである。
【0026】
この標本データの一例をグラフ化したものを
図3、
図4、
図5に示す。なお、このグラフにおいて、縦軸は単位領域に含まれる全大腸菌のうち、時計回りの挙動を行う微生物の割合、横軸は時間(s)を表す。
【0027】
図3は、以下の化学式で表されるL-アスパラギン酸(
図3中、L-Aspと記載する)をサンプルとして流路101に流した場合に、時間とともに変化する微生物の挙動を統計した標本データをグラフ化したものである。また、
図3(a)、(b)、(c)、(d)では、それぞれL-アスパラギン酸の濃度が異なり、(a)では1μM、(b)では10μM、(c)では100μM、(d)では300μMとなっている。
【化1】
【0028】
図4は、以下の化学式で表されるL-グルタミン酸(
図4中、L-Gluと記載する)をサンプルとして流路101に流した場合に、時間とともに変化する微生物の挙動を統計した標本データをグラフ化したものである。また、
図4(a)、(b)、(c)、(d)では、それぞれL-グルタミン酸の濃度が異なり、(a)では300μM、(b)では1mM、(c)では10mM、(d)では30mMとなっている。
【化2】
【0029】
図5は、以下の化学式で表されるD-アスパラギン酸(
図5中、D-Aspと記載する)をサンプルとして流路101に流した場合に、時間とともに変化する微生物の挙動を統計した標本データをグラフ化したものである。また、
図5(a)、(b)、(c)、(d)では、それぞれD-アスパラギン酸の濃度が異なり、(a)では300μM、(b)では1mM、(c)では3mM、(d)では10mMとなっている。
【化3】
【0030】
図3、
図4、
図5に示すように、標本データをグラフ化したものは、そのサンプルの種類や濃度によって少しずつその波形が異なるものとなっている。
【0031】
判断部4は、統計部2が生成した統計データと、記録部3が記録した標本データとを用いて、統計データを取得する際に用いられた所定の化学物質を推定するものであって、具体的には、記録部3から標本データを取得して、この標本データを基にモデルを作成し、統計データをこのモデルに当てはめるベイズ推定を用いて所定の化学物質を推定するものである。
【0032】
この分析方法について以下、詳細に説明する。
まず判断部は、記録部3が記録した標本データを、縦軸を単位領域に含まれる全大腸菌のうち時計回りの挙動を行う微生物の割合、横軸を時間とするグラフに表し、該グラフから11のパラメータに基づく値を抽出する。
【0033】
この11のパラメータは、
図6に示すように以下の通りである。
(1) 時計回りの微生物の割合が0%の場合の時間間隔
(2) 時計回りの微生物の割合が0%から正の傾きで上昇し始める上昇位置から、正の傾きで上昇した頂点までの振幅
(3) 正の傾き
(4) 上昇位置から頂点の半分までにかかる時間間隔
(5) 頂点から負の傾きで下降した下降位置までの振幅
(6) 負の傾き
(7) 正の傾きの中心から負の傾きの中心までの時間間隔
(8) 頂点から負の傾きの中心までの時間感覚
(9) 上昇位置から頂点までかかる時間間隔
(10) 上昇位置から負の傾きの中心までの時間間隔
(11) 上昇位置から下降位置まで振幅
【0034】
そして、上述の11のパラメータに沿って抽出した値を用いて、この値を縦軸、サンプル濃度の対数値を横軸に示す11のグラフ(モデル)を生成する。この11のグラフを
図7に示す。
図7は、紙面左上欄から順に、(1)のパラメータに基づく値、(2)のパラメータに基づく値、(3)のパラメータに基づく値、(4)のパラメータに基づく値、(5)のパラメータに基づく値、(6)のパラメータに基づく値、(7)のパラメータに基づく値、(8)のパラメータに基づく値、(9)のパラメータに基づく値、(10)のパラメータに基づく値、(11)のパラメータに基づく値を縦軸にとったグラフである。
【0035】
なお、本実施形態では、
図7を生成する際に用いられたサンプルとして、それぞれL-アスパラギン酸、L-グルタミン酸、D-アスパラギン酸、及び、以下の化学式で表されるL-アスパラギンを使用した。
【化4】
【0036】
そして、判断部4は、統計部2から受け付けた統計データを、標本データと同様に、縦軸を単位領域に含まれる全大腸菌のうち時計回りの挙動を行う微生物の割合、横軸を時間とするグラフに表し、該グラフから11のパラメータに基づく値をそれぞれ抽出する。そして、統計データから抽出した11のパラメータに基づく値を、先程生成した11のグラフ(モデル)に当てはめて、該統計データが発生しうる所定の化学物質の確率、又は所定の化学物質の濃度の確率を計算し、統計データを取得する際に用いられた所定の化学物質を推定する。この化学物質の推定とは、化学物質を推定したり、化学物質の濃度を推定したりすることをいう。そして、この推定した内容をディスプレイ等の外部装置に出力する。
【0037】
上述のように構成した本実施形態のセンシング装置1は、以下のような格別の効果を奏する。
【0038】
つまり、既知の化学物質が存在する環境下で、時間とともに変化する複数の微生物の挙動を予め統計した標本データを化学物質毎に複数取得しておき、この標本データと、未知の化学物質が存在する環境下で、時間とともに変化する複数の微生物の挙動を統計した統計データとを用いて、未知の化学物質を推定することができる。また、生物の特化した感覚が物理量に変換することができないものであっても、時間とともに変換する生物の挙動を統計することによって該生物をバイオセンサとして使用することが可能となる。
【0039】
また、判断部4が、ベイズ推定を用いて所定の化学物質を推定するので、標本データを基に仮定されたモデルが複雑な場合であっても、最尤法を用いる場合と比べてモデルの扱いを容易にすることができる。
【0040】
さらに、統計部2が、集合平均を用いて統計データを生成するので、微生物の個体差によるばらつき等を考慮して、微生物の挙動を統計することができ、統計データをさらに精度のよいものとすることができる。
【0041】
さらに、微生物に細菌、特に大腸菌を用いるので、取り扱いが容易であるとともに容易に増殖させることができるので、統計データを容易に取得することができる。また、大腸菌の遺伝子を組み変えて特定の化学物質を好む味覚をもつ細菌を生成すれば、測定できる化学物質の種類を増加させることもできる。
【0042】
本発明は上記実施形態に限られたものではない。
【0043】
上述の実施形態では微生物として大腸菌を用いたものであったが、これに限られず、微生物であれば何でも用いることができる。特に細菌であれば、その取り扱いが容易であるので、容易に統計データを取得することができる。
【0044】
判断部が標本データから生成した11のパラメータに基づくグラフは、このパラメータに限られず、適宜変更することができる。また、本実施形態では、判断部が、ベイズ推定を用いて所定の化学物質を推定するものであったが、ベイズ推定に限られず、判断部の推定手法は適宜変更することができる。そのため、例えば標本データと統計データとを直接比較して、統計データを取得する際に用いられた所定の化学物質を決定することもできる。
【0045】
また、上述の実施形態では統計部が統計データを生成する際に集合平均が用いられていたが、集合平均やその他の手法を用いて統計データを生成することもできる。
【0046】
本発明は、その他その趣旨に反しない範囲で様々な変形が可能である。
【符号の説明】
【0047】
1・・・センシング装置
2・・・統計部
3・・・記録部
4・・・判断部