(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-06
(45)【発行日】2023-11-14
(54)【発明の名称】フロントフォーク
(51)【国際特許分類】
F16F 9/46 20060101AFI20231107BHJP
F16F 9/32 20060101ALI20231107BHJP
B62K 25/08 20060101ALI20231107BHJP
【FI】
F16F9/46
F16F9/32 C
B62K25/08 Z
(21)【出願番号】P 2019143773
(22)【出願日】2019-08-05
【審査請求日】2022-07-05
(73)【特許権者】
【識別番号】514241869
【氏名又は名称】カヤバモーターサイクルサスペンション株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100122323
【氏名又は名称】石川 憲
(72)【発明者】
【氏名】島内 壮大
【審査官】児玉 由紀
(56)【参考文献】
【文献】実開平01-102090(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2015/0175236(US,A1)
【文献】特開2016-185735(JP,A)
【文献】実開平01-163235(JP,U)
【文献】特開2008-222073(JP,A)
【文献】実開平01-122380(JP,U)
【文献】実開平02-090439(JP,U)
【文献】特開昭63-159188(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62K 25/00-27/16
F16F 9/00- 9/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体側チューブと車軸側チューブとを有して伸縮可能なテレスコピック型のフォーク本体と、
前記車体側チューブの車体側端に装着されるキャップと、
前記車軸側チューブ内に設けられるシリンダと、
前記シリンダ内に軸方向移動自在に挿入されるとともに、一端が前記キャップに連結される筒状のロッドと、
前記シリンダ内に収容される電気機器と、
前記キャップに設けられる端子と、
前記端子と前記電気機器とに接続される配線の途中に設けられて前記端子と前記電気機器との電気的な接続と切り離しを可能とするコネクタとを備えた
ことを特徴とするフロントフォーク。
【請求項2】
前記キャップは、環状であって、
前記キャップの内周に着脱可能に装着されるともに前記端子を保持す
るソケットを備え、
前記コネクタは、前記キャップの内周を通過可能である
ことを特徴とする請求項1に記載のフロントフォーク。
【請求項3】
前記ソケットは、前記キャップの内周に挿入される基部を有し、
前記基部は、前記キャップの内周に形成される溝内に挿入可能な爪を有する
ことを特徴とする請求項2に記載のフロントフォーク。
【請求項4】
前記ソケットと前記キャップの軸方向の相対移動を許容しつつ、周方向の回転を阻止する回り止めを備えた
ことを特徴とする請求項2または3に記載のフロントフォーク。
【請求項5】
前記回り止めは、前記ソケットの外周と前記キャップの内周の一方に設けたキーと前記ソケットの外周と前記キャップの内周の他方に設けられて前記キーが挿入されるキー溝とを有し、
前記回り止めは、前記ソケットおよび前記キャップの周方向で等間隔をもって2箇所或いは3箇所に設置されている
ことを特徴とする請求
項4に記載のフロントフォーク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フロントフォークに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鞍乗車両の前側の操向輪を支持するフロントフォークとしては、たとえば、車体側チューブと車体側チューブ内に移動自在に挿入される車軸側チューブとを備えたフォーク本体と、フォーク本体内に収容されてフォーク本体の伸縮に伴って伸縮するダンパとを備えたテレスコピック型のフロントフォークが知られている。
【0003】
ダンパは、シリンダと、シリンダ内を作動液体が充填される伸側室と圧側室とに区画するピストンと、シリンダ内に軸方向移動自在に挿入されるとともにピストンに連結されるピストンロッドとを備えている。そして、ダンパは、たとえば、ピストンロッドが車体側チューブの上端を閉塞するキャップに連結され、シリンダが車軸側チューブの下端に固定されてフォーク本体内に収容される。
【0004】
このようなフロントフォークでは、鞍乗車両の乗心地向上のためにダンパが発生する減衰力をフロントフォーク外に設置されるコントローラによって調節できるものがある。減衰力の自動調節が可能なフロントフォークは、たとえば、電気粘性流体或いは電磁粘性流体をダンパの作動液体としてピストン内に収容されるコイルへ供給する電流量の調節によって作動液体の粘度を変化させて減衰力を変化させる(たとえば、特許文献1参照)。また、減衰力の自動調節が可能な他のフロントフォークとしては、ピストン内にソレノイドバルブを収容していてソレノイドバルブへの通電量を調節してダンパの減衰力を調節するものもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このように減衰力の自動調節が可能なフロントフォークでは、ダンパ内に減衰力を調節するためのコイルやソレノイドバルブといった電気機器を備えており、外部電源やコントローラから電気機器へ電力供給する必要がある。そこで、従来のフロントフォークでは、ピストンロッドを筒状とするとともにキャップに配線を通す通し孔を設け、電気機器に接続された配線をシールしつつピストンロッド内とキャップの通し孔を通してフォーク本体外へ引き出して外部電源等に接続している。
【0007】
ところが、従来のフロントフォークにあっては、シールやスプリング等の交換を行うメンテナンスのためにフロントフォークを分解する場合、配線をキャップから取り外すことができず、メンテナンス作業が非常に面倒である。また、キャップに外部電源と電気機器との接続と切り離しを可能とするコネクタを設ける場合でも、キャップを取り外すためには電気機器から伸びる配線をコネクタ内の端子から取り外す必要があるので、単にコネクタをキャップに設けただけではメンテナンス作業が一向に容易とならない。また、同様の問題は、コイルやソレノイドバルブ以外にもフォーク本体内にストロークセンサ等の電気機器を収容するフロントフォークにも共通して生じる問題である。
【0008】
そこで、本発明は、内部に電気機器を備えていてもメンテナンス作業が容易となるフロントフォークの提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記した目的を達成するため、本発明の課題解決手段におけるフロントフォークは、車体側チューブと車軸側チューブとを有して伸縮可能なテレスコピック型のフォーク本体と、車体側チューブの車体側端に装着されるキャップと、車軸側チューブ内に設けられるシリンダと、シリンダ内に軸方向移動自在に挿入されるとともに一端がキャップに連結される筒状のロッドと、シリンダ内に収容される電気機器と、キャップに設けられる端子と、端子と電気機器とに接続される配線の途中に設けられて端子と電気機器との電気的な接続と切り離しを可能とするコネクタとを備えている。このように構成されたフロントフォークによれば、コネクタによって配線の途中で端子と電気機器とを分離でき、配線に邪魔されずに簡単にキャップを車体側チューブから完全に取り外して車体側チューブの上端開口部を開放できる。
【0010】
また、キャップが環状であって、キャップの内周に着脱可能に装着されるともに端子を保持するソケットを備えて、コネクタをキャップの内周を通過可能としてもよい。このように構成されたフロントフォークによれば、キャップを車体側チューブから取り外すことなくキャップからソケットを取り外してコネクタをフォーク本体外へ取り出し、コネクタを分離して配線を機器側配線と端子側配線とに切り離しが可能となる。また、このように構成されたフロントフォークによれば、配線を捩ることなく機器側配線と端子側配線とに切り離しできるから配線の断線や劣化を抑制でき、さらには、ソケットと端子側配線をキャップから取り外せるのでキャップの車体側チューブからの取り外し作業も容易となる。
【0011】
さらに、キャップが環状であって、キャップの内周に着脱可能に装着されるともに端子を保持するソケットを備え、コネクタがキャップの内周を通過可能とされるとともに、ソケットがキャップの内周に挿入される基部を有し、基部がキャップの内周に形成される溝内に挿入可能な爪を有していてもよい。このように構成されたフロントフォークでは、ソケットのキャップへの着脱作業においてソケットをキャップに対して回転させる動作が皆無となり配線が捩じれることがないので、配線の切断や疲労を防止できる。また、このように構成されたフロントフォークでは、ねじによるソケットのキャップに対する固定に比較して、ソケットおよびキャップの大型化を招かないので、フロントフォークの大型化を抑制できる。
【0012】
そして、フロントフォークは、ソケットとキャップの軸方向の相対移動を許容しつつ、周方向の回転を阻止する回り止めを備えている。このように構成されたフロントフォークによれば、ソケットがキャップに対して周方向で回転してしまい配線を捩ってしまうことがないので、フロントフォークの使用時において配線の断線や劣化を防止できる。
【0013】
また、回り止めは、ソケットの外周に設けたキーとキャップの内周に設けられてキーが挿入されるキー溝とを有し、回り止めは、ソケットおよびキャップの周方向で等間隔をもって2箇所或いは3箇所に設置されてもよい。このように構成されたフロントフォークによれば、ソケットをキャップに対して周方向にて2つ或いは3つの異なる取付姿勢で取付でき、鞍乗車両の車種によらずソケット部とハンドルとの干渉を避けて外部電源側のプラグを確実にソケット部に接続できる。
【発明の効果】
【0014】
よって、本発明のフロントフォークによれば、内部に電気機器を備えていてもメンテナンス作業が容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の一実施の形態におけるフロントフォークの縦断面図である。
【
図2】本発明の一実施の形態におけるフロントフォークの上端部分の拡大縦断面図である。
【
図3】本発明の一実施の形態のフロントフォークにおけるソケットの拡大平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図に示した実施の形態に基づき、本発明を説明する。
図1に示すように、一実施の形態におけるフロントフォークFFは、
図1および
図2に示すように、車体側チューブ1と車軸側チューブ2とを有して伸縮可能なテレスコピック型のフォーク本体Fと、車体側チューブ1の車体側端に装着されるキャップ3と、車軸側チューブ2内に設けられるシリンダ4と、シリンダ4内に軸方向移動自在に挿入されるとともに一端がキャップ3に連結される筒状のロッドとしてのピストンロッド5と、シリンダ4内に収容される電気機器としてのソレノイドSと、キャップ3に設けられる端子6と、端子6とソレノイドSとに接続される配線7の途中に設けられて端子6とソレノイドSとの電気的な接続と切り離しを可能とするコネクタCとを備えて構成されている。
【0017】
以下、一実施の形態のフロントフォークFFの各部について詳細に説明する。
図1および
図2に示すように、フロントフォークFFは、車体側チューブ1と、車体側チューブ1内に摺動自在に挿入される車軸側チューブ2とを有して構成されるテレスコピック型のフォーク本体Fを備えている。フォーク本体Fは、振動が作用すると、車軸側チューブ2が車体側チューブ1に出入りしてフォーク本体Fが伸縮する。なお、本実施の形態では、フォーク本体Fは、車体側チューブ1内に車軸側チューブ2が挿入される倒立型になっているが、車体側チューブ1が車軸側チューブ2内に挿入される正立型とされてもよい。
【0018】
つづいて、フォーク本体Fの車体側端となる車体側チューブ1の
図2中上端には、環状のキャップ3が装着されている。また、フォーク本体Fの下端となる車軸側チューブ2の
図1中下端は、車軸側のブラケットBで塞がれている。さらに、車体側チューブ1と車軸側チューブ2の重複部の間にできる筒状の隙間は、車体側チューブ1の下端に装着されて車軸側チューブ2の外周に摺接する環状のシール部材20で塞がれている。
【0019】
このようにしてフォーク本体F内は密閉空間とされており、そのフォーク本体F内にダンパDが収容されている。このダンパDは、車軸側チューブ2内に収容されるシリンダ4と、シリンダ4内に摺動自在に挿入されるピストン21と、下端がピストン21に連結されるとともに上端がシリンダ4外へと突出してキャップ3に連結されるピストンロッド5とを備えている。
【0020】
キャップ3は、車体側チューブ1に連結されているので、ピストンロッド5はキャップ3を介して車体側チューブ1に連結される。さらに、シリンダ4は、車軸側チューブ2に連結されている。このように、ダンパDは、車体側チューブ1と車軸側チューブ2との間に介装されており、フォーク本体Fの伸縮に伴ってシリンダ4に対してピストンロッド5が軸方向に相対移動して伸縮する。
【0021】
また、シリンダ4の上端には、環状のヘッド部材22が装着されており、このヘッド部材22の内側をピストンロッド5が軸方向へ移動自在に貫通する。ヘッド部材22は、ピストンロッド5を摺動自在に支えており、ヘッド部材22とキャップ3との間に、コイルばねからなる懸架ばね23が介装されている。懸架ばね23は、車体側チューブ1と車軸側チューブ2を離間させる弾発力を発揮してフォーク本体Fを伸長方向に付勢している。よって、フロントフォークFFは、鞍乗車両の前輪と車体との間に介装されると車体を弾性支持する。
【0022】
また、ピストンロッド5は、本実施の形態では、ピストン21に連結される筒状のピストン保持ロッド5aと、キャップ3の下端に連結される筒状のコネクタ収容ロッド5bと、ピストン保持ロッド5aとコネクタ収容ロッド5bとを連結する筒状の連結部材5cとを備えている。そして、コネクタ収容ロッド5bは、ピストン保持ロッド5aより大径であって、下端内周に肉厚筒状の連結部材5cが挿入されるともにねじ締結される。また、連結部材5cの下端内周にピストン保持ロッド5aが挿入されるとともにねじ締結される。よって、ピストンロッド5は、筒状であって
図1中で上端側が太くなる形状となっている。
【0023】
なお、本実施の形態のダンパDは片ロッド型で、ピストンロッド5がピストン21の片側からシリンダ4外へ延びている。しかし、ダンパDが両ロッド型になっていて、ピストンロッドがピストンの両側からシリンダ外へ延びていてもよい。また、懸架ばね23は、エアばね等のコイルばね以外のばねであってもよい。
【0024】
つづいて、シリンダ4内には、作動油等の液体が充填された液室Lが形成されており、この液室Lがピストン21で伸側室R1と圧側室R2とに区画されている。ここでいう伸側室とは、ピストンで区画された二室のうち、ダンパDの伸長時にピストン21で圧縮される方の部屋のことである。その一方、圧側室とは、ピストン21で区画された二室のうち、ダンパDの収縮時にピストン21で圧縮される方の部屋のことである。
【0025】
また、シリンダ4外、より詳しくは、ダンパDとフォーク本体Fとの間の空間は液溜室Rとされている。この液溜室Rには、シリンダ4内の液体と同じ液体が貯留されるとともに、その液面上側にエア等の気体の封入されたガス室Gが形成されている。このように、フォーク本体Fは、シリンダ4内の液体とは別に、液体を貯留するタンクの外殻として機能する。
【0026】
なお、図示はしないが、液溜室Rは圧側室R2と連通されており、圧側室R2から液溜室Rへ向かう液体の流れに抵抗を与える減衰バルブと、液溜室Rから圧側室R2へ向かう液体の流れのみを許容する逆止弁とが設けられている。
【0027】
また、ピストン21には、伸側室R1と圧側室R2とを連通する減衰通路21aと、減衰通路21aを通過する液体の流れに抵抗を与えるソレノイドバルブSVとが設けられている。ソレノイドバルブSVは、電気機器としてのソレノイドSと、ソレノイドSによって駆動される弁体Vとを備えており、減衰通路21aを通過する液体の流れに与える抵抗をソレノイドSへの通電量によって調整できるようになっている。ソレノイドバルブSVは、開弁圧の調節が可能な可変リリーフ弁であってもよいし、減衰通路21aの開度を調節可能なスプール弁とされてもよい。なお、減衰通路21aには、ソレノイドバルブSVに対して直列或いは並列にオリフィスや減衰バルブを設けてもよい。
【0028】
そして、ソレノイドバルブSVにおける電気機器としてのソレノイドSは、ピストンロッド5内に収容される配線7を通じて図外の外部電源から電力供給を受けるようになっている。配線7は、キャップ3に保持される端子6と電気機器としてのソレノイドSとを接続しており、途中にコネクタCが設けられている。より詳細には、配線7は、ソレノイドSに一端が接続されるとともに他端がコネクタCにおけるプラグ10に接続される機器側配線7aと、端子6に一端が接続されるとともに他端がコネクタCにおけるレセプタクル11に接続される端子側配線7bとを備えている。コネクタCは、内部にソレノイドSに機器側配線7aを介して電気的に接続される図示しないピンを備えたプラグ10と、内部に端子6に端子側配線7bを介して電気的に接続されるコンタクトを備えたレセプタクル11とを備えている。そして、コネクタCは、レセプタクル11にプラグ10を差し込むと前記ピンが前記コンタクトに挿入された状態に維持されて端子6とソレノイドSとを電気的に接続し、レセプタクル11からプラグ10を取り外すと前記ピンと前記コンタクトの接触が断たれて端子6とソレノイドSとを電気的に切り離す。なお、機器側配線7aをプラグ10に接続し、端子側配線7bをレセプタクル11に接続してもよい。
【0029】
コネクタCの最大幅は、ピストンロッド5におけるコネクタ収容ロッド5bの内径よりも小さく、コネクタCをコネクタ収容ロッド5b内に収容可能であってコネクタ収容ロッド5bの上方からコネクタ収容ロッド5b内へ出し入れ可能となっている。また、機器側配線7aは、コネクタCを車体側チューブ1の上端から外方へ取り出しできるように余長を有しており、コネクタCがコネクタ収容ロッド5b内にある場合にコネクタ収容ロッド5b内に弛んだ状態で収容される。
【0030】
戻って、フォーク本体Fが伸長してダンパDが伸長すると、シリンダ4に対してピストン21が
図1中上方へ移動して、伸側室R1が縮小されて圧側室R2が拡大され、圧縮される伸側室R1の液体は、ピストン21の減衰通路21aを通過して拡大される圧側室R2へ移動する。この液体の流れに対してソレノイドバルブSVが抵抗を与えるので伸側室R1内の圧力が上昇し、ダンパDは、フォーク本体Fの伸長を妨げる減衰力を発生する。なお、ダンパDの伸長時には、ピストンロッド5がシリンダ4内から退出し、ピストンロッド5の退出分の液体がシリンダ4内で不足するので、液溜室Rから前記逆止弁を通じて不足分の液体がシリンダ4内に供給される。
【0031】
逆に、フォーク本体Fが収縮してダンパDが収縮すると、シリンダ4に対してピストン21が
図1中下方へ移動して、圧側室R2が縮小されて伸側室R1が拡大され、圧縮される圧側室R2の液体は、ピストン21の減衰通路21aを通過して拡大される伸側室R1へ移動する。また、ダンパDの収縮時には、ピストンロッド5がシリンダ4内へ侵入し、ピストンロッド5の侵入分の液体がシリンダ4内で過剰となるので、圧側室R2から前記減衰バルブを通じて過剰分の液体が液溜室Rへ排出される。伸側室R1へ向かう液体の流れに対してソレノイドバルブSVが抵抗を与え、液溜室Rへ向かう液体の流れに対して減衰バルブが抵抗を与えるので圧側室R2内の圧力が上昇し、ダンパDは、フォーク本体Fの収縮を妨げる減衰力を発生する。
【0032】
ここで、ソレノイドバルブSVにおけるソレノイドSへ供給する電流を調節してソレノイドバルブSVが液体の流れに与える抵抗を調節できるので、本実施の形態のフロントフォークFFでは、伸長時と収縮時の両側でダンパDが発生する減衰力を調節できる。
【0033】
つづいて、キャップ3は、筒状であって、車体側チューブ1の上端内周に挿入されるとともにねじ締結されるソケット収容筒31と、ソケット収容筒31の下端に連なりピストンロッド5のコネクタ収容ロッド5bの上端外周にねじ締結されるロッド連結筒32とを備えている。
【0034】
ソケット収容筒31は、
図1および
図2に示すように、ロッド連結筒32の上端に連なる環状の底部31aと、底部31aの外周から立ち上がり外内径がロッド連結筒32よりも大径な筒部31bと、筒部31bの外周に設けられて車体側チューブ1の上端内周に設けたねじ部1aに螺合されるねじ部31cと、筒部31bの内周に周方向に沿って設けた環状の溝31dと、筒部31bの開口端内周に周方向に等間隔をもって設けられた2つのキー溝31eと、筒部31bの内側であって溝31dよりも
図2中下方となるフォーク本体F内側に装着されたシールリング31fとを備えている。換言すれば、キー溝31eは、ソケット収容筒31の内周に180度位相差をもって設けられている。
【0035】
他方、ロッド連結筒32は、ソケット収容筒31の底部31aの内周から垂下されて下方に伸びて、内周にコネクタ収容ロッド5bの外周に設けたねじ部5dに螺合するねじ部32aを備えている。
【0036】
このようにキャップ3の内周で一番狭いのは、ロッド連結筒32の内径のうち最小となる部分となるが、この部分の内径は、コネクタ収容ロッド5bの内径よりも大径となっているので、コネクタCはキャップ3の内周を上下何れの方向へも通過し得る。
【0037】
ソケット収容筒31の内周には、内方に端子6を収容しているソケット8が挿入されている。ソケット8は、
図1から
図3に示すように、ソケット収容筒31の内周に嵌合される基部8aと、基部8aの上方に設けられて内方に端子6を収容するとともに外部電源に接続される図外のプラグの嵌合を許容する環状のソケット部8bとを備えている。また、基部8aの外周には、ソケット収容筒31の内周に設けたキー溝31e内に嵌合する2つのキー8cが周方向に等間隔をもって設けられるほか、基部8aの外周下方から立ち上がる3つの腕8dが設けられている。腕8dは、基部8aの中心側へ向けて撓ませることが可能とされており、基部8aの外周側へ向けて突出する爪8eを備えている。なお、ソケット部8bは、基部8aの中央ではなく、偏心した位置に設けられている。キー8cは、換言すれば基部8aの外周に180度位相差をもって設けられている。
【0038】
ソケット8は、合成樹脂で形成されており、ソケット部8bで端子側配線7bに接続される端子6を保持している。ソケット部8bは、端子6の周囲を取り囲んでおり、外部電源側の配線の先端に取り付けられた図外のプラグが嵌合できるようになっている。このように構成されたソケット8は、たとえば、以下のようにして製造される。ソケット部8bを成型する型内に予め端子側配線7bに接続された端子6をインサートしておき、型内に合成樹脂でなるモールド樹脂を注入して端子6、端子側配線7bおよびソケット部8bを一体化するインサート成型にてソケット部8bを得る。そして、端子6、端子側配線7bがアッセンブリ化されたソケット部8bを基部8aを成型する型内にインサートしておき、型内に合成樹脂でなるモールド樹脂を注入してアッセンブリ化されたソケット部8bと基部8aとを一体化するインサート成型にてソケット8を得る。このようなインサート成型を2回行うようにしているので、プラグが嵌合する部分の形状が異なる形状のソケット部8bであっても一つの型を利用して基部8aに一体化できる。よって、端子6を持つソケット部8bについては外部から購入する場合でもソケット部8bと基部8aを一体化してソケット8を得ることができる。なお、ソケット部8bを得る際に端子6のみをインサートして端子6とソケット部8bを一体化してから、端子6に端子側配線7bを取り付けてもよい。
【0039】
このように構成されたソケット8は、爪8eが溝31dに対向するまで基部8aをソケット収容筒31内に挿入すると、爪8eが溝31d内に入り込んでソケット収容筒31に引っ掛かってキャップ3に保持される。なお、ソケット8をキャップ3から取り外す場合、腕8dを基部8a側へ撓ませると爪8eが溝31d内から退出するので、この状態を保ちながらソケット8を上方へ持ち上げる。すると、爪8eとキャップ3との係合が解かれた状態となっているので、ソケット8をキャップ3から容易に引き抜ける。爪8eがソケット8に複数設けられており、全ての腕8dを同時に撓ませなくてはソケット8をキャップ3から引き抜けないので、器具その他の干渉によって誤ってソケット8がキャップ3から脱落する心配もない。このように爪8eを溝31dに突出させてソケット8とキャップ3に固定する構造では、ソケット8のキャップ3に対する取付および取り外し作業においてソケット8をキャップ3に対して回転させる動作が皆無となるので、ソケット8のキャップ3への着脱作業時に配線7が捩じられてしまう恐れがない。よって、配線7の切断や疲労を防止できる。
【0040】
また、ソケット8が前述のようにキャップ3に装着されるとキー8cがそれぞれ対応するキー溝31e内に入り込んで、ソケット8は、キャップ3に対して周方向への回転が規制される。このようにキー8cとキー溝31eは、ソケット8とキャップ3との軸方向の相対移動を許容しつつ周方向の回転を阻止する回り止めとして機能し、ソケット8の周方向の回転を阻止して配線7の捩れを防止して配線7の切断や疲労を防止する。なお、キー8cとキー溝31eは、それぞれソケット8とキャップ3に周方向に等間隔をもって2つ設けられているので、ソケット8をキャップ3に対して2通りの取付姿勢で固定可能となっている。また、ソケット部8bは、基部8aの中央から偏心した位置に設けられているので、ソケット部8bをキャップ3に対して2つの異なる位置のどちらか希望する位置に配置できる。フロントフォークFFは、車体にアッパーブラケットを介して取り付けられるが、アッパーブラケットにはハンドルが取り付けられていて、車種によってアッパーブラケットとハンドルの形状、アッパーブラケットとハンドルの取付構造が異なる。すると、ソケット8のソケット部8bの位置を適宜変更できるので、鞍乗車両の車種によらずソケット部8bとハンドルの干渉を避けて外部電源側のプラグを確実にソケット部8bに接続できる。なお、キー8cとキー溝31eをそれぞれソケット8とキャップ3に周方向に等間隔をもって3つ設ける場合には、ソケット8をキャップ3に対して3通りの取付姿勢で固定でき、キー8cとキー溝31eの設置数を増やせばそれだけソケット部8bの位置のバリエーションが増加する。また、爪8eが挿入される溝31dは、環状溝となっているので、ソケット8をキャップ3へ周方向でどのような取付姿勢で取り付けても爪8eが溝31d内に嵌合でき、ソケット8をキャップ3へ固定できる。なお、溝31dを環状溝としない場合、ソケット8の取付姿勢を変更しても全ての爪8eが必ず溝31dに対向するように爪8eと溝31dを設置すればよい。
【0041】
なお、ソケット8のキャップ3への固定は、爪8eと溝31dの代わりにソケット8を貫通してソケット収容筒31の底部31aに螺着されるねじを用いて行う、キャップ3の内周にストッパを設けてキャップ3に螺着されるナットとストッパとでソケット8を挟持する等、その他の周知の固定構造で行ってもよい。また、ソケット8のキャップ3への固定は、爪8eと溝31dの代わりに、シールリング31fの緊迫力によって行ってもよい。ねじを用いてソケット8を固定する場合、別途、ねじ周りのシールが必要となるとともにソケット8にねじを通す孔を設ける都合上、ソケット8の基部8aの大径化を招き、ひいてはフロントフォークFFの外形の大径化を招くとともに、部品点数が増加するが、爪8eと溝31d、或いはシールリング31fでソケット8の固定を行う場合、フロントフォークFFの大型化および部品点数の増加を招かない利点がある。
【0042】
フロントフォークFFは、以上のように構成されており、メンテナンス作業を行う場合、以下のようにして、分解作業を行う。まず、腕8dを基部8a側へ撓ませてソケット8をキャップ3から引き抜き、コネクタCをキャップ3の内周を通してフォーク本体F外へ引き出す。つづいて、コネクタCのプラグ10をレセプタクル11から取り外して、機器側配線7aと端子側配線7bとを切り離してソケット8を端子側配線7bとともにフォーク本体Fから完全に取り去る。そうすると、キャップ3を車体側チューブ1から配線7の干渉を受けずに完全に取り外すことが可能となる。キャップ3を車体側チューブ1から取り外すと分解作業が終了して車体側チューブ1の上端開口部が完全に開放され、フォーク本体F内の懸架ばね23やシールの交換、ダンパDおよび液溜室R内の作動油の交換或いは注油といったメンテナンス作業を行える状態となる。
【0043】
メンテナンス終了後にキャップ3とソケット8をフォーク本体Fに取り付ける場合は、コネクタCとキャップ3を分離した状態でコネクタCで機器側配線7aと端子側配線7bとを接続する。つづいて、キャップ3を車体側チューブ1に取り付けてから、ソケット8をキャップ3に装着する。本実施の形態のフロントフォークFFでは、前述のようなキャップ3の着脱が可能となるので、キャップ3のフォーク本体Fからの完全分離が可能となり、キャップ3の着脱の際に配線7を捩ってしまう恐れがなく配線7の切断や疲労を防止できる。
【0044】
なお、本実施の形態では、端子6を保持するソケット8がキャップ3から取り外せるようになっているが、キャップ3に直接に端子6が取り付けられている場合でも、キャップ3を車体側チューブ1から取り外して、コネクタCのプラグ10をレセプタクル11から取り外せば、キャップ3を車体側チューブ1からの完全な取り外しを配線7aが邪魔することはない。つまり、端子6は、前述したとおり、キャップ3に直接に取り付けてもよいし、キャップ3に着脱可能なソケット8に保持させて間接的にキャップ3に取り付けてもよい。
【0045】
このように本実施の形態のフロントフォークFFでは、車体側チューブ1と車軸側チューブ2とを有して伸縮可能なテレスコピック型のフォーク本体Fと、車体側チューブ1の車体側端に装着されるキャップ3と、車軸側チューブ2内に設けられるシリンダ4と、シリンダ4内に軸方向移動自在に挿入されるとともに一端がキャップ3に連結される筒状のピストンロッド(ロッド)5と、シリンダ4内に収容されるソレノイド(電気機器)Sと、キャップ3に設けられる端子6と、端子6とソレノイド(電気機器)Sとに接続される配線7の途中に設けられて端子6とソレノイド(電気機器)Sとの電気的な接続と切り離しを可能とするコネクタCとを備えているので、コネクタCによって配線7の途中から端子6とソレノイド(電気機器)Sとを分離でき、配線7に邪魔されずに簡単にキャップ3を車体側チューブ1から完全に取り外して車体側チューブ1の上端開口部を開放できる。よって、本実施の形態のフロントフォークFFによれば、内部にソレノイド(電気機器)Sを備えていてもメンテナンス作業が容易となる。
【0046】
また、本実施の形態のフロントフォークFFでは、キャップ3が環状であって、キャップ3の内周に着脱可能に装着されるともに端子6を保持するソケット8を備え、コネクタCがキャップ3の内周を通過可能とされている。このように構成されたフロントフォークFFによれば、前述したように、キャップ3を車体側チューブ1から取り外すことなくキャップ3からソケット8を取り外してコネクタCをフォーク本体F外へ取り出し、コネクタCを分離して配線7を機器側配線7aと端子側配線7bとに切り離しできる。また、本実施の形態のフロントフォークFFによれば、配線7を捩ることなく機器側配線7aと端子側配線7bとに切り離しできるから配線7の断線や劣化を抑制でき、さらには、ソケット8と端子側配線7bをキャップ3から取り外せるのでキャップ3の車体側チューブ1からの取り外し作業も容易となる。
【0047】
さらに、本実施の形態のフロントフォークFFでは、キャップ3が環状であって、キャップ3の内周に着脱可能に装着されるともに端子6を保持するソケット8を備え、コネクタCがキャップ3の内周を通過可能とされるとともに、ソケット8がキャップ3の内周に挿入される基部8aを有し、基部8aがキャップ3の内周に形成される溝31d内に挿入可能な爪8eを有している。このように構成されたフロントフォークFFでは、ソケット8のキャップ3への着脱作業においてソケット8をキャップ3に対して回転させる動作が皆無となり配線7が捩じれることがないので、配線7の切断や疲労を防止できる。また、ねじによるソケット8のキャップ3に対する固定に比較して、ソケット8およびキャップ3の大型化を招かないので、フロントフォークFFの大型化を抑制できる。
【0048】
そして、本実施の形態のフロントフォークFFでは、ソケット8とキャップ3の軸方向の相対移動を許容しつつ、周方向の回転を阻止する回り止めを備えている。このように構成されたフロントフォークFFによれば、ソケット8がキャップ3に対して周方向で回転してしまい配線7を捩ってしまうことがないので、フロントフォークFFの使用時において配線7の断線や劣化を防止できる。なお、回り止めは、ソケット8のキャップ3に対する軸方向の移動を許容するので、ソケット8のキャップ3に対する着脱を阻害しない。また、キャップ3に設けたシールリング31fにソケット8のキャップ3に対する周方向の移動を規制する緊迫力を持たせてシールリング31fを回り止めとしてもよく、シールリングはキャップ3側ではなくソケット8の基部8aの外周に設けてもよい。
【0049】
また、回り止めは、ソケット8の外周に設けたキー8cとキャップ3の内周に設けられてキー8cが挿入されるキー溝31eとを有し、回り止めは、ソケット8およびキャップ3の周方向で等間隔をもって2箇所に設置されている。このように構成されたフロントフォークFFによれば、ソケット8をキャップ3に対して周方向にて2つの異なる取付姿勢で取付できる。よって、本実施の形態のフロントフォークFFによれば、ソケット部8bの位置を変更でき、鞍乗車両の車種によらずソケット部8bとハンドルとの干渉を避けて外部電源側のプラグを確実にソケット部8bに接続できる。なお、キー8cとキー溝31eとでなる回り止めは、ソケット8およびキャップ3の周方向で等間隔をもって3箇所に設置されてもよく、この場合には、ソケット8をキャップ3に対して周方向にて2つの異なる取付姿勢で取付できる。また、キーをキャップ3の内周に設けるとともに、キー溝をソケットの外周に設けてもよい。
【0050】
なお、本実施の形態のフロントフォークFFでは、ピストンロッド5がピストン21に連結される筒状のピストン保持ロッド5aと、キャップ3の下端に連結される筒状のコネクタ収容ロッド5bとを備えており、コネクタ収容ロッド5bがピストン保持ロッド5aより大径とされている。そして、本実施の形態のフロントフォークFFでは、配線7よりも嵩張るコネクタCを大径なコネクタ収容ロッド5bに収容しつつも、ダンパDのシリンダ4内には小径なピストン保持ロッド5aのみを挿入するようにしている。このように構成されたフロントフォークFFによれば、嵩張るコネクタCをシリンダ4外のコネクタ収容ロッド5b内に収容しつつシリンダ4内には外径が小径のピストン保持ロッド5aのみを挿入しているので、シリンダ4を大径化することなくピストン21の受圧面積を確保でき、フロントフォークFFの大型化を回避しつつも伸側減衰力を十分に発揮できる。
【0051】
なお、本実施の形態のフロントフォークFFでは、電気機器をソレノイドSとしているが、電気機器はソレノイドSのみに限られず、ダンパDが電気粘性流体や磁気粘性流体を利用したダンパであって粘度を変化させるのにコイルを利用する場合には電気機器をコイルとしてもよい。また、電気機器は、フロントフォークFF内のダンパDの減衰力を調節するために用いられるもの以外にも、ダンパD内の圧力の検知やフォーク本体Fの伸縮変位の検知を行うためのセンサ類であってもよい。つまり、本発明は、シリンダ4内に電気機器が収容されるフロントフォークFFに適用できる。なお、電気機器がシリンダ4に対して変位しても電気機器の少なくとも一部がシリンダ4内に挿入される状態であれば、シリンダ4内に電気機器が収容されるとの定義に合致する。
【0052】
以上、本発明の好ましい実施の形態を詳細に説明したが、特許請求の範囲から逸脱しない限り、改造、変形、および変更が可能である。
【符号の説明】
【0053】
1・・・車体側チューブ、2・・・車軸側チューブ、3・・・キャップ、4・・・シリンダ、5・・・ピストンロッド(ロッド)、6・・・端子、7・・・配線、8・・・ソケット、8a・・・基部、8c・・・キー、8e・・・爪、31e・・・キー溝、C・・・コネクタ、F・・・フォーク本体、S・・・ソレノイド(電気機器)