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特許7378899チューナブルフィルタリングアレーアンテナ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-06
(45)【発行日】2023-11-14
(54)【発明の名称】チューナブルフィルタリングアレーアンテナ
(51)【国際特許分類】
   H01P 5/08 20060101AFI20231107BHJP
   H01P 1/203 20060101ALI20231107BHJP
   H01Q 21/06 20060101ALI20231107BHJP
【FI】
H01P5/08 Z
H01P1/203
H01Q21/06
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2020019734
(22)【出願日】2020-02-07
(65)【公開番号】P2021125844
(43)【公開日】2021-08-30
【審査請求日】2022-11-02
(73)【特許権者】
【識別番号】504190548
【氏名又は名称】国立大学法人埼玉大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000227892
【氏名又は名称】日本アンテナ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102635
【弁理士】
【氏名又は名称】浅見 保男
(74)【代理人】
【識別番号】100199820
【弁理士】
【氏名又は名称】西脇 博志
(72)【発明者】
【氏名】大平 昌敬
(72)【発明者】
【氏名】山田 暁弘
(72)【発明者】
【氏名】小野 豊
(72)【発明者】
【氏名】比留間 利通
【審査官】佐藤 当秀
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0077894(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0029072(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01P 5/08
H01P 1/203
H01Q 21/06
H03H 7/38
H03H 7/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
通過帯域の周波数が可変であるフィルタを複数のアンテナ及び給電分配回路とで構成するチューナブルフィルタリングアレーアンテナであって、
前記アンテナは、動作周波数を制御するバラクタダイオードが接続され、
前記給電分配回路は、通過帯域の中心周波数を制御するバラクタダイオードが接続された複数の共振器を接続して形成され、
前記アンテナと給電分配回路は、それぞれ別の誘電体基板の上に形成したことを特徴とするチューナブルフィルタリングアレーアンテナ。
【請求項2】
前記バラクタダイオードに印加するバイアス電圧を調整することにより動作周波数及び通過帯域を制御することを特徴とする請求項1に記載のチューナブルフィルタリングアレーアンテナ。
【請求項3】
前記アンテナは、直列共振型のアンテナであることを特徴とする請求項1又は2に記載のチューナブルフィルタリングアレーアンテナ。
【請求項4】
前記アンテナは、ダイポールアンテナであることを特徴とする請求項に記載のチューナブルフィルタリングアレーアンテナ。
【請求項5】
前記ダイポールアンテナは、2つのエレメントがバラクタダイオードで接続されていることを特徴とする請求項に記載のチューナブルフィルタリングアレーアンテナ。
【請求項6】
前記ダイポールアンテナは、前記バラクタダイオードと並列にチップインダクタを設けることを特徴とする請求項に記載のチューナブルフィルタリングアレーアンテナ。
【請求項7】
前記給電分配回路は、マイクロストリップ線路で形成されていることを特徴とする請求項1~のいずれか1項に記載のチューナブルフィルタリングアレーアンテナ。
【請求項8】
前記給電分配回路は、トーナメント方式の給電分配回路であることを特徴とする請求項1~のいずれか1項に記載のチューナブルフィルタリングアレーアンテナ。
【請求項9】
前記給電分配回路の前記共振器は、半波長共振器であることを特徴とする請求項1~のいずれか1項に記載のチューナブルフィルタリングアレーアンテナ。
【請求項10】
前記半波長共振器は、バラクタダイオードを介して一方の解放端をグランドプレーンに接続していることを特徴とする請求項に記載のチューナブルフィルタリングアレーアンテナ。
【請求項11】
前記半波長共振器は、形状が略コの字型であること特徴とする請求項又は10のいずれか1項に記載のチューナブルフィルタリングアレーアンテナ。
【請求項12】
複数の前記半波長共振器は、バラクタダイオードが接続されている端同士を近接させてインターデジタル形のパラレル結合させることを特徴とする請求項9~1のいずれか1項に記載のチューナブルフィルタリングアレーアンテナ。
【請求項13】
前記半波長共振器は、バラクタダイオードを介して共振器の中央をグランドプレーンに接続していることを特徴とする請求項に記載のチューナブルフィルタリングアレーアンテナ。
【請求項14】
前記半波長共振器は、両端をグランドプレーンに接続し、該両端で次の半波長共振器とパラレル結合することを特徴とする請求項13に記載のチューナブルフィルタリングアレーアンテナ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バンドパス(帯域通過)フィルタの最終段の共振器を各素子アンテナに置換えるとともに、各素子アンテナへの給電回路の分配回路もバンドパスフィルタの各段の共振器に置換え、フィルタの各共振器に相当する各素子アンテナ及び給電分配回路のそれぞれに電気的特性を外部から変更可能な素子を組み込むことにより、動作周波数を変更可能としたチューナブルフィルタリングアレーアンテナに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、複数の素子アンテナを面上に配置し、それらに所望の励振振幅、位相の信号を給電することにより、所望の放射ビームを形成するアレーアンテナが知られている。このアレーアンテナにおいては、各素子アンテナに、1つの信号を給電、分配するための給電分配回路が接続されている。この給電分配回路には、いわゆるトーナメント方式のマイクロストリップ給電線路が用いられることが多い。この方式のマイクロストリップ給電分配回路は、動作周波数において容易に1つの信号を複数の素子アンテナに分配、給電できるという特徴がある。
また、動作周波数を可変にするためにバラクタダイオードを装荷し、ダイオードのバイアス電圧を変えることによりアンテナの共振周波数を可変とするチューナブルダイポールアンテナが知られている(非特許文献1)。
このチューナブルダイポールアンテナを用いて、アレーアンテナを構成した場合、動作周波数を可変にするためにバラクタダイオード等を用いてアンテナの共振周波数を電気的に可変にすると、給電線路は電気的に変わらないためアンテナと給電線路の間でインピーダンスの不整合が生じ、反射損失(リターンロス)が増えるという課題がある。
また、アレーアンテナとバンドパスフィルタ(BPF)とを接続したアンテナも検討されている。しかし、バンドパスフィルタとアレーアンテナとを単に接続しただけの回路構成において、バラクタダイオード等を用いて各アンテナの動作周波数(=共振周波数)を可変にする場合は、バンドパスフィルタの通過帯域の中心周波数も可変にして、動作周波数を合わせる必要がある。仮に、両者の動作周波数が一致させることができたとしても、アンテナの動作周波数によって周波数帯域幅が変動したり、リターンロスが変動したりしてしまうため、今度は、所定の周波数帯域内においてアンテナとバンドパスフィルタの間でインピーダンス整合が保障されないという課題も生じる。
また、給電回路にバンドパスフィルタを設け、アンテナと組み合わせて、共振周波数と通過帯域とを制御したフィルタリングアンテナも研究されている。具体的には、パッチアンテナを用いたチューナブルフィルタリングアンテナ(非特許文献2)や、メアンダ型のモノポールアンテナを用いたチューナブルフィルタリングアンテナ(非特許文献3)などが知られている。また、通過帯域幅が変わらないチューナブルバンドパスフィルタの設計手法(非特許文献4)も精力的に研究がされている。
しかしながら、これらの技術を統合してチューナブルなフィルタリングアレーアンテナとして設計、実現するに至っていない。
また、導波管型のフィルタリングアレーアンテナの検討もなされている(非特許文献5)が、動作周波数が制御可能ではない。
一方、特定の周波数において特定の方向からの電波を検知するための機器に搭載できる小型のアンテナの開発が望まれている。しかし、従来のアンテナでは、共振周波数が可変でき、指向性をもち周波数選択性がある小型のものが実現できていなかった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】J. Ko 他, ”A Wideband Frequency-Tunable Dipole Antenna Based on Antiresonance Characteristics,” IEEE Antennas and Wireless Propagation Letters, vol. 16, pp. 3067-3070, 2017.
【文献】R. E. Lovato 他, ”Tunable Filter/Antenna Integration With Bandwidth Control,” IEEE Transactions on Microwave Theory and Techniques, vol. 67, no. 10, pp. 4196-4205, Oct. 2019.
【文献】大平昌敬 他, ”絶対帯域幅一定のマイクロストリップチューナブルフィルタリングアンテナの設計,”信学技報, vol.118, no.403, MW2018-154, pp.97-102, Jan. 2019.
【文献】M. Ohira 他, ”Coupling-Matrix-Based Systematic Design of Single-DC-Bias-Controlled Microstrip Higher Order Tunable Bandpass Filters With Constant Absolute Bandwidth and Transmission Zeros,” IEEE Transactions on Microwave Theory and Techniques, vol. 67, no. 1, pp. 118-128, Jan. 2019.
【文献】F. Chen, J. Chen 他, ”X-Band Waveguide Filtering Antenna Array With Nonuniform Feed Structure, ” IEEE Transactions on Microwave Theory and Techniques, vol. 65, no. 12, pp. 4843-4850, Dec. 2017.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記課題を踏まえ、本発明は、バンドパスフィルタとしての周波数選択機能と、チューナブルフィルタ及びチューナブルアンテナとしての周波数可変機能と、アレーアンテナとしてのビーム形成機能を1つの回路で構成するアンテナを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、通過帯域の周波数が可変であるフィルタを複数のアンテナ及び給電分配回路とで構成するチューナブルフィルタリングアレーアンテナであって、前記アンテナは、動作周波数を制御するバラクタダイオードが接続され、前記給電分配回路は、通過帯域の中心周波数を制御するバラクタダイオードが接続された複数の共振器を接続して形成され、前記アンテナと給電分配回路は、それぞれ別の誘電体基板の上に形成したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、バンドパスフィルタとしての周波数選択機能と、チューナブルフィルタ及びチューナブルアンテナとしての周波数可変機能と、アレーアンテナとしてのビーム形成機能を1つの回路で構成することができ、小型で、空間軸及び周波数軸の両方で選択性を有するアレーアンテナが実現できる。
さらに、共振器間の結合係数が通過帯域の中心周波数に対して概ね反比例特性、外部Q値が中心周波数に対して概ね比例特性、アンテナの放射Q値が中心周波数に対して概ね比例特性となる構造を有する本発明のアレーアンテナでは、共振器ならびにアンテナに装荷したバラクタダイオードによって共振周波数を変化させても、通過帯域内のインピーダンス整合を劣化させることなく通過帯域の絶対帯域幅を一定に保ったまま、通過帯域の中心周波数を変えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明の2素子チューナブルフィルタリングアレーアンテナの外観図。
図2】ダイポールアンテナ、マイクロストリップ共振器及び接続構造を示す図。
図3】実施例のマイクロストリップ共振器の構造を示す図。
図4】実施例のダイポールアンテナの構造を示す図
図5】バラクタダイオード装荷のダイポールアンテナ、パッチアンテナの比較。
図6】マイクロストリップ共振器の結合係数及び外部Q値、放射Q値の周波数特性
図7】4素子チューナブルフィルタリングアレーアンテナの例を示す図。
図8】2×2素子チューナブルフィルタリングアレーアンテナの例を示す図。
図9】グランドプレーンを誘電体基板に挟んだ構造の例の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を実施するための形態について図面を用いて説明する。なお、本発明が、以下の実施例の構成に限定されるものではなく、本発明の技術思想の概念に含まれる、変形も含まれる。
【実施例1】
【0009】
図1に、バラクタダイオード6を装荷した複数のチューナブルマイクロストリップ半波長共振器1,2,3(以下単に「マイクロストリップ共振器」という。)で構成される給電回路と、同じくバラクタダイオード6を装荷した2つのチューナブルダイポールアンテナ4(以下単に「ダイポールアンテナ」という。)を用いた2素子チューナブルフィルタリングアレーアンテナ100(以下単に「アレーアンテナ」ともいう。)の全体構成を示す。アレーアンテナ100は、間を隔てられて平行に配置された誘電体基板7,8上に形成される。上側の誘電体基板7に2つの素子アンテナとしてのダイポールアンテナ4が形成されている。また、誘電体基板8には、上面にマイクロストリップ給電線路、マイクロストリップ共振器1,2,3のホット側が、そして裏面は、全体にグランドプレーン5が形成され、2導体系のマイクロストリップ線路が形成されている。
【0010】
● チューナブルフィルタリングアレーアンテナの全体構造
図2(a)は、誘電体基板7に形成される2素子ダイポールアレーアンテナ100の平面図、図2(b)は、誘電体基板8に形成されるマイクロストリップ共振器1,2,3の平面図、図2(c)は、ダイポールアンテナ4とマイクロストリップ共振器3の接続構造(断面図)であり、これらを参照し、アレーアンテナ100の全体構造の概要を説明する。
ダイポールアンテナ
まず、ダイポールアンテナ4の構成について図2(a)を用いて説明する。
ダイポールアンテナ4は、誘電体基板7の表面に形成された導電薄膜をエッチング等により所望の形状に形成することにより作られる。ダイポールアンテナ4は、等価回路としてインダクタンスLとキャパシタンスCの直列共振回路を形成する。
ダイポールアンテナ4の中央には、共振周波数を可変にするためのバラクタダイオード6と共振周波数を調整するためのチップインダクタ9が接続される。ダイポールアンテナ4のエレメントは、それらの素子を介して互いに接続される。そのエレメントの電気的な長さは、バラクタダイオード6やチップインダクタ9のチップ素子の電気的な長さも含めて、それぞれおよそπ/2(波長λで換算するとλ/4)で、全体でおよそπ(λ/2)である。
【0011】
マイクロストリップ共振器
次に、マイクロストリップ共振器の構成について図2(b)を用いて説明する。
アレーアンテナ100を構成する2つのダイポールアンテナ4にトーナメント方式の給電分配回路で給電するために基板の入力線路10からマイクロストリップ共振器1、そこから2つのマイクロストリップ共振器2に分配し、続くマイクロストリップ共振器3へと信号が伝わるよう接続される。それぞれの共振器同士は、パラレル結合により接続されている。それぞれの共振器は、等価回路としてインダクタンスLとキャパシタンスCの共振回路を形成し、それらに加えてアンテナが4段縦続接続されることで、4次のバンドパスフィルタを全体として構成している。
また、各マイクロストリップ共振器1,2,3は、線路長が略λ/2の半波長共振器であり、マイクロストリップ共振器1は、直線状に形成され、マイクロストリップ共振器2,3は略コの字状に形成されている。そして、これらマイクロストリップ共振器1,2,3は、2つの開放端(電界最大箇所)を有しており、その一端にバラクタダイオード6を装荷することにより、同調周波数を調整するように形成され、もう一端は開放端のままとしている。
各共振器1,2,3は、バラクタダイオード6が接続されている開放端同士、及びバラクタダイオード6が接続されていない開放端同士を、インターデジタル形に(共振器同士を互いに反対向きに近接)結合させている。
なお、バラクタダイオード6が接続されていない開放端同士、またはバラクタダイオード6を装荷した開放端同士を近接させることにより結合させているのは、バラクタダイオード6により共振器内電流分布及び電磁界分布が波長短縮を受けるため、その変化に伴う結合度が共振周波数に対して概ね反比例特性を持つからである。
また、共振器1,2,3について結合量を考慮し、インターデジタル形に配置しているがコムライン形(共振器同士を同じ向きに近接)に配置してもよい。
【0012】
ダイポールアンテナとマイクロストリップ共振器との接続
続いて、マイクロストリップ共振器3とダイポールアンテナ4との接続構造について図2(c)の断面図を用いて説明する。
誘電体基板7の上面側にダイポールアンテナ4が形成され、隔離されて形成されている誘電体基板8の上面側にマイクロストリップ共振器3のホット側が、裏面はグランドプレーン5になっている。
マイクロストリップ共振器3のホット側の開放端側には導体ビア21が形成され、誘電体基板7に形成されたダイポールアンテナ4のエレメントの一方に接続する。ダイポールアンテナ4のエレメントの他方は、一方のダイポールアンテナ4のエレメントとバラクタダイオード6及びチップインダクタ9を介して接続され、励振される。
なお、誘電体基板7と誘電体基板8が離れている場合は、上記のように導体ビア21により直接接続するが、2つの誘電体基板7,8の間隙が狭い場合は、導体ビア21で接続するのではなく、マイクロストリップ共振器3の端部との容量結合によりダイポールアンテナ4を励振することができる。
【0013】
● チューナブルフィルタリングアレーアンテナの詳細構造
次に、アレーアンテナ100の構造の詳細について説明する。まず、入力線路10及びマイクロストリップ共振器1,2,3の詳細構造について図3を用いて説明する。
(1)入力線路-マイクロストリップ共振器(1段目)
1段目のマイクロストリップ共振器1は、概ねλ(中心波長)/2の直線状の共振器であり、中間付近で線幅を広げて低インピーダンスに変換している。入力線路10側の高インピーダンス側の解放端は、誘電体基板2の裏面のグランドプレーン5に導体ビア23を介して接続されるパッド22とバラクタダイオード6を介して接続される。また、このマイクロストリップ共振器1は、バイアス用のパッド(不図示)に接続され、バラクタダイオード6を動作させるための調整可能なバイアス電圧(V)が印加されている。
入力線路10は、1段目のマイクロストリップ共振器1を挟むように2股に分岐して形成される。なお、必ずしも2股に分岐する必要はないが、電磁界(ストリップラインの電流(電界)分布)の対称性をよくするためにこのように形成している。
そして、共振器のバラクタダイオード6を装荷した側の線路と2股に分岐した入力線路10とをパラレル結合させる。こうすることで、外部Q値が中心周波数に対して概ね比例特性を持つ結合部を提供できる(図6(d))。
理論的には外部Q値(Qe)が次の式を満足すれば、通過帯域の中心周波数を変えてもその帯域幅と反射損失は一定に保たれる。
【数1】
Qe:外部Q値
BW:帯域幅
MS1:入力線路10と共振器1との規格化結合係数
f0 :中心周波数
そして、入力線路10との1段目のマイクロストリップ共振器1との結合領域の形状パラメータ(結合部の長さと線路間ギャップ)によって外部Q値の大きさやその周波数特性の傾きを調整できる。
【0014】
(2)マイクロストリップ共振器による電力分配(1段目-2段目)
1段目のマイクロストリップ共振器1の低インピーダンス側の開放端には2段目の略コの字状のマイクロストリップ共振器2とインターデジタル型で結合させる結合部が形成される。1段目のマイクロストリップ共振器1から左右2方向に電力を同振幅同位相で分配するためには、分配元の1段目のマイクロストリップ共振器1の電界分布が偶対称でなければならない(構造の対称性ではなく、電気的な対称性が必要)。図3のように、1段目のマイクロストリップ共振器1の低インピーダンス側の開放端側の線路と、2つの同じマイクロストリップ共振器2の開放端側の線路とをパラレル結合させれば、同振幅同位相で電力を分配できる。
【数2】
k12:共振器1と共振器2との結合係数
BW:帯域幅
M12:共振器1と共振器2との規格化結合係数
f0 :中心周波数
また、この結合構造を用いれば、結合係数k12が中心周波数に対して概ね反比例特性を持つ結合部を提供できる(図6(a))。具体的には、1段目と2段目のマイクロストリップ共振器の間の結合領域の形状パラメータ(結合部の長さと線路間ギャップ)によって結合係数の大きさや周波数特性の傾きを調整できる。
なお、同振幅同位相で電力を分配する場合、分配部における共振器間の結合係数は分配数Nに依存する。具体的には、分配数N=1(つまり、分配しない場合)のときの結合係数を1/√N倍すればよい。
また、実施例ではマイクロストリップ共振器の1段目と2段目の間で分配する構成を示したが、任意のK段目と(K+1)段目のマイクロストリップ共振器の間でもよい。その場合、1段目から(K-1)段目までのマイクロストリップ共振器は、次に述べる結合部と同様に共振器の縦続接続で構成すればよい。また、本実施例では、2素子のアレーアンテナであるが2素子のアレーアンテナを構成する場合は、p段で上記のように電力を2分配することも可能である。さらに、入力された信号電力を各段で2つに分配するのではなく、4つに分配するなど他の分配器を用いることも可能である。
【0015】
(3)マイクロストリップ共振器間の結合(2段目-3段目)と、ダイポールアンテナまでの信号伝送
1段目と2段目のマイクロストリップ共振器1,2による信号電力の分配後は、複数のマイクロストリップ共振器2,3の結合を用いてダイポールアンテナ4まで信号を伝送する。
そして、複数のマイクロストリップ共振器2,3はダイポールアンテナ4まで縦続接続で結合させる。
マイクロストリップ共振器2は、略コの字型に形成され、1段目のマイクロストリップ共振器1とパラレル結合される第1辺、第1辺と最後の第3辺とに直交し、それぞれと電気的に接続する第2辺、次のマイクロストリップ共振器3とパラレル結合される第3辺とから形成される。第3辺の開放端にグランドプレーンに導体ビア34を介して接続されるパッド32を離間して形成し、パッドと第3辺の間にバラクタダイオード6を接続する。このマイクロストリップ共振器2は、バイアス用のパッド(不図示)に接続され、バラクタダイオード6を動作させるための調整可能なバイアス電圧(V)が印加されている。
マイクロストリップ共振器3も、マイクロストリップ共振器2と同様の構造を有している。全体が略コの字型に形成され、2段目のマイクロストリップ共振器2とパラレル結合される第1辺、第1辺と最後の第3辺とに直交し、それぞれと電気的に接続する第2辺、次のダイポールアンテナ4と接続される第3辺とから形成される。そして、第1辺の解放端にグランドプレーン5に導体ビア35を介して接続されるパッド33を離間して形成しパッドと第1辺の間にバラクタダイオード6を接続する。このマイクロストリップ共振器3も、バイアス用のパッド(不図示)に接続され、バラクタダイオード6を動作させるための調整可能なバイアス電圧(V)が印加されている。
これらのマイクロストリップ共振器2,3のパラレル結合の仕方は、マイクロストリップ共振器2,3のバラクタダイオード6を装荷した側の線路同士をパラレル結合させるか、もしくは開放端側の線路同士をパラレル結合させるように構成する。バラクタダイオード6が装荷された端は、その部分が波長短縮を受ける。そのため、バラクタダイオード6による共振周波数の変化に伴う結合度の変化を考慮して、バラクタダイオード6装荷側の線路同士、及び何も装荷されていない開放端側の線路同士をパラレル結合するのが好都合である。また、図3に示すようにマイクロストリップ共振器2,3は、インターデジタル型の結合のレイアウトとなっている。
2段目と3段目との結合係数は、1段目と2段目のような分配がない場合なので、
【数3】
k23:共振器2と共振器3との結合係数
BW:帯域幅
M23:共振器2と共振器3との規格化結合係数
f0 :中心周波数
となり、中心周波数に対して概ね反比例特性を持つ結合部が形成できる(図6(b))。なお、マイクロストリップ共振器3とダイポールアンテナ4の結合特性も同様である(図6(c))。これによって、所定の周波数の信号のみがマイクロストリップ共振器2,3を介してダイポールアンテナ4へと伝送される。
また、アレーアンテナ100の素子間隔に応じて、ダイポールアンテナ4までのマイクロストリップ共振器の数や共振器の長さ(略コの字型の中間部分の長さ)が決定される。
なお、マイクロストリップ共振器の数を増やせば周波数選択性は向上するが、その分、共振器による損失は増えるため、アレーアンテナ100全体の損失と周波数選択性はトレードオフの関係にある。
【0016】
(4)ダイポールアンテナ(4段目)
本発明の実施例では、ダイポールアンテナ4をアレーアンテナ100の素子アンテナとして用いる。ダイポールアンテナ4は直列共振型のアンテナとして知られ、他方、パッチアンテナは並列共振型のアンテナとして知られる(図5)。理論上、直列共振型アンテナの放射Q値はその容量値の平方根に反比例し、並列共振型アンテナの放射Q値はその容量値の平方根に比例する。バラクタダイオード6を装荷することによりアンテナの共振周波数を電気的に変化させる場合、バラクタダイオード6の装荷によってアンテナの容量値が小さくなると共振周波数は高周波数側にシフトする。その結果、直列共振型アンテナの放射Q値は周波数の増加とともに大きくなるが、並列共振型アンテナの放射Q値は反対に小さくなる。
一方、バンドパスフィルタにおける負荷側の外部Q値がアンテナの放射Q値と等しいとおくと(つまり、バンドパスフィルタの最終段の共振器をアンテナに置き換えると)、フィルタ回路の合成理論上、絶対帯域幅一定の条件からアンテナの放射Q値は中心周波数に対して比例特性が要求される。よって、直列共振型アンテナを用いればアンテナの共振周波数が高くなったとき放射Q値は概ね比例特性を示すため、ダイポールアンテナ4が適当である。
以上から、本発明では素子アンテナとしてダイポールアンテナ4を選択した。なお、直列共振型のアンテナであればよく、例えば、モノポールアンテナ等でもよい。
本発明では、マイクロストリップ共振器1,2,3が形成されている誘電体基板8とは異なる誘電体基板7にダイポールアンテナ4を形成している。この構造では、アンテナ用の誘電体基板7はマイクロストリップ共振器1,2,3の誘電体基板2の上に設置され、マイクロストリップ共振器1,2,3の誘電体基板2の下面側のグラウンドプレーン5を反射板として利用する。これによって反射板付きダイポールアンテナ4として動作するため、一方向にのみ電波が放射され、効率も高くなる。
【0017】
ダイポールアンテナの構造
ダイポールアンテナ4の構造について図4を参照して説明する。
ダイポールアンテナ4の共振周波数を可変とするために、電流最大点となる箇所(ダイポールアンテナ4の中央)にバラクタダイオード6を装荷する。さらに、チップインダクタ9をバラクタダイオード6に並列に装荷すれば共振周波数可変範囲を拡大することができる。ただし、バラクタダイオードにバイアス電圧を印加できるように、チップインダクタ9に直列にDCカットコンデンサ11を接続する。
【0018】
ダイポールアンテナの放射Q値
ダイポールアンテナ4の放射Q値は、周波数に概ね比例し、
【数4】
Qr:放射Q値
BW:帯域幅
M4L:共振器4と負荷抵抗との規格化結合係数
f0 :中心周波数
のようになる(図6(e))。
ダイポールアンテナ4の放射Q値は、グラウンドプレーンからダイポールアンテナ4までの間隔で調整できる。間隔を広くすると放射Q値は下がり、反対に間隔を狭くすると放射Q値は上がる。実施例では直線線路を用いているが、メアンダ構造の線路を用いれば、メアンダ線路の線路幅や線路間隔によっても放射Q値を調整できるため調整の自由度が上がる。
【0019】
ダイポールアンテナとマイクロストリップ共振器の結合
マイクロストリップ共振器とダイポールアンテナ4との間は、2枚の誘電体基板7,8の空隙を介してブロードサイド結合させる。マイクロストリップ共振器3のバラクタダイオード装荷側ないしは開放端側の線路の一部とダイポールアンテナ4の線路の一部を結合部として用い、結合係数が中心周波数に対して概ね反比例特性を持つ結合部を提供する。結合係数の周波数特性は結合部の線路長や間隔によって調整できる。
【0020】
(5)マイクロストリップ共振器及びダイポールアンテナとの結合定数の設計
本実施例のチューナブルフィルタリングアレーアンテナ100は、複数段のマイクロストリップ共振器及びダイポールアンテナ4全体でバンドパスフィルタを構成している。そこで、各段のマイクロストリップ共振器及びダイポールアンテナ4との結合定数は、バンドパスフィルタが形成されるようフィルタ回路の理論に基づき決定する。一般に通過帯域内でのリップルは有するが平坦性と、遮断周波数でのロールオフが急峻なフィルタとして、チェビシェフ特性の設計例を次に示す。
規格化結合係数Mは次のようになる。
MS1=0.9497
M12=0.8309
M23=0.6576
M34=0.8309
M4L=0.9497
なお、上記の例では、チェビシェフ特性のものを示したが、バンドパスフィルタを形成できればよいので、バターワース特性、楕円特性、ベッセル特性等その他の特性で設計したフィルタでもよい。
【0021】
以上のように設計を行い、チューナブルフィルタリングアレーアンテナ100が実現できる。アレーアンテナであるので、素子アンテナの数を増やすことにより、指向性も急峻なものとすることができ、各素子アンテナの励振振幅位相を給電分配回路で制御することにより、指向性についても同様に制御することが可能である。
以上、本発明によれば、バンドパスフィルタとしての周波数選択機能と、チューナブルフィルタ及びチューナブルアンテナとしての周波数可変機能と、アレーアンテナとしてのビーム形成機能を1つの回路で構成することができ、小型で、空間軸及び周波数軸の両方で選択性を有するアレーアンテナが実現できた。
さらに、共振器間の結合係数が通過帯域の中心周波数に対して概ね反比例特性、外部Q値が中心周波数に対して概ね比例特性、アンテナの放射Q値が中心周波数に対して概ね比例特性となる構造を有する本発明のアレーアンテナでは、共振器ならびにアンテナに装荷したバラクタダイオードによって共振周波数を変化させても、通過域内のインピーダンス整合を劣化させることなく通過帯域の絶対帯域幅を一定に保ったまま、通過帯域の中心周波数を変えることができる。
【0022】
(他の実施例)
1次元2 素子チューナブルフィルタリングアレーアンテナ
前述の二分配構造の並列給電回路(トーナメント方式給電)の各分岐部に用いれば、1次元2素子チューナブルフィルタリングアレーアンテナ200を構成することができる。4素子のチューナブルフィルタリングアレーアンテナ200の給電分配回路を図7に示す。
入力線路10から入った信号は、マイクロストリップ共振器1にパラレル結合で接続され、続く2つのマイクロストリップ共振器2にパラレル結合で2分配される。その後マイクロストリップ共振器3にパラレル結合で接続された後、マイクロストリップ共振器3’にパラレル結合で接続され、2つのマイクロストリップ共振器3’’にパラレル結合で2分配される。2回の分配により4つのダイポールアンテナ4に信号を分配することができる。この場合は、マイクロストリップ共振器1,2,3,3’,3”とアンテナ4で6次のバンドパスフィルタが形成できる。このような給電分配回路を用いることにより、4素子チューナブルフィルタリングアレーアンテナを構築することができる。
2次元チューナブルフィルタリングアレーアンテナ
また、2次元チューナブルフィルタリングアレーアンテナ300として2×2素子のものを構成することができる。図8に2×2素子の給電分配回路を示す。この場合は、1段目の共振器には両端を短絡したマイクロストリップ共振器1を用いる。また、バラクタダイオード6は電界最大点となるマイクロストリップ共振器の中央に装荷するとともに、マイクロストリップ共振器1の中央にタップ結合により入力線路10から給電する。グランドプレーン5に接続する導体ビア81で両端を短絡したマイクロストリップ共振器1を用いれば両端部が同電位となるため、上下左右の4方向に対称な電界分布を形成することができる。そして、各端部にマイクロストリップ共振器を2つずつ結合させれば、合計4個の共振器を配置できる。これによって4方向に電力を分配できるため、2×2素子チューナブルフィルタリングアレーアンテナ300が構成できる。
さらに、1次元N素子チューナブルフィルタリングアレーアンテナと2×2素子の2次元チューナブルフィルタリングアレーアンテナとを組み合わせて、アンテナの素子数を増やすこともできる。これによって、より指向性の高いビームを形成できる。
また、図9に示すように誘電体基板7,8をグランドプレーン5を挟む形としたアレーアンテナ100’とすることもできる。誘電体基板7の外面にダイポールアンテナ4を形成し誘電体基板7,8に挟まれるグランドプレーン5に誘電他基板8のマイクロストリップ共振器3から信号を電磁界結合させるための結合孔を形成する。このような構造にすることにより、ダイポールアンテナ4、マイクロストリップ共振器3がグランドプレーン5により分離される構造とすることができる。
【符号の説明】
【0023】
100,100’,200,300 アレーアンテナ
1,2,3,3’,3” マイクロストリップ共振器
4 ダイポールアンテナ
5 グランドプレーン
6 バラクタダイオード
7,8 誘電体基板
9 チップインダクタ
10 入力線路
11 DCカットコンデンサ
21,23,34,35,81 導体ビア
22,23,33 パッド
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9