(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-06
(45)【発行日】2023-11-14
(54)【発明の名称】係合要素制御装置
(51)【国際特許分類】
F16H 61/02 20060101AFI20231107BHJP
F16H 59/72 20060101ALI20231107BHJP
F16H 61/662 20060101ALI20231107BHJP
F16H 61/688 20060101ALI20231107BHJP
【FI】
F16H61/02
F16H59/72
F16H61/662
F16H61/688
(21)【出願番号】P 2017253362
(22)【出願日】2017-12-28
【審査請求日】2020-11-06
【審判番号】
【審判請求日】2022-10-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129643
【氏名又は名称】皆川 祐一
(72)【発明者】
【氏名】嵯峨山 典也
【合議体】
【審判長】小川 恭司
【審判官】吉田 昌弘
【審判官】平城 俊雅
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-236296(JP,A)
【文献】特開2010-38225(JP,A)
【文献】特開2017-211027(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 59/72
F16H 61/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
動力を伝達する動力伝達経路上の摩擦係合要素に供給される油の温度を検出する油温検出手段と、
前記油温検出手段によって検出される温度および前記摩擦係合要素の熱容量から、前記摩擦係合要素が有する熱量の初期値を算出する初期値算出手段と、
所定の周期ごとに、1周期における前記摩擦係合要素の発熱量を算出するとともに、前記摩擦係合要素の温度および前記油の温度を求めて、それらの温度を用いて前記摩擦係合要素から前記油への放熱量を算出し、当該発熱量から当該放熱量を減算することにより、変化量を算出する変化量算出手段と、
前記初期値算出手段によって算出される初期値に、前記変化量算出手段によって算出される変化量を累積して、当該累積値を前記摩擦係合要素の熱量として算出する熱量算出手段と
、
前記摩擦係合要素の限界温度および前記摩擦係合要素の熱容量から、当該摩擦係合要素の限界熱量を算出する限界熱量算出手段と、
前記限界熱量算出手段によって算出される前記限界熱量から前記熱量算出手段によって算出される熱量を減算することにより、余裕熱量を算出する余裕熱量算出手段と、
前記余裕熱量算出手段により算出される前記余裕熱量から、前記摩擦係合要素が許容可能な差回転の限界値である限界差回転を算出する限界差回転算出手段とを含む、
係合要素制御装置。
【請求項2】
前記係合要素制御装置は、
インプット軸、アウトプット軸、前記インプット軸に入力される動力を無段階に変速するベルト式の無段変速機構、前記インプット軸と前記アウトプット軸との間で動力を伝達する第1動力伝達経路に介在される第1係合要素、および前記インプット軸と前記アウトプット軸との間で動力を伝達する第2経路に介在される第2係合要素を含み、
前記第1係合要素の係合および前記第2係合要素の解放により第1モードが構成され、前記第1係合要素の解放および前記第2係合要素の係合により第2モードが構成され、
前記無段変速機構の変速比が一定値をとるときに、前記第1係合要素および前記第2係合要素に差回転が生じないように構成された変速機に用いられ、
前記摩擦係合要素は、前記第1係合要素および前記第2係合要素であり、
前記係合要素制御装置は、
前記限界差回転算出手段によって算出される前記限界差回転に応じた前記無段変速機構の前記変速比の限界値である限界変速比を算出する限界変速比算出手段と、
前記無段変速機構の前記変速比の目標を前記限界変速比算出手段によって算出される前記限界変速比未満となるように制限して、前記第1モードと前記第2モードとを切り替えるモード切替手段とをさらに含む、請求項1に記載の係合要素制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摩擦係合要素の係合/解放を制御する係合要素制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば、車両に搭載される自動変速機として、無段変速機(CVT:Continuously Variable Transmission)や有段式の自動変速機(AT:Automatic Transmission)などが広く知られている。
【0003】
自動変速機では、回転要素を制動するためのブレーキや回転要素と別の回転要素とを連結するためのクラッチなどが多く使用されている。クラッチは、クラッチドラムとクラッチハブとの間に複数のクラッチプレートとクラッチディスクとが交互に配置された構成であり、クラッチプレートとクラッチディスクとが互いに圧接されることにより、動力を伝達可能に係合する。
【0004】
クラッチプレートのクラッチディスクとの対向面には、摩擦材としてのフェーシングが貼り付けられている。このフェーシングの摩擦係数は、自動変速機で使用されているオイルの温度(油温)により変動する。すなわち、高油温時においては、フェーシングが高温となって摩擦係数が低下し、係合開始から係合完了までに要する時間が長くなる。そのため、フェーシングの摩擦による発熱量が増大し、フェーシングが熱により変質したり、クラッチの焼き付きが発生したりするおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、摩擦係合要素の係合/解放時の熱量を限界熱量以下に抑制できる係合要素制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記の目的を達成するため、本発明の一の局面に係る熱量算出装置は、動力を伝達する動力伝達経路上の摩擦係合要素に供給される油の温度を検出する油温検出手段と、油温検出手段によって検出される温度および摩擦係合要素の熱容量から、摩擦係合要素が有する熱量の初期値を算出する初期値算出手段と、所定の周期ごとに、1周期における摩擦係合要素の発熱量を算出するとともに、前記摩擦係合要素の温度および前記油の温度を求めて、それらの温度を用いて摩擦係合要素から油への放熱量を算出し、当該発熱量から当該放熱量を減算することにより、変化量を算出する変化量算出手段と、初期値算出手段によって算出される初期値に、変化量算出手段によって算出される変化量を累積して、当該累積値を摩擦係合要素の熱量として算出する熱量算出手段とを含む。
【0008】
この構成によれば、摩擦係合要素の熱量の算出に、摩擦係合要素の発熱量および摩擦係合要素から油への放熱量が考慮される。これにより、摩擦係合要素の熱量を精度よく算出することができる。
【0009】
本発明の他の局面に係る係合要素制御装置は、動力を伝達する動力伝達経路上に設けられる摩擦係合要素の係合を制御する係合制御装置であって、係合/解放される摩擦係合要素の熱量を算出する熱量算出手段と、係合/解放される摩擦係合要素の限界温度および摩擦係合要素の熱容量から、当該摩擦係合要素の限界熱量を算出する限界熱量算出手段と、限界熱量算出手段によって算出される限界熱量から熱量算出手段によって算出される熱量を減算することにより、余裕熱量を算出する余裕熱量算出手段と、余裕熱量算出手段により算出される余裕熱量から、係合/解放される摩擦係合要素が許容可能な差回転の限界値である限界差回転を算出する限界差回転算出手段とを含む。
【0010】
この構成によれば、摩擦係合要素が許容可能な差回転の限界値である限界差回転を算出することができる。
【0011】
係合要素制御装置は、インプット軸、アウトプット軸、インプット軸に入力される動力を無段階に変速するベルト式の無段変速機構、インプット軸とアウトプット軸との間で動力を伝達する第1動力伝達経路に介在される第1係合要素、およびインプット軸とアウトプット軸との間で動力を伝達する第2経路に介在される第2係合要素を含み、第1係合要素の係合および第2係合要素の解放により第1モードが構成され、第1係合要素の解放および第2係合要素の係合により第2モードが構成され、無段変速機構の変速比が一定値をとるときに、第1係合要素および第2係合要素に差回転が生じないように構成された変速機に好適に用いられる。
【0012】
この場合、摩擦係合要素は、第1係合要素および第2係合要素であり、係合要素制御装置は、限界差回転算出手段によって算出される限界差回転に応じた無段変速機構の変速比の限界値である限界変速比を算出する限界変速比算出手段と、無段変速機構の変速比の目標を限界変速比算出手段によって算出される限界変速比未満となるように制限して、第1モードと第2モードとを切り替えるモード切替手段とをさらに含むとよい。
【0013】
これにより、摩擦係合要素に生じている差回転が限界差回転を超えているときに、第1モードと第2モードとが切り替えられることを抑制できる。そのため、摩擦係合要素の係合時に、摩擦係合要素の熱量が限界熱量を超えることを抑制できる。その結果、摩擦係合要素の焼き付きなどの発生を抑制することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、摩擦係合要素の係合/解放時に、摩擦係合要素の熱量が限界熱量を超えることを抑制でき、摩擦係合要素の熱量が限界熱量を超えることによる焼き付きなどの発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】車両の駆動系の構成を示すスケルトン図である。
【
図2】変速機に備えられる各係合要素の状態を示す図である。
【
図3】変速機に備えられる遊星歯車機構のサンギヤ、キャリアおよびリングギヤの回転数(回転速度)の関係を示す共線図である。
【
図4】変速機に備えられる無段変速機構の変速比(ベルト変速比)と動力分割式無段変速機全体の変速比(ユニット変速比)との関係を示す図である。
【
図5】本発明の一実施形態に係る制御系の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下では、本発明の実施の形態について、添付図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0017】
<車両の駆動系>
図1は、車両1の駆動系の構成を示すスケルトン図である。
【0018】
車両1は、エンジン2を駆動源とする自動車である。
【0019】
エンジン2には、エンジン2の燃焼室への吸気量を調整するための電子スロットルバルブ、燃料を吸入空気に噴射するインジェクタ(燃料噴射装置)および燃焼室内に電気放電を生じさせる点火プラグなどが設けられている。また、エンジン2には、その始動のためのスタータが付随して設けられている。エンジン2の動力は、トルクコンバータ3および変速機4を介して、デファレンシャルギヤ5に伝達され、デファレンシャルギヤ5から左右のドライブシャフト6L,6Rを介してそれぞれ左右の駆動輪7L,7Rに伝達される。
【0020】
エンジン2は、E/G出力軸11を備えている。E/G出力軸11は、エンジン2が発生する動力により回転される。
【0021】
トルクコンバータ3は、フロントカバー21、ポンプインペラ22、タービンランナ23およびロックアップ機構24を備えている。フロントカバー21には、E/G出力軸11が接続され、フロントカバー21は、E/G出力軸11と一体に回転する。ポンプインペラ22は、フロントカバー21に対するエンジン2側と反対側に配置されている。ポンプインペラ22は、フロントカバー21と一体回転可能に設けられている。タービンランナ23は、フロントカバー21とポンプインペラ22との間に配置されて、フロントカバー21と共通の回転軸線を中心に回転可能に設けられている。
【0022】
ロックアップ機構24は、ロックアップピストン25を備えている。ロックアップピストン25は、フロントカバー21とタービンランナ23との間に設けられている。ロックアップ機構24は、ロックアップピストン25とフロントカバー21との間の解放油室26の油圧とロックアップピストン25とポンプインペラ22との間の係合油室27の油圧との差圧により、ロックアップオン(係合)/オフ(解放)される。すなわち、解放油室26の油圧が係合油室27の油圧よりも高い状態では、その差圧により、ロックアップピストン25がフロントカバー21から離間し、ロックアップオフとなる。係合油室27の油圧が解放油室26の油圧よりも高い状態では、その差圧により、ロックアップピストン25がフロントカバー21に押し付けられて、ロックアップオンとなる。
【0023】
ロックアップオフの状態では、E/G出力軸11が回転されると、ポンプインペラ22が回転する。ポンプインペラ22が回転すると、ポンプインペラ22からタービンランナ23に向かうオイルの流れが生じる。このオイルの流れがタービンランナ23で受けられて、タービンランナ23が回転する。このとき、トルクコンバータ3の増幅作用が生じ、タービンランナ23には、E/G出力軸11の動力(トルク)よりも大きな動力が発生する。
【0024】
ロックアップオンの状態では、E/G出力軸11が回転されると、E/G出力軸11、ポンプインペラ22およびタービンランナ23が一体となって回転する。
【0025】
変速機4は、インプット軸31およびアウトプット軸32を備え、インプット軸31に入力される動力を2つの経路に分岐してアウトプット軸32に伝達可能に構成された、いわゆる動力分割式(トルクスプリット式)変速機である。2つの動力伝達経路を構成するため、変速機4は、無段変速機構33、前減速ギヤ機構34、遊星歯車機構35およびスプリット変速機構36を備えている。
【0026】
インプット軸31は、トルクコンバータ3のタービンランナ23に連結され、タービンランナ23と同一の回転軸線を中心に一体的に回転可能に設けられている。
【0027】
アウトプット軸32は、インプット軸31と平行に設けられている。アウトプット軸32には、出力ギヤ37が相対回転不能に支持されている。出力ギヤ37は、デファレンシャルギヤ5(デファレンシャルギヤ5のリングギヤ)と噛合している。
【0028】
無段変速機構33は、公知のベルト式の無段変速機(CVT:Continuously Variable Transmission)と同様の構成を有している。具体的には、無段変速機構33は、プライマリ軸41と、プライマリ軸41と平行に設けられたセカンダリ軸42と、プライマリ軸41に相対回転不能に支持されたプライマリプーリ43と、セカンダリ軸42に相対回転不能に支持されたセカンダリプーリ44と、プライマリプーリ43とセカンダリプーリ44とに巻き掛けられたベルト45とを備えている。
【0029】
プライマリプーリ43は、プライマリ軸41に固定された固定シーブ51と、固定シーブ51にベルト45を挟んで対向配置され、プライマリ軸41にその軸線方向に移動可能かつ相対回転不能に支持された可動シーブ(プライマリシーブ)52とを備えている。可動シーブ52に対して固定シーブ51と反対側には、プライマリ軸41に固定されたシリンダ53が設けられ、可動シーブ52とシリンダ53との間に、油圧室54が形成されている。
【0030】
セカンダリプーリ44は、セカンダリ軸42に固定された固定シーブ55と、固定シーブ55にベルト45を挟んで対向配置され、セカンダリ軸42にその軸線方向に移動可能かつ相対回転不能に支持された可動シーブ(セカンダリシーブ)56とを備えている。可動シーブ56に対して固定シーブ55と反対側には、セカンダリ軸42に固定されたシリンダ57が設けられ、可動シーブ56とシリンダ57との間に、油圧室58が形成されている。回転軸線方向において、固定シーブ55と可動シーブ56との位置関係は、プライマリプーリ43の固定シーブ51と可動シーブ52との位置関係と逆転している。
【0031】
無段変速機構33では、プライマリプーリ43およびセカンダリプーリ44の各油圧室54,58に供給される油圧が制御されて、プライマリプーリ43およびセカンダリプーリ44の各溝幅が変更されることにより、プライマリプーリ43とセカンダリプーリ44とのプーリ比が連続的に無段階で変更される。
【0032】
具体的には、プーリ比が小さくされるときには、プライマリプーリ43の油圧室54に供給される油圧が上げられる。これにより、プライマリプーリ43の可動シーブ52が固定シーブ51側に移動し、固定シーブ51と可動シーブ52との間隔(溝幅)が小さくなる。これに伴い、プライマリプーリ43に対するベルト45の巻きかけ径が大きくなり、セカンダリプーリ44の固定シーブ55と可動シーブ56との間隔(溝幅)が大きくなる。その結果、プライマリプーリ43とセカンダリプーリ44とのプーリ比が小さくなる。
【0033】
プーリ比が大きくされるときには、プライマリプーリ43の油圧室54に供給される油圧が下げられる。これにより、セカンダリプーリ44の推力(セカンダリ推力)に対するプライマリプーリ43の推力(プライマリ推力)の比である推力比が小さくなり、セカンダリプーリ44の固定シーブ55と可動シーブ56との間隔が小さくなるとともに、固定シーブ51と可動シーブ52との間隔が大きくなる。その結果、プライマリプーリ43とセカンダリプーリ44とのプーリ比が大きくなる。
【0034】
一方、プライマリプーリ43およびセカンダリプーリ44の推力は、プライマリプーリ43およびセカンダリプーリ44とベルト45との間で滑り(ベルト滑り)が生じない大きさを必要とする。そのため、ベルト滑りを生じない必要十分な挟圧が得られるよう、プライマリプーリ43の油圧室54およびセカンダリプーリ44の油圧室58に供給される油圧が制御される。
【0035】
前減速ギヤ機構34は、インプット軸31に入力される動力を逆転かつ減速させてプライマリ軸41に伝達する構成である。具体的には、前減速ギヤ機構34は、インプット軸31に相対回転不能に支持されるインプット軸ギヤ61と、インプット軸ギヤ61よりも大径で歯数が多く、プライマリ軸41にスプライン嵌合により相対回転不能に支持されて、インプット軸ギヤ61と噛合するプライマリ軸ギヤ62とを含む。
【0036】
遊星歯車機構35は、サンギヤ71、キャリア72およびリングギヤ73を備えている。サンギヤ71は、セカンダリ軸42にスプライン嵌合により相対回転不能に支持されている。キャリア72は、アウトプット軸32に相対回転可能に外嵌されている。キャリア72は、複数個のピニオンギヤ74を回転可能に支持している。複数個のピニオンギヤ74は、円周上に配置され、サンギヤ71と噛合している。リングギヤ73は、複数個のピニオンギヤ74を一括して取り囲む円環状を有し、各ピニオンギヤ74にセカンダリ軸42の回転径方向の外側から噛合している。また、リングギヤ73には、アウトプット軸32が接続され、リングギヤ73は、アウトプット軸32と同一の回転軸線を中心に一体的に回転可能に設けられている。
【0037】
スプリット変速機構36は、スプリットドライブギヤ81と、スプリットドライブギヤ81と噛合するスプリットドリブンギヤ82とを含む平行軸式歯車機構である。
【0038】
スプリットドライブギヤ81は、インプット軸31に相対回転可能に外嵌されている。
【0039】
スプリットドリブンギヤ82は、遊星歯車機構35のキャリア72と同一の回転軸線を中心に一体的に回転可能に設けられている。スプリットドリブンギヤ82は、スプリットドライブギヤ81よりも小径に形成され、スプリットドライブギヤ81よりも少ない歯数を有している。
【0040】
また、変速機4は、クラッチC1,C2およびブレーキB1を備えている。
【0041】
クラッチC1は、油圧により、インプット軸31とスプリットドライブギヤ81とを直結(一体回転可能に結合)する係合状態と、その直結を解除する解放状態とに切り替えられる。
【0042】
クラッチC2は、油圧により、遊星歯車機構35のサンギヤ71とリングギヤ73とを直結(一体回転可能に結合)する係合状態と、その直結を解除する解放状態とに切り替えられる。
【0043】
ブレーキB1は、油圧により、遊星歯車機構35のキャリア72を制動する係合状態と、キャリア72の回転を許容する解放状態とに切り替えられる。
【0044】
<動力伝達モード>
図2は、車両1の前進時および後進時におけるクラッチC1,C2およびブレーキB1の状態を示す図である。
図3は、遊星歯車機構35のサンギヤ71、キャリア72およびリングギヤ73の回転数(回転速度)の関係を示す共線図である。
図4は、無段変速機構33による変速比であるベルト変速比と変速機4の全体での変速比であるユニット変速比、つまりインプット軸31とアウトプット軸32との回転数比であるユニット変速比との関係を示す図である。
【0045】
図2において、「○」は、クラッチC1,C2およびブレーキB1が係合状態であることを示している。「×」は、クラッチC1,C2およびブレーキB1が解放状態であることを示している。
【0046】
変速機4は、車両1の前進時の動力伝達モードとして、ベルトモードおよびスプリットモードを有している。ベルトモードとスプリットモードとは、クラッチC1が係合している状態とクラッチC2が係合している状態との切り替え(クラッチC1,C2の掛け替え)により切り替えられる。
【0047】
ベルトモードでは、
図2に示されるように、クラッチC1およびブレーキB1が解放され、クラッチC2が係合される。これにより、スプリットドライブギヤ81がインプット軸31から切り離され、遊星歯車機構35のキャリア72がフリー(自由回転状態)になり、遊星歯車機構35のサンギヤ71とリングギヤ73とが直結される。
【0048】
インプット軸31に入力される動力は、前減速ギヤ機構34により逆転かつ減速されて、無段変速機構33のプライマリ軸41に伝達され、プライマリ軸41およびプライマリプーリ43を回転させる。プライマリプーリ43の回転は、ベルト45を介して、セカンダリプーリ44に伝達され、セカンダリプーリ44およびセカンダリ軸42を回転させる。遊星歯車機構35のサンギヤ71とリングギヤ73とが直結されているので、セカンダリ軸42と一体となって、サンギヤ71、リングギヤ73およびアウトプット軸32が回転する。したがって、ベルトモードでは、
図3および
図4に示されるように、ユニット変速比がベルト変速比(無段変速機構33のプライマリプーリ43とセカンダリプーリ44とのプーリ比)に前減速比(インプット軸31の回転数/プライマリ軸41の回転数)を乗じた値と一致する。
【0049】
スプリットモードでは、
図2に示されるように、クラッチC1が係合され、クラッチC2およびブレーキB1が解放される。これにより、インプット軸31とスプリットドライブギヤ81とが結合されて、インプット軸31の回転がスプリットドライブギヤ81およびスプリットドリブンギヤ82を介して遊星歯車機構35のキャリア72に伝達可能になり、遊星歯車機構35のサンギヤ71とリングギヤ73とが切り離される。
【0050】
インプット軸31に入力される動力は、スプリットドライブギヤ81からスプリットドリブンギヤ82を介して遊星歯車機構35のキャリア72に増速されて伝達される。キャリア72に伝達される動力は、キャリア72からサンギヤ71およびリングギヤ73に分割して伝達される。サンギヤ71の動力は、セカンダリ軸42、セカンダリプーリ44、ベルト45、プライマリプーリ43およびプライマリ軸41を介してプライマリ軸ギヤ62に伝達され、プライマリ軸ギヤ62からインプット軸ギヤ61に伝達される。そのため、ベルトモードでは、インプット軸ギヤ61が駆動ギヤとなり、プライマリ軸ギヤ62が被動ギヤとなるのに対し、スプリットモードでは、プライマリ軸ギヤ62が駆動ギヤとなり、インプット軸ギヤ61が被動ギヤとなる。
【0051】
スプリットドライブギヤ81とスプリットドリブンギヤ82とのギヤ比(スプリット変速比)は一定で不変(固定)であるので、スプリットモードでは、インプット軸31に入力される動力が一定であれば、遊星歯車機構35のキャリア72の回転が一定速度に保持される。そのため、ベルト変速比が上げられると、遊星歯車機構35のサンギヤ71の回転数が下がるので、
図3に破線で示されるように、遊星歯車機構35のリングギヤ73(アウトプット軸32)の回転数が上がる。その結果、スプリットモードでは、
図4に示されるように、無段変速機構33のベルト変速比が大きいほど、変速機4のユニット変速比が小さくなる。
【0052】
ベルトモードおよびスプリットモードにおけるアウトプット軸32の回転は、出力ギヤ37を介して、デファレンシャルギヤ5に伝達される。これにより、車両1のドライブシャフト6L,6Rおよび駆動輪7L,7Rが前進方向に回転する。
【0053】
車両1の後進時のリバースモードでは、
図2に示されるように、クラッチC1,C2が解放され、ブレーキB1が係合される。これにより、スプリットドライブギヤ81がインプット軸31から切り離され、遊星歯車機構35のサンギヤ71とリングギヤ73とが切り離され、遊星歯車機構35のキャリア72が制動される。
【0054】
インプット軸31に入力される動力は、前減速ギヤ機構34により逆転かつ減速されて、無段変速機構33のプライマリ軸41に伝達され、プライマリ軸41からプライマリプーリ43、ベルト45およびセカンダリプーリ44を介してセカンダリ軸42に伝達され、セカンダリ軸42と一体に、遊星歯車機構35のサンギヤ71を回転させる。遊星歯車機構35のキャリア72が制動されているので、サンギヤ71が回転すると、遊星歯車機構35のリングギヤ73がサンギヤ71と逆方向に回転する。このリングギヤ73の回転方向は、前進時(ベルトモードおよびスプリットモード)におけるリングギヤ73の回転方向と逆方向となる。そして、リングギヤ73と一体に、アウトプット軸32が回転する。アウトプット軸32の回転は、出力ギヤ37を介して、デファレンシャルギヤ5に伝達される。これにより、車両1のドライブシャフト6L,6Rおよび駆動輪7L,7Rが後進方向に回転する。
【0055】
<車両の制御系>
図5は、車両1の制御系の構成を示すブロック図である。
【0056】
車両1には、マイコン(マイクロコントローラユニット)を含む構成のECU(Electronic Control Unit:電子制御ユニット)が備えられている。マイコンには、たとえば、CPU、フラッシュメモリなどの不揮発性メモリおよびDRAM(Dynamic Random Access Memory)などの揮発性メモリが内蔵されている。
図5には、トルクコンバータ3および変速機4を制御するための1つのECU101のみが示されているが、車両1には、各部を制御するため、ECU101と同様の構成を有する複数のECUが搭載されている。ECU101を含む複数のECUは、CAN(Controller Area Network)通信プロトコルによる双方向通信が可能に接続されている。また、ECU101には、制御に必要な各種センサが接続されている。
【0057】
ECU101は、各種センサの検出信号から取得した情報および/または他のECUから入力される種々の情報などに基づいて、トルクコンバータ3および変速機4の各部に油圧を供給するための油圧回路に含まれるバルブを制御する。このバルブ制御により、クラッチC1,C2およびブレーキB1の係合/解放が切り替えられ、また、無段変速機構33のベルト変速比が変更される。
【0058】
<変速制御>
変速機4のユニット変速比は、ECU101によるベルト変速比(シーブ変速比)の制御により変更される。ユニット変速比の制御では、まず、変速線図に基づいて、アクセル開度および車速に応じた目標回転数が設定される。変速線図は、アクセル開度および車速と目標回転数との関係を定めたマップであり、ECU101のROMに格納されている。アクセル開度および車速の情報は、たとえば、エンジン2を制御するエンジンECUからECU101に送信される。目標回転数が設定されると、インプット軸31に入力される回転数を目標回転数に一致させる目標変速比が求められ、目標変速比に応じた目標ベルト変速比が設定される。
【0059】
次に、目標ベルト変速比およびインプット軸31に入力される入力トルクに基づいて、無段変速機構33におけるベルト滑りを防止するのに必要なセカンダリ推力が設定される。入力トルクは、エンジントルクにトルクコンバータ3のトルク比を乗じることにより算出される。エンジントルクは、たとえば、エンジンECUによりアクセル開度およびエンジン回転数から推定され、エンジンECUからECU101に送信される。トルク比は、トルクコンバータ3の速度比に応じたトルク増幅率であり、その速度比は、タービン回転数をエンジン回転数で除した除算値である。
【0060】
そして、目標ベルト変速比および入力トルクに応じた推力比(=セカンダリ推力/プライマリ推力)が設定される。そして、セカンダリ推力および推力比からプライマリ推力が設定される。
【0061】
その後、その設定されたプライマリ推力およびセカンダリ推力から、プライマリプーリ43の可動シーブ52にプライマリ推力を与える油圧であるプライマリ圧およびセカンダリプーリ44の可動シーブ56にセカンダリ推力を与える油圧であるセカンダリ圧の指令値が設定され、各指令値に基づいて、目標ベルト変速比と実ベルト変速比との偏差が零に近づくように、プライマリプーリ43の油圧室54およびセカンダリプーリ44の油圧室58にそれぞれ供給される油圧が制御される。実ベルト変速比は、プライマリ回転数をセカンダリ回転数で除することにより求められる。
【0062】
<モード切替制御>
ユニット変速比がスプリット変速比を跨いで変更される場合、そのユニット変速比の変更には、ベルトモードとスプリットモードとの切り替え(以下、単に「モード切替」という。)が伴う。モード切替は、クラッチC1,C2の係合の切り替えにより達成される。すなわち、クラッチC1,C2に供給される油圧の制御により、解放状態のクラッチC1(係合側)が係合され、係合状態のクラッチC2(解放側)が解放されることにより、ベルトモードからスプリットモードに切り替えられる。逆に、係合状態のクラッチC1(解放側)が解放され、解放状態のクラッチC2(係合側)が係合されることにより、スプリットモードからベルトモードに切り替えられる。
【0063】
ベルト変速比がスプリット変速比からずれている状態では、セカンダリ回転数とアウトプット回転数とに回転数差、つまりセカンダリ軸42(サンギヤ71)とアウトプット軸32(リングギヤ73)とに差回転が生じている。そのため、モード切替の際には、基本的には、ベルト変速比がスプリット変速比まで変速されてからクラッチC1,C2の係合が切り替えられる。
【0064】
ただし、スプリットモードでの車両1の走行中に、運転者の加速要求によりアクセルペダルが素早くかつ大きく踏み込まれて、ベルト変速比の目標変速比がスプリット変速比よりも大きい値に設定された場合、変速レスポンスが重視される。この場合、ベルト変速比がスプリット変速比と一致しないまま、クラッチC1,C2の係合の切り替えにより、スプリットモードからベルトモードに切り替えられる。
【0065】
ところが、ベルト変速比がスプリット変速比から大きく離れ、クラッチC1,C2が許容可能な差回転の限界値である限界差回転を超える差回転がクラッチC1,C2に生じている状態で、クラッチC1,C2の係合が切り替えられると、クラッチC1,C2に貼り付けられているフェーシングの摩擦により過大な発熱が生じる。その結果、クラッチC1,C2の熱量が限界熱量を超えて、クラッチC1,C2のフェーシングが熱により変質したり、クラッチC1,C2の焼き付きなどが発生したりする懸念がある。
【0066】
そこで、ECU101は、クラッチC1,C2の熱量を算出する熱量算出部111と、クラッチC1,C2の限界熱量を算出する限界熱量算出部112と、クラッチC1,C2の熱量および限界熱量からクラッチC1,C2の限界差回転を算出する限界差回転算出部113と、クラッチC1,C2の限界差回転から限界変速比を算出する限界変速比算出部114とを実質的に備えている。そして、ECU101におけるクラッチC1,C2の係合の切り替えの制御では、限界変速比算出部114により算出される限界変速比を超えるベルト変速比でのクラッチC1,C2の係合の切り替えが禁止される。
【0067】
<熱量算出部>
トルクコンバータ3のロックアップ機構24がロックアップオフからロックアップオンに切り替えられたことに応答して、熱量算出部111では、クラッチC1,C2が有する熱量であるクラッチ熱量Qcおよび変速機4で使用されている油(以下、「CVTF」という。)が有する熱量であるCVTF熱量Qfの算出が開始される。
【0068】
まず、クラッチ熱量Qcの初期値が次式(1)に従って算出される。
【0069】
Qc=Tfs×Cc ・・・(1)
ただし、Tfs:油温
Cc:クラッチC1,C2の熱容量
【0070】
油温Tfsは、変速機4で使用されている油(以下、「CVTF」という。)の温度であり、油温センサによって検出される。
【0071】
この後、クラッチ熱量Qcは、一定の周期で次式(2)に従って算出される。
【0072】
Qc=Qc’+DQc ・・・(2)
ただし、Qc’:1周期前に算出されたクラッチ熱量
DQc:1周期でのクラッチ熱量の変化量
【0073】
変化量DQcは、次式(3)に従って算出される。
【0074】
DQc=Qdc-Qdf ・・・(3)
ただし、Qdc:1周期でのクラッチC1,C2の発熱量
Qdf:1周期でのCVTFの吸熱量
【0075】
クラッチC1,C2の発熱量Qdcは、クラッチC1,C2に加わるトルク(Nm)とクラッチC1,C2が係合時に吸収した差回転(rpm)との乗算値に2π/60および周期(s)をさらに乗じることにより算出される。
【0076】
吸熱量Qdfは、クラッチC1,C2からCVTFへの放熱量に等しい。クラッチC1,C2からCVTFへの熱伝達率とクラッチC1,C2のフェーシングの面積との乗算値をゲインG1として、吸熱量Qdfは、次式(4)に従って算出される。
【0077】
Qdf=(Tcc-Tfcal)×G1 ・・・(4)
ただし、Tcc:1周期前に算出されたクラッチC1,C2の温度(クラッチ温度)
Tfcal:油温
【0078】
クラッチ温度Tccおよび油温Tfcalは、計算により求められる。すなわち、クラッチ温度Tccは、1周期前に算出されたクラッチ熱量Qcを熱容量Ccで除算することにより求められる。油温Tfcalは、CVTF熱量QfをCVTFの熱容量Cfで除算することにより求められる。
【0079】
CVTF熱量Qfの初期値は、次式(5)に従って算出される。
【0080】
Qf=Tfs×Cf ・・・(5)
【0081】
2周期目以降、CVTF熱量Qfは、一定の周期で次式(6)に従って算出される。
【0082】
Qf=Qf'+DQf ・・・(6)
ただし、Qf’:1周期前に算出されたCVTF熱量
DQf:1周期でのCVTF熱量の変化量
【0083】
変化量DQfは、次式(7)に従って算出される。
【0084】
DQf=Qdf-Qdfcir ・・・(7)
ただし、Qdfcir:1周期でのCVTFの循環による放熱量
【0085】
CVTFの質量流量とCVTFの比熱との乗算値をゲインG2として、放熱量Qdfcirは、次式(8)に従って算出される。
【0086】
Qdfcir=(Tfcal'-Tfs)×G2 ・・・(8)
ただし、Tfcal':1周期前に算出された油温
【0087】
<限界熱量算出部>
限界熱量算出部112では、クラッチC1,C2が許容可能な温度の限界値である限界温度とクラッチC1,C2の熱容量Ccとの乗算により、限界クラッチ熱量Qclimが算出される。
<限界差回転算出部>
限界差回転算出部113では、限界熱量算出部112によって算出された限界クラッチ熱量Qclimから熱量算出部111によって算出されたクラッチ熱量Qcを減算することにより、クラッチC1,C2の余裕熱量Qmgnが算出される。
【0088】
スプリットモードからベルトモードに切り替えられる場合、係合状態のクラッチC1が解放され、解放状態のクラッチC2が係合される。この切り替え中、エンジン2が被駆動状態にあるときは、クラッチC2が係合する際に発熱し、エンジン2が駆動状態にあるときは、クラッチC1が開放する際に発熱する。
【0089】
係合側のクラッチC2について、限界差回転をNslLoとすると、次式(9)が成立する。
【0090】
Qmgn=1/2×TqLo×ST×NslLo×2Π/60 ・・・(9)
ただし、TqLo:クラッチC2の係合時にクラッチC2に加わっているトルク
ST:クラッチC2の係合に要する変速時間
【0091】
クラッチトルクTqLoは、次式(10)に従って算出される。
【0092】
TqLo=|Tqeng-Iωe| ・・・(10)
ただし、Tqeng:フューエルカット時のエンジントルク(Nm)
I:イナーシャ(kg・m2)
ωe:目標エンジン回転変化率(rad/s2)
【0093】
イナーシャトルクIωeは、クラッチC2の完全係合によりアウトプット軸32に生じるイナーシャトルクであり、変速機4の回転部イナーシャIおよび目標エンジン回転変化率ωeから算出される。
【0094】
変速時間STは、限界差回転NslLoを目標エンジン回転変化率ωeと2π/60との除算値で除することにより算出される。すなわち、変速時間STは、次式(11)に従って算出される。
【0095】
ST=NslLo/(ωe÷(2π/60)) ・・・(11)
【0096】
したがって、前記の式(9)に式(10)および式(11)を代入して、限界差回転NslLoについて解くと、次式(12)が得られる
【0097】
【0098】
限界差回転算出部113では、式(12)に従って、クラッチC2の限界差回転NslLoが算出される。
【0099】
一方、解放側のクラッチC1について、限界差回転をNslHiとすると、次式(13)が成立する。
【0100】
Qmgn=1/2×TqHi×ST1×NslHi×2π/60+TqHi2×ST2 ・・・(13)
ただし、TqHi:クラッチC1の解放時にクラッチC1に加わるトルク
Tqhi2:時間ST2にクラッチC1に加わるトルク
ST1:クラッチC1の解放開始から解放終了までの時間
ST2:クラッチC1の解放終了から変速制御終了までの時間(一定値)
【0101】
クラッチトルクTqHi,TqHi2は、それぞれ次式(14),(15)に従って算出される。
【0102】
TqHi=|TemaxTgt-Iωe| ・・・(14)
TqHi2=TemaxTgt ・・・(15)
ただし、TemaxTgt:駆動時の最大エンジントルク(Nm)
【0103】
時間ST1は、次式(16)に従って算出される。
【0104】
ST=NslHi/(ωe÷(2π/60)) ・・・(16)
【0105】
したがって、前記の式(13)に式(14),(15),(16)を代入して、限界差回転NslHiについて解くと、次式(17)が得られる
【0106】
【0107】
そして、限界差回転算出部113では、限界差回転NslLoと限界差回転NslHiとの小さい方の値を限界差回転Nslminとして決定する。
【0108】
<限界変速比算出部>
ベルトモードでの同期回転数NInBおよびスプリットモードでの同期回転数NInSは、それぞれ次式(18),(19)に従って算出することができる。
【0109】
NInB=Nout×R×Rin ・・・(18)
NInS=Nout×Kzr/((Kzr+Kzs)/KIC-Kzs/(R×Rin)) ・・・(19)
ただし、Nout:アウトプット回転数
R:ベルト変速比
Kzr:遊星歯車機構35のリングギヤ73の歯数
Kzs:遊星歯車機構35のサンギヤ71の歯数
KIC:スプリットドリブンギヤ82の歯数
/スプリットドライブギヤ81の歯数
Rin:前減速ギヤ機構34による前減速比
【0110】
限界変速比算出部114では、限界差回転算出部113によって算出された限界差回転Nslminがベルトモードでの同期回転数NInBからスプリットモードでの同期回転数NInSを減算した値よりも大きくなるように、ベルト変速比Rが求められて、そのベルト変速比Rが限界変速比として設定される。
【0111】
<作用効果>
以上のように、クラッチC1,C2の限界差回転Nslminが算出されて、その限界差回転Nslminに応じた限界変速比Rが設定される。そして、目標ベルト変速比を限界変速比R未満となるよう制限する。すなわち、ベルトモードとスプリットモードとの切り替えは、ベルト変速比が限界変速比Rよりも小さい範囲、つまり
図4に示される限界変速比Rを示す二点鎖線よりもスプリット点側の範囲に含まれるときに実行される。これにより、クラッチC1,C2の係合/解放時に、クラッチC1,C2の熱量が限界熱量を超えることを抑制できる。その結果、クラッチC1,C2のフェーシングが熱により変質したり、クラッチC1,C2の焼き付きなどが発生したりすることを抑制できる。
【0112】
<変形例>
以上、本発明の一実施形態について説明が、本発明は、他の形態で実施することもできる。
【0113】
たとえば、前述の実施形態では、変速機4として、動力分割式(トルクスプリット式)の変速機を取り上げたが、本発明は、動力分割式の変速機に限らず、無段変速機(CVT:Continuously Variable Transmission)や有段式の自動変速機(AT:Automatic Transmission)など、種々の形式の変速機に備えられる摩擦係合要素に対して適用することができる。
【0114】
その他、前述の構成には、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。
【符号の説明】
【0115】
101:ECU(モード切替手段)
111:熱量算出部(熱量算出装置、初期値算出手段、変化量算出手段、熱量算出手段)
112:限界熱量算出部(限界熱量算出手段)
113:限界差回転算出部(余裕熱量算出手段、限界差回転算出手段)
114:限界変速比算出部(限界変速比算出手段)
C1,C2:クラッチ(摩擦係合要素)