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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-06
(45)【発行日】2023-11-14
(54)【発明の名称】密封装置
(51)【国際特許分類】
   F16J 15/3232 20160101AFI20231107BHJP
   F16J 15/3212 20160101ALI20231107BHJP
   F16J 15/48 20060101ALI20231107BHJP
【FI】
F16J15/3232 201
F16J15/3212
F16J15/48
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019087419
(22)【出願日】2019-05-07
(65)【公開番号】P2020183776
(43)【公開日】2020-11-12
【審査請求日】2022-04-06
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109380
【弁理士】
【氏名又は名称】小西 恵
(72)【発明者】
【氏名】間中 勇登
【審査官】羽鳥 公一
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-240126(JP,A)
【文献】特開2006-083955(JP,A)
【文献】特開2015-048855(JP,A)
【文献】特開2015-169279(JP,A)
【文献】特開平11-094093(JP,A)
【文献】実開平06-073547(JP,U)
【文献】中国実用新案第202612644(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/16-15/3296
F16J 15/46-15/53
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングと、前記ハウジングに設けられた孔内に配置された回転体との間の隙間を封止し、前記ハウジングの内部空間と大気側とを隔てる密封装置であって、
前記ハウジングに取り付けられる取付け円筒部と、
前記取付け円筒部より径方向内側に配置されたシール円筒部と、
前記取付け円筒部の大気側の端部と前記シール円筒部の大気側の端部を径方向において連結する連結円環部と、
前記シール円筒部の内周面から突出し、前記回転体の外周面に摺動可能に接触させられる主シールリップと、
前記シール円筒部の内周面から突出し、前記主シールリップよりも大気側に配置されており、前記主シールリップよりも内径が大きい副シールリップと
前記取付け円筒部の内側に配置された補助シールとを有しており、
前記副シールリップは、圧力が与えられないときに、前記回転体の外周面に接触せず、前記シール円筒部に外側から圧力が与えられるときに、前記回転体の外周面に摺動可能に接触させられ、
前記シール円筒部、前記主シールリップおよび前記副シールリップは、弾性材料のみから形成され、
前記取付け円筒部および前記連結円環部は、前記弾性材料と剛性材料から形成されており、
前記連結円環部は、前記剛性材料から形成された剛性円環部と、前記剛性円環部のうち前記内部空間側の面に固着された前記弾性材料から形成された弾性部とを有し、
前記シール円筒部の大気側の端部の最小厚さは、密封装置の軸線方向における前記連結円環部の前記弾性部の内部空間側の面から前記主シールリップのリップエッジまでの長さの1/2以下であり、
前記補助シールは、前記取付け円筒部に嵌め込まれるスリーブと、前記スリーブより径方向内側かつ前記主シールリップより前記内部空間側に配置されて、前記回転体の外周面に摺動可能に接触させられる補助リップとを有し、
前記内部空間内のグリースの圧力が高まると、前記シール円筒部に外側から圧力が加わる
ことを特徴とする密封装置。
【請求項2】
前記シール円筒部の周囲に配置されたガータースプリングをさらに有しており、
前記副シールリップは、前記ガータースプリングと径方向において重なる領域に配置されている
ことを特徴とする請求項1に記載の密封装置。
【請求項3】
密封装置の軸線方向における前記主シールリップの前記リップエッジから前記副シールリップのリップエッジまでの距離が1.2mm以下である
ことを特徴とする請求項1または2に記載の密封装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、密封装置に関する。
【背景技術】
【0002】
関節型ロボットのリンク(例えばアーム)は、直接モーターで回転させることもできるが、モーターから歯車減速機を介して回転させることもできる。関節型ロボットのリンクを駆動するための歯車減速機に使用されるオイルシールが知られている(特許文献1)。このオイルシールは、ケースに配置された回転するシャフトとケースの間の隙間を封止する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2011-89609号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この種のオイルシールについては、リップの摩耗が小さく、回転体に与えるトルクが小さいことが望ましい。
【0005】
そこで、本発明は、リップの摩耗が小さく、回転体に与えるトルクが小さい密封装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある態様に係る密封装置は、ハウジングと、前記ハウジングに設けられた孔内に配置された回転体との間の隙間を封止し、前記ハウジングの内部空間と大気側とを隔てる密封装置であって、前記ハウジングに取り付けられる取付け円筒部と、前記取付け円筒部より径方向内側に配置されたシール円筒部と、前記取付け円筒部の大気側の端部と前記シール円筒部の大気側の端部を径方向において連結する連結円環部と、前記シール円筒部の内周面から突出し、前記回転体の外周面に摺動可能に接触させられる主シールリップと、前記シール円筒部の内周面から突出し、前記主シールリップよりも大気側に配置されており、前記主シールリップよりも内径が大きい副シールリップとを有する。前記副シールリップは、圧力が与えられないときに、前記回転体の外周面に接触せず、前記シール円筒部に外側から圧力が与えられるときに、前記回転体の外周面に摺動可能に接触させられる。前記シール円筒部、前記主シールリップおよび前記副シールリップは、弾性材料のみから形成されている。前記取付け円筒部および前記連結円環部は、前記弾性材料と剛性材料から形成されている。前記シール円筒部の大気側の端部の最小厚さは、密封装置の軸線方向における前記連結円環部から前記主シールリップのリップエッジまでの長さの1/2以下である。
【0007】
この態様においては、副シールリップは、圧力が与えられないときに、回転体の外周面に接触しないが、シール円筒部に外側から圧力が与えられるときに、回転体の外周面に摺動可能に接触させられ、常に回転体の外周面に摺動可能に接触させられる主シールリップが回転体に与える緊縛力の増加を抑制する。したがって、主シールリップの摩耗が低減されるとともに、回転体に与えられるトルクの増加が抑制される。連結円環部は弾性材料と剛性材料から形成されており、高い剛性を有するが、連結円環部に支持されたシール円筒部は弾性材料のみから形成され、低い剛性を有しており、シール円筒部の大気側の端部の厚さは小さい。したがって、シール円筒部に外側から圧力が与えられるときに、シール円筒部は、副シールリップとともに径方向内側に変形しやすく、回転体の外周面に摺動可能に接触させられやすい。このため、主シールリップが回転体に与える緊縛力の増加を効果的に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の第1実施形態に係る密封装置の部分断面図である。
図2】初期状態での図1の密封装置のシール円筒部、主シールリップおよび副シールリップを拡大した断面図である。
図3】圧力付与状態でのシール円筒部、主シールリップおよび副シールリップを拡大した断面図である。
図4】初期状態での主シールリップに対する副シールリップの位置と、圧力付与状態での主シールリップの回転シャフトへの接触幅の関係を計算した解析シミュレーションで使用されたパラメータとシミュレーションの結果を示す表である。
図5】解析シミュレーションの結果を示すグラフである。
図6】本発明の第2実施形態に係る密封装置の部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付の図面を参照しながら本発明に係る様々な実施の形態を説明する。図面の縮尺は必ずしも正確ではなく、一部の特徴は誇張または省略されることもある。
【0010】
実施形態に係る密封装置は、関節型ロボットのリンクを駆動するための歯車減速機のハウジングの内部空間内にグリースを密封するために使用される。
【0011】
第1実施形態
図1に示すように、第1実施形態に係る密封装置1は、歯車減速機のハウジング2と、ハウジング2に設けられた孔2A内に配置された回転シャフト(回転体)4との間の隙間を封止し、ハウジング2の内部空間と大気側とを隔てる。回転シャフト4は、ロボットのリンク(例えばアーム)を駆動するためのシャフトである。回転シャフト4は、図示しない軸受により回転可能に支持され、孔2Aに同軸に配置されている。回転シャフト4は、歯車減速機の最終最終出力軸であってよいが、他の回転体であってもよい。
【0012】
回転シャフト4は円柱状であり、孔2Aは断面円形であり、密封装置1は環状であるが、図1においては、それらの左半分のみが示されている。
【0013】
ハウジング2と回転シャフト4は仮想線で示されている。密封装置1がハウジング2と回転シャフト4との間の隙間に配備された使用状態では、密封装置1は径方向において圧縮されて変形する。
【0014】
密封装置1は、弾性環6と剛性環8を有する複合構造を有する。弾性環6は、弾性材料、例えばエラストマーから形成されている。剛性環8は、剛性材料、例えば金属から形成されており、弾性環6を補強する。剛性環8は、L字形の断面を有しており、スリーブ8Aと、スリーブ8Aの大気側の端部から径方向内側に延びる円環部8Bを有する。
【0015】
密封装置1は、取付け円筒部10、シール円筒部12、連結円環部14、主シールリップ16、副シールリップ18およびダストリップ20を有する。
【0016】
取付け円筒部10は、ハウジング2に取り付けられる。取付け方式は限定されないが、例えば、取付け円筒部10は孔2Aに締まり嵌めされてもよい。取付け円筒部10は、弾性環6と剛性環8から構成されている。より具体的には、取付け円筒部10において、弾性環6は、剛性環8のスリーブ8Aの外周面全体に固着され、剛性環8のスリーブ8Aの内周面全体にも固着されている。したがって、取付け円筒部10は、スリーブ8Aの外周面全体を覆う弾性部10aと、スリーブ8Aの内周面全体を覆う弾性部10bを有する。但し、スリーブ8Aの内周面を弾性材料で覆うことは不可欠ではない。
【0017】
シール円筒部12は、弾性環6のみから構成されており、取付け円筒部10より径方向内側に配置されている。シール円筒部12は、径方向において取付け円筒部10に重なっている。
【0018】
連結円環部14は、取付け円筒部10の大気側の端部とシール円筒部12の大気側の端部を径方向において連結する。連結円環部14は、弾性環6と剛性環8から構成されている。より具体的には、連結円環部14において、弾性環6は、剛性環8の円環部8Bの大気側の面全体に固着され、剛性環8の円環部8Bの内部空間側の面の一部にも固着されている。したがって、連結円環部14は、円環部8Bの大気側の面全体を覆う弾性部14aと、円環部8Bの内部空間側の面の一部を覆う弾性部14bを有する。
【0019】
主シールリップ16は、シール円筒部12の内周面から突出する突起であり、内部空間側に配置されたグリース側傾斜面16aと、大気側に配置された大気側傾斜面16bと、グリース側傾斜面16aと大気側傾斜面16bの間の境界にあって周方向に延びるリップエッジ16cを有する。グリース側傾斜面16aは、円錐台の側面の形状を有し、リップエッジ16cから離れるほど回転軸4から離れるよう傾斜する。大気側傾斜面16bも、円錐台の側面の形状を有し、リップエッジ16cから離れるほど回転軸4から離れるよう傾斜する。密封装置1がハウジング2と回転シャフト4との間の隙間に配備された使用状態では、主シールリップ16のリップエッジ16cおよびその付近は、常に回転シャフト4の外周面に摺動可能に接触させられる。
【0020】
主シールリップ16の大気側傾斜面16bには、螺旋リブ17a,17bが形成されている。螺旋リブ17a,17bは、特許第4702517号明細書に記載されているように、リップエッジ16cから大気側に漏れたグリースを回転軸4の回転に伴って、内部空間に戻すポンピング作用をもたらす。但し、螺旋リブ17a,17bは不可欠ではない。
【0021】
副シールリップ18も、シール円筒部12の内周面から突出する突起である。副シールリップ18は、主シールリップ16よりも大気側に配置されており、主シールリップ16の内径よりも大きい内径を有する。副シールリップ18は、内部空間側に配置されたグリース側傾斜面18aと、大気側に配置された大気側傾斜面18bと、グリース側傾斜面18aと大気側傾斜面18bの間の境界にあって周方向に延びるリップエッジ18cを有する。グリース側傾斜面18aは、円錐台の側面の形状を有し、リップエッジ18cから離れるほど回転軸4から離れるよう傾斜する。大気側傾斜面18bも、円錐台の側面の形状を有し、リップエッジ18cから離れるほど回転軸4から離れるよう傾斜する。密封装置1がハウジング2と回転シャフト4との間の隙間に配備された使用状態で、圧力が与えられないときには、副シールリップ18は、回転シャフト4の外周面に接触しない。すなわち、副シールリップ18と回転シャフト4の外周面の間には隙間がある。但し、シール円筒部12に外側から圧力が与えられるときに、副シールリップ18のリップエッジ18cおよびその付近は、回転シャフト4の外周面に摺動可能に接触させられる。
【0022】
ダストリップ20は、連結円環部14の内周面から径方向内側かつ大気側に向けて斜めに延びる円錐台状の板である。ダストリップ20は、大気側から内部空間側への異物(水または塵埃を含む)の侵入を抑制する役割を有する。この実施形態では、密封装置1が回転シャフト4に与えるトルクを低減するため、ダストリップ20は回転シャフト4に接触させられない。しかし、異物の侵入をさらに低減するため、ダストリップ20の先端が回転シャフト4の外周面に摺動可能に接触させられてもよい。
【0023】
主シールリップ16、副シールリップ18およびダストリップ20は、弾性環6のみから構成されている。
【0024】
シール円筒部12の外周面には周溝21が形成され、周溝21にはガータースプリング22が配置されている。ガータースプリング22は、主シールリップ16およびダストリップ20を径方向内側に向けて押圧する。
【0025】
図2および図3の各々は、シール円筒部12、主シールリップ16および副シールリップ18を拡大した断面図である。図2は、密封装置1がハウジング2と回転シャフト4との間の隙間に配備されておらず、シール円筒部12に外側から圧力が与えられない初期状態を示す。
【0026】
他方、図3は、密封装置1がハウジング2と回転シャフト4との間の隙間に配備された使用状態であって、かつ、シール円筒部12に外側から圧力が与えられた状態(以下、この状態を「圧力付与状態」と呼ぶ)を示す。具体的には、図3において、初期状態(図2の状態)のシール円筒部12、主シールリップ16および副シールリップ18が仮想線で示され、圧力Pによって径方向内側に変位させられた状態のシール円筒部12、主シールリップ16および副シールリップ18が実線で示されている。内部空間のグリースの圧力が高まると、シール円筒部12に外側から圧力Pが加わる。具体的には、シール円筒部12の周囲にグリースが存在する場合には、グリースからシール円筒部12に圧力Pが加わる。シール円筒部12の周囲にグリースが存在しない場合でも、グリースに押圧されたシール円筒部12の周囲の空気からシール円筒部12に圧力Pが加わる。
【0027】
密封装置1がハウジング2と回転シャフト4との間の隙間に配備されると、主シールリップ16は、常に回転シャフト4の外周面に接触させられるので、圧力Pがなくても初期状態に比べて変形する。さらに、主シールリップ16は、圧力Pによって回転シャフト4の外周面に押し付けられて大きく変形する。したがって、主シールリップ16が回転シャフト4に与える緊縛力が増加する。副シールリップ18は、使用状態であっても圧力Pが与えられないときに、回転シャフト4の外周面に接触しないが、シール円筒部12に外側から圧力Pが与えられるときに、回転シャフト4の外周面に摺動可能に接触させられ、主シールリップ16が回転シャフト4に与える緊縛力の増加を抑制する。したがって、主シールリップ16の摩耗が低減されるとともに、回転シャフト4に与えられるトルクの増加が抑制される。
【0028】
図2に示すように、シール円筒部12の大気側の端部の最小厚さAは、密封装置1の軸線方向における連結円環部14(具体的には弾性部14b)から主シールリップ16のリップエッジ16cまでの長さBの1/2以下である。連結円環部14は弾性材料と剛性材料から形成されており、高い剛性を有するが、連結円環部14に支持されたシール円筒部12は弾性材料のみから形成され、低い剛性を有しており、シール円筒部12の大気側の端部の最小厚さAは小さい。したがって、シール円筒部12に外側から圧力Pが与えられるときに、シール円筒部12は、副シールリップ18とともに径方向内側に変形しやすく、回転シャフト4の外周面に摺動可能に接触させられやすい。このため、主シールリップ16が回転シャフト4に与える緊縛力の増加を効果的に抑制することができる。
【0029】
また、図2および図3に示すように、副シールリップ18は、ガータースプリング22と径方向において重なる領域に配置されている。図2において、領域Cは、ガータースプリング22と径方向において重なり、この領域Cに副シールリップ18のリップエッジ18cが配置されている。副シールリップ18がガータースプリング22と径方向において重なる領域に配置されていない場合に比べて、ガータースプリング22の圧縮力によって、副シールリップ18は回転シャフト4の外周面に摺動可能に接触させられやすい。このため、主シールリップ16が回転シャフト4に与える緊縛力の増加を効果的に抑制することができる。
【0030】
発明者は、主シールリップ16に対する副シールリップ18の好適な位置関係を調べるために、有限要素法(FEM)を用いた解析シミュレーションによって、初期状態(図2の状態)での主シールリップ16に対する副シールリップ18の位置と、圧力付与状態(図3の状態)での主シールリップ16の回転シャフト4への接触幅Wの関係を計算した。密封装置1が回転シャフト4に与えるトルクおよび主シールリップ16の摩耗を考慮すると、接触幅Wが小さいことが好ましい。
【0031】
解析シミュレーションにおいては、圧力付与状態での圧力Pは、0.04MPaに設定した。回転シャフト4の外径Dは49.8mmに設定した。初期状態での主シールリップ16のリップエッジ16cの内径dは、回転シャフト4の外径Dより小さい49.4mmに設定した。
【0032】
そして、初期状態での密封装置1の軸線方向における主シールリップ16のリップエッジ16cと副シールリップ18のリップエッジ18cの間の距離(リップ間距離)L、および初期状態での副シールリップ18のリップエッジ18cの内径dを変更した。初期状態での主シールリップ16の大気側傾斜面16bと副シールリップ18のグリース側傾斜面18aの境界、すなわち谷部24の内径dは、リップエッジ18cの内径dより大きくなるよう変更した。
【0033】
図4は、解析シミュレーションで使用されたパラメータとシミュレーションの結果を示す。初期状態でのリップエッジ18cの内径dの変更に伴って、初期状態でのリップエッジ16cとリップエッジ18cの間の径方向距離gは変化し、初期状態でのリップエッジ18cと回転シャフト4の間の隙間Gも変化する。初期状態での軸線方向のリップ間距離Lに対するリップエッジ16cとリップエッジ18cの間の径方向距離gの比であるtanθも変化する。θは、密封装置1の軸線に対する初期状態でのリップエッジ16cとリップエッジ18cを結ぶ仮想的な円錐の母線の傾斜角である。
【0034】
図4から明らかなように、初期状態での軸線方向のリップ間距離Lが大きいほど、圧力付与状態での主シールリップ16の回転シャフト4への接触幅Wは大きかった。tanθの変化と接触幅Wの関係は判然としなかった。
【0035】
図5は、初期状態での軸線方向のリップ間距離Lと圧力付与状態での接触幅Wの関係を示す。図5から明らかなように、リップ間距離Lが0.8mm~1.2mmまでは接触幅Wの上昇率は小さいが、リップ間距離Lが1.2mmを超えると接触幅Wの上昇率が大きい。つまり、リップ間距離Lが1.2mmを超えると、使用状態での主シールリップ16の回転シャフト4への接触幅Wが顕著に大きくなり、回転シャフト4に与えられるトルクおよび主シールリップ16の摩耗が顕著に増加する。リップ間距離Lが1.2mm以下であれば、回転シャフト4に与えられるトルクの増加および主シールリップ16の摩耗を抑制することができる。したがって、初期状態での密封装置1の軸線方向における主シールリップ16のリップエッジ16cから副シールリップ18のリップエッジ18cまでの距離が1.2mm以下であることが好ましい。
【0036】
第2実施形態
図6は、本発明の第2実施形態に係る密封装置30の部分断面図である。図6において、すでに説明した構成要素を示すため、同一の符号が使用され、それらの構成要素については詳細には説明しない。
【0037】
密封装置30は、第1実施形態に係る密封装置1と類似の基本構成に加え、さらに補助シール32を有する。補助シール32は、基本構成に対して着脱自在であり、基本構成の取付け円筒部10の内側に配置されている。
【0038】
補助シール32は、弾性環34と剛性環36を有する複合構造を有する。弾性環34は、弾性材料、例えばエラストマーから形成されている。剛性環36は、剛性材料、例えば金属から形成されており、弾性環34を補強する。剛性環36は、ほぼL字形の断面を有しており、スリーブ36Aと、スリーブ36Aの内部空間側の端部から径方向内側に延びる円環部36Bを有する。剛性環36のスリーブ36Aは、取付け円筒部10の弾性部10bに締まり嵌め方式で嵌め込まれている。
【0039】
弾性環34は、剛性環36の円環部36Bより径方向内側に配置された補助リップ38を有する。補助リップ38は、基本構成の主シールリップ16より内部空間側に配置されている。補助リップ38の先端は、回転シャフト4の外周面に摺動可能に接触させられる。
【0040】
この実施形態によれば、補助シール32によって、内部空間に配置されたグリースが大気側に漏出することが抑制される。但し、補助リップ38と回転シャフト4の外周面の間の微小隙間がありうるので、内部空間内のグリースの圧力が高まると、シール円筒部12に外側から圧力Pが加わりうる。また、補助リップ38の摩耗に伴って、内部空間内のグリースが補助リップ38を乗り越えて大気側に侵入しうるので、この場合もシール円筒部12に外側から圧力Pが加わりうる。第1実施形態と同様に、シール円筒部12、主シールリップ16および副シールリップ18を形成することにより、主シールリップ16が回転シャフト4に与える緊縛力の増加を抑制し、主シールリップ16の摩耗を低減し、回転シャフト4に与えられるトルクの増加を抑制することができる。
【0041】
変形例
以上、本発明の好ましい実施形態を参照しながら本発明を図示して説明したが、当業者にとって特許請求の範囲に記載された発明の範囲から逸脱することなく、形式および詳細の変更が可能であることが理解されるであろう。このような変更、改変および修正は本発明の範囲に包含されるはずである。
【0042】
例えば、上記の実施形態において、密封装置は、関節型ロボットのリンクを駆動するための歯車減速機のハウジングの内部空間内にグリースを密封するために、歯車減速機のハウジング2と、ハウジング2に設けられた孔2A内に配置された回転シャフト4との間の隙間を封止する。しかし、密封装置は、他の歯車減速機のハウジングの内部空間内にグリースを密封するために使用されてもよい。
【0043】
また、密封装置は、歯車減速機以外の装置のハウジングの内部空間内にグリースを密封するために、ハウジングと、ハウジングに設けられた孔内で低速回転する回転体との間の隙間を封止する使用されてもよい。例えば、精密機械のターンテーブルの回転軸と、回転軸のハウジングとの間の隙間を封止するために、密封装置が使用されてもよい。あるいは、旋回型カメラまたは旋回型送風機の回転軸と、回転軸のハウジングとの間の隙間を封止するために、密封装置が使用されてもよい。
【0044】
回転シャフト4の周囲に他の部品(例えば、スリーブ)を配置し、主シールリップ16がこの部品の外周面に摺動可能に接触させられてもよく、副シールリップ18は、圧力が与えられないときに、この部品の外周面に接触せず、シール円筒部12に外側から圧力が与えられるときに、この部品の外周面に摺動可能に接触させられるようにしてもよい。この場合、回転シャフト4とこの部品の組み合わせを回転体とみなすことができる。
【0045】
本発明の態様は、下記の番号付けされた条項にも記載される。
【0046】
条項1. ハウジングと、前記ハウジングに設けられた孔内に配置された回転体との間の隙間を封止し、前記ハウジングの内部空間と大気側とを隔てる密封装置であって、
前記ハウジングに取り付けられる取付け円筒部と、
前記取付け円筒部より径方向内側に配置されたシール円筒部と、
前記取付け円筒部の大気側の端部と前記シール円筒部の大気側の端部を径方向において連結する連結円環部と、
前記シール円筒部の内周面から突出し、前記回転体の外周面に摺動可能に接触させられる主シールリップと、
前記シール円筒部の内周面から突出し、前記主シールリップよりも大気側に配置されており、前記主シールリップよりも内径が大きい副シールリップとを有しており、
前記副シールリップは、圧力が与えられないときに、前記回転体の外周面に接触せず、前記シール円筒部に外側から圧力が与えられるときに、前記回転体の外周面に摺動可能に接触させられ、
前記シール円筒部、前記主シールリップおよび前記副シールリップは、弾性材料のみから形成され、
前記取付け円筒部および前記連結円環部は、前記弾性材料と剛性材料から形成されており、
前記シール円筒部の大気側の端部の最小厚さは、密封装置の軸線方向における前記連結円環部から前記主シールリップのリップエッジまでの長さの1/2以下である
ことを特徴とする密封装置。
【0047】
条項2. 前記シール円筒部の周囲に配置されたガータースプリングをさらに有しており、
前記副シールリップは、前記ガータースプリングと径方向において重なる領域に配置されている
ことを特徴とする条項1に記載の密封装置。
【0048】
この条項によれば、副シールリップがガータースプリングと径方向において重なる領域に配置されていない場合に比べて、ガータースプリングの圧縮力によって、副シールリップは回転体の外周面に摺動可能に接触させられやすい。このため、主シールリップが回転体に与える緊縛力の増加を効果的に抑制することができる。
【0049】
条項3. 密封装置の軸線方向における前記主シールリップの前記リップエッジから前記副シールリップのリップエッジまでの距離が1.2mm以下である
ことを特徴とする条項1または2に記載の密封装置。
【0050】
この距離が1.2mmを超えると、使用状態での主シールリップの回転体への接触幅が顕著に大きくなり、回転体に与えられるトルクおよび主シールリップの摩耗が顕著に増加する。この距離が1.2mm以下であれば、回転体に与えられるトルクの増加および主シールリップの摩耗を抑制することができる。
【0051】
条項4. 前記取付け円筒部の内側に配置された補助シールをさらに有しており、
前記補助シールは、前記取付け円筒部に嵌め込まれるスリーブと、前記スリーブより径方向内側かつ前記主シールリップより内部空間側に配置されて、前記回転体の外周面に摺動可能に接触させられる補助リップとを有する
ことを特徴とする条項1から3のいずれか1項に記載の密封装置。
【0052】
この条項によれば、補助シールによって、内部空間に配置されたグリースが大気側に漏出することが抑制される。
【符号の説明】
【0053】
1 密封装置
2 ハウジング
2A 孔
4 回転シャフト(回転体)
10 取付け円筒部
12 シール円筒部
14 連結円環部
16 主シールリップ
16c リップエッジ
18 副シールリップ
18c リップエッジ
22 ガータースプリング
30 密封装置
32 補助シール
38 補助リップ
図1
図2
図3
図4
図5
図6