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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-06
(45)【発行日】2023-11-14
(54)【発明の名称】眼科用組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/5377 20060101AFI20231107BHJP
   A61K 31/498 20060101ALI20231107BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20231107BHJP
   A61K 47/04 20060101ALI20231107BHJP
   A61K 47/18 20170101ALI20231107BHJP
   A61P 27/00 20060101ALI20231107BHJP
   A61P 27/06 20060101ALI20231107BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20231107BHJP
【FI】
A61K31/5377
A61K31/498
A61K9/08
A61K47/04
A61K47/18
A61P27/00
A61P27/06
A61P43/00 121
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2019089428
(22)【出願日】2019-05-10
(65)【公開番号】P2019199470
(43)【公開日】2019-11-21
【審査請求日】2022-03-17
(31)【優先権主張番号】P 2018092326
(32)【優先日】2018-05-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000199175
【氏名又は名称】千寿製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【弁理士】
【氏名又は名称】水谷 馨也
(74)【代理人】
【識別番号】100175651
【弁理士】
【氏名又は名称】迫田 恭子
(72)【発明者】
【氏名】西田 憲晃
【審査官】梅田 隆志
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-508545(JP,A)
【文献】特表2009-533462(JP,A)
【文献】特開2017-226651(JP,A)
【文献】MARTINEZ-Soroa, I. et al.,ARCH SOC ESP OFTALMOL.,2016年,Vol.91, No.8,pp.363-371.
【文献】YUKSEL, Nursen et al.,OPHTHALMOLOGICA,1999年,Vol.213,pp.228-233.
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-31/80
A61K 9/00-9/72
A61K 47/00-47/69
A61P 1/00-43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブリモニジン及び/又はその塩と、チモロール及び/又はその塩と、リン酸及び/又はその塩と、エデト酸及び/又はその塩を含み、
リン酸及び/又はその塩の濃度が32mM以下である、眼科用組成物。
【請求項2】
pHが7.1~7.3である、請求項に記載の眼科用組成物。
【請求項3】
リン酸及び/又はその塩として、リン酸水素二ナトリウム及びリン酸二水素ナトリウムのうちの少なくとも一方を含む、請求項1又は2に記載の眼科用組成物。
【請求項4】
リン酸及び/又はその塩として、リン酸水素二ナトリウム及びリン酸二水素ナトリウムを含む、請求項に記載の眼科用組成物。
【請求項5】
リン酸及び/又はその塩の濃度が0.01~32mMである、請求項1~のいずれかに記載の眼科用組成物。
【請求項6】
ブリモニジン及び/又はその塩の濃度が0.01~1w/v%である、請求項1~のいずれかに記載の眼科用組成物。
【請求項7】
チモロール及び/又はその塩の濃度が0.1~1.5w/v%である、請求項1~のいずれかに記載の眼科用組成物。
【請求項8】
エデト酸及び/又はその塩の濃度が0.0001~0.2w/v%である、請求項7のいずれかに記載の眼科用組成物。
【請求項9】
ブリモニジン及び/又はその塩の濃度が0.1w/v%であり、
チモロール及び/又はその塩の濃度が0.68w/v%であり、
リン酸及び/又はその塩の濃度が0.3~32mMであり、
エデト酸及び/又はその塩の濃度が0.01w/v%である、
請求項に記載の眼科用組成物。
【請求項10】
リン酸及び/又はその塩の濃度が0.3~6.3mMである、請求項に記載の眼科用組成物。
【請求項11】
点眼剤である、請求項1~10のいずれかに記載の眼科用組成物。
【請求項12】
ブリモニジン及び/又はその塩と、チモロール及び/又はその塩とを含む眼科用組成物における分解生成物を抑制させる方法であって、
眼科用組成物中に、ブリモニジン及び/又はその塩と、チモロール及び/又はその塩と、リン酸及び/又はその塩と、エデト酸及び/又はその塩を共存させる工程を含み、
前記リン酸及び/又はその塩の濃度が32mM以下である、
分解生成物の抑制方法。
【請求項13】
ブリモニジン及び/又はその塩と、チモロール及び/又はその塩とを含む眼科用組成物の保存安定性の向上方法であって、
眼科用組成物中に、ブリモニジン及び/又はその塩と、チモロール及び/又はその塩と、リン酸及び/又はその塩と、エデト酸及び/又はその塩を共存させる工程を含み、
前記リン酸及び/又はその塩の濃度が32mM以下である、
保存安定性の向上方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブリモニジン及び/又はその塩と、チモロール及び/又はその塩と、リン酸及び/又はその塩を含み、保存による分解生成物の生成を抑制できる眼科用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ブリモニジン及びその塩は、アドレナリンα2受容体作動薬として知られており、眼房水産生抑制と共にぶどう膜強膜流出路を介した眼房水の流出を促進することによって、眼圧を低下させる作用があり、従来、緑内障や高眼圧症の治療に使用されている。
【0003】
また、チモロール及びその塩は、β受容体遮断薬として知られており、眼房水の産生抑制によって、眼圧を低下させる作用があり、従来、緑内障や高眼圧症の治療に使用されている。
【0004】
近年、緑内障や高眼圧症の治療効果を高めるために、ブリモニジン及び/又はその塩と、チモロール及び/又はその塩を併用した製剤が提案されている。例えば、特許文献1には、ブリモニジンとチモロールを含む眼科医薬組成物は、安全性があり、ブリモニジン又はチモロールを単独で使用する場合に比べて眼圧を低下させる効果が優れていることが開示されている。また、特許文献2には、約1~4.5mMのブリモニジンと、約2~15.8mMのチモロールと、約150~250ppmの塩化ベンザルコニウムを含む組成物は、緑内障や高眼圧症の治療に有効であることが開示されている。更に、特許文献3には、0.1w/v%のブリモニジン酒石酸塩と0.68w/v%のチモロールマレイン酸塩を含む組成物が、緑内障や高眼圧症の治療に有効であり、副作用も低減できることが開示されている。
【0005】
また、従来、ブリモニジン及び/又はその塩と、チモロール及び/又はその塩を併用した製剤について、製剤安定性に着目した製剤化技術についても検討されている。例えば、特許文献4には、約1~4.5mMのブリモニジン及び約2~16mMのチモロールを含有し、pHが約7~8.5である組成物は、分解生成物の生成を抑制でき、安定性が向上していることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特表2005-523316号公報
【文献】国際公開第2008/24846号
【文献】国際公開第2016/149498号
【文献】特表2009-533462号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、ブリモニジン及び/又はその塩と、チモロール及び/又はその塩と、リン酸及び/又はその塩を含む新規眼科用組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、更なる検討を重ねた結果、ブリモニジン及び/又はその塩と、チモロール及び/又はその塩と、リン酸及び/又はその塩を含む眼科用組成物において、リン酸及び/又はその塩の濃度を低減することによって、分解生成物の生成を効果的に抑制できることを見出した。更に、前記眼科用組成物において、リン酸及び/又はその塩の濃度を低減すると共に、エデト酸及び/又はその塩を添加することによって、分解生成物の生成がより一層効果的に抑制できることを見出した。本発明は、これらの知見に基づいて、更に検討を重ねることにより完成したものである。
【0009】
本発明の一態様として、下記に掲げる発明を提供する。
項1. ブリモニジン及び/又はその塩と、チモロール及び/又はその塩と、リン酸及び/又はその塩を含み、
リン酸及び/又はその塩の濃度が32mM以下である、眼科用組成物。
項2. 更に、エデト酸及び/又はその塩を含有する、項1に記載の眼科用組成物。
項3. pHが7.1~7.3である、項1又は2に記載の眼科用組成物。
項4. リン酸及び/又はその塩として、リン酸水素二ナトリウム及びリン酸二水素ナトリウムのうちの少なくとも一方を含む、項1~3のいずれかに記載の眼科用組成物。
項5. リン酸及び/又はその塩として、リン酸水素二ナトリウム及びリン酸二水素ナトリウムを含む、項4に記載の眼科用組成物。
項6. リン酸及び/又はその塩の濃度が0.01~32mMである、項1~5のいずれかに記載の眼科用組成物。
項7. リン酸及び/又はその塩の濃度が0.3~32mMである、項1~6のいずれかに記載の眼科用組成物。
項8. リン酸及び/又はその塩の濃度が0.3~16mMである、項1~7のいずれかに記載の眼科用組成物。
項9. リン酸及び/又はその塩の濃度が0.3~6.3mMである、項1~8のいずれかに記載の眼科用組成物。
項10. ブリモニジン及び/又はその塩の濃度が0.01~1w/v%である、項1~9のいずれかに記載の眼科用組成物。
項11. ブリモニジン及び/又はその塩の濃度が0.05~0.3w/v%である、項1~10のいずれかに記載の眼科用組成物。
項12. ブリモニジン及び/又はその塩の濃度が0.1w/v%である、項1~11のいずれかに記載の眼科用組成物。
項13. チモロール及び/又はその塩の濃度が0.1~1.5w/v%である、項1~12のいずれかに記載の眼科用組成物。
項14. チモロール及び/又はその塩の濃度が0.5~0.9w/v%である、項1~13のいずれかに記載の眼科用組成物。
項15. チモロール及び/又はその塩の濃度が0.68w/v%である、項1~14のいずれかに記載の眼科用組成物。
項16. エデト酸及び/又はその塩の濃度が0.0001~0.2w/v%である、項2に記載の眼科用組成物。
項17. エデト酸及び/又はその塩の濃度が0.001~0.03w/v%である、項2に記載の眼科用組成物。
項18. エデト酸及び/又はその塩の濃度が0.01w/v%である、項2に記載の眼科用組成物。
項19. ブリモニジン及び/又はその塩の濃度が0.1w/v%であり、チモロール及び/又はその塩の濃度が0.68w/v%であり、リン酸及び/又はその塩の濃度が0.3~32mMであり、エデト酸及び/又はその塩の濃度が、0.01w/v%である、項2に記載の眼科用組成物。
項20. リン酸及び/又はその塩の濃度が0.3~6.3mMである、項19に記載の眼科用組成物。
項21. 点眼剤である、項1~20のいずれかに記載の眼科用組成物。
項22. 60℃で4週間保存する際に生じる分解生成物の生成量が1.0%を超えない、項1~21のいずれかに記載の眼科用組成物。
項23. ブリモニジン及び/又はその塩、チモロール及び/又はその塩、リン酸及び/又はその塩を含み、任意にエデト酸及び/又はその塩を含んでいてもよい眼科用組成物であって、
リン酸及び/又はその塩の濃度が0.01~32mMであり、
ブリモニジン及び/又はその塩の濃度が0.01~1w/v%であり、
チモロール及び/又はその塩の濃度が0.1~1.5w/v%であり、
任意に含まれるエデト酸及び/又はその塩の濃度が0.0001~0.2w/v%である、
眼科用組成物。
項24. ブリモニジン及び/又はその塩、チモロール及び/又はその塩、リン酸及び/又はその塩を含み、任意にエデト酸及び/又はその塩を含んでいてもよく、pHが7.1~7.3である眼科用組成物であって、
リン酸及び/又はその塩の濃度が0.01~32mMであり、
ブリモニジン及び/又はその塩の濃度が0.01~1w/v%であり、
チモロール及び/又はその塩の濃度が0.1~1.5w/v%であり、
任意に含まれるエデト酸及び/又はその塩の濃度が0.0001~0.2w/v%である、
眼科用組成物。
項25. ブリモニジン及び/又はその塩、チモロール及び/又はその塩、リン酸及び/又はその塩、防腐剤を含み、任意にエデト酸及び/又はその塩を含んでいてもよく、pHが7.1~7.3である眼科用組成物であって、
リン酸及び/又はその塩の濃度が0.01~32mMであり、
ブリモニジン及び/又はその塩の濃度が0.01~1w/v%であり、
チモロール及び/又はその塩の濃度が0.1~1.5w/v%であり、
防腐剤の濃度が0.0001~0.1w/v%であり、
任意に含まれるエデト酸及び/又はその塩の濃度が0.0001~0.2w/v%である、
眼科用組成物。
項26. ブリモニジンの塩がブリモニジン酒石酸塩であり、及び/又はチモロールの塩がチモロールマレイン酸塩である、項23~25のいずれかに記載の眼科用組成物。
項27. ブリモニジン及び/又はその塩、チモロール及び/又はその塩、リン酸及び/又はその塩を含み、任意にエデト酸及び/又はその塩を含んでいてもよい眼科用組成物であって、
ブリモニジン及び/又はその塩の濃度が0.1w/v%であり、
チモロール及び/又はその塩の濃度が0.68w/v%であり、
リン酸及び/又はその塩の濃度が6.3mMであり、
任意に含まれるエデト酸及び/又はその塩の濃度が0.01w/v%である、
眼科用組成物。
項28. ブリモニジン及び/又はその塩、チモロール及び/又はその塩、リン酸及び/又はその塩を含み、任意にエデト酸及び/又はその塩を含んでいてもよい眼科用組成物であって、
ブリモニジン及び/又はその塩の濃度が0.1w/v%であり、
チモロール及び/又はその塩の濃度が0.68w/v%であり、
リン酸及び/又はその塩の濃度が6.3mMであり、
任意に含まれるエデト酸及び/又はその塩の濃度が0.01w/v%であり、
pHが7.1である、
眼科用組成物。
項29. ブリモニジン及び/又はその塩、チモロール及び/又はその塩、リン酸及び/又はその塩、塩化ベンザルコニウムを含み、任意にエデト酸及び/又はその塩を含んでいてもよい眼科用組成物であって、
ブリモニジン及び/又はその塩の濃度が0.1w/v%であり、
チモロール及び/又はその塩の濃度が0.68w/v%であり、
リン酸及び/又はその塩の濃度が6.3mMであり、
塩化ベンザルコニウムの濃度が0.002w/v%であり、
任意に含まれるエデト酸及び/又はその塩の濃度が0.01w/v%であり、
pHが7.1である、
眼科用組成物。
項30. ブリモニジンの塩がブリモニジン酒石酸塩であり、及び/又はチモロールの塩がチモロールマレイン酸塩である、項27~29のいずれかに記載の眼科用組成物。
項31. ブリモニジン酒石酸塩、チモロールの塩がチモロールマレイン酸塩、リン酸水素二ナトリウム及びリン酸二水素ナトリウム、塩化ベンザルコニウムを含み、任意にエデト酸及び/又はその塩を含んでいてもよい眼科用組成物であって、
ブリモニジン酒石酸塩の濃度が0.1w/v%であり、
チモロールマレイン酸塩の濃度が0.68w/v%であり、
リン酸水素二ナトリウム及びリン酸二水素ナトリウムの合計濃度が6.3mMであり、
塩化ベンザルコニウムの濃度が0.002w/v%であり、
任意に含まれるエデト酸及び/又はその塩の濃度が0.01w/v%であり、
pHが7.1である、
眼科用組成物。
【0010】
別の態様として、本発明は下記に掲げる発明を提供する。
項A1. ブリモニジン及び/又はその塩と、チモロール及び/又はその塩とを含む眼科用組成物における分解生成物を抑制させる方法であって、
眼科用組成物中に、ブリモニジン及び/又はその塩と、チモロール及び/又はその塩と、リン酸及び/又はその塩とを共存させる工程を含み、
前記リン酸及び/又はその塩の濃度が32mM以下である、
分解生成物の抑制方法。
項A2. 更に、眼科用組成物中にエデト酸及び/又はその塩を共存させる、項A1に記載の分解生成物の抑制方法。
【0011】
別の態様として、本発明は下記に掲げる発明を提供する。
項B1. ブリモニジン及び/又はその塩と、チモロール及び/又はその塩とを含む眼科用組成物の保存安定性の向上方法であって、
眼科用組成物中に、ブリモニジン及び/又はその塩と、チモロール及び/又はその塩と、リン酸及び/又はその塩を共存させる工程を含み、
前記リン酸及び/又はその塩の濃度が32mM以下である、
保存安定性の向上方法。
項B2. 更に、眼科用組成物中にエデト酸及び/又はその塩を共存させる、項B1に記載の保存安定性の向上方法。
【0012】
別の態様として、本発明は下記に掲げる発明を提供する。
項C1. ブリモニジン及び/又はその塩と、チモロール及び/又はその塩と、リン酸及び/又はその塩を含み、リン酸及び/又はその塩の濃度が32mM以下である組成物の、眼科用組成物の製造のための使用。
項C2. 前記組成物が、更にエデト酸及び/又はその塩を含む、項C1に記載の使用。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ブリモニジン及び/又はその塩と、チモロール及び/又はその塩と、リン酸及び/又はその塩を含む眼科用組成物において、リン酸及び/又はその塩の濃度を所定値以下に設定することによって、保存によって生じる分解生成物の量を低減できる。その結果、当該眼科用組成物の保存安定性を向上させることができる。
【0014】
また、ブリモニジン及び/又はその塩と、チモロール及び/又はその塩と、リン酸及び/又はその塩を含む眼科用組成物において、リン酸及び/又はその塩の濃度を所定値以下に設定すると、別の分解生成物が生じる傾向があるが、本発明では、更にエデト酸及び/又はその塩を含有させることによって、当該分解生成物の生成量も抑制できる。その結果、眼科用組成物の保存安定性をより一層向上させることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】保存前及び保存後の実施例1の試験液をHPLC測定に供することにより得られたクロマトグラムである。
図2】保存後の実施例1及び比較例1の試験液をHPLC測定に供することにより得られたクロマトグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
点眼剤等の眼科用組成物では、眼粘膜に直接投与されるため、高い安全性を確保することが必要であり、保存による分解生成物の生成を抑制することが必要になる。特に、医療用の医薬品の開発において、所定条件の保存によって生成する分解生成物の濃度が一定量を超える場合には、当該分解生成物の構造を特定し、安全性に関する報告を行うことが義務づけられており(医薬審発第0624001号「新有効成分含有医薬品のうち製剤の不純物に関するガイドラインの改定について」)、点眼剤の開発にあたっては、通常、分解生成物の濃度が1.0%を超える場合にこの義務が生じる。このことから、点眼剤の製剤化において、保存によって生じる分解生成物の生成を十分に抑制する必要がある。
【0017】
また、特許文献1~4には、ブリモニジン又はその塩と、チモロール又はその塩を含む製剤の具体例として、リン酸及び/又はその塩を計算上濃度で96.1~111.4mM含む態様が示されている。そこで、本発明者等は、特許文献1~4に具体的に開示されている製剤の安定性を検証すべく検討を進めたところ、このような製剤では、保存によって、分解生成物(後述する分解生成物A1、A2、及びA3)が生成するという課題があることを突き止めた。そして、本発明者等は、ブリモニジン及び/又はその塩と、チモロール及び/又はその塩と、リン酸及び/又はその塩を含む眼科用組成物において、リン酸及び/又はその塩の濃度を32mM以下に設定することによって、分解生成物A1、A2、及びA3の生成を効果的に抑制できることを見出した。
【0018】
一方、前記のようにリン酸及び/又はその塩の濃度を32mM以下に設定した眼科用組成物では、分解生成物A1、A2、及びA3の生成量を低減できるが、別の分解生成物(後述する分解生成物B)が増加することを確認した。そこで、本発明者等は、更なる検討を重ねたところ、前記眼科用組成物において、リン酸及び/又はその塩の濃度を32mM以下に設定すると共に、エデト酸及び/又はその塩を含有させることによって、分解生成物A1、A2、及びA3の生成を抑制しつつ、更に分解生成物Bの生成も効果的に抑制できることを見出した。
【0019】
本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。従って、他に定義されない限り、本明細書中で使用されるすべての専門用語及び科学技術用語は、本発明の属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。
【0020】
1.定義
本明細書において「眼科用組成物」とは、眼科用途の医薬組成物を意味する。
【0021】
本明細書において、「ブリモニジン」とは、アドレナリンα2受容体作動薬として公知の化合物であり、5-ブロモ-N-(4,5-ジヒドロ-1H-イミダゾール-2-イル)キノキサリン-6-アミンを指す。
【0022】
本明細書において、「チモロール」とは、β受容体遮断薬として公知の化合物であり、(2S)-1-(tert-ブチルアミノ)-3-(4-モルホリノ-1,2,5-チアジアゾール-3-イルオキシ)-2-プロパノールを指す。
【0023】
本明細書において、「リン酸」とは、リンのオキソ酸の1種で、化学式 H3PO4の無機酸を指す。
【0024】
本明細書において、「エデト酸」とは、別名エチレンジアミン四酢酸とも称される公知の化合物を指す。
【0025】
本明細書において、「分解生成物A1」とは、ブリモニジン及び/又はその塩と、チモロール及び/又はその塩と、リン酸及び/又はその塩を含む眼科用組成物を保存した後に、「(HPLC測定条件)」の欄に記載された条件でHPLC測定をした際に、保持時間が約2.6分の時点で認められるピークに対応する物質である。「分解生成物A1」は、ブリモニジン及び/又はその塩とチモロール及び/又はその塩とが相互作用して生じる分解生成物である。
【0026】
本明細書において、「分解生成物A2」とは、ブリモニジン及び/又はその塩と、チモロール及び/又はその塩と、リン酸及び/又はその塩を含む眼科用組成物を保存した後に、「(HPLC測定条件)」の欄に記載された条件でHPLC測定をした際に、保持時間が約7.8分の時点で認められるピークに対応する物質である。「分解生成物A2」は、ブリモニジン及び/又はその塩に起因して生じる分解生成物である。
【0027】
本明細書において、「分解生成物A3」とは、ブリモニジン及び/又はその塩と、チモロール及び/又はその塩と、リン酸及び/又はその塩を含む眼科用組成物を保存した後に、「(HPLC測定条件)」の欄に記載された条件でHPLC測定をした際に、保持時間が約14.0分の時点で認められるピークに対応する物質である。「分解生成物A3」は、ブリモニジン及び/又はその塩に起因して生じる分解生成物である。
【0028】
本明細書において、「分解生成物B」とは、ブリモニジン及び/又はその塩と、チモロール及び/又はその塩と、リン酸及び/又はその塩を含み、且つエデト酸及び/又はその塩を含まない眼科用組成物を保存した後に、「(HPLC測定条件)」の欄に記載された条件でHPLC測定をした際に、保持時間が約15.2分の時点で認められるピークに対応する物質である。「分解生成物B」は、ブリモニジン及び/又はその塩に起因する分解生成物である。
【0029】
図1に、ブリモニジン及び/又はその塩と、チモロール及び/又はその塩と、リン酸及び/又はその塩を含む眼科用組成物を保存した後に、「(HPLC測定条件)」の欄に記載された条件でHPLC測定することにより得られたクロマトグラムを示す。当該クロマトグラム中に、分解生成物A1、A2、A3、及びBに該当するピークを明示している。
【0030】
分解生成物A1は、リン酸及び/又はその塩を含み、且つブリモニジン及び/又はその塩、或はチモロール及び/又はその塩のいずれか一方のみを含む眼科用組成物を保存しても検出されないが、リン酸及び/又はその塩と共に、ブリモニジン及び/又はその塩と、チモロール及び/又はその塩とを含む眼科用組成物を保存することによって検出される。なお、分解生成物A1は、当該眼科用組成物を調製した直後では検出されない。従って、分解生成物A1は、当該眼科用組成物の保存により、少なくともブリモニジン及び/又はその塩と、チモロール及び/又はその塩とが関与して生じる分解生成物であることが確認できている。
【0031】
分解生成物A2、A3、及びBは、いずれも、ブリモニジン及び/又はその塩を含まない眼科用組成物を保存しても検出されず、また、当該眼科用組成物を調製した直後でも検出されない。従って、分解生成物A2、A3、及びBは、当該眼科用組成物の保存により、少なくともブリモニジン及び/又はその塩が関与して生じる分解生成物であることが確認できている。後述する試験例2で示すように、分解生成物A1、A2、及びA3は、眼科用組成物におけるリン酸及び/又はその塩の濃度を32mM以下に設定することにより、生成を抑制することが可能になる。また、分解生成物Bは、眼科用組成物におけるリン酸及び/又はその塩の濃度を32mM以下に設定することによって生成量が増大する物質であり、エデト酸及び/又はその塩によって生成を抑制することが可能になる。
【0032】
本明細書において、「分解生成物の抑制」とは、分解物生成物の生成量を低減させることだけではなく、完全に発生を抑えることも包含する。また、「分解生成物の抑制方法」とは、眼科用組成物の保存によって生じる分解生成物の生成量を低減又はその発生を完全に抑制する方法である。
【0033】
また、「分解生成物の抑制方法」の度合は60℃で4週間保存する際に生じる分解生成物の生成量で示すことができる。
【0034】
本明細書において、「保存安定性」とは眼科用組成物の保存によって生じる分解生成物の発生を抑制することで、ブリモニジン及び/又はその塩、並びにチモロール及び/又はその塩の含有量を低下させない度合を意味する。「保存安定性の向上方法」とは、眼科用組成物の保存によって生じる分解生成物の発生を抑制することで、ブリモニジン及び/又はその塩、並びにチモロール及び/又はその塩の含有量の低下を抑制する方法である。
【0035】
また、「保存安定性」の度合は60℃で4週間保存する際に生じる分解生成物の生成量で示すことができる。
【0036】
2.好ましい実施形態の説明
以下に好ましい実施形態の説明を記載するが、この実施形態は本発明の例示であり、本発明の範囲はそのような好ましい実施形態に限定されないことが理解されるべきである。当業者はまた、後述する好ましい実施例を参考にして、本発明の範囲内にある改変、変更などを容易に行うことができることが理解されるべきである。これらの実施形態について、当業者は適宜、任意の実施形態を組み合わせ得る。
【0037】
3.眼科用組成物
本発明の一態様として、ブリモニジン及び/又はその塩と、チモロール及び/又はその塩と、リン酸及び/又はその塩を含み、リン酸及び/又はその塩の濃度が32mM以下である、眼科用組成物を提供する。当該態様の眼科用組成物によれば、分解生成物A1、A2及びA3を抑制するという課題解決が可能になる。
【0038】
また、本発明の他の一態様として、ブリモニジン及び/又はその塩と、チモロール及び/又はその塩と、32mM以下のリン酸及び/又はその塩と、エデト酸及び/又はその塩とを含有する眼科用組成物を提供する。当該態様の眼科用組成物によれば、分解生成物A1、A2、A3だけでなく分解生成物Bを抑制するという課題解決が可能になる。
【0039】
以下、本発明の眼科用組成物について詳述する。
【0040】
[ブリモニジン及び/又はその塩]
ブリモニジンの塩としては、薬学的に許容されることを限度として特に制限されないが、具体的には、酒石酸塩、酢酸塩等の有機酸塩;塩酸塩等の無機酸塩等が挙げられる。また、ブリモニジン及び/又はその塩は、水和物等の溶媒和物の形態であってもよい。
【0041】
本発明において、ブリモニジン又はその塩のいずれか一方を単独で使用してもよく、またこれらを組み合わせて使用してもよい。ブリモニジン及びその塩の中でも、好ましくはブリモニジン酒石酸塩が挙げられる。
【0042】
本発明の眼科用組成物において、ブリモニジン及び/又はその塩の濃度については、特に制限されず、適用対象となる患者の症状の程度、1回当たりの適用量等に応じて適宜設定すればよいが、例えば0.01~1w/v%が挙げられる。各分解生成物の濃度を1.0%以下に抑えるという観点から、好ましくは0.05~0.3w/v%、更に好ましくは0.1~0.2w/v%、特に好ましくは0.1w/v%が挙げられる。本明細書において、ブリモニジン及び/又はその塩の濃度は、ブリモニジン酒石酸塩に換算された濃度を意味する。
【0043】
[チモロール及び/又はその塩]
チモロールの塩としては、薬学的に許容されることを限度として特に制限されないが、具体的には、マレイン酸塩、フマル酸塩、酢酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩、コハク酸塩、メシル酸塩、ベシル酸塩、トシル酸塩等の有機酸塩;塩酸塩、硝酸塩、硫酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩等の無機酸塩等が挙げられる。また、チモロール及び/又はその塩は、水和物等の溶媒和物の形態であってもよい。
【0044】
本発明において、チモロール又はその塩のいずれか一方を単独で使用してもよく、またこれらを組み合わせて使用してもよい。チモロール及びその塩の中でも、好ましくはチモロールマレイン酸塩が挙げられる。
【0045】
本発明の眼科用組成物において、チモロール及び/又はその塩の濃度については、特に制限されず、適用対象となる患者の症状の程度、1回当たりの適用量等に応じて適宜設定すればよいが、例えば0.1~1.5w/v%が挙げられる。分解生成物Bの生成量をより抑制するという観点から、好ましくは0.3~1.1w/v%、更に好ましくは0.5~0.9w/v%、特に好ましくは0.68w/v%が挙げられる。本明細書において、チモロール及び/又はその塩の濃度は、チモロールマレイン酸塩に換算された濃度を意味する。
【0046】
[リン酸及び/又はその塩]
本発明の眼科用組成物では、リン酸及び/又はその塩を含み、且つリン酸及び/又はその塩の濃度が32mM以下に設定される。このようにリン酸及び/又はその塩の濃度を所定値以下に設定することによって、保存による分解生成物A1、A2及びA3の抑制が可能になる。
【0047】
リン酸の塩としては、薬学的に許容されることを限度として特に制限されないが、例えば、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素二カリウム等のリン酸水素二アルカリ金属塩;リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム等のリン酸二水素アルカリ金属塩;リン酸三ナトリウム、リン酸三カリウム等のリン酸三アルカリ金属塩等が挙げられる。また、リン酸の塩は、水和物等の溶媒和物の形態であってもよく、例えば、リン酸水素二ナトリウムの場合であれば十二水和物の形態、リン酸二水素ナトリウムの場合であれば二水和物の形態等であってもよい。
【0048】
本発明において、リン酸及びその塩の中から1種を選択して単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0049】
リン酸及びその塩の中でも、分解生成物A1、A2及びA3の生成を効果的に抑制しつつ、眼科用組成物として好適な緩衝作用を具備させるという観点から、好ましくはリン酸水素二アルカリ金属塩とリン酸二水素アルカリ金属塩との組み合わせ、更に好ましくはリン酸水素二ナトリウムとリン酸二水素ナトリウムとの組み合わせが挙げられる。リン酸水素二アルカリ金属塩とリン酸二水素アルカリ金属塩とを組み合わせて使用する場合、これらの比率については、特に制限されないが、例えば、リン酸水素二アルカリ金属塩1モル当たり、リン酸二水素アルカリ金属塩は0.005~1.0モルが挙げられる。pHをより安定化させるという観点から、好ましくは0.01~0.4モル、更に好ましくは0.05~0.5モル、特に好ましくは0.26が挙げられる。
【0050】
本発明の眼科用組成物において、リン酸及び/又はその塩の濃度は32mM以下に設定される。このようにリン酸及び/又はその塩の濃度を所定値以下にすることによって、分解生成物A1、A2及びA3の生成を抑制することが可能になる。分解生成物A1、A2及びA3の生成をより一層効果的に抑制するという観点から、リン酸及び/又はその塩の濃度として、好ましくは16mM以下、更に好ましくは13mM以下、特に好ましくは6.3mM以下が挙げられる。また、リン酸及び/又はその塩の濃度の下限値については、特に制限されないが、例えば、0.01mM以上が挙げられる。エデト酸及び/又はその塩を含まない眼科用組成物において、分解生成物Bの生成量をより少なくするという観点から、好ましくは0.3mM以上、更に好ましくは3.2mM以上、特に好ましくは6.3mM以上が挙げられる。リン酸及び/又はその塩の濃度の具体的範囲として、例えば0.01~32mMが挙げられる。分解生成物の総量をより一層抑制するという観点から、好ましくは0.3~32mM、更に好ましくは0.3~16mM、特に好ましくは0.3~6.3mMが挙げられる。
【0051】
[エデト酸及び/又はその塩]
本発明の眼科用組成物は、前記成分に加えて、エデト酸及び/又はその塩を含んでいてもよい。ブリモニジン及び/又はその塩と、チモロール及び/又はその塩と、リン酸及び/又はその塩を含む眼科用組成物において、リン酸及び/又はその塩の濃度を前記範囲に設定すると、分解生成物A1、A2及びA3の生成量は低減するが、分解生成物Bの生成量が増大する傾向を示す。これに対して、本発明の眼科用組成物の好適な一態様では、更にエデト酸及び/又はその塩を含有させることにより、分解生成物Bの生成量を効果的に低減させることが可能になる。
【0052】
エデト酸の塩としては、薬学的に許容されることを限度として特に制限されないが、例えば、エデト酸一ナトリウム、エデト酸二ナトリウム(EDTA)、エデト酸四ナトリウム等のエデト酸ナトリウム塩が挙げられる。また、エデト酸の塩は、二水和物のような水和物等の溶媒和物の形態であってもよい。
【0053】
本発明の眼科用組成物にエデト酸及び/又はその塩を含有させる場合、エデト酸及びその塩の中から1種を選択して単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。エデト酸及びその塩の中でも、分解生成物Bの生成量をより一層効果的に低減させるという観点から、好ましくはエデト酸の塩、更に好ましくはエデト酸二ナトリウム(EDTA)が挙げられる。
【0054】
本発明の眼科用組成物にエデト酸及び/又はその塩を含有させる場合、その濃度としては、例えば0.0001~0.2w/v%が挙げられる。分解生成物Bをより一層抑制するという観点から、好ましくは0.001~0.03w/v%、更に好ましくは0.005~0.015w/v%、特に好ましくは0.01w/v%が挙げられる。本明細書において、エデト酸及び/又はその塩の濃度は、エデト酸二ナトリウム二水和物に換算された濃度を意味する。
【0055】
[その他の成分]
本発明の眼科用組成物には、前記成分の他に、必要に応じて、等張化剤、多価アルコール、界面活性剤、粘稠剤、緩衝剤(リン酸及びその塩以外)、キレート剤(エデト酸及びその塩以外)、清涼化剤、防腐剤、安定化剤、pH調整剤等の添加剤を含有してもよい。
【0056】
等張化剤としては、薬学的に許容されることを限度として特に制限されないが、例えば、グリセリン、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ポリエチレングリコール等の多価アルコール;塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、亜硫酸水素ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム等の金属塩等が挙げられる。これらの等張化剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0057】
多価アルコールとしては、薬学的に許容されることを限度として特に制限されないが、例えば、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリン等が挙げられる。これらの多価アルコールは、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0058】
界面活性剤としては、薬学的に許容されることを限度として特に制限されないが、例えば、チロキサポール、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマー、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、オクトキシノール等の非イオン性界面活性剤;アルキルジアミノエチルグリシン、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン等の両性界面活性剤;アルキル硫酸塩、N-アシルタウリン塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩等の陰イオン界面活性剤;アルキルピリジニウム塩、アルキルアミン塩等の陽イオン界面活性剤等が挙げられる。これらの界面活性剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0059】
粘稠剤としては、薬学的に許容されることを限度として特に制限されないが、例えば、カルボキシビニルポリマー、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、キサンタンガム、コンドロイチン硫酸ナトリウム、ヒアルロン酸ナトリウム等の水溶性高分子;ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム等のセルロース類等が挙げられる。これらの粘稠剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0060】
緩衝剤(リン酸及びその塩以外)としては、薬学的に許容されることを限度として特に制限されないが、例えば、ホウ酸緩衝剤、クエン酸緩衝剤、酒石酸緩衝剤、酢酸緩衝剤、Tris緩衝剤、アミノ酸等が挙げられる。これらの緩衝剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。なお、本発明の眼科用組成物では、リン酸及び/又はその塩を含むことにより緩衝作用が付与されるので、リン酸及びその塩以外の緩衝剤を配合せずとも、所望の緩衝作用を具備することができる。
【0061】
キレート剤(エデト酸及びその塩以外)としては、薬学的に許容されることを限度として特に制限されないが、例えば、クエン酸及びその塩等が挙げられる。これらのキレート剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。なお、本発明の眼科用組成物では、エデト酸及び/又はその塩を含有させる場合には、キレート作用も付与されるので、エデト酸及びその塩以外のキレート剤を配合せずとも、所望のキレート作用を具備することができる。
【0062】
清涼化剤としては、薬学的に許容されることを限度として特に制限されないが、例えば、l-メントール、ボルネオール、カンフル、ユーカリ油等が挙げられる。これらの清涼化剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0063】
防腐剤としては、薬学的に許容されることを限度として特に制限されないが、例えば、ソルビン酸又はその塩、安息香酸又はその塩、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル、クロロブタノール、クロルヘキシジングルコン酸塩、クロルヘキシジン塩酸塩、クロルヘキシジン酢酸塩、ホウ酸又はその塩、デヒドロ酢酸又はその塩、塩化ベンザルコニウム、臭化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、ベンジルアルコール、塩化亜鉛、パラクロルメタキシレノール、クロルクレゾール、フェネチルアルコール、塩化ポリドロニウム、チメロサール、ジブチルヒドロキシトルエン等が挙げられる。これらの防腐剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。これらの中で塩化ベンザルコニウムは、防腐効果と共に製剤の浸透性を上昇させるため特に好ましい。
防腐剤の濃度はその種類により適宜変えることができるが、例えば0.0001~0.1w/v%が挙げられる。好ましくは0.0005~0.05w/v%、更に好ましくは0.001~0.05w/v%、特に好ましくは0.002w/v%が挙げられる。
【0064】
安定化剤としては、薬学的に許容されることを限度として特に制限されないが、例えば、ポリビニルピロリドン、亜硫酸塩、モノエタノールアミン、シクロデキストリン、デキストラン、アスコルビン酸、タウリン、トコフェロール、ジブチルヒドロキシトルエン等が挙げられる。これらの安定化剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0065】
pH調整剤としては、薬学的に許容されることを限度として特に制限されないが、例えば、塩酸、酢酸、ホウ酸、アミノエチルスルホン酸、イプシロン-アミノカプロン酸等の酸;水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ホウ砂、トリエタノールアミン、モノエタノールアミン、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム等のアルカリが挙げられる。これらのpH調整剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0066】
これらの添加剤の濃度は、使用する添加剤の種類や眼科用組成物に付与すべき特性等に応じて適宜設定すればよい。
【0067】
更に、本発明の眼科用組成物には、ブリモニジン及び/又はその塩とチモロール及び/又はその塩以外に、本発明の効果を妨げない範囲で、必要に応じて、緑内障や高眼圧症に対して治療効果を示す薬理成分が含まれていてもよい。
【0068】
このような薬理成分としては、例えば、タフルプロスト、ラタノプロスト、イソプロピルウノプロストン等のプロスタグランジン類;ピロカルピン塩酸塩等の副交感神経刺激薬;ジスチグミン臭化物等の抗コリンエステラーゼ薬;ジピベフリン塩酸塩等の交感神経刺激薬;ベタキソロール塩酸塩等のβ1遮断薬;ニプラジロール、レボブノロール塩酸塩等のα1・β遮断薬;ブナゾシン塩酸塩等のα1遮断薬等が挙げられる。これらの薬理成分は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0069】
これらの薬理成分の濃度は、使用する薬理成分の種類や付与すべき薬効等に応じて適宜設定すればよい。
【0070】
[pH]
本発明の眼科用組成物のpHについては、眼粘膜に適用可能であることを限度として特に制限されないが、例えば、pH6.6~7.6が挙げられる。分解生成物Bの生成量を低減させるという観点からは、好ましくはpH6.7~7.5、より好ましくはpH6.7~7.3、更に好ましくはpH7.1~7.3、特に好ましくはpH7.1が挙げられる。
【0071】
[浸透圧比]
本発明の眼科用組成物の浸透圧比については、眼粘膜に適用可能であることを限度として特に制限されないが、例えば、0.5~4が挙げられる。薬液の刺激感などの不快感を軽減させるという観点から、好ましくは0.7~1.3、より好ましくは0.9~1.1が挙げられる。当該浸透圧比は、0.9w/v%塩化ナトリウム水溶液の浸透圧に対する比率であり、浸透圧は第十七改正日本薬局方に規定されている「浸透圧法(オスモル濃度測定法)」に準じて測定される。
【0072】
[製剤形態・用途]
本発明の眼科用組成物は、眼粘膜に局所投与されると、ブリモニジン及び/又はその塩とチモロール及び/又はその塩の作用によって、眼房水の産生を抑制して、眼圧を低下させることができるので、点眼剤として提供され、緑内障や高眼圧症の治療用途に好適に使用される。
【0073】
[容器]
本発明の眼科用組成物を収容する容器については、特に制限されず、従来点眼容器として使用されているものであればよく、ガラス製であってもよく、またプラスチック製であってもよい。本発明の眼科用組成物を収容する容器として、プラスチック製を使用する場合、該プラスチック容器の構成材質については、特に制限されないが、例えば、ポリエチレンナフタレート、ポリアリレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリイミドのいずれか1種、又は2種以上の混合体が挙げられる。保存による分解生成物Bの抑制効果をより一層効果的に奏させるという観点から、容器本体(眼科用組成物を収容する収容部を形成している部材)の材質が、好ましくはポリエチレン又はポリプロピレン、より好ましくはポリエチレンである。
【0074】
[特性]
本発明の眼科用組成物によれば、分解生成物A1、A2及びA3の抑制が可能になっている。本発明の眼科用組成物における分解生成物A1、A2及びA3の抑制の度合としては、具体的には、60℃で4週間暗所に保存した後の分解生成物A1、A2及びA3の各生成量が1.0%以下である。眼科用組成物がより安定であるという観点から、好ましくは0.9%以下、更に好ましくは0.85%以下が挙げられる。
【0075】
また、本発明の眼科用組成物がエデト酸及び/又はその塩を含む場合には、分解生成物Bの抑制も可能になっている。本発明の眼科用組成物における分解生成物Bの抑制の度合としては、具体的には、60℃で4週間暗所に保存した後の分解生成物Bが1.0%以下である。眼科用組成物がより安定であるという観点から、好ましくは0.1%以下、更に好ましくは0%が挙げられる。
【0076】
また、本発明の眼科用組成物の好適な一態様として、60℃で4週間暗所に保存した後の分解生成物A1、A2、A3、及びBの総量が2.0%以下である。眼科用組成物がより安定であるという観点から、好ましくは1.5%以下、更に好ましくは1.3%以下が挙げられる。
【0077】
本明細書において、分解生成物A1、A2、A3、及びBの濃度は、以下に示すHPLC測定条件及び算出式に従って求められる眼科用組成物中の濃度である。
【0078】
本発明の眼科用組成物について分解生成物A1、A2、A3、及びBは、下記条件の液体クロマトグラフィー(HPLC:島津製作所製 高速液体クロマトグラフ:Prominence)により測定される。
【0079】
(HPLCの測定条件)
検出器:紫外吸光光度計(測定波長:230nm)
カラム:Symmetry C18, 4.6 mm I.D.×150mm, 3.5μm, Waters社製
カラム温度:40℃
移動相A:4.3mMリン酸水溶液/メタノール/アセトニトリル(容積比:84/8/8)の混液
移動相B:4.3mMリン酸水溶液/メタノール/アセトニトリル(容積比:40/30/30)の混液
移動相の送液:移動相A及び移動相Bの混合比率を表1に示すように変えて直線濃度勾配制御する。
洗浄液:アセトニトリル/水(容積比:1/1)の混液
流量:1.0mL/min
面積測定範囲:60分
【表1】
【0080】
(算出式)
以下の式に従って、分解生成物A1、A2、A3、及びBの生成量(対表示率%)が算出される。
【数1】
【0081】
4.分解生成物の抑制方法
1つの態様において、本発明は、ブリモニジン及び/又はその塩と、チモロール及び/又はその塩とを含む眼科用組成物の分解生成物を抑制させる方法であって、組成物中に、ブリモニジン及び/又はその塩と、チモロール及び/又はその塩と、リン酸及び/又はその塩とを共存させる工程を含み、該リン酸及び/又はその塩の濃度が32mM以下である、眼科用組成物の分解生成物を抑制させる方法を提供する。本発明では、リン酸及び/又はその塩の濃度を32mM以下にすることによって、分解生成物A1、A2及びA3の生成を抑制することが可能になる。
【0082】
また、当該方法では、更に眼科用組成物中にエデト酸及び/又はその塩を共存させてもよい。エデト酸及び/又はその塩を共存させることによって、分解生成物A1、A2及びA3だけでなく分解生成物Bの抑制も可能になる。
【0083】
本発明の分解生成物の抑制方法において、使用するブリモニジン及び/又はその塩、チモロール及び/又はその塩、並びにリン酸及び/又はその塩について、それらの種類、濃度等については、前記「3.眼科用組成物」の欄に記載のものを単独又は組み合わせて採用してもよい。また、本発明の分解生成物の抑制方法において、眼科用組成物に配合可能な他の成分、眼科用組成物のpH、浸透圧比、製剤形態、容器等についても、前記「3.眼科用組成物」の欄に記載のものを単独又は組み合わせて採用してもよい。
【0084】
3.保存安定性の向上方法
1つの態様において、本発明は、ブリモニジン及び/又はその塩と、チモロール及び/又はその塩と、リン酸及び/又はその塩を含む眼科用組成物の保存安定性を向上させる方法であって、ブリモニジン及び/又はその塩と、チモロール及び/又はその塩と、リン酸及び/又はその塩とを共存させる工程を含み、該リン酸及び/又はその塩の濃度が32mM以下である、眼科用組成物の保存安定性を向上させる方法を提供する。本発明では、リン酸及び/又はその塩の濃度を32mM以下にすることによって、分解生成物A1、A2及びA3を抑制し、前記眼科用組成物の保存安定性を向上させることが可能になる。
【0085】
また、当該方法では、更に眼科用組成物中にエデト酸及び/又はその塩を共存させてもよい。エデト酸及び/又はその塩を共存させることによって、分解生成物A1、A2及びA3だけでなく分解生成物Bも抑制され、前記眼科用組成物の保存安定性をより一層向上させることができる。
【0086】
本発明の保存安定性の向上方法において、使用するブリモニジン及び/又はその塩、チモロール及び/又はその塩、並びにリン酸及び/又はその塩について、それらの種類、濃度等については、前記「3.眼科用組成物」の欄に記載のものを単独又は組み合わせて採用してもよい。また、本発明の保存安定性の向上方法において、眼科用組成物に配合可能な他の成分、眼科用組成物のpH、浸透圧比、製剤形態、容器等についても、前記「3.眼科用組成物」の欄に記載のものを単独又は組み合わせて採用してもよい。
【実施例
【0087】
以下に、実施例を挙げて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。
【0088】
試験例1
表3に示す組成の試験液(点眼剤)を調製した。各点眼剤5mLを、5mL容のポリエチレン容器に充填して密封し、60℃で4週間暗所に保存した。保存後の各試験液を下記条件でHPLCに供し、分解生成物量を分析した。
【0089】
<HPLCの条件>
・試料溶液の作製
各試験液を2mL正確に量り、精製水を加えて正確に20mLとし、試料溶液とした。
【0090】
・標準溶液の作製
ブリモニジン酒石酸塩標準品を10mg精密に量り、精製水を加えて正確に100mLとし、標準溶液とした。
【0091】
・液体クロマトグラフィーによる測定
試料溶液及び標準溶液25μLにつき、次の条件で液体クロマトグラフィー(島津製作所製 高速液体クロマトグラフ:Prominence)により測定を行い、それぞれの試料溶液における分解生成物のピーク面積、及び標準溶液のブリモニジン酒石酸塩のピーク面積を自動積分法により求めた。
【0092】
(測定条件)
検出器:紫外吸光光度計(測定波長:230nm)
カラム:Symmetry C18, 4.6 mm I.D.×150mm, 3.5μm, Waters社製
カラム温度:40℃
移動相A:4.3mMリン酸水溶液/メタノール/アセトニトリル(容積比:84/8/8)の混液
移動相B:4.3mMリン酸水溶液/メタノール/アセトニトリル(容積比:40/30/30)の混液
移動相の送液:移動相A及び移動相Bの混合比率を表2に示すように変えて直線濃度勾配制御した。
洗浄液:アセトニトリル/水(容積比:1/1)の混液
流量:1.0mL/min
面積測定範囲:60分
【表2】
【0093】
(計算方法)
以下の式に従って、分解生成物A1、A2、A3、及びBの生成量(対表示率%)を算出した。
【数2】
【0094】
保存前後の実施例1の試験液をHPLCに供することによって得られたクロマトグラムを図1に示す。また、保存後の実施例1及び比較例1の試験液をHPLCに供することによって得られたクロマトグラムを図2に示す。その結果、保存後の実施例1の試験液では、保持時間約2.6分、約7.8分、約14.0分、及び約15.2分にピークが認められた。保存前の実施例1の試験液では、これらの保持時間においてピークは認められなかったので、前記各ピークは、保存によって生じた分解生成物に由来していることが判明した。
【0095】
保存後の各試験液における分解生成物A1(保持時間約2.6分)、A2(保持時間約7.8分)、A3(保持時間約14.0分)、及びB(保持時間約15.2分)の生成量(対表示率%)を表3に示す。リン酸塩の濃度が6.3mMである実施例1は、リン酸塩の濃度が126mMである比較例1に比べて、分解生成物A1、A2及びA3の生成量が低減された。また、分解生成物A1、A2、A3及びBの総生成量についても、比較例1より実施例1の方が低減された。これらの結果から、ブリモニジン酒石酸塩、チモロールマレイン酸塩、及びリン酸塩を含む眼科用組成物において、リン酸塩の濃度を低く設定することによって、当該眼科用組成物の保存安定性が向上することが確認された。
【0096】
一方、実施例1では、比較例1に比べて、分解生成物A1、A2及びA3の生成量が低減できていたが、分解生成物Bの生成量が増加していた。これに対して、更にEDTA二水和物を配合した実施例2では、分解生成物Bの生成量は検出できないほど微量であった。即ち、リン酸塩の濃度を低下させることにより生じる分解生成物Bは、EDTA二水和物を更に加えることによって低減でき、保存安定性をより一層向上できることが確認された。
【0097】
【表3】
【0098】
試験例2
ブリモニジン酒石酸塩、チモロールマレイン酸塩、及びリン酸塩を含む眼科用組成物において、リン酸塩の濃度が分解生成物の生成量に及ぼす影響を検証した。具体的には、表4及び5に示す組成の試験液(点眼剤)を調製し、前記試験例1と同条件で保存及び分解生成物の生成量の測定を行った。
【0099】
得られた結果を表4及び5に示す。リン酸塩の濃度が126mMの比較例1に比べて、リン酸塩の濃度が32mM以下の実施例1及び3~7の方が、分解生成物A1~A3の生成量を低減できていた。即ち、ブリモニジン酒石酸塩、チモロールマレイン酸塩、及びリン酸塩を含む眼科用組成物において、リン酸塩の濃度を32mM以下にすることにより、分解生成物A1~A3の生成を抑制できることが確認された。
【0100】
また、ブリモニジン酒石酸塩及びチモロールマレイン酸塩を含み、リン酸塩の濃度を32mM以下にすると、EDTA二水和物を含まない場合(実施例1及び3~7)では分解生成物Bの増大が認められたが、EDTA二水和物を含む場合(実施例2及び8~12)では分解生成物Bの生成を完全に抑制できていた。
【0101】
本試験の結果から、ブリモニジン酒石酸塩、チモロールマレイン酸塩、及びリン酸塩を含む眼科用組成物において、リン酸塩の濃度を32mM以下にすることが、分解生成物A1~A3の生成量を特異的に低減させたが、分解物生成物Bの生成量が増加するという新たな課題が確認された。しかしながら、当該眼科用組成物において、EDTA二水和物を更に配合することが、分解生成物Bの生成を特異的に抑制することが確認された(EDTA二水和物は分解生成物A1~A3の生成量を低減させない)。従って、リン酸塩の濃度を32mM以下にすることに加え、EDTA二水和物を更に配合することが最も効果的に分解生成物を低減させることが明らかになった。
【0102】
【表4】
【0103】
【表5】
【0104】
試験例3
ブリモニジン酒石酸塩、チモロールマレイン酸塩、及びリン酸塩を含む眼科用組成物において、pHが分解生成物の生成量に及ぼす影響を検証した。具体的には、表6に示す組成の試験液(点眼剤)を調製し、試験液を充填する容器として5mL容のポリプロピレン製容器を使用したこと以外は、前記試験例1と同条件で保存し、分解生成物の生成量の測定を行った。
【0105】
得られた結果を表6に示す。この結果、pHが7.1~7.3の範囲内にある実施例16及び17では、pHが7.1~7.3の範囲外である実施例13~15及び18に比べて、分解生成物Bの生成量が低減されていた。従って、ブリモニジン酒石酸塩、及びチモロールマレイン酸塩を含み、リン酸塩の濃度を32mM以下の低濃度に設定した眼科用組成物において、pHを7.1~7.3に設定することにより、分解生成物Bの生成量をより効果的に抑制し、保存安定性を更に向上させ得ることが明らかとなった。
【0106】
【表6】
【0107】
製剤例
本発明の眼科用組成物の具体的態様として、表7~表10に示す成分の眼科用組成物が挙げられる。なお、表7~表10において、各含有成分の含有量の単位は「w/v%」である。表中の製剤例1~18はポリエチレン(以下、PE)容器に、製剤例19~28はポリプロピレン(PP)容器に、製剤例29~36はガラス容器に収容している。
【0108】
【表7】
【0109】
【表8】
【0110】
【表9】
【0111】
【表10】
図1
図2