(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-06
(45)【発行日】2023-11-14
(54)【発明の名称】石英ガラスルツボ及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C30B 15/10 20060101AFI20231107BHJP
C03B 20/00 20060101ALI20231107BHJP
C30B 29/06 20060101ALI20231107BHJP
【FI】
C30B15/10
C03B20/00 H
C30B29/06 502B
(21)【出願番号】P 2019105890
(22)【出願日】2019-06-06
【審査請求日】2021-11-30
(73)【特許権者】
【識別番号】522503458
【氏名又は名称】モメンティブ・テクノロジーズ・山形株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087642
【氏名又は名称】古谷 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100082946
【氏名又は名称】大西 昭広
(74)【代理人】
【識別番号】100195693
【氏名又は名称】細井 玲
(72)【発明者】
【氏名】辻 直樹
【審査官】宮崎 園子
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-157082(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 15/10
C03B 20/00
C30B 29/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも透明内層と不透明外層とからなり、円筒状の直胴部と、前記直胴部の下端から径方向内側に湾曲するR部と、前記R部の径方向内側端から形成された底部とを備える石英ガラスルツボにおいて、
前記不透明外層の前記直胴部の下部領域乃至前記R部における外表面粗さが、前記直胴部の上部乃至中部領域の外表面粗さよりも大きく、かつ前記底部の外表面粗さよりも大き
く、
前記不透明外層の前記直胴部の上部乃至中部領域における外表面粗さRaが、5μm以上50μm以下であり、
前記直胴部の下部領域乃至前記R部における外表面粗さRaが、30μm以上100μm以下であり、
前記底部における外表面粗さRaが、5μm以上20μm以下であることを特徴とする石英ガラスルツボ。
【請求項2】
前記不透明外層の前記直胴部の下部領域乃至前記R部は、
ルツボ高さ方向に沿って、ルツボ内表面の底部から0mm以上、150mm以下に位置することを特徴とする請求項
1に記載された石英ガラスルツボ。
【請求項3】
少なくとも透明内層と不透明外層とからなり、円筒状の直胴部を形成する直胴部と、前記直胴部の下端から径方向内側に湾曲するR部と、前記R部の径方向内側端から形成された底部とを備える石英ガラスルツボの製造方法において、
前記不透明外層の前記直胴部の下部領域乃至前記R部における外表面粗さを、前記直胴部の上部乃至中部領域の外表面粗さよりも大きく、かつ前記底部の外表面粗さよりも大きく形成する工程
とを含み、
前記不透明外層の前記直胴部の下部領域乃至前記R部における外表面粗さを、前記直胴部の上部乃至中部領域の外表面粗さよりも大きく、かつ前記底部の外表面粗さよりも大きく形成する工程において、
前記不透明外層の前記直胴部の上部乃至中部領域における外表面粗さRaを、5μm以上50μm以下、
前記直胴部の下部領域乃至前記R部における外表面粗さRaを、30μm以上100μm以下、
前記底部における外表面粗さRaを、5μm以上20μm以下に形成することを特徴とする石英ガラスルツボの製造方法。
【請求項4】
前記不透明外層の前記直胴部の下部領域乃至前記R部は、
ルツボ高さ方向に沿って、ルツボ内表面の底部から0mm以上、150mm以下に位置することを特徴とする請求項
3に記載された石英ガラスルツボの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石英ガラスルツボ及びその製造方法に関し、特にルツボ内表面の温度分布をより均一に制御した石英ガラスルツボ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコン単結晶の育成に関し、CZ法(チョクラルスキー法)が広く用いられている。この方法は、石英ガラスルツボ内に収容されたシリコン溶融液の表面に種結晶を接触させ、ルツボを回転させるとともに、この種結晶を反対方向に回転させながら上方へ引上げることによって、種結晶の下端にシリコン単結晶を形成していくものである。
【0003】
特許文献1(特開2018-104248)には、前記CZ法によりシリコン単結晶を引き上げる単結晶引上げ装置について開示されている。
図7に、特許文献1に開示された単結晶引上げ装置を模式的に示す。
この単結晶引上げ装置20は、炉体21と、炉体21内に設けられた石英ガラスルツボ30と、ルツボ30の周囲に配置され、ルツボ30に装填された半導体原料(原料ポリシリコン)Mを溶融する円筒状のカーボンヒータ40と、育成されるシリコン単結晶Cをワイヤ50で引上げる引上げ機構(図示せず)とを有している。ワイヤ50の先端には種結晶Pが取り付けられている。
【0004】
このように構成された単結晶引上げ装置20にあっては、カーボンヒータ40の輻射熱によって石英ガラスルツボ30内の原料ポリシリコンMが溶融される。
その後、石英ガラスルツボ30が、所定の高さ位置において所定の回転速度で回転動作され、先端に種結晶Pが取り付けられたワイヤ50が降ろされる。
そして、ワイヤ50先端に取付けられた種結晶Pがシリコン溶融液Mに接触され、種結晶Pの先端部を溶解するネッキングが行われてネック部P1が形成される。
【0005】
前記ネック部P1が形成されると、ヒータ40への供給電力や、引上げ速度(通常、毎分数ミリの速度)などをパラメータとして引上げ条件が調整され、クラウン部形成工程(拡径する工程)、直胴部形成工程、底部形成工程等のシリコン単結晶の引上工程が順に行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、単結晶引上げ装置20の上記引上げ工程において、ヒータ40の高さ方向の中央に最も近い流域、即ち、石英ガラスルツボ30直胴部30aの中部領域乃至下部領域30a1が局所的に高温となり、ルツボ内表面の温度分布にばらつきが生じるという課題があった。
【0008】
また、前記直胴部30aの中部領域乃至下部領域30a1におけるルツボ内表面が過度に高温となることにより、その領域におけるルツボ内表面の溶解する量が増え、シリコン融液Mにおける酸素の溶存度が増加し、引上げられたシリコン単結晶の格子間酸素濃度に、ばらつきが生じるという課題があった。
【0009】
この課題を解決するために、本発明者らは、ルツボ内表面の温度分布にばらつきについて、鋭意研究した。
一つの方法として、特開平10-59794号公報で提案されているように、容器外表面の粗さを、容器の種結晶側から反対側に向けて、段階的にまたは漸次に変化させることが考えられる。
しかしながら、この熱分解窒化ホウ素容器と、本発明にかかる石英ガラスルツボとは形状や使用方法が全く異なるものであり、容器外表面の粗さを、容器の種結晶側から反対側に向けて、段階的にまたは漸次に変化させても、ルツボ内表面の局所の高温を抑制することができなかった。
【0010】
そこで、本発明者らは、ルツボの外表面の表面粗さに着目し、ルツボ内表面の温度分布にばらつきを抑制する研究を続け、石英ガラスルツボの高温となる特定領域の表面粗さを、他の領域の表面粗さに比べて粗くすることにより、ルツボ内表面の温度分布にばらつきが抑制できることを知見し、本発明を想到するに至った。
【0011】
尚、本発明と同じくシリコン単結晶の引上げに用いる石英ガラスルツボにおいて、意図的に外表面に粗さを持たせる構成が、特開2009-84114号公報に示されている。しかしながら、この石英ガラスルツボは、結晶化促進剤を用いずに、使用時の高温下でもルツボの変形を生じ難く、かつ製造が容易とすることを目的とするものであって、本発明のように、ルツボ内表面の温度分布にばらつきを抑制するものではない。
【0012】
本発明は、このような事情のもとなされたものであり、ルツボ内表面の温度分布をより均一に制御できる石英ガラスルツボ、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するためになされた本発明にかかる石英ガラスルツボは、少なくとも透明内層と不透明外層とからなり、円筒状の直胴部と、前記直胴部の下端から径方向内側に湾曲するR部と、前記R部の径方向内側端から形成された底部とを備える石英ガラスルツボにおいて、前記不透明外層の前記直胴部の下部領域乃至前記R部における外表面粗さが、前記直胴部の上部乃至中部領域の外表面粗さよりも大きく、かつ前記底部の外表面粗さよりも大きいことを特徴としている。
【0014】
このように構成された石英ガラスルツボによれば、ルツボ外表面において、ルツボ下部領域乃至R部における表面粗さを最も大きくすることにより、その領域での光(赤外線)の透過量を減少させることができる。
その結果、ルツボ内面における局所的な過度の加熱が抑制され、ルツボ高さ方向におけるルツボ内表面の温度分布のばらつきを抑制できる。
更に、このように局所的な過度の加熱が抑制されるため、局所におけるルツボ内表面の溶解量を抑えることができ、シリコン融液中に溶存する酸素量を低減することができる。また、引き上げるシリコン単結晶中の格子間酸素濃度の変化を効果的に抑制することができる。
【0015】
ここで、前記不透明外層の前記直胴部の上部乃至中部領域における外表面粗さRaが、5μm以上50μm以下であり、前記直胴部の下部領域乃至前記R部における外表面粗さRaが、30μm以上100μm以下であり、前記底部における外表面粗さRaが、5μm以上20μm以下であることが望ましい。
【0016】
また、前記不透明外層の前記直胴部の下部領域乃至前記R部は、ルツボ高さ方向に沿って、ルツボ内表面の底部から0mm以上、150mm以下に位置することが望ましい。
【0017】
また、上記目的を達成するためになされた本発明に係る石英ガラスルツボの製造方法は、少なくとも透明内層と不透明外層とからなり、円筒状の直胴部を形成する直胴部と、前記直胴部の下端から径方向内側に湾曲するR部と、前記R部の径方向内側端から形成された底部とを備える石英ガラスルツボの製造方法において、前記不透明外層の前記直胴部の下部領域乃至前記R部における外表面粗さを、前記直胴部の上部乃至中部領域の外表面粗さよりも大きく、かつ前記底部の外表面粗さよりも大きく形成する工程と、を含むことを特徴としている。
【0018】
このように、前記不透明外層の前記直胴部の下部領域乃至前記R部における外表面粗さを、前記直胴部の上部乃至中部領域の外表面粗さよりも大きく、かつ前記底部の外表面粗さよりも大きく形成する工程を含むことにより、上記した本発明にかかる石英ガラスルツボを得ることができる。
【0019】
また、前記不透明外層の前記直胴部の下部領域乃至前記R部における外表面粗さを、前記直胴部の上部乃至中部領域の外表面粗さよりも大きく、かつ前記底部の外表面粗さよりも大きく形成する工程において、前記不透明外層の前記直胴部の上部乃至中部領域における外表面粗さRaを、5μm以上50μm以下、前記直胴部の下部領域乃至前記R部における外表面粗さRaを、30μm以上100μm以下、前記底部における外表面粗さRaを、5μm以上20μm以下に形成することが望ましい。
【0020】
また、前記不透明外層の前記直胴部の下部領域乃至前記R部は、ルツボ高さ方向に沿って、ルツボ内表面の底部から0mm以上、150mm以下に位置することが望ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、ルツボ内表面の温度分布をより均一に制御した石英ガラスルツボ、及びその製造方法を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】
図1(a)は、本発明に係る石英ガラスルツボの断面図であり、
図1(b)は、該石英ガラスルツボの外表面粗さを区分けする領域を示す断面図である。
【
図2】
図2は、本発明に係る石英ガラスルツボの製造方法を適用可能な石英ガラスルツボ製造装置の断面図である。
【
図3】
図3は、石英ガラスルツボのサンプルに対し、ルツボ外表面の表面粗さRaの変化に対する光の透過率の変化(%)を測定したグラフである。
【
図4】
図4は、本発明の実施例で用いた単結晶引上装置の構成を模式的に示す断面図である。
【
図5】
図5は、本発明の実施例1~3の結果を示すグラフである。
【
図6】
図6は、比較例1~5の結果を示すグラフである。
【
図7】
図7は、従来の単結晶引上げ装置を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明に係る石英ガラスルツボ及びその製造方法の一実施形態を、
図1、
図2に基づいて説明する。
図1(a)は、本発明に係る石英ガラスルツボの断面図である。
図1(a)に示すように石英ガラスルツボ1は、例えば外径810mm、厚さ15mmに形成され、気泡を実質的に含まない、合成石英層からなる透明内層2と、気泡を含む、天然石英層または合成石英層からなる不透明外層3とから構成されている。
【0024】
即ち、前記石英ガラスルツボ1は、シリコン単結晶引上げ時に溶融シリコンの融液と接する透明内層2と、この透明内層2に隣接する不透明外層3との2層構造に構成されている。厚さ方向における前記透明内層2と不透明外層3との比率は例えば2:1に形成されている。
【0025】
ここで、気泡を実質的に含まないとは、直径0.5mm以上の気泡が密度1pcs/mm3以上存在していない透明な層をいう。
また、不透明とは、石英ガラス中に多数の気泡(気孔)が内在し、見かけ上、白濁した状態を意味する。また、天然石英層とは水晶等の天然質原料を溶融して製造されるシリカガラス層を意味し、合成石英層とは、例えばシリコンアルコキシドの加水分解により合成された合成原料を溶融して製造されるシリカガラス層を意味する。
【0026】
また、石英ガラスルツボ1は、
図1(a)に示すように上部開口から径を変えずに下方に延びる円筒状の直胴部1aと、前記直胴部1aの下端から内側に小さい曲率半径で湾曲するR部1bと、前記R部1bから大きい曲率半径で湾曲しルツボ底を形成する底部1cとを有する。
前記透明内層2及び不透明外層3はともに、前記直胴部1a、R部1b、底部1cを形成している。
【0027】
また、前記不透明外層3の外表面は、本実施の形態においては、
図1(b)に示すように3つの領域に分けて、表面粗さが設定される。この表面粗さは、例えばブラスト装置等を用いて、所定の表面粗さになるように加工される。
前記不透明外層3の外表面の特定領域を、設定された所定の表面粗さになし、特定領域におけるヒータからルツボ内面への輻射を抑制することによって、局所的な過度の加熱を抑制するものである。
尚、前記透明内層2の内表面は、合成原料を溶融、固化した状態であり、不透明外層3の外表面のように加工処理はなされない。
【0028】
この表面粗さとルツボ内面の温度分布の関係について詳述すると、ヒータの赤外線の発光は、波長2μmあたりにピークをもったブロード状(波長領域が広い)のもの(1500℃)であり、その波長のガラスの内部透過率はほぼ100%であるが、透過率は、表面粗さに左右される。
【0029】
一例として、ガラスの表面粗さと透過率(可視光)の関係を
図3に示す。
このサンプルとして、合成石英層からなる透明層と、合成石英層からなる不透明層とから構成された、透明層の厚さ10mm、不透明層の厚さ5mm、総厚さ15mmの矩形状のガラスを用いた。
そして、不透明層の表面粗さを種々変えて、波長500nmにおける、透過率を測定した。尚、透明層はルツボの内表面と同様に鏡面とし、表面粗さを変えていない。
【0030】
この実験の結果、表面粗さが大きくなるほど光が散乱し、透過率は低下することが判明した。特に、外表面粗さRaが5μm以上である場合には、透過率が25%減少することが分かった。
【0031】
そして更に、ルツボを用いた実験やシミュレーションの結果、外表面粗さRaが5~100μmのルツボを融液面1433℃になるように加熱した場合、部分的に外表面粗さを変えることで、内表面温度の分布のばらつきを小さくし、内表面温度が最大にとなる部位の酸素溶存度を5%以上低減することが判明した。
尚、外表面粗さRaが100μmを越えると、光の散乱の不均一さによる温度のばらつきが発生し、好ましくないことも判明した。
【0032】
ここで、具体的にルツボの外表面粗さRaについて説明すると、直胴部1aの上部乃至中部領域(破線で囲む領域Ar1)と、直胴部1a下部領域乃至R部1b(破線で囲む領域Ar2)と、底部1c(破線で囲む領域Ar3)の領域ごとに、外表面粗さRaが設定される。
この直胴部1aの上部乃至中部領域とは、ルツボ高さに対し開口部から2/5の部分を意味し、直胴部1a下部領域乃至R部1bとは開口部から3/5~4/5の部分を意味し、底部1cとは底部から1/5の部分を意味する。
【0033】
例えば、直胴部1aの上部乃至中部領域(領域Ar1)の表面粗さRa(算術平均粗さ)は5~50μmの所定値に設定される。直胴部1a下部領域乃至R部1b(領域Ar2)での表面粗さRaは30~100μmの所定値に設定される。また、底部1c(領域Ar3)での表面粗さRaは5~20μmの所定値に設定される。
【0034】
但し、いずれの表面粗さRaの組み合わせにおいても、直胴部1a下部領域乃至R部1bでの表面粗さRaが他の部位(直胴部1aの上部乃至中部領域、底部1c)よりも大きいものとされる。
これは、直胴部1a下部領域乃至R部1bにおける透過量を低減することによって輻射熱を抑制し、ルツボ内表面における温度分布を均一に近づけるためである。
【0035】
このようにルツボ外表面において、直胴部1a下部領域乃至R部1bでの表面粗さRaを最も大きくすることにより、直胴部1a下部領域乃至R部1bにおける光(赤外線)の透過量が減少する。
その結果、ルツボ形状等に起因する、ルツボ内面における局所的な過度の加熱が抑制され、ルツボ高さ方向におけるルツボ内表面の温度分布のばらつきを小さくすることができる。またルツボ内表面における局所的な過度の溶解を抑え、シリコン融液中に溶存する酸素量を低減することができる。更に引き上げるシリコン単結晶中の格子間酸素濃度の変化を効果的に抑制することができる。
【0036】
また、直胴部1aの上部乃至中部領域(領域Ar1)の表面粗さRa(算術平均粗さ)を5~50μmの所定値としたのは、5μm未満では表面粗さによる温度への影響が小さいために好ましくなく、50μmを超える場合には、表面粗さのばらつきの影響で温度が大きくばらつき、好ましくないためである。
また、直胴部1a下部領域乃至R部1b(領域Ar2)での表面粗さRaを、30~100μmの所定値としたのは、30μm未満では、隣り合う領域Ar1と領域Ar3の影響により温度差がつきにくいため好ましくなく、100μmを超える場合には表面粗さのばらつきの影響で温度が大きくばらつき、好ましくないためである。
更に、底部1c(領域Ar3)での表面粗さRaを、5~20μmの所定値としたのは、5μm未満では表面粗さによる温度への影響が小さいため好ましくなく、20μmを超える場合には表面粗さのばらつきの影響で温度が大きくばらつき、好ましくないためである。
【0037】
続いて、前記石英ガラスルツボ1の製造方法について説明する。
図2は、本発明に係る石英ガラスルツボの製造方法を適用可能な石英ガラスルツボ製造装置の断面図である。
図2に示す石英ガラスルツボ製造装置10のルツボ成形用型11は、高純化処理した多孔質カーボン型で構成されている内側部材12と、前記内側部材12を保持する保持体13と、前記内側部材12の外周面と前記保持体13の内周面との間に設けられた通気部14とから構成されている。
【0038】
保持体13の下部には、図示しない回転手段と連結されている回転軸15が固着され、ルツボ成形用型11を回転可能に支持している。通気部14は、保持体13の下部に設けられた開口部16を介して、回転軸15の中央に設けられた排気口17と連結されている。この排気口17は減圧機構18と連結されている。
【0039】
また、ルツボ成形用型11の上方には、天然石英原料粉末を供給するための原料供給ノズル19と、合成石英原料粉末を供給するための原料供給ノズル20とが配置されている。
また、内側部材12に対向する上部にはアーク放電により加熱溶融を行うための例えば3本のカーボン電極21a、21b、21cが設けられている。
【0040】
前記カーボン電極21a、21b、21cは、粒子がコークスなどの原料、例えば石炭系ピッチコークス、およびコールタールピッチなどの結合材、例えば石炭系コールタールピッチを炭化した混練物を用いて、全体的に円柱形状であり、先端部が先細の形状に形成されたものである。
【0041】
このように構成された石英ガラスルツボ製造装置10においては、減圧機構18の作動により内側部材12内を減圧しながら、図示しない回転駆動源を稼働させて回転軸15を回転させ、ルツボ成形用型11を回転させる。
次いで、ルツボ成形用型11内に原料供給ノズル19より天然石英原料粉末を供給する。供給された天然石英原料粉末は、遠心力によってルツボ成形用型11の内側部材12に押圧され、天然石英粉末層3Aが形成される。
【0042】
次いで、前記天然石英粉末層3Aの上に、原料供給ノズル20より合成石英原料粉末を供給する。供給された合成石英原料粉末は、天然石英粉末層3Aに対し押圧され、合成石英粉末層2Aが形成される。
このようにして、内層側に合成石英粉末層2Aが形成され、外側層に天然石英粉末層3Aが形成されたルツボ成形体1Aが得られる。
【0043】
続いて、3本のカーボン電極21a、21b、21cを、
図2に示した石英ガラスルツボ製造装置10にセットし、カーボン電極21a、21b、21cに通電してルツボ成形体1Aの内側からアーク放電により加熱し、ルツボ成形体1Aの内表面から外表面にかけて溶融する。
その後、冷却することにより、内面側には実質的に無気泡化状態で酸素過剰欠陥が抑制された透明石英ガラス層2が形成され、外表側には多数の気泡が存在する不透明石英ガラス層3が形成された石英ガラスルツボが得られる。
【0044】
更に得られた石英ガラスルツボの外表面を部分的あるいは全体を研磨し、外表面を所定の表面粗さにする研磨処理を行う。
具体的には、前記不透明外層の前記直胴部の上部乃至中部領域における外表面粗さRaが、5μm以上50μm以下であり、前記直胴部の下部領域乃至前記R部における外表面粗さRaが、30μm以上100μm以下であり、前記底部における外表面粗さRaが、5μm以上20μm以下となるように、サンドブラストまたはフッ化水素酸溶液によるエッチング等を用いて粗面化処理される。
尚、前記したように、いずれの表面粗さRaの組み合わせにおいても、直胴部1a下部領域乃至R部1bでの表面粗さRaが他の部位(直胴部1aの上部乃至中部領域、底部1c)よりも大きいものとされる。
【0045】
例えば、直胴部1aの上部乃至中部領域の表面粗さRaが50μm、直胴部1aの下部領域乃至R部1bの表面粗さRaは100μm、底部1cの表面粗さRaは20μmになるように研磨される。
【0046】
このように本発明に係る実施の形態によれば、ルツボ高さ方向において光(赤外線波長)に対する透過量のばらつきを持たせることで、ルツボ内表面の温度分布を均一に近づけることができる。
即ち、ルツボ内表面における局所的な過度の加熱が抑制され、シリコン単結晶引き上げに伴うルツボ内表面からの溶解量を抑え、シリコン融液中に溶存する酸素量を低減することができる。また、引き上げるシリコン単結晶中の格子間酸素濃度の変化を効果的に抑制することができる。
【実施例】
【0047】
本発明に係る石英ガラスルツボ、及びその製造方法について、実施例に基づきさらに説明する。
【0048】
本実施例では、
図4に模式的に示す単結晶引上装置の構成において、図示する高さ範囲(シリコン融液の底部からシリコン融液面まで:0~300mm)における高さ方向のルツボ内表面の温度を測定した。
実施例1では、ルツボ外径810mm、高さ450mm、肉厚15mm、厚さ方向の透明層(内側の層)と不透明層(外側の層)との割合は2:1、嵩密度は、2.2g/cm
3の石英ガラスルツボ1を用いた。
【0049】
また、
図4に示すルツボの高さ方向の範囲(0mm~300mm)のうち、150mm~300mmの範囲を直胴部の上部乃至中部領域、0mm(ルツボ内表面の底部)~150mmの範囲を直胴部の下部領域乃至R部とした。また、ルツボ底部外表面の中心からR部までに達するまでを半径とする円領域を底部(領域)と規定した。
【0050】
この実施例1においては、直胴部の上部乃至中部領域の表面粗さRaを5μm、直胴部の下部領域乃至R部の表面粗さRaを30μm、底部の表面粗さRaを5μmとした。
そして、ヒータ加熱により溶融液面Maの温度を1433℃に維持し、ルツボ底部からの高さ0mm~300mmにおけるルツボ内表面温度を測定した。
更に、シリコン融液への酸素溶存度を下記式(1)より求めた。
シリコン融液への酸素溶存度Cs=4×1023exp(-2×104/T)・・・(1)
【0051】
実施例2では、外表面における直胴部の上部乃至中部領域の表面粗さRaを20μm、直胴部の下部領域乃至R部の表面粗さRaを50μm、底部の表面粗さRaを10μmとした。
その他の条件は、実施例1と同じである。
【0052】
実施例3では、外表面における直胴部の上部乃至中部領域の表面粗さRaを50μm、直胴部の下部領域乃至R部の表面粗さRaを100μm、底部の表面粗さRaを20μmとした。
その他の条件は、実施例1と同じである。
【0053】
比較例1では、外表面(直胴部とR部と底部)の表面粗さRaを全て5μmとし、比較例2では、外表面の表面粗さRaを全て50μmとし、比較例3では、外表面の表面粗さRaを全て100μmとした。
その他の条件は、実施例1と同じである。
【0054】
実施例1~3、及び比較例1~5の結果を表1、及び
図5、
図6のグラフに示す。
尚、表1において、酸素溶存度の変化量(%)とは、比較例1に対する変化量の割合である。
また、
図5は、実施例1~3の結果を示すグラフであり、
図6は、比較例1~5の結果を示すグラフである。
図5、
図6のグラフにおいて、縦軸はルツボ高さ(mm)であり、横軸はルツボ内表面温度(℃)である。
【0055】
【0056】
表1に示すように実施例1~3では、直胴部の下部領域乃至R部における外表面粗さRaの値を、その他の部位(直胴部の上部乃至中部領域、底部)よりも2倍以上となるよう設定したが、外表面粗さRaの値が変化しない比較例1~3に比べてシリコン融液への酸素溶存度を小さく抑えることができた。酸素溶存度の変化量は、-6%~-8%となり、酸素溶存度を大きく低減することができた。
【0057】
また、
図5のグラフに示すように実施例1~3では、ルツボ高さによって変化するルツボ内表面温度を小さく抑えることができた。一方、
図6のグラフに示すように比較例1~5では、ルツボ高さによってルツボ内表面温度が大きく変化した。特に比較例1~3では、いずれも高さ200mmをピークに内表面温度が高く、実施例1~3のように直胴部の下部領域~R部の表面粗さRaを最も荒くすることにより、前記高さ200mmの位置をピークとする局所的なルツボ内表面温度を効果的に低減することができた。
【0058】
以上の実施例の結果、不透明外層の直胴部の上部乃至中部領域における外表面粗さRaが、5μm以上50μm以下であり、直胴部の下部領域乃至R部における外表面粗さRaが、30μm以上100μm以下であり、底部における外表面粗さRaが、5μm以上20μm以下の条件下において本発明による作用効果を確認することができた。
【符号の説明】
【0059】
1 石英ガラスルツボ
1a 直胴部
1b R部
1c 底部
2 透明内層
3 不透明外層
10 石英ガラスルツボ製造装置
11 ルツボ成形用型
12 内側部材
13 保持体
14 通気部
15 回転軸
16 開口部
17 排気口
18 減圧機構
19 原料供給ノズル
20 原料供給ノズル
21a カーボン電極
21b カーボン電極
21c カーボン電極