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特許7378974太陽電池、多接合型太陽電池、太陽電池モジュール及び太陽光発電システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-06
(45)【発行日】2023-11-14
(54)【発明の名称】太陽電池、多接合型太陽電池、太陽電池モジュール及び太陽光発電システム
(51)【国際特許分類】
   H01L 31/0256 20060101AFI20231107BHJP
   H01L 31/072 20120101ALI20231107BHJP
   H01L 31/0725 20120101ALI20231107BHJP
【FI】
H01L31/04 320
H01L31/06 400
H01L31/06 410
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019110685
(22)【出願日】2019-06-13
(65)【公開番号】P2020202360
(43)【公開日】2020-12-17
【審査請求日】2022-03-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100119035
【弁理士】
【氏名又は名称】池上 徹真
(74)【代理人】
【識別番号】100141036
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 章
(74)【代理人】
【識別番号】100178984
【弁理士】
【氏名又は名称】高下 雅弘
(72)【発明者】
【氏名】芝崎 聡一郎
(72)【発明者】
【氏名】保西 祐弥
(72)【発明者】
【氏名】中川 直之
(72)【発明者】
【氏名】山崎 六月
(72)【発明者】
【氏名】平岡 佳子
(72)【発明者】
【氏名】山本 和重
【審査官】桂城 厚
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-092555(JP,A)
【文献】国際公開第2018/066483(WO,A1)
【文献】特開2019-057536(JP,A)
【文献】特開2014-170865(JP,A)
【文献】特開2009-283886(JP,A)
【文献】特開2006-124754(JP,A)
【文献】特表2013-539234(JP,A)
【文献】国際公開第2018/135145(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/094547(WO,A1)
【文献】特開2018-157176(JP,A)
【文献】特開2017-098479(JP,A)
【文献】国際公開第2013/124134(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第108054225(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 31/00-31/078
H01L 31/18-31/20
H10K 30/00-30/57
H10K 30/80-39/18
H02S 10/00-10/40
H02S 30/00-99/00
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明な第1電極と、
前記第1電極上に亜酸化銅を主体とする光電変換層と、
前記光電変換層上にZn及びSiを含む金属酸化物層であるn型層と、
前記n型層上に透明な第2電極とを有し、
前記金属酸化物層は、ZnSiで表される化合物で構成された層であり、
x及びyは、0.90≦x+y≦1.00を満たし、
前記yは、0.10≦y≦0.50を満たし、
前記zは、0.00≦z≦0.30を満たし、
前記wは、0.90≦w≦1.10を満たし、
前記Mは、B、Al、Ga、In及びGeからなる群から選ばれる1種以上の元素であ
前記光電変換層中に含まれるZn濃度は、前記光電変換層中に含まれるSi濃度よりも高い太陽電池。
【請求項2】
透明な第1電極と、
前記第1電極上に亜酸化銅を主体とする光電変換層と、
前記光電変換層上にZn及びSiを含む金属酸化物層であるn型層と、
前記n型層上に透明な第2電極とを有し、
前記金属酸化物層は、Zn Si で表される化合物で構成された層であり、
x及びyは、0.90≦x+y≦1.00を満たし、
前記yは、0.10≦y≦0.50を満たし、
前記zは、0.00≦z≦0.30を満たし、
前記wは、0.90≦w≦1.10を満たし、
前記Mは、B、Al、Ga、In及びGeからなる群から選ばれる1種以上の元素でり、
前記光電変換層と前記n型層の界面から前記第1電極の方向に3nmの深さまでの領域の平均Zn濃度を第1Zn濃度とし、
前記光電変換層と前記n型層の界面から前記第1電極の方向に3nmの深さから前記第1電極の方向にさらに3nm深いところまでの領域の平均Zn濃度を第2Zn濃度とし、
前記光電変換層と前記n型層の界面から前記第1電極の方向に3nmの深さまでの領域の平均Si濃度を第1Si濃度とし、
前記光電変換層と前記n型層の界面から前記第1電極の方向に3nmの深さから前記第1電極の方向にさらに3nm深いところまでの領域の平均Si濃度を第2Si濃度とし、
前記第1Zn濃度、前記第2Zn濃度、前記第1Si濃度及び前記第2Si濃度は、[第1Zn濃度]>[第1Si濃度]、[第2Zn濃度]>[第2Si濃度]、[第1Zn濃度]>[第2Zn濃度]及び[第1Si濃度]>[第2Si濃度]を満たす太陽電池。
【請求項3】
前記光電変換層と前記n型層の界面から前記第1電極の方向に3nmの深さまでの領域の平均Zn濃度を第1Zn濃度とし、
前記光電変換層と前記n型層の界面から前記第1電極の方向に3nmの深さから前記第1電極の方向にさらに3nm深いところまでの領域の平均Zn濃度を第2Zn濃度とし、
前記光電変換層と前記n型層の界面から前記第1電極の方向に3nmの深さまでの領域の平均Si濃度を第1Si濃度とし、
前記光電変換層と前記n型層の界面から前記第1電極の方向に3nmの深さから前記第1電極の方向にさらに3nm深いところまでの領域の平均Si濃度を第2Si濃度とし、
前記第1Zn濃度、前記第2Zn濃度、前記第1Si濃度及び前記第2Si濃度は、[第1Zn濃度]>[第1Si濃度]、[第2Zn濃度]>[第2Si濃度]、[第1Zn濃度]>[第2Zn濃度]及び[第1Si濃度]>[第2Si濃度]を満たす請求項1に記載の太陽電池。
【請求項4】
前記光電変換層と前記n型層の界面から前記第1電極の方向に3nmの深さまでの領域の平均Zn濃度を第1Zn濃度とし、
前記光電変換層と前記n型層の界面から前記第1電極の方向に3nmの深さから前記第1電極の方向にさらに3nm深いところまでの領域の平均Zn濃度を第2Zn濃度とし、
前記光電変換層と前記n型層の界面から前記第1電極の方向に3nmの深さまでの領域の平均Si濃度を第1Si濃度とし、
前記光電変換層と前記n型層の界面から前記第1電極の方向に3nmの深さから前記第1電極の方向にさらに3nm深いところまでの領域の平均Si濃度を第2Si濃度とし、
前記第1Zn濃度、前記第2Zn濃度、前記第1Si濃度及び前記第2Si濃度は、3([第1Zn濃度]/[第1Si濃度])≦([第2Zn濃度]/[第2Si濃度])を満たす請求項1ないし3のいずれか1項に記載の太陽電池。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項に記載の太陽電池を用いた多接合型太陽電池。
【請求項6】
請求項1ないし4のいずれか1項に記載の太陽電池を用いた太陽電池モジュール。
【請求項7】
請求項6に記載の太陽電池モジュールを用いて発電する太陽光発電システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
実施形態は太陽電池、多接合型太陽電池、太陽電池モジュール及び太陽光発電システムに関する。
【背景技術】
【0002】
高効率な太陽電池として多接合型(タンデム)太陽電池がある。タンデム太陽電池は、波長帯毎に分光感度が高いセルを用いることができるため、単接合よりも高効率化できる。またタンデム太陽電池のトップセルとして、安価な材料でかつバンドギャップが広い亜酸化銅化合物などが期待されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】Hideo Hosono et al. PNAS., 14 (2017) 223
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
実施形態は、特性を向上させた太陽電池、多接合型太陽電池、太陽電池モジュール及び太陽光発電システムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態の太陽電池は、透明な第1電極と、第1電極上に亜酸化銅を主体とする光電変換層と、光電変換層上にZn及びSiを含む金属酸化物層であるn型層と、n型層上に透明な第2電極とを有する。金属酸化物層は、ZnSiで表される化合物で構成された層であり、x及びyは、0.90≦x+y≦1.00を満たし、yは、0.10≦y≦0.50を満たし、zは、0.00≦z≦0.30を満たし、wは、0.90≦w≦1.10を満たし、Mは、B、Al、Ga、In及びGeからなる群から選ばれる1種以上の元素である。光電変換層中に含まれるZn濃度は、光電変換層中に含まれるSi濃度よりも高い。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】実施形態の太陽電池の断面概念図。
図2】実施形態の太陽電池の分析スポットを説明する図。
図3】実施形態の多接合太陽電池の断面概念図。
図4】実施形態の太陽電池モジュールの概念図。
図5】実施形態の太陽電池モジュールの断面概念図。
図6】実施形態の太陽光発電システムの概念図。
図7】実施形態の車両の概念図。
【発明を実施するための形態】
【0007】
(第1実施形態)
第1実施形態は、太陽電池に関する。図1に、第1実施形態の太陽電池100の概念図を示す。図1に示すように、本実施形態に係る太陽電池100は、第1電極1と、第1電極1上に光電変換層2と、光電変換層2上にn型層3と、n型層3上に第2電極4と、を備える。第1電極1と光電変換層2との間やn型層3と第2電極4との間には、図示しない中間層が含まれていてもよい。光は第1電極1側から入射しても第2電極4側から入射してもよい。光が太陽電池100に入射して発電することができる。
【0008】
(第1電極)
実施形態の第1電極1は、光電変換層2側に設けられた透明な導電層である。図1では、第1電極1は、光電変換層2と直接接している。第1電極1としては、透明導電膜、金属膜と透明導電膜と金属膜を積層したものが好ましい。透明導電膜としては、酸化インジウムスズ(Indium Tin Oxide;ITO)、アルミニウムドープ酸化亜鉛(Al-doped Zinc Oxide;AZO)、ボロンドープ酸化亜鉛(Boron-doped Zinc Oxide;BZO)、ガリウムドープ酸化亜鉛(Gallium-doped Zinc Oxide;GZO)、フッ素ドープ酸化スズ(Fluorine-doped Tin Oxide;FTO)、アンチモンドープ酸化スズ(Antimony-doped Tin Oxide;ATO)、チタンドープ酸化インジウム(Titanium-doped Indium Oxide;ITiO)、酸化インジウム酸化亜鉛(Indium Zinc Oxide;IZO)や酸化インジウムガリウム亜鉛(Indium Gallium Zinc Oxide;IGZO)、タンタルドープ酸化スズ(Ta-doped Tin Oxide;SnO:Ta)、ニオブドープ酸化スズ(Nb-doped Tin Oxide;SnO:Nb)、タングステンドープ酸化スズ(W-doped Tin Oxide;SnO:W)、モリブデンドープ酸化スズ(Mo-doped Tin Oxide;SnO:Mo)、フッ素ドープ酸化スズ(F-doped Tin Oxide;SnO2:F)、水素ドープ酸化インジウム(Hydrogen-doped Indium Oxide;IOH)など特に限定されない。透明導電膜は、複数の膜を持つ積層膜であってもよく、上記酸化物の他に酸化スズなどの膜が積層膜に含まれていてもよい。酸化スズなどの膜へのドーパントとしては、In、Si、Ge、Ti、Cu、Sb、Nb、F、Ta、W、Mo、F、Clなど特に限定されない。金属膜としては、Mo、Au、Cu、Ag、Al、TaやWの膜など特に限定されない。また、第1電極1は、透明導電膜上にドット状、ライン状もしくはメッシュ状の金属を設けた電極でもよい。このとき、ドット状、ライン状もしくはメッシュ状の金属は、透明導電膜と光電変換層2の間や透明導電膜の光電変換層2とは反対側に配置される。ドット状、ライン状もしくはメッシュ状の金属は、透明導電膜に対して開口率が50%以上であることが好ましい。ドット状、ライン状もしくはメッシュ状の金属は、Mo、Au、Cu、Ag、Al、TaやWなど特に限定されない。第1電極1に金属膜を用いる場合、透過性の観点から5nm以下程度の膜厚とすることが好ましい。ライン状やメッシュ状の金属膜を用いる場合、透過性は開口部で確保されるため、金属膜の膜厚に関してはこの限りではない。
【0009】
(光電変換層)
実施形態の光電変換層2は、第1電極1とn型層3の間に配置された半導体層である。光電変換層2としては、化合物半導体層が好ましい。光電変換層2としては、亜酸化銅を主体(90wt%以上)とする半導体層が挙げられる。光電変換層2は、より具体的には、p型の化合物半導体層である。光電変換層2が厚くなると透過率が低下し、また、スパッタでの成膜を考慮すると10μm以下が実用的であり、化合物半導体層としては、亜酸化銅を主体とする半導体層が好ましい。光電変換層2の厚さは、800nm以上10μm以下であることが好ましい。化合物半導体層としては、亜酸化銅等を主体とする半導体層には、添加物を含んでもよい。光電変換層2は全体としては、p型(p+型を含む)である。光電変換層2のn型層3側には、一部n型の領域が含まれてもよい。
【0010】
光電変換層2はスパッタリングによって作製する。スパッタ中の雰囲気は、Arなどの不活性ガスと酸素ガスとの混合ガス雰囲気とすることが好ましい。太陽電池100を保持する基板の種類にもよるが、基板温度を100℃以上600℃以下に加熱して、Cuを含むターゲットを用いてスパッタする。例えば、スパッタリングの温度や酸素分圧を調整することによって大粒径な亜酸化銅薄膜を第1電極1上に成膜することができる。太陽電池100を作製するために用いる基板(第1電極1を保持する基板)としては、アクリル、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレン(PP)、フッ素系樹脂(ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、パーフルオロエチレンプロペンコポリマー(FEP)、エチレンテトラフルオロエチレンコポリマー(ETFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、パーフルオロアルコキシアルカン(PFA)など)、ポリアリレート、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォンやポリエーテルイミドなどの有機系の基板やソーダライムガラス、白板ガラス、化学強化ガラスや石英などの無機系の基板を用いることができる。
【0011】
光電変換層2の95%以上は亜酸化銅で構成されていることが好ましい。光電変換層2の98%以上が亜酸化銅で構成されていることがより好ましい。つまり、光電変換層2は、CuOやCu等の異相をほとんど(実質的に)含まないことが好ましい。光電変換層2には、CuOやCuなどの異相が含まれず、実質的にCuO単相の薄膜であると、非常に高い透光性となるため好ましい。光電変換層2が実質的にCuOの単相であることは、フォトルミネッセンス法(Photo Luminescence;PL法)により測定することで確認できる。
【0012】
(n型層)
n型層3は、光電変換層2と第2電極4の間に配置されたn型の半導体層である。n型層3の光電変換層2を向く面は、光電変換層2のn型層3を向く面と直接的に接していることが好ましい。n型層3はアモルファスの薄膜であることが好ましい。n型層3は、Zn及びSiを含む金属酸化物層が好ましい。金属酸化物層(n型層3)は、ZnSiで表される化合物で構成された層であることが好ましく、x及びyは、0.90≦x+y≦1.00を満たし、zは、0.00≦z≦0.30を満たし、wは、0.90≦w≦1.10を満たし、Mは、B、Al、Ga、In及びGeからなる群から選ばれる1種以上の元素であることが好ましい。金属酸化物層は、不可避的な不純物を除き実質的にZnSiであることが好ましい。x、y、z、wがこれらの範囲にあることで良好なn型層が形成され、更にCuO膜とn型層の伝導帯の位置を好ましい範囲に収めることができる。
【0013】
亜酸化銅を主体とする光電変換層2上に設けるn型層3としては、典型的には、ZnとGeの酸化物であるZnGeOが用いられている。Geが高濃度含まれるZnGeO、例えば、Zn含有率よりもGe含有率が高いZnGeO、より具体的には0.6≦(Ge[atom%])/(Zn[atom%]+Ge[atom%])≦0.7程度のGeが含まれるZnGeOは、亜酸化銅との伝導帯下端(Conduction Band Minimum:CBM)差が少なく、高いフィルファクター(Fill Factor:FF)と高いVocが期待される。しかし、亜酸化銅を主体とする光電変換層2上にZnGeOを成膜した太陽電池は、Voc及びFFが理論値と比べると低いため、高品質な光電変換層2を用いても変換効率の向上が期待した程度ではない。
【0014】
亜酸化銅を主体とする光電変換層2上に設けるn型層3としてZn及びSiを含む金属酸化物層を用いることで、FF及びVocが向上し高い変換効率の太陽電池100が得られる。n型層3に含まれるZnの割合はSiの割合よりも多いことが好ましい。Siの含有率であるyは、0.10≦y≦0.50を満たすことが好ましい。Siの含有率が0.10未満であると変換効率の増大幅が小さいため、つまりCuO層2とn型層3の間の伝導帯の差(Conduction Band Offset)が大きいため好ましくない。また、Siの含有率が0.5より大きいとZn以上にSiがCuO側に拡散してしまい、n型層3とのpn接合に影響を与えやすくなることが考えられる。加えて、yが0.50より大きいことで、n型層3の電気伝導性が失われやすくなり、絶縁体化してしまうため好ましくない。
【0015】
光電変換層2には、ZnとSiが微量含まれる。光電変換層2に含まれるZnの濃度は、光電変換層2に含まれるSiの濃度よりも高いことが好ましい。これはCuOのn型層側の領域とn型層3とのpn接合を良好にすることができるためである。光電変換層2に含まれるZnの濃度は、Siの濃度よりも3倍以上高いことがより好ましい。Znの濃度がSiの濃度よりも高い方が、FF及びVocが高くなるため上記関係を満たすことができるため、より好ましい。
【0016】
光電変換層2において、Znは光電変換層2の深部(第1電極1側)にSiよりも多く存在していることが好ましい。光電変換層2のn型層3側の表面から第1電極1方向に向かって、例えば、6nmまでの深さの領域において、光電変換層2のn型層3との界面側に微量のZnとSiが存在していることで、光電変換層2の性質がn型層3との良好なpn接合になるように寄与している可能性がある。これらのZnとSiは、n型層3から拡散したものでもよいし、光電変換層2の成膜中に意図的に微量添加されたものでもよい。より具体的には、光電変換層2とn型層3の界面(起点)から第1電極1方向に3nmの深さ(終点)までの領域の平均Zn濃度を第1Zn濃度とし、光電変換層2とn型層3の界面から第1電極1方向に3nmの深さ(起点)から第1電極1方向にさらに3nm深いところ(終点)までの領域の平均Zn濃度を第2Zn濃度とし、光電変換層2とn型層3の界面(起点)から第1電極1方向に3nmの深さ(終点)までの領域の平均Si濃度を第1Si濃度とし、光電変換層2とn型層3の界面から第1電極1方向に3nmの深さ(起点)から第1電極1方向にさらに3nm深いところ(終点)までの領域の平均Si濃度を第2Si濃度とする。このとき、[第1Zn濃度]>[第1Si濃度]、[第2Zn濃度]>[第2Si濃度]、[第1Zn濃度]>[第2Zn濃度]及び[第1Si濃度]>[第2Si濃度]を満たす。そして、3([第1Zn濃度]/[第1Si濃度])≦([第2Zn濃度]/[第2Si濃度])を満たすことがより好ましい。界面側と深部側を比較すると、界面側のSi濃度に対するZn濃度の比率よりも深部側のSi濃度に対するZn濃度の比率が3倍以上である(大きい)ことを表している。Znの方がSiよりも光電変換層2のより深部にまで拡散していることでpn界面での再結合を抑制できるという利点がある。3([第1Zn濃度]/[第1Si濃度])≦([第2Zn濃度]/[第2Si濃度])のほうがよりpn界面での再結合を抑制できるため、より好ましい。
【0017】
上記の濃度は、エネルギー分散型X線分光法(Energy Dispersive X-ray Spectroscopy;EDX)で図1の模式図の方向の断面を切り出して、n型層3側から光電変換層2に向かって走査して求める。光電変換層2とn型層3の境界(界面)もEDXから求まる。光電変換層2とn型層3の境界は、次のようにして求める。EDXでCu濃度とZn濃度を測定し、n型層3側からCu濃度がZn濃度以上になった最も第2電極4側の位置を境界とする。測定位置は、図2の分析スポットを説明する図に示すように太陽電池100を第2電極4側から見た表面の9スポットA1~A9を定める。各スポットは、正方形状で少なくとも5mmの領域を有する。そして、図2に示すように、長さD1と幅D2(D1≧D2)とした場合、太陽電池100の幅方向に対向する2辺からそれぞれ内側にD3(=D1/10)の距離のところに仮想線を引き、太陽電池100の長さ方向に対向する2辺からそれぞれ内側にD4(=D2/10)の距離のところに仮想線を引き、さらに、太陽電池100の中心を通る幅方向に平行な仮想線を引き、太陽電池100の中心を通る長さ方向に平行な仮想線を引き、仮想線の交点9点を中心とする領域を観察スポットA1~A9とする。SEMやTEMによる観察断面は、図2の面に対して垂直方向である。なお、太陽電池100を第2電極4側からみた形状が矩形ではない場合は、内接する矩形を基準に分析スポットを定めることが好ましい。濃度は、9点の分析スポットにおける値の最大値と最小値を除く7点の分析結果の平均値とする。
【0018】
n型層3の膜厚は、典型的には、3nm以上100nm以下である。n型層3の厚さが3nm未満であるとn型層3のカバレッジが悪い場合にリーク電流が発生し、特性を低下させてしまう場合がある。カバレッジが良い場合は上記膜厚に限定されない。n型層3の厚さが50nmを超えるとn型層3の過度の高抵抗化による特性低下や、透過率低下による短絡電流低下が起こる場合がある。従って、n型層3の厚さは3nm以上20nm以下がより好ましく、5nm以上20nm以下がさらにより好ましい。
このように、n型層は薄いため、元素置換を行っても光学的な影響は小さいため、トップセルの透過率は主に光電変換層の膜質、例えばCuO膜質に依存し、良好なCuO層にn型層を適用することで高い透過率を維持し、ボトムセルの発電量を向上させることができる。その結果、トップセル効率とボトムセル効率を併せたタンデム効率として増大することが確認できる。
【0019】
n型層3は、例えば、原子層堆積法(Atomic Layer Deposition;ALD)やスパッタ法などで成膜することができる。
【0020】
光電変換層2の伝導帯下端(Conduction Band Minimum:CBM)の位置(Ecp(eV))とn型層3の伝導帯下の位置(Ecn(eV))の差である伝導帯オフセット(ΔE=Ecp-Ecn)は、-0.2eV以上0.6eV以下(-0.2eV≦ΔE≦+0.6eV)であることが好ましい。伝導帯オフセットが0より大きいとpn接合界面の伝導帯が不連続となりスパイクが生じる。伝導帯オフセットが0より小さいとpn接合界面の伝導帯が不連続となりクリフが生じる。スパイク及びクリフはどちらも光生成電子の障壁となるため小さい方が好ましい。従って、伝導帯オフセットは、0.0eV以上0.4eV以下(0.0eV≦ΔE≦+0.4eV)であることがより好ましい。ただし、ギャップ内準位を利用して伝導する場合はこの限りではない。CBMの位置は、以下の手法を用いて見積もることができる。電子占有準位の評価法である光電子分光により価電子帯上端(Valence Band Maximum:VBM)を実測し、続いて測定対象の材料のバンドギャップを仮定してCBMを算出する。しかしながら、実際のpn接合界面では、相互拡散や陽イオンの空孔発生など理想的な界面を維持していないため、バンドギャップが変化する可能性が高い。このため、CBMも直接的に光電子放出の逆過程を利用する逆光電子分光により評価することが好ましい。具体的には、太陽電池表面を低エネルギーイオンエッチングと正・逆光電子分光測定の繰り返しにより、pn接合界面の電子状態を評価できる。n型層3のZnとSiの比率は、CBMの差を考慮して、上記好適な範囲内で適宜選択することができる。
【0021】
第2電極4は、第1電極1で挙げた電極と同様の透明電極を用いることが好ましい。第2電極4としては他にも金属ワイヤーを含む取出電極が設けられた多層グラフェン等の他の透明電極を採用することもできる。必要に応じて第2電極4の上に金属の補助電極を堆積させてもよい。
【0022】
(反射防止膜)
実施形態の反射防止膜は、光電変換層2へ光を導入しやすくするための膜であって、第1電極1上又は第2電極4上の光電変換層2側とは反対側に形成されていることが好ましい。反射防止膜としては、例えば、MgFやSiOを用いることが望ましい。なお、実施形態において、反射防止膜を省くことができる。各層の屈折率に応じて膜厚を調整する必要があるが、70~130nm(好ましくは、80~120nm)程度の厚さの薄膜を蒸着することが好ましい。
【0023】
(第2実施形態)
第2実施形態は、多接合型太陽電池に関する。図3に第2実施形態の多接合型太陽電池200の断面概念図を示す。図3の多接合型太陽電池200は、光入射側に第1実施形態の太陽電池(第1太陽電池)100と、第2太陽電池201を有する。第2太陽電池201の光電変換層のバンドギャップは、第1実施形態の太陽電池100の光電変換層2よりも小さいバンドギャップを有する。なお、実施形態の多接合型太陽電池は、3以上の太陽電池を接合させた太陽電池も含まれる。
【0024】
第1実施形態の太陽電池100の光電変換層2のバンドギャップが約2.0eVであるため、第2太陽電池201の光電変換層のバンドギャップは、1.0eV以上1.4eV以下であることが好ましい。第2太陽電池201の光電変換層としては、Inの含有比率が高いCIGS系、CIT系及びCdTe系、酸化銅系のうちのいずれか1種以上の化合物半導体層又は結晶シリコンであることが好ましい。
【0025】
第1実施形態に係る太陽電池100を第1太陽電池とすることで、第1太陽電池での意図しない波長域の光を吸収してしまうことによりボトムセル(第2太陽電池)の変換効率を低下させることを防ぐことができるので、効率の良い多接合型太陽電池とすることができる。
【0026】
(第3実施形態)
第3実施形態は、太陽電池モジュールに関する。図4に第3実施形態の太陽電池モジュール300の斜視概念図を示す。図4の太陽電池モジュール300は、第1太陽電池モジュール301と第2太陽電池モジュール302を積層した太陽電池モジュールである。第1太陽電池モジュール301は、光入射側であり、第1実施形態の太陽電池100を用いている。第2太陽電池モジュール302には、第2太陽電池201を用いることが好ましい。
【0027】
図5に太陽電池モジュール300の断面概念図を示す。図5では、第1太陽電池モジュール301の構造を詳細に示し、第2太陽電池モジュール302の構造は示していない。第2太陽電池モジュール302では、用いる太陽電池の光電変換層などに応じて適宜、太陽電池モジュールの構造を選択する。図5の太陽電池モジュールは、複数の太陽電池100(太陽電池セル)が横方向に並んで電気的に直列に接続した破線で囲われたサブモジュール303が複数含まれ、複数のサブモジュール303が電気的に並列もしくは直列に接続している。
【0028】
太陽電池100は、スクライブされていて、隣り合う太陽電池100は、上部側の第2電極4と下部側の第1電極1が接続している。第3実施形態の太陽電池100も第1実施形態の太陽電池100と同様に、基板10、第1電極1、光電変換層2、n型層3と第2電極4を有する。
【0029】
モジュール毎に出力電圧が異なると電圧の低い部分に電流が逆流したり、余計な熱を発生させたりすることがあるためモジュールの出力低下につながる。
【0030】
また、本願の太陽電池を用いると各波長帯に適した太陽電池を用いることができるため、トップセルやボトムセルの太陽電池を単体で用いたときと比較して効率良く発電できるようになり、モジュールの全体の出力が増大するため望ましい。
【0031】
モジュール全体の変換効率が高いと、照射された光エネルギーのうち、熱になるエネルギー割合を低くすることができる。そのためモジュール全体の温度が上昇による効率の低下を抑制することができる。
【0032】
(第4実施形態)
第4実施形態は太陽光発電システムに関する。第3実施形態の太陽電池モジュール300は、第4実施形態の太陽光発電システムにおいて、発電を行う発電機として用いることができる。実施形態の太陽光発電システムは、太陽電池モジュールを用いて発電を行うものであって、具体的には、発電を行う太陽電池モジュールと、発電した電気を電力変換する手段と、発電した電気をためる蓄電手段又は発電した電気を消費する負荷とを有する。図6に実施形態の太陽光発電システム400の構成概念図を示す。図6の太陽光発電システムは、太陽電池モジュール401(300)と、電力変換装置402と、蓄電池403と、負荷404とを有する。蓄電池403と負荷404は、どちらか一方を省略しても良い。負荷404は、蓄電池403に蓄えられた電気エネルギーを利用することもできる構成にしてもよい。電力変換装置402は、変圧や直流交流変換などの電力変換を行う回路又は素子を含む装置である。電力変換装置402の構成は、発電電圧、蓄電池403や負荷404の構成に応じて好適な構成を採用すればよい。
【0033】
太陽電池モジュール300に含まれる受光したサブモジュール301に含まれる太陽電池セルが発電し、その電気エネルギーは、コンバーター402で変換され、蓄電池403で蓄えられるか、負荷404で消費される。太陽電池モジュール401には、太陽電池モジュール401を常に太陽に向けるための太陽光追尾駆動装置を設けたり、太陽光を集光する集光体を設けたり、発電効率を向上させるための装置等を付加することが好ましい。
【0034】
太陽光発電システム400は、住居、商業施設や工場などの不動産に用いられたり、車両、航空機や電子機器などの動産に用いられたりすることが好ましい。実施形態の変換効率に優れた太陽電池を太陽電池モジュール401に用いることで、発電量の増加が期待される。
【0035】
太陽光発電システム400の利用例として車両を示す。図7に車両500の構成概念図を示す。図7の車両500は、車体501、太陽電池モジュール502、電力変換装置503、蓄電池504、モーター505とタイヤ(ホイール)506を有する。車体501の上部に設けられた太陽電池モジュール501で発電した電力は、電力変換装置503変換されて、蓄電池504にて充電されるか、モーター505等の負荷で電力が消費される。太陽電池モジュール501又は蓄電池504から供給される電力を用いてモーター505によってタイヤ(ホイール)506を回転させることにより車両500を動かすことができる。太陽電池モジュール501としては、多接合型ではなく、第1実施形態の太陽電池100を備えた第1太陽電池モジュールだけで構成されていてもよい。透過性のある太陽電池モジュール501を採用する場合は、車体501の上部に加え、車体501の側面に発電する窓として太陽電池モジュール501を使用することも好ましい。
【0036】
以下、実施例に基づき本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0037】
(実施例1)
白板ガラス基板上に、裏面側の第1電極としてITO透明導電膜、その上にSbドープしたSnO透明導電膜を堆積する。透明な第1電極上に酸素とアルゴンガスの混合ガス雰囲気中でスパッタリング法により基板を450℃で加熱して亜酸化銅化合物を成膜する。その後、原子層堆積法によりp-亜酸化銅層上にn型のZn0.9Si0.1Oを堆積する。その後表面側の第2電極としてAZO透明導電膜を堆積する。その上に金属の補助電極を堆積させる。更に反射防止膜としてMgFを堆積して太陽電池を得る。
【0038】
AM1.5Gの光源を模擬したソーラーシミュレータを用い、その光源下で基準となるSiセルを用いて1sunになるように光量を調節する。気温は25℃とする。電圧をスイープし、電流密度(電流をセル面積で割ったもの)を測定する。横軸を電圧、縦軸を電流密度とした際に、横軸と交わる点が開放電圧Vocとなり、縦軸と交わる点が短絡電流密度Jscとなる。測定曲線上において、電圧と電流密度を掛け合わせ、最大になる点をそれぞれVmpp、Jmpp(マキシマムパワーポイント)とすると、FF=(Vmpp*Jmpp)/(Voc*Jsc)
効率Eff.=Voc*Jsc*FFで求まる。
【0039】
(実施例2)
白板ガラス基板上に、裏面側の第1電極としてITO透明導電膜、その上にSbドープしたSnO透明導電膜を堆積する。透明な第1電極上に酸素とアルゴンガスの混合ガス雰囲気中でスパッタリング法により基板を450℃で加熱して亜酸化銅化合物を成膜する。その後、原子層堆積法によりp-亜酸化銅層上にn型のZn0.7Si0.3Oを堆積する。その後表面側の第2電極としてAZO透明導電膜を堆積する。その上に金属の補助電極を堆積させる。更に反射防止膜としてMgFを堆積して太陽電池を得る。実施例1と同様に、変換効率、Voc及びFFを求める。
【0040】
(実施例3)
白板ガラス基板上に、裏面側の第1電極としてITO透明導電膜、その上にSbドープしたSnO透明導電膜を堆積する。透明な第1電極上に酸素とアルゴンガスの混合ガス雰囲気中でスパッタリング法により基板を450℃で加熱して亜酸化銅化合物を成膜する。その後、原子層堆積法によりp-亜酸化銅層上にn型のZn0.59Si0.41Oを堆積する。その後表面側の第2電極としてAZO透明導電膜を堆積する。その上に金属の補助電極を堆積させる。更に反射防止膜としてMgFを堆積して太陽電池を得る。実施例1と同様に、変換効率、Voc及びFFを求める。
【0041】
(実施例4)
白板ガラス基板上に、裏面側の第1電極としてITO透明導電膜、その上にSbドープしたSnO透明導電膜を堆積する。透明な第1電極上に酸素とアルゴンガスの混合ガス雰囲気中でスパッタリング法により基板を450℃で加熱して亜酸化銅化合物を成膜する。その後、原子層堆積法によりp-亜酸化銅層上にn型のZn0.7Si0.250.05Oを堆積する。その後表面側の第2電極としてAZO透明導電膜を堆積する。その上に金属の補助電極を堆積させる。更に反射防止膜としてMgFを堆積して太陽電池を得る。実施例1と同様に、変換効率、Voc及びFFを求める。
【0042】
(実施例5)
白板ガラス基板上に、裏面側の第1電極としてITO透明導電膜、その上にSbドープしたSnO透明導電膜を堆積する。透明な第1電極上に酸素とアルゴンガスの混合ガス雰囲気中でスパッタリング法により基板を450℃で加熱して亜酸化銅化合物を成膜する。その後、原子層堆積法によりp-亜酸化銅層上にn型のZn0.7Si0.25Al0.05Oを堆積する。その後表面側の第2電極としてAZO透明導電膜を堆積する。その上に金属の補助電極を堆積させる。更に反射防止膜としてMgFを堆積して太陽電池を得る。実施例1と同様に、変換効率、Voc及びFFを求める。
【0043】
(実施例6)
白板ガラス基板上に、裏面側の第1電極としてITO透明導電膜、その上にSbドープしたSnO透明導電膜を堆積する。透明な第1電極上に酸素とアルゴンガスの混合ガス雰囲気中でスパッタリング法により基板を450℃で加熱して亜酸化銅化合物を成膜する。その後、原子層堆積法によりp-亜酸化銅層上にn型のZn0.7Si0.25Ga0.05Oを堆積する。その後表面側の第2電極としてAZO透明導電膜を堆積する。その上に金属の補助電極を堆積させる。更に反射防止膜としてMgFを堆積して太陽電池を得る。実施例1と同様に、変換効率、Voc及びFFを求める。
【0044】
(実施例7)
白板ガラス基板上に、裏面側の第1電極としてITO透明導電膜、その上にSbドープしたSnO透明導電膜を堆積する。透明な第1電極上に酸素とアルゴンガスの混合ガス雰囲気中でスパッタリング法により基板を450℃で加熱して亜酸化銅化合物を成膜する。その後、原子層堆積法によりp-亜酸化銅層上にn型のZn0.7Si0.20In0.10Oを堆積する。その後表面側の第2電極としてAZO透明導電膜を堆積する。その上に金属の補助電極を堆積させる。更に反射防止膜としてMgFを堆積して太陽電池を得る。実施例1と同様に、変換効率、Voc及びFFを求める。
【0045】
(実施例8)
白板ガラス基板上に、裏面側の第1電極としてITO透明導電膜、その上にSbドープしたSnO透明導電膜を堆積する。透明な第1電極上に酸素とアルゴンガスの混合ガス雰囲気中でスパッタリング法により基板を450℃で加熱して亜酸化銅化合物を成膜する。亜酸化銅化合物の成膜の後半にZnとSiも一緒にスパッタする。その後、原子堆層積法によりp-亜酸化銅層上にn型のZn0.6Si0.4Oを堆積する。その後表面側の第2電極としてAZO透明導電膜を堆積する。その上に金属の補助電極を堆積させる。更に反射防止膜としてMgFを堆積して太陽電池を得る。
【0046】
(実施例9)
白板ガラス基板上に、裏面側の第1電極としてITO透明導電膜、その上にSbドープしたSnO透明導電膜を堆積する。透明な第1電極上に酸素とアルゴンガスの混合ガス雰囲気中でスパッタリング法により基板を450℃で加熱して亜酸化銅化合物を成膜する。その後、原子層堆積法によりp-亜酸化銅層上にn型のZn0.95Si0.05Oを堆積する。その後表面側の第2電極としてAZO透明導電膜を堆積する。その上に金属の補助電極を堆積させる。更に反射防止膜としてMgFを堆積して太陽電池を得る。実施例1と同様に、変換効率、Voc及びFFを求める。
【0047】
(実施例10)
白板ガラス基板上に、裏面側の第1電極としてITO透明導電膜、その上にSbドープしたSnO透明導電膜を堆積する。透明な第1電極上に酸素とアルゴンガスの混合ガス雰囲気中でスパッタリング法により基板を450℃で加熱して亜酸化銅化合物を成膜する。その後、原子層堆積法によりp-亜酸化銅層上にn型のZn0.5Si0.5Oを堆積する。その後表面側の第2電極としてAZO透明導電膜を堆積する。その上に金属の補助電極を堆積させる。更に反射防止膜としてMgFを堆積して太陽電池を得る。実施例1と同様に、変換効率、Voc及びFFを求める。
【0048】
(実施例11)
白板ガラス基板上に、裏面側の第1電極としてITO透明導電膜、その上にSbドープしたSnO透明導電膜を堆積する。透明な第1電極上に酸素とアルゴンガスの混合ガス雰囲気中でスパッタリング法により基板を450℃で加熱して亜酸化銅化合物を成膜する。その後、原子層堆積法によりp-亜酸化銅層上にn型のZn0.5Ge0.3Si0.2Oを堆積する。その後表面側の第2電極としてAZO透明導電膜を堆積する。その上に金属の補助電極を堆積させる。更に反射防止膜としてMgFを堆積して太陽電池を得る。実施例1と同様に、変換効率、Voc及びFFを求める。
【0049】
(実施例12)
白板ガラス基板上に、裏面側の第1電極としてITO透明導電膜、その上にSbドープしたSnO透明導電膜を堆積する。透明な第1電極上に酸素とアルゴンガスの混合ガス雰囲気中でスパッタリング法により基板を450℃で加熱して亜酸化銅化合物を成膜する。その後、原子層堆積法によりp-亜酸化銅層上にn型のZn0.7Si0.1Al0.2Oを堆積する。その後表面側の第2電極としてAZO透明導電膜を堆積する。その上に金属の補助電極を堆積させる。更に反射防止膜としてMgFを堆積して太陽電池を得る。実施例1と同様に、変換効率、Voc及びFFを求める。
【0050】
(比較例1)
白板ガラス基板上に、裏面側の第1電極としてITO透明導電膜、その上にSbドープしたSnO透明導電膜を堆積する。透明な第1電極上に酸素とアルゴンガスの混合ガス雰囲気中でスパッタリング法により基板を450℃で加熱して亜酸化銅化合物を成膜する。その後、原子層堆積法によりp-亜酸化銅層上にn型のZn0.95Ge0.05Oを堆積する。その後表面側の第2電極としてAZO透明導電膜を堆積する。その上に金属の補助電極を堆積させる。更に反射防止膜としてMgFを堆積して太陽電池を得る。実施例1と同様に、変換効率、Voc及びFFを求める。
【0051】
(比較例2)
白板ガラス基板上に、裏面側の第1電極としてITO透明導電膜、その上にSbドープしたSnO透明導電膜を堆積する。透明な第1電極上に酸素とアルゴンガスの混合ガス雰囲気中でスパッタリング法により基板を450℃で加熱して亜酸化銅化合物を成膜する。その後、原子層堆積法によりp-亜酸化銅層上にn型のZn0.5Ge0.5Oを堆積する。その後表面側の第2電極としてAZO透明導電膜を堆積する。その上に金属の補助電極を堆積させる。更に反射防止膜としてMgFを堆積して太陽電池を得る。実施例1と同様に、変換効率、Voc及びFFを求める。
【0052】
(比較例3)
白板ガラス基板上に、裏面側の第1電極としてITO透明導電膜、その上にSbドープしたSnO透明導電膜を堆積する。透明な第1電極上に酸素とアルゴンガスの混合ガス雰囲気中でスパッタリング法により基板を450℃で加熱して亜酸化銅化合物を成膜する。その後、原子層堆積法によりp-亜酸化銅層上にn型のZn0.5Ge0.30.2Oを堆積する。その後表面側の第2電極としてAZO透明導電膜を堆積する。その上に金属の補助電極を堆積させる。更に反射防止膜としてMgFを堆積して太陽電池を得る。実施例1と同様に、変換効率、Voc及びFFを求める。
【0053】
(比較例4)
白板ガラス基板上に、裏面側の第1電極としてITO透明導電膜、その上にSbドープしたSnO透明導電膜を堆積する。透明な第1電極上に酸素とアルゴンガスの混合ガス雰囲気中でスパッタリング法により基板を450℃で加熱して亜酸化銅化合物を成膜する。その後、原子層堆積法によりp-亜酸化銅層上にn型のZn0.3Ge0.7Oを堆積する。その後表面側の第2電極としてAZO透明導電膜を堆積する。その上に金属の補助電極を堆積させる。更に反射防止膜としてMgFを堆積して太陽電池を得る。実施例1と同様に、変換効率、Voc及びFFを求める。
【0054】
(比較例5)
白板ガラス基板上に、裏面側の第1電極としてITO透明導電膜、その上にSbドープしたSnO透明導電膜を堆積する。透明な第1電極上に酸素とアルゴンガスの混合ガス雰囲気中でスパッタリング法により基板を450℃で加熱して亜酸化銅化合物を成膜する。その後、原子層堆積法によりp-亜酸化銅層上にn型のZn0.7Ge0.20In0.10Oを堆積する。その後表面側の第2電極としてAZO透明導電膜を堆積する。その上に金属の補助電極を堆積させる。更に反射防止膜としてMgFを堆積して太陽電池を得る。実施例1と同様に、変換効率、Voc及びFFを求める。
【0055】
表1に実施例及び比較例のVoc、FF及び変換効率をまとめて示す。Vocは、比較例1のVocに対して+0.1V以上である場合をAと評価し、比較例1のVocに対して+0V以上+0.1V未満である場合をBと評価し、比較例1のVocに対して+0V未満である場合をCと評価する。FFは、比較例1のFFに対して、1.03倍以上である場合をAと評価し、比較例1のFFに対して1.00倍以上1.03倍未満である場合をBと評価して、比較例1のFFに対して1.00倍未満である場合をCと評価する。変換効率は、比較例1の変換効率に対して1.1倍以上である場合をAと評価し、比較例1の変換効率に対して1.0倍以上1.1倍未満である場合をBと評価して、比較例1の変換効率に対して1.0倍未満である場合をCと評価する。
【0056】
【表1】
【0057】
実施例1-11及び比較例1-5より、Siの比率が少なすぎると、伝導帯位置の差が大きく、Vocが低くなり、Siの比率が多すぎると、n型層の電気伝導性が失われやすくなり、FFが下がることがわかる。このことから、適切なSi比率のn型層を適用することで、高いVocとFFを得ることができることがわかる。実施例5,6,12より、Al、GaはVocを高くする効果がある一方で多量に導入するとFFが下がる傾向があるため、適量導入することが望ましい。実施例7よりInはAl、Gaほどではないが、Vocを高くする効果が見える。実施例11よりGeは少量ではVocの増大幅が小さいものの、一定量を超えるとVocが大きくなる傾向が見える。実施例10-12は比較例と比較して、伝導帯オフセットの差が減少したため、Vocの増大幅がさらに大きくなった。そのため、比較例よりも効率が改善していることがわかる。
明細書中、一部の元素は、元素記号のみで表している。
【0058】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は上記実施形態そのままに限定解釈されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより種々の発明を形成することができる。例えば、変形例の様に異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせても良い。
【符号の説明】
【0059】
100…太陽電池(第1太陽電池、トップセル)、1…第1電極、2…光電変換層、3…n型層、4…第2電極、200…多接合型太陽電池、201…第2太陽電池(ボトムセル)、300…太陽電池モジュール、301第1太陽電池モジュール、302…第2太陽電池モジュール、10…基板、303…サブモジュール、400…太陽光発電システム、401…太陽電池モジュール、402…電力変換装置、403…蓄電池、404…負荷、500…車両、501…車体、502…太陽電池モジュール、503…電力変換装置、504…蓄電池、505…モーター、506…タイヤ(ホイール)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7