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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-06
(45)【発行日】2023-11-14
(54)【発明の名称】光学ガラス、プリフォーム及び光学素子
(51)【国際特許分類】
   C03C 3/062 20060101AFI20231107BHJP
   C03C 3/078 20060101ALI20231107BHJP
   G02B 1/00 20060101ALI20231107BHJP
【FI】
C03C3/062
C03C3/078
G02B1/00
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019123506
(22)【出願日】2019-07-02
(65)【公開番号】P2021008379
(43)【公開日】2021-01-28
【審査請求日】2022-04-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000128784
【氏名又は名称】株式会社オハラ
(74)【代理人】
【識別番号】100137589
【弁理士】
【氏名又は名称】右田 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100160864
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 政治
(74)【代理人】
【識別番号】100158698
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 基樹
(72)【発明者】
【氏名】荻野 道子
【審査官】有田 恭子
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-105703(JP,A)
【文献】特開2019-064898(JP,A)
【文献】特開2011-213554(JP,A)
【文献】国際公開第2018/221678(WO,A1)
【文献】特開2019-112242(JP,A)
【文献】国際公開第2018/037797(WO,A1)
【文献】特開2019-034874(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 1/00-14/00
INTERGLAD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カチオン%(モル%)表示で、
3+を5.0%以下、
Na16.63%以上、
Nb5+を0%超、
Ti4+を5.0%未満、
Zn2+を28%未満、
Liを0超18.42%以下、
Si4+を20%超、
含有し、
カチオン成分の含有量の比(Li+Na+K)/Si4+が1.005以下で、
赤外域(2700nm)の透過率が55%以上であり、
屈折率(n)が1.87000以下、アッベ数(ν)が39.5未満である光学ガラス。
【請求項2】
カチオン比Ti4+/(Li+Na+K)が1.50以下、カチオン比Nb5+/(Li+Na+K)が1.50以下の範囲であることを特徴とする請求項1に記載の光学ガラス。
【請求項3】
カチオン比(Ti4++Zr4+)/Si4+が1.5以下、カチオン比(Ti4++Nb5+)/Si4+が1.0以下の範囲であることを特徴とする請求項1又は2に記載の光学ガラス。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載の光学ガラスからなるリヒートプレス用光学ガラス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学ガラス及び光学素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、赤外線を用いた技術に対する関心が高まっている。従来の赤外線の応用分野は航空・宇宙等の特殊用途、または人感センサのような簡易なものに限られていた。これに対し、現在は高性能の赤外線センサの低コスト化が進み、赤外線が使用されるアプリケーションが拡大している状況にある。赤外線センサの使用例としては、サーモグラフィとして建物や工場設備の診断や、監視カメラに用いることでの夜間のセキュリティ強化、大気汚染を調査するガスセンサ等の用途が増えている。また、今後は自動車用のナイトビジョンとしての使用拡大も期待されている。これら様々なアプリケーションで使用される赤外線センサであるが、付随する光学系も赤外線用に設計する必要があり、用いられる光学部材には赤外域の透過率が高いことが求められる。
【0003】
上記光学系で用いることができる材料としては、例えばSi,Ge,ZnS、ZnSe、CaFおよびAl等の単結晶の他、カルコゲナイドガラス、ならびにGeO系ガラスなどが知られている。しかしながら、単結晶のような結晶物では、レンズに加工する際に、研磨成形型に限定され、非球面レンズ、レンズアレイ等の複雑な形状の光学素子を量産することは工程的及びコスト的にも困難である。また、カルコゲナイドガラスには、Se,Asなどの毒性の高い元素が多く含まれており、安全性の点で懸念があり、GeO系ガラスでは、ゲルマニウム自体が高価であるため、汎用性の高い光学系機器に用いることが容易ではない。
【0004】
また、上記光学系では、赤外線での撮影だけではなく、可視光での撮影もできることが要求されており、可視光領域での透過率が高いことも求められている。
【0005】
特許文献1には、加工性が比較的容易でプレス成型による非球面レンズ加工も可能でありながら毒性の高い元素を含まない赤外透過材料として、カルコゲン元素を主成分として含むカルコゲナイドガラスが提案されている。しかしながら、特許文献1の材料では、ゲルマニウムを用いているためコストが高く、また赤外域の透過率が低いという問題点があった。
【0006】
特許文献2には、色収差補正に好適な光学ガラスとして、B-Si成分を主体とした光学ガラスが提案されている。しかしながら、アッベ数に対する屈折率の値が高く、光学設計上はさらに低屈折率のガラスが求められていた。
【0007】
特許文献3には、短波長側の透過率性にすぐれた光学ガラスとして、B-La成分を主体とした光学ガラスが提案されている。しかしながら、屈折率に対するアッベ数の値が高く、光学設計上はさらに低いアッベ数が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2009-161374号公報
【文献】特開2016-196405号公報
【文献】特開2016-094335号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、屈折率(n)、アッベ数(ν)が所望の範囲内にありながら、短波長及び赤外域に対する透過率が高く、且つ耐失透性が高い光学ガラスを安価に得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意試験研究を重ねた結果、ガラスフォーマー成分において、Si4+とB3+を調整することで赤外域(2700nm)の透過率が55%以上になることを見出し、更にSi4+、Ti4+、Nb5+の含有量を調整することで可視域の透過率が高く、高屈折率、且つ高分散領域のガラスを安価に得ることを見出した。
【0011】
(1)カチオン%(モル%)表示で、
Nb5+を0%超、Ti4+を20.0%以下、Zn2+を28%未満、Liを52%以下、Si4+を20%超、含有し、
赤外域(2700nm)の透過率が55%以上であり、
屈折率(n)が1.87000以下、アッベ数(νd)が39.5未満である光学ガラス。
【0012】
(2)カチオン比Ti4+/(Li+Na+K)が1.0以下、カチオン比Nb5+/(Li+Na+K)が1.0以下の範囲であることを特徴とする(1)に記載の光学ガラス。
【0013】
(3)カチオン比(Ti4++Zr4+)/Si4+が1.0以下、カチオン比(Ti4++Nb5+)/Si4+が1.0以下の範囲であることを特徴とする(1)又は(2)に記載の光学ガラス。
【0014】
(4)(1)~(3)のいずれかに記載の光学ガラスからなるリヒートプレス用光学ガラス。
【0015】
本発明によれば、屈折率(n)、アッベ数(ν)が所望の範囲内にありながら、可視域及び赤外域に対する透過率が高く、且つ耐失透性が高い光学ガラスを安価に得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の光学ガラスの実施形態について詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施できる。なお、説明が重複する箇所については、適宜説明を省略する場合があるが、発明の趣旨を限定するものではない。
【0017】
[ガラス成分]
本発明の光学ガラスを構成する各成分について説明する。
本明細書中において、各成分の含有率は特に断りがない場合は、全てモル比に基づくカチオン%で表示されるものとする。ここで、「カチオン%」(以下、「カチオン%(モル%)」と表記することがある)は、本発明の光学ガラスのガラス構成成分をカチオン成分及びアニオン成分に分離し、それぞれにおいて合計割合を100モル%として、ガラス中に含有される各成分の含有率を表記した組成である。
なお、各成分のイオン価は便宜的に代表値を用いているに過ぎないため、他のイオン価のものと区別するものではない。光学ガラス中に存在する各成分のイオン価は、代表値以外である可能性がある。例えば、Bは、通常イオン価が3価の状態でガラス中に存在するので、本明細書中では「B3+」と表しているが、他のイオン価の状態で存在する可能性がある。このように、厳密には他のイオン価の状態で存在するものであっても、本明細書では、各成分が代表値のイオン価でガラス中に存在するものとして扱う。
【0018】
<必須成分、任意成分について>
Si4+は、安定なガラス形成を促し、光学ガラスとして好ましくない失透(結晶物の発生)を低減する必須成分である。
特に、Si4+の含有量を20.0%超にすることで、赤外域(2700nm)の透過率及びλの透過率を悪化させることなく、耐失透性に優れたガラスを得られる。また、失透や着色を低減できる。従って、Si4+の含有量は、好ましくは20.0%超、より好ましくは24.0%以上、さらに好ましくは29.0%以上、さらに好ましくは32%以上を下限とする。
他方で、Si4+の含有量を68.0%以下にすることで、屈折率が低下し難くなることで所望の高屈折率を得易くできる。また、これによりガラス原料の熔解性の低下を抑えられる。従って、Si4+の含有量は、好ましくは68.0%以下、より好ましくは63.0%以下、さらに好ましくは58.0%以下、最も好ましくは55.0%以下を上限とする。
【0019】
Nb5+は、屈折率を高め、高分散化させ、且つ赤外域(2700nm)の透過率及びλの透過率を悪化させない必須成分である。
特に、Nb5+の含有量を0%超にすることで、目的の光学恒数まで屈折率を高くして本発明の範囲の成分内で調整することでλの透過率を改善することができる。従って、Nb5+の含有量は、好ましくは0%超、より好ましくは3.0%以上、さらに好ましくは8.0%以上、さらに好ましくは11.0%以上を下限とする。
他方で、Nb5+の含有量を37.0%%以下にすることで、相対屈折率の温度係数を小さくし、ガラスの材料コストを低減できる。さらに、ガラスの失透を低減させることができる。従って、Nb5+の含有量は、好ましくは37.0%以下、より好ましくは32.0%以下、さらに好ましくは27.0%以下、最も好ましくは24.0%以下を上限とする。
【0020】
Ti4+は、屈折率を高め、アッベ数を低くする任意成分である。従って、Ti4+は、好ましくは0%超、より好ましくは0.5%以上、最も好ましくは0.8%以上を下限とすることが好ましい。
一方で、Ti4+は、多量に含有するとλの透過率を悪化する。また、Ti4+の含有量を20.0%以下にすることで、ガラスの着色を低減でき、内部透過率を高められる。また、これによりλの透過率を改善することができる。従って、Ti4+の含有量は、好ましくは20.0%以下、より好ましくは15.0%以下、さらに好ましくは10.0%以下、さらに好ましくは7.0%以下、最も好ましくは5.0%未満を上限とする。
【0021】
カチオン成分の含有量の比(Ti4++Nb5+)/Si4+は、0超である場合に、所望の屈折率及びアッベ数を維持することができる。さらにそれらの比率を調整することで、赤外域(2700nm)の透過率及びλの透過率を悪化させることがなく、広範囲で透過率が良いガラスを得ることができる。
従って、カチオン成分の含有量の比(Ti4++Nb5+)/Si4+は、好ましくは0超、より好ましくは0.1以上、さらに好ましくは0.2以上、最も好ましくは0.4以上を下限とする。
他方で、カチオン成分の含有量の比(Ti4++Nb5+)/Si4+を1.5以下とすることによって、ガラスの着色を低減でき、λの透過率を改善させることができ、内部透過率を高められる。従って、カチオン成分の含有量の比(Ti4++Nb5+)/Si4+は、好ましくは1.5以下、より好ましくは1.0以下、さらに好ましくは0.85以下、最も好ましくは0.72%以下を上限とする。
【0022】
Zr4+は、0%超を含有する場合に、ガラスの屈折率及びアッベ数を高め、λの透過率を改善させることができる任意成分である。従って、Zr4+は、好ましくは0%超、より好ましくは0.5%以上、最も好ましくは1.0%以上を下限としてもよい。
他方で、ZrO成分の含有量を20.0%以下にすることで、失透を低減でき、且つ、より均質なガラスを得易くなる。従って、Zr4+の含有量は、好ましくは20.0%以下、より好ましくは15.0%以下、より好ましくは10.0%以下、最も好ましくは7.0%以下を上限とする。
【0023】
カチオン成分の含有量の比(Ti4++Zr4+)/Si4+は、0超である場合に、ガラスの失透性を改善させ、且つ赤外域(2700nm)の透過率を改善させることができる。さらに所望の屈折率及びアッベ数を維持することができる。従って、カチオン成分の含有量の比(Ti4++Zr4+)/Si4+は、好ましくは0超、より好ましくは0.01以上、さらに好ましくは0.05以上、最も好ましくは0.07以上を下限とする。
他方で、カチオン成分の含有量の比(Ti4++Zr4+)/Si4+を1.00以下とすることによって、ガラス成形時の耐失透性を向上させ、さらにリヒートプレス時の失透を低減することができる。従って、カチオン成分の含有量の比(Ti4++Zr4+)/Si4+は、好ましくは1.00以下、より好ましくは0.80以下、さらに好ましくは0.50以下、最も好ましくは0.25以下を上限とする。
【0024】
Rn(式中、RnはLi、Na、Kからなる群より選択される1種以上)は、含有量の和が、0%超含有する場合に、ガラスの安定性を向上することができ、且つλの透過率を改善させることができる必須成分である。従って、Rnの和は、好ましくは0%超、より好ましくは14.0%以上、より好ましくは19.0%以上、さらに好ましくは24.0%以上、最も好ましくは27.0%以上を下限とする。
他方で、Rn(式中、RnはLi、Na、Kからなる群より選択される1種以上)の含有量の和は、68.0%以下とすることで、屈折率の低下を抑えられ、且つ過剰な含有による失透を低減できる。従って、好ましくは68.0%以下、より好ましくは63.0%以下、さらに好ましくは58.0%以下、最も好ましくは55.0%以下を上限とする。
【0025】
Liは、0%超含有する場合に、λの透過率を改善させることができる任意成分である。従って、Liの含有量は、好ましくは0%超、より好ましくは0.5%以上、より好ましくは1.0%以上を下限としてもよい。
他方で、Liの含有量を52.0%以下にすることで、且つ過剰な含有による失透を低減でき、リヒートプレスの失透性も低減できる。
従って、Liの含有量は、好ましくは52.0%以下、より好ましくは47.0%以下、さらに好ましくは42.0%以下、さらに好ましくは39.0%以下、さらに好ましくは34.0%以下、最も好ましくは31.0%以下を上限とする。
【0026】
Naは、0%超含有する場合に、ガラス原料の熔融性を高められ、λの透過率を改善させることができ、熱膨張係数を大きくし、且つ相対屈折率の温度係数を小さくする任意成分である。従って、Naの含有量は、好ましくは0%超、より好ましくは4.0%以上、最も好ましくは7.0%以上を下限とする。
他方で、Naの含有量を43.0%以下にすることで、屈折率の低下を抑えられ、且つ過剰な含有による失透を低減できる。
従って、Naの含有量は、好ましくは43.0%以下、より好ましくは38.0%以下、さらに好ましくは33.0%以下、最も好ましくは30%以下を上限とする。
【0027】
は、0%超含有する場合に、ガラス原料の熔融性を高められ、着色を低減する任意成分である。
他方で、Kの含有量を21.0%以下にすることで、λの透過率を改善させることができ、屈折率の上昇を抑え、失透を低減できる。従って、Kの含有量は、好ましくは21.0%以下、より好ましくは16.0%以下、さらに好ましくは11.0%以下、さらに好ましくは8.0%以下、さらに好ましくは6.0%以下、最も好ましくは3.0%以下を上限とする。
【0028】
カチオン成分の含有量の比Ti4+/(Li+Na+K)は、0超である場合に、所望の屈折率及びアッベ数を維持することができる。
他方で、カチオン成分の含有量の比Ti4+/(Li+Na+K)を1.50以下とすることによって、耐失透性を高めることができ、λの透過率を改善させることができ、内部透過率を高められる。従って、カチオン成分の含有量の比Ti4+/(Li+Na+K)は、好ましくは1.50以下、より好ましくは0.60以下、さらに好ましくは0.40以下、最も好ましくは0.20%以下を上限とする。
【0029】
カチオン成分の含有量の比Nb5+/(Li+Na+K)は、0超である場合に、所望の屈折率及びアッベ数を維持することができ、且つ可視域領域の透過率を全体的に改善することができる。従って、カチオン成分の含有量の比Nb5+/(Li+Na+K)は、好ましくは0超、より好ましくは0.1以上、さらに好ましくは0.25以上、最も好ましくは0.45以上を下限とする。
他方で、カチオン成分の含有量の比Nb5+/(Li+Na+K)を1.50以下とすることによって、耐失透性を高めることができ、λの透過率を改善させることができ、内部透過率を高められる。従って、カチオン成分の含有量の比Nb5+/(Li+Na+K)は、好ましくは1.50以下、より好ましくは1.00以下、さらに好ましくは0.85以下、最も好ましくは0.65%以下を上限とする。
【0030】
カチオン成分の含有量の比(Li+Na+K)/Si4+は、0超である場合に、ガラスの熔融性を向上させ、λの透過率を改善させることができ、失透を低減することができる。さらに、赤外域(2700nm)の透過率を改善させることができる。従って、カチオン成分の含有量の比(Li+Na+K)/Si4+は、好ましくは0超、より好ましくは0.10以上、さらに好ましくは0.25以上、最も好ましくは0.45以上を下限とする。
他方で、カチオン成分の含有量の比(Li+Na+K)/Si4+を2.30以下とすることによって、化学的耐久性を高められる。従って、カチオン成分の含有量の比(Li+Na+K)/Si4+は、好ましくは2.30以下、より好ましくは1.80以下、さらに好ましくは1.4以下、さらに好ましくは1.005以下さらに好ましくは0.85以下、最も好ましくは0.65%以下を上限とする。
【0031】
2+(式中、R2+はMg、Ca、Sr、Baからなる群より選択される1種以上)はガラスの安定性を向上することができる任意成分である。
他方で、R2+(式中、R2+はMg、Ca、Sr、Baからなる群より選択される1種以上)の含有量の和は、20.0%以下とすることで、化学的耐久性の低下及び低分散化が抑えられ、且つ過剰な含有による失透を低減できる。従って、好ましくは20.0%以下、より好ましくは15.0%以下、さらに好ましくは8.0%以下、さらに好ましくは3.0%以下、最も好ましくは1.0%以下を上限とする。
【0032】
Mg2+は、化学的耐久性を改善でき低比重化することができる任意成分である。
他方で、Mg2+の含有量を20.0%以下にすることで、高分散化及び屈折率の低下を抑制しつつ、失透を低減できる。従って、Mg2+の含有量は、好ましくは20.0%以下、より好ましくは15.0%以下、さらに好ましくは8.0%以下、さらに好ましくは3.0%以下、最も好ましくは1.0%以下を上限とする。
【0033】
Ca2+は、ガラスの安定性を向上することができ、且つ低比重化することができる任意成分である。
他方で、Ca2+成分の含有量を20.0%以下にすることで、化学的耐久性を改善させ、屈折率の低下を抑えることができる。従って、Ca2+の含有量は、好ましくは20.0%以下、より好ましくは15.0%以下、さらに好ましくは8.0%以下、さらに好ましくは3.0%以下、最も好ましくは1.0%以下を上限とする。
【0034】
Sr2+は、ガラスの安定性を向上することができる任意成分である。
他方で、Sr2+の含有量を20.0%以下にすることで、高分散化及びλの透過率の悪化及び化学的耐久性悪化を抑えられる。従って、Sr2+の含有量は、好ましくは20.0%以下、より好ましくは15.0%以下、さらに好ましくは8.0%以下、さらに好ましくは3.0%以下、最も好ましくは1.0%以下を上限とする。
【0035】
Ba2+は、屈折率を高められることができる任意成分である。
他方で、Ba2+の含有量を20.0%以下にすることで、高分散化及び高比重化及び化学的耐久性悪化が抑えられ、且つリヒートプレス時の失透を低減できる。従って、Ba2+の含有量は、好ましくは20.0%以下、より好ましくは15.0%以下、さらに好ましくは8.0%以下、さらに好ましくは3.0%以下、最も好ましくは1.0%以下を上限とする。
【0036】
3+は、0%超含有する場合に、安定なガラス形成を促し、また液相温度を下げることができ、耐失透性を高められ、且つガラス原料の熔解性を高められる任意成分である。従って、B3+は、好ましくは0%超、より好ましくは0.5%以上、最も好ましくは1.0%以上を下限としてもよい。
他方で、B3+の含有量を20.0%以下とすることで、赤外域の透過率を大幅に改善させることができ、λの透過率を改善させることができる。さらに屈折率の低下を抑えられ、且つ化学的耐久性の悪化を抑えられる。従って、B3+の含有量は、好ましくは20.0%以下、より好ましくは15.0%以下、さらに好ましくは11.0%以下を上限とする。
さらに、B3+の含有量を5.0%以下にすることで赤外域における透過率を向上させることができる。従って、B3+の含有量は、好ましくは5.0%以下、より好ましくは3.0%以下、さらに好ましくは1.0%、さらに好ましくは0.5%、最も好ましくは0.1%以下を下限とする。
【0037】
Zn2+は、安価であり且つ高分散側へ調整することができる任意成分である。Zn2+の含有量を28.0%未満にすることで、失透や着色を低減することができる。従って、Zn2+の含有量は、好ましくは28.0%未満、より好ましくは18.0%以下、さらに好ましくは10.0%以下、さらに好ましくは8.0%以下、さらに好ましくは3.0%以下、最も好ましくは1.0%以下を上限とする。
【0038】
カチオン成分の含有量の和(La3++Gd3++Y3++Yb3+)は、0%超含有する場合に、屈折率を高め、且つλの透過率を改善させることができる。
他方で、カチオン成分の含有量の和(La3++Gd3++Y3++Yb3+)を15.0%以下にすることで、アッベ数の上昇を抑えられ、失透を低減できる。従って、カチオン成分の含有量の和(La3++Gd3++Y3++Yb3+)は、好ましくは15.0%以下、より好ましくは8.0%以下、さらに好ましくは3.0%以下、最も好ましくは1.0%以下を上限とする。
【0039】
La3+、Gd3+、Y3+及びYb3+は、少なくともいずれかを含有することで、屈折率を高め、且つλの透過率を改善させることができる。
特に、La3+、Gd3+、Y3+及びYb3+のそれぞれの含有量を15.0%以下にすることで、高分散化が抑えられ、失透を低減できる。従って、La3+、Gd3+、Y3+及びYb3+のそれぞれの含有量は、好ましくは15.0%以下、より好ましくは8.0%以下、さらに好ましくは3.0%以下、最も好ましくは1.0%以下を上限とする。
【0040】
Ta5+は、0%超含有する場合に、屈折率を高め、アッベ数及び部分分散比を下げ、且つ耐失透性を高められる任意成分である。Ta5+の含有量を15.0%以下にすることで、希少鉱物資源であるTa5+の使用量が減り、且つガラスがより低温で熔解し易くなるため、ガラスの生産コストを低減できる。また、これによりTa5+の過剰な含有によるガラスの失透を低減できる。従って、Ta5+分の含有量は、好ましくは15.0%以下、より好ましくは8.0%以下、さらに好ましくは3.0%以下、最も好ましくは1.0%以下を上限とする。特に、ガラスの材料コストを低減させる観点では、Ta5+を含有しなくてもよい。
【0041】
6+は、屈折率を高めて且つガラス原料の熔解性を高められる任意成分である。W6+の含有量を15.0%以下にすることで、λの透過率の悪化を改善でき、且つ、ガラスの着色を低減して内部透過率を高められ、失透性悪化を防止して、材料コストを低減させることができる。従って、W6+の含有量は、好ましくは15.0%以下、より好ましくは8.0%以下、さらに好ましくは3.0%以下、最も好ましくは1.0%以下を上限とする。
【0042】
5+は、ガラスの安定性を高められる任意成分である。P5+の含有量を15.0%以下にすることで、P5+の過剰な含有による失透を低減できる。従って、P5+の含有量は、好ましくは15.0%以下、より好ましくは8.0%以下、さらに好ましくは3.0%以下、最も好ましくは1.0%以下を上限とする。
【0043】
Ge4+は、屈折率を高め、且つ失透を低減できる任意成分である。Ge4+の含有量を15.0%以下にすることで、高価なGe4+の使用量が低減されるため、ガラスの材料コストを低減できる。従って、Ge4+の含有量は、好ましくは15.0%以下、より好ましくは8.0%以下、さらに好ましくは3.0%以下、最も好ましくは1.0%以下を上限とする。
【0044】
Al3+及びGa3+は、屈折率を高め、且つ耐失透性を向上できる任意成分である。
他方で、Al3+及びGa3+のそれぞれの含有量を15.0%以下にすることでAl3+やGa3+の過剰な含有による失透を低減できる。従って、Al3+及びGa3+のそれぞれの含有量は、好ましくは15.0%以下、より好ましくは8.0%以下、さらに好ましくは3.0%以下、最も好ましくは1.0%以下を上限とする。
【0045】
Bi3+は、屈折率を高めてアッベ数を低くでき、且つガラス転移点を低くできる任意成分である。Bi3+の含有量を15.0%以下にすることで、部分分散比を上昇し難くでき、且つ、ガラスの着色を低減して内部透過率を高めることができる。従って、Bi3+の含有量は、好ましくは15.0%以下、より好ましくは8.0%以下、さらに好ましくは3.0%以下、最も好ましくは1.0%以下を上限とする。
【0046】
Te4+は、屈折率を高め、部分分散比を低くでき、且つガラス転移点を低くできる任意成分である。Te4+の含有量を15.0%以下にすることで、ガラスの着色を低減して内部透過率を高めることができる。また、高価なTe4+の使用を低減することで、より材料コストの安いガラスを得られる。従って、Te4+の含有量は、好ましくは15.0%以下、より好ましくは8.0%以下、さらに好ましくは3.0%以下、最も好ましくは1.0%以下を上限とする。
【0047】
Sn4+は、熔解したガラスを清澄(脱泡)でき、且つガラスの可視光透過率を高められる任意成分である。Sn4+の含有量を1.0%以下にすることで、熔融ガラスの還元によるガラスの着色や、ガラスの失透を生じ難くすることができる。また、Sn4+と熔解設備(特にPt等の貴金属)との合金化が低減されるため、熔解設備の長寿命化を図ることができる。従って、Sn4+の含有量は、好ましくは1.0%以下、より好ましくは0.5%以下、さらに好ましくは0.1%以下を上限とする。
【0048】
Sb3+は、0%超含有する場合に、熔融ガラスを脱泡できる任意成分である。
他方で、Sb3+の含有量を1.0%以下にすることで、λの透過率の悪化を改善でき、過度の発泡を生じ難くでき、且つ、熔解設備(特にPt等の貴金属)との合金化を低減できる。従って、Sb3+の含有量は、好ましくは1.0%以下、より好ましくは0.5%以下、さらに好ましくは0.2%以下、最も好ましくは0.1%以下を上限とする。
【0049】
なお、ガラスを清澄し脱泡する成分は、上記のSn4+及びSb3+に限定されるものではなく、ガラス製造の分野における公知の清澄剤や脱泡剤、或いはそれらの組み合わせを用いることができる。
【0050】
<含有すべきでない成分について>
次に、本発明の光学ガラスに含有すべきでない成分、及び含有することが好ましくない成分について説明する。
【0051】
他の成分を本願発明のガラスの特性を損なわない範囲で必要に応じ、添加できる。ただし、Ti、Zr、Nb、W、La、Gd、Y、Yb、Lu、Taを除く、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Ag及びMo等の各遷移金属成分は、それぞれを単独又は複合して少量含有した場合でもガラスが着色し、可視域の特定の波長に吸収を生じる性質があるため、特に可視領域の波長を使用する光学ガラスにおいては、実質的に含まないことが好ましい。
【0052】
また、PbO等の鉛化合物及びAs等の砒素化合物は、環境負荷が高い成分であるため、実質的に含有しないこと、すなわち、不可避な混入を除いて一切含有しないことが望ましい。
【0053】
さらに、Th、Cd、Tl、Os、Be、及びSeの各成分は、近年有害な化学物質として使用を控える傾向にあり、ガラスの製造工程のみならず、加工工程、及び製品化後の処分に至るまで環境対策上の措置が必要とされる。従って、環境上の影響を重視する場合には、これらを実質的に含有しないことが好ましい。
【0054】
[製造方法]
本発明の光学ガラスは、例えば以下のように作製される。すなわち、上記原料を各成分が所定の含有量の範囲内になるように均一に混合し、作製した混合物を白金坩堝、石英坩堝又はアルミナ坩堝に投入して粗熔融した後、金坩堝、白金坩堝、白金合金坩堝又はイリジウム坩堝に入れて1000~1400℃の温度範囲で2~5時間熔融し、攪拌均質化して泡切れ等を行った後、950~1250℃の温度に下げてから仕上げ攪拌を行って脈理を除去し、金型に鋳込んで徐冷することにより作製される。
【0055】
<物性>
本発明の光学ガラスは、高い屈折率と所定の範囲のアッベ数を有する。
本発明の光学ガラスの屈折率(n)は、好ましくは1.60000以上、より好ましくは1.64000、さらに好ましくは1.68000以上、さらに好ましくは1.70000以上を下限とする。この屈折率の上限は、好ましくは1.87000以下、より好ましくは1.85000以下、より好ましくは1.83000未満を上限とする。
本発明の光学ガラスのアッベ数(ν)は、好ましくは15.0以上、より好ましくは20.0以上、さらに好ましくは25.0以上を下限とする。他方で、本発明の光学ガラスのアッベ数(ν)は、好ましくは39.5未満、より好ましくは36.5以下、さらに好ましくは34.0以下を上限とする。
このような屈折率及びアッベ数を有する本発明の光学ガラスは光学設計上有用であり、特に高い結像特性等を図りながらも、光学系の小型化を図ることができるため、光学設計の自由度を広げることができる。
【0056】
本発明の光学ガラスは、ガラスの透過率で表すと、厚み10±0.1mmのサンプルで分光透過率5%を示す波長(λ)は、好ましくは390nm以下、より好ましくは380以下nm、さらに好ましくは370nm以下、最も好ましくは365nm以下を上限とする。
これらにより、ガラスの吸収端が紫外領域の近傍になり、可視光に対するガラスの透明性が高められるため、この光学ガラスを、レンズ等の光を透過させる光学素子に好ましく用いることができる。
【0057】
本発明の光学ガラスは、赤外域(2700nm)における透過率が高いことが好ましい。
特に、本発明の光学ガラスは、厚み10±0.1mmのサンプルに対する波長(2700nm)の透過率が、好ましくは55%以上、より好ましくは60%以上、より好ましくは65%以上、さらに好ましくは70%以上、さらに好ましくは75%以上、最も好ましくは80%以上を下限とする。
【0058】
[プリフォーム及び光学素子]
作製された光学ガラスから、例えばリヒートプレス成形や精密プレス成形等のモールドプレス成形の手段を用いて、ガラス成形体を作製できる。すなわち、光学ガラスからモールドプレス成形用のプリフォームを作製し、このプリフォームに対してリヒートプレス成形を行った後で研磨加工を行ってガラス成形体を作製したり、例えば研磨加工を行って作製したプリフォームに対して精密プレス成形を行ってガラス成形体を作製したりできる。なお、ガラス成形体を作製する手段は、これらの手段に限定されない。
【0059】
このようにして作製されるガラス成形体は、様々な光学素子に有用であるが、その中でも特に、レンズやプリズム等の光学素子の用途に用いることが好ましい。これにより、光学素子が設けられる光学系の透過光における、色収差による色のにじみが低減される。そのため、この光学素子をカメラに用いた場合は撮影対象物をより正確に表現でき、この光学素子をプロジェクタに用いた場合は所望の映像をより高精彩に投影できる。
【実施例
【0060】
本発明の実施例(No.1~No.61)及び比較例Aの組成、並びに、屈折率(n)、アッベ数(ν)、IR測定(波長2700nmおける透過率))、透過率λの結果を表1~表9に示す。なお、以下の実施例はあくまで例示の目的であり、これらの実施例にのみ限定されるものではない。
【0061】
実施例及び比較例のガラスは、いずれも各成分の原料として各々相当する酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、弗化物、メタ燐酸化合物等の通常の光学ガラスに使用される高純度の原料を選定し、表に示した各実施例及び比較例の組成の割合になるように秤量して均一に混合した後、石英製坩堝(ガラスの熔融性によっては白金坩堝、アルミナ坩堝を用いても構わない)に投入し、ガラス組成の熔融難易度に応じて電気炉で1100~1400℃の温度範囲で0.5~5時間熔解した後、白金坩堝に移して攪拌均質化して泡切れ等を行った後、1000~1200℃に温度を下げて攪拌均質化してから金型に鋳込み、徐冷してガラスを作製した。
【0062】
実施例及び比較例のガラスの屈折率(n)は、JIS B 7071-2:2018に規定されるVブロック法に準じて、ヘリウムランプのd線(587.56nm)に対する測定値で示した。また、アッベ数(ν)は、上記d線の屈折率と、水素ランプのF線(486.13nm)に対する屈折率(n)、C線(656.27nm)に対する屈折率(n)の値を用いて、アッベ数(ν)=[(n-1)/(n-n)]の式から算出した。これらの屈折率(n)、及びアッベ数(ν)は、徐冷降温速度を-25℃/hrにして得られたガラスについて測定を行うことで求めた。
【0063】
実施例及び比較例のガラスの透過率は、日本光学硝子工業会規格JOGIS02に準じて測定した。具体的には、ガラスバルク材を、対面を平行に研磨した厚さ10±0.1mmの試料とし、JOGIS02-1975に規定される方法で光線透過率(分光透過率)、λ(透過率5%時の波長)を求めた。
【0064】
実施例及び比較例のガラスの赤外域(2700nm)の透過率は、ガラスバルク材を、対面を平行に研磨した厚さ10±0.1mmの試料とし、赤外分光光度計(IR-700:日本分光社)を使い、取扱説明書に規定された方法に則って測定した。




























【0065】
【表1】

【0066】
【表2】







【0067】
【表3】







【0068】
【表4】







【0069】
【表5】







【0070】
【表6】







【0071】
【表7】







【0072】
【表8】







【0073】
【表9】
【0074】
本発明の実施例の光学ガラスは、いずれも屈折率(n)が1.60000以上であるとともに、1.87000以下であり所望の範囲内であった。
また、本発明の実施例の光学ガラスは、いずれもアッベ数(ν)が15.0以上であるとともに39.5未満であり所望の範囲内であった。
【0075】
表に表されるように、実施例の光学ガラスは、いずれも5%透過率波長(λ)が390nm以下であり、赤外域(2700nm)の透過率は55%以上であった。
【0076】
以上、本発明を例示の目的で詳細に説明したが、本実施例はあくまで例示の目的のみであって、本発明の思想及び範囲を逸脱することなく多くの改変を当業者により成し得ることが理解されよう。