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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-06
(45)【発行日】2023-11-14
(54)【発明の名称】口腔用組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/19 20060101AFI20231107BHJP
   A61K 8/63 20060101ALI20231107BHJP
   A61K 8/34 20060101ALI20231107BHJP
   A61K 8/36 20060101ALI20231107BHJP
   A61K 8/44 20060101ALI20231107BHJP
   A61K 8/02 20060101ALI20231107BHJP
   A61Q 11/00 20060101ALI20231107BHJP
   A61K 8/37 20060101ALI20231107BHJP
   A61K 8/39 20060101ALI20231107BHJP
   A61K 8/60 20060101ALI20231107BHJP
【FI】
A61K8/19
A61K8/63
A61K8/34
A61K8/36
A61K8/44
A61K8/02
A61Q11/00
A61K8/37
A61K8/39
A61K8/60
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019148618
(22)【出願日】2019-08-13
(65)【公開番号】P2021031387
(43)【公開日】2021-03-01
【審査請求日】2022-06-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高橋 典敬
(72)【発明者】
【氏名】園井 厚憲
(72)【発明者】
【氏名】西脇 圭亮
【審査官】▲高▼ 美葉子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/081877(WO,A1)
【文献】特開2017-214319(JP,A)
【文献】特開2005-289917(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K8/00-8/99
A61Q1/00-90/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の成分(A)~(F):
(A)グリチルレチン酸 0.18質量%以上0.5質量%以下
(B)炭素数12以上22以下の高級アルコール 1.5質量%以上10質量%以下
(C)ノニオン界面活性剤
(D)水
(E)炭素数16以上18以下の飽和脂肪酸 0.2質量%以上1.8質量%以下
(F)水酸化ナトリウ
並びに、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、及びヒドロキシプロピルメチルセルロースから選ばれる1種又は2種以上のヒドロキシセルロース誘導体
を含有し、成分(F)のモル量と成分(A)及び成分(E)の合計モル量との比((F)/{(A)+(E)})が0.5以上4以下であり、かつ小角X線回折により測定される格子定数が16nm以上30nm以下である、ラメラ構造を有する口腔用組成物。
【請求項2】
ヒドロキシセルロース誘導体の含有量が、0.05質量%以上2質量%以下である請求項1に記載の口腔用組成物。
【請求項3】
カルボキシビニルポリマー、及びアクリル酸/(メタ)アクリル酸アルキルコポリマーから選ばれる1種又は2種である粘結剤の含有量が、0.01質量%未満である請求項1又は2に記載の口腔用組成物。
【請求項4】
油性成分の含有量が、0.15質量%未満である請求項1~3のいずれかに記載の口腔用組成物。
【請求項5】
ストロンチウム、マグネシウム、アルミニウム、カルシウム、ジルコニウム、鉄、銅、亜鉛、及びマンガンから選ばれる多価金属の含有量が、金属原子換算量で2質量%以下である請求項1~4のいずれかに記載の口腔用組成物。
【請求項6】
25℃におけるpHが、8以上10以下である請求項1~5のいずれかに記載の口腔用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、口腔用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、口腔用組成物には、う蝕や歯周病等の各種口腔内疾患の予防や防止、改善に寄与する薬理作用を付与すべく、種々の薬効成分が用いられている。なかでも、歯茎や口腔内粘膜への薬効成分の吸着量を増大させるにあたり、特定の高級アルコールとノニオン界面活性剤を含有させて、組成物中にラメラ構造を形成させる技術を採り入れるのが有効であることが知られており、かかる技術を用いた口腔用組成物が開発されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、口臭抑制や歯肉炎の予防に有効な亜鉛化合物を用いつつ、特定の高級アルコールとノニオン界面活性剤と薬効成分とを含有した口腔用組成物が開示されており、亜鉛化合物の金属味の抑制とともに薬効成分の歯茎や口腔内粘膜への吸着量の増大を図っている。
また、特許文献2にも、油溶性薬効成分と、特定の高級アルコール及び特定のノニオン界面活性剤を含む界面活性剤とを特定量で含有した口腔用組成物が開示されており、歯茎や口腔内粘膜への油溶性薬効成分の高い吸着性を確保しながら、粘度の保存安定性を高めている。
さらに、特許文献3に開示された口腔用組成物では、油溶性薬効成分を含有しつつ、高級アルコールや香料以外の油剤と多価金属を含む研磨性粉体の含有を制限することによって、歯茎や口腔内粘膜への油溶性薬効成分の吸着量を高めている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-197198号公報
【文献】特開2017-214347号公報
【文献】特許第6096396号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方、上記特許文献に記載の組成物中において、高級アルコールの含有量が高まるにつれ、口腔内へ適用した際に香味立ちが悪くなることに加えて、油っぽい使用感となるために、組成物の使用感触や嗜好性が低下してしまうおそれがあり、これを回避するには、可能な限り高級アルコールの含有量を低減するのが好ましい。
しかしながら、上記特許文献に記載の口腔用組成物においては、グリチルレチン酸のような油溶性薬効成分は、大部分が油相中に存在しているので、高級アルコールの含有量が低減すると、油相中に存在し得るグリチルレチン酸の含有量も低減してしまう。加えて、グリチルレチン酸の大部分は油相中に非常に安定に存在しているので、歯茎への移行性が低められてしまい、その吸着量を充分に高めにくい状況にあることが、本発明者らにより判明した。
【0006】
すなわち、本発明は、組成物中に良好にラメラ構造を形成しつつ、油溶性薬効成分であるグリチルレチン酸の、歯茎や口腔内粘膜への吸着量を確実に高めることのできる口腔用組成物に関する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで本発明者らは、種々検討したところ、グリチルレチン酸とともに高級アルコール、ノニオン界面活性剤及び水を含有し、さらに飽和脂肪酸と水酸化ナトリウム等を所定の量で含有するなか、小角X線回折により測定される格子定数を限られた範囲の値とする口腔用組成物であると、グリチルレチン酸を油相中のみならず水相中にも有効に介在させて、歯茎や口腔内粘膜への吸着量を確実に高めることのできることを見出した。
【0008】
したがって、本発明は、次の成分(A)~(F):
(A)グリチルレチン酸 0.18質量%以上0.5質量%以下
(B)炭素数12以上22以下の高級アルコール 1.5質量%以上10質量%以下
(C)ノニオン界面活性剤
(D)水
(E)炭素数16以上18以下の飽和脂肪酸 0.2質量%以上2質量%以下
(F)水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、及びアルギニンから選ばれる1種又は2種以上
を含有し、かつ小角X線回折により測定される格子定数が16nm以上30nm以下である、ラメラ構造を有する口腔用組成物を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の口腔用組成物によれば、油溶性であるグリチルレチン酸が油相中のみならず水相中にも介在するため、水分が多々介在する環境の口腔内において、歯茎や口腔内粘膜へのグリチルレチン酸の吸着量を効果的に増大させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の口腔用組成物は、次の成分(A)~(F):
(A)グリチルレチン酸 0.18質量%以上0.5質量%以下
(B)炭素数12以上22以下の高級アルコール 3質量%以上10質量%以下
(C)ノニオン界面活性剤
(D)水
(E)炭素数16以上18以下の飽和脂肪酸 0.2質量%以上2質量%以下
(F)水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、及びアルギニンから選ばれる1種又は2種以上
を含有し、かつ小角X線回折により測定される格子定数が16nm以上30nm以下である、ラメラ構造を有する組成物である。
【0011】
本発明のラメラ構造を有する口腔用組成物は、小角X線回折により測定される格子定数が16nm以上30nm以下の組成物であって、従来のラメラ構造を有する組成物に比べてラメラ面間隔が拡張されており、グリチルレチン酸が通常より多く水相に存在しているラメラ面間隔を備えたラメラ構造を有するものである。
これにより、油溶性成分であるが故に油相に多く存在しがちな成分(A)のグリチルレチン酸が水相にも多く存在することとなり、口腔内に適用した際、成分(A)の歯茎や口腔内粘膜への吸着量を効果的に増大させることが可能になるものと考えられる。
【0012】
本発明の口腔用組成物は、水相を多く介在させることが可能なラメラ面間隔を備えるラメラ構造を形成する観点から、小角X線回折により測定される格子定数が、16nm以上であって、好ましくは17nm以上であり、より好ましくは18nm以上であり、30nm以下であって、好ましくは28nm以下であり、より好ましくは26nm以下である。
【0013】
本発明の口腔用組成物は、成分(A)として、グリチルレチン酸を0.18質量%以上0.5質量%以下含有する。かかる成分(A)のグリチルレチン酸は、抗炎症作用、歯槽骨吸収抑制作用、ヒスタミン遊離抑制作用等を有し、甘草等から得られるグリチルリチン酸を加水分解することにより得られる。本発明の口腔用組成物は、主として後述する成分(B)、(C)、(E)及び(F)によって、水相を多く介在させることが可能なラメラ面間隔を備えたラメラ構造を有することから、油相中だけでなく水相中にも充分な量の成分(A)が存在するため、歯茎や口腔内粘膜への成分(A)の吸着量を効果的に増大させることができる。
【0014】
成分(A)の含有量は、歯茎や口腔内粘膜への吸着量を確保する観点から、本発明の口腔用組成物中に、0.18質量%以上であって、好ましくは0.22質量%以上であり、より好ましくは0.25質量%以上である。また、成分(A)の含有量は、成分(A)の組成物中における良好な溶解性又は分散性を確保する観点から、本発明の口腔用組成物中に、0.5質量%以下であって、好ましくは0.4質量%以下であり、より好ましくは0.35質量%以下である。そして、成分(A)の含有量は、本発明の口腔用組成物中に、0.18質量%以上0.5質量%以下であって、好ましくは0.22~0.4質量%であり、より好ましくは0.25~0.35質量%である。なお、本発明におけるグリチルレチン酸の含有量とは、グリチルレチン酸が塩の形態の場合は酸換算したものをいう。
【0015】
本発明の口腔用組成物は、成分(B)として、炭素数12以上22以下の高級アルコールを1.5質量%以上10質量%以下含有する。かかる成分(B)としては、セタノール、ステアリルアルコール、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、及びベヘニルアルコールから選ばれる1種又は2種以上が挙げられる。なかでも、特異なラメラ面間隔を備えるラメラ構造の形成を確保する観点、及び組成物の良好な使用感触を確保する観点から、炭素数14以上20以下の高級アルコールが好ましく、セタノール(b1)、及びステアリルアルコール(b2)から選ばれる1種又は2種がより好ましい。
【0016】
成分(B)の含有量は、特異なラメラ面間隔を備えるラメラ構造の形成を確保する観点から、本発明の口腔用組成物中に、1.5質量%以上であって、好ましくは2.5質量%以上であり、より好ましくは3質量%以上であって、さらに好ましくは4質量%以上であり、さらに好ましくは5質量%以上であり、10質量%以下であって、好ましくは9質量%以下であり、より好ましくは8.5質量%以下であり、さらに好ましくは8.4質量%以下であり、よりさらに好ましくは8.3質量%以下である。そして、成分(B)の含有量は、本発明の口腔用組成物中に、1.5質量%以上10質量%以下であって、好ましくは2.5~9質量%であり、より好ましくは3~8.5質量%であり、さらに好ましくは4~8.4質量%であり、よりさらに好ましくは5~8.3質量%である。
【0017】
ここで、本発明の口腔用組成物が、成分(B)としてセタノール(b1)及びステアリルアルコール(b2)を含有する場合、成分(b1)の含有量と成分(b2)の含有量との質量比((b1)/(b2))は、良好に特異なラメラ面間隔を備えるラメラ構造を形成する観点から、好ましくは0.5以上であり、より好ましくは0.7以上であり、さらに好ましくは1以上であり、好ましくは10以下であり、より好ましくは8以下であり、さらに好ましくは6以下である。
また、成分(b1)及び成分(b2)以外の成分(B)を含有することができ、かかる成分として、例えばラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、ベヘニルアルコールが挙げられる。
【0018】
本発明の口腔用組成物は、成分(C)として、ノニオン界面活性剤を含有する。これにより、特異なラメラ面間隔を備えるラメラ構造を良好に形成して、成分(A)の歯茎や口腔内粘膜への高い吸着量を確保することができる。
【0019】
かかる成分(C)としては、モノカプリン酸ソルビタン、モノウンデシル酸ソルビタン、モノラウリン酸ソルビタン、モノトリデシル酸ソルビタン、モノミリスチン酸ソルビタン、モノパルミチン酸ソルビタン、モノオレイン酸ソルビタン、トリオレイン酸ソルビタン、テトラオレイン酸ソルビタン、セスキオレイン酸ソルビタン、モノステアリン酸ソルビタン、及びトリステアリン酸ソルビタン等のソルビタン脂肪酸エステル;モノラウリン酸ポリオキシエチレンソルビタン、モノミリスチン酸ポリオキシエチレンソルビタン、モノパルミチン酸ポリオキシエチレンソルビタン、モノステアリン酸ポリオキシエチレンソルビタン、及びモノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン等のポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルから選ばれる1種又は2種以上が挙げられる。
【0020】
成分(C)として、成分(A)の歯茎や口腔内粘膜への吸着性の観点からは、モノオレイン酸ソルビタン、セスキオレイン酸ソルビタン、モノステアリン酸ソルビタン、モノパルミチン酸ポリオキシエチレンソルビタン、モノステアリン酸ポリオキシエチレンソルビタン及びモノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタンから選ばれる1種又は2種以上が好ましい。なかでも、特異なラメラ面間隔を備えるラメラ構造を良好に形成する観点から、ソルビタン脂肪酸エステルとポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルとを併用するのが好ましく、なかでもモノステアリン酸ポリオキシエチレンソルビタンとモノステアリン酸ソルビタンとを併用するのがより好ましい。
【0021】
成分(C)の含有量は、特異なラメラ面間隔を備えるラメラ構造を形成して、成分(A)を水相にも油相にも良好に存在させる観点から、本発明の口腔用組成物中に、好ましくは0.2質量%以上であり、より好ましくは0.4質量%以上であり、さらに好ましくは0.5質量%以上である。また、成分(C)の含有量は、組成物の安定性を確保する観点から、本発明の口腔用組成物中に、好ましくは10質量%以下であり、より好ましくは8質量%以下であり、さらに好ましくは6質量%以下である。そして、成分(C)の含有量は、本発明の口腔用組成物中に、好ましくは0.2~10質量%であり、より好ましくは0.4~8質量%であり、さらに好ましくは0.5~6質量%である。
【0022】
本発明の口腔用組成物は、成分(D)として、水を含有する。本発明における成分(D)の水とは、口腔用組成物に直接配合した精製水等だけでなく、例えば処方する際に用いる70%ソルビトール液(水溶液)のように、配合した各成分に含まれる水分をも含む、口腔用組成物中に含まれる全水分を意味する。かかる成分(D)の水を含有することにより、口腔用組成物としての適度な粘度や良好な保形性を確保しつつ、特異なラメラ面間隔を備えるラメラ構造の形成を促進し、形成されるラメラ構造を組成物中で良好に保持しながら各成分を良好に分散又は溶解させ、かつ成分(A)を水相にも油相にも良好に存在させて、成分(A)の析出を有効に抑制することができる。
【0023】
成分(D)の含有量は、本発明の口腔用組成物中に、好ましくは30質量%以上であり、より好ましくは40質量%以上であり、さらに好ましくは50質量%以上であり、より好ましくは55質量%以上であり、好ましくは95質量%以下であり、より好ましくは92質量%以下であり、さらに好ましくは80質量%以下であり、より好ましくは70質量%以下である。そして、成分(D)の含有量は、本発明の口腔用組成物中に、好ましくは30~95質量%であり、より好ましくは40~92質量%であり、さらに好ましくは50~80質量%であり、よりさらに好ましくは55~70質量%である。
【0024】
なお、本発明の口腔用組成物の成分(D)の含有量、すなわち水分量は、配合した水分量及び配合した成分中の水分量から計算によって算出することもできるが、例えばカールフィッシャー水分計で測定することができる。カールフィッシャー水分計としては、例えば、微量水分測定装置(平沼産業社製)を用いることができる。この装置では、口腔用組成物を5gとり、無水メタノール25gにより懸濁させ、この懸濁液0.02gを分取して水分量を測定することができる。
【0025】
本発明の口腔用組成物は、成分(E)として、炭素数16以上18以下の飽和脂肪酸を0.2質量%以上2質量%以下含有する。これにより、特異なラメラ面間隔を備えるラメラ構造の形成を促進することができる。
かかる成分(E)としては、具体的には、パルミチン酸、及びステアリン酸から選ばれる1種又は2種が挙げられる。なかでも、ステアリン酸が好ましい。
【0026】
成分(E)の含有量は、特異なラメラ面間隔を備えるラメラ構造の形成を促進する観点から、本発明の口腔用組成物中に、0.2質量%以上であって、好ましくは0.5質量%以上であり、より好ましくは1.0質量%以上である。また、成分(E)の含有量は、良好な香味等の使用感を確保する観点から、本発明の口腔用組成物中に、2質量%以下であって、好ましくは1.8質量%以下であり、より好ましくは1.5質量%以下である。そして、成分(E)の含有量は、本発明の口腔用組成物中に、0.2質量%以上2質量%以下であって、好ましくは0.5~1.8質量%であり、より好ましくは1.0~1.5質量%である。
【0027】
本発明の口腔用組成物は、成分(F)として、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、及びアルギニンから選ばれる1種又は2種以上を含有する。かかる成分(F)を含有することにより、特異なラメラ面間隔を備えるラメラ構造の形成を促進し、歯茎や口腔内粘膜への吸着量を効果的に増大させることができる、特定の格子定数を有した良好なラメラ構造のα-ゲルが形成される。また、成分(E)を中和して界面活性能を持たせることもできる。
かかる成分(F)としては、風味やラメラ構造の安定性の観点から、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが好ましい。
【0028】
本発明の口腔用組成物において、特異なラメラ面間隔を備えるラメラ構造の形成を促進して、成分(A)の水相への移行性を高め、歯茎や口腔内粘膜への吸着量を効果的に増大させる観点から、成分(F)のモル量と、成分(A)及び成分(E)の合計モル量との比((F)/{(A)+(E)})は、好ましくは0.5以上であり、より好ましくは0.8以上であり、さらに好ましくは1.0以上であり、好ましくは4以下であり、より好ましくは3以下であり、さらに好ましくは2以下である。
【0029】
本発明の口腔用組成物において、カルボキシビニルポリマー、及びアクリル酸/(メタ)アクリル酸アルキルコポリマーから選ばれる1種又は2種である粘結剤の含有を制限するのが好ましい。これらの粘結剤が組成物中に存在すると、水相に存在する成分(A)の歯茎への吸着が阻害される可能性がある。
具体的には、これらカルボキシビニルポリマー、及びアクリル酸/(メタ)アクリル酸アルキルコポリマーから選ばれる1種又は2種である粘結剤の含有量は、本発明の口腔用組成物中に、好ましくは0.01質量%未満であり、より好ましくは0.005質量%以下であり、或いは、本発明の口腔用組成物は、これらの粘結剤を実質的に含有しないのが好ましい。
【0030】
本発明の口腔用組成物において、上記カルボキシビニルポリマー、及びアクリル酸/(メタ)アクリル酸アルキルコポリマーから選ばれる1種又は2種である粘結剤以外の粘結剤や粘度調整剤は含有することができる。かかる粘結剤及び粘度調整剤としては、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等のヒドロキシセルロース誘導体;カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシビニルポリマー、エチルセルロース、アルギン酸ナトリウム、カラギーナン、キサンタンガム、ポリアクリル酸ナトリウム、ペクチン、寒天、トラガントガム、アラビアガム、グアーガム、カラヤガム、ローカストビーンガム、ジェラガム、タマリドガム、サイリウムシードガム等のヒドロキシセルロース誘導体以外の粘結剤及び粘度調整剤が挙げられる。
【0031】
カルボキシビニルポリマー及びアクリル酸/(メタ)アクリル酸アルキルコポリマーから選ばれる1種又は2種である粘結剤以外の、粘結剤及び粘度調整剤の合計含有量は、本発明の口腔用組成物中に、好ましくは0.05質量%以上であり、より好ましくは0.1質量%以上であり、さらに好ましくは0.3質量%以上であり、また、良好な香味等の使用感を確保する観点から、本発明の口腔用組成物中に、好ましくは2質量%以下であり、より好ましくは1.8質量%以下であり、さらに好ましくは1.5質量%以下である。
【0032】
本発明の口腔用組成物において、特異なラメラ面間隔を備えるラメラ構造を良好に形成しつつ、成分(A)の析出をも有効に抑制する観点から、油性成分の含有を制限するのが好ましい。
かかる油性成分とは、上記成分(A)、(B)、(C)以外の油溶性を示す成分であり、かつ界面活性剤及び香料以外の油溶性を示す成分を意味し、具体的には、流動パラフィン、ワセリン、ミネラルオイル、軽質流動パラフィン、パラフィンワックス、セレシン、マイクロクリスタリンワックス、カルナバワックス、ミツロウ、スクワラン、スクワレン等の炭化水素油;ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、アジピン酸プロピル、セバシン酸ジエチル、グリセリン脂肪酸エステル等のエステル油;トリグリセライド及びこれを含むオリーブ油、ナタネ油、シア脂、米糠油等の植物油;シリコーン油;パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル等の防腐剤;油溶性殺菌剤等が挙げられる。
【0033】
これら油性成分の含有量は、本発明の口腔用組成物中に、好ましくは0.15質量%未満であり、より好ましくは0.1質量%未満であり、さらに好ましくは0.05質量%未満であり、或いは本発明の口腔用組成物は、油性成分を実質的に含有しないのが好ましい。
【0034】
また、本発明の口腔用組成物は、特異なラメラ面間隔を備えるラメラ構造を良好に形成する観点から、ストロンチウム、マグネシウム、アルミニウム、カルシウム、ジルコニウム、鉄、銅、亜鉛、及びマンガンから選ばれる多価金属の含有を制限するのが好ましい。かかる多価金属の含有量は、金属原子換算量で、本発明の口腔用組成物中に、好ましくは2質量%以下であり、より好ましくは1質量%以下であり、さらに好ましくは0.5質量%以下であり、よりさらに好ましくは0.1質量%以下であり、或いは本発明の口腔用組成物は、ストロンチウム、マグネシウム、アルミニウム、カルシウム、ジルコニウム、鉄、銅、亜鉛、及びマンガンから選ばれる多価金属を実質的に含有しないのが好ましい。
【0035】
本発明の口腔用組成物は、本発明の効果を阻害しない範囲で、上記成分以外の成分として、ソルビトール、キシリトール、エリスリトール、還元パラチノース、及びマンニトール等の糖アルコール;グリセリン等の湿潤剤;フッ化物;トコフェロール酢酸エステル等の成分(A)以外の薬効成分;成分(C)以外の界面活性剤;塩化セチルピリジニウム等の抗菌剤;香料;甘味料;色素等を含有することができる。
【0036】
本発明の口腔用組成物の25℃におけるpHは、好ましくは8以上であり、より好ましくは8.3以上であり、さらに好ましくは8.5以上であり、好ましくは10以下であり、より好ましくは9.8以下であり、さらに好ましくは9.6以下である。そして、本発明の口腔用組成物の25℃におけるpHは、好ましくは8以上10以下であり、より好ましくは8.3~9.8であり、さらに好ましくは8.5~9.6である。
【0037】
本発明の口腔用組成物の25℃における粘度は、適度な粘度を保持して、成分(A)の歯茎又は口腔内粘膜への優れた吸着性能を発揮させる観点から、好ましくは2500dPa・s以下であり、より好ましくは2200dPa・s以下であり、さらに好ましくは1900dPa・s以下であり、好ましくは200dPa・s以上であり、より好ましくは400dPa・s以上であり、さらに好ましくは600dPa・s以上である。
なお、本発明の口腔用組成物の粘度は、粘度測定用の容器に詰め、25℃の恒温器で24時間保存した後、ヘリパス型粘度計(VISCOMETER TVB-10 東機産業社製)を用いて、ロータT-C、回転数2.5rpm、1分間の条件で測定される。
【0038】
本発明の口腔用組成物は、特定の格子定数を有した良好な形態としては、塗布剤、練歯磨剤、含嗽剤、液状歯磨剤等が挙げられる。なかでも、本発明の口腔用組成物を歯茎又は口腔内粘膜へ充分に行き渡らせて、成分(A)の吸着量の増大を有効に図る観点から、塗布剤、練歯磨剤であるのが好ましい。
口腔内への適用方法は、塗布、歯ブラシによるブラッシング、又は含嗽のいずれであってもよく、指や道具を用いて歯茎などに塗り込む塗布又は歯ブラシによるブラッシングが好ましい。
【実施例
【0039】
以下、本発明について、実施例に基づき具体的に説明する。なお、表中に特に示さない限り、各成分の含有量は質量%を示す。
【0040】
[実施例1]
精製水50.0g、グリチルレチン酸0.3g及び水酸化ナトリウム0.21gを混合し、混合液Aを調製した。トコフェロール酢酸エステル2g、セタノール5g、ステアリルアルコール3g、モノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン0.5g、ステアリン酸ソルビタンB1g及びステアリン酸1.3gを混合し、混合液Bを調製した。得られた混合液Aと混合液Bとを混合したのち、グリセリン18.5g及びヒプロメロース1.5gを添加して、さらに混合した。次いで、塩化セチルピリジニウム0.05g、70%ソルビトール10g、サッカリンナトリウム0.01g、香料1.4g、及び残りの精製水を添加して、実施例1の口腔用組成物を100g得た。
得られた口腔用組成物を用い、以下の方法にしたがって各測定を行った。なお、粘度はヘリパス型粘度計(VISCOMETER TVB-10 東機産業社製)を用い、上述の方法にしたがって測定した。
その結果、実施例1の口腔用組成物は、格子定数a値が20.2nm、吸着量が2022ng/cm2、25℃におけるpHが8.9、25℃における粘度が1672dPa・sであった。
【0041】
《格子定数a値の測定》
下記に示す測定器及び条件にしたがって、測定した。
・小角X線回折の測定条件
測定器:NANO-Viwer(リガク社製)
X線のエネルギー:40kV-30mA
X線源:CuのKα線
カメラ長:1700mm
露光時間:30分
【0042】
《グリチルレチン酸の吸着量の測定》
調製してから24時間室温(25℃)で保存後の各口腔用組成物5.0gを、シリコーンシート(30mm×30mm、厚さ0.1mm)と共に、直径25mmのガラス製の筒の内部に添加し、60秒間接触させた。次いで、精製水2mLを添加して精製水とともに各口腔用組成物をピペットで吸い取った後、同様に精製水2mLを添加して吸引する作業を2回行って洗浄した。その後、さらに精製水2mLで5回洗浄後、シリコーンシートをメタノール1mLに浸漬し、ボルテックスミキサー(SHIBATA TEST TUBE MIXER TTM―1、柴田科学社製)にて30秒間振盪した後、超音波洗浄装置(ASU CLEANER ASU-3(AS ONE社製))にて30分間処理を行った。メタノール中のグリチルレチン酸の量を下記の条件によりHPLC(高速液体クロマトグラフィー)にて測定した。
【0043】
一方、グリチルレチン酸の標準液は、グリチルレチン酸をメタノールで0.67、1.35、2.71、5.43ppmに希釈したものを用いた。グリチルレチン酸の含有量は、HPLCにより測定された各標準溶液のピーク面積を基に作成した検量線を用いて算出した。
【0044】
・HPLCの測定条件
装置:SHIMADZU Prominence(LC-20AD)(島津製作所社製)
カラム:LiChroCART 125-4.0 LiChrospher100 RP-18(e)(5μm)(関東化学社製)
カラム温度:40℃
移動相:0.1w/v%リン酸含有メタノール(メタノール:水=8:2)
流量:1.0mL/min
サンプル注入量:20μL
測定波長:250nm
【0045】
《pHの測定》
各口腔用組成物10gに、新たに煮沸し冷却した水90mLを加え、よく振り混ぜた液(25℃)について、pH/ION METER F53(HORIBA社製)を用いてpHを測定した。
【0046】
[実施例2~4及び比較例1~2]
表1に示す処方の各口腔用組成物を実施例1と同様の方法にて製造し、各測定を行った。
結果を表1に示す。
【0047】
【表1】