IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ モメンティブ・テクノロジーズ・山形株式会社の特許一覧

特許7379054石英ガラスるつぼの製造方法および光学ガラス溶融用石英ガラスるつぼ
<>
  • 特許-石英ガラスるつぼの製造方法および光学ガラス溶融用石英ガラスるつぼ 図1
  • 特許-石英ガラスるつぼの製造方法および光学ガラス溶融用石英ガラスるつぼ 図2
  • 特許-石英ガラスるつぼの製造方法および光学ガラス溶融用石英ガラスるつぼ 図3
  • 特許-石英ガラスるつぼの製造方法および光学ガラス溶融用石英ガラスるつぼ 図4
  • 特許-石英ガラスるつぼの製造方法および光学ガラス溶融用石英ガラスるつぼ 図5
  • 特許-石英ガラスるつぼの製造方法および光学ガラス溶融用石英ガラスるつぼ 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-06
(45)【発行日】2023-11-14
(54)【発明の名称】石英ガラスるつぼの製造方法および光学ガラス溶融用石英ガラスるつぼ
(51)【国際特許分類】
   C30B 15/10 20060101AFI20231107BHJP
   C30B 29/06 20060101ALI20231107BHJP
   C03B 20/00 20060101ALI20231107BHJP
【FI】
C30B15/10
C30B29/06 502B
C03B20/00 H
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019181106
(22)【出願日】2019-10-01
(65)【公開番号】P2020105062
(43)【公開日】2020-07-09
【審査請求日】2021-11-30
(31)【優先権主張番号】P 2018244033
(32)【優先日】2018-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】522503458
【氏名又は名称】モメンティブ・テクノロジーズ・山形株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087642
【弁理士】
【氏名又は名称】古谷 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100082946
【弁理士】
【氏名又は名称】大西 昭広
(74)【代理人】
【識別番号】100195693
【弁理士】
【氏名又は名称】細井 玲
(72)【発明者】
【氏名】工藤 未来
【審査官】宮崎 園子
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-132534(JP,A)
【文献】特開2002-326827(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 15/10
C30B 29/06
C03B 20/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転する成形型に、化学純度分析で求めたアルミニウム濃度およびカルシウム濃度から算出したモル濃度比(Al/Ca)が15から70である原料シリカ粉を装填して、成形する工程1と、
前記成形型中にアーク電極を挿入し、該成形型内表面に堆積した原料シリカ粉層をアーク溶融してガラス化する工程2とを有し、
前記工程1において、アルミニウム濃度が55wtppm以上100wtppm以下であり、カルシウム濃度が1.2wtppm以上9.5wtppm以下であることを特徴とする石英ガラスるつぼの製造方法。
【請求項2】
化学純度分析で求めた、アルミニウム濃度が55wtppm以上100wtppm以下であり、カルシウム濃度が1.2wtppm以上9.5wtppm以下であり、
アルミニウム濃度およびカルシウム濃度から算出したモル濃度比(Al/Ca)が15から70である光学ガラス溶融用石英ガラスるつぼ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコン単結晶引き上げ用または光学ガラス溶融用の石英ガラスるつぼの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコン鋳造や光学ガラス製造のための溶融容器には、石英ガラスやカーボン製のるつぼが用いられる。例えば、太陽電池に用いられる多結晶シリコンは、るつぼ内に入れたシリコン融液をるつぼ底面から一方向に凝固させて柱状晶を形成させる方法で作製する。一方、単結晶シリコンの製造には、一般に、チョクラルスキー(CZ)法が用いられ、シリコン融液表面と種結晶との間を融液の表面張力を用いて繋ぎ、シリコン融液内の強制対流を利用して種結晶を成長させて、シリコン融液上で種結晶を反対方向に回転させながら引き上げることで、種結晶の下端にインゴット単結晶を成長させる。また、光学ガラスは、例えば、ノズルの先端から溶融ガラスを滴下して液滴状ガラスを作製し、プリフォームガラスを得るか、または、溶融ガラスを急冷鋳造して、一旦ガラスブロックを作製し、研削、研磨、洗浄してプリフォームガラスを得ることによって製造する。
【0003】
例えば、光学ガラス溶融用の石英ガラスるつぼには、天然シリカ原料が用いられる。一方、シリコン単結晶引き上げ用のるつぼでは、内層を高純度の合成石英ガラスの透明層とし、外層を内層よりも純度が低く、安価な天然石英ガラスの不透明層とすることもある。
【0004】
近年、シリコン単結晶の大口径化に伴い、1400℃以上に加熱した原料シリコン融液を長時間るつぼに収容することになり、その内表面がシリコン融液と反応して、内表面の浅い層で結晶化が起きたり、るつぼを構成する石英ガラスの粘度が低下して、るつぼに失透や変形が生じやすくなっている。また、シリコン単結晶が大口径化することで、原料シリコン融液も増量し、るつぼに対する重量負荷が大きくなり、クラックの発生や湯漏れといったるつぼの脆化が懸念されている。さらに、原料シリコン融液の増量に伴い、るつぼ自体も大型化すれば、原料シリコン融液の湯面振動も大きくなる。
【0005】
したがって、石英ガラスるつぼ、特に大型のるつぼにあっては、高温下においても変形せず、かつ、収容される原料シリコン融液の湯面振動を抑制できる強度が求められている。
【0006】
これまでに、高温下でのるつぼの変形を抑制するのに、石英原料粉にアルミニウム(Al)を添加して、石英ガラスの粘度を高め、結晶化を促進する方法が用いられている。一方、石英ガラス中のAl濃度が高くなりすぎると、るつぼの結晶化が急速に進行して、厚い結晶層が形成され、冷却時にるつぼにクラックが生じ、湯漏れを招くおそれがある。このような問題を解決するために、例えば、特許文献1では、Al濃度8.8~15wtppm、ナトリウム(Na)濃度0.1wtppm未満、カリウム(K)濃度0.2wtppm未満、およびリチウム(Li)濃度0.3~0.8wtppmであり、AlのLiに対するモル濃度比(Al/Li)が7.5以下である石英ガラス原料からなる外層を備えた石英ガラスるつぼが開示されている。Liは、結晶化抑制作用を有するため、Alによる結晶化促進作用を適度に抑制する役割を果たす。特許文献1では、AlおよびLiを所定量で含む石英ガラス原料で外層を形成することで、るつぼに優れた強度特性を付与している。
【0007】
特許文献2では、天然シリカ粉を溶融して形成した不透明な外層と、合成石英ガラスからなる透明な内層とを有する石英ガラスるつぼにおいて、内表面から0.8mmまでの深さの内層における平均Al濃度を1~20ppm、平均OH基濃度を150~300ppmに調整することで、適度にクリストバライトが発生し、その結果、長時間操業してもガラス溶出面の出現が少なく、引き上げるシリコン単結晶の歩留りが良くなること、さらには、シリコン融液表面の振動が抑えられることが開示されている。
【0008】
石英ガラス原料中の金属不純物(Al、Fe、NaおよびKなど)の含有率を100より差し引いた化学純度は、通常、原料納入時の受入検査で数値的に確認できるが、石英ガラスの失透性については、実際にるつぼを製造後、破壊検査により初めて確認される。つまり、これらの金属不純物の含有量の測定結果のみで失透性を推測することは困難であり、るつぼを破壊しなければ、使用前に失透性を判断することはできなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2014-5154号公報
【文献】特開2005-231986号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、石英ガラスるつぼの原料として、所定量のAl成分およびCa成分を含有する天然シリカ粉を使用した石英ガラスるつぼの製造方法であり、石英ガラスを適度に結晶化して、るつぼの変形およびクラックの発生を抑制し得る、低失透性の不透明石英ガラスるつぼの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の石英ガラスるつぼの製造方法は、回転する成形型に、化学純度分析で求めたアルミニウム濃度およびカルシウム濃度から算出したモル濃度比(Al/Ca)が15以上である原料シリカ粉を装填して、成形する工程1と、前記成形型中にアーク電極を挿入し、該成形型内表面に堆積した原料シリカ粉層をアーク溶融してガラス化する工程2とを有することを特徴とする。
前記工程1において、アルミニウム濃度は55wtppm以上100wtppm以下であり、前記カルシウム濃度は1.2wtppm以上9.5wtppm以下であることが好ましい。
このような組成を有する原料シリカ粉は、粘性のばらつきが小さく、該原料シリカ粉で石英ガラスるつぼを形成することにより、長時間、1400℃以上の高温下においても変形せず、また冷却時における体積変化によるクラックの発生や湯漏れを生じることのない優れた強度を有する石英ガラスるつぼが得られる。
本発明の光学ガラス溶融用石英ガラスるつぼは、化学純度分析で求めた、アルミニウム濃度が55wtppm以上100wtppm以下であり、カルシウム濃度が1.2wtppm以上9.5wtppm以下であり、アルミニウム濃度およびカルシウム濃度から算出したモル濃度比(Al/Ca)が15以上である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、石英ガラスるつぼの原料として、Al濃度およびCa濃度から算出したモル濃度比(Al/Ca)が15以上であるシリカ粉を使用することで、原料の粘性のばらつきが小さくなり、石英ガラスが適度に結晶化され、低失透でかつ強度が維持された石英ガラスるつぼを製造することができる。このような石英ガラスるつぼは、加熱時間の長時間化によるるつぼの変形やクラックの発生を抑制し、かつ、大型化しても、原料シリコン融液の湯面振動を抑制することができる。具体的には、原料である天然シリカ粉の化学純度分析におけるAl濃度が55wtppm以上100wtppm以下であり、Ca濃度が1.2wtppm以上9.5wtppm以下であり、かつ、Al/Caモル比が15以上であるとき、異常失透の抑制された石英ガラスるつぼが製造可能である。つまり、石英ガラスるつぼを破壊して失透評価をしなくても、原料段階で石英ガラスの失透性を判定できると言える。本発明によれば、原料の使用可否を判断することで、破損に繋がるような異常失透の発生を低減した石英ガラスるつぼを製造可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、比較例1の原料シリカ粉(グラフ中、失透異常(苦情)と表示)、実施例1の原料シリカ粉(グラフ中、失透異常なしと表示)、および、比較例2の原料シリカ粉(グラフ中、失透異常ありと表示)中のAl濃度(wtppm)分布(図1a)、Ca濃度(wtppm)分布(図1b)、Na濃度(wtppm)分布(図1c)、および、K濃度(wtppm)分布(図1d)を表すグラフである。
図2図2は、図1a~dの結果に基づく、Al/Naモル濃度比分布(図2a)、Al/Kモル濃度比分布(図2b)、およびAl/Caモル濃度比分布(図2c)を表すグラフである。
図3図3は、図1aおよび図2cに基づく、Al濃度(wtppm)とAl/Caモル濃度比との相関を表すグラフ(図3a)、ならびに、図1bおよび図2cに基づく、Ca濃度(wtppm)とAl/Caモル濃度比との相関を表すグラフ(図3b)およびその拡大グラフ(図3c)を表すグラフである。
【0014】
図4図4は、比較例1の石英ガラスるつぼを1500℃で100時間熱処理した後、破壊して作製した試験片(Al/Caモル濃度比:7.43)の失透状態を表す写真である。
図5図5は、比較例2の石英ガラスるつぼを1500℃で100時間熱処理した後、破壊して作製した試験片(Al/Caモル濃度比:2.44)の失透状態を表す写真である。
図6図6は、実施例1の石英ガラスるつぼを1500℃で100時間熱処理した後、破壊して作製した試験片(Al/Caモル濃度比:42.34)の失透状態を表す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の石英ガラスるつぼの製造方法は、回転する成形型に、化学純度分析で求めたアルミニウム(Al)濃度(wtppm)およびカルシウム(Ca)濃度(wtppm)から算出したモル濃度比(Al/Ca)が15以上である原料シリカ粉を装填して、成形する工程1と、前記成形型中にアーク電極を挿入し、該成形型内表面に堆積した原料シリカ粉層をアーク溶融してガラス化する工程2とを有する。すなわち、本発明は、石英ガラスるつぼを形成する原料である、天然シリカ粉中のAl濃度およびCa濃度を所定量に調整することを特徴とする。石英ガラスるつぼが、外層を構成する天然シリカ粉と、内層を構成する合成シリカ粉とで形成される場合は、外層を構成する天然シリカ粉のAl濃度およびCa濃度を所定量に調整する。
【0016】
工程1では、化学純度分析で求めたAl濃度およびCa濃度から算出したモル濃度比(Al/Ca)が15以上である原料シリカ粉を選択する。原料シリカ粉は、Al/Caが15以上であることに加えて、Al濃度が55wtppm以上100wtppm以下であり、Ca濃度を1.2wtppm以上9.5wtppm以下であることが好ましい。化学純度分析とは、具体的にはICP発光分光分析である。
【0017】
Alは、石英ガラスの結晶化を促進する作用があり、石英ガラス中に前記範囲内の濃度で含まれていることにより、Caと適度なバランスで相互作用することによって、過度に結晶化することなく、適度な結晶化の進行を維持することにより、るつぼの強度を向上させることができる。
Caは、結晶化を抑制する作用があり、石英ガラス中で、Alによる結晶化促進作用を適度に抑制する役割を果たす。
【0018】
原料シリカ粉には、AlおよびCa以外に、不可避成分として、ナトリウム(Na)、カリウム(K)およびリチウム(Li)などが含まれている。これらの不可避成分は、原料シリカ粉の製造工程のうち、アルカリ性触媒および分散剤を含む水溶液中で、金属ケイ素(Si)と水とを反応させてコロイダルシリカを得る工程で混入する。原料シリカ中のAlおよびCaのモル濃度比(Al/Ca)を15以上にすることで、コロイダルシリカの粘性のばらつきを抑えることができる。アルカリ性触媒は、Na、KまたはLiを含む金属一価水酸化物などであり、分散剤は、無機酸、有機酸またはそれらの塩(Na塩、K塩、Li塩およびアンモニウム塩など)である。シリコン単結晶引き上げ用シリカガラスるつぼに用いる原料シリカ粉中のNa濃度は0.1wtppm未満であり、K濃度は0.2wtppm未満であり、Li濃度は0.1wtppm未満である。光学ガラス溶融用シリカガラスるつぼに用いる原料シリカ粉中のNa濃度は15wtppm未満であり、K濃度は15wtppm未満であり、Li濃度は10wtppm未満である。
【0019】
なお、Na、KおよびLiとも、石英ガラスの結晶化促進作用を有しているが、いずれも1価の陽イオンとなるアルカリ金属であり、3価の陽イオンとなるAlに比べてSiとの親和性が高く、結晶化促進作用が著しいため、これらの濃度調整によって結晶化の程度を制御することは難しい。
また、アルカリ金属は、引き上げるシリコン単結晶の重大な汚染源となる。このため、るつぼの構成材料中には含まれていない方が好ましく、純化処理などの方法により精製除去してもよい。
【0020】
Alは結晶構造において、Siの位置に同形置換した際、正電荷が不足した状態となる。この部分にCaが取り込まれると、Alの電荷が拘束される。この電荷拘束された原子ペアは結晶化の起点とならない。
Al/Caモル濃度比が過大である場合、具体的には、70を超える場合、相対的にCa濃度が小さく、Si4+と同形置換したAl3+が電荷拘束される割合が低下し、その部分が結晶化の起点となりやすい。そして、Al/Caモル濃度比が大きくなるにつれて、結晶化の起点が失透核となりその個数が増加し、結晶化が促進される。特に、Al/Caモル濃度比が100を超えると、るつぼの特に底部の湾曲部において、冷却時の体積変化によりるつぼにクラックが生じたり、さらに湯漏れが起きることがある。したがって、Al/Caモル濃度比を好ましくは70以下にすることにより、電荷拘束されずに存在するAl量をわずかな量に抑え、失透核の発生が抑制されて、適度な結晶化の進行を維持することができる。
【0021】
このようなAl濃度は、原料シリカ粉中に含まれるCa濃度に対し所定量となるように、例えば、硝酸アルミニウム・9水和物(Al(NO33・9H2O)の水溶液などを原料シリカ粉中に添加して調節してもよい。
【0022】
工程1では、回転する成形型に、天然シリカ粉を装填して、回転モールド法により成形する。石英ガラスるつぼが外層および内層からなる場合は、外層形成用の天然シリカ粉を所定の層厚さで装填し、次いで、その内側に内層形成用の合成シリカ粉を所定厚さで装填して成形する。外層形成後、火炎溶融法により内層を直接堆積させて形成してもよい。
【0023】
次いで、工程2で、回転する成形型中にアーク電極を挿入し、アーク溶融してガラス化する。アーク溶融は、減圧下、具体的には真空下に行うことが好ましく、約2000℃および1時間未満の条件で行うことが好ましい。
【0024】
前記工程1および2により、厚さ10~30mm、外径22~36インチ、高さ400~900mmの石英ガラスるつぼが得られる。
得られた石英ガラスるつぼは、化学純度分析で求めた、Al濃度が55wtppm以上100wtppm以下であり、Ca濃度が1.2wtppm以上9.5wtppm以下であり、Al/Caモル濃度比が15以上である。
【0025】
なお、石英るつぼ中のAl濃度、Ca濃度、Na濃度、およびK濃度、ならびにAl/Naモル濃度比、Al/Kモル濃度比、およびAl/Caモル濃度比は、原料シリカ粉中のこれらの数値と同じとなる。
【0026】
本発明の石英ガラスるつぼの製造方法は、原料として所定量のAlおよびCaを含む天然シリカ粉を使用すること以外は、制限されるものではなく、一般的には、回転モールド法およびアーク溶融法により製造されるが、その他の公知の方法により製造してもよい。
【0027】
本発明に係る石英ガラスるつぼは、前記した原料シリカ粉を用いるため、低失透でかつ、適度に結晶化され、強度が維持されている。このような石英ガラスるつぼは、シリコン単結晶引き上げ用や光学ガラス溶融用に用いられ、長時間高温条件下に使用しても変形が抑制されることから、とりわけ、大口径のシリコン単結晶引き上げ用に好適に用いられる。
【実施例
【0028】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明は、下記実施例により制限されるものではない。
[実施例1]
ICP分析法による無機成分の含有量が、Al濃度55~100wtppm、Ca濃度1.2~9.5wtppm、Na濃度6.9~18wtppm、K濃度2.1~13wtppmである原料シリカ粉78バッチ(N=78)を使用した(図1a~d)。図2に、図1a~dの結果に基づく、Al/Naモル濃度比分布(図2a)、Al/Kモル濃度比分布(図2b)およびAl/Caモル濃度比分布(図2c)を示す。図3は、図2cの結果に基づく、Al濃度およびAl/Caのモル濃度比相関(図3a)、ならびにCa濃度およびAl/Caのモル濃度比相関(図3b)およびその拡大グラフ(図3c)である。実施例1の試料は図1~3のグラフ中、「失透異常なし」に該当する。
図3aに示すように、Al濃度55wtppm以上100wtppm以下であり、Al/Caモル濃度比が15以上の範囲内にプロットが集中していた。この結果から、Al濃度およびAl/Caモル濃度比が前記範囲内である原料シリカ粉を選択すれば、低失透の石英ガラスるつぼが製造できることが示唆された。
【0029】
次いで、前記原料シリカ粉のうち、Al/Caモル濃度比が42.34である原料シリカ粉を選択し、回転するるつぼ成形用型内に、該原料シリカ粉(Al/Caモル濃度比=42.34)を所定の厚さに装填し、回転モールド法により成形した。次いで、るつぼ成形用型内にアーク電極を挿入し、減圧アーク溶融にて約2000℃および1時間未満の条件でガラス化することにより、厚さ30mm、外径28インチ、高さ665mmの石英ガラスるつぼを作製した。
石英ガラスるつぼから、45mm×30mm×20mm厚の試験片を切り出し、大気中、1500℃で100時間熱処理し、発生した点失透を目視により観察し、結晶化を評価した。図6に示すように、いくつかの点失透が認められたが、全体として低失透であることがわかった。
なお、石英ガラスるつぼ中の無機成分の含有量は、Al濃度55~100wtppm、Ca濃度1.2~9.5wtppm、Na濃度6.9~18wtppm、K濃度2.1~13wtppmであり、原料シリカ粉中の無機成分の含有量と同じである。
【0030】
[比較例1]
ICP分析法による無機成分の含有量が、Al濃度23~58wtppm、Ca濃度3.9~38wtppm、Na濃度7.5~39wtppm、K濃度5.2~22wtppmである原料シリカ粉30バッチ(N=30)を使用した(図1a~d)。つまり、比較例1では、Al/Caモル濃度比が15未満の原料シリカ粉を使用した。
図2に、図1a~dの結果に基づく、Al/Naモル濃度比分布(図2a)、Al/Kモル濃度比(図2b)およびAl/Caモル濃度比(図2c)を示す。図3は、図2cの結果に基づく、Al濃度およびAl/Caのモル濃度比相関(図3a)、ならびにCa濃度およびAl/Caのモル濃度比相関(図3b)およびその拡大グラフ(図3c)を示す。比較例1の試料は図1~3のグラフ中、「失透異常(苦情)」に該当する。
【0031】
前記原料シリカ粉のうち、Al/Caモル濃度比が7.43である原料シリカ粉を選択し、実施例1と同様にして、石英ガラスるつぼを作製した。
得られた石英ガラスるつぼには、クラックなどによる異常失透が生じていた。次いで、前記石英ガラスるつぼから、45mm×30mm×20mm厚の試験片を切り出し、大気中、1500℃で100時間熱処理し、発生した点失透を目視により観察し、結晶化を評価した。図4に示すとおり、全体的に白濁し、異常失透を生じていることがわかった。
【0032】
[比較例2]
ICP分析法による無機成分の含有量が、Al濃度110~130wtppm、Ca濃度18~240wtppm、Na濃度11~19wtppm、K濃度10~31wtppmである原料シリカ粉26バッチ(N=26)を使用した(図1a~d)。つまり、比較例2では、Al濃度に比べてCa濃度が異常に高い原料シリカ粉を用いた。
図2に、図1a~dの結果に基づく、Al/Naモル濃度比分布(図2a)、Al/Kモル濃度比(図2b)およびAl/Caモル濃度比(図2c)を示す。図3は、図2cの結果に基づく、Al濃度およびAl/Caのモル濃度比相関(図3a)、ならびにCa濃度およびAl/Caのモル濃度比相関(図3b)およびその拡大グラフ(図3c)を示す。実施例1の試料は図1~3のグラフ中、「失透異常あり」に該当する。
【0033】
前記原料シリカ粉のうち、Al/Caモル濃度比が2.44である原料シリカ粉を選択し、実施例1と同様にして、石英ガラスるつぼを作製した。
得られた石英ガラスるつぼには、クラックなどによる異常失透が生じていた。
前記石英ガラスるつぼから、45mm×30mm×20mm厚の試験片を切り出し、大気中、1500℃で100時間熱処理し、発生した点失透を目視により観察し、結晶化を評価した。図5に示すとおり、全体的に白濁し、異常失透を生じていることがわかった。
【0034】
図4および図5のように、異常失透が発生した石英ガラスるつぼに使用した原料中のAl濃度、Ca濃度またはその他の無機成分の化学分析値に共通の傾向は確認できなかったが、Alとアルカリ元素(K、Na、Ca)のモル濃度比(図2a~2c)では、図2cに示すように異常失透した原料のAl/Caモル濃度比はどちらも15未満という傾向が確認された。そのため、Al/Caモル濃度比は15以上の原料シリカ粉を選択すれば、石英ガラスるつぼの異常失透を抑制できると考えられる。さらに、Al濃度またはCa濃度と、Al/Caモル濃度比との相関を確認した結果、図3a~3cに示すように、Al濃度が55~100wtppm(図3a)、Ca濃度が1.2~9.5wtppm(図3b)の原料シリカ粉を使用するとよいことがわかった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6