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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-06
(45)【発行日】2023-11-14
(54)【発明の名称】噴霧熱分解装置
(51)【国際特許分類】
   B05B 7/16 20060101AFI20231107BHJP
   B01J 19/00 20060101ALI20231107BHJP
   B01J 19/26 20060101ALI20231107BHJP
   B01J 2/04 20060101ALI20231107BHJP
   B05B 1/14 20060101ALI20231107BHJP
   B01D 1/18 20060101ALI20231107BHJP
   C01B 13/34 20060101ALI20231107BHJP
   B05B 7/20 20060101ALI20231107BHJP
【FI】
B05B7/16
B01J19/00 301D
B01J19/26
B01J2/04
B05B1/14 Z
B01D1/18
C01B13/34
B05B7/20
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019196684
(22)【出願日】2019-10-29
(65)【公開番号】P2021069970
(43)【公開日】2021-05-06
【審査請求日】2022-09-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】館山 雄一
(72)【発明者】
【氏名】増田 賢太
(72)【発明者】
【氏名】三崎 紀彦
(72)【発明者】
【氏名】末松 諒一
(72)【発明者】
【氏名】山崎 広樹
【審査官】山本 晋也
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-126804(JP,A)
【文献】特開2019-162608(JP,A)
【文献】特開2007-117936(JP,A)
【文献】特開2010-208917(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01B 1/00- 1/08
B01D 1/00- 8/00
B01J 2/00- 2/30;
10/00-12/02;
14/00-19/32
B05B 1/00- 3/18;
7/00- 9/08
C01B 13/00-13/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
噴霧された原料溶液を乾燥するための乾燥管と、
原料溶液から生成した乾燥粒子を熱分解するための熱分解炉
を備え、
乾燥管は、熱分解炉の一方端に2以上設置され、上下方向に延びる縦管部と、該縦管部に向かって横方向に延びる横管部とが連結した構造を有しており、
縦管部には、原料溶液を噴霧するための噴霧装置が収容されており、
横管部から縦管部へ熱風が供給される、
噴霧熱分解装置。
【請求項2】
乾燥管は、横管部と縦管部とが互いの中心軸をずらして連結されている、請求項1記載の噴霧熱分解装置。
【請求項3】
横管部が、縦管部に対して10~80°の傾斜角で連結されている、請求項1又は2記載の噴霧熱分解装置。
【請求項4】
縦管部に連結した部分の横管部の内径が、縦管部の内径よりも小さい、請求項1~3のいずれか1項に記載の噴霧熱分解装置。
【請求項5】
噴霧装置が、流体ノズルである、請求項1~4のいずれか1項に記載の噴霧熱分解装置
【請求項6】
熱分解炉が、補助熱源を有する、請求項1~5のいずれか1項に記載の噴霧熱分解装置。
【請求項7】
補助熱源が、燃焼バーナー、熱風ヒータ及び電気ヒータから選ばれる1以上である、請求項6記載の噴霧熱分解装置。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の噴霧熱分解装置を用い、原料無機化合物含有溶液のミストを噴霧装置から噴霧し、熱分解する工程を含む、無機酸化物粒子の製造方法。
【請求項9】
原料無機化合物がアルミニウム塩、チタン塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、ホウ酸塩、アルミノケイ酸塩、アルミニウムアルコキシド及びケイ酸アルコキシドから選ばれる1種又は2種以上である、請求項8記載の無機酸化物粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、噴霧熱分解装置に関する。
【背景技術】
【0002】
無機酸化物粒子の製造装置として、例えば,噴霧熱分解装置が使用されている(特許文献1、2)。この噴霧熱分解装置は、熱分解炉内に、原料溶液のミストを噴霧するための流体ノズルと、燃焼ガスを発生させるための燃焼バーナーが設置されており、熱分解炉の下方に設置された流体ノズルから上方に向けてミストを噴霧し、燃焼ガスを熱源としてミストを加熱処理することで無機酸化物粒子が製造される。そして、無機酸化物粒子は、誘引ファンによってバグフィルターに移動し、製品として回収される。流体ノズルとして、通常2流体ノズルや3流体ノズルが使用されており、大量製造においては、複数の流体ノズル、又は単数の大型ノズルが使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2001-17857号公報
【文献】特開2019-25385号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、本発明者らの検討により、従来の噴霧熱分解装置を用いた無機酸化物粒子の製造においては、次の課題があることが判明した。すなわち、複数の流体ノズルを使用する場合、隣接する流体ノズルから噴霧されたミスト同士が干渉(衝突)してミスト径が増大し、微粒子になり難くなる。このような問題を解決するために、所定の間隔を保って流体ノズルを設置することが考えられるが、熱分解炉の大径化が避けられない。熱分解炉を大径化すると、必要な熱量が増加するだけでなく、均一に熱処理することが困難となる。また、熱分解炉を大径化した場合には、大型ノズルを設置することが考えられるが、ミストが熱分解炉の内径付近まで拡散するまでに高い炉長を要し、それによりミストの加熱時間が短くなり、熱処理が不十分となる。更に、隣接する流体ノズルから噴霧されたミストの広がりを抑えることが考えられるが、ミストの広がりを抑えると、ミストが縦方向(噴霧の直線方向)に伸びるため、炉内の滞留時間が短くなり、熱処理にばらつきを生じ、均一な微粒子を得難くなる。
本発明の課題は、複数の噴霧装置を使用した場合において、熱分解炉の大径化を要することなく、形状や粒径の均一な微粒子を製造可能な噴霧熱分解装置及びそれを用いた無機酸化物粒子の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題に鑑み検討した結果、複数の噴霧装置から噴霧されたミスト同士の干渉に起因するミスト径の増大は、従来の噴霧熱分解装置の熱分解炉内でミストが乾燥する前においてのみ生ずることが判明した。そこで、本発明者らは、噴霧装置を個別に収容し、かつ噴霧装置から噴霧されたミストを乾燥するための乾燥管を備える噴霧熱分解装置とすることで、噴霧されたミストが乾燥管内で速やかに乾燥し、乾燥粒子として熱分解炉に移動するため、ミスト同士の干渉に起因するミスト径の増大が抑制され、複数の噴霧装置を使用したとしても、形状や粒径の均一な微粒子を製造できることを見出した。
【0006】
すなわち、本発明は、次の〔1〕~〔9〕を提供するものである。
〔1〕噴霧された原料溶液を乾燥するための乾燥管と、
原料溶液から生成した乾燥粒子を熱分解するための熱分解炉
を備え、
乾燥管は、熱分解炉の一方端に2以上設置され、上下方向に延びる縦管部と、該縦管部に向かって横方向に延びる横管部とが連結した構造を有しており、
縦管部には、原料溶液を噴霧するための噴霧装置が収容されており、
横管部から縦管部へ熱風が供給される、
噴霧熱分解装置。
〔2〕乾燥管は、横管部と縦管部とが互いの中心軸をずらして連結されている、前記〔1〕記載の噴霧熱分解装置。
〔3〕横管部が、縦管部に対して10~80°の傾斜角で連結されている、前記〔1〕又は〔2〕記載の噴霧熱分解装置。
〔4〕縦管部に連結した部分の横管部の内径が、縦管部よりも小さい、前記〔1〕~〔3〕のいずれか一に記載の噴霧熱分解装置。
〔5〕噴霧装置が、流体ノズルである、前記〔1〕~〔4〕のいずれか一に記載の無機酸化物粒子の製造方法。
〔6〕熱分解炉が、補助熱源を有する、前記〔1〕~〔5〕のいずれか一に記載の噴霧熱分解装置。
〔7〕補助熱源が、燃焼バーナー、熱風ヒータ及び電気ヒータから選ばれる1以上である、前記〔6〕記載の噴霧熱分解装置。
〔8〕前記〔1〕~〔7〕のいずれか一に記載の噴霧熱分解装置を用い、原料無機化合物含有溶液のミストを噴霧装置から噴霧し、熱分解する工程を含む、無機酸化物粒子の製造方法。
〔9〕原料無機化合物がアルミニウム塩、チタン塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、ホウ酸塩、アルミノケイ酸塩、アルミニウムアルコキシド及びケイ酸アルコキシドから選ばれる1種又は2種以上である、前記〔8〕記載の無機酸化物粒子の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の噴霧熱分解装置によれば、噴霧装置を個別に乾燥管に収容し、その噴霧装置から噴霧されたミストが乾燥管内で速やかに乾燥し、乾燥粒子として熱分解炉に移動するため、ミスト同士の干渉に起因するミスト径の増大が抑制され、複数の噴霧装置を使用したとしても、形状や粒径の均一な微粒子を簡便に製造することができる。また、乾燥管内壁への固着物の発生も防止できるため、安定して効率よく無機酸化物粒子を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の噴霧熱分解装置の一例を示す模式図である。
図2】本発明の噴霧熱分解装置に係る乾燥管部分の拡大図である。
図3】従来の噴霧熱分解装置の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、図示の便宜上、図面の寸法比率は説明のものと必ずしも一致しない。
【0010】
〔第1実施形態〕
図1は、本発明の噴霧熱分解装置の一例を示す模式図である。
噴霧熱分解装置100は、図1に示されるように、噴霧された原料溶液を乾燥するための乾燥管1と、原料溶液から生成した乾燥粒子を熱分解するための熱分解炉2を備えるものである。そして、乾燥管1は、熱分解炉2の一方端に2以上設置され、上下方向に延びる縦管部1aと、該縦管部1aに向かって横方向に延びる横管部1bとが連結した構造を有しており、縦管部1aには、原料溶液を噴霧するための噴霧装置3が収容されている。噴霧装置3の上流側には、原料溶液タンク5内に収容された原料溶液を送液するためのポンプ6が設置され、原料溶液の送液量は流量計7により制御される。
【0011】
熱分解炉は、炉材として使用されている材質であれば何れも用いることができ、加熱温度等を考慮して選定すればよい。また、金属製のシェルの内壁に、耐火レンガ、断熱レンガ、キャスタブル等を単体、層状、又はこれらを組み合わせて用いるのが一般的である。
熱分解炉の形状は、熱分解炉内に旋回流を発生させることができる点で、堅型円筒状が好ましい。
熱分解炉の大きさは、製造スケールに応じて適宜選択することが可能であるが、例えば、堅型円筒状である場合、内径が好ましくは600~1600mmであり、高さが好ましくは3000~10000mmである。
【0012】
乾燥管は、熱分解炉の上方端及び下方端のいずれでも構わないが、乾燥管内壁へのミストの付着防止の観点から、熱分解炉の下方端に設置することが好ましい。
乾燥管は、2基以上であれば特に限定されないが、2~4基が好ましい。なお、乾燥管は、熱分解炉の内周に沿って等間隔で並列に設置することが好ましい。
【0013】
縦管部と横管部の材質は、耐熱性であれば特に限定されないが、例えば、鉄、ステンレス、インコネル、ハステロイ、チタン等の金属、セラミックス、レンガ、不定形耐火物を挙げることができる。
縦管部と横管部の形状は、連結の容易さ、温度ムラや放散熱ムラの抑制の観点から、略円筒形であることが好ましい。
【0014】
縦管部及び横管部の大きさは、熱分解炉の大ききに応じて適宜設定することが可能であるが、例えば、略円筒形である場合、内径が好ましくは150~400mmであり、高さが好ましくは300~1000mmである。
横管部における縦管部に連結される部分の内径は、縦管部内径よりも小さい方が好ましい。これにより、横管部から縦管部へ供給された熱風によって乾燥管内で旋回流が発生し、この旋回流にミストを巻き込むことができるため、乾燥管内壁へのミストの付着を防止することができる。横管部の連結部の内径は、乾燥管内での旋回流の発生しやすさ、乾燥管内壁へのミストの付着防止の観点から、縦管部内径の9割以下が好ましい。
【0015】
横管部は、縦管部に対して上向きに傾斜して連結していることが好ましく、縦管部に対して10~80°の傾斜角で連結していることが更に好ましい。これにより、横管部から縦管部へ供給された熱風によって乾燥管内でより強い旋回流が発生し、この旋回流にミストを巻き込むことができるため、乾燥管内壁へのミストの付着をより高いレベルで防止することができる。なお、ここでいう「傾斜角」とは、図2に示されるように、横管部内径の中心軸と縦管部内径の中心軸との交点を通る水平面と、横管部の中心軸とがなす角度θをいう。かかる傾斜角の範囲としては、乾燥管内での旋回流の発生しやすさ、乾燥管内壁へのミストの付着防止の観点から、20~80°が好ましく、30~75°が更に好ましい。
【0016】
また、縦管部と横管部は、横管部と縦管部とが互いの中心軸をずらして連結されていることが好ましい。これにより、横管部から縦管部へ供給された熱風よって乾燥管内でより強い旋回流を発生し、噴霧されたミストがこの旋回流に乗って速やかに乾燥されるため、乾燥管内壁へのミストの付着を防止することができる。なお、ここでいう「中心軸をずらす」とは、図2に示されるように、横管部内径の中心軸と縦管部内径の中心軸とが連結部でずれていることをいう。かかる中心軸のずれは、縦管部内径を100%として、10%以上90%以下が好ましく、20%以上80%以下が更に好ましい。これにより、旋回流の速度が十分に高められるため、乾燥管内壁へのミストの付着をより高いレベルで抑制することができる。
【0017】
噴霧装置は、縦管部に1基収容される。
噴霧装置としては、縦管部に収容できれば特に限定されないが、例えば、流体ノズルを挙げることができる。流体ノズルとしては、例えば、1流体ノズル、2流体ノズル、3流体ノズル、4流体ノズルが挙げられる。中でも、2流体ノズル、3流体ノズル、4流体ノズルが好ましく、3流体ノズル、4流体ノズルが更に好ましい。なお、図1に示される噴霧熱分解装置は、縦管部に流体ノズル1基が上向きに設置されている。なお、噴霧装置は、耐熱性を考慮し、必要に応じて断熱材等で保護してもよい。
【0018】
流体ノズルの方式には、気体と原料溶液とをノズル内部で混合する内部混合方式と、ノズル外部で気体と原料溶液を混合する外部混合方式があるが、いずれも採用することができる。ノズルに供給する気体としては、例えば、空気や、窒素、アルゴン等の不活性ガス等を使用することができる。中でも、経済性の観点から、空気が好ましい。
【0019】
横管部の端部には、横管部から縦管部へ熱風を供給するための熱源装置を設置することができる。かかる熱源装置としては、例えば、燃焼バーナー、熱風ヒータ、電気ヒータを挙げることができるが、ミストの乾燥に十分な熱量を有していれば、これらに特に限定されない。
かかる熱源装置は、1基又は2基以上設置することができるが、好ましくは1基である。なお、図1に示される噴霧熱分解装置は、横燥管に燃焼バーナー4が縦管部方向に燃焼ガスが流れるように1基設置されている。
【0020】
燃焼バーナー、熱風ヒータ及び電気ヒータは、一般的に販売されているものであれば、いずれも使用することができる。熱分解炉の容積、仕様等を考慮し、これにあった型式のものを選択すればよい。また、熱分解炉の仕様に応じたものを製作しても構わない。
【0021】
燃焼バーナーに用いる燃料は特に限定されないが、例えば、気体燃料、液体燃料、固体燃料を挙げられ、これら燃料の2種以上を混焼してもよい。気体燃料としては、例えば、LPG、都市ガス、気化した有機物が挙げられる。また、液体燃料としては、例えば、灯油、軽油、重油や再生油など液化した有機物を挙げることができる。固体燃料としては、例えば、石炭、木炭、木材などを粉末状にしたものを挙げられる。
【0022】
横管部に燃焼バーナーを設置する場合、横管部の長さは、燃焼バーナーから生じた火炎が直接噴霧ミストに接触しない長さとすることが好ましい。燃焼バーナーの火炎が噴霧ミスト接触しないように、燃焼バーナーを前後方向に可動できる機構を設け、必要に応じて調整してもよい。
【0023】
熱分解炉2の外周には、図1に示されるように、補助熱源8を設置してもよい。これにより、放散熱量を十分に付与することができるため、無機酸化物粒子の合成に必要な温度と保持時間を再現性よく、安定して確保できる。
補助熱源としては、例えば、燃焼バーナー、熱風ヒータ及び電気ヒータから選ばれる1以上を挙げることができる。補助熱源の設置数は、1基でも構わないが、熱分解炉の長さによっては、2~6基配置してもよい。なお、図1に示される噴霧熱分解装置は、補助熱源として電気ヒータが6基設置されている。
【0024】
また、補助熱源を、縦管部からの旋回流と同じ旋回方向に配置することで、補助熱源から発生する熱風により旋回流を補うことができる。
更に、補助熱源は、炉内温度や旋回流を調整するために、設置する面や高さを変えてもよい。設置面は、熱分解炉の垂直方向や対面に並べてもよい。設置する高さについては、同じ高さ(同一円周上)、段違いとしてもよい。
補助熱源として燃焼バーナーを使用する場合、その火炎が乾燥粒子に直接接触しないように設置することが、過剰反応や粒子の溶融や変形等を防止するうえで好ましい。燃焼バーナーの火炎が炉内に入らないようにするには、燃焼補助バーナーを前後方向に可動できる機構を設けて、火炎の長さなどに応じて調整すればよい。
【0025】
熱分解炉2の他方端には、回収装置9と誘引ファン10を設置することができる。これにより、微粒子は、誘引ファン10によって回収装置9に移動し回収される。回収装置としては、例えば、バグフィルターを挙げることができる。
また、熱分解炉の他方端側に冷却エアーを導入可能な空間を設け、ここに冷却エアーを導入することにより、冷却回収してもよい。冷却エアーの導入手段としては、冷却エアーの吸入部の設置、ファンやブロアから冷却エアーを送り込む手段等を採用することができる。これらは複数の箇所から行なってもよい。また、冷却エアーの代わりに、水冷してもよく、イオン交換水や上水等を用いることができる。更に、回収装置の上流側には、回収装置の負荷低減、粗粒や異物回収のため、サイクロンを配置してもよく、熱交換器を配置すると、余熱利用や排ガス量を低減することもできる。他方、回収装置の下流側には、必要に応じて、スクラバー等の除塵、浄化設備を配置してもよい。
【0026】
次に、本実施形態に係る噴霧熱分解装置を用いた、無機酸化物粒子の製造方法について説明する。
【0027】
先ず、原料無機化合物含有溶液を調製する。
原料無機化合物含有溶液は、原料無機化合物と溶媒とを混合して調製すればよい。原料無機化合物と溶媒との混合方法は、両者を同時に添加して混合しても、他方を一方に添加して混合してもよく、混合方法は特に限定されない。
【0028】
原料無機化合物としては、無機酸化物を構成する元素を含有し、水等の溶媒に溶解する化合物であれば特に限定されないが、例えば、無機塩、金属アルコキシド等を挙げることができる。無機塩としては、例えば、アルミニウム塩、チタン塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、ホウ酸塩、亜鉛塩、ジルコニウム塩、バリウム塩、セシウム塩、イットリウム塩、アルミノケイ酸塩が挙げられる。また、金属アルコキシドとしては、アルミニウムアルコキシド、ケイ酸アルコキシドを挙げることができる。原料無機化合物は、1種又は2種以上を使用することができる。
【0029】
アルミニウム塩としては、例えば、硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、塩化アルミニウム、燐酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、酢酸アルミニウム、シュウ酸アルミニウムが挙げられる。マグネシウム塩としては、例えば、硝酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム、燐酸マグネシウム、水酸化マグネシウムを挙げることができる。カルシウム塩としては、例えば、硝酸カルシウム、塩化カルシウム、水酸化カルシウム、蟻酸カルシウム、酢酸カルシウム、プロピオン酸カルシウムが挙げられる。ホウ酸塩としては、例えば、ホウ酸ナトリウム、ホウ酸カリウム等のメタホウ酸塩、四ホウ酸ナトリウム、四ホウ酸カリウム等の四ホウ酸塩、五ホウ酸ナトリウム、五ホウ酸カリウム等の五ホウ酸塩を挙げることができる。ケイ酸アルコキシドとしては、例えば、オルトケイ酸テトラメチル(TMOS)、オルトケイ酸テトラエチル(TEOS)、オルトケイ酸テトラプロピル(TPOS)、テトラブトキシシランを挙げることができる。また、アルミニウム酸化物、ケイ素酸化物を溶媒に分散した溶液、アルミニウム酸化物、ケイ素酸化物のゾル溶液も原料溶液として用いることができる。
中でも、原料無機化合物としては、本発明の効果を享受しやすい点で、アルミニウム塩、チタン塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、ホウ酸塩、アルミノケイ酸塩、アルミニウムアルコキシド及びケイ酸アルコキシドから選ばれる1種又は2種以上が好ましく、アルミニウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、ホウ酸塩及びケイ酸アルコキシドから選ばれる1種又は2種以上が更に好ましい。
【0030】
原料無機化合物から得られる酸化物としては、例えば、金属酸化物、アルミナ、シリカ、アルミニウム及びケイ素からなる酸化物等が挙げられる。より具体的には、アルミナ、シリカ、アルミニウム及びケイ素からなる酸化物、チタン酸化物、マグネシウム酸化物、亜鉛酸化物、ジルコニウム酸化物、バリウム酸化物、セリウム酸化物、イットリウム酸化物等が挙げられ、これら酸化物を組みあわせた複合酸化物も挙げることができる。
【0031】
溶媒としては、水、有機溶媒が挙げられる。中でも、環境への影響、製造コストの点から、水が好ましい。
【0032】
原料無機化合物含有溶液中の原料無機化合物の濃度は、得られる無機酸化物粒子の粒度分布、密度、強度等を考慮し、0.01mol/L~飽和濃度が好ましく、0.1~1.0mol/Lが更に好ましい。
【0033】
次に、乾燥管の横管部から縦管部へ熱風を供給しながら、乾燥管の縦管部に装着された噴霧装置から原料無機化合物含有溶液のミストを噴霧する。これにより、横管部から縦管部へ供給された熱風の流れに巻き込まれたミストは、溶媒が蒸発して速やかに乾燥し、ミスト表面に無機塩(乾燥粒子)を析出する。なお、熱風の供給源は、燃焼バーナー、熱風ヒータ及び電気ヒータのいずれでも構わない。
【0034】
乾燥管内の温度は、原料無機化合物含有溶液のミストから溶媒が蒸発する温度であれば特に限定されないが、例えば、100~500℃が好ましく、150~450℃がより好ましく、200~400℃が更に好ましい。
【0035】
噴霧装置としては、流体ノズルが好ましい。流体ノズルの具体的態様は、上記において説明したとおりである。
【0036】
ミストの平均粒子径は、好ましくは0.5~60μm、より好ましくは1~20μm、更に好ましくは1~15μmである。なお、ミストの平均粒子径は、噴霧装置の噴出口の形状や噴霧装置へ供給する気体の圧力によって調整することができる。
【0037】
そして、ミスト表面に析出した無機塩(乾燥粒子)は、熱分解炉の補助熱源により熱が加えられて熱分解し、無機塩が酸化され無機酸化物粒子を生成する。なお、補助熱源は、燃焼バーナー、熱風ヒータ及び電気ヒータのいずれでも構わない。
【0038】
熱分解炉内の温度は、400~1800℃が好ましく、600~1500℃がより好ましく、700~1400℃が更に好ましく、900~1200℃がより更に好ましい。400℃未満であると、熱分解反応が不十分となりやすく、1800℃を超えると、粒子が熱分解炉外に排出されたときに十分冷却され難く、粒子同士が凝集しやすくなる。
【0039】
次に、熱分解反応によって生じた無機酸化物粒子を回収するが、例えば、図1に示される噴霧熱分解装置においては、無機酸化物粒子が熱分解炉上方から誘引ファン10によって回収装置9に移動し回収される。また、無機酸化物粒子の回収にあたっては、フィルターを通過させることにより、粒子径を調整してもよい。
【0040】
〔第2実施形態〕
本実施形態に係る噴霧熱分解装置は、回収装置からの排出ガスを送り込むための配管が乾燥管の横管部に接続されている点で、第1実施形態に係る噴霧熱分解装置と相違する。即ち、図1に示す噴霧熱分解装置100は、乾燥管1の横管部1bに熱風供給源として燃焼バーナー4が装着されているのに対し、本実施形態に係る噴霧熱分解装置は、そのような熱源装置が装着されておらず、回収装置からの排出ガスを送り込むための配管が乾燥管の横管部に接続されている点で相違する。
排出ガスは、通常200~300℃程度の熱を有しているため、排出ガスを乾燥管の横管部から縦管部へ送り込むことで、噴霧装置から噴霧された原料溶液のミストが排出ガスの流れに巻き込みながら溶媒を蒸発させて乾燥し、乾燥粒子を生成することができる。
【0041】
回収装置からの排出ガスを送り込むための配管は、耐熱性であれば特に限定されず、例えば、鉄、ステンレス、インコネル、ハステロイ、チタン等の金属を挙げることができる。配管の横管部への固定には、ボルト、ピン、L字金具等の金具を用いることができる。
なお、本実施形態に係る噴霧熱分解装置の他の構成は、第1実施形態において説明したとおりである。
【0042】
次に、本実施形態に係る噴霧熱分解装置を用いた、無機酸化物粒子の製造方法について説明する。
本実施形態においても、第1実施形態と同様の方法により、無機酸化物粒子の製造することができる。先ず、原料無機化合物含有溶液を調製する。次いで、回収装置からの排出ガスを、配管を介して乾燥管の横管部から縦管部へ供給しながら、乾燥管の縦管部の噴霧装置から原料無機化合物含有溶液のミストを噴霧し乾燥管内でミストの乾燥粒子を生成させ、それを熱分解炉内で熱分解することで、無機酸化物粒子を製造することができる。そして、無機酸化物粒子を誘引ファンによって回収装置に移動し回収する。
【0043】
本発明の方法により製造される無機酸化物粒子は、中実粒子、多孔質粒子、中空粒子のいずれでも、これら2以上の混合物でも構わない。ここで、本明細書において「中実粒子」とは、内部に空洞を有さない構造の粒子をいい、例えば、単一の層からなる粒子、及び、コア(内核とも言われる)とシェル層(外殻とも言われる)を有する粒子を挙げることができる。また、「中空粒子」とは、内部に空洞(中空部)を有する構造のものであり、外殻に包囲された空洞を有する粒子をいう。空洞の数は、単数でも複数でもよい。更に、「多孔質粒子」とは、粒子表面から内部まで連結した貫通孔を多数有する粒子をいう。貫通孔の大きさや形状は、特に限定されない。また、粒子内部に閉気孔を有していてもよい。
【0044】
無機酸化物中空粒子を製造する場合、熱分解後の無機酸化物粒子の表面を溶融してもよい。これにより、無機酸化物粒子の表面に存在する孔が閉塞され、粒子外殻に孔がなく、粒子強度の高い無機酸化物中空粒子が得られる。無機酸化物粒子の表面を溶融させるには、例えば、補助熱源の温度を無機酸化物粒子の溶融温度以上に制御すればよい。
【0045】
また、本発明の方法により製造される無機酸化物粒子は形状が略球状であり、その平均円形度は通常0.85以上である。ここで、本明細書において「平均円形度」とは、次の方法により算出される値をいい、粒子の形状が真球に近づく程、平均円形度は1に近くなる。走査型電子顕微鏡写真から粒子の投影面積(A)と周囲長(PM)を測定し、周囲長(PM)に対する真円の面積を(B)とすると、その粒子の円形度はA/Bとして表される。そこで、試料粒子の周囲長(PM)と同一の周囲長を持つ真円を想定すると、周囲長はPM=2πr、面積はB=πr2であるから、B=π×(PM/2π)2となり、この粒子の円形度は、円形度=A/B=A×4π/(PM)2として算出される。そして、100個の粒子について円形度を測定し、その平均値でもって平均円形度とする。なお、本発明の無機酸化物粒子は、各種フィラーとして混合したときの分散性、混合性等の点から、平均円形度は、好ましくは0.90以上である。
【0046】
無機酸化物粒子の平均粒子径は、通常0.1~50μmであり、好ましくは0.3~30μmであり、更に好ましくは0.5~20μmである。本明細書において「平均粒子径」とは、JIS R 1629に準拠して試料の粒度分布を体積基準で作成したときに積算分布曲線の50%に相当する粒子径(d50)を意味する。
【実施例
【0047】
以下、実施例を挙げて、本発明の実施の形態をさらに具体的に説明する。但し、本発明は、下記の実施例に限定されるものではない。
【0048】
1.平均円形度の測定
走査型電子顕微鏡(日本電子株式会社製)で撮影した無機酸化物粒子100個について円形度を測定し、その平均値を平均円形度とした。
【0049】
2.平均粒子径の測定
無機酸化物粒子の平均粒子径は、粒子径分布測定装置としてマイクロトラック(日機装株式会社製)を使用し、JIS R 1629に準拠して体積基準の粒度分布を作成し、積算分布曲線の50%に相当する粒子径(d50)を求めた。
ここで、マイクロトラックは、1粒の粒子において、その粒子の最大径を、その粒子の粒子径として捉える特徴があるため、ミストの干渉によって、楕円状や雪だるま状になった粒子が多い場合には、平均粒子径は大きくなる傾向を示す。
【0050】
参考例1
図3に示す従来の噴霧熱分解装置を用いて無機酸化物粒子を製造した。
この噴霧熱分解装置200は、図3に示すように、熱分解炉2の下流側にバグフィルター9と、誘引ファン10を備えている。熱分解炉2の大きさは、内径1000mm×高さ5000mmであり、その外周には補助熱源8として電気ヒータが6基設置されている。熱分解炉2の下方には、噴霧装置3として3流体ノズル1本が、ミストを上方に向けて噴霧するように設置されている。この流体ノズルには、原料溶液タンク5内に収容された原料溶液を送液するためのポンプ6が設置され、原料溶液の送液量は流量計7により制御されている。
【0051】
先ず、蒸留水1Lに対して、硝酸アルミニウム0.04mol、オルトケイ酸テトラエチル0.16molを溶解した原料無機酸化物含有溶液を原料溶液タンクに投入した。次いで、原料無機酸化物含有溶液をポンプにより流体ノズルに圧縮空気とともに送液(送液量:6L/h)し、ノズル噴出口からミスト状に噴霧し、熱分解炉内で電気ヒータ(内部温度1000℃)により熱分解した。その後、バグフィルターにて無機酸化物粒子を回収した。得られた無機酸化物粒子について、平均円形度及び平均粒子径を測定した。その結果を表1に示す。
【0052】
比較例1
熱分解炉の下方に、3流体ノズルを2本設置したこと以外は、参考例1と同様の操作により無機酸化物粒子を製造した。なお、流体ノズル2基は、両者の間隔が300mmとなるように設置した。得られた無機酸化物粒子について、平均円形度及び平均粒子径を測定した。その結果を表1に示す。
【0053】
実施例1
図1に示す噴霧熱分解装置を用いて無機酸化物粒子を製造した。
この噴霧熱分解装置は、熱分解炉の下方に乾燥管が2基設置され、各乾燥管には、縦管部に3流体ノズル1本、横管部に燃焼バーナー1本が収容されている点で、図3に示す噴霧熱分解装置と相違する。乾燥管2基は、流体ノズルの間隔が300mmとなるように設置した。これ以外の装置構成は、参考例1において説明したとおりである。なお、乾燥管の高さは700mmであり、縦管部内径は200mmであり、横管部内径は170mmであった。また、横管部は、縦管部に対して30°の傾斜角で連結されており、中心軸のずれは、縦管部内径を100%として25%であった。
【0054】
比較例1と同様に原料無機酸化物原料溶液を調製し、これを原料溶液タンクに投入した。次いで、原料溶液をポンプにより各3流体ノズルに圧縮空気とともに送液(送液量:6L/h)し、ノズル噴出口からミスト状に噴霧し、ミストを燃焼バーナーの燃焼ガスの旋回流に乗せて乾燥管内で乾燥(内部温度:300℃)し、熱分解炉内で電気ヒータ(内部温度1000℃)により熱分解した。その後、バグフィルターにて無機酸化物粒子を回収した。得られた無機酸化物粒子について、平均円形度及び平均粒子径を測定した。その結果を表1に示す。
【0055】
実施例2
乾燥管の横管部に、バグフィルターからの排出ガスを送り込むための配管を接続したこと以外は、図1に示す噴霧熱分解装置と同様の装置を用いて無機酸化物粒子を製造した。即ち、比較例1と同様に原料無機酸化物原料溶液を調製し、これを原料溶液タンクに投入した。次いで、バグフィルターからの排出ガス(200℃)を、配管を介して乾燥管の横管部から縦幹部に吹き込みながら、原料無機化合物含有溶液をポンプにより各3流体ノズルに圧縮空気とともに送液(送液量:6L/h)し、ノズル噴出口からミスト状に噴霧し、ミストを排出ガスの旋回流に乗せて乾燥管内で乾燥(内部温度:200℃)し、熱分解炉内で電気ヒータ(内部温度1000℃)により熱分解した。その後、バグフィルターにて無機酸化物粒子を回収した。得られた無機酸化物粒子について、平均円形度及び平均粒子径を測定した。その結果を表1に示す。
【0056】
【表1】
【0057】
参考例1は、熱分解炉内に設置された流体ノズルが1基のみであるため、ミスト同士の干渉に起因するミスト径の増大という問題は生じなかった。そのため、平均円形度の高い均一な無機酸化物の微粒子が得られた。
一方、比較例1は、参考例1で使用した従来の噴霧熱分解装置に流体ノズルを2基設置したため、隣接する流体ノズルから噴霧されたミスト同士が干渉して、ミストが変形し、ミスト径が増大した。そのため、平均円形度が低く、平均粒子径の大きな無機酸化物粒子が得られた。
これに対し、実施例1及び2は、噴霧装置を個々に乾燥管に収容し、その噴霧装置からミストを乾燥管内に噴霧して乾燥したため、ミスト同士の干渉に起因するミスト径の増大が抑制され、複数の噴霧装置を設置したとしても、平均円形度の高い均一な無機酸化物の微粒子が得られた。また、乾燥管内壁を目視で観察したところ、固着物が確認されなかった。
【符号の説明】
【0058】
1 乾燥管
1a 縦管部
1b 横管部
2 熱分解炉
3 噴霧装置
4 燃焼バーナー
5 原料溶液タンク
6 ポンプ
7 流量計
8 補助熱源
9 回収装置
10 誘引ファン
100 噴霧熱分解装置
200 噴霧熱分解装置
図1
図2
図3