(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-06
(45)【発行日】2023-11-14
(54)【発明の名称】カップ付衣類
(51)【国際特許分類】
A41C 3/12 20060101AFI20231107BHJP
A41C 3/00 20060101ALI20231107BHJP
【FI】
A41C3/12 D
A41C3/00 A
A41C3/12 C
A41C3/12 Z
(21)【出願番号】P 2019204083
(22)【出願日】2019-11-11
【審査請求日】2022-10-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000001339
【氏名又は名称】グンゼ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107478
【氏名又は名称】橋本 薫
(72)【発明者】
【氏名】柏原 佑美
(72)【発明者】
【氏名】倉田 承江
(72)【発明者】
【氏名】田中 文
【審査官】山尾 宗弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-204134(JP,A)
【文献】登録実用新案第3185091(JP,U)
【文献】中国実用新案第208080555(CN,U)
【文献】特開2019-119961(JP,A)
【文献】登録実用新案第3193895(JP,U)
【文献】特開2012-180627(JP,A)
【文献】特開2016-89287(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A41C 3/12
A41C 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベース部と、前記ベース部に接合された左右一対のカップ部と、前記ベース部から脇部を経て背部に延出するバック部と、各カップ部と前記バック部とを連結する一対の肩ストラップ部と、を備えているカップ付衣類であって、
各肩ストラップ部は、各カップ部から肩部に向けて次第に幅狭に形成されるとともに肩部から前記バック部に向けて次第に幅広に形成され、少なくとも着用者の第7胸椎を含む上下の脊柱部を覆う領域で各肩ストラップ部が交差する交差部が形成され、前記交差部の縁部で前記バック部に連接される二方向への伸縮性生地で構成され、前記交差部の上縁部が遊離され
るとともに、前記交差部の左右側縁部が接合されているカップ付衣類。
【請求項2】
前記交差部
の下縁が前記バック部の上縁で接合されている請求項1記載のカップ付衣類。
【請求項3】
前記交差部の下縁が前記バック部の下縁まで延在し、前記交差部の左右側縁が前記バック部と接合されている請求項1記載のカップ付衣類。
【請求項4】
前記肩ストラップ部は、編立方向が長手方向に沿い、ヘム部が体中心側に位置するように配されたパワーネットで構成されている請求項1から3の何れかに記載のカップ付衣類。
【請求項5】
前記ベース部とバック部は、編立方向が胸周りに沿い、ヘム部が下端縁に配されたパワーネットで構成されている請求項4記載のカップ付衣類。
【請求項6】
前記肩ストラップ部は、編立方向が長手方向に沿い、裁断部が解れない解れ止め加工された伸縮性生地で構成されている請求項1から3の何れかに記載のカップ付衣類。
【請求項7】
前記肩ストラップ部は、前記カップ部の下端からカップ部を覆うように延出し、
前記カップ部の下縁及び側縁が前記肩ストラップ部の下端及び側縁とともにベース部及びバック部に接合され、前記カップ部の上縁側が前記カップ部と遊離している請求項1から6の何れかに記載のカップ付衣類。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベース部と、前記ベース部に接合された左右一対のカップ部と、前記ベース部から脇部を経て背部に延出するバック部と、各カップ部と前記バック部とを連結する一対の肩ストラップ部と、を備えているカップ付衣類に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、楽な着用感及び見栄えを損なうことなく、姿勢を補整することが可能な姿勢補整機能を有する衣類として、バストを覆うためのカップ部を有し、少なくともバストを覆う本体部と、本体部の背部裏側に設けられ、着用状態において、第7~第9胸椎のうちの少なくとも何れかに相当する部分に当接する突出部とを備える、姿勢補整機能を有する衣類が提案されている。
【0003】
当該衣類は、非着用状態において平面状をなし、着用状態において裏本体部が伸縮する力を利用して、上下方向の中央部が湾曲状に突出するように配された突出部材によって、第7~第9胸椎の何れかがピンポイントで前方に押されるように構成されている。
【0004】
当該衣類によれば、突出部によって第7~第9胸椎のうちの少なくとも何れかがピンポイントで前方に押されることにより、効果的に姿勢を整えることができるようになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、突出部を硬質の厚肉部材で構成すると着用時に違和感や不快感が生じ、突出部を柔らかな薄肉部材で構成すると姿勢を矯正するような十分な押圧力が生じないため、胸椎をピンポイントで押圧するような突出部を構成するのは容易ではなかった。また、特許文献1に記載されているように、姿勢矯正を目的とした緊締力の強い専用の衣類を日常生活で継続的に着用するのは着用感が犠牲になるという問題もあった。
【0007】
本発明の目的は、上述した問題点に鑑み、日常で着用しても特段の違和感を与えることなく、姿勢補整効果が得られるカップ付衣類を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述の目的を達成するため、本発明によるカップ付衣類の第一の特徴構成は、ベース部と、前記ベース部に接合された左右一対のカップ部と、前記ベース部から脇部を経て背部に延出するバック部と、各カップ部と前記バック部とを連結する一対の肩ストラップ部と、を備えているカップ付衣類であって、各肩ストラップ部は、各カップ部から肩部に向けて次第に幅狭に形成されるとともに肩部から前記バック部に向けて次第に幅広に形成され、少なくとも着用者の第7胸椎を含む上下の脊柱部を覆う領域で各肩ストラップ部が交差する交差部が形成され、前記交差部の縁部で前記バック部に連接される二方向への伸縮性生地で構成され、前記交差部の上縁部が遊離されるとともに、前記交差部の左右側縁部が接合されている点にある。
【0009】
二方向への伸縮性生地で構成され肩部からバック部に向けて次第に幅広に形成される左右の肩ストラップ部が、着用者の第7胸椎を含む上下の脊柱部を覆う領域で交差してバック部に連接される。交差部の左右側縁部が接合されており、二方向への伸縮性生地が交差する交差部では他と比べて上下方向及び左右方向に大きな収縮力が作用するため、脊柱起立筋群などの収縮が促されて効果的な姿勢補整が可能になる。
【0010】
また、交差部の上縁部が遊離されているため、左右の肩ストラップ部の頂部を左右に大きく広げることができ、着用時にカップ部が接合されたベース部とバック部とで形成される環状部に足先を挿入した後に脚部に沿って引き上げるように穿いてバストに装着することが極めて容易にできるようになる。
【0011】
同第二の特徴構成は、上述の第一の特徴構成に加えて、前記交差部の下縁が前記バック部の上縁で接合されている点にある。
【0012】
交差部で交差する左右の肩ストラップ部の下縁が交差した状態でバック部の上縁に接合されるので、大きな面積の交差部が実現でき、それによって大きな収縮力が発揮され、効果的な姿勢補整が可能になる。
【0013】
同第三の特徴構成は、上述の第一の特徴構成に加えて、前記交差部の下縁が前記バック部の下縁まで延在し、前記交差部の左右側縁が前記バック部と接合されている点にある。
【0014】
交差部で交差する左右の肩ストラップ部の下縁が交差した状態でバック部の下縁まで延在し、交差部の左右側縁がバック部に接合されるので、より一層大きな面積の交差部が実現でき、それによって大きな収縮力が発揮され、効果的な姿勢補整が可能になる。
【0015】
同第四の特徴構成は、上述の第一から第三の何れかの特徴構成に加えて、前記肩ストラップ部は、編立方向が長手方向に沿い、ヘム部が体中心側に位置するように配されたパワーネットで構成されている点にある。
【0016】
肩ストラップ部の長手方向をパワーネットの編立方向に設定することで、肩ストラップ部の長手方向への伸縮の程度が幅方向より大きくなり、上半身の前傾姿勢や後傾姿勢などへの姿勢変更を過度に束縛することがない。しかも交差部での収縮力が他の部位より強くなることで姿勢補整効果を確保することができる。さらに、肩ストラップ部の幅方向の一端がヘム部で構成され、当該ヘム部が体中心側に位置するように配されることで、肌への接触感を優しくすることができ、外衣からヘム部が浮き上がって見えるようなこともなくなる。
【0017】
同第五の特徴構成は、上述の第四の特徴構成に加えて、前記ベース部とバック部は、編立方向が胸周りに沿い、ヘム部が下端縁に配されたパワーネットで構成されている点にある。
【0018】
ベース部とバック部を構成するパワーネットの編立方向、つまり伸縮性に富む方向が胸周りに沿うように配されることで良好なフィット感が得られる。しかもベース部とバック部の下端縁にヘム部が位置するように配されることで、肌への接触感を優しくすることができ、外衣からヘム部が浮き上がって見えるようなこともなくなる。
【0019】
同第六の特徴構成は、上述の第一から第三の何れかの特徴構成に加えて、前記肩ストラップ部は、編立方向が長手方向に沿い、裁断部が解れない解れ止め加工された伸縮性生地で構成されている点にある。
【0020】
肩ストラップ部の長手方向を伸縮性生地の編立方向に設定することで、肩ストラップ部の長手方向への伸縮の程度が幅方向より大きくなり、上半身の前傾姿勢や後傾姿勢などへの姿勢変更を過度に束縛することがない。しかも交差部での収縮力が他の部位より強くなることで姿勢補整効果を確保することができる。また、解れ止め加工された伸縮性生地を用いることで、裁断部にバイアステープを縫着するようなパイピング処理などが不要になり、肌への接触感を優しくすることができ、外衣からヘム部が浮き上がって見えるようなことがなくなる。例えば、経編地で構成される伸縮性のレース生地や、緯編地で構成される伸縮性の天竺生地などが伸縮性生地として例示できる。
【0021】
同第七の特徴構成は、上述の第一から第六の何れかの特徴構成に加えて、前記肩ストラップ部は、前記カップ部の下端からカップ部を覆うように延出し、前記カップ部の下縁及び側縁が前記肩ストラップ部の下端及び側縁とともにベース部及びバック部に接合され、前記カップ部の上縁側が前記カップ部と遊離している点にある。
【0022】
カップ部の下端からカップ部を覆うように肩部に向けて延出する伸縮性生地により肩ストラップ部の前身側が構成され、カップ部の下縁及び側縁が肩ストラップ部の下端及び側縁とともにベース部及びバック部に接合されるので、伸縮性生地全体でバランスよくバスト部を支持することができる。また、伸縮性生地に装飾性を持たせると、別途の装飾用の生地を用いる必要もなくなる。さらに、カップ部の上縁がカップ部と遊離しているため、生地が歪むようなことがなくバストのボリュームにかかわらず美しいシルエットを得ることができる。
【発明の効果】
【0023】
以上説明した通り、本発明によれば、日常で着用しても特段の違和感を与えることなく、姿勢補整効果が得られるカップ付衣類を提供することができるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明によるカップ付衣類の一例である第1の実施形態を示し、(a)はブラジャーの着用状態を正面斜め側から視た説明図、(b)は同着用状態を背面側から視た説明図
【
図2】(a)は
図1に示すブラジャーの着用状態を正面側から視た説明図、(b)はカップ部の説明図
【
図3】(a)は
図1に示すブラジャーの着用状態を背面側から視た説明図、(b)は背面側の肩ストラップ部のパターン図
【
図4】本発明によるカップ付衣類の一例である第2の実施形態を示し、(a)はブラジャーの着用状態を正面斜め側から視た説明図、(b)は同着用状態を背面側から視た説明図
【
図5】(a)は
図4に示すブラジャーの着用状態を正面側から視た説明図、(b)はカップ部の説明図
【
図6】(a)は
図1に示すブラジャーの着用状態を背面側から視た説明図、(b)は背面側の肩ストラップ部のパターン図
【
図7】(a)は第1の実施形態を示すブラジャーの表側の写真、(b)は同肌側の写真、(c)は第2の実施形態を示すブラジャーの表側の写真、(d)は同肌側の写真
【
図8】(a)は脊柱の構造の説明図、(b)は背面側の人体骨格の説明図
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明によるカップ付衣類の一例であるブラジャーについて説明する。
以下の説明で用いる「接合」との用語は、縫製処理の他に接着材を用いて生地同士を接着する態様も含み、生地同士を一体化するための処理を包括的に含む意味で用いている。本実施例では主に縫着処理により接合する例を示している。
【0026】
[第1の実施形態]
図1(a)には着用状態を正面斜め側から視たブラジャーの外観が示され、
図1(b)には着用状態を正面斜め側から視たブラジャーの外観が示され、
図2(a)には着用状態を正面側から視たブラジャーの外観が示され、
図2(b)にはカップ部を構成するパッドの外観が示されている。
【0027】
また、
図3(a)には着用状態にある当該ブラジャーの機能を説明する背面側から視た外観が示され、
図3(b)には背面側の肩ストラップ部のパターン図が示され、
図7(a),(b)には当該ブラジャーの一例となる表側及び肌側の写真が示されている。
【0028】
当該ブラジャー1は、ベース部2と、ベース部2に接合された左右一対のカップ部3,4と、ベース部2から脇部を経て背部に延出するバック部5と、各カップ部3,4とバック部5とを連結する一対の肩ストラップ部6,7と、を備えて所謂グレコタイプに構成されている。
【0029】
そして、後身側の肩ストラップ部6,7は、着用者の肩甲骨の動きを極力束縛することが無いように、左右の肩部Sから肩甲骨を避けるように後中心側に延びて後中心で重畳するように配されている。また、カップ部3,4の下方に位置するベース部2の左右脇部2b,2cとバック部5の左右脇部5b,5cとが接合されている(
図1(a)参照。)。
【0030】
各肩ストラップ部6,7は、前身側で各カップ部3,4から着用者の肩部Sに向けて次第に幅狭となる帯状に形成されるとともに、後身側で肩部Sからバック部5に向けて次第に幅広となる帯状に形成され、少なくとも着用者の第7胸椎を含む上下の脊柱部を覆う領域で各肩ストラップ部6,7が交差する略五角形の交差部8が形成され、交差部8の縁部でバック部5に連接するように接合された二方向への伸縮性生地で構成されている。
【0031】
当該肩ストラップ部6,7は、前身側でカップ部3,4の下端からカップ部3,4を覆うように肩部Sに向けて延出し、カップ部3,4の下縁3d,4d及び側縁3b,4bが肩ストラップ部6,7の下端6d,7d及び側縁6b,7bとともにベース部2及びバック部5に接合され、カップ部3,4の上縁側3a,4aがカップ部3,4と遊離している。肩ストラップ部6,7のうちカップ部3,4を多く部位にはカップ部3,4に対応して膨らみを形成するダーツ6e,7eが形成されている。
【0032】
カップ部3,4を構成するパッドは、不織布を挟んで肌側に綿糸を用いた非伸縮性の緯編地が配され、反対側には滑りの良いナイロン糸を用いた非伸縮性の緯編地が配されている。
図2(b)には肌側から視たパッドが示され、バストの膨らみに対応するように、左右方向及び上下方向に配したダーツ3e,4eにより凹部が形成されている。
【0033】
また、交差部8の左右側縁部8b,8c同士が互いに接合されるとともに上縁部8aが遊離され、交差部8の下縁部8dがバック部5の上縁部5aで接合されるとともに、前身側の肩ストラップ部6f,7fと後身側の肩ストラップ6b,7bが肩部Sに対応する頂部6g,7gで互いに接合されている。
【0034】
肩ストラップ部6,7を構成する二方向への伸縮性生地としてパワーネットが好適に用いられる。当該パワーネットは編立方向が肩ストラップ部6,7の長手方向に沿うように、そしてヘム部6a,7aが体中心側に位置するように配されるとともに裁断された側縁部6b,7bにはバイアステープ10を用いたパイピング処理が施されている。
【0035】
図3(a)に示すように、肩ストラップ部6,7を構成するパワーネットは編立方向となる長手方向への伸縮性が編立方向と交差する幅方向への伸縮性よりも大きいため、着用者の上半身の姿勢変化に柔軟に追従しつつバスト部を適切に引上げ支持することができる。そして、交差部8では2枚のパワーネットが重畳しているため、長手方向及び幅方向ともに伸びが制限され、脊柱部に沿う上下方向及び脊柱部に交差する左右方向に大きな伸び抑制力(収縮力とも表現できる)が現れる。
【0036】
ベース部2とバック部5を構成する生地も同様のパワーネットが用いられている。ベース部2及びバック部5を構成するパワーネットは編立方向が胸周りに沿うように配され、ヘム部2d,5dが下端縁に位置するように配されている。またバック部5の脇部上縁は上述したバイアステープ10を用いてパイピング処理されている。
【0037】
図8(a),(b)には坂井建雄氏らによる人体解剖図に掲載された脊柱の構造及び背面骨格の構造が示されている。脊柱は頚椎、胸椎、腰椎、仙骨、尾骨で構成され、12本の肋骨は12個の胸椎と関節を介して繋がっている。頭部の重量を支えるためのサスペンションとしての機能を発揮すべく、胸椎は側面視でS字カーブを描くように生理的湾曲が形成されているが、本来の生理的湾曲を超えて湾曲する猫背姿勢になると、頭部の重心が胸椎の軸よりも前方に位置することとなり、その状態で頭部を支えると僧帽筋や脊柱起立筋群に過剰な負荷がかかり肩こりなどの原因になる。
【0038】
本来の生理的湾曲で背面側に凸形状を呈する第7胸椎を含む上下の胸椎が過剰に湾曲している猫背姿勢の着用者が当該ブラジャー1を着用すると(
図8(b)参照。)、第7胸椎を含む上下の脊柱部を覆う領域に交差部8が位置して、脊柱部に沿う上下方向及び脊柱部に交差する左右方向に大きな収縮力が作用し(
図1(b)中、白抜き矢印参照。)、僧帽筋や脊柱起立筋群などの収縮が促されて生理的湾曲またはそれに近いS字カーブに脊柱の姿勢が補整される。
【0039】
つまり、二方向への伸縮性生地で構成され肩部Sからバック部5に向けて次第に幅広に形成される左右の肩ストラップ部6,7が、着用者の第7胸椎を含む上下の脊柱部(
図8(a),(b)の実線で囲まれた部分)を覆う領域で交差してバック部5に連接されているので、二方向への伸縮性生地が交差する交差部8では他と比べて上下方向及び左右方向に大きな収縮力が作用し、僧帽筋や脊柱起立筋群などの収縮が促されるようになるのである。
【0040】
仮に当該ブラジャー1の着用者が生理的湾曲となるS字カーブから猫背姿勢となるような姿勢をとると、上述した交差部8に作用する大きな収縮力に抗して同じ姿勢をとり続けることが必要となり、筋肉の疲労を招くことのないより楽なS字カーブで安定するように姿勢矯正意識が働くようにもなる。
【0041】
以上説明した通り、交差部8で交差する左右の肩ストラップ部6,7の下縁8dが交差した状態でバック部5の上縁に接合されるので、大きな面積の交差部8が実現でき、それによって大きな収縮力が発揮され、効果的な姿勢補整機能が実現できる。
【0042】
また、肩ストラップ部6,7の長手方向をパワーネットの編立方向に設定することで、肩ストラップ部6,7の長手方向への伸縮の程度が幅方向より大きくなり、上半身の前傾姿勢や後傾姿勢などへの姿勢変更を過度に束縛することがない。しかも交差部8での収縮力が他の部位より強くなることで姿勢補整効果を確保することができる。
【0043】
さらに、肩ストラップ部6,7の幅方向の一端がヘム部6a,7aで構成され、当該ヘム部6a,7aが体中心側に位置するように配されることで、肌への接触感を優しくすることができ、外衣からヘム部が浮き上がって見えるようなこともなくなり見栄えが良くなる。
【0044】
ベース部2とバック部5を構成するパワーネットの編立方向、つまり伸縮性に富む方向が胸周りに沿うように配されることで良好なフィット感が得られる。しかもベース部2とバック部5の下端縁にヘム部2d,5dが位置するように配されることで、肌への接触感を優しくすることができ、外衣からヘム部2d,5dが浮き上がって見えるようなこともなくなり見栄えが良くなる。
【0045】
交差部8の上縁部8aが遊離されているため、左右の肩ストラップ部6,7の頂部6a,7aを左右に大きく広げることができ、着用時にカップ部3,4が接合されたベース部2とバック部5とで形成される環状部に足先を挿入した後に脚部に沿って引き上げるように穿いてバストに装着することが極めて容易にできるようになる。
【0046】
図1(b)では、交差部8の左右側縁部8b,8c同士が互いに接合されるとともに上縁部8aが遊離され、交差部8の下縁部8dがバック部5の上縁部5aで接合される態様を説明したが、交差部8の左右側縁部8b,8c同士を接合することなく互いに遊離するように構成してもよい。この場合、肩ストラップ部6のヘム部6aが交差部8の側縁部8cと遊離した状態でバック部5の上縁部5aに到り、肩ストラップ部7のヘム部7aが交差部8の側縁部8bと遊離した状態でバック部5の上縁部5aに到るように構成すればよく、左右の肩ストラップ部6,7の頂部6a,7aをさらに大きく左右に広げることができるようになる。
【0047】
カップ部3,4の下端からカップ部3,4を覆うように肩部Sに向けて延出する伸縮性生地により肩ストラップ部6,7の前身側が構成され、カップ部3,4の下縁3a,4a及び側縁3b,4bが肩ストラップ部6,7の下端6d,7d及び側縁6b,7bとともにベース部2及びバック部5に接合されるので、伸縮性生地全体でバランスよくバスト部を支持することができる。
【0048】
また、
図8(a)に示すように、肩ストラップ部6,7、ベース部2またはバック部5に使用する伸縮性生地に装飾性を持たせると、別途の装飾用の生地を用いる必要もなくなる。さらに、カップ部3,4の上縁3a,4aがカップ部3,4と遊離しているため、生地が歪むようなことがなくバストのボリュームにかかわらず美しいシルエットを得ることができる。
【0049】
[第2の実施形態]
図4(a)には着用状態を正面斜め側から視たブラジャーの外観が示され、
図4(b)には着用状態を正面斜め側から視たブラジャーの外観が示され、
図5(a)には着用状態を正面側から視たブラジャーの外観が示され、
図5(b)にはカップ部を構成するパッドの外観が示されている。
【0050】
また、
図6(a)には着用状態にある当該ブラジャーの機能を説明する背面側から視た外観が示され、
図6(b)には背面側の肩ストラップ部のパターン図が示され、
図7(c),(d)には当該ブラジャーの一例となる表側及び肌側の写真が示されている。
【0051】
基本的な構成は、上述した第1の実施形態と同じであるが、ベース部2、バック部5、肩ストラップ部6,7に用いる二方向伸縮性生地、及び、交差部8の構成が第1の実施形態と異なる。
【0052】
以下、構成の相違点について詳述する。
第2の実施形態では、交差部8の下縁8dがバック部5の下縁5dまで延在し、交差部8の左右側縁8b,8cがバック部5の側縁と接合されている点が第1の実施形態と異なる第1の特徴となる。当該構成により、より一層大きな面積の交差部8が実現でき、それによって大きな収縮力が発揮される様になり、効果的な姿勢補整が可能になる。
【0053】
第2の実施形態では、肩ストラップ部6,7、ベース部2またはバック部5に使用する伸縮性生地として、裁断部が解れない解れ止め加工された伸縮性生地が用いられている点が第1の実施形態と異なる第2の特徴となる。肩ストラップ部6,7は、編立方向が長手方向に沿うように配され、ベース部2及びバック部5は編立方向が胸周りに沿う方向に配されている。そして、カップ部3,4より脇側に位置するベース部2の左右脇部2bとバック部5の左右脇部5bとが接合されている(
図4(a)参照。)。
【0054】
第1の実施形態と同様に、肩ストラップ部6,7の長手方向を伸縮性生地の編立方向に設定することで、肩ストラップ部6,7の長手方向への伸縮の程度が幅方向より大きくなり、上半身の前傾姿勢や後傾姿勢などへの姿勢変更を過度に束縛することがない。
【0055】
しかも交差部8での収縮力が他の部位より強くなることで姿勢補整効果を確保することができる。また、解れ止め加工された伸縮性生地を用いることで、裁断部にバイアステープを縫着するようなパイピング処理などが不要になり、肌への接触感を優しくすることができ、外衣からヘム部が浮き上がって見えるようなことがなくなる。
【0056】
解れ止め加工された伸縮性生地として、例えば経編地で構成される伸縮性のレース生地や、緯編地で構成される伸縮性の天竺生地などが好適に用いられる。伸縮性のレース生地を用いた場合には、別途の装飾用のレース生地を準備する必要が無く、部品点数の削減によるコスト抑制効果も得られる。
【0057】
このようなレース生地として、例えば編み立て方向に延びる鎖編組織を形成する複数の鎖編糸と、鎖編糸によって形成された複数の鎖編組織間に編地緯方向に渡って編み込まれる緯渡り糸と、加熱処理されて一部若しくは全部が溶融または熱変形して固着性を示す熱変形性弾性糸とを経編機に掛けて経編地を編成し、編成した経編地を熱処理することにより裁断部で綿糸の解れを防止した経編地で、鎖編糸及び/または緯渡り糸の一部にポリウレタンなどの弾性糸及びそれ以外の綿糸や合成糸を用いることができる。
【0058】
また、このような緯編地として、加熱処理されて一部若しくは全部が溶融または熱変形して固着性を示す熱変形性弾性糸とそれ以外の糸、例えば綿糸とポリウレタンなどの弾性糸をプレーティング編みで編成し、ヒートセット加工で熱変形性弾性糸を熱変形させることにより裁断部で綿糸の解れを防止した天竺生地やフライス編地などを用いることができる。何れの場合にも熱変形性弾性糸として低融点ポリウレタン糸を好適に用いることができる。
【0059】
本発明が適用されるカップ付衣類はブラジャーに限定されるものではなく、キャミソールやタンクトップなどカップ部を備えた衣類に広く適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明によるカップ付衣類は、日常で着用しても特段の違和感を与えることなく、姿勢補整効果が得られるカップ付衣類として女性に広く利用される。
【符号の説明】
【0061】
1:カップ付衣類(ブラジャー)
2.ベース部
3,4:カップ部
5:バック部
6,7:肩ストラップ部
8:交差部