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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-06
(45)【発行日】2023-11-14
(54)【発明の名称】構造発色に用いられるメラニン被覆粒子
(51)【国際特許分類】
   C08L 65/00 20060101AFI20231107BHJP
   G02B 5/28 20060101ALI20231107BHJP
   C09C 3/10 20060101ALI20231107BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20231107BHJP
   C08G 61/10 20060101ALI20231107BHJP
   C08J 3/12 20060101ALI20231107BHJP
【FI】
C08L65/00
G02B5/28
C09C3/10
C08L101/00
C08G61/10
C08J3/12 Z CEZ
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019210074
(22)【出願日】2019-11-21
(65)【公開番号】P2021080394
(43)【公開日】2021-05-27
【審査請求日】2022-09-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 佑亮
(72)【発明者】
【氏名】小堀 純
【審査官】牟田 博一
(56)【参考文献】
【文献】特開平2-232264(JP,A)
【文献】特開平1-92273(JP,A)
【文献】特表平6-507670(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L
C09C3/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コアがメラニンで被覆された構造色発現粒子であって、前記メラニンが、メラニンを過酸化水素で分解したとき、1H-ピロール-2,3,5-トリカルボン酸(PTCA)及び1H-ピロール-2,3-ジカルボン酸(PDCA)をPTCA/PDCA=0.4~1.5のモル比で生成する構造を有し、下記の式(1)で算出するメラニン被覆量が0.11~0.45μmol/gである構造色発現粒子。
メラニン被覆量[μmol/g]
={(A)+(B)}/1000000/{(C)-(A)×199.118-(B)×155.11} (1)
(A):コアに被覆されたメラニンを過酸化水素で分解したとき生成するPTCA[mol]
(B):コアに被覆されたメラニンを過酸化水素で分解したとき生成するPDCA[mol]
(C):メラニン被覆量の測定に使用したメラニンで被覆された粒子の質量[g]
【請求項2】
前記コアの平均粒子径が50~500nmである請求項1記載の構造色発現粒子。
【請求項3】
前記メラニンが、5,6-ジヒドロキシインドールを重合することにより生成するメラニンである請求項1又は2記載の構造色発現粒子。
【請求項4】
ラニン被覆量が0.12~0.36μmol/gである請求項1~3のいずれか1項記載の構造色発現粒子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造発色に用いられるメラニン被覆粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
粒子径の揃った有機、無機、及び有機-無機複合粒子を規則的に配列させることによって、光の回折・干渉が生じ、角度依存性のある構造色を発現することができることが知られている。
一般的に、構造色を発現するための粒子には、ポリスチレンやシリカといった比較的粒子径の揃った粒子で且つ合成しやすい粒子が用いられているが、これらの粒子を用いた場合は光の散乱によって得られる構造色が白っぽくなり、色を視認し難いという問題がある。
【0003】
この問題に対して、特許文献1には、散乱光を吸収する黒色材料であるポリドーパミンでコア粒子を被覆し、構造色の視認性を向上する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-62271号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記特許文献1に記載の方法でも発色性について未だ十分であるとはいえず、更なる発色性の向上が望まれていた。
本発明の課題は、発色性(彩度)の高い構造色発現粒子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題に鑑み鋭意検討したところ、特定の構造を有するメラニンで被覆した粒子が高発色な構造色を発現することを見出した。
【0007】
すなわち、本発明は、コアがメラニンで被覆された粒子であって、前記メラニンが、メラニンを過酸化水素で分解したとき、1H-ピロール-2,3,5-トリカルボン酸(PTCA)及び1H-ピロール-2,3-ジカルボン酸(PDCA)をPTCA/PDCA=0.4~1.5のモル比で生成する構造を有する、粒子を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、高発色な構造色を発現可能なメラニン被覆粒子を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の粒子は、コアがメラニンで被覆されたコアシェル型の粒子であって、前記メラニンが、メラニンを過酸化水素で分解したとき、1H-ピロール-2,3,5-トリカルボン酸(PTCA)及び1H-ピロール-2,3-ジカルボン酸(PDCA)をPTCA/PDCA=0.4~1.5のモル比で生成する構造を有する。
メラニンは、生体内において、チロシン又は3,4-ジヒドロキシフェニルアラニン(DOPA)を出発物質として、複数の酸化反応を含む多段階反応を経由して生合成される色素である。本発明の効果を有するメラニンの構造は、メラニンを過酸化水素で分解したときに生成する1H-ピロール-2,3,5-トリカルボン酸(PTCA)及び1H-ピロール-2,3-ジカルボン酸(PDCA)のモル比で規定することができる(Shosuke Ito et al.,Pigment Cell Research,11,120-126(1998))。
本明細書において、メラニンの過酸化水素分解法は以下のとおりである。
【0010】
[メラニンの過酸化水素分解法]
4mLのバイアル瓶に、約0.01~0.2gのメラニン被覆粒子の乾燥ペレットと、0.6mLの1mol/L NaOH水溶液(過酸化水素を1.5質量%含む)を加え、超音波により乾燥ペレットを均一に分散させる。このスラリーをミックスローターバリアブル(VMR-5R、アズワン株式会社、100r/min)で20時間撹拌を行う。その後、塩酸(6mol/L)を120μL加え、0.2μmのフィルターで濾過する。
メラニン被覆粒子の乾燥ペレットは、メラニン被覆粒子の水分散液(粒子濃度:約10質量%)をシリコンラバーに50μL滴下し、室温(25℃)で乾燥することで水を蒸発させて調製する。
【0011】
取得した濾液は、以下のHPLC条件により分析を行い、生成したPTCA量(mol)及びPDCA量(mol)を測定する。
<HPLC条件>
カラム:L-column ODS(4.6×150mm、5μm)
オーブン温度:40℃
溶離液A:0.1mol/L リン酸二水素カリウム 0.1wt%リン酸
溶離液B:70%メタノール水溶液
流量:1mL/min
注入量:10μL
測定波長:280nm
測定条件:0-5分 A液:B液=100:0
5-20分 A液100%から15分間でB液100%に変化
20-25分 A液:B液=0:100
25-30分 A液:B液=100:0
【0012】
コアは、有機材料、無機材料、又はこれらの複合材料を含む。
有機材料としては、ポリスチレン等のスチレン系樹脂、アクリル酸、メタクリル酸等のアクリル系樹脂等が挙げられる。なかでも、粒径制御及び、粒径の均一な粒子の作製が容易である点からスチレン系樹脂が好ましい。
無機材料としては、例えば、ジルコニア、シリカ、アルミナ、酸化セリウム、酸化チタン等が挙げられる。なかでも、粒径制御及び、粒径の均一な粒子の作製が容易である点からシリカが好ましい。
【0013】
コアは、本発明のメラニン被覆粒子の核となる部分であり、その形状は、球状であることが好ましい。
コアの平均粒子径は、可視光範囲の構造発色に必要な粒子径であることから、50~500nmであることが好ましく、100~400nmであることがより好ましい。コアの平均粒子径は、動的光散乱法によって測定を行いキュムラント法解析により求めたものである。平均粒子径は、後述する実施例に記載の装置により測定することができる。
【0014】
コアを被覆するメラニンは、メラニンを過酸化水素で分解したとき、1H-ピロール-2,3,5-トリカルボン酸(PTCA)及び1H-ピロール-2,3-ジカルボン酸(PDCA)をPTCA/PDCA=0.4~1.5のモル比で生成する構造を有するが、メラニン被覆粒子の発色性の観点から、当該PTCA/PDCA=0.5~1.2のモル比で生成する構造を有することが好ましく、PTCA/PDCA=0.6~1.0のモル比で生成する構造を有することがより好ましい。
【0015】
また、コアを被覆するメラニンは、メラニンを過酸化水素で分解したとき、1H-ピロール-2,3,5-トリカルボン酸(PTCA)を、コア1gあたり0.01~0.45μmol/g生成する構造を有することが好ましく、0.03~0.32μmol/g生成する構造を有することがより好ましく、0.05~0.18μmol/g生成する構造が更に好ましい。
【0016】
また、コアを被覆するメラニンは、メラニンを過酸化水素で分解したとき、1H-ピロール-2,3-ジカルボン酸(PDCA)を、コア1gあたり0.01~0.45μmol/g生成する構造を有することが好ましく、0.04~0.32μmol/g生成する構造を有することがより好ましく、0.07~0.182μmol/g生成することが更に好ましい。
【0017】
コアを被覆するメラニンは、メラニン前駆体を重合することにより生成するメラニンであることが好ましい。メラニン前駆体は、生体内のメラニン生合成経路において、チロシン又は3,4-ジヒドロキシフェニルアラニン(DOPA)を出発物質として生成する成分である。
メラニン前駆体としては、例えば、ドーパクロム、5,6-ジヒドロキシインドール、5,6-ジヒドロキシインドール-2-カルボン酸等が挙げられるが、高発色性、安定性、生産性の観点から、5,6-ジヒドロキシインドール(DHI)が好ましい。
メラニン前駆体は、例えば、特開2006-158304号公報に方法に準じて合成することができる。また、試薬で購入したものでも良い。
【0018】
コアがメラニンで被覆された粒子は、下記の式(1)で算出するメラニン被覆量が0.11~0.45μmol/gであることが、より発色性に優れることから好ましい。
[メラニン被覆量]
メラニン被覆量[μmol/g]
={(A)+(B)}/1000000/{(C)-(A)×199.118-(B)×155.11} (1)
(A):コアに被覆されたメラニンを過酸化水素で分解したとき生成するPTCA[mol]
(B):コアに被覆されたメラニンを過酸化水素で分解したとき生成するPDCA[mol]
(C):メラニン被覆量の測定に使用したメラニンで被覆された粒子の質量[g]
【0019】
コアがメラニンで被覆された粒子のメラニン被覆量は、メラニン被覆粒子の発色性の観点から、0.12~0.36μmol/gであることがより好ましい。
【0020】
後記実施例に示すように、本発明のコアがメラニンで被覆された粒子は、高発色な構造色を発現可能であり、構造色の特徴から、色材、フォトニック結晶、光センサー、光フィルター等の用途に応用可能である。
【0021】
本発明のコアがメラニンで被覆された粒子は、公知慣用の製造方法に従って製造することが可能であり、適宜の方法を採り得る。例えば、5,6-ジヒドロキシインドールを用いた製法を例として説明すると、コア、5,6-ジヒドロキシインドール及び水性媒体を混合し、撹拌する。これにより、5,6-ジヒドロキシインドールは、水性媒体中の酸素により容易に酸化されてメラニンへと重合し、コアにメラニンが被覆される。重合反応を停止した後、固液分離して粒子を回収することによりメラニン被覆粒子を得ることができる。
【0022】
水性媒体は、水、及び有機溶媒の水溶液が挙げられる。有機溶媒は、水と均一に混合するものであれば特に限定されず、例えば、炭素数4以下のアルコールが挙げられる。水性媒体は、好ましくは、水である。
【0023】
コア及び5,6-ジヒドロキシインドールを含有する水性媒体中の5,6-ジヒドロキシインドールの含有量は、メラニン被覆粒子の生産性の観点から、0.001質量%以上が好ましく、0.005質量%以上がより好ましく、0.01質量%以上が更に好ましく、また、メラニン単独粒子の生成により発色性が低下するのを抑える観点から、0.25質量%以下が好ましく、0.20質量%以下がより好ましく、0.15質量%以下が更に好ましい。
【0024】
また、コア及び5,6-ジヒドロキシインドールを含有する水性媒体中のコア(g)に対する5,6-ジヒドロキシインドール(mmol)の比[5,6-ジヒドロキシインドール(mmol)/コア(g)]は、メラニン被覆粒子の発色性の観点から、0.067~1.1mmol/gが好ましく、0.10~0.65mmol/gがより好ましく、0.13~0.28mmol/gが更に好ましい。
【0025】
5,6-ジヒドロキシインドールのメラニンへの重合反応は、特に制限されないが、メラニン被覆粒子の発色性の観点から、反応時間は、6~72時間であることが好ましく、12~48時間であることがより好ましく、18~30時間であることが更に好ましい。また、反応温度は、5~70℃であることが好ましく、10~60℃であることがより好ましい。
【0026】
このような製造方法によれば、高発色な構造色を発現可能な本発明のコアがメラニンで被覆された粒子を生産性良く得ることができる。
【実施例
【0027】
〔ポリスチレン(PS)粒子の調製〕
蒸留水(DW)570gに、エタノール(関東化学(株)、99.5容量%)63g、スチレン(富士フィルム和光純薬(株))83g、8N 水酸化カリウム(関東化学(株))0.42g及びリン酸二水素カリウム(富士フィルム和光純薬(株))0.44gを加え、オイルバスで65℃に加温しながら、窒素雰囲気下で50分撹拌を行った。その後、DW10gにp-スチレンスルホン酸ナトリウム(富士フィルム和光純薬(株))を0.66g溶解させた水溶液、及びDW15gにペルオキソ二硫酸カリウム(関東化学(株))を0.65g溶解させた水溶液を順番に加え、重合を行った。21時間後、窒素通気により、未反応のモノマーを取り除いた。その後、反応液をオイルバスから取り出し、室温まで冷却して反応を停止させた後、遠心分離(18000r/min、40min、5℃)により粒子を回収、DWに再分散を2~3回繰り返し、粒子の洗浄を行った。回収した粒子の平均粒子径を動的光散乱法(ELSZ-2000、大塚電子株式会社)により測定したところ229nmであった。
【0028】
〔メラニン被覆粒子の作製〕
実施例1~4
バイアル瓶に、上記で調製したPS粒子、特開2006-158304号記載の方法に準じて調製した5,6-ジヒドロキシインドール(DHI)溶液(1質量%)及び蒸留水(DW)を表1に示した組成になるよう混合し、室温で、ミックスローターバリアブル(VMR-5R、アズワン株式会社、100r/min)を用いて24時間撹拌を行った。撹拌後、反応溶液1mLに対し0.1質量%リン酸水溶液(アスコルビン酸ナトリウム3質量%含有)を0.2mL添加することによって反応を停止した。その後、遠心分離(18000r/min、40min、5℃)により粒子を回収し、DWを加えて再分散後に遠心分離を行って粒子を回収し、コアに被覆されていないメラニンを除去した。そして、DW添加、再分散後に遠心分離を行って粒子を回収する操作を上澄み液が透明になるまで繰り返して粒子の洗浄を行った後、メラニン被覆粒子を得た。
【0029】
比較例1~3
メラニン前駆体としてDHIの代わりにドーパミン(DA)を、蒸留水の代わりに50mmol/Lトリスヒドロキシメチルアミノメタン水溶液を使用した以外は、表1に示した組成になるよう混合し、実施例1と同様にメラニン被覆粒子を得た。
【0030】
〔発色性の評価〕
メラニン被覆粒子の水分散液(粒子濃度:約10質量%)をシリコンラバーに50μL滴下し、室温(25℃)で乾燥を行うことによって水を蒸発させ、構造色を有する乾燥ペレットを作製した。この乾燥ペレットの反射光スペクトルを測定し、JIS Z 8781-4に基づき、CIE1931色空間の等色関数を用いて三刺激値を算出した後、CIE1976L**bへ変換し、彩度(C*)の算出を行った。
【0031】
〔メラニンの構造分析及びメラニン被覆量の測定〕
前述の方法で、メラニンを過酸化水素で分解したときに生成する1H-ピロール-2,3,5-トリカルボン酸(PTCA)及び1H-ピロール-2,3-ジカルボン酸(PDCA)の分析を行った。そのモル比を求めた。
メラニン被覆量は、前述の式(1)で算出した。
【0032】
実施例1~4及び比較例1~3の製造条件及び分析結果を表1に示す。
【0033】
【表1】
【0034】
表1より明らかなように、PS粒子が、メラニンを過酸化水素で分解したとき1H-ピロール-2,3,5-トリカルボン酸(PTCA)及び1H-ピロール-2,3-ジカルボン酸(PDCA)をPTCA/PDCA=0.4~1.5のモル比で生成する構造を有するメラニンで被覆された粒子は、彩度(C*)の値が高く、発色性の高い構造色発現粒子であることが確認された。