(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-06
(45)【発行日】2023-11-14
(54)【発明の名称】ポリヒドロキシアルカン酸の製造方法およびその利用
(51)【国際特許分類】
C08J 3/16 20060101AFI20231107BHJP
B01J 2/04 20060101ALI20231107BHJP
【FI】
C08J3/16 CFD
B01J2/04
(21)【出願番号】P 2019219807
(22)【出願日】2019-12-04
【審査請求日】2022-10-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】福本 明日香
(72)【発明者】
【氏名】平野 優
【審査官】武貞 亜弓
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/070492(WO,A1)
【文献】特開平09-287001(JP,A)
【文献】特開平08-073501(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P1/00 -41/00
C08J3/00 -3/28;99/00
C08L101/16
B01J2/00 -2/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)ポリヒドロキシアルカン酸およびポリビニルアルコール(PVA)を含み、かつ、pHが7以下である水性懸濁液を調製する工程、および
(b)前記工程(a)で調製した水性懸濁液を噴霧乾燥する工程、を含む、ポリヒドロキシアルカン酸の製造方法であり、
前記工程(b)は、前記ポリヒドロキシアルカン酸300kg以上を噴霧乾燥する大規模生産工程であり、
前記工程(a)は、ポリヒドロキシアルカン酸の濃度およびPVAの濃度を制御する工程を含み、
前記工程(a)において、前記ポリヒドロキシアルカン酸の濃度を49質量%超、60質量%以下に制御し、かつ、前記PVAの濃度を0.8phr超、2.0phr以下に制御し、
前記工程(b)は、ロータリーアトマイザーを用いる工程を含み、
さらに、前記工程(b)において、前記ポリヒドロキシアルカン酸の
粉体のメジアン粒子径を、
前記ロータリーアトマイザーのディスク直径を0.0625~0.5mに設定し、
前記ロータリーアトマイザーの回転数を3000~19000rpmに設定し、かつ、
噴霧乾燥機への前記水性懸濁液の送液速度を20~5000kg/hに設定することにより、103μm以上に制御する、ポリヒドロキシアルカン酸の製造方法。
【請求項2】
(a)ポリヒドロキシアルカン酸およびポリビニルアルコール(PVA)を含み、かつ、pHが7以下である水性懸濁液を調製する工程、および
(b)前記工程(a)で調製した水性懸濁液を噴霧乾燥する工程、を含む、ポリヒドロキシアルカン酸の製造方法であり、
前記工程(b)は、前記ポリヒドロキシアルカン酸300kg以上を噴霧乾燥する大規模生産工程であり、
前記工程(a)は、ポリヒドロキシアルカン酸の濃度およびPVAの濃度を制御する工程を含み、
前記工程(a)において、前記ポリヒドロキシアルカン酸の濃度を30質量%超、49質量%以下に制御し、かつ、前記PVAの濃度を0.8phr超、2.0phr以下に制御し、
前記工程(b)は、ロータリーアトマイザーを用いる工程を含み、
さらに、前記工程(b)において、前記ポリヒドロキシアルカン酸の
粉体のメジアン粒子径を、
前記ロータリーアトマイザーのディスク直径を0.0625~0.5mに設定し、
前記ロータリーアトマイザーの回転数を3000~10000rpmに設定し、かつ、
噴霧乾燥機への前記水性懸濁液の送液速度を20~5000kg/hに設定することにより、103μm以上に制御する、ポリヒドロキシアルカン酸の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリヒドロキシアルカン酸の製造方法およびその利用に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリヒドロキシアルカン酸(以後、「PHA」と称する場合がある。)は、生分解性を有することが知られている。
【0003】
微生物が生成するPHAは、微生物の菌体内に蓄積されるため、PHAをプラスチックとして利用するためには、微生物の菌体内からPHAを分離・精製する工程が必要となる。PHAを分離・精製する工程では、PHA含有微生物の菌体を破砕もしくはPHA以外の生物由来成分を可溶化した後、得られた水性懸濁液からPHAを取り出す。このとき、例えば、遠心分離、ろ過、乾燥等の分離操作を行う。乾燥操作には、スプレードライヤー、流動層乾燥機、ドラムドライヤー等が用いられるが、操作が簡便であることから、好ましくはスプレードライヤーが用いられる。
【0004】
これまで、本発明者は、pH7以下の水性懸濁液中でのPHAの凝集を防止するために、水性懸濁液のpHを7以下に調整する前にポリビニルアルコール(PVA)を分散剤として添加し、その後、得られたpH7以下の水性懸濁液を噴霧乾燥する技術を開発している(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した特許文献1の技術は優れたものであるが、PHAの大規模生産を行う際に、さらなる改善の余地もある。
【0007】
そこで、本発明の目的は、PHAの大規模生産を行う際に、加工に適したPHA(例えば、PHA粉体)を得ることができる製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、特定のメジアン粒子径のPHAを使用することにより、造粒後の粉体加工においてPVAを含有するPHA粉体の流動性の低下を抑制できるとの新規知見を見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
したがって、本発明の一態様は、(a)ポリヒドロキシアルカン酸およびポリビニルアルコール(PVA)を含み、かつ、pHが7以下である水性懸濁液を調製する工程、および(b)前記工程(a)で調製した水性懸濁液を噴霧乾燥する工程、を含む、ポリヒドロキシアルカン酸の製造方法であり、前記工程(b)は、前記ポリヒドロキシアルカン酸300kg以上を噴霧乾燥する大規模生産工程であり、さらに、前記工程(b)において、前記ポリヒドロキシアルカン酸のメジアン粒子径を103μm以上に制御する、ポリヒドロキシアルカン酸の製造方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一態様によれば、PHAの大規模生産を行う際に、加工に適したPHA(例えば、PHA粉体)を得ることができる製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施例および比較例における粉体流動性を測定するための、ICIフローカップを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施の一形態について、以下に詳細に説明する。なお、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上、B以下」を意味する。また、本明細書中に記載された文献の全てが、本明細書中において参考文献として援用される。
【0013】
〔1.本発明の概要〕
本発明の一実施形態に係るポリヒドロキシアルカン酸の製造方法(以下、「本製造方法」と称する。)は、(a)ポリヒドロキシアルカン酸およびポリビニルアルコール(PVA)を含み、かつ、pHが7以下である水性懸濁液を調製する工程、および(b)前記工程(a)で調製した水性懸濁液を噴霧乾燥する工程、を含み、前記工程(b)は、前記ポリヒドロキシアルカン酸300kg以上を噴霧乾燥する大規模生産工程であり、さらに、前記工程(b)において、前記ポリヒドロキシアルカン酸のメジアン粒子径を103μm以上に制御する、方法である。
【0014】
本発明者は、さらに研究を進めるうちに、上述した特許文献1の方法では、PHAの大規模生産を行う際に、得られたPHAを用いて造粒を行った場合、造粒後の粉体輸送においてPHA粉体の流動性が低下するという新たな問題が生じることを見出した。
【0015】
そこで、本発明者は、PHAの大量生産方法において、造粒後の粉体輸送においてPHA粉体の流動性が低下しない製造方法について鋭意検討した。その結果、特定のメジアン粒子径のPHAを使用することにより、造粒後の粉体加工においてPVAを含有するPHA粉体の流動性の低下を抑制できることを見出した。
【0016】
さらに、本発明者は、上記検討の過程で、驚くべきことに、(i)PHAのメジアン粒子径と、造粒後の粉体輸送におけるPHA粉体の流動性とが相関していること、および(ii)一定以上のメジアン粒子径のPHAを使用することにより、造粒後の粉体輸送におけるPHA粉体の流動性の低下を抑制できること、を初めて見出した。
【0017】
従い、本製造方法によれば、PHAの大規模生産を行う際に、加工に適したPHA(例えば、PHA粉体)を得ることができるとの効果を奏する。以下、本製造方法の構成について詳説する。
【0018】
〔2.PHAの製造方法〕
本製造方法は、下記の工程(a)および工程(b)を必須の工程として含む方法である。
・工程(a):PHAおよびPVAを含み、かつ、pHが7以下である水性懸濁液を調製する工程
・工程(b):前記工程(a)で調製した水性懸濁液を噴霧乾燥する工程(ここで、工程(b)は、前記ポリヒドロキシアルカン酸300kg以上を噴霧乾燥する大規模生産工程であり、さらに、前記工程(b)において、前記ポリヒドロキシアルカン酸のメジアン粒子径を103μm以上に制御する。)
(工程(a))
本製造方法における工程(a)では、PHAおよびPVAを含み、かつ、pHが7以下である水性懸濁液を調製する。当該水性懸濁液において、PHAは水性媒体中に分散した状態で存在しており、PVAは水性媒体に溶解している。以下では、少なくともPHAを含む水性懸濁液を、「PHA水性懸濁液」と略して表記する場合がある。
【0019】
<PHA>
本明細書において、「PHA」とは、ヒドロキシアルカン酸をモノマーユニットとする重合体の総称である。PHAを構成するヒドロキシアルカン酸としては、特に限定されないが、例えば、3-ヒドロキシブタン酸、4-ヒドロキシブタン酸、3-ヒドロキシプロピオン酸、3-ヒドロキシペンタン酸、3-ヒドロキシヘキサン酸、3-ヒドロキシヘプタン酸、3-ヒドロキシオクタン酸等が挙げられる。これらの重合体は、単独重合体でも、2種以上のモノマーユニットを含む共重合体でもよい。
【0020】
より詳しくは、PHAとしては、例えば、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)(P3HB)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)(P3HB3HH)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシバリレート)(P3HB3HV)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-4-ヒドロキシブチレート)(P3HB4HB)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシオクタノエート)(P3HB3HO)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシオクタデカノエート)(P3HB3HOD)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシデカノエート)(P3HB3HD)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシバリレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)(P3HB3HV3HH)等が挙げられる。中でも、工業的に生産が容易であることから、P3HB、P3HB3HH、P3HB3HV、P3HB4HBが好ましい。
【0021】
また、繰り返し単位の組成比を変えることで、融点、結晶化度を変化させ、結果として、ヤング率、耐熱性等の物性を変化させることができ、かつ、ポリプロピレンとポリエチレンとの間の物性を付与することが可能であること、および上記したように工業的に生産が容易であり、物性的に有用なプラスチックであるという観点から、3-ヒドロキシ酪酸と3-ヒドロキシヘキサン酸の共重合体であるP3HB3HHがより好ましい。
【0022】
本発明の一実施形態において、P3HB3HHの繰り返し単位の組成比は、柔軟性および強度のバランスの観点から、3-ヒドロキシブチレート単位/3-ヒドロキシヘキサノエート単位の組成比が、80/20~99/1(mol/mol)であることが好ましく、85/15~97/3(mo1/mo1)であることがより好ましい。3-ヒドロキシブチレート単位/3-ヒドロキシヘキサノエート単位の組成比が、99/1(mol/mol)以下であると、十分な柔軟性が得られ、80/20(mol/mol)以上であると、十分な硬度が得られる。
【0023】
工程(a)は、下記の工程(a1)および工程(a2)を含むことが好ましい。
・工程(a1):PHA水性懸濁液にPVAを添加する工程
・工程(a2):PHA水性懸濁液のpHを7以下に調整する工程
工程(a1)と工程(a2)とを実施する順番は、特に限定されないが、工程(a2)におけるPHAの凝集が抑制され、よりPHAの分散安定性に優れた水性懸濁液が得られる観点で、工程(a1)の後に工程(a2)を実施することが好ましい。
【0024】
工程(a)において、出発原料として用いるPHA水性懸濁液(PVAが添加されていないPHA水性懸濁液)は、特に限定されないが、例えば、細胞内にPHAを生成する能力を有する微生物を培養する培養工程、および当該培養工程の後、PHA以外の物質を分解および/または除去する精製工程、を含む方法により得ることができる。
【0025】
本製造方法は、工程(a)の前に、PHA水性懸濁液(PVAが添加されていないPHA水性懸濁液)を得る工程(例えば、上述の培養工程および精製工程を含む工程)を含んでいてもよい。当該工程において用いられる微生物は、細胞内にPHAを生成し得る微生物である限り、特に限定されない。例えば、天然から単離された微生物や菌株の寄託機関(例えば、IFO、ATCC等)に寄託されている微生物、またはそれらから調製し得る変異体や形質転換体等を使用できる。より詳しくは、例えば、カプリアビダス(Cupriavidus)属、アルカリゲネス(Alcaligenes)属、ラルストニア(Ralstonia)属、シュウドモナス(Pseudomonas)属、バチルス(Bacillus)属、アゾトバクター(Azotobacter)属、ノカルディア(Nocardia)属、アエロモナス(Aeromonas)属の菌等が挙げられる。中でも、アエロモナス属、アルカリゲネス属、ラルストニア属、またはカプリアビダス属に属する微生物が好ましい。特に、アルカリゲネス・リポリティカ(A.lipolytica)、アルカリゲネス・ラトゥス(A.latus)、アエロモナス・キャビエ(A.caviae)、アエロモナス・ハイドロフィラ(A.hydrophila)、カプリアビダス・ネケータ(C.necator)等の菌株がより好ましく、カプリアビダス・ネケータが最も好ましい。
【0026】
また、微生物が、本来PHAの生産能力を有しないものである場合、またはPHAの生産量が低いものである場合には、当該微生物に目的とするPHAの合成酵素遺伝子および/またはその変異体を導入して得られる形質転換体を用いることもできる。このような形質転換体の作製に用いるPHAの合成酵素遺伝子としては特に限定されないが、アエロモナス・キャビエ由来のPHA合成酵素の遺伝子が好ましい。これらの微生物を適切な条件で培養することで、菌体内にPHAを蓄積した微生物菌体を得ることができる。当該微生物菌体の培養方法は特に限定されないが、例えば、特開平05-93049号公報等に記載された方法が用いられる。
【0027】
上記の微生物を培養することにより作製されたPHA含有微生物には、不純物である菌体由来成分が多量に含まれているため、通常、PHA以外の不純物を分解および/または除去するための精製工程を実施され得る。この精製工程においては、特に限定されず、当業者が考え得る物理学的処理、化学的処理、生物学的処理等を適用することができ、例えば、国際公開第2010/067543号に記載の精製方法が好ましく適用できる。
【0028】
上記の精製工程により、最終製品に残留する不純物量が概ね決定されるため、これらの不純物は、できる限り低減させた方が好ましい。当然に、用途によっては、最終製品の物性を損なわない限り不純物が混入しても構わないが、医療用用途等、高純度のPHAが必要とされる場合は、できる限り不純物を低減させることが好ましい。その際の精製度の指標としては、例えば、PHA水性懸濁液中のタンパク質量が挙げられる。当該タンパク質量は、好ましくは、PHA重量当たり30000ppm以下、より好ましくは、15000ppm以下、さらに好ましくは、10000ppm以下、最も好ましくは、7500ppm以下である。精製手段は、特に限定されず、例えば、上記した公知の方法を適用可能である。
【0029】
なお、本製造方法におけるPHA水性懸濁液を構成する溶媒(「溶媒」は、「水性媒体」とも称する。)は、水、または水と有機溶媒との混合溶媒であってもよい。また、当該混合溶媒において、水と相溶性のある有機溶媒の濃度としては、使用する有機溶媒の水への溶解度以下であれば特に限定されない。また、水と相溶性のある有機溶媒としては特に限定されないが、例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、iso-ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;アセトニトリル、プロピオニトリル等のニトリル類;ジメチルホルムアミド、アセトアミド等のアミド類;ジメチルスルホキシド、ピリジン、ピペリジン等が挙げられる。中でも、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、iso-ブタノール、アセトン、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、アセトニトリル、プロピオニトリル等が、除去しやすい点から好ましい。また、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、ブタノール、アセトン等が、入手容易であることからより好ましい。さらに、メタノール、エタノール、アセトンが、特に好ましい。なお、PHA水性懸濁液を構成する水性媒体は、本発明の本質を損なわない限り、他の溶媒、菌体由来の成分、精製時に発生する化合物等を含んでいても構わない。
【0030】
本製造方法におけるPHA水性懸濁液を構成する水性媒体には、水が含まれていることが好ましい。水性媒体中の水の含有量は、5重量%以上が好ましく、より好ましくは、10重量%以上であり、さらに好ましくは、30重量%以上であり、特に好ましくは、40重量%以上である。
【0031】
本発明の一実施形態において、PHA水性懸濁液のせん断粘度は、特に限定されないが、優れた流動性が達成されるという観点から、せん断速度1000 1/sでの粘度が5~120mPa・sが好ましく、10~100mPa・sがより好ましい。
【0032】
<分散剤>
本製造方法の工程(a)における分散剤は、ポリビニルアルコール(PVA)である。
【0033】
本製造方法の工程(a)(特に、工程(a1))において使用されるPVAは、特に限定されず、例えば、市販品を使用することができる。
【0034】
本発明の一実施形態において、PVAの平均重合度は、好ましくは、200以上であり、より好ましくは、300以上であり、さらに好ましくは、500以上である。また、PVAの平均重合度の上限は、好ましくは、2400以下であり、より好ましくは、2000以下である。PVAの平均重合度を200以上とすることにより、PHA水性懸濁液におけるPHAの分散安定性がより向上し、一層噴霧乾燥を効率的に実施できる傾向がある。上限についても同様に、PVAの平均重合度を2400以下とすることにより、PHA水性懸濁液におけるPHAの分散安定性がより向上し、一層噴霧乾燥を効率的に実施できる傾向がある。
【0035】
本製造方法の工程(a)(特に、工程(a1))において使用されるPVAのケン化度は、好ましくは、35mol%以上であり、より好ましくは、50mol%以上であり、さらに好ましくは、80mol%以上である。また、PVAのケン化度の上限は、好ましくは、99.9mol%以下であり、より好ましくは、98.5mol%以下であり、さらに好ましくは、95mol%以下である。PVAのケン化度を35mol%以上とすることにより、PHA水性懸濁液におけるPHAの分散安定性がより向上し、一層噴霧乾燥を効率的に実施できる傾向がある。上限についても同様に、PVAのケン化度を99.9mol%以下とすることにより、PHA水性懸濁液におけるPHAの分散安定性がより向上し、一層噴霧乾燥を効率的に実施できる傾向がある。
【0036】
本製造方法の工程(a)(特に、工程(a1))におけるPHA水性懸濁液に対するPVAの添加量は、特に限定されないが、水性懸濁液に含まれるPHA100重量部に対して、好ましくは、0.1~20重量部であり、より好ましくは、0.5~10重量部であり、さらに好ましくは、0.75~5重量部である。PVAの添加量を0.1重量部以上とすることにより、PHA水性懸濁液におけるPHAの分散安定性がより向上し、一層噴霧乾燥を効率的に実施できる傾向がある。上限についても同様に、PVAの添加量を20重量部以下とすることにより、PHA水性懸濁液におけるPHAの分散安定性がより向上し、一層噴霧乾燥を効率的に実施できる傾向がある。
【0037】
<その他>
本製造方法の工程(a)に付される前のPHA水性懸濁液(PVAが添加される前のPHA水性懸濁液)は、通常、上記の精製工程を経ることにより、7を超えるpHを有する。そこで、本製造方法の工程(a)(特に、工程(a2))により、上記PHA水性懸濁液のpHを7以下に調整する。その調整方法は、特に限定されず、例えば、酸を添加する方法等が挙げられる。酸は、特に限定されず、有機酸、無機酸のいずれでもよく、揮発性の有無は問わない。より具体的には、酸としては、例えば、硫酸、塩酸、リン酸、酢酸等が使用できる。
【0038】
上記調整工程において調整するPHA水性懸濁液のpHの上限については、PHAを加熱溶融した時の着色を低減したり、加熱時および/または乾燥時の分子量の安定性を確保する観点から、7以下であり、好ましくは、5以下であり、より好ましくは、4以下である。また、pHの下限については、容器の耐酸性の観点より、好ましくは、1以上であり、より好ましくは、2以上であり、さらに好ましくは、3以上である。PHA水性懸濁液のpHを7以下とすることによって、加熱溶融時の着色が低減され、加熱時および/または乾燥時の分子量低下が抑制されたPHAが得られる。
【0039】
本製造方法の工程(a)により得られるPHA水性懸濁液におけるPHAの濃度は、乾燥ユーティリティーの面から経済的に有利であり、生産性が向上するため、30重量%以上が好ましく、40重量%以上がより好ましく、50重量%以上がさらに好ましい。また、PHAの濃度の上限は、最密充填となり、十分な流動性が確保できない可能性があるため、65重量%以下が好ましく、60重量%以下がより好ましい。PHAの濃度を調整する方法は、特に限定されず、水性媒体を添加したり、水性媒体の一部を除去する(例えば、遠心分離した後、上清を取り除く等による)等の方法が挙げられる。PHAの濃度の調整は、工程(a)のいずれの段階で実施してもよいし、工程(a)の前の段階で実施してもよい。
【0040】
本発明の一実施形態において、本製造方法は、工程(a)で調製する水性懸濁液におけるポリヒドロキシアルカン酸の濃度が、30重量%以上65重量%以下である。
【0041】
本製造方法の工程(a)により得られるPHA水性懸濁液におけるPHAの体積メジアン径(以下、単に「PHAの体積メジアン径」と称する。)は、当該PHAの一次粒子の体積メジアン径(以下、「一次粒子径」と称する。)の50倍以下が好ましく、20倍以下がより好ましく、10倍以下がさらに好ましい。PHAの体積メジアン径が一次粒子径の50倍以下であることにより、PHA水性懸濁液がより優れた流動性を示すため、その後の工程(b)を高効率で実施することができ、PHAの生産性が一層向上する傾向がある。
【0042】
本発明の一実施形態において、PHAの体積メジアン径は、例えば、優れた流動性が達成されるという観点から、0.5~5μmが好ましく、1~4.5μmがより好ましく、1~4μmがさらに好ましい。PHAの体積メジアン径は、HORIBA製レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置LA-950を用いて測定される。
【0043】
なお、上記のPHAの体積メジアン径は、PHA水性懸濁液におけるPHAの分散状態の指標とすることができる。上記のPHAの体積メジアン径を調整する方法は、特に限定されず、公知の手段(攪拌等)を適用できる。例えば、酸性条件下に曝される等して分散状態が崩れてしまったPHA水性懸濁液(例えば、工程(a1)の前に工程(a2)を実施する場合等)に対して、当業者が考え得る物理的処理、化学的処理、生物学的処理等を施し、PHA水性懸濁液におけるPHAを再度分散状態(例えば、上記のPHAの体積メジアン径を有する状態)に復帰させることもできる。
【0044】
(工程(b))
本製造方法における工程(b)では、工程(a)で調製したPHA水性懸濁液を噴霧乾燥する。噴霧乾燥の方法としては、例えば、PHA水性懸濁液を微細な液滴の状態として乾燥機内に供給し、当該乾燥機内で熱風と接触させながら乾燥する方法等が挙げられる。PHA水性懸濁液を微細な液滴の状態で乾燥機内に供給する方法(アトマイザー)は、特に限定されず、回転ディスクを用いる方法、ノズルを用いる方法等の公知の方法が挙げられる。PHAのメジアン粒子径を制御する観点から、回転ディスクを用いる方法が好ましく、ロータリーアトマイザーが好ましく用いられる。乾燥機内における液滴と熱風の接触方式は、特に限定されず、並流式、向流式、これらを併用する方式等が挙げられる。
【0045】
本発明の一実施形態において、工程(b)では、噴霧乾燥機内にロータリーアトマイザーが設置された装置が用いられる。上記ロータリーアトマイザーが回転することでPHA水性懸濁液の液滴が形成され、続いて、乾燥機内で水が蒸発することにより、PHA粉体の粒子が形成される。
【0046】
噴霧乾燥に供されるPHA水性懸濁液中のPHAの濃度(本明細書において、「固形分濃度」とも称する。)は、特に限定されないが、生産性の観点から、25~60質量%が好ましく、28~55質量%がより好ましく、30~52質量%がさらに好ましい。
【0047】
本製造方法における工程(b)は、前記ポリヒドロキシアルカン酸300kg以上を噴霧乾燥する大規模生産工程であり、本製造方法では、上記工程(b)において、PHAのメジアン粒子径を103μm以上に制御する。
【0048】
工程(b)における「大規模生産工程」は、PHA300kg以上を噴霧乾燥する工程である。PHAの生産量は、400kg以上であることがより好ましく、500kg以上であることがさらに好ましい。〔1.本発明の概要〕に記載の通り、このような多量のPHAを用いて噴霧乾燥を行った場合に、造粒後の粉体輸送においてPHA粉体の流動性が低下するという問題が生じる。したがって、工程(b)において噴霧乾燥に供されるPHAの量は、上記問題が生じる量であればよく特に限定されない。なお、上限は、特に限定されるものではないが、例えば、50t以下を例示できる。
【0049】
工程(b)において、PHAのメジアン粒子径を103μm以上に制御することにより、多量のPHAを用いて噴霧乾燥を行った場合に、造粒後の粉体輸送におけるPHA粉体の流動性の低下を抑制することができる。なお、PHA粉体の流動性は、実施例に記載の方法により測定される。
【0050】
工程(b)において制御されるPHAのメジアン粒子径は、本発明の効果を奏する限り特に限定されないが、103μm以上であり、好ましくは、105μm以上であり、より好ましくは、110μm以上である。本PHA粉体のメジアン粒子径の上限は、本発明の効果を奏する限り特に限定されないが、例えば、200μm以下であり、好ましくは、180μm以下であり、より好ましくは、150μm以下である。
【0051】
本発明の一実施形態において、工程(b)におけるPHAのメジアン粒子径は、ロータリーアトマイザーのディスク直径により制御される。
【0052】
本発明の一実施形態において、工程(b)におけるPHAのメジアン粒子径を103μm以上に制御するために、ロータリーアトマイザーのディスク直径を0.0625~0.5mに設定することが好ましく、0.065~0.45mに設定することがより好ましく、0.1~0.4mに設定することがさらに好ましい。
【0053】
また、本発明の一実施形態において、工程(b)におけるPHAのメジアン粒子径は、ロータリーアトマイザーの回転数により制御される。なお、本明細書において、ロータリーアトマイザーの「回転数」は、「回転速度」と称することもある。
【0054】
工程(b)におけるPHAのメジアン粒子径を103μm以上に制御するためのロータリーアトマイザーの回転数は、工程(a)におけるPHAの濃度および/またはPVAの濃度に応じて適宜変更され得る。したがって、本発明の一実施形態において、工程(a)は、PHAの濃度およびPVAの濃度を制御する工程を含む。
【0055】
本発明の一実施形態において、工程(a)におけるPHAの濃度を49質量%超、60質量%以下とし、かつ、PVAの濃度を0.8phr超、2.0phr以下とした場合には、工程(b)におけるPHAのメジアン粒子径を103μm以上に制御するために、ロータリーアトマイザーの回転数を3000~19000rpmに設定することが好ましく、4000~18500rpmに設定することがより好ましく、5000~18000rpmに設定することがさらに好ましい。
【0056】
本発明の一実施形態において、工程(a)におけるPHAの濃度を30質量%超、49質量%以下とし、かつ、PVAの濃度を0.8phr超、2.0phr以下とした場合には、工程(b)におけるPHAのメジアン粒子径を103μm以上に制御するために、ロータリーアトマイザーの回転数を3000~10000rpmに設定することが好ましく、4000~9500rpmに設定することがより好ましく、5000~9000rpmに設定することがさらに好ましい。
【0057】
工程(b)における噴霧乾燥機へのPHA水性懸濁液の送液速度は、本発明の効果を奏する限り特に限定されないが、例えば、20~5000kg/hであり、好ましくは、35~4750kg/hであり、より好ましくは、50~4500kg/hである。
【0058】
工程(b)における噴霧乾燥の際の乾燥温度は、PHA水性懸濁液の液滴から水性媒体の大半を除去できる温度であればよく、目的とする含水率まで乾燥させることができ、かつ、品質悪化(分子量低下、色調低下等)、溶融等を極力生じさせないような条件で、適宜設定できる。例えば、噴霧乾燥機に吹き込む熱風の温度は、100~300℃の範囲で、適宜選択できる。また、乾燥機内の熱風の風量についても、例えば、乾燥機のサイズ等に応じて、適宜設定できる。
【0059】
本製造方法は、工程(b)の後に、得られたPHA(PHA粉体等)をさらに乾燥させる工程(例えば、減圧乾燥に付す工程等)を含んでいてもよい。また、本製造方法は、その他の工程(例えば、PHA水性懸濁液に各種添加物を添加する工程等)を含んでいてもよい。
【0060】
上記工程(a)および(b)を含む本製造方法によると、PHAの大規模生産を行う際に、加工に適したPHA(例えば、PHA粉体)を得ることができる。
【0061】
〔3.ポリヒドロキシアルカン酸粉体〕
本発明の他の実施形態において、本製造方法により得られるポリヒドロキシアルカン酸粉体(以下、「本PHA粉体」と称する。)を提供する。本PHA粉体は、造粒後の粉体加工においてPHA粉体の良好な流動性を担保できるとの利点を有する。
【0062】
本PHA粉体の嵩密度は、特に限定されないが、優れた流動性が達成されるという観点から、0.30~0.50kg/Lが好ましく、0.35~0.50kg/Lがより好ましく、0.40~0.50kg/Lがさらに好ましい。本PHA粉体の嵩密度は、実施例に記載の方法により測定される。
【0063】
本PHA粉体の含水率は、特に限定されないが、保管安定性の観点から、0.05~0.30質量%が好ましく、0.08~0.28質量%がより好ましく、0.10~0.25質量%がさらに好ましい。本PHA粉体の含水率は、実施例に記載の方法により測定される。
【0064】
本PHA粉体は、本発明の効果を奏する限り、本製造方法の過程で生じた、または除去されなかった種々の成分を含んでいてもよい。
【0065】
本PHA粉体は、紙、フィルム、シート、チューブ、板、棒、容器(例えば、ボトル容器等)、袋、部品等、種々の用途に利用できる。
【0066】
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0067】
すなわち、本発明の一実施形態は、以下である。
<1>(a)ポリヒドロキシアルカン酸およびポリビニルアルコール(PVA)を含み、かつ、pHが7以下である水性懸濁液を調製する工程、および
(b)前記工程(a)で調製した水性懸濁液を噴霧乾燥する工程、を含む、ポリヒドロキシアルカン酸の製造方法であり、
前記工程(b)は、前記ポリヒドロキシアルカン酸300kg以上を噴霧乾燥する大規模生産工程であり、
さらに、前記工程(b)において、前記ポリヒドロキシアルカン酸のメジアン粒子径を103μm以上に制御する、ポリヒドロキシアルカン酸の製造方法。
<2>前記工程(b)は、ロータリーアトマイザーを用いる工程を含み、
前記ポリヒドロキシアルカン酸のメジアン粒子径の制御が、前記ロータリーアトマイザーのディスク直径を0.0625~0.5mに設定することにより行われる、<1>に記載のポリヒドロキシアルカン酸の製造方法。
<3>前記工程(a)は、ポリヒドロキシアルカン酸の濃度およびPVAの濃度を制御する工程を含み、
前記工程(a)において、前記ポリヒドロキシアルカン酸の濃度を49質量%超、60質量%以下に制御し、かつ、前記PVAの濃度を0.8phr超、2.0phr以下に制御し、
前記工程(b)は、ロータリーアトマイザーを用いる工程を含み、
前記工程(b)における前記ポリヒドロキシアルカン酸のメジアン粒子径の制御が、前記ロータリーアトマイザーの回転数を3000~19000rpmに設定することにより行われる、<1>に記載のポリヒドロキシアルカン酸の製造方法。
<4>前記工程(a)は、ポリヒドロキシアルカン酸の濃度およびPVAの濃度を制御する工程を含み、
前記工程(a)において、前記ポリヒドロキシアルカン酸の濃度を30質量%超、49質量%以下に制御し、かつ、前記PVAの濃度を0.8phr超、2.0phr以下に制御し、
前記工程(b)は、ロータリーアトマイザーを用いる工程を含み、
前記工程(b)における前記ポリヒドロキシアルカン酸のメジアン粒子径の制御が、前記ロータリーアトマイザーの回転数を3000~10000rpmに設定することにより行われる、<1>に記載のポリヒドロキシアルカン酸の製造方法。
【実施例】
【0068】
以下、本発明を実施例に基づいてより詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0069】
〔測定および評価方法〕
実施例および比較例における測定および評価を、以下の方法で行った。
【0070】
(メジアン粒子径)
本製造方法により得られる噴霧乾燥後のPHA粉体の平均粒径は、以下の方法により測定した。
【0071】
平均粒径は、レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置LA-950(HORIBA社)を用いて測定した。具体的な測定方法としては、イオン交換水20mlに、分散剤として界面活性剤であるドデシル硫酸ナトリウム0.05gを加えて、界面活性剤水溶液を得た。その後、上記界面活性剤水溶液に、測定対象の樹脂粒子群0.2gを加え、上記樹脂粒子群を上記界面活性剤水溶液中に分散させ、測定用の分散液を得た。調製した分散液を、上記レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置に導入し、測定を行った。
【0072】
(嵩密度)
JISのK-7365に記載の方法で、体積100ml±0.5ml、内径45mm±5mmの内面を滑らかに仕上げた金属シリンダー(受器)の上部に、下部開口部が20mm~30mmの漏斗にダンパー(例えば、金属製の板)を付けたものがセッティングされた装置を用いて測定を行った。はかりには、0.1gの桁まで計ることのできるものを使用した。
【0073】
具体的な測定方法としては、漏斗とシリンダーの軸が一致するように、垂直に保持した。試験に先立って粉体をよく混合した。漏斗の下部開口部のダンパーを閉じ、その中に粉体を110ml~120ml投入した。速やかにダンパーを引き抜き、材料を受器の中に流下させた。受器が一杯になったら、受器から盛り上がった材料を直線状の板ですり落とした。はかりを用いて、受器の内容物の質量を0.1gの桁まで計った。試験する粉体について、2回の測定を行った。
【0074】
試験した材料の見掛け嵩密度(単位:kg/L)は、次の式で計算した。
【0075】
m/V
ここで、mは、受器の内容物の質量(g)を表し、Vは、受器の体積(ml)(すなわち、100)を表す。2回の測定結果の算術平均値を結果とした。
【0076】
(含水率)
含水率は、JIS:7251:2002 B法(水分気化法)に則り、カールフィッシャー電量滴定法で測定を行った。三菱化学アナリテックの微量水分測定装置CA-200を用い、サンプル(PHA粉体)0.5gを専用容器に測りとり、加熱温度160℃、N2風量250ml/minの条件で含水率(質量%)を測定した。
【0077】
(粉体流動性)
粉体流動性は、ICIフローで確認を行った。ICIフローとは、粉体粒子の動的状態での粉体粒子の流れやすさを表す指標であり、本実施例では、φ5mmの穴があいたロート状の金属性容器であるICIフローカップを用いた。使用したICIフローカップを
図1に示す。室温で、充填部2からカップにPHA粉体を充填し、その後、底蓋(流出部3)を開けてPHA粉体がすべて流出するかどうかを確認した。なお、
図1中、充填部2の長さは55mmであり、流出部3の長さは5mmであり、充填部2から流出部3までの最短距離は60mmである。PHA粉体がブリッジして流動性がなくなった場合には、付属のハンマーで振動を与えた。充填したPHA粉体がすべて流出した場合を○、それ以外の場合を×とした。
【0078】
(せん断粘度)
せん断粘度は、レオメーターAR-G2(TA Instrument社製)を用いて、同軸2重円筒にて測定した。具体的な測定方法としては、PHA水性懸濁液を20mL円筒に投入し、液温度が25℃になるまで、せん断速度100 1/sの条件下で運転した。目的の液温度に到達後、せん断速度1 1/sから1000 1/sに変えた時のせん断速度1000 1/sの値を測定した。
【0079】
〔実施例1〕
(菌体培養液の調製)
国際公開第2008/010296号の段落〔0049〕に記載のラルストニア・ユートロファKNK-005株を、同文献の段落〔0050〕~〔0053〕に記載の方法で培養し、PHAを含有する菌体を含む菌体培養液を得た。なお、ラルストニア・ユートロファは、現在では、カプリアビダス・ネケータに分類されている。
【0080】
(滅菌処理)
上記で得られた菌体培養液を内温60~80℃で20分間加熱・攪拌処理し、滅菌処理を行った。
【0081】
(高圧破砕処理)
上記で得られた滅菌済みの菌体培養液に、0.2重量%のドデシル硫酸ナトリウムを添加した。さらに、pHが11.0になるように水酸化ナトリウム水溶液を添加した後、50℃で1時間保温した。その後、高圧破砕機(ニロソアビ社製高圧ホモジナイザーモデルPA2K型)を用いて、450~550kgf/cm2の圧力で高圧破砕を行った。
【0082】
(精製処理)
上記で得られた高圧破砕後の破砕液に対して、等量の蒸留水を添加した。これを遠心分離した後、上清を除去して2倍濃縮した。この濃縮したPHAの水性懸濁液に、除去した上清と同量の水酸化ナトリウム水溶液(pH11)を添加して遠心分離し、上清を除去した。そこに再度水を添加して懸濁させ、0.2重量%のドデシル硫酸ナトリウムと、PHAの1/100重量のプロテアーゼ(ノボザイム社、エスペラーゼ)を添加し、pH10で50℃に保持したまま、2時間攪拌した。その後、遠心分離により上清を除去して4倍濃縮した。さらに水を添加して、PHA濃度が52重量%になるように調整した。
【0083】
(造粒)
上記で得られたPHA水性懸濁液(固形分濃度(PHAの濃度)52質量%)に対して、平均重合度500、ケン化度87mol%のPVA(商品名ポバール)を1.5phr(水性懸濁液中に存在するPHA100重量部に対して1.5重量部)添加し、その後、固形分濃度を50質量%に調整した。この液を30分間撹拌した後、硫酸を添加してpHが4に安定するまで調整した。こうして得られたPHA水性懸濁液を、噴霧方式がロータリーディスクアトマイザーである大河原社製のODT-25型噴霧乾燥機(MC125ディスク、ディスク直径12.5cm、ピン数20個、ピン高さ0.015m、濡れ辺長0.6m、体積容量14.7m3)にて噴霧乾燥を実施した(熱風温度:150℃、排風温度:70℃)。噴霧乾燥機へのPHA水性懸濁液の送液速度は88kg/hとし、ロータリーディスク回転速度は9500rpmで20時間噴霧乾燥を行うことによって、880kgのPHA粉体を得た。得られたPHA粉体のメジアン粒子径、嵩密度、含水率、粉体流動性およびせん断粘度は、上記の方法で測定および/または評価した。結果を表1に示す。
【0084】
〔実施例2〕
実施例1と同じ操作により、pH4のPVA含有PHA水性懸濁液を調製し、噴霧乾燥を実施した。噴霧乾燥機へのPHA水性懸濁液の送液速度は67.5kg/hとし、ロータリーディスク回転速度は9500rpmで20時間噴霧乾燥を行うことによって、756kgのPHA粉体を得た。得られたPHA粉体のメジアン粒子径、嵩密度、含水率、粉体流動性およびせん断粘度は、上記の方法で測定および/または評価した。結果を表1に示す。
【0085】
〔実施例3〕
実施例1と同じ操作により、pH4のPVA含有PHA水性懸濁液を調製し、噴霧乾燥を実施した。噴霧乾燥機へのPHA水性懸濁液の送液速度は85.6kg/hとし、ロータリーディスク回転速度は11000rpmで20時間噴霧乾燥を行うことによって、856kgのPHA粉体を得た。得られたPHA粉体のメジアン粒子径、嵩密度、含水率、粉体流動性およびせん断粘度は、上記の方法で測定および/または評価した。結果を表1に示す。
【0086】
〔実施例4〕
実施例1と同じ操作により、pH4のPVA含有PHA水性懸濁液を調製し、噴霧乾燥を実施した。噴霧乾燥機へのPHA水性懸濁液の送液速度は66.6kg/hとし、ロータリーディスク回転速度は11000rpmで20時間噴霧乾燥を行うことによって、666kgのPHA粉体を得た。得られたPHA粉体のメジアン粒子径、嵩密度、含水率、粉体流動性およびせん断粘度は、上記の方法で測定および/または評価した。結果を表1に示す。
【0087】
〔実施例5〕
精製処理までは実施例1と同じ操作により、固形分濃度が55質量%のPHA水性懸濁液を調製した。次いで、PHA水性懸濁液(固形分濃度55質量%)に、PVA(商品名ポバール)を1.5phr添加し、その後、固形分濃度を53質量%に調整した。この液を30分間撹拌した後、硫酸を添加してpHが4に安定するまで調整した。こうして得られたPHA水性懸濁液を用い、噴霧乾燥を実施した。噴霧乾燥機へのPHA水性懸濁液の送液速度は68.3kg/hとし、ロータリーディスク回転速度は7000rpmで20時間噴霧乾燥を行うことによって、724kgのPHA粉体を得た。得られたPHA粉体のメジアン粒子径、嵩密度、含水率、粉体流動性およびせん断粘度は、上記の方法で測定および/または評価した。結果を表1に示す。
【0088】
〔実施例6〕
精製処理までは実施例1と同じ操作により、固形分濃度が56質量%のPHA水性懸濁液を調製した。次いで、PHA水性懸濁液(固形分濃度56質量%)に、PVA(商品名ポバール)を1.5phr添加し、その後、固形分濃度を54質量%に調整した。この液を30分間撹拌した後、硫酸を添加してpHが4に安定するまで調整した。こうして得られたPHA水性懸濁液を用い、噴霧乾燥を実施した。噴霧乾燥機へのPHA水性懸濁液の送液速度は96.6kg/hとし、ロータリーディスク回転速度は18000rpmで20時間噴霧乾燥を行うことによって、1044kgのPHA粉体を得た。得られたPHA粉体のメジアン粒子径、嵩密度、含水率、粉体流動性およびせん断粘度は、上記の方法で測定および/または評価した。結果を表1に示す。
【0089】
〔実施例7〕
精製処理までは実施例1と同じ操作により、固形分濃度が33質量%のPHA水性懸濁液を調製した。次いで、PHA水性懸濁液(固形分濃度33質量%)に、PVA(商品名ポバール)を1.5phr添加し、その後、固形分濃度を31質量%に調整した。この液を30分間撹拌した後、硫酸を添加してpHが4に安定するまで調整した。こうして得られたPHA水性懸濁液を用い、噴霧乾燥を実施した。噴霧乾燥機へのPHA水性懸濁液の送液速度は50.5kg/hとし、ロータリーディスク回転速度は9000rpmで20時間噴霧乾燥を行うことによって、303kgのPHA粉体を得た。得られたPHA粉体のメジアン粒子径、嵩密度、含水率、粉体流動性およびせん断粘度は、上記の方法で測定および/または評価した。結果を表1に示す。
【0090】
〔比較例1〕
精製処理までは実施例1と同じ操作により、固形分濃度が50質量%のPHA水性懸濁液を調製した。次いで、PHA水性懸濁液(固形分濃度50質量%)に、PVA(商品名ポバール)を1.5phr添加し、その後、固形分濃度を48質量%に調整した。この液を30分間撹拌した後、硫酸を添加してpHが4に安定するまで調整した。こうして得られたPHA水性懸濁液を用い、噴霧乾燥を実施した。噴霧乾燥機へのPHA水性懸濁液の送液速度は62.2kg/hとし、ロータリーディスク回転速度は11000rpmで20時間噴霧乾燥を行うことによって、597kgのPHA粉体を得た。得られたPHA粉体のメジアン粒子径、嵩密度、含水率、粉体流動性およびせん断粘度は、上記の方法で測定および/または評価した。結果を表1に示す。
【0091】
〔比較例2〕
精製処理までは実施例1と同じ操作により、固形分濃度が50質量%のPHA水性懸濁液を調製した。次いで、PHA水性懸濁液(固形分濃度50質量%)に、PVA(商品名ポバール)を1.5phr添加し、その後、固形分濃度を48質量%に調整した。この液を30分間撹拌した後、硫酸を添加してpHが4に安定するまで調整した。こうして得られたPHA水性懸濁液を用い、噴霧乾燥を実施した。噴霧乾燥機へのPHA水性懸濁液の送液速度は63.5kg/hとし、ロータリーディスク回転速度は14000rpmで20時間噴霧乾燥を行うことによって、610kgのPHA粉体を得た。得られたPHA粉体のメジアン粒子径、嵩密度、含水率、粉体流動性およびせん断粘度は、上記の方法で測定および/または評価した。結果を表1に示す。
【0092】
〔比較例3〕
精製処理までは実施例1と同じ操作により、固形分濃度が23質量%のPHA水性懸濁液を調製した。次いで、PHA水性懸濁液(固形分濃度23質量%)に、PVA(商品名ポバール)を1.5phr添加し、その後、固形分濃度を21質量%に調整した。この液を30分間撹拌した後、硫酸を添加してpHが4に安定するまで調整した。こうして得られたPHA水性懸濁液を用い、噴霧乾燥を実施した。噴霧乾燥機へのPHA水性懸濁液の送液速度は52.9kg/hとし、ロータリーディスク回転速度は10000rpmとした。得られたPHA粉体のメジアン粒子径、嵩密度、含水率、粉体流動性およびせん断粘度は、上記の方法で測定および/または評価した。結果を表1に示す。
【0093】
〔比較例4〕
精製処理までは実施例1と同じ操作により、固形分濃度が53質量%のPHA水性懸濁液を調製した。次いで、PHA水性懸濁液(固形分濃度53質量%)に、PVA(商品名ポバール)を1.5phr添加し、その後、固形分濃度を51質量%に調整した。この液を30分間撹拌した後、硫酸を添加してpHが4に安定するまで調整した。こうして得られたPHA水性懸濁液を、噴霧方式がロータリーディスクアトマイザーであるGEA社製のモービルマイナー噴霧乾燥機(M-02/bモービルアトマイザー、ディスク直径2.8cm、噴霧孔高さ0.006m・幅0.004m・数24個、体積容量0.4m3)にて噴霧乾燥を実施した(熱風温度:150℃、排風温度:70℃)。噴霧乾燥機へのPHA水性懸濁液の送液速度は0.3kg/hとし、ロータリーディスク回転速度は13000rpmで20時間噴霧乾燥を行うことによって、6kgのPHA粉体を得た。得られたPHA粉体のメジアン粒子径、嵩密度、含水率、粉体流動性およびせん断粘度は、上記の方法で測定および/または評価した。結果を表1に示す。
【0094】
【0095】
〔結果〕
表1より、実施例では、比較例に比して、造粒後の粉体輸送におけるPHA粉体の流動性が良好であることが示された。すなわち、特定のメジアン粒子径のPHAを使用することにより、造粒後の粉体輸送におけるPHA粉体の流動性の低下を抑制できることが分かった。
【0096】
以上より、本製造方法によると、PHAの大規模生産を行う際に、加工に適したPHA(例えば、PHA粉体)を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0097】
本製造方法は、PHAの大規模生産を行う際に、加工に適したPHA(例えば、PHA粉体)を製造することができることから、PHAの大規模生産が所望される種々の分野、例えば、農業、漁業、林業、園芸、医学、衛生品、衣料、非衣料、包装、自動車、建材、その他の分野に好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0098】
1 ICIフローカップ
2 充填部
3 流出部