(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-06
(45)【発行日】2023-11-14
(54)【発明の名称】化学気相成長による単結晶合成ダイヤモンド材料
(51)【国際特許分類】
C30B 29/04 20060101AFI20231107BHJP
A44C 27/00 20060101ALI20231107BHJP
C23C 16/02 20060101ALI20231107BHJP
C23C 16/27 20060101ALI20231107BHJP
C30B 25/02 20060101ALI20231107BHJP
H01L 21/314 20060101ALI20231107BHJP
【FI】
C30B29/04 E
A44C27/00
C23C16/02
C23C16/27
C30B25/02 P
H01L21/314 A
(21)【出願番号】P 2019529552
(86)(22)【出願日】2017-11-30
(86)【国際出願番号】 EP2017080903
(87)【国際公開番号】W WO2018100024
(87)【国際公開日】2018-06-07
【審査請求日】2019-07-30
【審判番号】
【審判請求日】2022-02-25
(32)【優先日】2016-12-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】514233369
【氏名又は名称】エレメント シックス テクノロジーズ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100123766
【氏名又は名称】松田 七重
(74)【代理人】
【識別番号】100218578
【氏名又は名称】河井 愛美
(72)【発明者】
【氏名】トウィッチェン ダニエル ジェイムズ
(72)【発明者】
【氏名】ディロン ハープリート カウル
(72)【発明者】
【氏名】カーン リツワン ウッディン アーマド
【合議体】
【審判長】井上 猛
【審判官】山本 佳
【審判官】土屋 知久
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B29/04
C30B25/02
C23C16/27
C23C16/02
H01L21/314
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
単結晶CVDダイヤモンド材料であって:
少なくとも2mmの3つの直交寸法
を有し、
複屈折を有する1以上の第1の領域であって、0.5mmから1.0mmの範囲の厚さ及び1.3mm×1.3mmよりも大きな
エリアを有する単結晶CVDダイヤモンド材料のサンプル中で、かつ1×1μm
2から20×20μm
2の範囲の
エリアのピクセルサイズを用いて測定して、Δn
[平均]の最大値が前記1以上の第1の領域に対して1.5×10
-4を超えず、前記Δn
[平均]が、遅相軸及び進相軸に平行に偏光した光の屈折率間の差をサンプル厚さにわたって平均化した平均値である、1以上の第1の領域;
及び
複屈折を有する1以上の第2の領域であって、単結晶CVDダイヤモンド材料の前記サンプル中で、かつ前記ピクセルサイズを用いて測定して、Δn
[平均]が1.5×10
-4よりも大きくかつ3×10
-3よりも小さい、1以上の第2の領域
;を含む、
単結晶CVDダイヤモンド材料。
【請求項2】
前記1以上の第2の領域のそれぞれが、5から500μmの範囲の幅を有する、請求項1に記載の単結晶CVDダイヤモンド材料。
【請求項3】
前記第2の領域が、50μmから1.3mmの範囲の間隔を有する、請求項1又は2に記載の単結晶CVDダイヤモンド材料。
【請求項4】
前記第2の領域が、正則パターンで形成される、請求項1から3のいずれか一項に記載の単結晶CVDダイヤモンド材料。
【請求項5】
前記1以上の第1の領域のΔn
[平均]が、8×10
-5を超えない、請求項1から4のいずれか一項に記載の単結晶CVDダイヤモンド材料。
【請求項6】
前記単結晶CVDダイヤモンド材料が、電子常磁性共鳴により3×10
15atoms/cm
3から5×10
17atoms/cm
3の範囲で測定される、中性単一置換窒素(Ns
0)濃度を有する、請求項1から5のいずれか一項に記載の単結晶CVDダイヤモンド材料。
【請求項7】
前記単結晶CVDダイヤモンド材料の前記サンプルが、1.06μmの波長で0.09cm
-1よりも小さい光吸収係数を有する、請求項1から6のいずれか一項に記載の単結晶CVDダイヤモンド材料。
【請求項8】
前記単結晶CVDダイヤモンド材料が、DからJの範囲のカラーグレードを有する、無色又はほぼ無色である、請求項1から7のいずれか一項に記載の単結晶CVDダイヤモンド材料。
【請求項9】
前記単結晶CVDダイヤモンド材料が、カットされた宝石用原石の形である、請求項1から8のいずれか一項に記載の単結晶CVDダイヤモンド材料。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか一項に記載の単結晶CVDダイヤモンド材料の製造方法であって、前記方法が、
複数の単結晶ダイヤモンド基板を調製する工程であって、各基板が:
その上に成長させた前記単結晶CVDダイヤモンド材料中の前記1以上の第2の領域を形成する核生成転位のための1以上の領域;及び
その上に成長させた前記単結晶CVDダイヤモンド材料中の前記1以上の第1の領域を形成する1以上の低欠陥領域であって、前記1以上の低欠陥領域が、暴露プラズマエッチングにより形成される欠陥に関連する表面エッチング特徴部が5×10
3/mm
2よりも低いような密度の欠陥を有する、1以上の低欠陥領域;
を含む成長表面を有する、工程;並びに
各単結晶ダイヤモンド基板の前記成長表面の上で、少なくとも2mm×2mm×2mmの前記単結晶CVDダイヤモンド材料を成長させ、一方で請求項1から9のいずれか一項に記載の単結晶CVDダイヤモンド材料を製作するためのCVDダイヤモンド成長条件を制御する工程、
を含む、方法。
【請求項11】
前記単結晶ダイヤモンド基板が、各前記単結晶ダイヤモンド基板の前記成長表面のアブレーションにより調製され、アブレーションされた領域が、1以上の核生成転位のための領域を形成する、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記単結晶ダイヤモンド基板が、各前記単結晶ダイヤモンド基板の前記成長表面
にイオンを注入することにより調製され、
注入された領域が、1以上の核生成転位のための領域を形成する、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記単結晶ダイヤモンド基板が、前記1以上の核生成転位のための領域の形成後の前記成長表面のエッチングにより調製され、前記エッチングが、前記1以上の低欠陥領域から加工ダメージを除去するが、前記1以上の核生成転位のための領域を完全には除去しないように制御され、前記核生成転位のための領域がその上に成長させた前記単結晶CVDダイヤモンド材料中で十分な転位を生成すること
ができる形態であり、Δn
[平均]が1.5×10
-4よりも大きくかつ3×10
-3よりも小さ
い前記第2の領域を形成する、請求項10から12のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単結晶化学気相成長(CVD)合成ダイヤモンド材料、及び、特に、特定の結晶学的特徴を有するように設計された単結晶CVD合成ダイヤモンド材料の比較的厚い層の合成に関連する。
【背景技術】
【0002】
1980年代及び1990年代において、世界中の様々なグループによって、単結晶CVDダイヤモンド材料の合成に向けた多くの研究が行われた。この仕事の多くは、ホモエピタキシャル成長による単結晶ダイヤモンド基板上の単結晶CVDダイヤモンド材料の薄層の成長を明らかにした。高品質単結晶CVD合成ダイヤモンド材料の比較的厚い層の製作が望まれていたものの、実際問題としてこれを達成するのは難しいことが証明された。単結晶CVDダイヤモンド材料の合成は極限条件を必要とし、当該極限条件は生み出され、そして、長期間にわたって安定な様式に維持される必要があり、それにより高品質単結晶CVD合成ダイヤモンド材料の厚い層がうまく成長する。さらに、合成されるダイヤモンド材料には、複合多次元合成パラメータ空間を形成する多数の合成パラメータの影響を受けやすいという性質がある。この多次元合成パラメータ空間の小領域のみが、高品質単結晶CVDダイヤモンド材料の厚い層を達成することができる。このような合成体制を発見すること、並びにこのような合成体制のうちの一つの範囲内で安定した成長を実現し、かつ維持するのに必要なパラメータの正しい組み合わせを生み出すための方法論を開発することは、決して取るに足らないことではない。
【0003】
2000年代の初期に、Element Six Ltd(De Beers Group)は、多数の異なる種類の高品質単結晶CVD合成ダイヤモンド材料の成長に向けた一連の特許出願を行った。これらの特許出願は長年にわたる、単結晶CVDダイヤモンド材料に対する多次元合成パラメータ空間の理解を発展させ、かつ選択した合成体制の範囲内での安定した成長を実現し、かつ維持するのに必要なパラメータの正しい組み合わせを生み出し及び維持するための方法論を発展させる、広範な研究に基づく。
【0004】
単結晶CVDダイヤモンド成長に重要な合成パラメータは、基板の種類、基板の加工及び成長表面処理、基板の幾何学、基板の温度及び温度管理、マイクロ波パワー、ガス圧、ガス組成並びに流速を含むことがわかった。これらのパラメータの正しい組み合わせは選択され、生み出され及び安定な様式に維持される必要があり、かつこれらのパラメータのうちの多くは、もし1つのパラメータが変更された場合には、安定した成長体制に留まるよう他のパラメータもまた正しい挙動で変更されるように、相互関係を持つ。2000年代に出願されたElement Six Ltdの特許出願のいくつかの例を、以下に簡単に論じる。
一定の用途では、ダイヤモンド格子構造中の欠陥、又は少なくとも一定の種類の欠陥の数を最小限にすることが望ましい。例えば、放射線検出器又は半導体スイッチング装置のような一定の電子工学用途においては、ダイヤモンド材料中の固有の電荷キャリアの数を最小化にすること及び使用される材料中に意図的に導入された電荷キャリアの移動性を増加させることが望ましい。このような材料は、低濃度の、さもなければダイヤモンド格子構造に電荷キャリアを導入し得る不純物を有する、単結晶CVD合成ダイヤモンド材料の製作によって設計することができる。このような電子工学/検出器グレードの単結晶CVD合成ダイヤモンド材料に関連する特許文献は、WO01/096633及びWO01/096634を含む。
【0005】
一定の光学用途では、低光学吸光度及び低光学複屈折を有する材料を供給することが望ましい。このような材料は、低濃度の、さもなければ材料の光学吸光度を増加させ得る不純物、及び低濃度の、さもなければ異方的な歪みをダイヤモンド格子構造に導入して複屈折を引き起こし得る拡張欠陥を有する、単結晶CVD合成ダイヤモンド材料の製作によって設計することができる。このような光学グレードの単結晶CVD合成ダイヤモンド材料に関連する特許文献は、WO2004/046427及びWO2007/066215を含む。
【0006】
上記の低欠陥材料とは対照的に、一定の用途では、有意であるが制御された量、種類、及び分布の欠陥を、ダイヤモンド格子構造に意図的に導入することが望ましい。例えば、CVDプロセスガス中のホウ素含有ガスを供給することによりダイヤモンド格子にホウ素を導入することで、ダイヤモンド材料のバンド構造中のアクセプタ準位を供給し、したがってp型半導体を形成する。極度に高レベルのホウ素がダイヤモンド格子構造に導入された場合、材料は金属のような伝導性を示す。このような材料は、電極として、電気化学電極として、及び電子工学用途において、有用である。このようなホウ素をドープした単結晶CVD合成ダイヤモンド材料に関連する特許文献は、WO03/052174を含む。
【0007】
別の例は、窒素をドープした単結晶CVD合成ダイヤモンド材料のものである。窒素は、CVDプロセスガスへの窒素の供給が、材料の成長速度を増加させ、かつ転位のような結晶学的欠陥の形成にも影響を与え得ることがわかっているため、CVDダイヤモンド材料合成における最も重要なドーパントのうちの1つである。従って、単結晶CVD合成ダイヤモンド材料の窒素ドーピングは、文献中で広く調査及び報告されている。窒素をドープしたCVD合成ダイヤモンド材料は、茶色になりやすい。従って、前に論じた用途、例えば光学用途にとっては、CVDプロセスガスから窒素を意図的に除去する技術を開発することが有利であることがわかっている。しかしながら、光学、電子工学、及び量子結合のパラメータと関係のない機械用途にとっては、有意のレベルまでの窒素ドーピングが、CVD合成ダイヤモンド材料の厚い層の成長を達成するのに有益であり得る。このような窒素をドープした単結晶CVD合成ダイヤモンド材料に関連する特許文献は、WO2003/052177を含む。
【0008】
一定の用途では、2以上のドーパントのCVD合成過程への導入を伴う合成方法論を利用することが有利であることも、わかっている。例えば、前に論じたように、窒素をドープしたCVD合成ダイヤモンド材料は、茶色になりやすい。しかしながら、もしホウ素又はケイ素のような共ドーパント(co-dopant)が窒素と共に合成過程に導入された場合には、さもなければ茶色の呈色という結果をもたらす窒素レベルにおいて、無色又はほぼ無色の単結晶CVDダイヤモンド材料を製作することが可能であることが、わかっている。このような共ドープした(co-doped)単結晶CVD合成ダイヤモンド材料に関連する特許文献は、WO2006/135929を含む。
【0009】
共ドーピング(co-doping)は、材料の視覚的な品質に有害な影響を与えることなく、材料を合成であると鑑定する方法として、別個にドープした材料の1以上の層を単結晶CVDダイヤモンドに意図的に導入する手段として、使用することができる。例えば、通常の観察条件下では目に見えないが蛍光条件下では目に見える、共ドープした材料の1以上の層を有する、無色又はほぼ無色の単結晶CVDダイヤモンドを製造することができる。このような取り組みは、WO2005/061400に記載されている。
【0010】
最後に、EP2985368(住友)は、チッピングを抑制するための機械工具用途のために、様々な異なる種類の欠陥を、単結晶CVDダイヤモンド材料に組み込むことを提案している。この機械工具構成要素を達成するため、溝が彫られた基板、イオン注入、並びに比較的高レベルのメタン及び窒素が、製品材料中の様々な欠陥を作成するために利用された。様々な横寸法を有する単結晶CVDダイヤモンド製品が達成され、一方で0.7mmの比較的低い厚みであった。
【0011】
上記に照らして、単結晶CVDダイヤモンド材料が様々な異なる形態を有し、かつ特定の用途における様々な異なる特質を有するように設計され得ることが明らかであろう。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0012】
商業的用途での最も重要な合成体制の1つは、WO2004/046427に記載されたものである。本明細書の背景技術の章に記載したように、WO2004/046427は、低吸光度及び低光学複屈折を有する単結晶CVDダイヤモンド材料の製作に向けられている。このような材料が一定の光学用途に必要であることがわかっている一方で、そこに記載された合成体制は、必ずしも製品材料のすべての有利な光学的品質を必要としない用途にとって有用であることもまた、了知されている。例えば、低光学複屈折を必要としない用途にとってさえ、WO2004/046427に記載の合成方法論が、他の工程に比べて比較的良好な成長率及び比較的高い産出量を有する、高品質で、厚い、単結晶CVDダイヤモンドを一貫して製造可能であるため、商業生産に有利であり得ることがわかっている。これが事実であることの理由は、単結晶CVDダイヤモンド材料中で転位欠陥が形成される機構、及び、どのようにしてこれを制御して低複屈折単結晶CVDダイヤモンド材料をWO2004/046427に従って実現するか、に関連付けられる。
【0013】
WO2004/046427特許出願に係る発明の実現に必要なパラメータ空間の範囲の特徴は、当該特許明細書の14及び15ページに記載されている。実際上、WO2004/046427の低複屈折製品の合成は、(i)低欠陥基板、(ii)基板の成長表面の正確な加工、(iii)当該特許明細書の14及び15ページに記載された成長条件の選択及び制御、を必要とする。成長中の単結晶CVDダイヤモンド材料の表面特徴は、非常に重要である。高純度の成長体制では、成長表面にピットが形成され、成長中の転位増殖(dislocation multiplication)及び高複屈折単結晶CVDダイヤモンド製品がもたらされる。高窒素成長体制においては、転位形成も観察され、高複屈折単結晶CVDダイヤモンド製品が結果として生じる。これは、(例えば、研磨によるダメージを除去するための、プレ成長エッチング期(pre-growth etch phase)の間に)成長表面に形成されるピットに関連すると考えられ、これは成長速度の速い、高窒素ダイヤモンド成長過程の間は埋められず、転位形成及び高複屈折をもたらす。ピッティング及び転位増殖の問題は、単結晶CVDダイヤモンドの成長中の比較的厚い層において、増加する。WO2004/046427特許の発明は、合成パラメータ空間に窓を見つけることに関係し、そこではピッティング及び転位増殖が減少され又は最小化され、厚く、低複屈折の単結晶CVDダイヤモンド材料の製作が可能となる。製品材料の層は実質的に全域にわたって低複屈折を有し、即ち、高複屈折を有する単結晶CVDダイヤモンド材料の製品層(product layer)の領域が存在しない。
【0014】
ピッティング及び転位増殖の減少によって内部応力が低下し、内部応力は、さもなければ単結晶CVDダイヤモンド材料のひび割れ及び少なくとも製品材料の一部の産出量の低下を引き起こす。さらに、適切な基盤の選択及び製造方法論並びに適切な電力、圧力、及びガス組成及び流速の選択と組み合わせた、低濃度及び制御された濃度の窒素の添加によってこれが達成される機構は、様々な用途のための、厚く、高品質な単結晶CVDダイヤモンド製品に商業的に実行可能な成長速度という結果をもたらす。したがって、良好な成長速度及び良好な産出量により、製品材料が低複屈折である必要がない場合でさえも、この合成体制が商業的用途において魅力的となる。
【0015】
本発明者らは、WO2004/046427に記載の手法の利益の多くは、単結晶CVDダイヤモンドの製品材料の層が、高複屈折の領域を実質的に有しないことを必要とせずに実現可能であり得ることを認識した。この修正した手法は、応力の非制御性の増加並びにひび割れ及び産出量の損失の割合の関連する増加をもたらす、単結晶CVDダイヤモンド材料の厚い層の成長の間の、非制御性の転位増幅を回避するため、WO2004/046427に記載の手法と同じ種類の手法を利用する。しかしながら、ここに記載の手法は、基板を処理して、その上に成長させた単結晶CVDダイヤモンド材料中に高い応力及び関連する複屈折の孤立領域(isolated regions)を播種する(seed)という特徴を導入することによって、制御された量の応力が製品材料に初めから設計されるという点で異なる。当該過程が再現可能であり、一貫して良好な産出量を有し、並びに一貫した及び十分に定義された製品という結果をもたらすことを確実にするために、いくつかの特徴が必要である。これらの特徴は、(i)WO2004/046427に特定される範囲よりも高いが、材料のひび割れを回避できるほど十分に低い、制御された量の応力及び関連する複屈折を有する領域をもたらす、成長中の単結晶CVDダイヤモンド材料の特定の領域における、一貫した及び制御された転位の核生成(nucleation)及び増殖(propagation)、(ii)転位が意図的に材料中に設計された領域を除いて、転位の核生成及び増殖の低いレベル、及び(iii)応力の非制御性の増加並びにひび割れ及び産出量の損失の割合の関連する増加をもたらす、単結晶CVDダイヤモンド材料の厚い層の成長の間の非制御性の転位増殖を回避するための、成長の間のピッティング及び転位増殖を減少させ又は最小化する、WO2004/046427に記載の過程と類似したCVD成長過程、を含む。実際上、この過程は、さもなければ低応力である材料の選択した領域に、制御されたある程度の応力を導入し、かつこの過程を制御して単結晶CVDダイヤモンド材料の厚い層の成長中の応力の有意な増加を防止し、このようにしてひび割れを伴わないが高複屈折領域を伴う単結晶CVDダイヤモンドの厚い(>2mm)の層を製造可能にする。この過程は、制御可能に材料中に設計された、高い応力及び複屈折の領域を除いて、無色又はほぼ無色かつさもなければ良好な光学的特徴を有する高結晶品質の単結晶CVDダイヤモンド製品を達成することが可能である。高応力領域は、光学複屈折又は蛍光特徴のいずれかを通して、ダイヤモンドをタグ付けする/標識するのに使用することができる。例えば、除去できない特定の模様又は文字をダイヤモンドに書き込むことができる。さらに、設計された歪み模様は、ダイヤモンド材料の光スピン及び電子スピンの特性の制御に用いることができる。
【0016】
このように、単結晶CVDダイヤモンド材料に高い応力及び複屈折の孤立領域を制御可能に導入することは、多くの利益を有し得る。より高い複屈折材料の特有の模様は、当該単結晶CVDダイヤモンドを最終顧客のためにパーソナライズする手段として、周囲の低複屈折単結晶CVDダイヤモンド材料中に設計され得る。例えば、成長基板の適切な模様付けをして唯一の製品を供給することにより、顧客のイニシャル又は他の要望されたデザインを、転位模様(dislocation pattern)として単結晶CVDダイヤモンドに設計することができる。あるいは、供給者は、彼らの製品の出所を示唆する標識として、唯一の転位模様を彼らのダイヤモンド製品に設計することができる。さらに、ここに記載の方法論を用いて、歪みの孤立領域を単結晶CVDダイヤモンド材料に制御可能に導入して、特定の用途のためにその機械、光学、及び電子のスピン物性を適合させることができる。
【0017】
上記に照らして、本発明の第1の側面によると、単結晶CVDダイヤモンド材料であって:
少なくとも2mmの3つの直交寸法;
低歪みを示す1以上の低光学複屈折領域であって、0.5mmから1.0mmの範囲の厚さ及び1.3mm×1.3mmよりも大きなエリアを有する単結晶CVDダイヤモンド材料のサンプル中で、かつ1×1μm2から20×20μm2の範囲のエリアのピクセルサイズを用いて測定して、Δn[平均]の最大値が前記1以上の低光学複屈折領域に対して1.5×10-4を超えず、前記Δn[平均]が、遅相軸及び進相軸に平行に偏光した光の屈折率間の差をサンプル厚さにわたって平均化した平均値である、1以上の低光学複屈折領域;
高歪みを示す1以上の高光学複屈折領域であって、単結晶CVDダイヤモンド材料の前記サンプル中で、かつ前記ピクセルサイズを用いて測定して、Δn[平均]が1.5×10-4よりも大きくかつ3×10-3よりも小さい、1以上の高光学複屈折領域、を含み;及び
前記単結晶CVDダイヤモンド材料の前記サンプルの各1.3mm×1.3mmのエリアが、少なくとも1つの前記高光学複屈折領域を含む、単結晶CVDダイヤモンド材料が提供される。
【0018】
本発明の第2の側面によると、本発明の第1の側面に係る単結晶CVDダイヤモンド材料の製作方法が提供され、前記方法は:
複数の単結晶ダイヤモンド基板を調製する工程であって、各基板が:
その上に成長させた前記単結晶CVDダイヤモンド材料中の前記1以上の高光学複屈折領域を形成する核生成転位のための1以上の領域;及び
その上に成長させた前記単結晶CVDダイヤモンド材料中の前記1以上の低光学複屈折領域を形成する1以上の低欠陥領域であって、前記1以上の低欠陥領域が、暴露プラズマエッチングにより形成される欠陥に関連する表面エッチング特徴部が5×103/mm2よりも低いような密度の欠陥を有する、1以上の低欠陥領域;
を含む成長表面を有する、工程;並びに
各単結晶ダイヤモンド基板の前記成長表面の上で、少なくとも2mm×2mm×2mmの前記単結晶CVDダイヤモンド材料を成長させ、一方で請求項1から25のいずれか一項に記載の単結晶CVDダイヤモンド材料を製作するためのCVDダイヤモンド成長条件を制御する工程、を含む。
【0019】
この方法論は、全領域が低複屈折なのではなく、制御されたレベルの高複屈折が製品材料の一部に意図的に設計されるという点で、WO2004/046427に記載の方法論とは異なる。この方法論は、機械用途のための高欠陥材料の薄い(<1mmの厚さ)層を製造する代わりに、本発明は低欠陥材料から分離される制御された高複屈折領域を有する、単結晶CVDダイヤモンドの厚い(>2mm)層を可能にする点で、EP2985368に記載の方法論とも異なる。
【0020】
本発明のより良い理解のため、かつ本発明をどのように実施できるかを示すため、本発明の実施形態を、添付の図面の参照しながら単に一例として説明する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】
図1は、本発明に係る単結晶CVDダイヤモンド材料の製作に伴う基礎的工程を説明する。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本明細書の発明の概要の章に記載したように、本発明を達成するための鍵は、低欠陥材料から分離される制御された、高いが、高すぎない複屈折の領域を有する単結晶CVDダイヤモンド製品材料を実現する方法論を提供することである。
基礎的方法論を
図1に説明する。工程(a)から(c)は、正しい量の転位を核生成して高歪み領域を生成する一方で、これらの領域の外側にはほとんど転位を核生成しないための、正しい密度及び形態の基板構造の作成に関係する。
【0023】
工程(a)では、その成長表面4に低濃度の欠陥を有する単結晶ダイヤモンド基板2を選択する。例えば、成長表面を横切る低密度の転位を有する単結晶ダイヤモンド基板を選択する。基板の選択は、低複屈折材料の製作のためのWO2004/046427に記載のものに類似する。このような基板は、さらに、例えば研磨の結果として、成長表面にいくつかの表面又は表面下のダメージ6を有し得る。
【0024】
工程(b)では、核生成転位(nucleating dislocations)のための1以上の領域8を、単結晶ダイヤモンド基板2の成長表面4に加工する。単結晶ダイヤモンド基板を、単結晶ダイヤモンド基板のそれぞれの成長表面をアブレーションすることで調製することができ、アブレーションした領域は核生成転位のための1以上の領域8を形成する。ピット又は溝を、レーザー焼灼術、電子ビーム、又は他の適した加工技術により成長表面にアブレーションすることができる。マスクプラズマエッチング(masked plasma etching)技術も、単結晶ダイヤモンド基板中のピット又は溝の形成に用いることができる。さらに、非円形の特徴部、並びに、最も好ましくはダイヤモンド基板及び過成長した単結晶CVDダイヤモンド材料の主結晶方向のうちの1つ、例えば{100}、{110}などに沿って配向された特徴部を供給することが有利であることが了知されている。
【0025】
特徴部の深度、幅、形及び間隔は、これがその上に成長させた単結晶CVDダイヤモンド材料中に生成された歪みの量を決定し得るため、重要である。例えば、基板表面特徴部8は5から100μmの範囲の深度、5から500μmの範囲の幅、及び50μmから1.3mmの範囲の間隔を有し得る。例えば、基板表面のレーザースコアリングは転位の発生源を誘導し得、かつ微細なレーザー溝は高転位密度及びひび割れの生じにくいサンプルを生じ得る一方で、荒いレーザー溝は単結晶CVDダイヤモンド材料の厚い層が成長したとき、サンプルのひび割れ(過剰な歪みが誘発される)をもたらし得る。
【0026】
特徴部は、切断ビームの自然な形状を使用して、又は作業台手順を介して形成することができるテーパ壁を有し得る。あるいは、高度にコリメートされた切断ビームを利用する場合、表面特徴部の壁が実質的に垂直であり得る。
アブレーションされたピット又は溝の代替として、核生成転位のための1以上の領域は、例えばイオンの注入又は他の照射によって、単結晶ダイヤモンド基板のそれぞれの成長表面に形成されてもよく、1以上の核生成転位のための領域を形成する高度に損傷した領域を形成する。
加工の鍵は、成長表面の孤立領域を形成することであり、当該孤立領域は、転位核生成を介してその上に成長させた単結晶CVDダイヤモンドの望ましい量の応力及び歪みを生成する一方で、単結晶CVDダイヤモンドの周辺領域は低い応力、歪み、及び複屈折を保持する。
【0027】
工程(c)においては、核生成転位のための1以上の領域8の形成の後かつその上での単結晶CVDダイヤモンドの成長の前に、単結晶ダイヤモンド基板2の成長表面4を、例えばプラズマエッチングによりエッチングする。エッチングは、1以上の低欠陥領域からのプロセッシングダメージ6を除去し、これらの領域に横たわる単結晶CVDダイヤモンド材料が、WO2004/046427と類似した挙動の低複屈折を確実に有するように制御される。例えば、基板の成長表面上の1以上の低欠陥領域が、暴露プラズマエッチングにより形成される欠陥に関連する表面エッチング特徴部が5×103/mm2未満であるような、欠陥密度を有し得る。
【0028】
しかしながら、エッチングの間に核生成転位のための1以上の領域8のすべてを除去しないこともまた重要であり、これらの領域は、その上に成長させた単結晶CVDダイヤモンド材料に十分な転位を生成して、高複屈折領域を形成することができる形態である。高歪み領域において複屈折を制御する能力は、工程(b)において成長表面4に加工された特徴部8の大きさ及び形状の両方、並びに工程(c)におけるエッチングによってこれらの特徴部が修正される方法の作用である。例えば、エッチングは特徴部8の深度及び特徴部の丸みを帯びた縁を減少し得るが、これらの両方は、その上に成長させた製品材料中で生成される応力量を低下させる傾向にあろう。
【0029】
工程(d)においては、単結晶CVDダイヤモンド材料10の少なくとも2mm×2mm×2mmを、単結晶ダイヤモンド基板2の成長表面4の上で成長させる。例えば、CVDダイヤモンドの成長条件は、以下のパラメータに従って制御することができ、即ち、
炭素源ガス及び水素を含む気相組成物であって、炭素源ガスが気相組成物の3から7%を形成し、かつ窒素が300ppbから2ppmの気相濃度で存在する;
700℃から1050℃の範囲の基板温度;
90から400torrの範囲の圧力;及び
基板直径が25から300mmの範囲のとき、3から60kWの範囲のマイクロ波パワー。
【0030】
初期段階のCVDダイヤモンドの成長を、正しい量の転位が高歪み領域12で核生成するように確実に制御するべきである。例えば、ダイヤモンドの成長及びエッチングが最終的に釣り合う高純度CVDプロセスを用いた非常に遅い成長過程のような、一定の成長過程は、基板表面の特徴部が、十分な転位を核生成して望ましい量の歪みを生成することなく、初期成長期の間にエッチングされ又は埋められるという結果をもたらし得る。同様に、かなりのレベルの窒素を用いた速い成長速度の過程のような、一定の成長過程は、過成長した単結晶CVDダイヤモンド材料の過剰な応力を生成するような方法で、核生成構造を過成長させ得る。従って、高歪み領域12の複屈折を制御する能力は、工程(b)の成長表面4に加工された特徴部8の大きさ及び形状の両方並びにこれらの特徴部が前述したように工程(c)におけるエッチングによって修正される方法の両方の作用だけでなく、単結晶CVDダイヤモンド成長の初期段階に用いられるパラメータの作用でもある。
【0031】
さらに、単結晶CVDダイヤモンド成長のより初期の段階の後には、たとえ正しいレベルの転位及び歪みが生成されても、CVDダイヤモンド成長過程の転位増幅を抑制するように制御される必要があり、かつこうして単結晶CVDダイヤモンド材料10の厚い層を通して歪みのレベルを制御する。主要な成長相の間に転位増幅を抑制する成長体制に切り替える前に、確実に正しい数の転位を生成するために、単結晶CVDダイヤモンド材料10の多くに用いられるプロセス条件と比べて異なる成長過程を初期CVDダイヤモンド成長フェーズに利用することができる。例えば、一定の実施形態によると、最初に高純度単結晶CVDダイヤモンド材料の薄層を成長させ(例えば、WO2001/096633による)、次いで、低くかつ制御された窒素添加を用いる合成過程に移行すること(例えば、WO2004/046427による)が有利であることがわかっている。
【0032】
成長の後、
図1の工程(e)で説明するように、初期基板2を(例えばレーザー切断、電子ビーム、又は他の方法を介して)除去して、独立の単結晶CVDダイヤモンド製品10を産出することができる。あるいは、単結晶CVDダイヤモンド材料10を基板2上に保持し、かつ基板及び単結晶CVDダイヤモンド材料を組み込んだ製品に加工することができる。
【0033】
ここに記載の方法論を用いて製作する単結晶CVDダイヤモンド材料10は、
少なくとも2mmの3つの直交寸法;
低歪みを示す1以上の低光学複屈折領域14であって、0.5mmから1.0mmの範囲の厚さ及び1.3mm×1.3mmよりも大きなエリアを有する単結晶CVDダイヤモンド材料のサンプル中で、かつ1×1μm2から20×20μm2の範囲のエリアのピクセルサイズを用いて測定して、Δn[平均]の最大値が前記1以上の低光学複屈折領域に対して1.5×10-4を超えず、前記Δn[平均]が、遅相軸及び進相軸に平行に偏光した光の屈折率間の差をサンプル厚さにわたって平均化した平均値である、1以上の低光学複屈折領域;
高歪みを示す1以上の高光学複屈折領域12であって、単結晶CVDダイヤモンド材料の前記サンプル中で、かつ前記ピクセルサイズを用いて測定して、Δn[平均]の最大値が1.5×10-4よりも大きくかつ3×10-3よりも小さい、1以上の高光学複屈折領域、を含み;及び
前記単結晶CVDダイヤモンド材料の前記サンプルの各1.3mm×1.3mmのエリアが、少なくとも1つの前記高光学複屈折領域、を含む。
【0034】
1以上の低複屈折領域は、好ましくは8×10-5又はより好ましくは5×10-5超えないΔn[平均]の最大値を有し得る。
1以上の高複屈折領域は、2.5×10-4若しくは5×10-4よりも大きいΔn[平均]値、2.5×10-3、2×10-3、若しくは1×10-3よりも小さいΔn[平均]値、又はこれらの上限又は下限値の任意の組み合わせにより定義される範囲内のΔn[平均]値を有し得る。
1以上の高複屈折領域のそれぞれは、単結晶CVDダイヤモンド材料を横切る直線上に横方向に延在する複数の転位を含み、又はそれぞれは単結晶CVDダイヤモンド材料の横寸法中に位置する点に転位束を含み得る。1以上の高光学複屈折領域のそれぞれは、5から500μmの範囲の幅を有し得る。複数の高光学複屈折領域が供給された場合、高光学複屈折領域は、50μmから1.3mmの範囲の距離を隔てて配置され得る。高複屈折領域の幾何学は、その上に単結晶CVDダイヤモンド材料を成長させた基板に供給された特徴部の幾何学に依存するであろう。従って、領域はランダムな分布ではなく、正則パターンを形成するように制御され得る。例えば、高複屈折領域は、等間隔で配置される。
【0035】
低光学複屈折領域及び高光学複屈折領域における光学複屈折は、±10°以内の最大複屈折の方向で測定され得る。これは、一般的に単結晶CVDダイヤモンド材料の成長方向に一致し、かつ材料を通して増殖する転位の方向に一致する。
1以上の高光学複屈折領域のそれぞれは、少なくとも100μm×100μmのエリアを有し得る。スモールピクセルのアレイを用いて高光学複屈折領域の複屈折を測定する場合、すべての各ピクセルが高複屈折を示さない可能性がある。しかしながら、1以上の高光学複屈折領域の少なくとも80%のピクセルが、1.5×10-4よりも大きくかつ3×10-3よりも小さいΔn[平均]を有する。さらに、高複屈折領域及び低複屈折領域を含むサンプル全体に関しては、単結晶CVDダイヤモンド材料のサンプルの各1.3mm×1.3mmエリア中のピクセル総数の少なくとも2%が、1以上の高光学複屈折領域を形成する。
【0036】
任意で、単結晶CVDダイヤモンド材料が、電子常磁性共鳴により3×1015atoms/cm3から5×1017atoms/cm3の範囲で測定される、中性単一置換窒素(Ns0)濃度を有し、かつ一定の用途にとっては、2×1017atoms/cm3よりも小さくかつ1×1016atoms/cm3よりも大きい、より厳しい範囲が望ましい。さらに、単結晶CVDダイヤモンド材料は、好ましくは、特定の厚さ(0.5mmから1.0mm)のサンプルが1.06μmの波長で0.09cm-1よりも小さい、好ましくは0.07cm-1よりも小さい光吸収係数を有するような、低光吸収を有する。本発明は、厚く、無色又はほぼ無色の単結晶CVDダイヤモンド材料の製作も可能にし、これは材料中に制御可能に設計された高い応力及び複屈折の領域を除いて、良好な光学的特徴とともに高結晶品質を有する。例えば、単結晶CVDダイヤモンド材料は、DからJの範囲のカラーグレードを有する、無色又はほぼ無色であり得る。多くの点で、本発明の実施形態は、高複屈折材料の部分によって分離された、WO2004/046427の必要条件を満たす材料の部分を含む。
【0037】
本発明の実施形態に係る単結晶CVDダイヤモンド材料の複屈折測定において、応力パターンを観察することができる。誘発された転位は、<100>方向付近に増幅し、かつステップ流によって乱すことができる。例えば、微細な<110>配向した溝が基板の{100}成長表面に供給され、かつ転位が、ステップ流による小さな乱れを伴い<100>方向に、その上に成長させた単結晶CVDダイヤモンド材料を通して上向きに増殖する。高歪み領域は、近接する高歪み領域内の転位が互いに影響を及ぼさないような量だけ、分離することできる。
【0038】
本発明に係る単結晶CVDダイヤモンド材料は、光学用途、熱用途、宝飾用途、及び(例えば、低欠陥成長表面を有する基板を形成するための垂直スライスを経た)さらなるCVDダイヤモンド成長のための基板としての用途を含む、幅広い用途に用いることができる。例えば、単結晶CVDダイヤモンド材料はカットされた宝石用原石の形であり得る。高歪み領域には、意図的に模様付けして、例えば蛍光条件下で観察可能な特有の標識を形成することも可能であり、これは材料の出所表示として又は最終顧客のためのパーソナライズされたデザインとして機能し得る。さらに、設計された歪み模様を、ダイヤモンド材料の光学的性質又はスピン物性を制御するために用いることができる。
【0039】
本発明を、実施形態を参照して詳しく示し及び説明したが、形式及び細部における様々な変更が、添付の特許請求の範囲により定義される本発明の範囲を逸脱することなく加えられ得ることは、当技術分野の当業者に理解されるであろう。
本発明のまた別の態様は、以下のとおりであってもよい。
〔1〕単結晶CVDダイヤモンド材料であって:
少なくとも2mmの3つの直交寸法;
低歪みを示す1以上の低光学複屈折領域であって、0.5mmから1.0mmの範囲の厚さ及び1.3mm×1.3mmよりも大きな面積を有する単結晶CVDダイヤモンド材料のサンプル中で、かつ1×1μm
2
から20×20μm
2
の範囲の面積のピクセルサイズを用いて測定して、Δn
[平均]
の最大値が前記1以上の低光学複屈折領域に対して1.5×10
-4
を超えず、前記Δn
[平均]
が、遅相軸及び進相軸に平行に偏光した光の屈折率間の差をサンプル厚さにわたって平均化した平均値である、1以上の低光学複屈折領域;
高歪みを示す1以上の高光学複屈折領域であって、単結晶CVDダイヤモンド材料の前記サンプル中で、かつ前記ピクセルサイズを用いて測定して、Δn
[平均]
が1.5×10
-4
よりも大きくかつ3×10
-3
よりも小さい、1以上の高光学複屈折領域、を含み;及び
前記単結晶CVDダイヤモンド材料の前記サンプルの各1.3mm×1.3mmの面積が、少なくとも1つの前記高光学複屈折領域を含む、
単結晶CVDダイヤモンド材料。
〔2〕前記1以上の高光学複屈折領域のそれぞれが、前記単結晶CVDダイヤモンド材料を横切る直線上に横方向に延在する複数の転位を含む、前記〔1〕に記載の単結晶CVDダイヤモンド材料。
〔3〕前記1以上の高光学複屈折領域のそれぞれが、前記単結晶CVDダイヤモンド材料の横寸法中に位置する点に転位束を含む、前記〔1〕に記載の単結晶CVDダイヤモンド材料。
〔4〕前記1以上の高光学複屈折領域のそれぞれが、5から500μmの範囲の幅を有する、前記〔1〕から〔3〕のいずれか一項に記載の単結晶CVDダイヤモンド材料。
〔5〕前記高光学複屈折領域が、50μmから1.3mmの範囲の間隔を有する、前記〔1〕から〔4〕のいずれか一項に記載の単結晶CVDダイヤモンド材料。
〔6〕前記高光学複屈折領域が、正則パターンで形成される、前記〔1〕から〔5〕のいずれか一項に記載の単結晶CVDダイヤモンド材料。
〔7〕前記高光学複屈折領域が、等間隔で配置される、前記〔1〕から〔6〕のいずれか一項に記載の単結晶CVDダイヤモンド材料。
〔8〕前記1以上の低光学複屈折領域のΔn
[平均]
が、8×10
-5
を超えない、前記〔1〕から〔7〕のいずれか一項に記載の単結晶CVDダイヤモンド材料。
〔9〕前記1以上の低光学複屈折領域のΔn
[平均]
が、5×10
-5
を超えない、前記〔1〕から〔8〕のいずれか一項に記載の単結晶CVDダイヤモンド材料。
〔10〕前記1以上の高光学複屈折領域のΔn
[平均]
が、2.5×10
-4
よりも大きい、前記〔1〕から〔9〕のいずれか一項に記載の単結晶CVDダイヤモンド材料。
〔11〕前記1以上の高光学複屈折領域のΔn
[平均]
が、5×10
-4
よりも大きい、前記〔1〕から〔10〕のいずれか一項に記載の単結晶CVDダイヤモンド材料。
〔12〕前記1以上の高光学複屈折領域のΔn
[平均]
が、2.5×10
-3
よりも小さい、前記〔1〕から〔11〕のいずれか一項に記載の単結晶CVDダイヤモンド材料。
〔13〕前記1以上の高光学複屈折領域のΔn
[平均]
が、2×10
-3
よりも小さい、前記〔1〕から〔12〕のいずれか一項に記載の単結晶CVDダイヤモンド材料。
〔14〕前記1以上の高光学複屈折領域のΔn
[平均]
が、1×10
-3
よりも小さい、前記〔1〕から〔13〕のいずれか一項に記載の単結晶CVDダイヤモンド材料。
〔15〕前記単結晶CVDダイヤモンド材料が、電子常磁性共鳴により3×10
15
atoms/cm
3
から5×10
17
atoms/cm
3
の範囲で測定される、中性単一置換窒素(Ns
0
)濃度を有する、前記〔1〕から〔14〕のいずれか一項に記載の単結晶CVDダイヤモンド材料
〔16〕前記性単一置換窒素(Ns
0
)濃度が、2×10
17
atoms/cm
3
よりも小さい、前記〔15〕に記載の単結晶CVDダイヤモンド材料。
〔17〕前記性単一置換窒素(Ns
0
)濃度が、1×10
16
atoms/cm
3
よりも大きい、前記〔15〕又は〔16〕に記載の単結晶CVDダイヤモンド材料。
〔18〕前記単結晶CVDダイヤモンド材料が、前記単結晶CVDダイヤモンド材料の前記サンプルが、1.06μmの波長で0.09cm
-1
よりも小さい光吸収係数を有するような、低光吸収を有する、前記〔1〕から〔17〕のいずれか一項に記載の単結晶CVDダイヤモンド材料。
〔19〕1.06μmでの前記光吸収係数が0.07cm
-1
よりも小さい、前記〔18〕に記載の単結晶CVDダイヤモンド材料。
〔20〕前記単結晶CVDダイヤモンド材料が、DからJの範囲のカラーグレードを有する、無色又はほぼ無色である、前記〔1〕から〔19〕のいずれか一項に記載の単結晶CVDダイヤモンド材料。
〔21〕前記単結晶CVDダイヤモンド材料が、カットされた宝石用原石の形である、前記〔1〕から〔20〕のいずれか一項に記載の単結晶CVDダイヤモンド材料。
〔22〕前記低光学複屈折領域及び前記高光学複屈折領域における前記光学複屈折が、±10°以内の最大複屈折の方向で測定される、前記〔1〕から〔21〕のいずれか一項に記載の単結晶CVDダイヤモンド材料。
〔23〕前記1以上の高光学複屈折領域のそれぞれが、少なくとも100μm×100μmの面積を有する、前記〔1〕から〔22〕のいずれか一項に記載の単結晶CVDダイヤモンド材料。
〔24〕前記単結晶CVDダイヤモンド材料のサンプルの各1.3mm×1.3mm面積中のピクセル総数の少なくとも2%が、前記1以上の高光学複屈折領域を形成する、前記〔1〕から〔23〕のいずれか一項に記載の単結晶CVDダイヤモンド材料。
〔25〕前記1以上の高光学複屈折領域中の少なくとも80%のピクセルが、1.5×10
-4
よりも大きくかつ3×10
-3
よりも小さいΔn
[平均]
を有する、前記〔1〕から〔24〕のいずれか一項に記載の単結晶CVDダイヤモンド材料。
〔26〕前記〔1〕から〔25〕のいずれか一項に記載の単結晶CVDダイヤモンド材料の製造方法であって、前記方法が、
複数の単結晶ダイヤモンド基板を調製する工程であって、各基板が:
その上に成長させた前記単結晶CVDダイヤモンド材料中の前記1以上の高光学複屈折領域を形成する核生成転位のための1以上の領域;及び
その上に成長させた前記単結晶CVDダイヤモンド材料中の前記1以上の低光学複屈折領域を形成する1以上の低欠陥領域であって、前記1以上の低欠陥領域が、暴露プラズマエッチングにより形成される欠陥に関連する表面エッチング特徴部が5×10
3
/mm
2
よりも低いような密度の欠陥を有する、1以上の低欠陥領域;
を含む成長表面を有する、工程;並びに
各単結晶ダイヤモンド基板の前記成長表面の上で、少なくとも2mm×2mm×2mmの前記単結晶CVDダイヤモンド材料を成長させ、一方で前記〔1〕から〔25〕のいずれか一項に記載の単結晶CVDダイヤモンド材料を製作するためのCVDダイヤモンド成長条件を制御する工程、
を含む、方法。
〔27〕前記単結晶ダイヤモンド基板が、各前記単結晶ダイヤモンド基板の前記成長表面のアブレーションにより調製され、アブレーションされた領域が、1以上の核生成転位のための領域を形成する、前記〔26〕に記載の方法。
〔28〕前記アブレーションされた領域が、5から500μmの範囲の幅を有する、前記〔27〕に記載の方法。
〔29〕前記アブレーションされた領域が、5から100μmの範囲の深度を有する、前記〔27〕又は〔28〕に記載の方法。
〔30〕前記アブレーションされた領域が、50μmから1.3mmの範囲の間隔を有する、前記〔27〕から〔29〕のいずれか一項に記載の方法。
〔31〕前記単結晶ダイヤモンド基板が、各前記単結晶ダイヤモンド基板の前記成長表面の移植により調製され、移植された領域が、1以上の核生成転位のための領域を形成する、前記〔26〕に記載の方法。
〔32〕前記単結晶ダイヤモンド基板が、前記1以上の核生成転位のための領域の形成後の前記成長表面のエッチングにより調製され、前記エッチングが、前記1以上の低欠陥領域から加工ダメージを除去するが、前記1以上の核生成転位のための領域を完全には除去しないように制御され、前記核生成転位のための領域がその上に成長させた前記単結晶CVDダイヤモンド材料中で十分な転位を生成することできる形態であり、Δn
[平均]
が1.5×10
-4
よりも大きくかつ3×10
-3
よりも小さく、もって前記高光学複屈折領域を形成する、前記〔26〕から〔31〕のいずれか一項に記載の方法。