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特許7379155酸化バナジウム及び鉄含有分子篩を収容するSCR触媒デバイス
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  • 特許-酸化バナジウム及び鉄含有分子篩を収容するSCR触媒デバイス 図1
  • 特許-酸化バナジウム及び鉄含有分子篩を収容するSCR触媒デバイス 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-06
(45)【発行日】2023-11-14
(54)【発明の名称】酸化バナジウム及び鉄含有分子篩を収容するSCR触媒デバイス
(51)【国際特許分類】
   B01J 29/76 20060101AFI20231107BHJP
   B01D 53/86 20060101ALI20231107BHJP
   B01D 53/90 20060101ALI20231107BHJP
   B01D 53/94 20060101ALI20231107BHJP
   F01N 3/08 20060101ALI20231107BHJP
   F01N 3/10 20060101ALI20231107BHJP
   F01N 3/28 20060101ALI20231107BHJP
【FI】
B01J29/76 A ZAB
B01D53/86 222
B01D53/90
B01D53/94 222
B01D53/94 400
F01N3/08 B
F01N3/10 A
F01N3/28 301P
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2019533162
(86)(22)【出願日】2017-12-20
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-05-21
(86)【国際出願番号】 EP2017083688
(87)【国際公開番号】W WO2018115045
(87)【国際公開日】2018-06-28
【審査請求日】2020-12-07
【審判番号】
【審判請求日】2022-08-02
(31)【優先権主張番号】16205232.8
(32)【優先日】2016-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】501399500
【氏名又は名称】ユミコア・アクチエンゲゼルシャフト・ウント・コムパニー・コマンディットゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Umicore AG & Co.KG
【住所又は居所原語表記】Rodenbacher Chaussee 4,D-63457 Hanau,Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】シュテファン・マルムベルク
(72)【発明者】
【氏名】ニコラ・ゼーガー
【合議体】
【審判長】粟野 正明
【審判官】佐藤 陽一
【審判官】山口 大志
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2014-0131401号公報
【文献】米国特許出願公開第2016/0045868号明細書
【文献】Progress in Natural Science Materials International,2015年08月30日,VOL.25,PAGES 342-352,DOI:10.1016/j.pnsc.2015.07.002
【文献】JOURNAL OF FUEL CHEMISTRY AND TECHNOLOGY,2008年,vol.36,no.5,p.616-620
【文献】J.Phys.Chem.C,2009年,vol.113,p.21177-21184,DOI:10.1021/jp907109e
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J21/00-38/74
B01D53/86-53/90,53/94-53/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
選択的触媒還元(SCR)によって窒素酸化物含有排気ガスを浄化するための触媒デバイスであって、少なくとも2つの触媒領域を備え、第1の領域が酸化バナジウム及び酸化セリウムを収容し、第2の領域が鉄含有分子篩を収容し、
前記第1の領域が、
(a)前記第1の領域の重量に基づいてV として計算した0.5~10重量%の酸化バナジウムと、
(b)前記第1の領域の重量に基づいてCeO として計算した0.2~10重量%の酸化セリウムと、
(c)前記第1の領域の重量に基づいてWO として計算した0~17重量%の酸化タングステンと、
(d)前記第1の領域の重量に基づいてTiO として計算した25~98重量%の酸化チタンと、
(e)前記第1の領域の重量に基づいてSiO として計算した0~15重量%の酸化ケイ素と、
(f)前記第1の領域の重量に基づいてAl として計算した0~15重量%の酸化アルミニウムと、を含む、触媒デバイス。
【請求項2】
前記第1の領域が、タングステン、ケイ素、及びアルミニウムの酸化物から選択される少なくとも1つの更なる成分を収容する、請求項1に記載の触媒デバイス。
【請求項3】
前記第1の領域が、酸化セリウムを、CeOとして計算し、前記第1の領域の重量に基づいて0.5~7重量%収容する、請求項1又は2に記載の触媒デバイス。
【請求項4】
前記第1の領域が、酸化セリウムを、CeOとして計算し、前記第1の領域の重量に基づいて0.5~3重量%収容する、請求項1~いずれか一項に記載の触媒デバイス。
【請求項5】
前記分子篩がゼオライトである、請求項1~いずれか一項に記載の触媒デバイス。
【請求項6】
前記ゼオライトが鉄交換ゼオライトである、請求項に記載の触媒デバイス。
【請求項7】
前記ゼオライトが、AEL、AFI、AFO、AFR、ATO、BEA、GME、HEU、MFI、MWW、EUO、FAU、FER、LTL、MAZ、MOR、MEL、MTW、OFF、及びTONから選択される構造を有する、請求項又はに記載の触媒デバイス。
【請求項8】
前記排気ガスが初めに前記第1の領域に接触するように設計されている請求項1~いずれか一項に記載の触媒デバイス。
【請求項9】
前記第1及び第2の領域が隣接するゾーンを形成し、前記第1の領域は第1のゾーンであり、前記第2の領域は第2のゾーンであり、前記第1のゾーンは、前記排気ガスの流れ方向で前記第2のゾーンの上流にある、請求項に記載の触媒デバイス。
【請求項10】
前記第1及び第2の領域が重ね合わせた層を形成し、前記第1の領域は最上層である、請求項に記載の触媒デバイス。
【請求項11】
前記第1及び第2の領域が、不活性基材に適用されている、請求項1~10いずれか一項に記載の触媒デバイス。
【請求項12】
前記不活性基材がセラミックモノリスである、請求項11に記載の触媒デバイス。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか一項に記載の触媒デバイス、及び排気ガスを放出する上流デバイスを備えるシステム。
【請求項14】
前記排気ガスを放出する上流デバイスが燃焼エンジンである、請求項13に記載のシステム。
【請求項15】
選択的触媒還元(SCR)によって窒素酸化物含有排気ガスを浄化するための請求項1~12いずれか一項に記載の触媒デバイスの使用。
【請求項16】
亜酸化窒素の生成を回避するための請求項15に記載の使用。
【請求項17】
前記排気ガスが、>0.5のNO/NO比、及び/又は180℃~450℃の温度を有する、請求項15又は16に記載の使用。
【請求項18】
排気ガスの浄化方法であって、
(i)請求項1~12いずれか一項に記載の触媒デバイス又は請求項13又は14に記載のシステムを準備する工程と、
(ii)窒素酸化物含有排気ガスを前記触媒デバイスに導入する工程と、
(iii)窒素を含有する還元剤を、前記触媒デバイスに導入する工程と、
(iv)前記触媒デバイスにおいて、窒素酸化物を選択的触媒還元(SCR)によって還元する工程と、を含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、選択的触媒還元(SCR)によって窒素酸化物含有排気ガスを浄化するための触媒デバイスであって、少なくとも2つの触媒領域を備え、第1の領域が酸化バナジウム及び酸化セリウムを収容し、第2の領域が鉄含有分子篩を収容する、触媒デバイスに関する。本発明はまた、触媒デバイスの使用及び排気ガスの浄化方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
選択的触媒還元(SCR)の方法は、従来技術において、例えば、燃焼プラント、ガスタービン、工業プラント、又は燃焼エンジンからの、排気ガス中の窒素酸化物を還元するために使用されている。化学反応は、窒素酸化物、特にNO及びNOを選択的に還元的に除去する選択的触媒、以下、「SCR触媒」と呼ぶものにより行われる。他方で、望ましくない副反応は抑制される。反応の際、窒素を含有する還元剤が供給され、この還元剤は、典型的には、アンモニア(NH)又は尿素などの前駆体化合物であり、排気ガスに添加される。反応は、共均一化である。得られた主反応生成物は、水及び単体窒素である。SCR触媒は、多くの場合、バナジウム、チタン、タングステン、ジルコニウム、又はこれらの組み合わせの酸化物などの、金属酸化物を含有する。加えて、分子篩、特に触媒活性金属で交換されたゼオライトはSCR触媒として使用される。
【0003】
SCRの重要な用途は、主にリーンな空気/燃料比で運転する燃焼エンジンからの、排気ガスからの窒素酸化物の除去である。このような燃焼エンジンは、ディーゼルエンジン及び直噴ガソリンエンジンである。これらはまとめて、「リーンバーンエンジン」と呼ばれる。リーンバーンエンジンからの排気ガスは、有毒ガスの一酸化炭素CO、炭化水素HC、及び窒素酸化物NOに加えて、最大15体積%と比較的高い含有量の酸素を含有している。一酸化炭素及び炭化水素は、酸化によって容易に無害にすることができる。窒素酸化物の窒素への還元は、酸素含有量が高いことに起因して、はるかに困難である。
【0004】
自動車における燃焼エンジンは、過渡的に運転するので、激しく変動する運転条件下でさえも、SCR触媒により、可能な最高の窒素酸化物変換率を良好な選択性とともに保証しておく必要がある。完全で選択的な窒素酸化物変換を低温で確かに行うことが必要であり、これはすなわち、非常に高温の排気ガス中の、例えば全負荷運転中の排気ガス中の、大量の窒素酸化物の選択的で完全な変換を確かに行うことが必要であることと同様である。加えて、激しく変動する運転条件に起因して、理想的には還元される窒素酸化物に対して化学量論比で行うべきアンモニアの正確な投入が困難になる。これにより、SCR触媒に対して高度の要求が課され、すなわち、広い温度範囲において触媒担持量の可変性を高くし及び還元剤の供給量を変動させ、高い変換率及び選択比で窒素酸化物を窒素に還元する能力に対しての要求が課される。
【0005】
欧州特許第0385164(B1)号は、酸化チタン、並びにタングステン、ケイ素、ホウ素、アルミニウム、リン、ジルコニウム、バリウム、イットリウム、ランタン及びセリウムの酸化物のうちの少なくとも1つに加えて、バナジウム、ニオブ、モリブデン、鉄及び銅の酸化物の群から選択される更なる成分を含有する、窒素酸化物のアンモニアによる選択的還元のためのいわゆる「フル触媒」を記載している。
【0006】
米国特許第4,961,917号は、窒素酸化物のアンモニアによる還元のための触媒配合物であって、少なくとも10のシリカ:アルミナ比と、少なくとも7オングストロームの平均動的孔径を有する細孔によって全ての空間的方向に連結された細孔構造とを有するゼオライトに加えて、鉄及び/又は銅を促進剤として含有する、触媒配合物に関する。
【0007】
しかし、上記の文献に記載の触媒デバイスは、約350℃超又は約450℃超の比較的高温でしか良好な窒素酸化物変換率を達成することができないため、改善する必要がある。原則として、最適な変換は、比較的狭い温度範囲内でのみ行われる。このような最適な変換は、SCR触媒に典型的であり、作用機序によって決定される。
【0008】
尿素などの前駆体化合物から生成し得るアンモニアによる、SCR触媒上での窒素酸化物の反応は、以下の反応式によって進む。
4NO+4NH+O→4N+6H(1)
NO+NO+2NH→2N+3HO(2)
6NO+8NH→7N+12HO(3)
【0009】
NOの割合を増加させること、特にNO:NOの比を約1:1に調整することは、有利である。これらの条件下では、反応(2)(「急速SCR反応」)が反応(1)(「標準SCR反応」)と比較して顕著に速いことにより、より顕著に高い変換速度を、200℃未満の低温で既に達成している場合がある。
【0010】
しかし、リーンバーンエンジンからの排気ガスに含有される窒素酸化物NOは、主にNOからなり、NOが含有される割合は極わずかである。したがって、従来技術では、上流酸化触媒を使用して、NOをNOに酸化する。
【0011】
SCR触媒によるリーンバーンエンジンの排気ガス中の窒素酸化物の除去に関する更なる問題は、酸素含有量が高いことにより、アンモニアが、低価窒素酸化物、特に亜酸化窒素(NO)に酸化されることである。これにより、一方でSCR反応に必要とされる還元剤がプロセスから除去され、他方で亜酸化窒素が、望ましくない副次的排出物として漏出する。
【0012】
記載された目的の相反を解決するため、及び、多くの場合180℃~600℃の全ての運転温度での窒素酸化物の除去を駆動運転中に確かなものにするために、有利な特性を組み合わせる意図の、様々なSCR触媒の組み合わせが、従来技術において提案されている。
【0013】
米国特許公開第2012/0275977(A1)号は、分子篩の形態のSCR触媒に関する。これらは、鉄又は銅を含有する、ゼオライトである。可能な限り包括的に窒素酸化物を除去するために、好ましくは、機能性の異なる様々な分子篩を組み合わせる。
【0014】
米国特許公開第2012/0058034(A1)号は、ゼオライトを、タングステン、バナジウム、セリウム、ランタン、及びジルコニウムの酸化物に基づく別のSCR触媒と組み合わせることを提案している。ゼオライトを金属酸化物と混合し、好適な基材上にコーティングすることにより、両方の機能性を有する単一の触媒層が得られる。
【0015】
従来技術ではまた、バナジウム系SCR触媒を、鉄交換ゼオライトと組み合わせていた。例えば、国際公開第2014/027207(A1)号は、第1の触媒成分として、鉄交換された分子篩を含有し、第2の成分として、アルミニウム、チタン、ジルコニウム、セリウム、又はケイ素から選択される金属の酸化物上にコーティングされた酸化バナジウムを含有する、SCR触媒を開示している。様々な触媒を混合し、単一の触媒コーティングを好適な基材上で製造する。しかし、450℃未満、特に350℃未満の温度範囲におけるこのような触媒の効率は、なお改善を必要とする。
【0016】
国際公開第2009/103549号は、他の金属酸化物と組み合わせた、ゼオライト及び酸化バナジウムの組み合わせを開示している。触媒効率を改善するために、触媒を複数ゾーンに分割することが提案されている。NH吸蔵成分として機能するゼオライトを有するゾーンは、排気ガス入口側に位置する。SCR活性成分を有するゾーンには、バナジウム系SCR触媒があり、このゾーンは、出口側に取り付けられる。ゼオライトは、1つの吸蔵機能のみを有するが、以下の成分が、酸化バナジウムによるSCR反応の触媒となる。
【0017】
国際公開第2008/006427(A1)号は、鉄交換ゼオライトの銅交換ゼオライトとの組み合わせに関する。これは、最初に銅交換ゼオライトによるセラミック基材のコーティングを具体的に提案し、及びその上に鉄交換ゼオライトによるコーティングを形成することを具体的に提案している。このようにして、異なる温度範囲において活性の異なる複数の層を、有利な方法で組み合わせることができる。
【0018】
国際公開第2008/089957(A1)号は、酸化バナジウムを含有する下部コーティングと、鉄交換ゼオライトを含有する上部コーティングと、を有するセラミック基材を提供すること、を提案している。鉄交換ゼオライトを有する上部コーティングは、高い運転温度で亜酸化窒素が形成されることを防止することを意図する。
【0019】
欧州特許公開第2992956(A1)号は、V/TiOを含有する層が、金属交換ゼオライトを含む層上にある、「2層構造」を有するSCR触媒を記載している。
【0020】
バナジウム系配合物及びCu又はFeゼオライトを含む、SCR触媒もまた、国際公開第2016/011366(A1)号、独国特許公開第102006031661(A1)号、及びInd.Eng.Chem.Res.2008,47,8588-8593に開示されている。
【0021】
しかし、記載されたSCR触媒の効率は、なお改善を必要とする。様々な用途条件下で効率の高い触媒に対する必要性が、継続的に存在する。特に、NOリッチな排気ガス及びNOリッチな排気ガスの両方を浄化するのに好適であり、また、一般的な用途の温度範囲全体、すなわち低温及び同じく中程度の温度にわたって効率の高い、触媒に対する必要性が存在する。
【0022】
従来の触媒の更なる問題は、従来の燃焼エンジン用途において亜酸化窒素が生成することである。この問題は、約450℃未満又は約350℃未満の、中温域及び低温域において特に明らかである。燃焼エンジンからの排気ガスは、多くの場合、通常運転中にこのような温度を有し、亜酸化窒素の望ましくない生成及び放出をもたらす場合がある。
【0023】
J.Phys.Chem.C2009,113,2,1177-21184には、V-WO/TiOのSCR触媒上での、一酸化窒素(NO)のアンモニアによる変換を、記述されたSCR触媒に酸化セリウムを添加することによって改善することができると報告されている。しかし、バナジウムを0.1重量%しか含有していないSCR触媒で測定を行ったため、実際には無関係である。同じことは、Progress in Natural Science Materials International,25(2015),342-352に報告されているデータにも当てはまる。上記文献には、二酸化窒素(NO)の変換に関するデータが入っていない。
【0024】
J.Fuel.Chem.Technol.,2008,36(5),616-620にはまた、一酸化窒素(NO)のアンモニアによる変換中の、V-CeO/TiOのSCR触媒に対する、酸化セリウムの含有量の影響に関するデータも入っている。それによると、酸化セリウムの正の効果は、20重量%以上の含有量でのみ観察されている。この文献には、二酸化窒素(NO)の変換に関するデータが含まれていない。
【0025】
V/TiOのSCR触媒の存在下での、アンモニアによるNOの変換は、NO/NOのモル比に強く依存することが知られている。例えば、Environmental Engineering Science,Vol.27,10,2010,845-852の特に図2を参照されたい。したがって、NOの変換の結果を使用して、NOの変換又は、NOの割合が高いNOの変換の結果を予測することはできない。
【0026】
本出願の発明者らの調査では、バナジウム及びセリウムを含有するSCR触媒上での、低温における窒素酸化物のアンモニアによる変換は、特に窒素酸化物の組成に依存することが示されている。窒素酸化物が一酸化窒素(NO)のみからなる場合、酸化セリウム含有量を増加させると、変換率が低下する。しかし、これは、二酸化窒素(NO)含有量を増加させると変化する。したがって、例えば、75%の二酸化窒素含有量での変換率は、酸化セリウムの割合を増加させると増加していく。図1及び図2を参照されたい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0027】
本発明は、上記の欠点を克服する、触媒、方法、及び使用を提供する目的に基づく。
【課題を解決するための手段】
【0028】
特に、低温及び中程度の温度を含む広い温度域にわたって、窒素酸化物の効率的な除去を可能にするSCR触媒が、提供される。目的は、窒素酸化物NO、特にNO及びNOを効率的に除去するとともに、亜酸化窒素NOの生成を回避することである。触媒は、特に180℃~600℃の温度範囲で効率が高く、これは、典型的には、燃焼エンジンにとって重要である。
【0029】
触媒は、比較的NOの割合が高い排気ガスの浄化に、特にNO:NOの比が≧1:1である場合、特に好適である。触媒はまた、低温でも効率的であり、従来技術の触媒は、多くの場合、例えば<450℃又は<350℃で効率が低くなる。
【0030】
特に、以下の有利な特性を組み合わせる触媒が提供される。
約180℃~600℃の温度範囲、特に低温におけるNOリッチな排気ガスでの高度の効率、及び亜酸化窒素の生成の回避での高度の効率。
【0031】
触媒は、好ましくは、製造直後、並びに長期間の使用及び熟成後の両方で効果的である。
【0032】
発明の開示
驚くべきことに、本発明の基礎にある目的は、特許請求の範囲に記載の、触媒デバイス、使用、及び方法によって達成される。
【0033】
本発明の対象は、選択的触媒還元(SCR)によって窒素酸化物含有排気ガスを浄化するための触媒デバイスであって、少なくとも2つの触媒領域を備え、第1の領域が酸化バナジウム及び酸化セリウムを収容し、第2の領域が鉄含有分子篩を収容する、触媒デバイスである。
【0034】
触媒デバイスは、選択的触媒還元(SCR)プロセスによって、排気ガス中の窒素酸化物(「NO」)の還元に使用される。排気ガスは、例えば、燃焼エンジン、燃焼プラント、ガスタービン、又は工業プラントに由来するものでよい。SCRの際、窒素酸化物、特にNO及びNOは、選択的に還元される。反応は、窒素を含有する、通常はアンモニア(NH)又は尿素などのその前駆体化合物を含有する、還元剤の存在下で行われる。窒素を含有する還元剤は、典型的には、排気ガスに添加される。
【0035】
触媒には、少なくとも2つの触媒領域がある。「触媒/触媒的」とは、領域の各々がSCRの際に触媒活性を有することを意味する。第1の触媒領域は、以下、「バナジウムセリウム触媒」と略記される。
【0036】
本出願の範囲内では、用語「金属酸化物」は、一般的に、金属の酸化物を指す。この用語は、化学量論比が1:1の金属一酸化物を指すのみではない。用語「金属酸化物」は、金属の特定の酸化物、及び金属の様々な酸化物の混合物の両方を指す。
【0037】
第1の領域は酸化バナジウム、好ましくは五酸化二バナジウムVとして存在するものを、収容する。バナジウムの一部分が異なる酸化状態を有すること、及び異なる形態で存在することを、除外することはできない。酸化バナジウムは、好ましくは、第1の領域の必須触媒活性成分であり、反応に主に関与する。
【0038】
第1の領域は、酸化セリウムを更に収容する。酸化セリウムは、規定の酸化状態で存在してもよく、様々な酸化状態の混合物として存在してもよい。一実施形態では、酸化セリウムは、完全にその形で存在するか、又は部分的にCeOとして存在する。驚くべきことに、鉄含有分子篩による触媒領域もまた有する触媒デバイスにおいて、酸化バナジウムを酸化セリウムと組み合わせることによって、SCRの効率を顕著に改善することができることが、見出された。このような触媒と成分とを組み合わせることにより、NOの割合が高いか、又はNOの割合が高い排気ガスからの、非常に良好なNOの除去が達成され、NOの生成が顕著に抑制される。このような有利な効果は、従来の触媒の効率に特に改善の必要性があり、並びに望ましくない亜酸化窒素の生成が特に問題として関係する、特にNOリッチな排気ガスで、及び450℃未満の温度範囲において、特に180~450℃の範囲において明白である。
【0039】
酸化セリウムを添加することによるこのような利点は、触媒を熟成した後に特に顕著になり得る。触媒の熟成後、窒素酸化物の除去及びNOの生成の防止の両方とも、バナジウム触媒が酸化セリウムを更に含有する場合、特に有効であることが見出された。このことは、このような触媒が、特に燃焼エンジンからの排気ガスの浄化のために、一般的な用途において長い耐用寿命を有する必要があるとき、及び非常に困難な外的条件(温度、湿度、排気ガス組成)にさらされるとき、有利であり、このような熟成プロセスが好都合になる。
【0040】
好ましい実施形態では、第1の領域は、タングステン、チタン、ケイ素、及びアルミニウムの酸化物から選択される少なくとも1つの他の成分を収容する。第1の領域は、TiO、SiO、WO、及びAlから選択される少なくとも1つ、好ましくは少なくとも2つの金属酸化物を更に収容することが好ましい。特に好ましくは、第1の領域は、バナジウム、セリウム、タングステン、及びチタンの酸化物を収容し、バナジウム、タングステン、及びチタンの酸化物は、好ましくはV、WO、及びTiOとして存在する。
【0041】
金属酸化物は、SCRの際に触媒活性を示すことができ、又は触媒活性に寄与することができる。本発明によれば、酸化バナジウム、酸化セリウム、及び酸化タングステンは、例えば、触媒活性を示す。
【0042】
金属酸化物はまた、触媒活性を有さないか、ごくわずかしか有さない場合があり、例えば基材材料として機能する場合がある。このような非触媒成分を使用し、例えば、内部表面を拡大し、及び/又は多孔質構造を形成する。酸化チタンは、例えば、好ましい基材材料である。それは、二酸化ケイ素又は酸化アルミニウムなどの、他の非反応性か又はわずかな反応性しかない、ある割合の金属酸化物を含有してもよい。基材材料は、一般的に過剰に存在し、触媒成分が一般的には不活性成分の表面に適用されている。
【0043】
好ましい実施形態では、第1の領域の主成分は二酸化チタンであり、例えば、その領域の50重量%超、80重量%超、又は90重量%超を構成する。例えば、バナジウム、セリウム、チタン、及びタングステンの酸化物に基づく触媒は、本質的に、アナターゼ改質でのTiOを含有する。この場合、熱安定性の改善を達成するために、TiOを、WOによって安定化することができる。WOの割合は、典型的には、5~15重量%、例えば、7~13重量%である。
【0044】
酸化バナジウム及び酸化セリウムに基づく触媒成分の利点は、低温でのSCR活性が高いことである。本発明によれば、冷温開始特性の優れた触媒を提供するために、有利には、低温活性のバナジウム系触媒を、特定の活性の鉄含有ゼオライトと組み合わせる。
【0045】
第1の領域は、好ましくは、酸化バナジウムを、Vとして計算し、第1の領域の重量に基づいて、0.5~10重量%、特に1~5重量%、収容する。第1の領域は、好ましくは、酸化セリウムを、CeOとして計算し、第1の領域の重量に基づいて、0.2~10重量%、特に0.5~7重量%、0.5~5重量%、又は0.5~3重量%、収容する。触媒は、好ましくは、酸化タングステンを、WOとして計算し、第1の領域の重量に基づいて、1~17重量%、特に2~10重量%、含有する。用語「として計算される/として計算し」は、当該技術分野において、一般的に元素分析により金属の量が決定されることを考慮している。
【0046】
好ましい実施形態では、第1の領域は、好ましくは、各々の場合において第1の領域の重量に基づいて、以下の金属の酸化物:
(a)0.5~10重量%の酸化バナジウム、Vとして計算、
(b)0.2~10重量%の酸化セリウム、CeOとして計算、
(c)0~17重量%の酸化タングステン、WOとして計算、
(d)25~98重量%の酸化チタン、TiOとして計算、
(e)0~15重量%の酸化ケイ素、SiOとして計算、
(f)0~15重量%の酸化アルミニウム、Alとして計算、
を収容するか、又はそれからなる。
【0047】
第1の領域は、特に好ましくは、第1の領域の重量に基づいて、0.5~10重量%の酸化バナジウム、0.5~7重量%の酸化セリウム、2~17重量%の酸化タングステン、及び25~98重量%の二酸化チタンを、収容する。
【0048】
特に好ましくは、第1の領域は、各々の場合において第1の領域の重量に基づいて、以下の金属の酸化物:
(a)1~5重量%の酸化バナジウム、Vとして計算、
(b)1~15重量%の酸化タングステン、WOとして計算、
(c)0.5~5重量%の酸化セリウム、CeOとして計算、
(d)73~98重量%の酸化チタン、及び
(e)0~25重量%の二酸化ケイ素、
を収容するか、又はそれからなり、酸化セリウム+酸化タングステンの割合の合計は、<17重量%である。
【0049】
触媒には、鉄含有分子篩を収容する、第2の触媒領域がある。
【0050】
用語「分子篩」は、ガス、蒸気、及びある特定の分子サイズの溶解物質に対する強い吸着能を有する、天然及び合成化合物、特にゼオライトを指す。分子篩の好適な選択により、異なるサイズの分子を分離することが可能である。ゼオライトに加えて、リン酸アルミニウム、特にリン酸ケイ素アルミニウムも知られている。分子篩は、一般的に、分子直径の桁の均一な細孔直径、及び大きな内部表面積(600~700m/g)を有する。
【0051】
特に好ましい実施形態では、分子篩はゼオライトである。用語「ゼオライト」は、一般的に、一般式Mn+[(AlO)X(SiO)Y]xHOの空間ネットワーク構造を有する、ケイ酸アルミニウムの群からの結晶質物質を意味すると理解され、International Mineralogical Association(D.S.Coombs et al.,Can.Mineralogist,35,1997,1571)により定義されているとおりである。基本構造は、SiO/AlO四面体から形成され、共通の酸素原子によって結合して規則的な3次元ネットワークを形成している。
【0052】
ゼオライト構造には、各ゼオライトの特徴である空孔及びチャネルがある。ゼオライトは、それらのトポロジーによって異なる構造に分かれる。ゼオライト骨格には、通常水分子が占めているチャネル及びケージの形態の開いた空孔、並びに交換されていてもよい特定の骨格構造カチオンがある。
【0053】
空孔への入口は、8、10、又は12「環」(狭い細孔、中程度の細孔、及び広い細孔による、ゼオライト)によって形成されている。好ましい実施形態では、ゼオライトは、最大の環の大きさが8個以上の四面体によって画定される、構造を有する。
【0054】
本発明によれば、トポロジーAEL、AFI、AFO、AFR、ATO、BEA、GME、HEU、MFI、MWW、EUO、FAU、FER、LTL、MAZ、MOR、MEL、MTW、OFF、及びTONによるゼオライトが好ましい。トポロジーFAU、MOR、BEA、MFI、及びMELのゼオライトが特に好ましい。
【0055】
ゼオライト、特にSiO/Alのモル比(モル比、SAR比)が5:1~150:1の10環及び12環のゼオライトは、好ましく本発明の範囲内である。本発明による好ましいSiO/Alのモジュールは、5:1~50:1の範囲内、特に好ましくは10:1~30:1の範囲内のものである。
【0056】
第2の領域での分子篩は鉄を含有し、好ましくは鉄含有ゼオライトを含有する。酸化バナジウム及び酸化セリウムを収容する第1の領域と組み合わせた、鉄含有ゼオライトは、特に効率的なSCRの触媒となることが、見出された。好ましくは、鉄イオンで交換されたゼオライト(「鉄交換されたゼオライト」)か、又はフェロシリケート骨格のアルミニウム原子の少なくとも一部分が鉄で同型置換されたゼオライトが、使用される。
【0057】
特に好ましくは、ゼオライトは鉄交換されている。ゼオライトは、好ましくはBEA型である。SAR比が5:1~50:1の、鉄交換されたBEA型のゼオライトは、特に好ましい。例えば固相又は液相交換を介した、鉄含有ゼオライトの製造プロセスは、当業者に公知である。鉄含有ゼオライトにおける鉄の割合は、例えばFeとして計算し、鉄含有ゼオライトの総量に基づいて、最大10%、又は最大15%である。本発明による好ましい鉄含有及び鉄交換ゼオライトは、例えば、米国特許公開第2012/0275977(A1)号に記載されている。
【0058】
好ましい実施形態では、第2の領域は、少なくとも2つの異なる鉄含有ゼオライトを収容する。このことの利点は、様々な所望の特性を組み合わせることができることである。例えば、低温で活性な鉄含有ゼオライトを、より高い温度で活性な鉄含有ゼオライトと組み合わせることができる。
【0059】
第2の領域は、鉄含有ゼオライト、特に結合剤などの非触媒活性成分に加えて、他の成分を収容してもよい。例えば、SiO、Al、及びZrOなどの、触媒活性がほとんどないか又は全くない金属酸化物は、結合剤として好適である。第2の領域におけるこのような結合剤の割合は、例えば、最大15重量%である。
【0060】
好ましい実施形態では、触媒デバイスは、第1及び第2の触媒領域に加えて、基材を有する。基材は、通常、触媒領域がコーティングにより適用される、デバイスである。基材は、触媒活性ではなく、すなわち、反応に対して不活性である。基材は、金属基材であってもセラミック基材であってもよい。基材は、ハニカム構造の並列排気ガスチャネルを有してもよく、又は発泡体であってもよい。好ましい実施形態では、基材はモノリスである。モノリスは、特に自動車産業において使用される一体型セラミック基材であり、入口から出口側までの並列チャネルを有し、そのチャネルを通って排気ガスが流れる。構造体はまた、ハニカム形状とも表記される。あるいは、基材は、フィルタであって、入口側の排気ガスが出口側で閉じたチャネル内に流れ、チャネル壁を通って拡散し、入口側で閉じたチャネルを通って出口側で開いた基材から出ていく、フィルタであってもよい。
【0061】
本発明の更なる実施形態では、触媒領域は同時に、基材として機能する。これは、第1又は第2の触媒領域が押出物として提供される場合、特に可能になる。この場合、押出領域自体は基材デバイスを形成して、それに、他の領域がコーティングによって適用される。このような基材デバイスは、例えば、鉄含有ゼオライトを排気ガスチャネルの壁に組み込む場合、利用可能である。この実施形態は、更なる不活性基材が必要とされないという利点を有し、それにより、触媒デバイスの内部を、特にコンパクトになるように設計することができる。
【0062】
本発明による触媒デバイスは、少なくとも、異なる触媒活性を有する「第1の」及び「第2の」領域を収容する。本発明による触媒デバイスは、正確に1つの第1の領域及び1つの第2の領域を有してもよいが、また、1つより多い第1及び第2の領域、例えば、2つ、3つ、又は4つの第1及び/又は第2の領域を有してもよい。用語「第1の領域」(酸化バナジウム及び酸化セリウムを有する領域)及び「第2の領域」(鉄含有分子篩を有する領域)は、それらを区別するためにのみ、本出願の範囲内で使用される。それらは、領域の空間的配置に関する記述を全く含まないものである。したがって、これにより、第1の領域が第2の領域の前方に位置することを意味するものではない。
【0063】
酸化バナジウム及び酸化セリウムを収容する第1の領域と、鉄含有分子篩を収容する第2の領域とは、空間的に分離されている。領域は、排気ガスの流れ方向で連続的なゾーンであってもよい。あるいは、例えば、第2の領域が下層を形成し、第1の領域がその上に層を形成するように、領域は、重ね合わせた層として存在していてもよい。
【0064】
好ましい実施形態では、本発明による触媒デバイスの内部全体は、第1及び/又は第2の領域でコーティングされている。好ましくは、内部全体は、第1及び第2の領域で完全にコーティングされている。この実施形態では、デバイスの内部表面全体が触媒的に使用されるため、窒素酸化物の特に効率的な変換が達成される。
【0065】
第1及び第2の領域のサイズ及び厚さ、並びに第1及び第2の領域における触媒の量は、窒素酸化物の所望の分解除去を達成するように、互いに調整されている。
【0066】
一般的に、選択的触媒還元(SCR)は、2つの触媒領域、すなわち、酸化バナジウム及び酸化セリウムを収容する第1の領域、並びに鉄含有分子篩を収容する第2の領域が、本発明による触媒デバイスにおいて組み合わされる場合、有利であることが見出された。この触媒の組み合わせにより、窒素酸化物NOを様々な条件下で効率的に除去することができ、同時に亜酸化窒素の生成を抑制することもできる。
【0067】
特に好ましい実施形態では、触媒デバイスは、排気ガスが初めに、バナジウムセリウム触媒を収容する第1の領域に接触するように、設計されている。いかなる理論にも束縛されるものではないが、バナジウムセリウム触媒と反応する排気ガス画分は、次に、有利には鉄含有ゼオライトと反応し、それにより窒素酸化物の特に効率的な分解除去を達成し、同時に、亜酸化窒素の生成を回避するものと、推測される。この順序での触媒の配置によりまた、比較的低温であってもNOの特に効率的な浄化をもたらすことができ、同時に、亜酸化窒素の生成を回避することもできる。
【0068】
更なる好ましい実施形態では、触媒デバイスは、排気ガスが、初めに、鉄含有分子篩を収容する第2の領域に接触するように、設計されている。
【0069】
好ましい実施形態では、第1及び第2の領域は、排気ガスの流れ方向で順に配置されたものである。このような隣接領域は、本出願の範囲内で「ゾーン」と呼ばれる。第1の領域は第1のゾーンであってもよく、第2の領域は第2のゾーンであってもよく、又はその逆であってもよい。触媒デバイスを通る排気ガスは、流れ方向で、異なるゾーンに順に接触する。好ましい実施形態における触媒デバイスは、正確に1つの第1のゾーン及び1つの第2のゾーンを有していてもよい。あるいは、触媒デバイスは、2つ、3つ、又は4つなどの複数の連続的なゾーンを有していてもよい。ゾーンの長さは、厚さ及び所望の触媒効率によって選択される。例えば、ゾーンは、デバイスの長さの20~80%、又は30~70%に達するものでもよい。特に、複数ゾーンが、同じ長さを有していてもよい。
【0070】
特に好ましい実施形態では、第1の領域は第1のゾーンであり、第2の領域は第2のゾーンであり、第1のゾーンは、排気ガスの流れ方向で第2のゾーンの上流にある。したがって、排気ガスが初めに接触する第1のゾーンは、バナジウムセリウム触媒を収容する。第1のゾーンは、入口側に配置されている。鉄含有分子篩を有する第2の領域は、流れ方向及び出口側で下流にある、第2のゾーンを形成している。このような空間的設計による触媒デバイスは、SCRの特に効率的な触媒となり、亜酸化窒素の生成をほぼ完全に抑制することが、見出された。
【0071】
特に好ましい実施形態では、第1の領域は第1のゾーンであり、第2の領域は第2のゾーンであり、第2のゾーンは、排気ガスの流れ方向で第1のゾーンの上流にある。したがって、排気ガスに初めに接触する第1のゾーンは、鉄含有分子篩を収容する。第2のゾーンは、入口側に配置されている。バナジウムセリウム触媒を有する第1の領域は、流れ方向及び出口側で下流にある、第2のゾーンを形成している。更にまた、このような空間的設計による触媒デバイスは、SCRの特に効率的な触媒となり、亜酸化窒素の生成を低減する。
【0072】
好ましい実施形態では、第1及び第2の領域は、重なり合った層を形成している。この場合、バナジウムセリウム触媒を有する第1の領域は、特に好ましくは上層を形成している。このような触媒デバイスは、とりわけ、高い抵抗及び耐久性を示すことができる、熟成後の利点を有することが、見出された。更なる好ましい実施形態では、第2の領域は上層を形成しており、それにより第1の領域がその下方にある。
【0073】
好ましい実施形態では、鉄含有分子篩を収容する第2の領域は、下層として基材に完全に適用されている。バナジウムセリウム触媒を収容する第1の領域は、完全に第1の層の形態で形成されていてもよく、又は第2の層上のゾーンにのみ形成されていてもよい。
【0074】
好ましい実施形態では、第1の領域は、下層としての第2の領域の上に、上層として完全に適用されている。このことは、鉄含有分子篩を収容する第2の下層領域が排気ガスと直接接触する領域は、触媒デバイスの内部表面に存在しないことを意味する。バナジウムセリウム触媒を収容する上層で前処理された排気ガスのみが、下層に到達することは、有利である。
【0075】
更なる好ましい実施形態では、第1の領域は上層として連続的ではないが、第2の領域上のゾーンに、下層として適用されている。この設計では、鉄含有分子篩を収容する下層が排気ガスと直接接触する、部分領域が存在する。この場合、排気ガスは、最初に、バナジウムセリウム触媒を収容する上層と接触することが、好ましい。したがって、上層を有する領域が最初に流れ方向に存在することが、特に好ましい。この実施形態ではまた、排気ガスが、最初に、バナジウムセリウム触媒を収容する上層と接触し、それによって、前処理された後、第2の層に到達することも、達成される。
【0076】
一実施形態では、排気ガスは、触媒デバイスから出ていくときに、最後に、バナジウムセリウム触媒を収容する第1の領域に接触する。したがって、酸化バナジウムとの反応は、最後に行われる。鉄含有分子篩を有する下層は、好ましくは、上層の下方で触媒デバイスの出口に存在する。
【0077】
更なる好ましい実施形態では、第1の領域及び/又は第2の領域は、2つ以上の重なり合った副層からなる。副層は、例えば、密度若しくは多孔率などの物理的特性、又は個々の成分の組成などの化学的特性が異なってもよい。
【0078】
好ましい実施形態では、触媒デバイスには、更なる層が全くない。したがって、デバイスの各位置において、排気ガスは、第1又は第2の領域に直接接触する。特に好ましくは、バナジウムセリウム触媒を収容する第1の領域は、デバイスにおいて排気ガスと直接接触する。この場合、第1の領域は外側層を形成しており、この上に更なる層は適用されていない。
【0079】
本発明によりまた、少なくとも1つの更なる機能性領域を提供することもでき、これには、例えば、排気ガスを前処理又は後処理する機能がある。前処理又は後処理は、例えば、触媒的前処理であってもよい。好ましい実施形態では、触媒デバイスは、酸化セリウムなしで酸化バナジウム触媒を収容する、少なくとも1つの更なる第3の領域を備える。第3の領域は、第1の領域について上述したように選択することができ、相違点は、酸化セリウムが存在しないことである。したがって、例えば、ゾーンは、酸化セリウムなしで酸化バナジウムを収容する副層と、酸化セリウムを有し、酸化バナジウムを収容する副層とからなってもよい。第1、第2、及び第3の領域に加えての、他の異なる領域は、好ましくはこの場合、提供されない。
【0080】
第2の領域は、例えば、鉄含有分子篩を収容する、活性の異なる第1及び第2の副層からなってもよい。同じ型の異なる触媒の好適な選択及び組み合わせによる副層を有する、このような実施形態の場合、例えば、広い温度範囲において反応性を達成するために、それらの特性を、特定して組み合わせることができる。
【0081】
好ましい実施形態では、触媒デバイスは、第1及び第2の領域以外の領域、特に触媒領域を有さない。
【0082】
触媒デバイスには、好ましくは、貴金属が全くない。特に、第1及び第2の領域は、白金、金、パラジウム、及び/又は銀などの貴金属を全く収容していない。本発明により、大量に利用可能ではない高価な貴金属を使用する必要なく、効率の高い触媒デバイスが提供される。
【0083】
SCR触媒を適用するには、従来技術の方法を使用し、例えば、コーティング懸濁液(いわゆる「ウォッシュコート」)を浸漬槽内でコーティングすることによって、又はスプレーコーティングによって適用することによる。また、領域は、押出物であってもよい。特に好ましくは、領域の適用は、ウォッシュコートによるコーティングとしてのものである。一般的なやり方として、ウォッシュコートは、固体又は前駆体化合物が懸濁され、及び/又は溶解されて触媒領域を作製する、コーティング懸濁液である。このようなウォッシュコートは、微細に分布した成分を有する非常に均質な形態で提供され、それにより、可能な限り均一に基材をコーティングすることができる。ウォッシュコートを適用した後、乾燥、焼成、及び焼き戻しする工程などの、通常の後処理工程が続く。
【0084】
好ましい実施形態では、触媒デバイスにおける第1の領域の重量(触媒体積当たり)の、第2の領域のそれに対する比は、0.2超、特に0.2~15、特に好ましくは1~6である。
【0085】
別の好ましい実施形態では、第1の領域は、基材の第1の端部からその全長の20%~80%にわたって伸びるゾーンである。この場合、第2の領域は、基材の第2の端部からその全長の20%~80%にわたって伸びるゾーンである。
【0086】
領域の総数は、デバイスを全体として可能な限り効率的に使用するように選択される。フロースルー型基材の場合、例えば、基材体積(触媒デバイスの総体積)当たりのコーティングの総量(固体の割合)は、100~600g/L、特に100~500g/Lであってもよい。好ましくは、第2の下層は、50~200g/L、特に50~150g/L、特に好ましくは約100g/Lの量で使用される。第1の上層は、好ましくは、100~400g/L、特に200~350g/L、特に好ましくは約280g/Lの量で使用される。フィルタ基材の場合、かなり少ないウォッシュコートが、一般的には、例えば、10~150g/Lの総量で使用される。
【0087】
本発明の対象はまた、選択的触媒還元(SCR)によって窒素酸化物含有排気ガスを浄化するための、本発明による触媒デバイスの、使用である。
【0088】
本発明の課題はまた、リーンな空気燃料で運転される燃焼エンジンの排気ガスから窒素酸化物を除去する方法であって、排気ガスを、本発明による触媒デバイスに通すこと、を特徴とする方法である。
【0089】
本発明による方法は、窒素酸化物中のNOの割合が50%を超える(NO/NO>0.5)場合、ひいては例えば75%である場合、特に有利である。
【0090】
排気ガスは、好ましくは燃焼プラントからのものである。燃焼プラントは、可動式であっても固定式であってもよい。本発明の意味の内の可動式燃焼デバイスは、例えば、自動車の燃焼エンジン、特にディーゼルエンジンである。固定式燃焼デバイスは、通常、電力プラント、燃焼プラント、又は個人の住宅用の加熱システムである。好ましくは、排気ガスはリーンバーンエンジン、すなわち、主にリーンな空気/燃料比で運転される燃焼エンジンから発生したものである。リーンのエンジンは、特にディーゼルエンジン及び直噴ガソリンエンジンである。
【0091】
本発明はまた、本発明による触媒デバイス、及び排気ガス、特に燃焼エンジンを放出する上流デバイス、を備える、システム又はデバイスにも関する。システムは、排気ガスライン又は他の触媒デバイスなどの、他のデバイスを備えてもよい。本発明はまた、本発明による排気ガスデバイス又はシステムを収容する、自動車にも関する。
【0092】
様々な影響因子(例えば、エンジンキャリブレーション、運転条件、上流触媒の型及び設計)に応じて、NO中のNOの割合は50%を超える場合がある。本発明によれば、触媒デバイスは、約450℃未満、特に350℃未満の、問題となる中程度の温度から低温の範囲であっても、NO含有量が高い(NO/NO>0.5)排気ガスのSCRの効率的な触媒となることが見出された。特に、このような排気ガスの場合、窒素酸化物の効率的な除去が達成され、同時に、亜酸化窒素の生成が回避されることが、見出された。これらの結果は驚くべきものであったが、それは、バナジウム触媒が、NOリッチな排気ガスでのSCRにおいて、特に低温では比較的非効率的であり、他方では、より効率的な鉄ゼオライト触媒により、高い割合のNOが生成することが、従来技術で知られていたことによる。
【0093】
好ましい実施形態では、排気ガスは、上流酸化触媒から発生したものである。このような上流酸化触媒は、従来技術で使用されており、リーンバーンエンジン、特にディーゼルエンジンからの排気ガス中のNO割合が増加している。
【0094】
触媒デバイスに導入される場合、排気ガスは、好ましくは、例えば、少なくとも5体積%、少なくとも10体積%、又は少なくとも15体積%の比較的高い酸素含有量を有する。リーンバーンエンジンからの排気ガスは、定常的にこのような高い酸素含有量を有する。酸化剤の酸素によって、SCRによる窒素酸化物の還元的除去が、より困難になる。驚くべきことに、本発明による触媒デバイスによりまた、酸素の割合の高い排気ガスから窒素酸化物が効率的に除去され、同時に、亜酸化窒素の生成が防止されることが、見出された。
【0095】
好ましくは、排気ガスの、本発明による触媒デバイスとのSCR反応の際、NO及び/又はNOの90%超、好ましくは95%超が除去される。
【0096】
本発明によれば、SCRによる排気ガスの効率的な浄化もまた、比較的低温で行うことができ、亜酸化窒素の生成を、低温で正確に回避することができる。触媒デバイスの使用は、450℃未満、特に180~450℃、特に好ましくは200~350℃の範囲の温度で、特に有利である。
【0097】
好ましい実施形態では、使用は、特に、NOリッチな排気ガスの浄化において、特に450℃未満又は350℃未満の温度での、亜酸化窒素(NO)の生成を防止するために行われる。本発明によれば、窒素酸化物の効率的な分解除去を行うことができ、同時に、亜酸化窒素の生成が回避されるか、又は比較的少ししか亜酸化窒素が生成されないことが、見出された。先行技術によれば、バナジウム触媒及び鉄含有ゼオライトによるSCR反応によって、特に、低温又は中程度の温度でNOリッチな排気ガスを浄化するとき、比較的多量の亜酸化窒素が生成する。したがって、酸化セリウムも含有するバナジウム触媒により効率的なSCRが行われ、同時に比較的少量しか亜酸化窒素が生成しないことは、驚くべきことであった。好ましくは、本発明による触媒デバイスでのSCR後の亜酸化窒素の濃度は、50ppm以下、20ppm以下、又は10ppm以下となる。具体的には、このような濃度を、180℃~450℃の範囲、特に200℃~350℃の範囲の温度以下でのものとする。
【0098】
本発明の対象はまた、排気ガスの浄化方法であって、
(i)本発明による触媒デバイスを準備する工程と、
(ii)窒素酸化物含有排気ガスを触媒デバイスに導入する工程と、
(iii)窒素を含有する還元剤を、触媒デバイスに導入する工程と、
(iv)触媒デバイスにおいて、窒素酸化物を選択的触媒還元(SCR)によって還元する工程と、を含む、方法である。
【0099】
本発明による方法は、窒素酸化物中のNOの割合が50%を超える(NO/NO>0.5)場合、ひいては例えば75%である場合、特に有利である。
【0100】
好ましくは、工程(ii)において導入される排気ガスは、リーンバーンエンジン、特にエンジンの下流の酸化触媒から発生したものである。本発明による触媒デバイスは、他の触媒又はフィルタなどの、排気ガスを浄化するための他のデバイスと直列又は並列で、本方法において組み合わせることができる。
【0101】
SCR反応において、窒素を含有する、好ましくはアンモニア(NH)又は尿素などのその前駆体化合物を含有する還元剤を添加する。好ましくは、窒素を含有する還元剤を添加した後、触媒デバイスに入れるが、触媒デバイスに別個に導入してもよい。
【0102】
本発明による触媒デバイスによって、本発明の基礎となる目的が達成される。SCRによって排気ガスを浄化するために、触媒デバイスを準備し、これにより、窒素酸化物が効率的に除去され、ひいては亜酸化窒素の生成が防止される。デバイスは、広い温度範囲、特に低温で、排気ガスを浄化するのに好適である。これは、例えば酸化触媒と組み合わせてのディーゼルエンジンの運転中に生成したNOリッチな排気ガスを浄化するのに特に好適である。触媒デバイスは、エージング後であっても高度の触媒活性を示し、亜酸化窒素の生成を防止、又は最低限に抑える。様々な用途条件下でのSCRの際の高度の効率により、低温であっても、並びにNO含有量の低い場合及び高い場合のいずれであっても、触媒デバイスは、自動車分野における用途に非常に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0103】
図1】SCR触媒のセリウム含有量に対する、一酸化窒素の変換率の依存性、又は二酸化窒素(NO/NO=75%)の変換率の依存性を示す図である。
図2】SCR触媒のセリウム含有量に対する、一酸化窒素の変換率の依存性、又は二酸化窒素(NO/NO=75%)の変換率の依存性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0104】
例示的な実施形態
予備試験
図1及び図2は、SCR触媒のセリウム含有量に対する、一酸化窒素の変換率の依存性、又は二酸化窒素(NO/NO=75%)の変換率の依存性を示しており、それぞれ、図1又は図2を参照されたい。
【0105】
図1及び図2中:
参照=3%のV、4.3%のWO、及び残部のTiOと、5%のSiOとで作製されたSCR触媒、
1%の酸化セリウム=参照としてであり、ただし、TiO/SiOは、酸化セリウム含有量が最大で触媒の1%となるよう酸化セリウムによって置き換えられている。
5%の酸化セリウム=参照としてであり、ただし、TiO/SiOは、酸化セリウム含有量が最大で触媒の5%となるよう酸化セリウムによって置き換えられている。
10%の酸化セリウム=参照としてであり、ただし、TiO/SiOは、酸化セリウム含有量が最大で触媒の10%となるよう酸化セリウムによって置き換えられている。
【0106】
触媒を、市販のフロースルー型基材上に、通常の方法により、160g/Lのウォッシュコート充填量でコーティングし、以下の試験ガス組成によりGHSV=60000 1/時間のNO変換率を測定した。NO:1000ppm
NO/NO:0%(図1)又は75%(図2
NH:1100ppm(図1)又は1350ppm(図2
:10%
O:5%
O:残部
【0107】
図1に示すように、酸化セリウム含有量の増加とともにNOの変換率は悪化していくが、図2に示すように、NO/NO=75%での変換率は、酸化セリウム含有量の増加とともに改善されていく。
【0108】
実施例1:コーティング懸濁液の調製(ウォッシュコート)
コーティング懸濁液Aの調製(バナジウムSCR)
5重量%の二酸化ケイ素でドープされたアナターゼ形態の市販の二酸化チタンを、水中に分散させた。続いてメタタングステン酸アンモニウム水溶液、及びシュウ酸に溶解したメタバナジン酸アンモニウムを、タングステン前駆体又はバナジウム前駆体として、87.4重量%のTiO、4.6重量%のSiO、5.0重量%のWO、及び3.0重量%のVの組成の触媒となる量で添加した。混合物を激しく撹拌し、最終的に、市販の攪拌ボールミルで均質化し、d90<2μmまで粉砕した。
【0109】
コーティング懸濁液B(1%の酸化セリウムを有するバナジウムSCR)の調製
5重量%の二酸化ケイ素でドープされたアナターゼ形態の市販の二酸化チタンを、水中に分散させた。続いてメタタングステン酸アンモニウム水溶液をタングステン前駆体として、シュウ酸に溶解したメタバナジン酸アンモニウムをバナジウム前駆体として、及び酢酸セリウム水溶液をセリウム前駆体として、86.4重量%のTiO、4.6重量%のSiO、5.0重量%のWO、3.0重量%のV、及び1%のCeOの組成の触媒となる量で添加した。混合物を激しく撹拌し、最終的に、市販の攪拌ボールミルで均質化し、d90<2μmまで粉砕した。
【0110】
コーティング懸濁液Cの調製(Fe-SCR、SAR=25)
鉄交換β-ゼオライトに基づいた市販のSCR触媒用のコーティング懸濁液を、調製した。この目的のために、市販のSiO結合剤、市販のベーマイト結合剤(コーティング助剤として)、硝酸鉄(III)非水和物、及び市販のβ-ゼオライトを、SiO/Alのモル比(SAR)を25として水中に懸濁させ、それにより、90重量%のβ-ゼオライト、及びFeとして計算して4.5重量%の鉄含有量の組成の触媒を得る。
【0111】
コーティング懸濁液Dの調製(Fe-SCR、SAR=10)
鉄交換β-ゼオライトに基づいた市販のSCR触媒用のコーティング懸濁液を、調製した。この目的のために、市販のSiO結合剤、市販のベーマイト結合剤(コーティング助剤として)、硝酸鉄(III)非水和物、及び市販のβ-ゼオライトを、SiO/Alのモル比(SAR)を10として水中に懸濁させ、それにより、90重量%のβ-ゼオライト、及びFeとして計算して4.5重量%の鉄含有量の組成の触媒を得る。
【0112】
実施例2:触媒デバイスの製造
セラミック基材をコーティング懸濁液A~Dでコーティングすることによって、様々な触媒デバイスを製造した。両側で開いた並列流路を有する、通常的なセラミックモノリスを、基材として使用した。この場合、第1及び第2の層(S1、S2)を各基材に適用し、各層を2つの隣接するゾーン(Z1、Z2)に分割した。浄化する排気ガスは、触媒デバイスへの流れ方向に、すなわち、上層2の上でゾーン1からゾーン2まで流れる。スキーム1は、2つの層及び2つのゾーンに位置する4つの触媒領域を有する、触媒デバイスの構造を示す。
【0113】
スキーム1:例示的な実施形態によって製造した触媒デバイスの概略的構造
【0114】
【表1】
【0115】
コーティング懸濁液A~Dの、使用した組成及び量を、以下の表1にまとめる。表はまた、触媒層S1及びS2並びにゾーンZ1及びZ2のうちのどれを適用したかを示す。触媒E1~E5は本発明によるものであり、V1~V4は参照触媒である。
【0116】
最初に、分散液A~Dのうちの1つを、62セル/平方センチメートルの市販のフロースルー型基材の入口側から開始し領域Z1S1の長さにわたって、従来の浸漬プロセスを使用して適用し、セル壁の厚さは0.17mm、長さは76.2mmとした。部分的にコーティングした成分を、初めに120℃で乾燥した。続いて、分散液A~Dのうちの1つを、出口側から開始し領域Z2S1の長さまで、同じ方法を使用して適用した。次いで、コーティングした成分を120℃で乾燥した後、350℃で15分にわたって乾燥し、次いで、600℃で3時間、焼成した。分散液及びウォッシュコートの充填がZ1S1及びZ2S1領域において同一である場合、分散液A~Dのうちの1つを、62セル/平方センチメートルの市販のフロースルー型基材に従来の浸漬プロセスを使用して適用し、セル壁の厚さは0.17mm、その合計の長さは76.2mmにわたるものとした。次いで、これを120℃で乾燥した後、350℃で15分にわたって乾燥し、次いで、600℃で3時間、焼成した。
【0117】
続いて、このようにして焼成した構成要素を、懸濁液A~Dのうちの1つで、上記のプロセスを使用して、入口側から領域Z1S2の長さにわたってコーティングし、120℃で乾燥した。領域Z1S2に対してコーティングを計画しなかった場合、前述の工程をスキップした。続いて、コーティングを、懸濁液A~Dのうちの1つで、出口側から開始して領域Z2S2の長さにわたって適用した。次いで、乾燥を120℃で行った。領域Z2S2に対してコーティングを計画しなかった場合、前述の工程をスキップした。続いて、焼成を、350℃で15分にわたって、その後600℃で3時間、行った。分散液及びウォッシュコートの充填がZ1S2及びZ2S2領域において同一である場合、分散液A~Dのうちの1つを、構成要素の76.2mmの全長に、上記のプロセスを使用して適用した。次いで、これを120℃で乾燥した後、350℃で15分にわたって乾燥し、次いで、600℃で3時間、焼成した。
【0118】
表1:第1及び第2の層(S1、S2)並びに第1及び第2のゾーン(Z1、Z2)における、コーティング懸濁液A~Dによる触媒デバイスの製造。4つの領域(S1Z1~S2Z2)の各々における、乾燥、焼成、及び焼戻しした後の総量を、それぞれg/L単位で示し、並びにゾーンの長さを、触媒デバイスの全長に基づいて、それぞれ%単位で示す。触媒V1~V4は、参照触媒である。
【0119】
【表2】
【0120】
上記のプロセスの代替として、上述のゾーンZ1及びZ2に対応する2つの触媒(Z1、Z2)を製造し、両方の触媒を順に(Z1の後にZ2として)試験することも可能である。
【0121】
触媒Z1:初めに、分散液A~Dのうちの1つを、長さZ1の基材(領域Z1S1)の全長にわたって適用して、120℃で乾燥し、次いで350℃で15分にわたって乾燥した後、600℃で3時間、焼成する。意図する場合、続いて、分散液A~Dのうちの1つを、このように得た構成要素(領域Z1S2)の全長にわたって適用して、次いで350℃で15分にわたってとし、その後600℃で3時間、焼成する。
【0122】
触媒Z2:初めに、分散液A~Dのうちの1つを、長さZ2の基材(領域Z2S1)の全長にわたって適用して、120℃で乾燥し、次いで350℃で15分にわたって乾燥した後、600℃で3時間、焼成する。意図する場合、続いて、分散液A~Dのうちの1つを、このように得た構成要素(領域Z2S2)の全長にわたって適用して、次いで350℃で15分にわたってとし、その後600℃で3時間、焼成する。
【0123】
実施例3:SCRによる窒素酸化物の還元
測定方法
実施例2によって製造した触媒デバイスを、窒素酸化物の選択的触媒還元における、その活性及び選択性について試験した。その際、窒素酸化物の変換率を、SCR活性及び亜酸化窒素の生成の尺度として、様々な規定の温度で測定(触媒の入口側で測定)した。入口側で、とりわけ、予め設定した割合のNO、NH、NO、及びO2を含有する、モデル排気ガスを導入した。窒素酸化物の変換率を、石英ガラス反応器にて測定した。この目的のために、L=3”、及びD=1”のドリルコアを、静止条件下で190~550℃にて試験した。測定を、以下にまとめた試験条件で行った。GHSVは、時間当たりガス空間速度(ガス流量:触媒体積)である。測定のシリーズTP1~TP4の条件を、以下にまとめる。
【0124】
試験パラメータの組、TP1:
時間当たりガス空間速度GHSV=60000 1/時間、以下の合成ガス組成:
1000体積ppmのNO、1100体積ppmのNH、0体積ppmのN
a=xNH/xNO=1.1
xNO=xNO+xNO+xNO[式中、各場合のxは、濃度(体積ppm)を意味する]
10体積%のO、5体積%のHO、残部のNによる。
【0125】
試験パラメータの組、TP2:
GHSV=60000 1/時間、以下の合成ガス組成:
250体積ppmのNO、750体積ppmのNO、1350体積ppmのNH、0体積ppmのN
a=xNH/xNO=1.35
xNO=xNO+xNO+xNO[式中、各場合のxは、濃度(体積ppm)を意味する]
10体積%のO、5体積%のHO、残部のNによる。
【0126】
試験パラメータの組、TP3:
GHSV=30000 1/時間、以下の合成ガス組成:
500体積ppmのNO、550体積ppmのNH、0体積ppmのN
a=xNH/xNO=1.1
xNO=xNO+xNO+xNO[式中、各場合のxは、濃度(ppm)を意味する]
10体積%のO、5体積%のHO、残部のNによる。
【0127】
試験パラメータの組、TP4:
GHSV=30000 1/時間、以下の合成ガス組成:
125体積ppmのNO、375体積ppmのNO、675体積ppmのNH、0体積ppmのN
a=xNH/xNO=1.35
xNO=xNO+xNO+xNO[式中、各場合のxは、濃度(ppm)を意味する]
10体積%のO、5体積%のHO、残部のNによる。
【0128】
触媒デバイスの後の窒素酸化物濃度(一酸化窒素、二酸化窒素、亜酸化窒素)を測定した。触媒デバイスを介した窒素酸化物の、各温度測定点についての変換率を、以下(xは、各場合の体積ppm単位での濃度である)のとおり、モデル排気ガス中で調整し、それぞれの試験試行の開始時に調節の際に触媒前の排気ガス分析により確かめた窒素酸化物含有量、及び触媒デバイスの後で測定した窒素酸化物含有量から計算した:
NOx[%]=(1-xOutput(NO)/xInput(NO))100[%]
ただし、
Input(NO)=xInput(NO)+xInput(NO
Output(NO)=xOutput(NO)+xOutput(NO)+2Output(NO)である。
【0129】
化学量論を考慮に入れるため、xOutput(NO)については、係数2で重み付けした。
【0130】
触媒のエージングが結果に影響する経路を判定するために、触媒デバイスを、ガス雰囲気(10%のO、10%のHO、残部のN)中にて、580℃で100時間にわたって水熱エージングした。続いて、窒素酸化物の変換率を、上記の方法によって決定した。
【0131】
結果
モデル排気ガスがNOのみを窒素酸化物として含有した、測定のシリーズTP1及びTP3の結果を、表2にまとめる。モデル排気ガスが窒素酸化物としてNO及びNOを1:3の比にて含有した、測定のシリーズTP2及びTP4の結果を、表3にまとめる。表は、実施例2(表1)による触媒のうちのどれを使用したかについて示す。各規定の温度値について、初期濃度NOのうちの除去された割合を示す。表3はまた、各温度値2~7について、各温度値で触媒後に測定したNOの絶対量を示す。表4及び表5に、エージング後の触媒デバイス試験の条件及び結果をまとめる。
【0132】
試験は、2つの触媒領域を有する本発明によるSCR触媒であって、第1の領域が酸化バナジウム及び酸化セリウムを収容し、第2の領域が鉄含有分子篩を収容する、SCR触媒によって、SCRによる窒素酸化物(NO)の還元的除去にて高度の効率が達成されることを示す。これらは、NOリッチな排気ガスとの反応のみならず、NOリッチな排気ガスの処理にも好適である。NOリッチな排気ガスからの窒素酸化物の還元は、400℃未満又は350℃未満の温度範囲において特に効率的である。加えて、亜酸化窒素の生成を、本発明による触媒によるSCRにおいて抑制することができる。例えば、触媒E3、E4、及びE5により、NOリッチな排気ガス(表2)及びNOリッチな排気ガス(表3)のいずれにおいても、窒素酸化物NOがほとんど完全になくなり、亜酸化窒素の生成は、ほとんど完全に抑制される。触媒E2によってもまた、NOリッチ及びNOリッチな排気ガスのいずれからも窒素酸化物NOが効率的に除去され、生成する亜酸化窒素の量は低減される。熟成後の触媒E2の利点は、特に顕著であり(表4、表5)、これは、燃焼エンジンに関連する実際の用途にとって特に重要である。E1触媒もまた、亜酸化窒素の生成の低減で高度の効率を示す。したがって、本発明による触媒デバイスにより、いくつかの有利な特性、具体的には、約180℃~500℃の温度範囲、特に低温におけるNOリッチな排気ガスでの高度の効率、NOリッチな排気ガスでの高度の効率、及び亜酸化窒素生成の回避が組み合わされる。新たに製造したばかりの触媒及び熟成プロセス後で、効果を知ることができる。
【0133】
表2:異なる実際に測定した温度1~8での、異なる触媒デバイス(試験TP1及びTP3)によるNOの還元の条件及び結果。触媒デバイス出口におけるNOの分解除去を、初めに使用する量の百分率として示す。
【0134】
【表3】
【0135】
表3:異なる実際に測定した温度での、3:1の比でのNO:NOの還元の試験条件及び結果(試験TP2及びTP4)。測定2~7について、触媒デバイス出口におけるNOの分解除去を、初めに使用する量の百分率として、及び触媒デバイス出口におけるNOの測定値をppm単位で、示す。
【0136】
【表4】
【0137】
表4:異なる実際に測定した温度1~8での、エージング後の異なる触媒デバイス(試験TP1)によるNOの還元の条件及び結果。触媒デバイス出口におけるNOの分解除去を、初めに使用する量の百分率として示す。
【0138】
【表5】
【0139】
表5:異なる実際に測定した温度での、エージング後の異なる触媒デバイスによる、3:1の比でのNO:NOの還元の試験条件及び結果(試験TP2)。測定2~7について、触媒デバイス出口におけるNOの分解除去を、初めに使用する量の百分率として、及び触媒デバイス出口におけるNOの測定値をppm単位で、示す。
【0140】
【表6】
図1
図2