(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-06
(45)【発行日】2023-11-14
(54)【発明の名称】非水溶媒の精製方法及び非水溶媒の精製用のイオン交換樹脂の前処理方法
(51)【国際特許分類】
C07C 29/76 20060101AFI20231107BHJP
B01J 39/05 20170101ALI20231107BHJP
B01J 39/07 20170101ALI20231107BHJP
B01J 39/20 20060101ALI20231107BHJP
B01J 41/05 20170101ALI20231107BHJP
B01J 41/07 20170101ALI20231107BHJP
B01J 41/14 20060101ALI20231107BHJP
B01J 47/026 20170101ALI20231107BHJP
B01J 47/04 20060101ALI20231107BHJP
B01J 49/06 20170101ALI20231107BHJP
B01J 49/08 20170101ALI20231107BHJP
B01J 49/09 20170101ALI20231107BHJP
C07C 31/10 20060101ALI20231107BHJP
【FI】
C07C29/76
B01J39/05
B01J39/07
B01J39/20
B01J41/05
B01J41/07
B01J41/14
B01J47/026
B01J47/04
B01J49/06
B01J49/08
B01J49/09
C07C31/10
(21)【出願番号】P 2020000851
(22)【出願日】2020-01-07
【審査請求日】2022-09-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000004400
【氏名又は名称】オルガノ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002538
【氏名又は名称】弁理士法人あしたば国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】塩谷 惟
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 美和
(72)【発明者】
【氏名】高田 智子
(72)【発明者】
【氏名】貫井 郁
【審査官】前田 憲彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-188700(JP,A)
【文献】特開2005-247770(JP,A)
【文献】特開2017-119234(JP,A)
【文献】特開平06-321816(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 29/
B01J 39/
B01J 41/
B01J 47/
B01J 49/
C07C 31/
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
脱水処理前のイオン交換樹脂の充填層に、脱水処理用の非水溶媒を
、1~100L/L-樹脂/hの通液速度(SV)で、通液することにより、該イオン交換樹脂の水分を除去する前処理工程と、
前記前処理工程で脱水されたイオン交換樹脂の充填層に、精製対象の非水溶媒を
、1~100L/L-樹脂/hの通液速度(SV)で、通液することにより、精製対象の非水溶媒を精製する精製工程と、
を有し、
前記イオン交換樹脂は、ゲル型構造であり、前記イオン交換樹脂の架橋度が4.0~8.0%であり、前記イオン交換樹脂の調和平均径が0.20~
0.40mmであること、
を特徴とする非水溶媒の精製方法。
【請求項2】
前記イオン交換樹脂の充填層が、強酸性カチオン交換樹脂と、該強酸性カチオン交換樹脂以外のイオン交換体、合成吸着剤及び多孔質吸着体のうちの1種以上と、の混床又は複床であることを特徴とする請求項
1記載の非水溶媒の精製方法。
【請求項3】
脱水処理前のイオン交換樹脂の充填層に、脱水処理用の非水溶媒を
、1~100L/L-樹脂/hの通液速度(SV)で、通液することにより、該イオン交換樹脂の水分を除去する前処理工程を有し、
前記イオン交換樹脂は、ゲル型構造であり、前記イオン交換樹脂の架橋度が4.0~8.0%であり、前記イオン交換樹脂の調和平均径が0.20~
0.40mmであること、
を特徴とする非水溶媒の精製用のイオン交換樹脂の前処理方法。
【請求項4】
前記イオン交換樹脂の充填層が、強酸性カチオン交換樹脂と、該強酸性カチオン交換樹脂以外のイオン交換体、合成吸着剤及び多孔質吸着体のうちの1種以上と、の混床又は複床であることを特徴とする請求項
3記載の非水溶媒の精製用のイオン交換樹脂の前処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水溶媒中の金属不純物を除去して、該非水溶媒を精製するための非水溶媒の精製方法及び非水溶媒の精製用のイオン交換樹脂の前処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体やリチウムイオン二次電池の製造において、高度に精製された非水溶媒が用いられている。非水溶媒の精製方法としては、蒸留方法が知られているが、設備費が高く且つ多大なエネルギーが必要である上、高度な精製が難しいとの問題がある。
【0003】
そこで、近年では、イオン交換樹脂やイオン交換フィルターを用いるイオン交換法により、非水溶媒を精製する方法が行われている。イオン交換法は、設備費が低く且つ省エネルギーである上、高度な精製が可能であるという特徴を有する。
【0004】
高度に精製された非水溶媒では、水分も不純物となるため、イオン交換樹脂の含有水分を、非水溶媒へ溶出させないことが必要である。そのため、イオン交換樹脂を用いる場合には、予め、イオン交換樹脂中の水分量を低減する前処理が必須となってくる。
【0005】
例えば、特許文献1には、アニオン型イオン交換樹脂を水混和性の有機溶媒で置換除去をした後、その有機溶媒を脱気除去するイオン交換樹脂の脱水処理が開示されている。また、他には、イオン交換樹脂を減圧乾燥する方法がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、本発明者らが検討したところ、イオン交換樹脂に脱水処理用の非水溶媒を通液することにより、イオン交換樹脂中の水分を、非水溶媒で置換する含水量の低減方法では、非水溶媒の精製が可能な程度まで、イオン交換樹脂の含水量を低減するのに、イオン交換樹脂に対して数十倍から数百倍もの多量の非水溶媒が必要になることがわかった。
【0008】
また、イオン交換樹脂の減圧乾燥による含水量の低減方法では、非水溶媒の精製が可能な程度まで、イオン交換樹脂の含水量を低減することができない。
【0009】
従って、本発明の目的は、脱水処理用の非水溶媒を通液することにより、水分を含有しているイオン交換樹脂の水分を除去するための前処理工程を有する非水溶媒の精製方法において、前処理工程での脱水処理用の非水溶媒の使用量が少ない非水溶媒の精製方法及びイオン交換樹脂の前処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
このような背景のもと、本発明者らは、前処理工程において、イオン交換樹脂中の水分は、表面近傍に比べ、中心に近づくほど、非水溶媒で置換され難く、イオン交換樹脂の中心近傍の水分が、前処理工程において脱水処理用の非水溶媒の使用量を過大にさせている要因であること、及びそのため、非水溶媒の精製に用いるイオン交換樹脂の粒径を小さくして、中心から表面までの距離を短くすれば、イオン交換樹脂の中心近傍の水分が非水溶媒で置換され易くなること等を見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
すなわち、本発明(1)は、脱水処理前のイオン交換樹脂の充填層に、脱水処理用の非水溶媒を、1~100L/L-樹脂/hの通液速度(SV)で、通液することにより、該イオン交換樹脂の水分を除去する前処理工程と、
前記前処理工程で脱水されたイオン交換樹脂の充填層に、精製対象の非水溶媒を、1~100L/L-樹脂/hの通液速度(SV)で、通液することにより、精製対象の非水溶媒を精製する精製工程と、
を有し、
前記イオン交換樹脂は、ゲル型構造であり、前記イオン交換樹脂の架橋度が4.0~8.0%であり、前記イオン交換樹脂の調和平均径が0.20~0.40mmであること、
を特徴とする非水溶媒の精製方法を提供するものである。
【0014】
また、本発明(2)は、前記イオン交換樹脂の充填層が、強酸性カチオン交換樹脂と、該強酸性カチオン交換樹脂以外のイオン交換体、合成吸着剤及び多孔質吸着体のうちの1種以上と、の混床又は複床であることを特徴とする(1)の非水溶媒の精製方法を提供するものである。
【0015】
また、本発明(3)は、脱水処理前のイオン交換樹脂の充填層に、脱水処理用の非水溶媒を、1~100L/L-樹脂/hの通液速度(SV)で、通液することにより、該イオン交換樹脂の水分を除去する前処理工程を有し、
前記イオン交換樹脂は、ゲル型構造であり、前記イオン交換樹脂の架橋度が4.0~8.0%であり、前記イオン交換樹脂の調和平均径が0.20~0.40mmであること、
を特徴とする非水溶媒の精製用のイオン交換樹脂の前処理方法を提供するものである。
【0018】
また、本発明(4)は、前記イオン交換樹脂の充填層が、強酸性カチオン交換樹脂と、該強酸性カチオン交換樹脂以外のイオン交換体、合成吸着剤及び多孔質吸着体のうちの1種以上と、の混床又は複床であることを特徴とする(3)の非水溶媒の精製用のイオン交換樹脂の前処理方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、脱水処理用の非水溶媒を通液することにより、水分を含有しているイオン交換樹脂の含水量を低減させるための前処理工程を有する非水溶媒の精製方法において、前処理工程での脱水処理用の非水溶媒の使用量が少ない非水溶媒の精製方法及びイオン交換樹脂の前処理方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の非水溶媒の精製方法は、脱水処理前のイオン交換樹脂の充填層に、脱水処理用の非水溶媒を通液することにより、該イオン交換樹脂の水分を除去する前処理工程と、
前記前処理工程で脱水されたイオン交換樹脂の充填層に、精製対象の非水溶媒を通液することにより、精製対象の非水溶媒を精製する精製工程と、
を有し、
前記イオン交換樹脂の調和平均径が0.20~0.50mmであること、
を特徴とする非水溶媒の精製方法である。
【0021】
本発明の非水溶媒の精製方法は、前処理工程と、精製工程と、を有する。つまり、本発明の非水溶媒の精製方法では、先に、脱水処理用の非水溶媒を、脱水処理が施されていないイオン交換樹脂に通液することにより、イオン交換樹脂中の水分量を低減させてから、水分量を低減させたイオン交換樹脂に、精製対象の非水溶媒を通液することにより、非水溶媒の精製を行う。
【0022】
本発明の非水溶媒の精製方法において、前処理工程に用いられる脱水処理用の非水溶媒と、精製工程における精製対象の非水溶媒は、同種の非水溶媒であることが好ましいが、異なる種類であっていてもよい。なお、前処理工程に用いられる脱水処理用の非水溶媒と、精製工程における精製対象の非水溶媒の種類が異なる場合は、精製工程前に、精製対象の非水溶媒を脱水処理後のイオン交換基を有する粒状樹脂に通液し、脱水処理用の非水溶媒を精製対象の非水溶媒で置換してから、精製工程を行えばよい。例えば、イソプロピルアルコールの精製を行う場合には、脱水処理用の非水溶媒として、イソプロピルアルコールを用いる。精製対象の非水溶媒としては、特に制限されないが、例えば、イソプロピルアルコール、メタノール、エタノール等のアルコール類、シクロヘキサノン、メチルイソブチルケトン、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、2,4-ジフェニル-4-メチル-1-ペンテン、2-フェニル-1-プロペン等のアルケン系有機溶媒、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)、酢酸イソプロピル等のエステル系有機溶媒、芳香族有機溶媒、N-メチルピロリドンなど、及びこれらの混合有機溶媒が挙げられる。
【0023】
本発明の非水溶媒の精製方法に係る前処理工程は、脱水処理前のイオン交換樹脂の充填層に、脱水処理用の非水溶媒を通液することにより、イオン交換樹脂の水分を除去する工程である。
【0024】
前処理工程では、脱水処理用の非水溶媒として、精製工程における精製対象の非水溶媒と同種又は異なる種類の非水溶媒を適宜選択する。処理性能の面からは、イオン交換樹脂充填容器に充填されているイオン交換樹脂の充填層に対し、非水溶媒が下向流で通液されるように、送液管が配置されていることが好ましい。イオン交換樹脂の充填層に対し、非水溶媒を下向流で通液する場合、イオン交換樹脂充填容器内のイオン交換樹脂の充填層を流通する非水溶媒を加圧して、イオン交換樹脂充填容器内で気泡が発生しないように調整することが好ましい。この場合、非水溶媒を加圧する手段(圧力調整手段)として、イオン交換樹脂充填容器の後段にイオン交換樹脂充填容器内を所定の圧力まで加圧する背圧弁又はリリーフ弁を設けることが好ましい。背圧弁又はリリーフ弁により送液量を絞ることでイオン交換樹脂充填容器内を加圧することにより、イオン交換樹脂充填容器内での気泡の発生を抑制することができる。
【0025】
脱水処理用の非水溶媒中の水含有量は、精製工程で精製することにより得られる非水溶媒に要求される水含有量と同程度又はそれ以下であればよいが、低い程脱水処理に必要な非水溶媒量を少なくすることができる。
【0026】
脱水処理用の非水溶媒中の各金属不純物の含有量は、精製工程で精製することにより得られる非水溶媒の要求値により適宜選択されるが、可能な限り金属含有量が少ないことが、前処理工程でイオン交換樹脂の官能基の消耗が少なくなり、イオン交換樹脂の寿命が高くなる点で好ましい。
【0027】
本発明の非水溶媒の精製方法において、イオン交換樹脂の充填層を形成するイオン交換樹脂は、カチオン交換樹脂又はアニオン交換樹脂である。カチオン交換樹脂は、強酸性カチオン交換樹脂であってもよいし、弱酸性カチオン交換樹脂であってもよい。強酸性カチオン交換樹脂に導入されているカチオン交換基としては、特に制限されず、例えば、スルホン酸基等が挙げられる。弱酸性カチオン交換樹脂に導入されているカチオン交換基としては、特に制限されず、例えば、カルボキシル基等が挙げられる。カチオン交換樹脂のカチオン交換基は、H形が好ましい。また、アニオン交換樹脂は、強塩基性アニオン交換樹脂であってもよいし、弱塩基性アニオン交換樹脂であってもよい。強塩基性アニオン交換樹脂に導入されているアニオン交換基としては、特に制限されず、例えば、OH形の四級アンモニウム基等が挙げられる。弱塩基性アニオン交換樹脂に導入されているアニオン交換基としては、特に制限されず、例えば、遊離塩基形の三級アミノ基、二級アミノ基、一級アミノ基、ポリアミン基等が挙げられる。アニオン交換樹脂のアニオン交換基は、遊離塩基形が好ましい。
【0028】
イオン交換樹脂の基体樹脂としては、スチレン-ジビニルベンゼン共重合体等が挙げられる。イオン交換樹脂としては、特に制限されないが、有機高分子を母体とする有機高分子系のイオン交換樹脂が好ましく、母体となる有機高分子としては、スチレン系樹脂またはアクリル系樹脂が挙げられる。
【0029】
イオン交換樹脂は、ゲル型構造、マクロポーラス型構造、ポーラス型構造のいずれの構造でもよい。
【0030】
イオン交換樹脂の調和平均径は、0.20~0.50mm、好ましくは0.20~0.40mmである。イオン交換樹脂の調和平均径が、上記範囲にあることにより、前処理工程で使用する脱水処理用の非水溶媒の量を少なくすることができる。一方、イオン交換樹脂の調和平均径が、上記範囲未満だと、通液の際の差圧が大きくなり過ぎるため、粘度の高い非水溶媒では通液が困難となり、また、上記範囲を超えると、樹脂の中心まで非水溶媒が浸透し難くなり、前処理工程で使用する脱水処理用の非水溶媒の量が多くなり過ぎる。なお、本発明において、イオン交換樹脂の調和平均径は、レーザー回析式粒度分布計を用い測定される値である。
【0031】
イオン交換樹脂の架橋度、すなわち、イオン交換樹脂の基体となっている樹脂の架橋度は、好ましくは4.0~8.0%、特に好ましくは6.0~8.0%である。イオン交換樹脂の架橋度が上記範囲にあることにより、前処理工程で使用する脱水処理用の非水溶媒の量を少なくすることができるとの効果が高まる。
【0032】
イオン交換樹脂の交換容量は、好ましくは0.6~3.0eq/L-R、特に好ましくは1.5~3.0eq/L-Rである。
【0033】
イオン交換樹脂の種類としては、例えば、オルガノ製のクロマトシリーズ、ダウ・ケミカル製のDOWEX、三菱ケミカル製のダイヤイオンUBKシリーズ、東ソー製のトヨパールシリーズ、Samyang社製のクロマト樹脂MCKシリーズのうち、調和平均径が0.20~0.50mm、好ましくは0.20~0.40mmのものが挙げられる。
【0034】
前処理工程に係る脱水処理前のイオン交換樹脂の充填層は、脱水処理前のイオン交換樹脂を、処理塔、処理容器等に層状に充填することにより形成されたものである。充填層の径及び厚みは、精製対象の非水溶媒の通水速度等により適宜選択される。
【0035】
イオン交換樹脂の充填層は、カチオン交換樹脂又はアニオン交換樹脂からなる単床であってもよいし、カチオン交換樹脂とアニオン交換樹脂の混床であってもよいし、あるいは、前段のカチオン交換樹脂層と後段のアニオン交換樹脂層とからなる複床であってもよい。イオン交換樹脂の充填層としては、例えば、強酸性カチオン交換樹脂と弱塩基性アニオン交換樹脂の混床、前段の強酸性カチオン交換樹脂層と後段の弱塩基性アニオン交換樹脂層とからなる複床、また、H形の強酸性カチオン交換樹脂と遊離塩基形の弱塩基性アニオン交換樹脂の混床、前段のH形の強酸性カチオン交換樹脂層と後段の遊離塩基形の弱塩基性アニオン交換樹脂層とからなる複床が挙げられる。
【0036】
イオン交換樹脂の充填層は、強酸性カチオン交換樹脂と、その強酸性カチオン交換樹脂以外のイオン交換体、合成吸着剤及び多孔質吸着体のうちの1種以上と、の混床又は複床であってもよい。強酸性カチオン交換樹脂以外のイオン交換体としては、有機多孔質カチオン交換体、有機多孔質アニオン交換体が挙げられる。合成吸着剤としては、母体がスチレン系、アクリル系、フェノール系に分類される樹脂が挙げられる。多孔質吸着体としては、活性炭、ゼオライト、シリカゲルが挙げられる。
【0037】
また、多孔質吸着剤としては、フェノール樹脂等の樹脂を炭化及び賦活処理して得られる活性炭粉末(例えば、特開2016-132651号公報に記載の活性炭粉末)が挙げられる。フェノール樹脂等の樹脂を炭化及び賦活処理して活性炭粉末を得る方法としては、例えば、以下の方法が例示される。球状のフェノール樹脂粉末等の球状の樹脂原料粉末を、炭化炉内で炭化処理することにより、球状の炭化物粉末を得る。このときの炭化条件としては、例えば、窒素雰囲気下、温度850℃にて30分間保持するという条件を例示することができる。次いで、得られた炭化物粉末を、賦活炉内で賦活処理する。賦活条件としては、例えば、炉内に水蒸気を流入させ、温度850℃にて5~24時間保持するという条件を例示することができる。また、賦活処理して得られた活性炭は、必要に応じて、所定の粒径となるように分級することができる。
【0038】
前処理工程において、イオン交換樹脂の充填層に、脱水処理用の非水溶媒を通液するときの通液速度(SV)は、特に制限されず、適宜選択されるが、好ましくは1~100L/L-樹脂/h、特に好ましくは5~20L/L-樹脂/hである。
【0039】
前処理工程において、イオン交換樹脂の充填層に、脱水処理用の非水溶媒を通液するときの温度は、特に制限されず、適宜選択されるが、好ましくは0~60℃、特に好ましくは15~25℃である。
【0040】
そして、前処理工程では、イオン交換樹脂の充填層を通過した脱水処理用の非水溶媒中の水含有量は、脱水処理用の非水溶媒の通液量に応じて、徐々に減少していくので、イオン交換樹脂の充填層を通過した脱水処理用の非水溶媒中の水含有量が、所望の値に達するまで、脱水処理前のイオン交換樹脂の充填層へ、脱水処理用の非水溶媒の通液を続ける。なお、前処理工程における脱水処理用の有機溶媒の通液量は、精製対象の非水溶媒に求められる水含有量に応じて、適宜選択される。
【0041】
前処理工程に用いられた脱水処理用の非水溶媒は、廃棄処分されるか、あるいは、水分が除去された後、脱水処理用の非水溶媒として再使用される。
【0042】
本発明の非水溶媒の精製方法に係る精製工程は、脱水処理後のイオン交換樹脂の充填層に、精製対象の非水溶媒を通液することにより、精製対象の非水溶媒を精製する工程である。
【0043】
精製対象の非水溶媒は、金属不純物として、Li、Na、Mg、Al、K、Ca、Ti、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、As、Sr、Ag、Cd、Ba、Pb等を含有する。精製対象の非水溶媒中の各金属不純物の含有量は、特に制限されないが、通常、100質量ppb~20質量ppt程度である。
【0044】
精製対象の非水溶媒中の水含有量は、精製工程で精製することにより得られる非水溶媒に要求される水含有量以下である。
【0045】
精製工程において、脱水処理後のイオン交換樹脂の充填層に、精製対象の非水溶媒を通液するときの通液速度(SV)は、特に制限されず、適宜選択されるが、好ましくは1~100L/L-樹脂/h、特に好ましくは5~20L/L-樹脂/hである。
【0046】
精製工程において、脱水処理後のイオン交換樹脂の充填層に、精製対象の非水溶媒を通液するときの温度は、特に制限されず、適宜選択されるが、好ましくは0~60℃、特に好ましくは15~25℃である。
【0047】
そして、精製工程では、脱水処理後のイオン交換樹脂の充填層に、精製対象の非水溶媒を通液することにより、精製対象の非水溶媒の精製を行う。
【0048】
本発明の非水溶媒の精製方法を行い得られる非水溶媒中の各金属不純物の含有量は、非水溶媒の用途又は要求性能により適宜選択されるが、好ましくは10質量ppt以下である。
【0049】
イオン交換樹脂中で、水分はイオン交換基に含有されて存在している。そして、イオン交換樹脂に非水溶媒を接触させることにより、イオン交換樹脂の脱水処理を行う場合、イオン交換樹脂中の水分は、表面近傍に比べ、イオン交換樹脂の中心に近づくほど、除去され難い。そこで、本発明の非水溶媒の精製方法では、前処理工程の対象となるイオン交換樹脂の粒径を小さくして、表面から中心までの距離を短くすることにより、イオン交換樹脂の中心近傍の水分を除去され易くしているので、本発明の非水溶媒の精製方法では、前処理工程で使用しなければならない脱水処理用の非水溶媒の量を少なくすることができる。
【0050】
本発明の非水溶媒の精製用のイオン交換樹脂の前処理方法は、脱水処理前のイオン交換樹脂の充填層に、脱水処理用の非水溶媒を通液することにより、該イオン交換樹脂の水分を除去する前処理工程を有し、
前記イオン交換樹脂の調和平均径が0.20~0.50mm、好ましくは0.20~0.40mmであること、
を特徴とする非水溶媒の精製用のイオン交換樹脂の前処理方法である。前記イオン交換樹脂の架橋度は、好ましくは4.0~8.0%、特に好ましくは6.0~8.0%であり、また、前記イオン交換樹脂は、好ましくはゲル型のイオン交換樹脂であり、また、前記イオン交換樹脂の充填層は、好ましくは強酸性カチオン交換樹脂と、該強酸性カチオン交換樹脂以外のイオン交換体、合成吸着剤及び多孔質吸着体のうちの1種以上と、の混床又は複床である。
【0051】
本発明の非水溶媒の精製用のイオン交換樹脂の前処理方法に係る前処理工程は、本発明の非水溶媒の精製方法に係る前処理工程と同様である。よって、本発明の非水溶媒の精製用のイオン交換樹脂の前処理方法に係る前処理工程に用いられる脱水処理用の非水溶媒、脱水処理前のイオン交換樹脂、脱水処理前のイオン交換樹脂の充填層、合成吸着剤、多孔質吸着体、通液方法、通液条件等も、本発明の非水溶媒の精製方法に係る前処理工程に用いられる脱水処理用の非水溶媒、脱水処理前のイオン交換樹脂、脱水処理前のイオン交換樹脂の充填層、合成吸着剤、多孔質吸着体、通液方法、通液条件等と同様である。
【実施例】
【0052】
以下、本発明を実施例に基づき詳細に説明する。ただし、本発明は、以下の実施例に制限されるものではない。
【0053】
(実施例1)
H形に再生した湿潤状態のイオン交換樹脂(強酸性カチオン交換樹脂、ゲル型、オルガノ社製、AMBERLITE(登録商標)CR3220、調和平均径0.23mm、架橋度8.0%)36mLを、内径16mm、高さ200mmのアクリルカラムに充填した。
次いで、カラム内に、表1に示す水含有量の脱水処理用のイソプロピルアルコール(IPA)を、通液速度5L/L-樹脂/hで通液し、表1に示す通液量毎に、カラムの出口液を採取して、水含有量を測定した。その結果を表1に示す。
【0054】
(実施例2)
H形に再生した湿潤状態のイオン交換樹脂(強酸性カチオン交換樹脂、ゲル型、オルガノ社製、AMBERLITE(登録商標)CR3220、調和平均径0.23mm、架橋度8.0%)に代えて、H形に再生した湿潤状態のイオン交換樹脂(強酸性カチオン交換樹脂、ゲル型、オルガノ社製、AMBERLITE(登録商標)CR1310、調和平均径0.33mm、架橋度6.0%)とすること以外は、実施例1と同様に行った。その結果を表1に示す。
【0055】
(実施例3)
H形に再生した湿潤状態のイオン交換樹脂(強酸性カチオン交換樹脂、ゲル型、オルガノ社製、AMBERLITE(登録商標)CR3220、調和平均径0.23mm、架橋度8.0%)に代えて、H形に再生した湿潤状態のイオン交換樹脂(強酸性カチオン交換樹脂、ゲル型、オルガノ社製、AMBERLITE(登録商標)CR1320、調和平均径0.37mm、架橋度6.0%)とすること以外は、実施例1と同様に行った。その結果を表1に示す。
【0056】
(比較例1)
H形に再生した湿潤状態のイオン交換樹脂(強酸性カチオン交換樹脂、ゲル型、オルガノ社製、AMBERLITE(登録商標)CR3220、調和平均径0.23mm、架橋度8.0%)に代えて、H形に再生した湿潤状態のイオン交換樹脂(強酸性カチオン交換樹脂、ゲル型、オルガノ社製、AMBERJET(登録商標)1020、調和平均径0.64mm、架橋度8.0%)とすること以外は、実施例1と同様に行った。その結果を表1に示す。
【0057】
(比較例2)
H形に再生した湿潤状態のイオン交換樹脂(強酸性カチオン交換樹脂、ゲル型、オルガノ社製、AMBERLITE(登録商標)CR3220、調和平均径0.23mm、架橋度8.0%)に代えて、H形に再生した湿潤状態のイオン交換樹脂(強酸性カチオン交換樹脂、ゲル型、オルガノ社製、AMBERJET(登録商標)1060、調和平均径0.66mm、架橋度16.0%)とすること以外は、実施例1と同様に行った。その結果を表1に示す。
【0058】
<イオン交換樹脂の調和平均径の測定>
レーザー回析式粒度分布計 マスターサイザー3000(マルバーン・パナリティカル製)を用い測定した。
【0059】
【0060】
実施例1~3では、充填層から排出されるIPA中の水含有量が30ppm以下に到達するまでのIPAの使用量は30~35BV程度であった。一方、比較例1では、IPAの使用量が35BVの時点で充填層から排出されるIPA中の水含有量は68ppmであり、また、比較例2では、IPAの使用量が35BVの時点で充填層から排出されるIPA中の水含有量は437ppmであった。以上の結果より、本発明において、イオン交換樹脂の粒径を小さくし、本発明の規定の範囲とすることにより、前処理工程で使用しなければならない脱水処理用の非水溶媒の量を少なくすることができることが分かる。