(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-06
(45)【発行日】2023-11-14
(54)【発明の名称】保持装置
(51)【国際特許分類】
H01L 21/683 20060101AFI20231107BHJP
【FI】
H01L21/68 R
H01L21/68 N
(21)【出願番号】P 2020001168
(22)【出願日】2020-01-08
【審査請求日】2022-11-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001911
【氏名又は名称】弁理士法人アルファ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三輪 要
【審査官】湯川 洋介
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-082788(JP,A)
【文献】特開2003-077990(JP,A)
【文献】特開2019-062072(JP,A)
【文献】特開2004-363552(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/683
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の方向に略直交する第1の表面と、前記第1の表面とは反対側の第2の表面と、を有する板状部と、
第3の表面を有し、前記第3の表面が前記板状部の前記第2の表面側に位置するように配置され、前記板状部の形成材料の熱膨張率とは異なる熱膨張率を有する材料により形成されたベース部と、
を備え、前記板状部の前記第1の表面上に対象物を保持する保持装置において、
金属材料により形成され、前記第1の方向において前記板状部と前記ベース部との間に配置された複数の金属部を備え、
前記板状部と前記ベース部との一方には、前記金属部の少なくとも一部分をそれぞれ収容する複数の凹部が形成されており、
前記保持装置は、さらに、無機材料により形成され、各前記凹部内に配置され、各前記凹部の表面と、各前記凹部に収容された各前記金属部と、を接合する接合部を備える、
ことを特徴とする保持装置。
【請求項2】
請求項1に記載の保持装置において、
各前記金属部は、前記板状部側の端部である第1の端部と、前記ベース部側の端部である第2の端部と、を有し、
各前記金属部における前記第1の端部の径は、前記第2の端部の径より大きい、
ことを特徴とする保持装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の保持装置において、
前記板状部は、セラミックスにより形成されており、
前記複数の凹部は、前記板状部に形成されており、
前記無機材料は、金属である、
ことを特徴とする保持装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載の保持装置において、
前記ベース部は、金属により形成されており、
前記複数の金属部と前記ベース部とは、一体部材である、
ことを特徴とする保持装置。
【請求項5】
請求項1または請求項2に記載の保持装置において、
各前記金属部は、前記板状部側の端部である第1の端部と、前記ベース部側の端部である第2の端部と、を有し、
各前記金属部における前記第1の端部は、金属製のロウ付け部により、前記板状部の表面にロウ付けされており、
前記第1の方向視で、各前記ロウ付け部の面積は、各前記金属部の前記第1の端部の面積より大きい、
ことを特徴とする保持装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に開示される技術は、対象物を保持する保持装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば半導体製造装置の真空チャンバー内でウェハを保持する保持装置として、静電チャックが用いられる。静電チャックは、例えばセラミックスを含む材料により形成された板状部材と、例えば金属により形成されたベース部材と、板状部材とベース部材とを接合する接合部と、板状部材の内部に設けられたチャック電極とを備えている。静電チャックは、チャック電極に電圧が印加されることにより発生する静電引力を利用して、板状部材の表面にウェハを吸着して保持する。板状部材とベース部材とを接合する接合部は、例えば、例えば樹脂を含む材料により形成される(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来の静電チャックの構成では、板状部材とベース部材とを接合する接合部が樹脂を含む材料により形成されているため、耐熱性の点で向上の余地がある。なお、静電チャックの耐熱性を向上させるために、該接合部を、樹脂と比べて耐熱性の高い無機材料(金属やセラミックス等の無機接着材)により形成することも考えられる。しかしながら、無機材料により接合部を形成すると、無機材料は樹脂と比較して硬いことから応力緩和機能が低いため、板状部材とベース部材との間の熱膨張差に起因する応力を効果的に緩和することができず、該熱膨張差に起因する接合部の接合不良や静電チャックの変形等の発生を抑制することができない。このように、従来の静電チャックでは、板状部材とベース部材との間の熱膨張差に起因する接合部の接合不良や静電チャックの変形等の発生を抑制しつつ、耐熱性を高めることができない、という課題がある。
【0005】
なお、このような課題は、静電引力を利用してウェハを保持する静電チャックに限らず、板状部と、ベース部と、両者を接合する接合部とを備え、板状部の表面上に対象物を保持する保持装置一般に共通の課題である。
【0006】
本明細書では、上述した課題を解決することが可能な技術を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本明細書に開示される技術は、例えば、以下の形態として実現することが可能である。
【0008】
(1)本明細書に開示される保持装置は、第1の方向に略直交する第1の表面と、前記第1の表面とは反対側の第2の表面と、を有する板状部と、第3の表面を有し、前記第3の表面が前記板状部の前記第2の表面側に位置するように配置され、前記板状部の形成材料の熱膨張率とは異なる熱膨張率を有する材料により形成されたベース部と、を備え、前記板状部の前記第1の表面上に対象物を保持する保持装置において、金属材料により形成され、前記第1の方向において前記板状部と前記ベース部との間に配置された複数の金属部を備え、前記板状部と前記ベース部との一方には、前記金属部の少なくとも一部分をそれぞれ収容する複数の凹部が形成されており、前記保持装置は、さらに、無機材料により形成され、各前記凹部内に配置され、各前記凹部の表面と、各前記凹部に収容された各前記金属部と、を接合する接合部を備える。本保持装置によれば、樹脂等の有機材料と比較して耐熱性の高い無機材料により形成された接合部により、板状部とベース部とを接合することができるため、保持装置の耐熱性を向上させることができる。また、本保持装置によれば、樹脂等の有機材料と比較して応力緩和機能が低い無機材料により形成された接合部を用いても、金属材料により形成された複数の金属部が変形することにより、板状部とベース部との間の熱膨張差に起因する応力を緩和することができ、該熱膨張差に起因する接合部の接合不良や保持装置の変形等の発生を抑制することができる。従って、本保持装置によれば、板状部とベース部との間の熱膨張差に起因する接合部の接合不良や保持装置の変形等の発生を抑制しつつ、保持装置の耐熱性を高めることができる。
【0009】
(2)上記保持装置において、各前記金属部は、前記板状部側の端部である第1の端部と、前記ベース部側の端部である第2の端部と、を有し、各前記金属部における前記第1の端部の径は、前記第2の端部の径より大きい構成としてもよい。このような構成によれば、各金属部における第2の端部の径を比較的小さくすることにより、各金属部の変形性能を確保することができ、各金属部による板状部とベース部との間の熱膨張差に起因する応力の緩和機能を確保することができる。また、本保持装置によれば、セラミックスと比べて熱伝導率の高い金属部における第1の端部の径を比較的大きくすることにより、各金属部と板状部との間の接触面積を増やして各金属部を介した板状部とベース部との間の伝熱性を向上させることができ、その結果、板状部の第1の表面の温度分布の制御性を向上させることができる。
【0010】
(3)上記保持装置において、前記板状部は、セラミックスにより形成されており、前記複数の凹部は、前記板状部に形成されており、前記無機材料は、金属である構成としてもよい。このような構成によれば、接合部が金属により形成されているため、複数の金属部の変形に加えて、金属製の接合部の変形によっても、板状部とベース部との間の熱膨張差に起因する応力を緩和することができ、該熱膨張差に起因する接合部の接合不良や保持装置の変形等の発生を効果的に抑制することができる。また、本保持装置では、金属製の接合部は、セラミックス製の板状部に形成された各凹部内に分かれて配置されているため、接合部が板状部の表面の全体にわたって連続的に形成された構成と比較して、板状部と接合部との間の熱膨張差に起因する応力を小さくすることができ、該熱膨張差に起因する接合部の接合不良や保持装置の変形等の発生を効果的に抑制することができる。
【0011】
(4)上記保持装置において、前記ベース部は、金属により形成されており、前記複数の金属部と前記ベース部とは、一体部材である構成としてもよい。このような構成によれば、複数の金属部がベース部とは別体の部材である構成と比較して、保持装置の構成の簡素化や製造の容易化を実現することができる。
【0012】
(5)上記保持装置において、各前記金属部は、前記板状部側の端部である第1の端部と、前記ベース部側の端部である第2の端部と、を有し、各前記金属部における前記第1の端部は、金属製のロウ付け部により、前記板状部の表面にロウ付けされており、前記第1の方向視で、各前記ロウ付け部の面積は、各前記金属部の前記第1の端部の面積より大きい構成としてもよい。このような構成によれば、金属部および金属製のロウ付け部を介した板状部とベース部との間の伝熱性を向上させることができ、その結果、板状部の第1の表面の温度分布の制御性を効果的に向上させることができる。
【0013】
なお、本明細書に開示される技術は、種々の形態で実現することが可能であり、例えば、保持装置、静電チャック、それらの製造方法等の形態で実現することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】第1実施形態における静電チャック100の外観構成を概略的に示す斜視図
【
図2】第1実施形態における静電チャック100のXZ断面構成を概略的に示す説明図
【
図3】第1実施形態の静電チャック100における板状部材10とベース部材20との接合の詳細構成を示す説明図
【
図4】第1実施形態における静電チャック100の製造方法の概要を示す説明図
【
図5】第2実施形態の静電チャック100における板状部材10とベース部材20との接合の詳細構成を示す説明図
【
図6】第3実施形態の静電チャック100における板状部材10とベース部材20との接合の詳細構成を示す説明図
【
図7】第3実施形態における静電チャック100の製造方法の概要を示す説明図
【発明を実施するための形態】
【0015】
A.第1実施形態:
A-1.静電チャック100の構成:
図1は、第1実施形態における静電チャック100の外観構成を概略的に示す斜視図であり、
図2は、第1実施形態における静電チャック100のXZ断面構成を概略的に示す説明図である。各図には、方向を特定するための互いに直交するXYZ軸が示されている。本明細書では、便宜的に、Z軸正方向を上方向といい、Z軸負方向を下方向というものとするが、静電チャック100は実際にはそのような向きとは異なる向きで設置されてもよい。
【0016】
静電チャック100は、対象物(例えばウェハW)を静電引力により吸着して保持する装置であり、例えば半導体製造装置の真空チャンバー内でウェハWを固定するために使用される半導体製造装置用部品である。静電チャック100は、所定の配列方向(本実施形態では上下方向(Z軸方向))に並べて配置された板状部材10およびベース部材20を備える。ベース部材20は、ベース部材20の上面S3が板状部材10の下面S2側に位置するように配置されている。板状部材10の下面S2は、特許請求の範囲における第2の表面に相当し、ベース部材20の上面S3は、特許請求の範囲における第3の表面に相当する。
【0017】
板状部材10は、Z軸方向視で略円形の板状の部材であり、セラミックス(例えば、アルミナや窒化アルミニウム等)により形成されている。板状部材10は、外周に沿って上側に切り欠きが形成された部分である外周部OPと、外周部OPの内側に位置する内側部IPとから構成されている。板状部材10における内側部IPの厚さ(Z軸方向における厚さであり、以下同様。)は、外周部OPに形成された切り欠きの分だけ、外周部OPの厚さより厚くなっている。すなわち、板状部材10の外周部OPと内側部IPとの境界の位置で、板状部材10の厚さが変化している。
【0018】
板状部材10の内側部IPの直径は例えば50mm~500mm程度(通常は200mm~350mm程度)であり、板状部材10の外周部OPの直径は例えば60mm~510mm程度(通常は210mm~360mm程度)である(ただし、外周部OPの直径は内側部IPの直径より大きい)。また、板状部材10の内側部IPの厚さは例えば1mm~10mm程度であり、板状部材10の外周部OPの厚さは例えば0.5mm~9.5mm程度である(ただし、外周部OPの厚さは内側部IPの厚さより薄い)。
【0019】
板状部材10の上面S1のうち、内側部IPにおける上面(以下、「吸着面」ともいう。)S11は、Z軸方向に略直交する略円形の表面である。吸着面S11は、特許請求の範囲における第1の表面に相当し、Z軸方向は、特許請求の範囲における第1の方向に相当する。なお、本明細書では、Z軸方向に直交する方向を「面方向」という。
【0020】
板状部材10の上面S1のうち、外周部OPにおける上面(以下、「外周上面」ともいう。)S12は、Z軸方向に略直交する略円環状の表面である。板状部材10の外周上面S12には、例えば、静電チャック100を固定するための治具(不図示)が係合する。
【0021】
図2に示すように、板状部材10の内部には、導電性材料(例えば、タングステン、モリブデン、白金等)により形成されたチャック電極40が配置されている。Z軸方向視でのチャック電極40の形状は、例えば略円形である。チャック電極40にチャック用電源(不図示)から電圧が印加されると、静電引力が発生し、この静電引力によってウェハWが板状部材10の吸着面S11に吸着固定される。
【0022】
板状部材10の内部には、また、導電性材料(例えば、タングステン、モリブデン、白金等)を含む抵抗発熱体により構成されたヒータ電極50が配置されている。ヒータ電極50にヒータ用電源(不図示)から電圧が印加されると、ヒータ電極50が発熱することによって板状部材10が温められ、板状部材10の吸着面S11に保持されたウェハWが温められる。これにより、ウェハWの温度分布の制御が実現される。
【0023】
ベース部材20は、例えば板状部材10の外周部OPと同径の、または、板状部材10の外周部OPより径が大きい円形平面の板状部材であり、金属(アルミニウムやアルミニウム合金等)により形成されている。ベース部材20の形成材料(金属)の熱膨張率は、板状部材10の形成材料(セラミックス)の熱膨張率とは異なる。より具体的には、ベース部材20の形成材料(金属)の熱膨張率は、板状部材10の形成材料(セラミックス)の熱膨張率より大きい。ベース部材20の直径は例えば220mm~550mm程度(通常は220mm~350mm)であり、ベース部材20の厚さは例えば20mm~40mm程度である。
【0024】
ベース部材20は、板状部材10に接合されている。板状部材10とベース部材20との接合の構成については、後に詳述する。
【0025】
ベース部材20の内部には冷媒流路21が形成されている。冷媒流路21に冷媒(例えば、フッ素系不活性液体や水等)が流されると、ベース部材20が冷却され、ベース部材20と板状部材10との間の伝熱(熱引き)により板状部材10が冷却され、板状部材10の吸着面S11に保持されたウェハWが冷却される。これにより、ウェハWの温度分布の制御が実現される。
【0026】
A-2.板状部材10とベース部材20との接合の詳細構成:
次に、板状部材10とベース部材20との接合の詳細構成について説明する。
図3は、第1実施形態の静電チャック100における板状部材10とベース部材20との接合の詳細構成を示す説明図である。
図3には、静電チャック100の一部分(
図2のX1部)のXZ断面構成が拡大して示されている。
【0027】
図2および
図3に示すように、ベース部材20の上面S3には、Z軸方向に延びる柱状の複数の凸部70が形成されている。複数の凸部70は、ベース部材20の上面S3の略全体にわたって、略均等に配置されている。Z軸方向視での各凸部70の形状は、例えば円形や多角形である。また、各凸部70の外径は、例えば1mm~5mm程度であり、各凸部70の高さは、例えば2mm~10mm程度である。
【0028】
また、板状部材10の下面S2には、複数の凹部80が形成されている。複数の凹部80のそれぞれは、1つの凸部70の少なくとも一部分を収容している。Z軸方向視での各凹部80の形状は、例えば円形や多角形である。また、各凹部80の内径は、例えば2mm~10mm程度であり(ただし、凸部70の外径より大きい)、各凹部80の深さは、例えば1mm~5mm程度である。
【0029】
各凹部80内には、無機材料(例えば、半田等の金属、アルミナやジルコニア等のセラミックス等)により形成された接合部90が配置されている。本実施形態では、接合部90は金属により形成されている。接合部90は、各凹部80の表面と、各凹部80に収容された各凸部70とを接合している。このように、本実施形態の静電チャック100では、金属製の接合部90によって各凹部80の表面と各凸部70とが接合されることにより、板状部材10とベース部材20とが接合されている。
【0030】
なお、
図3に示すように、ベース部材20を、複数の凸部70と、それ以外の部分(以下、「本体部22」という。)とに仮想的に分けると、複数の凸部70は、金属材料により形成され、Z軸方向において板状部材10とベース部材20の本体部22との間に配置されており、ベース部材20の本体部22と一体部材であると表すことができる。本実施形態において、ベース部材20の複数の凸部70は、特許請求の範囲における複数の金属部に相当し、ベース部材20の本体部22は、特許請求の範囲におけるベース部に相当し、板状部材10は、特許請求の範囲における板状部に相当する。
【0031】
A-3.静電チャック100の製造方法:
次に、第1実施形態における静電チャック100の製造方法の一例を説明する。
図4は、第1実施形態における静電チャック100の製造方法の概要を示す説明図である。
【0032】
はじめに、板状部材10とベース部材20とを準備する。板状部材10およびベース部材20は、公知の製造方法によって製造可能である。例えば、板状部材10は以下の方法により製造される。すなわち、複数のセラミックスグリーンシート(例えばアルミナグリーンシート)を準備し、各セラミックスグリーンシートに、チャック電極40やヒータ電極50等を構成するためのメタライズインクの印刷等を行い、その後、複数のセラミックスグリーンシートを積層して熱圧着し、所定の円板形状にカットした上で焼成し、最後に研磨加工等を行うことにより、板状部材10が製造される。なお、板状部材10の下面S2における複数の凹部80は、例えばブラスト加工やマシニング加工により形成することができる。また、ベース部材20の上面S3における複数の凸部70は、例えばブラスト加工やマシニング加工により形成することができる。
【0033】
次に、板状部材10の下面S2に形成された各凹部80内に、接合部90を形成するための無機接着剤92を配置する(
図4のA欄参照)。そして、板状部材10に形成された各凹部80内に、ベース部材20の上面S3に形成された各凸部70が収容されるようにベース部材20を配置し、ベース部材20を板状部材10に押しつけるように荷重を掛けながら無機接着剤92を硬化させることにより、各凹部80の表面と各凸部70とを接合する接合部90を形成する(
図4のB欄参照)。これにより、板状部材10とベース部材20とが接合される。主として以上の工程により、上述した構成の静電チャック100の製造が完了する。
【0034】
A-4.第1実施形態の効果:
以上説明したように、第1実施形態の静電チャック100は、Z軸方向に略直交する吸着面S11と、吸着面S11とは反対側の下面S2と、を有する板状部材10と、上面S3を有し、上面S3が板状部材10の下面S2側に位置するように配置され、板状部材10の形成材料の熱膨張率とは異なる熱膨張率を有する材料により形成されたベース部材20の本体部22とを備え、板状部材10の吸着面S11上にウェハWを保持する保持装置である。第1実施形態の静電チャック100は、さらに、ベース部材20に形成された複数の凸部70を備える。複数の凸部70は、金属材料により形成され、Z軸方向において板状部材10とベース部材20の本体部22との間に配置されている。また、板状部材10には、凸部70の少なくとも一部分をそれぞれ収容する複数の凹部80が形成されている。また、第1実施形態の静電チャック100は、さらに、無機材料により形成され、各凹部80内に配置され、各凹部80の表面と、各凹部80に収容された各凸部70とを接合する接合部90を備える。
【0035】
このように、第1実施形態の静電チャック100によれば、樹脂等の有機材料と比較して耐熱性の高い無機材料(無機接着剤92)により形成された接合部90により、板状部材10とベース部材20とを接合することができるため、静電チャック100の耐熱性を向上させることができる。また、第1実施形態の静電チャック100によれば、樹脂等の有機材料と比較して応力緩和機能が低い無機材料(無機接着剤92)により形成された接合部90を用いても、金属材料により形成された複数の凸部70が変形することにより、板状部材10とベース部材20との間の熱膨張差に起因する応力を緩和することができ、該熱膨張差に起因する接合部90の接合不良や静電チャック100の変形等の発生を抑制することができる。従って、第1実施形態の静電チャック100によれば、板状部材10とベース部材20との間の熱膨張差に起因する接合部90の接合不良や静電チャック100の変形等の発生を抑制しつつ、静電チャック100の耐熱性を高めることができる。
【0036】
また、第1実施形態の静電チャック100では、板状部材10はセラミックスにより形成されており、複数の凹部80は板状部材10に形成されており、接合部90の形成材料は金属である。このように、第1実施形態の静電チャック100では、接合部90が金属により形成されているため、金属製の複数の凸部70の変形に加えて、金属製の接合部90の変形によっても、板状部材10とベース部材20との間の熱膨張差に起因する応力を緩和することができ、該熱膨張差に起因する接合部90の接合不良や静電チャック100の変形等の発生を効果的に抑制することができる。また、第1実施形態の静電チャック100では、金属製の接合部90は、セラミックス製の板状部材10に形成された各凹部80内に分かれて配置されているため、接合部90が板状部材10の表面の全体にわたって連続的に形成された構成と比較して、板状部材10と接合部90との間の熱膨張差に起因する応力を小さくすることができ、該熱膨張差に起因する接合部90の接合不良や静電チャック100の変形等の発生を効果的に抑制することができる。
【0037】
また、第1実施形態の静電チャック100では、ベース部材20の本体部22が金属により形成されており、複数の金属製の凸部70とベース部材20の本体部22とは一体部材である。そのため、第1実施形態の静電チャック100によれば、複数の凸部70がベース部材20の本体部22とは別体の部材である構成と比較して、静電チャック100の構成の簡素化や製造の容易化を実現することができる。
【0038】
B.第2実施形態:
図5は、第2実施形態の静電チャック100における板状部材10とベース部材20との接合の詳細構成を示す説明図である。以下では、第2実施形態の静電チャック100の構成の内、上述した第1実施形態の静電チャック100の構成と同一の構成については、同一の符号を付すことによってその説明を適宜省略する。
【0039】
図5に示すように、第2実施形態の静電チャック100は、ベース部材20に形成された複数の凸部70の構成の点が、第1実施形態の静電チャック100と異なる。より詳細には、第2実施形態の静電チャック100では、各凸部70が、下側(ベース部材20の本体部22側)の一部分である下側部分72と、上側(板状部材10側)の一部分である上側部分71とから構成されている。各凸部70を構成する下側部分72および上側部分71は、共にZ軸方向に延びる柱状の部分であるが、上側部分71の外径は、下側部分72の外径より大きい。すなわち、各凸部70における上側(板状部材10側)の端部(以下、「上側端部P1」という。)の径は、下側(ベース部材20の本体部22側)の端部(以下、「下側端部P2」という。)の径より大きい。各凸部70における上側端部P1の外径は、例えば7mm~12mm程度であり、下側端部P2の外径は、例えば1mm~5mm程度である。上側端部P1は、特許請求の範囲における第1の端部に相当し、下側端部P2は、特許請求の範囲における第2の端部に相当する。
【0040】
なお、第2実施形態におけるベース部材20の複数の凸部70は、例えばブラスト加工やマシニング加工によって、各凸部70のうちの下側部分72を形成し、その後、下側部分72の先端に上側部分71を例えばロウ付けにより接合することにより、形成することができる。なお、各凸部70の下側部分72の先端に1つの板状の金属部材を接合し、その後に該金属部材を加工して各凸部70の上側部分71を作製するものとしてもよい。
【0041】
以上説明したように、第2実施形態の静電チャック100は、第1実施形態の静電チャック100と同様に、ベース部材20に形成された複数の凸部70を備え、該複数の凸部70は、金属材料により形成され、Z軸方向において板状部材10とベース部材20の本体部22との間に配置されている。また、板状部材10には、凸部70の少なくとも一部分をそれぞれ収容する複数の凹部80が形成されている。また、静電チャック100は、さらに、無機材料により形成され、各凹部80内に配置され、各凹部80の表面と、各凹部80に収容された各凸部70とを接合する接合部90を備える。そのため、第2実施形態の静電チャック100によれば、第1実施形態の静電チャック100と同様に、板状部材10とベース部材20との間の熱膨張差に起因する接合部90の接合不良や静電チャック100の変形等の発生を抑制しつつ、静電チャック100の耐熱性を高めることができる。
【0042】
また、第2実施形態の静電チャック100では、各凸部70は、板状部材10側の端部である上側端部P1と、ベース部材20の本体部22側の端部である下側端部P2とを有し、上側端部P1の径は下側端部P2の径より大きい。そのため、第2実施形態の静電チャック100によれば、各凸部70における下側端部P2の径を比較的小さくすることにより、各凸部70の変形性能を確保することができ、各凸部70による板状部材10とベース部材20との間の熱膨張差に起因する応力の緩和機能を確保することができる。また、第2実施形態の静電チャック100によれば、セラミックスと比べて熱伝導率の高い金属製の各凸部70における上側端部P1の径を比較的大きくすることにより、各凸部70と板状部材10との間の接触面積を増やして各凸部70を介した板状部材10とベース部材20との間の伝熱性を向上させることができ、その結果、板状部材10の吸着面S11の温度分布の制御性を向上させることができる。
【0043】
C.第3実施形態:
図6は、第3実施形態の静電チャック100における板状部材10とベース部材20との接合の詳細構成を示す説明図である。以下では、第3実施形態の静電チャック100の構成の内、上述した第1,2実施形態の静電チャック100の構成と同一の構成については、同一の符号を付すことによってその説明を適宜省略する。
【0044】
第3実施形態の静電チャック100における各凸部70の形状や大きさは、第2実施形態の静電チャック100における各凸部70の形状や大きさと同様である。すなわち、
図6に示すように、第3実施形態の静電チャック100では、複数の凸部70が、下側部分72と上側部分71とから構成されており、各凸部70における上側端部P1の径は、下側端部P2の径より大きい。ただし、第3実施形態の静電チャック100では、各凸部70は、ベース部材20とは別部材として設けられている。
【0045】
すなわち、各凸部70は、ベース部材20とは独立した金属製の部材である。各凸部70における上側端部P1は、金属製のロウ付け部60により、板状部材10の下面S2にロウ付けされている。なお、本実施形態では、板状部材10の下面S2に複数の凹部14が形成されており、各凸部70は、凹部14内に収容された状態で該凹部14の表面に接合されている。Z軸方向視で、各ロウ付け部60の面積は、各凸部70の上側端部P1の面積より大きい。すなわち、各凸部70の上側端部P1の全体が、ロウ付け部60によって板状部材10の表面に接合されている。
【0046】
また、ベース部材20の上面S3には、複数の凹部82が形成されている。複数の凹部82のそれぞれは、1つの凸部70の少なくとも一部分を収容している。各凹部82の形状や大きさは、第1実施形態において板状部材10の下面S2に形成された凹部80と同様である。
【0047】
各凹部82内には、無機材料(例えば、半田等の金属、アルミナやジルコニア等のセラミックス等)により形成された接合部90が配置されている。本実施形態では、接合部90は金属により形成されている。接合部90は、各凹部82の表面と、各凹部82に収容された各凸部70とを接合している。このように、本実施形態の静電チャック100では、金属製の接合部90によって各凹部82の表面と各凸部70とが接合されることにより、板状部材10とベース部材20とが接合されている。
【0048】
なお、本実施形態において、複数の凸部70は、特許請求の範囲における複数の金属部に相当し、ベース部材20は、特許請求の範囲におけるベース部に相当し、板状部材10は、特許請求の範囲における板状部に相当する。
【0049】
図7は、第3実施形態における静電チャック100の製造方法の概要を示す説明図である。第3実施形態における静電チャック100の製造の際には、板状部材10の下面S2に、例えばブラスト加工やマシニング加工によって複数の凹部14が形成され、各凹部14内に凸部70が収容され、凸部70を各凹部14に接合するロウ付け部60が形成される(
図7のA欄参照)。また、ベース部材20の上面S3に、例えばブラスト加工やマシニング加工によって複数の凹部82が形成される(
図7のB欄参照)。
【0050】
次に、ベース部材20に形成された各凹部82内に、接合部90を形成するための無機接着剤92を配置する(
図7のB欄参照)。そして、ベース部材20に形成された各凹部82内に、板状部材10に接合された各凸部70が収容されるように板状部材10を配置し、板状部材10をベース部材20に押しつけるように荷重を掛けながら無機接着剤92を硬化させることにより、各凹部82の表面と各凸部70とを接合する接合部90を形成する(
図7のC欄参照)。これにより、板状部材10とベース部材20とが接合される。
【0051】
以上説明したように、第3実施形態の静電チャック100は、第1,2実施形態の静電チャック100と同様に、複数の凸部70を備え、該複数の凸部70は、金属材料により形成され、Z軸方向において板状部材10とベース部材20との間に配置されている。また、ベース部材20には、凸部70の少なくとも一部分をそれぞれ収容する複数の凹部82が形成されている。また、静電チャック100は、さらに、無機材料により形成され、各凹部82内に配置され、各凹部82の表面と、各凹部82に収容された各凸部70とを接合する接合部90を備える。そのため、第3実施形態の静電チャック100によれば、第1,2実施形態の静電チャック100と同様に、板状部材10とベース部材20との間の熱膨張差に起因する接合部90の接合不良や静電チャック100の変形等の発生を抑制しつつ、静電チャック100の耐熱性を高めることができる。
【0052】
また、第3実施形態の静電チャック100では、第2実施形態の静電チャック100と同様に、各凸部70は、板状部材10側の端部である上側端部P1と、ベース部材20側の端部である下側端部P2とを有し、上側端部P1の径は下側端部P2の径より大きいため、各凸部70の変形性能を確保して各凸部70による応力緩和機能を確保することができると共に、各凸部70と板状部材10との間の接触面積を増やして各凸部70を介した板状部材10とベース部材20との間の伝熱性を向上させ、板状部材10の吸着面S11の温度分布の制御性を向上させることができる。
【0053】
また、第3実施形態の静電チャック100では、各凸部70は、板状部材10側の端部である上側端部P1と、ベース部材20側の端部である下側端部P2とを有し、各凸部70における上側端部P1は、金属製のロウ付け部60により板状部材10の下面S2にロウ付けされており、Z軸方向視で、各ロウ付け部60の面積は各凸部70の上側端部P1の面積より大きい。そのため、第3実施形態の静電チャック100によれば、金属製の凸部70およびロウ付け部60を介した板状部材10とベース部材20との間の伝熱性を向上させることができ、その結果、板状部材10の吸着面S11の温度分布の制御性を効果的に向上させることができる。
【0054】
D.変形例:
本明細書で開示される技術は、上述の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の形態に変形することができ、例えば次のような変形も可能である。
【0055】
上記実施形態における静電チャック100の構成は、あくまで一例であり、種々変形可能である。例えば、上記実施形態における凸部70の構成(形状、大きさ等)はあくまで一例であり、種々変形可能である。
【0056】
また、上記実施形態の静電チャック100の各部材(板状部材10、ベース部材20、接合部90、凸部70等)の形成材料は、あくまで一例であり、種々変更可能である。例えば、上記実施形態では、ベース部材20は金属により形成されているが、ベース部材20の少なくとも一部がセラミックスにより形成されていてもよい。また、上記実施形態では、接合部90は金属により形成されているが、接合部90が金属以外の無機材料により形成されていてもよい。
【0057】
また、上記実施形態では、板状部材10の上面側の外周に沿って上側に切り欠きが形成されているが、該切り欠きは形成されていなくてもよい。また、上記実施形態では、板状部材10の内部に1つのチャック電極40が設けられた単極方式が採用されているが、板状部材10の内部に一対のチャック電極40が設けられた双極方式が採用されてもよい。また、上記実施形態の静電チャック100は、板状部材10の吸着面S11を加熱するヒータ電極50を備えるが、静電チャック100がヒータ電極50を備えないとしてもよい。
【0058】
また、上記実施形態における静電チャック100の製造方法は、あくまで一例であり、種々変更可能である。例えば、上記実施形態では、セラミックスグリーンの積層体を焼成することにより板状部材10が作製されるが、板状部材10が他の方法(例えば、ホットプレス焼成)により作製されるとしてもよい。
【0059】
また、本発明は、静電チャック100に限らず、板状部材と、ベース部材と、両者を接合する接合部とを備え、板状部材の表面上に対象物を保持する他の保持装置にも適用可能である。
【符号の説明】
【0060】
10:板状部材 14:凹部 20:ベース部材 21:冷媒流路 22:本体部 40:チャック電極 50:ヒータ電極 60:ロウ付け部 70:凸部 71:上側部分 72:下側部分 80:凹部 82:凹部 90:接合部 92:無機接着剤 100:静電チャック IP:内側部 OP:外周部 P1:上側端部 P2:下側端部 S11:吸着面 S12:外周上面 S1:上面 S2:下面 S3:上面 W:ウェハ