(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-06
(45)【発行日】2023-11-14
(54)【発明の名称】設計支援装置
(51)【国際特許分類】
G06F 30/10 20200101AFI20231107BHJP
G06F 30/20 20200101ALI20231107BHJP
【FI】
G06F30/10
G06F30/20
(21)【出願番号】P 2020003780
(22)【出願日】2020-01-14
【審査請求日】2022-07-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001689
【氏名又は名称】青稜弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】板林 勇気
(72)【発明者】
【氏名】小野寺 誠
(72)【発明者】
【氏名】清水 勇喜
(72)【発明者】
【氏名】亀井 章
(72)【発明者】
【氏名】針谷 昌幸
【審査官】合田 幸裕
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/132836(WO,A1)
【文献】特開2008-243192(JP,A)
【文献】特開2004-227190(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第108319780(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 30/10
G06F 30/20
IEEE Xplore
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
演
算部と、前記演算部に接続される記憶部と、前記演算部への情報の入力を受け付ける入力部と、前記演算部からの情報の出力を行う出力部を有する設計支援装置であって、
三次元CADデータ
ベースに対して、過去実績のある正常CADデータと、違反部在りと判定された違反CADデータの登録を受け付ける手段と、
評価対象の
前記正常CADデータ
及び前記違反CADデータより設計ルールに係わるパラメータを取得する手段と、
前記パラメータの統計値を
重回帰分析を用いて計算し、各パラメータ
の影響度
t値を算出する手段と、
ユー
ザが指定した
前記パラメータの組合せに従い、2次元座標系上に、評価対象の
前記正常CADデータと
前記違反CADデータをプロットした散布図と、
前記散布図のクラスター分析を行った境界線を提示する手段と、
を備えたことを特徴とする設計支援装置。
【請求項2】
前記パラメータを取得する手段は、予めCADデータより設計ルールに係わるパラメータを計測する手順の定義を受付ける手段と、前記定義された手順でパラメータを計測する手段と、および計測されたパラメータをテーブル形式に記憶する手段とを有することを特徴とする請求項1に記載の設計支援装置。
【請求項3】
前
記影響度t値を算出する手段は、重回帰方程式に
前記正常CADデータおよび
前記違反CADデータから取得された各パラメータを代入し
て算出することを特徴とする請求項1に記載の設計支援装置。
【請求項4】
前記散布図と、クラスター分析を行った
前記境界線がユーザに提示され、ユーザによる評価に従って、2次元座標系に採用したパラメータの組合せと、前記境界線を設計ルールのしきい値として設計ルールデータベースに登録する手段を更に有することを特徴とする請求項1に記載の設計支援装置。
【請求項5】
前記設計ルールに係わるパラメータとしては、長さ、距離、厚さ、角度、半径、直径、曲率、位置、向きなどの寸法パラメータ、体積や面積、重心、断面二次モーメントなどの形状特性パラメータ、材質や材料定数、表面処理、製造拠点、出荷地域、サプライヤ、原価などの属性パラメータ、および、特徴形状の数や干渉数などの個数パラメータが挙げられることを特徴とする請求項1に記載の設計支援装置。
【請求項6】
各パラメータの違反を説明する
前記影響度t値を算出した後
に、各パラメータの影響度t値の一覧をユーザに提示し、
ユーザは影響度t値が高いパラメータから優先的に選択して、任意のパラメータの組合せを指定し、
ユーザが指定したパラメータの組合せに従い、一方のパラメータを縦軸に、もう一方のパラメータを横軸とする2次元座標系上に、評価対象の正常CADデータと違反CADデータをプロットした散布図と、クラスター分析を行った境界線を算出する手段を有することを特徴とする請求項1に記載の設計支援装置。
【請求項7】
前記クラスター分析は、プロットされた正常CADデータ群と違反CADデータ群の2つのグループ間の最も距離の離れた箇所(最大マージン)を見つけ出し、その真ん中に境界線を引く処理であることを特徴とする請求項6に記載の設計支援装置。
【請求項8】
得られた
前記しきい値を
、CAD上で自動的にチェックするソフトウェアの実行ファイル(XMLファイル)の違反判定しきい値として流用し、形状チェックを実行することを支援できることを特徴とする請求項4に記載の設計支援装置。
【請求項9】
前記形状チェックの実行結果
には、違反の可能性あり要チェック、完全な違反部あり要形状変更、とのステータスが含まれ、これら違反部位
の表示色が
変えて出力されることを特徴とする請求項8に記載の設計支援装置。
【請求項10】
前記違反CADデータの登録には、CAD上で製造
性を自動チェックするソフト
ウェアや製造シミュレータの実行結果から、製造性に問題ありと判断されたCADデータ
と、ベテラン設計者などへ設計ルールの対象となる部位を有するCADデータについて違反か正常を判別させた結果、違反部ありと判定されたCADデータ
、が
含まれることを特徴とする請求項1に記載の設計支援装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製品の設計データを作成する技術に係り、形状データが設計ルールを満たしていない部分を検出するための、設計ルールを自動的に抽出する設計支援装置に関する。
【背景技術】
【0002】
製品設計では設計ツールとして三次元CAD(Computer Aided Design)が普及している。三次元CAD(以下、CADと表記する)は、製品形状をコンピュータ上に作成するツールであり、設計者の意図に沿って形状を自由に定義することができる。製品設計では、工作機械や生産技術による製造上の要件や、強度や温度による安全性や、操作のしやすさや取り出しやすさによる操作性、保守性など設計上の要件を考慮し、複数の要件を満足する形状を試行錯誤しながら定義する必要がある。このような設計者が守るべき要件をここでは設計ルールと呼ぶ。この設計ルールをCAD上で自動的にチェックして、違反箇所をハイライト表示する技術として(非特許文献1)に記載の技術がある。
【0003】
また、製品設計における違反部位にとどまらず良好な設計案を可視化する技術に関して、特許文献1に開示される発明がある。特許文献1は、製品やサービスを構成する設計データに対して、製造上許容されるパラメータで構成される設計空間を機械学習により学習し、精度の高い学習データを作成する機能を有する設計支援装置である。複数の入力データをシミュレーションモデルを用いてシミュレーションで用意し、その結果を学習用の教師データとして取り込むことで過去の実績データに基づいて正常クラスタまたは異常クラスタを識別可能に表示することで設計者へ過去の実績データに基づいたパラメータを提示するもので、これにより正常かつ有用な設計データを作成することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【文献】HARIYA、 M、 et al. Technique for checking design rules for three-dimensional CAD data、 Computer Science and Information Technology (ICCSIT)、2010 3rd IEEE International Conference on、 IEEE、 2010、 pp. 296-300.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記の技術においては以下の課題がある。
非特許文献1、特許文献1に記載の技術においては、各種の制約や設計ルールが成り立つ前提条件として、パラメータ(距離や位置、曲率、角度などの寸法値や材質、製造工場などの属性値)のしきい値やしきい値の取り得る想定範囲をあらかじめ指定しなければならない。しかしながら、しきい値には曖昧なものもあり、一意にしきい値を指定できない場合がある。たとえば、「自動車用ドアは、開閉操作がしやすい位置にハンドルが配置されていること」、「表示ディスプレイは、操作者へ見やすい位置に設置されていること」、というような対象となる部位や構造は明らかになっており、設計ルールのパラメータの種類も明確になっているものの、そのしきい値が定量化されていない場合がある。経験の浅い設計者は、このような曖昧な設計ルールに対して、過去機種と比較したり、ベテラン設計者にヒアリングしたりするなどしてしきい値を定量化する必要があり、チェックに手間がかかる場合がある。
【0007】
さらに、工作機械、材料、加工方法、プログラムのバージョン、デザイントレンドなど年代、時期に応じて変化していくものもあり、設計ルールを一度定量化したとしても、継続的に見直していく必要があり、非常に時間と手間のかかる業務である。
【0008】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、曖昧な設計ルールの定量化を効率化することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の設計支援装置の好ましい例では、三次元CADデータベースに対して、過去実績のある正常CADデータと、違反部在りと判定された違反CADデータの登録を受け付ける手段と、評価対象のCADデータより設計ルールに係わるパラメータを取得する手段と、取得されたパラメータの統計値を重回帰分析を用いて計算し、各パラメータの影響度t値を算出する手段と、ユーザ(評価者)が指定したパラメータの組合せに従い、2次元座標系上に、評価対象の正常CADデータと違反CADデータをプロットした散布図と、散布図のクラスター分析を行った境界線を提示する手段とを備えて構成する。
【0010】
また、本発明の他の特徴として、前記設計支援装置において、前記散布図と、クラスター分析を行った境界線がユーザに提示され、ユーザによる評価に従って、2次元座標系に採用したパラメータの組合せと、前記境界線を設計ルールのしきい値として設計ルールデータベースに登録する手段を更に有する。
【0011】
また、本発明の更に他の特徴として、前記設計支援装置において、前記各パラメータの違反を説明する影響度t値を算出した後、各パラメータの影響度t値の一覧をユーザに提示し、ユーザは影響度t値が高いパラメータから優先的に選択して、任意のパラメータの組合せを指定し、ユーザが指定したパラメータの組合せに従い、一方のパラメータを縦軸に、もう一方のパラメータを横軸とする2次元座標系上に、評価対象の正常CADデータと違反CADデータをプロットした散布図と、クラスター分析を行った境界線を算出する手段を有する。
【発明の効果】
【0012】
正常CADデータ群と違反CADデータ群のパラメータから、パラメータの取り得る範囲を統計的に抽出し、しきい値を算出し提示することで、曖昧な設計ルールの定量化を効率化できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図2】正常CADデータを登録する画面例を説明する図である。
【
図3】違反CADデータを登録する画面例を説明する図である。
【
図4】パラメータ取得部が、対象とするCADデータからパラメータを取得したパラメータテーブルの一例を説明する図である。
【
図5】代表的な6個のドアCADデータの例を説明する図である。
【
図6】
図5に示す6個のドアCADデータからパラメータを取得したパラメータテーブルの一例を説明する図である。
【
図7】パラメータ取得部が、ドアCADデータからパラメータを取得したパラメータテーブルの一例を説明する図である。
【
図8】本装置による設計ルールのしきい値の定量化、および登録処理の処理手順の流れの一例を説明するフローチャートである。
【
図9】ユーザが指定したパラメータの2次元座標系上に正常CADデータと違反CADデータの散布図を作成し、2つのグループをクラスタリングする境界線の一例を説明する図である。
【
図10】
図9のグラフをユーザに提示し、ユーザがしきい値を設計ルールデータベースへ登録するか否かを判断する画面例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を用いて本発明の設計支援装置の一例を説明する。
【実施例1】
【0015】
図1は、本実施例による設計支援装置の構成図である。
設計支援装置100は、汎用の計算機上に構成することができて、そのハードウェア構成は、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)などにより構成される演算部110、ROM(Read Only Memory)、HDD(Hard Disk Drive)、フラッシュメモリなどを用いたSSD(Solid State Drive)などにより構成される記憶部120、キーボードやマウス等の入力デバイスより構成される入力部130、LCD(Liquid Crystal Display)、有機ELディスプレイなどの表示装置、各種出力装置などにより構成される出力部140、NIC(Network Interface Card)などにより構成される通信部150、などを備える。
通信部150は、ネットワーク160を介して外部のシステムと共用される三次元CADデータベース170、設計ルールデータベース180、および外部の三次元CAD装置190と接続されている。
【0016】
演算部110は、記憶部120に記憶されている設計支援処理プログラム(図示せず)をRAMへロードしてCPUで実行することにより以下の各機能部を実現する。演算部110は、定量化したい設計ルールの対象となる部位や構造に対して、過去実績のある形状を正常CADデータとして登録する正常データ登録部111と、違反部を有する形状を違反CADデータとして登録する違反データ登録部112と、定量化したい設計ルールの対象となる正常CADデータおよび違反CADデータを三次元CADデータベース170から検索するCADデータ検索部113と、前記CADデータ検索部によって検索されたCADデータにおける形状寸法値、属性値などをパラメータデータとして取得するパラメータ取得部114と、取得したパラメータについて統計的な手法に基づきしきい値を算出するしきい値解析部115と、しきい値解析処理の結果を可視化するしきい値可視化部116と、しきい値解析処理結果を評価者の判定に従って設計ルールデータベース180へ登録する設計ルール登録部117とを有する。
【0017】
なお、設計支援装置100が実装される計算機上には、三次元CADシステム、その他のシステムが共存することでもよい。
【0018】
以下、演算部の各機能部の処理を説明する。本実施例では、「自動車用ドアハンドルは、開閉操作がしやすい位置にハンドルが配置されていること」に関する設計ルールのしきい値を定量値化することを目的として説明する。
【0019】
(1)正常データ登録部111
「自動車用ドアハンドルは、開閉操作がしやすい位置にハンドルが配置されていること」の設計ルールを定量化するためには、ドアハンドルの部品を含む複数の正常CADデータを三次元CADデータベース170に登録する。ここで、正常CADデータとは、過去に製品化された実績のあるCADデータである。既に、三次元CAD装置から登録済のCADデータも正常CADデータと見なすことでよい。各CADデータには、車種、仕向け地(欧州、米国、アジア向けなど)などの属性情報が付加されているものとする。
正常データ登録部111では、三次元CAD装置で新たに設計された
図2に示すCADオペレート画面上201で正常CADデータとして登録釦202の押下に従い登録処理をしてもよい。
【0020】
(2)違反データ登録部112
違反データ登録部112では、ドアハンドルの部品を含む複数の違反CADデータを三次元CADデータベース170に登録する。ここで、違反CADデータとは、例えば過去にDRや部内検討会などで違反が含まれていると判断されたCADデータである。
【0021】
例えば、設計支援装置の出力部140に、三次元CAD装置で新たに設計された
図3に示すCADオペレート画面301に示すようなドアのCADデータを提示して、経験を積んでいるベテラン設計者に正常か違反かをジャッジしてもらい、違反部ありとジャッジされたものを違反CADデータとして違反部あり釦302の押下に従い三次元CADデータベース170に、違反CADのラベルを付加して登録する。このとき、ドアハンドル位置が異なる複数のCADデータを、ドアハンドル位置を自動で変更してCADデータを自動生成するようにしておいてもよい。違反CADデータの登録数が少ない場合は、製造性の良し悪しをチェックするソフトや製造シミュレータの実行結果から製造性に問題ありと判断されたCADデータを登録してもよい。
【0022】
(3)CADデータ検索部113
「自動車用ドアハンドルは、開閉操作がしやすい位置にハンドルが配置されていること」の設計ルールを定量化するに際して、ユーザは、入力部130より、車種、仕向け地(欧州、米国、アジア向けなど)などの属性情報を指定して対象を特定して、三次元CADデータベース170からドアハンドルの部品を含む正常CADデータ、および違反CADデータを検索する。CADデータ検索部113は、検索したCADデータを記憶部120の検索CADデータ121に格納する。
【0023】
(4)パラメータ取得部114
パラメータ取得部114は、検索CADデータ121に格納された正常CADデータおよび違反CADデータに対してユーザが指示した各種パラメータを設計ルールのしきい値として定量的に扱えるデジタルデータとして取得する。なお、本実施例では、長さや距離、厚さ、角度、半径/直径、曲率、位置、向きなどのCADデータ作成時に指定する寸法パラメータや、体積や面積、重心、断面二次モーメントなどの形状特性パラメータ、材質や材料定数、表面処理、製造拠点、出荷地域、サプライヤ、原価などの属性パラメータ、穴/ボスなどの特徴形状の数や干渉数などの個数パラメータなどを総称してパラメータとしている。
【0024】
取得したパラメータは例えば、
図4に示すようなテーブル構造401に記憶部120のパラメータテーブル122に格納する。また、正常CADデータおよび違反CADデータを識別する情報として、形状種別402欄に「正常」、または「違反」を格納する。
図4のパラメータ1には、ドアハンドルの取り付け「高さ」403が登録され、パラメータ2には、ドアハンドルの「角度」404が登録されている。また、上記例では「高さ」と「角度」の2種類のパラメータのみを取得する手順を示しているが、例えば、ドアハンドル取り付け面の「曲率」やドアの「板厚」、「材質」のように複数種類になる場合は、複数取得しても良い。
【0025】
(5)しきい値解析部115
しきい値解析部115は、パラメータを統計的な手法に基づいて統計値を計算し、設計ルールの候補となるしきい値として算出する。統計値の計算は、最大値、最小値、標準偏差などの要約統計量や、アソシエーション分析、クラスター分析などに代表されるデータマイング、重回帰分析、共分散構造分析、主成分分析などに代表される公知の統計的な解析手法を用いてもよい。これら手法を組み合わせて様々な統計量を解析する。
【0026】
しきい値を取得する際に、例えば違反CADデータにおけるパラメータの影響度を計算により求め、違反への影響度の高いパラメータの関係などからしきい値を計算する。なお前述した影響度の高いパラメータを用いて作成した散布図を対象にサポートベクターマシン(以降、SVM)などのクラスター分析をする手法を用いて設計ルールの候補となるしきい値の定量値化をしてもよい。
【0027】
正常CADデータの形状のみでは、隣り合うパラメータの影響から従属的に決定されるパラメータや設計者が意図せず過去機種からしばらく流用しているパラメータなども設計ルールのしきい値としてルール化されてしまう恐れがある。その結果、本来設計者の有用としている設計ルールが埋もれてしまう可能性がある。
【0028】
本実施例では、違反CADデータを加えることで、前述した影響度やSVMなどの分析から違反根拠となりうるパラメータの候補からしきい値を明らかにできる。また、SVMなどのクラスター分析する際、正常CADデータと違反CADデータのパラメータが混ざり合って分布するようなクラスタリングできない場合は、設計者は当該パラメータを意図して設計している可能性が低いと判断できる。一方、クラスタリングできる場合は、設計者は、意図してパラメータを決定している可能性が高いと判断することができる。この結果、過去に実績のある範囲に加え違反となる範囲の間にしきい値を設けることで、より限界設計に近いしきい値を設計者へ提示することができる。
【0029】
(6)しきい値可視化部116
しきい値可視化部116は、しきい値解析部115で算出したしきい値を出力部140に可視化する。各種の統計量に応じて、ヒストグラムや散布図などのグラフなどで表示する。例えば、
図9のようなグラフが表示される。この可視化によって設計者らは、ドアハンドルの取り付け高さと取り付け角度の設計範囲が定量的に分かる。
【0030】
(7)設計ルール登録部117
しきい値可視化部116により出力部140に表示されたしきい値をユーザ(評価者)が判定して、設計ルールとして登録すべきと判断した場合には、入力部130より登録を指示する。設計ルール登録部117は、ユーザによる指示に従いしきい値を設計ルールデータベース180へ登録する。
【0031】
本設計支援装置は、複数のCADデータから統計値を表示するものであるので、基本的にデータの数は多い方が望ましいが、明らかに有用ではないと判断されたCADデータ(例えば、古すぎるCADデータ)はあらかじめ除外する方が望ましい。
【0032】
続いて、本設計支援装置を用いた処理手順およびデータの流れの一例を
図5~
図10を用いて説明する。本設計支援装置による設計ルールのしきい値の定量化、および登録処理の処理手順の一例を、
図8のフローチャートに示す。
【0033】
図8のステップS101において、ユーザ(評価者)は、意図する設計ルールのしきい値を定量化する処理の開始を入力部130より指示する。
以降でも、「自動車用ドアハンドルは、開閉操作がしやすい位置にハンドルが配置されていること」に関する設計ルールの一例を説明する。
【0034】
通常ドアハンドルは、小さな子どもから大人までの幅広い世代が操作を行うため、低すぎる場合や高すぎると開閉時に操作しにくく不便である。またドアのヒンジ部に近いと、ハンドルを操作して開閉する際に大きな力を要すため、丁度よいバランスの取れた位置に設置する必要がある。またハンドル単体では、握りやすいような形状・サイズにする必要があるため、取り付けられる位置に加えてハンドル単体のデザインも考慮する必要がある。また車種に応じて車高の高さやドアのデザインや開閉方式などが異なるため、車種に応じた設計を行う必要も出てくる。
【0035】
ユーザ(評価者)は、設計ルールの対象とする車種、仕向け地などの属性情報も指定して、ドアハンドルを含む検索対象のCADデータを特定する。CADデータ検索部113は、三次元CADデータベース170から該当する正常CADデータ、および違反CADデータを検索して、検索CADデータ121に格納する。
【0036】
ステップS102において、検索されたCADデータから如何なるパラメータを取得するかをユーザ(評価者)が入力部130より指定する。ユーザによる指定に従い、パラメータ取得部114が検索CADデータからパラメータを取得する。
【0037】
図5(A)~(F)に検索された代表的な6個のドアCADデータの例を示す。
図5(A)~(C)は一般的なセダンタイプのドアであり、一方
図5(D)~(F)はワゴンタイプのドアである。501~506は、ドアハンドルの中心位置を示している。このとき502および506のドアハンドル位置が違反と判定され、
図5(B)および(F)のドアCADデータは違反データ登録部112によって違反CADデータとして登録されたと仮定する。
【0038】
検索された各CADデータに対して、パラメータ取得部114にて下記に示すStep.1~6までの手順を処理する。
Step.1 ドアを検索する。
Step.2 ドアから、ドアハンドルを検索する。
Step.3 ドアの長さ(進行方向の寸法)、幅(ドア断面の厚み方向の寸法)、高さ(ド
アの下端から上端までの高さ方向寸法)のLWH寸法を計算する。
Step.4 ドアハンドルの高さ(ドアの下端からドアハンドルの中心までの高さ方向
寸法)を計算する。
Step.5 Step.3と4からドアハンドルの取り付け高さ(無次元化した相対高さで表
す)を計算する。
Step.6 ドアハンドルの取り付け角度を計算する。
【0039】
Step.2のドア全体からドアハンドルを検索する際には、下記の技術文献に記載の類似部分形状検索技術を用いて、部分形状認識する。
[技術文献]小野寺ら、Development of mesh generation technique reusing proven analysis models by similar sub-part search, JSME Vol.83, No.853, 2017
なお、複数の異なるCADデータを比較できるようにするためStep.3のドア全体の高さとStep.4のドアハンドルの高さを用いてStep.5では、無次元化した相対的な取り付け高さを計算する。続いて、Step.6では、水平方向をゼロ度としたときのドアハンドルの取り付け角度を計算する。この手順の定義は、例えば、多くの三次元CADソフトウェア上の標準機能に搭載されているAPI(Application Program Interface)やマクロ機能などを用いて、計測する対象部位を特定し、パラメータを取得する手順として定義してもよい。以上Step.1~6により、取得したパラメータは、
図6に示すテーブル構造となる。このとき違反CADデータの5B2および5F6は、形状種別601に違反が格納されている。
【0040】
これらパラメータは、事前に有用なパラメータなどが設計ノウハウとして蓄えられている場合は、ノウハウに基づいて指示してもよく、複数ある場合や指示可能な全パラメータをすべて計算により取得してもよい。
図6では、ドアハンドルに関連する代表的な2種類を示したが、その他には例えば次のようなパラメータが取得可能である。
【0041】
図7に(1)~(5)のパラメータ群を含むテーブル構造の一例を示す。
(1) ドアハンドル配置面曲率(取り付け面位置での曲率)701
(2) ドアの板厚702
(3) ドアの材質703、ドアハンドルの材質704
(4) ドアハンドル中心からドア端部面までの最短距離705
(5) ドアハンドル中心からドアヒンジまでの最短距離706
パラメータ取得部114は、正常CADデータは形状種別欄を「正常」に、違反CADデータは形状種別欄を「違反」にして、各CADデータから取得したパラメータを、
図6、
図7に示すテーブル構造に格納して、記憶部120のパラメータテーブル122に記憶する。
【0042】
図8のステップS103において、しきい値解析部115が、S102で記憶されたパラメータテーブル122を読み出し、パラメータの統計値を計算する。統計値を計算する統計的な手法は様々あるので、一例を説明する。
【0043】
図7に示す各CADデータのパラメータ値を以下の数式(1)で表される重回帰方程式の目的変数Y、説明変数Xへ代入して重回帰分析を計算する。
【0044】
【数1】
ここで、Yは予測したい目的変数、XはYの予測に用いる説明変数、Xの前につく定数b
1,b
2は偏回帰係数と呼ばれる係数である。
【0045】
図7の各CADデータにおいて、形状種別が「違反」のものは目的変数Yを「1」として、形状種別が「正常」のものは目的変数Yを「-1」として、パラメータ1~パラメータ8の値を説明変数X1~X8へ代入して重回帰分析を計算して、偏回帰係数b
1,……b
8を推定する。ただし、本実施例では、各説明変数のばらつきの違いによる影響が除去されるように、各変数を平均0、分散1に標準化して求めた標準偏回帰係数を用いることで、各パラメータ(説明変数)の違反を説明する影響度t値を算出して、しきい値解析結果123に記憶する。
【0046】
しきい値解析部115は、S103において、算出した各パラメータ(説明変数)の違反を説明する影響度t値一覧を出力部140に表示して、ユーザ(評価者)に何れのパラメータの組合せにおいてしきい値を算出すべきかを問う。
【0047】
図8のステップS104において、ユーザ(評価者)は、例えば違反を説明する影響度t値が最大となるパラメータと次に影響度が高いパラメータのグラフを作成することを指示する。なお、ユーザ(評価者)が指定するパラメータの組合せは任意である。
【0048】
ステップS105において、しきい値解析部115は、ユーザ(評価者)が指定したパラメータの組合せに従い、一方のパラメータを縦軸に、もう一方のパラメータを横軸とする2次元座標系上に、パラメータテーブル122に記憶された全てのCADデータをプロットする
図9に示すような散布図を作成する。
【0049】
得られた
図9の散布図を対象にクラスター分析を実行する。
図9に示す直線データ(識別線)903は、分類問題を扱うことのできるSVMなどを用いてクラスター分析した結果である。SVMでは正常CADデータ群(白抜き○で表し、1の値を付与する)901と違反CADデータ群(黒抜き●で表し、-1の値を付与する)902の2つのグループをクラスタリングするように直線データ(境界線)で線形分離する。SVMでは、正常CADデータ群と違反CADデータ群の2つのグループ間の最も距離の離れた箇所(最大マージン)を見つけ出し、その真ん中に数式(2)で表される境界線を引く。
【0050】
【数2】
ここで、境界線f(x)は傾きω、切片bである。マージン最大化とは、各グループのデータ点とこの境界線との最短距離が最大になるようなωを求めることで両グループの境界を計算することを表します。
【0051】
しきい値解析部115は、作成した散布図、および境界線のデータを記憶部120のしきい値解析結果123に記憶する。
しきい値可視化部116は、しきい値解析結果123を
図10に示すような画面1000で出力部140に表示する。
【0052】
ステップS106において、ユーザ(評価者)は、S105で画面1000上に表示された境界線が、指定した組合せのパラメータの座標系において、正常CADデータ群(正常クラスタ)と違反CADデータ群(違反クラスタ)とを識別するしきい値として適当であり、設計ルールとして登録すべきか否かを判断する。判断結果に従い、ユーザ(評価者)はしきい値可視化部116へ応答する。
【0053】
ステップS107において、ユーザ(評価者)が、例えば、S106でしきい値を新規の設計ルールとして登録する釦1001を押下した場合や、既に設計ルールデータベース180に登録されている場合は、しきい値の上書きや編集して登録する釦1002を押下した場合には、設計ルール登録部117が、表示された組合せのパラメータの座標系と境界線をしきい値として、設計ルールデータベース180へ登録する。
【0054】
ステップS108において、ユーザ(評価者)は、S103で算出された各パラメータの影響度t値一覧も考慮して、既に選択したパラメータの組合せ以外のパラメータの組合せにおいてしきい値を算出するか否かを判断する。YESであればS104へ移行する。NOであれば設計ルールのしきい値を定量化する処理を終了する。
【0055】
また、本設計支援装置は、得られたしきい値をCAD上で自動的にチェックするソフトウェアの実行ファイル(XMLファイルなど)の違反判定しきい値として流用し、形状チェックを実行することを支援できる。
【0056】
この形状チェックの実行結果によっては、この違反値に応じて違反CADデータのしきい値領域および正常CADデータと違反CADデータの境界のしきい値領域などと比較することで実行結果の違反部位のステータスを出力表示方式や色彩(違反の可能性あり要チェック、完全な違反部あり要形状変更)などを切り替えできる。
【0057】
以上のように、正常CADデータおよび違反CADデータのパラメータから、設計ルールのしきい値の取り得る範囲を統計的に算出し可視化することで、曖昧な設計ルールの定量化を効率化できる。
【符号の説明】
【0058】
100 設計支援装置
110 演算部
111 正常データ登録部
112 違反データ登録部
113 CADデータ検索部
114 パラメータ取得部
115 しきい値解析部
116 しきい値可視化部
117 設計ルール登録部
120 記憶部
121 検索CADデータ
122 パラメータテーブル
123 しきい値解析結果
130 入力部
140 出力部
150 通信部
160 ネットワーク
170 三次元CADデータベース
180 設計ルールデータベース
190 三次元CAD装置