(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-06
(45)【発行日】2023-11-14
(54)【発明の名称】ステージ姿勢推定装置、搬送装置、およびステージ姿勢推定方法
(51)【国際特許分類】
G03F 7/20 20060101AFI20231107BHJP
H01L 21/68 20060101ALI20231107BHJP
【FI】
G03F7/20 501
H01L21/68 K
(21)【出願番号】P 2020011638
(22)【出願日】2020-01-28
【審査請求日】2022-12-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000207551
【氏名又は名称】株式会社SCREENホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100135013
【氏名又は名称】西田 隆美
(72)【発明者】
【氏名】臼本 宏昭
【審査官】菅原 拓路
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-033068(JP,A)
【文献】特開2003-264133(JP,A)
【文献】特開2020-001127(JP,A)
【文献】国際公開第2019/189661(WO,A1)
【文献】特開2016-072434(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03F 7/20
H01L 21/68
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平板状のステージを搬送機構により搬送する搬送装置において、前記ステージのヨーイング角度を推定するステージ姿勢推定装置であって、
前記搬送機構から出力される計測値または前記計測値に基づいて算出される値を、入力データとして取得する入力データ取得部と、
前記入力データに基づいて前記ステージのヨーイング角度を推定して、推定結果を出力する姿勢推定部と、
を備え、
前記姿勢推定部は、
前記入力データに基づいて前記ステージのヨーイング角度の仮推定値を出力する複数の学習済みモデル
が格納された記憶部と、
前記複数の学習済みモデルから出力される複数の前記仮推定値に基づいて、前記推定結果を決定する推定値決定部と、
を有する、ステージ姿勢推定装置。
【請求項2】
請求項1に記載のステージ姿勢推定装置であって、
前記推定値決定部は、前記複数の仮推定値の平均値を、前記推定結果とする、ステージ姿勢推定装置。
【請求項3】
請求項1に記載のステージ姿勢推定装置であって、
前記複数の学習済みモデルに、加重比率が設定されており、
前記推定値決定部は、前記加重比率を用いた前記複数の仮推定値の加重平均値を、前記推定結果とする、ステージ姿勢推定装置。
【請求項4】
請求項
3に記載のステージ姿勢推定装置であって、
前記推定値決定部は、前記搬送機構の動作状態を表す状態変数に基づき、前記加重比率を変更する、ステージ姿勢推定装置。
【請求項5】
請求項1に記載のステージ姿勢推定装置であって、
前記推定値決定部は、前記搬送機構の動作状態を表す状態変数に基づき、前記複数の仮推定値のうちのいずれか1つを選択し、選択された前記仮推定値を、前記推定結果とする、ステージ姿勢推定装置。
【請求項6】
請求項1から請求項
5までのいずれか1項に記載のステージ姿勢推定装置であって、
前記搬送機構は、前記ステージを一対の直進機構により搬送し、
前記入力データ取得部は、前記一対の直進機構のトルク値の差分に基づいて、前記入力データを生成する、ステージ姿勢推定装置。
【請求項7】
請求項1から請求項
6までのいずれか1項に記載のステージ姿勢推定装置と、
前記ステージと、
前記搬送機構と、
を備えた、搬送装置。
【請求項8】
平板状のステージを搬送機構により搬送する搬送装置において、前記ステージのヨーイング角度を推定するステージ姿勢推定方法であって、
a)前記搬送機構から出力される計測値または前記計測値に基づいて算出される値を、入力データとして取得する工程と、
b)前記入力データに基づいて前記ステージのヨーイング角度を推定して、推定結果を出力する工程と、
を備え、
前記工程b)では、複数の学習済みモデルに前記入力データを入力し、前記複数の学習済みモデルから出力される複数の仮推定値に基づいて、前記推定結果を決定する、ステージ姿勢推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、平板状のステージを搬送機構により搬送する搬送装置において、ステージのヨーイング角度を推定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、平板状のステージを搬送しつつ、ステージに保持された基板に対して種々の処理を行う装置が知られている。例えば、特許文献1には、基板(W)を載置したステージ(10)をステージ移動機構(20)により移動させつつ、基板(W)の上面に露光パターンを描画する装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この種の装置に搭載されるステージの搬送装置は、一対の直進機構を備えている場合がある。具体的には、互いに平行に設けられた一対のリニアモータにより、ステージを所定の方向に搬送する機構が知られている。
【0005】
当該搬送装置では、ステージを一定の姿勢で移動させるために、一対の直進機構を均等に動作させる必要がある。しかしながら、一対の直進機構の微小な駆動誤差、リニアモータのガイドの間隙内のエア圧変動、加工誤差等によって、ステージの鉛直軸周りの回転角度(いわゆる「ヨーイング角度」)が僅かに変動する場合がある。このようなヨーイング角度の変動が生じると、ステージに保持された基板に対して、精密な処理を行うことが困難となる。
【0006】
従来の搬送装置には、上記のヨーイング角度の変動を把握するために、大掛かりな計測装置が搭載されていた。そして、計測装置の計測結果に基づいて、搬送装置の動作が補正されていた。しかしながら、大掛かりな計測装置を搭載すると、搬送装置の小型化が困難となる。また、計測装置を搭載することにより、搬送装置の製造コストも上昇する。
【0007】
このような大掛かりな計測装置を常時設置することなく、ステージのヨーイング角度を把握するためには、例えば、機械学習を利用することが考えられる。具体的には、搬送装置から出力されるトルク値等の計測値と、ステージのヨーイング角度との関係を学習した学習済みモデルを用意し、当該学習済みモデルに計測値を入力して、ステージのヨーイング角度を出力することが考えられる。
【0008】
しかしながら、学習済みモデルを生成するための機械学習アルゴリズムには、多くの種類がある。また、複数の機械学習アルゴリズムには、それぞれ得手・不得手があり、搬送装置の動作状況によって、各機械学習アルゴリズムの推定精度が変動する。このため、1つの機械学習アルゴリズムにより生成される1つの学習済みモデルのみに依存すると、搬送装置の動作状況によっては、精度のよい推定を行うことができない場合がある。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みなされたものであり、大掛かりな計測装置を常時設置することなく、ステージのヨーイング角度を推定でき、かつ、搬送装置の多くの動作状況において高い推定精度を実現できる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本願の第1発明は、平板状のステージを搬送機構により搬送する搬送装置において、前記ステージのヨーイング角度を推定するステージ姿勢推定装置であって、前記搬送機構から出力される計測値または前記計測値に基づいて算出される値を、入力データとして取得する入力データ取得部と、前記入力データに基づいて前記ステージのヨーイング角度を推定して、推定結果を出力する姿勢推定部と、を備え、前記姿勢推定部は、前記入力データに基づいて前記ステージのヨーイング角度の仮推定値を出力する複数の学習済みモデルが格納された記憶部と、前記複数の学習済みモデルから出力される複数の前記仮推定値に基づいて、前記推定結果を決定する推定値決定部と、を有する。
【0012】
本願の第2発明は、第1発明のステージ姿勢推定装置であって、前記推定値決定部は、前記複数の仮推定値の平均値を、前記推定結果とする。
【0013】
本願の第3発明は、第1発明のステージ姿勢推定装置であって、前記複数の学習済みモデルに、加重比率が設定されており、前記推定値決定部は、前記加重比率を用いた前記複数の仮推定値の加重平均値を、前記推定結果とする。
【0014】
本願の第4発明は、第3発明のステージ姿勢推定装置であって、前記推定値決定部は、前記搬送機構の動作状態を表す状態変数に基づき、前記加重比率を変更する。
【0015】
本願の第5発明は、第1発明のステージ姿勢推定装置であって、前記推定値決定部は、前記搬送機構の動作状態を表す状態変数に基づき、前記複数の仮推定値のうちのいずれか1つを選択し、選択された前記仮推定値を、前記推定結果とする。
【0016】
本願の第6発明は、第1発明から第5発明までのいずれか1発明のステージ姿勢推定装置であって、前記搬送機構は、前記ステージを一対の直進機構により搬送し、前記入力データ取得部は、前記一対の直進機構のトルク値の差分に基づいて、前記入力データを生成する。
【0017】
本願の第7発明は、搬送装置であって、第1発明から第6発明までのいずれか1発明のステージ姿勢推定装置と、前記ステージと、前記搬送機構と、を備える。
【0018】
本願の第8発明は、平板状のステージを搬送機構により搬送する搬送装置において、前記ステージのヨーイング角度を推定するステージ姿勢推定方法であって、a)前記搬送機構から出力される計測値または前記計測値に基づいて算出される値を、入力データとして取得する工程と、b)前記入力データに基づいて前記ステージのヨーイング角度を推定して、推定結果を出力する工程と、を備え、前記工程b)では、複数の学習済みモデルに前記入力データを入力し、前記複数の学習済みモデルから出力される複数の仮推定値に基づいて、前記推定結果を決定する。
【発明の効果】
【0019】
本願の第1発明から第8発明によれば、搬送機構から出力される計測値または計測値に基づいて算出される値に基づいて、ステージのヨーイング角度を推定する。これにより、大掛かりな計測装置を常時設置することなく、ステージのヨーイング角度を推定できる。また、複数の学習済みモデルから出力される複数の仮推定値に基づいて、1つの推定結果を出力する。これにより、搬送装置の多くの動作状況において高い推定精度を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図2】搬送装置を備えた描画装置の概略上面図である。
【
図3】制御部と描画装置内の各部との電気的接続を示したブロック図である。
【
図4】搬送装置の一部分を、主走査方向に対して垂直な面で切断したときの部分断面図である。
【
図5】ステージ姿勢推定装置の構成を示したブロック図である。
【
図6】事前学習処理の流れを示すフローチャートである。
【
図7】ステージ姿勢推定装置による推定処理の流れを示したフローチャートである。
【
図8】推定値決定部による推定結果の決定方法の第2の例を示すフローチャートである。
【
図9】推定値決定部による推定結果の決定方法の第3の例を示すフローチャートである。
【
図10】推定値決定部による推定結果の決定方法の第4の例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0022】
なお、以下では、水平方向のうち、一対の直進機構によりステージが移動する方向を「主走査方向」と称し、主走査方向に直交する方向を「副走査方向」と称する。
【0023】
<1.描画装置の構成>
図1は、本発明の一実施形態に係る搬送装置10を備えた描画装置1の斜視図である。
図2は、描画装置1の概略上面図である。この描画装置1は、感光材料が塗布された半導体基板やガラス基板等の基板Wの上面に、空間変調された光を照射して、基板Wの上面に露光パターンを描画する装置である。
図1および
図2に示すように、描画装置1は、搬送装置10、フレーム20、描画処理部30、および制御部40を備える。
【0024】
搬送装置10は、基台11の上面において、平板状のステージ12を、略一定の姿勢で水平方向に搬送する装置である。搬送装置10は、主走査機構13と副走査機構14とを含む搬送機構を有する。主走査機構13は、ステージ12を主走査方向に搬送するための機構である。副走査機構14は、ステージ12を副走査方向に搬送するための機構である。基板Wは、ステージ12の上面に水平姿勢で保持され、ステージ12とともに主走査方向および副走査方向に移動する。
【0025】
搬送装置10のより詳細な構成については、後述する。
【0026】
フレーム20は、基台11の上方において、描画処理部30を保持するための構造である。フレーム20は、一対の支柱部21と架橋部22とを有する。一対の支柱部21は、副走査方向に間隔をあけて立設されている。各支柱部21は、基台11の上面から上方へ向けて延びる。架橋部22は、2本の支柱部21の上端部の間において、副走査方向に延びる。基板Wを保持したステージ12は、一対の支柱部21の間、かつ、架橋部22の下方を通過する。
【0027】
描画処理部30は、2つの光学ヘッド31、照明光学系32、レーザ発振器33、およびレーザ駆動部34を有する。2つの光学ヘッド31は、副走査方向に間隔をあけて、架橋部22に固定される。照明光学系32、レーザ発振器33、およびレーザ駆動部34は、例えば、架橋部22の内部空間に収容される。レーザ駆動部34は、レーザ発振器33と電気的に接続されている。レーザ駆動部34を動作させると、レーザ発振器33からパルス光が出射される。そして、レーザ発振器33から出射されたパルス光が、照明光学系32を介して光学ヘッド31へ導入される。
【0028】
光学ヘッド31の内部には、空間変調器を含む光学系が設けられている。空間変調器には、例えば、回折格子型の空間光変調器であるGLV(Grating Light Valve)(登録商標)が用いられる。光学ヘッド31へ導入されたパルス光は、空間変調器により所定のパターンに変調されて、基板Wの上面に照射される。これにより、基板Wの上面に塗布されたレジスト等の感光材料が露光される。
【0029】
描画装置1の稼働時には、光学ヘッド31による露光と、搬送装置10による基板Wの搬送とが、繰り返し実行される。具体的には、副走査機構14によりステージ12を副走査方向に搬送しつつ、光学ヘッド31からのパルス光の照射を行うことにより、副走査方向に延びる帯状の領域(スワス)に露光を行った後、主走査機構13によりステージ12を主走査方向に1スワス分だけ搬送する。描画装置1は、このような副走査方向の露光と、主走査方向のステージ12の搬送とを繰り返すことにより、基板Wの上面全体にパターンを描画する。
【0030】
制御部40は、描画装置1の各部を動作制御するための手段である。
図3は、制御部40と、描画装置1内の各部との電気的接続を示したブロック図である。
図3中に概念的に示すように、制御部40は、CPU等のプロセッサ41、RAM等のメモリ42、およびハードディスクドライブ等の記憶部43を有するコンピュータにより構成されている。記憶部43には、描画装置1を動作制御するためのコンピュータプログラムPが記憶されている。
【0031】
また、
図3に示すように、制御部40は、描画処理部30(上述した光学ヘッド31およびレーザ駆動部34を含む)、主走査機構13(後述するリニアモータ61およびエアガイド62を含む)、副走査機構14(後述するリニアモータ71を含む)、後述する回転機構15、および各種センサ50と、電気的に接続されている。制御部40は、記憶部43に記憶されたコンピュータプログラムPやデータDをメモリ42に読み出し、当該コンピュータプログラムPおよびデータDに基づいて、プロセッサ41が演算処理を行うことにより、描画装置1内の上記各部を動作制御する。これにより、描画装置1における描画処理が進行する。
【0032】
<2.搬送装置の構成>
次に、搬送装置10の詳細な構成について、説明する。
図4は、搬送装置10の一部分を、主走査方向に対して垂直な面で切断したときの部分断面図である。
図1~
図4に示すように、搬送装置10は、基台11、ステージ12、主走査機構13、副走査機構14、回転機構15、下段支持プレート16、中段支持プレート17、およびステージ姿勢推定装置18を有する。
【0033】
基台11は、搬送装置10の各部を支持する支持台である。基台11は、主走査方向および副走査方向に広がる平板状の外形を有する。基台11の下面には、4つの脚部111および2つのダンパ112が設けられている。脚部111およびダンパ112の長さは、個別に調節可能である。したがって、脚部111およびダンパ112の長さを調節することにより、基台11の姿勢を水平に調整できる。
【0034】
下段支持プレート16、中段支持プレート17、およびステージ12は、それぞれ、平板状の外形を有する。下段支持プレート16は、基台11上において、主走査機構13により主走査方向に移動可能に支持されている。中段支持プレート17は、下段支持プレート16上において、副走査機構14により副走査方向に移動可能に支持されている。ステージ12は、中段支持プレート17上において、回転機構15により鉛直軸周りに回転可能に支持されている。ステージ12は、基板Wを載置可能な上面を有する。また、ステージ12の上面には、基板Wを保持するためのチャックピンや、基板Wを吸着する複数の吸着孔が設けられている。
【0035】
主走査機構13は、基台11に対して下段支持プレート16を、主走査方向に移動させる機構である。主走査機構13は、一対の直進機構60を有する。一対の直進機構60は、基台11の上面の副走査方向の両端部に設けられている。
図2および
図4に示すように、一対の直進機構60は、それぞれ、リニアモータ61とエアガイド62とを有する。
【0036】
リニアモータ61は、固定子611および移動子612を有する。固定子611は、基台11の上面に、主走査方向に沿って敷設されている。すなわち、一対の固定子611は、互いに平行に配置されている。移動子612は、後述するエアベアリング622を介して、下段支持プレート16に固定されている。
【0037】
また、主走査機構13は、リニアモータ61の動作を制御するための制御基板63を有する。制御基板63には、例えばサーボパック(登録商標)が用いられる。制御基板63は、制御部40と電気的に接続されている。リニアモータ61の駆動時には、制御部40からの指令に従って、制御基板63が、リニアモータ61において発生させるべきトルクを算出する。そして、算出されたトルクに応じた駆動信号を、各リニアモータ61の固定子611へ供給する。そうすると、固定子611と移動子612との間に生じる磁気的な吸引力および反発力によって、移動子612が、固定子611に沿って主走査方向に移動する。
【0038】
エアガイド62は、ガイドレール621およびエアベアリング622を有する。ガイドレール621は、基台11の上面に、主走査方向に沿って敷設されている。すなわち、リニアモータ61の固定子611と、エアガイド62のガイドレール621とは、互いに平行に配置されている。エアベアリング622は、下段支持プレート16と移動子612とに、固定されている。また、エアベアリング622は、ガイドレール621の上方に配置されている。
【0039】
図4に示すように、エアベアリング622の下面には、気体吹出口623が設けられている。搬送装置10の稼働時には、工場のユーティリティからエアベアリング622に常に気体が供給され、気体吹出口623からガイドレール621の上面に向けて、加圧された気体が吹き出される。これにより、エアベアリング622は、ガイドレール621上に非接触で浮上支持される。したがって、リニアモータ61を駆動させると、下段支持プレート16は、エアガイド62により浮上支持された状態で、主走査方向に沿って低摩擦で滑らかに移動する。
【0040】
副走査機構14は、下段支持プレート16に対して中段支持プレート17を、副走査方向に移動させる機構である。副走査機構14は、リニアモータ71と、一対のガイド機構72とを有する。
【0041】
リニアモータ71は、下段支持プレート16の上面の主走査方向の略中央に設けられている。リニアモータ71は、固定子711および移動子712を有する。固定子711は、下段支持プレート16の上面に、副走査方向に沿って敷設されている。移動子712は、中段支持プレート17に対して固定されている。リニアモータ71の駆動時には、固定子711と移動子712との間に生じる磁気的な吸引力および反発力により、移動子712が、固定子711に沿って副走査方向に移動する。
【0042】
一対のガイド機構72は、下段支持プレート16の上面の主走査方向の両端部に設けられている。一対のガイド機構72は、それぞれ、ガイドレール721とボールベアリング722とを有する。ガイドレール721は、下段支持プレート16の上面に、副走査方向に沿って敷設されている。ボールベアリング722は、中段支持プレート17の下面に固定されている。また、ボールベアリング722は、ガイドレール721に沿って、副走査方向に移動可能である。したがって、リニアモータ71を駆動させると、中段支持プレート17は、下段支持プレート16に対して、副走査方向に移動する。
【0043】
回転機構15は、中段支持プレート17に対するステージ12の鉛直軸周りの角度を調整する機構である。回転機構15には、例えばモータが用いられる。モータを動作させると、中段支持プレート17に対してステージ12が、鉛直軸周りに回転する。これにより、ステージ12の鉛直軸周りの角度(ヨーイング角度)θを調整することができる。
【0044】
このように、ステージ12は、主走査機構13、副走査機構14、および回転機構15により、基台11に対して、主走査方向および副走査方向に移動可能であるとともに、ヨーイング角度θを調整することが可能となっている。
【0045】
図1および
図2に示すように、この搬送装置10には、姿勢計測装置80を設置することが可能である。姿勢計測装置80は、ステージ12のヨーイング角度θを計測するための装置である。姿勢計測装置80は、ステージ12に固定されるミラー81と、レーザ干渉計82とを有する。ミラー81は、ステージ12の主走査方向の端縁部に固定される。レーザ干渉計82は、基台11の上面に固定される。レーザ干渉計82は、ミラー81へ向けて2本のレーザ光を照射する。そして、ミラー81から反射する2本のレーザ光の干渉により、2本のレーザ光の光路差を検出する。そして、当該光路差に基づいて、ステージ12のヨーイング角度θを計測する。
【0046】
姿勢計測装置80は、後述する事前学習処理を行う場合に設置される。事前学習が完了した後は、姿勢計測装置80を取り外して、搬送装置10を使用することができる。
【0047】
<3.ステージ姿勢推定装置について>
<3-1.ステージ姿勢推定装置の構成>
続いて、搬送装置10に搭載されるステージ姿勢推定装置18について、説明する。
図5は、ステージ姿勢推定装置18の構成を示したブロック図である。ステージ姿勢推定装置18は、主走査機構13から出力される計測値に基づいて、ステージ12のヨーイング角度θを推定する装置である。
図5に示すように、ステージ姿勢推定装置18は、入力データ取得部91と、姿勢推定部92とを備える。入力データ取得部91は、計測値入力部911と、入力データ生成部912とを有する。姿勢推定部92は、複数の学習済みモデルM1,M2,M3,・・・と、推定値決定部921とを有する。
【0048】
ステージ姿勢推定装置18は、CPU等のプロセッサ、RAM等のメモリ、およびハードディスクドライブ等の記憶部を有するコンピュータにより構成される。計測値入力部911、入力データ生成部912、および推定値決定部921の各機能は、記憶部に記憶されたコンピュータプログラムに従ってプロセッサが動作することにより、実現される。
【0049】
学習済みモデルM1,M2,M3,・・・は、機械学習アルゴリズムを用いた事前学習により、パラメータが調整された推論プログラムである。学習済みモデルM1,M2,M3,・・・を得るための機械学習アルゴリズムとしては、例えば、一層ニューラルネットワークやディープラーニング等を含むニューラルネットワーク、ランダムフォレストや勾配ブースティング等を含む決定木系アルゴリズム、サポートベクトルマシンといった、いわゆる教師あり機械学習アルゴリズムが用られる。複数の学習済みモデルM1,M2,M3,・・・は、それぞれ、異なる機械学習アルゴリズムにより生成されたものである。
【0050】
なお、ステージ姿勢推定装置18は、上述した制御部40と同一のコンピュータにより構成されていてもよく、制御部40とは別のコンピュータにより構成されていてもよい。
【0051】
<3-2.ステージ姿勢推定装置の事前学習>
続いて、ステージ姿勢推定装置18において予め実行される事前学習処理について、説明する。
図6は、事前学習処理の流れを示すフローチャートである。
【0052】
事前学習処理を行うときには、搬送装置10に、上述した姿勢計測装置80を設置する(ステップS11)。そして、主走査機構13を動作させつつ、次のステップS12~S15を繰り返し実行する。
【0053】
まず、計測値入力部911に、制御基板63から出力される計測値が入力される(ステップS12)。計測値は、例えば、主走査機構13の一対のリニアモータ61のトルク値とされる。ただし、計測値入力部911へ入力される計測値は、エアベアリング622の空気圧、ガイドレール621の温度、搬送装置10の駆動音、ステージ12の振動、ステージ12の位置などの他の項目を、各種センサ50により計測したものであってもよい。
【0054】
次に、入力データ生成部912が、計測値入力部911に入力された計測値に基づいて、入力データdを生成する(ステップS13)。例えば、計測値が一対のリニアモータ61のトルク値である場合には、入力データ生成部912は、それらのトルク値の差分を算出する。そして、算出された差分の時系列データから、不要な周波数を除去することにより、入力データdを生成する。計測値入力部911に入力される計測値が、トルク値以外の場合にも、入力データ生成部912は、所定の演算やフィルタ処理を行うことにより、機械学習に適した入力データdを生成する。
【0055】
なお、入力データ生成部912は、計測値入力部911に入力された計測値そのものを、入力データdとしてもよい。すなわち、入力データ生成部912は、搬送機構から出力される計測値、または、計測値に所定の演算やフィルタ処理を行うことにより算出される値を、入力データdとすればよい。
【0056】
続いて、姿勢推定部92は、入力データ生成部912により生成された入力データdを入力とし、姿勢計測装置80の計測結果θmを教師データとして、機械学習を行う(ステップS14)。すなわち、姿勢推定部92は、上述した機械学習アルゴリズムにより、入力データdと、姿勢計測装置80の計測結果θmとの関係を学習する。本実施形態の姿勢推定部92は、このステップS14の機械学習を、複数の異なる機械学習アルゴリズムにより、並行して行う。したがって、ステップS14の機械学習により、複数の異なる学習済みモデルM1,M2,M3,・・・が生成される。
【0057】
姿勢推定部92は、ステップS14の機械学習により生成される学習済みモデルM1,M2,M3,・・・の推定精度が、所望のレベルに達していない場合には(ステップS15:no)、上述したステップS12~S14の処理を繰り返す。このように、機械学習を繰り返すことにより、学習済みモデルM1,M2,M3,・・・の推定精度が、次第に向上する。
【0058】
やがて、各学習済みモデルM1,M2,M3,・・・の推定精度が所望のレベルに達したと判断されると、姿勢推定部92は、機械学習を終了する(ステップS15:yes)。そして、搬送装置10から姿勢計測装置80が取り外される(ステップS16)。
【0059】
<3-3.ステージ姿勢推定装置の推定処理>
続いて、ステージ姿勢推定装置18によるヨーイング角度θの推定処理について、説明する。この推定処理は、上述した事前学習処理が完了した後、搬送装置10を動作させるときに実行される。
図7は、推定処理の流れを示したフローチャートである。
【0060】
推定処理を行うときには、まず、計測値入力部911に、制御基板63から出力される計測値が入力される(ステップS21)。ここでは、上述したステップS12と同種の計測値が入力される。例えば、ステップS12において入力される計測値が、一対のリニアモータ61のトルク値である場合には、ステップS21において入力される計測値も、一対のリニアモータ61のトルク値とされる。
【0061】
次に、入力データ生成部912が、計測値入力部911に入力された計測値に基づいて、入力データdを生成する(ステップS22)。ここでは、上述したステップS13と同一の処理が実行される。すなわち、ステップS13において実行される処理が、差分の算出およびフィルタ処理である場合には、ステップS22においても、差分の算出およびフィルタ処理を実行することにより、入力データdが生成される。
【0062】
続いて、姿勢推定部92は、生成された入力データdを、複数の学習済みモデルM1,M2,M3,・・・に、それぞれ入力する(ステップS23)。そうすると、各学習済みモデルM1,M2,M3,・・・は、入力データdに対応するステージ12のヨーイング角度θの仮推定値θ1,θ2,θ3,・・・を出力する。これにより、1つの入力データdに対して、複数の仮推定値θ1,θ2,θ3,・・・が得られる(ステップS24)。
【0063】
その後、姿勢推定部92の推定値決定部921が、複数の仮推定値θ1,θ2,θ3,・・・に基づいて、1つの推定結果θrを決定する(ステップS25)。具体的には、例えば、推定値決定部921は、複数の仮推定値θ1,θ2,θ3,・・・の平均値を算出し、算出された平均値を推定結果θrとして決定する。ただし、推定値決定部921は、他の方法で、推定結果θrを決定してもよい。
【0064】
図8は、推定値決定部921による推定結果の決定方法の第2の例を示すフローチャートである。
図8の例では、学習済みモデルM1,M2,M3,・・・のそれぞれに対して、予め加重比率w1,w2,w3,・・・が設定されている。加重比率w1,w2,w3,・・・は、ステージ姿勢推定装置18を構成するコンピュータの記憶部に、予め記憶されている。推定値決定部921は、まず、記憶部から加重比率w1,w2,w3,・・・を読み出す(ステップS31)。そして、推定値決定部921は、読み出した加重比率w1,w2,w3,・・・を用いて、複数の仮推定値θ1,θ2,θ3,・・・の加重平均値を算出し、算出された加重平均値を、推定結果θrとする(ステップS32)。
【0065】
例えば、3つの学習済みモデルM1,M2,M3を使用する場合、ステップS32において、加重平均を用いた推定結果θrは、次の式(1)により算出することができる。
θr=(w1・θ1+w2・θ2+w3・θ3)/(w1+w2+w3) (1)
【0066】
複数の学習済みモデルM1,M2,M3,・・・の中で、特に推定精度の高い学習済みモデルや、重視すべき学習済みモデルが存在する場合、その学習済みモデルの加重比率を、相対的に高く設定しておくとよい。そうすれば、上記のように加重平均値を算出することで、より好ましい推定結果θrを得ることができる。
【0067】
図9は、推定値決定部921による推定結果の決定方法の第3の例を示すフローチャートである。
図9の例では、学習済みモデルM1,M2,M3,・・・のそれぞれに対応する加重比率w1,w2,w3,・・・が、固定値ではなく、主走査機構13の動作状態に応じて変化する。推定値決定部921は、まず、主走査機構13の動作状態を表す状態変数を取得する(ステップS41)。状態変数は、上述した計測値入力部911に入力される計測値であってもよく、他のセンサにより取得される変数であってもよく、あるいは、制御部40に対してユーザが設定する動作モードなどであってもよい。
【0068】
推定値決定部921は、取得した状態変数に基づいて、加重比率w1,w2,w3,・・・を変更する(ステップS42)。これにより、主走査機構13の動作状態に応じて、高い推定精度を発揮できる学習済みモデルの加重比率を高くする。例えば、ある状態変数により表される動作状態において、複数の学習済みモデルM1,M2,M3,・・・のうち、特に学習済みモデルM2の推定精度が高い場合には、推定値決定部921は、加重比率w2の値が相対的に高くなるように、複数の加重比率w1,w2,w3,・・・を変更する。
【0069】
その後、推定値決定部921は、変更後の加重比率w1,w2,w3,・・・を用いて、複数の仮推定値θ1,θ2,θ3,・・・の加重平均値を算出し、算出された加重平均値を、推定結果θrとする(ステップS43)。
【0070】
このように、動作状態に応じて加重比率w1,w2,w3,・・・を変更すれば、動作状態毎に、重視する学習済みモデルを変更できる。したがって、動作状態毎に、高い推定精度を発揮できる学習済みモデルの加重比率を高くして、より精度のよい推定結果θrを得ることができる。
【0071】
図10は、推定値決定部921による推定結果の決定方法の第4の例を示すフローチャートである。
図10の例では、推定値決定部921は、まず、主走査機構13の動作状態を表す状態変数を取得する(ステップS51)。状態変数は、上述した計測値入力部911に入力される計測値であってもよく、他のセンサにより取得される変数であってもよく、あるいは、制御部40に対してユーザが設定する動作モードなどであってもよい。
【0072】
推定値決定部921は、取得した状態変数に基づいて、複数の仮推定値θ1,θ2,θ3,・・・のうちのいずれか1つを選択し、選択された仮推定値を推定結果θrとする(ステップS52)。例えば、ある状態変数により表される動作状態において、複数の学習済みモデルM1,M2,M3,・・・のうち、特に学習済みモデルM2の推定精度が高い場合には、推定値決定部921は、当該学習済みモデルM2から出力された仮推定値θ2を、推定結果θrとする。
【0073】
すなわち、この例では、動作状態に応じて、複数の学習済みモデルM1,M2,M3,・・・から出力される複数の仮推定値θ1,θ2,θ3,・・・のうちのいずれか1つを採用する。このようにすれば、動作状態毎に、高い推定精度を発揮できる学習済みモデルを選択して、精度のよい推定結果θrを得ることができる。
【0074】
図7に戻る。ヨーイング角度θの推定結果θrが決定されると、推定値決定部921は、その推定結果θrを、制御部40へ出力する(ステップS26)。その後、制御部40は、姿勢推定部92から出力されるヨーイング角度θの推定結果θrに基づいて、ステージ12のヨーイング角度θを補正する(ステップS27)。具体的には、制御部40は、回転機構15を動作させるか、あるいは、一対のリニアモータ61のいずれかのトルク値を調整する。これにより、ステージ12のヨーイング角度θが、所望の値に近づくように補正される。
【0075】
以上のように、この搬送装置10では、主走査機構13から出力される計測値または計測値に基づいて算出される値である入力データdに基づいて、ステージ12のヨーイング角度θを推定する。これにより、大掛かりな姿勢計測装置80を常時設置することなく、ステージ12のヨーイング角度θを推定できる。
【0076】
また、この搬送装置10では、複数の学習済みモデルM1,M2,M3,・・・から出力される複数の仮推定値θ1,θ2,θ3,・・・に基づいて、1つの推定結果θrを出力する。このため、搬送装置10の多くの動作状況において高い推定精度を実現できる。また、本実施形態では、複数の学習済みモデルM1,M2,M3,・・・が、それぞれ異なる機械学習アルゴリズムにより生成されたものである。このため、ある機械学習アルゴリズムにおいて高い推定精度を発揮しにくい動作状況において、他の機械学習アルゴリズムがそれを補完することができる。これにより、より多くの動作状況において、ステージ12のヨーイング角度θを精度よく推定できる。
【0077】
<4.変形例>
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、上記の実施形態に限定されるものではない。
【0078】
上記の実施形態では、計測値入力部911は、リニアモータ61のトルク値を、制御基板63から取得していた。しかしながら、計測値入力部911は、他の方法で、リニアモータ61のトルク値を取得してもよい。例えば、直進機構60の各リニアモータ61にトルクセンサを取り付け、そのトルクセンサからトルク値を取得してもよい。
【0079】
また、上記の実施形態では、全ての学習済みモデルM1,M2,M3,・・・に、同一の入力データdが入力されていた。しかしながら、入力データ生成部912は、計測値入力部911に入力された計測値に対して、学習済みモデル毎に異なる処理を施してもよい。そして、複数の学習済みモデルM1,M2,M3,・・・に、異なる処理により生成された異なる入力データを入力してもよい。このようにすれば、各学習済みモデルに対して、より適した入力データを入力できる。
【0080】
また、上記実施形態の搬送装置10は、主走査機構13だけではなく、副走査機構14および回転機構15を備えていた。しかしながら、本発明は、副走査機構14および回転機構15を備えていない搬送装置を対象とするものであってもよい。
【0081】
また、上記実施形態の搬送装置10は、描画装置1に搭載されていた。しかしながら、本発明は、描画装置1以外の装置に搭載される搬送装置を対象とするものであってもよい。例えば、搬送装置は、ステージ上に保持された基板に対して処理液を塗布する装置に搭載されるものであってもよい。また、搬送装置は、ステージ上に保持された記録媒体に対して印刷を行う装置に搭載されるものであってもよい。
【0082】
また、上記の実施形態では、事前学習処理において、レーザ干渉計82により、ステージ12のヨーイング角度θを実測していた。しかしながら、ステージ12のヨーイング角度θは、他の方法で実測してもよい。例えば、カメラにより取得したステージ12の画像に基づいて、ステージ12のヨーイング角度θを実測してもよい。
【0083】
また、上記の実施形態の直進機構60は、リニアモータ61を有するものであった。しかしながら、リニアモータ61に代えて、回転モータから出力される回転運動をボールネジにより直進運動に変換する機構を用いてもよい。
【0084】
また、上記の実施形態や変形例に登場した各要素を、矛盾が生じない範囲で、適宜に組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0085】
1 描画装置
10 搬送装置
11 基台
12 ステージ
13 主走査機構
14 副走査機構
15 回転機構
16 下段支持プレート
17 中段支持プレート
18 ステージ姿勢推定装置
20 フレーム
30 描画処理部
40 制御部
50 センサ
60 直進機構
61 リニアモータ
62 エアガイド
63 制御基板
80 姿勢計測装置
91 入力データ取得部
92 姿勢推定部
911 計測値入力部
912 入力データ生成部
921 推定値決定部
M1,M2,M3 学習済みモデル
W 基板
d 入力データ
θ ヨーイング角度
θ1,θ2,θ3 仮推定値
θr 推定結果