(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-06
(45)【発行日】2023-11-14
(54)【発明の名称】ポリフェニレンサルファイド樹脂組成物、成形品および押出成形品
(51)【国際特許分類】
C08L 81/02 20060101AFI20231107BHJP
C08L 83/04 20060101ALI20231107BHJP
C08K 7/02 20060101ALI20231107BHJP
C08K 3/013 20180101ALI20231107BHJP
C08G 75/0281 20160101ALI20231107BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20231107BHJP
C08J 5/04 20060101ALI20231107BHJP
【FI】
C08L81/02
C08L83/04
C08K7/02
C08K3/013
C08G75/0281
C08J5/18 CEZ
C08J5/04
(21)【出願番号】P 2020040853
(22)【出願日】2020-03-10
【審査請求日】2022-10-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000222406
【氏名又は名称】東レプラスチック精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091384
【氏名又は名称】伴 俊光
(74)【代理人】
【識別番号】100125760
【氏名又は名称】細田 浩一
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 洋一
(72)【発明者】
【氏名】奥田 侑希
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 圭
【審査官】櫛引 智子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/064499(WO,A1)
【文献】特開2015-081331(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L,C08K,C08G,C08J
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)重量平均分子量Mwが60000以上であるポリフェニレンサルファイド樹脂100重量部に対して、(B)シリコーンパウダー0.01~10重量部、および(C)繊維状充填材10~200重量部を配合してなり、
前記(A)重量平均分子量Mwが60000以上であるポリフェニレンサルファイド樹脂がアルカリ土類金属を含み、溶融結晶化ピーク温度が195℃以上220℃以下であることを特徴とするポリフェニレンサルファイド樹脂組成物。
【請求項2】
(A)重量平均分子量Mwが60000以上であるポリフェニレンサルファイド樹脂100重量部に対して、(B)シリコーンパウダー0.01~10重量部、および(C)繊維状充填材10~200重量部を配合してなり、前記(B)シリコーンパウダーが、ジメチルポリシロキサンを含むとともに、該(B)シリコーンパウダーがシリカ含有ジメチルポリシロキサンであり、溶融結晶化ピーク温度が195℃以上220℃以下であることを特徴とす
るポリフェニレンサルファイド樹脂組成物。
【請求項3】
前記(B)シリコーンパウダーがアモルファスヒュームドシリカ含有ジメチルポリシロキサンであることを特徴とする請求項
2に記載のポリフェニレンサルファイド樹脂組成物。
【請求項4】
前記(C)繊維状充填材の繊維径が、9μm以下であることを特徴とする請求項1~
3のいずれかに記載のポリフェニレンサルファイド樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1~
4のいずれかに記載のポリフェニレンサルファイド樹脂組成物からなる成形品。
【請求項6】
請求項1~
4のいずれかに記載のポリフェニレンサルファイド樹脂組成物からなる押出成形品。
【請求項7】
前記押出成形品の形状が、板、丸棒、および中空形状の丸棒から選択されるいずれかであることを特徴とする請求項
6に記載の押出成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリフェニレンサルファイド樹脂が有する優れた機械的強度を損なうことなく、割れが発生せず、成形品外観が優れると共に、ボイドが低減されたポリフェニレンサルファイド樹脂組成物および成形品に関するものである。その成形品は、切削、穴あけ、切断などの機械加工を施して所望の形状を具備することに適した押出成形品である。
【背景技術】
【0002】
ポリフェニレンサルファイド(以下PPSと略す)樹脂は、耐熱性、難燃性、耐薬品性、電気絶縁性、耐湿熱性および機械的強度や寸法安定性などに優れたエンジニアリングプラスチックであり、射出成形や押出成形などの各種成形法により、各種成形品や繊維、フィルムなどに成形可能であるため、電気・電子部品、機械部品および自動車部品など広範な分野において実用に供されている。
【0003】
一方、立体形状や複雑な形状を有する樹脂成形物は、一般に射出成形により成形されている。射出成形によれば、所望の形状を有する樹脂部品などの成形物を大量に生産することができるが、電機・電子分野などの部品には高い寸法精度が要求されるため、当然のことながら、射出成形用金型にも高い寸法精度が必要となる。また、成形物は射出成形後の収縮や残留応力により変形することが多いため、成形物の形状や樹脂材料の特性に応じて、射出成形用の金型を精密に調整する必要がある。そのため、射出成形用の金型は、製作期間が長く、製作費も高価となる。
【0004】
そのため、樹脂材料を押出成形して、平板、丸棒などの各種形状を有する成形品を作成し、切削、穴あけ、切断などの機械加工を施して所望の形状を持つ二次加工物を製造する方法が知られている。この方法は、高価な金型が不要なため、生産量の少ない成形物を比較的低コストで製造できること、射出成形では困難な複雑な形状の成形物を製造できる利点がある。
【0005】
しかしながら、如何なる樹脂材料でも適用可能なわけではなく、とりわけPPS樹脂はナイロンなどの他の樹脂と比較してガス発生量が多く、成形品へのガス巻き込みを抑制するため、押出速度を低速で設定する必要があるが、押出速度が低速な場合は、樹脂の充填途中で固化が始まり、成形中にクラック、ボイド、色むらなどが発生するため、PPS樹脂は押出成形することが難しい。中でもガラス繊維などを配合するPPS樹脂は靭性が低下するため、収縮による応力緩和が出来ずにクラックなどの成形不良が特に発生する問題があった。
【0006】
特許文献1では、大型射出成形に適したポリフェニレンサルファイド樹脂組成物が開示されている。また、特許文献2では、PPS樹脂を押出成形する製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第6070018号
【文献】特開2005-226031号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1では、押出成形に適したPPS樹脂組成物について何ら記述が無い。特許文献2では、PPS樹脂を用いて押出成形する製造方法が開示されているが、固化速度や、クラック、ボイドを改善する点に関する具体的な記述は無い。
【0009】
そこで、本発明では、PPS樹脂が本来有する優れた機械的強度を損なうことなく、割れが発生せず、外観に優れると共に、ボイドが低減されたPPS樹脂組成物を得ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記問題点を解決するために鋭意検討を重ねた結果、本発明に至った。すなわち本発明は、下記を提供するものである。
(1)(A)重量平均分子量Mwが60000以上であるポリフェニレンサルファイド樹脂100重量部に対して、(B)シリコーンパウダー0.01~10重量部、および(C)繊維状充填材10~200重量部を配合してなり、溶融結晶化ピーク温度が195℃以上220℃以下であることを特徴とするポリフェニレンサルファイド樹脂組成物。
(2)前記(A)重量平均分子量Mwが60000以上であるポリフェニレンサルファイド樹脂が、アルカリ土類金属を含むことを特徴とする前記(1)に記載のポリフェニレンサルファイド樹脂組成物。
(3)前記(B)シリコーンパウダーがジメチルポリシロキサンを含むことを特徴とする前記(1)または前記(2)に記載のポリフェニレンサルファイド樹脂組成物。
(4)前記(B)シリコーンパウダーがシリカ含有ジメチルポリシロキサンであることを特徴とする前記(3)に記載のポリフェニレンサルファイド樹脂組成物。
(5)前記(B)シリコーンパウダーがアモルファスヒュームドシリカ含有ジメチルポリシロキサンであることを特徴とする前記(4)に記載のポリフェニレンサルファイド樹脂組成物。
(6)前記(C)繊維状充填材の繊維径が、9μm以下であることを特徴とする前記(1)~(5)のいずれかに記載のポリフェニレンサルファイド樹脂組成物。
(7)前記(1)~(6)のいずれかに記載のポリフェニレンサルファイド樹脂組成物からなる成形品。
(8)前記(1)~(6)のいずれかに記載のポリフェニレンサルファイド樹脂組成物からなる押出成形品。
(9)前記押出成形品の形状が、板、丸棒、および中空形状の丸棒から選択されるいずれかであることを特徴とする前記(8)に記載の押出成形品。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、ポリフェニレンサルファイド樹脂が本来有する優れた機械的強度を損なうことなく、割れが発生せず、外観に優れると共に、ボイドが低減されたポリフェニレンサルファイド樹脂組成物および押出成形品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0013】
本発明で用いられる(A)PPS樹脂は、下記構造式(I)で示される繰り返し単位を有する重合体であり、
【0014】
【0015】
耐熱性の観点からは上記構造式で示される繰り返し単位を含む重合体を80モル%以上、更には90モル%以上含む重合体が好ましい。またPPS樹脂はその繰り返し単位の20モル%未満程度が、下記の構造を有する繰り返し単位等で構成されていてもよい。
【0016】
【0017】
PPS樹脂の融点は230℃以上であることが好ましく、250℃以上であることがより好ましく、270℃以上であることが更に好ましい。
【0018】
以下に、本発明で用いるPPS樹脂の製造方法を述べる。まず、使用するポリハロゲン化芳香族化合物、スルフィド化剤、重合溶媒、分子量調節剤、重合助剤および重合安定剤の内容について説明する。
【0019】
[ポリハロゲン化芳香族化合物]
ポリハロゲン化芳香族化合物とは、1分子中にハロゲン原子を2個以上有する化合物をいう。具体例としては、p-ジクロロベンゼン、m-ジクロロベンゼン、o-ジクロロベンゼン、1,3,5-トリクロロベンゼン、1,2,4-トリクロロベンゼン、1,2,4,5-テトラクロロベンゼン、ヘキサクロロベンゼン、2,5-ジクロロトルエン、2,5-ジクロロ-p-キシレン、1,4-ジブロモベンゼン、1,4-ジヨードベンゼン、1-メトキシ-2,5-ジクロロベンゼンなどのポリハロゲン化芳香族化合物が挙げられ、好ましくはp-ジクロロベンゼンが用いられる。また、異なる2種以上のポリハロゲン化芳香族化合物を組み合わせて共重合体とすることも可能であるが、p-ジハロゲン化芳香族化合物を主要成分とすることが好ましい。
【0020】
ポリハロゲン化芳香族化合物の使用量は、加工に適した粘度のPPS樹脂を得る点から、スルフィド化剤1モル当たり0.9から2.0モル、好ましくは0.95から1.5モル、更に好ましくは1.005から1.2モルの範囲が例示できる。
【0021】
[スルフィド化剤]
スルフィド化剤としては、アルカリ金属硫化物、アルカリ金属水硫化物、および硫化水素が挙げられる。
【0022】
アルカリ金属硫化物の具体例としては、例えば硫化リチウム、硫化ナトリウム、硫化カリウム、硫化ルビジウム、硫化セシウムおよびこれら2種以上の混合物を挙げることができ、なかでも硫化ナトリウムが好ましく用いられる。これらのアルカリ金属硫化物は、水和物または水性混合物として、あるいは無水物の形で用いることができる。
【0023】
アルカリ金属水硫化物の具体例としては、例えば水硫化ナトリウム、水硫化カリウム、水硫化リチウム、水硫化ルビジウム、水硫化セシウムおよびこれら2種以上の混合物を挙げることができ、なかでも水硫化ナトリウムが好ましく用いられる。これらのアルカリ金属水硫化物は、水和物または水性混合物として、あるいは無水物の形で用いることができる。
【0024】
また、アルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物から、反応系においてin situで調製されるスルフィド化剤も用いることができる。また、アルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物からスルフィド化剤を調整し、これを重合槽に移して用いることができる。
【0025】
あるいは、水酸化リチウム、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属水酸化物と硫化水素から反応系においてin situで調製されるスルフィド化剤も用いることができる。また、水酸化リチウム、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属水酸化物と硫化水素からスルフィド化剤を調整し、これを重合槽に移して用いることができる。
【0026】
仕込みスルフィド化剤の量は、脱水操作などにより重合反応開始前にスルフィド化剤の一部損失が生じる場合には、実際の仕込み量から当該損失分を差し引いた残存量を意味するものとする。
【0027】
なお、スルフィド化剤と共に、アルカリ金属水酸化物および/またはアルカリ土類金属水酸化物を併用することも可能である。アルカリ金属水酸化物の具体例としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウムおよびこれら2種以上の混合物を好ましいものとして挙げることができ、アルカリ土類金属水酸化物の具体例としては、例えば水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム、水酸化バリウムなどが挙げられ、なかでも水酸化ナトリウムが好ましく用いられる。
【0028】
スルフィド化剤として、アルカリ金属水硫化物を用いる場合には、アルカリ金属水酸化物を同時に使用することが特に好ましいが、この使用量はアルカリ金属水硫化物1モルに対し0.95から1.20モル、好ましくは1.00から1.15モル、更に好ましくは1.005から1.100モルの範囲が例示できる。
【0029】
[重合溶媒]
重合溶媒としては有機極性溶媒を用いることが好ましい。具体例としては、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドンなどのN-アルキルピロリドン類、N-メチル-ε-カプロラクタムなどのカプロラクタム類、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、ヘキサメチルリン酸トリアミド、ジメチルスルホン、テトラメチレンスルホキシドなどに代表されるアプロチック有機溶媒、およびこれらの混合物などが挙げられ、これらはいずれも反応の安定性が高いために好ましく使用される。これらのなかでも、特にN-メチル-2-ピロリドン(以下、NMPと略記することもある)が好ましく用いられる。
【0030】
有機極性溶媒の使用量は、スルフィド化剤1モル当たり2.0モルから10モル、好ましくは2.25から6.0モル、より好ましくは2.5から5.5モルの範囲が選択される。
【0031】
[分子量調節剤]
生成するPPS樹脂の末端を形成させるか、あるいは重合反応や分子量を調節するなどのために、モノハロゲン化合物(必ずしも芳香族化合物でなくともよい)を、上記ポリハロゲン化芳香族化合物と併用することができる。
【0032】
[重合助剤]
比較的高重合度のPPS樹脂をより短時間で得るために重合助剤を用いることも好ましい態様の一つである。ここで重合助剤とは得られるPPS樹脂の粘度を増大させる作用を有する物質を意味する。このような重合助剤の具体例としては、例えば有機カルボン酸塩、水、アルカリ金属塩化物、有機スルホン酸塩、硫酸アルカリ金属塩、アルカリ土類金属酸化物、アルカリ金属リン酸塩およびアルカリ土類金属リン酸塩などが挙げられる。これらは単独であっても、また2種以上を同時に用いることもできる。なかでも、有機カルボン酸塩および/または水が好ましく用いられる。有機カルボン酸塩としてはアルカリ金属カルボン酸塩が好ましい。
【0033】
上記アルカリ金属カルボン酸塩とは、一般式R(COOM)n(式中、Rは、炭素数1~20を有するアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アルキルアリール基またはアリールアルキル基である。Mは、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウムおよびセシウムから選ばれるアルカリ金属である。nは1~3の整数である。)で表される化合物である。アルカリ金属カルボン酸塩は、水和物、無水物または水溶液としても用いることができる。アルカリ金属カルボン酸塩の具体例としては、例えば、酢酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、プロピオン酸ナトリウム、吉草酸リチウム、安息香酸ナトリウム、フェニル酢酸ナトリウム、p-トルイル酸カリウム、およびそれらの混合物などを挙げることができる。
【0034】
アルカリ金属カルボン酸塩は、有機酸と、水酸化アルカリ金属、炭酸アルカリ金属塩および重炭酸アルカリ金属塩よりなる群から選ばれる一種以上の化合物とを、ほぼ等化学当量ずつ添加して反応させることにより形成させてもよい。上記アルカリ金属カルボン酸塩の中で、リチウム塩は反応系への溶解性が高く助剤効果が大きいが高価であり、カリウム、ルビジウムおよびセシウム塩は反応系への溶解性が不十分であると思われるため、安価で、重合系への適度な溶解性を有する酢酸ナトリウムが最も好ましく用いられる。
【0035】
これら重合助剤を用いる場合の使用量は、仕込みアルカリ金属硫化物1モルに対し、通常0.01モル~0.7モルの範囲であり、より高い重合度を得る意味においては0.1~0.6モルの範囲が好ましく、0.2~0.5モルの範囲がより好ましい。
【0036】
また水を重合助剤として用いることは、流動性と高靭性が高度にバランスした樹脂組成物を得る上で有効な手段の一つである。その場合の添加量は、仕込みアルカリ金属硫化物1モルに対し、通常0.5モル~15モルの範囲であり、より高い重合度を得る意味においては0.6~10モルの範囲が好ましく、1~5モルの範囲がより好ましい。
【0037】
これら重合助剤の添加時期には特に指定はなく、後述する前工程時、重合開始時、重合途中のいずれの時点で添加してもよく、また複数回に分けて添加してもよいが、重合助剤としてアルカリ金属カルボン酸塩を用いる場合は前工程開始時或いは重合開始時に同時に添加することが、添加が容易である点からより好ましい。また水を重合助剤として用いる場合は、ポリハロゲン化芳香族化合物を仕込んだ後、重合反応途中で添加することが効果的である。
【0038】
[重合安定剤]
重合反応系を安定化し、副反応を防止するために、重合安定剤を用いることもできる。重合安定剤は、重合反応系の安定化に寄与し、望ましくない副反応を抑制する。副反応の一つの目安としては、チオフェノールの生成が挙げられ、重合安定剤の添加によりチオフェノールの生成を抑えることができる。重合安定剤の具体例としては、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ土類金属水酸化物、およびアルカリ土類金属炭酸塩などの化合物が挙げられる。そのなかでも、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、および水酸化リチウムなどのアルカリ金属水酸化物が好ましい。上述のアルカリ金属カルボン酸塩も重合安定剤として作用するので、本発明で使用する重合安定剤の一つに入る。また、スルフィド化剤としてアルカリ金属水硫化物を用いる場合には、アルカリ金属水酸化物を同時に使用することが特に好ましいことを前述したが、ここでスルフィド化剤に対して過剰となるアルカリ金属水酸化物も重合安定剤となり得る。
【0039】
これら重合安定剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。重合安定剤は、仕込みアルカリ金属硫化物1モルに対して、通常0.02~0.2モル、好ましくは0.03~0.1モル、より好ましくは0.04~0.09モルの割合で使用することが好ましい。この割合が少ないと安定化効果が不十分であり、逆に多すぎても経済的に不利益であり、ポリマー収率が低下する傾向となる。
【0040】
重合安定剤の添加時期には特に指定はなく、後述する前工程時、重合開始時、重合途中のいずれの時点で添加してもよく、また複数回に分けて添加してもよいが、前工程開始時或いは重合開始時に同時に添加することがより好ましい。
【0041】
次に、前工程、重合反応工程、回収工程を、順を追って具体的に説明する。
【0042】
[前工程]
スルフィド化剤は通常水和物の形で使用されるが、ポリハロゲン化芳香族化合物を添加する前に、有機極性溶媒とスルフィド化剤を含む混合物を昇温し、過剰量の水を系外に除去することが好ましい。なお、この操作により水を除去し過ぎた場合には、不足分の水を添加して補充することが好ましい。
【0043】
また、上述したように、スルフィド化剤として、アルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物から、反応系においてin situで、あるいは重合槽とは別の槽で調製されるアルカリ金属硫化物も用いることができる。この方法には特に制限はないが、望ましくは不活性ガス雰囲気下、常温~150℃、好ましくは常温から100℃の温度範囲で、有機極性溶媒にアルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物を加え、常圧または減圧下、少なくとも150℃以上、好ましくは180~245℃まで昇温し、水分を留去させる方法が挙げられる。この段階で重合助剤を加えてもよい。また、水分の留去を促進するために、トルエンなどを加えて反応を行ってもよい。
【0044】
重合反応における、重合系内の水分量は、仕込みスルフィド化剤1モル当たり0.5~10.0モルであることが好ましい。ここで重合系内の水分量とは重合系に仕込まれた水分量から重合系外に除去された水分量を差し引いた量である。また、仕込まれる水は、水、水溶液、結晶水などのいずれの形態であってもよい。
【0045】
[重合反応工程]
有機極性溶媒中でスルフィド化剤とポリハロゲン化芳香族化合物とを200℃以上290℃未満の温度範囲内で反応させることによりPPS樹脂粉粒体を製造することが好ましい。
【0046】
重合反応工程を開始するに際しては、望ましくは不活性ガス雰囲気下、常温~215℃、好ましくは100~215℃の温度範囲で、有機極性溶媒にスルフィド化剤とポリハロゲン化芳香族化合物を加える。この段階で重合助剤を加えてもよい。これらの原料の仕込み順序は、順不同であってもよく、同時であってもさしつかえない。
【0047】
かかる混合物を通常200℃~290℃未満の範囲に昇温する。昇温速度に特に制限はないが、通常0.01~5℃/分の速度が選択され、0.1~3℃/分の範囲がより好ましい。
【0048】
一般に、最終的には250~290℃未満の温度まで昇温し、その温度で通常0.25~50時間、好ましくは0.5~20時間反応させる。
【0049】
最終温度に到達させる前の段階で、例えば200℃~245℃で一定時間反応させた後、270~290℃未満に昇温する方法は、より高い重合度を得る上で有効である。この際、200℃~245℃での反応時間としては、通常0.25~20時間の範囲が選択され、好ましくは0.25~10時間の範囲が選択される。
【0050】
なお、より高重合度のポリマーを得るためには、複数段階で重合を行うことが有効である。複数段階で重合を行う際は、245℃における系内のポリハロゲン化芳香族化合物の転化率が、40モル%以上、好ましくは60モル%に達した時点であることが有効である。
【0051】
[回収工程]
重合終了後に、重合体、溶媒などを含む重合反応物から固形物を回収する。
【0052】
PPS樹脂の最も好ましい回収方法は、急冷条件下に行うことであり、この回収方法の好ましい一つの方法としてフラッシュ法が挙げられる。フラッシュ法とは、重合反応物を高温高圧(通常250℃以上、8kg/cm2以上)の状態から常圧もしくは減圧の雰囲気中へフラッシュさせ、溶媒回収と同時に重合体を粉粒体状にして回収する方法であり、ここでいうフラッシュとは、重合反応物をノズルから噴出させることを意味する。フラッシュさせる雰囲気は、具体的には例えば常圧中の窒素または水蒸気が挙げられ、その温度は通常150℃~250℃の範囲が選択される。
【0053】
フラッシュ法は、溶媒回収と同時に固形物を回収することができ、また回収時間も比較的短くできることから、経済性に優れた回収方法である。この回収方法では、固化過程でNaに代表されるイオン性化合物や有機系低重合度物(オリゴマー)がポリマー中に取り込まれやすい傾向がある。
【0054】
但し、本発明に用いられるPPS樹脂の回収法は、フラッシュ法に限定されるものではない。本発明の要件を満たす方法であれば、徐冷して粒子状のポリマーを回収する方法(クエンチ法)を用いても構わない。特に、優れた靱性を発現する上では、徐冷して粒子状のポリマーを回収するクエンチ方がより好ましい。
【0055】
[後処理工程]
本発明のPPS樹脂は、上記重合、回収工程を経て生成した後、酸処理、熱水処理、有機溶媒による洗浄、アルカリ金属やアルカリ土類金属処理を施されたものであってもよい。
【0056】
酸処理を行う場合は次のとおりである。PPS樹脂の酸処理に用いる酸は、PPS樹脂を分解する作用を有しないものであれば特に制限はなく、酢酸、塩酸、硫酸、リン酸、珪酸、炭酸およびプロピル酸などが挙げられ、なかでも酢酸および塩酸がより好ましく用いられるが、硝酸のようなPPS樹脂を分解、劣化させるものは好ましくない。
【0057】
酸処理の方法は、酸または酸の水溶液にPPS樹脂を浸漬せしめるなどの方法があり必要により適宜撹拌または加熱することも可能である。例えば、酢酸を用いる場合、pH4の水溶液を80~200℃に加熱した中にPPS樹脂粉末を浸漬し、30分間撹拌することにより十分な効果が得られる。処理後のpHは4以上、例えばpH4~8程度となってもよい。酸処理を施されたPPS樹脂は残留している酸または塩などを除去するため、水または温水で数回洗浄することが好ましい。洗浄に用いる水は、酸処理によるPPS樹脂の好ましい化学的変性の効果を損なわない意味で、蒸留水、脱イオン水であることが好ましい。
【0058】
熱水処理を行う場合は次のとおりである。PPS樹脂を熱水処理するにあたり、熱水の温度を100℃以上、より好ましくは120℃以上、さらに好ましくは150℃以上、特に好ましくは170℃以上とすることが好ましい。100℃未満ではPPS樹脂の好ましい化学的変性の効果が小さいため好ましくない。
【0059】
熱水処理によるPPS樹脂の好ましい化学的変性の効果を発現するため、使用する水は蒸留水あるいは脱イオン水であることが好ましい。熱水処理の操作に特に制限は無く、所定量の水に所定量のPPS樹脂を投入し、圧力容器内で加熱、撹拌する方法、連続的に熱水処理を施す方法などにより行われる。PPS樹脂と水との割合は、水の多い方が好ましいが、通常、水1リットルに対し、PPS樹脂200g以下の浴比が選ばれる。
【0060】
また、処理の雰囲気は、末端基の分解が好ましくないので、これを回避するため不活性雰囲気下とすることが望ましい。さらに、この熱水処理操作を終えたPPS樹脂は、残留している成分を除去するため温水で数回洗浄するのが好ましい。
【0061】
有機溶媒で洗浄する場合は次のとおりである。PPS樹脂の洗浄に用いる有機溶媒は、PPS樹脂を分解する作用などを有しないものであれば特に制限はなく、例えばN-メチル-2-ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、1,3-ジメチルイミダゾリジノン、ヘキサメチルホスホラスアミド、ピペラジノン類などの含窒素極性溶媒、ジメチルスルホキシド、ジメチルスルホン、スルホランなどのスルホキシド・スルホン系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、アセトフェノンなどのケトン系溶媒、ジメチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒、クロロホルム、塩化メチレン、トリクロロエチレン、2塩化エチレン、パークロルエチレン、モノクロルエタン、ジクロルエタン、テトラクロルエタン、パークロルエタン、クロルベンゼンなどのハロゲン系溶媒、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、フェノール、クレゾール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのアルコール・フェノール系溶媒およびベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶媒などが挙げられる。これらの有機溶媒のうちでも、N-メチル-2-ピロリドン、アセトン、ジメチルホルムアミドおよびクロロホルムなどの使用が特に好ましい。また、これらの有機溶媒は、1種類または2種類以上の混合で使用される。
【0062】
有機溶媒による洗浄の方法としては、有機溶媒中にPPS樹脂を浸漬せしめるなどの方法があり、必要により適宜撹拌または加熱することも可能である。有機溶媒でPPS樹脂を洗浄する際の洗浄温度については特に制限はなく、常温~300℃程度の任意の温度が選択できる。洗浄温度が高くなる程洗浄効率が高くなる傾向があるが、通常は常温~150℃の洗浄温度で十分効果が得られる。圧力容器中で、有機溶媒の沸点以上の温度で加圧下に洗浄することも可能である。また、洗浄時間についても特に制限はない。洗浄条件にもよるが、バッチ式洗浄の場合、通常5分間以上洗浄することにより十分な効果が得られる。また連続式で洗浄することも可能である。
【0063】
アルカリ金属、アルカリ土類金属処理する方法としては、上記前工程の前、前工程中、前工程後にアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩を添加する方法、重合工程前、重合工程中、重合工程後に重合釜内にアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩を添加する方法、あるいは上記洗浄工程の最初、中間、最後の段階でアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩を添加する方法などが挙げられる。中でももっとも容易な方法としては、有機溶剤洗浄や、温水または熱水洗処理で残留オリゴマーや残留塩を除いた後にアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩を添加する方法が挙げられる。このようなアルカリ金属、アルカリ土類金属処理を施すことにより、アルカリ土類金属を含むPPS樹脂を得ることができる。
【0064】
アルカリ金属、アルカリ土類金属は、酢酸塩、水酸化物、炭酸塩などのアルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオンの形でPPS樹脂中に導入するのが好ましい。また過剰のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩は温水洗浄などにより取り除く方が好ましい。
【0065】
PPS樹脂を、アルカリ土類金属塩を含む水で洗浄する場合の具体的方法としては、以下の方法を例示することができる。アルカリ土類金属塩の種類としては特に制限は無いが、酢酸カルシウム、酢酸マグネシウムなどの水溶性有機カルボン酸のアルカリ土類金属塩、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウムなどのアルカリ土類金属水酸化物が好ましい例として挙げられ、特に酢酸カルシウム、酢酸マグネシウムなどの水溶性有機カルボン酸のアルカリ土類金属塩が好ましい。水の温度は、室温~200℃であることが好ましく、50~90℃であることがより好ましい。上記水中におけるアルカリ土類金属塩の使用量は乾燥PPS樹脂1kgに対し0.1g~50gであることが好ましく、0.5g~30gであることがより好ましい。洗浄時間としては0.5時間以上が好ましく、1.0時間以上がより好ましい。また好ましい洗浄浴比(乾燥PPS樹脂単位重量当たりのアルカリ土類金属塩を含む温水使用重量)は洗浄時間、温度にもよるが、乾燥PPS1kg当たり、上記アルカリ土類金属を含む温水を5kg以上用いて洗浄することが好ましく、10kg以上用いて洗浄することがより好ましい。上限としては特に制限はなく、高くてもよいが、使用量と得られる効果の点から100kg以下であることが好ましい。かかる温水洗浄は複数回行ってもよい。本発明のPPS樹脂は、アルカリ土類金属を50ppm以上含有していることが好ましく、100ppm以上がより好ましく、200ppm以上がさらに好ましい。アルカリ土類金属含有量の上限は特に限定しないが、機械強度に影響を与えるので1000ppm以下であることが好ましく例示できる。また、アルカリ土類金属の種類としては、滞留安定性に優れる観点から、カルシウムであることが好ましい。
【0066】
なお、アルカリ土類金属の含有量は以下に従って測定することができる。白金皿を純水で洗浄後、700℃で1時間焼成しデシケーター内で乾燥する。本白金皿の重量を、化学天秤を用いて0.1mgまで精秤する。この値をAgとする。次に、ボリマー試料を白金皿の中におよそ5g採り、白金皿と試料の合計量を化学天秤で0.1mgまで精秤する。この値をBgとする。その後、ステンレスバットにボリマー試料の入った白金皿を乗せ、440℃にセットされた高温オーブン内に入れ5時間焼成し、次いで高温オーブン設定を500℃に上げ、500℃に達してから5時間焼成する。処理後、高温オーブン温度が300℃以下になるまで冷却し、300℃以下に達した後白金皿を乗せたステンレスバットを取り出し、デシケーター内で処理後の白金皿を12時間保管する。その後、白金皿をデシケーター中から取り出し、538℃で安定しているマッフル炉に入れ、6時間焼成する。処理後、白金皿をマッフル炉から取り出し、試料中に炭化物(黒色)が完全に無くなっていることを確認する。なお、僅かでも炭化物が認められる場合は、焼成をさらに実施する。焼成終了後、マッフル炉から白金皿を取り出し、汚れのないステンレスバットに乗せデシケーター内で30分冷却する。次いで、白金皿内に純水:塩酸=1:1(体積比)(以下1:1塩酸と称する)の液体を2ml加える。塩酸は特級品を使用する。その後、ホットプレートを用い1:1塩酸の入った白金皿を加熱する。加熱は溶液が緩く沸騰する程度で実施する。蒸発乾固近くまでになったら加熱を止め、白金皿を室温に冷却する。その後、TPX製50mlメスフラスコにTPX製ロートを用いて白金皿の内容物をイオン交換水で洗浄しながら数回に分けメスフラスコ内に入れ、メスフラスコの標線をイオン交換水で合わせる。このように調整した試料液を用い、イオン交換水をブランクとして原子吸光測定装置を用いて測定実施し、測定値を得る。なお、測定前には分析する金属と同じ金属を含む標準液を用い検量線を作成し、本検量線を基に金属濃度を算出する。測定値が検量線を外れる場合、試料液をXml採取し、イオン交換水で希釈しYmlにし、検量線の範囲に来るよう濃度を調整する。このように調整した試料液を用い測定した値をCppmとする。以上の数値を用い、以下に従って金属濃度を算出する。
濃度[ppm]=C/(B-A)×50×Y/X
【0067】
本発明で用いられるPPS樹脂の重量平均分子量Mwは60000以上の範囲が選択され、70000以上であることがより好ましい。Mwが60000未満では、押出成形時において成形品の形状不良や成形品に割れが発生するため好ましくない。Mwの上限は特に限定しないが、押出成形時の流動性が悪化する観点から、100000以下が好ましく、95000以下であることがより好ましく、90000以下であることがさらに好ましく例示できる。
【0068】
本発明においては、分子量の高いPPS樹脂組成物を得る観点から、有機溶媒洗浄と80℃程度の温水または前記した熱水洗浄を数回繰り返すことにより残留オリゴマーや残留塩を除いた後、酸処理もしくはアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩で処理する方法が好ましい。特に、溶融結晶化ピーク温度の観点から、アルカリ土類金属塩を含む水溶液による洗浄処理を施したPPS樹脂を用いることが好ましく、また、酸洗浄処理を施したPPS樹脂と併用してもよい。ここで溶融結晶化ピーク温度とは、PPS樹脂およびPPS樹脂組成物をパーキンエルマー社製DSC7を用い、サンプル量約10mg、窒素雰囲気下、昇温・降温速度20℃/分で、50℃から340℃まで昇温し、340℃で5分間ホールド後、100℃まで降温した際に検出される結晶化ピークを示す温度を指す。この温度が高いほど結晶化速度が速いことを示す。通常アルカリ土類金属を200~2000ppm含有するPPS樹脂は、結晶化速度が遅くなる、すなわち溶融結晶化ピーク温度が低くなる傾向にある。結晶化速度が遅いと、射出成形などで成形した場合、固化が遅くなるため、成形時の冷却時間が長くなり、単位時間当たりの成形片取得数が減り、経済的に不利益となる。しかしながら、押出成形の場合は、固化速度が速い、すなわち結晶化速度が速いと、押出速度が遅いために樹脂の充填途中で固化が始まり、成形不良が発生する。また、押出成形で得られた成形品は、切削、穴あけ、切断などの機械加工を施して所望の形状を持つ二次加工物を製造することが多いために成形品の厚みが大きい。そのため、押出成形品は成形品の表層と内層で温度差が大きく生じ、体積収縮による影響で、成形品にボイドや割れが発生し易くなる傾向にある。そのため、意図的に結晶化速度を遅くする、すなわち溶融結晶化ピーク温度を低くする必要性がある。PPS樹脂の溶融結晶化ピーク温度は230℃以下であることが好ましく、220℃以下であることがより好ましく、200℃以下がさらに好ましい。溶融結晶化ピーク温度の下限は特に限定しないが、成形性の観点から、170℃以上が好ましい。
【0069】
本発明の樹脂組成物は、PPS樹脂100重量部に対して、(B)シリコーンパウダーを0.01~10重量部配合することが必須である。好ましくは0.03~5重量部の範囲、より好ましくは0.05~2重量部の範囲である。配合量が0.01重量部に満たないと成形品の外観が悪くなり好ましくなく、配合量が10重量部を超えると樹脂組成物の機械的強度、ガス発生量の増加などへの悪影響が大きくなるため好ましくない。シリコーンパウダーはジメチルポリシロキサンを含んでいることが好ましく、分散性の観点から更にシリカ含有ジメチルポリシロキサンが好ましく、シリカはアモルファスヒュームドシリカであることがより一層好ましい。具体的には、例えば、ダウ・東レ株式会社製 DOWSILTM Trefil F-202 Silicone Powder等の市販品を挙げることができる。
【0070】
次に本発明において、PPS樹脂100重量部に対して(C)繊維状充填材を10~200重量部を配合することが必須である。繊維状充填材は、ガラス繊維、炭素繊維、チタン酸カリウィスカー、炭酸カルシウムウィスカー、ワラステナイトウィスカー、硼酸アルミウィスカー、アラミド繊維、アルミナ繊維、炭化珪素繊維、アスベスト繊維、石コウ繊維が挙げられ、これらは2種類以上併用することも可能である。また、これら繊維状充填材をイソシアネート系化合物、有機シラン系化合物、有機チタネート系化合物、有機ボラン系化合物およびエポキシ化合物などのカップリング剤で予備処理して使用することは、より優れた機械的強度を得る意味において好ましい。中でも材料の剛性向上効果を得る上では、繊維状充填材は、ガラス繊維および炭素繊維から選択される少なくとも1種であることが好ましく、さらに材料コストの観点からガラス繊維であることがより好ましい。好ましくは30~130重量部の範囲、より好ましくは50~100重量部の範囲である。配合量が10重量部に満たないと機械的強度が不十分であり好ましくなく、配合量が200重量部を超えると押出成形時の流動性が悪化する観点から好ましくない。機械的強度、溶融結晶化ピーク温度の観点から、繊維状充填材の繊維径は12μm以下であることが好ましく、9μm以下であることがより好ましく、7μm以下がさらに好ましい。繊維径の下限は特に限定しないが、ハンドリング性の観点から、3μm以上が好ましい。
【0071】
本発明のPPS樹脂組成物は、その溶融結晶化ピーク温度が195℃以上220℃以下であることが必要であり、特に200℃以上210℃以下の範囲とすることで、割れを抑制し、ボイドが少なく、外観も良好な成形品が得られることから好適である。一方、樹脂組成物の溶融結晶化ピーク温度が195℃未満であると、押出成形時において成形品の形状不良が発生するため好ましくなく、溶融結晶化ピーク温度が220℃を超えると、成形品にボイドや割れが発生するため好ましくない。なお、本発明において、PPS樹脂組成物の溶融結晶化ピーク温度を上記の範囲とする方法は特に限定されないが、例えば、アルカリ土類金属を含むPPS樹脂を配合する方法が挙げられる。
【0072】
本発明で用いるPPS樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲において、機械的強度、靱性などの向上を目的に、エポキシ基、アミノ基、イソシアネート基、水酸基、メルカプト基およびウレイド基の中から選ばれた少なくとも1種の官能基を有するシラン化合物を添加してもよい。かかる化合物の具体例としては、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランなどのエポキシ基含有アルコキシシラン化合物、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリエトキシシランなどのメルカプト基含有アルコキシシラン化合物、γ-ウレイドプロピルトリエトキシシラン、γ-ウレイドプロピルトリメトキシシラン、γ-(2-ウレイドエチル)アミノプロピルトリメトキシシランなどのウレイド基含有アルコキシシラン化合物、γ-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、γ-イソシアネートプロピルトリメトキシシラン、γ-イソシアネートプロピルメチルジメトキシシラン、γ-イソシアネートプロピルメチルジエトキシシラン、γ-イソシアネートプロピルエチルジメトキシシラン、γ-イソシアネートプロピルエチルジエトキシシラン、γ-イソシアネートプロピルトリクロロシランなどのイソシアネート基含有アルコキシシラン化合物、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシランなどのアミノ基含有アルコキシシラン化合物、およびγ-ヒドロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-ヒドロキシプロピルトリエトキシシランなどの水酸基含有アルコキシシラン化合物などが挙げられる。なかでもエポキシ基、アミノ基、イソシアネート基、水酸基を有するアルコキシシランが優れたウエルド強度を得る上で特に好適である。かかるシラン化合物の好適な添加量は、PPS樹脂100重量部に対し、0.05~3重量部の範囲が選択される。
【0073】
本発明で用いるPPS樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲において、更に他の樹脂をブレンドして用いてもよい。かかるブレンド可能な樹脂には特に制限はないが、その具体例としては、ナイロン6,ナイロン66,ナイロン610、ナイロン11、ナイロン12、芳香族系ナイロンなどのポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリシクロヘキシルジメチレンテレフタレート、ポリナフタレンテレフタレートなどのポリエステル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリオレフィン系エラストマー、ポリエーテルエステルエラストマー、ポリエーテルアミドエラストマー、ポリアミドイミド、ポリアセタール、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホン、ポリサルフォン樹脂、ポリアリルサルフォン樹脂、ポリケトン樹脂、ポリアリレート樹脂、液晶ポリマー、ポリエーテルケトン樹脂、ポリチオエーテルケトン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリアミドイミド樹脂、四フッ化ポリエチレン樹脂、エポキシ基含有ポリオレフィン共重合体、ビニル芳香族化合物系ブロック共重合体などが挙げられる。
【0074】
本発明で用いるPPS樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲において、非繊維充填材を配合してもよい。非繊維状無機充填材は、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウムなどの水酸化物、フラーレン、タルク、ワラステナイト、ゼオライト、セリサイト、マイカ、カオリン、クレー、パイロフィライト、ベントナイト、アスベスト、アルミナシリケートなどの珪酸塩、酸化珪素、酸化マグネシウム、アルミナ、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化鉄などの金属化合物、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ドロマイトなどの炭酸塩、硫酸カルシウム、硫酸バリウムなどの硫酸塩、ガラスビーズ、ガラスフレーク、ガラス粉、セラミックビーズ、窒化ホウ素、炭化珪素、カーボンブラック、黒鉛などを用いることができ、これらは中空であってもよく、さらにはこれらの非繊維状無機充填材は2種類以上を併用することも可能である。また、これらの非繊維状無機充填材をイソシアネート系化合物、有機シラン系化合物、有機チタネート系化合物、有機ボラン系化合物およびエポキシ化合物などのカップリング剤で予備処理して使用してもよい。
【0075】
なお、本発明のPPS樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で他の成分、例えば前記以外の酸化防止剤や耐熱安定剤(ヒンダートフェノール系、ヒドロキノン系、
リン系、ホスファイト系、アミン系、硫黄系およびこれらの置換体等)、耐候剤(レゾルシノール系、サリシレート系、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、ヒンダードアミン系等)、離型剤および滑剤(モンタン酸およびその金属塩、そのエステル、そのハーフエステル、ステアリルアルコール、ステアラミド、ステアラート、ビス尿素およびポリエチレンワックス等)、顔料(硫化カドミウム、フタロシアニン、着色用カーボンブラック等)、染料(ニグロシン等)、可塑剤(p-オキシ安息香酸オクチル、N-ブチルベンゼンスルホンアミド等)、帯電防止剤(アルキルサルフェート型アニオン系帯電防止剤、4級アンモニウム塩型カチオン系帯電防止剤、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレートのような非イオン系帯電防止剤、ベタイン系両性帯電防止剤等)、難燃剤(例えば、赤燐、燐酸エステル、メラミンシアヌレート、ポリリン酸アンモニウム、臭素化ポリスチレン、臭素化ポリフェニレンエーテル、臭素化ポリカーボネート、臭素化エポキシ樹脂あるいはこれらの臭素系難燃剤と三酸化アンチモンとの組み合わせ等)、熱安定剤、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸リチウムなどの滑剤、ビスフェノールA型などのビスフェノールエポキシ樹脂、ノボラックフェノール型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂などの強度向上材、紫外線防止剤、着色剤、および発泡剤などの通常の添加剤を添加することができ、酸化防止剤や耐熱安定剤(ヒンダートフェノール系、ヒドロキノン系、リン系、ホスファイト系、アミン系、硫黄系およびこれらの置換体等)を用いることが好ましい。
【0076】
より好ましくはリン系酸化防止剤とヒンダードフェノール系酸化防止剤が用いられる。その具体例としては、上記リン系、ホスファイト系酸化防止剤として例えば、テトラキス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)-4,4’-ビフェニレンフォスフォナイト、ビス(2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトール-ジ-フォスファイト、2,2-メチレンビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)オクチルフォスファイト、トリフェニルフォスファイト、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)フォスファイト、ジフェニルイソデシルフォスファイト、フェニルジイソデシルフォスファイト、4,4-ブチリデン-ビス(3-メチル-6-t-ブチルフェニル-ジ-トリデシル)フォスファイト、サイクリックネオペンタンテトライルビス(オクタデシルフォスファイト)、サイクリックネオペンタンテトライルビス(2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェニル)フォスファイト、トリス(ノニル・フェニル)フォスファイト、ジイソデシルペンタエリスリトールジフォスファイト、9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-フォスファフェナントレン-10-オキサイド、10-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)-9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-フォスファフェナントレン-10-オキサイド、10-デシロキシ-9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-フォスファフェナントレンなどあるいはこれらの混合物が例示できる。
【0077】
ヒンダードフェノール系酸化防止剤としては、例えばトリエチレングリコール-ビス[3-(3-t-ブチル-5-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、4,4’-ブチリデンビス(3-メチル-6-t-ブチルフェノール)、1,6-ヘキサンジオール-ビス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、2,4-ビス-(n-オクチルチオ)-6-(4-ヒドロキシ-3,5-ジ-t-ブチルアニリノ)-1,3,5-トリアジン、ペンタエリスリチル-テトラキス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、2,2-チオ-ジエチレンビス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2,2-チオビス(4-メチル-6-t-ブチルフェノール)、N,N’-ヘキサメチレンビス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシ-ヒドロシンナマミド)、3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシ-ベンジルフォスフォネート-ジエチルエステル、1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3,5-ジ-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼン、ビス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジルスルホン酸エチルカルシウム、トリス-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)-イソシアヌレイト、2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール、ブチル化ヒドロキシアニソール、2,6-ジ-t-ブチル-4-エチルフェノール、ステアリル-β-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2,2’-メチレンビス-(4-メチル-6-t-ブチルフェノール)、2,2’-メチレン-ビス-(4-エチル-6-t-ブチルフェノール)、4,4’-チオビス-(3-メチル-6-t-ブチルフェノール)、オクチル化ジフェニルアミン、2,4-ビス[(オクチルチオ)メチル]-o-クレゾール、イソオクチル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、4,4’-ブチリデンビス(3-メチル-6-t-ブチルフェノール)、3,9-ビス[1,1-ジメチル-2-[β-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオニルオキシ]エチル]2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン、ベンゼンプロパン酸,3-(1,1-ジメチルエチル)-4-ヒドロキシ-5-メチル-2,4,8,10-テトラオキサピロ[5.5]ウンデカン-3,9-ジイルビス(2,2-ジメチル-2,1-エタンジイル)エステル、1,1,3-トリス(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-t-ブチルフェニル)ブタン、1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼン、ビス[3,3’-ビス-(4’-ヒドロキシ-3’-t-ブチルフェニル)ブチリックアシッド]グリコールエステル、1,3,5-トリス(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシベンジル)-sec-トリアジン-2,4,6-(1H,3H,5H)トリオン、d-α-トコフェロール、3、9-ビス(2-(3-(3-ターシャリーブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオニールオキシ)-1,1-ジメチルエチル)-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカンなど、あるいはこれらの混合物を例示できる。
【0078】
アミン系酸化防止剤としては、例えばコハク酸ジメチル-1-(2-ヒドロキシエチル)-4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン重縮合物、ポリ[{6-(1,1,3,3,-テトラメチルブチル)アミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジイル}{(2,2,6,6,-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ}ヘキサメチレン{(2,2,6,6,-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ}]、2-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)-2-n-ブチルマロン酸ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)、テトラキス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)1,2,3,4-ブタンテトラカルボキシレート、ビス-2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル-セバケート、ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)セバケート、メチル(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)セバケート、1-[2-[3-(3.5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ]エチル]-4-[3-(3,5-t-ブチル-ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ]2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、4-ベンゾイルオキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジンなど、あるいはこれらの混合物が例示できる。
【0079】
硫黄系酸化防止剤としては、例えば4,4’-チオビス (6-t-ブチル-3-メチルフェノール)、ジアルキル(C12-18)3,3’-チオジプロピオネート、ペンタエリスリチル テトラキス(3-ラウリルチオプロピオネート)など、あるいはこれらの混合物が例示できる。
【0080】
PPS樹脂組成物の調製方法には特に制限はないが、各原料を単軸あるいは2軸の押出機、バンバリーミキサー、ニーダーおよびミキシングロールなど通常公知の溶融混合機に供給して、280~380℃の温度で混練する方法などを代表例として挙げることができる。原料の混合順序にも特に制限はなく、全ての原材料を配合後上記の方法により溶融混練する方法、一部の原材料を配合後上記の方法により溶融混練し、更に残りの原材料を配合し溶融混練する方法、あるいは一部の原材料を配合後単軸あるいは2軸の押出機により溶融混練中にサイドフィーダーを用いて残りの原材料を混合する方法などのいずれの方法を用いてもよい。また、少量添加剤成分については、他の成分を上記の方法などで混練しペレット化した後、成形前に添加して成形に供することももちろん可能である。
【0081】
このようにして得られるPPS樹脂組成物は、押出成形、射出成形、ブロー成形、トランスファー成形など各種成形に供することが可能であるが、中でも特に押出成形に適している。特に成形品の形状は板、丸棒、および中空形状の丸棒から選択されるいずれかの形状とする場合に適している。
【0082】
本発明で用いるPPS樹脂組成物は、押出成形性、機械的強度に優れ、ボイドが少ないことから、押出成形で得られた成形品は、切削、穴あけ、切断などの機械加工を施して所望の形状を持つ二次加工物を製造することに適している。
【0083】
上記の方法で得られる加工物の適用可能な用途としては、例えばセンサー、LEDランプ、民生および車載用コネクター、ソケット、抵抗器、リレーケース、スイッチ、コイルボビン、コンデンサー、バリコンケース、発振子、各種端子板、変成器、プラグ、プリント基板、チューナー、スピーカー、マイクロフォン、ヘッドフォン、小型モーター、磁気ヘッドベース、半導体、液晶、FDDキャリッジ、FDDシャーシ、モーターブラッシュホルダー、パラボラアンテナ、コンピューター関連部品などに代表される電気・電子部品;VTR部品、テレビ部品、アイロン、ヘアードライヤー、炊飯器部品、電子レンジ部品、音響部品、オーディオ・レーザーディスク(登録商標)・コンパクトディスクなどの音声機器部品、照明部品、冷蔵庫部品、エアコン部品、タイプライター部品、ワードプロセッサー部品などに代表される家庭、事務電気製品部品への適用も可能である。その他、オフィスコンピューター関連部品、電話器関連部品、ファクシミリ関連部品、複写機関連部品、洗浄用治具、モーター部品、ライター、タイプライターなどに代表される機械関連部品;顕微鏡、双眼鏡、カメラ、時計などに代表される光学機器、精密機械関連部品;バルブオルタネーターターミナル、オルタネーターコネクター、ICレギュレーター、ライトディマー用ポテンシオメーターベース、排気ガスバルブなどの各種バルブ、燃料関係・排気系・吸気系各種パイプ、エアーインテークノズルスノーケル、インテークマニホールド、燃料ポンプ、エンジン冷却水ジョイント、キャブレターメインボディー、キャブレタースペーサー、排気ガスセンサー、冷却水センサー、油温センサー、スロットルポジションセンサー、クランクシャフトポジションセンサー、エアーフローメーター、ブレーキパッド摩耗センサー、エアコン用サーモスタットベース、暖房温風フローコントロールバルブ、ラジエーターモーター用ブラッシュホルダー、ウォーターポンプインペラー、タービンベイン、ワイパーモーター関係部品、デュストリビューター、スタータースイッチ、スターターリレー、トランスミッション用ワイヤーハーネス、ウィンドウォッシャーノズル、エアコンパネルスイッチ基板、燃料関係電磁気弁用コイル、ヒューズ用コネクター、ホーンターミナル、電装部品絶縁板、ステップモーターローター、ランプソケット、ランプリフレクター、ランプハウジング、ブレーキピストン、ソレノイドボビン、エンジンオイルフィルター、点火装置ケース、車速センサー、ケーブルライナーなどの自動車・車両関連部品など各種用途が例示できる。
【実施例】
【0084】
以下に実施例を示し、本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例の記載に限定されるものではない。
【0085】
[製造したPPS樹脂の評価方法]
(1)重量平均分子量Mw
PPS樹脂の分子量は、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)の一種であるゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、ポリスチレン換算で算出した。GPCの測定条件を以下に示す。
装置:センシュー科学 SSC-7100
カラム名:センシュー科学 GPC3506
溶離液:1-クロロナフタレン
検出器:示差屈折率検出器
カラム温度:210℃
プレ恒温槽温度:250℃
ポンプ恒温槽温度:50℃
検出器温度:210℃
流量:1.0mL/min
試料注入量:300μL (スラリー状:約0.2重量%)。
【0086】
(2)金属量
ステンレスバットにボリマー試料の入った白金皿を乗せ、440℃にセットされた高温オーブン内に入れ5時間焼成し、次いで高温オーブン設定を500℃に上げ、500℃に達してから5時間焼成した。処理後、高温オーブンの温度が300℃以下になるまで冷却し、300℃以下に達した後白金皿を乗せたステンレスバットを取り出し、デシケーター内で処理後の白金皿を12時間保管した。その後、白金皿をデシケーター中から取り出し、538℃で安定しているマッフル炉に入れ、6時間焼成した。次いで、白金皿内に純水:塩酸=1:1(体積比)(以下1:1塩酸と称する)の液体を2ml加えた。その後、ホットプレートを用い1:1塩酸の入った白金皿を加熱した。加熱は溶液が緩く沸騰する程度で実施した。蒸発乾固近くまでになったら加熱を止め、白金皿を室温に冷却した。その後、TPX製50mlメスフラスコにTPX製ロートを用いて白金皿の内容物をイオン交換水で洗浄しながら数回に分けメスフラスコ内に入れ、メスフラスコの標線をイオン交換水で合わせた。このように調整した試料液を用い、イオン交換水をブランクとして原子吸光測定装置を用いて測定実施し、測定値を得た。なお、測定前には分析する金属と同じ金属を含む標準液を用い検量線を作成し、本検量線を基に金属濃度を算出した。測定値が検量線を外れる場合、試料液をXml採取し、イオン交換水で希釈しYmlにし、検量線の範囲に来るよう濃度を調整した。このように調整した試料液を用い測定した値をCppmとする。以上の数値を用い、以下に従って金属濃度を算出した。
濃度[ppm]=C/(B-A)×50×Y/X
【0087】
(3)溶融結晶化ピーク温度
パーキンエルマー社製DSC7を用い、サンプル量約10mg、窒素雰囲気下、昇温・降温速度20℃/分で、
(i)50℃から340℃まで昇温し、340℃で5分間ホールド
(ii)その後、100℃まで降温した際、(ii)に現れるピーク温度を、溶融結晶化ピーク温度とした。
【0088】
[参考例1]
撹拌機付きの70リットルオートクレーブに、47.5%水硫化ナトリウム8267.37g(70.00モル)、96%水酸化ナトリウム2957.21g(70.97モル)、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)11434.50g(115.50モル)、酢酸ナトリウム2583.00g(31.50モル)、及びイオン交換水10500gを仕込み、常圧で窒素を通じながら245℃まで約3時間かけて徐々に加熱し、水14780.1gおよびNMP280gを留出した後、反応容器を160℃に冷却した。仕込みアルカリ金属硫化物1モル当たりの系内残存水分量は、NMPの加水分解に消費された水分を含めて1.06モルであった。また、硫化水素の飛散量は、仕込みアルカリ金属硫化物1モル当たり0.02モルであった。
【0089】
次にp-ジクロロベンゼン10235.46g(69.63モル)、NMP9009.00g(91.00モル)を加え、反応容器を窒素ガス下に密封し、240rpmで撹拌しながら、0.6℃/分の速度で238℃まで昇温した。238℃で95分反応を行った後、0.8℃/分の速度で270℃まで昇温した。270℃で100分反応を行った後、1260g(70モル)の水を15分かけて圧入しながら250℃まで1.3℃/分の速度で冷却した。その後200℃まで1.0℃/分の速度で冷却してから、室温近傍まで急冷した。
【0090】
内容物を取り出し、26300gのNMPで希釈後、溶剤と固形物をふるい(80mesh)で濾別し、得られた粒子を31900gのNMPで洗浄、濾別した。これを、56000gのイオン交換水で数回洗浄、濾別した後、0.05重量%酢酸水溶液70000gで洗浄、濾別した。70000gのイオン交換水で洗浄、濾別した後、得られた含水PPS粒子を80℃で熱風乾燥し、120℃で減圧乾燥した。得られたPPS(PPS-1)は、重量平均分子量Mwが62,800、Ca含有量が0ppm、溶融結晶化ピーク温度が222℃であった。
【0091】
[参考例2]
撹拌機付きの70リットルオートクレーブに、47.5%水硫化ナトリウム8267.37g(70.00モル)、96%水酸化ナトリウム2957.21g(70.97モル)、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)11434.50g(115.50モル)、酢酸ナトリウム2583.00g(31.50モル)、及びイオン交換水10500gを仕込み、常圧で窒素を通じながら245℃まで約3時間かけて徐々に加熱し、水14780.1gおよびNMP280gを留出した後、反応容器を160℃に冷却した。仕込みアルカリ金属硫化物1モル当たりの系内残存水分量は、NMPの加水分解に消費された水分を含めて1.06モルであった。また、硫化水素の飛散量は、仕込みアルカリ金属硫化物1モル当たり0.02モルであった。
【0092】
次にp-ジクロロベンゼン10235.46g(69.63モル)、1,3,5-トリクロロベンゼン123.38g(0.68モル)、NMP9009.00g(91.00モル)を加え、反応容器を窒素ガス下に密封し、240rpmで撹拌しながら、0.6℃/分の速度で238℃まで昇温した。238℃で95分反応を行った後、0.8℃/分の速度で270℃まで昇温した。270℃で100分反応を行った後、1260g(70モル)の水を15分かけて圧入しながら250℃まで1.3℃/分の速度で冷却した。その後200℃まで1.0℃/分の速度で冷却してから、室温近傍まで急冷した。
【0093】
内容物を取り出し、26300gのNMPで希釈後、溶剤と固形物をふるい(80mesh)で濾別し、得られた粒子を31900gのNMPで洗浄、濾別した。これを、56000gのイオン交換水で数回洗浄、濾別した後、0.05重量%酢酸カルシウム一水和物水溶液70000gで洗浄、濾別した。70000gのイオン交換水で洗浄、濾別した後、得られた含水PPS粒子を80℃で熱風乾燥し、120℃で減圧乾燥した。得られたPPS(PPS-2)は、重量平均分子量Mwが88,000、Ca含有量が200ppm、溶融結晶化ピーク温度が183℃であった。
【0094】
[参考例3]
撹拌機付きの70リットルオートクレーブに、47.5%水硫化ナトリウム8267.37g(70.00モル)、96%水酸化ナトリウム2957.21g(70.97モル)、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)11434.50g(115.50モル)、酢酸ナトリウム2583.00g(31.50モル)、及びイオン交換水10500gを仕込み、常圧で窒素を通じながら245℃まで約3時間かけて徐々に加熱し、水14780.1gおよびNMP280gを留出した後、反応容器を160℃に冷却した。仕込みアルカリ金属硫化物1モル当たりの系内残存水分量は、NMPの加水分解に消費された水分を含めて1.06モルであった。また、硫化水素の飛散量は、仕込みアルカリ金属硫化物1モル当たり0.02モルであった。
【0095】
次に、p-ジクロロベンゼン10235.46g(69.63モル)、NMP9009.00g(91.00モル)を加え、反応容器を窒素ガス下に密封し、240rpmで撹拌しながら、0.6℃/分の速度で238℃まで昇温した。238℃で95分反応を行った後、0.8℃/分の速度で270℃まで昇温した。270℃で100分反応を行った後、1260g(70モル)の水を15分かけて圧入しながら250℃まで1.3℃/分の速度で冷却した。その後200℃まで1.0℃/分の速度で冷却してから、室温近傍まで急冷した。
【0096】
内容物を取り出し、26300gのNMPで希釈後、溶剤と固形物をふるい(80mesh)で濾別し、得られた粒子を31900gのNMPで洗浄、濾別した。これを、56000gのイオン交換水で数回洗浄、濾別した後、0.05重量%酢酸水溶液70000gで洗浄、濾別した。70000gのイオン交換水で洗浄、濾別した後、得られた含水PPS粒子を80℃で熱風乾燥し、120℃で減圧乾燥した。得られたPPS(PPS-3)は、重量平均分子量Mwが49,000、Ca含有量が0ppm、溶融結晶化ピーク温度が224℃であった。
【0097】
[参考例4]
撹拌機付きの70リットルオートクレーブに、47.5%水硫化ナトリウム8267.37g(70.00モル)、96%水酸化ナトリウム2957.21g(70.97モル)、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)11434.50g(115.50モル)、酢酸ナトリウム1722.00g(21.00モル)、及びイオン交換水10500gを仕込み、常圧で窒素を通じながら245℃まで約3時間かけて徐々に加熱し、水14780.1gおよびNMP280gを留出した後、反応容器を160℃に冷却した。仕込みアルカリ金属硫化物1モル当たりの系内残存水分量は、NMPの加水分解に消費された水分を含めて1.06モルであった。また、硫化水素の飛散量は、仕込みアルカリ金属硫化物1モル当たり0.02モルであった。
【0098】
次に、p-ジクロロベンゼン10235.46g(69.63モル)、NMP9009.00g(91.00モル)を加え、反応容器を窒素ガス下に密封し、240rpmで撹拌しながら、0.6℃/分の速度で238℃まで昇温した。238℃で95分反応を行った後、0.8℃/分の速度で270℃まで昇温した。270℃で100分反応を行った後、1260g(70モル)の水を15分かけて圧入しながら250℃まで1.3℃/分の速度で冷却した。その後200℃まで1.0℃/分の速度で冷却してから、室温近傍まで急冷した。
【0099】
内容物を取り出し、26300gのNMPで希釈後、溶剤と固形物をふるい(80mesh)で濾別し、得られた粒子を31900gのNMPで洗浄、濾別した。これを、56000gのイオン交換水で数回洗浄、濾別した後、0.05重量%酢酸水溶液70000gで洗浄、濾別した。70000gのイオン交換水で洗浄、濾別した後、得られた含水PPS粒子を80℃で熱風乾燥し、120℃で減圧乾燥した。得られたPPS(PPS-4)は、重量平均分子量Mwが40,000、Ca含有量が0ppm、溶融結晶化ピーク温度が226℃であった。
【0100】
[参考例5]
撹拌機付きの70リットルオートクレーブに、47.5%水硫化ナトリウム8267.37g(70.00モル)、96%水酸化ナトリウム2957.21g(70.97モル)、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)11434.50g(115.50モル)、酢酸ナトリウム2583.00g(31.50モル)、及びイオン交換水10500gを仕込み、常圧で窒素を通じながら245℃まで約3時間かけて徐々に加熱し、水14780.1gおよびNMP280gを留出した後、反応容器を160℃に冷却した。仕込みアルカリ金属硫化物1モル当たりの系内残存水分量は、NMPの加水分解に消費された水分を含めて1.06モルであった。また、硫化水素の飛散量は、仕込みアルカリ金属硫化物1モル当たり0.02モルであった。
【0101】
次にp-ジクロロベンゼン10362.03g(70.49モル)、NMP9009.00g(91.00モル)を加え、反応容器を窒素ガス下に密封し、240rpmで撹拌しながら、0.6℃/分の速度で238℃まで昇温した。238℃で95分反応を行った後、0.8℃/分の速度で270℃まで昇温した。270℃で100分反応を行った後、1260g(70モル)の水を15分かけて圧入しながら250℃まで1.3℃/分の速度で冷却した。その後200℃まで1.0℃/分の速度で冷却してから、室温近傍まで急冷した。
【0102】
内容物を取り出し、26300gのNMPで希釈後、溶剤と固形物をふるい(80mesh)で濾別し、得られた粒子を31900gのNMPで洗浄、濾別した。これを、56000gのイオン交換水で数回洗浄、濾別した後、0.05重量%酢酸カルシウム一水和物水溶液70000gで洗浄、濾別した。70000gのイオン交換水で洗浄、濾別した後、得られた含水PPS粒子を80℃で熱風乾燥し、120℃で減圧乾燥した。得られたPPS(PPS-5)は、重量平均分子量Mwが57,000、Ca含有量が400ppm、溶融結晶化ピーク温度が182℃であった。
【0103】
(A)PPS樹脂
PPS-1:参考例1に記載の方法で重合したPPS樹脂
PPS-2:参考例2に記載の方法で重合したPPS樹脂
PPS-3:参考例3に記載の方法で重合したPPS樹脂
PPS-4:参考例4に記載の方法で重合したPPS樹脂
PPS-5:参考例5に記載の方法で重合したPPS樹脂
【0104】
(B)シリコーンパウダー
B-1:シリコーンパウダー(アモルファスヒュームドシリカを40~50%配合、ジメチルポリシロキサンを50~60%配合)(ダウ・東レ株式会社製 DOWSILTM Trefil F-202 Silicone Powder)。
【0105】
(B’)(B)成分に該当しない添加剤
B’-2:シリコーンオイル(ダウ・東レ株式会社製 DOWSILTM SH200 Fluid 1000cSt)
B’-3:ポリエチレンワックス(株式会社プライムポリマー製 ハイゼックス7000FP)。
【0106】
(C)繊維状充填材
C-1:チョップドストランド(日本電気硝子株式会社製 T-790DE)繊維径:6.5μm
C-2:チョップドストランド(日本電気硝子株式会社製 T-760H)繊維径:10.5μm。
【0107】
〔測定評価方法〕
本実施例および比較例における測定評価方法は以下の通りである。
【0108】
(引張強度、引張伸びの測定)
ISO527-1,-2(2012)に準じて測定を行った。具体的には次のように測定を行った。樹脂組成物ペレットを、シリンダー温度310℃、金型温度145℃に設定した住友重機械工業社製射出成形機(SE50DUZ-C160)に供給し、充填時間0.8sで充填、充填圧力の75%の保圧にて射出成形を行い、ISO 20753に規定されるタイプA1試験片を得た。この試験片を、23℃、相対湿度50%の条件で16時間状態調節を行った後、23℃、相対湿度50%の雰囲気下、つかみ具間距離:115mm、試験速度:5mm/sの条件で測定を行った。
【0109】
(溶融結晶化ピーク温度の測定)
パーキンエルマー社製DSC7を用い、サンプル量約10mg、窒素雰囲気下、昇温・降温速度20℃/分で、
(i)50℃から340℃まで昇温し、340℃で5分間ホールド
(ii)次いで100℃まで降温した際、(ii)に現れるピーク温度を、溶融結晶化ピーク温度とした。
【0110】
(押出成形性)
樹脂組成物ペレットを、直径50mmの単軸スクリュウ押出機に供給し、シリンダー温度を330℃に設定、厚さ20mm、幅500mmの板状のダイスを通して押出し、冷却温度は40℃で板状の成形品を作成した。問題なく成形できた場合は◎、成形できたが若干押出速度が乱れた場合は〇、成形時に割れが発生した場合もしくは成形不可能な場合は×と判定した。
【0111】
(成形品外観)
上記の方法で押出成形した成形品の外観を目視したときに、白いモヤがなく光沢のある場合は◎、白いモヤがない場合は〇、白いモヤがある場合は×と判定した。
【0112】
(成形品のボイド確認)
上記の方法で押出成形した厚さ20mm、幅500mmの成形品の中心部の押出し方向について、2mmの肉厚を残した穴加工後エアーバルブを取り付け、水槽内でエアー圧0.15MPaでエアーを注入し、気泡発生の有無を確認した。
【0113】
(PPS樹脂組成物の製造)
シリンダー温度を320℃、スクリュー回転数を400rpmに設定した、26mm直径の中間添加口を有する2軸押出機(東芝機械(株)製TEM-26SS)を用いて、PPS樹脂(A)100重量部及び(B)シリコーンパウダーまたは(B’)(B)成分に該当しない添加物を表1に示す重量比で原料供給口から添加して溶融状態とし、(C)繊維状充填剤を表1に示す重量比で中間添加口から供給し、吐出量30kg/時間で溶融混練してペレットを得た。また、このペレットを用いて上記の特性を評価した。その結果を表1に示す。
【0114】
【0115】
〔実施例1~5〕
表1に示す実施例1~5は、重量平均分子量Mwが60000以上のPPS樹脂とシリコーンパウダーを用いることで、押出成形性、成形品外観に優れ、ボイドが無いことがわかる。
【0116】
〔実施例1~4〕
表1に示す実施例1~4より、アルカリ土類金属を含むPPS樹脂を含有し、その配合量の多い方が、溶融結晶化ピーク温度が低くなり、特に溶融結晶化ピーク温度が210℃以下である方が押出成形性、成形品外観に関してより優れていることがわかる。
【0117】
〔実施例1、5〕
表1に示す実施例1と5より、繊維径が小さい繊維状充填材を使用した方が、引張強度に優れ且つ溶融結晶化ピーク温度が低くなり、成形品外観がより優れていることがわかる。
【0118】
〔比較例1、2〕
表1に示す比較例1と2より、重量平均分子量Mwが60000未満のPPS樹脂を使用すると、溶融結晶化ピーク温度が220℃より高くなり、成形品に割れや、ボイドの発生、または押出成形が不可能であったことがわかる。
【0119】
〔比較例3〕
表1に示す比較例3より、アルカリ土類金属を含むPPS樹脂であっても、重量平均分子量Mwが60000未満では押出成形が不可能であった。
【0120】
〔比較例4,5〕
表1に示す比較例4と5より、重量平均分子量Mwが60000以上のPPS樹脂であっても、シリコーンオイルやポリエチレンワックスでは、押出成形が可能で成形品のボイドが無かったが、成形品の外観には白いモヤがあった。