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特許7379233コイルばね用治具、コイルばねの製造方法、及び、コイルばねの試験方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-06
(45)【発行日】2023-11-14
(54)【発明の名称】コイルばね用治具、コイルばねの製造方法、及び、コイルばねの試験方法
(51)【国際特許分類】
   F16F 1/06 20060101AFI20231107BHJP
   B24C 1/10 20060101ALI20231107BHJP
【FI】
F16F1/06 A
B24C1/10 B
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020052302
(22)【出願日】2020-03-24
(65)【公開番号】P2021152376
(43)【公開日】2021-09-30
【審査請求日】2022-07-11
(73)【特許権者】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100067356
【弁理士】
【氏名又は名称】下田 容一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100160004
【弁理士】
【氏名又は名称】下田 憲雅
(74)【代理人】
【識別番号】100120558
【弁理士】
【氏名又は名称】住吉 勝彦
(74)【代理人】
【識別番号】100148909
【弁理士】
【氏名又は名称】瀧澤 匡則
(72)【発明者】
【氏名】亀田 裕克
(72)【発明者】
【氏名】小川 鋭浩
(72)【発明者】
【氏名】笠鳥 晋司
(72)【発明者】
【氏名】村上 敦
(72)【発明者】
【氏名】加藤 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】長岡 賢次
【審査官】田村 佳孝
(56)【参考文献】
【文献】韓国登録特許第10-1586230(KR,B1)
【文献】特開2019-196802(JP,A)
【文献】特開2012-016803(JP,A)
【文献】特開2013-181235(JP,A)
【文献】中国実用新案第210588856(CN,U)
【文献】藤岡武洋,ショットの跳返りを利用した機械部品内面へのショットピーニング加工法の開発,オンライン,日本,豊橋技術科学大学,旧塑性加工研究室,平成13年度修士論,2021年04月22日,http://plast.me.tut.ac.jp/sotsuken/index.html,2018.6.15に公開ログ有り(Wayback machineより)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 1/06
B24C 1/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コイルばねの一端を載せることが可能なばね支持部と、
このばね支持部に支持される前記コイルばねを基準として、前記ばね支持部から前記コイルばねの軸線に沿って延び、前記コイルばねの外周面に当接可能であると共に、前記コイルばねの径方向への前記コイルばねの変位を規制する複数の変位規制部と、
これらの変位規制部に支持され、前記ばね支持部と共に前記コイルばねを挟持することにより、前記コイルばねを圧縮した状態に保つことが可能な蓋部と、を有する、コイルばね用治具。
【請求項2】
前記ばね支持部と、前記蓋部との間には、前記変位規制部のみが設けられている、請求項1に記載のコイルばね用治具。
【請求項3】
前記蓋部は、前記軸線を中心に回転可能に設けられ、前記変位規制部に嵌合している爪部を有し、
前記変位規制部は、前記爪部が嵌合した状態において前記蓋部の前記軸線方向への移動を規制している蓋部嵌合部を有している、請求項1又は請求項2に記載のコイルばね用治具。
【請求項4】
前記ばね支持部は、前記軸線が通過する位置に、前記ばね支持部を前記軸線に沿って貫通する支持部孔を有する、請求項1~請求項3のいずれか1項に記載のコイルばね用治具。
【請求項5】
前記蓋部は、前記軸線が通過する位置に、前記蓋部を前記軸線に沿って貫通する蓋部孔を有する、請求項1~請求項4のいずれか1項に記載のコイルばね用治具。
【請求項6】
コイルばねの一端を載せることが可能であり、前記コイルばねの軸線が通過する位置に前記軸線に沿って延びる孔を有するばね支持部と、
このばね支持部から前記軸線に沿って延び、前記コイルばねの外周面に当接可能であると共に、前記コイルばねの径方向への前記コイルばねの変位を規制する複数の変位規制部と、
これらの変位規制部に支持されていると共に前記軸線を中心に回転可能に設けられ、前記ばね支持部とともに前記コイルばねを挟持することにより、前記コイルばねを圧縮した状態に保つことが可能であると共に前記軸線が通過する位置に前記軸線に沿って延びる孔を有する蓋部と、
この蓋部に設けられ、前記変位規制部に嵌合している爪部と、
前記変位規制部に形成され、前記爪部が嵌合した状態において前記蓋部の前記軸線方向への移動を規制している蓋部嵌合部と、を有し、
前記ばね支持部と、前記蓋部との間には、前記変位規制部のみが設けられている、コイルばね用治具。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載のコイルばね用治具を用いて前記コイルばねを圧縮した状態に保ちつつ、前記コイルばねにショットピーニングを行う工程を含む、コイルばねの製造方法。
【請求項8】
請求項1~6のいずれか1項に記載のコイルばね用治具を用いて前記コイルばねを圧縮した状態に保ちつつ、前記コイルばねに対して試験を行う、コイルばねの試験方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コイルばねを圧縮した状態に保つためのコイルばね用治具等に関する。
【背景技術】
【0002】
圧縮した状態に保たれているコイルばねにショットピーニングを行うストレスショットピーニングが知られている。ストレスショットピーニングを行うことにより、コイルばねに残留応力を付与することができる。コイルばねを圧縮した状態に保つための従来技術として、特許文献1に開示される技術がある。
【0003】
特許文献1に示されている、ストレスショットピーニング装置は、コイル状ばね材の下部受ガイドと、下部受ガイドの垂直方向に所定間隔を隔てて設けられている圧縮部と、を備えている。
【0004】
この装置によれば、圧縮部を下方に変位させることにより、コイル状ばね材に所定の圧縮力を加えることができる。コイル状ばね材には、ショットピーニング加工を行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特公昭57-1391号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、二輪車のフロントフォークのような細長い装置には、コイル中心径に対して自由長の長いコイルばねが用いられる。このようなコイルばねにストレスショットピーニングを行うために、特許文献1に開示されたようなストレスショットピーニング装置を用いることが考えられる。
【0007】
しかし、コイル中心径に対して自由長の長いばねにストレスショットピーニングを行うと、ばねが径方向によれる虞、換言すれば、コイルばねが胴曲がりする虞がある。この点について改善の余地がある。
【0008】
本発明は、コイルばねの胴曲がりを防止しつつ、コイルばねの内周面にも残留応力を付与することが可能な、コイルばね用治具等を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意検討の結果、例えば二輪車や三輪車に代表される、乗員が跨って乗車する鞍乗型車両の懸架装置用のコイルばねのように、巻き数が多く、かつ、外径が小さいコイルばねに圧縮荷重を付与した状態でショットピーニング(すなわち、ストレスショットピーニング)を行うと、胴曲がりが発生する虞があることを知見した。さらに、本発明者らは、上記懸架装置用のコイルばねの疲労強度を高めるためには、コイルばねの内周面側の疲労強度を高めることが重要であることを知見した。これらの知見に基づいて、本発明者らは、コイルばねの内周面側の疲労強度を高めることが可能であり、かつ、ストレスショットピーニング時の胴曲がりの発生を抑制可能である技術について検討した。その結果、胴曲がりの発生を抑制するための対策技術としては、コイルばねの表面に接触可能な棒状又は管状の部材を、コイルばねの内周面側又は外周面側に配置することにより、コイルばねの径方向への変位を抑制することが有効であることを知見した。さらに、上記棒状又は管状の部材をコイルばねの外周面側に配置することにより、ストレスショットピーニングを行う際に、投射材がコイルばねの内周面に衝突しやすい状態を維持しつつ、胴曲がりの発生を抑制可能であることを知見した。本発明は、当該知見に基づいて完成させた。
【0010】
以下、本発明について説明する。
【0011】
本発明の一面によれば、コイルばねの一端を載せることが可能なばね支持部と、
このばね支持部に支持される前記コイルばねを基準として、前記ばね支持部から前記コイルばねの軸線に沿って延び、前記コイルばねの外周面に当接可能であると共に、前記コイルばねの径方向への前記コイルばねの変位を規制する複数の変位規制部と、
これらの変位規制部に支持され、前記ばね支持部と共に前記コイルばねを挟持することにより、前記コイルばねを圧縮した状態に保つことが可能な蓋部と、を有する、コイルばね用治具が提供される。
【0012】
また、前記ばね支持部と、前記蓋部との間には、前記変位規制部のみが設けられていても良い。
【0013】
また、前記蓋部は、前記軸線を中心に回転可能に設けられ、前記変位規制部に嵌合している爪部を有し、
前記変位規制部は、前記爪部が嵌合した状態において前記蓋部の前記軸線方向への移動を規制している蓋部嵌合部を有していても良い。
【0014】
また、前記ばね支持部には、前記軸線が通過する位置に、前記ばね支持部を前記軸線に沿って貫通する支持部孔を有していても良い。
【0015】
また、前記蓋部には、前記軸線が通過する位置に、前記蓋部を前記軸線に沿って貫通する蓋部孔を有していても良い。
【0016】
本発明の別の面によれば、コイルばねの一端を載せることが可能であり、前記コイルばねの軸線が通過する位置に前記軸線に沿って延びる孔を有するばね支持部と、
このばね支持部から前記軸線に沿って延び、前記コイルばねの外周面に当接可能であると共に、前記コイルばねの径方向への前記コイルばねの変位を規制する複数の変位規制部と、
これらの変位規制部に支持されていると共に前記軸線を中心に回転可能に設けられ、前記ばね支持部とともに前記コイルばねを挟持することにより、前記コイルばねを圧縮した状態に保つことが可能であると共に前記軸線が通過する位置に前記軸線に沿って延びる孔を有する蓋部と、
この蓋部に設けられ、前記変位規制部に嵌合している爪部と、
前記変位規制部に形成され、前記爪部が嵌合した状態において前記蓋部の前記軸線方向への移動を規制している蓋部嵌合部と、を有し、
前記ばね支持部と、前記蓋部との間には、前記変位規制部のみが設けられている、コイルばね用治具が提供される。
【0017】
また、コイルばね用治具を用いて前記コイルばねを圧縮した状態に保ちつつ、前記コイルばねにショットピーニングを行ってもよい。
【0018】
また、コイルばね用治具を用いて前記コイルばねを圧縮した状態に保ちつつ、前記コイルばねに対して試験を行ってもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、コイルばねの胴曲がりを防止しつつ、コイルばねの内周面にも残留応力を付与することが可能な、コイルばね用治具等を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】実施例1によるコイルばね用治具、及び、コイルばね用治具によって圧縮された状態に保たれているコイルばねの正面図である。
図2図1に示したコイルばね用治具の分解斜視図である。
図3図1に示したコイルばね用治具を用いたコイルばねの製造方法について説明するフロー図である。
図4A】コイルばねセット工程について説明する図である。
図4B】圧縮工程について説明する図である。
図5A図4Bの5A矢視図である。
図5B図5Aに示した蓋部を回転させた状態について説明する図である。
図6図3に示したショットピーニング工程について説明する図である。
図7】取り外し工程について説明する図である。
図8】実施例2によるコイルばねの試験方法について説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の実施の形態を添付図に基づいて以下に説明する。添付図に示した形態は本発明の一例であり、本発明は当該形態に限定されない。
【0022】
<実施例1>
図1を参照する。コイルばね用治具10(以下、「治具10」と記す。)は、コイルばねSp(以下、「ばねSp」と記す。)を圧縮した状態のまま保持することができる治具である。ばねSpは、自由長から所定の長さだけ圧縮された状態で、治具10によって保持されている。
【0023】
治具10は、ばねSpの下端(一端)が当接していると共にばねSpを載せることが可能なばね支持部13と、ばね支持部13からばねSpの軸線CLに沿って延び、ばねSpの外周面に当接可能に設けられることにより、ばねSpの径方向への変位を規制する3本の変位規制部14と、これらの変位規制部14に支持され、ばね支持部13と共にばねSpを挟持することにより、ばねSpを圧縮した状態に保つことが可能な蓋部15と、を有する。治具10において、3本の変位規制部14は、ばね支持部13及び蓋部15の周方向に沿って、等間隔に配置されている。
【0024】
図2を併せて参照する。ばね支持部13は、ばねSpが載せられるドーナツ板状の支持部本体13aと、この支持部本体13aからばねSpの径方向外方に突出し変位規制部14が固定されている規制部固定部13bと、を有する。
【0025】
支持部本体13aの中央には、支持部本体13aを貫通する、軸線CLを法線方向とする断面が円形の支持部孔13cが開けられている。換言すれば、ばね支持部13には、軸線CLが通過する位置に、ばね支持部13を軸線CLに沿って貫通する支持部孔13cを有している。支持部本体13aの外径は、ばねSpの外径よりも大きい。
【0026】
規制部固定部13bは、支持部本体13aの外周の周方向に沿って、等間隔に3つ形成されている。規制部固定部13bには、それぞれ軸線CLを法線方向とする断面が円形に形成され変位規制部14が差し込まれている差し込み孔13dを有している。差し込み孔13dの縁の一部、より具体的には、軸線CLとの距離が、縁の他の部位よりも近い部位は、ばねSpの外周面に近接している。
【0027】
変位規制部14は、丸棒状に形成さればねSpの外周面に当接可能な規制部本体14aと、この規制部本体14aの一部に形成された径の小さな部位であって蓋部15が嵌合している蓋部嵌合部14bと、を有する。3つの変位規制部14にそれぞれ備えられる、蓋部篏合部14bは、変位規制部14の下端面からの距離が同じになるように、形成されている。
【0028】
蓋部15は、変位規制部14に対して、回転可能に且つ着脱可能に設けられている。蓋部15は、ばねSpの上面に当接するドーナツ板状の蓋部本体15aと、この蓋部本体15aからばねSpの径方向外方に突出し蓋部嵌合部14bに嵌合している爪部15bと、を有する。
【0029】
蓋部本体15aの中央には、蓋部本体15aを貫通する、軸線CLを法線方向とする断面が円形の蓋部孔15cが開けられている。換言すれば、蓋部15には、軸線CLが通過する位置に、蓋部15を軸線CLに沿って貫通する蓋部孔15cを有している。
【0030】
爪部15bは、平面視において略U字状を呈する。それぞれの爪部15bは、蓋部15の周方向の同じ向きに開口している。
【0031】
以上に説明した治具10によって、ばねSpは、ばね支持部13と蓋部15とによって挟持されることにより、圧縮された状態のまま保持される。治具10によって軸線CLの方向に圧縮された状態に保持されたばねSpにショット(投射材)を投射するストレスショットピーニングによって、ばねSpに圧縮残留応力を付与することができる。以下、詳細に説明する。
【0032】
図3には、ストレスショットピーニングの全工程が示されている。図4Aを参照する。まず、治具10及びばねSpを準備する(準備工程)。
【0033】
準備するばねSpは、例えば、鞍乗型車両の車体と前輪との間に配置されるフロントフォークに用いられ、両端部の巻を含む部位の巻き角度が変えられていることにより、両端部の巻がそれぞれ隣接する巻に接触又は近接している。即ち、ばねSpが、フロントフォークに用いられるコイルばねの場合、ばねSpは、クローズドエンド形態又はオープンエンド形態のコイルばねである。ここで、本発明において、「両端部の巻がそれぞれ隣接する巻に近接している」とは、端部の巻とこれに隣接する巻との隙間が3mm以下であることを意味する。
【0034】
ストレスショットピーニングが行われるばねSpの自由長L1、コイル中心径D、線径d、及び素材は、特に限定されない。例えば、ばねSpがフロントフォークに用いられるコイルばねの場合、当該ばねSpは、自由長L1が200~480mm、コイル中心径Dが15~50mm、線径dが3.0~8.0mmであることを例示することができる。
【0035】
なお、ばねSpは、オープンエンド形態のコイルばねや、リヤクッションに用いるコイルばねであってもよい。
【0036】
次に、任意の作業台の上に配置されたばね支持部13に備えられているすべての支持部孔13cへ、変位規制部14の下端部を挿入した後、蓋部15を配置する前であることにより上方が開口している、変位規制部14によって囲まれた部位に、上方からばねSpを入れ、ばね支持部13の上面にばねSpをセットする(コイルばねセット工程)。ここで、ばね支持部13の上面から蓋部嵌合部14bの下端までの長さL2は、ばねSpの自由長L1よりも短く設定されている。
【0037】
図4Bを参照する。次に、ばねSpの付勢力に抗して蓋部15を蓋部嵌合部14bの高さまで押し下げる(圧縮工程)。
【0038】
図5A及び図5Bを参照する。軸線CLを中心にして蓋部15を回転させることにより、爪部15bを蓋部嵌合部14bに嵌合させる。これにより、ばね支持部13及び蓋部15によって挟持されたばねSpは、圧縮された状態で保持される。爪部15bを蓋部篏合部14bに篏合させる際には、規制部本体14aに比べて径の小さな蓋部嵌合部14bに爪部15bを嵌合させる。爪部15bを蓋部篏合部14bに嵌合させた後は、規制部本体14aと蓋部嵌合部14bとの段差によって、蓋部15の軸線CL方向への移動が規制される。
【0039】
図6を参照する。次に、ばねSpに対してショットピーニングを行う(ショットピーニング工程)。より具体的には、ばね支持部13及び蓋部15の周方向に沿って回転されているばねSpの表面に、金属球状のショットShを衝突させる。上述のように、治具10は、3本の変位規制部14が間隔をあけて配置されている。そのため、ショットShは、ばねSpの外周面(コイルばねの外周側の面)のみならず、ばねSpの内周面(コイルばねの内周側の面)にも衝突することができる。これにより、ばねSpの内周面及び外周面に、圧縮残留応力を付与することができる。
【0040】
ショットShは、コイルばねのストレスショットピーニングに使用可能な任意のショット(投射材)を適宜用いることができる。投射方法は、インペラImを高速で回転させてショットShを投射する遠心式を採用することができる。
【0041】
なお、ショットShの素材、平均粒径、投射速度等の投射条件は、任意に選択することができる。加えて、投射方法も、遠心式の他に噴射式を採用することもできる。
【0042】
コイルばねは、ばねSpにストレスショットピーニングを行う過程を経て製造される。
【0043】
図7を参照する。ストレスショットピーニングを終えたら、蓋部15を変位規制部14から取り外し、変位規制部14によって囲われているばねSpを取り外す(取り外し工程)。
【0044】
以上について、以下に纏める。
【0045】
図1を参照する。治具10は、ばねSpの下端を載せることが可能なばね支持部13と、このばね支持部13に支持されるばねSpを基準として、ばね支持部13から軸線CLに沿って延び、ばねSpの外周面に当接可能であると共に、ばねSpの径方向へのばねSpの変位を規制する複数の変位規制部14と、これらの変位規制部14に支持され、ばね支持部13と共にばねSpを挟持することにより、ばねSpを圧縮した状態に保つことが可能な蓋部15と、を有する。
【0046】
治具10は、ばねSpの外周面に当接可能な複数の変位規制部14を有している。ばねSpに圧縮方向の力が加わった際に、ばねSpには、径方向に逃げる力が加わることがある。このとき、変位規制部14によって、ばねSpの径方向への変位は、規制される。
【0047】
図6を併せて参照する。例えば、ばねSpを治具10によって保持した状態において、ショットピーニングを行うことがある。このとき、治具10は、ばねSpの径方向への変位を、ばねSpの径方向外側に配置した変位規制部14によって規制しているので、ばねSpの外側から投射されるショットShを、ばねSpの外周面のみならず内周面にも衝突させることができる。これにより、ばねSpの内周面及び外周面の圧縮残留応力を付与することができる。これに対し、上記治具10とは異なり、変位規制部14に相当する部材(以下において、「比較例の変位規制部」という。)を、ばねSpの径方向内側に配置した比較例の治具について検討する。比較例の治具では、ばねSpの外側から投射されるショットShがばねSpの内周面に衝突する前に、ショットShが比較例の変位規制部に衝突しやすいので、ショットShがばねSpの内周面に衝突し難い。その結果、比較例の治具では、ばねSpの内周面に圧縮残留応力を付与し難い。このように、ばねSpの外側に配置された変位規制部14を有する形態とすることにより、ばねSpの胴曲がりを防止しつつ、ばねSpの内周面にも残留応力を付与することが可能な、治具10を提供することができる。
【0048】
加えて、ばね支持部13と、蓋部15との間には、変位規制部14のみが設けられている。これにより、ばねSpを保持した際に、ばねSpの内周面には他の部品が配置されていない状態となる。このような形態にすることにより、ばねSpの内周面により確実にショットShを衝突させることができる。その結果、よりショットピーニング時に使用しやすい治具10を提供することができる。
【0049】
図1及び図5を参照する。蓋部15は、軸線CLを中心に回転可能に設けられ、変位規制部14に嵌合している爪部15bを有し、変位規制部14は、爪部15bが嵌合した状態において蓋部15の軸線CL方向への移動を規制している蓋部嵌合部14bを有している。
【0050】
このような形態にすることにより、変位規制部14によって蓋部15の抜けを防止できるので、蓋部15の抜けを防止するために別の部品を用いる必要がない。したがって、上記効果に加えて、少ない部品点数でありながら、蓋部15の抜けを防止することのできる治具10を提供することができる。
【0051】
図2及び図6を参照する。ばね支持部13は、軸線CLが通過する位置に、ばね支持部13を軸線CLに沿って貫通する支持部孔13cを有し、支持部孔13cを塞ぐ部材が配置されていない。このような形態にすることにより、支持部孔13cを通過したショットShをばねSpの内周面に衝突させることができる。これにより、治具10がストレスショットピーニングで用いられる場合には、ばねSpの内周面に圧縮残留応力をより一層付与しやすい形態にすることができる。このほか、治具10がストレスショットピーニング以外で用いられる場合には、ばねSpの内周面への加工性を高めることができる。
【0052】
蓋部15は、軸線CLが通過する位置に、蓋部15を軸線CLに沿って貫通する蓋部孔15cを有し、蓋部孔15cを塞ぐ部材が配置されていない。このような形態にすることにより、蓋部孔15cを通過したショットShをばねSpの内周面に衝突させることができる。これにより、治具10がストレスショットピーニングで用いられる場合には、ばねSpの内周面に圧縮残留応力をより一層付与しやすい形態にすることができる。このほか、治具10がストレスショットピーニング以外で用いられる場合には、ばねSpの内周面への加工性を高めることができる。
【0053】
本発明のコイルばねの製造方法では、治具10を用いてばねSpを圧縮した状態に保ちつつ、ばねSpにショットピーニングを行う工程(ストレスショットピーニング工程)を経て、コイルばねを製造する。治具10を用いるストレスショットピーニング工程を経ることにより、ストレスショットピーニング時におけるばねSpの胴曲がりを抑制しつつ、ばねSpの外周面のみならず内周面にもショットShを確実に衝突させることができるため、胴曲がりが生じていない高強度のコイルばねを提供することができる。
【0054】
<実施例2>
次に、実施例2を図面に基づいて説明する。
図8は、実施例2によるコイルばねの試験方法について説明する図である。実施例1に示した治具10は、圧縮応力が付与された状態のばねSpに対して各種試験を行う際にも使用することができる。治具10を使用可能な試験としては、遅れ破壊試験、耐食性試験のほか、ばねSpに付与された圧縮応力を計測する試験等を例示することができる。治具10を用いてばねSpに付与された圧縮応力を計測する場合について、以下に説明する。実施例1と共通する部分については、符号を流用すると共に、詳細な説明を省略する。
【0055】
治具10を用いてばねSpを圧縮した状態に保ちつつ、ばねSpに付与された応力を計測する。例えば、照射部IrよりX線を照射し、これを受信部Reにて受信する。この結果から、所定の圧縮応力が付与されているものは合格、付与されていないものは不合格の判定を行うことができる。
【0056】
なお、検査方法は、X線によるものの他、赤外線、磁器歪、レーザラマン、音弾性によるもの等任意の手段を選択することができる。
【0057】
以上に説明したとおり、治具10を用いてばねSpを圧縮した状態に保ちつつ、ばねSpに付与された応力を計測する。治具10を用いることにより、ばねSpの外周面のみならず内周面も確実に計測を行うことができる。このため、合格品のみを確実に提供することができる。商品性の高いばねSpの提供に資することができる。
【0058】
なお、上記説明では、ばね支持部13及び蓋部15の周方向に沿って等間隔に配置された3つの変位規制部14を有する治具10を例示したが、本発明における治具は、当該形態に限定されない。本発明における治具が、3つの変位規制部を有する場合、これらの変位規制部は、ばね支持部13及び蓋部15の周方向に沿って等間隔に配置されていなくても良い。但し、ばねSpの胴曲がりを抑制しやすい形態にする観点、また、ストレスショットピーニングを行う際にばねSpの内周面にショットShを満遍なく衝突させやすい形態にする等の観点から、3つの変位規制部は、ばね支持部13及び蓋部15の周方向に沿って等間隔に配置することが好ましい。
【0059】
また、上記説明では、3つの変位規制部14を有する治具10を例示したが、本発明における治具は、当該形態に限定されない。本発明において、変位規制部の数は複数であればよい。そのため、変位規制部の数は2でも良く、4以上であっても良い。但し、ばねSpの胴曲がりを抑制しやすい形態にする観点からは、変位規制部の数を3以上とし、かつ、これらを等間隔に配置することが好ましい。また、ストレスショットピーニングを行う際にばねSpの内周面にショットShを満遍なく衝突させやすい形態にする観点からは、変位規制部の数は少ないことが好ましい。そこで、これらをふまえると、本発明における治具は、ばね支持部13及び蓋部15の周方向に沿って等間隔に配置された3つの変位規制部14を有する形態にすることが好ましい。
【0060】
また、本発明による治具は、フロントフォーク用ばねを保持する場合を例に説明したが、保持されるばねは、鞍乗り型車両のフロントフォーク用ばねに限られない。リヤクッション用ばね等にも適用可能である。
【0061】
また、ばねを圧縮した状態において行われる作業は、ショットピーニングや残留応力の測定に限らず、その他の目的にも使用することができる。
【0062】
さらに、各実施例は、適宜組み合わせることもできる。例えば、ショットピーニングを終えたコイルばねの残留応力を、X線測定によってそのまま測定することもできる。
【0063】
本発明の作用及び効果を奏する限りにおいて、本発明は、実施例に限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明の治具は、例えばコイルばねに対してストレスショットピーニングを行う際に好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0065】
10…コイルばね用治具
13…ばね支持部、13c…支持部孔
14…変位規制部、14b…蓋部嵌合部
15…蓋部、15b…爪部、15c…蓋部孔
Sp…コイルばね
CL…軸線
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5A
図5B
図6
図7
図8