(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-06
(45)【発行日】2023-11-14
(54)【発明の名称】基材搬送装置、印刷装置、塗工装置および基材ロール径取得方法
(51)【国際特許分類】
B65H 26/08 20060101AFI20231107BHJP
B65H 43/00 20060101ALI20231107BHJP
【FI】
B65H26/08
B65H43/00
(21)【出願番号】P 2020052841
(22)【出願日】2020-03-24
【審査請求日】2022-12-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000207551
【氏名又は名称】株式会社SCREENホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100105935
【氏名又は名称】振角 正一
(74)【代理人】
【識別番号】100136836
【氏名又は名称】大西 一正
(72)【発明者】
【氏名】神菊 貴司
【審査官】正木 裕也
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-026105(JP,A)
【文献】特開平09-301585(JP,A)
【文献】特開2004-075351(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65H 26/08
B65H 43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺帯状の基材が巻き回された巻出ロールと、
前記巻出ロールを回転駆動して、前記巻出ロールに巻き回された前記基材を巻き出す第1の駆動部と、
前記巻出ロールから巻き出された前記基材を搬送する搬送部と、
前記基材が前記巻出ロールから巻き出されて搬送された搬送距離を測定する搬送距離測定部と、
前記巻出ロールに巻き回された前記基材に対向する第1のセンサを有し、前記巻出ロールに巻き回された前記基材の径を、前記搬送部による前記基材の搬送時に前記第1のセンサにより複数回測定することで、前記搬送距離に応じた複数の第1の測定巻径値を測定する第1の径測定部と、
前記搬送部による前記基材の搬送開始前における前記巻出ロールに巻き回された前記基材の径の値である第1の初期径値と、前記基材の厚みの値とを取得する値取得部と、
制御部と、
を備え、
前記制御部は、
前記値取得部により取得された前記第1の初期径値と前記基材の厚みの値と、前記搬送距離測定部により測定された前記搬送距離とに基づき、前記巻出ロールに巻き回された前記基材の径の値を、前記搬送部による前記基材の搬送時に複数回算出することで、前記搬送距離に応じた複数の第1の算出巻径値を算出する巻径算出部と、
前記搬送距離に応じた前記複数の第1の測定巻径値を第1のローパスフィルタによって平滑化して、前記搬送距離に応じた複数の第1の平滑巻径値を抽出するフィルタ部と、
前記第1のローパスフィルタによる遅れを補償しつつ前記第1の算出巻径値と前記第1の平滑巻径値との差分を算出する演算を、前記複数の第1の算出巻径値と前記複数の第1の平滑巻径値に対して実行することで、前記搬送距離に応じた複数の第1の差分を算出する差分算出部と、
前記搬送距離に応じた前記複数の第1の算出巻径値を、前記搬送距離に応じた前記複数の第1の差分により補正する補正部と、
を有する基材搬送装置。
【請求項2】
前記値取得部は、ユーザの入力によって前記第1の初期径値を取得する請求項1に記載の基材搬送装置。
【請求項3】
前記巻出ロールと前記搬送部との間で前記基材を巻き掛けるダンサローラと、
前記ダンサローラから前記基材に一定のテンションが与えられるように前記ダンサローラを変位させるローラ駆動部と、
前記ダンサローラの変位量を検出する変位量検出部と、
前記巻出ロールの回転量を測定するエンコーダと、
をさらに備え、
前記値取得部は、前記搬送部による前記基材の搬送が停止した状態で前記第1の駆動部によって前記巻出ロールを駆動することで、前記巻出ロールから前記ダンサローラへ前記基材を送り出す引出動作および前記ダンサローラから前記巻出ロールに前記基材を巻き取る引戻動作の少なくとも一方の動作を実行し、前記一方の動作の実行中における前記ダンサローラの変位量と前記巻出ロールの回転量とに基づき前記第1の初期径値を算出することで、前記第1の初期径値を取得する請求項1に記載の基材搬送装置。
【請求項4】
前記差分算出部は、前記第1のローパスフィルタによる遅れに相当する量だけ、前記複数の第1の算出巻径値を前記搬送距離に関してシフトさせることで遅れを補償する請求項1ないし3のいずれか一項に記載の基材搬送装置。
【請求項5】
前記第1のローパスフィルタは、移動平均フィルタである請求項1ないし4のいずれか一項に記載の基材搬送装置。
【請求項6】
前記第1のセンサは超音波センサであり、
前記基材は透明である請求項1ないし5のいずれか一項に記載の基材搬送装置。
【請求項7】
前記搬送部により搬送されてきた前記基材が巻き回された巻取ロールと、
前記巻取ロールを回転駆動して、前記巻取ロールに前記基材を巻き取る第2の駆動部と、
前記巻取ロールに巻き回された前記基材に対向する第2のセンサを有し、前記巻取ロールに巻き回された前記基材の径を、前記搬送部による前記基材の搬送時に前記第2のセンサにより複数回測定することで、前記搬送距離に応じた複数の第2の測定巻径値を測定する第2の径測定部と、
を備え、
前記値取得部は、前記搬送部による前記基材の搬送開始前における前記巻取ロールに巻き回された前記基材の径の値である第2の初期径値を取得し、
前記巻径算出部は、前記値取得部により取得された前記第2の初期径値と前記基材の厚みの値と、前記搬送距離測定部により測定された前記搬送距離とに基づき、前記巻取ロールに巻き回された前記基材の径の値を、前記搬送部による前記基材の搬送時に複数回算出することで、前記搬送距離に応じた複数の第2の算出巻径値を算出し、
前記フィルタ部は、前記搬送距離に応じた前記複数の第2の測定巻径値を第2のローパスフィルタによって平滑化して、前記搬送距離に応じた複数の第2の平滑巻径値を抽出し、
前記差分算出部は、前記第2のローパスフィルタによる遅れを補償しつつ前記第2の算出巻径値と前記第2の平滑巻径値との差分を算出する演算を、前記複数の第2の算出巻径値と前記複数の第2の平滑巻径値に対して実行することで、前記搬送距離に応じた複数の第2の差分を算出し、
前記補正部は、前記搬送距離に応じた前記複数の第
2の算出巻径値を、前記搬送距離に応じた前記複数の第
2の差分により補正する請求項1ないし6のいずれか一項に記載の基材搬送装置。
【請求項8】
長尺帯状の基材を搬送する搬送部と、
前記搬送部から搬送されてきた前記基材が巻き回された巻取ロールと、
前記巻取ロールを回転駆動して、前記巻取ロールに前記基材を巻き取る駆動部と、
前記基材が前記巻取ロールに巻き取られて搬送された搬送距離を測定する搬送距離測定部と、
前記巻取ロールに巻き回された前記基材に対向するセンサを有し、前記巻取ロールに巻き回された前記基材の径を、前記搬送部による前記基材の搬送時に前記センサにより複数回測定することで、前記搬送距離に応じた複数の測定巻径値を測定する径測定部と、
前記搬送部による前記基材の搬送開始前における前記巻取ロールに巻き回された前記基材の径の値である初期径値と、前記基材の厚みの値とを取得する値取得部と、
制御部と、
を備え、
前記制御部は、
前記値取得部により取得された前記初期径値と前記基材の厚みの値と、前記搬送距離測定部により測定された前記搬送距離とに基づき、前記巻取ロールに巻き回された前記基材の径の値を、前記搬送部による前記基材の搬送時に複数回算出することで、前記搬送距離に応じた複数の算出巻径値を算出する巻径算出部と、
前記搬送距離に応じた前記複数の測定巻径値をローパスフィルタによって平滑化して、前記搬送距離に応じた複数の平滑巻径値を抽出するフィルタ部と、
前記ローパスフィルタによる遅れを補償しつつ前記算出巻径値と前記平滑巻径値との差分を算出する演算を、前記複数の算出巻径値と前記複数の平滑巻径値に対して実行することで、前記搬送距離に応じた複数の差分を算出する差分算出部と、
前記搬送距離に応じた前記複数の算出巻径値を、前記搬送距離に応じた前記複数の差分により補正する補正部と、
を有する基材搬送装置。
【請求項9】
前記請求項1ないし8のいずれか一項に記載の基材搬送装置と、
前記基材搬送装置によって搬送される基材に対して、インクにより画像を印刷する印刷部と、
を備える印刷装置。
【請求項10】
前記請求項1ないし8のいずれか一項に記載の基材搬送装置と、
前記基材搬送装置によって搬送される基材に対して、塗工液を塗工する塗工部と、
を備える塗工装置。
【請求項11】
長尺帯状の基材が巻き回された巻出ロールを回転駆動して前記巻出ロールから巻き出した前記基材を搬送部によって搬送する基材搬送装置において前記巻出ロールに巻き回された前記基材の径を取得する基材ロール径取得方法であって、
前記搬送部による前記基材の搬送開始前における前記巻出ロールに巻き回された前記基材の径の値である初期径値と、前記基材の厚みの値とを取得する値取得工程と、
前記基材が前記巻出ロールから巻き出されて搬送された搬送距離を測定する搬送距離測定工程と、
前記巻出ロールに巻き回された前記基材に対向するセンサによって、前記巻出ロールに巻き回された前記基材の径を前記搬送部による前記基材の搬送時に複数回測定することで、前記搬送距離に応じた複数の測定巻径値を測定する径測定工程と、
前記値取得工程により取得された前記初期径値と前記基材の厚みの値と、前記搬送距離測定工程により測定された前記搬送距離とに基づき、前記巻出ロールに巻き回された前記基材の径の値を、前記搬送部による前記基材の搬送時に複数回算出することで、前記搬送距離に応じた複数の算出巻径値を算出する算出工程と、
前記搬送距離に応じた前記複数の測定巻径値をローパスフィルタによって平滑化して、前記搬送距離に応じた複数の平滑巻径値を抽出するフィルタ工程と、
前記ローパスフィルタによる遅れを補償しつつ前記算出巻径値と前記平滑巻径値との差分を算出する演算を、前記複数の算出巻径値と前記複数の平滑巻径値に対して実行することで、前記搬送距離に応じた複数の差分を算出する差分算出工程と、
前記搬送距離に応じた前記複数の算出巻径値を、前記搬送距離に応じた前記複数の差分により補正する補正工程と、
を有する基材ロール径取得方法。
【請求項12】
長尺帯状の基材を搬送部から搬送されてきた前記基材を、巻取ロールを回転駆動して巻き取る基材搬送装置において前記巻取ロールに巻き回された前記基材の径を取得する基材ロール径取得方法であって、
前記搬送部による前記基材の搬送開始前における前記巻取ロールに巻き回された前記基材の径の値である初期径値と、前記基材の厚みの値とを取得する値取得工程と、
前記基材が前記巻取ロールにより巻き取られて搬送された搬送距離を測定する搬送距離測定工程と、
前記巻取ロールに巻き回された前記基材に対向するセンサによって、前記巻取ロールに巻き回された前記基材の径を前記搬送部による前記基材の搬送時に複数回測定することで、前記搬送距離に応じた複数の測定巻径値を測定する径測定工程と、
前記値取得工程により取得された前記初期径値と前記基材の厚みの値と、前記搬送距離測定工程により測定された前記搬送距離とに基づき、前記巻取ロールに巻き回された前記基材の径の値を、前記搬送部による前記基材の搬送時に複数回算出することで、前記搬送距離に応じた複数の算出巻径値を算出する算出工程と、
前記搬送距離に応じた前記複数の算出巻径値をローパスフィルタによって平滑化して、前記搬送距離に応じた複数の平滑巻径値を抽出するフィルタ工程と、
前記搬送距離に応じた前記複数の平滑巻径値に生じた前記ローパスフィルタによる遅れを補償しつつ、同じ前記搬送距離に対応する前記算出巻径値と前記平滑巻径値との差分を算出する演算を、前記複数の算出巻径値と前記複数の平滑巻径値に対して実行することで、前記搬送距離に応じた複数の差分を算出する差分算出工程と、
前記搬送距離に応じた前記複数の算出巻径値を、前記搬送距離に応じた前記複数の差分により補正する補正工程と、
を有する基材ロール径取得方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、基材搬送装置のロールに巻き回された長尺帯状の基材の径を求める技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、長尺帯状の基材をロール・トゥ・ロールで搬送する基材搬送装置が、基材に画像を印刷する印刷装置や、基材に塗工を行う塗工装置等で用いられている。かかる基材搬送装置では、巻出ロールからの基材の巻出速度を制御したり、巻取ロールに基材を巻き取る際に基材に与えるテンションを制御したりする目的で、ロールに巻き回された基材の径が適宜求められる。例えば特許文献1では、基材に対向する非接触式の径測定センサによって、基材の径が測定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、センサによる測定結果はノイズを含むため、ロールに巻き回された基材の径をセンサによって正確に測定することは困難であった。そこで、ロール・トゥ・ロールで基材を搬送した搬送距離から基材の径を算出することが考えられる。しかしながら、算出に必要となる基材の初期径や厚み等の値に含まれる誤差が原因となって、基材の径を正確に算出することは困難であった。
【0005】
この発明は上記課題に鑑みなされたものであり、ロールに巻き回された基材の径を正確に求めることを可能とする技術の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1態様に係る基材搬送装置は、長尺帯状の基材が巻き回された巻出ロールと、巻出ロールを回転駆動して、巻出ロールに巻き回された基材を巻き出す第1の駆動部と、巻出ロールから巻き出された基材を搬送する搬送部と、基材が巻出ロールから巻き出されて搬送された搬送距離を測定する搬送距離測定部と、巻出ロールに巻き回された基材に対向する第1のセンサを有し、巻出ロールに巻き回された基材の径を、搬送部による基材の搬送時に第1のセンサにより複数回測定することで、搬送距離に応じた複数の第1の測定巻径値を測定する第1の径測定部と、搬送部による基材の搬送開始前における巻出ロールに巻き回された基材の径の値である第1の初期径値と、基材の厚みの値とを取得する値取得部と、制御部と、を備え、制御部は、値取得部により取得された第1の初期径値と基材の厚みの値と、搬送距離測定部により測定された搬送距離とに基づき、巻出ロールに巻き回された基材の径の値を、搬送部による基材の搬送時に複数回算出することで、搬送距離に応じた複数の第1の算出巻径値を算出する巻径算出部と、搬送距離に応じた複数の第1の測定巻径値を第1のローパスフィルタによって平滑化して、搬送距離に応じた複数の第1の平滑巻径値を抽出するフィルタ部と、第1のローパスフィルタによる遅れを補償しつつ第1の算出巻径値と第1の平滑巻径値との差分を算出する演算を、複数の第1の算出巻径値と複数の第1の平滑巻径値に対して実行することで、搬送距離に応じた複数の第1の差分を算出する差分算出部と、搬送距離に応じた複数の第1の算出巻径値を、搬送距離に応じた複数の第1の差分により補正する補正部と、を有する。
【0007】
本発明の第1態様に係る基材ロール径取得方法は、長尺帯状の基材が巻き回された巻出ロールを回転駆動して巻出ロールから巻き出した基材を搬送部によって搬送する基材搬送装置において巻出ロールに巻き回された基材の径を取得する基材ロール径取得方法であって、搬送部による基材の搬送開始前における巻出ロールに巻き回された基材の径の値である初期径値と、基材の厚みの値とを取得する値取得工程と、基材が巻出ロールから巻き出されて搬送された搬送距離を測定する搬送距離測定工程と、巻出ロールに巻き回された基材に対向するセンサによって、巻出ロールに巻き回された基材の径を搬送部による基材の搬送時に複数回測定することで、搬送距離に応じた複数の測定巻径値を測定する径測定工程と、値取得工程により取得された初期径値と基材の厚みの値と、搬送距離測定工程により測定された搬送距離とに基づき、巻出ロールに巻き回された基材の径の値を、搬送部による基材の搬送時に複数回算出することで、搬送距離に応じた複数の算出巻径値を算出する算出工程と、搬送距離に応じた複数の測定巻径値をローパスフィルタによって平滑化して、搬送距離に応じた複数の平滑巻径値を抽出するフィルタ工程と、ローパスフィルタによる遅れを補償しつつ算出巻径値と平滑巻径値との差分を算出する演算を、複数の算出巻径値と複数の平滑巻径値に対して実行することで、搬送距離に応じた複数の差分を算出する差分算出工程と、搬送距離に応じた複数の算出巻径値を、搬送距離に応じた複数の差分により補正する補正工程と、を有する。
【0008】
このように構成された本発明の第1態様では、巻出ロールに巻き回された基材に対向するセンサによって、巻出ロールに巻き回された基材の径を搬送部による基材の搬送時に複数回測定することで、搬送距離に応じた複数の測定巻径値が測定される。そして、搬送距離に応じた複数の測定巻径値をローパスフィルタによって平滑化して、搬送距離に応じた複数の平滑巻径値が抽出される。これによって、複数の測定巻径値から高周波のノイズを除去した複数の平滑巻径値を得ることができる。また、基材の初期径値、厚みおよび搬送距離に基づき、巻出ロールに巻き回された基材の径の値を、搬送部による基材の搬送時に複数回算出することで、搬送距離に応じた複数の算出巻径値が算出される。こうして準備された複数の平滑巻径値と複数の算出巻径値とは、ローパスフィルタの遅れによって搬送距離に相互に関してシフトしている。そこで、ローパスフィルタによる遅れを補償しつつ算出巻径値と平滑巻径値との差分を算出する演算を、複数の算出巻径値と複数の平滑巻径値に対して実行することで、搬送距離に応じた複数の差分が算出される。かかる差分は、基材の径の理想値に対する算出巻径値の誤差に近い値とみなせる。そこで、搬送距離に応じた複数の算出巻径値が、搬送距離に応じた複数の差分により補正される。こうして、巻出ロールに巻き回された基材の径を正確に求めることが可能となっている。
【0009】
また、値取得部は、ユーザの入力によって第1の初期径値を取得するように、基材搬送装置を構成してもよい。かかる構成では、比較的簡単に第1の初期径値を取得できる。
【0010】
また、巻出ロールと搬送部との間で基材を巻き掛けるダンサローラと、ダンサローラから基材に一定のテンションが与えられるようにダンサローラを変位させるローラ駆動部と、 ダンサローラの変位量を検出する変位量検出部と、巻出ロールの回転量を測定するエンコーダと、をさらに備え、値取得部は、搬送部による基材の搬送が停止した状態で第1の駆動部によって巻出ロールを駆動することで、巻出ロールからダンサローラへ基材を送り出す引出動作およびダンサローラから巻出ロールに基材を巻き取る引戻動作の少なくとも一方の動作を実行し、一方の動作の実行中におけるダンサローラの変位量と巻出ロールの回転量とに基づき第1の初期径値を算出することで、第1の初期径値を取得するように、基材搬送装置を構成してもよい。かかる構成では、ユーザの操作によらず第1の初期径値を取得できるため、ユーザの作業負担を軽減できる。
【0011】
また、差分算出部は、第1のローパスフィルタによる遅れに相当する量だけ、複数の第1の算出巻径値を搬送距離に関してシフトさせることで遅れを補償するように、基材搬送装置を構成してもよい。このようにローパスフィルタによる遅れを補償しつつ算出巻径値と平滑巻径値との差分を算出することで、基材の径の理想値に対する算出巻径値の誤差に近い値を与える差分を的確に求めることができる。
【0012】
また、第1のローパスフィルタは、移動平均フィルタであってもよい。かかる移動平均フィルタによって、複数の測定巻径値から高周波のノイズを的確に除去することができる。
【0013】
また、第1のセンサは超音波センサであり、基材は透明であるように、基材搬送装置を構成しても良い。かかる構成では、透明な基材の径を超音波センサによって測定できる。ただし、超音波センサによる測定結果にはノイズが含まれるため、本発明を適用することが特に好適となる。
【0014】
また、搬送部により搬送されてきた基材が巻き回された巻取ロールと、巻取ロールを回転駆動して、巻取ロールに基材を巻き取る第2の駆動部と、巻取ロールに巻き回された基材に対向する第2のセンサを有し、巻取ロールに巻き回された基材の径を、搬送部による基材の搬送時に第2のセンサにより複数回測定することで、搬送距離に応じた複数の第2の測定巻径値を測定する第2の径測定部と、を備え、値取得部は、搬送部による基材の搬送開始前における巻取ロールに巻き回された基材の径の値である第2の初期径値を取得し、巻径算出部は、値取得部により取得された第2の初期径値と基材の厚みの値と、搬送距離測定部により測定された搬送距離とに基づき、巻取ロールに巻き回された基材の径の値を、搬送部による基材の搬送時に複数回算出することで、搬送距離に応じた複数の第2の算出巻径値を算出し、フィルタ部は、搬送距離に応じた複数の第2の測定巻径値を第2のローパスフィルタによって平滑化して、搬送距離に応じた複数の第2の平滑巻径値を抽出し、差分算出部は、第2のローパスフィルタによる遅れを補償しつつ第2の算出巻径値と第2の平滑巻径値との差分を算出する演算を、複数の第2の算出巻径値と複数の第2の平滑巻径値に対して実行することで、搬送距離に応じた複数の第2の差分を算出し、補正部は、搬送距離に応じた複数の第2の算出巻径値を、搬送距離に応じた複数の第2の差分により補正するように、基材搬送装置を構成してもよい。
【0015】
かかる構成では、巻取ロールに巻き回された基材に対向するセンサによって、巻取ロールに巻き回された基材の径を搬送部による基材の搬送時に複数回測定することで、搬送距離に応じた複数の測定巻径値が測定される。そして、搬送距離に応じた複数の測定巻径値をローパスフィルタによって平滑化して、搬送距離に応じた複数の平滑巻径値が抽出される。これによって、複数の測定巻径値から高周波のノイズを除去した複数の平滑巻径値を得ることができる。また、基材の初期径値、厚みおよび搬送距離に基づき、巻取ロールに巻き回された基材の径の値を、搬送部による基材の搬送時に複数回算出することで、搬送距離に応じた複数の算出巻径値が算出される。こうして準備された複数の平滑巻径値と複数の算出巻径値とは、ローパスフィルタの遅れによって搬送距離に関して相互にシフトしている。そこで、ローパスフィルタによる遅れを補償しつつ算出巻径値と平滑巻径値との差分を算出する演算を、複数の算出巻径値と複数の平滑巻径値に対して実行することで、搬送距離に応じた複数の差分が算出される。かかる差分は、基材の径の理想値に対する算出巻径値の誤差に近い値とみなせる。そこで、搬送距離に応じた複数の算出巻径値が、搬送距離に応じた複数の差分により補正される。こうして、巻取ロールに巻き回された基材の径を正確に求めることが可能となっている。
【0016】
本発明の第2態様に係る基材搬送装置は、長尺帯状の基材を搬送する搬送部と、搬送部から搬送されてきた基材が巻き回された巻取ロールと、巻取ロールを回転駆動して、巻取ロールに基材を巻き取る駆動部と、基材が巻取ロールに巻き取られて搬送された搬送距離を測定する搬送距離測定部と、巻取ロールに巻き回された基材に対向するセンサを有し、巻取ロールに巻き回された基材の径を、搬送部による基材の搬送時にセンサにより複数回測定することで、搬送距離に応じた複数の測定巻径値を測定する径測定部と、搬送部による基材の搬送開始前における巻取ロールに巻き回された基材の径の値である初期径値と、基材の厚みの値とを取得する値取得部と、制御部と、を備え、制御部は、値取得部により取得された初期径値と基材の厚みの値と、搬送距離測定部により測定された搬送距離とに基づき、巻取ロールに巻き回された基材の径の値を、搬送部による基材の搬送時に複数回算出することで、搬送距離に応じた複数の算出巻径値を算出する巻径算出部と、搬送距離に応じた複数の測定巻径値をローパスフィルタによって平滑化して、搬送距離に応じた複数の平滑巻径値を抽出するフィルタ部と、ローパスフィルタによる遅れを補償しつつ算出巻径値と平滑巻径値との差分を算出する演算を、複数の算出巻径値と複数の平滑巻径値に対して実行することで、搬送距離に応じた複数の差分を算出する差分算出部と、搬送距離に応じた複数の算出巻径値を、搬送距離に応じた複数の差分により補正する補正部と、を有する。
【0017】
本発明の第2態様に係る基材ロール径取得方法は、長尺帯状の基材を搬送部から搬送されてきた基材を、巻取ロールを回転駆動して巻き取る基材搬送装置において巻取ロールに巻き回された基材の径を取得する基材ロール径取得方法であって、搬送部による基材の搬送開始前における巻取ロールに巻き回された基材の径の値である初期径値と、基材の厚みの値とを取得する値取得工程と、基材が巻取ロールにより巻き取られて搬送された搬送距離を測定する搬送距離測定工程と、巻取ロールに巻き回された基材に対向するセンサによって、巻取ロールに巻き回された基材の径を搬送部による基材の搬送時に複数回測定することで、搬送距離に応じた複数の測定巻径値を測定する径測定工程と、値取得工程により取得された初期径値と基材の厚みの値と、搬送距離測定工程により測定された搬送距離とに基づき、巻取ロールに巻き回された基材の径の値を、搬送部による基材の搬送時に複数回算出することで、搬送距離に応じた複数の算出巻径値を算出する算出工程と、搬送距離に応じた複数の算出巻径値をローパスフィルタによって平滑化して、搬送距離に応じた複数の平滑巻径値を抽出するフィルタ工程と、搬送距離に応じた複数の平滑巻径値に生じたローパスフィルタによる遅れを補償しつつ、同じ搬送距離に対応する算出巻径値と平滑巻径値との差分を算出する演算を、複数の算出巻径値と複数の平滑巻径値に対して実行することで、搬送距離に応じた複数の差分を算出する差分算出工程と、搬送距離に応じた複数の算出巻径値を、搬送距離に応じた複数の差分により補正する補正工程と、を有する。
【0018】
このように構成された本発明の第2態様では、巻取ロールに巻き回された基材に対向するセンサによって、巻取ロールに巻き回された基材の径を搬送部による基材の搬送時に複数回測定することで、搬送距離に応じた複数の測定巻径値が測定される。そして、搬送距離に応じた複数の測定巻径値をローパスフィルタによって平滑化して、搬送距離に応じた複数の平滑巻径値が抽出される。これによって、複数の測定巻径値から高周波のノイズを除去した複数の平滑巻径値を得ることができる。また、基材の初期径値、厚みおよび搬送距離に基づき、巻取ロールに巻き回された基材の径の値を、搬送部による基材の搬送時に複数回算出することで、搬送距離に応じた複数の算出巻径値が算出される。こうして準備された複数の平滑巻径値と複数の算出巻径値とは、ローパスフィルタの遅れによって搬送距離に関して相互にシフトしている。そこで、ローパスフィルタによる遅れを補償しつつ算出巻径値と平滑巻径値との差分を算出する演算を、複数の算出巻径値と複数の平滑巻径値に対して実行することで、搬送距離に応じた複数の差分が算出される。かかる差分は、基材の径の理想値に対する算出巻径値の誤差に近い値とみなせる。そこで、搬送距離に応じた複数の算出巻径値が、搬送距離に応じた複数の差分により補正される。こうして、巻取ロールに巻き回された基材の径を正確に求めることが可能となっている。
【0019】
本発明に係る印刷装置は、上記の基材搬送装置と、基材搬送装置によって搬送される基材に対して、インクにより画像を印刷する印刷部と、を備える。したがって、ロールに巻き回された基材の径を正確に求めることが可能となる。
【0020】
本発明に係る塗工装置は、上記の基材搬送装置と、基材搬送装置によって搬送される基材に対して、塗工液を塗工する塗工部と、を備える。したがって、ロールに巻き回された基材の径を正確に求めることが可能となる。
【発明の効果】
【0021】
以上のように、本発明によれば、ロールに巻き回された基材の径を正確に求めることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】
図1は本発明に係る印刷装置の一例を模式的に示す正面図。
【
図2】基材搬送装置の巻出機の構成を模式的に示す正面図。
【
図3】基材搬送装置の巻取機の構成を模式的に示す正面図。
【
図4】基材搬送システムが備える電気的構成を示すブロック図。
【
図5】巻出ロールから印刷媒体Mを巻き出した例を示す図。
【
図6】
図5の例に対して差分による補正を実行した効果を示す図。
【
図7】巻取ロールに印刷媒体Mを巻き取った例を示す図。
【
図8】
図7の例に対して差分による補正を実行した効果を示す図。
【
図9】本発明に係る塗工装置の一例を模式的に示す正面図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1は本発明に係る印刷装置の一例を模式的に示す正面図である。
図1では、水平方向Xおよび鉛直方向Zを適宜示す。
図1に示すように、印刷装置1は、印刷機2、乾燥機3、印刷機4および乾燥機5をこの順で水平方向X(配列方向)に配列した構成を具備する。この印刷装置1は、長尺帯状の印刷媒体M(基材)を搬送する基材搬送システム6を備える。基材搬送システム6は、巻出機7と巻取機8とを有し、巻出機7から巻取機8に向けてロール・トゥ・ロールで印刷媒体Mを搬送する。そして、印刷機2、乾燥機3、印刷機4および乾燥機5は、巻出機7と巻取機8との間に配置されている。かかる印刷装置1は、基材搬送システム6によって印刷媒体Mを搬送しつつ、印刷機2で印刷した印刷媒体Mを乾燥機3で乾燥させ、さらに印刷機4で印刷した印刷媒体Mを乾燥機5で乾燥させる。なお、印刷媒体Mとしては、紙あるいはフィルム等の種々の素材を利用できるが、ここの例では、印刷媒体Mは透明なフィルムである。また、以下では、印刷媒体Mの両面のうち、画像が印刷される面を表面と、表面の反対側の面を裏面と適宜称する。
【0024】
印刷機2は、印刷媒体Mを搬送する搬送部21を備える。搬送部21は、印刷機2に搬入されてきた印刷媒体Mを支持するローラ211と、乾燥機3に向けて印刷媒体Mを搬出するローラ212と、ローラ211とローラ212との間に配列された複数の複数のローラ213とを有する。これらローラ211、212、213は、下方を向く印刷媒体Mの裏面を巻き掛けることで、印刷媒体Mを支持する。さらに、印刷機2は、複数のローラ213に支持された印刷媒体Mの表面に上方から対向する複数のインク吐出ヘッドHを備え、複数のインク吐出ヘッドHは互いに異なる色のカラーインクをインクジェット方式で印刷媒体Mの表面に吐出することで、印刷媒体Mにカラー画像を印刷する。
【0025】
乾燥機3は、印刷機2から搬出されてきた印刷媒体Mを搬送する搬送部31を備える。この搬送部31は、乾燥機3に搬入された印刷媒体Mを支持するローラ311と、ローラ311の下方で水平方向Xに並ぶ一対のエアターンバー312、313とを有する。エアターンバー312は、ローラ311から下降してきた印刷媒体Mを水平方向Xの一方側(
図1の左側)に向けて折り曲げ、エアターンバー313は、エアターンバー312から水平方向Xに進んできた印刷媒体Mを上方に向けて折り曲げる。また、搬送部31は、一対のエアターンバー312、313の上方で水平方向Xに並ぶ一対のローラ314、315を有する。ローラ314は、エアターンバー313から上昇してきた印刷媒体Mを水平方向Xの一方側に向けて折り曲げ、ローラ315は、ローラ314から水平方向Xに進んできた印刷媒体Mを下方に向けて折り曲げる。さらに、搬送部31は、ローラ315の下方に配置されたエアターンバー316を有する。このエアターンバー316は、ローラ315から下降してきた印刷媒体Mを水平方向Xの一方側に向けて折り曲げて、印刷機4に向けて印刷媒体Mを搬出する。ローラ311、314、315は印刷媒体Mの裏面を巻き掛けることで印刷媒体Mを支持し、エアターンバー312、313、316は、印刷媒体Mの表面にエアを噴射することで印刷媒体Mを支持する。
【0026】
さらに、乾燥機3は、ローラ311とエアターンバー312との間の印刷媒体Mの表面に対向するヒータ32と、エアターンバー313とローラ314との間の印刷媒体Mの表面に対向するヒータ33と、ローラ315とエアターンバー316との間の印刷媒体Mの表面に対向するヒータ34とを備える。これらヒータ32、33、34は、印刷媒体Mの表面を加熱することで、印刷媒体Mに付着したインクを乾燥させる。
【0027】
印刷機4は、乾燥機3から搬出されてきた印刷媒体Mを搬送する搬送部41を備える。この搬送部41は、印刷機4に搬入された印刷媒体Mを上方へ折り返すエアターンバー411と、エアターンバー411の上方で並ぶローラ412、413、414、415を有する。これらローラ412~415は、エアターンバー411から上昇してきた印刷媒体Mを水平方向Xの一方側に向けて搬送する。これによって、印刷媒体Mは、ローラ415から乾燥機5に向けて水平方向Xに搬出される。エアターンバー411は、印刷媒体Mの表面にエアを噴射することで印刷媒体Mを支持し、ローラ412~415は、下方を向く印刷媒体Mの裏面を巻き掛けることで、印刷媒体Mを支持する。さらに、印刷機4は、複数のローラ413、414に支持された印刷媒体Mの表面に上方から対向するインク吐出ヘッドHを備え、インク吐出ヘッドHは白インクをインクジェット方式で印刷媒体Mの表面に吐出することで、印刷媒体Mに白画像を印刷する。
【0028】
乾燥機5は、印刷機4から搬出されてきた印刷媒体Mを搬送する搬送部51を備える。搬送部51は、乾燥機5に搬入されてきた印刷媒体Mを支持するローラ511と、ローラ511の水平方向Xの一方側で鉛直方向Zに並ぶ一対のローラ512、513とを有する。ローラ512は、ローラ511から水平方向Xの一方側に搬送されてきた印刷媒体Mを下方に向けて折り曲げ、ローラ513は、ローラ512から下降してきた印刷媒体Mを水平方向Xの他方側(
図1の右側)に向けて折り曲げる。また、搬送部51は、ローラ513の水平方向Xの他方側であってローラ511の下方で鉛直方向Zに並ぶ一対のエアターンバー514、515を有する。エアターンバー514は、ローラ513から水平方向Xの他方側に搬送されてきた印刷媒体Mを下方に向けて折り曲げ、エアターンバー515は、エアターンバー514から下降してきた印刷媒体Mを水平方向Xの一方側に向けて折り曲げる。さらに、搬送部51は、エアターンバー515の水平方向Xの一方側に配置されたローラ516を有し、ローラ516は、エアターンバー515から水平方向の一方側に搬送されてきた印刷媒体Mを、さらに一方側に向けて搬送する。こうして、印刷媒体Mは、ローラ516によって搬出される。ローラ511、512、513、516は、印刷媒体Mの裏面を巻き掛けることで印刷媒体Mを支持し、エアターンバー514、515は印刷媒体Mの表面にエアを噴射することで、印刷媒体Mを支持する。
【0029】
さらに、乾燥機5はローラ511とローラ512との間の印刷媒体Mの表面に対向するヒータ52と、ローラ513とエアターンバー514との間の印刷媒体Mの表面に対向するヒータ53と、エアターンバー515とローラ516との間の印刷媒体Mの表面に対向するヒータ54とを備える。これらヒータ52、53、54は、印刷媒体Mの表面を加熱することで、印刷媒体Mに付着したインクを乾燥させる。
【0030】
上述のように、印刷装置1では、印刷機2、乾燥機3、印刷機4および乾燥機5に対して、印刷媒体Mを搬送する搬送部21、搬送部31、搬送部41および搬送部51が設けられている。そして、これら搬送部21、31、41、51は、巻出機7および巻取機8と協働して基材搬送システム6を構成する。
【0031】
図2は基材搬送装置の巻出機の構成を模式的に示す正面図である。巻出機7は、印刷媒体Mが巻き回された巻出ロール71と、巻出ロール71とローラ211との間に配置されて巻出ロール71からローラ211に巻き出される印刷媒体Mを上方から巻き掛ける2本のローラ72、73と、ローラ72とローラ73との間で印刷媒体Mを下方から巻き掛けるダンサローラ74とを有する。
【0032】
また、巻出機7は、ダンサローラ74を支持する回転アーム75を有する。この回転アーム75は、その一端に設けられた回転軸751を中心に上下に回転可能であり、ダンサローラ74は、回転アーム75の他端に設けられた回転軸752に回転可能に支持されている。また、巻出機7は、回転アーム75の回転軸751と回転軸752との間の位置を上下に駆動する駆動するシリンダ76を有する。このシリンダ76は、ダンサローラ74から印刷媒体Mに一定のテンションが与えられるようにダンサローラ74の駆動を制御する。即ち、シリンダ76が回転アーム75を上下に駆動し、回転アーム75の上下動に伴ってダンサローラ74が上下に変位することにより印刷媒体Mに一定のテンションが与えられる。さらに、巻出機7は、巻出ロール71に巻き回された印刷媒体Mに対向して配置された径センサ77を有し、この径センサ77はロール状の印刷媒体Mの径D1(直径)を測定する。
【0033】
図3は基材搬送装置の巻取機の構成を模式的に示す正面図である。巻取機8は、印刷媒体Mが巻き回された巻取ロール81と、巻取ロール81と乾燥機5のローラ516との間に配置されてローラ516から巻取ロール81に巻き取られる印刷媒体Mを上方から巻き掛ける2本のローラ82、83と、ローラ82とローラ83との間で印刷媒体Mを下方から巻き掛けるダンサローラ84とを有する。
【0034】
また、巻取機8は、ダンサローラ84を支持する回転アーム85を有する。この回転アーム85は、その一端に設けられた回転軸851を中心に上下に回転可能であり、ダンサローラ84は、回転アーム85の他端に設けられた回転軸852に回転可能に支持されている。また、巻取機8は、回転アーム85の回転軸851と回転軸852との間の位置を上下に駆動する駆動するシリンダ86を有する。このシリンダ86は、ダンサローラ84から印刷媒体Mに一定のテンションが与えられるようにダンサローラ84の駆動を制御する。即ち、シリンダ86が回転アーム85を上下に駆動し、回転アーム85の上下動に伴ってダンサローラ84が上下に変位することにより印刷媒体Mに一定のテンションが与えられる。さらに、巻取機8は、巻取ロール81に巻き回された印刷媒体Mに対向して配置された径センサ87を有し、この径センサ87はロール状の印刷媒体Mの径D1(直径)を測定する。
【0035】
なお、巻出機7および巻取機8の径センサ77、87は、非接触式の距離センサであり、印刷媒体Mまでの距離を検出することで印刷媒体Mの径D1、D2を測定する。かかる径センサ77、87としては、光学センサや超音波センサ等を使用できるが、ここの例では、径センサ77、87は、透明の印刷媒体Mの径D1、D2を測定可能な超音波センサである。ちなみに、径センサ77、87により測定する径は、ここの例では径は直径であるが、半径でも構わない。
【0036】
図4は基材搬送システムが備える電気的構成を示すブロック図である。同図に示すように、基材搬送システム6では、巻出ロール71を回転駆動する巻出モータ71mと、巻出モータ71mの回転位置を検出するエンコーダ71eとが設けられている。また、回転軸751を中心とする回転アーム75の回転角度を検出する角度センサ75sが設けられている。さらに、ローラ211を回転駆動する搬送モータ211mと、搬送モータ211mの回転位置を検出するエンコーダ211eとが設けられている。
【0037】
同様に、基材搬送システム6では、巻取ロール81を回転駆動する巻取モータ81mと、巻取モータ81mの回転位置を検出するエンコーダ81eとが設けられている。また、回転軸851を中心とする回転アーム85の回転角度を検出する角度センサ85sが設けられている。さらに、ローラ516を回転駆動する搬送モータ516mと、搬送モータ516mの回転位置を検出するエンコーダ516eとが設けられている。
【0038】
また、基材搬送システム6は、UI(User Interface)9を備え、ユーザはUI9に入力操作を行うことで、制御部61に種々の設定を行うことができる。かかるUI9としては、例えばキーボードあるいはマウスなどの入力機器や、タッチパネルディスプレイ等を用いることができる。
【0039】
さらに、基材搬送システム6は、印刷媒体Mを搬送するために必要な演算を実行する制御部61を備える。制御部61は、例えばFPGA(Field-Programmable Gate Array)あるいはプロセッサ等で構成される。
【0040】
この制御部61には、印刷媒体Mの駆動制御を実行する駆動制御部62が設けられている。駆動制御部62は、エンコーダ211eの出力に基づき搬送モータ211mに速度制御を実行することで、搬送モータ211mを所定速度で回転させる。これによって、ローラ211は、所定速度で回転して、巻出ロール71から巻き出された印刷媒体Mを定速で搬送する。さらに、駆動制御部62は、巻出モータ71mの駆動制御、エンコーダ71eの出力の監視およびシリンダ76の駆動制御を実行する。
【0041】
また、駆動制御部62は、エンコーダ516eの出力に基づき搬送モータ516mに速度制御を実行することで、搬送モータ516mを所定速度で回転させる。これによって、ローラ516は、所定速度で回転して、巻取ロール81へ向けて印刷媒体Mを定速で搬送する。さらに、駆動制御部62は、巻取モータ81mの駆動制御、エンコーダ81eの出力の監視およびシリンダ86の駆動制御を実行する。
【0042】
かかる制御部61は、ロール状の印刷媒体Mの径D1、D2を径センサ77、87によって測定した結果に基づき、巻出モータ71m、巻取モータ81mを制御する。ただし、径センサ77、87の測定結果は高周波のノイズを含み、特に超音波センサを用いた場合にはノイズが顕著となる。そのため、径センサ77、87によって径D1、D2を高精度に求めることは難しい。そこで、印刷媒体Mの搬送中において、制御部61は、径センサ77、87の測定結果を補正して、径D1、D2を求める。続いては、この点を、巻出側について説明してから、巻取側について説明を行う。
【0043】
制御部61は、巻出ロール71に巻き回された印刷媒体Mの径D1を径センサ77によって測定した測定巻径値Ds1(d)を取得するセンサ制御部63を有する。このセンサ制御部63は、所定のサンプリング間隔で径センサ77により測定巻径値Ds1(d)を繰り返し測定することで、複数の測定巻径値Ds1(d)を取得する。なお、サンプリング間隔は、印刷媒体Mが所定の単位距離(例えば、1m)だけ搬送される間隔に設定されており、センサ制御部63は、印刷媒体Mが単位距離だけ搬送される度に測定巻径値Ds1(d)を測定する。これによって、印刷媒体Mの搬送距離dに応じた複数の測定巻径値Ds1(d)(d=1m、2m、3m、4m)が測定される。ちなみに、搬送距離dは、例えば搬送モータ211mのエンコーダ211eの出力に基づき駆動制御部62によって求められ、駆動制御部62からセンサ制御部63に出力される。
【0044】
制御部61は、ローパスフィルタによって系列データを平滑化するフィルタ部64を有し、センサ制御部63で測定された複数の測定巻径値Ds1(d)(系列データ)は、フィルタ部64によって平滑化されて、複数の平滑巻径値Ds_avg1(d)が算出される。こうして、印刷媒体Mの搬送距離dに応じた複数の平滑巻径値Ds_avg1(d)が取得される。なお、ローパスフィルタとしては、単純移動平均フィルタを用いる。
【0045】
また、制御部61は、巻出ロール71に巻き回された印刷媒体Mの径D1を算出によって求める巻径算出部65を有する。この巻径算出部65は、ローラ211による印刷媒体Mの搬送が停止されている状態(すなわち、印刷媒体Mの搬送開始前)における、巻出ロール71に巻き回された印刷媒体Mの巻径値である初期径値Do1と、印刷媒体Mの厚みの値Tmと、搬送距離dとに基づき、算出巻径値Dc1(d)を次式
Dc1(d)=((Do1/2)2×π-Tm×d)/π)1/2×2
により算出する。印刷媒体Mの初期径値Do1と厚みの値Tmとは、ユーザによってUI9に入力された値が用いられる。こうして、印刷媒体Mの搬送距離dに応じた複数の算出巻径値Dc1(d)が算出される。なお、印刷媒体Mの初期径値Do1あるいは厚みの値Tmには誤差が含まれうる。かかる誤差はノイズのように時間変動するものではないため、算出巻径値Dc1(d)には定常的な誤差が生じうる。
【0046】
さらに、制御部61は、算出巻径値Dc1(d)と平滑巻径値Ds_avg1(d)との差分Ddiff1(d)を算出する差分算出部66を有する。ちなみに、複数の平滑巻径値Ds_avg1(d)からなる系列データには、単純移動平均フィルタによる遅れが生じている。そこで、差分Ddiff1(d)を算出するにあたって、差分算出部66はこの遅れを補償する。具体的には、単純移動平均フィルタによる遅れ量は、単純移動平均のタップ数Nの半分に相当する。したがって、タップ数Nの半分に相当する距離だけ、算出巻径値Dc1(d)を搬送距離dに関してシフトさせる。ここで、搬送距離dに関してシフトさせるとは、搬送距離dを横軸とし、算出巻径値Dc1(d)を縦軸とするグラフにおいて、算出巻径値Dc1(d)を横軸方向に平行移動させる操作を示す。つまり、次式
Ddiff1(d)=Dc1(d-N/2)-Ds_avg1(d)
によって差分Ddiff1(d)が算出される。こうして、印刷媒体Mの搬送距離dに応じた複数の差分Ddiff1(d)が算出される。
【0047】
また、制御部61は、算出巻径値Dc1(d)を差分Ddiff1(d)により補正する補正部67を有する。この補正部67は、次式
Df1(d)=Dc1(d)-Ddiff1(d)
により補正を行って補正巻径値Df1(d)を取得する。こうして、搬送距離dに応じた複数の補正巻径値Df1(d)が算出される。
【0048】
この補正巻径値Df1(d)は、駆動制御部62による制御に用いられる。例えば、ローラ211によって定速で搬送される印刷媒体Mの速度に応じて、巻出ロール71から巻き出される印刷媒体Mの速度を制御する場合には、エンコーダ71eの出力から求められる巻出ロール71の回転速度と補正巻径値Df1(d)とに基づき、巻出モータ71mの回転速度が制御される。これによって、ローラ211による印刷媒体Mの搬送速度に、巻出ロール71から印刷媒体Mを巻き出す速度を合わせることができる。
【0049】
上記と同様の補正が巻取ロール81に巻き回された印刷媒体Mの径D2wに対して実行される。つまり、センサ制御部63は、所定のサンプリング間隔で径センサ87により測定巻径値Ds2(d)を繰り返し測定することで、複数の測定巻径値Ds2(d)を取得する。これによって、印刷媒体Mの搬送距離dに応じた複数の測定巻径値Ds2(d)が測定される。そして、複数の測定巻径値Ds2(d)は、フィルタ部64によって平滑化されて、複数の平滑巻径値Ds_avg2(d)が算出される。こうして、印刷媒体Mの搬送距離dに応じた複数の平滑巻径値Ds_avg2(d)が取得される。
【0050】
また、巻径算出部65は、印刷媒体Mの搬送開始前における、巻取ロール81に巻き回された印刷媒体Mの巻径値である初期径値Do2と、印刷媒体Mの厚みの値Tmと、搬送距離dとに基づき、算出巻径値Dc2(d)を次式
Dc2(d)=((Do2/2)2×π-Tm×d)/π)1/2×2
により算出する。印刷媒体Mの初期径値Do2は、ユーザによってUI9に入力された値が用いられる。こうして、印刷媒体Mの搬送距離dに応じた複数の算出巻径値Dc2(d)が算出される。
【0051】
さらに、差分算出部66は、次式
Ddiff2(d)=Dc2(d-N/2)-Ds_avg2(d)
によって差分Ddiff2(d)を算出する。こうして、印刷媒体Mの搬送距離dに応じた複数の差分Ddiff2(d)が算出される。そして、補正部67は、次式
Df2(d)=Dc2(d)-Ddiff2(d)
により補正を行って補正巻径値Df2(d)を取得する。こうして、搬送距離dに応じた複数の補正巻径値Df2(d)が算出される。
【0052】
この補正巻径値Df2(d)は、駆動制御部62による制御に用いられる。例えば、巻取ロール81に印刷媒体Mを巻き取る際にシリンダ86によって与えるテンションを、印刷媒体Mの径の増大に伴って減少させるテーパテンション制御が、補正巻径値Df2(d)に基づき実行される。
【0053】
以上に説明した実施形態では、巻出ロール71に巻き回された印刷媒体M(基材)に対向する径センサ77によって、巻出ロール71に巻き回された印刷媒体Mの径を搬送部21、31、41、51による印刷媒体Mの搬送時に複数回測定することで、搬送距離dに応じた複数の測定巻径値Ds1(d)が測定される。そして、搬送距離dに応じた複数の測定巻径値Ds1(d)をローパスフィルタによって平滑化して、搬送距離dに応じた複数の平滑巻径値Ds_avg1(d)が抽出される。これによって、複数の測定巻径値Ds1(d)から高周波のノイズを除去した複数の平滑巻径値Ds_avg1(d)を得ることができる。また、印刷媒体Mの初期径値Do1、厚みの値Tmおよび搬送距離dに基づき、巻出ロール71に巻き回された印刷媒体Mの径の値を、印刷媒体Mの搬送時に複数回算出することで、搬送距離dに応じた複数の算出巻径値Dc1(d)が算出される。こうして準備された複数の平滑巻径値Ds_avg1(d)と複数の算出巻径値Dc1(d)とは、ローパスフィルタの遅れによって搬送距離dに関して相互にシフトしている。そこで、ローパスフィルタによる遅れを補償しつつ算出巻径値Dc1(d)と平滑巻径値Ds_avg1(d)との差分Ddiff1(d)を算出する演算を、複数の算出巻径値Dc1(d)と複数の平滑巻径値Ds_avg1(d)に対して実行することで、搬送距離dに応じた複数の差分Ddiff1(d)が算出される。かかる差分Ddiff1(d)は、印刷媒体Mの径の理想値Di1(d)に対する算出巻径値Dc1(d)の誤差に近い値とみなせる。そこで、搬送距離dに応じた複数の算出巻径値Dc1(d)が、搬送距離dに応じた複数の差分Ddiff1(d)により補正される。こうして、巻出ロール71に巻き回された印刷媒体Mの径を正確に求めることが可能となっている。
【0054】
具体的には、差分算出部66は、ローパスフィルタによる遅れに相当する量だけ、複数の算出巻径値Dc1(d)を搬送距離dに関してシフトさせることで遅れを補償する。このようにローパスフィルタによる遅れを補償しつつ算出巻径値Dc1(d)と平滑巻径値Ds_avg1(d)との差分Ddiff1(d)を算出することで、印刷媒体Mの径の理想値Di1(d)に対する算出巻径値Dc1(d)の誤差に近い値を与える差分Ddiff1(d)を的確に求めることができる。
【0055】
また、フィルタ部64が用いるローパスフィルタは、移動平均フィルタである。かかる移動平均フィルタによって、複数の測定巻径値Ds1(d)から高周波のノイズを的確に除去することができる。
【0056】
また、UI9が、ユーザの入力によって初期径値Do1を取得する。かかる構成では、比較的簡単に初期径値Do1を取得できる。
【0057】
また、径センサ77は超音波センサであり、印刷媒体Mは透明である。かかる構成では、透明な印刷媒体Mの径を超音波センサによって測定できる。ただし、超音波センサによる測定結果にはノイズが含まれるため、本発明を適用することが特に好適となる。
【0058】
また、巻取ロール81に巻き回された印刷媒体Mに対向する径センサ87によって、巻取ロール81に巻き回された印刷媒体Mの径を、搬送部21、31、41、51による印刷媒体Mの搬送時に複数回測定することで、搬送距離dに応じた複数の測定巻径値Ds2(d)が測定される。そして、搬送距離dに応じた複数の測定巻径値Ds2(d)をローパスフィルタによって平滑化して、搬送距離dに応じた複数の平滑巻径値Ds_avg2(d)が抽出される。これによって、複数の測定巻径値Ds2(d)から高周波のノイズを除去した複数の平滑巻径値Ds_avg2(d)を得ることができる。また、印刷媒体Mの初期径値Do2、厚みTmおよび搬送距離dに基づき、巻取ロール81に巻き回された印刷媒体Mの径の値を、印刷媒体Mの搬送時に複数回算出することで、搬送距離dに応じた複数の算出巻径値Dc2(d)が算出される。こうして準備された複数の平滑巻径値Ds_avg2(d)と複数の算出巻径値Dc2(d)とは、ローパスフィルタの遅れによって搬送距離dに関してシフトしている。そこで、ローパスフィルタによる遅れを補償しつつ算出巻径値Dc2(d)と平滑巻径値Ds_avg2(d)との差分Ddiff2(d)を算出する演算を、複数の算出巻径値Dc2(d)と複数の平滑巻径値Ds_avg2(d)に対して実行することで、搬送距離dに応じた複数の差分Ddiff2(d)が算出される。かかる差分Ddiff2(d)は、印刷媒体Mの径の理想値Di2(d)に対する算出巻径値Dc2(d)の誤差に近い値とみなせる。そこで、搬送距離dに応じた複数の算出巻径値Dc2(d)が、搬送距離dに応じた複数の差分Ddiff2(d)により補正される。こうして、巻取ロール81に巻き回された印刷媒体Mの径を正確に求めることが可能となっている。
【0059】
具体的には、差分算出部66は、ローパスフィルタによる遅れに相当する量だけ、複数の算出巻径値Dc2(d)を搬送距離dに関してシフトさせることで遅れを補償する。このようにローパスフィルタによる遅れを補償しつつ算出巻径値Dc2(d)と平滑巻径値Ds_avg2(d)との差分Ddiff2(d)を算出することで、印刷媒体Mの径の理想値Di2(d)に対する算出巻径値Dc2(d)の誤差に近い値を与える差分Ddiff2(d)を的確に求めることができる。
【0060】
また、フィルタ部64が用いるローパスフィルタは、移動平均フィルタである。かかる移動平均フィルタによって、複数の測定巻径値Ds2(d)から高周波のノイズを的確に除去することができる。
【0061】
また、UI9が、ユーザの入力によって初期径値Do2を取得する。かかる構成では、比較的簡単に初期径値Do2を取得できる。
【0062】
また、径センサ87は超音波センサであり、印刷媒体Mは透明である。かかる構成では、透明な印刷媒体Mの径を超音波センサによって測定できる。ただし、超音波センサによる測定結果にはノイズが含まれるため、本発明を適用することが特に好適となる。
【0063】
続いては、上記の実施形態の効果をシミュレーションによって確認した結果を説明する。
図5は巻出ロールから印刷媒体Mを巻き出した例を示す図であり、搬送距離d(m)が横軸であり、巻出ロール71に巻き回された印刷媒体Mの巻径(mm)が縦軸である。このシミュレーションは、印刷媒体Mの巻径の理想値Di1(d)に対して乱数で発生させたノイズを加算することで測定巻径値Ds1(d)を疑似的に生成した。また、算出巻径値Dc1(d)は、印刷媒体Mの初期径値Do1あるいは厚みの値Tmに誤差を加算しつつ算出されたものである。
図5に示すように、算出巻径値Dc1(d)は、理想値Di1(d)から定常的にずれている。また、平滑巻径値Ds_avg1(d)には、単純移動平均フィルタによる遅れが生じている。
【0064】
図6は
図5の例に対して差分による補正を実行した効果を示す図である。搬送距離d(m)が横軸であり、巻出ロール71に巻き回された印刷媒体Mの巻径(mm)の計測誤差が縦軸である。
図5において、「Ds_avg1(d)-Di1(d)」のプロットに示すように、平滑巻径値Ds_avg1(d)は理想値Di1(d)に対して約2.5(mm)以上ずれている。また、「Dc1(d)-Di1(d)」のプロットに示すように、算出巻径値Dc1(d)は理想値Di1(d)に対して約2.5(mm)以上ずれており、その誤差は搬送距離dが長くなるほど顕著となる。これに対して、「Df1(d)-Di1(d)」のプロットに示すように、補正巻径値Df1(d)の理想値Di1(d)に対する誤差は小さく抑えられている。
【0065】
図7は巻取ロールに印刷媒体Mを巻き取った例を示す図であり、搬送距離d(m)が横軸であり、巻取ロール81に巻き回された印刷媒体Mの巻径(mm)が縦軸である。このシミュレーションは、印刷媒体Mの巻径の理想値Di2(d)に対して乱数で発生させたノイズを加算することで測定巻径値Ds2(d)を疑似的に生成した。また、算出巻径値Dc2(d)は、印刷媒体Mの初期径値Do2あるいは厚みの値Tmに誤差を加算しつつ算出されたものである。
図7に示すように、算出巻径値Dc2(d)は、理想値Di2(d)から定常的にずれている。また、平滑巻径値Ds_avg2(d)には、単純移動平均フィルタによる遅れが生じている。
【0066】
図8は
図7の例に対して差分による補正を実行した効果を示す図である。搬送距離d(m)が横軸であり、巻取ロール81に巻き回された印刷媒体Mの巻径(mm)の計測誤差が縦軸である。
図8において、「Ds_avg2(d)-Di2(d)」のプロットに示すように、平滑巻径値Ds_avg2(d)は理想値Di2(d)に対して約2.5(mm)以上ずれている。また、「Dc2(d)-Di2(d)」のプロットに示すように、算出巻径値Dc2(d)は巻取開始時に2.5(mm)以上と大きくずれている。これに対して、「Df2(d)-Di2(d)」のプロットに示すように、補正巻径値Df2(d)の理想値Di2(d)に対する誤差は小さく抑えられている。
【0067】
以上に説明した実施形態では、印刷装置1が本発明の「印刷装置」の一例に相当し、 搬送部21、31、41、51が本発明の「搬送部」の一例に相当し、エンコーダ211eが本発明の「搬送距離測定部」の一例に相当し、基材搬送システム6が本発明の「基材搬送装置」の一例に相当し、制御部61が本発明の「制御部」の一例に相当し、フィルタ部64が本発明の「フィルタ部」の一例に相当し、フィルタ部64が測定巻径値Ds1(d)に対して用いるローパスフィルタが本発明の「第1のローパスフィルタ」の一例に相当し、フィルタ部64が測定巻径値Ds2(d)に対して用いるローパスフィルタが本発明の「第2のローパスフィルタ」の一例に相当し、巻径算出部65が本発明の「巻径算出部」の一例に相当し、差分算出部66が本発明の「差分算出部」の一例に相当し、補正部67が本発明の「補正部」の一例に相当し、巻出ロール71が本発明の「巻出ロール」の一例に相当し、巻出モータ71mが本発明の「第1の駆動部」の一例に相当し、径センサ77が本発明の「第1のセンサ」の一例に相当し、径センサ77およびセンサ制御部63が協働して本発明の「第1の径測定部」の一例として機能し、巻取ロール81が本発明の「巻取ロール」の一例に相当し、巻取モータ81mが本発明の「第2の駆動部」の一例に相当し、径センサ87が本発明の「第2のセンサ」の一例に相当し、径センサ87とセンサ制御部63とが協働して本発明の「第2の径測定部」の一例に相当し、UI9が本発明の「値取得部」の一例に相当し、搬送距離dが本発明の「搬送距離」の一例に相当し、測定巻径値Ds1(d)が本発明の「第1の測定巻径値」の一例に相当し、平滑巻径値Ds_avg1(d)が本発明の「第1の平滑巻径値」の一例に相当し、算出巻径値Dc1(d)が本発明の「第1の算出巻径値」の一例に相当し、差分Ddiff1(d)が本発明の「第1の差分」の一例に相当し、初期径値Do1が本発明の「第1の初期径値」の一例に相当し、測定巻径値Ds2(d)が本発明の「第2の測定巻径値」の一例に相当し、平滑巻径値Ds_avg2(d)が本発明の「第2の平滑巻径値」の一例に相当し、算出巻径値Dc2(d)が本発明の「第2の算出巻径値」の一例に相当し、差分Ddiff2(d)が本発明の「第2の差分」の一例に相当し、初期径値Do2が本発明の「第2の初期径値」の一例に相当し、厚みの値Tmが本発明の「基材の厚みの値」の一例に相当し、印刷媒体Mが本発明の「基材」の一例に相当する。
【0068】
なお、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて上述したもの以外に種々の変更を行うことが可能である。例えば、初期径値Do1を取得する方法は、上記の例に限られず、次の取得例のようにして取得しても良い。この取得例では、印刷媒体Mの搬送が停止した状態において、駆動制御部62は、ダンサローラ74から印刷媒体Mに一定のテンションが与えられるようにシリンダ76によるダンサローラ74の駆動を制御しつつ、巻出モータ71mによって巻出ロール71を駆動して巻出ロール71からダンサローラ74に印刷媒体Mを送り出す引出動作を実行する。この引出動作では、巻出ロール71からダンサローラ74へ送り出される印刷媒体Mに一定のテンションを与えるために、ダンサローラ74が上方へ変位する。かかるダンサローラ74の変位量は、巻出ロール71からダンサローラ74へ送り出された印刷媒体Mの長さに相当し、駆動制御部62は、予め記憶する回転軸751と回転軸752との距離(回転アーム75の長さ)と、角度センサ75s(変位量検出部)が検出した角度に基づき、ダンサローラ74の変位量を取得する。さらに、駆動制御部62は、引出動作における巻出ロール71の回転量をエンコーダ71eによって測定する。そして、ダンサローラ74の変位量と巻出ロール71の回転量とに基づき、初期径値Do1を算出する。かかる構成では、ユーザの操作によらず初期径値Do1を取得できるため、ユーザの作業負担を軽減できる。
【0069】
あるいは、駆動制御部62は、ダンサローラ74から印刷媒体Mに一定のテンションが与えられるようにシリンダ76によるダンサローラ74の駆動を制御しつつ、巻出モータ71mによって巻出ロール71を駆動してダンサローラ74から巻出ロール71に印刷媒体Mを巻き取る引戻動作を実行する。この引戻動作では、ダンサローラ74から巻出ロール71に巻き取られる印刷媒体Mに一定のテンションを与えるために、ダンサローラ74が下方へ変位する。かかるダンサローラ74の変位量は、ダンサローラ74から巻出ロール71へ巻き取られた印刷媒体Mの長さに相当し、駆動制御部62は、回転アーム75の長さと角度センサ75sの検出角度に基づき、ダンサローラ74の変位量を取得する。さらに、駆動制御部62は、引戻動作における巻出ロール71の回転量をエンコーダ71eによって測定する。そして、ダンサローラ74の変位量と巻出ロール71の回転量とに基づき、初期径値Do1を算出する。かかる構成では、ユーザの操作によらず初期径値Do1を取得できるため、ユーザの作業負担を軽減できる。
【0070】
なお、上記の引出動作および引戻動作の一方のみあるいは両方を実行するように駆動制御部62を構成できる。両方を行う場合には、これら両方を繰り返し行って、初期径値Do1を取得するようにしてもよい。両方の動作を行って初期径値Do1を取得するようにすれば、精度のよい値を得ることができる。
【0071】
同様に、初期径値Do2を取得する方法は、上記の例に限られず、次の取得例のようにして取得しても良い。この取得例では、印刷媒体Mの搬送が停止した状態において、駆動制御部62は、ダンサローラ84から印刷媒体Mに一定のテンションが与えられるようにシリンダ86によるダンサローラ84の駆動を制御しつつ、巻取モータ81mによって巻取ロール81を駆動して巻取ロール81からダンサローラ84に印刷媒体Mを送り出す引出動作を実行する。この引出動作では、巻取ロール81からダンサローラ84へ送り出される印刷媒体Mに一定のテンションを与えるために、ダンサローラ84が上方へ変位する。かかるダンサローラ84の変位量は、巻取ロール81からダンサローラ84へ送り出された印刷媒体Mの長さに相当し、駆動制御部62は、予め記憶する回転軸851と回転軸852との距離(回転アーム85の長さ)と、角度センサ85s(変位量検出部)が検出した角度に基づき、ダンサローラ84の変位量を取得する。さらに、駆動制御部62は、引出動作における巻取ロール81の回転量をエンコーダ81eによって測定する。そして、ダンサローラ84の変位量と巻取ロール81の回転量とに基づき、初期径値Do2を算出する。かかる構成では、ユーザの操作によらず初期径値Do2を取得できるため、ユーザの作業負担を軽減できる。
【0072】
あるいは、駆動制御部62は、ダンサローラ84から印刷媒体Mに一定のテンションが与えられるようにシリンダ86によるダンサローラ84の駆動を制御しつつ、巻取モータ81mによって巻取ロール81を駆動してダンサローラ84から巻取ロール81に印刷媒体Mを巻き取る引戻動作を実行する。この引戻動作では、ダンサローラ84から巻取ロール81に巻き取られる印刷媒体Mに一定のテンションを与えるために、ダンサローラ84が下方へ変位する。かかるダンサローラ84の変位量は、ダンサローラ84から巻取ロール81へ巻き取られた印刷媒体Mの長さに相当し、駆動制御部62は、回転アーム85の長さと角度センサ85sの検出角度に基づき、ダンサローラ84の変位量を取得する。さらに、駆動制御部62は、引戻動作における巻取ロール81の回転量をエンコーダ81eによって測定する。そして、ダンサローラ84の変位量と巻取ロール81の回転量とに基づき、初期径値Do2を算出する。かかる構成では、ユーザの操作によらず初期径値Do2を取得できるため、ユーザの作業負担を軽減できる。
【0073】
なお、上記の引出動作および引戻動作の一方のみあるいは両方を実行するように駆動制御部62を構成できる。両方を行う場合には、これら両方を繰り返し行って、初期径値Do2を取得するようにしてもよい。両方の動作を行って初期径値Do2を取得するようにすれば、精度のよい値を得ることができる。
【0074】
なお、上記初期径値Do1を取得する方法の取得例では、回転アーム75と、回転アーム75の回転軸751及び回転軸752と、シリンダ76とが、本発明の「ローラ駆動部」の一例に相当する。
【0075】
また、ローパスフィルタとして使用できるフィルタは、単純移動平均フィルタに限られず、その他の移動平均フィルタでも構わない。要するに、高周波のノイズを除去する種々のローパスフィルタを使用できる。
【0076】
また、印刷媒体Mの種類は、透明フィルムに限られず、紙でも良い。径センサ77や径センサ87の種類は、超音波センサに限られず、光学センサ等でも良い。
【0077】
また、印刷媒体Mの搬送速度の取得は、搬送モータ211mのエンコーダ211eによらず、印刷媒体Mを搬送する他のモータに取り付けられたエンコーダや、印刷媒体Mの搬送に従動するローラに取り付けられたエンコーダでも良い。
【0078】
また、印刷装置1は、インクジェット方式で印刷するものに限られず、オフセット印刷により画像を印刷するものでもよい。
【0079】
また、本発明の基材搬送装置の適用対象は印刷装置1に限られず、例えば塗工装置でもよい。
図9は本発明に係る塗工装置の一例を模式的に示す正面図である。この塗工装置95は、巻出機7から巻取機8にロール・トゥ・ロールで金属箔M(基材)を搬送する基材搬送システム6を備える。さらに、塗工装置95は、塗工液である電極スラリーを吐出するスリットノズル951を備え、スリットノズル951から吐出された電極スラリーが金属箔Mに塗工される。かかる塗工装置95の基材搬送システム6は、上記と同様の構成を備える。したがって、ロールに巻き回された金属箔Mの径を正確に求めることができる。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明は、ロール・トゥ・ロールで搬送する基材搬送技術の全般に適用可能である。
【符号の説明】
【0081】
1…印刷装置
21、31、41、51…搬送部
211e…エンコーダ(搬送距離測定部)
6…基材搬送システム(基材搬送装置)
61…制御部
63…センサ制御部(第1の径測定部、第2の径測定部)
64…フィルタ部
65…巻径算出部
66…差分算出部
67…補正部
71…巻出ロール
71m…巻出モータ(第1の駆動部)
77…径センサ(第1のセンサ、第1の径測定部)
81…巻取ロール
81m…巻取モータ(第2の駆動部)
87…径センサ(第2のセンサ、第2の径測定部)
9…UI(値取得部)
d…搬送距離
Ds1(d)…測定巻径値(第1の測定巻径値)
Ds_avg1(d)…平滑巻径値(第1の平滑巻径値)
Dc1(d)…算出巻径値(第1の算出巻径値)
Ddiff1(d)…差分(第1の差分)
Do1…初期径値(第1の初期径値)
Ds2(d)…測定巻径値(第2の測定巻径値)
Ds_avg2(d)…平滑巻径値(第2の平滑巻径値)
Dc2(d)…算出巻径値(第2の算出巻径値)
Ddiff2(d)…差分(第2の差分)
Do2…初期径値(第2の初期径値)
Tm…基材の厚み
M…印刷媒体(基材)